(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】耐熱電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
H01B7/295
(21)【出願番号】P 2021129159
(22)【出願日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000238049
【氏名又は名称】冨士電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淑豪
(72)【発明者】
【氏名】小路 はるか
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-000099(JP,Y1)
【文献】特開2010-282776(JP,A)
【文献】実開昭57-161815(JP,U)
【文献】実開昭60-080615(JP,U)
【文献】実開昭60-131915(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁電線を含むケーブル芯と、
前記ケーブル芯の周囲に重ね巻きされた押巻きテープとを備え、
前記押巻きテープは、樹脂層、アルミニウム層および樹脂層がこの順に積層された積層
テープであり、
前記樹脂層の厚さが0.01mm以上0.02mm以下であり、
前記アルミニウム層の厚さが0.01mm以上0.03mm未満であ
り、
前記押巻きテープの幅が20mm以上40mm以下である耐熱電線。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱電線において、
前記樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート層である、耐熱電線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の耐熱電線において、
前記押巻きテープの重なり幅は、前記押巻きテープの幅の1/6以上1/2以下であ
る、耐熱電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から消防用設備などの小勢力回路用として、各種の耐熱電線が使用されている。そのような耐熱電線には、火災などに遭遇して熱を受けても一定の電気特性を維持することが要求される。
【0003】
ところで、一般的な通信ケーブルでは、ケーブル芯の周囲に、遮蔽テープとして、アルミニウム層(Al)の片面にポリエチレンテレフタレート層(PET)を積層したアルミ箔ラミネートポリエステルテープ(ALPET)を巻き付けたものが知られている。
【0004】
しかしながら、そのようなテープを耐熱電線に使用すると、アルミニウム層が露出しているため、通電時のノイズを拾いやすく、アース処理が必要となる。
【0005】
そこで、耐熱電線に適した押巻きの構成が検討されている。
例えば、絶縁電線を含むケーブル芯の周囲に、クラフト紙(絶縁テープ)を縦添えした後、高融点の金属テープ、および樹脂ラミネートアルミニウムテープ(軟アルミテープの片面に接着剤層を形成したテープ)を順次巻き付けた難燃化通信ケーブルが知られている(例えば特許文献1)。
近年では、耐熱電線に用いられる押巻きテープとして、クラフト紙の片面にPET層とアルミニウム層とを積層した金属化成紙などが一般的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、高温に曝されても、絶縁電線への熱伝導を少なくして耐熱性を維持する観点では、押巻きテープは、ケーブル芯の周囲にテープ同士が隙間なく巻き付けられることが好ましく、そのためには、テープ同士が重なり合うように、ケーブル芯に沿ってらせん状に巻き付けられる(重ね巻きされる)ことが好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1の絶縁テープや金属化成紙は、いずれもクラフト紙を含むため、硬く、ケーブル芯への追従性(なじみ)が悪く、伸びにくい。そのため、これらのテープをケーブル芯に沿って重ね巻きした耐熱電線は、屈曲させた際に、重ね巻きした金属化成紙の重なり幅のズレや破れなどを生じやすく、耐熱性が低下する可能性があった。
【0009】
本発明の主な目的は、屈曲させても、重ね巻きした押巻きテープの重なり幅のズレや破れを生じにくく、良好な耐熱性を維持できる耐熱電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
複数の絶縁電線を含むケーブル芯と、
前記ケーブル芯の周囲に重ね巻きされた押巻きテープとを備え、
前記押巻きテープは、樹脂層、アルミニウム層および樹脂層がこの順に積層された積層
テープであり、
前記樹脂層の厚さが0.01mm以上0.02mm以下であり、
前記アルミニウム層の厚さが0.01mm以上0.03mm未満であり、
前記押巻きテープの幅が20mm以上40mm以下である耐熱電線が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、屈曲させても、重ね巻きした押巻きテープの重なり幅のズレや破れを生じにくく、良好な耐熱性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐熱電線の概略断面図である。
【
図2】
図1の押巻きを構成する押巻きテープの幅方向の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため技術的検討を重ねたところ、押巻きテープを、樹脂層/アルミニウム層/樹脂層の積層構造を有する構成とすることで、クラフト紙/アルミニウム層/樹脂層の積層構造を有する従来の金属化成紙などと比べて、可とう性や耐屈曲性を飛躍的に高められ、ケーブル芯に良好に追従させうることを見出した。それにより、耐熱電線を屈曲させても、重ね巻きした押巻きテープの重なり幅のズレや破れが生じにくく、耐熱性を良好に維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態に係る耐熱電線について説明する。
【0015】
図1は、耐熱電線1の概略的な構成を示す断面図である。
図2は、
図1の押巻き20を構成する押巻きテープ20Aの幅方向の概略断面図である。本実施形態の耐熱電線1は、ケーブル芯10、押巻き20および外被30を有する。
【0016】
ケーブル芯10は、複数対の対撚線12を含む。本実施形態では、ケーブル芯10は、5対の対撚線12が撚り合された構成を有している。
【0017】
対撚線12は、2本の絶縁電線14が撚り合わせられた構成を有している。絶縁電線14は、導体16、およびそれを被覆する絶縁体18を有する。
導体16は、通常、軟銅線から構成されている。
導体16の外径は、例えば0.5mm以上2.0mm以下である。
絶縁体18は、例えば架橋ポリエチレン(XLPE;Cross-linked polyethylene)などの耐熱性樹脂から構成されている。
なお、ケーブル芯10は、2本以上の絶縁電線14から構成されていればよく、それが対撚線であってもよいし、集合撚線(複数本の絶縁電線14を一括集合させ撚り合わせたもの)であってもよい。
【0018】
押巻き20は、ケーブル芯10の周囲に重ね巻きされ、押巻きテープ20Aで構成されている。本明細書において「重ね巻き」(「横巻き」とも称される)とは、長尺なテープをケーブル芯10の長さ方向に沿ってらせん状に巻き付ける意であって、テープの側縁部を先に巻き付けたテープに重ねながら巻き付ける、という意である。押巻き20の厚さや枚数は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば、特に制限されない。
【0019】
本実施形態では、押巻きテープ20Aは、一定の幅で重なるように巻き付けられている。押巻きテープ20Aの幅は、15mm以上70mm以下であることが好ましい。押巻きテープ20Aを巻き付ける際の、押巻きテープ20Aの重なり幅は、押巻きテープ20Aの幅の1/6以上1/2以下程度が好ましい。押巻きテープ20Aの巻付ピッチは、押巻きテープ20Aの幅と重なり幅との関係で決定される。押巻きテープ20Aの幅や重なり幅を当該範囲とすると、耐熱電線1の性能がより安定しやすい。
【0020】
押巻きテープ20Aは、樹脂層24、アルミニウム層22および樹脂層24をこの順に積層した積層テープである(
図2参照)。
【0021】
樹脂層24に含まれる樹脂は、特に制限されず、その例には、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば高密度ポリエチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンサルファイドなどが含まれる。中でも、良好な耐熱性を有し、入手が容易などの観点から、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。樹脂層の厚さは、特に制限されないが、例えば0.01mm以上0.1mm以下、好ましくは0.01mm以上0.02mm以下でありうる。2つの樹脂層24の種類や厚さは、同じであって異なってもよい。
【0022】
アルミニウム層22は、遮熱性を付与する機能を有し、例えばアルミニウム箔またはアルミニウムテープで構成される。アルミニウム層の厚さは、特に制限されないが、樹脂層の厚さよりも薄くてもよく、例えば0.005mm以上0.05mm以下、好ましくは0.01mm以上0.03mm未満である。
【0023】
押巻きテープ20Aは、上記層以外の他の層(例えば接着剤層)をさらに有してもよい。
【0024】
押巻きテープ20Aの厚さは、特に制限されないが、例えば0.02mm以上0.1mm以下、好ましくは0.02mm以上0.05mm以下である。押巻きテープ20Aの厚さが薄すぎると、強度が不十分になることがあり、厚すぎると、巻き付けにくくなったりすることがある。
【0025】
押巻きテープ20Aの幅は、上記のとおりで特に制限されないが、例えば15mm以上70mm以下、好ましくは20mm以上40mm以下である。押巻きテープ20Aの幅が狭すぎると、巻き付けに時間がかかりやすく、幅が広すぎると、取り扱い性が低くなる。
【0026】
押巻きテープ20Aは、特に制限されず、例えばアルミニウム層22と、その両側にある2つの樹脂層24とを、接着剤を介して積層(ラミネート)して製造されたものであってよい。
【0027】
外被30は、押巻き20の周囲に設けられている。外被30は、いわゆるシースであって、押巻き20の周囲を被覆して、耐熱電線1の最外層を形成している。外被30は、例えばポリ塩化ビニル(PVC;PolyVinyl Chloride)やポリオレフィン(PO;polyolefin)などの樹脂から構成されている。
【0028】
次に、耐熱電線1の製造方法について説明する。
導体16として、軟銅線の単線を準備する。
その後、導体16を長さ方向に搬送しながら架橋ポリエチレンを押出機のダイスから押し出して被覆し絶縁体18を形成し、絶縁電線14を製造する。
その後、2本の絶縁電線14を撚り合わせて対撚線12を形成し、5対の対撚線12を撚り合わせてケーブル芯10を構成する。
【0029】
その後、押巻きテープ20Aをケーブル芯10に横巻きして、押巻き20を形成する。
【0030】
その後、押巻きテープ20Aを巻き付けたケーブル芯10を長さ方向に搬送しながら、ポリ塩化ビニルを押出機のダイスから押し出し、押巻き20を外被30で被覆し、耐熱電線1が製造される。
【0031】
以上の本実施形態によれば、押巻きテープ20Aを、樹脂層/アルミニウム層/樹脂層の積層構造を有する構成とすることにより、金属化成紙などと比べて、可とう性や耐屈曲性を飛躍的に高めることができ、ケーブル芯10に良好に追従させることができる。それにより、耐熱電線1を屈曲させても、重ね巻きした押巻きテープ20Aの重なり幅のズレや破れが生じにくく、耐熱性を良好に維持することができる。
【0032】
なお、耐熱電線1は、各種ケーブル(電線)として種々の用途に使用可能であり、好ましくは消防用設備などの小勢力回路(60V以下の回路)用の耐熱電線として使用される。
【実施例】
【0033】
(1)実験例1
(1.1)サンプル1
導体として、外径1.2mmの軟銅線(単線)を準備した。
当該導体の周囲に、架橋ポリエチレンを押出機のダイスから押し出して被覆し絶縁体を形成して、外径1.7mmの絶縁電線を得た。
その後、当該絶縁電線を2本撚り合わせ、外径3.4mmの対撚線を形成した。
その後、5対の対撚線を撚り合わせて、ケーブル芯を形成した。
【0034】
その後、押巻きテープとして、アルミニウムテープとポリエチレンテレフタレートテープ(PETテープ)とを接着剤で貼り合わせて、厚さ0.04mmのPET/Al/PETテープ(0.012mm/0.01mm/0.012mm、幅30mm)を準備し、これを上記ケーブル芯の周囲に重ね巻き(横巻き)した。このとき、巻付ピッチは120mmとし、重なり幅は7.5mm(1/4ラップ)となるように、重ねて巻き付けた。
その後、押巻きの周囲に、ポリ塩化ビニルを押出機のダイスから押し出して被覆し、外被を形成して、外径9.5mm程度の耐熱電線を作製した。
【0035】
(1.2)サンプル2
サンプル1において、押巻きテープとしてクラフト紙/Al/PETテープ(0.75mm/0.01mm/0.012mm)を用いた。それ以外はサンプル1と同様にして耐熱電線を作製した。
【0036】
(1.3)評価
まず各サンプルの押巻きテープ単体に対し引張強度を以下の方法で測定した。
併せて各サンプルを1m程度切り出し、耐屈曲性(1m切り出し)、可とう性(1m切り出し)および耐熱性(1.3m切り出し)を以下の方法で測定した。
【0037】
1)引張特性
JIS K 7127:1999に準拠して引張試験を行い、サンプルの引張強度(N/15mm)および伸び(%)を測定した。
【0038】
2)耐屈曲性
(重なり幅のズレ、テープの立ち上がり)
サンプルに曲げ直径40mmの負荷を与えたときの、押巻きテープの重なり幅のズレ量を測定した。重なり幅のズレ量は、屈曲部における重なり幅のズレ量の最大値を採用した。また、このときのサンプルの屈曲部における、押巻きテープの立ち上がり(重なり部分での隙間の発生)の有無を観察した。
(破れ)
サンプルの曲げ半径を、規定曲げ半径6Dよりも小さい5D、4D、3Dおよび2Dと段階的に小さくしたときの、押巻きテープの破れの有無を評価した(Dは耐熱電線の外径である。)。破れがない場合を○、破れがある場合を×とした。なお、曲げ回数は1回とした。
【0039】
3)可とう性
各サンプルを1m切り出し、荷重N(150g)を60秒間かけた後のサンプルのたわみ量(mm)と、荷重を外した後の跳ね返り量(mm)をそれぞれ測定した。
具体的には、
1)サンプルの一方の端部側(0.4m相当)が支持台に固定され、他方の端部側(0.6m相当)がフリーとなるように、サンプルを支持台に固定した。そして、サンプルの他方の端部(自由端)から0.05mの地点に重りをつるし、荷重を掛けた。そして、荷重N(150g)を掛けて60秒間経過後、サンプルの自由端の変位量(たわみ量)を測定した。
2)その後、荷重を取り除いたときの、サンプルの自由端の変位量(跳ね返り量)を測定した。
これらの操作を、荷重をかける地点を、耐熱電線の周方向に4点(0°、90°、180°、270°)変えて行い、それらの平均値をとった。
【0040】
4)耐熱性
JCS3501 小勢力回路用耐熱電線の耐熱試験規格に準じて、耐熱試験を行った。この試験では、ケーブルに屈曲を加えた状態で加熱試験を実施した。
【0041】
1)引張特性、2)耐屈曲性、3)可とう性の評価結果を表1に示し、2)耐屈曲性のうち破れの評価結果を表2に示し、4)耐熱性の評価結果を表3に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
1)引張特性について
表1に示されるように、サンプル1のPET/AL/PETの押巻きテープは、サンプル2の金属化成紙よりも、特に引張伸びが大きく、ケーブル芯に対する追従性が高い(なじみがよい)ことがわかる。
【0045】
2)耐屈曲性について
また、PET/AL/PETの押巻きテープを用いたサンプル1(実施例)のほうが、金属化成紙を用いたサンプル2(比較例)よりも、重なり幅のズレが約1/3にまで低減できることがわかる(表1参照)。
また、サンプル2(比較例)では屈曲部におけるテープの立ち上がり(重なり部分の隙間の発生)が生じたが、サンプル1(実施例)では、テープの立ち上がりも生じず、ケーブル芯に対する追従性も高いことがわかる(表1参照)。
さらに、サンプル2(比較例)では、曲げ半径3Dや2Dではテープの破れが生じるのに対し、サンプル1(実施例)では、曲げ半径2Dにおいても破れが生じないことが示される(表2参照)。
【0046】
3)可とう性について
表1に示されるように、サンプル1(実施例)では、サンプル2(比較例)よりもたわみ量が大きく、かつ跳ね返り量が少ないことが示される。これらのことから、サンプル1は、サンプル2よりも高い可とう性を有することがわかる。
【0047】
【0048】
4)耐熱性について
表3に示されるように、PET/AL/PETの押巻きテープを用いたサンプル1のほうが、金属化成紙を用いたサンプル2よりも、絶縁抵抗(特に15分後)および破壊電圧ともに高く、耐熱性が高いことがわかる。これは、PET/AL/PETの押巻きテープは、金属化成紙に比べて、重なり幅のズレや破れ、隙間の発生が抑制されたことにより、熱反射性に優れ、絶縁体への熱の入りが低減されたためと推測される。
【0049】
上記1)~4)より、PET/AL/PETの押巻きテープを用いたサンプル1(実施例)は、金属化成紙を用いたサンプル2(比較例)よりも、伸びやすく、可とう性、耐屈曲性に優れ、高い耐熱性を維持できることがわかる。それにより、耐熱電線を屈曲させても、重ね巻きした押巻きテープの重なり幅のズレや破れを生じにくく、良好な耐熱性を維持できることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1 耐熱電線
10 ケーブル芯
12 対撚線
14 絶縁電線
16 導体
18 絶縁体
20 押巻き
20A 押巻きテープ
22 アルミニウム層
24 樹脂層
30 外被