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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】改善された細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M1/00 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020533291
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018085943
(87)【国際公開番号】W WO2019121984
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】17208965.8
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596060424
【氏名又は名称】フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】サンド アントナン
(72)【発明者】
【氏名】ボヴァール ダヴィド
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-088347(JP,A)
【文献】特表2017-532974(JP,A)
【文献】特開2010-000020(JP,A)
【文献】特開2017-217530(JP,A)
【文献】特開2017-012109(JP,A)
【文献】特開2018-102285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12M 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフェロイドの凝集を低減または防止する方法であって、
(i)一つ以上の個別のスフェロイドを提供する工程と、
(ii)細胞培養装置のウェル内に前記個別のスフェロイドを移す工程であって、前記細胞培養装置が、
基部および前記基部から延在してウェルの容積を囲む側壁を含む少なくとも二つのウェルと、
前記ウェルへの流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における入口と、
前記ウェルから外への流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における出口と、
を含み、
前記ウェルの前記基部は、不連続表面を含み、前記不連続表面は、1つ以上の個別のスフェロイドを不連続表面に捕捉してその凝集を低減または防止することができる、工程と、
(iii)前記個別のスフェロイドを前記不連続表面に接触させて、前記ウェル内で前記個別のスフェロイドをインキュベートする工程と、
(iv)前記ウェルの前記不連続表面上で個別のスフェロイドを得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
既知の数の個別のスフェロイドがステップ(ii)で移され、既知の数の個別のスフェロイドがステップ(iv)で得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不連続表面は、溝の深さおよび幅が約200~約1000μm、好適には約200~約600μmである、複数の溝を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溝が前記ウェルの前記基部上に複数の同心リングを形成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ウェルが、閉じた底部および開いた上部を有する複数の孔を含む不連続表面を含み、前記孔のサイズは、スフェロイドの最大直径よりも約10%大きい深さおよび幅に相応する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ウェルがPEEKから製造される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ウェルが被覆され、好適には、前記被覆がpoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
約40~約100個のスフェロイドが前記細胞培養装置の前記ウェルに移される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
培地の流れが前記細胞培養装置の前記ウェルに適用され、好適には、流量は約10~約1000μL/分である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
スフェロイドの凝集を低減または防止するための細胞培養装置の使用であって、前記細胞培養装置が、
基部および前記基部から延在してウェルの容積を囲む側壁を有する少なくとも二つのウェルと、
前記ウェルへの流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における入口と、
前記ウェルから外への流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における出口と、を含み、
前記ウェルの前記基部は、不連続表面を含み、前記不連続表面は、1つ以上の個別のスフェロイドを不連続表面に捕捉することができる、使用。
【請求項11】
マルチウェル細胞培養プレートであって、前記マルチウェル細胞培養プレートのウェルの少なくとも一つの基部が、不連続表面を含み、前記不連続表面は、1つ以上の個別のスフェロイドを不連続表面に捕捉してスフェロイドの凝集を低減または防止することができ、前記マルチウェル細胞培養プレートが、
前記ウェルへの流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における入口と、
前記ウェルから外への流体連通のために適合された前記ウェルの前記基部または側壁における出口と、
を含む、マルチウェル細胞培養プレート。
【請求項12】
前記プレートがPEEKから製造される、または、
前記ウェルの少なくとも一つが被覆され、好適には、被覆はpoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である、
請求項11に記載のマルチウェル細胞培養プレート。
【請求項13】
前記ウェルの少なくとも一つ、個別化された単一スフェロイドを含む、請求項11又は12に記載のマルチウェル細胞培養プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置、方法およびその使用に関する。本開示で使用するための一つの特定の細胞培養型は、スフェロイドとしても知られる、3D器官型細胞または組織である。
【背景技術】
【0002】
2次元細胞培養システムを使用した毒性試験を使用し、細胞生存性および酵素活性など.に対する一つ以上の作用物質(例えば、薬物)の作用が検討されている。プラスチック表面上の平面層で細胞を増殖させることは簡単であり、刺激に対する細胞生理学および細胞反応のいくつかの態様に関する試験を行うことができるが、このような細胞培養は器官の実際の仕組みおよび構造は反映していない。2次元単層では、分化、増殖、および細胞機能にとって必須である、細胞外マトリクス、細胞間相互作用、および細胞-マトリクス間相互作用が失われている。
【0003】
3次元培養システムは、インビボで.観察される特徴と類似した特徴を有する機能的組織を形成することができる。2次元培養システムと比較して、3次元細胞培養によって、細胞が三方向すべての周囲と相互作用するのが可能になり、より生理的な関連性が高くなる。こうした細胞培養は、生存能力、増殖、分化、形態、刺激応答、薬剤代謝、遺伝子発現、およびタンパク質合成、ならびにこれらに類するもので改良を示しうる。3次元細胞培養によって、従来の2次元細胞単層よりも生理的に関連性が高くなるように、特定の組織様構造を生み出し、現実の組織の機能および反応を模倣できる。
【0004】
2次元および3次元細胞培養に対して異なる技術が開発されてきた。3次元細胞培養方法は、懸滴プレート、磁気浮上、または生体材料スキャフォールドの使用を含む。
【0005】
一つのスフェロイド調製方法では、ウェルの底で凝集させることができるウェルに細胞を播種する。細胞が凝集を形成すると、各ウェルに単一または複数のスフェロイドが形成される。ここから、スフェロイドは、それらの生存能力、その形態またはその機能性などを含みうるスフェロイドを評価する実験など、任意の必要な目的に使用できる。
【0006】
本発明は、3次元細胞培養に関する改善を提供することを目的としている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは3次元細胞培養を研究してきた。意図せず、スフェロイドが3次元細胞培養中に同じ場所で一緒に凝集または融合し、単一の大きな組織を形成する傾向を有することが発明者らによって観察された。これはスフェロイドが共に融合してより大きな組織を形成するため、問題となり得る。これは、このより大きな組織に存在するスフェロイドの数を正確に判定することがほとんど不可能であることを意味し、すなわち、スフェロイドの正確な数を知ることが重要である他の実験に細胞を使用することが出来ないことを意味する。理論に束縛されることを望むものではないが、発明者らは、スフェロイドの中央部にある細胞が、スフェロイドの外側に向かって位置する細胞と比べて、栄養素へのアクセスが少なく、これにより、スフェロイドの中央部に向かう細胞が、死滅する傾向を有することを観察した。これは、スフェロイドが凝集したとき(これが細胞培養の5時間後に発生し得る)に大きな問題となるが、スフェロイド中の細胞数が多いほど、栄養素へのアクセスがより少なくなるためである。これはまた、スフェロイド内の死細胞の数をさらに増加させる。これは、(1)死細胞から放出される分子が、スフェロイド中の他の細胞に悪影響を及ぼし得ること、(2)死細胞が代謝的に活性でないため、スフェロイドの代謝活性が低減されるであろうこと、および(3)多くのアッセイが単一スフェロイドまたはスフェロイドの既知の数の使用を必要とすること、を含む多くの理由で問題となり得る。本発明者らは、3次元細胞培養で凝集するスフェロイドの問題を解決するよう努めた。驚くべきことに、本発明者らは、マルチウェルプレートのウェルなどの細胞培養チャンバーの基部上に不連続な表面を形成し、これにより、チャンバー内の不連続な表面上のスフェロイドが、不連続な表面内に捕捉されるようになることによって、この問題が手際よく解決され得ることを発見した。これが、スフェロイドの凝集または融合の程度を効果的に低減するか、またはスフェロイドの凝集または融合を防止する。有利なことに、本発明者らは、本開示によるスフェロイドが、個別化された単一スフェロイドとして維持され得ることを発見した。
【0008】
本発明の一態様では、基部および基部から延びて細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、チャンバー内への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の入口と、チャンバーからの流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の出口と、を備え、細胞培養装置の基部がスフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む、細胞培養装置の使用を含むスフェロイドの凝集を低減または防止する方法が開示される。
【0009】
本発明の一実施形態では、方法は、(i)一つ以上の個別スフェロイドを提供すること、(ii)個別のスフェロイドを細胞培養装置の細胞培養チャンバー内に移動すること、(iii)細胞培養装置内の個別のスフェロイドをインキュベートすること、および(iv)細胞培養装置の不連続表面上の個別のスフェロイドを得ることを含む。
【0010】
本発明の一実施形態では、ステップ(ii)で既知の数の個別のスフェロイドが移動され、ステップ(iv)で既知の数の個別のスフェロイドが得られる。
【0011】
本発明の一実施形態では、不連続表面は、溝の深さおよび幅が約200~約1000μm、好適には約200~約600μmの間である、複数の溝を含む。
【0012】
本発明の一実施形態では、溝は細胞培養チャンバーの基部上に複数の同心リングを形成する。
【0013】
本発明の一実施形態では、不連続な表面は、閉じた底部および開いた上部を有する複数の孔を含み、孔のサイズは、スフェロイドの最大直径よりも約10%大きい深さおよび幅に相応する。
【0014】
本発明の一実施形態では、細胞培養チャンバーはPEEKから製造される。
【0015】
本発明の一実施形態では、細胞培養チャンバーは被覆され、好適には、被覆はPoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である。
【0016】
本発明の一実施形態では、約40~約100個のスフェロイドが細胞培養装置の細胞培養チャンバーに移される。
【0017】
本発明の一実施形態では、細胞培養装置の細胞培養チャンバーに培地フローが適用され、好適には、流量は約10~約1000μL/分である。
【0018】
本発明の別の態様では、スフェロイドの凝集を低減または防止するための細胞培養装置の使用が開示され、前述の細胞培養装置は、基部および基部から延びて細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、チャンバー内への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の入口と、チャンバーからの流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の出口と、を含み、細胞培養装置の基部がスフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む。
【0019】
本発明の別の態様では、マルチウェル細胞培養プレートが開示され、マルチウェル細胞培養プレートのウェルの少なくとも一つおよび/またはマルチウェル細胞培養プレートのウェルの少なくとも一つに含まれるインサートのうちの少なくとも一つが、スフェロイドの凝集を低減または防止するよう適合された不連続表面を含む。
【0020】
本発明の別の態様では、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含むマルチウェル細胞培養プレートで使用するためのインサートが開示される。
【0021】
一実施形態では、プレートおよび/またはインサートはPEEKから製造される。
【0022】
一実施形態では、ウェルおよび/またはインサートのうちの少なくとも一つは被覆され、好適には、被覆はpoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である。
【0023】
一実施形態では、少なくとも一つのウェルおよび/またはインサートは、個別の単一スフェロイドを含む。
【0024】
一実施形態では、細胞培養チャンバーの基部は実質的に円形である。
【0025】
一実施形態では、基部の直径は、約6mm±5%~約22mm±5%であり、好適には、基部の直径は、約6mm±5%、約11mm±5%、約16mm±5%、または約22mm±5%である。
【0026】
一実施形態では、不連続な表面は、複数の溝を備え、溝の深さおよび幅が、スフェロイドの最大直径±10%に相応する。
【0027】
一実施形態では、複数の溝の深さおよび幅は、約200~約1000μm、好適には約600~約1000μmである。
【0028】
一実施形態では、溝は細胞培養チャンバーの基部上に複数の同心リングを形成する。
【0029】
一実施形態では、不連続な表面は、閉じた底部および開いた上部を有する複数の孔を含み、孔のサイズは、スフェロイドの最大直径よりも約10%大きい深さおよび幅に相応する。
【0030】
一実施形態では、細胞培養チャンバーは、スフェロイドを培養するための細胞培養培地を含む。
【0031】
一実施形態では、細胞培養チャンバーは、細胞培養チャンバーの不連続表面に捕捉された個別のスフェロイドを含む。
【0032】
一実施形態では、スフェロイドは肺スフェロイドである。
【0033】
一実施形態では、流体がその中に存在する場合、細胞培養チャンバーの入口から出口への流体の流れは、約10~約1000μL/分、好適には、約1~約500μL/分であり、好適には、約40μL/分である。
【0034】
一実施形態では、細胞培養チャンバー内のせん断応力は、約0.08ダイン/cm2または約0.04ダイン/cm2など、約0.1ダイン/cm2未満である。
【0035】
一実施形態では、細胞培養装置は、マルチウェルプレートであり、マルチウェルプレートの各チャンバーはウェルであり、前述のマルチウェルプレートは少なくとも二つのウェルを含む。
【0036】
一実施形態では、チャンバーの少なくとも一つの基部は、不連続性を欠いている平坦な表面を含む。
【0037】
一実施形態では、少なくとも一つのチャンバーは、チャンバーの基部の上に位置付けられたインサートを備え、好適には、インサートは、気/液界面で細胞を培養することができる表面を形成するようにチャンバー内に位置する透過性膜の頂部に位置する。
【0038】
一実施形態では、不連続性を欠く平坦な表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さは、不連続表面を含む少なくとも一つの深さとは異なり、不連続性を欠いている平坦な表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さは、不連続表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さよりも小さい。
【0039】
一実施形態では、細胞培養チャンバーは、空気-液体界面で細胞を培養するための細胞培養培地を含む。
【0040】
一実施形態では、細胞培養チャンバーは、透過性膜上に位置付けられた細胞を含み、該細胞は、気液界面で増殖することができる。
【0041】
一実施形態では、細胞は肺細胞である。
【0042】
一実施形態では、少なくとも二つのウェルは相互に流体連通している。
【0043】
好適には、不連続表面は本明細書で定義される通りである。
【0044】
好適には、不連続表面は、コンピュータ数値制御機械加工または射出成形を使用して基部に提供される。
【0045】
好適には、装置はマルチウェルプレートである。
【0046】
好適には、チャンバーはウェルである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、(図4に「詳細Bを参照」とマークされた)個別のスフェロイドを捕捉するための複数の同心の溝を有するウェルの断面である。寸法は、ミリメートルである。
図2図2は、(図4に「詳細Bを参照」とマークされた)個別のスフェロイドを捕捉するための複数の同心の溝を有するウェルの平面図である。寸法は、ミリメートルである。
図3図3は、(図4に「詳細Cを参照」とマークされた)マイクロ流体チャネルを含むウェルの平面図である。寸法は、ミリメートルである。
図4図4は、(「詳細Bを参照」とマークされた)個別のスフェロイドを捕捉するための複数の同心の溝を有するウェルと、(「詳細Cを参照」とマークされた)インサートを含有ウェルと、を含むマルチウェルプレートの平面図である。ウェルは、第一のウェル(「詳細Bを参照」)および第二のウェル(「詳細Cを参照」)のそれぞれが互いに流体連通するように、チャネルによって接続されている。寸法は、ミリメートルである。
図5図5は、図4の線C-Cの断面図である。
図6図6は、(図8に「詳細Bを参照」とマークされた)個別のスフェロイドを捕捉する機能を達成するために、その基部上に複数の孔を有するウェルの断面である。
図7図7は、図6に示されるように、その基部上に、個別のスフェロイドを捕捉するための複数の孔を有するウェルの平面図である。寸法は、ミリメートルである。
図8図8は、(「詳細Bを参照」とマークされた)個別のスフェロイドを捕捉するための複数の孔を有するウェルと、(「詳細Cを参照」とマークされた)インサートを含有ウェルと、を含むマルチウェルプレートの平面図である。ウェルは、第一のウェル(「詳細Bを参照」)および第二のウェル(「詳細Cを参照」)のそれぞれが互いに流体連通するように、チャネルによって接続されている。寸法は、ミリメートルである。
図9図9は、図8の線C-Cの断面図である。
図10図10は、図に示される、二つの異なるウェルのそれぞれについて計算された剪断応力の結果、およびせん断応力を計算するために使用されるパラメータを示す。
図11図11(a)は、凝集したスフェロイドを示す。図11(b)は、本開示に従って得られた個別形態の非凝集スフェロイドを示す。
図12図12は、4℃で8時間インキュベーション後の、PEEKプレート内とPDMSプレート内に残っているニコチンの量を比較するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本開示の実施は、別途記載のない限り、遺伝子操作、マイクロエンジニアリング、微生物学、および細胞生物学、および生化学の従来の技術を使用する。かかる技術は、例えば、以下の文献中に完全に解説されている:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis (MJ.Gait, ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.CeIMs, ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,IB.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis et al.,eds.,1994)。市販のキットおよび試薬を採用する手順は、別途記載のない限り、通常、製造業者が定めたプロトコールに従い使用される。
【0049】
本明細書で使用される技術的な用語および表現は概して、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および生化学の関連分野において当該用語に一般的に適用される意味が与えられる。以下の用語の定義はすべて、本出願の全内容に適用される。
【0050】
本明細書で使用される場合、単数形(「一つの(a、an)」および「その(the)」)は、文脈上明白に他の意味を示さない限り、単数および複数の対象の両方を含む。
【0051】
「および/または」という用語は、(a)もしくは(b)、または(a)および(b)の両方を意味する。
【0052】
本明細書で使用される「備える(comprising、comprises)」および「で構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including、includes)」または「包含する、含んでいる(containing、contains)」と同義であり、包括的または非限定的であり、列挙していない追加の部材、要素、または方法工程を除外しない。
【0053】
「からなる(consisting of)」という用語は、追加の構成要素が除外され、列挙された要素のみを有し、それ以上の要素を有しないことを意味する。
【0054】
終点までの数値範囲の列挙には、それぞれの範囲内に包摂されるすべての数および割合、ならびに列挙される終点が含まれる。
【0055】
パラメータ、量、時間の長さ、およびこれらに類するものなどの測定可能な値に言及するときに、本明細書で使用される「約」という用語は、変動が本開示で実施するのに適切である限り、特定の値の変動および特定の値からの変動、具体的には、特定の値のおよび特定の値からの+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下を包含することを意味する。「約」という修飾語句が言及する値もまた、それ自体で具体的かつ好ましく開示されることは理解すべきである。
【0056】
部材群のうちの一つ以上の部材などの「一つ以上」という用語は、それ自体明瞭であるが、さらなる例証を用いると、この用語は、とりわけ、該部材のうちのいずれか一つへの言及、または、例えば、該部材のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、6つ、または7つなど、該部材のうちのいずれか二つ以上への、および最大ですべての該部材への言及を包含する。
【0057】
細胞培養
細胞培養は、一般的には、人工環境中での増殖の前に、組織から細胞を取り出すことを指す。培養される細胞は、培養される細胞を含んでいる組織から直接取り出されることができ、任意に、培養前に酵素的手段または機械的手段を用いて処理されることができる。代替として、培養される細胞は、以前に確立された細胞系統または細胞株から誘導されることもできる。
【0058】
細胞のインビトロ培養は、生理学;生化学;エアロゾルを含む作用物質の作用;作用物質のスクリーニングおよび開発または最適化;作用物質の有効性の研究;作用物質の吸収の研究;毒性スクリーニング;毒性学;標的探索;薬物動態;薬力学;ならびに再生医療が含まれる細胞の様々な態様の、任意にリアルタイムでの研究に必要な材料を提供することができる。
【0059】
細胞は通常、チャンバーまたは容器を含む細胞培養装置内で増殖される。このような細胞培養装置の例には、ボトル、皿およびマイクロタイタープレート、またはマルチウェルプレートまたはマイクロプレートなどのプレート、一般的なフラスコおよび多層細胞増殖フラスコなどのフラスコ、容器、ならびにバイオリアクターなどが含まれる。培養中の細胞は典型的に、適切な細胞培養または維持する培地に浸漬された容器の底部に付着し、増殖する。チャンバーまたは容器は、細胞培養培地の流れをチャンバーまたは容器の中へまたはそれらの中から外へ導くためのポートを含む。
【0060】
本開示の細胞培養装置は、基部および基部から延在して細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーを備える。細胞培養培地の流れをチャンバーの中へまたはチャンバーの外へと導くためのポートは、(1)チャンバー内への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における入口、(2)チャンバーの外へと流体連通するように適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における出口を含み得る。細胞培養チャンバーは、以下に説明するように、スフェロイドの凝集を低減または防止するよう適合された不連続表面を含む。好適には、入口および出口は不連続表面の上方に位置する。
【0061】
細胞培養装置
一実施形態では、細胞培養装置は、ウェルの形態の少なくとも二つのチャンバー(例えば、複数または多数のウェル)を含む平坦なプレートの形態のマルチウェルプレートである。一般に、プレート全体は長方形であり、かつウェル容量は必要に応じて数μL~数mLであり得る。
【0062】
少なくとも二つのウェルのうちの少なくとも一つでは、ウェルの基部は、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続な表面を含む。
【0063】
マルチウェルプレートは、24-または48-または96-または384-または1536ウェル/チャンバー形式など、様々な形式で製造することができ、実験を遂行することが意図される実験のサイズおよび選択に基づいて、当業者によって容易に選択され得る。マルチウェルプレートは、市販されている、当業者に周知の標準的なプレートとし得る。
【0064】
好適には、チャンバーがウェルの形態である場合、基部は実質的に円形の形状である。
【0065】
好適には、基部の直径は、約6mm±5%~約22mm±5%であり、好適には、基部の直径は、約6mm±5%、約11mm±5%、約16mm±5%、または約22mm±5%である。
【0066】
マルチウェルプレートは、少なくとも二つの連続的に配置されたウェルを含むように構成され得る。マルチウェルプレートは、少なくとも二つの直線状に配置されたウェルを含むように構成される。
【0067】
マルチウェルプレート内のウェルは、列で配置される。例えば、8ウェルプレートは、各列に4つの隣接するウェルがある2つの直線状の列で構成され得る。さらなる例として、24ウェルプレートは、各列に6つの隣接するウェルがある4つの直線状の列で構成され得る。さらなる例として、48ウェルプレートは、各列に8つの隣接するウェルがある6つの直線状の列で構成され得る。さらなる例として、96ウェルプレートは、各列に12の隣接するウェルがある8つの直線状の列で構成され得る。マルチウェルプレートは、必要に応じてプレート内に所望の数のウェルを提供するために製造またはカスタムメイドされてもよい。
【0068】
細胞培養装置は、細胞培養培地の蒸発および汚染のリスクを低減するのに役立つリッドを装置の上に備えることができる。好ましくは、細胞の培養/維持の助けとなり得る、装置内の空気の循環が得られるように、リッドは封止されない。
【0069】
細胞培養装置の組成は、細胞毒性ではなく、細胞培養に適していれば、特に限定されない。これは、アクリル樹脂、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、ポリ乳酸、アクリルまたはスチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンまたはビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂、またはそれらの任意の組み合わせから製造できる。これは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ステンレス鋼(例えば、316L/1.4435)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレンもしくはポリスルホン、またはそれらのうちの一つ以上の組み合わせから作成することができる。必要に応じて、poly(p-xylylene)ポリマーまたはポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)(poly-2-hema)の被覆などの被覆が適用され得る。
【0070】
特定の実施形態では、PEEKの使用は、下記の通り、ニコチンおよびNNKなどの小分子に対して吸収性ではないという利点を有するために特に好ましい。
【0071】
細胞培養装置は、必要に応じてコンピュータ支援設計(CAD)によって設計されてもよく、または細胞培養装置が標準的なマルチウェルプレートに基づく場合、標準的なマルチウェルプレートは商業的に入手可能である。CADプレートは、当技術分野で周知の方法を使用して、マイクロ機械加工によって製造することができる。
【0072】
マルチウェルプレートなどの細胞培養装置は、チャンバー内への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における入口、およびチャンバーから外へ、任意で隣接するウェルへと流体連通するように適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における出口を含む。これにより、スフェロイド上の培養培地などの流体の流れおよび流体の流れに対するそれらの曝露が許容される。特定の実施形態では、これは、例えば細胞培養プレートの一つ以上のウェルに少なくとも一つの孔を形成し、次いで、一つ以上のウェルを孔を介してチャネル(例えば、導管またはパイプ)に接続することによって達成することができる。一実施形態では、チャネルは、細胞培養プレート内部で直接機械加工されるか、または埋め込まれて、少なくとも二つのウェルの接続を提供する。好適には、チャネルは、細胞培養チャンバーの下を通っている。チャネルは、各端部に開口部を含み得る。チャネルはマイクロ流体チャネルであり得る。通常、開口部の少なくとも一端は、ポンプに接続される。開口部のそれぞれの端部は、同一のポンプまたは異なるポンプで終端し得る。
【0073】
チャネルを第一のポンプに接続するために、様々な種類のコネクターを使用し得る。一例としては、ルアーコネクター例えば、ルアーロックコネクター、または簡単な管コネクターである。
【0074】
チャネルは、ウェルの第一列とウェルの第二列、および必要に応じて第三列、など流体連通するように共に接合するように構成することができる。チャネルは、異なるウェルの列を接続するためのUベンドとして構成され得る。Uベンドは、細胞培養装置の内部または外部に位置し得る。ループが細胞培養装置の外部に位置する場合、コネクター例えば、ルアーコネクターもしくはルアーロックコネクター、または簡単な管コネクターは、Uベンドを細胞培養装置に封止または係合させるために使用することができる。
【0075】
管材-例えば、シリコーン管材またはPharMed(登録商標)管材は、異なるチャネルを一緒に接続するために使用することができる。
【0076】
流体がチャネル内で運ばれるとき、流体はポンプから運ばれ、必要に応じてその後ポンプに戻される。流体は、必要に応じてウェルを通して時計回りまたは反時計回りに循環することができる。必要に応じて、複数のポンプが使用され得る。
【0077】
特定の実施形態では、流体がその中に存在する場合、細胞培養チャンバーの入口から出口への流体の流れは、約10~約1000μL/分、好適には、約1~約500μL/分、好適には、約10~約500μL/分、好適には、約40μL/分、または好適には、約1~約60μL/分である。当業者によって理解されるように、流体が固体境界を越えて流れるとき、その境界に対する剪断応力が発生し、これが剪断応力に曝された細胞の撹乱をもたらし得る。本開示の文脈においては、流体が細胞培養装置を通って移動するとき、剪断応力が生成される。細胞培養チャンバーにおける剪断応力は、約0.1ダイン/cm2未満-例えば、約0.08ダイン/cm2以下または0.04ダイン/cm2以下-であることが望ましく、これが剪断応力に曝された細胞の撹乱を引き起こさないためである。せん断応力は、異なるタイプの細胞培養チャンバーで異なり得る。例えば、不連続表面を有する細胞培養チャンバーは、約0.04ダイン/cm2の剪断応力を有することができる。例えば、平坦な非不連続表面を有する細胞培養チャンバーは、約0.08ダイン/cm2の剪断応力を有することができる。好適には、不連続表面を有する細胞培養チャンバーにおける剪断応力は、平坦な非不連続表面を有する細胞培養チャンバーよりも低い。
【0078】
光学分析をスクリーニングのために使用することができるように、チャンバーまたは容器またはウェルの底部は、70%または80%または90%以上の全光線透過率を有する材料から作製され得る。
【0079】
一実施形態では、細胞培養装置は、当該技術分野において広く利用可能なマイクロ流体細胞培養プレートである。例えば、M04Sマイクロ流体細胞培養プレートは、Cellasic,California,USAから入手可能であり、独立した4つのウェル/チャンバーを含み、各ウェル/チャンバーが、直径約2.8mmで、高さ120ミクロンである。
【0080】
一態様では、本開示の細胞培養装置は、マルチウェル細胞培養プレートの形態である。マルチウェル細胞培養プレートのウェル農地の少なくとも一つは、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む。当業者によって理解されるように、マルチウェル細胞培養プレートのような細胞培養装置は、共に嵌合されて完全な細胞培養装置を形成することのできる様々な構成要素部品を含み得る。使用時、これらの構成要素部品のすべてが装置内に存在する必要はない。従って、たとえば、本開示で使用するための特定の細胞は、本明細書下記で所望されるように、任意で細胞培養プレートのウェル内に収容され得るインサートで培養することができる。したがって、さらなる態様では、スフェロイドの凝集を低減または防止するよう適合された不連続表面を含む、マルチウェル細胞培養プレートなどの細胞培養装置で使用するためのインサートが説明されている。細胞培養装置および/またはインサートは、本明細書で詳細に説明するように、PEEKから製造され得る。細胞培養装置および/またはインサートは、本明細書で詳細に説明するように被覆されてもよく、好適には、被覆はpoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である。細胞培養装置および/またはインサートは、本明細書に詳細に説明するように、個別化された単一スフェロイドを含み得る。
【0081】
ポンプ
本開示で使用する一つ以上のポンプは、蠕動ポンプなどの流体を循環するように動作可能な容積移送式ポンプであり得る。当技術分野で理解されているように、蠕動ポンプは、流体を移動するために使用されるポンプである。流体は、本明細書に記載のチャネル内に含まれ得、チャネルは、ポンプケーシング内に収まる可撓性の管とすることができる。代替的に、チャネルがプレート内に直接機械加工される(例えば、埋め込まれる)場合には、このときはアダプターを使用して、機械加工または埋め込まれたチャネルをポンプに接続することができる。その外周に取り付けられたローターは、可撓性の管またはチャネルを圧縮する。ローターが回転すると、圧縮下にある管またはチャネルの部分が挟まれて閉じられ、管またはチャネルを通して流体が強制的に押される。
【0082】
一実施形態では、ポンプは、エンコーダを備えるステッパーモーターまたはブラシレスモーターを備える。
【0083】
各モーターは、モーターコントローラによって制御でき、その動作およびセンサーは、マイクロコントローラによって制御できる。
【0084】
インサート
本開示で使用するためのある特定の細胞は、所望により、細胞培養プレートのウェル内に収容し得るインサートで培養することができる。細胞は典型的には、インサート内に入れられた透過性膜上で増殖させることができる。一般に、細胞は透過性膜の頂部で培養されるであろう。インサートは、ウェルまたはチャンバー内に置かれる。ウェルまたはチャンバーが細胞培養培地などの流体で充填されるとき、流体は透過性膜を通過し、それらがインサート内で培養され得るように細胞に接触するであろう。本明細書に記載されるように、インサート内で異なる細胞型を培養することができる。インサートは商業的に入手可能である。一例として、ThinCert(商標)透過性細胞培養インサート(USA Scientific,Florida,USA)を使用することができる。これらは様々なサイズおよび仕上げで利用可能であり、本開示で使用するために、当業者によって容易に選択することができる。各インサートは、インサートをわずかに中心から離れるように配置することによって、毛細管作用を排除し、かつピペッタアクセスを最大化する自己位置決めハンガーを有することができる。ThinCert(商標)細胞培養インサートは、標準的なマルチウェルプレートと互換性がある。さらなる例として、Corning(登録商標)HTS Transwell(登録商標)透過性支持体(Sigma Aldrich,Dorset,United Kingdom)を使用することができる。Corning(登録商標)HTS Transwell(登録商標)透過性支持体は、硬質トレイによって接続された浸透性インサートを備えた24または96ウェルのアレイを有している。本明細書に記載される通り、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含むマルチウェル細胞培養プレートで使用するためのインサートが開示される。
【0085】
不連続表面
【0086】
本開示によると、マルチウェルプレートの基部などの細胞培養チャンバーの基部またはインサートは、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む。全てのチャンバーまたはウェルがスフェロイドの培養に使用され得、インサートが全てのウェルに存在しない場合があるため、細胞培養装置内に含まれ得る各チャンバーまたはウェルまたはインサートが不連続表面を含む必要がないこと理解されるべきである。例えば、一部のウェルは、その他の細胞型の培養に使用されてもよく、これは不連続表面またはインサートの使用を必要としない。例えば、一部のウェルは、気液界面を作り出すためにインサートの使用を必要とするまたは必要としない、他の細胞型の培養に使用され得る。
【0087】
好適には、不連続表面は、スフェロイドを捕捉して、その凝集または融合を低減または防止する。好適には、不連続表面は、単一スフェロイドを捕捉して、その凝集または融合を低減または防止する。
【0088】
ある特定の実施形態で、不連続的な表面は、一つ以上の溝によって形成される。溝は、スフェロイドを捕捉して、その凝集を低減または防止するように機能し得る。溝(複数可)のサイズは、一般的に、スフェロイドが溝内に捕捉されるか、または保持され得るように、スフェロイドの最大直径±10%に相応するであろう。好適には、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部上の平坦な表面の存在が、望ましくない大きな細胞凝集体の形成をもたらし得る、凝集するスフェロイドをもたらし得るため、溝は、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部の大部分を覆うことになる。ある特定の実施形態では、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部の少なくとも70%、80%、90%、95%、99%、または100%が、溝などの不連続な表面を含むであろう。
【0089】
好適には、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部の、複数の溝などの不連続表面の深さおよび幅は、約200μm~約1000μm、好適には、約200μm~約600μmである。約600μm~約1000μmの深さおよび幅もまた開示される。実際の深さおよび幅は、細胞培養チャンバーまたはインサート内で使用され、かつ捕捉されるように意図されたスフェロイドのサイズによって決定されるであろう。そのため、例えば、一部のスフェロイドは、約600μmの最大直径を有し、その場合、複数の溝などの不連続な表面の深さおよび幅は、約600μm±10%であろう。いくつかの実施形態では、複数の溝などの不連続的な表面の深さおよび幅が、スフェロイドの最大直径よりも大きいこと、例えば、スフェロイドの最大直径よりも20%、30%、40%、50%または60%以上大きいことが望ましい。一実施形態では、スフェロイドは600μmの最大直径を有し、複数の溝などの不連続な表面は、約1mmの高さと、約1mmの幅または約2mmの幅とを有する。
【0090】
一般に、溝の形状は、平坦形状の底部、U字形状、V字形状、または平坦な底部を有するV字形状などとすることができる。一実施形態で、溝は平坦な底部を有するV字形状を有する。一実施形態で、溝の開口部の最大幅は約2.4mmであり、溝の深さは約1mmであり、溝の基部上の平坦な底部の幅は約400μmである。この実施形態による溝の対向する側面の角度は、約90度である。
【0091】
図1を参照すると、それぞれが平坦な底部を有するV字形状の溝を含むその基部上に複数の溝16を有する細胞培養チャンバー12を備えた細胞培養装置10が示される。溝の開口部の最大幅は約2.4mmであり、溝の深さは約1mmであり、溝の基部上の平坦な底部の幅は約400μmである。溝の対向する側面の角度は、約90度である。複数の溝は、同じ形状を有するものとして図示されているが、異なる形状を有する溝を使用することができることが企図される。例えば、細胞培養チャンバーの基部は、溝のうちの一つ以上の形状が異なる複数の溝を含んでもよい。したがって、細胞培養チャンバーの基部は、平坦形状の底部、U字形状、V字形状、または平坦な底部を有するV字形状などのうちの二つ以上を含む複数の溝を含んでもよい。
【0092】
特定の実施形態では、溝は細胞培養チャンバーまたはインサートの基部上に複数の同心リングを形成する。一実施形態では、同心のリングの半径は、約1.05mm、約3.45および約5.85mmである。図2を参照すると、細胞培養チャンバー12の基部が溝16によって形成された複数の同心のリング17を有し、同心リングの半径が、1.05mm、約3.45および約5.85mmであることが示されている。
【0093】
ここで図4を参照すると、マルチウェルプレートの形態の細胞培養装置10の平面図が示されている。細胞培養装置10は、ウェルの形態の複数の細胞培養チャンバー12を含み、ウェルは複数の同心の溝17のいずれかを含むか、またはマイクロ流体チャネル18を含む。ウェルは、直線状で列に配置される。列は、同心の溝17を含む少なくとも一つのウェルを含むように構成され得る。列は、図4に示すように、同心の溝17を含む少なくとも一つのウェルと、マイクロ流体チャネル18を含む少なくとも一つのウェルを含むように構成され得る。
【0094】
チャネル19は、複数の同心の溝17を含むウェルと、マイクロ流体チャネル18を含むウェルとを接続する。各ウェルは、各ウェルへの、および各ウェルからの流体連通のための入口および出口を含む。図4は、同心の溝17のいずれかを含むか、またはマイクロ流体チャネル18を含む細胞培養装置10の細胞培養チャンバー12全てを示すが、当業者であれば、すべての細胞培養チャンバー12が、必ずしもこの方法で構成される必要がないこと、および細胞培養チャンバー12のうちの一つ以上が同心の溝17を含まないこと、および/またはマイクロ流体チャネル18を含まないことが可能であることを理解するであろう。必要に応じて、ウェル12のいくつかは空であって、使用されなくてもよい。
【0095】
特定の実施形態では、不連続表面は、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部にわたって波状として形成される一つ以上の溝によって形成される。
【0096】
ある特定の実施形態で、不連続な表面は複数の孔を含む。孔は通常、閉鎖された底部および開いた頂部を有するであろう。孔は、個々のスフェロイドを捕捉して、その凝集を低減または防止するように機能する。孔のサイズは、一般的に、スフェロイドが孔内に捕捉されるか、または保持され得るように、スフェロイドの最大直径±10%に相応するであろう。不連続表面は、細胞培養チャンバーの底部わたって分布された10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200個以上の孔を含み得る。不連続表面は、細胞培養チャンバーの底部にわたって分布された130~160個の孔を含み得る。不連続表面は、細胞培養チャンバーの底部にわたって分布された130~150個の孔を含み得る。不連続表面は、細胞培養チャンバーまたはインサートの底部にわたって分布された130~140個の孔を含み得る。一般に、孔の形状は、平坦形状の底部、U字形状、V字形状、または平坦な底部を有するV字形状などを含むことができる。孔の形状は、個々のスフェロイドを捕捉するために、孔がスフェロイドの最大直径±10%を収容できるという条件に、特に限定されない。特定の実施形態では、孔の深さおよび幅は、約200~約1000μm、好適には約600~約1000μmである。特定の実施形態では、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部の少なくとも70%、80%または90%以上が、孔で埋められている。
【0097】
図6を参照すると、その基部上に複数の孔26を有する細胞培養チャンバー(ウェル)22を備えた細胞培養装置20が示される。孔は、閉鎖された底部および開いた頂部を有する。各孔の最大幅は約0.8mmであり、溝の深さは約0.5mmである。孔の対向する側面の角度は、約118度である。複数の孔は、同じ形状を有するものとして図示されているが、異なる形状を有する孔を使用することができることが企図される。例えば、細胞培養チャンバーまたはインサートの基部は、孔の一つ以上の形状が異なる複数の孔を含み得る。したがって、細胞培養チャンバーの基部は、平坦形状の底部、U字形状、V字形状、または平坦な底部を有するV字形状などのうちの二つ以上を含む複数の孔を含んでもよい。
【0098】
図7は、図6に示した細胞培養装置20の平面図を示す。細胞培養チャンバー22の半径は、約8mmである。複数の孔26を含むチャンバー22の基部の半径は、約5.8mmである。各孔26の半径は、約0.4mmである。
【0099】
ここで図8を参照すると、マルチウェルプレートの形態の細胞培養装置20の平面図が示されている。細胞培養装置21は、ウェルの形態の複数の細胞培養チャンバー22を含み、ウェルは複数の孔27のいずれかを含むか、またはマイクロ流体チャネル28を含む。ウェル22は、直線状で列に配置される。列は、複数の孔27を含む少なくとも一つのウェルを含むように構成され得る。列は、複数の孔27を含む少なくとも一つのウェルと、マイクロ流体チャネル28を含む少なくとも一つのウェルを含むように構成され得る。チャネル29は、複数の孔27を含むウェルと、マイクロ流体チャネル28を含むウェルとを接続する。各ウェルは、各ウェルへの、および各ウェルからの流体連通のための入口および出口を含む。
【0100】
図8は、孔27のいずれかを含むか、またはマイクロ流体チャネル28を含む細胞培養装置21の細胞培養チャンバー22全てを示すが、当業者であれば、すべての細胞培養チャンバー22が、必ずしもこの方法で構成される必要がないこと、および細胞培養チャンバー22のうちの一つ以上が孔27を含まないこと、および/またはマイクロ流体チャネル28を含まないことが可能であることを理解するであろう。必要に応じて、ウェル22のいくつかは空であって、使用されなくてもよい。
【0101】
複数の細胞培養チャンバーの深さは、本開示に従って使用されるとき、細胞培養装置にわたって同一である必要はなく、マルチウェルプレートのウェルなどの細胞培養チャンバーが異なる深さを有し得ることが意図される。一実施形態では、不連続な表面または孔を含む細胞培養チャンバーは、インサートを含む細胞培養チャンバーよりも大きい深さを有する。少なくとも二つの細胞培養チャンバーを接続するチャネルは、チャネルが少なくとも二つの細胞培養チャンバーの基部から異なる距離に位置するように、同一の高さとすることができる。この構成により、チャンバー内への流体の流れが不連続な表面上に捕捉されたスフェロイドを攪乱または妨害しないことを確実にし、一方で流体がさらにインサートの透過性膜を通過できることを確実にする。
【0102】
この構成は図5に描写されており、その基部上に複数の溝16を有する第一の細胞培養チャンバー12aと、その中にマイクロ流体チャネル18を有する第二の細胞培養チャンバー12bとを備える細胞培養装置10が示される。第一の細胞培養チャンバー12aは、第二の細胞培養チャンバー12bよりも大きな深さを有する。第一の細胞培養チャンバー12aは、約20mmの深さを有し、第二の細胞培養チャンバー12bは、約18.3mmの深さを有する。チャネル19は、細胞培養チャンバー12aおよび12bのそれぞれと流体連通している。チャネル19は、第二の細胞培養チャンバー12bと比較して、第一の細胞培養チャンバー12aの基部から遠位に位置する。
【0103】
同様の構成がまた図9に描写されており、その基部上に複数の孔26を有する第一の細胞培養チャンバー22aと、その中にマイクロ流体チャネル28を有する第二の細胞培養チャンバー22bとを備える細胞培養装置20が示される。第一の細胞培養チャンバー22aは、第二の細胞培養チャンバー22bよりも大きな深さを有する。第一の細胞培養チャンバー22aは、約20mmの深さを有し、第二の細胞培養チャンバー12bは、約18.3mmの深さを有する。チャネル29は、細胞培養チャンバー22aおよび22bのそれぞれと流体連通している。チャネル29は、第二の細胞培養チャンバー22bと比較して、第一の細胞培養チャンバー22aの基部から遠位に位置する。
【0104】
スフェロイドを様々な実験で使用して、それらの生存能力、その形態およびそれらの機能性等のうち一つ以上を評価することができる。このような実験では、各実験で同数の細胞(つまり同数のスフェロイドを意味する)を確実に使用することが重要であり得る。本開示による不連続表面を使用することなく、いくつかのスフェロイドは共に融合して大きな組織を形成し得る。この大きな組織に存在するスフェロイドの数を正確に判定することは困難であり得るが、これは他の実験に組織を使用できないことを意味する。不連続表面が使用される時、スフェロイド間の距離を増大させて、それらの融合を減少または防止するが、それはスフェロイドの数が既知であるために、他の実験にそれらを使用できることを意味する。
【0105】
従って、本開示の一態様によれば、基部および基部から延びて細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、チャンバー内への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の入口と、チャンバーからの流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁の出口と、を備え、細胞培養装置の基部がスフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む、細胞培養装置の使用を含むスフェロイドの凝集を低減または防止する方法が開示される。
【0106】
一実施形態では、方法は、(i)一つ以上の個別スフェロイドを提供すること、(ii)個別のスフェロイドを細胞培養装置の細胞培養チャンバー内に移動すること、(iii)細胞培養装置内の個別のスフェロイドをインキュベートすること、および(iv)細胞培養装置の不連続表面上の個別のスフェロイドを得ることを含む。
【0107】
提供される個別のスフェロイドは、細胞培養プレートのウェルなど、一つのエンティティから移すことができる。エンティティは、個別のスフェロイドが移される細胞培養装置の細胞培養チャンバーから分離することができる。換言すると、エンティティは、細胞培養装置の細胞培養チャンバーから物理的に分離することができる。一定期間インキュベートした後、単一の個別スフェロイドまたは複数の個別のスフェロイドがマルチウェルプレートの各ウェルに存在、または形成される。ここから、個別のスフェロイドは、本明細書に記載される不連続表面を含み、かつ随意に被覆される細胞培養装置の細胞培養チャンバーに移され得る。有利なことに、既知の数の個別のスフェロイドはステップ(ii)で移すことができ、次いで既知の数の個別のスフェロイドをステップ(iv)で得ることができる。一実施形態では、約40~約100個のスフェロイドが細胞培養装置の細胞培養チャンバーに移される。ステップ(iv)で得られた既知の数の個別のスフェロイドは、一定期間インキュベートし得る。ステップ(iv)で得られた既知の数の個別のスフェロイドは、必要に応じてさらなる実験的解析に供され得る。本開示の一実施例では、細胞は、任意の低い付着処理および任意のU字型底部を有するマルチウェルプレートの各ウェルに播種される。細胞をウェルの底部で凝集させることができる。細胞が凝集を形成すると、それらは次いで約3日以内にスフェロイドを形成する。インキュベート後、単一のスフェロイドまたは複数のスフェロイドがマルチウェルプレートの各ウェルに形成される。スフェロイドのサイズは、各ウェルに播種された細胞数によって決定される。ここから、個別のスフェロイドは、本明細書に記載される不連続表面を含み、かつ随意に被覆される細胞培養装置の細胞培養チャンバーに移される。各個別のスフェロイドは、マルチウェルプレートから細胞培養装置の細胞培養チャンバーに独立して移される。一実施形態では、約40~100個の個別のスフェロイドが細胞培養装置の細胞培養チャンバーに移される。最後に、細胞培養装置は、培地の流れを生成するポンプに接続される。既知の数の個別のスフェロイドは、その他の実験で使用される約1~約28日間、この状態に留まることができる。
【0108】
細胞源
本開示は、様々な細胞源を利用する。一実施形態では、本開示は、対象から細胞試料を単離するか、または取得する工程を含まない。細胞は、冷凍保存することができる。細胞は、3次元細胞培養物にあることができる。細胞は、組織の形態とすることができる。細胞は、スフェロイドの形態とすることができる。細胞は、活発に分裂していてもよい。細胞は、細胞培養培地(例えば、栄養素(例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸)、エネルギー(例えば、炭水化物)、必須金属および鉱物(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン酸塩、硫酸塩)、緩衝剤(例えば、リン酸塩、酢酸塩)、pH変化の指示薬(例えば、フェノールレッド、ブロモ-クレゾールパープル)、選択剤(例えば、化学薬品、抗菌剤)などを含む)の細胞培養装置で培養され得る。単一細胞培養培地を使用して、同じまたは異なる型の細胞を増殖させることができる。異なる細胞培養培地を使用して、異なる型の細胞を増殖させることができる。細胞培養培地は本開示に従って循環されるため、その後、異なる細胞培養培地の混合が発生する。
【0109】
いくつかの実施形態では、一つ以上の作用物質が、一つまたは複数の細胞培養培地内に含まれる。細胞は、当該技術分野において周知の方法を使用して、組織または液体から単離することができる。細胞は、幹細胞-例えば、胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞から分化され得るか、または体細胞から直接分化され得る。細胞は、天然細胞または変異細胞(例えば、一つ以上の非天然遺伝子変異を含む細胞)であってもよい。細胞は、疾患細胞または疾患モデル細胞であってもよい。例えば、細胞は、癌細胞、または超増殖状態に誘導され得る細胞(例えば、形質転換細胞)とすることができる。
【0110】
細胞は、ヒトもしくは動物対象、またはヒトもしくは動物細胞であってもよく、またはそれらに由来してもよく、多くの哺乳動物種のいずれか、適切にはヒトが含まれるが、ラット、マウス、ブタ、ウサギ、および非ヒト霊長類なども含まれる。細胞および細胞株は、商業的供給源から取得することもできる。細胞は、限定するものではないが、副腎、膀胱、血管、骨、骨髄、脳、軟骨、子宮頸部、角膜内、子宮内膜、食道、消化器系、免疫系(例えば、Tリンパ球、Bリンパ球、白血球、マクロファージ、および樹状細胞)、肝臓、肺、リンパ系、筋肉(例えば、心筋)、神経系、卵巣、膵臓(例えば、島細胞)、下垂体、前立腺、腎臓、唾液腺、皮膚、腱、睾丸、および甲状腺を含む任意の望ましい組織または器官タイプ由来であり得る。
【0111】
肺細胞-肺上皮細胞を含む-は、特に関心のある一つの細胞型である。気管支および/または他の気道の上皮細胞は、本開示で特に有用である。ヒト気管支上皮細胞は、気管支鏡検査手順の間にドナーの肺をブラッシングすることにより採取することができる。一実施形態では、肺細胞は、正常なヒト気管支上皮(NHBE:Normal Human Bronchial Epithelial)細胞である。肺上皮細胞は、未分化細胞の単層として培養されか、または気液界面で器官型肺上皮様組織へとさらに分化させることができる。肺上皮細胞は、喫煙者または非喫煙者と分類される対象を含む、異なる病態のヒト対象または動物対象から取得することができる。
【0112】
肝臓細胞は、特に関心のある別の細胞型である。一実施形態では、使用される細胞は肝細胞である。肝細胞は肝臓の細胞であり、肝臓の細胞質塊の70~85%を構成する。肝細胞の機能性は、極性表現型を形成するそれら能力に大きく依存しており、極性表現型は3次元培養でのみ確立される。肝臓細胞の一つの供給源は、初代肝細胞であり、肝臓の生理および病理の多くの態様を研究するために広く使用されているインビトロモデルである。ヒト肝細胞を単離するために使用される技術は、提供された肝臓の二段階コラゲナーゼ潅流に基づくことができる。しかしながら、これらの細胞は、代謝酵素を5日を超えて発現しない。別の制約は、その短い生存期間である。これらの欠点は、代替的な長期生存型肝臓細胞株-例えば、ヒトまたは動物の肝前駆細胞株などを使用することで克服することができる。ヒト肝前駆細胞株のこのような一例は、HepaRG(商標)細胞株(ThermoFisher Scientific)である。HepaRG(商標)細胞は、初代ヒト肝細胞の多くの特徴を保有している。これらは、初代肝細胞と比較して、より大きな肝特異性および代謝遺伝子発現、ならびにより長い生存期間を有する。3次元スフェロイド中でのHepaRG(商標)細胞の再組織化は、生存期間および代謝能力の両方をさらに上昇させることから、スフェロイドが、毒性試験のための、より優れた代替インビトロ肝臓モデルを提供し得ることを示唆している。肝スフェロイドは、初代肝細胞と肝星細胞との混合物、または初代肝細胞と脂肪組織由来幹細胞との混合物を用いて生成することもできる。
【0113】
一実施形態では、肺細胞は、肺上皮細胞-例えば、気管支および/または他の気道の上皮細胞である。
【0114】
一実施形態では、肝臓細胞は肝細胞であり、好適には、HepaRG細胞である。
【0115】
細胞の組み合わせ
本明細書に記載の細胞のいずれかの組み合わせの使用が企図される。本明細書に記載の細胞のいずれかの組み合わせの、細胞培養装置内または細胞培養装置を含むシステムまたは装置内での使用が企図される。細胞の一つの例示的組み合わせは、肝臓細胞および肺細胞の組み合わせである。例えば、気管支および/または気道の上皮細胞などの肺上皮細胞と、例えばHepaRG(商標)細胞などの肝臓細胞の組み合わせが企図される。必要に応じて、この組み合わせと共に追加の細胞を使用することができる。
【0116】
組み合わせの異なる細胞が、別々のウェルで培養され得る。
【0117】
3次元細胞培養
本開示は、「3次元細胞培養」の使用を組み込んでおり、これは、マトリックスまたはスキャフォールド-例えば、インサート内の透過性膜の使用を伴うか、または伴わずに、3次元での細胞の培養物を提供する任意の方法を含む。スフェロイド培養および器官型培養を含む、多くの様々な3次元細胞培養方法が開発されている。3次元細胞は、本明細書に記載の細胞培養装置で増殖および/または維持することができる。
【0118】
「スフェロイド」という用語は、スフェロイド内での3次元細胞の増殖を支援するためのマトリックスもしくはスキャフォールドの使用を伴うか、または伴わないかのいずれかで、3次元の細胞の球へ、または3次元の複数の細胞の凝集のいずれかへ分裂する単一細胞である、当分野で通常理解される意味とみなされる。3次元スフェロイドは、付着性スフェロイドまたは懸濁液中で増殖したスフェロイドであってもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、スフェロイドは単一の細胞型を含んでいる。いくつかの実施形態では、スフェロイドは二つ以上の細胞型を含んでいる。いくつかの実施形態では、二つ以上のスフェロイドが増殖される場合、各スフェロイドは同じ型であり、一方、他の実施形態では、二つ以上の異なるタイプのスフェロイドが増殖される。
【0120】
3次元スフェロイドは、その細胞内情報伝送および細胞外マトッリクスの発生という点で、インビボ組織に非常によく似ている。このマトッリクスは、生きた組織中で細胞が移動する方法と同様に、スフェロイド内での細胞の移動を補助する。したがって、スフェロイドは、分化、生存、細胞移動、細胞極性化、遺伝子発現、および成長に関し、大きく改善されたモデルである。
【0121】
スフェロイドは、プレートリーダーを用いて計測される比色分析、蛍光、および発光アッセイが含まれる、当該技術分野において周知の様々な方法を使用して採取および研究でき、または顕微鏡で容易に観察できる。追加の技法としては、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、またはサザンブロット、組織学的技法(例えば、免疫組織化学法、インサイチューハイブリダイゼーション、免疫蛍光法)、およびこれに類するものが挙げられる。倒立明視野顕微鏡および蛍光顕微鏡などの光学撮像法の使用もまた意図される。
【0122】
3次元スフェロイドの使用の応用としては、インビボで存在するものにより近い環境中でのインビトロで細胞および組織を増幅させる研究、化合物のスクリーニング、毒性アッセイ、細胞療法、細胞送達、薬物送達、生化学的置き換え、生体活性分子の産生、ティッシューエンジニアリング、バイオマテリアル、および臨床試験などが挙げられる。
【0123】
3次元細胞培養でのスフェロイドの使用は、Expert Opin.Drug Discov..(2015)10,519-540に概ね概説されている。
【0124】
3次元器官培養システム、特にその小型化版は、微量分析で器官がどのように機能するかの実験を可能とし、それゆえに本開示において使用され得る。特定の刺激に対する応答、一つの作用物質に対する応答、およびこのような作用物質の薬物動態学的挙動に対する応答を研究することができる。小型化された3次元細胞培養システムにより、細胞または器官の群の組み合わせ研究が可能になる。これにより、異なる組織間の相互作用の複雑性が再現することが可能になる。3次元器官培養は、器官型とすることができ、これは、器官または器官系の主要機能の再現を試みることを意味している。ウェルを相互接続する小型化された流体システムも企図される。
【0125】
一態様では、スフェロイドが、培養の5時間後または培養の5日後の個別化した単一スフェロイドの形態であるスフェロイドの培養が提供される。換言すると、スフェロイドは凝集も融合もされない。
【0126】
肝臓ベースの3次元培養
肝臓は、解毒、炭水化物、脂質およびタンパク質の代謝、ならびに内因性物質および外因性物質の生体内変化において重要な役割を果たしている。肝臓の機能は、高度に専門化した細胞の組立と密接に連携しており、それら細胞の大部分は、いわゆる小葉を構成する複雑な3次元構造中に埋め込まれた肝細胞である。通常、化合物の生体内変化は、非毒性かつより可溶性の代謝物をもたらすが、稀に、肝毒性が生じるより毒性の高い代謝物が形成される場合がある。
【0127】
肝細胞は、様々な方法を介して3次元に維持することができ、その方法としては、サンドイッチ培養、固体スキャフォールド材料-例えば、ポリスチレンスキャフォールド、ヒドロゲル-例えば、I型コラーゲン、またはスフェロイドへの自己集合の使用が挙げられる。
【0128】
単離されたばかりの初代ヒト肝細胞を使用することは、好ましい肝臓細胞型である一方で、その入手可能性は限定的である。ヒト肝臓細胞株の他の選択としては、HepG2およびHep2/C3A細胞が挙げられる。特に好適な細胞源は、HepaRG(商標)細胞株である。ヒト肝細胞の他の供給源は、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来肝細胞、および誘導多能性幹細胞(iPSC)に由来する肝細胞である。
【0129】
一の実施形態において、3次元肝スフェロイドを形成するためには、スフェロイドは、肝臓細胞であるか、または肝臓細胞に由来する。かかる肝スフェロイドは、当該技術分野において既知である様々な方法で、例えば、ALTEX(2014)31,441-477およびToxicol.Sci.(2013)133,67-78に記載される方法を使用して調製することができる。
【0130】
肺ベースの3次元培養
気道の形態は、上部気道から下部気道へと変化するため、多くの異なる細胞培養モデルが初代気道上皮細胞または細胞株を使用して確立されており、本開示における使用が企図される。どの細胞または細胞株を使用するかの正確な選択は、所与の研究に対する気道の対象領域に依存するであろう。
【0131】
肺表面は空気に曝されるため、この細胞モデルは気液界面で培養され、より現実的な肺を模倣することができる。
【0132】
一実施形態では、肺の3次元培養は肺細胞であるか、またはそれに由来し、3次元器官型組織を形成する。かかる肺組織は、当分野に公知であり、たとえばALTEX(2014)31,441-477、およびToxicol.(2013)133,67-78に記載される方法を使用して調製することができる。
【0133】
スクリーニング
本開示の細胞培養装置は、サンプリングまたはスクリーニングにおいて、任意にリアルタイムで使用することができる。細胞培養装置に含まれる細胞に対する一つ以上の作用物質の作用を、任意にリアルタイムで決定することができる。細胞培養装置は、例えば、作用物質/薬物の発見、作用物質/薬物特性評価、有効性試験、および毒性試験などで使用することができる。それはサンプリングまたはスクリーニング装置の一部として使用できる。このような試験としては、薬理学的作用評価、発癌性評価、医療用造影剤特性評価、半減期評価、放射線安全性評価、遺伝子毒性試験、生殖・発生試験、薬物/作用物質相互作用評価、用量評価、吸着評価、体内動態評価、代謝評価、免疫毒性試験、処分評価、代謝評価、排泄試験などが挙げられるが、これらに限定されない。特定の細胞型は、特定の試験に使用され得る(例えば、肝毒性には肝細胞、腎毒性には腎近位尿細管上皮細胞、血管毒性には血管内皮細胞、神経毒性にはニューロンおよびグリア細胞、心毒性には心筋細胞)。
【0134】
一態様では、インビトロで作用物質に対する細胞または組織の応答を評価するための方法が記載されており、本方法は、(i)本明細書に記載の細胞培養装置に含まれる細胞または組織を、少なくとも一つの作用物質と接触させることと、(ii)少なくとも一つの作用物質と接触した後の一つ以上の応答を測定することと、を含み、少なくとも一つの作用物質との接触前および接触後の一つ以上の応答における差異は、作用物質が細胞または組織の応答を調節することを示す。
【0135】
さらなる態様では、インビトロで作用物質に対する二つ以上の細胞、組織または器官の応答を評価するための方法が記載されており、本方法は、(i)本明細書に記載の通り、細胞培養装置に含まれた細胞、組織または器官のうちの少なくとも一つを、少なくとも一つの作用物質と接触させることと、(ii)少なくとも一つの作用物質との接触後の一つ以上の細胞、組織または器官における一つ以上の応答を測定することと、を含み、少なくとも一つの作用物質との接触前および接触後の一つ以上の細胞の一つ以上の応答における差異は、作用物質が少なくとも一つの細胞、組織または器官の応答を調節することを示す。
【0136】
好適には、細胞または組織への少なくとも一つの作用物質の作用または浸透が測定され、または決定される。好適には、細胞または組織への少なくとも一つの作用物質の生体内活性化が測定され、または決定される。好適には、細胞または組織への少なくとも一つの作用物質の代謝が測定され、または決定される。これらのステップは、同時に、または互いに逐次的に行うことができる。
【0137】
一つ以上の作用物質のエアロゾルなどの作用物質の、細胞、組織または器官への浸透に及ぼす作用、および別の細胞または組織によるそのさらなる生体内活性化または代謝に及ぼす作用は、当該技術分野で周知の様々な方法を使用して決定することができる。
【0138】
作用物質を細胞培養装置に添加することができ、そこに含まれる培養された細胞または組織への効果が監視または判定できる。測定され得る作用の例としては、酸素の消費、二酸化炭素の産生、細胞の生存能力、タンパク質の発現、酵素の活性、浸透、透過/バリア機能、表面活性物質の産生、サイトカインへの応答、トランスポーター機能、チトクロームP450の発現、アルブミン分泌などが挙げられる。
【0139】
細胞培養装置をエアロゾルに曝露することができ、そこに含まれる培養された細胞または組織への効果が監視または判定できる。測定され得る作用の例としては、酸素の消費、二酸化炭素の産生、細胞の生存能力、タンパク質の発現、酵素の活性、浸透、透過/バリア機能、表面活性物質の産生、サイトカインへの応答、トランスポーター機能、チトクロームP450の発現、アルブミン分泌などが挙げられる。
【0140】
異なる濃度の作用物質を用いて複数のアッセイを並行して行い、様々な濃度に対する異なる応答を取得してもよい。当該技術分野において既知であるように、作用物質の有効濃度の決定プロセスは、通常、1:10または他の対数尺度の希釈から得られる濃度範囲を使用する。もし必要であれば、二回目の連続希釈を用いて濃度をさらに微細化してもよい。通常、これら濃度のうちの一つは、陰性対照として機能する。
【0141】
作用物質
作用物質は、対象の任意の化合物であってもよく、小有機化合物、ポリペプチド、ペプチド、高分子量炭水化物、ポリヌクレオチド、脂肪酸ならびに脂質、ナノ粒子、エアロゾルもしくはエアロゾルの一つ以上の構成成分など、薬物、毒素、病原体、抗原、抗体、および小分子などが挙げられる。作用物質は、個々に、または化合物のセットもしくはコンビナトリアルライブラリーでスクリーニングされてもよい。作用物質は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む、多種多様な供給源から得ることができる。細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形態である、天然化合物ライブラリーを使用することができる。天然のまたは合成的に作製されたライブラリー、および従来の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を介して改変された化合物を使用して、コンビナトリアルライブラリーを作製してもよい。既知の薬理学的作用物質は、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、酸性化などの化学的改変を直接または無作為にかけられ、スクリーニング用の構造的アナログを作製してもよい。コンビナトリアルライブラリーを使用してスクリーニングを行う際、化学的に類似した、または化学的に多様な作用物質の大きなライブラリーをスクリーニングすることができる。コンビナトリアルスクリーニングにおいて、見いだされるヒット数は、試験された作用物質の数に比例する。一日当たり試験される化合物が数千にもなり得る多数の化合物をスクリーニングしてもよく、その場合、ラボラトリーオートメーションおよびロボット工学が適用されてもよい。分子ライブラリー合成方法の多くの例を、当該技術分野において見出すことができる。小有機化合物としては、約5,000ダルトン未満、通常は約2,500未満、通常は約2,000未満、より通常には約1,500未満、好適には約100~約1,000ダルトンの分子量の化合物が挙げられる。小有機化合物は、生体有機化合物にまたは合成有機化合物のいずれかであってもよい。小有機化合物中に存在する原子は、一般的には、炭素、水素、酸素、および窒素を含む基の中にあり、もし薬学的に許容可能な形態であれば、ハロゲン、ホウ素、リン、セレニウムおよび硫黄を含んでもよい。概して、もし存在する場合、酸素、窒素、硫黄またはリンは、炭素に結合されているか、または互いに一つ以上で結合されているか、または水素と結合され、例えば、カルボン酸、アルコール、チオール、カルボキサミド、カルバメート、カルボン酸エステル、アミド、エーテル、チオエーテル、チオエステル、ホスフェート、ホスホネート、オレフィン、ケトン、アミン、アルデヒドなどの様々な官能基を形成する。低分子有機化合物は、本明細書においてその用語が使用される場合、約5,000ダルトン未満の分子量を有する小さなペプチド、小さなオリゴヌクレオチド、小さな多糖、脂肪酸、脂質なども含有する。
【0142】
薬学的な剤の例としては、The Pharmacological Basis of Therapeutics,Goodman and Gilman,McGraw-Hill,New York,N.Y.,(1996),Ninth editionに記載されている。作用物質は、毒素であってもよい。
【0143】
溶液中の作用物質および好適な溶媒中に溶解できる固形試料を、アッセイすることができる。ガス状の作用物質も、試料を一定期間、気体に暴露することによりアッセイすることができる。対象の試料としては、環境試料、生体試料、製造試料、化合物ライブラリー、ならびに合成化合物および天然化合物が挙げられる。
【0144】
少なくとも約5,000ダルトン、より通常には少なくとも約10,000ダルトンの分子量を有するポリペプチドもスクリーニングすることができる。試験用ポリペプチドは通常、約5,000~約5,000,000ダルトン以上の分子量、より通常には約20,000~約1,000,000ダルトンの分子量である。多種多様なポリペプチド、例えば、類似した構造特性を有するポリペプチドのファミリー、特定の生物学的機能を有するポリペプチド、特定の微生物、特に病原性微生物に関連したポリペプチドなどを検討してもよい。このようなポリペプチドとしては、サイトカインまたはインターロイキン、酵素、プロタミン、ヒストン、アルブミン、免疫グロブリン、スクレロポリペプチド(scleropolypeptides)、ホスホポリペプチド(phosphopolypeptides)、ムコポリペプチド(mucopolypeptides)、クロモポリペプチド(chromopolypeptides)、リポポリペプチド(lipopolypeptides)、ヌクレオポリペプチド(nucleopolypeptides)、グリコポリペプチド(glycopolypeptides)、T細胞受容体、プロテオグリカン、ソマトトロピン、プロラクチン、インスリン、ペプシン、ヒト血漿中に存在するポリペプチド、血液凝固因子、血液型判定因子、ペプチドおよびポリペプチドホルモン、癌抗原、組織特異性抗原、栄養マーカー、および合成ペプチドが挙げられ、それらは糖化されていても、糖化されていなくてもよい。
【0145】
ポリヌクレオチドをスクリーニングしてもよい。試験用ポリヌクレオチドは、天然化合物または合成化合物であってもよい。ポリヌクレオチドとしては、オリゴヌクレオチドが挙げられ、例えば、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドなどの天然ヌクレオチドならびにそれらの誘導体から構成されているが、例えば、2’-修飾ヌクレオシド、ペプチド核酸、およびオリゴマーヌクレオシドホスホン酸塩などの非天然ヌクレオチド模倣体も企図される。高分子量のポリペプチドは、約20~約5,000,000個以上のヌクレオチドを有することができる。
【0146】
測定され得る一つ以上の変数としては、細胞の定量化可能な要素、細胞内物質、細胞構成要素、または細胞産物が挙げられ、特に、高スループットアッセイシステムまたはデバイスで正確に測定され得る要素が挙げられる。出力は、任意の細胞、細胞構成要素、細胞産物の特性、条件、状態または機能であってもよく、生存能力、呼吸、代謝、細胞表面決定基、受容体、タンパク質またはそれらの構造変化もしくは翻訳後変化、脂質、炭水化物、有機分子もしくは無機分子、DNA、RNAなど、またはかかる細胞構成要素に由来する部分が挙げられる。変数(複数可)は、定量的な読み出しを提供することができる一方で、場合によっては、半定量的または定性的な結果を得ることができる。読み出し変数には、例えば、単一値、または平均値、または中央値、またはそれらの分散を含んでもよい。
【0147】
様々な方法を使用して変数を測定し、作用物質に対する細胞、組織または器官の応答を決定することができる。存在している分子の量を測定するための一つの方法は、作用物質を検出可能な部分で標識することであり、その部分は、蛍光、発光、放射活性、酵素活性などであってもよい。蛍光部分および発光部分は、生体分子、構造、または細胞型の標識に利用可能である。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質だけでなく、特定の構造、切断産物、またはリン酸化のような修飾部位への結合も指向させることができる。個々のペプチドおよびタンパク質を操作して、自家蛍光させることができる。免疫アッセイ技術-例えば、免疫組織化学法、放射免疫アッセイ(RIA)、または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および関連する非酵素技術を使用することができる。これらの技術は、特異抗体をレポーター分子として利用し、特異抗体は、一分子標的への結合に対して高度な特異性のために、特に有用である。細胞ベースのELISAまたは関連する非酵素法もしくは蛍光ベースの方法は、細胞表面パラメータの測定を可能とする。
【0148】
スクリーニングアッセイの結果は、基準化合物、濃度曲線、対照などから得られた結果と比較してもよい。作用物質は、エアロゾル-例えば、煙または煙由来のエアロゾルであってもよい。
【0149】
エアロゾル
本開示の実施形態は、本開示の細胞培養装置に含まれる時、細胞、器官または組織上のエアロゾルの作用、またはエアロゾルの細胞、器官または組織への浸透の研究のために使用され得る。エアロゾルは、エアロゾル形成デバイスにより誘導、または生成されてもよい。喫煙物品および喫煙可能物品は、ある種のエアロゾル形成デバイスである。喫煙物品または喫煙可能物品の例には、紙巻タバコ、シガリロ、および葉巻タバコが挙げられるが、これに限定されない。ある特定のエアロゾル形成デバイスでは、燃焼ではなく、タバコ組成物または別のエアロゾル形成材料が、一つ以上の電気加熱素子によって加熱されて、エアロゾルを生成する。別のタイプの加熱式エアロゾル形成デバイスでは、エアロゾルは、可燃性燃料要素または熱源からの熱を、熱源の内部、周囲、または下流に位置し得る物理的に分離されたエアロゾル形成材料に伝達させることにより生成される。典型的には、加熱される喫煙物品において、エアロゾルは、熱源からの熱を、熱源の内部、周囲、または下流に位置し得る物理的に分離されたエアロゾル形成基材または材料に伝達させることにより発生する。喫煙中、熱源からの熱伝送によってエアロゾル形成材料から揮発性化合物が放出され、喫煙物品を介して吸い込まれた空気中に混入される。放出された化合物が冷えるにつれて、これらは凝縮してユーザーによって吸入されるエアロゾルを形成する。本明細書で使用される場合、「エアロゾル形成材料」という用語は、エアロゾルを形成し得る、加熱することで揮発性化合物を放出することができる材料を記載するために使用される。エアロゾル形成材料は、植物系材料であってもよい。エアロゾル形成材料の例としては、タバコ組成物、タバコ、タバコ抽出物、刻みタバコ、刻みフィラー、乾燥処理タバコ、葉タバコ(expanded tobacco)、拡張したタバコ、均質化したタバコ、紙様葉タバコ(reconstituted tobacco)、およびパイプタバコが挙げられるが、これに限定されない。あるいはエアロゾル形成材料は、非植物系含有材料を含んでもよい。
【0150】
エアロゾルは、煙の形態であり得る。本明細書で使用される場合、「煙」という用語は、紙巻タバコを吸うことからなどの燃焼から、またはエアロゾル形成材料を燃焼することによって生成される一種のエアロゾルを記述するために使用される。煙は様々な作用物質を含み、それらはもし必要であれば研究用の個々の化合物として提供され得る。このような作用物質の例としては、ニコチンフリー乾燥粒子状物質、 一酸化炭素、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、メチル-エチルケトン、ブチルアルデヒド、ベンゾ[a]ピレン、フェノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,3-ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、ベンゼン、トルエン、ピリジン、キノリン、スチレン、N’-ニトロソノルニコチン(NNN)、N’-ニトロソアナタビン(NAT)、N’-ニトロソアナバシン(NAB)、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(NNK)、1-アミノナフタレン、2-アミノナフタレン、3-アミノビフェニル、4-アミノビフェニル、窒素酸化物(NOx)、シアン化水素酸、アンモニア、ヒ素、カドミウム、クロム、鉛、ニッケル、セレンおよび水銀が挙げられる。
【0151】
本明細書に記載の細胞培養装置は、煙に様々な時間曝露され得る。煙は、Vitrocell暴露モジュールを使用して、送達させることができる(Chem Cent J.(2014)8(1):62を参照されたい)。タバコ一本当たりの規定された吹き数、および曝露一分当たりの規定された吹き数を使用してもよく、タバコの本数を変えて、曝露濃度を調整してもよい。基準紙巻タバコ-例えば、基準紙巻タバコ3R4Fを煙の供給源として使用してもよく、および国際基準化機構(International Organization for Standardization)の喫煙レジメン(ISO 2000)に基本的に準拠して喫煙ロボット上で喫煙させてもよい。
【0152】
製造
細胞培養装置は、様々な製造方法を使用して作製され得る。例えば、装置は、射出成形された部品を使用して組み立てることができ、または単一の構成要素部品として製造することができる。不連続表面は、コンピュータの数値制御機械加工または射出成形を使用して調製または適用することができる。必要ではないが、光学的透明性のために、2mm以下の厚さを維持することが有利である。個別の部品は、限定するものではないが、接着または溶剤結合、熱融着または溶接、圧縮、超音波溶接、レーザ溶接、および/または部品間の封止の生成に一般的に使用されるその他任意の方法を含む様々な方法によって組み立てられ得る。
【0153】
PEEK
本明細書に記載されるように、細胞培養装置は、小分子に対して吸収性がないという利点を有するため、PEEKから製造することができる。ニコチンおよびNNKに対するPEEKの吸収性を試験し、これらの分子がこの材料によって捕捉されないことが明らかとなった。PEEKの使用は小疎水性分子を捕捉しないため、これは重要であり得る。したがって、こうした細胞培養装置は、材料によって薬物濃度(またはその代謝物の濃度)の変わるリスクがなく、装置またはその他の装置内に収容される細胞または組織への薬物効果の試験に特に適している。したがって、PEEKを含むか、またはPEEKからなる細胞培養装置または細胞培養装置で使用するためのインサートが開示される。
【0154】
したがって、PEEKから(独占的に)製造された細胞培養装置も開示されている。
【0155】
PEEKを含むか、またはPEEKからなる細胞培養プレートも開示されている。
【0156】
PEEKから(独占的に)製造された細胞培養プレートも開示されている。
【0157】
したがって、PEEKを含むか、またはPEEKからなる細胞培養プレートのウェルも開示されている。
【0158】
PEEKから(独占的に)製造された細胞培養プレートのウェルも開示されている。
【0159】
PEEKを含むか、またはPEEKからなるインサートも開示される。
【0160】
PEEKから(排他的に)製造されたインサートが開示される。
【0161】
PEEKを含むか、またはPEEKからなるマルチウェル細胞培養プレートも開示されている。
【0162】
PEEKから(独占的に)製造されたマルチウェル細胞培養プレートも開示されている。
【0163】
好適には、細胞培養デバイス、細胞培養プレート、ウェルまたはマルチウェル細胞培養プレートまたはインサートは、一つ以上の小疎水性分子-例えば、一つ以上の小疎水性作用物質を含む。一実施形態では、作用物質は、タバコアルカロイドを含むか、またはそれからなる。
【0164】
一実施形態では、作用物質は式1の構造を含むか、
【化1】
またはその薬学的に許容可能な塩もしくはその混合物であって、
または、より好適には、式2の構造であるか、
【化2】
またはその薬学的に許容可能な塩もしくはその混合物であって、
式中、
zは、0または1であり、
1は、HまたはC1~C7アルキルを表し、
2は、H、=O、またはC1~C7アルキルを表し、
3は、H、ハロ、またはC1~C7アルキルを表し、
点線は、以下の、
(a)単結合、
(b)一つの炭素/炭素または炭素/窒素二重結合および残りの単結合、または
(c)炭素/窒素二重結合および炭素/炭素二重結合および残りの単結合から独立して選択される二つの共役二重結合、のいずれかを表す。
【0165】
好適には、式2の作用物質は、
【化3】
または
【化4】
またはその薬学的に許容可能な塩もしくはその混合物である。
好適には、式2の作用物質は、
【化5】
または
【化6】
またはその薬学的に許容可能な塩もしくはその混合物である。
【0166】
より好適には、式1または式2の作用物質は、タバコアルカロイドである。
【0167】
より好適には、式1または式2の作用物質は、ニコチン、アナバシン、ノルニコチン、アナタビン、コチニン、ミオスミンまたはその薬学的に許容可能な塩もしくはその混合物である。
【0168】
「タバコアルカロイド」は、タバコ植物体であるか、またはタバコ植物体から誘導可能であるアルカロイドを指し、合成タバコアルカロイドを含み得る。「タバコ植物」は、ニコチアナ(Nicotiana)属に属する植物を指し、N.rusticaおよびN.tabacum(例えば、LA B21、LN KY171、TI 1406、Basma、Galpao、Perique、Beinhart 1000-1、およびPetico)が含まれる。その他の主としては、N.acaulis、N.acuminata、N.africana、N.alata、N.ameghinoi、N.amplexicaulis、N.arentsii、N.attenuata、N.azambujae、N.benavidesii、N.benthamiana、N.bigelovii、N.bonariensis、N.cavicola、N.clevelandii、N.cordifolia、N.corymbosa、N.debneyi、N.excelsior、N.forgetiana、N.fragrans、N.glauca、N.glutinosa、N.goodspeedii、N.gossei、N.hybrid、N.ingulba、N.kawakamii、N.knightiana、N.langsdorffii、N.linearis、N.longiflora、N.maritima、N.megalosiphon、N.miersii、N.noctiflora、N.nudicaulis、N.obtusifolia、N.occidentalis、N.occidentalis subsp.hesperis、N.otophora、N.paniculata、N.pauciflora、N.petunioides、N.plumbaginifolia、N.quadrivalvis、N.raimondii、N.repanda、N.rosulata、N.rosulata subsp.ingulba、N.rotundifolia、N.setchellii、N.simulans、N.solanifolia、N.spegazzinii、N.stocktonii、N.suaveolens、N.sylvestris、N.thyrsiflora、N.tomentosa、N.tomentosiformis、N.trigonophylla、N.umbratica、N.undulata、N.velutina、N.wigandioides、およびN.x sanderaeが挙げられる。好適には、タバコ植物体は、N.tabacumである。
【0169】
「C1~C7アルキル」は、一般的に1~7個の炭素原子を有する直鎖および分岐鎖の飽和炭化水素基、より好適にはC1~C6アルキル、より好適にはC1~C3アルキルを指す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ペンタ-1-イル、ペンタ-2-イル、ペンタ-3-イル、3-メチルブタ-1-イル、3-メチルブタ-2-イル、2-メチルブタ-2-イル、2,2,2-トリメチルエタ-1-イル、n-ヘキシル、n-ヘプチルなどが挙げられる。好適には、アルキル基は、メチルである。
【0170】
「ハロ」は、F、Cl、Br、またはIを指す。好適には、ハロは、Clである。
【0171】
別の実施形態ではその作用物質は、ニコチン、ノルニコチン、アナタビン、およびアナバシンを含むタバコアルカロイドの二級および三級アミンのニトロソ化によって形成される化学物質である、タバコ特異的ニトロソアミン(TSNA)である。TSNAは、一部のタバコおよびタバコ製品に見られる。適切には、TSNAは、N-ニトロソニコチン(NNN)、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(NNK)、N-ニトロソアナバシン(NAB)、N-ニトロソアナタビン(NAT)、4-(メチルニトロソアミノ)4-(3-ピリジル)ブタナール(NNA)、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノール(NNAL)、4-(メチルニトロソアミノ)4-(3-ピリジル)-1-ブタノール(イソ-NNAL)、または4-(メチルニトロソアミノ)4-(3-ピリジル)-1-酪酸(イソ-NNAC)、またはその薬学的に許容される塩もしくはその混合物である。より適切には、TSNAは、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(NNK)、またはその薬学的に許容される塩である。
【0172】
好適には、有機溶媒は、飽和脂肪族炭化水素(例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン);脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、ブタン-1-オール、2-メチル-プロパン-1-オール、ブタン-2-オール、2-メチル-プロパン-2-オール、ペンタン-1-オール、3-メチル-ブタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、2-メトキシ-エタノール、2-エトキシ-エタノール、2-ブトキシ-エタノール、2-(2-メトキシ-エトキシ)-エタノール、2-(2-エトキシ-エトキシ)-エタノール、2-(2-ブトキシ-エトキシ)-エタノール);エーテル(エーテルがテトラヒドロフランではないという前提で)(例えば、ジエチルエーテル、ジ-イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシ-エタン、1,2-ジエトキシ-エタン、1-メトキシ-2-(2-メトキシ-エトキシ)-エタン、1-エトキシ-2-(2-エトキシ-エトキシ)-エタン、1,4-ジオキサン);ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン);エステル(酢酸メチル、酢酸エチル);窒素含有触媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N-メチル-ピロリドン、ピリジン、キノリン、ニトロベンゼン);硫黄含有溶媒(硫黄含有溶媒がジメチルスルホキシドではないという前提で)(例えば、二硫化炭素、テトラヒドロ-チオフェン-1,1-ジオキシド);およびリン含有触媒(例えば、ヘキサメチルリン酸トリアミド)から選択される。
【0173】
一実施形態では、有機溶媒は、飽和脂肪族炭化水素(例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン)である。
【0174】
一実施形態では、有機溶媒は、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)である。
【0175】
一実施形態では、有機溶媒は、脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、ブタン-1-オール、2-メチル-プロパン-1-オール、ブタン-2-オール、2-メチル-プロパン-2-オール、ペンタン-1-オール、3-メチル-ブタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、2-メトキシ-エタノール、2-エトキシ-エタノール、2-ブトキシ-エタノール、2-(2-メトキシ-エトキシ)-エタノール、2-(2-エトキシ-エトキシ)-エタノール、2-(2-ブトキシ-エトキシ)-エタノール)である。
【0176】
一実施形態では、有機溶媒は、エーテル(エーテルがテトラヒドロフランではないという前提で)(例えば、ジエチルエーテル、ジ-イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシ-エタン、1,2-ジエトキシ-エタン、1-メトキシ-2-(2-メトキシ-エトキシ)-エタン、1-エトキシ-2-(2-エトキシ-エトキシ)-エタン、1,4-ジオキサン)である。
【0177】
一実施形態では、有機溶媒は、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)である。
【0178】
一実施形態では、有機溶媒は、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)である。
【0179】
一実施形態では、有機溶媒は、窒素含有溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N-メチル-ピロリドン、ピリジン、キノリン、ニトロベンゼン)である。
【0180】
一実施形態では、有機溶媒は、硫黄含有溶媒(硫黄含有溶媒がジメチルスルホキシドではないという前提で)(例えば、二硫化炭素、テトラヒドロ-チオフェン-1,1-ジオキシド)である。
【0181】
一実施形態では、有機溶媒はリン含有溶媒(例えば、ヘキサメチルリン酸トリアミド)である。
【0182】
一実施形態では、有機溶媒は、石油エーテルではない。
【0183】
一実施形態では、有機溶媒は、トルエンではない。
【0184】
一実施形態では、有機溶媒は、アセトンではない。
【0185】
一実施形態では、有機溶媒は、エタノールではない。一実施形態で、作用物質は、ニコチンまたはNNKまたはこれらの組み合わせである。
【0186】
好適には、上述の方法は、細胞培養デバイス内の細胞を、上述のような一つ以上の小疎水性分子または有機溶媒と接触させる追加の工程を含む。
【0187】
好適には、細胞培養デバイスは、細胞培養培地中に含まれる細胞、および上述のような、任意に一つ以上の小疎水性分子または有機溶媒を含むことができる。
【0188】
(i)細胞を、PEEKを含むか、またはPEEKからなる、本明細書記載の細胞培養装置-例えば、細胞培養プレートまたはマルチウェル細胞培養プレートまたはインサート-と接触させることと、(ii)細胞を、上述のような一つ以上の小疎水性分子または 有機溶媒に曝露することと、(iii)細胞上の作用物質(複数可)の作用を決定することと、を含む、細胞上の一つ以上の作用物質の作用(例えば、曝露応答)を決定するための方法も開示されている。
【0189】
(i)細胞を、PEEKから(独占的に)製造された、本明細書記載の細胞培養装置-例えば、細胞培養プレートまたはマルチウェル細胞培養プレートまたはインサート-と接触させることと、(ii)細胞を、上述のような、一つ以上の小疎水性分子または有機溶媒 に曝露することと、(iii)細胞上の小疎水性分子または有機溶媒の作用を決定することと、を含む、細胞に対する一つ以上の作用物質の作用(例えば、曝露応答)を決定するための方法も開示されている。
【0190】
作用物質を、PEEKを含むか、またはPEEKからなる細胞培養装置と接触させることを含む、上述のような一つ以上の小疎水性分子または有機溶媒の吸収を低減または阻害する方法も開示されている。本発明は、発明についてさらに詳細に説明するために提供されている、下記の実施例でさらに説明される。本実施例は、本発明を遂行するためにこの時点で意図されている好ましい様式について記載しており、本実施例は、本発明を例証することを意図し、限定を意図するものではない。
【実施例
【0191】
実施例1
スフェロイドの凝集を回避するために、肝スフェロイド用に設計されたウェルは、ウェルの底部に同心の溝を含むように適合された。これらの溝の目的は、組織間の空間的分離を作り出して、組織が互いに凝集または融合することを防止することである。溝の機能を実証するために、それぞれが約25,000個の細胞から構成された40個のスフェロイドを、溝を備えたウェルまたは平坦な表面を備えた(すなわち、溝を含まない)ウェルのいずれかに配置した。5日後、平坦な表面を含むウェルに存在するスフェロイドは、互いに凝集を開始し(図11Aを参照)、凝集体を形成した。これは、溝を含むウェルでは観察されなかった(図11Bを参照)。図11Aに示された組織(凝集または融合して単一の単位を形成した3つのスフェロイド)は、いくつかのスフェロイドの凝集または融合が得られる結果に悪影響を与えるため、スペロイドで通常実施される更なる実験-例えば、ATP含有量の測定には、使用できなかった。図11Bで培養された組織は、凝集または融合しなかったため、さらなる実験に使用された。
【0192】
実施例2
細胞培養装置を製造するために使用される様々な材料が試験された。細胞培養装置に使用される一つの材料のPEEKは、耐摩耗性である強力なプラスチックポリマーである。PEEKは、例えば、一般的に使用されるポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)とは対照的に、ニコチンなどの小疎水性分子を保持することが知られているため、薬物試験では有利である。PEEKは、ニコチンまたはNNK、別の小疎水性分子を保持しないことが見出された。したがって、細胞培養装置は、材料によって薬物濃度(またはその代謝物の濃度)の変わるリスクがなく、細胞培養装置内に収容される組織への薬物効果の試験に適している。
【0193】
PEEKプレートの生体適合性は、器官型肺および肝臓モデルで試験される。
【0194】
肺モデルは、Transwell(商標)インサート上に播種され、さらに気液界面で培養された正常なヒト気管支上皮(NHBE)細胞から構成され、細胞の杯状細胞および線毛細胞への分化を確実にする。これらの組織を使用することで、以下によって実証されるように、肺組織が、PEEKプレートで4週間生存できることを実証することができる:
・ 線毛細胞および杯状細胞の対照組織(同一バッチから)で観察されたものと類似の比率での存在が、同じ期間にわたって24個のウェルのポリカーボネートプレート内で維持された。
・ 無傷の形態。4週間にわたって、プレート内で維持された組織、および24個のウェルのプレート内で維持された組織の組織学的分析は、同様の形態を確認した。上皮厚さ、分化状態および杯状細胞、基底細胞ならびに線毛細胞の比率は、これらの二つの条件下で維持された組織間で類似していた。
・ 安定なATP含有量ATPは細胞内のいくつかのプロセスに使用され、すべての代謝活性細胞はATPを含有しているため、ATP含有量測定値を組織の健康状態についての良好な指標にする。4週間プレート内に維持された組織は、対照組織と比較して同様のATP含有量(約10%未満のATP)を有していた。
・ 活発な線毛運動。線毛細胞は対照組織と同じ比率でだけ存在していただけではなく、対照組織で観察されたものと類似した頻度でも活活発に線毛運動していた。
・ より高い経上皮電気抵抗(TEER)。TEERは、上皮組織における接合帯の完全性を測定し、従ってバリアの完全性の強力な指標である。PEEKプレート内で維持された組織は、対照組織よりも50%高いTEER値を有した。
・ 保持された代謝能力。代謝能力を証明するチトクロームP450(CYP)誘導性を、組織を特定のCYP酵素誘導体に曝露することによって試験した。48時間の曝露後、CYP 1A1活性は、100倍増加していることが判明し、プレート内に閉じ込められた組織の保持された代謝誘導性を実証していた。
【0195】
肝臓モデルとして、HepaRG(商標)細胞から構成されるスフェロイドが使用される。PEEKプレート内での培養の4週間後に、これらの肝スフェロイドを用いて得られた第一の結果は、以下を実証している:
・ 循環培地内のアルブミンの安定した分泌。アルブミンは、肝機能の重要なマーカーである。チップ内では、アルブミンは、対象組織で観察されたものと同様な濃度で、4週間安定であることが判明した。
・ 保持された代謝能力。代謝能力を証明するチトクロームP450(CYP)誘導性を、組織を特定のCYP酵素誘導体に曝露することによって試験した。48時間の暴露後、CYP 1A1活性は対照組織で観察される誘導性と類似していることが判明した。
【0196】
PEEKは、小分子に対して吸収性を有しないという利点を有する。ニコチンおよびNNKに対するPEEKの吸収性を試験紙、分子が材料によって捕捉されないことが判明した。PDMSなどの市販プレートに使用される材料は、小疎水性分子を捕捉することが公知であるため、これは重要である。図12は、4℃での8時間のインキュベーション後の、PEEKプレートおよびPDMSプレート内の残留するニコチンの量を比較するグラフの結果を示す。分かるように、PDMSプレートでの約35%と比べて、PEEKプレートでは、約100%のニコチンが残留していた。したがって、PDMSを使用する市販されているプレートに使用される材料は、小疎水性分子を捕捉するであろう。
【0197】
実施例3
HeparG(登録商標)細胞は、約1,000万個の細胞を含有する凍結バイアルにて提供される。スフェロイドを調製する第一のステップは、凍結バイアルを解凍し、細胞(ウェル当たり約1000~50,000細胞)をマルチウェルプレートの各ウェルに播種することである。この実験では、プレートのウェルは超低接着表面コーティングで覆われ、ウェルはU字型の底部を有し、細胞が単一のウェルに播種され、壁に付着しないことを確実にする。細胞をウェルの底部で凝集させる。約3日後、使用されるウェルの選択に応じて、マルチウェルプレートの各ウェルに単一のスフェロイドまたは複数のスフェロイドを形成する。
【0198】
肝スフェロイドが配置される細胞培養装置の細胞培養チャンバーは、本明細書に記載される不連続表面を有し、この例では被覆されている。各スフェロイドは、マルチウェルプレートから細胞培養チャンバーに独立して移される。約40~100のスフェロイドが区画ごとに移される。細胞培養装置は、培地の流れを生成するポンプに接続される。その他の実験にそれらを使用する前に、スフェロイドは、細胞培養装置内に1~28日間留め置かれる。
【0199】
本開示のさらなる態様を、以下の番号付きの段落に記載する。
【0200】
1. 細胞を培養するための細胞培養装置であって、
基部および基部から延在して細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、
チャンバーへの流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における入口と、
チャンバーから外への流体連通のために適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における出口と、を含み、
細胞培養チャンバーの基部は、スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む、細胞培養装置。
【0201】
2. 細胞培養装置の基部は実質的に円形であり、好適には、基部の直径は約6mm±5%~約22mm±5%であり、好適には、基部の直径は、約6mm±5%、約11mm±5%または約16mm±5%または約22mm±5%である、段落1に記載の細胞培養装置。
【0202】
3. 不連続な表面は、複数の溝を含み、溝の深さおよび幅が、スフェロイドの最大直径±10%に相応する、段落1または段落2に記載の細胞培養装置。
【0203】
4. 複数の溝の深さおよび幅は、約200~約1000μm、好適には約600~約1000μmである、段落3に記載の細胞培養装置。
5. 溝が細胞培養チャンバーの基部上に複数の同心リングを形成する、段落3または段落4に記載の細胞培養装置。
【0204】
6. 不連続な表面は、閉じた底部および開いた上部を有する複数の孔を含み、孔のサイズは、スフェロイドの最大直径よりも約10%大きい深さおよび幅に相応する、段落1または段落2に記載の細胞培養装置。
【0205】
7. 細胞培養チャンバーが、スフェロイドを培養するための細胞培養培地を含む、段落1~7のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0206】
8. 細胞培養チャンバーが、細胞培養チャンバーの不連続表面に捕捉された個別のスフェロイドを含む、段落1~8のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0207】
9. スフェロイドが肺スフェロイドである、段落8に記載の細胞培養装置。
【0208】
10. 流体がその中に存在する場合、細胞培養チャンバーの入口から出口への流体の流れは、約10~約1000μL/分、好適には、約1~約500μL/分であり、好適には、約40μL/分である、段落1~10のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0209】
11. 細胞培養チャンバー内のせん断応力が0.1ダイン/cm2未満である、段落10に記載の細胞培養装置。
【0210】
12. 細胞培養装置がマルチウェルプレートであり、マルチウェルプレートの各チャンバーがウェルであり、前述のマルチウェルプレートが少なくとも二つのウェルを含む、段落1~12のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0211】
13. 少なくとも一つのチャンバーの基部が、不連続性を欠いている平坦な表面を含む、段落1~13のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0212】
14. 少なくとも一つのチャンバーは、チャンバーの基部の上に位置付けられたインサートを備え、好適には、インサートは、気/液界面で細胞を培養することができる表面を形成するようにチャンバー内に位置する透過性膜の頂部に位置する、段落13に記載の細胞培養装置。
【0213】
15. 不連続性を欠く平坦な表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さは、不連続表面を含む少なくとも一つの深さとは異なり、不連続性を欠いている平坦な表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さは、不連続表面を含む少なくとも一つのチャンバーの深さよりも小さい、段落13または14に記載の細胞培養装置。
【0214】
16. 細胞培養チャンバーが、空気-液体界面で細胞を培養するための細胞培養培地を含む、段落13~15のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0215】
17. 細胞培養チャンバーは、透過性膜上に位置付けられた細胞を含み、該細胞は気液界面で増殖することができる、段落16に記載の細胞培養装置。
【0216】
18. 細胞が肺細胞である、段落17に記載の細胞培養装置。
【0217】
19. 少なくとも二つのウェルが相互に流体連通している、段落12~18のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0218】
20. 細胞を培養する方法であって、
(i) 段落1~19のいずれかに記載の細胞培養装置を提供することと、
(ii) 細胞培養培地を有する細胞培養装置を少なくとも一つの細胞型と接触させることと、
(iii) 細胞を培養することと、を含む、方法。
【0219】
21. スフェロイドを培養するための細胞培養装置を調製する方法であって、
【0220】
(i)(a)基部および基部から延在して細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁、(b)チャンバー内へ流体連通するように適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における入口、および(c)チャンバーから外へ流体連通するように適合された細胞培養チャンバーの基部または側壁における出口を含む細胞培養チャンバーを提供することと、
(ii)細胞培養チャンバーの基部に不連続表面を追加することであって、不連続表面がスフェロイドの凝集を低減または防止するように適合される、追加することと、を含む、方法。
【0221】
22. 不連続表面は、段落3~6のいずれかに定義する通りである、段落21に記載の方法。
【0222】
23. 不連続表面が、コンピュータの数値制御機械加工または射出成形を使用して基部に提供される、段落21または段落22に記載の方法。
【0223】
24. 不連続表面を有する基部を含む細胞培養チャンバーであって、不連続表面がその中に捕捉された個別の単一スフェロイドを含む、細胞培養チャンバー。
【0224】
25. 不連続表面は、段落3~6のいずれかに定義する通りである、段落24に記載の細胞培養装置。
【0225】
26. 段落24または段落25に記載の細胞培養チャンバーを含む細胞培養装置。
【0226】
27. 装置がマルチウェルプレートである、段落1~19および26のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0227】
28. チャンバーがウェルである、段落24または段落25に記載の細胞培養チャンバー。
【0228】
29. 段落1~19、26もしくは27に記載の細胞培養装置、またはスフェロイドを培養するための、もしくはスフェロイドを個別化された単一形態で維持するための、段落24、25もしくは28のいずれかに記載の細胞培養チャンバーの使用。
【0229】
30. スフェロイドが、培養の5時間後または5日後に個別化した単一スフェロイドの形態である、スフェロイドの培養物。
【0230】
本明細書に引用または記載されるあらゆる刊行物は、本出願の出願日以前に開示された関連情報を提供する。本明細書における記述は、本発明者らがそのような開示に先だって権利を与えられないことの承認としては解釈されないものとする。上記の明細書で言及したすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の様々な修正および変形が、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、当業者に明らかになるであろう。特定の好ましい実施形態に関連付けて本発明を説明してきたが、特許請求する通りの本発明は、こうした特定の実施形態に不当に限定されるべきではない。実際に、本発明を実施するための記述された方法について、細胞生物学、分子生物学および植物体生物学の分野または関連する分野の当業者にとって明らかである様々な改良は、以下の特許請求の範囲の範囲内に収まるものであることが意図される。
本発明の好ましい態様は、下記の通りである。
〔1〕細胞培養装置の使用を含むスフェロイドの凝集を低減または防止する方法であって、
基部および前記基部から延在して細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、
前記チャンバーへの流体連通のために適合された前記細胞培養チャンバーの前記基部または側壁における入口と、
前記チャンバーから外への流体連通のために適合された前記細胞培養チャンバーの前記基部または側壁における出口と、を含む、細胞培養装置の使用を含み、
前記細胞培養チャンバーの前記基部は、前記スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む、方法。
〔2〕(i)一つ以上の個別のスフェロイドを提供することと、
(ii)前記細胞培養装置の前記細胞培養チャンバー内に前記個別のスフェロイドを移すことと、
(iii)前記細胞培養装置内で前記個別のスフェロイドをインキュベートすることと、
(iv)前記細胞培養装置の前記不連続表面上で個別のスフェロイドを得ることと、を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕既知の数の個別のスフェロイドがステップ(ii)で移され、既知の数の個別のスフェロイドがステップ(iv)で得られる、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記不連続表面は、溝の深さおよび幅が約200~約1000μm、好適には約200~約600μmである、複数の溝を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記溝が前記細胞培養チャンバーの前記基部上に複数の同心リングを形成する、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕前記不連続表面は、閉じた底部および開いた上部を有する複数の孔を含み、前記孔のサイズは、スフェロイドの最大直径よりも約10%大きい深さおよび幅に相応する、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記細胞培養チャンバーがPEEKから製造される、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記細胞培養チャンバーが被覆され、好適には、前記被覆がpoly(p-xylylene)ポリマーの被覆である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕約40~約100個のスフェロイドが前記細胞培養装置の前記細胞培養チャンバーに移される、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕培地の流れが前記細胞培養装置の前記細胞培養チャンバーに適用され、好適には、流量は約10~約1000μL/分である、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕スフェロイドの凝集を低減または防止するための細胞培養装置の使用であって、前記細胞培養装置が、
基部および前記基部から延在して細胞培養チャンバーの容積を囲む側壁を含む細胞培養チャンバーと、
前記チャンバーへの流体連通のために適合された前記細胞培養チャンバーの前記基部または側壁における入口と、
前記チャンバーから外への流体連通のために適合された前記細胞培養チャンバーの前記基部または側壁における出口と、を含み、
前記細胞培養チャンバーの前記基部は、前記スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含む、使用。
〔12〕マルチウェル細胞培養プレートであって、前記マルチウェル細胞培養プレートの前記ウェルの少なくとも一つおよび/または前記マルチウェル細胞培養プレートの前記ウェルの少なくとも一つに含まれるインサートのうちの少なくとも一つが、スフェロイドの凝集を低減または防止するよう適合された不連続表面を含む、マルチウェル細胞培養プレート。
〔13〕スフェロイドの凝集を低減または防止するように適合された不連続表面を含むマルチウェル細胞培養プレートで使用するためのインサート。
〔14〕前記プレートおよび/または前記インサートがPEEKから製造される、または、
前記ウェルまたは前記インサートの少なくとも一つが被覆され、好適には、被覆はpoly(p-xylylene)polymerの被覆である、前記〔12〕に記載のマルチウェル細胞培養プレートまたは前記〔13〕に記載のインサート。
〔15〕前記少なくとも一つのウェルまたは前記インサートが、個別化された単一スフェロイドを含む、前記〔12〕~〔14〕のいずれかに記載のマルチウェル細胞培養プレートまたはインサート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12