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特許7427596ポリマー系の加硫組成物及び組成物の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ポリマー系の加硫組成物及び組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20240129BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240129BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240129BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240129BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240129BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240129BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C08L71/02
C08L29/04 C
C08K3/34
C08K3/011
C08L21/00
C08J3/20 Z CEQ
C08J3/24 Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020540767
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 IB2019050218
(87)【国際公開番号】W WO2019145808
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】2020311
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】517095881
【氏名又は名称】ラバー ナノ プロダクツ (プロプライエタリー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ,ロバート マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,ダミアン
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03196239(EP,A1)
【文献】特表2017-528589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムの加硫における使用に適した組成物であって、
前記組成物は、カチオン性ケイ酸塩成分を含むポリマー系溶液であり、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンは、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンであって、
前記ポリマーは、水溶性ポリマーであり、前記水溶性ポリマーは、エチレンオキシドポリマー又はポリビニルアルコールポリマーから選ばれる、組成物。
【請求項2】
前記組成物は、カチオン性添加剤成分を含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カチオン性添加剤成分は、加硫促進剤の塩である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、チウラムスルフィド類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記加硫促進剤の前記塩は、2-メルカプトベゾチアゾール(2-mercaptobezothiazole)(MBT)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(DIXD)若しくはポリスルフィド(AS100)、又はこれらの組み合わせの塩である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記加硫促進剤の前記塩は、そのナトリウム塩又はカリウム塩である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンと前記カチオン性添加剤成分のカチオンとが同じである、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記水溶性ポリマーは、300g/mol~10,000,000g/molの分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記水溶性ポリマーは、500~20,000g/molの分子量を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記水溶性ポリマーは、1,000~10,000g/molの分子量を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
ゴムの加硫における使用に適した組成物を調製する方法であって:
a1)カチオン性ケイ酸塩成分を含む溶液を準備する工程であって、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンは、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンである、前記工程と、
b)工程(a1)で調製された混合物に水溶性ポリマーを添加する工程であって、前記水溶性ポリマーは、エチレンオキシドポリマー又はポリビニルアルコールポリマーから選ばれる、前記工程と、
c)前記混合物を乾燥させ、それによって、前記カチオン性ケイ酸塩成分を含む水溶性ポリマー系組成物を準備する工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
a2)カチオン性添加剤成分の溶液を準備する工程と、
a3)工程(b)及び工程(c)に進む前に、工程(a1)の溶液と工程(a2)の溶液とを一緒に混合して混合物を準備する工程、又は、工程(c)に進む前に、工程(b)で調製した混合物に工程(a2)の溶液を添加する工程と、
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記カチオン性添加剤成分は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される加硫促進剤の塩である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、チウラムスルフィド類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記加硫促進剤の前記塩は、2-メルカプトベゾチアゾール(MBT)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(DIXD)若しくはポリスルフィド(AS100)、又はこれらの組み合わせの塩である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記加硫促進剤の前記塩は、そのナトリウム塩又はカリウム塩である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンと前記カチオン性添加剤成分のカチオンとは同一である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記水溶性ポリマーは、300g/mol~10,000,000g/molの分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記水溶性ポリマーは、500~20,000g/molの分子量を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記水溶性ポリマーは、1,000~10,000g/molの分子量を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ゴム配合物硬化コアクチベータとしての、請求項1に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔はじめに〕
本発明は、ゴムの加硫における使用に好適な組成物に関する。当該組成物は、カチオン性ケイ酸塩成分を含む非水性の水溶性ポリマー系の組成物であり、特に、当該組成物は、ゴム加硫プロセスにおいて望ましい第2のカチオン性成分をさらに含み得るが、これに限らない。本発明はさらに、当該組成物を調製するための方法に関する。
【0002】
〔背景〕
活性剤及び促進剤はゴムの加硫において重要な役割を果たし、特定の硬化パッケージ中の他の構成要素と共に、活性剤及び促進剤は、加硫プロセスの反応速度を大部分決定する。ゴムの加硫に使用される特定の活性剤及び促進剤、又はこれらの化合物の混合物は、特定の意図される用途に必要とされる特定の特性を最終製品に与える。
【0003】
促進剤2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム(2-mercaptobenzothiazoie)(NaMBT)は、現在、ラテックスゴムの加硫に使用されている。このプロセスで使用される2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム(NaMBT)材料は室温で液体であり、非常に水溶性である。この液体材料も苛性であり、したがって、固体状態のゴム混合環境で取り扱うことが困難である。
【0004】
既知の液体は水溶性及び苛性であるが、ジチオカルバメート類(dithiocarmates)、チウラムスルフィド類、ジチオホスフェート類等の公知の促進剤類の他の促進剤は固体粉末形態で入手可能である。しかしながら、これらの材料の既知の欠点は、それらが極めて吸湿性であり、それによって、それらの取扱い、貯蔵及び使用が困難になることである。これらの促進剤の特定の例としては、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)及びテトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)が挙げられる。
【0005】
本出願人自身の国際公開第2016/042524号は、加硫促進剤材料の塩、固体粒子状基材、及び疎水性担体材料を含む、非苛性、非吸湿性の組成物を開示することによって、これらの特定の欠点を解決している。
【0006】
ここで驚くべきことに、水溶性ポリマー中のカチオン性ケイ酸塩成分が、ゴムの製造における硬化速度及びゴム特性に関して予想外の加硫性能を有することを、本願発明者は見出した。カチオン性ケイ酸塩/ポリマー組成物は、さらなるカチオン性材料、例えば、促進剤塩複合体又はナノ粉末の組み込みのための担体系として作用し、これらの系は、ゴムの加硫において予想外の相乗効果を提供することがさらに見出された。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明の第1の態様によれば、ゴムの加硫における使用のために好適な組成物が提供され、前記組成物は、カチオン性ケイ酸塩成分のポリマー系溶液を含んでおり、前記ポリマーは、水溶性ポリマーである。
【0008】
別の実施形態では、前記組成物は、カチオン性添加剤成分をさらに含む。
【0009】
一実施形態では、カチオン性添加剤成分は、加硫促進剤の塩である。
【0010】
好ましくは、加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される。
【0011】
好ましくは、前記加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、チウラムスルフィド類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される。
【0012】
一実施形態では、前記加硫促進剤の前記塩は、2-メルカプトベゾチアゾール(MBT)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(DIXD)若しくはポリスルフィド(AS100)、又はこれらの組み合わせの塩である。
【0013】
一実施形態では、前記加硫促進剤の前記塩は、そのナトリウム塩又はカリウム塩である。
【0014】
一実施形態では、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンは、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンである。
【0015】
好ましい実施形態において、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンと前記カチオン性添加剤成分のカチオンとが同一である。
【0016】
一実施形態では、前記水溶性ポリマーはエチレンオキシドポリマー又はポリビニルアルコールポリマーである。
【0017】
好ましい実施形態では、前記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0018】
別の実施形態では、前記水溶性ポリマーは、300g/mol~10,000,000g/molの分子量を有し、好ましくは500~20,000g/molの分子量を有し、より好ましくは約1,000~10,000g/molの分子量を有する。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、ゴムの加硫における使用に好適な組成物を調製する方法であって、以下の工程を含む方法が提供される:
a1)カチオン性ケイ酸塩成分を含む溶液を準備する工程、
b)工程(a1)の溶液に水溶性ポリマーを添加して混合物を準備する工程、及び、
c)前記混合物を乾燥させ、それによって、前記カチオン性ケイ酸塩成分を含む水溶性ポリマー系組成物を準備する工程。
【0020】
一実施形態では、前記方法は、以下の工程をさらに含む:
a2)カチオン性添加剤成分の溶液を準備する工程、及び、
a3)工程(b)及び工程(c)に進む前に、工程(a1)の溶液と工程(a2)の溶液とを一緒に混合して混合物を準備する工程、又は、工程(c)に進む前に、工程(b)で調製した混合物に工程(a2)の溶液を添加する工程。
【0021】
一実施形態では、前記カチオン性添加剤成分は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される加硫促進剤の塩である。
【0022】
一実施形態では、前記加硫促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、チウラムスルフィド類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択される。
【0023】
好ましくは、前記加硫促進剤の前記塩は、2-メルカプトベゾチアゾール(MBT)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(DIXD)若しくはポリスルフィド(AS100)、又はこれらの組み合わせの塩である。
【0024】
一実施形態では、前記加硫促進剤の前記塩は、そのナトリウム塩又はカリウム塩である。
【0025】
一実施形態では、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンは、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンである。
【0026】
好ましい実施形態において、前記カチオン性ケイ酸塩成分のカチオンと前記カチオン性添加剤成分のカチオンとは同一である。
【0027】
一実施形態では、前記水溶性ポリマーは、エチレンオキシドポリマー又はポリビニルアルコールポリマーである。
【0028】
好ましい実施形態では、前記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0029】
別の実施形態では、前記水溶性ポリマーは、300g/mol~10,000,000g/molの分子量を有し、好ましくは500~20,000g/molの分子量を有し、より好ましくは約1,000~10,000g/molの分子量を有する。
【0030】
本発明の別の態様によれば、ゴム配合物硬化コアクチベータとしての、本発明による組成物の使用が提供される。
【0031】
〔図面の簡単な説明〕
以下の非限定的な実施形態及び図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0032】
図1は、コントロール試料及び1phrのNaSil-PEGを添加したNRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
【0033】
図2は、コントロール試料及び1phrのNaMBT-NaSil-PEGを添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
【0034】
図3は、コントロール試料及びグラフェンオキシドを含むNaMBT-NaSil-PEG複合体を1phrで添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。そして、
図4は、コントロール試料及び1phrのNaBEC-NaSil-PEGを添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
【0035】
〔好ましい実施形態の詳細な説明〕
以下、本発明の非限定的な実施形態のいくつかが示されている添付の図面を参照して、本発明をより完全に説明する。
【0036】
以下に記載される本発明は、開示される特定の実施形態に限定されるように解釈されるべきではなく、本発明の範囲内に含まれることが意図されるわずかな改変及び他の実施形態を伴う。
【0037】
本明細書で特定の用語を用いているが、包括的かつ説明のためにのみ用いており、限定するためではない。
【0038】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は文脈が明らかにそわないことを示さない限り、複数形を含む。
【0039】
本明細書で使用される用語及び語法は、説明の目的のためのものであり、限定するものとみなされるべきではない。本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(containing)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及びこれらの変形の使用は、その後に列挙される項目、及びこれらの等価物、並びに追加の項目を包含することを意味する。
【0040】
本明細書で使用されるとき、用語「水溶性ポリマー」は、水酸基を含むポリマー(例えばエチレンオキシド型ポリマー又はポリビニルアルコールポリマー)を含む、水に溶解、分散又は膨潤するポリマーを意味すると理解されるべきである。
【0041】
本発明は、ゴムの加硫に使用することができるカチオン性ケイ酸塩成分を含む水溶性ポリマー系組成物を提供する。当該組成物は、カチオン性添加剤成分である第2のカチオン性成分をさらに含み得、当該カチオン性添加剤成分は、カチオン性ケイ酸塩-ポリマー組成物に溶解し、安定化される第2のカチオン性成分である。これらの組成物は、種々のゴム系の加硫において驚くべき予想外の結果を示した。
【0042】
第2のカチオン性成分又はカチオン添加剤成分は、ゴムの加硫に使用される任意の公知のカチオン性材料、例えば、酸化亜鉛等の金属酸化物の金属塩、公知の加硫促進剤のカチオン性塩、又は還元グラフェンオキシド等のカチオン性ナノ粉末であってもよい。
【0043】
加硫促進剤の塩は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択することができる。
【0044】
本発明による組成物は、非水性ポリマー系複合材料を提供し、当該非水性ポリマー系複合材料は、標準的なゴム製造環境における通常の混合装置においてゴム様材料に直接添加するために適した油又は凍結ワックス材料のいずれかを生じる。ポリマーは水溶性ポリマー、例えば、エチレンオキシド型ポリマー、ポリビニルアルコールポリマー、又は水酸基を含む任意の他のポリマーである。したがって、本発明による組成物は、本質的に苛性で極性がある促進剤塩材料の投与を容易且つ安全な様式で可能にする。
【0045】
さらに、本願発明者らは、担体系の相乗効果がゴム加硫速度論で証明可能であり、組成物を利用する場合に生成される材料の硬化速度論及び特性に著しい影響を及ぼすことを示した。以下でより詳細に議論される実施形態によって証明されるように、カチオン性ケイ酸塩-ポリマー組成物への第2のカチオン性添加剤成分の添加は、今はイオン性液体のキャリアシステムとして部分的に作用するが、標準的なゴムマスターバッチ配合物中の硬化パラメータに対して予想外の相乗効果又は相加効果を有する。
【0046】
ここで、水溶性ポリマー系加硫組成物を調製するための主な工程を参照して、本発明をさらに記載することができる。好適なカチオン性ケイ酸塩成分溶液は、塩基性溶液、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムにシリカ粉末を溶解することによって合成される。得られたカチオン性ケイ酸塩成分を、水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコールを含むエチレンオキシドポリマーに添加し、乾燥させ、特定のカチオン性ケイ酸塩成分の安定なイオン性溶液又はイオン性液体を生成してもよい。
【0047】
水性環境の代替として、カチオンケイ酸塩成分とポリマー、例えばポリエチレングリコールとの特定の組み合わせは、好適に安定なイオン性溶液を可能にする。これは、それが、添加され得るゴム配合物において望ましいより大きな反応性と、さらなるカチオン性添加剤成分のための反応性溶媒媒体及び安定剤としてのより大きな可能性と、を可能にするということを意味する。
【0048】
これらのカチオン性ケイ酸塩溶液及び得られたカチオン性ケイ酸塩ポリマー組成物又は複合体は、異なる比率の選択したカチオン対シリカで反応させ、それによって溶液及び得られた組成物の表面化学及びイオン性を改質することによって、調製することができると想定される。本発明の一実施形態では、カチオン対シリカの化学量論比を使用することができる。あるいは、この比率は特定の加硫システムの要件に応じて変化させてもよい。カチオン性ケイ酸塩-ポリマー担体組成物はいくつかのイオン性材料の溶解及び安定化に好適であり得、当該いくつかのイオン性材料はゴムの加硫に有用又は有益であることが知られており、例えば、グラフェンオキシド若しくは酸化亜鉛等の種々の塩若しくはナノ粉末、又はカチオン性ケイ酸塩-ポリマー組成物中に溶解若しくは分散され得る任意の他のイオン性材料、例えば、ポリエチレングリコール中の非水性ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムが挙げられる。
【0049】
カチオン性ケイ酸塩成分は、水中で、又は水及びアルコールの好適な共沸混合物中で、好ましくは水及びイソプロピルアルコール中で、調製することができる。
【0050】
本発明の一実施形態では、組成物はカチオン性添加剤として、カチオン性ケイ酸塩成分及びポリマー担体に溶解した加硫促進剤の塩をさらに含んでもよい。促進剤塩複合体は、苛性水溶液(例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの溶液)中で調製することができる。促進剤塩複合体は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを水に溶解し、その後、促進剤断片と反応させることによって、調製され得る。
【0051】
促進剤塩複合体はまた、水及びアルコールの適切な共沸混合物中で調製され得る。本発明の好ましい方法において、促進剤塩複合体は、水及びイソプロピルアルコールの共沸混合物中で調製される。
【0052】
促進剤成分は、当技術分野で公知の促進剤の任意の1つから選択することができ、特に、促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、スルフェンアミド類、チウラムスルフィド類、キサンテート類、グアニジン類、アルデヒドアミン類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択することができる。
【0053】
一実施形態では、促進剤は、チアゾール類、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、チウラムスルフィド類、又はこれらの組み合わせを含む促進剤類の群から選択してもよい。好ましくは、加硫促進剤の塩は、2-メルカプトベゾチアゾール(MBT)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZBOP)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(DIXD)若しくはポリスルフィド(AS100)、又はこれらの組み合わせの、ナトリウム塩又はカリウム塩である。
【0054】
促進剤塩溶液、又は任意の他の適切なイオン性材料(金属塩、金属酸化物、若しくはナノ粉末等)を、カチオン性ケイ酸塩溶液に添加して、水系ポリマーが添加される反応混合物を調製する。次いで、得られた反応混合物を乾燥させて、溶液媒体を除去し、特に、系から任意の水を除去する。一実施形態では、混合物を、真空下で、例えば100mBar以下で乾燥させて、溶液媒体を除去してもよい。得られた組成物は、水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコールをベースとする非水性組成物である。この非水性組成物は、固体の非極性ゴム系への単純な直接添加に適している。組成物は、(有機又は水性の)分離層を有さない単一相を含む。
【0055】
一実施形態では、第2のカチオン性添加剤成分、例えば、促進剤塩複合体、及びカチオン性ケイ酸塩成分の組み合わせは組成物の添加剤成分及びケイ酸塩成分のカチオン部分が同じであるように選択され得るが、異なる組み合わせも選択され得る。
【0056】
カチオン性添加剤成分とカチオン性ケイ酸塩成分は、ポリマー系組成物の総質量の約50%を構成してもよく、水系ポリマー成分は、組成物の残りを構成する。
【0057】
以下の非限定的な実施例及び実験結果を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0058】
実施例1:ケイ酸ナトリウム/ポリエチレングリコール複合体、及びNRゴム組成物におけるその使用
適切な容器中で、10gのNaOHを40mLの水に添加した。この溶液に、7.5gのシリカ粉末を撹拌しながら添加した。溶液を60℃に加熱し、溶解が急速であることが見られた(反応は発熱性であり、あまり加熱を必要としない)。溶液を60℃で5分間撹拌した。NaOHとSiOとの反応が完了すると、この溶液は透明になる。
【0059】
2NaOH+SiO→NaSiO(aq)+H
ケイ酸ナトリウム溶液はまた、適切な共沸混合物、例えば、水及びイソプロピルアルコールの混合物中でも調製することができる。
【0060】
15gのポリエチレングリコールをこの溶液に添加し、ここで、PEGの量は、通常、ケイ酸塩含量と同じ質量である。全てのPEGが溶液に溶解するまで、溶液を60℃で5分間撹拌した。溶液を105℃、100mBar未満で乾燥させ、透明な黄褐色のケイ酸ナトリウム-PEG組成物を得た。
【0061】
1phrのケイ酸ナトリウム-PEG組成物を155phrのマスターバッチNR(NR SMR GP、カーボンブラック n330、オイル)に添加することによって、組成物をコントロール試料に対して試験した。図1から分かるように、この実施例は、ケイ酸ナトリウム-PEG組成物の1phr投与がTC90を約4.7分から約2.4分に減少させたことを示す。
【0062】
【表1】
実施例2:メルカプトベンゾチアゾールナトリウム(NaMBT)、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール
適切な容器中で、10gのNaOHを20mLの水に添加した。別の実施形態では、100mLの87.7重量%IPA共沸溶液を使用した。41.8gのメルカプトベンゾチアゾール(MBT)粉末を50℃の温度で水溶液に添加した。透明な黄褐色の液体が形成された。
【0063】
NaOH+MBT→NaMBT(aq)+H
【0064】
【表2】
適切な容器中で、10gのNaOHを40mLの水に添加した。この溶液に、7.5gのシリカ粉末を撹拌しながら添加した。溶液を60℃に加熱し、溶解が急速である様子が見られた(反応は発熱性であり、あまり加熱を必要としない)。溶液を60℃で5分間撹拌した。NaOHとSiOとの反応が完了すると、この溶液は透明になる。
【0065】
2NaOH+SiO→NaSiO(aq)+H
【0066】
【表3】
ケイ酸ナトリウム及びNaMBT溶液を混ぜながら混合した後、30.4gのポリエチレングリコール(PEG 1000)を混合物に添加した。混合物を105℃、100mBarで乾燥させ、透明な黄褐色のケイ酸ナトリウム-NaMBT-PEG組成物を得た。
【0067】
図2は、ZBECを使用して硬化させたSBRマスターバッチへの1phrのNaMBT-NaSil-PEG組成物の添加の効果を示すレオトレースグラフ(rheo trace graph)である。標準的な0.5アーク及び1.67Hz.SBR(170.3phrの全MBT、カーボンブラック、SBR 1502、オイル)、硬化パッケージ(1.2 ZBEC、1.6 S8、1.0 ZnO)、1phrのNaMBT-NaSil-PEG組成物の添加を用いて、Montech MDR3000 Professionalで分析を行った。
【0068】
図2からわかるように、典型的なSBRマスターバッチに1phrのNaMBT-NaSil-PEG組成物を導入することで、著しく向上した硬化性能が得られる。TC90値はコントロール試料中の約7.2分から約1.5分に減少し、一方で、最大速度までの時間(S’)は、約1.6分から約0.44分に減少した。
【0069】
【表4】
実施例3:ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBEC)、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール
全体の反応は2つの部分で行われる。最初に、ZBECを過剰量のNaOH溶液に溶解し、次いでシリカで平衡化する。次いで、溶液をケイ酸ナトリウム/PEG溶液に添加し、乾燥させる。
【0070】
適切な容器中で、2つの割当てられたNaOH(10g及び20g)とともに(ZBECを溶解させるために過剰のNaOHが必要である)、NaOHを30mLの水(又はより多量の水/IPA共沸溶液)に溶解させる。
【0071】
次に、混合しながら、ZBEC粉末を水溶液に添加する。好ましくは、添加は剪断混合下で行われる。固体白色粉末が形成され(ZnO)、油性のNaBEC層が溶液の表面上に形成され得る。
【0072】
全てのZBECが溶解したら、残留シリカを溶液に添加する。
【0073】
6NaOH+ZBEC+2SiO→2NaSiO(aq)+2NaBEC+ZnO+3H
【0074】
【表5】
ケイ酸ナトリウム溶液を形成するために、10gのNaOHを40mLの水に添加した。シリカ粉末(7.5g)を剪断混合下で段階的に添加した。溶液を[添加温度]で[添加時間]加熱し、観察される溶解は急速であった。完了した時点で溶液は透明である。
【0075】
2NaOH+SiO→NaSiO(aq)+H
【0076】
【表6】
ケイ酸ナトリウム及びNaBEC溶液を混ぜながら混合した後、119.6gのポリエチレングリコール(PEG 1000)を混合物に添加した。混合物を110℃、100mBarで乾燥させ、透明な黄褐色のケイ酸ナトリウム-NaBEC-PEG組成物溶液(オイル)を得、時間が経つにつれて硬化してPEGワックスになった。
【0077】
【表7】
実施例4:メルカプトベンゾチアゾールカリウム(KMBT)、ケイ酸カリウム、ポリエチレングリコール
適切な容器中で、6gのKOHを20mLの水に添加した。別の実施形態では、100mLの88重量%IPA共沸溶液を使用した。17.9gのメルカプトベンゾチアゾール(MBT)粉末を、剪断混合下、50℃の温度で水溶液に添加した。透明な黄褐色の液体が形成された。
【0078】
KOH+MBT→KMBT(aq)+H
【0079】
【表8】
適切な容器中で、10gのNaOHを40mLの水に添加した。この溶液に、7.5gのシリカ粉末を撹拌しながら添加した。溶液を60℃に加熱し、溶解が急速である様子が見られた(反応は発熱性であり、あまり加熱を必要としない)。溶液を60℃で5分間撹拌した。NaOHとSiOとの反応が完了すると、この溶液は透明になる。
【0080】
2KOH+SiO→KSiO(aq)+H
【0081】
【表9】
ケイ酸カリウム及びKMBT溶液をかき混ぜながら混合した後、35.6gのポリエチレングリコール(PEG 1000)を混合物に添加した。混合物を105℃、100mBarで乾燥させ、透明な黄褐色のケイ酸ナトリウム-NaMBT-PEG組成物を得た。
【0082】
【表10】
実施例5:メルカプトベンゾチアゾールナトリウム(NaMBT)、ケイ酸ナトリウム、還元グラフェンオキシド粉末(rGO)を含むポリエチレングリコール複合体
還元グラフェンオキシド粉末(rGO)を、本発明に係るNaMBT-NaSil-PEG組成物に溶解した。
【0083】
還元グラフェンオキシド(rGO)は、製造業者から乾燥粉末として、又は水性懸濁液中で、提供される。NaMBT-SIO-PEG溶液の溶液中に提供されている状態のまま添加した後、乾燥させた。使用されるrGOの量は、一定量の活性PEG-NaSIO、すなわち活性混合物10重量%対rGO90重量%となるように選択される。
【0084】
図3は、1phrのrGO-NaMBT-NaSil-PEG組成物をSBRマスターバッチ配合物に投与した場合の硬化性能の効果のグラフである。マスターバッチ:SBR(170.3phrの全MBT、カーボンブラック、SBR 1502、オイル)、硬化パッケージ(1.2 ZBEC、1.6 S8、1.0 ZnO)、1phrのrGO-NaBEC複合体の添加。この反応は、NaMBT又はNaBECの両方の形態で作用する。
【0085】
rGOの効果は、硬化系においてより係数(modulus)が明確になることである。以下のデータでは、S’Max(化合物のトルク)が活性rGO配合物において実質的に高く(14.92>10.51)、これは係数のかなり大きな増加であることが容易に分かる。さらなる物理的試験により、いくつかの係数の改善が実証されるであろう。
【0086】
【表11】
実施例6:BECタイプ促進剤を含まないゴム組成物における、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBEC)、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール複合体の使用
この実験では、本発明のNaBEC-NaSil-PEG組成物を、BECタイプ促進剤を含まないコンベヤーベルトSBR系で試験した。NaBECとケイ酸ナトリウムとの組み合わせは、BECタイプ促進剤を含有しない硬化系に対してさえも、活性化の影響を有することが示された。これは新しい効果であり、従って、もはや促進剤系を反応物断片に合わせる必要はない。したがって、本発明の組成物で見られる相乗効果は、硬化剤の種類の使用にかかわらず存在する。
【0087】
図4は、SBRを用いたコンベヤーベルト系における1phrのNaBEC-NaSil-PEG組成物の効果を示している。SBRマスターバッチは170.3phrであり、硬化パッケージは4phrZnO、2TBBS、0.9DPG及び1.8硫黄である。図4から分かるように、1phrのこの組成物をBECタイプ促進剤を含まないSBRマスターバッチに導入すると、硬化性能に有意かつ予想外の効果もたらされた。TC90値はコントロール試料での約7.2分から約2.1分に減少し、一方で、最大速度までの時間(S’)は、約1.6分から約0.8分に減少した。
【0088】
【表12】
本発明のいくつかの例示的な実施形態の上記の説明は、本発明をどのようにして作製し、実行することができるかを示すものである。当業者は様々な詳細が改変され、それによってさらなる実施形態に到達することができるが、これらの実施形態の多くが本発明の範囲内に留まることを理解するのであろう。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】コントロール試料及び1phrのNaSil-PEGを添加したNRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
図2】コントロール試料及び1phrのNaMBT-NaSil-PEGを添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
図3】コントロール試料及びグラフェンオキシドを含むNaMBT-NaSil-PEG複合体を1phrで添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
図4】コントロール試料及び1phrのNaBEC-NaSil-PEGを添加したSBRマスターバッチの硬化総量及び硬化速度のグラフを示す。
図1
図2
図3
図4