(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化プロセスを制御する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20240129BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20240129BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20240129BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020563982
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(86)【国際出願番号】 US2019030621
(87)【国際公開番号】W WO2019231611
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-19
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508168701
【氏名又は名称】ダウ テクノロジー インベストメンツ リミティド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ブラメール、マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フイフォン
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-534151(JP,A)
【文献】特表2009-519941(JP,A)
【文献】特表2021-525165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスを制御する方法であって、前記プロセスが、オレフィンを一酸化炭素、水素、および触媒と接触させることを含み、前記触媒が、(A)遷移金属、(B)モノホスフィン、および(C)下記の構造を有するテトラホスフィンを含み、
【化1】
式中、各Pがリン原子であり、R
1~R
46の各々が独立して水素、C1~C8アルキル基、アリール基、アルカリール基、またはハロゲンであり、前記接触させることが、1つ以上の反応ゾーンで、かつノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドの配合物をN:I比で生成するヒドロホルミル化条件で行われ、前記方法が、
(1)追加のテトラホスフィンを反応ゾーンに添加することによって前記N:I比を増加させること、
但し、前記テトラホスフィンは過酸化物の不在下で添加すること、
(2)追加のモノホスフィンを反応ゾーンに添加することによって前記N:I比を減少させること、または
(3)遊離モノホスフィンの揮発によって前記N:I比を増加させること、のうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記モノホスフィンがトリフェニルホスフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属がロジウムを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各R
1~R
46が水素である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記オレフィンがプロピレンである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記反応ゾーンのモノホスフィン量が、前記反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて1.5重量パーセント以上である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記反応ゾーンのモノホスフィン量が、前記反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて1.5~13重量パーセントである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記反応ゾーンのテトラホスフィン量が、前記反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて0.06重量パーセント以上である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記反応ゾーンのテトラホスフィン量が、前記反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて、0.1~9重量パーセントである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドをN:I比で生成するためのヒドロホルミル化プロセスを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドは可溶化ロジウム-三有機リン配位子錯体触媒の存在下でオレフィン系不飽和化合物を一酸化炭素および水素と反応させることにより容易に生成できること、ならびにこのようなプロセスの好ましいタイプは連続ヒドロホルミル化を伴うことが当技術分野で知られている。例えば、米国特許第3,527,809号は、低温および低圧でアルデヒドを生成するためのアルファ-オレフィンのヒドロホルミル化を開示している。このプロセスでは、特定のロジウム錯体を使用して、選択した三有機リン配位子の存在下で定義された変数セットの下で、水素および一酸化炭素によるオレフィンのヒドロホルミル化を効果的に触媒する。
【0003】
米国特許第3,527,809号に記載されている触媒の中には、ロジウムおよびトリアリールリン配位子、特にトリフェニルホスフィン(「TPP」)によって例示されるトリアリールホスフィン配位子を含有する化合物がある。商業的なヒドロホルミル化プロセスは、何十年もの間ロジウム-TPP触媒を首尾よく採用しており、運転の重要な側面はロジウムと比較して大過剰のTPPを使用することである。例えば、工業用のプロピレンヒドロホルミル化プロセスは、反応流体の総質量に基づいて10~12重量パーセントのTPP濃度で運転することがよくある。このような高濃度のTPPは、所望の生成物の位置選択性を達成し、触媒の安定性を高めるために使用される。
【0004】
ヒドロホルミル化プロセスの場合、生成物の位置選択性は、通常、直鎖(またはノルマル)生成物と分枝(またはイソ)アルデヒド生成物の比として表される。本明細書で使用する場合、この直鎖(またはノルマル)生成物と分枝(またはイソ)アルデヒド生成物の比は、「N:I比」または「N:I」と呼ばれる。ロジウム-TPP触媒は効果的な技術であるが、N:Iを約10:1より大きな値に増加させることは困難である。分枝生成物は価値を有する一方、直鎖生成物が好まれることが多い。直鎖生成物の選択性は異なる触媒促進剤を使用することにより高まる場合があり、例えば、特定のキレート性有機ポリリン配位子(例えば、特定のビスホスファイト)は10:1を上回るN:Iを示すことが知られているが、工業環境でのこのような変更には、既存触媒の廃棄、貴金属回収(「PMR」)を介したロジウムの回収、装置変更の可能性などを伴う。このような取り組みに関連する生成量の損失、PMR費用、およびプロセス装置の購入は、かなり高価になる場合がある。
【0005】
広範囲にわたってN:I比を制御するために、簡易で費用対効果の高い方法が望まれる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、様々な実施形態において、ノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドを多くの利点を提供するN:I比で生成するためのヒドロホルミル化プロセスを制御する方法に関する。例えば、いくつかの実施形態によると、驚くべきことに、遷移金属、モノホスフィン、およびテトラホスフィンからなる触媒を使用して、広範囲(例えば、様々な実施形態で3:1から35:1超)のN:I比を提供できることが発見された。さらに、いくつかの実施形態では、触媒失活の速度および単位時間あたりに消費されるテトラホスフィン量(配位子使用)の両方が非常に低い。
【0007】
一態様において、ノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスを制御する方法であって、プロセスは、オレフィンを一酸化炭素、水素、および触媒と接触させることを含み、触媒は、(A)遷移金属、(B)モノホスフィン、および(C)下記の構造を有するテトラホスフィンを含み、
【化1】
式中、各Pはリン原子であり、R
1~R
46の各々は独立して水素、C1~C8アルキル基、アリール基、アルカリール基、またはハロゲンであり、接触させることは、1つ以上の反応ゾーンで、かつノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドの配合物をN:I比で生成するヒドロホルミル化条件で行われ、
(1)追加のテトラホスフィンを反応ゾーンに添加することによってN:I比を増加させること、
(2)追加のモノホスフィンを反応ゾーンに添加することによりってN:I比を減少させること、または
(3)遊離モノホスフィンの揮発によってN:I比を増加させること、のうちの少なくとも1つを含む。
【0008】
これらの実施形態および他の実施形態について、以下の発明を実施するための形態でより詳細に論じる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
元素周期表およびその中の様々な基への参照はすべて、CRC Handbook of Chemistry and Physics、第72版(1991-1992)CRC Press、I-11頁で公表されているバージョンに対するものである。
【0010】
反対のことが記述されていない限り、または文脈から黙示的でない限り、すべての部およびパーセンテージは、重量に基づくものであり、すべての試験方法は、本出願の出願日現在のものである。米国特許実務の目的として、参照される特許、特許出願、または刊行物の内容はいずれも、それらの全体が、特に定義の開示、および当技術分野における一般的な知識に関して(本開示において具体的に提供される定義に矛盾しない程度に)、参照により組み込まれる(または、それと同等の米国版が同じように参照により組み込まれる)。
【0011】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」は互換的に使用される。「含む(comprise)」、「含む(include)」の用語、およびそれらの変形は、これらの用語が明細書および特許請求の範囲に現れる場合に限定的な意味を有しない。
【0012】
また、本明細書において、端点による数値範囲の列挙は、その範囲に包含されるすべての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。本発明の目的のために、当業者が理解することと一致して、数値範囲は、その範囲に含まれる可能なすべての部分範囲を含み、サポートすることを意図すると理解されるべきである。例えば、1から100までの範囲は、1.01から100まで、1から99.99まで、1.01から99.99まで、40から60まで、1から55までなどを伝達することを意図している。また、本明細書において、特許請求の範囲におけるこのような列挙を含む、数値範囲および/または数値の列挙は、「約」の用語を含むと読むことができる。このような場合、「約」という用語は、本明細書に列挙されているものと実質的に同じ数値範囲及び/または数値を指す。
【0013】
本明細書中で使用される場合、用語「ppmw」は、重量百万分率を意味する。
【0014】
本発明の目的のために、「炭化水素」という用語は、少なくとも1個の水素原子および1個の炭素原子を有するすべての許容される化合物を含むことが企図される。そのような許容される化合物はまた、1つ以上のヘテロ原子を有し得る。広義の態様において、許容される炭化水素は、非環式(ヘテロ原子を含むまたは含まない)および環式、分枝状および非分枝状、炭素環式および複素環式、置換または非置換であり得る芳香族および非芳香族の有機化合物を含む。
【0015】
本明細書で使用される場合、「置換された」という用語は、別段の指示がない限り、有機化合物のすべての許容される置換基を含むことが企図される。広義の態様では、許容される置換基には、非環式および環式、分枝状および非分枝状、炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族の有機化合物の置換基が含まれる。例示的な置換基には、例えば、アルキル、アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル(炭素の数が1~20以上、好ましくは1~12の範囲であり得る)、ならびにヒドロキシ、ハロ、およびアミノが含まれる。許容される置換基は、適切な有機化合物について、1つ以上であり、同一または相違し得る。本発明は、有機化合物の許容される置換基によりいかなる方式でも限定されることは意図しない。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロホルミル化」は、1個以上の置換もしくは非置換のオレフィン系化合物または1個以上の置換もしくは非置換のオレフィン系化合物を含む反応混合物を、1個以上の置換もしくは非置換のアルデヒドまたは1個以上の置換もしくは非置換のアルデヒドを含む反応混合物に転化することを伴うすべてのヒドロホルミル化プロセスを含むことが企図されるが、これらに限定されない。アルデヒドは、不斉または非不斉であってもよい。
【0017】
「反応流体」、「反応媒体」、および「触媒溶液」という用語は、本明細書では互換的に使用され、以下を含む混合物を含み得るが、これらに限定されない:(a)遷移金属-モノホスフィン錯体触媒(例えば、ロジウム-トリフェニルホスフィン錯体触媒)、(b)遷移金属-テトラホスフィン錯体触媒(例えば、ロジウム-テトラホスフィン錯体触媒)、(c)遊離モノホスフィン(例えば、トリフェニルホスフィン)、(d)遊離テトラホスフィン、(e)反応で形成されるアルデヒド生成物、(f)未反応の反応物、(g)当該遷移金属錯体触媒および当該遊離ホスフィン配位子のための溶媒、ならびに任意に(h)モノホスフィン配位子およびテトラホスフィン配位子の分解生成物。反応流体は、(a)反応ゾーンの流体、(b)分離ゾーンに向かう途中の流体流、(c)分離ゾーンの流体、(d)リサイクル流、(e)反応ゾーンまたは分離ゾーンから回収される流体、(f)外部冷却器の流体、および(g)配位子分解生成物を包含し得るがこれらに限定されない。
【0018】
「配位子分解生成物」という用語は、反応流体に含まれるテトラホスフィンおよびまたはモノホスフィン分子のうちの少なくとも1つの1つ以上の化学変換から生じるあらゆるすべての化合物を含むことが企図されるが、これらに限定されない。このような化合物は、親テトラホスフィンのロジウム促進開裂に由来するトリホスフィンまたはジホスフィン化合物、ならびに当該開裂の副反応から生じるより小さなホスフィン部分を含み得るが、これらに限定されない。配位子分解生成物はまた、ロジウム-トリアリールホスフィン・ヒドロホルミル化触媒溶液中に存在することが知られているアルキルジアリールホスフィンを含むことが企図される(例えば、米国特許第4,297,239号、第5欄を参照のこと)。配位子分解生成物は、ホスフィン部分の酸化から生じるあらゆるすべての化合物を含むことがさらに企図される。例えば、配位子分解生成物は、プロセスに導入されたモノホスフィン、プロセスに導入されたテトラホスフィンの部分的もしくは完全な酸化、またはロジウム促進副反応に起因するホスフィン化合物の酸化(例えば、親テトラホスフィンに由来するトリホスフィン化合物の酸化)に由来するホスフィン酸化物を含み得る。
【0019】
本明細書で使用する場合、「四座ホスフィン」および「テトラホスフィン」という用語は互換的に使用され、それぞれが3個の炭素原子に結合している4個のホスフィン原子を含有する化合物を含むことが企図される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「単座ホスフィン」および「モノホスフィン」という用語は互換的に使用され、3個の炭素原子に結合した単一のホスフィン原子を含有する化合物を含む。
【0021】
本明細書で使用する場合、「ロジウム錯体」、「ロジウム錯体触媒」、および「触媒錯体」という用語は互換的に使用され、電子相互作用によって結合または配位された配位子と少なくとも1個のロジウム原子とを含むと考えられる。このような配位子の例には、モノホスフィン、四座ホスフィン、一酸化炭素、プロピレン、および水素が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書で使用する場合、「遊離」ホスフィンという用語は、ロジウムに結合または配位していないモノホスフィンまたはテトラホスフィン分子を含むことが企図される。
【0023】
概して、本発明は、ヒドロホルミル化プロセスによって生成されるアルデヒドのN:I比を制御するための方法を対象とする。触媒組成物は、2つの配位子、モノホスフィン、およびテトラホスフィンを含み、生成されるアルデヒドのN:I比は、1つの配位子または他の配位子を反応ゾーンに添加することにより増減できる。方法のいくつかの実施形態は、触媒組成物で利用される配位子の変更にしばしば伴う不利点なしに、驚くほど広範囲のN:I比にわたってアルデヒドの生成を促進する。
【0024】
一態様において、ノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドを生成するためのヒドロホルミル化プロセスを制御する方法であって、プロセスは、オレフィンを一酸化炭素、水素、および触媒と接触させることを含み、触媒は、(A)遷移金属、(B)モノホスフィン、および(C)下記の構造を有するテトラホスフィンを含み、
【化2】
式中、各Pはリン原子であり、R
1~R
46の各々は独立して水素、C1~C8アルキル基、アリール基、アルカリール基、またはハロゲンであり、接触させることは、1つ以上の反応ゾーンでノルマル(N)アルデヒドおよびイソ(I)アルデヒドの配合物をN:I比で生成するヒドロホルミル化条件で行われ、
(1)追加のテトラホスフィンを反応ゾーンに添加することによってN:I比を増加させること、
(2)追加のモノホスフィンを反応ゾーンに添加することによってN:I比を減少させること、または
(3)遊離モノホスフィンの揮発によってN:I比を増加させること、のうちの少なくとも1つを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、遷移金属はロジウムを含む。いくつかの実施形態では、オレフィンはプロピレンである。
【0026】
モノホスフィンは、いくつかの実施形態では、下記の1つ以上である:トリフェニルホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリ(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(m-クロロフェニル)-ホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、およびトリオクチルホスフィン。いくつかの実施形態では、モノホスフィンはトリフェニルホスフィンである。いくつかの実施形態では、触媒は、異なる種のモノホスフィンの混合物を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、テトラホスフィンの構造におけるR
1~R
46の各々は水素である。いくつかの実施形態では、触媒は、以下のテトラホスフィンの1つ以上を含む。
【化3】
【0028】
いくつかの実施形態では、遷移金属はロジウムを含み、モノホスフィンはトリフェニルホスフィンであり、R1~R46の各々は水素であり、オレフィンはプロピレンを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、反応ゾーンのモノホスフィン量は、反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて1.5重量パーセント超である。いくつかの実施形態では、反応ゾーンのモノホスフィン量は、反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて、1.5~13重量パーセントである。いくつかの実施形態では、反応ゾーンのテトラホスフィン量は、反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて0.06重量パーセント超である。いくつかの実施形態では、反応ゾーンのテトラホスフィン量は、反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて、0.1から9重量パーセントである。いくつかの実施形態では、それぞれ反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて、反応ゾーンのモノホスフィン量は1.5重量パーセント超であり、反応ゾーンのテトラホスフィン量は0.06重量パーセント超である。いくつかの実施形態において、それぞれ反応ゾーンの反応流体の総重量に基づいて、反応ゾーンのモノホスフィン量は1.5~13重量パーセントであり、反応ゾーンのテトラホスフィン量は、0.1~9重量パーセントである。
【0030】
水素および一酸化炭素は、石油分解および精製運転を含む任意の好適な供給源から取得してもよい。
【0031】
合成ガス(syngas)(合成ガス(synthesis gas))は、様々な量のCOおよびH2を含有するガス混合物に与えられる名称である。生成方法は、よく知られている。水素およびCOは、典型的には、合成ガスの主成分であるが、合成ガスは、CO2ならびにN2およびArなどの不活性ガスを含有し得る。H2のCOに対するモル比は大きく変動するが、一般に1:100~100:1、好ましくは1:10~10:1の範囲である。合成ガスは、商業的に入手可能であり、しばしば、燃料源として、または他の化学物質の生成のための中間体として使用される。化学生成のための最も好ましいH2:COモル比は、3:1~1:3であり、通常、ほとんどのヒドロホルミル化用途には約1:2~2:1が目標とされる。合成ガス混合物は、水素およびCOの好ましい供給源である。
【0032】
本発明に包含されるヒドロホルミル化反応において使用され得るオレフィン出発物質の反応物質は、末端または内部が不飽和であり、直鎖、分枝鎖、または環状構造であり得る。このようなオレフィンは、2~20個の炭素原子を含有することができ、1つ以上のエチレン性不飽和基を含有する場合がある。さらに、このようなオレフィンは、カルボニル、カルボニルオキシ、オキシ、ヒドロキシ、オキシカルボニル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、アルキル、ハロアルキルなどのヒドロホルミル化プロセスに本質的に悪影響を及ぼさない基または置換基を含有し得る。例示的なオレフィン不飽和化合物には、アルファ-オレフィン、内部オレフィン、アルキルアルケノエート、アルケニルアルカノエート、アルケニルアルキルエーテル、アルケノールなど、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-オクタデセン、2-ブテン、イソブチレン、2-メチルブテン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、2-ヘプテン、シクロヘキセン、プロピレン二量体、プロピレン三量体、プロピレン四量体、ブテン二量体、ブテン三量体、2-エチル-1-ヘキセン、スチレン、3-フェニル-1-プロペン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、3-シクロヘキシル-1-ブテンなどが含まれる。無論、必要に応じて、異なるオレフィン出発物質の混合物を使用できることが理解される。本発明の実施形態は、C3および高級オレフィンのヒドロホルミル化において特に有用であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、オレフィン不飽和出発物質は、3~20個の炭素原子を含有するアルファ-オレフィン、および3~20個の炭素原子を含有する内部オレフィン、ならびにこのようなアルファ-オレフィンおよび内部オレフィンの出発物質混合物である。
【0033】
有益な溶媒は、ヒドロホルミル化プロセスに採用される。ヒドロホルミル化プロセスを過度に妨害しない任意の好適な溶媒が使用され得る。例として、ロジウム触媒されるヒドロホルミル化プロセスに好適な溶媒には、例えば、米国特許第3,527,809号、同第4,148,830号、同第5,312,996号、および同第5,929,289号に開示されるものが含まれる。好適な溶媒の非限定的な例には、飽和炭化水素(アルカン)、芳香族炭化水素、エーテル、アルデヒド、ケトン、ニトリル、アルコール、エステル、およびアルデヒド縮合生成物が含まれる。溶媒の具体的な例には、テトラグライム、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、キシレン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ブチルアルデヒド、およびベンゾニトリルが含まれる。有機溶媒はまた、飽和限界までの溶解水を含有し得る。例示的な好ましい溶媒には、ケトン(例えば、アセトンおよびメチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)、炭化水素(例えば、トルエン)、ニトロ炭化水素(例えば、ニトロベンゼン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(THF))およびスルホランが含まれる。ロジウム触媒されるヒドロホルミル化プロセスにおいて、一次溶媒として、生成したいアルデヒド生成物に対応するアルデヒド化合物、および/または、例えば、US4,148,830およびUS4,247,486に記載されているように、例えば、ヒドロホルミル化プロセスの間にその場で生成することができるような高沸点アルデヒド液体縮合副産物を使用することが好ましい場合がある。一次溶媒は通常、連続プロセスの性質上、最終的にアルデヒド生成物と高沸点アルデヒド液体縮合副産物(「重質物」)の両方を含むであろう。溶媒の量は特に重要ではなく、反応媒体に所望の量の遷移金属濃度を提供するのに十分であればよい。典型的には、溶媒の量は、反応流体の総重量に基づいて、約5重量パーセント~約95重量パーセントの範囲である。溶媒の混合物を用いてもよい。
【0034】
本発明の触媒は、遷移金属、モノホスフィン、およびテトラホスフィンを含む。特定の特に有用な実施形態において、触媒は、ロジウム、モノホスフィン、およびテトラホスフィンを含む。最も望ましい触媒は、塩素などの金属結合ハロゲンがなく、水素、一酸化炭素、およびロジウム金属と錯体形成したモノホスフィンおよびテトラホスフィンのうちの少なくとも1つを含有し、前述の液相に可溶で、かつ反応条件下で安定な触媒を生成する。
【0035】
遷移金属には、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、およびこれらの混合物から選択される8、9、および10族金属を含むことができ、好ましい金属は、ロジウム、コバルト、イリジウム、およびルテニウムであり、より好ましくはロジウム、コバルト、およびルテニウム、特にロジウムである。
【0036】
このような金属上の利用可能な配位部位の数は、当技術分野でよく知られている。したがって、錯体触媒混合物を含み得る触媒種は、単量体、二量体、またはより高核性の形態を含むことができ、好ましくは、金属、例えば、ロジウム1分子あたりに錯体形成した少なくとも1個の有機ホスフィン含有分子によって特徴付けられる。例えば、ヒドロホルミル化反応で使用される好ましい触媒の触媒種は、ヒドロホルミル化反応によって使用される一酸化炭素および水素ガスを考慮して、有機ホスフィン配位子に加えて、一酸化炭素および水素と錯体形成され得ると考えられる。
【0037】
特定の好ましい実施形態では、遷移金属はロジウムである。ロジウムは、予め形成された触媒、例えば、安定な結晶性固体、ロジウムヒドリドカルボニル-トリス(トリフェニルホスフィン)、RhH(CO)(PPh3)3として液相に導入することができる。ロジウムは、その場で触媒に転化される前駆体の形態として液体本体に導入することができる。そのような前駆体形態の例は、ロジウムカルボニルトリフェニルホスフィンアセチルアセトネート、Rh2O3、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、およびロジウムジカルボニルアセチルアセトネートである。反応媒体中に活性種を提供する触媒化合物およびそれらの調製の両方は、当技術分野で知られており、Brownら、Journal of the Chemical Society、1970、2753~2764頁を参照されたい。
【0038】
一般に、最適な触媒濃度は、プロピレンなどのアルファ-オレフィンの濃度に依存する。例えば、プロピレン濃度が高いほど、通常、所定サイズの反応器におけるアルデヒド生成物への所定の転化率を達成するために必要な触媒濃度は低くなるであろう。分圧および濃度が関連することを認識して、より高いプロピレン分圧を使用すると、液体本体からの「オフガス」中のプロピレンの割合が増加する。存在し得るプロパンの一部を除去するために、液体本体にリサイクルする前に生成物回収ゾーンからガス流の一部をパージする必要があり得るため、「オフガス」のプロピレン含有量が高いほど、プロパンパージ流で失われるプロピレンの量が多くなる。したがって、プロパンパージ流で失われたプロピレンの経済的価値と、より低い触媒濃度に伴う資本節約とのバランスをとる必要がある。
【0039】
ロジウム錯体触媒は、均一または不均一な形態であり得る。例えば、予め形成されたロジウムヒドリド-カルボニル-ホスフィン配位子触媒を、調製し、ヒドロホルミル化反応混合物に、導入してもよい。より好ましくは、ロジウム-ホスフィン配位子錯体触媒は、その場で活性触媒を形成するために反応媒体に導入され得るロジウム触媒前駆体に由来し得る。例えば、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネート、Rh2O3、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Rh(NO3)3などのロジウム触媒前駆体は、その場で活性触媒を形成するためにモノホスフィンおよびまたはテトラホスフィンと共に反応混合物に導入され得る。好ましい実施形態では、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネートをロジウム前駆体として使用し、溶媒中でモノホスフィンおよびテトラホスフィンのうち少なくとも1つと組み合わせ、活性触媒をその場で形成するために合成ガスと共に反応器に導入する。所望の濃度を達成および維持するために、必要に応じて、追加のモノホスフィンおよびまたはテトラホスフィンを加えてもよい。いずれの場合でも、一酸化炭素、水素、モノホスフィン、およびテトラホスフィンがすべて金属と錯体形成できる配位子であり、活性金属-配位子触媒がヒドロホルミル化反応で用いられる条件下で反応混合物中に存在すれば十分である。
【0040】
いくつかの実施形態では、ロジウム触媒前駆体をモノホスフィンおよび/またはテトラホスフィンと組み合わせることにより、触媒組成物が混合タンク内で形成される。ロジウム触媒前駆体が反応器への添加前に2つの配位子の一方とのみ組み合わされる場合、他の配位子を反応器に別々に添加し、反応器で触媒組成物を形成できる。
【0041】
反応流体中に存在するロジウム錯体触媒の量は、所望の生成速度を生み出すのに必要な最小限の量があればよい。一般に、ヒドロホルミル化反応器内の反応流体の遊離金属として計算された、150ppmw~1200ppmwの範囲のロジウム濃度は、ほとんどのプロセスに対して十分なはずであるが、一般には、150~800ppmwの金属、より好ましくは150~500ppmwのロジウムを用いることが好ましい。
【0042】
触媒組成物のモノホスフィン量(混合タンクで完全に形成されるか、または反応器で形成されるかどうかにかかわらず)は、遷移金属(ロジウム)1モルあたり少なくとも40モルのモノホスフィンである。いくつかの実施形態では、触媒組成物のモノホスフィン量(混合タンクで完全に形成されるまたは反応器で形成される)は、遷移金属(ロジウム)1モルあたり40~350モルのモノホスフィンである。触媒組成物のテトラホスフィン量(完全に混合タンクで形成されるまたは反応器で形成される)は、遷移金属(ロジウム)1モルあたり少なくとも1モルのテトラホスフィンである。いくつかの実施形態では、触媒組成物のテトラホスフィン量(完全に混合タンクで形成されるか、または反応器で形成されるかどうかにかかわらず)は、遷移金属(ロジウム)1モルあたり1~10モルのテトラホスフィンである。実施例に記載されているように、モノホスフィンまたはテトラホスフィンのモル量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定される。ロジウムのモル量は、原子吸収によって測定される。
【0043】
テトラホスフィン配位子はおそらく1つ以上のモノホスフィン化合物に分解する可能性があるが、本発明の実施形態による触媒組成物および反応流体中のモノホスフィン量は、分解により潜在的に現れると予想されるよりもはるかに多い。言い換えれば、触媒組成物または反応流体中の大部分のモノホスフィンは、一定量を提供するために触媒組成物または反応流体に添加または充填される(例えば、触媒組成物または反応流体中に存在するテトラホスフィンに由来しない)。
【0044】
商業的な運転では、配位子濃度は定期的または継続的な添加により維持する必要がある。そのようにするために、反応流体中の配位子の濃度は、1つ以上の分析技術によって日常的に測定され、通常、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が好まれる。本明細書で特に示さない限り、反応中の配位子の量に言及する場合、配位子濃度は、実施例に記載されるようにHPLCにより決定される。このような分析における配位子濃度は、しばしば重量パーセントとして報告されるため、連続運転にこれらの単位を使用すると便利なことが多い。いくつかの実施形態において、ヒドロホルミル化プロセスの反応器内の反応流体のモノホスフィン量は、反応器内の反応流体の総重量に基づいて、1.5重量パーセント以上である。いくつかの実施形態において、ヒドロホルミル化プロセスの反応器内の反応流体のモノホスフィン量は、反応器内の反応流体の総重量に基づいて、1.5から13重量パーセントである。いくつかの実施形態において、ヒドロホルミル化プロセスの反応器内の反応流体のテトラホスフィン量は、反応器内の反応流体の総重量に基づいて、0.06重量パーセント以上である。いくつかの実施形態において、ヒドロホルミル化プロセスの反応器内の反応流体のテトラホスフィン量は、反応器内の反応流体の総重量に基づいて、0.1から9重量パーセントである。上記に示したテトラホスフィンにおけるR1~R46がそれぞれ水素である幾つかの実施形態では、ヒドロホルミル化プロセスの反応器内の反応流体のテトラホスフィン量は、反応器内の反応流体の総重量に基づいて、0.1~4重量%である。例として、好ましい触媒前駆体組成物は本質的に可溶化ロジウム錯体前駆体、モノホスフィンおよびテトラホスフィンのうちの少なくとも1つ、ならびに溶媒からなる。モノホスフィンおよびまたはテトラホスフィンは、一酸化炭素ガスの発生によって見られるように、ロジウムアセチルアセトネート錯体前駆体のカルボニル配位子の1つを容易に置き換える。反応器に触媒前駆体組成物を導入すると、追加のモノホスフィンまたはテトラホスフィンを任意に追加し、反応流体内の目標濃度を達成し得る。
【0045】
したがって、ヒドロホルミル化反応器内の反応流体のロジウム-配位子錯体触媒は、有利には、一酸化炭素と、モノホスフィンおよびテトラホスフィンのうちの少なくとも1つと錯体形成したロジウムを含む。一実施形態では、ロジウム-配位子錯体の混合物が使用される。例えば、触媒は、キレート化および/または非キレート化の様式で一酸化炭素および四座ホスフィンと錯体形成したロジウムをさらに含む。触媒はさらに、1つ以上のモノホスフィン分子および一酸化炭素と錯体形成したロジウムを含む。
【0046】
ロジウム錯体触媒に加えて、遊離モノホスフィン(すなわち、金属と錯体形成しないモノホスフィン)は、反応流体中にも存在し、個々の組成に応じて反応器に提供される前の触媒組成物中にも存在し得る。遊離配位子の重要性は、US3,527,809、GB1,338,225、およびBrownら、上記、2759頁および2761頁に教示されている。いくつかの実施形態では、本発明のヒドロホルミル化プロセスは、反応媒体中に1重量パーセント以上の遊離モノホスフィンを含み得る。反応流体は遊離の四座ホスフィンも含有し得る。いくつかのそのような実施形態では、遊離の四座ホスフィン濃度は、ロジウム1モルあたり0.1~10モルの範囲であり得る。
【0047】
本発明の実施形態において配位子として役立ち得るモノホスフィン化合物は、式Iの化合物である。
【化4】
式中、Pはリン原子であり、Y
1-Y
3は、それぞれ独立に、アリール基、アルカリール基、シクロアルキル基、ベンジル基、C3~C8アルキル基、1~8炭素のアルコキシル基、アリールオキシ基、またはハロゲンである。例示的な例には、トリフェニルホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリ(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(m-クロロフェニル)-ホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、モノホスフィン化合物は、米国特許第4,283,562号および米国特許第5,741,945号に記載されているものなどの立体障害ホスフィンであり得る。例えば、いくつかのこのような実施形態では、式IのY
1-Y
3は独立して置換もしくは非置換のC3~C8アルキル、置換もしくは非置換のC5~C8シクロアルキル基、または置換もしくは非置換のC6~C12アリール基であり得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、モノホスフィンの混合物を使用できる。
【0049】
本発明の実施形態において配位子として役立ち得るテトラホスフィン化合物は、式IIの化合物である。
【化5】
式中、各Pはリン原子であり、R
1~R
46の各々は、独立して、水素、C1~C8アルキル基、アリール基、アルカリール基、ハロアルキル基、またはハロゲンである。好ましい実施形態において、R
1~R
46の各々は水素である。いくつかの実施形態で使用できるテトラホスフィンの他の例は、本明細書の他の部分に記載されている。
【0050】
いくつかの実施形態では、テトラホスフィンの混合物を使用できる。
【0051】
ヒドロホルミル化プロセスおよびその運転条件は、よく知られている。典型的な実施形態において、オレフィン(例えば、プロピレン)は、連続または半連続の様式でヒドロホルミル化され、生成物は分離ゾーンで分離され、濃縮された触媒溶液は1つ以上の反応器にリサイクルされる。リサイクル手順は、一般に、触媒およびアルデヒド生成物を含有する液体反応媒体の一部をヒドロホルミル化反応器、すなわち反応ゾーンから連続的もしくは断続的に取り出すこと、ならびにUS5,430,194およびUS5,681,473に開示されているような複合膜の使用により、または常圧、減圧、または高圧下の1つ以上の段階で、必要に応じて、別個の蒸留ゾーンにおいて、アルデヒド生成物を蒸留するより従来型で好ましい方法、すなわち気化分離により、そこからアルデヒド生成物を回収することを含み、残渣を含有する非揮発性金属触媒は、例えば、US5,288,918に開示されるように反応ゾーンにリサイクルされる。揮発性物質の濃縮、ならびに、例えば、さらなる蒸留によるその分離およびさらなる回収は、任意の従来方式で行うことができ、粗アルデヒド生成物は、必要に応じて、さらなる精製および異性体分離に送ることができ、回収された任意の反応物、例えば、オレフィン出発物質および合成ガスは、任意の所望の方式でヒドロホルミル化ゾーン(反応器)にリサイクルできる。このような膜分離の残余物を含有する回収された金属触媒、またはこのような気化分離の残渣を含有する回収された非揮発化金属触媒は、所望の任意の従来方式で、ヒドロホルミル化ゾーン(反応器)にリサイクルできる。
【0052】
好ましい実施形態において、ヒドロホルミル化反応流体は、少なくともいくらかの量の6つの主要成分または構成要素、すなわち、アルデヒド生成物、ロジウム-トリフェニルホスフィン配位子錯体触媒、遊離のトリフェニルホスフィン配位子、ロジウム-テトラホスフィン配位子錯体触媒、遊離のテトラホスフィン配位子、ならびに当該触媒および当該遊離配位子のための溶媒を含有する。ヒドロホルミル化反応混合物組成物は、ヒドロホルミル化プロセスにおいて意図的に用いられているかまたは該プロセスの間にその場で形成されたものなどの追加の成分を含有することができ、通常は含有するであろう。このような追加成分の例には、未反応オレフィン出発物質、一酸化炭素および水素ガス、およびその場で形成された副生成物、配位子分解化合物、および高沸点液体アルデヒド縮合副生成物、ならびに他の不活性共溶媒タイプの原料または用いられる場合、炭化水素添加剤が含まれる。
【0053】
用いられるヒドロホルミル化反応条件は変更し得る。例えば、ヒドロホルミル化プロセスの水素、一酸化炭素、およびオレフィン出発化合物の全ガス圧は、1~69,000kPaの範囲であり得る。しかしながら、一般に、本プロセスは、水素、一酸化炭素、およびオレフィン出発化合物の全ガス圧が14,000kPa未満、より好ましくは3,400kPa未満で運転されることが好ましい。最小全圧は、所望の反応速度を得るのに必要な反応物の量によって主に制限される。より具体的には、ヒドロホルミル化プロセスの一酸化炭素分圧は、1~6,900kPaが好ましく、21~5,500kPaがより好ましく、一方、水素分圧は34~3,400kPaが好ましく、69~2,100kPaがより好ましい。一般に、ガス状H2:COのモル比は、1:10~100:1以上の範囲であり得、より好ましいモル比は、1:10~10:1である。
【0054】
一般に、ヒドロホルミル化プロセスは、任意の運転可能な反応温度で実施され得る。有利には、ヒドロホルミル化プロセスは、-25℃~200℃、好ましくは50℃~120℃の反応温度で行われる。
【0055】
ヒドロホルミル化プロセスは、例えば、連続攪拌タンク反応基(CSTR)、ベンチュリ反応器、気泡塔反応器、またはスラリー反応器などの1つ以上の好適な反応器を用いて実施され得る。反応器の最適なサイズおよび形状は、使用される反応器のタイプに依存する。使用される反応ゾーンは、単一の容器であってもよく、または2個以上の別個の容器を備えてもよい。使用される分離ゾーンは、単一の容器であってもよく、または2個以上の別個の容器を備えてもよい。本明細書で用いられる反応ゾーン(複数可)および分離ゾーン(複数可)は、同じ容器内または異なる容器内に存在し得る。例えば、反応蒸留、反応膜分離などの反応分離技法は、反応ゾーン(複数可)で起こり得る。
【0056】
ヒドロホルミル化プロセスは、必要に応じて、未消費の出発物質をリサイクルして行うことができる。反応は、単一の反応ゾーンまたは複数の反応ゾーンで、連続してまたは同時に行うことができる。反応ステップは、出発物質の一方を他方に漸増的に添加することにより達成し得る。また、反応ステップは、出発物質の同時添加により組み合わされ得る。出発物質は、各々またはすべての反応ゾーンに連続して添加され得る。完全な転化が所望されない、または得られない場合、出発物質は、例えば、蒸留により生成物から分離され、次いで、出発物質は反応ゾーンに戻されて、リサイクルされ得る。
【0057】
ヒドロホルミル化プロセスは、ガラスライニングされたステンレス鋼または類似のタイプの反応装置のいずれかで行われ得る。過度の温度変動を制御するために、または可能性のあるあらゆる「暴走」反応温度を防止するために、反応ゾーンには1台以上の内部および/または外部熱交換器(複数可)を装備してもよい。
【0058】
本発明のヒドロホルミル化プロセスは、1つ以上のステップまたは段階で行われ得る。反応ステップまたは段階の正確な数は、資本コストと達成する高い触媒選択性、活性、寿命、および運転の容易さとの間の最良の妥協点、ならびに当の出発物質の固有の反応性、ならびに反応条件に対する出発物質および所望の反応生成物の安定性に左右される。
【0059】
一実施形態において、本発明において有用なヒドロホルミル化プロセスは、例えば、US5,728,893に記載されているような、多段階反応器で実施してもよい。このような多段階反応器は、容器あたり1超の理論的反応段階を作り出す内部の物理的障壁を用いて設計され得る。
【0060】
一般に、ヒドロホルミル化プロセスを連続方式で実施することが好ましい。連続ヒドロホルミル化プロセスは当技術分野でよく知られている。連続プロセスは、単一パスモードで実施することができ、すなわち、未反応オレフィン系出発物質(複数可)および気化したアルデヒド生成物を含む蒸気混合物を、液体反応混合物から除去し、そこからアルデヒド生成物を回収し、未反応オレフィン系出発物質(複数可)をリサイクルすることなく、次の単一パススルーのために、補給オレフィン系出発物質(複数可)、一酸化炭素、および水素を、液体反応媒体に供給する。このようなタイプのリサイクル手順は、当技術分野でよく知られており、例えば、US4,148,830に開示されているような所望のアルデヒド反応生成物(複数可)から分離された金属-有機リン錯体触媒流体の液体リサイクル、または、例えば、US4,247,486に開示されているようなガスリサイクル手順、ならびに必要に応じて、液体およびガスの両リサイクル手順の組み合わせを含み得る。最も好ましいヒドロホルミル化プロセスは、連続液体触媒リサイクルプロセスを含む。好適な液体触媒リサイクル手順は、例えば、米国特許第4,668,651号、同第4,774,361号、同第5,102,505号、および同第5,110,990号に開示される。
【0061】
一実施形態では、アルデヒド生成物混合物は、アルデヒド混合物が、例えば、溶媒抽出、結晶化、蒸留、気化、薄膜蒸発、流下膜気化、相分離、濾過、またはこれらの任意の組み合わせなどの任意の好適な方法によって生成される粗反応混合物の他の成分から分離することができる。WO88/08835に記載されているように、捕捉剤の使用により形成されるので、粗反応混合物からアルデヒド生成物を除去することが望ましい場合がある。粗反応混合物の他の構成要素からアルデヒド混合物を分離するための1つの方法は、膜分離によるものであり、例えば、米国特許第5,430,194号および同第5,681,473号に記載されている。
【0062】
上記のように、所望のアルデヒドは、反応混合物から回収することができる。例えば、米国特許第4,148,830号および同第4,247,486号に開示されている回収技術を使用できる。例えば、連続液体触媒リサイクルプロセスでは、反応ゾーンから取り出された液体反応混合物(アルデヒド生成物、触媒などを含有する)、すなわち、反応流体の一部は、分離ゾーン、例えば、気化器/分離器に送ることができ、所望のアルデヒド生成物は、1つ以上の段階で、常圧、減圧、または高圧下で、液体反応流体から蒸留により分離され、凝縮され、生成物受器に収集され、必要に応じて、さらに精製できる。液体反応混合物を含有する残りの非揮発性触媒は、次いで、必要に応じて、任意の他の揮発性物質、例えば、未反応オレフィンを、例えば、任意の従来方式での蒸留により凝縮アルデヒド生成物から分離した後に、液体反応に溶解した水素および一酸化炭素と共に反応器に戻して、リサイクルしてもよい。
【0063】
より具体的には、反応流体を含有する金属-有機リン錯体触媒からの所望のアルデヒド生成物の蒸留および分離は、所望の任意の好適な温度で起こり得る。一般に、そのような蒸留は、比較的低い温度、例えば、150℃未満、より好ましくは50℃~140℃の範囲の温度で行われることが好ましい。一実施形態において、このようなアルデヒド蒸留は、減圧下、例えば、低沸点アルデヒド(例えば、C4~C6)が含まれる場合はヒドロホルミル化中に用いられる全ガス圧よりも実質的に低い全ガス圧下、または高沸点アルデヒド(例えば、C7以上)が含まれる場合は真空下で起こる。例えば、一般的な慣例は、蒸留ゾーン、例えば、気化器/分離器への反応媒体中に存在するよりもはるかに低い合成ガス濃度を含有する液体媒体中に溶解した未反応ガスの実質的な部分を気化させるため、ヒドロホルミル化反応器から取り出された液体反応生成物媒体を減圧にかけることであり、ここで、所望のアルデヒド生成物が、蒸留される。一般に、真空圧から最大340kPaの全ガス圧の範囲の蒸留圧が大半の目的に十分なはずである。
【0064】
一実施形態では、アルデヒド蒸留を促進するために、分離ゾーンで流動ガスを使用することができる。そのようなストリップガス気化器は、例えば、US8404903に記載されている。
【0065】
分離ゾーンで発生する濃度の増加、高温、および低分圧は、触媒の失活および/または配位子分解の増加の両方に関して、触媒に悪影響を及ぼす場合がある。
【0066】
本発明の実施形態によるヒドロホルミル化プロセスの例示的な非光学活性アルデヒド生成物は反応物質として使用されるオレフィンに依存し、例えば、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-メチル1-ブチルアルデヒド、ヘキサナール、ヒドロキシヘキサナール、2-メチル1-ヘプタナール、ノナナール、2-メチル-1-オクタナール、デカナール、アジポアルデヒド、2-メチルグルタルアルデヒド、2-メチルアジポアルデヒド、3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド、6-ヒドロキシヘキサナール、アルケナール、例えば、2-、3-および4-ペンテナール、アルキル5-ホルミルバレレート、2-メチル-1-ノナナール、2-メチル1-デカナール、3-プロピル-1-ウンデカナール、ペンタデカナール、3-プロピル-1-ヘキサデカナール、イコサナール、2-メチル-1-トリコサナール、ペンタコサナール、2-メチル-1-テトラコサナール、ノナコサナール、2-メチル-1-オクタコサナール、ヘントリアコンタナール、ならびに2-メチル-1-トリアコンタナールなどを含み得る。
【0067】
プロピレンがヒドロホルミル化反応を受けるオレフィンであるいくつかの実施形態では、生成物は、n-ブチルアルデヒドと2-メチルプロピオンアルデヒドの混合物である。前述のように、n-ブチルアルデヒドと2-メチルプロピオンアルデヒド(イソブチルアルデヒド)の比率など、直鎖(N)と分枝(I)の異性体の比率は、従来、N:I比率またはN:Iと記載される。
【0068】
一実施形態では、触媒は、ロジウム、商業的プロセスで典型的に用いられる濃度(例えば、10~12重量%)のトリフェニルホスフィン、および1当量以上のテトラホスフィンを含む。このような実施形態では、プロセス流体をシステムから排出または除去する必要なしに、単にテトラホスフィンを添加することにより、N:Iを増加させることができる。この特定の実施形態は、完全に新しい触媒充填の必要性を排除し、それにより、貴金属回収(PMR)に伴うコストを回避し、短時間で実装できるため、長期間の操業停止の必要性を回避する。得られる触媒は、ロジウム-TPP触媒よりもイソブチルアルデヒドと比較して高いパーセンテージのn-ブチルアルデヒドを生成する。
【0069】
一実施形態では、触媒組成物は、ロジウム、商業的プロセスで典型的に用いられる濃度(例えば、10重量%以上)より低い濃度(例えば、5~6重量%)のトリフェニルホスフィン、および1当量以上のテトラホスフィンを含む。例えば、既存のロジウム-TPP触媒溶液が経年変化しても生産目標を達成できる商業的な運転では、触媒の一部(例えば、プロセス流体の50%)を除去した後、新しいロジウムおよびテトラホスフィンをいくらか追加することを選択してもよい。このような実施形態は、除去されたプロセス流体の部分にいくらかのPMR費用を伴うが、得られるN:Iは、元のロジウム-TPP触媒よりも高くなるであろう。
【0070】
一実施形態では、触媒は、ロジウム、トリフェニルホスフィン(例えば、2~4重量%)および1当量以上のテトラホスフィンを含む。例えば、触媒溶液が固有の失活によりその有効寿命の終わりに達している商用ロジウム-TPPプラントは、既存のプロセス流体をすべて投棄し、ロジウム、2~4重量%のトリフェニルホスフィン、および1当量以上のテトラホスフィンからなる新しい触媒を充填することを選択してもよい。このようなプロセスは、元のロジウム-TPP触媒よりも直鎖アルデヒドに対して高い選択性を提供する。元のプロセス流体中のロジウムを回収する必要があるが、本発明のプロセスの実施には、広範な反応システムの洗浄または追加のプロセス装置を必要としないであろう。
【0071】
一実施形態では、触媒は、ロジウム、1当量以上のテトラホスフィン、およびトリフェニルホスフィン(例えば、1.5~2重量%)を含む。例えば、ロジウムおよびテトラホスフィンからなる触媒を利用するプロセスは、N:Iを下げるためにトリフェニルホスフィンを添加することを選択してもよい。通常、直鎖異性体はより高い価値があるが、商業的な運転では、製品需要の変化により、より多くのイソアルデヒドの製造を選択する場合もある。
【0072】
一実施形態では、触媒は、ロジウム、1当量以上のテトラホスフィン、およびモノホスフィン(例えば、少なくとも1.5重量%)を含む。例えば、ロジウムおよびモノホスフィン(すなわち、TPP以外)からなる触媒を利用するプロセスは、N:Iを上げるためにテトラホスフィンを添加することを選択してもよい。
【0073】
一実施形態では、ロジウム、1当量以上のテトラホスフィン、およびモノホスフィンを含む触媒溶液は、遊離モノホスフィンの少なくともいくらかを優先的に揮発させる触媒-生成物分離ゾーンの条件に供される。別の言い方をすれば、揮発(例えば、気化)によって反応流体中のモノホスフィン濃度を下げると、観測されるN:Iが増加する。テトラホスフィンは非常に低い揮発性の高分子量化合物であるが、モノホスフィンの揮発性は知られており、反応流体内の濃度の調節能は当業者に知られている。例えば、米国特許第5,110,990号には、この特許に記載されている手順を実施しないことにより反応流体中のモノホスフィンの揮発を促進できることを当業者が理解できるように、反応流体中のモノホスフィンの揮発を最小化する方法が記載されている。
【0074】
ここで、本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例においてより詳細に説明する。
【実施例】
【0075】
以下の実施例におけるすべての部およびパーセンテージは、他に示さない限り重量による。配位子Aの濃度は、ロジウム1モルあたりの配位子Aのモル数に基づいて、当量として表される。以下の実施例の圧力は、他に示さない限り、平方インチゲージあたりのポンドとして示される。他に示さない限り、触媒溶液の調製などのすべての操作は、不活性雰囲気下で行われる。比較実験は、本発明の実施形態ではない。
【0076】
ガス組成(モル%)はガスクロマトグラフィー(GC)により測定され、分圧はラウルの法則を使用して全圧に基づいて算出される。
【0077】
遊離四座ホスフィン濃度は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定される。分析中の酸化を防ぐために、硫黄で飽和した希釈剤(体積で50:50のアセトニトリル:元素状硫黄で飽和したTHF)と混合することにより、ホスフィンを安定なホスフィンスルフィドに誘導体化する。
【0078】
外部標準HPLC分析は、UHPLC SB-C8 3.0mm、1.8umガードカラム、続いてZorbax SB-C8分析カラム(3.0×150mm)を備えたAgilent 1200 Infinity Series HPLCで実行される。溶媒勾配は、55%の水と残りのアセトニトリルで4分間、次に、20:80の水:アセトニトリルに調整して、22分間、最後に元の組成に戻して、残りの35分間実行する。カラム温度は40℃に維持しながら、溶媒の流速は終始1.00mL/分である。2マイクロリットルの試料がシステムに注入され、多波長UV検出器は240nmに設定される。
【0079】
配位子Aの調製
四座ホスフィン化合物配位子Aはこれらの実施例で使用され、以下に示すように調製される。
【化6】
【0080】
1,1′-ビフェニル-2-2′,6,6′-テトラカルボン酸の合成。オーバーヘッドスターラー、底部排水弁、および水冷凝縮器を備えた5Lジャケット付き反応器に、1Lの塩化メチレンおよび50g(0.247mol)のピレンを充填する。混合物をピレンが溶解するまで撹拌し、その後、0.25Lのアセトニトリル、1.5Lの脱イオン水、および2.0gの塩化ルテニウム(III)を添加する。得られた二相性混合物を激しく撹拌し、ジャケットを通して冷却液を循環させることにより18℃まで冷却する。次に、反応器の温度を23~27℃に維持しながら、2.5時間の間にわたって過ヨウ素酸ナトリウムを少しずつ(合計500g、2.34mol)添加する。最初は褐色である反応混合物は、すぐに暗褐色になり、最終的には褐色がかった緑色になる。一晩(18時間)攪拌した後、攪拌を停止し、層を分離させる。下層をブフナー漏斗に排出して、粗製の緑色/茶色の固体生成物を収集し、塩化メチレン(2X500mL)で洗浄し、空気を流してフィルター上で乾燥させる。次に、固体を反応器に戻し、1.5Lのアセトンで1時間還流させる。室温に冷却した後、黄色の溶液をブフナー漏斗に排出し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮して黄色の固体を残す。粗四酸生成物を70℃の真空オーブンで一晩乾燥させ、さらに精製することなく使用する。
【化7】
【0081】
1,1′-ビフェニル-2,2′,6,6′-テトラメタノールの合成。前のステップで使用した5L反応器を乾燥させ、窒素で一晩パージする。粗製の1,1′-ビフェニル-2-2′,6,6′-テトラカルボン酸(50.0g、0.152mol)を1.5LのTHFと共に窒素下で充填する。得られた溶液を撹拌し、冷却した流体を反応器のジャケットを通して循環させることにより0℃に冷却する。次に、水素化リチウムアルミニウムを含むTHF(1M;666mL;0.665mol)溶液を、蠕動ポンプを介して2時間かけて添加する。この間、混合物は激しく攪拌され、反応器の温度は0~2℃に維持され、安全のために、窒素が緩やかに反応器にパージされ、通気流が凝縮器を通過して、発生した水素を反応器から一掃する。水素化リチウムアルミニウムの添加が完了した後、反応器をさらに15分間攪拌冷却し、その後、室温まで徐々に温める。室温で30分間撹拌した後、反応器の内容物を65℃に加熱し、緩やかな窒素パージ下で一晩撹拌する。翌朝、反応器を、0℃に冷却し、蠕動ポンプを介して徐々に添加した25mLの水、続いて50mLの10%NaOHおよび75mLの水で、0~7°Cで1.5時間の間にわたって急冷する。急冷手順は水素を発生させるため、窒素スイープと共に実行される。急冷した溶液を徐々に室温まで温め、その後、反応器からブフナー漏斗に排出する。このようにして収集された固体を熱THF(3X300mL)で洗浄する。揮発性物質を合わせた濾液からロータリーエバポレーターで除去すると、35gの淡黄色の固体が残る。固体を熱エタノールに溶解し、濾過し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去する。真空オーブンで一晩乾燥させると、32.3gの淡黄色の生成物(収率77.1%、純度約97%)が残る。
1H NMR(400MHz、DMSO)。δ7.46(d、J-6.8Hz、4H)、7.39(dd、J=8.6、6.4Hz、2H)、4.99(t、J=5.3Hz、4H)、3.94(d、J=5.3Hz、8H)ppm。
13C NMR(400MHz、DMSO)δ139.3、133.1、127.3、125.4、60.4ppm。
【化8】
【0082】
2,2′6,6′-テトラキス(クロロメチル)-1,1′-ビフェニルの合成。5L反応器を乾燥させ、窒素で一晩パージした後、1,1′-ビフェニル-2,2′,6,6′-テトラメタノール(45g;0.164mol)、塩化メチレン(450mL)、およびジメチルホルムアミド(1mL)を充填する。得られた黄色の溶液を撹拌し、0℃に冷却する。次に塩化チオニル(1,071g、9.01mol)を2時間かけて蠕動ポンプを介して徐々に添加し、反応器の温度を0℃近くに保ち、添加中、反応器は窒素で一掃され、発生したHClおよびSO
2が除去され、オフガスを水スクラバーに通過させた。次に、反応溶液を室温に温め、30分間撹拌してから、一晩加熱還流(約45℃)させる。翌日、溶液を15℃に冷却し、反応器から排出した。大気圧での蒸留により塩化メチレンを除去し、真空蒸留により残留塩化チオニルを除去した。得られた残留物を最初にロータリーエバポレーターで乾燥させ、続いて真空オーブン内で、60℃で一晩乾燥させ、58.1gの黄色の固体を残した。(収率100%、純度約95%)。
1H NMR(400MHz CDCl2)δ7.66-7.60(m、4H)、7.56(dd、J=8.8、6.4Hz、2H)、4.28(s、8H)ppm。
13C NMR(400MHz、CDCl2)δ136.9、135.5、131.3、130.3、45.0ppm。
【化9】
【0083】
(ビフェニル-2,2′,6,6′-テトラメタンジイル)テトラキス(ジフェニルホスファン)(配位子A)の合成。リチウムワイヤー(2.1g、300mmol)を小片に切断し、無水THF(130mL)と共にドライボックス内の250mLフラスコに充填する。懸濁溶液をシュレンクラインに移し、窒素下の氷水浴で冷却する。クロロジフェニルホスフィン(28.1mL、151.7mmol)を0℃で50分間かけて滴下し、次に0℃でさらに30分間撹拌した。この間、色は黄濁色から赤に変わる。溶液をドライボックスに移し、室温で一晩攪拌した。翌朝、溶液をカニューレで濾過して、清潔で乾燥した500mL丸底フラスコに入れ、シュレンクラインに移し、-78℃に冷却した。2,2′6,6′-テトラキス(クロロメチル)-1,1′-ビフェニル(12.7g、37mmol)を含むTHF(60mL)溶液を50分かけて滴下し、その後、さらに20分間攪拌冷却した。次に溶液を徐々に室温まで温め、その後、ドライボックスに移し、一晩撹拌する。次に、脱気した塩化メチレン(300mL)および水(150mL)を加え、得られた混合物を分離した。下層を丸底フラスコに移し、ロータリーエバポレーターで、30℃で濃縮し、粗生成物を含むTHF溶液を残した。流動窒素の下、この溶液を65℃で加熱しながら、脱気したエタノール(100mL)を徐々に加える。エタノール添加中に白色固体が沈殿し始めた。次に、混合物を放冷し、冷蔵庫に一晩置き、翌日、ドライボックスで濾過し、エタノール(2X50mL)で洗浄して、得られた固体を収集する。真空下で一晩乾燥させると、所望の生成物が白色の粉末として残る(収率90%、純度99%)。
31P NMR(400MHz、CDCl3)δ-14.5ppm。
1H NMR(400MHz、CDCl3)δ7.30-7.17(m、40H)、6.91-6.82(m、2H)、6.72(d、J=7.7Hz、4H)、3.21(s、8H)ppm。四座ホスフィンである配位子Aは下記の構造を有する。
【化10】
【0084】
比較配位子B
比較配位子Bは、活性で選択的なヒドロホルミル化触媒を生成することが知られているBISBI(モノホスフィンでも四座ホスフィンでもない)である。BISBIの調製方法およびヒドロホルミル化配位子としてのその使用例は、例えば米国特許第4,694,109号に見い出され得る。以下の比較実験で使用したBISBIは、フロリダ州アラチュアのProactive Molecular Researchから購入し、そのまま使用した。BISBI(配位子B)の構造を
図2に示す。
【化11】
【0085】
一般的手順
他に示さない限り、実施例および比較実験は、温度およびガス流を正確に制御するための手段を備えた90mLフロースルー・フィッシャーポーター反応器中で行われる。反応器のオフガスは、分圧を決定するためにオンラインGCによって分析される。フロースルー反応器での混合は、反応器の底部にあるスパージャーを介した連続的なガス流によって行われる。この反応器の設計は、米国特許第5,731,472号に詳細に記載されており、その教示は、参照により組み込まれる。
【0086】
反応速度は、単位時間あたりの触媒溶液の体積あたりに生成されるアルデヒドのモル数(モル/L-時間)として表され、この値はプロピレン分圧でさらに除算され、プロピレン供給速度(速度/オレフィン)における小さくて避けられない変動の影響を緩和する一助となる。生成物選択性は、直鎖状(ノルマル)アルデヒド対分枝状(イソ)アルデヒド(N:I)の比として表される。
【0087】
実施例1
反応器にテトラグライム(20mL)、ロジウム(300ppm)、およびトリフェニルホスフィン(TPP)(12重量%)が充填される。ヒドロホルミル化は、90℃で、10psi CO、50psi H2、および20psiプロピレン下で達成される。ベースラインの反応速度およびN:Iが測定される。一晩の運転後、配位子A(4当量)が添加され、性能への影響が決定される。
【0088】
【0089】
実施例2~5
4つの反応器のそれぞれに、テトラグライム(20mL)、ロジウム(200ppm)、配位子A(ロジウムに対して1.5または5当量)、およびTPP(5または10重量%)を充填する。ヒドロホルミル化は、90℃で、20psi CO、50psi H2、および20psiプロピレン下で達成される。ヒドロホルミル化率とN:Iが測定される。
【0090】
【0091】
実施例6~10
6つの反応器のそれぞれに、テトラグライム(20mL)、ロジウム(200ppm)配位子A(ロジウムに対して1.5当量)、および変動する量のTPPを充填する。ヒドロホルミル化は、90℃で、20psi CO、50psi H
2、および20psiプロピレン下で達成される。実施例6~10の結果を表3に示す。
【表3】
【0092】
比較実験A~D
比較配位子Bの使用を除いて、実施例2~5の手順を繰り返す。比較配位子Bは、配位子Aの分子あたり4つのリン部分と比較して、分子あたり2つのリン部分を有するため、2倍の量の配位子Bが使用される。比較実験A~Dの結果を表4に要約する。
【表4】
【0093】
対照的に、同じ条件下でロジウム、TPP、および配位子Aを含む触媒は、より速い速度および14~約28の範囲のN:Iを示す(表2を参照)。直鎖アルデヒドに対する選択性は、それにより、本発明のいくつかの実施形態によるプロセスを使用して3%を超えて増加する場合があり、これは、商業的な運転において実質的な経済的利益を提供し得る。