(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速装置用プーリおよびベルト式無段変速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20240129BHJP
F16H 9/16 20060101ALI20240129BHJP
F16G 5/14 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
F16H55/36 Z
F16H9/16
F16G5/14
(21)【出願番号】P 2020118185
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2019155721
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝爾
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-70992(JP,A)
【文献】特開2002-21956(JP,A)
【文献】特開2010-222673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16H 9/16
F16G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に固定された固定プーリ片と、軸方向に移動可能とされた可動プーリ片とからなり、これらの固定プーリ片と可動プーリ片で形成されるV字状のプーリ溝の幅を連続的に変更可能とした、前記プーリ溝に伝動用ベルトを巻き掛けるために用いられるベルト式無段変速装置用プーリであって、
前記プーリ溝の対向する前記固定プーリ片の傾斜溝面と前記可動プーリ片の傾斜溝面とにテーパ面が形成され、
前記固定プーリ片と前記可動プーリ片との傾斜溝面の周方向の表面粗さを算術平均粗さRa1とし、前記固定プーリ片と前記可動プーリ片との傾斜溝面の径方向の表面粗さを算術平均粗さRa2としたとき、
0.30μm≦Ra1≦0.80μm
Ra1≦Ra2
であ
り、
前記プーリ溝の角度は26°であり、
前記固定プーリ片と前記可動プーリ片とを駆動プーリに用いたときのピッチ径は120mm、前記固定プーリ片と前記可動プーリ片とを従動プーリに用いたときのピッチ径は70mmであり、
無負荷の場合の前記駆動プーリの軸回転数が5000rpmであり、
前記駆動プーリの軸荷重は2000Nであることを特徴とするベルト式無段変速装置用プーリ。
【請求項2】
前記算術平均粗さRa2が、
0.35μm≦Ra2≦0.80μm
であることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速装置用プーリ。
【請求項3】
前記固定プーリ片と前記可動プーリ片とに使用される鋼材は、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G 4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材、ステンレス鋼、及びアルミニウム合金の群から選択される少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト式無段変速装置用プーリ。
【請求項4】
前記JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、及び前記JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)は、クロムモリブデン鋼であることを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速装置用プーリ。
【請求項5】
前記駆動プーリと
前記従動プーリとに張力をかけて巻回され、その両側面と前記駆動プーリ及び前記従動プーリそれぞれのV字状の溝を画定する両側面とが接触した状態で走行されるVベルトと、
それぞれ前記Vベルトが嵌合されるV字状の溝を有し且つ前記Vベルトの巻回半径が可変な駆動プーリ及び従動プーリと、を備え、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリの少なくともいずれか一方に請求項1~4の何れかに記載の無段変速装置用プーリを用いたことを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項6】
前記Vベルトは、エンドレスの張力帯と、前記張力帯の長手方向に沿って所定ピッチで配列され、前記張力帯が嵌合溝を有する複数のブロックとを備える高負荷伝動用Vベルトであることを特徴とする請求項5に記載のベルト式無段変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速装置用プーリとそれを用いたベルト式無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、自動二輪車等における変速装置として、変速時の操作性の向上や燃料消費率の改善等を図ることができるベルト式無段変速装置が知られている。ベルト式無段変速装置に用いられる無段変速装置用プーリは、軸方向に固定された固定プーリ片と、軸方向に移動可能とされた可動プーリ片とからなり、これらの固定プーリ片と可動プーリ片で形成されるV字状のプーリ溝の幅を連続的に変更可能としたものである。ベルト式無段変速装置は、プーリ溝の幅に応じて、巻き掛けられるV字状の伝動用ベルトの巻き掛け半径を変化させ、変速比を無段階で変えることができる。ベルト式無段変速装置に用いられる伝動用ベルト(以下、単に、「伝動用ベルト」又は「べルト」ともいう)としては、ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトの他、多数の樹脂製ブロックがエンドレスの張力帯にベルト長さ方向に間隔を空けて取り付けた、樹脂ブロックベルト等が用いられている。
【0003】
ベルト式無段変速装置の駆動プーリおよび従動プーリは、伝動用ベルトとの間に生じる摩擦力によってトルクを伝えるため、ベルトを押し付けるプーリの推力と、ベルトとプーリにおける摩擦係数との調整が重要となる。そのため、従来より、動力伝達性の向上や変速操作性の向上を図ることを目的に、駆動プーリおよび従動プーリのテーパ面の表面性状に改良を施すことがなされている。
【0004】
特許文献1~4には、プーリのベルト溝の径方向において、表面粗さが異なる表面性状を備えたベルト式無段変速装置用プーリが開示されている。例えば、特許文献1には、Vベルトの巻き掛け径の小径・中径・大径の3パターンの領域において、それぞれプーリのベルト溝の表面粗さが小(Ra0.5μm未満)・大(Ra0.5~3.0μm)・小(Ra0.5μm未満)と異なる表面性状を備えた変速装置が開示されている。特許文献2には、駆動プーリにおいてベルトの巻き掛け径が最小(従動プーリにおいてベルトの巻き掛け径が最大)となる時点では、ベルトが高摩擦部によって挟み込まれ、これ以外の変速比においては、高摩擦部から外れるようにベルト接触部の表面が加工されている連続無段変速装置が開示されている。特許文献3には、従動プーリのテーパ面の径方向の内側部分の摩擦係数が径方向の外側部分に比較して小さくなるように形成されたベルト式無段変速機が開示されている。特許文献4には、従動プーリのテーパ面の径方向の内側部分の摩擦係数が径方向の外側部分に比較して大きくなるように形成されたベルト式無段変速機が開示されている。
【0005】
特許文献1~4では、異なる速度領域におけるベルトの動力伝達効率、騒音、変速性などを改善することを目的としており、そのための手段として駆動プーリおよび従動プーリのベルト接触面における表面粗さや、ベルトとの摩擦係数を、プーリの径方向に亘って異ならせているものである。即ち、プーリのテーパ面の周方向における表面粗さおよびベルトとの摩擦係数は、プーリの径方向の内側部分と外側部分の各領域内においては一様である。従って、上記文献には、プーリの径方向と周方向の摩擦係数の異方性については述べられていない。一方、特許文献5には、駆動プーリ及び従動プーリのうち、少なくとも一方のプーリのテーパ面の表面粗さを、プーリの周方向でRa0.25μm以下、プーリの径方向でRa0.35μm以上に設定した、ベルト駆動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-343056号公報
【文献】特開2009-058132号公報
【文献】国際公開第2012/105024号
【文献】国際公開第2012/105036号
【文献】特開2002-21956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5のような表面性状においては、ベルトの摩擦係数が高くなりすぎて、ベルトがプーリとの間で弾性すべり(エラスティックスリップ)を起こし、その結果、ベルトの摩耗が極端に増大するといった問題があった。また、アブレシブ摩耗という接触面が削りとられる現象により、ベルトの摩耗が極端に増大するといった問題があった。さらに、樹脂ブロックベルトを使用した場合、ブロックがプーリの接触面の凹凸によって引き裂かれたりするといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、伝動用ベルトを高負荷かつ高速走行条件で長時間走行させても、動力伝動性を確保しながら、ベルトの摩耗を抑制できるベルト式無段変速装置用プーリとそれを用いたベルト式無段変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のベルト式無段変速装置用プーリは、
軸方向に固定された固定プーリ片と、軸方向に移動可能とされた可動プーリ片とからなり、これらの固定プーリ片と可動プーリ片で形成されるV字状のプーリ溝の幅を連続的に変更可能とした、前記プーリ溝に伝動用ベルトを巻き掛けるために用いられるベルト式無段変速装置用プーリであって、
前記プーリ溝の対向する前記固定プーリ片の傾斜溝面と前記可動プーリ片の傾斜溝面とにテーパ面が形成され、
前記固定プーリ片と前記可動プーリ片との傾斜溝面の周方向の表面粗さを算術平均粗さRa1とし、前記固定プーリ片と前記可動プーリ片との傾斜溝面の径方向の表面粗さを算術平均粗さRa2としたとき、
0.30μm≦Ra1≦0.80μm
Ra1≦Ra2
であることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、固定プーリ片と可動プーリ片との傾斜溝面の周方向の表面粗さである算術平均粗さRa1が0.30μm~0.80μmであることにより、プーリとベルトとの摩擦係数が適度に高まるため、ベルトによる動力伝達性(摩擦伝動能力)を向上させることができる。また、ベルトとプーリとの間で弾性すべりが起こりにくくなるため、ベルトを長時間走行させる場合においても、ベルトの摩耗を抑制することができる。さらに、Ra1の値が、固定プーリ片と可動プーリ片との傾斜溝面の径方向の表面粗さである算術平均粗さRa2の値以下であることにより、各プーリ片の傾斜溝面の周方向と径方向において、適切な表面性状となるため、走行中の変速時においても、ベルトのプーリへの過度な食い込みを抑えることができる。そのため、ベルトを長時間走行した場合においても、伝達能力を確保しながら、且つ変速性を損なわず、ベルトの摩耗を抑制し、更には騒音レベルを低減することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、上記ベルト式無段変速装置用プーリにおいて、
前記算術平均粗さRa2が、
0.35μm≦Ra2≦0.80μm
であることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、固定プーリ片と可動プーリ片との傾斜溝面の径方向の表面粗さである算術平均粗さRa2が0.35μm~0.80μmであることにより、各プーリ片の傾斜溝面の周方向と径方向において、より適切な表面性状となるため、ベルトのプーリへの過度な食い込みをさらに抑えることができ、アブレシブ摩耗を抑制することができる。また、ベルトが各プーリ片の傾斜溝面の径方向に移動する際、ベルトが抵抗なくスムーズに移動することができるため、変速性を向上させることが可能となる。さらに、プーリからベルトが離れる際のベルトの抜け性が良くなり、ベルトに異常な力が発生することを抑えることができるため、ベルトの早期破壊等の不具合を防止することが可能となる。
【0013】
また、本発明は、上記ベルト式無段変速装置用プーリにおいて、
前記固定プーリ片と前記可動プーリ片とに使用される鋼材は、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G 4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材、ステンレス鋼、及びアルミニウム合金の群から選択される少なくとも一種以上であることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G 4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材、ステンレス鋼、及びアルミニウム合金をプーリの鋼材として使用することで、強度と耐摩耗性とに優れたベルト式無段変速装置用プーリを得ることができる。
【0015】
また、本発明は、上記ベルト式無段変速装置用プーリにおいて、
前記JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、及び前記JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)は、クロムモリブデン鋼であることを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、プーリの鋼材としてクロムモリブデン鋼を使用することにより、表面加工がしやすくなるため、固定プーリ片と可動プーリ片との傾斜溝面の表面性状を、周方向と径方向において、所望する表面粗さに、より正確に加工することができる。また、クロムモリブデン鋼は、適度に撓る素材であることから、ベルト走行中における振動を吸収することができるため、強度と耐摩耗性とにより優れたベルト式無段変速装置用プーリを得ることができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のベルト式無段変速装置は、
駆動プーリと従動プーリとに張力をかけて巻回され、その両側面と前記駆動プーリ及び前記従動プーリそれぞれのV字状の溝を画定する両側面とが接触した状態で走行されるVベルトと、
それぞれ前記Vベルトが嵌合されるV字状の溝を有し且つ前記Vベルトの巻回半径が可変な駆動プーリ及び従動プーリと、を備え、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリの少なくともいずれか一方に上記発明に係る無段変速装置用プーリの何れかを用いたことを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、駆動プーリ及び従動プーリの少なくともいずれか一方のプーリにおいて、プーリ片の傾斜溝面の表面粗さが適切な表面性状となるため、ベルトによる動力伝達性(摩擦伝動能力)を向上させることができるとともに、ベルトとプーリとの間で弾性すべりが起こりにくくなる。また、ベルトのプーリへの過度な食い込みを抑えることができる。そのため、ベルトを長時間走行した場合においても、伝達能力を確保しながら、且つ変速性を損なわず、ベルトの摩耗を抑制し、更には騒音レベルを低減することができる。
【0019】
また、本発明は、上記ベルト式無段変速装置において、
前記Vベルトは、エンドレスの張力帯と、前記張力帯の長手方向に沿って所定ピッチで配列され、前記張力帯が嵌合溝を有する複数のブロックとを備える高負荷伝動用Vベルトであることを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、エンドレスの張力帯と、張力帯の長手方向に沿って所定ピッチで配列され、張力帯が嵌合溝を有する複数のブロックとを備える高負荷伝動用Vベルトを使用することにより、ベルトに高い負荷がかかっても、がたつきや亀裂が生じるのを抑制することができる。そのため、伝達能力を確保しながら、且つ変速性を損なわず、ベルトの摩耗を抑制することができるとともに、より安定した長時間走行が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
伝動用ベルトを高負荷かつ高速走行条件で長時間走行させても、動力伝動性を確保しながら、ベルトの摩耗を抑制できるベルト式無段変速装置用プーリおよびベルト式無段変速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速装置を示す一部省略側面図であり、(a)は伝動用ベルトの各プーリへの巻き掛け半径が同じ場合、(b)は巻き掛け半径が異なる場合を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速装置用プーリの側面図である。
【
図3】
図2のベルト式無段変速装置用プーリのテーパ面を示す模式図である。
【
図4】
図2のベルト式無段変速装置用プーリに伝動用ベルトが巻き掛けられた横断面図である。
【
図5】伝動用ベルトを示す一部切欠き斜視図である。
【
図6】
図5の伝動用ベルトをベルト長手方向から見た正面図である。
【
図7】
図5の伝動用ベルトをベルト幅方向から見た側面図である。
【
図8】
図5の伝動用ベルトを構成するブロックをベルト長手方向から見た正面図である。
【
図9】
図8に示すブロックを構成するインサート材の縦断面図である。
【
図10】表面粗さとブロックとの間の摩擦係数、及びブロックの摩耗量について示したグラフである。(a)は、摩擦係数の計測結果を示すグラフであり、(b)はブロック摩耗量の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0024】
(ベルト式無段変速装置100の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速装置を示す一部省略側面図であり、(a)は伝動用ベルトの各プーリへの巻き掛け半径が同じ場合、(b)は巻き掛け半径が異なる場合を示す。ベルト式無段変速装置100は、駆動プーリ11と従動プーリ21との間にエンドレスの伝動用ベルト30が巻き掛けられた構造をしている。そして、伝動用ベルト30の両側面が、駆動プーリ11と従動プーリ21との外周に設けられたV字状のプーリ溝(V溝)と接触した状態で伝動用ベルト30を二軸間で回転走行させ、さらに変速比を無段階で変化させるものである。駆動プーリ11及び従動プーリ21は、軸方向に固定された固定プーリ片12、22と、軸方向に移動可能とされた可動プーリ片13、23とからなる。可動プーリ片13、23が軸方向に移動することで、固定プーリ片12、22と可動プーリ片13、23との間で形成されるV字状のプーリ溝(V溝)の幅を連続的に変更できるようになっている。伝動用ベルト30は、変更されたV溝の幅に応じて、V溝対向面の任意の位置に嵌まり込む。例えば、
図1(a)に示す状態から、
図1(b)に示す状態のように、駆動プーリ11のV字状のプーリ溝の幅を狭く、従動プーリ21のV溝の幅を広くした状態に変更すると、伝動用ベルト30は、駆動プーリ11側ではV溝中を外径側に向かって移動し、従動プーリ21側ではV溝中を内径側に向かって移動する。その結果、駆動プーリ11及び従動プーリ21への巻き掛け半径が連続的に変化して、変速比が無段階で変えられる。
【0025】
(ベルト式無段変速装置用プーリ1の構成)
図2は、本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速装置用プーリ1の側面図である。ベルト式無段変速装置用プーリ1は、固定プーリ片2と可動プーリ片3とからなり、可動プーリ片3が軸方向に移動することで、固定プーリ片2と可動プーリ片3との間で形成されるV字状のプーリ溝(V溝)の幅Wを連続的に変更できるようになっている。固定プーリ片2の傾斜溝面2a、及び可動プーリ片3の傾斜溝面3aには、後述するように表面処理が施される。ベルト式無段変速装置用プーリ1は、ベルト式無段変速装置100を構成する駆動プーリ11及び従動プーリ21のうち、いずれか一方のプーリのみに用いられていてもよいし、両方のプーリに用いられていてもよい。
【0026】
図3は、ベルト式無段変速装置用プーリ1のテーパ面を示す模式図である。
図3に示されるように、固定プーリ片2の傾斜溝面2aの周方向(以下、「テーパ面の周方向」、又は「プーリの周方向」ともいう)とは、回転軸5を中心とした円の周方向を意味し、径方向(以下、「テーパ面の径方向」、又は「プーリの径方向」ともいう)とは、回転軸5を中心とした円の径方向を意味する。
図3において、固定プーリ片2の傾斜溝面2aの周方向と径方向について例を挙げて説明しているが、可動プーリ片3の傾斜溝面3aの周方向と径方向においても同様とする。
【0027】
図4は、ベルト式無段変速装置用プーリ1に伝動用ベルト30が巻き掛けられた横断面図である。ベルト式無段変速装置用プーリ1において、V字状プーリ溝の対向する固定プーリ片2の傾斜溝面2aと可動プーリ片3の傾斜溝面3aとにテーパ面が形成されている。これらのテーパ面は、伝動用ベルト30のベルト幅方向両端面がV字状のプーリ溝(V溝)の対向面に傾斜が形成され、可動プーリ片3により変更されたプーリ溝の幅Wに応じて、V溝の対向面の任意の位置に嵌まり込む。通常のベルト走行時は、伝動用ベルト30が、ベルト長手方向に移動するため、固定プーリ片2と可動プーリ片3との傾斜溝面2a、3aの周方向の表面粗さが、摩擦係数、つまり動力伝達性に影響する。また、変速時においては、伝動用ベルト30が、ベルト厚み方向に移動するため、固定プーリ片2と可動プーリ片3との傾斜溝面2a、3aの径方向の表面粗さが、変速性に影響する。
【0028】
ベルト式無段変速装置用プーリ1において、固定プーリ片2と可動プーリ片3との傾斜溝面2a、3aの周方向の表面粗さを算術平均粗さRa1とし、固定プーリ片1と可動プーリ片2との傾斜溝面2a、3aの径方向の表面粗さを算術平均粗さRa2としたとき、
0.30μm≦Ra1≦0.80μm
Ra1≦Ra2
となるように構成されていることにより、プーリとベルトとの摩擦係数が適度に高まるため、ベルトによる動力伝達性(摩擦伝動能力)を向上させることができる。また、ベルトとプーリとの間で弾性すべりが起こりにくくなるため、ベルトを長時間走行させる場合においても、ベルトの摩耗を抑制することができる。さらに、プーリの傾斜溝面の周方向と径方向とで適切な表面性状となるため、ベルトのプーリへの過度な食い込みを抑えることができる。そのため、ベルトを長時間走行した場合においても、動力伝達能力を確保しながら、且つ変速性を損なわず、ベルトの摩耗を抑制し、更には騒音レベルを低減することが可能となる。Ra1が0.3μm未満となると、プーリとベルトとの摩擦係数が高くなりすぎて、ベルトがプーリとの間で弾性すべりを起こし、ベルトの摩耗が極端に増大する虞がある。Ra1が0.8μmを超えると、ベルトの摩擦係数が低くなり、動力伝達性が低下する虞がある。また、Ra1が、Ra2より大きくなると、プーリの周方向と径方向における表面性状が適切でないため、プーリからのベルトが離れる際のベルトの抜け性が悪くなったり、ベルトの早期破壊等の不具合が生じたりする虞がある。
【0029】
さらに、固定プーリ片2と可動プーリ片3との傾斜溝面2a、3aの径方向の表面粗さである算術平均粗さRa2が、
0.35μm≦Ra2≦0.80μm
であることにより、各プーリ片の傾斜溝面の周方向と径方向において、より適切な表面性状となるため、ベルトのプーリへの過度な食い込みをさらに抑えることができるとともに、アブレシブ摩耗を抑制することができる。また、Ra2が上記範囲内であれば、ベルトが各プーリ片の傾斜溝面の径方向に移動する際のベルトの抜け性が良くなり、ベルトが抵抗なくスムーズに移動することができるため、変速性を向上させることが可能となる。また、プーリからベルトが離れる際、ベルトに異常な力が発生することを抑えることができるため、ベルトの早期破壊等の不具合を防止することが可能となる。
【0030】
ベルト式無段変速装置用プーリ1を構成する、固定プーリ片1と可動プーリ片2とに使用される鋼材は、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、JIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G 4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材、ステンレス鋼、及びアルミニウム合金の群から選択される少なくとも一種が用いられる。特に、加工性や、強度、耐摩耗性により優れている点から、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鉄鋼鋼材、及びJIS G 4052に規定されている焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)において、いずれもクロムモリブデン鋼(SCM材)が好適である。JIS G 4053に規定されているクロムモリブデン鋼として、SCM415、SCM418、SCM420、SCM421、SCM425、SCM430、SCM432、SCM435、SCM440、SCM445、SCM822が挙げられる。また、JIS G 4052に規定されているクロムモリブデン鋼としては、SCM415H、SCM418H、SCM420H、SCM425H、SCM435H、SCM440H、SCM445H、SCM822Hが挙げられる。
【0031】
固定プーリ片2及び可動プーリ片3のテーパ面の径方向と周方向とで異なる表面性状を形成する方法としては、切削加工、又は研磨加工等の機械加工により切削ピッチや研磨送り量を周方向と径方向とで調整し、その後、加工面の表層を極僅か研磨することが挙げられる。その他、所望の表面性状を形成する方法としては、機械加工した後のテーパ面の表面を溶射、ショットブラスト、エッチング等による化学処理により形成することができる。
【0032】
(伝動用ベルト30の構成)
ベルト式無段変速装置用プーリ1に巻き掛ける伝動用ベルト30としては、比較的低負荷用のベルトであるローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトの他、高負荷伝動用Vベルトである、多数の樹脂製ブロックがエンドレスの張力帯にベルト長さ方向に間隔を空けて取り付けた構成の樹脂ブロックベルト等が用いられる。この中でも、樹脂ブロックベルトは耐久性が最も高いことから、高負荷、高速走行条件で長時間走行させても、伝達能力を確保しながら、且つ変速性を損なわず、ベルトの摩耗を抑制する効果をより向上させることができる。
【0033】
次に、
図5~
図9をさらに参照しつつ、本発明のベルト式無段変速装置100に用いられる伝動用ベルト(Vベルト)30の構成について説明する。なお、以下の説明では、伝動用ベルト30が、駆動プーリ11、従動プーリ21に巻き掛けられた際に、ベルト厚み方向の外周側となる方向を「上方」、ベルト厚み方向の内周側となる方向を「下方」と称することがある。
【0034】
図5は、伝動用ベルト30を示す一部切欠き斜視図である。伝動用ベルト30は、平行な2本のエンドレスの張力帯31の長手方向に沿って、複数の板状のブロック40を所定間隔(所定ピッチ)で配列した樹脂ブロックベルトである。
【0035】
(ブロック40の構成)
図5に示すように、ブロック40は、上面40aがベルト厚み方向の外周側、下面40bがベルト厚み方向の内周側になるように配列されている。また、ブロック40は、側面40cが隣接するブロック40の側面40cと対向するように配列される。各ブロック40は、互いに同一形状を有しており、ベルト厚み方向の上方及び下方に並ぶ2本のビーム部(上側ビーム部41及び下側ビーム部42)をベルト幅方向の中央部でセンターピラー部43によって連結して略「H」形に形成されている。上側ビーム部41、下側ビーム部42、及び、センターピラー部43は、一体成型されている。
【0036】
図6は、伝動用ベルトをベルト長手方向から見た正面図である。ブロック40のベルト幅方向の長さは、ベルト厚み方向の上方の端部が最も長く下方の端部に行くほど短くなっている。伝動用ベルト30が駆動プーリ11、従動プーリ21に巻き掛けられたときに、各ブロック40の上側ビーム部41は張力帯31よりもベルト厚み方向の外周側に位置し、下側ビーム部42は張力帯31よりもベルト厚み方向の内周側に位置する。
【0037】
図7は、伝動用ベルトをベルト幅方向から見た側面図である。各ブロック40のベルト長手方向に関する長さは、ベルト厚み方向の上方に位置する上側ビーム部41においては、ベルト厚み方向に一定の肉厚で形成されており、ベルト厚み方向の下方に位置する下側ビーム部42においては、ベルト厚み方向の下方となる下側に行くほど肉厚が漸減するように形成されている。
【0038】
(嵌合溝44)
図6に示すように、ブロック40は、嵌合溝44を有する。嵌合溝44は、上下のビーム部41、42、とセンターピラー部43とによって囲まれて形成されている。嵌合溝44は、ベルト幅方向の中央部を挟んだ両側に一対で設けられている。各張力帯31は、各ブロック40の各嵌合溝44にベルト幅方向の両側から圧入嵌合され、各ブロック40が2本の張力帯31と一体化されている。
【0039】
図5に示すように、各張力帯31の外周面31aと内周面31bには、それぞれベルト幅方向に延びる凹溝51a、51bがベルト長手方向に所定のピッチで設けられる。尚、張力帯31の外周面31aは、張力帯31のベルト厚み方向の外周側の面である。また、張力帯31の内周面31bは、張力帯31のベルト厚み方向の内周側の面である。また、各ブロック40における嵌合溝44のベルト厚み方向の対向面には、それぞれベルト幅方向に延びる凸条45a、45bが設けられている。各張力帯31の凹溝51a、51bに各ブロック40の凸条45a、45bを係合させることにより、各ブロック40がベルト長手方向に沿って所定ピッチで固定される。張力帯31の内周面31bの凹溝51bは、
図7に示すように、外周面31aの凹溝51aに比べて断面が緩やかな凹湾曲面となっている。また、凹溝51bと係合する嵌合溝44の凸条45bは、凹溝51aと係合する凸条45aと比べてベルト長手方向の断面が緩やかな凸湾曲面とされている。
【0040】
(張力帯31)
図5に示すように、張力帯31は、心線33がベルト長手方向にスパイラル状に埋設されたゴム層34と、ゴム層34の上下面を被覆する補強布35とからなる。心線33としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維等からなるロープや、スチールワイヤ等が用いられる。心線33の替わりに、上記の繊維からなる織布や編布、または金属薄板等を埋設してもよい。ゴム層34は、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含むなど)、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDMなど)などのエチレン-α-オレフィン系ゴム)等の単一材もしくはこれらを適宜ブレンドしたゴム、またはポリウレタンゴムで形成される。
【0041】
補強布35は、ベルト走行時にゴム層34がブロック40との摩擦により摩耗するのを防止するためのものであり、平織り、綾織り又は朱子織り等の織布で形成される。その繊維材料としては、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等が用いられる。なお、ブロック40と張力帯31の擦れによる摩耗を防止する観点では、耐摩耗性に優れるアラミド繊維が好ましいが、アラミド繊維に比べて耐摩耗性の劣るナイロン繊維を使用することもできる。また、ナイロン繊維はアラミド繊維に比べて伸縮性がよいので、ブロック40の嵌合溝44の形状に正確に沿わせることができる。
【0042】
ここで、
図8、9を参照しつつ、ブロック40の構成についてより詳細に説明する。
図8は、伝動用ベルトを構成するブロックをベルト長手方向から見た正面図である。
図9は、
図8に示すブロックを構成するインサート材の縦断面図である。ブロック40は、インサート材60の表面に樹脂組成物を被覆したもの(樹脂被覆層70)で構成されている。またインサート材60全体が樹脂被覆層70で被覆されている必要はなく、少なくとも張力帯31との接触部分及びプーリ接触面を構成する両側面を形成するように被覆されていればよく、その他の部分ではインサート材60が露出していてもよい。またブロック40は樹脂組成物のみで構成されてもよい。
【0043】
図9に示すように、インサート材60は、接着層80を介して、少なくともベルト幅方向両端面を被覆する樹脂被覆層70によって部分的に被覆されている。即ち、各ブロック40は、インサート材60に対して樹脂被覆層70が部分的に被覆された構成をしている。ブロック40は、例えば、ベルト厚み方向の長さが10~17mm、ベルト幅方向の長さが20~30mm、及びベルト長手方向の長さが2~5mmであり、ベルト幅方向の両側部のなす角度、すなわち、ベルト角度は例えば24~30°である。
【0044】
インサート材60は、ブロック40と同様に、上側インサートビーム部61及び下側インサートビーム部62をベルト幅方向の中央部でインサートセンターピラー部63によって連結して略「H」形に形成されている。上側インサートビーム部61、下側インサートビーム部62及びインサートセンターピラー部63は、一体成型される。インサート材60のベルト幅方向に関する長さは、外周側の端部が最も長く内周側の端部に行くほど短くなっている。
【0045】
インサート材60は、耐熱性に優れ、高強度(高い負荷条件に適用可能)であるジュラルミン材(板状の金属材料)からなり、JIS規格における合金番号A2017、A2014、A2024、A7075等のアルミニウム合金からなる金属素材の時効処理材で構成されている。特に、耐熱性及び強度に一段と優れたJIS H A2024P T361のジュラルミン材が好適である。ここで、「A2024P」とはアルミニウム合金の圧延材であることを、「2024」とは金属組成を、「T361」とは「T3」の断面積減少率をほぼ6%にしたことをそれぞれ表す。「T3」とは溶体化処理後冷間加工を行い、さらに自然時効させたことである。この合金番号の圧延材は、高温に十分に耐え得て軟化し難いという性質を有している。
【0046】
インサート材60は、例えば、上側インサートビーム部61のベルト厚み方向の長さが3.5~7.0mm、インサートセンターピラー部63のベルト厚み方向の長さが3.5~7.0mm、及び下側インサートビーム部42のベルト厚み方向の長さが3.5~7.0mmである。
【0047】
樹脂被覆層70は、接着層80を介して、インサート材60の外表面を層状に被覆している。接着層80は、接着材料からなり、インサート材60側に配置される。接着剤として、例えば、シランカップリング剤(エポキシシランカップリング剤やアミノシランカップリング剤等)やイソシアネートが用いられる。
【0048】
接着層80の層厚さは、例えば0.5~5μmである。
【0049】
なお、
図9に示す樹脂被覆層70におけるインサート材60の上側インサートビーム部61及び下側インサートビーム部62のベルト幅方向両端面を被覆する部分は、固定プーリ片2と可動プーリ片3で形成されるV字状の溝(
図4参照)との接触部となっている。
【0050】
樹脂被覆層70は、樹脂材料で形成される。ブロック40に、適度な摩擦係数を与え、耐摩耗性を向上させるために、樹脂被覆層70は、硬質樹脂材料で形成されることが好ましい。硬質樹脂材料は、例えば、マトリクス樹脂に短繊維の炭素繊維が添加された樹脂組成物である。マトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、また、熱可塑性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノール樹脂(例えば、ノボラック系フェノール樹脂)、エポキシ樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。マトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂のみで構成されていてもよく、また、熱可塑性樹脂のみで構成されていてもよく、さらに、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされたものであってもよい。マトリクス樹脂は、その他にゴム成分等を含んでいてもよい。
【0051】
樹脂被覆層70に含まれる炭素繊維は、平均繊維長が100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。なお、炭素繊維の平均繊維長は、樹脂被覆層50の表面観察写真の画像解析から任意の20本の炭素繊維の繊維長を測定して数平均し、それを2回繰り返した平均値として求められる。
【0052】
樹脂被覆層70を形成するマトリクス樹脂は、炭素繊維の他、パラ系のアラミド繊維、グラファイト粉末、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、金属石鹸等の充填材を含んでいてもよい。パラ系のアラミド繊維は、短繊維のものが用いられ、例えば、繊維長が1mm~3mmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が2~5質量部である。グラファイト粉末は、例えば、粒径が5μm~10μmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が15~20質量部である。フッ素樹脂は、例えば、粒径が10~150μmであるポリテトラフルオロエチレン等であり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が5~30質量部である。二硫化モリブデンは、例えば、粒径が0.5~30μmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が5~30質量部である。金属石鹸は、例えば、粒径が0.5~30μmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が0.5~3質量部である。
【0053】
樹脂被覆層70の層厚さは、例えば0.3~1.5mmである。
【実施例】
【0054】
[ブロックの摩擦係数及び摩耗量の測定]
試料であるブロック(ベルト寸法:幅25mm、角度26°ベルトピッチライン周長612mm、樹脂ブロック材質:炭素繊維含有ポリアミド4,6)を、表面粗さが異なった相手材(試験用ディスク)に押付けて回転摺動摩擦させた時の、相手材の表面粗さとブロックとの間の摩擦係数、及びブロックの摩耗量の関係について調べた。具体的には、表面粗さRaが0.2μm、0.3μm、0.8μm、及び1.0μmとなるように加工した4種類の試験用ディスクを用意し、成形したブロックと前記試験用ディスクとの摩擦係数とブロックの摩耗量を測定した。摩擦係数は、試験トルクの電圧を10秒ごとにサンプリングし、試験時間70時間の平均値を算出した。摩耗量は、試験前後におけるブロック幅方向の減少量を測定した。試験条件は、以下の通りである。
・試験機:ピンオンディスク摩擦摩耗試験機(高千穂精機株式会社製TRI-S-500N)
・押し付け面圧:6.3MPa
・滑り速度:0.314m/s
・ディスク回転速度:188rpm
・試料取り付け半径:16mm
・相手材:SUS304
・雰囲気温度:100℃
・試験時間:70hr
【0055】
<測定結果>
図10は、表面粗さとブロックとの間の摩擦係数、及びブロックの摩耗量を示すグラフである。
図10(a)は、表面粗さと摩擦係数との関係を示すグラフであり、
図10(b)は、表面粗さとブロックの摩耗量との関係を示すグラフである。
図10(a)に示すように、実験した試験用ディスク(以下、ディスク)において、ディスクの表面粗さが小さいほど、ブロックとディスクとの間の摩擦係数は大きくなることが明らかとなった。従って、
図10(a)のディスクの表面粗さと摩擦係数との関係から、変速ベルトとプーリ溝面との摩擦係数の理想的な関係を考慮すると、プーリの周方向に対しては、表面粗さを小さくすればするほど、ベルトとの摩擦係数を高めることができるため、その結果、ベルトによる動力伝達性(摩擦伝動能力と同義)が高まることが期待できる。
【0056】
図10(b)に示すように、ディスクの表面粗さRaが大きいほど、ブロックの摩耗量が大きくなることが明らかとなった。表面粗さが大きくなるほど摩耗量が大きくなる原因として、アブレシブ摩耗が起こることによるものと考えられる。従って、
図10(b)のディスクの表面粗さRaと摩耗量との関係から、変速ベルトの摩耗を抑制する観点から、考慮すべきプーリ溝面の表面粗さは、Ra0.2μmを下限とした場合、表面粗さを小さくするほどブロックの摩耗が抑制されることが明らかとなった。従って、プーリの周方向に関しては、表面粗さをRa0.2μm程度まで小さくすれば、ブロックの摩耗が抑制されると考えられる。なお、表面粗さをRa0.2μmよりも更に小さく設定することは、プーリの製造コストが大きくなり過ぎるなど、生産上現実的ではない。
【0057】
[ベルト耐久走行試験]
(評価項目)
ベルトスリップ率、ベルト摩耗量、及びベルト走行時間(故障に至るまでの走行時間)を測定した。
【0058】
(供試体)
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、及び比較例6、以上11種類のベルト式無段変速装置用プーリ。
【0059】
プーリに使用する鋼材として、クロムモリブデン鋼 SCM435Hを使用した(全実施例、および全比較例に共通)。加工手順としては、切削加工の際、プーリの径方向と周方向とで切削のピッチを異ならせながら加工した後、切削面の表層を極僅か研磨することで、プーリの径方向と周方向で異なる表面粗さを持つプーリを製作した。プーリのテーパ面の表面粗さはJIS B 0601-1994に準拠して、表面性状測定器(株式会社ミツトヨ製フォームトレーサCS-3100)により算術平均粗さ(Ra)を測定した。後に説明する表1において、各実施例及び各比較例のプーリの周方向と径方向との表面粗さRaを示す。
【0060】
伝動用ベルトは、心線ピッチライン上のベルト周長を612mm、心線ピッチライン上のベルト幅を25mm、ブロックのベルト厚み方向の長さを13mm、ブロックのベルト長手方向の長さを2.95mm、ブロックピッチは3mmとした。張力帯のゴム層は、「水素化ニトリルゴム」と「ジメタクリル酸亜鉛を配合した水素化ニトリルゴム」との混合物からなるゴムの組成物で形成した。心線には、アラミド繊維の組紐にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理を施した直径0.72mmの撚りコードを用いた。上側及び下側の補強布のそれぞれは、ナイロン繊維の織布にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理並びにゴム糊に浸漬及びゴム糊をコートした後に乾燥させる処理を施した厚み0.8mmの帆布を用いた(全実施例、および全比較例に共通)。
【0061】
(評価方法)
ベルト耐久走行試験では、
図2に示す各ベルト式無段変速装置用プーリ(実施例1~5及び比較例1~6)を駆動プーリと従動プーリとに使用し、上記の樹脂ブロックベルトを駆動プーリと従動プーリとに巻き掛けて、70℃の雰囲気下で、駆動プーリを回転させた。ここで、駆動プーリのピッチ径は120mm、従動プーリのピッチ径は70mmとし、駆動プーリおよび従動プーリのV溝の角度はそれぞれ26°とした。伝動用ベルトの負荷を決める駆動プーリの駆動モータの電力値を45kWとし、無負荷の場合に回転数が5000rpmとなるように設定した。軸荷重は、駆動モータの電力値に基づく負荷に対して伝動用ベルトがスリップしない程度とし、具体的には2000Nとした。伝動用ベルトの走行中、軸荷重が一定となるように、両プーリの軸間距離は固定しなかった。静止状態でのベルト張力は、軸荷重の約半分の値である。ベルト耐久走行試験では、ベルトスリップ率、200時間走行後のブロックの摩耗量を測定した。
【0062】
(評価基準)
実施例1~5及び比較例1~6について、動力伝達性判定については、ベルトスリップ率(%)が0.50未満は「◎」、0.50以上0.70未満は「〇」、0.70以上は「×」として判定した。
【0063】
実施例1~5及び比較例1~6について、耐摩耗性判定については、ベルト摩耗量(mm)が0.10未満は「◎」、0.10以上0.14未満は「〇」、0.14以上は「×」として判定した。表1にこれらの試験結果を示す。
【0064】
【0065】
実施例1~5は、500時間走行してもベルトへのダメージはなく、ベルトスリップ率も比較的低い値を維持し、ベルト摩耗量も小さいことが確認された。特に、実施例2は、ベルト摩耗量が最も小さく、動力伝達性判定、耐摩耗性判定においても良好な結果となり、実用性を満たしていることが明らかとなった。
【0066】
比較例1は、実施例1におけるプーリの周方向の表面粗さRa1を0.05μm小さくして0.25μmとしたものであるが、走行途中で張力帯の補強布の端部がほつれていることを確認したため、315時間で走行を中止した。原因として、ベルトのプーリから離れる際のベルトの抜け性が悪くなった結果、ブロックと張力帯との嵌合部で摩擦抵抗が発生し、その結果、張力帯の補強布がダメージを受けたと考えられる。また、ベルトの摩耗量が、実施例1に対して大きいことが確認された。
【0067】
比較例2においては、プーリの周方向の表面粗さRa1を0.20μmとし、プーリの径方向の表面粗さRa2を1.00μmとしたところ、走行途中で張力帯の補強布の端部がほつれていることを確認したため、418時間で走行を中止した。原因として、比較例1と同様、ベルトのプーリからの抜け性が悪くなった結果、ブロックと張力帯との嵌合部で摩擦抵抗が発生し、その結果、張力帯の補強布がダメージを受けたと考えられる。比較例2は、比較例1に対し、ベルト走行時間は少し長い結果となったが、比較例1と同様のベルトダメージであった。また、比較例2は、比較例1よりも、ベルト摩耗量が大きいことが確認された。
【0068】
比較例3においては、プーリの周方向の表面粗さRa1、プーリの径方向の表面粗さRa2のいずれも1.0μmとしたところ、ベルトスリップ率が大きくなりすぎたため、スリップ異常と判断し、テストを中止した。またベルトの摩耗量が比較例1~6の中で最も大きいことが確認された。
【0069】
比較例4は、実施例3のプーリの径方向の表面粗さRa2を0.5μm小さくして0.3μmとし、Ra1>Ra2としたものである。比較例4は、実施例3に対し、ベルトスリップ率が大きくなるとともに、ベルト摩耗量が増大し、ベルト走行時間が短くなった。
【0070】
比較例5は、実施例1におけるプーリの周方向の表面粗さRa1とプーリの径方向の表面粗さRa2の値を逆にし、Ra1>Ra2としたものである。比較例6は、プーリの周方向の表面粗さRa1を0.40μm、プーリの径方向の表面粗さRa2を0.35μmとし、Ra1>Ra2としたものである。比較例5及び比較例6ともに、ベルトスリップ率が実施例1に対して、若干大きくなる程度であったものの、ベルト摩耗量が増大し、走行途中で張力帯の補強布の端部がほつれていることを確認したため、それぞれ442時間と411時間で走行を中止した。
【0071】
以上より、実施例1~5では、比較例1~6に比べて、動力伝達性能を確保しながら、ベルトの摩耗を抑制できる効果が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明を利用すれば、高負荷かつ高速走行条件で長時間走行させても、動力伝動性を確保しながら、ベルトの摩耗を抑制できるベルト式無段変速装置用プーリおよびベルト式無段変速装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 ベルト式無段変速装置用プーリ
2 固定プーリ片
2a 傾斜溝面
3 可動プーリ片
3a 傾斜溝面
11 駆動プーリ
12 固定プーリ片
13 可動プーリ片
21 従動プーリ
22 固定プーリ片
23 可動プーリ片
30 伝動用ベルト(Vベルト)
31 張力帯
40 ブロック
44 嵌合溝
100 ベルト式無段変速装置
W 幅