(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】最適化された鋼材料を含む部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240129BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20240129BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20240129BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20240129BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240129BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240129BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240129BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240129BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240129BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240129BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B22F1/00 T
B22F3/105
B22F3/15 M
B22F3/16
B33Y10/00
B33Y80/00
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C33/02 C
C22C38/00 302Z
C22C38/58
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020185830
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2021-01-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-06
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・エルシェ
(72)【発明者】
【氏名】マリン・ショーサンアク
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・プラデル
(72)【発明者】
【氏名】アジズ・シニョール
(72)【発明者】
【氏名】イシャム・マスクロ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンド・ロメロ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-フランソワ・ジルー
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・オーブリー
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157217(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F
C22C 33/02
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材料で完全に構成される又は鋼材料の一部で構成される部品であって、鋼材料を構成する粒が、析出物を取り入れたマトリックスを含み、以下のとおりである:
i)
マトリックスは、以下の元
素:
- 16質量%~20質量%のクロム、
- 8質量%~14質量%のニッケル、
- 0.001質量%~0.030質量%の炭素、
- 0.001質量%~0.050質量%の酸素、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~1質量%のケイ素、
- 0質量%~0.11質量%の窒素、
- 0質量%~0.045質量%のリン、
- 0質量%~0.05質量%の硫黄、
- 0質量%~0.0300質量%のアルミニウム、
- 0質量%~0.003質量%のバナジウム、
- 0質量%~0.02質量%のコバルト、
- 0質量%~0.02質量%のチタン、
- 0質量%~0.02質量%の銅、を含み、
- これらの元素が占める比率以外の残りの比率は鉄で構成される;
ii)析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、金属元素が、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ハフニウム、モリブデン又はこれらの混合物の中から互いに独立して選択される;
析出物が材料のマトリックス中に分布される平均密度が、2析出物/μm
3~100析出物/μm
3の間に含まれ、
鋼の微細構造については、粒が等軸であり、粒の平均粒径については、その最大寸法「Dmax」の平均及
びその最小寸法「Dmin」の平均が10μm~50μmの範囲であ
り、
材料の等軸粒は、粒の最大寸法「Dmax」と最小寸法「Dmin」との間の平均Dmax/Dmin比が1~2の間に含まれる、部品。
【請求項2】
気泡構造又はハニカム構造を有する、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
ハニカム構造、格子構造又はフォーム構造を有する、請求項1に記載の部品。
【請求項4】
材料の粒が、付加製造プロセスによる材料の製造から生成された材料の多重層の面に平行な面において等軸である、請求項1から3のいずれか一項に記載の部品。
【請求項5】
材料の粒が、付加製造プロセスによる材料の製造から生成された材料の多重層の面に垂直な面において更に等軸である、請求項4に記載の部品。
【請求項6】
金属元素Mが、チタン、鉄、クロム又はこれらの混合物である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の部品。
【請求項7】
材料の析出物が、少なくとも1種の金属酸化物、少なくとも1種の金属炭化物、少なくとも1種の金属オキシ炭化物、少なくとも1種の金属間化合物、又はこれらの混合物を含み、この酸化物、炭化物、オキシ炭化物、又は金属間化合物のそれぞれが、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の部品。
【請求項8】
金属酸化物が、少なくとも1種の単純酸化物MO
2-x(式中、添字Xは0~1の間に含まれる)、少なくとも1種の混合酸化物MM’
y’O
5-x’(式中、添字X’は5以外の0~5の間に含まれ、添字y’はゼロではない0~2である)、若しくは少なくとも1種の混合酸化物MM’
y’M’’
y’’O
5-x’’(式中、添字X’’は5以外の0~5の間に含まれ、添字y’はゼロではない0~2であり、添字y’’は0~2の間に含まれる)、又はこれらの酸化物の混合物から選択される、請求項
7に記載の部品。
【請求項9】
単純酸化物MO
2-xが、Y
2O
3、Fe
2O
3、FeO、Fe
3O
4、Cr
2O
3、TiO
2、Al
2O
3、HfO
2、SiO
2、ZrO
2、ThO
2、MgO、MnO、MnO
2又はこれらの混合物から選択される、請求項
8に記載の部品。
【請求項10】
単純酸化物がTiO
2である、請求項
9に記載の部品。
【請求項11】
混合酸化物MM’
y’O
5-x’が、FeTiO
3、Y
2Ti
2O
7、YTi
2O
5又はこれらの混合物から選択される、請求項
8から
10のいずれか一項に記載の部品。
【請求項12】
金属炭化物が、少なくとも1種の単純炭化物MC
8-x(式中、添字Xは8以外の0~8の間に含まれる)、少なくとも1種の混合炭化物MM’
y’C
8-x’(式中、添字X’は8以外の0~8の間に含まれ、添字y’は0~5の間に含まれる)、又はこれらの炭化物の混合物から選択される、請求項
7から
11のいずれか一項に記載の部品。
【請求項13】
単純炭化物MC
8-xが、TiC、SiC、AlC
3、CrC又はこれらの混合物から選択される、請求項
12に記載の部品。
【請求項14】
混合炭化物MM’
y’C
8-x’が、(FeCr)
7C
3又は(FeCr)
23C
6から選択される、請求項
12又は
13に記載の部品。
【請求項15】
金属オキシ炭化物が、請求項
8から
11のいずれか一項に規定の金属酸化物及び請求項
12から
14のいずれか一項に規定の金属炭化物を含む、請求項
7から
14のいずれか一項に記載の部品。
【請求項16】
金属間化合物が、YFe
3、Fe
2Ti、FeCrWTi又はこれらの混合物から選択される、請求項
7から
15のいずれか一項に記載の部品。
【請求項17】
0.1質量%~1.5質量%の析出物を含む、請求項1から
16のいずれか一項に記載の部品。
【請求項18】
金属炭化物の析出物が、10nm~50nmの間に含まれる平均サイズを有する、請求項
7から
17のいずれか一項に記載の部品。
【請求項19】
金属酸化物及び/又は金属オキシ炭化物の析出物が、10nm~100nmの間に含まれる平均サイズを有する、請求項
7から
18のいずれか一項に記載の部品。
【請求項20】
材料マトリックスが、材料の質量に対する質量目方の比率で、0ppm~500ppmの金属元素M、金属元素M’及び/又は金属元素M’’を含む、請求項1から
19のいずれか一項に記載の部品。
【請求項21】
材料のマトリックス中に含まれる金属元素M、M’又はM’’が、イットリウム、チタン、タングステン、ジルコニウム、トリウム、アルミニウム、ハフニウム、ケイ素、マンガン又はモリブデンから選択される、請求項1から
20のいずれか一項に記載の部品。
【請求項22】
マトリックスが、オーステナイト構造を有する、請求項1から
21のいずれか一項に記載の部品。
【請求項23】
材料のマトリックスが、316L又は304L鋼の化学組成を有する、請求項
22に記載の部品。
【請求項24】
部品が付加製造プロセスによって製造される、請求項1から
23のいずれか一項に記載の部品の製造方法。
【請求項25】
付加製造プロセスが、選択的レーザー溶融、選択的電子ビーム溶解、選択的レーザー焼結、レーザー溶射、又はバインダー噴霧から選択される、請求項
24に記載の製造方法。
【請求項26】
製造方法
は、熱間静水圧圧縮成形の工程を含む処理方法
を含み、処理方法は、付加製造プロセスによる製造の後に行われる、請求項
24又は
25に記載の製造方法。
【請求項27】
熱間静水圧圧縮成形が、120バール~1800バールを占める圧力下の不活性ガス雰囲気のチャンバー内で実行される、以下の連続工程:
A. 材料を、500℃/時間~1000℃/時間の間に含まれる温度上昇速度で600℃~1400℃を占める一定温度で加熱する工程と、
B. 一定温度を、15分~5時間の間に含まれる時間の間、維持する工程と、
C. 一定温度を、500℃/時間~1000℃/時間の間に含まれる温度低下速度で低下させて周囲温度に達するようにする工程と
を含む、請求項
26に記載の製造方法。
【請求項28】
不活性ガス雰囲気が、アルゴン、ヘリウム又はこれらの混合物から選択されるガスを含む、請求項
27に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ベースの合金、特に低炭素鋼に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、最適化された鋼材料、鋼材料の製造方法又は処理方法、並びに鋼材料から製造される部品及びその部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
規格NF E 67-001は、付加製造を「デジタルオブジェクトから開始して材料を付加することによって層ごとに対象物を製造することを可能にする一連のプロセス」として定義している。
【0004】
付加製造は、材料の除去(減法プロセス)によって特徴付けられる「従来」プロセス(機械加工、鍛造、圧延等)とは対照的に、材料を付加することによって部品を造形するために用いることができる技術である。これは、従来のプロセスでは製造が不可能な複雑な形状を有する部品の設計に可能性をもたらす。技術的及び経済的観点からもたらされる可能性のため、付加製造プロセスは1980年代以来、流行してきた。これらの材料を成形するための革新的なプロセスは、様々な工業部門で、特に医療、航空及び宇宙分野で用いられる。
【0005】
したがって、付加製造(「3Dプリンティング」としても知られる)の原理は、基本的に、固体完成品が得られるまで繰り返される2つの工程である、生成的製造プロセスのそれである:
1. 固定された輪郭及び厚さを有する材料の層を生成する。材料を、必要な箇所にのみ付着させる。
2. 前層の上に材料を付加することによって新しい層を作製する。製造は、「段階的」製造であるとまとめることができる。
【0006】
多くの付加製造プロセスの中でも、選択的レーザー溶融(SLM)プロセスは、金属部品の造形に最も広範に知られ、用いられているプロセスの一つである。
【0007】
例えば、選択的レーザー溶融等による付加製造プロセスによって製造される鋼は、オーステナイト系面心立方構造を有する。
【0008】
その微細構造は不均質であるが、マクロ、マイクロメートル又はナノメートル尺度で考えられるかどうかに応じて階層的でもある。
【0009】
したがって、観察面の機能を持つ微細構造異方性が生じ、そのため、以下に例示していくように、選択的レーザー溶融によって製造された鋼の微細構造を説明するために、2つの観察面(造形方向にある面(//Z)及び造形方向に垂直なXY軸に沿った面(⊥Z))が必要である。
【0010】
したがって、この微細構造は、結果として鍛鋼を生じる鍛造プロセス等の従来の製造プロセスによって得られるものとは異なる。
【0011】
更に、付加製造によって得られた鋼を、900℃から開始して高温に晒すと、微細構造に実質的な変化が生じる。この温度から950/1000℃超の温度に達すると、気泡下部構造の該構造を構成する気泡は、完全に消失するまで膨大化する。それ自体の粒度は、1100℃から実質的に増大する。
【0012】
更に、熱処理(熱間静水圧圧縮成形、例えば(HIP)等)は、選択的レーザー溶融によって製造された鋼の微細構造に大きな改修を生じさせる。例として、得られた316Lの鋼の粒は、1000バールの圧力下、4時間の1150℃における又は1500バールの圧力下、3時間の1150℃におけるHIP処理後、系統的に等軸であり、等軸粒は70μm~150μmの範囲の平均粒径を有する。
【0013】
付加製造プロセスによって得られた従来技術の鋼材料の微細構造異方性は、熱及び/又は機械的応力に晒したとき、その材料の優れた挙動にとって有害になる。この異方性は、鋼材料に熱処理を施した後、部分的に低減し得るが、それにもかかわらず、これは、鋼材料の粒度を増大させ、その結果として熱及び/又は機械的応力に対するその耐性に有害となるという欠点に悩まされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的の1つは、特に鋼材料が機械的応力及び/又は熱応力に対してより耐性になるように、最適化され、安定性かつ等方性の機械的性質を有する鋼材料を形成できる鋼粉を生成することによって、上記の欠点のうちの1つ以上を防止又は低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、鋼粉が固結プロセスを経て材料を形成するか、又はコーティングプロセスを経て材料を含むコーティングで支持体を被覆する、鋼材料の製造方法であって、粉が、析出物を取り入れたマトリックスを含む粒子によって形成され、粉の化学組成が以下のとおりである:
i)粉は以下の元素を含み:
- 16質量%~20質量%のクロム、
- 8質量%~14質量%のニッケル、
- 0.001質量%~0.030質量%の炭素、
- 0.001質量%~0.050質量%の酸素、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~1質量%のケイ素、
- これらの元素が占める比率以外の残りの比率は鉄で構成される;
ii)析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、金属元素が、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ハフニウム、モリブデン又はこれらの混合物の中から互いに独立して選択される;
鋼の微細構造については、粒が等軸であり、粒の平均粒径については、その最大寸法「Dmax」の平均及び/又はその最小寸法「Dmin」の平均が10μm~50μm、好ましくは10μm~30μmの範囲である、方法に関する。
【0016】
本発明者らは、固結プロセスを経ると、機械的及び/又は熱的応力に耐えるように最適化された微細構造特性を有する鋼材料が得られる特定の鋼粉を識別した。
【0017】
鋼粉は、従来から窒素又はアルゴン下でのガス噴霧法によって得ることができるが、特に粉を続けて選択的レーザー溶融(SLM)プロセスにより処理する場合、水噴霧法によって得てもよい。
【0018】
「これらの元素が占める比率以外の残りの比率」という表現は、明確に示される化学元素の合計が、合計100%とする鋼粉又は本発明の鋼材料の一部を構成することを意味する。したがって、これは、粉に含まれるものに他の化学元素を除外しない。
【0019】
析出物の元素組成は、走査電子顕微鏡(SEM)を使用して実施するエネルギー分散X線分光法(EDXとして知られる)によって判定され得る。
【0020】
一般的に、本発明の製造方法の終了時に得られる鋼材料は、特にこの材料について記載される1つ以上の種類に従って、本明細書で定義されるとおりのものである(例えば、材料の微細構造及び/又は組成等)。別段の言及がない限り、本発明の製造方法を経る鋼粉に含まれる析出物又はマトリックスの特性はいずれも、例えば、本発明の鋼材料に含まれる析出物又はマトリックスの対応する特性と同一であり、この特性については、鋼材料の説明でより詳細に記述する。より具体的には、別段の言及がない限り、サイズ、マトリックス中の析出物の分布、又は析出物若しくはマトリックスの化学組成は、鋼粉と本発明の鋼材料との間で修正されない。
【0021】
鋼粉をより具体的に考慮すると、粉の粒子は、10μm~200μmの範囲の中位径(d50)を有し得る。粉の中位径(d50)は、粉を構成する粒子集合体の50%がd50未満のサイズを有する粉のサイズである。これは、例えば、規格ISO 13320 (2009-12-01編)に記載の粒度計を用いたレーザー回折方法等の技術によって決定することができる。
【0022】
規格ASTM B-212によって測定された粉の見掛け密度は、3.5g/cm3~4.5g/cm3の範囲であってもよい。
【0023】
粉の真密度は、7.95g/cm3~8.05g/cm3の範囲であってもよい。これは、例えば比重びんを使用して測定される。
【0024】
本発明の製造方法において使用される固結プロセスは、付加製造プロセスである。
【0025】
上記のように、付加製造プロセスは、固体完成材料が得られるまで繰り返される2つの工程を含む:
1. 固定された輪郭及び厚さを有する材料の層を生成する。
2. 前層の上に材料を付加することによって新しい層を作製する。
【0026】
付加製造プロセスの終了時に、材料を形成する材料の連続層を、第1の材料層が堆積された3Dプリンターのプラテンに垂直方向に積層する。
【0027】
付加製造については、例えば、参照により本明細書に組み込まれる以下の文献により詳細に記載されている:
- F. Laverneら、「Fabrication additive - Principes generaux」[Additive manufacturing - General Principles]、Techniques de l’ingenieur、Fascicule [Paper] BM7017 v2 (2016年2月10日出版)。
- H. Fayazfaraら、「Critical review of powder-based additive manufacturing of ferrous alloys: Process parameters, microstructure and mechanical properties」、Materials & Design、144巻、2018年、98~128頁。
- T. DebRoyら、「Additive manufacturing of metallic components - Process, structure and properties」、Progress in Materials Science、92巻、2018年、112~224頁。
- Ministere de l’economie et des finances、Republique Francaise [French Ministry of Economic and Financial Affiars]、「Prospective - future de la facrication additive - rapport final」 [Prospective - the future of additive manufacturing - final report]、2017年1月編集、ISBN: 978-2-11-151552-9;具体的には付録2(205~220頁)、特に金属粉を使用した付加製造プロセスを説明する場合(付録2、Les procedes de fabrication [Manufacturing processes]、段落3、4及び5)。
【0028】
より具体的には、付加製造プロセスは、選択的レーザー溶融プロセス、選択的電子ビーム溶解プロセス、レーザー溶射プロセス、又はバインダー噴霧プロセスから選択してもよい。
【0029】
選択的レーザー溶融プロセス(SLM)は、例えば、以下のパラメーターの1つ以上に基づいて実施される:
- レーザービームは、50mm/秒(高密度物質)~3000mm/秒(多孔質物質)の範囲の走査速度で鋼粉を走査する;
- レーザービームの出力: 50W~1000W;
- ハッチング距離: 25μm~150μm;
- 層の厚さ: 15μm~80μm。
【0030】
電子ビーム溶解プロセス(EBM)は、例えば、以下のパラメーターの1つ以上に基づいて実施される:
- 電子ビームの出力: 50W~4000W;
- 電子ビームの速度: 100mm/s~10000mm/s;
- ハッチング距離: 50μm~150μm;
- 層の厚さ: 40μm~75μm。
【0031】
レーザー溶射プロセスは、例えば、以下のパラメーターの1つ以上に基づいて実施される:
- レーザーの出力: 400W~3000W;
- ノズルの変位速度: 150mm/min~1200mm/min;
- 粉の流量: 4g/min~15g/min。
【0032】
溶射プロセスは、例えば、フレーム溶射プロセス、二線式電気アーク溶射プロセス、又はプラズマジェット溶射プロセスから選択される。
【0033】
鋼粉に固結プロセスを施す本発明の製造方法の終了時に、材料は、より具体的には、固体形態である。
【0034】
固結プロセスを金型中で実施すると、材料で構成される固体部品が得られる。
【0035】
本発明はまた、本発明の製造方法によって得られる又は得ることができる鋼材料にも関する。
【0036】
本発明はまた、鋼材料を構成する粒が、析出物を取り入れたマトリックスを含み、材料については以下のとおりである:
i)材料は、以下の元素を含み:
- 16質量%~20質量%のクロム、
- 8質量%~14質量%のニッケル、
- 0.001質量%~0.030質量%の炭素、
- 0.001質量%(好ましくは0.030質量%)~0.050質量%の酸素、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~1質量%のケイ素、
- これらの元素が占める比率以外の残りの比率は鉄で構成される;
ii)析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、金属元素が、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ハフニウム、モリブデン又はこれらの混合物の中から互いに独立して選択される;
鋼の微細構造については、粒が等軸であり、粒の平均粒径については、その最大寸法「Dmax」の平均及び/又はその最小寸法「Dmin」の平均が10μm~50μm、好ましくは10μm~30μmの範囲(又は更には任意選択により15μm~25μmの範囲)である、鋼材料にも関する。
【0037】
材料の平均粒度は、例えば、以下に記載の切断方法によって測定される:
- 「https://en.wikipedia.org/wiki/Intercept_method」、
- 例えば、文献「fushunspecialsteel.com/wp-content/uploads/2015/09/ASTM-E112-2010-Standard-Test-Methods-for-Determining-Average-Grain-Size.pdf」に記載の規格ASTM E112-10。
【0038】
粒は、付加製造プロセスによる材料の製造から生成された材料の多重層の面に平行する面において等軸であってもよい。平行面に加えて、粒は、付加製造プロセスによる材料の製造から生成された材料の多重層の面に垂直な面においても等軸であり得る。
【0039】
これらの多重層間の界面及びこれに従うこれらの層の方向は、走査電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡によってほぼ目視できる。
【0040】
好ましくは、等軸粒は、粒の最大寸法「Dmax」と最小寸法「Dmin」との間の平均比Dmax/Dminが1~2の範囲(より具体的には1~1.5の範囲)であるようにする。
【0041】
平均比Dmax/Dminは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)画像によって観察される少なくとも10(又は更には少なくとも50)の粒の比Dmax/Dminの平均値をとることによって計算される。
【0042】
材料は、70.0%~99.9%の範囲の相対密度を有し得る。相対密度は、材料の多孔度を確認するために使用することができる。これは、例えば、アルキメデスの方法を用いて測定される。
【0043】
本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる析出物の組成に関しては、析出物は、少なくとも1種の金属酸化物、少なくとも1種の金属炭化物、少なくとも1種のオキシ金属炭化物(oxymetallic carbide)、少なくとも1種の金属間化合物、又はこれらの混合物を含んでもよい。これらの酸化物、炭化物、オキシ炭化物又は金属間化合物の各々は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、より具体的には、金属元素M(より具体的にはチタン、鉄、クロム若しくはこれらの混合物)、任意選択の金属元素M’と任意選択の金属元素M’’、又はこれらの金属元素の混合物を含む。
【0044】
本発明の材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、0質量%~1.5質量%の金属酸化物(より具体的には0.1質量%~1.5質量%)を含んでもよい。
【0045】
本発明の鋼材料の析出物又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる金属酸化物は、少なくとも1種の単純酸化物、少なくとも1種の混合酸化物又はこれらの混合物から選択される。
【0046】
より具体的には、金属酸化物は、少なくとも1種の単純酸化物MO2-x(式中、添字Xは0~1の範囲である)、少なくとも1種の混合酸化物MM’y’O5-x’(式中、添字X’は5とは異なり、0~5の範囲であり、添字y’はゼロではなく、0~2の範囲である)、若しくは少なくとも1種の混合酸化物MM’y’M’’y’’O5-x’’(式中、添字X’’は5とは異なり、0~5の範囲であり、添字y’はゼロではなく、0~2の範囲であり、添字y’’は0~2の範囲である)、又はこれらの酸化物の混合物から選択される。
【0047】
例として、添字「x」は、種々の化合物では以下のとおりである:
- X=0: TiO2
- X=1: FeO
- X=0.5: Fe2O3
- X=2/3: Fe3O4
【0048】
添字「y’」は、例えば、0、1又は2に等しい。
【0049】
単純酸化物MO2-x、混合酸化物MM’y’O5-x’又は混合酸化物MM’y’M’’y’’O5-x’’に含まれる金属元素Mは、より具体的には、イットリウム、鉄、クロム、チタン、アルミニウム、ハフニウム、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、又はマンガンから選択される。
【0050】
金属酸化物(特に単純酸化物MO2-x)に含まれる金属元素Mは、より具体的には、チタン、鉄又はクロムから選択される。
【0051】
単純酸化物MO2-xは、例えば、Y2O3、Fe2O3、FeO、Fe3O4、Cr2O3、TiO2、Al2O3、HfO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、MnO、MnO2又はこれらの混合物から選択される。より具体的には、単純酸化物はTiO2である。
【0052】
混合酸化物MM’y’O5-x’に含まれる金属元素Mは、例えば、鉄又はイットリウムから選択される。
【0053】
混合酸化物MM’y’O5-x’又は混合酸化物MM’y’M’’y’’O5-x’’に含まれる金属元素M’は、より具体的には、チタン又はイットリウムから選択される。
【0054】
混合酸化物MM’y’O5-x’は、例えば、FeTiO3、Y2Ti2O7、YTi2O5、又はこれらの混合物から選択される。より具体的には、混合酸化物はTiYO5-x’である。
【0055】
混合酸化物MM’y’O5-x’は、パイロクロア、例えばY2Ti2O7若しくはYTi2O5、又はこれらの混合物であってもよい。
【0056】
混合酸化物MM’y’M’’y’’O5-x’’は、例えば、一般式「SiOAlMn」のタイプのものである(化学量論的添字は示さない)。
【0057】
本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる析出物は、例えば、少なくとも1種の単純炭化物又は混合炭化物から選択される少なくとも1種の金属炭化物も含み得る。
【0058】
より具体的には、金属炭化物は、例えば、少なくとも1種の単純炭化物MC8-x(式中、添字Xは8とは異なり、0~8の範囲である)、少なくとも1種の混合炭化物MM’y’C8-x’(式中、添字X’は8とは異なり、0~8の範囲であり、添字y’は0~5の範囲である)、又はこれらの炭化物の混合物から選択される。
【0059】
材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、0質量%~0.9質量%(又は更には0.1質量%~0.9質量%)の金属炭化物を含んでもよい。
【0060】
単純炭化物MC8-x又は混合炭化物MM’y’C8-x’に含まれる金属元素Mは、例えば、鉄、チタン、クロム、アルミニウム、タングステン又はケイ素から選択される。
【0061】
単純炭化物MC8-xは、例えば、TiC、SiC、AlC3、CrC又はこれらの混合物から選択される。
【0062】
混合炭化物MM’y’C8-x’に含まれる金属元素M’は、例えば、鉄、チタン、クロム、アルミニウム、タングステン又はケイ素から選択される。
【0063】
混合炭化物MM’y’C8-x’は、例えば、(FeCr) 7C3又は(FeCr) 23C6から選択される。
【0064】
本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物を含む少なくとも1種のオキシ金属炭化物を含んでもよい。
【0065】
材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、0質量%~1.5質量%(より具体的には0.1質量%~1.5質量%)のオキシ金属炭化物を含んでもよい。
【0066】
金属酸化物及び金属炭化物は、材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉の析出物中に共存し得る。これから生成できるオキシ金属炭化物は、より具体的には、上記の組成を有する金属酸化物及び金属炭化物を含む。
【0067】
より具体的には、炭化物及び/又はオキシ炭化物の析出物は、鋼粉の粒子を形成する粒の境界又は鋼材料を構成する粒の境界で局在化し得、これらの析出物の平均サイズは10nm~100nmの範囲、又は更には10nm~50nmの範囲である。
【0068】
本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる析出物は、金属元素M、金属元素M’、又は更には任意選択により金属元素M’’を含む少なくとも1種の金属間化合物も含み得る。
【0069】
材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、0質量%~2質量%(より具体的には0.1質量%~1.5質量%)の金属間化合物を含んでもよい。
【0070】
金属間化合物に含まれる金属元素Mは、例えば、鉄である。
【0071】
金属間化合物に含まれる金属元素M’は、例えば、チタン又はイットリウムである。
【0072】
金属間化合物に含まれる金属元素M’’は、例えば、クロム又はタングステンである。
【0073】
金属間化合物は、例えば、YFe3、Fe2Ti、FeCrWTi又はこれらの混合物から選択される。FeCrWTiは、当業者に知られる用語であるが、真の化学量論式に対応しない。
【0074】
マトリックスに取り込まれる析出物は、本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉のための以下の特性も有し得る。
【0075】
鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉に含まれる析出物の平均サイズは、5nm~200nmの範囲、好ましくは5nm~100nmの範囲、更により好ましくは5nm~70nmの範囲であってもよい。
【0076】
析出物の平均サイズは、走査電子顕微鏡(SEM)で得られる画像上で測定を行うことから目視的に開始し、後続して、例えば以下のウェブサイト: https://imagej.net/Welcomeから入手できる「ImageJ」ソフトウェア等の画像処理ソフトウェアを用いて処理して決定することができる。
【0077】
金属炭化物の析出物の平均サイズは、10nm~50nmの範囲であってもよい。
【0078】
金属酸化物及び/又はオキシ金属炭化物の析出物の平均サイズは、10nm~100nmの範囲、より具体的には20nm~70nmの範囲であってもよい。
【0079】
本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、0.1質量%~1.5質量%の析出物を含んでもよい。この析出物の含量は、例えば、王水への選択的溶解によって測定することができる。
【0080】
析出物がマトリックス中に分布する平均密度は、2析出物/μm3~100析出物/μmの範囲であってもよい。
【0081】
これは、画像、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)画像又は透過電子顕微鏡(TEM)画像等からカウントすることによって決定される。
【0082】
上記の化学元素に加えて、材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、以下の元素のうちの少なくとも1つを含んでもよい:
- 0質量%~0.11質量%の窒素、
- 0質量%~0.045質量%のリン、
- 0質量%~0.05質量%の硫黄、
- 0質量%~0.0300質量%のアルミニウム、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~0.003質量%のバナジウム。
【0083】
上記(特に前の段落)の化学元素に加えて、材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、以下の元素のうちの少なくとも1つを更に含んでもよい:
- 0質量%~0.02質量%のコバルト、
- 0質量%~0.02質量%のチタン、
- 0質量%~0.02質量%の銅。
【0084】
これらの補足的化学元素は、マトリックス及び/又は析出物中に存在し得る。
【0085】
マトリックスは、材料の質量又は本発明の製造方法において使用される鋼粉の質量に対する質量比率で、0ppm~500ppmの金属元素M、金属元素M’、及び/又は金属元素M’’を含んでもよい。この場合、析出物中に存在するものと対照的に、マトリックスに溶解している金属元素である。
【0086】
より具体的には、マトリックスに含まれる金属元素M、M’又はM’’は、イットリウム、チタン、タングステン、ジルコニウム、トリウム、アルミニウム、ハフニウム、ケイ素、マンガン、又はモリブデンから選択することができる。
【0087】
材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉は、オーステナイト構造を有し得る。
【0088】
マトリックス(及びひいては本発明の鋼材料又は本発明の製造方法において使用される鋼粉)は、例えば、規格ASTM A666又はRCC-MRxにそれぞれ指定されているような316L又は304L鋼の化学組成を有し得る。
【0089】
材料の微細構造は、それを構成する粒が気泡構造を有するような構造であってもよい。この気泡下部構造は、例えば、文献「Techniques de l’ingenieur - fascicule [paper] M140v3: Mecanismes de fluage. Effet de la microstructure du materiau Essais de fluage [Creepmechanisms. Effects of the microstructure of the material. Creep tests].著者: Francois SAINT-ANTONIN - 出版日: 1995年7月10日」に例示されている。
【0090】
気泡構造を有する粒は、例えば、平均サイズが300nm~2μmの範囲の気泡で構成される。
【0091】
本発明の機械的性質に関しては、一般的に以下の値のうちの少なくとも1つを有する:
- 35%~85%の破断点「A」における伸び率、及び/又は
- 190MPa~700MPaの「Rp0.2」降伏強さ、及び/又は
- 400MPa~900MPaの最大引張強さ「Rm」。
【0092】
本発明は、鋼材料が熱間静水圧圧縮成形を経る処理方法であって、該材料については、該材料を構成する粒が析出物を取り入れたマトリックスを含み、以下のとおりである:
i)材料は、以下の元素を含み:
- 16質量%~20質量%のクロム、
- 8質量%~14質量%のニッケル、
- 0.001質量%~0.030質量%の炭素、
- 0.001質量%~0.050質量%の酸素、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~1質量%のケイ素、
- これらの元素が占める比率以外の残りの比率は鉄で構成される;
ii)析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、金属元素は、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ハフニウム、モリブデン又はこれらの混合物の中から互いに独立して選択される;
鋼の微細構造については、粒が等軸であり、粒の平均粒径については、その最大寸法「Dmax」の平均及び/又はその最小寸法「Dmin」の平均が10μm~50μmの範囲である、処理方法にも関する。
【0093】
熱間静水圧圧縮成形は、120バール~1800バールの範囲の圧力下の不活性ガス雰囲気のチャンバー内で実施される、以下の連続工程を含んでもよい:
- a) 材料を、500℃/時間~1000℃/時間の範囲の温度上昇速度で、600℃~1400℃の範囲の一定温度まで加熱する工程と、
- b) 一定温度を15分~5時間の範囲の間、維持する工程と、
- c) 一定温度を、500℃/時間~1000℃/時間の範囲の温度低下速度で低下させて周囲温度に達するようにする工程。
【0094】
周囲温度は、典型的には25℃である。
【0095】
不活性ガス雰囲気(すなわち、処理方法の開始時及び終了時の材料に関して化学的に不活性)は、例えば、アルゴン、ヘリウム又はこれらの混合物から選択されるガスを含んでもよい。
【0096】
一般的に、本発明の製造方法の処理を経る鋼材料は、特に、例えば、材料の微細構造及び/又は組成に関してこの材料について記載される1つ以上のバリエーションに従って本明細書に定義されるとおりのものである。
【0097】
本発明はまた、鋼材料で完全に構成される又は鋼材料の一部で構成される部品であって、該鋼材料を構成する粒は、析出物を取り入れたマトリックスを含み、以下のとおりである:
i)材料は、以下の元素を含み:
- 16質量%~20質量%のクロム、
- 8質量%~14質量%のニッケル、
- 0.001質量%~0.030質量%の炭素、
- 0.001質量%~0.050質量%の酸素、
- 0質量%~2質量%のマンガン、
- 0質量%~3質量%のモリブデン、
- 0質量%~1質量%のケイ素、
- これらの元素が占める比率以外の残りの比率は鉄で構成される;
ii)析出物は、金属元素M、金属元素M’、金属元素M’’又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属元素を含み、金属元素が、イットリウム、チタン、鉄、クロム、タングステン、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ハフニウム、モリブデン又はこれらの混合物の中から互いに独立して選択される;
鋼の微細構造については、粒が等軸であり、粒の平均粒径については、その最大寸法「Dmax」の平均及び/又はその最小寸法「Dmin」の平均が10μm~50μmの範囲である、部品にも関する。
【0098】
部品は、特に、文献FR2932705A1(特に、その文献の
図1及び
図14に例示される部品並びに明細書中で解説される部品)及び/又は論文「Developpement d’une nouvelle technique d’elaboration de mousses acier par fonderie et caracterisation mecanique」[Development of a novel technique for manufacturing steel foams by smelting and mechanical characterization]、Jonathan Dairon著(詳細には109~112頁)(https://tel.archives-ouvertes.fr/tel-00694478/documentから入手可能)に記載の気泡構造又は胞状構造を有していてもよい。
【0099】
より具体的には、部品は、ハニカム構造、格子構造又はフォーム構造を有する。
【0100】
気泡構造又は胞状構造それぞれを形成する気泡又は胞の最大寸法は、1nm~1cmの範囲、又は5cm~10cmの範囲であってもよい。
【0101】
部品は、衝撃吸収体であってもよい。
【0102】
一般的に、本発明の部品全体又はその一部を構成する鋼材料は、特に、例えば、材料の微細構造及び/又は組成等、この材料について記載される1つ以上のバリエーションに従って本明細書に定義されるとおりのものである。
【0103】
本発明はまた、特に、例えば、材料、又は更には本発明の処理方法後に得られる材料の構造(特に気泡又は胞状構造、具体的にはハニカム構造、格子構造又はフォーム構造)及び/又は組成等、この部品について記載される1つ以上のバリエーションに従って本明細書に定義される部品の製造方法にも関する。
【0104】
本発明による部品の製造方法は、部品が付加製造プロセスによって製造されるような方法である。
【0105】
より具体的には、付加製造プロセスは、選択的レーザー溶融プロセス、選択的電子ビーム溶解プロセス、選択的レーザー焼結プロセス、レーザー溶射プロセス、又はバインダー噴霧プロセスから選択される。
【0106】
部品の製造方法の後に、熱間静水圧圧縮成形の工程を含む処理方法が続いてもよい。
【0107】
この熱間静水圧圧縮成形の工程は、120バール~1800バールの範囲の圧力下の不活性ガス雰囲気のチャンバー内で実施される、以下の連続工程を含んでもよい:
A. 材料を、500℃/時間~1000℃/時間の範囲の温度上昇速度で600℃~1400℃の範囲一定温度まで加熱する工程と、
B. 一定温度を、15分~5時間の範囲の間、維持する工程と、
C. 一定温度を、500℃/時間~1000℃/時間の範囲の温度低下速度で低下させて周囲温度に達するようにする工程。
【0108】
不活性ガス雰囲気は、アルゴン、ヘリウム又はこれらの混合物から選択されるガスを含んでもよい。
【0109】
本発明は、有利には、単独の又は技術的に実現可能な組み合わせのいずれか1つの、以下の特性によって補完される。
【0110】
本発明の詳細な開示内容
本発明の本明細書中、「含む(comprise)」、「取り込む(incorporate)」、「含む(include)」、「含有する(contain)」等の動詞及びそれらの変化形はオープン用語であり、したがって、これらの用語の後に列挙される最初の要素及び/又は工程に付け加えられる追加の要素及び/又は工程の存在を排除しない。しかしながら、これらのオープン用語は、他のすべてを除外して初期の要素及び/又は工程のみが想定される特定の実施形態も包含し、この場合、オープン用語は、クローズド用語「からなる(consist of)」、「構成する(constitute)」、「で構成される(compose of)」及びそれらの変化形も包含する。
【0111】
別段の指定がない限り、要素又は工程への不定冠詞「a」又は「an」の使用は、複数の要素又は工程の存在を排除しない。
【0112】
特許請求の範囲の括弧内の参照記号はいずれも、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0113】
更に、別段の指定がない限り、
- 限界値は、パラメーターの指定範囲内に含まれる(例えば、限界値の排除が明示される場合を除く)。
- 誤差の範囲が示されない限り、記載される値の不確定性は、最後の数値の最大誤差を丸め規則から推定しなければならないことになる。例として、3.5の測定値の場合、誤差の範囲は3.45~3.54である。
- 示される温度は、大気圧下での実現が考慮される。
- 粉又は材料の全ての質量によるパーセンテージは、その粉又は材料の全質量に基づく。
- 金属析出物(酸化物、炭化物、オキシ炭化物及び金属間化合物)の式中の添字は、化学量論的であり、治金の場合に見られることがある質量目方ではない。
【0114】
材料(特に本発明の鋼材料若しくは本発明の製造方法において使用される鋼粉)又は元素に関する「本明細書に記載される1つ以上のバリエーションに従って」という表現は、特に、その材料及び材料が場合により含有し得る任意の補足化学種の化学組成及び/又は構成要素の比率に関与するバリエーション、具体的には化学組成、構造、形状、空間内の配置及び/又はその元素若しくは元素の構成サブ元素の化学組成に関与するバリエーションを指す。これらのバリエーションは、例えば、特許請求の範囲で示すものである。
【0115】
ここで、本発明のその他の目的、特性、及び利点について、添付の
図1~20を参照しながら、非限定的な例示による以下の本発明の特定の実施形態の説明の中で詳述していく。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【
図1】本発明の鋼粉を構成する化学元素の質量による全含有率の範囲、並びに規格ASTM A666及びRCC-MRxに規定の対応する含有率を示す表を表す。
【
図2】本発明による鋼粉のマトリックス及び析出物中の化学元素の質量による含有率及び原子含有率を詳述する表を表す。
【
図3】本発明の鋼材料中の化学元素の、マトリックス、酸化物析出物、炭化物析出物及びオキシ炭化物析出物中の質量による含有率を示す表を表す。
【
図4】本発明の鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに平行な面の画像を表す。
【
図5】本発明の鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに垂直な面の画像を表す。
【
図6】電子後方散乱回折(EBSD)によって収集されたデータから得られた本発明の鋼材料の極点図である。
【
図7】本発明の鋼材料の内部に存在する気泡を示す、走査電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像である。
【
図8】本発明の鋼材料の薄切りの透過電子顕微鏡(MET)によって得られた顕微鏡写真である。
【
図9】本発明の処理方法を経た鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに平行な面の画像を表す。
【
図10】本発明の処理方法を経た鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに垂直な面の画像を表す。
【
図11】EBSDによって収集されたデータから得られた、本発明の処理方法を経た鋼材料の極点図である。
【
図12】本発明の処理方法を経る前(「未精製」)及び後の本発明の鋼材料についての、頻度(%で表す)の関数としての誤配向角度(度で表す)を表すグラフを示す。
【
図13】対照鋼粉の化学元素の質量による全含有率を示す表を表す。
【
図14】対照鋼粉のマトリックス及び析出物を構成する化学元素の質量による含有率を示す表を表す。
【
図15】対照鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに平行な面の画像を表す。
【
図16】対照鋼材料の電子後方散乱回折によって得られた画像であって、材料の付加製造の方向zに垂直な面の画像を表す。
【
図17】対照鋼材料を構成する化学元素の質量による含有率を示す表を表す。
【
図18】EBSDによって収集されたデータから得られた対照鋼材料の極点図を表す。
【
図19】対照鋼材料及び本発明の鋼材料(未精製材料及び処理後の材料)について示すグラフを表し、一方の左上の縦座標は、粒の最大寸法及び最小寸法の粒からの平均サイズ(μmで表す)であり、他方の右上の縦座標は、これらの2つの寸法間の比である。
【
図20】本発明の鋼材料及び対照鋼材料(材料の付加製造の方向zに対して平行方向及び垂直方向)の機械的性質、並びにこれらの性質の異方性を示す表を表す。
【発明を実施するための形態】
【0117】
1. 本発明の製造方法で使用される鋼粉
概して、鋼粉は、
図1に示すような組成、すなわち、ASTM A666及びRCC-MRxの規格(RCC-MRx規格は、高温の機械設備、実験施設及び核融合施設の設計及び建設のための規則に対応する。これは第四世代原子炉の構成要素の製造のための技術文献である)に従う鋼の組成を包含する質量による組成を有していた。
【0118】
1.1 鋼粉の特性評価
1.1.1 化学組成
鋼粉(Praxair社によって販売されている参照名称FE-271-3/TruForm 316-3 - バッチ番号12-034043-10の316L鋼)を、X線微量分析法によって、より正確には走査電子顕微鏡(SEM)を使用したエネルギー分散X線分光法(EDX)によって、並びにグロー放電質量分析法(GDMS)によって、誘導結合プラズマ発酵分析法(ICP-OES)によって及び機器ガス分析法(IGA)によって分析した。
【0119】
得られた鋼粉のマトリックス及び析出物の元素組成を、これらの様々な測定をまとめることによって決定した。各化学元素について得られた比率は、3%の相対的な不確実性で:
- マトリックスの総質量に対する質量%として表す。しかしながら、慣例により、未測定の化学元素はマトリックスから差し引かれる。次いで、残りの質量%は鉄によって構成されると想定した。
- 鋼粉に含まれる析出物の総質量に対する質量%及び原子%として表す。
【0120】
これらの比率は、100の値を総質量又は原子の合計数に割り当てることによって正規化した。これは
図2に再現され、析出物には、単純酸化物及び/又は混合酸化物の形態のアルミニウム、チタン、ケイ素及びマグネシウムの酸化物が多く含まれることを示す。析出物は、任意選択により、これらの化学元素の炭化物又はオキシ炭化物を含有していてもよいが、それらのサイズが小さいためSEMでは検出されなかった。
【0121】
1.1.2 形態
鋼粉は、電子後方散乱回折(「EBSD」)分析法によって示されるように、100%のオーステナイト構造を有していた。
【0122】
この粉の粒子は、凝集して、通常、大部分が実質的に球形の粒子になる粒を含む。その直径は、10μm~100μmの範囲であり、平均直径は34μmである。より具体的には、規格ISO 13320(2009-12-01編)に準拠したレーザー回折式粒度分布測定法によって測定した中位径D10、D50及びD90(この粉を構成する粒子の集合体の10%、50%及び90%それぞれは、想定される中位径未満のサイズを有していた)は、D10=22μm、D50=32μm、及びD90=48μmだった。
【0123】
粉の粒子中に含まれる析出物は、ほとんどの場合、球形である。その最大寸法(したがって、ほとんどの場合、球形粒子の直径に対応する)ついては、走査電子顕微鏡(SEM)画像化によって測定したサイズは、概して24nm~120nmの範囲だった。その対応する平均サイズは63nmだった。
【0124】
析出物がマトリックス中に分布する密度は、SEM画像化を用いた計数によって測定し、2析出物/μm3~100析出物/μm3の範囲だった。対応する平均密度は6析出物/μm3だった。
【0125】
1.1.3 性質
規格ASTM B-212によって測定した鋼粉の見掛け密度は、4g/cm3±0.01g/cm3だった。ヘリウム比重びん法によって測定した鋼粉の真密度は、7.99g/cm3±0.03g/cm3だった。
【0126】
規格ASTM B213に準拠して測定したホール流量(50gの粉が固定寸法の口を流れる能力)は、40秒超だった。
【0127】
2. 本発明による製造方法
本発明による鋼材料で構成される部品は、Trumpf TruPrint Series 1000モデルプリンターを使用した選択的レーザー溶融(SLM)プロセスによる付加製造によって製造した。
【0128】
部品を製造するために、ステンレス鋼の基材上を、レーザーが連続的に複数の一辺4mmの正方形を走査し、前層の方向に直交する方向の走査によって区別された。第1の走査の終了時、格子縞模様の形態の第1の層nが得られた。層nの上に第2の走査を実施した(新たに90°回転させたレーザー走査方向で実施した)後、下層n上に新しい層n+1が重ね合わせられた。
【0129】
SLMプロセスの主要走査パラメーターは以下のとおりだった:
- 波長1.064nmのYbファイバーレーザー;
- スポットレーザーの直径=55μm;
- レーザー出力=150W;
- レーザーの走査速度=675mm/s;
- 2つの連続層追跡間の距離(「ハッチング距離」)=90μm;
- 粉床の厚さ=20μm;
- 造形チャンバーのガス状媒体の組成=アルゴン(固結中、100ppm未満の酸素含有率)。
【0130】
X軸及びZ軸で造形された5つの円筒試験片(長さ=40mm、直径=8cm)並びに5つの平行六面体試験片(10mm×10mm×15mm)が得られた。製造後、基部から試験片を切断して部品を取り出し、ステンレス鋼基剤から分離した。
【0131】
次いで円筒試験片を引張試験のために機械加工した。平行六面体試験片は、すべての組成及び微細構造の分析のために使用した。
【0132】
得られた未精製の材料に補足的処理を施さなかった。
【0133】
試験片を構成する鋼材料の密度は、7.93g/cm3(アルキメデスの方法を利用して測定した場合)、すなわち、99.25%の相対密度であり、316L鋼の理論的密度は7.99g/cm3であると想定した。
【0134】
この密度は、99%超の相対密度に達するまで、以下のパラメーターの少なくとも1つを変更し、しかしながら、鋼材料の粒径の変更はしないことで、増加させることができる:
- レーザー出力=50W~400W;
- レーザーの走査速度=50mm/s~3000mm/s。
【0135】
密度は、一般的に、レーザー出力又は放物線状のレーザー走査速度に伴って変動する。しかしながら、過度に低い又は過度に高い出力又は走査速度は、場合により、密度を低減させ得る。
【0136】
2つの連続層追跡間の距離(「ハッチング距離」)は、例えば、30μm~90μmの範囲だった。
【0137】
3. 本発明による製造方法によって得られる鋼材料の特性評価
3.1.1 化学組成
規格ASTM A666及びRCC-MRxに準拠する先の例で記載した製造方法によって得られた鋼材料の全体的な化学組成を
図1の表に示した。
【0138】
この合金の元素組成は、EDX分析法によって測定した。これは、鋼材料の製造に使用した鋼粉の元素組成と非常に類似していた。しかしながら、鋼材料中、マトリックスと、酸化物、炭化物又はオキシ炭化物析出物(すなわち、例えば、酸化物と炭化物の混合物)との間で化学元素の分布は異なっており、これらの析出物1種以上で局部的に測定した、これらの質量%を、3%の相対的な不確実性で、
図3の表に示す。
【0139】
この表は、金属酸化物(単純酸化物及び/又は混合酸化物の形態)に、クロム、鉄及びニッケルが特に多く含まれるが、アルミニウム、チタン、ケイ素又はマンガンも多く含まれることを示す。炭化物(単純炭化物及び/又は混合炭化物の形態)には、鉄又はクロムが特に多く含まれ、ケイ素又はマンガンはより少ない。オキシ炭化物は、実際には、クロム、マンガン、鉄、及びケイ素を多く含み、チタン及びニッケルはより少ない。
【0140】
3.1.2 形態
電子後方散乱回折(「EBSD」)による分析は、鋼材料が100%のオーステナイト構造を有することを示した。
【0141】
酸化物、炭化物及びオキシ炭化物析出物は、鋼材料を構成する粒のマトリックス中に又はこれらの粒間の空隙(粒界)中に取り込まれていた。これらの析出物がマトリックス中に分布する平均密度は、6析出物/μm3だった。
【0142】
酸化物析出物の平均サイズは、10nm~100nmの範囲であり、炭化物は10nm~50nmの範囲であり、オキシ炭化物析出物では、10nm~100nmの範囲だった。
【0143】
本発明の材料の特定の特徴の1つは、この材料を構成する粒が構造において等軸である微細構造である。特に、本発明の材料を付加製造によって得た場合、その粒は、付加製造の方向に平行な面(一般的に、製造中に連続的に得られる層の方向に対して実質的に垂直な面に対応する)の中で等軸である。
【0144】
本発明の材料のこの特定の微細構造の特徴を
図4及び
図5に例示し、これらの図は、鋼材料の付加製造の方向zに対してそれぞれ平行及び垂直な面における粒の等軸構造を示す。これらの粒は、16.2μm±1.5μmの平均幅(Dmin)及び20.6μm±1.5μmの平均長さ(Dmax)、すなわち、1.34±0.13の平均比Dmax/Dminを有していた。
【0145】
更に、鋼材料の粒を形成する晶子は、優先的配向を有する。
図6に例示するように、材料のこのテクスチャーは、(110)方向が、優先的には、造形方向Zに対して平行に配向されることに反映されるが、1.9に等しいテクスチャー強度にも反映される。
【0146】
図7に例示するように、鋼材料の粒は、それら自体が、ナノメートル規模の気泡(より具体的には、平均直径500nm未満のサイズ)によって構成される。
【0147】
図8もまた、この気泡構造を例示するが、マトリックス中に取り込まれた析出物(薄い色の部分)も強調している。
【0148】
3.1.3 性質
鋼材料の機械的性質は、以下のとおりである:
- ビッカーズHV1微小硬度(10秒間に1kg):
・製造方向Zに対して平行な面において202±3HV1及び製造方向Zに垂直の面において202±3HV1;
- 製造方向Zを基準とした測定方向に関係なく、周囲温度(25℃)での引張試験:
・Rm(最大引張強さ)=645±30MPa;
・Rp0.2(降伏強さ)=453±35MPa;
・A(破断点での伸び率)=54±9%。
【0149】
したがって、有利には、本発明の製造方法から直接得られた鋼材料(すなわち、例えば、熱処理等の任意の補足的処理を施していない未精製材料)は、更に全ての方向において均一である、最適化された機械的性質を有する(これらの性質の等方性)。
【0150】
4. 本発明による処理方法
先の例によって製造された鋼材料は、熱間静水圧圧縮成形(HIP)の工程を含む本発明の処理方法を経た。
【0151】
このHIPは、1800バールの圧力下のアルゴン雰囲気下で、材料を周囲温度(25℃)から一定温度1100℃まで加熱し、その温度を3時間維持し、次いでそれを周囲温度に戻すことからなっていた。温度の上昇又は低下速度は800℃/時間だった。
【0152】
別法として、一定温度を600℃~1400℃の範囲にしてもよい。
【0153】
5. 本発明による処理方法によって得られる鋼材料の特性評価
5.1.1 形態
処理された材料は、もはや気泡構造を有していなかった。
【0154】
対照的に、電子後方散乱回折(「EBSD」)による位相マッピングは、本発明の処理方法を経る鋼材料の付加製造の方向zに対して平行する及び垂直である各面における粒の等軸構造を示す
図9及び
図10に例示するように、処理された材料が依然として100%のオーステナイト構造及び等軸の粒を有していたことを示した。
【0155】
これらの粒は、15.9μm±2.2μmの平均幅、21.5μm±1.2μmの平均長さ、すなわち、1.36±0.16の平均比Dmax/Dminを有していた。
【0156】
図11に例示するように、処理された材料は、(110)方向が、優先的に造形方向Zに対して平行に配向されるため、依然として構造化されていた。
【0157】
2つの粒界間の誤配向角度は、極点図の技術を用いて測定した。理論では、熱間静水圧圧縮成形による処理後、鋼材料の粒は、サイズ及び/又は数が増加すると考えられている。この変化が、次いで、誤配向角度の分布を変化させる。
【0158】
しかしながら、
図12は、粒間の誤配向角度が、鋼材料を本発明の処理方法で処理した後に大きくは変動しなかったことを示す。これは、粒のサイズが修復されなかった証拠である。
【0159】
気泡構造は別として、これらの様々なデータは、鋼材料の形態が、本発明の処理方法を経た後でも(しかし、さまざまな温度及び圧力が組み合わされて適用された)、有利には安定性である(特に粒のサイズの変動が少ない)ことを示す。
【0160】
本発明の鋼材料の形態のこの安定性は、例えば、圧力及び/又は温度応力を材料に与えたときのクリープ挙動を考慮した場合に有利である。
【0161】
5.1.2 性質
本発明の処理方法を経た鋼材料の機械的性質は、以下のとおりである:
- ビッカーズHV1微小硬度(10秒間に1kg):
・製造方向Zに対して平行な面において175±1.5HV1及び製造方向Zに垂直の面において172±2HV1:そのため、未処理材料に対する微小硬度は低下したが有利には等方性だった;
- 製造方向Zを基準とした測定方向に関係なく、周囲温度(25℃)での引張試験:
・Rm(最大引張強さ)=622±22MPa;
・Rp0.2(降伏強さ)=336±8MPa;
・A(破断点での伸び率)=76±4%。
【0162】
これらの様々な機械的性質は、有利には、等方性であり、すなわち、測定される方向に関係ない。本発明の鋼材料の等方性引張挙動は、経時的に、相対的に安定性である。
【0163】
未精製鋼材料と類似の形状を有する試験片を構成する処理鋼材料の密度は、7.94g/cm3±0.05g/cm3であり(アルキメデスの方法を用いて測定した場合)、すなわち、99.4%±0.06%の相対密度であり、316L鋼の理論的密度は7.99g/cm3であると想定した。
【0164】
したがって本発明の処理方法を経た鋼材料の密度は、対応する未精製材料の密度とほぼ同じだった。
【0165】
6. 比較例
比較として、対照鋼粉(Trumpf社から販売されているステンレス鋼316L-A LMF粉 - バッチ番号201600024)が、例2の操作パラメーターに従って付加製造プロセスを経て、固体の対照鋼材料を得た。
【0166】
この粉の化学組成を、SEM、GDMS、ICP-OES及びIGAによって実施されるエネルギー分散X線分光法(「EDX」として知られる)によって決定し、まとめた測定値を
図13及び
図14に示す。測定値の相対的な不確実性は3%だった。
【0167】
この対照粉の粒子は、本質的に球形だった。これらの直径は、10μm~100μmの範囲であり、平均直径は30μmだった。規格ISO 13320(2009-12-01編)に準拠したレーザー回折式粒度分布測定法によって測定したその中位径D10、D50及びD90は、D10=21μm、D50=28μm、及びD90=39μmだった。
【0168】
規格ASTM B-212によって測定した見掛け密度は、4.39g/cm3±0.01g/cm3だった。ヘリウム比重びん法によって測定した真密度は、7.99g/cm3±0.03g/cm3だった。
【0169】
規格ASTM B213に準拠して測定したホール流量(50gの粉が固定寸法の口を流れる能力)は、16秒だった。本発明の製造方法において使用した鋼粉は、例えば、30秒~500秒の範囲のホール流量を有する。
【0170】
得られた対照固形材料は、マトリックス中及び2種の異なる金属酸化物析出物中の質量%としての、
図17に示すような化学組成を有していた。
【0171】
その微細構造に関しては、対照固形材料は気泡構造を有していた。
【0172】
これらの気泡を構成する粒は、析出物が取り入れたマトリックスを含んでいた。対応する構造は、
図15及び
図16の画像で表され、対照鋼材料の軸方向成長が、粒の円柱、したがって材料の付加製造の方向zに平行な面において異方性の構造を生成したことを示す。これらの粒は、20.8μm±2.7μmの平均幅(Dmin)及び68.6μm±8.3μmの平均長さ(Dmax)、すなわち、3.2±0.1の平均比Dmax/Dminを有していた。
【0173】
この微細構造の特性を
図18に例示し、対照鋼材料が、造形方向Zに対して平行な面(110)におけるテクスチャーを有し、結果として5.4に等しい強力なテクスチャー強度を有することを示す。
【0174】
対照鋼材料の微細構造と関連がある性質を本発明の鋼材料と比較するために、様々な処理を施した:
- 対照鋼材料は、例4と同一の熱間静水圧圧縮成形の処理(「HIP」で示す)を経た。
- 対照鋼材料及び本発明の鋼材料は、それぞれの未精製造形材料を700℃の温度で1時間維持すること(「応力除去」処理として知られる)からなる熱処理(「TT」で示す)を経た。
【0175】
これらの処理の終了時に、対照鋼及び以下の終了時に得られた本発明の鋼の平均粒径を切断方法によって測定した:
i)付加製造プロセス(未精製造形)、又は
ii)付加製造プロセスに後続する応力除去熱処理(「TT」)、又は
iii)付加製造プロセスに後続する熱間静水圧圧縮成形処理(「HIP」)。
【0176】
この平均サイズは、各材料を構成する粒の最大寸法「Dmax」(長さ)又は最小寸法「Dmin」(幅)で測定した。対応する比Dmax/Dminを計算して、各材料の粒の等軸性を評価した。
【0177】
結果を
図19に挙げ、対照鋼材料(「Trumpf」で示す)が、熱処理後、しかし本質的には熱間静水圧圧縮成形後にその粒の形状に修正が加えられたことを示す。したがって対照鋼材料の誤配向角度の分布は変更された。
【0178】
対照的に、本発明の鋼材料の微細構造(「材料」で示す)は、粒の形状への実質的な変更が観察されなかったため(特に、粒のサイズは小さいままであり、すなわち、例えば、L及びlで50μm以下だった)、極度に安定であり、本発明の鋼材料に優れた堅牢性並びに機械的及び熱的安定性がもたらされた。
【0179】
本発明の「Praxair」鋼材料及び「Trumpf」対照鋼材料の機械的性質を、熱間静水圧圧縮成形(HIP)の工程を含む本発明の処理を経る前と後で測定した。
図20の結果の表は、2つの材料の付加製造の方向zに対して平行方向(//Z)及び垂直方向(⊥Z)の両方における、パラメーターRm(MPaで表される最大引張強さ)、Rp0.2(MPaで表される降伏強さ)、A(%で表す破断点での伸び率)について得られた値をまとめている。同時に、これらのパラメーターそれぞれの%異方性を示す:このパーセンテージが小さいほど、機械的性質はより等方性であり、すなわち、測定方向に関係なくこれらの値は均一になる。
【0180】
図19及び
図20の分析は、以下を示す:
- HIP処理前、対照鋼材料より本発明の鋼材料(Praxair)の機械的異方性が低かった。
- HIP処理後、2つの材料(Praxair及びTrumpf)の機械的異方性が大きく低下した。しかしながら、本発明の鋼材料のみ、粒合体の現象による粒の平均サイズの増大に悩まされなかった。このサイズは安定性を維持し、HIP処理にかかわらず30μm未満だった。
【0181】
結果では、本発明のHIP処理後に得られた本発明の鋼材料は、等軸粒、等方性機械的性質、微細構造(平均粒径は、概して50μm以下、例えば平均サイズ「Dmax」及び/又は「Dmin」は10μm~50μmの範囲、又は更には10μm~30μmの範囲である)及び概してナノメートル規模のサイズの析出物(概して10nm~100nmの範囲)を有する。
【0182】
明確には、本発明は、記載し示してきた実施形態に決して限定されず、当業者はこれらを組み合わせて、一般知識を用いて多くの変更及び修正を行うことが可能である。