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特許7427616磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置、及び、位相補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、画像処理装置、及び、位相補正方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240129BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240129BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20240129BHJP
   G01R 33/561 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A61B5/055 374
G01N24/00 530Y
G01N24/08 510Y
G01R33/561
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021002001
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107204
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】西尾 慧祐
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 善隆
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010556(JP,A)
【文献】特開2015-047507(JP,A)
【文献】特開2014-158535(JP,A)
【文献】特開2010-233907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
G01N 24/08
G01R 33/20-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパルスシーケンスに従い高周波磁場パルス及び傾斜磁場パルスを印加し、検査対象から発生する核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、前記核磁気共鳴信号を用いて前記検査対象の画像を作成する演算部とを備え、
前記撮像部は、複数チャネルの受信コイルを備え、前記パルスシーケンスとして、1回の励起用高周波磁場パルス印加後に複数の核磁気共鳴信号を取得するEPI法のパルスシーケンスを実行し、前記演算部は、EPI法のパルスシーケンスの実行によって前記受信コイルの複数のチャネルでそれぞれ得た核磁気共鳴信号からなるデータの位相を補正する前処理部を含み、
前記前処理部は、
複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて1組のラインデータ間の複素積算により差分位相を算出し、チャネル毎の差分位相を複素平均し、当該複素平均した差分位相から位相補正係数を算出し、当該位相補正係数から共通の位相補正値を算出する補正値算出部と、
当該共通の位相補正値を用いて各チャネルが受信した画像形成用のデータの位相を補正する位相補正部とを備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記補正値算出部は、前記チャネル毎に算出した差分位相を、複数のスライスについて算出し、合成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記補正値算出部は、複数のスライスの差分位相の合成に、ガウスカーネル関数を用いることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記前処理部は、前記補正用のデータをx-ky空間データに変換し、当該x-ky空間データを用いて前記共通の位相補正値の算出及び位相補正を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記前処理部は、x方向の位相補正を行うx方向補正部と、ky方向の位相補正を行うky方向補正部とを備え、前記x方向補正部及びky方向補正部のそれぞれについて、共通の位相補正値を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記x方向補正部は、チャネル毎に、x-ky空間の1組のラインデータ間の複素積算により差分位相を算出し、チャネル毎の差分位相を複素平均することによりチャネル間平均の差分位相を算出し、当該チャネル間平均の差分位相から、前記位相補正係数としてx方向の傾きとx方向切片とを算出し、当該位相補正係数で決まる補正用位相をx方向における共通の位相補正値とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記ky方向補正部は、チャネル毎の補正用データを、EPIのショット数及びラインデータの奇偶に応じて複数のパターンに分割するデータ分割部を備え、前記データ分割部により分割されたパターンごとに前記位相補正係数としてky方向の傾きを算出し、各パターンのky方向の傾きを平均して、ky方向における共通の位相補正値とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記補正用のデータは、前記撮像部がプリスキャンによって得たデータであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像部は、前記補正用のデータ及び前記画像形成用のデータを、同じEPIシーケンスを用いて取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像部は、k空間のスキャン方向が互いに逆となる2回のEPIシーケンスを実行し、前記前処理部は、2回のEPIシーケンスで得たデータを1組のデータとして前記位相補正値を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記撮像部がアンダーサンプリングによって得たk空間データをパラレルイメージング演算により画像再構成する画像再構成部を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
磁気共鳴イメージング装置が複数チャネルの受信コイルでチャネル毎に受信したデータを処理し画像を再構成する画像処理装置であって、
複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて1組のラインデータ間の複素積算による差分位相を算出し、チャネル毎の差分位相を複素平均し、当該複素平均した差分位相から位相補正係数を算出し、当該位相補正係数から共通の位相補正値を算出する補正値算出部と、
当該共通の位相補正値を用いて各チャネルが受信した画像形成用のデータの位相を補正する位相補正部と、
位相補正された画像形成用のデータを用いて画像を再構成する再構成部と、を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
複数チャネルの受信コイルを備えた磁気共鳴イメージング装置で、EPIシーケンスにより複数のチャネルそれぞれで取得した画像形成用データの位相を補正する位相補正方法であって、
複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて共通の位相補正値を算出するステップ、及び、前記共通の位相補正値を用いて各チャネルが受信した画像形成用のデータの位相を補正するステップと、を含み、
前記共通の位相補正値を算出するステップは、複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて1組のラインデータ間の複素積算による差分位相を算出するステップ、及び、チャネル毎の差分位相を複素平均し、当該複素平均した差分位相を用いて位相補正係数を算出するステップを含むことを特徴とする位相補正方法。
【請求項14】
請求項13に記載の位相補正方法であって、
前記共通の位相補正値を算出するステップは、x-ky空間のx方向の共通の位相補正値を算出するステップと、ky方向の共通の位相補正値を算出するステップとを含み、
前記x方向の共通の位相補正値を算出するステップと、前記ky方向の共通の位相補正値を算出するステップとを独立して実行することを特徴とする位相補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と略称する)に係り、特に複数の受信コイルを用いてEPI法による撮像を行った際の位相補正技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置を用いた高速撮像法の一つにEPI(Echo Planar Imaging)があり、拡散強調画像を得る撮像など種々の撮像に利用されている。EPIは、核磁気共鳴信号(NMR信号)が配置されるk空間(フーリエ空間)のデータを1度の励起で取得することができることから高速で信号を取得できるという利点がある。しかし、読み出し傾斜磁場を反転しながらエコー信号としてNMR信号を取得する際に傾斜磁場の印加誤差によってN/2アーチファクトが生じる、静磁場不均一等に起因する歪みや位相エンコード方向の位置ずれが生じやすい、などの問題もある。
【0003】
これらの問題については、種々のN/2アーチファクト補正法や位相補正技術が提案されている。例えば、プリスキャンにより取得したデータに基づいて、データをx-ky空間において位相誤差を補正することで、kx-y方向の位置ずれを補正する手法などがある(特許文献1)。この方法によれば、N/2アーチファクトやy方向の位置ずれの低減を図ることができる。
【0004】
一方、MRIにおける高速撮像法の一つとして、複数の受信コイルを用いて、k空間の位相エンコード方向のデータを間引いて信号を取得し、それら受信コイルの感度分布を用いて、計測されていないデータを演算により推定して、折り返しのない画像を取得するパラレルイメージング(PI)法がある。このPI法においても、信号取得方法としてEPIを用いることが可能であり、これにより歪みやぼけの低減が可能になる。この場合にも、EPIに起因する位相誤差を補正する必要があるが、受信コイル(チャネルともいう)毎に位相補正係数(補正量)を算出して位相補正を行い、位相補正後のデータを合成した場合、チャネル毎のSN等の違いにより位相補正量に誤差が生じ、合成した画像に折り返しアーチファクトが生じる可能性がある。PI法では受信コイルの感度分布を用いるので、その感度分布と位相補正後のデータとにずれがあった場合も折り返しアーチファクトの原因となりうる。
【0005】
特許文献2、3には、PI法とEPIを組み合わせるとともに、EPIに起因する位置ずれなどを解消するための位相補正を行う技術が開示されている。特許文献2に開示された技術では、受信コイルの複数のチャネルのプリスキャンデータから位相補正係数求めた場合に、チャネルによっては十分なSNRが得られないという問題を解決するため、複数チャネルの表面コイルとは別に備えられたボディコイルが受信したNMR信号を用いて、表面コイルの位相補正係数を算出し、これによって表面コイルが受信したNMR信号を補正する。また特許文献3に開示された技術では、k空間のラインが互いに異なる第1のk空間データと第2のk空間データとを用いて、複数チャネル分の中間的な画像(第1の折り返し画像と第2の折り返し画像)を生成し、これから位相差マップを作成して画像を位相補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-162370号公報
【文献】特許第6348355号明細書
【文献】特許第6283134号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された技術は、ボディコイルによる追加の信号取得が必要となるうえ、ボディコイルで十分な信号が得られない場合には、位相補正の精度が低下するおそれがある。特許文献3に記載された技術は、中間的な画像を作成する必要があり演算の負担が大きい。またチャネル毎に位相差マップを得ているので、チャネル毎の位相差マップでチャネルのデータ毎に位相補正を行った場合、折り返しアーチファクトが生じるという問題が解決できない。
【0008】
本発明は、PI法とEPIとを組み合わせた撮像において、チャネル毎の位相補正を不要とし、且つチャネル毎のデータを用いて精度よく位相補正することが可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、チャネル毎のプリスキャンデータを用いて、全てのチャネルのデータに適用される共通の位相補正値を算出する。共通の位相補正は、チャネル毎にもとめた差分位相を合成(複素平均)することにより求める。その際、各チャネルの信号値(絶対値)を維持したまま差分位相の合成を行い、絶対値の重みに応じた平均処理を行う。
【0010】
即ち、本発明のMRI装置は、所定のパルスシーケンスに従い高周波磁場パルス及び傾斜磁場パルスを印加し、検査対象から発生する核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、前記核磁気共鳴信号を用いて前記検査対象の画像を作成する演算部とを備える。撮像部は、複数チャネルの受信コイルを備え、前記パルスシーケンスとして、1回の励起用高周波磁場パルス印加後に複数の核磁気共鳴信号を取得するEPI法のパルスシーケンスを実行し、演算部は、EPI法のパルスシーケンスの実行によって前記受信コイルの複数のチャネルでそれぞれ得た核磁気共鳴信号からなるデータの位相を補正する前処理部を含む。前処理部は複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて位相補正値を算出し、チャネル毎の位相補正値を合成して共通の位相補正値を算出する補正値算出部と、当該共通の位相補正値を用いて各チャネルが受信した画像形成用のデータの位相を補正する位相補正部とを備える。
【0011】
また本発明の位相補正方法は、複数チャネルの受信コイルを備えた磁気共鳴イメージング装置で、EPIシーケンスにより複数のチャネルそれぞれで取得した画像作成用データの位相を補正する位相補正方法であって、複数のチャネルでそれぞれ受信した補正用のデータを用いて位相補正値を算出するステップ、チャネル毎の位相補正値を合成して共通の位相補正値を算出するステップ、及び、前記共通の位相補正値を用いて各チャネルが受信した画像形成用のデータの位相を補正するステップと、を含む。位相補正値を算出するステップは、補正用のデータのx-ky空間データにおけるライン間の差分位相を複素積算によって算出するステップを含み、前記差分位相から前記位相補正値を算出する。また共通の位相補正値を算出するステップは、チャネル毎の位相補正値を積算平均するステップを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各受信コイルのデータに対し共通の位相補正値を用いて位相補正することにより、チャネル毎の位相補正値が異なることに起因する折り返しアーチファクトを回避し、位置ずれやアーチファクトのないMR画像を提供できる。また共通の位相補正値を、各受信コイルのデータの信号値(絶対値)で重み付けするように算出することで、精度よくロバストな補正が可能となる。さらに差分算出の際の除算による0割を防ぐことができ簡便かつ安定的にチャネル合成を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】MRI装置の全体構成を示す図。
図2】EPIシーケンスの一例を示す図。
図3】EPIによるk空間データの収集法を示す図で、(A)はシングルショットEPIの例、(B)はマルチショットEPIの例、(C)はシングルショットEPIを2回行う場合である。
図4】計算機の機能を示す機能ブロック図。
図5】演算部による位相補正処理のフローを示す図。
図6】実施形態1の前処理部の機能を示す機能ブロック図。
図7】(A)~(C)は、それぞれ、図6のx方向傾き算出部、x方向切片算出部及びky方向傾き算出部の詳細を示す図。
図8】実施形態1のx方向補正の処理フローを示す図。
図9】差分位相の算出を説明する図。
図10】位相補正値のスライス合成に用いるカーネル関数の一例を示す図。
図11】x方向の傾きと切片の算出を説明する図。
図12】実施形態1のky方向補正の処理フローを示す図。
図13】(A)~(C)は、x-ky空間データの位相マップを示す図で、(A)は各ショットのデータ、(B)はパターンに分割後のデータ、(C)は位相微分処理後のデータを示す。
図14】共通の位相補正値として算出される、スライス方向の傾きを説明する図。
図15】本実施形態(A)と比較例(B)の効果の違いを説明する図。
図16】画像処理装置の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のMRI装置及び画像処理方法の実施形態を説明する。
【0015】
最初に図1を参照して、本発明が適用されるMRI装置1の全体構成を説明する。MRI装置は、図1に示すように、撮像部10、計算機20、UI(ユーザーインターフェイス)部30、及び記憶装置40を備えている。UI部30は、ユーザーがMRI装置の動作に必要な指令を入力したり、MRI装置で撮像した画像や入力に必要なUIなどを表示したりするもので、表示装置31や入力デバイス32などを含む。記憶装置40は、MRI装置に直接接続される可搬媒体やHDDなどでもよいし、ネットワーク等を通じて接続されるサーバーやクラウド上にある記憶媒体でもよい。
【0016】
撮像部10は、被検体が置かれる空間(撮像空間)に静磁場を発生する静磁場磁石(マグネット)11、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル12、及び、被検体に対し高周波磁場を印加するとともに被検体から発生するNMR信号を検出するプローブ13を備えている。
【0017】
静磁場磁石11には、静磁場の発生のさせ方により永久磁石方式、電磁石方式、超電導方式などがあり、また撮像空間における静磁場の向きによって垂直磁場方式や水平磁場方式がある。本発明はそのいずれにも対応することができる。
【0018】
傾斜磁場コイル12は、X、Y、Zの互いに直交する3軸方向にそれぞれ傾斜磁場を発生する3組のコイルを含み、それぞれ傾斜磁場電源14に接続され、傾斜磁場電源14から供給される電流によって、所望の大きさの傾斜磁場パルスを発生する。3軸のコイルに流す電流の組み合わせによって、撮像空間に対し任意の方向の傾斜磁場を発生させることができる。通常、スライス方向、位相エンコード方向及び読み出し方向(周波数エンコード方向ともいう)の3軸方向の傾斜磁場パルスを発生し、これによってNMR信号に位置情報が加えられる。なお静磁場の不均一を補正するためのシムコイルが備えられる場合もあり、また傾斜磁場コイル12がシムコイルを兼ねる場合もある。
【0019】
プローブ13は、図では示していないが、高周波磁場パルス(RFパルスという)を発生する送信RFコイルと、被検体から発生するNMR信号を受信する受信RFコイルとを含み、送信RFコイルは、高周波磁場発生器15に接続され、受信RFコイルは、受信器16に接続される。これらは、一つのコイルが送信用と受信用とを兼ねてもよいし、別個のコイルが用意される場合もある。一つのコイルが送信用と受信用を兼ねる場合には、高周波磁場発生器15と受信器16との間に切り替え器(不図示)が挿入される。本実施形態では、少なくとも受信用として機能するコイルは、複数のコイルを並べた多チャネルコイルで、それぞれが受信器16に接続される。受信器16は、受信用増幅器や直交検波回路、A/D変換器などを含み、デジタル化された信号が計算機20に送られる。
【0020】
撮像部10には、さらに、傾斜磁場電源14、高周波磁場発生器15、及び受信器16を所定のパルスシーケンスに従って動作させるシーケンサ17が備えられている。撮像に際し、シーケンサ17には、撮像方法によって決まるパルスシーケンスが設定され、シーケンサ17は設定されたパルスシーケンスに従って、送信RFコイル及び傾斜磁場コイル12が発生するRFパルス及び傾斜磁場パルスの大きさや印加タイミング、受信器16によるNMR信号のサンプリング時間などを制御する。
【0021】
パルスシーケンスは、撮像方法によって異なる種々のものが予めプログラムとして計算機20内のメモリ或いは記憶装置40に格納されており、計算機20は、撮像方法に応じて選択されたパルスシーケンスとUI部30を介して設定される撮像パラメータとを用いて、実際に撮像に用いるパルスシーケンス(撮像シーケンス)を計算し、シーケンサ17に設定する。本実施形態では、基本的なパルスシーケンスとしてEPIシーケンスが実行される。
【0022】
EPIシーケンスは公知のシーケンスであり、基本的には、図2に示すように、スライス選択傾斜磁場202とともに励起用のRFパルス201を印加した後に、位相エンコード方向及び読み出し方向にディフェイズ傾斜磁場203、205を印加し、読み出し方向の傾斜磁場206、207を反転させながら印加してマルチエコー208を発生させて、その際、ブリップ状の位相エンコード傾斜磁場パルス204を印加する。これにより、図3(A)に示すように、k空間の複数ラインのデータを収集する。図2は2Dのシーケンスであるが、2方向の位相エンコードを用いることで、3Dのk空間データを得ることもできる。またEPIシーケンスには、1回の励起(1ショット)でk空間データを収集するシングルショットEPIのほかに、図3(B)に示すように、複数ショットでk空間データを収集するマルチショットEPIもある。また図示していないが、k空間を複数の領域に分けて収集するマルチショットもある。また図3(C)に示すように、シングルショットEPIを2回撮像し、それらを加算する場合もある。この場合、図3(C)に示されるように、一般的には正と負の極性(k空間の走査の方向)を反転させて撮像を行う。本発明は、これらいずれのタイプのEPIにも適用することができる。また収集するk空間データは、k空間を占める全データの場合も、アンダーサンプリングしたデータの場合もある。後者はPI法の演算により画像再構成される。
【0023】
計算機20は、メモリとCPUやGPUを備えた汎用の計算機やワークステーションで構成することができ、撮像部10の各部の動作を制御する制御部として機能するとともに、撮像部10が収集したNMR信号(k空間データ)を用いて画像再構成のための種々の演算を行う演算部として機能する。但し、演算部の機能の一部は、計算機20とは別の計算機やASICやFPGA等のハードウェアで実現することも可能である。
【0024】
計算機20の具体的な機能について、図4の機能ブロック図を参照して説明する。
【0025】
計算機20は、図示するように、撮像部10の動作を制御する計測制御部21、UI部30(表示装置31)を制御する表示制御部22、撮像部10が収集した計測データに対し前処理を行う前処理部23、及び、前処理後の計測データを用いて画像を再構成する画像再構成部24を備える。前処理部23及び画像再構成部24は主として演算部の機能に含まれる。
【0026】
計測制御部21は、UI部30を介して設定された倍速率R(PI法の間引き率を決定する値)やショット数、エコー時間:TE、繰り返し時間:TRなどの撮像パラメータを用いて撮像に用いるパルスシーケンスを計算し、シーケンサ17を介して撮像部10の動作を制御する。本実施形態では、検査対象の画像を取得するための計測(本スキャン)と、本スキャンで得られる計測データの補正に必要なデータを収集するための予備計測(プリスキャン)とを実行するように制御する。プリスキャンのパルスシーケンスは、基本的には本スキャンのパルスシーケンスと同じであるが、信号受信時の位相エンコード方向の傾斜磁場は印可せずに取得する。
【0027】
表示制御部22は、表示装置31に表示するMR画像の表示態様や、ユーザーとのやり取りをするためのGUIなどの表示を制御する。
【0028】
前処理部23は、撮像部10がEPIシーケンスを実行したときに、計測データを補正するもので、本発明の実施形態では、チャネル毎に得られたプリスキャンデータから位相補正値を算出するためのデータ(補正用データ)を用意する補正用データ作成部231と、チャネル毎の補正用データから差分位相を算出し、これらを合成してチャネル共通の位相補正値を算出し、この位相補正値を用いて本スキャンデータの位相補正を行う位相補正部233とを有する。
【0029】
前処理部23はx―ky空間での処理を行う。具体的には、図5に示すように、補正用データ作成部231が、プリスキャンデータ(k空間データ)をx方向にフーリエ変換してx-ky空間データとし、x-ky空間データから補正値を算出するためのデータを用意する(S501)。
【0030】
次いでx方向及びky方向のそれぞれについて、位相補正部233が、補正値を算出し、位相補正を行う(S502、S503)。
位相補正部233における具体的な算出手法には後述するが、本実施形態のMRI装置では、x方向位相補正及びky方向位相補正のそれぞれにおいて、個々のチャネル毎に算出した位相補正値を位相補正に用いるのではなく、各チャネルに共通の位相補正値を算出し、それを位相補正に用いることが特徴である。これにより、チャネル間のばらつきによる合成画像へのアーチファクト出現を抑制することができる。
【0031】
さらに本実施形態の位相補正部233は、チャネル共通の位相補正値を算出する際に、チャネル毎に複素積算により差分位相を求め、チャネル毎の差分位相を複素平均し、位相補正値を算出する。このように、差分位相の算出手法として複素積算を採用することで、チャネル毎の信号値(絶対値)を共通の位相補正値に重みとして反映させることができる。その結果、例えば信号値が低く、精度よく位相補正値を求められない補正用データについては共通の位相補正値における重みが低くなるため、共通の位相補正値の精度が高まる。また複素積算を用いることで、差分位相を求める際に、除算による0割を防ぐことができ、安定にチャネル間合成を実現することができる。
【0032】
位相補正部233は、本スキャンで収集したデータに対し、位相補正値を用いた位相補正を行う。この際、x方向の位相補正と、ky方向の位相補正とは独立して行うことができる。
【0033】
画像再構成部24は、位相補正後の本スキャンデータに対しフーリエ変換等の演算を行い、被検体の画像を再構成する(S504)。本スキャンが倍速率1より大きい場合、即ちPI法の撮像の場合には、PI法の演算を用いて、アンダーサンプリングしたことにより画像に生じる折り返しを展開した画像を生成する。PI法の演算は、実空間で折り返しを除去する方法(SENSE)や計測空間における未計測データの推定を行う方法(GRAPPA)などが知られており、そのいずれも採用できるが、本実施形態ではSENSE法を用いて説明する。
SENSE法の演算では、受信コイルの感度分布を用いて画像の折り返しを除去するが、SENSE法の演算に先立って位相補正を行っておくことで、受信コイルの感度分布と計測データと位相ずれをなくすことができ、位相ずれに起因する画質の劣化を防止することができる。
【0034】
以下、前処理部23における処理の具体的な実施形態を説明する。
【0035】
<実施形態1>
本実施形態は、2回積算のシングルショットの2D-EPIでチャネル毎に得られたプリスキャンデータを用いて、共通の位相補正値を算出する。また必須ではないが、近傍のスライスの位相差データを合成し、これを用いて共通の位相補正値を算出する。本実施形態における2回積算のシングルショットのEPIのk空間スキャンでは、図3(C)に示したように、1回目と2回目とでは、読み出し傾斜磁場の印加方向が逆、即ちk空間におけるスキャンの向きが逆となるようにする。従って、得られる補正用データは、互いにスキャンの向きが逆の一組のデータとなる。
【0036】
以下、図6図8を参照して本実施形態の処理の詳細を説明する。図6は、本実施形態の前処理部23の機能を示す機能ブロック図である。
【0037】
本実施形態の前処理部23は、図6に示すように、読み出し方向(x方向)の位相補正を行うx方向補正部51と、位相エンコード方向の位相補正を行うky方向補正部52とを備えている。x方向補正は、主として、EPI特有の、k空間のライン間で生じる位相差を補正する。ky方向補正は、静磁場不均一等によって位相エンコード方向に生じる位相誤差を補正する。
【0038】
x方向補正部51は、さらに、差分位相算出部511、チャネル間平均部512、x方向傾き算出部513、x方向切片算出部514、及び、位相補正部515を備えている。x方向傾き算出部513は、さらに、図7(A)に示すように、x方向位相微分算出部とx方向平均算出部とを含む。x方向切片算出部514は、図7(B)に示すように、オフセット算出部とx方向平均算出部とを含む。
【0039】
ky方向補正部52は、補正に用いるプリスキャンデータを分割するデータ分割部521、分割したデータ毎にky方向の傾きを算出するky方向傾き算出部522、分割したデータのky方向傾きを統一するデータ統一部523、及び位相補正部524を備えている。ky方向傾き算出部522は、さらに、図7(C)に示すように、ky方向位相微分算出部と、x方向及びky方向についてチャネル間平均を算出するチャネル間平均算出部とを備える。
【0040】
次に上記構成による本実施形態の前処理の流れを説明する。最初に、図8を参照してx方向補正の流れを説明する。x方向補正は、図8に示すように、撮像部10が取得したプリスキャンデータ(k空間データ)をx方向にフーリエ変換し、チャネル毎に補正値算出用のデータ(x-ky空間データ)を取得するステップS801、x-ky空間データにおいて補正に用いるラインを抽出するステップS802、抽出したラインのデータを用いて複素積算により差分位相を算出するステップS803、ステップS803で算出した差分位相のチャネル間平均を複素平均により求めるステップS804、複素平均した差分位相を近傍スライス間で合成するステップS805、合成差分位相を用いてx方向の傾きを算出するステップS806、x方向の切片を算出するステップS807、及び、チャネル毎に本スキャンで得たデータを、ステップS806及びステップS807でそれぞれ得たx方向の傾き及び切片(これらをまとめて位相補正係数と呼ぶ)で位相補正するステップS808を含む。以下、各ステップの処理の詳細を説明する。
【0041】
[ステップS801]
本ステップでは、前処理部23(補正用データ作成部231)が、2回積算のシングルショットで得たk空間データをx方向にフーリエ変換することによりx-ky空間データとする。1回目のスキャンと2回目のスキャンとが、スキャンする方向が逆となるようにデータを収集しているので、x-ky空間データでは、隣接するライン間で、傾斜磁場形状の対称性のずれに起因する位相ずれ(x方向の位相ずれ)が生じている。
【0042】
[ステップS802]
x方向補正部51は、上述したx方向の位相ずれを補正する。このため、x-ky空間データからx方向の位相補正に用いるライン(ky方向のライン)を抽出する。抽出するラインは、例えば、信号値が最大となるky=0に相当するラインとする。
【0043】
[ステップS803]
差分位相算出部511が、1回目のラインデータと、2回目のラインデータとの複素積算により差分位相を算出する。差分位相dは、1回目のラインデータをl、2回目のlとすると、式(1)で表される複素積算dから、式(2)により算出することができる。
【0044】
【数1】
【数2】
【0045】
式(1)において「l 」は「l」の複素共役を表す。また式(1)及び(2)において、xはx方向の位置、zはスライス方向の位置、chはチャネル番号を示す(以下、同じ)。このような複素積算を行うことで、位相については差分が算出され、信号値(絶対値)は積算される。積算されて2乗になっている信号値は、式(2)において、平方根を取り1乗に戻す。
【0046】
図9に示すように、1回目のデータの位相と2回目のデータの位相を複素積算することで、正方向と負方向のk空間ピークの位置ずれに相当する1次の成分を求めることができる。また、式(1)において、複素除算ではなく、複素積算することにより、信号量が維持されたまま差分位相を計算できる。dの絶対値は信号量に相当するので、信号量が差分位相の信頼性に反映された形となる。
【0047】
[ステップS804]
チャネル間平均部512が、式(2)で算出した差分位相のチャネル間平均cを算出する。チャネル間平均cは、式(3)を用いて、複素平均により算出する。複素平均により算出することで、絶対値が維持され、ここでもチャネル毎の絶対値による重み付けがなされたことになる。
【数3】
式(3)において、「nch」はチャネル数を表す。
【0048】
[ステップS805]
2D撮像では、所定の領域について複数のスライスにわけてデータを取得するので(式(1)のzがz>1)、この場合には、互いに近傍にある複数のスライスの差分位相を、複素平均を取ることで合成する。合成対象となるスライスの数Lは特に限定されないが、数枚~10枚程度とし、例えば式(4)により決定する。式中、Zは任意に指定可能な合成対象領域の厚み(例えば20mmとする)、SliceGapは隣り合うスライス間の距離である。
【数4】
【0049】
複素平均cは、次式(5)で表すように、カーネル関数g(k)を用いた畳み込み演算により算出する。なおカーネル関数g(k)は、例えば図10で表すようなガウス関数(実線)であり、式(6)で定義することができる。
【0050】
【数5】
【数6】
【0051】
このようなガウスカーネルを用いることで、より近傍に近いほど寄与を大きくし、安定且つ高精度に位相補正値を算出することができる。但し、カーネル関数はこれに限定されず、スライスの数やスライス間ギャップ等に応じて任意の関数を用いることができる。
【0052】
この処理は、スライス毎に行う。これによりスライス毎に、複素平均cが得られる。なお本ステップは、位相補正値の算出において必須ではないが、スライス合成を行うことにより、何らかの精度を低下させる原因が1枚のスライスに合った場合にもその影響を低減し、ロバストな位相補正を行うことができる。
【0053】
[ステップS806]
x方向傾き算出部513は、ステップS805で得た差分位相c(x、z)を用いてx方向の傾きを算出する。このため、まずx方向位相微分算出部が、式(7-1)により、複素積算を行い、式(7-2)によりx方向について位相微分(1ピクセル当たりの位相変化)cを求める。次いでx方向平均算出部が、式(8)を用いて、式(7-2)の位相微分cを複素平均し、これをx方向の傾きαφとする。
【0054】
【数7】
式(7-1)、(7-2)において、「c」の下付き文字「ds」、「d」は、それぞれ、複素積算、位相微分であることを表す。
【0055】
【数8】
式(8)において、nはx方向のピクセル数を表す(以下、同じ)。
【0056】
式(7-1)、(7-2)においても、位相微分の算出において複素積算を用いることで、その信号値(|cds|)が式(8)で複素平均を行う際の重みとして含まれることになり、ロバスト性が向上する。
【0057】
[ステップS807]
x方向切片算出部514は、ステップS806で算出した位相の傾きαφを用いて、切片を算出する。このため、まず、基準となる位置の位相を求める。基準となる位置は、任意であるが、例えばフーリエ中心(データの中心位置)とする。この場合の位相(仮位相)φは、式(9)で表すことができる。式(9)においてxは、基準となる位置(フーリエ中心)の座標である。
【0058】
【数9】
【0059】
次いで仮位相φから、その差分として式(10)により、切片sを求め、式(11)により、その複素平均φを算出し、これを補正用位相とする。このような処理により、切片のずれがない補正用位相を求めることができる。
【数10】
【数11】
【0060】
[ステップS808]
位相補正部515は、ステップS807で得た仮位相φと切片の複素平均φとを用いて、式(12)により補正用位相(位相補正値)を算出し、本スキャンデータのx方向の位相を式(13)により補正する。
【0061】
【数12】
【数13】
【0062】
図11に補正用位相の一例を示す。図11において、点線で示す位相は、それぞれ、式(13-1)、式(13-2)に対応し、本スキャンデータの奇数ラインと偶数ラインをそれぞれ補正する場合には、これらを用いて次のように位相補正する。
1回目の本スキャンデータのうち奇数ラインのデータ及び2回目の本スキャンデータのうち偶数ラインのデータは、式(13-1)を用い、元のx-ky空間データから、h(x、ky、z)を複素除算する。また1回目の本スキャンデータのうち偶数ラインのデータ及び2回目の本スキャンデータのうち奇数ラインのデータは、式(13-2)を用い、元のx-ky空間データから、h(x、ky、z)を複素除算する。
また図11に実線で示す補正用位相(2倍の値)を用いて、例えば偶数ラインのみを補正し、奇数ラインに揃えてもよい。
【0063】
これによりx方向位相補正が行われたx-ky空間データが得られる。
以上がx方向補正部51が行う位相補正である。このように、x方向の位相補正では、位相補正値であるx方向の傾きと切片を全て複素平均で算出しているので、信号値の大きさを維持した位相補正値を得ることができる。また不安定な位相アンラップやフィッティング処理を行うことなく、図11に示したような補正用位相を算出することができ、安定的に共通の位相補正値を算出することができる。
【0064】
次にky方向補正部52の処理を、図12を参照して詳述する。図12は、ky方向の処理を示すフローである。
【0065】
ky方向の補正は、補正用データ(プリスキャンで得たk空間データから作成したx-ky空間データ)をショット番号とラインの奇偶とによって複数のパターンに分けて処理を行う。このためまず補正用データを分割する(S901)。次いで、分割後の各パターンについてky方向の位相微分処理(S902)、複素平均処理を行ってスライス毎にky方向の傾きを算出した後(S903)、各パターンのスライス毎に算出したky方向の傾きを平均して補正用データ(S904)を算出する。最後に補正用データを用いて本スキャンデータの位相補正を行う(S905)。
【0066】
以下、ky方向補正の各ステップの詳細を説明する。
【0067】
[ステップS901]
本実施形態では、チャネル毎にプリスキャンデータを2回の撮像で得ているので、x-ky空間データを撮像毎に分け(1回目の補正用データ、2回目の補正用データ)、これらをさらに奇数ラインのデータと偶数ラインのデータに分割する。これにより、x-ky空間データは、1回目奇数ライン、1回目偶数ライン、2回目奇数ライン、2回目偶数ラインの4つのパターンに分割される。
【0068】
以下、分割前のデータp(Ky,x,z,ch,nsa)(nsaは各撮像の番号で、本実施形態では1または2をとりうる)に対し、分割後のデータをp1o(Ky’,x,z,ch)、p1e(Ky’,x,z,ch)、p2o(Ky’,x,z,ch)p2e(Ky’,x,z,ch)と記述する。ここで、分割前と分割後のky方向座標を区別するため、前者をKy、後者をKy’とした。
【0069】
[ステップS902]
次いで各パターンのデータに対し、Ky’方向の位相微分(Ky’方向の傾き)を算出する。位相微分は、x方向の傾きを求める場合(式(7-1)、式(7-2))と同様に、隣接するライン間の複素積算、すなわち一方を複素共役とした積算により求める。代表として一つのパターンのデータp1o(Ky’,x,z,ch)に対する計算式を次式(14-1)、(14-2)に示す。他のパターンについても同様の計算を行い、位相微分を求める。
【0070】
【数14】
式(14-1)、(14-2)において、「p1o」の下付き文字「ds」、「d」は、それぞれ、複素積算、位相微分、であることを表す。
【0071】
ここでも、位相微分の算出において複素積算を用いることで、その信号値(|pds|)が位相微分の係数、つまり重みとして含まれることになり、結果のロバスト性が向上する。このステップS902により、y方向の位置ズレに相当する補正量が求められる。
【0072】
[ステップS903]
ステップS902で得られた結果に対し、Ky’方向及びx方向のピクセル間、及びチャネル間で複素平均する(式(15))。
【0073】
【数15】
【0074】
これにより各パターンについて、y方向の位置ズレ(ky方向の傾き)が得られる。図13に、上述したステップS901~S903の処理によるデータの変化の一例を示す。図13(A)は、撮像範囲の中心スライス(例えば10スライス目)の、1回目及び2回目のx-ky空間データの位相マップを示し、(B)はパターンに分割した後の位相マップを示す。このようにパターンに分けて処理を行うことで、(C)に示すように、位相微分した結果は各パターンでほぼ同様になる。
【0075】
このように奇数ラインと偶数ラインとによってデータを分割して処理を行うことで、x方向位相補正を前提することなく、ky方向の位相補正値を算出することができる。さらにパターンに分けて処理を行うことで、パターンによるバラツキを平均化し、位相補正値の精度を高めることができる。
【0076】
なお式(15)において、Ky’、x、チャネルに関して平均を計算したが、Ky’とチャネルに関してのみ平均を計算してもよい。その場合は、psはxとzに関する関数ps(x,z)となる。このps(x,z)を用いて後に続く位相補正処理を行うと、本実施形態のようにスライス毎のky方向の傾きの違いだけでなく、位置x毎のky方向の傾きの違いも補正することができる。
【0077】
[ステップS904]
ステップS903で、4つのパターンについて式(15)により算出されたky方向の傾きの平均を取り、補正値を算出する。各パターンのky方向の傾きは、1ラインとばし(奇・偶それぞれ)のデータから算出しているので、その平均を取る際に、傾きの角度の合計をパターン数4で除算するのではなく、次式(16)に示すように、2で除算する。
【0078】
【数16】
その結果、図14に示すように、ky方向の傾きφが得られる。
【0079】
次いで、この傾きφを用いて次式(17)により補正値を算出する。
【数17】
なお、PI法の撮像において、本スキャンデータを配置するk空間データのマトリクスサイズと、プリスキャンのマトリクスサイズとが異なる場合などは、その倍速率に応じて、式(17)のφにサイズの違い調整する係数をかけてもよい。
【0080】
[ステップS905]
前述のx方向の位相補正を行った本スキャンデータを、ステップS904で算出した補正値で補正する。この補正は、x-ky空間で行う。すなわち、本スキャンデータ(k空間データ)をx方向にフーリエ変換してx-ky空間データとし、それに対し、補正係数hsを複素積算する。これにより、実空間においてy方向にシフトさせる補正と同等の補正が行われる。
【0081】
以上のステップによりky方向の位相補正が完了する。
上述したky方向の位相補正では、補正用データを4つのパターンに分割して位相補正値を算出し、その結果を合成して位相補正値としているので、傾きの算出精度が向上する。また奇数ラインと偶数ラインを分割して処理するので、x方向の位相補正を前提としないため、x方向位相補正処理とは独立した処理として行うことができる。さらに、4つのパターンの合成を複素平均で行うことにより、絶対値を反映した位相補正値が得られ、且つ位相アンラップやフィッティング処理を不要とし、安定的に傾きを算出することができる。
【0082】
最終的に、位相補正後の本スキャンデータから画像再構成部24が画像再構成する。この際、上述したように、x方向の補正とy方向の補正は独立して行うことができるので、本スキャンデータの位相補正は、どちらを先行してもよい。
【0083】
以上、説明したように、本実施形態によれば、チャネル毎に得られる補正用データから求めた位相補正値を、チャネル毎に異なる信号の大きさ(絶対値)を重みとして合成し、共通の位相補正値とすることにより、チャネル毎に位相補正した場合に生じる可能性のある折り返しアーチファクトを抑制して、EPIで得られる計測データを精度よく位相補正することができる。
【0084】
また本実施形態によれば、x方向の補正値とky方向の補正値とを、チャネル間合成する際に複素平均を用いるので、一般に不安定になりやすい位相アンラップ処理やフィッティング処理を避けて安定的に位相補正値を算出することができる。
【0085】
図15(A)、(B)に、本実施形態で位相補正して再構成した画像(A)と、チャネルごとに位相補正値を算出して位相補正した後、PI合成して再構成した画像(B)とを示す。
これら図の比較からわかるように、チャネル毎に位相補正した場合には、図15(B)中、黒矢印で示すように、画像の一部に折り返しアーチファクトが発生しているが、本実施形態の処理を行うことにより、このようなアーチファクトの発生が抑制されている。
【0086】
<実施形態1の変形例>
実施形態1では、撮像部10がPI法のシーケンスで撮像を行う場合を説明したが、本発明は複数チャネルの受信コイルを用いたEPIであれば、倍速率1すなわちアンダーサンプリングしない撮像についても適用することが可能である。
【0087】
また実施形態1では、プリスキャンデータを用いて補正用位相を算出したが、本スキャンデータを用いて補正用位相を算出することもできる。ただし、本スキャンデータは、位相エンコードの傾斜磁場を印加して取得されているため、磁場不均一等によるky方向の位相誤差を独立して算出することが困難である。従って、本スキャンデータを用いて位相補正を行う場合は、x方向のみ行う。この場合は、ky方向の位相補正を行うことができないが、プリスキャンが不要となるため、撮像時間が短縮できる。
【0088】
また実施形態1では、k空間をスキャンする方向が逆となる2回のシングルショットのデータを用いて位相補正値を算出する場合を説明したが、スキャンする方向が逆であるラインデータ(奇数ラインデータ及び偶数ラインデータ)の組が得られるスキャンであれば、1回のデータを用いてもよいし、マルチショットのデータを用いることも可能である。
1回の場合には、奇数ラインとそれに続く偶数ライン(例えば、ky=0のラインと、その隣り合うライン)とを1組として、上述したx方向補正を行う。またky方向補正では、奇数ラインと偶数ラインの二つのパターンに分割して位相補正値を算出した後、合成すればよい。
【0089】
また本発明は、複数チャネルのデータを位相補正するための共通の補正データを、各チャネルの補正データを合成することで作成し適用するというものであり、X方向の位相補正或いはky方向の補正の一方のみを実施する場合にも適用することができ、そのような技術も本発明に包含される。
【0090】
以上、本発明をMRI装置に適用した場合を説明したが、本発明は、MRI装置とは独立した画像処理装置2にも適用することができる。図16は、本発明を適用した画像処理装置の実施形態を示す図である。
【0091】
図示するように、この画像処理装置は、主として、計算機20と、それに付随する表示装置や入力デバイスなどを含むUI部30と、記憶装置40とからなる。計算機20は、ネットワークなどを介して1ないし複数のMRI装置1に接続されており、これらネットワークを介してMRI装置が撮像したデータを受け取る。或いは可搬媒体等を介して受け付けてもよい。
【0092】
計算機20の構成は、図4及び図6に示す計算機及び前処理部の構成と同じであり、同様の動作を行う。すなわち、MRI装置が複数のチャネル毎に収集した補正用のデータを用いて、x方向及びky方向について位相補正値を算出し、それを合成して共通の位相補正値を算出し、この位相補正値を画像用のデータに適用して位相補正を行う。具体的な処理の内容も同様であり、重複する説明は省略する。
【符号の説明】
【0093】
1:MRI装置、2:画像処理装置、10:撮像部、20:計算機、30:UI部、31:表示装置、32:入力デバイス、40:記憶装置、21:計測制御部、22:表示制御部、23:前処理部、24:画像再構成部、231:補正用データ作成部、233:位相補正部、51:x方向補正部、52:ky方向補正部、511:差分位相算出部、512:チャネル間平均部、513:x方向傾き算出部、514:x方向切片算出部、515:位相補正部、521:データ分割部、522:ky方向傾き算出部、523:データ統一部、524:位相補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16