(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】フラックス、ソルダペーストおよび電子回路基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240129BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20240129BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240129BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240129BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
C22C13/02
C22C13/00
H05K3/34 512C
(21)【出願番号】P 2021513561
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013562
(87)【国際公開番号】W WO2020209077
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019075715
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】池田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭多
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特許第6460198(JP,B1)
【文献】特開2014-188578(JP,A)
【文献】特開2019-18210(JP,A)
【文献】特開2000-135592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 13/02
C22C 13/00
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ-銀-銅系合金のはんだ付に用いられるフラックスであり、
イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、
炭素数3~36のジカルボン酸と、
4級アンモニウムのヨウ素塩と
を含有し、
前記フラックスの総量に対して、
ジカルボン酸の含有割合が6質量%以上25質量%以下であり、
ヨウ素の含有割合が200ppm以上3600ppm以下である
ことを特徴とする、フラックス。
【請求項2】
前記イミダゾール化合物が、2つ以上の芳香環を有するイミダゾール化合物を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記イミダゾリン化合物が、1つ以上の芳香環を有するイミダゾリン化合物を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項4】
前記フラックスの総量に対して、
ヨウ素の含有割合が200ppm以上2600ppm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項5】
前記フラックスの総量に対して、
ヨウ素の含有割合が600ppm以上1230ppm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項6】
前記ジカルボン酸が、炭素数3以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含有し、
ジカルボン酸の総量に対して、炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合が、50質量%を超過する
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項7】
前記ジカルボン酸が、炭素数10以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含有し、
ジカルボン酸の総量に対して、炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合が、50質量%を超過する
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラックス。
【請求項8】
請求項1に記載のフラックスと、スズ-銀-銅系はんだ合金からなるはんだ粉末とを含有するソルダペーストであって、
前記スズ-銀-銅系はんだ合金は、
ビスマスおよびアンチモンを含有し、
前記スズ-銀-銅系はんだ合金の総量に対して、
前記ビスマスの含有量が、2.5質量%以上であり、
前記アンチモンの含有量が、2.5質量%以上である
ことを特徴とする、ソルダペースト。
【請求項9】
前記スズ-銀-銅系はんだ合金が、
スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモン、ニッケルおよびコバルトからなり、不可避不純物の含有を許容するはんだ合金であって、
前記スズ-銀-銅系はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有量が、2.8質量%以上4質量%以下であり、
前記銅の含有量が、0.4質量%以上0.8質量%以下であり、
前記アンチモンの含有量が、2.5質量%以上7質量%以下であり、
前記ビスマスの含有量が、2.5質量%以上5.5質量%以下であり、
前記ニッケルの含有量が、0.01質量%以上0.2質量%以下であり、
前記コバルトの含有量が、0.001質量%以上0.1質量%以下である
ことを特徴とする、請求項8に記載のソルダペースト。
【請求項10】
請求項8に記載のソルダペーストのはんだ付によるはんだ付部を備えることを特徴とする、電子回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス、ソルダペーストおよび電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電気・電子機器などにおける金属接合では、ソルダペーストを用いるはんだ接合が採用されており、このようなソルダペーストには、従来、鉛を含有するはんだ合金と、フラックスとが含まれている。
【0003】
はんだ合金としては、近年、環境負荷の観点から、鉛の使用を抑制することが要求されており、そのため、鉛を含有しないはんだ合金(鉛フリーはんだ合金)の開発が進められている。このような鉛フリーはんだ合金としては、例えば、スズ-銅系合金、スズ-銀-銅系合金、スズ-銀-インジウム-ビスマス系合金、スズ-ビスマス系合金、スズ-亜鉛系合金などがよく知られている。とりわけ、強度などにおいて優れるスズ-銀-銅系合金が、広く用いられている。
【0004】
一方、スズ-銀-銅系合金に用いられるフラックスには、はんだ付部におけるボイド(空隙)の発生を抑制することが要求される。そこで、例えば、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物において、活性剤(B)としてジカルボン酸を添加し、また、活性剤(B)の配合量を、フラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下とすることが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、フラックス組成物としては、はんだ付部のボイド(空隙)の抑制の他、さらに、ウィスカ(結晶成長)の抑制が要求される。
【0007】
また、フラックス組成物には、濡れ性の向上も要求される。
【0008】
とりわけ、フラックス組成物を含むソルダーペーストは、はんだ付けされる部材に対して連続使用される場合があるため、フラックス組成物は、連続使用時の濡れ性が要求され、さらに、連続使用時に増粘しないなど、安定性も要求される。
【0009】
本発明は、優れた濡れ性を得られ、また、はんだ付部のボイド(空隙)とウィスカ(結晶成長)とを抑制でき、さらに、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れるフラックス、そのフラックスが用いられるソルダペースト、および、そのソルダペーストが用いられる電子回路基板である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、スズ-銀-銅系合金のはんだ付に用いられるフラックスであり、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、炭素数3~36のジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩とを含有し、前記フラックスの総量に対して、ジカルボン酸の含有割合が6質量%以上25質量%以下であり、ヨウ素の含有割合が200ppm以上3600ppm以下である、フラックスを含んでいる。
【0011】
本発明[2]は、前記イミダゾール化合物が、2つ以上の芳香環を有するイミダゾール化合物を含有する、上記[1]に記載のフラックスを含んでいる。
【0012】
本発明[3]は、前記イミダゾリン化合物が、1つ以上の芳香環を有するイミダゾリン化合物を含有する、上記[1]に記載のフラックスを含んでいる。
【0013】
本発明[4]は、前記フラックスの総量に対して、ヨウ素の含有割合が200ppm以上2600ppm以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のフラックスを含んでいる。
【0014】
本発明[5]は、前記フラックスの総量に対して、ヨウ素の含有割合が600ppm以上1230ppm以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフラックスを含んでいる。
【0015】
本発明[6]は、前記ジカルボン酸が、炭素数3以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含有し、ジカルボン酸の総量に対して、炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合が、50質量%を超過する、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のフラックスを含んでいる。
【0016】
本発明[7]は、前記ジカルボン酸が、炭素数10以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含有し、ジカルボン酸の総量に対して、炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合が、50質量%を超過する、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のフラックスを含んでいる。
【0017】
本発明[8]は、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のフラックスと、スズ-銀-銅系はんだ合金からなるはんだ粉末とを含有するソルダペーストであって、前記スズ-銀-銅系はんだ合金は、ビスマスおよびアンチモンを含有し、前記スズ-銀-銅系はんだ合金の総量に対して、前記ビスマスの含有量が、2.5質量%以上であり、前記アンチモンの含有量が、2.5質量%以上である、ソルダペーストを含んでいる。
【0018】
本発明[9]は、前記スズ-銀-銅系はんだ合金が、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモン、ニッケルおよびコバルトからなり、不可避不純物の含有を許容するはんだ合金であって、前記スズ-銀-銅系はんだ合金の総量に対して、前記銀の含有量が、2.8質量%以上4質量%以下であり、前記銅の含有量が、0.4質量%以上0.8質量%以下であり、前記アンチモンの含有量が、2.5質量%以上7質量%以下であり、前記ビスマスの含有量が、2.5質量%以上5.5質量%以下であり、前記ニッケルの含有量が、0.01質量%以上0.2質量%以下であり、前記コバルトの含有量が、0.001質量%以上0.1質量%以下である、上記[8]に記載のソルダペーストを含んでいる。
【0019】
本発明[10]は、上記[8]または[9]に記載のソルダペーストのはんだ付によるはんだ付部を備える、電子回路基板を含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフラックスは、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、炭素数3~36のジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩とを含有しており、また、ジカルボン酸の含有割合と、ヨウ素塩の含有割合とが、それぞれ所定範囲に調整されている。
【0021】
そのため、上記のフラックス、および、そのフラックスを含有するソルダペーストによれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができ、加えて、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れる。
【0022】
また、本発明の電子回路基板は、はんだ付において、上記のソルダペーストが用いられるので、濡れ性よくはんだ付され、また、ボイド(空隙)およびウィスカ(結晶成長)が抑制される。さらに、上記のソルダペーストは、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れるため、本発明の電子回路基板は、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のフラックスは、スズ-銀-銅系合金のはんだ付に用いられるフラックスである。
【0024】
フラックスは、通常、主成分として、ベース樹脂およびチキソ剤を含有している。
【0025】
ベース樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂などが挙げられる。ロジン系樹脂としては、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジン、これらの誘導体などが挙げられる。これらの誘導体としては、重合ロジン、アクリル化ロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、ホルミル化ロジン、ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキド樹脂などが挙げられる。
【0026】
これらベース樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0027】
ベース樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂、ロジン系樹脂が挙げられ、より好ましくは、アクリル樹脂およびロジン系樹脂の併用が挙げられる。また、ロジン系樹脂として、好ましくは、アクリル化ロジンが挙げられる。
【0028】
ベース樹脂として、とりわけ好ましくは、アクリル樹脂およびアクリル化ロジンの併用が挙げられる。
【0029】
ベース樹脂の含有割合は、フラックスの総量に対して、例えば、0質量%を超過し、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、25質量%以上、さらに好ましくは、35質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下、より好ましくは、60質量%以下である。
【0030】
また、ベース樹脂として、アクリル樹脂およびロジン系樹脂が併用される場合には、アクリル樹脂の含有割合は、フラックスの総量に対して、例えば、0質量%を超過し、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0031】
また、ロジン系樹脂の含有割合は、フラックスの総量に対して、例えば、0質量%を超過し、好ましくは、5質量%以上であり、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下、より好ましくは、15質量%以下である。
【0032】
また、アクリル樹脂およびロジン系樹脂が併用される場合の質量割合は、それらの総量に対して、アクリル樹脂が、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上であり、例えば、95質量%以下、好ましくは、85質量%以下である。また、ロジン系樹脂が、例えば、5質量%以上、好ましくは、15質量%以上であり、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0033】
チキソ剤としては、例えば、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス、ビスアミドワックス(ステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドなど)などが挙げられる。
【0034】
これらチキソ剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0035】
チキソ剤として、好ましくは、ビスアミドワックスが挙げられる。
【0036】
チキソ剤の含有割合は、フラックスの総量に対して、例えば、0質量%を超過し、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、2質量%以上であり、例えば、13質量%以下、好ましくは、8質量%以下、より好ましくは、5質量%以下である。
【0037】
また、チキソ剤の含有割合は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上であり、例えば、15質量部以下、好ましくは、10質量部以下である。
【0038】
このようなフラックスは、必須の添加剤として、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、炭素数3~36のジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩とを、含有している。
【0039】
イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物は、ボイド抑制剤として、フラックスに添加される。
【0040】
イミダゾール化合物は、分子中にイミダゾール環を1つ以上有する有機化合物である。
【0041】
イミダゾール環の数は、特に制限されないが、1つ以上であり、例えば、3つ以下、好ましくは、2つ以下であり、とりわけ好ましくは、1つである。すなわち、イミダゾール化合物として、好ましくは、分子中にイミダゾール環を1つ有する有機化合物が挙げられる。
【0042】
イミダゾール化合物としては、例えば、芳香環を有しないイミダゾール化合物、芳香環を有するイミダゾール化合物が挙げられる。
【0043】
なお、芳香環は、芳香族性を有する環、すなわち、(4n+2)π電子(nは自然数)を有する環を意味し、ヘテロ原子を含有しない芳香族炭化水素、および、ヘテロ原子を含有する複素芳香環の両方を含む。
【0044】
このような芳香環として、具体的には、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環などの、炭素数6~14の単環または多環芳香族炭化水素、例えば、ピリジン環、ピロール環、フラン環などの複素芳香環などが挙げられる。これら芳香環は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0045】
芳香環を有しないイミダゾール化合物は、イミダゾール環以外の芳香環を含有しておらず、例えば、イミダゾール(1,3-ジアザ-2,4-シクロペンタジエン)、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0046】
芳香環を有するイミダゾール化合物は、イミダゾール環とは別途、1つ以上の芳香環を含有するイミダゾール誘導体(つまり、1つ以上の芳香環を有するイミダゾール化合物)である。
【0047】
芳香環を有するイミダゾール化合物としては、例えば、1つ(単数)の芳香環を有するイミダゾール化合物、2つ以上(複数)の芳香環を有するイミダゾール化合物が挙げられる。
【0048】
1つの芳香環を有するイミダゾール化合物としては、例えば、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0049】
2つ以上の芳香環を有するイミダゾール化合物としては、例えば、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,4-ジフェニルイミダゾール、4,5-ジフェニルイミダゾールなどの2つの芳香環を有するイミダゾール、例えば、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、1-トリフェニルメチルイミダゾールなどの3つの芳香環を有するイミダゾールなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0050】
これらイミダゾール化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0051】
イミダゾール化合物として、濡れ性の向上、および、ボイドの抑制の観点から、好ましくは、芳香環を有するイミダゾールが挙げられ、より好ましくは、2つ以上(複数)の芳香環を有するイミダゾールが挙げられ、さらに好ましくは、2つの芳香環を有するイミダゾールが挙げられ、とりわけ好ましくは、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが挙げられる。
【0052】
イミダゾリン化合物は、分子中にイミダゾリン環を1つ以上有する有機化合物である。
【0053】
イミダゾリン環の数は、特に制限されないが、1つ以上であり、例えば、3つ以下、好ましくは、2つ以下であり、とりわけ好ましくは、1つである。すなわち、イミダゾリン化合物として、好ましくは、分子中にイミダゾリン環を1つ有する有機化合物が挙げられる。
【0054】
イミダゾリン化合物としては、例えば、芳香環を有しないイミダゾリン化合物、芳香環を有するイミダゾリン化合物が挙げられる。
【0055】
芳香環を有しないイミダゾリン化合物は、例えば、イミダゾリン(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール)、2-メチルイミダゾリン、2-ウンデシルイミダゾリン、2-ヘプタデシルイミダゾリン、1,2-ジメチルイミダゾリン、2-エチル-4-メチルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリンなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0056】
芳香環を有するイミダゾリン化合物は、イミダゾリン環とは別途、1つ以上の芳香環を含有するイミダゾリン誘導体(つまり、1つ以上の芳香環を有するイミダゾリン化合物)である。
【0057】
芳香環を有するイミダゾリン化合物としては、例えば、1つ(単数)の芳香環を有するイミダゾリン化合物、2つ以上(複数)の芳香環を有するイミダゾリン化合物が挙げられる。
【0058】
1つの芳香環を有するイミダゾリン化合物としては、例えば、2-フェニルイミダゾリン、2-フェニル-4-メチルイミダゾリン、1-ベンジル-2-メチルイミダゾリン、、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリンなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0059】
2つ以上の芳香環を有するイミダゾリン化合物としては、例えば、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾリン、2,4-ジフェニルイミダゾリン、4,5-ジフェニルイミダゾリンなどの2つの芳香環を有するイミダゾリン、例えば、2,4,5-トリフェニルイミダゾリン、1-トリフェニルメチルイミダゾリンなどの3つの芳香環を有するイミダゾリンなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0060】
これらイミダゾリン化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0061】
イミダゾリン化合物として、濡れ性の向上、および、ボイドの抑制の観点から、好ましくは、1つ以上の芳香環を有するイミダゾリンが挙げられ、より好ましくは、1つ(単数)の芳香環を有するイミダゾリンが挙げられ、さらに好ましくは、2-フェニルイミダゾリンが挙げられる。
【0062】
また、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物として、濡れ性の向上、および、ボイドの抑制の観点から、好ましくは、それらの併用が挙げられ、より好ましくは、2つ以上の芳香環を有するイミダゾール化合物と、1つ以上の芳香環を有するイミダゾリン化合物との併用が挙げられ、さらに好ましくは、2つの芳香環を有するイミダゾール化合物と、1つの芳香環を有するイミダゾリン化合物との併用が挙げられ、とりわけ好ましくは、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールと2-フェニルイミダゾリンとの併用が挙げられる。
【0063】
イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物の含有割合(併用される場合には、それらの総量)は、フラックスの総量に対して、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上であり、例えば、10質量%以下、好ましくは、7質量%以下、より好ましくは、5質量%以下である。
【0064】
また、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物が併用される場合の質量割合は、それらの総量に対して、イミダゾール化合物が、例えば、20質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。また、イミダゾリン化合物が、例えば、20質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0065】
また、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物の含有割合は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上であり、例えば、15質量部以下、好ましくは、10質量部以下である。
【0066】
炭素数(C)3~36のジカルボン酸は、活性剤として、フラックスに添加される。
【0067】
炭素数(C)3~36のジカルボン酸としては、例えば、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、セバシン酸(C10)、ウンデカン二酸(C11)、ドデカン二酸(C12)、テトラデカン二酸(C14)、ヘキサデカン二酸(C16)、オクタデカン二酸(C18)、エイコサン二酸(C20)、テトラコサン二酸(C24)、水添ダイマー酸(C36)などのC3~36の飽和脂肪族ジカルボン酸、例えば、マレイン酸、(C4)、フマル酸(C4)、イタコン酸(C5)、ダイマー酸(C36)などのC3~36の不飽和脂肪族ジカルボン酸、例えば、フタル酸(C8)、イソフタル酸(C8)、テレフタル酸(C8)、トルエンジカルボン酸(C9)などのC3~36の芳香族ジカルボン酸、例えば、リンゴ酸(C4)などのヒドロキシ基含有ジカルボン酸などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0068】
ジカルボン酸は、好ましくは、好ましくは、炭素数26以上36以下のジカルボン酸を含み、より好ましくは、炭素数30以上36以下のジカルボン酸を含み、さらに好ましくは、炭素数32以上36以下のジカルボン酸を含み、とりわけ好ましくは、ダイマー酸を含む。
【0069】
また、ジカルボン酸は、上記のいずれか1種が単独で使用されてもよいが、好ましくは、2種以上が併用される。より具体的には、ジカルボン酸は、好ましくは、炭素数30以上36以下のジカルボン酸と、その他のジカルボン酸とを含む。
【0070】
より具体的には、ジカルボン酸は、好ましくは、炭素数3以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含み、より好ましくは、炭素数8以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含み、さらに好ましくは、炭素数10以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とを含む。
【0071】
ジカルボン酸は、さらに好ましくは、炭素数3以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とからなり、さらに好ましくは、炭素数8以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とからなり、とりわけ好ましくは、炭素数10以上25以下のジカルボン酸と、炭素数30以上36以下のジカルボン酸とからなる。
【0072】
このような場合において、炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合は、ジカルボン酸の総量に対して、例えば、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上、より好ましくは、50質量%を超過、さらに好ましくは、55質量%以上であり、例えば、100質量%以下、好ましくは、90質量%以下、より好ましくは、80質量%以下、さらに好ましくは、70質量%以下である。
【0073】
炭素数30以上36以下のジカルボン酸の割合が上記範囲であれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができる。
【0074】
また、その他のジカルボン酸(例えば、炭素数3以上25以下のジカルボン酸、好ましくは、炭素数8以上25以下のジカルボン酸、より好ましくは、炭素数10以上25以下のジカルボン酸)の割合は、ジカルボン酸の総量に対して、例えば、0質量%以上、好ましくは、10質量%以上、より好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは、50質量%以下、より好ましくは、50質量%未満、さらに好ましくは、45質量%以下である。
【0075】
その他のジカルボン酸の割合が上記範囲であれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができる。
【0076】
そして、ジカルボン酸の含有割合(併用される場合には、それらの総量)は、フラックスの総量に対して、6質量%以上、好ましくは、8質量%以上、より好ましくは、10質量%以上、とりわけ好ましくは、12質量%以上であり、25質量%以下、好ましくは、23質量%以下、より好ましくは、21質量%以下、さらに好ましくは、19質量%以下である。
【0077】
ジカルボン酸の割合が上記範囲であれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができる。
【0078】
また、ジカルボン酸の含有割合は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上であり、例えば、70質量部以下、好ましくは、60質量部以下である。
【0079】
4級アンモニウムのヨウ素塩は、濡れ性向上剤として、フラックスに添加される。
【0080】
4級アンモニウムとしては、例えば、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられ、また、ヨウ素塩としては、例えば、モノヨージド、例えば、ヨウ素を1つ以上含むトリハライドなどが挙げられる。
【0081】
4級アンモニウムのヨウ素塩として、より具体的には、例えば、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨ-ジド、テトラブチルアンモニウムヨ-ジド、テトラペンチルアンモニウムヨ-ジド、テトラヘキシルアンモニウムヨ-ジド、テトラヘプチルアンモニウムヨ-ジド、エチルトリプロピルアンモニウムヨ-ジド、トリメチルベンジルアンモニウムヨ-ジド、トリエチルベンジルアンモニウムヨ-ジド、レピジンイソアミルヨ-ジドなどのテトラアルキルアンモニウムモノヨージドが挙げられる。また、例えば、テトラブチルアンモニウムトリヨ-ジド、テトラブチルアンモニウムブロモジヨ-ジド、テトラブチルアンモニウムジブロモヨ-ジドなどのテトラアルキルアンモニウムのトリハライド(ヨウ素を1つ以上含むトリハライド)などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0082】
4級アンモニウムのヨウ素塩として、好ましくは、テトラアルキルアンモニウムモノヨージドが挙げられ、より好ましくは、テトラブチルアンモニウムヨ-ジドが挙げられる。
【0083】
フラックス中の4級アンモニウムのヨウ素塩の含有割合は、フラックスの総量に対するヨウ素(ヨウ素原子)の割合が所定の範囲になるように、適宜調整される。
【0084】
より具体的には、フラックスの総量に対するヨウ素の含有割合は、200ppm以上、好ましくは、600ppm以上、より好ましくは、800ppm以上であり、3600ppm以下、好ましくは、2600ppm以下、より好ましくは、1230ppm以下である。
【0085】
ヨウ素の割合が上記範囲であれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のウィスカ(結晶成長)を抑制することができ、さらに、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れる。
【0086】
また、フラックスは、任意成分として、必要に応じて、有機溶剤を含有することができる。
【0087】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤(エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトールなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素系溶剤(トルエン、テレピン油など)などが挙げられる。
【0088】
これら有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0089】
有機溶剤として、好ましくは、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトールが挙げられ、より好ましくは、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトールが挙げられ、さらに好ましくは、ヘキシルカルビトールが挙げられる。
【0090】
有機溶剤の含有割合は、フラックスの総量に対して、例えば、0質量%を超過し、好ましくは、10質量%以上であり、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下、より好ましくは、35質量%以下である。
【0091】
また、有機溶剤の含有割合は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、40質量部以上、より好ましくは、50質量部以上、さらに好ましくは、60質量部以上であり、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、70質量部以下である。
【0092】
また、フラックスは、任意成分として、必要に応じて、公知の添加剤を含有することができる。
【0093】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、キレート剤、防錆剤、上記ジカルボン酸以外の活性剤などが挙げられる。これら添加剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。添加剤の含有割合は、特に制限されず、本発明の効果を阻害しない範囲で、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0094】
そして、上記した各成分を上記割合で混合することにより、フラックスが得られる。
【0095】
このようなフラックスは、イミダゾール化合物および/またはイミダゾリン化合物と、炭素数3~36のジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩とを含有しており、また、ジカルボン酸の含有割合と、ヨウ素塩の含有割合とが、それぞれ所定範囲に調整されている。
【0096】
そのため、上記のフラックスによれば、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができ、加えて、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れる。
【0097】
とりわけ、後述するはんだ合金のように、SbおよびBiを後述する割合で含有する合金を使用すると、合金の酸化力が比較的高く、酸化膜を形成しやすいため、はんだ付において、濡れ性が顕著に低下する場合があり、また、はんだ付部にボイド(空隙)やウィスカ(結晶成長)が顕著に発生する場合がある。
【0098】
これに対して、上記のフラックスによれば、SbおよびBiを含有する高酸化性のはんだ合金を使用する場合にも、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができる。
【0099】
そのため、上記のフラックスは、スズ-銀-銅系合金のはんだ付に用いられるソルダペーストにおいて、好適に使用される。
【0100】
ソルダペーストは、スズ-銀-銅系はんだ合金からなるはんだ粉末と、上記フラックスとを含有する。
【0101】
スズ-銀-銅系はんだ合金は、必須成分として、スズ(Sn)、銀(Ag)および銅(Cu)を含有するはんだ合金である。また、スズ-銀-銅系はんだ合金は、例えば、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、コバルト(Co)、ニッケルNi)などの各種添加元素を、適宜の割合で含むことができる。
【0102】
なお、スズ-銀-銅系はんだ合金において、各元素の含有割合は、所望の物性などに応じて、適宜設定される。
【0103】
例えば、接合強度の観点から、スズ-銀-銅系はんだ合金は、好ましくは、アンチモン(Sb)およびビスマス(Bi)を含有する。
【0104】
すなわち、スズ-銀-銅系はんだ合金は、好ましくは、スズ(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)、アンチモン(Sb)およびビスマス(Bi)を含有する。
【0105】
スズ-銀-銅系はんだ合金(以下、単にはんだ合金と称する場合がある。)において、スズの含有割合は、後述する各成分の残余の割合であって、各成分の配合量に応じて、適宜設定される。
【0106】
銀の含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、2.8質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、3.2質量%以上、さらに好ましくは、3.4質量%以上であり、例えば、4質量%以下、好ましくは、3.8質量%以下、より好ましくは、3.6質量%以下である。
【0107】
銀の含有割合が上記範囲であれば、優れた耐衝撃性を得ることができ、また、比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても、優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0108】
銅の含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.4質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上、より好ましくは、0.6質量%以上であり、例えば、0.8質量%以下、好ましくは、0.78質量%以下、より好ましくは、0.75質量%以下である。
【0109】
銅の含有割合が上記範囲であれば、優れた耐衝撃性を得ることができ、また、比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても、優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0110】
アンチモンの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、2.5質量%以上、好ましくは、3.5質量%以上、より好ましくは、4.5質量%以上であり、例えば、7質量%以下、好ましくは、6.5質量%以下、より好ましくは、6質量%以下である。
【0111】
アンチモンの含有割合が上記範囲であれば、優れた耐衝撃性を得ることができ、また、比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても、優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0112】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、2.5質量%以上、好ましくは、3.5質量%以上、より好ましくは、4.5質量%以上であり、例えば、5.5質量%以下、好ましくは、5.3質量%以下、より好ましくは、5.1質量%以下である。
【0113】
ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、優れた耐衝撃性を得ることができ、また、比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても、優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0114】
また、はんだ合金では、アンチモンの含有割合とビスマスの含有割合との合計が、5.0質量%以上、好ましくは、7.0質量%以上、より好ましくは、9.0質量%以上であり、例えば、12.5質量%以下、好ましくは、12.0質量%以下、より好ましくは、11.0質量%以下である。
【0115】
アンチモンの含有割合とビスマスの含有割合との合計が上記範囲であれば、優れた耐熱疲労特性を得ることができ、とりわけ厳しい温度サイクル条件下においても、接合強度を維持することができる。
【0116】
また、上記スズ-銀-銅系はんだ合金は、さらに、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを含有することができる。
【0117】
好ましくは、スズ-銀-銅系はんだ合金は、スズ(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を、必須成分として含有する。
【0118】
より好ましくは、スズ-銀-銅系はんだ合金は、本質的に、スズ(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)からなる。
【0119】
なお、本質的とは、スズ-銀-銅系はんだ合金が、上記の各元素(スズ、銀、銅、アンチモン、ビスマス、ニッケルおよびコバルト)を必須成分とし、また、後述する不可避不純物を含有することを許容する意味である。
【0120】
すなわち、スズ-銀-銅系はんだ合金は、上記の各元素(スズ、銀、銅、アンチモン、ビスマス、ニッケルおよびコバルト)からなるか、または、上記の各元素(スズ、銀、銅、アンチモン、ビスマス、ニッケルおよびコバルト)と不可避不純物とからなる。
【0121】
ニッケルの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.02質量%以上、より好ましくは、0.03質量%以上であり、例えば、0.2質量%以下、好ましくは、0.1質量%以下、より好ましくは、0.08質量%以下である。
【0122】
ニッケルの含有割合が上記範囲であれば、はんだの組織を微細化させることができ、耐クラック性および耐久性の向上を図ることができる。さらに、耐食性および部品破壊を抑制することができる。
【0123】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり、例えば、0.1質量%以下、好ましくは、0.05質量%以下、より好ましくは、0.01質量%以下である。
【0124】
はんだ合金がコバルトを含有すると、はんだ合金から得られるソルダペーストにおいて、はんだ付界面に形成される金属間化合物層(例えば、Sn-Cu、Sn-Co、Sn-Cu-Coなど)が、厚くなり、熱の負荷や、熱変化による負荷によっても成長し難くなる。また、コバルトが、はんだ中に分散析出することにより、はんだを強化することができる。また、はんだ合金が上記割合でコバルトを含有する場合には、はんだの組織を微細化させることができ、優れた耐クラック性および耐久性の向上を図ることができる。さらに、優れた耐侵食性および部品破壊を抑制することができる。
【0125】
そして、このようなはんだ合金は、上記した各金属成分を溶融炉において溶融させ、均一化するなど、公知の方法で合金化することにより得ることができる。
【0126】
なお、はんだ合金の製造に用いられる上記した各金属成分は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、微量の不純物(不可避不純物)を含有していてもよい。
【0127】
不可避不純物としては、上記した元素を除く成分であって、例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、金(Au)、インジウム(In)などが挙げられる。
【0128】
不可避不純物の割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.05質量%以下、好ましくは、0.01質量%以下、より好ましくは、0.001質量%以下である。
【0129】
そして、このようにして得られるはんだ合金の、DSC法(測定条件:昇温速度0.5℃/分)により測定される融点は、例えば、200℃以上、好ましくは、210℃以上であり、例えば、240℃未満、好ましくは、230℃以下、より好ましくは、225℃以下である。
【0130】
はんだ合金の融点が上記範囲であれば、ソルダペーストに用いた場合に、簡易かつ作業性よく金属接合することができ、また、はんだ付される部材の損傷を抑制できる。
【0131】
そして、このようなはんだ合金は、好ましくは、粉末としてソルダペーストに含有される。
【0132】
粉末形状としては、特に制限されず、例えば、実質的に完全な球状、例えば、扁平なブロック状、例えば、針状などが挙げられ、また、不定形であってもよい。粉末形状は、ソルダペーストに要求される性能(例えば、チクソトロピー、粘度など)に応じて、適宜設定される。
【0133】
はんだ合金の粉末の平均粒子径(球状の場合)、または、平均長手方向長さ(球状でない場合)は、レーザ回折法による粒子径・粒度分布測定装置を用いた測定で、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0134】
そして、ソルダペーストは、例えば、上記のはんだ合金からなる粉末と、上記したフラックスとを混合することにより、得ることができる。
【0135】
はんだ合金とフラックスとの配合割合は、はんだ合金とフラックスとの総量100質量部に対して、はんだ合金が、例えば、70質量部以上であり、例えば、95質量部以下、好ましくは、90質量部以下である。また、フラックスが、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上であり、例えば、30質量部以下である。
【0136】
また、混合方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0137】
そして、このようにして得られるソルダペーストは、上記のフラックスを含有するため、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができ、加えて、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れる。
【0138】
とりわけ、上記のはんだ合金のように、SbおよびBiを上記の割合で含有する合金を使用すると、合金の酸化力が比較的高く、酸化膜を形成しやすいため、はんだ付において、濡れ性(とりわけ、連続使用時の濡れ性)が顕著に低下する場合があり、また、はんだ付部にボイド(空隙)やウィスカ(結晶成長)が顕著に発生する場合があり、とりわけ、連続使用時の濡れ性の低下が要求され、さらに、連続使用時に増粘するなど、安定性が十分ではない場合がある。
【0139】
これに対して、上記のフラックスによれば、SbおよびBiを含有する高酸化性のはんだ合金を使用する場合にも、優れた濡れ性を得ることができ、また、はんだ付部のボイド(空隙)を抑制することができ、さらに、ウィスカ(結晶成長)を抑制することができ、加えて、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れる。
【0140】
また、本発明は、上記のソルダペーストによってはんだ付されているはんだ付部を備える電子回路基板を含んでいる。
【0141】
すなわち、上記のソルダペーストは、例えば、電気・電子機器などのプリント基板の電極と、電子部品とのはんだ付(金属接合)において、好適に用いられる。
【0142】
換言すると、電子回路基板は、電極を有するプリント基板と、電子部品と、電極および電子部品を金属接合するはんだ付部とを備え、はんだ付部が上記のソルダペーストをリフローすることにより形成されている。
【0143】
電子部品としては、特に制限されず、例えば、チップ部品(ICチップなど)、抵抗器、ダイオード、コンデンサ、トランジスタなどの公知の電子部品が挙げられる。
【0144】
また、はんだ付けにおいて、ソルダペーストは、例えば、ディスペンサー、スクリーン印刷などによって基板上に塗布され、その後、150~200℃程度でプリヒートされ、その後、最高温度220~250℃程度でリフローされる。
【0145】
なお、塗布およびリフローにおける雰囲気条件は、大気雰囲気であってもよおく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性雰囲気であってもよい。
【0146】
そして、これにより、上記のソルダペーストによってはんだ付されているはんだ付部を備える電子回路基板が得られる。
【0147】
このような電子回路基板は、はんだ付において、上記のソルダペーストが用いられるので、濡れ性よくはんだ付され、また、ボイド(空隙)およびウィスカ(結晶成長)が抑制される。さらに、上記のソルダペーストは、連続使用時の濡れ性および安定性にも優れるため、上記の電子回路基板は、生産性に優れる。
【実施例】
【0148】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0149】
実施例1~10および比較例1~8
・はんだ合金の調製
Ag3.5質量%、Cu0.7質量%、Bi5.0質量%、Sb5.0質量%、Ni0.05質量%、Co0.005質量%、および、残部Snとなる割合で、各金属の粉末を混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。
【0150】
・フラックスの調製
表1~表3に記載の割合で、ベース樹脂と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、4級アンモニウムのヨウ素塩(または臭素化合物)と、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物と、有機溶剤とを混合し、フラックスを得た。
【0151】
・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を、粒径が25~38μmとなるように粉末化し、得られたはんだ合金の粉末90質量部と、上記で得られたフラックス10質量部とを混合して、ソルダペーストを得た。
【0152】
・電子回路基板の製造
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、チップ部品搭載用プリン
ト基板に印刷して、リフロー法によりチップ部品と、タンタルコンデンサ部品と、パッケージ(QFP:Quad Flat Package)部品とを実装した。ソルダペーストの印刷膜厚は、厚さ120μmのメタルマスクを用いて調整した。ソルダペーストの印刷後、2012サイズ(2.0mm×1.2mm)のチップ部品と、6032サイズ(6.0mm×3.2mm)のタンタルコンデンサ部品と、85℃、85%相対湿度(RH)で24時間劣化させた0.5mmピッチQFP部品とを、上記プリント基板の所定位置に搭載して、リフロー炉で加熱し、チップ部品を実装した。リフロー条件は、プリヒートを170~190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間を45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3~8℃/秒に設定した。
【0153】
<評価>
(1)濡れ性
各実施例および各比較例において得られたプリント基板において、QFPランド端面にはんだが濡れ上がる高さを観察し、濡れ性を評価した。
【0154】
具体的には、ランドへの濡れ上がり高さにより、下記の基準で5段階評価した。その結果を、表中に示す。なお、QFPリード端面の上面の高さを100%とした濡れ上がり高さの比率により評価した。
【0155】
5点:濡れ上がり高さ100%
4点:濡れ上がり高さ100%未満~75%以上
3点:濡れ上がり高さ75%未満~50%以上
2点:濡れ上がり高さ50%未満~25%以上
1点:濡れ上がり高さ25%未満
(2)ウィスカ
各実施例および各比較例において得られたプリント基板を、85℃85%RHの恒温恒湿槽において、200時間放置した。次いで、25℃50%RHで24時間放置する操作を1サイクルとし、5サイクル繰り返した。その後、タンタルコンデンサ部品から発生したウィスカを観察し、下記の基準より評価した。その結果を、表中に示す。
【0156】
○:10ミクロン以上のウィスカが発生しなかった。
【0157】
×:10ミクロン以上のウィスカが発生した。
【0158】
(3)ボイド
各実施例および各比較例において得られたプリント基板を冷却した後、プリント基板上の2012サイズのチップ部分をX線写真で観察して、はんだが形成されている領域に占めるボイドの総面積の割合(ボイドの面積率)を測定した。ボイドの発生状況はプリント基板中20箇所のランドにおけるボイドの面積率の平均値を求めて、下記の基準より評価した。その結果を、表中に示す。
【0159】
○:ボイドの面積率の平均値が5%以下
×:ボイドの面積率の平均値が5%を超過
(4)連続使用時の濡れ性
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、無開口のメタルマスク上で4時間ローリングした。
【0160】
4時間ローリング後、ソルダペーストをプリント基板に印刷し、0.8mmピッチBGA(Ball Grid Array)部品を搭載して、リフロー炉で加熱した。リフロー条件は、プリヒートを170~190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間を45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3~8℃/秒に設定した。
【0161】
そして、以下の基準で、連続使用時のBGA濡れ性を評価した。その結果を、表中に示す。
【0162】
○:不濡れ発生なし
×:不濡れ発生
(5)連続使用時の安定性
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、無開口のメタルマスク上で4時間ローリングした。
【0163】
また、ローリング前後において、25℃条件下、スパイラル方式粘度計のマルコム製PCU-205を用いて、JIS Z 3284-3(2014年)に準拠して、ソルダペーストの粘度を測定した。
【0164】
そして、ローリング前の粘度に対する、ローリング後の粘度の増加量(Pa・s)を算出し、以下の基準で、連続使用時の安定性を評価した。その結果を、表中に示す。
【0165】
5点:粘度増加30Pa・s以下
4点:粘度増加31Pa・s以上60Pa・s以下
3点:粘度増加61Pa・s以上100Pa・s以下
2点:粘度増加101Pa・s以上
1点:粘度測定不可
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明のフラックスおよびソルダペーストは、各種産業分野における電子回路基板の製造に好適に用いられ、本発明の電子回路基板は、各種産業分野に好適に用いられる。