(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】綜絖枠の動作反転フェーズ中の慣性力によるヘルドの移動のブレーキ装置を備える製織機用の綜絖枠
(51)【国際特許分類】
D03C 9/06 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
D03C9/06 Z
D03C9/06 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020102315
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】102019000009114
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515355022
【氏名又は名称】イテマ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】ITEMA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ・ミネッリ
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ・アッリゴーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・カルツァフェッリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・パンツェッティ
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0150506(US,A1)
【文献】特開2018-197418(JP,A)
【文献】特表2006-510815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのサイドピース(F)と2つのクロスバー(H)とを連結継手によって互いに直角に固定した製織機用の綜絖枠であって、
各クロスバー(H)は、当該クロスバーの長手方向の内縁部に突起部(C)を有する形材で構成され、
前記突起部には、ヘルド支持板(S)が固定され、
前記ヘルド支持板(S)には、複数のヘルド(L)のフック付き端部が遊び(G)を有して引っ掛けられ、
前記綜絖枠は、前記遊び(G)によって許容される慣性力による
前記ヘルド(L)の自由移動のブレーキ装置を更に備え、
前記ブレーキ装置は、
各クロスバー(H)の長手方向の内縁部に、前記ヘルド(L)の自由移動を干渉するような位置に固定さ
れ、且つ、前記綜絖枠の動作反転中に前記ヘルド(L)が前記ヘルド支持板(S)に対するリミットストップに到達するのを妨げないように変形可能な形材(1)を備え、
前記形材(1)は、移動する
前記ヘルド(L)の端部に接触するとき、
前記形材(1)の変形を可能にするために予め決められた剛性を有し、
前記予め決められた剛性は、前記ヘルド支持板(S)に対する前記ヘルド(L)の接触が
前記リミットストップになるまで、前記ヘルド(L)の自由移動を可能にするのに十分低いとともに、前記ヘルド(L)の自由移動の速度を低下させるのに十分高い、
製織機用の綜絖枠。
【請求項2】
前記変形可能な形材(1)は、連結リブ(2)が一方の側から突出し、少なくとも1つの可撓性リップ(3)が反対側から突出する、基体(
6)を備え、
前記連結リブ(2)は、前記クロスバー(H)に形成された対応する長手方向に延びるチャンバ(2c)に連結され、
前記
可撓性リップ(3)は、前記ヘルド支持板(S)に対する慣性力による自由移動中に、前記
可撓性リップ(3)に接合された接触リップ(5)を介して、前記ヘルド(L)と接触する、
請求項1に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項3】
第1の折り畳みフェーズにおける前記
可撓性リップ(3)は、前記
可撓性リップ(3)の漸進的な折り畳みに伴う
前記変形可能な形材(1)の増加する全体的な剛性(R)を決定するために、第2の折り畳みフェーズにおける前記
可撓性リップ(3)の剛性値(Rb)よりも低い剛性(Ra)を有する、請求項2に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項4】
折り畳み中の前記
可撓性リップ(3)の異なる剛性(Ra,Rb)は、前記
可撓性リップ(3)の中間部分と前記基体(6)又はその隆起部(4)との接触によって引き起こされる前記
可撓性リップ(3)の座屈長さの急激な減少によって決定される、請求項
3に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項5】
前記隆起部(4)は、前記
可撓性リップ(3)が伸びる他端部とは反対側の一端部から伸び、台形の断面を有し、中央に長手方向に延びるチャンバを備えている、請求項
4に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項6】
折り畳み中の前記
可撓性リップ(3)の異なる剛性(Ra,Rb)は、前記
可撓性リップ(3)の異なる部分の異なる構造又は形状によって決定される、請求項
3に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項7】
前記
可撓性リップ(3)は、約180°展開し、その振動ヒンジを形成する角ばった接続領域を介して前記基体(6)の一端部に接合され、前記振動ヒンジから、前記基体(6)に平行な方向に延びた後、それに垂直な方向に延びるL字形状を有する、請求項
4から請求項6のいずれか1項に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項8】
前記接触リップ(5)は、アーチ形の形状を有し、その凹面が前記ヘルド(L)に面し、その中央部分に前記
可撓性リップ(3)の自由端部が接合されている、請求項
7に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項9】
前記
可撓性リップ(3)は、約180°展開し、その振動ヒンジを形成する角ばった接続領域を介して前記基体(6)の一端部に接合され、前記基体(6)に対して略垂直な方向に延びるアーチ形の形状を有する、請求項
4から請求項6のいずれか1項に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項10】
前記接触リップ(5)は、凹面が前記ヘルド(L)に面するアーチ形の形状を有し、前記
可撓性リップ(3)の自由端部に一端部が接合され、その反対方向に延びて、前記
可撓性リップ(3)と前記接触リップ(5)とによって形成された組立体にS字形状を付与する、請求項
9に記載の製織機用の綜絖枠。
【請求項11】
前記変形可能な形材(1)は、プラスチック材料で構成されている、請求項1~
10のいずれか1つに記載の製織機用の綜絖枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性力によるヘルドの移動(heald movement)のブレーキ装置を備える製織機(weaving looms)用の綜絖枠に関する。より具体的には、前記ブレーキ装置は、綜絖枠の動作反転フェーズ中に作動して、慣性力によるヘルドの移動の速度を低下させ、各支持構造体に対するヘルドの衝撃の程度を制御する一方、慣性力によるヘルドの移動中にヘルド支持板上のそれら自体の組立隙間を十分に利用することを可能にする。実際、本明細書では、ヘルドの移動について話すとき、ヘルドとヘルド支持板との相互移動にのみ言及していることに留意すべきである。この移動は、綜絖枠の各動作反転時に正確に発生する。ヘルド支持板上にありながら、綜絖枠によって引っ張られるヘルドの通常の並行移動については言及しない。本発明は、特に、ヘルドがその耐用年数を大幅に短縮する主な衝撃にさらされる高速織機で使用されることを意図した綜絖枠に有用である。
【背景技術】
【0002】
既知のように、綜絖枠は、織機(weaving machine)によって制御された交互移動により、織り面に対して垂直な平面に沿って、製織機で使用される装置である。綜絖枠は、横糸が同期して挿入されるシェッドを形成するために、縦糸のグループの動きを制御する。最も単純な織物(fabric)、いわゆる布地(cloth)を製造するとき、綜絖枠は2つであり、縦糸は交互に綜絖枠の一方又は他方につながれる。より複雑なパターンを有する織物に対しては、より多くの綜絖枠(例えば、最大24個の綜絖枠)が存在する。各綜絖枠は、より複雑なパターンを作成するために、異なる品質又は色の縦糸と横糸とを使用することによって、少ない数の縦糸で動作する。
【0003】
綜絖枠は、適当な横方向のガイド内で、織物形成の平面に対して上部と下部との位置の間をスライドし、綜絖枠に引っ掛けられたタイロッドを駆動させることによって、この移動が制御される。織機は、所望の予め決められた織物パターンを形成するために、既知の方法で前記タイロッドに動作させる。
【0004】
各綜絖枠は、2本の平行なクロスバーと、2つのサイドピースとで構成される。クロスバーには、鋼又は他の材料の細い棒(実際には「ヘルド(綜絖)」)が一定の遊びを有して挿入され、1本以上の縦糸が通る中央アイレットが設けられている。2つのサイドピースは、クロスバーの両端部に横方向から接続されている。更に、サイドピースは、綜絖枠の交互移動を決定するために、前述のサイドガイドと連携する。安定したフレーム構造のために、サイドピースとクロスバーとは、適当な連結継手によってフレームの四隅で相互に固定されている。
【0005】
既に前述したように、ヘルドは、クロスバー上に広い遊びを有して組み立てられ、より正確には、クロスバーの内縁部から突出してそれに一体化しているヘルド支持板に広い遊びを有して組み立てられる。このヘルドの組立隙間は、綜絖枠上のヘルドの挿入をより簡単且つ迅速に行えるようにする必要があり、綜絖枠の動作中に、綜絖枠に沿ってヘルドを相互に均等な距離で連続的に自動整列させることが最も重要である。実際のところ、綜絖枠の交互動作の反転フェーズにおいて、前述した組立隙間とヘルドの慣性力のために、ヘルドは、綜絖枠の反転にすぐに追従することができず、しばらくの間「停止」位置のままである。この位置では、ヘルドは、縦糸の張力によって決定される圧力下において、フック付き端部がヘルド支持板上に置かれていないので、上部及び下部のヘルド支持板の両方に対して横方向の接触のみを有する。このヘルドの「停止」フェーズの終わりに、ヘルドのフック付き端部と再び接触するヘルド支持板の衝撃が発生する。実際に、この衝撃は、個々のヘルド間に存在する低い相互の横方向の力の作用下で、ヘルドの本来の整列を容易にする振動を引き起こす。したがって、これらの力は、綜絖枠の各動作反転時にコンスタントに平準化され、それにより、綜絖枠に沿ってヘルドが時間の経過とともに完全に均一に分散され、均一な織物が織られるという望ましい結果が得られる。
【0006】
しかしながら、ヘルドの組立隙間と、結果として生じるヘルド支持板に対するヘルドの連続的な衝撃とは、前述した理由により、良質の織物を製造するための重要な要因であるが、そのような衝撃は、織機の動作速度が高くなると、重大な機械的欠点を発生させる発生源になる。この場合、実際には、ヘルドの両端部に定期的且つ交互に繰り返され且つエネルギー量が大きい前記衝撃によって引き起こされる過負荷は、時間の経過とともにヘルドの機械的構造の摩耗を徐々に進行させる可能性があり、ヘルドの変形及び反りをもたらす。それらは、ヘルドの通常の動作を少なくし、最終的にはヘルドの破損を引き起こす。いずれにしても耐用年数が短くなる。大量のエネルギーを有する前記反復的な衝撃の別の望ましくない結果は、典型的な製織機のより大きな騒音である、高い騒音が生じることである。
【0007】
この欠点を解決する既知の技術として、いくつかの解決策が、例えば、欧州特許第1240371号、米国特許出願公開第20030150506号明細書、欧州特許第1176237号、欧州特許第1498521号、欧州特許第1639165号、欧州特許第1675984号、欧州特許第1769111号、及び欧州特許第2669413号に開示されている。しかしながら、これら全ての解決策は、単一の発明概念の異なる実施形態、すなわち、ヘルドの動作経路の両端部に衝撃吸収用の形材を挿入することを提供する。当該形材は、適当な弾性及び減衰機能を有するプラスチック材料で構成されている。したがって、前記衝撃吸収用の形材は、綜絖枠の動作反転フェーズにおいて、ヘルドの端部のリミットストップを形成する際のヘルド支持板の機能に取って代わる。
【0008】
前記文献に開示されている様々な解決策は、クロスバー又はヘルド支持板のいずれかに固定することができる衝撃吸収用の形材の固定点が互いに異なる。しかしながら、いずれの場合も、衝撃吸収用の形材の機能は、ヘルドの端部がヘルド支持板の反対側の部分(ヘルドが通常衝突する)と接触するのを防ぐことにある。言い換えると、これら全ての既知の解決策は、ヘルドの端部と衝撃吸収用の形材との間の金属/プラスチックの接触で置き換えることにより、ヘルドの端部と各ヘルド支持板との間の従来の金属/金属のリミットストップの接触を防ぐ目的を有している。衝撃吸収用の形材は、様々な手段によってクロスバーの形材又はヘルド支持板に固定される。
【0009】
したがって、前記先行技術文献によって開示された解決策は、ヘルドとヘルド支持板との間の衝撃の問題を実際に解決し、事実、完全に排除するが、それにもかかわらず、この同じ理由により、ヘルド支持板に対するヘルドの継続的な衝撃の吸収が綜絖枠に沿ったヘルドの本来の配列を大幅に悪化させるため、製織品質にかなりの欠陥を引き起こす。これにより、編物内の縦糸の配列の均一性が損なわれる。
【0010】
このため、製織室の織物の慣習において、前述した衝撃吸収用の既知の装置は、現在、ヘルド支持板に対するヘルドの衝撃がないにもかかわらず、ヘルドの正しい自動整列を可能にするような縦糸の数及び種類が少数である場合にのみ使用することができる。他の全ての場合では、その代わりに、衝撃吸収用のプラスチック形材が放棄される必要があり、製織が通常の条件下で実行される。すなわち、ヘルド支持板に対してヘルドが直接衝突するので、明らかに、ヘルドの耐用年数、及び、高速織機で製織するときに発生する高い騒音に関する前述した欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明によって対処される問題は、ヘルド支持板に対する繰り返しの衝撃に由来する損傷からヘルドを保護することにある。当該保護は、綜絖枠の動作反転中の慣性力によるヘルドの自由移動の範囲を低減することなく、ヘルド支持板に対する繰り返しの衝撃のエネルギー量を制限することによって行う。また、ヘルドとヘルド支持板との間の金属/金属のリミットストップの接触をより低いエネルギーで維持し、綜絖枠に沿ったヘルドの本来の配列を容易にする。また、ヘルドは、ヘルドの機械的構造を損傷することなく、ヘルド支持板に横方向にのみ接触している状態にある。
【0012】
この問題に対処する一方で、本発明の第1の目的は、ヘルド支持板に対するヘルドの衝撃のエネルギー量を大幅に制御し、ヘルドの耐用年数を延ばすため、通常の経路の長さは制限することなく、綜絖枠の動作反転フェーズ中にヘルドの速度を低下させることができるヘルドの移動のブレーキ装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の更なる目的は、ヘルドの異なる衝撃エネルギーを意味する(具体的には織機の動作速度が異なる場合など)様々な作業条件において、ヘルドが衝撃位置に近づく間、ヘルドがヘルド支持板に衝突するときの残留衝撃エネルギーを正確に調節できるように、好ましくは漸進的な態様で、増加するブレーキ力を提供する前述したタイプのヘルド用のブレーキ装置を提供することにある。一定のブレーキ力を有するブレーキ装置は、狭い範囲の織機の動作速度に対して最適化することができるが、増加する剛性を有するブレーキ装置は、非常に広い範囲の織機の動作速度に対してより簡単に最適化することができる。これにより、異なる作業条件へのその適用が非常に柔軟になる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この問題及びこれらの目的は、特に、請求項1で定義された特徴を有する綜絖枠の動作反転フェーズ中にヘルドの動作のブレーキ装置を備える製織機用の綜絖枠によって解決され、達成される。前記ブレーキ装置の他の好ましい特徴は、従属請求項で定義される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
しかしながら、本発明に係るブレーキ装置を備えた綜絖枠の更なる特徴及び利点は、単なる非限定的な例として与えられ且つ添付の図面に示された、その好適な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0016】
【
図1】本発明に係る変形可能な形材を有する慣性力によるヘルドの移動のブレーキ装置を備える綜絖枠の上方角部の斜視図である。
【
図2】
図1の円で囲まれた部分の断面を示す拡大斜視図である。
【
図3】
図1に示される変形可能な形材の第1実施形態のより拡大された斜視図である。
【
図4】
図1の変形可能な形材の第2実施形態のより拡大された斜視図である。
【
図5】前記変形可能な形材との最初の接触後のヘルドの移動の関数として、前記変形可能な形材によってヘルドに及ぼされるブレーキ力の傾向を定性的に示すグラフである。
【
図6】綜絖枠の動作反転中におけるヘルド上端部の動作のA-Dの異なるフェーズを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、衝撃吸収用の既知の形材の欠点を十分に調べ、金属と金属との接触でヘルドがヘルド支持板に衝突するのを抑えるために、ヘルドの慣性力による自由移動のリミットストップに位置する衝撃吸収部材の従来のアプローチを完全に残すという発明者の洞察力に基づいている。本発明によれば、同じ位置にブレーキ装置が代わりに設けられている。当該ブレーキ装置は、綜絖枠の動作反転毎に発生するヘルドの慣性力による自由移動中に、ヘルドがヘルド支持板Sに対して本来のリミットストップに到達するのを妨げないように、独自の形状を漸進的に折り畳むことによって、ヘルドの速度を低下させる。この最初の洞察力に基づいて、本発明、特にヘルドの慣性力による自由移動のブレーキ装置が開発されている。その好適な実施形態が以下に示されている。
【0018】
図1は、本発明に係る慣性力によるヘルドの移動のブレーキ装置を備える綜絖枠の一般的な構成を概略的に示す図である。前記綜絖枠は、それ自体既知の態様で、2つのサイドピースFと、2つのクロスバーH(すなわち、上部クロスバー及び下部クロスバー)とを備えている。2つのサイドピースFと2つのクロスバーHとは、綜絖枠の四隅で、ネジVで締結することによってロックされた適当な連結継手によって、互いに直角に固定されている。各クロスバーHは、金属押出形材で構成され、好ましくはアルミニウム合金で構成され、或いは、場合によっては複合材料で構成されている。各クロスバーHは、中空の本体Bと、クロスバーHの長手方向の内縁部に、(よく照明窓が設けられる)平坦な突起部C(appendix)と、を備えている。突起部Cには、ヘルド支持板Sが固定されている。ヘルド支持板Sは、ヘルドLのフック付き端部が引っ掛けられている。
【0019】
本発明によれば、
図1に明確に示され、拡大された
図2により詳細に示されるように、前述の問題を解決するため、慣性力によるヘルドの移動のブレーキ装置が、クロスバーHの内縁部に固定されている。ヘルドと、ヘルドが引っ掛けられているヘルド支持体Sとの間に遊びG(
図1及び
図6)が存在するとともに、ヘルドの慣性力によりヘルドが移動するため、綜絖枠の動作反転フェーズで、クロスバーHの内縁部では前述した移動が発生する。本発明の本質的な特徴によれば、前記ブレーキ装置は、プラスチック材料で構成された変形可能な形材1を備えている。形材1は、慣性力による前述の移動中にヘルドLの速度を下げる機能を有している。前記移動は、ヘルド支持板Sに対するヘルドの衝撃のエネルギー量を大幅に制御するために、ヘルド支持板Sによって制御されない。これにより、ヘルドLの破損が回避されるか、或いは、少なくとも大幅に低減され、それにより耐用年数が延びる。本発明の他の本質的な特徴によれば、実際には、変形可能な形材1の変形能の程度は、ヘルド支持板Sによって形成された通常の機械的リミットストップにヘルドLが低速で衝突する前に、ヘルドLが停止することがないほど高くすべきである。好ましくは、前述したブレーキ機能は、漸進的に折り畳まれるにつれて漸進的に増加する剛性を示す変形可能な形材1の特定の折り畳み可能な形状によって達成される。
【0020】
実際のところ、変形可能な形材1は、ヘルド支持板Sで構成される通常の機械式のものに対して別のリミットストップを提供することなく、自由に動くヘルドLの速度を所望の程度まで下げるという固有の特徴を与える特定の断面形状を有している。これにより、前述したブレーキ装置は、前述した従来技術の衝撃吸収用の形材と比較して完全に革新的な解決策を提供し、ヘルドの衝撃を完全に吸収し、ヘルド支持板Sとの接触を防ぐ。
【0021】
この革新的な成果は、既知の連結リブ2が片側から突出する基体6を含む変形可能な形材1によって達成される。連結リブ2は、上部クロスバーHの中空体Bの内縁部に形成された対応する長手方向のキャビティ2cに対して、変形可能な形材1の安定した結合を可能にする。基体6の反対側からは、可撓性リップ3が突出する。可撓性リップ3は、接触リップ5に設けられた自由端部でヘルドLを制動する。接触リップ5は、ヘルド支持板Sに対する慣性力によって移動中のヘルドLの上端部と接触する。
【0022】
本発明の特徴によれば、リップ3は、その折り畳みが進むにつれて、増加する剛性を示す。より具体的には、リップ3は、第1の折り畳みフェーズにおいて、より低い剛性を示し、その構造は、より高い座屈長さを有する。リップ3は、上述したように、接触リップ5で終わる。ヘルドLの上端部に正確且つ安定したグリップを提供するために、接触リップ5は、
図3及び
図4に明らかに示されるように、適度にアーチ状の形状を有し、その凹面はヘルドLに面している。これにより、綜絖枠の動作反転フェーズ中に、ヘルドLが変形可能な形材1に負荷をかける力Fを加え、このアーチ状の接触リップ5に対して、漸進的な弾性折り畳みを引き起こす。
【0023】
変形可能な形材1は、各ヘルド枠が動作する製織条件の異なる剛性/柔軟性の要求に応じて、異なる形状を有することができる。単なる例として、
図3及び
図4には、変形可能な形材1の2つの異なる実施形態が示されている。リブ2、リップ3、及びリップ5は、異なる配置及び形状を有するが、同様の機能を提供する。前述した両方の実施形態において、変形可能な形材1は、均質な材料で構成されている。リップ3の異なる可撓性/剛性は、前記リップの異なる形状によって、及び形材1の折り畳み中の座屈長さの変化によって得られる。原理的に、リップ3の所望の可撓性/剛性は、その製造のために異なる材料又は厚さを使用することによっても得ることができる。しかしながら、この第2の解決策は、変形可能な形材1の製造に伴う主な複雑さ、及びその結果としてのより高いコストのため、好ましくない。
【0024】
図3には、変形可能な形材1の第1実施形態が示されている。第1実施形態は、狭窄部を介して基体6に接続された、部分的に丸い断面を有する連結リブ2を特徴とする。リップ3は、約180°展開して前記リップの振動ヒンジを形成する角ばった接続領域を介して基体6の上端部に接続されている。リップ3は、L字形状であり、前記振動ヒンジから、まず基体6に対して略平行な方向に延び、その後、基体6に対して垂直な方向に延びる。最終的に、接触リップ5は、リップ3の自由端部の中央部分に接合される。
【0025】
図4には、変形可能な形材1の第2実施形態が示されている。第2実施形態は、狭窄部を介して基体6に接続された、部分的に正方形の断面を有する連結リブ2を特徴とする。リップ3は、約180°展開して前記リップの振動ヒンジを形成する角ばった接続領域を介して基体6の下端部に接続される。接触リップ5は、その一端部がリップ3の自由端部に接合され、リップ3とリップ5とによって形成される組立体にほぼS字形状を付与するように、リップ3の自由端部に対して反対方向に延びる。この実施形態においては、最終的に、基体6は、その壁の厚さ及びその剛性を決定する中央に長手方向に延びるチャンバを備えた、概ね台形の断面を有する隆起部4を備えている。
【0026】
本発明の主な特徴によれば、制御可能な剛性を有するその特定の折り畳み可能な形状により、変形可能な形材1は、機械的なリミットストップまでの通常の経路の長さを制限することなく、ヘルド支持板Sと接触する前にヘルドLの速度を低下させる。これにより、綜絖枠の急速な動作反転中において、ヘルドLは、ヘルド支持板Sによって形成されたリミットストップに衝突するので、製織作業中に綜絖枠に沿ってヘルドLを自動整列することができる。そのような整列は、前記衝撃によって正確に促進される。しかしながら、これらの衝撃は低速で発生するため、ヘルドLに非常に低い応力を引き起こし、ヘルドLの寿命が大幅に延びるため、従来技術の衝撃吸収装置で発生するような織物の不都合は発生しない。
【0027】
本発明に係る変形可能な形材1の前述した挙動は、
図6を構成する4つの図面に明確に概略的に示されている。これらの図面は、ヘルド支持板S及び綜絖枠の動作反転中の相対的なヘルドLの相互配置の複数のフェーズA~Dを表している。
【0028】
フェーズAでは、綜絖枠が上方に移動し、ヘルド支持板Sの上端部がヘルドLのフックの上部ループに接触し、ヘルドLを矢印の方向に引っ張る。これにより、ヘルド支持板SへのヘルドLの全体の組立隙間Gは、ヘルド支持板Sの下端部とヘルドLのフックの下部ループとの間に位置する。
【0029】
フェーズBでは、綜絖枠が動作を逆転させて下方の移動を開始し、ヘルドLは慣性力によって上方の移動を継続する。このフェーズでは、遊びGがヘルドLのフックの2つのループの間に位置するため、ヘルド支持板SとヘルドLの間の直接スラスト接触が遮断される。このような接触がないヘルドLは、綜絖枠に沿って自動整列を開始し、綜絖枠の上方の移動で発生し得る横方向の力を再整列する。このフェーズの最後の部分では、ヘルドLの上端部と変形可能な形材1の接触リップ5との間の接触が開始する。
【0030】
フェーズCでは、ヘルドLとヘルド支持板Sの相互移動が進行するが、ヘルドLの速度は、リップ3がヒンジ点を中心に折り畳まれているため、徐々に低下し、遊びGは、ヘルドLのフックの上部ループへ徐々に移動する。一方、リップ3は、その角部分で基体6に接触するまで部分的に折り畳まれ、それにより、座屈長さが減少し、それ自体の剛性が増加する。
【0031】
最後のステップDでは、リップ1が剛性を増して折り畳みを継続し、ヘルド支持板SがヘルドLのフックの下部ループに衝突すると、ヘルドLとヘルド支持板Sの相互移動が終わる。この衝撃のため、ヘルドLの自動整列のアクションが容易になり、完了する。遊びGがヘルドLのフックの上部ループに完全に移動し、ヘルド支持板SがヘルドLのフックの下部ループと接触して、矢印で示す方向に下方の移動を開始する。
【0032】
図4に示される第2実施形態に係る変形可能な形材1は、完全に同様に挙動する。ヘルドLとヘルド支持板Sとの相互配置の最初の2つのフェーズA及びフェーズBは完全に同じである。フェーズCにおいて、リップ3は、隆起部4と接触するまで折り畳みを継続する。この実施形態においても、リップ3と本体6の隆起部4との間の接触は、リップ3の座屈長さの急激な減少を引き起こし、その剛性の急激な増加を引き起こす。この場合、リップ3の剛性の増加は、隆起部4の制限された弾性によって部分的に補われる。
【0033】
したがって、ヘルドLが接触リップ5と接触すると、第1実施形態に係る変形可能な形材1は、リップ3の全体の折り曲げ剛性のみによって実質的に決定される特定の低い剛性Raを有する。ヘルドLの元の位置からの移動の増加に伴い、リップ3は、それ自体の折り畳みにより、変形可能な形材1の基体6と接触して、座屈長さが急激に減少し、リップ3の剛性が、より高いRb値まで上昇する。変形可能な形材1のこの可変剛性は、定性的な観点から
図5にグラフで表され、異なる勾配の2つの直線状の分岐を有する曲線を持つ。
【0034】
図4に示される第2実施形態に係る変形可能な形材1は、リップ3がこの第2実施形態では異なる形状であるにもかかわらず、前述の第1実施形態の形材と完全に同様に挙動する。フェーズCでは、実際、リップ3の折り畳みは、前記リップが隆起部4と接触するまで継続する。このことは、変形可能な形材1の第1実施形態で説明したものと全く同様に、リップ3の座屈長さが急激に減少し、その剛性が増加する。ステップDでは、リップ3が更に折り畳まれ、隆起部4も適度に変形し、両方の前記部材がこのフェーズにおける変形可能な形材1の全体的な剛性Rbを決定するのに寄与する。このため、この場合においても、
図5に示す異なる勾配の2つの直線状の分岐を有する曲線は、変形可能な形材1の剛性を、ヘルド支持板Sに対するヘルドLの相対的な移動の関数として定性的に表す。
【0035】
実際には、前述した両方の実施形態において、変形可能な形材1のヘルドLの移動と漸進的な折り畳みの間、リップ3の座屈長さの減少から生じる剛性の増加の効果は漸進的であるので、変形可能な形材1によるヘルドLに対抗する実際の反力は、同じ
図5の曲線Rによって概略的に表される湾曲された傾向に従う。したがって、本発明に係るヘルドの移動のブレーキ装置によれば、ヘルドLがヘルド支持板Sと接触するまで制御された経路を同行する、すなわち、ヘルドLの完全性に悪影響を与えない程度に低いが、ヘルドLの自動整列を容易にするのに十分以上である未だに高い残留衝撃エネルギーを伴って、ヘルドLを徐々に且つ効果的に減速することが可能である。
【0036】
したがって、前述した説明から、綜絖枠の動作反転フェーズでヘルドLの速度を低下させ、遊びGによって許容される慣性力によるヘルドの自由な移動の長さを制限せずに、ヘルド支持板Sに対する繰り返しの衝撃によってヘルドLに発生する応力の許容値内での低減を可能にするブレーキ装置を提供することによって、本発明に係るヘルドの移動のブレーキ装置が本発明の第1の目的を十分に達成することは明らかである。その後、変形可能な形材1の弾性反力がその変形を通じて増大するので、本発明の第2の目的も十分に達成され、本発明のブレーキ装置は、異なる織機の動作速度に対しても効果的に最適化される。
【0037】
本発明は、単にその例示的な実施形態である、上に示された構成に限定されると考えられるべきではないことが理解される。そのような実施形態の様々な変形が実際に可能である。例えば、リップ3又は隆起部4の形状及び配置を変更、又は所望の範囲で可変する剛性を得るためにその構造(composition)を部分的に変更することが可能である。これらの全ての変形は、当業者が明らかに到達できる範囲内にあり、以下の請求項によってのみ定義される本発明の保護の範囲に含まれる。