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  • 特許-パルスアーク溶接電源 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接電源
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20240129BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20240129BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/073 545
B23K9/173 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020176378
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067674
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 太作
(72)【発明者】
【氏名】恵良 哲生
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-226677(JP,A)
【文献】特開平9-141430(JP,A)
【文献】国際公開第2017/125989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する遷移電流を出力し、ピーク期間中は前記ピーク電流を出力し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する遷移電流を出力し、ベース期間中は前記ベース電流を出力し、これらの出力を1パルス周期とする溶接電流を出力する電力制御部を備えたパルスアーク溶接電源において、
前記パルス周期ごとに前記溶接ワイヤと母材との短絡の発生時期を検出する短絡発生時期検出部と、
前記短絡の発生時期に対応させて予め定められた修正量を所定パルス周期ごとに積算して積算修正量を算出する積算修正量算出部と、
前記積算修正量に基づいて前記溶接電流の波形のパルスパラメータを修正するパルスパラメータ修正部と、
を備えたことを特徴とするパルスアーク溶接電源。
【請求項2】
前記短絡の発生時期を、前記立上り期間、前記ピーク期間、前記立下り期間及び前記ベース期間の4つの期間に分類する、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接電源。
【請求項3】
前記パルスパラメータは、前記ピーク期間及び/又は前記ピーク電流である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスパラメータを自動的に適正化することができるパルスアーク溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式パルスアーク溶接では、溶接ワイヤを送給し、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する遷移電流が通電し、ピーク期間中はピーク電流が通電し、立下り期間中はピーク電流からベース電流へと下降する遷移電流が通電し、ベース期間中はベース電流が通電し、これらの通電を1パルス周期とする溶接電流が通電して溶接が行われる。パルスアーク溶接では、1パルス周期ごとに一つの溶滴が移行するいわゆる1パルス周期1溶滴移行の状態にすることによって、スパッタ発生量の少ない、ビード外観が良好な高品質の溶接を行うことができる。1パルス周期1溶滴移行状態にするためには、ピーク期間、ピーク電流等のパルスパラメータを適正値に設定する必要がある。
【0003】
パルスパラメータの適正値は、JIS規格が同一の溶接ワイヤであっても、溶接ワイヤの銘柄によって成分構成が相違するために異なる値となる。さらには、給電チップ・母材間距離(トーチ高さ)、送給速度、溶接速度等によって適正値は変化する。このために、パルスパラメータを適正値に自動調整する制御が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の発明では、パルス周期ごとに前記溶接ワイヤと母材との短絡の発生時期を検出し、単位時間当たりの前記短絡発生時期の分布を表す指標を算出し、この指標に基づいて前記溶接電流の波形におけるパルスパラメータを変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-226677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルスアーク溶接において、高速溶接を行う場合、アンダカットを抑制するために溶接電圧の設定値を標準値よりも小さくしてアーク長を短くすることが好ましい。しかし、アーク長が短くなった結果、短絡が発生しやすくなり、スパッタ発生量が大幅に増加する。
【0007】
上記において、上述した従来技術を適用すると、単位時間当たりの短絡発生時期の分布に基づいてパルスパラメータが適正化されて、スパッタ発生量を削減することができる。しかし、従来技術では、分布に基づいているために適正値に収束するまでに時間がかかり、過渡応答性が悪いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明では、パルスパラメータの自動修正制御において、過渡応答性及び定常安定性を良好にすることができるパルスアーク溶接電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する遷移電流を出力し、ピーク期間中は前記ピーク電流を出力し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する遷移電流を出力し、ベース期間中は前記ベース電流を出力し、これらの出力を1パルス周期とする溶接電流を出力する電力制御部を備えたパルスアーク溶接電源において、
前記パルス周期ごとに前記溶接ワイヤと母材との短絡の発生時期を検出する短絡発生時期検出部と、
前記短絡の発生時期に対応させて予め定められた修正量を所定パルス周期ごとに積算して積算修正量を算出する積算修正量算出部と、
前記積算修正量に基づいて前記溶接電流の波形のパルスパラメータを修正するパルスパラメータ修正部と、
を備えたことを特徴とするパルスアーク溶接電源である。
【0010】
請求項2の発明は、
前記短絡の発生時期を、前記立上り期間、前記ピーク期間、前記立下り期間及び前記ベース期間の4つの期間に分類する、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接電源である。
【0011】
請求項3の発明は、
前記パルスパラメータは、前記ピーク期間及び/又は前記ピーク電流である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接電源である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パルスパラメータの自動修正制御において、過渡応答性及び定常安定性を良好にすることができる。特に、高速溶接時において、パルスパラメータを迅速に適正値に収束させることができ、定常安定性も良好であるので、スパッタ発生量の少ない高品質の溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接電源のブロック図である。
図2図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電力制御回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電力制御回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0017】
溶接ワイヤ1は、ワイヤリール1aに巻かれている。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生して溶接が行われる。アーク3中を溶接電流Iwが通電し、溶接ワイヤ1と母材2との間に溶接電圧Vwが印加する。
【0018】
溶接電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧平均値算出回路VAVは、この溶接電圧検出信号Vdを入力として、ローパスフィルタに通すことによって平均化して、溶接電圧平均値信号Vavを出力する。溶接電圧設定回路VRは、予め定めた溶接電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この溶接電圧設定信号Vrと上記の溶接電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0019】
電圧・周波数変換回路VFは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間Highレベルになる信号である。
【0020】
短絡判別回路SAは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、その値によって短絡状態を判別してHighレベルになる短絡判別信号Saを出力する。
【0021】
短絡発生時期検出回路TSAは、上記の短絡判別信号Sa及び後述するタイマ信号Tmを入力として、以下の処理を行い、短絡発生時期検出信号Tsaを出力する。
1)タイマ信号Tm=1(立上り期間Tu)のときに短絡判別信号SaがHighレベルに変化したときは、短絡発生時期検出信号Tsa=1を出力する。
2)タイマ信号Tm=2(ピーク期間Tp)のときに短絡判別信号SaがHighレベルに変化したときは、短絡発生時期検出信号Tsa=2を出力する。
3)タイマ信号Tm=3(立下り期間Td)のときに短絡判別信号SaがHighレベルに変化したときは、短絡発生時期検出信号Tsa=3を出力する。
4)タイマ信号Tm=4(ベース期間Tb)のときに短絡判別信号SaがHighレベルに変化したときは、短絡発生時期検出信号Tsa=4を出力する。
【0022】
積算修正量算出回路SDは、上記の短絡発生時期検出信号Tsaを入力として、
パルス周期ごとに、短絡発生時期検出信号Tsa=1のときは予め定めた第1修正量Sd1となり、短絡発生時期検出信号Tsa=2のときは予め定めた第2修正量Sd2となり、短絡発生時期検出信号Tsa=3のときは予め定めた第3修正量Sd3となり、短絡発生時期検出信号Tsa=4のときは予め定めた第4修正量Sd4となる修正量を出力し、所定パルス周期ごとに、上記の修正量を積算して、積算修正量信号Sdを出力する。この回路の詳細な動作については、図2で後述する。
【0023】
立上り期間設定回路TURは、予め定めた立上り期間設定信号Turを出力する。立下り期間設定回路TDRは、予め定めた立下り期間設定信号Tdrを出力する。
【0024】
パルスパラメータ修正回路PCは、上記の積算修正量信号Sdを入力として、所定パルス周期ごとに、Tpr=Tp0+Σ(Sd×Kt)を算出し、Ipr=Ip0+Σ(Sd×Ki)を算出し、ピーク期間設定信号Tpr及びピーク電流設定信号Iprを出力する。Tp0及びIp0は予め定めた初期値であり、Kt及びKiは予め定めた係数である。この回路の詳細な動作については、図2で後述する。
【0025】
タイマ回路TMは、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、上記のピーク期間設定信号Tpr及び上記の立下り期間設定信号Tdrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化すると、立上り期間設定信号Turによって定まる立上り期間Tu中はその値が1となり、その後のピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp中はその値が2となり、その後の立下り期間設定信号Tdrによって定まる立下り期間Td中はその値が3となり、その後のパルス周期信号Tfが短時間Highレベルになるまでのベース期間Tb中はその値が4となるタイマ信号Tmを出力する。
【0026】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0027】
電流制御設定回路ICRは、上記のタイマ信号Tm、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)タイマ信号Tm=1(立上り期間Tu)のときは、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
2)タイマ信号Tm=2(ピーク期間Tp)のときは、ピーク電流設定信号Iprの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
3)タイマ信号Tm=3(立下り期間Td)のときは、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降する電流制御設定信号Icrを出力する。
4)タイマ信号Tm=4(ベース期間Tb)のときは、ベース電流設定信号Ibrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0028】
溶接電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して溶接電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icrと上記の溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Eiを入力として、PWM制御を行い、上記の電力制御回路PMのインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0029】
溶接電流平均値設定回路IRは、予め定めた溶接電流平均値設定信号Irを出力する。送給速度設定回路FRは、この溶接電流平均値設定信号Irを入力として、予め内蔵されている溶接電流平均値と送給速度との関係式によって溶接電流平均値設定信号Irの値に対応した送給速度設定信号Frを算出して出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この値によって定まる送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記のワイヤ送給モータWMに出力する。
【0030】
図2は、図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は短絡判別信号Saの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0031】
時刻t1~t2の立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはベース電圧からピーク電圧へと上昇する。時刻t2~t3のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク電流Ipとなり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはピーク電圧となる。時刻t3~t4の立下り期間Td中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはピーク電圧からベース電圧へと下降する。時刻t4~t5のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはベース電流Ibとなり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはベース電圧となる。時刻t1~t5の期間が1パルス周期Tfとなる。ピーク電流Ip及びピーク期間Tpは、1パルス周期Tfごとに溶滴が移行するように設定される。ベース電流Ibは溶滴が形成されないように小電流値に設定される。ピーク電流Ipは図1のピーク電流設定信号Iprによって設定され、ベース電流Ibは図1のベース電流設定信号Ibrによって設定される。立上り期間Tuは図1の立上り期間設定信号Turによって設定され、ピーク期間Tpは図1のピーク期間設定信号Tprによって設定され、立下り期間Tdは図1の立下り期間設定信号Tdrによって設定される。
【0032】
パルス周期Tfは、溶接電圧Vwの平均値(図1の溶接電圧平均値信号Vav)が図1の溶接電圧設定信号Vrと等しくなるように変調制御される。これにより、アーク長が適正値になるように制御している。
【0033】
同図では、、立下り期間Td中の時刻t31において、溶接ワイヤと母材との短絡が短時間発生しており、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値となっている。このために、時刻t31において、同図(C)に示すように、短絡判別信号Saが短時間Highレベルとなっている。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中上昇している。このために、図1の短絡発生時期検出回路TSAは、短絡発生時期検出信号Tsa=3を出力する。これを受けて、図1の積算修正量算出回路SDは、短絡発生時期検出信号Tsa=3に対応して予め定めた第3修正量Sd3を出力し、所定パルス周期ごとに積算して積算修正量信号Sdを出力する。
【0034】
ここで、所定周期を、例えば5とする。第n回目のパルス周期において、立上り期間Tu中に短絡が発生すると、Tsa=1となり、修正量は第1修正量Sd1となる。第n+1回目のパルス周期において、ピーク期間Tp中に短絡が発生すると、Tsa=2となり、修正量は第2修正量Sd2となる。第n+2回目のパルス周期において、立下り期間Td中に短絡が発生すると、Tsa=3となり、修正量は第3修正量Sd3となる。第n+3回目のパルス周期において、ベース期間Tb中に短絡が発生すると、Tsa=4となり、修正量は第4修正量Sd4となる。第n+4回目のパルス周期において、ピーク期間Tp中に短絡が発生すると、Tsa=2となり、修正量は第2修正量Sd2となる。この結果、積算修正量信号Sd=Sd1+Sd2+Sd3+Sd4+Sd2となる。ここで、例えば、Sd1=1、Sd2=-1、Sd3=-0.6、Sd4=0とすると、Sd=-1.6となる。
【0035】
次に、図1のパルスパラメータ修正回路PCは、上記の積算修正量信号Sdを入力として、所定パルス周期ごとに、Tpr=Tp0+Σ(Sd×Kt)を算出し、Ipr=Ip0+Σ(Sd×Ki)を算出する。ここで、係数Kt=10μsとし、Ki=5Aとすると、Sd×Kt=-1.6×10=-16μsとなり、Sd×Ki=-1.6×5=-8Aとなる。したがって、第n+4回目のパルス周期が終了した時点において、ピーク期間Tpを16μsだけ短くし、ピーク電流Ipを8Aだけ小さくする修正が行われる。
【0036】
短絡発生時期を立上り期間Tu、ピーク期間Tp、立下り期間Td及びベース期間Tbの4つの期間に分類しているのは、短絡発生時期によって以下のように溶接状態が異なるためである。パルスパラメータを修正して、短絡発生時期がベース期間に収束するようにすることによって、パルスパラメータの適正化を図ることができる。
(1)立上り期間Tu 溶接ワイヤ先端の溶滴を成長させるための準備期間である。この期間に短絡が発生するのは、1パルス周期1溶滴移行状態にするための入熱量が不足しているために、多パルス周期1溶滴移行状態になっているからである。この場合は、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipを増加させる必要がある。
(2)ピーク期間Tp 溶滴を大きく成長させる期間である。この期間に短絡が発生するのは、溶滴移行のための入熱量が過剰であるために、1パルス周期多溶滴移行状態になっているからである。この場合は、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipを減少させる必要がある。
(3)立下り期間Td 溶滴にくびれを形成して移行を促進する期間である。この期間に短絡が発生するのは、入熱量がやや過剰なためである。この場合は、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipを少し減少させる必要がある。
(4)ベース期間Tb 溶滴の成長を停止させて移行させる期間である。この期間に短絡が発生するのは、安定した1パルス周期1溶滴移行状態になっているからである。この場合は、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipは適正値であり、修正する必要はない。さらに、ベース期間を前期ベース期間と後期ベース期間とに分類し、短絡発生時期が前期ベース期間になるようにすることによって、パルスパラメータの適正化を図るようにしても良い。この場合、短絡発生時期が後期ベース期間になったときは入熱量が不足しているので、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipを増加させるようにする。
【0037】
上記のパルスパラメータの数値例を以下に示す。
ピーク期間の初期値Tp0=1.5ms、ピーク電流の初期値Ip0=500A
立上り期間Tu=1ms、立下り期間Td=1ms、ベース電流Ib=50A
パルス周期Tf(変調幅)=4~10ms、所定パルス周期=3~10
【0038】
上記において、ピーク期間Tp及びピーク電流Ipの修正において、上限値及び下限値を設けるようにしても良い。このようにすれば、修正制御が不安定になることを抑制することができる。さらに、1パルス周期中に複数回の短絡が発生した場合は、最初の短絡の発生時期を修正制御の対象とすることが好ましい。入熱量の適正度を判別するためには、最初の短絡発生時期が重要であるからである。さらに、パルスパラメータの収束値を記憶し、次の溶接時は収束値から溶接を開始するようにしても良い。このようにすれば、溶接開始直後から安定した1パルス周期1溶滴移行状態にすることができる。
【0039】
上述した実施の形態に係るパルスアーク溶接電源によれば、パルス周期ごとに溶接ワイヤと母材との短絡の発生時期を検出する短絡発生時期検出部と、短絡の発生時期に対応させて予め定められた修正量を所定パルス周期ごとに積算して積算修正量を算出する積算修正量算出部と、積算修正量に基づいて溶接電流の波形のパルスパラメータを修正するパルスパラメータ修正部と、を備えている。さらに、短絡の発生時期は、立上り期間、ピーク期間、立下り期間及びベース期間の4つの期間に分類される。さらに、パルスパラメータは、ピーク期間及び/又はピーク電流である。本実施の形態では、短絡発生時期に対応して修正量を設定することによって過渡応答性を良好にしている。それに加えて、パルス周期ごとの修正量を所定パルス周期ごとに積算してパルスパラメータを修正することによって定常安定性を良好にしている。この結果、本実施の形態では、パルスパラメータの自動修正制御において、過渡応答性及び定常安定性を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 溶接ワイヤ
1a ワイヤリール
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ip ピーク電流
Ip0 ピーク電流の初期値
Ipr ピーク電流設定信号
IR 溶接電流平均値設定回路
Ir 溶接電流平均値設定信号
Iw 溶接電流
Kt、Ki 係数
PC パルスパラメータ修正回路
PM 電力制御回路
SA 短絡判別回路
Sa 短絡判別信号
SD 積算修正量算出回路
Sd 積算修正量信号
Tb ベース期間
Td 立下り期間
TDR 立下り期間設定回路
Tdr 立下り期間設定信号
Tf パルス周期(信号)
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
Tp ピーク期間
Tp0 ピーク期間の初期値
Tpr ピーク期間設定信号
TSA 短絡発生時期検出回路
Tsa 短絡発生時期検出信号
Tu 立上り期間
TUR 立上り期間設定回路
Tur 立上り期間設定信号
VAV 溶接電圧平均値算出回路
Vav 溶接電圧平均値信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VF 電圧・周波数変換回路
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM ワイヤ送給モータ
図1
図2