(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】Al合金蒸着膜、ディスプレイ用配線膜、ディスプレイ装置及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20240129BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240129BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240129BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C23C14/14 B
C23C14/34 A
H01L21/28 301R
H01L21/285 S
(21)【出願番号】P 2020201123
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020073596
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】倉 千晴
(72)【発明者】
【氏名】越智 元隆
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-228035(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003666(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
H01L 21/285
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al及びAl以外の他の金属元素を含み、
屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ
上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下であ
り、
Al結晶粒を含み、このAl結晶粒の平均粒子径が20nm以上150nm以下であるAl合金蒸着膜。
【請求項2】
上記他の金属元素がZr又はZnであり、
上記他の金属元素の含有量が1.5atm%以上6.0atm%以下である請求項1に記載のAl合金蒸着膜。
【請求項3】
請求項1
又は請求項
2に記載のAl合金蒸着膜を備えるディスプレイ用配線膜。
【請求項4】
請求項
3に記載の配線膜を備えるディスプレイ装置。
【請求項5】
上記配線膜が積層される基板を備え、
上記基板の平均厚さに対する上記配線膜の平均厚さの比が0.005以上0.05以下である請求項
4に記載のディスプレイ装置。
【請求項6】
Al合金蒸着膜形成用のスパッタリングターゲットであって、
Al及びAl以外の他の金属元素を含み、
上記Al合金蒸着膜の屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ
上記Al合金蒸着膜の上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下であ
り、
上記Al合金蒸着膜がAl結晶粒を含み、このAl結晶粒の平均粒子径が20nm以上150nm以下であるスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al合金蒸着膜、ディスプレイ用配線膜、ディスプレイ装置及びスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で薄く、携帯性に優れるディスプレイ装置に対する需要が高まっている。中でも、画素のスイッチングに薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)を用いたアクティブマトリクス型の液晶ディスプレイ装置は、高精度な画質や高速動画に対応できることから普及している。また、今日では、折り畳み可能なフレキシブルディスプレイ装置への需要も高まっており、企業や大学、研究機関等で開発が進められている。
【0003】
フレキシブルディスプレイ装置に用いられる基板は、自由に屈曲できるよう可撓性を有する。このフレキシブルディスプレイ装置に用いられる走査線や信号線、TFTのゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの配線の材料としては、AlやAl合金が採用されている。この配線には、繰り返し屈曲された場合でもクラックや断線の発生を抑制できることが求められる。
【0004】
このような観点から、ディスプレイ装置を曲げる際に発生する応力を緩和するための応力緩和層を設け、導電層をこの応力緩和層に積層することで、導電層の破断を防止する技術が提案されている(特開2007-86771号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された構成によっては、導電層自体の耐屈曲性を高めることはできない。また、特許文献1に記載された構成によっては、導電層とは別途に応力緩和層を設けることを要するため、部品点数が増加してディスプレイ装置の薄型化の要請に反する。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、耐屈曲性に優れるAl合金蒸着膜を提供することを目的とする。また、本発明は、耐屈曲性に優れるディスプレイ用配線膜及びこのディスプレイ用配線膜を備えるディスプレイ装置を提供することを目的とする。また、本発明は、耐屈曲性に優れるAl合金蒸着膜を製造可能なスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係るAl合金蒸着膜は、Al及びAl以外の他の金属元素を含み、屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下である。
【0009】
当該Al合金蒸着膜は、Al及びAl以外の他の金属元素を含んでおり、上記他の金属元素は、Alに固溶するか又はAlとの金属間化合物を形成している。当該Al合金蒸着膜は、屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下であるので、耐屈曲性に優れる。
【0010】
上記他の金属元素がZr又はZnであり、上記他の金属元素の含有量が1.5atm%以上6.0atm%以下であるとよい。このように、上記他の金属元素がZr又はZnであり、上記他の金属元素の含有量が上記範囲内であることによって、当該Al合金蒸着膜の耐屈曲性をより高めることができる。
【0011】
Al結晶粒の平均粒子径としては20nm以上150nm以下が好ましい。このように、Al結晶粒の平均粒子径が上記範囲内であることによって、当該Al合金蒸着膜の耐屈曲性をより高めることができる。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係るディスプレイ用配線膜は、当該Al合金蒸着膜を備える。
【0013】
当該ディスプレイ用配線膜は、当該Al合金蒸着膜を備えるので、耐屈曲性に優れる。
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係るディスプレイ装置は、当該配線膜を備える。
【0015】
当該ディスプレイ装置は、当該配線膜を備えるので、耐屈曲性に優れる。
【0016】
当該ディスプレイ装置は、上記配線膜が積層される基板を備えており、上記基板の平均厚さに対する上記配線膜の平均厚さの比が0.005以上0.05以下であるとよい。このように、上記基板の平均厚さに対する上記配線膜の平均厚さの比が上記範囲内であることによって、耐屈曲性を向上しやすい。
【0017】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係るスパッタリングターゲットは、Al合金蒸着膜形成用のスパッタリングターゲットであって、Al及びAl以外の他の金属元素を含み、上記Al合金蒸着膜の屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ上記Al合金蒸着膜の上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下である。
【0018】
当該スパッタリングターゲットは、耐屈曲性に優れる当該Al合金蒸着膜を製造することができる。
【0019】
なお、本発明において、「屈曲試験」とは、曲率半径1mmで、IEC62715-6-1に準拠して行う試験をいう。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の一態様に係るAl合金蒸着膜、並びに他の一態様に係るディスプレイ用配線膜及びディスプレイ装置は、耐屈曲性に優れる。また、本発明の他の一態様に係るスパッタリングターゲットは、耐屈曲性に優れるAl合金蒸着膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るAl合金蒸着膜の基板に積層された状態を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るAl合金蒸着膜の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、No.1~No.4の蒸着膜の屈曲回数と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0023】
[Al合金蒸着膜]
図1に示すように、当該Al(アルミニウム)合金蒸着膜1は、例えば可撓性を有する基板10の表面に設けられる。当該Al合金蒸着膜1は、基板10に直接積層されてもよく、他の層を介して基板10に積層されてもよい。当該Al合金蒸着膜1は、Al及びAl以外の他の金属元素を含む。当該Al合金蒸着膜1は、屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率ρ1の比(ρ1/ρ0)が1.1以下であり、かつ上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率ρ10の比(ρ10/ρ1)が1.3以下である。
【0024】
当該Al合金蒸着膜1は、Al及び上記他の金属元素を含んでおり、残部は不可避的不純物からなる。
【0025】
本発明者らは、可撓性を有し、自由に屈曲することができるフレキシブルディスプレイ装置に用いられる金属配線用のAl合金膜であって、繰り返しの屈曲に対しても電気抵抗率の上昇や断線を抑制できるAl合金膜を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、Alと、Al以外の他の金属を含み、残部が不可避的不純物からなるAl合金蒸着膜が、繰り返し屈曲を行った場合でも電気抵抗率の上昇や断線を抑制できることを突き止めた。
【0026】
当該Al合金蒸着膜1は、例えば400℃以上500℃以下の熱処理を経て形成される。この熱処理は、例えばTFTの製造プロセスで実施される熱処理によって兼用されてもよい。TFTの製造プロセスで実施される熱処理としては、例えばアモルファスシリコンの結晶化のためのアニール処理、低抵抗な多結晶シリコン層を形成するための活性化熱処理等が挙げられる。これらの熱処理は、真空下、又は不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。この熱処理時間としては、例えば10分以上5時間以下とすることができる。
【0027】
上記他の元素としては、Zr(ジルコニウム)又はZn(亜鉛)が好ましい。当該Al合金蒸着膜1は、上記他の金属元素として、Zr及びZn以外の金属元素をさらに含んでいてもよい。また、当該Al合金蒸着膜1は、上記他の金属元素として、Zr及びZnを共に含むことも可能である。但し、当該Al合金蒸着膜1は、上記他の金属元素として、Zr及びZnのいずれか一方のみを含むことが好ましい。当該Al合金蒸着膜1における上記他の元素の含有量としては、1.5atm%以上6.0atm%以下が好ましい。
【0028】
上記他の元素がZrである場合、当該Al合金蒸着膜1は、Al結晶粒と、Al及びZrの金属間化合物とを含む。つまり、当該Al合金蒸着膜1は、上記熱処理によって、AlとZrとの金属間化合物を析出する。また、当該Al合金蒸着膜1は、上記熱処理によって、Al結晶粒が微細化されている。当該Al合金蒸着膜1は、Al結晶粒が微細化され、かつ上記金属間化合物が析出していることで、屈曲に起因するクラックの発生及び電気抵抗率の上昇を抑制することができる。
【0029】
AlとZrとの金属間化合物は、Al結晶粒の粒界に析出する。上記金属間化合物は、Al結晶粒の微細化を促進すると共に、クラックの進展を抑制する。また、上記金属間化合物は、Zrが固溶している場合に比べ、当該Al合金蒸着膜1の可撓性を高める。
【0030】
上記他の元素がZrである場合、Al結晶粒の平均粒子径の上限としては、150nmが好ましく、130nmがより好ましい。一方、上記平均粒子径の下限としては、20nmが好ましく、50nmがより好ましく、70nmがさらに好ましく、100nmが特に好ましい。上記平均粒子径は、上記金属間化合物の析出量が増加するほど小さくなる傾向にある。上記平均粒子径が上記上限を超える場合、上記金属間化合物の析出量が不十分となることで、屈曲によってクラックが生じやすくなり、電気抵抗率が高くなるおそれがある。逆に、上記平均粒子径が上記下限に満たない場合、上記金属間化合物の析出量が多くなり過ぎることで当該Al合金蒸着膜1の可撓性が不十分となるおそれや、クラックが進展可能な粒界が増加し過ぎるおそれがある。その結果、繰り返し屈曲した場合に、当該Al合金蒸着膜1が破断するおそれがある。なお、「Al結晶粒の平均粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、任意に抽出した10個のAl結晶粒の観察面における最大粒子径を平均した値を意味する。
【0031】
上記他の元素がZrである場合、当該Al合金蒸着膜1におけるZrの含有量の下限としては、2.5atm%がより好ましく、3.5atm%がさらに好ましい。一方、上記含有量の上限としては、5.0atm%がより好ましく、4.5atm%がさらに好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、上記金属間化合物の析出量が不十分となると共に、Al結晶粒を十分に微細化することができなくなり、屈曲に起因するクラックの発生を十分に抑制することができないおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、上記金属間化合物の析出量が多くなり過ぎて、当該Al合金蒸着膜1の可撓性が低下するおそれがある。その結果、繰り返し屈曲した場合に、当該Al合金蒸着膜1が破断するおそれがある。
【0032】
上記他の元素がZnである場合、当該Al合金蒸着膜1は、上記熱処理によって、Al結晶粒が微細化される。また、上記他の元素がZnである場合、ZnはAl中に固溶する。つまり、Znは、Alとの金属間化合物を形成しない。一般に、Al中に他の金属元素が固溶すると、蒸着膜の可撓性が低下し、耐屈曲性は低下する。これに対し、本発明者らは、上記他の元素がZnであり、かつこのZnがAl中に固溶している場合、予想に反して蒸着膜の耐屈曲性を高めることができるとの知見を得た。
【0033】
上記他の元素がZnである場合、Al結晶粒の平均粒子径の上限としては、150nmが好ましく、100nmがより好ましく、60nmがさらに好ましい。一方、上記平均粒子径の下限としては、20nmが好ましく、30nmがより好ましい。上記平均粒子径が上記上限を超えると、屈曲によってクラックが生じやすくなり、電気抵抗率が高くなるおそれがある。逆に、上記平均粒子径が上記下限に満たないと、繰り返し屈曲した場合に、当該Al合金蒸着膜1が破断するおそれがある。
【0034】
上記他の元素がZnである場合、当該Al合金蒸着膜1におけるZnの含有量の下限としては、2.0atm%がより好ましく、2.5atm%がさらに好ましい。一方、上記含有量の上限としては、5.0atm%がより好ましく、4.0atm%がさらに好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、屈曲に起因するクラックの発生を十分に抑制することができないおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、当該Al合金蒸着膜1の可撓性が低下するおそれがあり、その結果、繰り返し屈曲した場合に、当該Al合金蒸着膜1が破断するおそれがある。
【0035】
当該Al合金蒸着膜1は、上述のように上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率ρ1の比(ρ1/ρ0)が1.1以下である。上記電気抵抗率の比(ρ1/ρ0)の上限としては、1.05が好ましい。上記電気抵抗率の比(ρ1/ρ0)は、例えば当該Al合金蒸着膜1にクラックが生じることで高くなる。そのため、上記電気抵抗率の比(ρ1/ρ0)は、当該Al合金蒸着膜1の耐屈曲性の指標となる。上記電気抵抗率の比(ρ1/ρ0)が上記上限を超えると、当該Al合金蒸着膜1を繰り返し屈曲させた場合の耐屈曲性が不十分となるおそれがある。なお、上記電気抵抗率の比(ρ1/ρ0)の下限としては、例えば1.00とすることができる。
【0036】
当該Al合金蒸着膜1は、上述のように上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率ρ10の比(ρ10/ρ0)が1.3以下である。上記電気抵抗率の比(ρ10/ρ0)の上限としては、1.2が好ましい。上記電気抵抗率の比(ρ10/ρ0)が上記上限を超えると、当該Al合金蒸着膜1を繰り返し屈曲させた場合の耐屈曲性が不十分となるおそれがある。なお、上記電気抵抗率の比(ρ10/ρ0)の下限としては、特に限定されるものではなく、例えば1.00とすることができる。
【0037】
当該Al合金蒸着膜1の上記屈曲試験を1万回行った後の電気抵抗率ρ1に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率ρ10の比(ρ10/ρ1)の上限としては、1.3が好ましく、1.2がより好ましい。上記電気抵抗率の比(ρ10/ρ1)が上記上限を超えると、当該Al合金蒸着膜1を繰り返し屈曲させた場合に耐屈曲性が急激に低下するおそれがある。なお、上記電気抵抗率の比(ρ10/ρ1)の下限としては、特に限定されるものではなく、例えば1.00とすることができる。
【0038】
当該Al合金蒸着膜1の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、1000nmが好ましく、600nmがより好ましく、400nmがさらに好ましい。上記平均厚さが上記上限を超えると、当該Al合金蒸着膜1が不必要に厚くなるおそれがあると共に、当該Al合金蒸着膜1の製造コストが高くなるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記下限に満たないと、当該Al合金蒸着膜1の耐屈曲性を十分に大きくし難くなるおそれがある。また、上記平均厚さが上記下限に満たないと、当該Al合金蒸着膜1の耐熱性が不十分となるおそれや、電気抵抗率が高くなるおそれがある。なお、本明細書において「平均厚さ」とは、任意の5点の厚さの平均値を意味する。
【0039】
上記不可避的不純物としては、例えばFe(鉄)、Si(シリコン)、B(ホウ素)等が挙げられる。上記不可避的不純物の合計含有量の上限としては、特に限定されないが、例えば0.5atm%とすることができる。各不可避的不純物の含有量の上限としては、例えばFe及びSiはそれぞれ0.12atm%、Bは0.012atm%とすることができる。上記不可避的不純物は、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、不可避的に含有される場合の他、積極的に添加されてもよい。
【0040】
(基板)
基板10は可撓性を有する。基板10は、例えば合成樹脂を主成分とする。この合成樹脂としては、例えばポリイミドが挙げられる。
【0041】
<利点>
当該Al合金蒸着膜1は、Al及びAl以外の他の金属元素を含んでおり、上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比、及び上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比がいずれも上記範囲内であるので、耐屈曲性に優れる。
【0042】
[ディスプレイ用配線膜]
当該ディスプレイ用配線膜は、例えば当該Al合金蒸着膜1をパターニングして形成される。
【0043】
当該ディスプレイ用配線膜は、ディスプレイ装置に備わる各種配線用に使用される。当該ディスプレイ用配線は、フレキシブルディスプレイ装置用の配線として好適に用いられる。当該ディスプレイ用配線膜は、例えば上記他の元素がZrである場合、製造プロセスで熱処理が施される走査線として、より好ましく用いられる。この構成によると、製造プロセスにおける熱処理を利用して、上述の金属間化合物を容易かつ確実に析出することができる。一方、当該ディスプレイ用配線板は、上記他の元素がZnである場合、走査線、信号線、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極等の各種配線用として、好適に用いられる。
【0044】
<利点>
当該ディスプレイ用配線膜は、当該Al合金蒸着膜1を備えるので、耐屈曲性に優れる。
【0045】
[ディスプレイ装置]
当該ディスプレイ装置は、当該ディスプレイ用配線膜を備える。当該ディスプレイ装置は、例えばTFTを用いたフレキシブル液晶ディスプレイ装置である。但し、当該ディスプレイ装置がフレキシブルディスプレイ装置である場合、このフレキシブルディスプレイ装置としては、上記フレキシブル液晶ディスプレイ装置に限定されるものではなく、フレキシブル有機ELディスプレイ装置等、液晶ディスプレイ装置以外のフレキシブルディスプレイ装置であってもよい。
【0046】
当該ディスプレイ装置は、基板10と、基板10にAl合金蒸着膜1をパターニングしてなる配線膜(ディスプレイ用配線膜)とを備える。基板10の平均厚さに対する上記配線膜の平均厚さの比の下限としては、0.005が好ましく、0.006がより好ましい。一方、上記比の上限としては、0.05が好ましく、0.03がより好ましい。上記比が上記下限に満たないと、屈曲を繰り返した場合に断線するおそれが高まる。逆に、上記比が上記上限を超えると、配線の内部応力が高過ぎて、配線割れや剥離、基板10の湾曲を招くおそれがある。
【0047】
<利点>
当該ディスプレイ装置は、当該ディスプレイ用配線膜を備えるので、耐屈曲性に優れる。
【0048】
[スパッタリングターゲット]
当該スパッタリングターゲットは、当該Al合金蒸着膜の形成に用いられる。当該スパッタリングターゲットは、Al及びAl以外の他の金属元素を含む。当該スパッタリングターゲットは、上記Al合金蒸着膜の屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比が1.1以下であり、かつ上記Al合金蒸着膜の上記屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が1.3以下である。
【0049】
上記他の金属元素としては、Zr又はZnが好ましい。当該スパッタリングターゲットにおけるZrの含有量としては、
図1のAl合金蒸着膜1におけるZrの含有量と同じとすることができる。当該スパッタリングターゲットにおけるZnの含有量としては、
図1のAl合金蒸着膜1におけるZnの含有量と同じとすることができる。当該スパッタリングターゲットは、Al及び上記他の金属元素以外の残部は、不可避的不純物からなる。上記不可避的不純物としては、
図1のAl合金蒸着膜1における不可避的不純物と同様のものが挙げられる。また、これらの不可避的不純物の含有量としては、
図1のAl合金蒸着膜1と同様とすることができる。
【0050】
当該スパッタリングターゲットの形状は、角型プレート状、円形プレート状、円筒プレート状等、スパッタリング装置の構造に応じた任意の形状とすることができる。当該スパッタリングターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法等によってAl基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォームを製造した後、このプリフォームを緻密化して得る方法などが挙げられる。
【0051】
<利点>
当該スパッタリングターゲットは、耐屈曲性に優れる当該Al合金蒸着膜1を製造するのに適している。
【0052】
[Al合金蒸着膜の製造方法]
次に、
図2を参照して、
図1のAl合金蒸着膜1の製造方法の一例について説明する。当該Al合金蒸着膜の製造方法は、Al及びAl以外の他の金属元素を含む蒸着膜を形成する工程(形成工程S1)と、この形成工程S1で形成された蒸着膜を熱処理する工程(熱処理工程S2)とを備える。
【0053】
(形成工程)
形成工程S1では、基板10の表面に蒸着膜を形成する。形成工程S1は、例えばイオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法等によって行うことも可能である。但し、形成工程S1は、蒸着膜における成分の均一分散性や膜厚の均一性を容易に高めることができる観点から、上述のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によって行うことが好ましい。
【0054】
スパッタリング時における成膜条件としては、特に限定されるものではないが、例えば以下の条件を採用することが可能である。
基板温度:室温以上50℃以下
到達真空度:1×10-5Torr以下(1×10-3Pa以下)
成膜時のガス圧:0.1Pa以上1.0Pa以下、酸素分圧:1%以上50%以下
DCスパッタリングパワー密度(ターゲットの単位面積あたりのDCスパッタリングパワー):1.0W/cm2以上20W/cm2以下
【0055】
(熱処理工程)
熱処理工程S2では、形成工程S1で形成された蒸着膜を400℃以上500℃以下の雰囲気温度で熱処理する。当該Al合金蒸着膜1の製造方法は、熱処理工程S2によって、Al結晶粒の微細化を図る。また、熱処理工程S2では、上記他の金属元素がZrである場合、AlとZrとの金属間化合物を析出させる。
【0056】
熱処理工程S2における熱処理時間の下限としては、10分が好ましく、30分がより好ましい。一方、上記熱処理時間の上限としては、5時間が好ましく、2時間がより好ましい。上記熱処理時間が上記下限に満たないと、Al結晶粒の微細化が十分に進行しないおそれがある。また、上記熱処理時間が上記下限に満たないと、上記他の金属元素がZrである場合に、上記金属間化合物の析出が十分に進行しないおそれがある。逆に、上記熱処理時間が上記上限を超えると、Al結晶粒の微細化及び上記金属間化合物の析出が進行しすぎるおそれや、当該Al合金蒸着膜1が積層される基板10が劣化するおそれがある。
【0057】
当該Al合金蒸着膜の製造方法では、熱処理工程S2後の蒸着膜が当該Al合金蒸着膜1として構成される。
【0058】
熱処理工程S2後の蒸着膜の屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率の比は1.1以下である。また、熱処理工程S2後の蒸着膜の屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比は1.3以下である。
【0059】
<利点>
当該Al合金蒸着膜の製造方法は、耐屈曲性に優れる当該Al合金蒸着膜1を製造することができる。
【0060】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0062】
(サンプルの作製)
厚さ38μmのポリイミド基板の表面に、表1の組成を有する平均厚さ250nmの蒸着膜を形成した。この蒸着膜は、DCマグネトロンスパッタ法によって形成した。このDCマグネトロンスパッタ法は、雰囲気ガスとしてアルゴンガスを用い、圧力2mTorr、基板温度25℃(室温)で行った。スパッタリングターゲットとしては、Alターゲット、並びにAlターゲットの上にZrチップ、Znチップ又はMgチップを載せたものを用いた。蒸着膜における各金属元素の含有量は、XRF(蛍光X線分析法)によって求めた。得られた蒸着膜に対し、フォトリソグラフィにより電極パターンをパターニングした。この電極パターンは、長さ70mm、かつ幅1.0mmの配線部分と、この配線部分の両端に配置される電気接続点としての5mm角の一対の電極パッドとを有する構成とした。さらに、パターニング後の蒸着膜に450℃の雰囲気下で1時間熱処理を施し、No.1~No.4のサンプルを得た。No.1~No.4のサンプルにおけるAl結晶粒の平均粒子径を表1に示す。これらの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、任意に抽出した10個のAl結晶粒の観察面における最大粒子径を平均することで求めた。
【0063】
【0064】
<金属間化合物の析出>
No.1~No.4のサンプルについて、金属間化合物の析出の有無を以下の方法で調べた。まず、厚さ38μmのポリイミド基板の表面にNo.1~No.4と同じ組成を有する厚さ1000nmの蒸着膜を上記と同様の手順で積層し、No.1~No.4に対応する試験片を作製した。次に、これらの試験片について、株式会社リガク製の水平型X線回折装置「SmartLab」を用いて以下の測定条件でX線回折測定を行い、金属間化合物の析出の有無を調べた。この測定結果を表2に示す。なお、表2では、金属間化合物が析出された場合を「A」、金属間化合物が析出されていない場合を「B」で示している。
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメータを使用(Kα)
ターゲット出力:45kV-200mA
(通常測定):θ/2θ走査
発散スリット:2/3°
散乱スリット:2/3°
受光スリット:0.6mm
走査速度:1°/分
サンプリング幅:0.02°
【0065】
<屈曲試験>
No.1~No.4のサンプルについて、ユアサシステム機器株式会社製の多機能版小型卓上型耐久試験機「DLDM111LH」を用い、IEC62715-6-1に準拠して、曲率半径r=1mm、屈曲速度90回/分で、蒸着膜が内面側で対向するように無負荷U字伸縮試験を行った。この屈曲試験は、10万回まで繰り返し行った。
【0066】
<電気抵抗率の測定>
上記屈曲試験における屈曲前、及び屈曲回数1000回後、5000回後、1万回後、10万回後に、電極パッド間の直流電気抵抗をモニタリングした。この電気抵抗率の測定は、Advantest社製の高抵抗測定システム「R8340」を用いて行った。電気抵抗率は、得られたI-V特性の線形部分のみを用いて測定した。各サンプルについて、屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する屈曲回数1000回後、5000回後、1万回後及び10万回後の電気抵抗率の比を
図3に示す。また、各サンプルについて、屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を1万回行った後の電気抵抗率ρ1の比(ρ1/ρ0)、及び屈曲試験を行う前の電気抵抗率ρ0に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率ρ10の比(ρ10/ρ0)を表2に示す。
【0067】
【0068】
<評価結果>
図3及び表2に示すように、No.3及びNo.4は、屈曲試験を1万回行った後の電気抵抗率が屈曲試験を行う前の電気抵抗率よりも高くなっている。これに対し、No.1及びNo.2は、屈曲試験を1万回行った後の電気抵抗率が屈曲試験を行う前に対して上昇していない。また、No.1及びNo.2は、屈曲試験を行う前の電気抵抗率に対する屈曲試験を10万回行った後の電気抵抗率の比がNo.3及びNo.4に対して低い。さらに、No.1及びNo.2は、屈曲試験を1万回行った後の電位抵抗率に対する同試験を10万回行った後の電気抵抗率の比が、No.3及びNo.4よりも小さい。このことから、No.1及びNo.2は、No.3及びNo.4よりも繰り返し屈曲した場合の耐屈曲性が優れていることが分かる。
【0069】
No.1については、金属間化合物が適度に析出され、かつAl結晶粒の微細化が適度に図られたことで、上記金属間化合物によるクラックの進展防止機能と、蒸着膜の可撓性とが共に優れたものとなり、電気抵抗率が低く抑えられたと考えられる。すなわち、クラックはAl結晶粒の粒界に沿って進展するが、この進展が上記金属間化合物によって防止されると共に、上記金属間化合物の析出量が適度に抑えられることで蒸着膜の可撓性を十分に高めることができた結果、電気抵抗率が低く抑えられたと考えられる。
【0070】
一方、No.2については、金属間化合物が析出されていないため、No.3及びNo.4と同程度の電気抵抗率を示すと予想された。しかしながら、この予想に反し、他の金属元素としてZnを所定の割合で含む場合には、繰り返し屈曲試験を行った場合でも電気抵抗率の上昇を十分に抑えることができ、優れた耐屈曲性が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明の一態様に係るAl合金蒸着膜は、フレキシブルディスプレイ用の配線膜として適している。
【符号の説明】
【0072】
1 Al合金蒸着膜
10 基板