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特許7427669耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
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  • 特許-耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240129BHJP
   C22C 38/40 20060101ALI20240129BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20240129BHJP
   C25F 3/06 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/40
C22C38/50
C25F3/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021531291
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2019014743
(87)【国際公開番号】W WO2020111546
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0151017
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァン ミン
(72)【発明者】
【氏名】オ,コツ ニム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン-フン
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167486(JP,A)
【文献】特開2018-145484(JP,A)
【文献】特開2016-191094(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114963(WO,A1)
【文献】特開2017-155311(JP,A)
【文献】特開2010-127749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46-9/48
C23C 22/00-22/86
C25D 11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるステンレス母材、及び
前記ステンレス母材上に形成された不働態皮膜を含み、
前記不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.倍以上であり、孔食電位が378mV sce 以上であることを特徴とする耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
Ti:0.4%以下及びNb:0.5%以下のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
不働態皮膜の厚さは、3~5nmであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるステンレス鋼を製造するステップ、
前記ステンレス鋼の表面にクロム濃化層を形成するステップ、及び
硝酸又は硝酸及びフッ酸を含む混酸溶液に浸漬して新しい不働態皮膜を形成するステップ、を含む、不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.倍以上であることを特徴とする耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記クロム濃化層を形成するステップは、10~20%濃度の硫酸溶液で電解処理することを特徴とする請求項4に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記電解処理の電流密度は、0.1~0.6A/cmであることを特徴とする請求項5に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記クロム濃化層を形成するステップは、10~15%濃度の塩酸溶液に20~40秒浸漬することを特徴とする請求項4に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
硝酸溶液の濃度は、10~20%であることを特徴とする請求項4に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記混酸溶液は、10~20%濃度の硝酸と5%以下濃度のフッ酸で用意されることを特徴とする請求項4に記載の耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。













【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に関し、特に、Crを表面に濃化させて耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼(Stainless Steel)は、炭素鋼の弱点である腐食が抑制されて強い耐食性を保有した鋼材を称する。一般的に、ステンレス鋼は、化学成分や金属組織によって分類する。金属組織による場合、ステンレス鋼は、オーステナイト(Austenite)系、フェライト(Ferrite)系、マルテンサイト(Martensite)系、そして二層(Dual Phase)系に分類できる。
【0003】
その中でもオーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れて建築材用の素材に適用されている。特に、オーステナイト系ステンレス鋼の中でもMo、Ni、Nb、Ti、Si、Zr成分などの合金元素の含量を調節するかAlメッキなどの表面処理を実施して耐食性を向上させようとする研究が活発に進行されている。
【0004】
しかし、高価の合金元素の添加によりコスト競争力が落ち、追加工程による製造費用及び製造時間が増加して生産性が低下する問題点がある。
【0005】
一方、フェライト系ステンレス鋼の場合、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて耐食性に劣位である。よって、フェライト系ステンレス鋼は、腐食状況に露出される建築内外装材用途への適用に制約があった。
【0006】
しかし、フェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素であるNi含量が顕著に低いため価格競争力を確保できる。したがって、高価の合金元素の追加やメッキなしにオーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性を確保できるフェライト系ステンレス鋼の開発が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面成分系を制御して耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなる母材、及び前記母材上に形成された不働態皮膜を含み、前記不働態皮膜の表面から3nm以下の厚さ領域のCr含量が母材Cr含量の1.2倍以上であることを特徴とする。
【0009】
Ti:0.4%以下及びNb:0.5%以下のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
孔食電位が330mV以上であることを特徴とする。
【0011】
不働態皮膜の厚さは、3~5nmであることを特徴とする。
【0012】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるステンレス鋼を製造するステップ、前記ステンレス鋼の表面にクロム濃化層を形成するステップ、及び硝酸又は硝酸及びフッ酸を含む混酸溶液に浸漬するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
前記クロム濃化層を形成するステップは、10~20%濃度の硫酸溶液で電解処理することを特徴とする。
【0014】
前記電解処理の電流密度は、0.1~0.6A/cmであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施例によると、前記クロム濃化層を形成するステップは、10~15%濃度の塩酸溶液に20~40秒浸漬することを特徴とする。
【0016】
硝酸溶液の濃度は、10~20%であることを特徴とする。
【0017】
前記混酸溶液は、10~20%濃度の硝酸と5%以下濃度のフッ酸で用意されることを特徴とする。
【0018】
不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.2倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例でフェライト系ステンレス鋼の断面図である。
図2】本発明の一実施例で発明鋼と比較鋼の塩水噴霧試験後の表面状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施例による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなる母材;及び前記母材上に形成された不働態皮膜を含み、前記不働態皮膜の表面から3nm以下の厚さ領域のCr含量が母材Cr含量の1.2倍以上を満足する。
【0022】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、この実施例に限定されない。明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、他の構成要素を除外するものではない。単数の表現は、例外がない限り、複数の表現を含む。
【0023】
一般的に、フェライト系ステンレス鋼は、Niの含有量が低いため、Crが耐食性を確保するにおいて決定的な役目をする。ステンレス鋼表面のCrは、空気中で酸素と結合して数nm厚さの酸化皮膜を形成する。しかし、表面に生成されている酸化皮膜は、その内部のCr濃度が母材のCr濃度に比べて低いため、耐食性が要求される用途で用いることには適合しない。
【0024】
一方、ステンレス鋼表面のFeは、Crに比べて相対的に熱力学的安定度が低いため、Crに比べて優先的に溶解される。本発明者らは、このような特性を土台に、Feの溶解による表面損傷がない範囲で、表面Crの含量を極大化してフェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させようとした。
【0025】
図1は、本発明によるフェライト系ステンレス鋼の断面図である。図1を参照すると、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、ステンレス母材10及びステンレス母材10上に形成された不働態皮膜30を含む。
【0026】
本発明による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の母材は、重量%で、重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなる。
【0027】
以下、本発明の実施例での合金成分含量の数値限定理由に対して説明する。単位は重量%である。Cの含量は、0.02%以下(0は除外)である。炭素(C)は、侵入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の高温強度を向上させる。ただし、その含量が過度な場合、Crと反応してクロム炭化物を形成して耐食性を低下させると同時に延伸率と溶接性を低下させるので、その上限を0.02%に限定できる。
【0028】
Nの含量は、0.02%以下(0は除外)である。窒素(N)は、炭素と同様に侵入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の強度を向上させるだけではなく、オーステナイト相を安定化させる元素としてNiを代替し得、耐孔食性を向上させる。ただし、その含量が過度な場合、延伸率などの加工性が劣位となる問題があるので、その上限を0.02%に限定できる。
【0029】
Siの含量は、0.5%以下(0は除外)である。ケイ素(Si)は、製鋼時の溶鋼の脱酸とフェライトの安定化のために添加される元素である。また、耐酸化性を向上させ、ステンレス鋼で不働態皮膜を強化して耐食性を向上させる役目をする。ただし、その含量が過多な場合、鋼の延伸率が低下するので、その上限を0.5%に限定できる。
【0030】
Mnの含量は、0.3%以下(0除外)である。マンガン(Mn)は、窒素と同様にオーステナイト相の安定化元素であって、耐食性の側面でNiを代替して添加できる。ただし、その含量が過多な場合、オーステナイト相を準安定化させて強度が増加し、加工性が低下するので、その上限を0.3%に限定できる。
【0031】
Crの含量は、16~20%である。クロム(Cr)は、フェライトの安定化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の表面に酸化物の形成を促進する役目をする。本発明では、表面Crの濃縮を起こして304オーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性を確保するために16%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、熱延時の緻密な酸化スケール生成によりスティッキング(Sticking)欠陥が発生する問題があり、鋼の耐食性を十分に確保できるため表面のCr濃縮効果が飽和するので、その上限を20%に限定できる。
【0032】
ステンレス鋼の耐食性評価方法で孔食電位を用いている。既存のCr25%以上の高Crステンレス鋼は、表面改質の処理有無に関係なく孔食電位が1V以上である。したがって、非常に深刻な腐食環境以外では表面改質による耐食性向上の效果は飽和する。しかし、Cr20%以下のステンレス鋼は、表面改質による耐食性の向上に意味がある。
【0033】
Ni:0.4%以下(0は除外)である。ニッケル(Ni)は、オーステナイトの安定化元素として製鋼工程で古鉄から不可避に搬入される元素であって、本発明では、不純物として管理する。Niは、C、Nのようにオーステナイト相を安定化させる元素であって、腐食速度を落として耐食性を向上させる元素であるが、高価であるので、経済性を考慮してその上限を0.4%に制限することが好ましい。
【0034】
また、本発明の一実施例による耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼の母材は、重量%で、Ti:0.4%以下及びNb:0.5%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0035】
Tiの含量は、0.4%以下(0は除外)である。チタン(Ti)は、炭素(C)と窒素(N)のような侵入型元素と結合して炭窒化物を形成することで結晶粒の成長を抑制する役目をする。ただし、その含量が過多な場合、Ti介在物により製造工程上の困難があり、靭性が低下する問題があるので、その上限を0.4%に限定できる。
【0036】
Nbの含量は、0.5%以下(0は除外)である。ニオビオム(Nb)は、炭素(C)と窒素(N)のような侵入型元素と結合して炭窒化物を形成することで結晶粒の成長を抑制する役目をする。ただし、その含量が過多な場合、Laves析出物を形成して成形性の低下及び脆性破壊を起こし、靭性が低下する問題があるので、その上限を0.5%に限定できる。
【0037】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されるので、これを排除できない。
【0038】
図1は、本発明の一実施例による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の断面図である。図1を参照すると、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、ステンレス母材10及び前記ステンレス母材10上に形成された不働態皮膜30を含む。
【0039】
ステンレス鋼は、表面に生成されるCr酸化物(例えば、Cr)が不働態皮膜を形成して耐食性を確保する。ステンレス鋼の表面に生成されている酸化物は、その内部のCrの濃度が母材の濃度に比べて低いことが一般的である。
【0040】
一方、Feに比べてCrは、電気化学的安定性に優れる。したがって、不働態皮膜領域でFeをCrに比べて相対的に多量溶解すると、不働態皮膜のCr濃度を増加させ、これによって、ステンレス鋼の耐食性を向上させる。
【0041】
本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域(t)のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.2倍以上を満足することができる。
【0042】
本発明では、上述したように、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて耐食性が劣位なフェライト系ステンレス鋼の表面に耐食性を向上させるCrを選択的に濃化させて耐食性を確保した。
【0043】
一方、表面に存在するCr含量が母材に比べて過多であると、Feの選択的溶出が過多に同伴され、この場合、Feの溶出による表面損傷が発生して耐食性がむしろ減少する問題がある。したがって、不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.2倍以上2.0倍以下であることが好ましい。
【0044】
このように、フェライト系ステンレス鋼の表面の選択的Fe金属の溶出によって母材成分系と異なる表面成分系を導出することによって、Mo、Niなどのような高価の合金元素を追加するか、追加的なメッキ工程を適用せずにオーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性の確保が可能である。
【0045】
例えば、本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、孔食電位が330mV以上である。
【0046】
また、本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼の不働態皮膜の厚さ(t)は、3~5nmであってもよい。
【0047】
以下、本発明の一実施例による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼を製造する工程を説明する。
【0048】
本発明の一実施例による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.02%以下(0は除外)、N:0.02%以下(0は除外)、Si:0.5%以下(0は除外)、Mn:0.3%以下(0は除外)、Cr:16~20%、Ni:0.4%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるステンレス鋼の冷延薄板を製造するステップ;前記ステンレス鋼の表面にクロム濃化層を形成するステップ;及び硝酸又は硝酸及びフッ酸を含む混酸溶液に浸漬するステップ;を含む。
【0049】
合金成分含量の数値限定理由に対する説明は、上述した通りである。
【0050】
上述した合金成分組成を有するステンレス鋼の鋳片を熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、焼鈍工程を経てステンレス鋼の冷延薄板を製造する。冷間圧延ステップでは、上述した合金成分含量のステンレス鋼の薄板をZ-mill冷間圧延機を用いて圧延し、その後、冷延薄板を焼鈍熱処理して冷延薄板の表面に不働態皮膜を形成することができる。
【0051】
焼鈍熱処理を通じて滑らかな表面状態を有する数nm厚さの不働態皮膜が形成され、このような不働態皮膜には、Cr-Fe酸化物、Mn酸化物、Si酸化物などが形成される。冷延焼鈍を終えたフェライト系ステンレス鋼は、その表面のCr濃度が母材に比べて低いため、腐食状況に露出される建築内外装材用途への適用に制約がある。
【0052】
したがって、ステンレス鋼薄板の耐食性を向上させるためには、上述した表面に存在する酸化物に関係なく表面のCr含量を極大化して母材と異なる表面濃化層を形成する必要がある。そこで、本発明による耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、下記の工程を通じてステンレス鋼の表面にクロム濃化層を形成することができる。
【0053】
クロム濃化層を形成するステップでは、10~20%濃度の硫酸溶液で電解処理するか又は10~15%濃度の塩酸溶液に浸漬して表面Cr含量を高めることができる。具体的に、ステンレス母材の表面に隣接した領域で電気化学的安定性が低いFeがCrに比べて相対的に多量溶解され、ステンレス鋼の表面にCrが濃化されてクロム濃化層が形成される。酸溶液の種類によってステンレス鋼の表面Feの溶解速度が変わって表面のCr含量/母材Cr含量が変わることができる。
【0054】
本発明では、1次的に塩酸/硫酸によりFeを選択的に溶解し、2次的に硝酸によりクロム濃化層を形成する。硝酸を用いる場合、塩酸/硫酸に比べて上述したFeの選択的溶解が発生せず、むしろ酸化皮膜を形成して、Fe溶解/Cr濃縮による耐食性向上の効果を導出することができない。すなわち、硝酸を1次的に用いると、Feの選択的溶解が発生しない状態でフェライト系ステンレス鋼が硝酸に浸漬されて一般的な皮膜を形成することになる。
【0055】
硫酸溶液での電解処理は、0.1~0.6A/cmの電流密度で行われる。また、硫酸溶液の温度は、40~80℃であってもよい。硫酸溶液の濃度が10%未満であると、表面のFeの選択的溶解が不十分であり、反対に濃度が20%を超過すると、表面損傷を起こして耐食性をむしろ低下させる。したがって、硫酸溶液の濃度は、10~20%に制御することが好ましい。例えば、硫酸溶液の濃度は、100~200g/lであってもよい。
【0056】
硫酸溶液の温度が過度に低い場合、表面のCr濃縮が容易ではなく、反対に温度が過度に高い場合、安定性の問題及びステンレス鋼の表面損傷を誘発するので、温度は、40~80℃に制限する。また、電流密度が0.1A/cmより低い場合、不働態皮膜の溶解が表面全体的に不均一に発生することがあり、0.6A/cmより高い場合、深刻な母材の溶出を発生させるので、Crの表面濃縮効果を期待しにくい。
【0057】
塩酸溶液への浸漬は、10~15%濃度の塩酸溶液に20~40秒浸漬できる。塩酸溶液の濃度が10%未満であると、表面のFeの選択的溶解が不十分であり、反対に濃度が15%を超過すると、表面損傷を起こして耐食性をむしろ低下させる。したがって、塩酸溶液の濃度は、10~15%に制御することが好ましい。例えば、塩酸溶液の濃度は、100~150g/lであってもよい。
【0058】
また、浸漬時間が20秒未満である場合、表面のCr濃縮が容易ではなく、40秒を越える場合、ステンレス鋼の表面損傷を誘発する。クロム濃化層を形成するステップ以後、水洗する過程を経ることができる。その後、クロム濃化層が形成されたステンレス鋼を酸溶液に浸漬するステップを経て新しい不働態皮膜を形成する。酸浸漬の初期には、ステンレス鋼のFeの選択的溶出が発生して表面Cr濃化が発生する。浸漬後期には、濃化されたCrによる新しい酸化不働態皮膜が形成される。
【0059】
具体的に、10~20%濃度の硝酸溶液又は10~20%濃度の硝酸と5%以下濃度のフッ酸の混酸溶液に前記ステンレス鋼を浸漬することができる。例えば、100~200g/lの硝酸及び50g/l以下のフッ酸が酸溶液として用いられる。このとき、酸浸漬ステップは、30~90秒間行われる。
【0060】
硝酸の濃度が過度に低いと、表面Cr濃化及び酸素と関連した不働態皮膜の形成効率が低いため耐食性の向上効果が低下し、濃度が過度な場合、表面のCr濃化効果が飽和するかむしろステンレス鋼表面の浸食がひどいため耐食性が低下する。したがって、硝酸溶液の濃度は、10~20%に制限することが好ましい。
【0061】
フッ酸は、溶出された金属イオンとの反応を通じて金属イオンの除去を助けて硝酸の効果を増加させる。したがって、不溶性酸化物が存在しないか硝酸の効果を十分に発揮できる場合には、フッ酸を含まなくてもよい。フッ酸の濃度が過度に高いと、ステンレス鋼表面の浸食がひどくなるので、フッ酸濃度の上限を5%にすることが好ましい。
【0062】
また、酸浸漬ステップで、浸漬時間が30秒未満である場合、表面の表面Cr濃縮が容易ではなく、新しい不働態皮膜の形成効果が低下する。一方、浸漬時間が90秒を越える場合、ステンレス鋼の表面損傷を誘発する。前記製造方法によって製造された耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼は、不働態皮膜の表面から3nmの間の厚さ領域のCr重量%の含量が前記ステンレス母材のCr重量%の含量に比べて1.2倍以上であってもよい。
【0063】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【0064】
下記表1に示した多様な合金成分範囲に対して、通常の方法で粗圧延機と連続仕上げ圧延機によりフェライト系ステンレスの熱延鋼板を製造し、その後、連続焼鈍及び酸洗を行った後に冷間圧延及び冷延焼鈍を実施した。各鋼種は、真空溶解して成分を確認した。比較鋼4は、304オーステナイト系ステンレス鋼の成分範囲に該当する。
【0065】
【表1】
【0066】
続いて、前記発明鋼及び比較鋼の冷延鋼板を下記表2の条件による工程を行った。ステンレス鋼表面から3nmの間の厚さ領域でCr含量/母材Cr含量を測定し、下記表2の式(1)で示した。また、比較例と実施例の試片を常温の1M NaCl溶液に浸漬して20mV/分の電位走査速度で電位を増加させながらアノード分極挙動を観察し、各試片の孔食が発生した電位(Pitting Potential、Epit)を下記表2に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
比較例4は、オーステナイト系ステンレス鋼304の成分範囲に該当する比較鋼1を本発明による製造工程を適用しないものである。このとき、孔食電位は、326mVであることが確認できる。
【0069】
本発明では、通常的に建築内外装材で用いられるオーステナイト系ステンレス鋼304を代替するために、孔食電位を330mV以上確保した。表2を参照すると、前記実施例の場合、比較例と比較して、合金成分と製造工程を満足して孔食電位が330mV以上であることが確認できる。
【0070】
具体的に、実施例1は、10%塩酸浸漬と10%硝酸浸漬を順次に進行した結果、表面に存在するCrの含量が母材のCr含量に比べて1.3倍高く、381mV孔食電位を示した。
【0071】
実施例2~7は、硫酸電解と酸溶液の浸漬を順次に進行した結果、表面に存在するCrの含量が母材のCr含量に比べて1.3倍以上高く、330mV以上の孔食電位を示した。
【0072】
参考例8は、1次の塩酸/硫酸処理を行わず混酸にすぐ浸漬した場合である。上述したように、混酸浸漬の初期には、ステンレス鋼のFeの選択的溶出が発生して表面Cr濃化が発生する。浸漬後期には、濃化されたCrによる新しい酸化不働態皮膜が形成される。
【0073】
表2を参照すると、参考例8の場合、表面に存在するCrの含量が母材のCr含量に比べて1.2倍であり、377mVの孔食電位を示したので、微弱であるが1次塩酸/硫酸処理のFeの選択的溶出の効果があることが確認できる。
【0074】
表2に示したように、発明鋼1~3は、実施例1~を通じて母材成分系と異なる表面成分系を導出して、具体的に、不働態皮膜の表面から3nm以下の厚さ領域のCr/母材内のCr割合を1.2以上に確保して鋼材の耐食性を確保することができた。これは、硫酸電解処理又は塩酸浸漬を通じてFeの選択的溶出を通じたCrの濃縮が発生することによって可能である。
【0075】
一方、表2の比較例1及び2は、塩酸浸漬を進行した場合であって、表面のCr濃度が母材のCr濃度に比べて0.6と低く、これによって、孔食電位がそれぞれ298mV、285mVとなり目標とする耐食性を確保することができなかった。
【0076】
これを通じて、塩酸浸漬のみを進行した場合には、Feのみの選択的溶解が起きず、Fe、Crの同時溶解が発生して表面のクロム濃化層が形成されなかったことが確認できる。
【0077】
比較例3は、硫酸電解のみを進行した場合であって、表面のCr濃度が母材のCr濃度に比べて0.7と低く、これによって、孔食電位も308mVとなり目標とする耐食性を確保することができなかった。
【0078】
比較例5は、本発明が提案する工程である10%塩酸浸漬と10%硝酸浸漬を順次に進行したにもかかわらず表面のCr濃度が母材のCr濃度に比べて0.6と低く、これによって、孔食電位が317mVとなり目標とする耐食性を確保することができなかった。これを通じて、比較鋼2のCr含量が15.4%と本発明のCr含量範囲に達せず、表面に十分なCr濃縮が発生しなかったことが確認できる。
【0079】
比較例6及び比較例7は、硫酸電解の電流密度を0.1A/cmより低いか、0.6A/cmより高く印加した場合であって、表面のCr濃度が母材のCr濃度に比べて0.6、0.7と低く、これによって、孔食電位も311mV、287mVとなり目標とする耐食性を確保することができなかった。
【0080】
図2は、本発明の実施例による発明鋼と比較鋼の塩水噴霧試験後の表面状態を示す図である。図2を参照すると、比較例4に比べて実施例4の場合、硫酸電解と硝酸溶液の浸漬を順次に実施して表面のCr濃度が母材のCr濃度に比べて1.8と高くなり、これによって、耐食性が向上したことが確認できる。
【0081】
上記のように、本発明の実施例によって製造された耐食性が向上されたフェライト系ステンレス鋼は、ステンレス鋼の表面の選択的Fe金属溶出により母材成分系と異なる表面成分系を導出することによって、Mo、Niなどのような高価の合金元素を追加するか、追加的なメッキ工程を適用せずにオーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性の確保が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼を用いて、表面にCrを濃縮させることによって、オーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性を確保することができる。
図1
図2