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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】電動駆動車用2段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/54 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
F16H3/54
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021532760
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025233
(87)【国際公開番号】W WO2021010138
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019130088
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】白崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良輔
(72)【発明者】
【氏名】祢津 英之
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】古川 健太郎
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-234062(JP,A)
【文献】特開2013-133841(JP,A)
【文献】特開2016-109146(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015116537(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011083202(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
請求項1に記載の発明において、遊星歯車機構の3回転要素はその第1回転要素がハウジング側に選択的に固定可能であり、相対的に高ギヤ比側の変速モードとして、第1回転要素をハウジング側に固定化し、残余の第2及び第3の回転要素間に得られるギヤ比が1.0より大きい減速側ギヤ比となる第1の変速モードがドグクラッチにより取られ、また、相対的に高ギヤ比側の変速モードとして、第1回転要素のハウジング側への固定を解除し、残余の2回転要素のいずれかの回転要素を第1回転要素と一体回転させることにより得られるギヤ比が1.0となる第2の変速モードが摩擦クラッチにより取られ、ワンウエイクラッチは前記第1の回転要素をハウジング側にロックすることにより入力側から出力側への動力伝達を確保することによりトルク抜けを防止する電動駆動車用2段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電気自動車やハイブリッド車等の電動駆動車用2段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機を動力とする自動車(Electric Vehicle:EV)においてはエンジンと動力を切替え若しくは共用するハイブリッド車においても純粋に電動機の駆動力だけで走行するものでも電動機の動力の車軸側への伝達は回転軸上に別段変速機を設けず、電動機の回転を走行に適した適当な回転数に落とす減速機だけを設けるものが普通であった。これは、電動機においては無回転域から駆動トルクを発生させることができ、使用可能な回転域が広いし、また、構造が簡単ということがEVの重要なセールスポイントであることから、構造を複雑化させる変速機を設けるまでもない、といった事情によるものである。
【0003】
しかしながら、EVにおいても、変速機を利用するメリットはあり、それは、電動機といえども車速の全域で高効率を維持することは困難であり、特に、車両の高車速運転域においては、電動機の回転数が大きくなるため効率悪化があり、そのための改善として、2段変速機を電動機と減速機との間に配置し、効率の悪化する車両の高車速運転域において、2段変速機における低減速比側を使用することにより、電動機の回転数を下げて車両の高車速運転を行うことができ、電動機の高効率の使用域を広げることができる。この種の2段変速機としては、特許文献1では、2段変速のため遊星歯車機構を使用するものを提案している。遊星歯車機構は複数のピニオンを軸支するキャリアと、サンギヤと、リングギヤとからなる3回転要素を備える。低速運転時は、ドグクラッチ締結時は摩擦クラッチが非締結とされ、ドグクラッチ締結によりリングギヤはハウジングに固定となり、このとき入力軸の回転はサンギヤよりキャリアを介して出力され、変速比は1.0より大きい値(減速)となる。高車速運転時は、ドグクラッチ非締結時は摩擦クラッチが締結とされ、リングギヤがハウジングから解放され、サンギヤ及びキャリアと一体になって回転され、このときの変速比は1.0(等速)となる。高車速運転時において低速運転時との比較でギヤ比を小さくすることにより、高車速運転時の電動機の回転数を相対的に下げることができるため、より高車速運転時において電動機の高効率運転域を広げることができ、高車速運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-17632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低車速運転時にドグクラッチ締結、摩擦クラッチ非締結 (第1速)とし、高車速運転時にドグクラッチ非締結、摩擦クラッチ締結 (第2速)とする特許文献の技術において、第1速と第2速との切替時に、ドグクラッチと摩擦クラッチとを同時に締結状態とすることはできないので、切替時にドグクラッチも摩擦クラッチも非締結の状態が一瞬ではあるが生ずるのは避けることができない。この場合、出力軸は電動機から切り離されるため、トルク抜けとなり、運転者には切替ショックとして伝わることになる。
【0006】
また、第2速から第1速への切替(減速)の場合、ドグクラッチの構造上、非締結から締結までの間、相手面との相対回転によりクラッチ合わせをして行くため、これも変速ショックの原因となる。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、摩擦クラッチ非締結 (第1速)とし、高車速運転時にドグクラッチ非締結、摩擦クラッチ締結 (第2速)とする2段速変速機において、変速ショックの軽減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、
車輪駆動のため電動機を使用する車両において電動機の出力軸上に配置された2段変速機は、
複数のピニオンを軸支するキャリアと、ピニオンに噛合する異なった歯数の複数の歯車とからなる3回転要素を備え、3回転要素から選択される第1回転要素をハウジング側に固定し、残余の第2及び第3の回転要素間に得られる1.0とは異なるギヤ比にて動力伝達を行う第1の変速モードと、残余の2回転要素のうち1回転要素を入出力とする、または、残余の2回転要素のうち1要素を第1回転要素と一体回転させることにより得られる1.0のギヤ比にて動力伝達を行う第2の変速モードとを取ることができる遊星歯車機構と、
第1の変速モードと第2の変速モードとの間で相対的に低ギヤ比側の変速モードを取るように遊星歯車機構の回転要素間の連結を行うドグクラッチと、
第1の変速モードと第2の変速モードとの間で相対的に高ギヤ比側の変速モードを取るように遊星歯車機構の回転要素間の連結を行う摩擦クラッチと、
第1の変速モードと第2の変速モード間の切替時におけるトルク抜けを防止するためのラチェット式のワンウエイクラッチとを具備して成り、
第1のクラッチを構成するドグクラッチの係合部と、ラチェット式のワンウエイクラッチにおけるラチェット係合部とは同一回転位相位置に設置される。
【0009】
好ましい実施形態としては、ドグクラッチにより、相対的に低ギヤ比側の変速モードとして1.0より大きい減速側のギヤ比となる第1の変速モードを取らせ、他方、摩擦クラッチにより、相対的に高ギヤ比側の変速モードとして、1.0のギヤ比となる第2の変速モードを取らせるようにする。
この好ましい実施形態の一態様において、遊星歯車機の3回転要素から選択される第1回転要素をハウジング側に恒久的固定とし、低ギヤ比側の第1の変速モードとして、ドグクラッチにより残余の第2及び第3の回転要素間に1.0より大きい減速側のギヤ比を得ることができ、他方、高ギヤ比側の第2の変速モードとして、摩擦クラッチにより遊星歯車機構の残余の2回転要素のうち1回転要素を入出力とすることにより1.0のギヤ比を得ることができる。そして、トルク抜け防止のためのワンウエイクラッチは、第1の変速モードと第2の変速モード間の切替時に第2または第3の回転要素を入力軸側にロックするように動作させることができる。
上記好ましい実施形態の別態様として、遊星歯車機の3回転要素のうちの第1回転要素がハウジング側に選択的に固定可能であり、低ギヤ比側の第1の変速モードとして、ドグクラッチにより第1回転要素をハウジング側に固定化し、残余の第2及び第3の回転要素間に1.0より大きい減速側のギヤ比を得ることができ、他方、高ギヤ比側の第2の変速モードとして、摩擦クラッチにより、第1回転要素のハウジング側への固定を解除し、残余の2回転要素のいずれかの回転要素を第1回転要素と一体回転させる(結果的に3回転要素は一体回転する)ことにより1.0のギヤ比を得ることができる。そして、トルク抜け防止のためのワンウエイクラッチは、第1の回転要素をハウジング側にロックすることにより入力側から出力側への動力伝達を確保するように動作させることができる。
【発明の効果】
【0010】
ワンウエイクラッチを設けることにより、第1の変速モードと第2の変速モード間の切替時のドグクラッチも摩擦クラッチも非締結となる中間状態において、出力側の回転の瞬間的な落ち込みを防止し、変速ショックを防止することができ、かつワンウエイクラッチをラチェット方式のものとすることにより、摩擦クラッチからドグクラッチへの切替時(減速時)に、ドグクラッチを即座に噛合状態とすることができ、通常のドグクラッチの噛合動作では必要となる噛合を待つ動作が生じないため、変速ショックの一層の低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はこの発明の電動駆動車の実施である電気自動車の車輪駆動トレーンを模式的に示す図である。
図2図2はこの発明の第1の実施形態の2段変速装置の中心軸線に沿った上側部分の断面図であり、ドグクラッチの締結状態でかつ摩擦クラッチの非締結状態を示す。
図3図3図2の大略III-III線に沿った矢視断面図である。
図4図4図3の部分拡大図であり、締結状態にある一対のドグクラッチ及び摩擦クラッチを拡大して示す。
図5図5はラチェット式ワンウエイクラッチの締結状態において、非締結状態におけるドグクラッチにおけるクラッチ爪とクラッチ溝との円周方向の位置関係を模式的に示す図である。
図6図6図2と同様に第1の実施形態の2段変速装置の中心軸線に沿った上側部分の断面図であるが、ドグクラッチの非締結状態でかつ摩擦クラッチの締結状態を示す。
図7図7図3と同様に図2の大略III-III線に沿った矢視断面図であるが、ワンウエイクラッチのラチェットが外れた状態を示す。
図8図8はこの発明の電動駆動車の実施である第2の実施形態の2段変速装置の中心軸線に沿った上側部分の断面図であり、ドグクラッチの締結状態でかつ摩擦クラッチの非締結状態を示す。
図9図9図8の大略IX-IX線に沿った矢視断面図である。
図10図10図8と同様に第2の実施形態の2段変速装置の中心軸線に沿った上側部分の断面図であるが、ドグクラッチの非締結状態でかつ摩擦クラッチの締結状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はこの発明の電動駆動車用の2段変速の実施形態としての電気自動車の駆動トレーンを模式化して示しており、2は走行用の電動機(モーター)、4はこの発明の2段変速機、6は減速機、8はディファレンシャル、9は車輪を示す。減速機6は噛合するギヤを筐体に収容して構成され、電動機2の高回転を車輪9による走行に適した回転数に減速するため設置され、2段変速機4を設置しない通常の電気自動車の場合、減速機6における減速比の設定は8付近の値であり、これは、常用される低速運転において電動機2を高効率の回転数域で動作させるため適しているが、この設定の場合、高車速運転で電動機の回転が上がり過ぎて効率が良くなくなる。そこで、高車速実現のため2段変速機4を設置している。後述の第1の実施形態では、第1段は2.4の減速比、第2段は1.0(直結)の設定であり、減速機6の減速比を仮に3.41とした場合のトータルの減速比は2.4×3.41=8.18となり、従来の2段変速機が無い場合のトータルの減速比程度の値となる。また、第2段での運転の場合は、トータルとして、1.0×3.41=3.41の減速比での運転となり、減速比が小さくなる分、高車速運転域において、電動機2を従来より低回転の効率の良い回転域で運転させることが可能となり、結果として高車速を得ることができる。
【0013】
図2はこの発明の実施形態の電気自動車用の2段変速機の断面図であり、中心線Lの上側半分が画かれている。10はハウジングであり、別体の溶接されるカバー10´とで内部に本発明の2段変速機4の構成部を収容する閉鎖された空洞部(歯車の噛合部の潤滑のための潤滑油が収容される)を形成する。遊星歯車機構12はハウジング10内に配置され、円周方向に間隔をおいて配置された複数のピニオン14を回転自在に軸支して構成されるキャリア16(ピニオン14を挟み両側に設置)と、キャリア16と回転中心を共通しピニオン14に内側にて噛合するサンギヤ18と、キャリア16と回転中心を共通しピニオン14に外側にて噛合する噛合するリングギヤ20(ハウジング10の内周の歯部として構成される)とからなる3回転要素を備えている。各ピニオン14をキャリア16に軸支するためピン21(キャリア16に固着)が設けられ、22はニードルベアリングを示す。
【0014】
2段変速機は、また、アーマチュア26と、ドグクラッチ28と、多板式摩擦クラッチ(以下簡明のため単に摩擦クラッチ)30と、ドグクラッチ28と摩擦クラッチ30とのワンモーションでのシーソー式切替動作を惹起させるための駆動動力源となる電磁コイル31と、ドグクラッチ28と摩擦クラッチ30とのシーソー式切替動作のためアーマチュア26を軸方向に前後移動可能に支持する支持板32とを備える。支持板32は、また、摩擦クラッチ30のクラッチパックの支持部として機能すると共に、電動機2(図1)からの回転運動を受け、ドグクラッチ28又は摩擦クラッチ30を介して遊星歯車機構12に伝達する機能も担っている。支持板32は、その動力伝達機能実現のため、ボス部32-1の内周面にスプライン32-1aを形成しており、ボス部32-1は電動機2の図示しない出力軸とスプライン嵌合し、支持板32は電動機2の出力軸と常時一体回転する。ドグクラッチ28は円周方向に等間隔に配置された8個の締結ユニット(図3参照)から構成される。
【0015】
この実施形態では、遊星歯車機構12のリングギヤ20はハウジング10と一体であるため常時固定であり、サンギヤ18を電動機2(図1)からの入力軸に後述ドグクラッチ28により連結(このとき摩擦クラッチ30は非締結)し、出力側のキャリア16から取り出される回転を減速として取り出し、摩擦クラッチ30を締結(このときドグクラッチ28は非締結)とすることにより、キャリア16から入出力させ(ギヤ比=1.0) 、相対的増速として取り出している。そして、キャリア16はそのボス部16-1の内面にスプライン16-1aを形成しており、スプライン16-1aに減速機6(図1)の図示しない入力軸をスプライン嵌合させることで、減速機6を介して車輪9(図1)側に駆動力を伝達することができる。
【0016】
アーマチュア26は、半径方向の中間部に円周方向に等間隔に離間した複数(この実施形態では8個(図3))のクラッチ突部26-1を有しており、クラッチ突部26-1はドグクラッチ28の各ユニットの雄側部分となる。また、アーマチュア26は外周部に摩擦クラッチ30の駆動部44を備える。
【0017】
遊星歯車機構12のサンギヤ18はアーマチュア26側への筒状延出部18-1を形成しており、この筒状延出部18-1の電動機側フランジ状端部に円周方向に等間隔にクラッチ突部26-1と同数(この実施形態では8個(図3))のクラッチ孔18-2が形成され、クラッチ孔18-2はアーマチュア26のクラッチ突部26-1とガタを生ずることなくかつスムースに軸方向に係脱可能となっている。クラッチ孔18-2はドグクラッチ28の各ユニットの雌側部分であり、換言すれば、アーマチュア26側のクラッチ突部26-1とサンギヤ18側のクラッチ孔18-2とで、図3図7に示す本実施形態のドグクラッチ28の8個の締結ユニットの夫々が構成される。
【0018】
図2において、摩擦クラッチ30はハウジング10内に配置される外筒33と、外筒33の摺動溝33-1に軸方向摺動自在に設けたドリブンプレート34と、内筒36と、内筒36の摺動溝36-1に軸方向摺動自在に設けたドライブプレート38と、ドリブンプレート34の両面に固着したクラッチフエーシング40と、外筒33の摺動溝33-1に軸方向摺動自在に設けられ、スナップリング42によって係止される受圧板43と、クラッチパックを挟んで受圧板43と反対側に位置する摩擦クラッチ駆動部44(アーマチュア26の一体部)とから構成される。摩擦クラッチ駆動部44は、ドリブンプレート34、ドライブプレート38と、クラッチフエーシング40よりなるクラッチパックを挟んで受圧板43の反対側に位置され、アーマチュア26の軸方向の移動下、摩擦クラッチ駆動部44により摩擦クラッチ30の係脱が行なわれる。摩擦クラッチ駆動部44は、アーマチュア26及び支持板32と一体回転するように構成され、図2ではアーマチュア26から遊星歯車側12への延出部26-7が支持板32を嵌合挿通され、延出部26-7の端部より摩擦クラッチ駆動部44が半径外方に延出するように構成される。
【0019】
摩擦クラッチ30の内筒36は支持板32から遊星歯車側12に延びる筒状部として構成され、支持板32と(アーマチュア26とも)一体回転するように形成される。他方、前述のように支持板32は電動機からの入力軸に連結され、支持板32と一体回転する摩擦クラッチ30の内筒36は入力軸と一体回転する。他方で、摩擦クラッチ30の外筒33はキャリア16と一体回転するように連結されている。
【0020】
アーマチュア26は、支持板32に対して、軸方向には摺動自在にかつ円周方向には回転しないように取り付けられている。即ち、図示実施形態では、ドグクラッチ28を構成するアーマチュア26側の8個のクラッチ突部26-1が支持板32側の対応のクラッチ孔18-2に係合する構成となっており、これにより支持板32に対するアーマチュア26の軸方向摺動自在で円周方向には非回転の支持構造を実現している。
【0021】
電磁コイル31は、アーマチュア26の、遊星歯車機構12とは離間側に対向して配置され、カバー10´に形成される電磁コイル収容部10’-1内に収容されている。47は電磁コイル31への通電および制御用のハーネスを示している。リターンスプリング(コイルスプリング等) 45は円周方向に間隔をおいて複数配置され、電磁コイル31に通電されていない場合は、リターンスプリング45はアーマチュア26を図2の左方に付勢し、このとき、アーマチュア26側のクラッチ突部26-1とサンギヤ18側のクラッチ孔18-2とは図2に示すように嵌合し、ドグクラッチ28の締結状態が得られ、他方で、アーマチュア26と一体の摩擦クラッチ駆動部44はクラッチパックから離間位置し、摩擦クラッチ30は非締結となる。これに対し、電磁コイル31への通電により電磁コイル31からアーマチュア26への磁束が生じ、図6に示すように、アーマチュア26はリターンスプリング45に抗して図2の右方に移動し、クラッチ突部26-1はクラッチ孔18-2から抜け、ドグクラッチ28は非締結となる。また、アーマチュア26の右方移動により、摩擦クラッチ駆動部44はクラッチパックを受圧板43との間で挟着し、摩擦クラッチ30は締結状態となる。電磁コイル31への通電を解除すると、スプリング45によりアーマチュア26は左行し、図2のように摩擦クラッチ30は非締結となり、他方、ドグクラッチ28は締結状態となる。
【0022】
以上説明のように、アーマチュア26の回転軸に沿った左右移動により、ドグクラッチ28の締結時は摩擦クラッチ30は非締結となり、摩擦クラッチ30の締結時はドグクラッチ28は非締結となるというシーソー的な切替動作を行う。他方、ドグクラッチ28と摩擦クラッチ30とは同時に締結状態を取らないようにする必要があり、また、必要な公差との関係で、ドグクラッチ28と摩擦クラッチ30との切替時に一瞬ではあるが、出力側が入力側に対して切り放された状態、所謂トルク抜け、が必ず生じ、これは運転者には変速ショックとなる。本発明の第1の実施形態では、トルク抜け防止のため、遊星歯車機構12のサンギヤ18を入力軸側にロックするワンウエイクラッチ50を設けると共に、ワンウエイクラッチ50をラチェット式としている。
【0023】
ラチェット式ワンウエイクラッチ50はこの実施形態では、図2及び図6に示すように、サンギヤ18の筒状延出部18-1と支持板32のボス部32-1間に構成している。周知のように、ラチェット式ワンウエイクラッチは、市販の製品としては、インナレース及びアウタレースを含めたユニットとして構成されるが、この発明においては、ラチェット式ワンウエイクラッチ50の詳細構成如は発明の本旨と直接的に関係しないため、説明の簡明のため、筒状延出部18-1及びボス部32-1に設けた原理的な構成として図示したものである。この実施形態のラチェット式のワンウエイクラッチ50は、ドグクラッチ28のクラッチユニットと同数の円周方向に等間隔に配置された8個の締結ユニット(図3)から成り、ワンウエイクラッチ50の各締結ユニットは図4の拡大図に示すように、ラチェット爪52と;外周側の筒状延出部18-1の内周の凹部として形成され、ラチェット爪52を収容するためのラチェット爪収容部54と;ラチェット爪収容部54から筒状延出部18-1の内周面に対して出没自在にラチェット爪52を回転軸L(図2)と並行な軸線の周りを回動可能に支持する支持ピン(枢軸)56と;ラチェット爪52をラチェット爪収容部54から突出するように回動付勢するためスプリング(コイルスプリング等)58と;ラチェット爪52に対向して支持板32のボス部32-1に形成され、ラチェット爪52の先端と係合することにより、支持板32の回転を阻止する係止溝60;とから構成される。
【0024】
この実施形態におけるラチェット式のワンウエイクラッチ50において、ラチェット爪52は、遠心力がスプリング58の設定より小さい場合は、図3及び図4に示すように、支持板32の時計方向の回転(電動機回転軸側による支持板32の回転駆動方向aと同方向の回転)に対しては係止溝60との係合が深まる配置となっている。回転による遠心力がスプリング58の設定を超えると、図7に示すように、ラチェット爪52をスプリング58に抗してピン56の周りにおいて外方に回動させ、ラチェット爪52が図4の想像線52aのように係止溝60から抜去されるため、ラチェット爪52による係止作用は消失する。
【0025】
本実施形態においては、ドグクラッチ28は、夫々がクラッチ突部26-1及びクラッチ孔18-2を備えたクラッチユニットを円周方向に8個有しており,ワンウエイクラッチ50についても、夫々がラチェット爪52、スプリング58、係止溝60等を備えた8個のユニットを備える。本発明では、ドグクラッチ28とワンウエイクラッチ50と締結及び非締結動作を同一回転位相で行わせるようにしいている。これより後述のように本実施形態の2速変速機の切替時(減速運転時)のショック低減に役立てることができる。即ち、図5はワンウエイクラッチ50の締結状態(図3及び図4に示すラチェット爪52の係止溝60に対する締結状態)におけるドグクラッチ28のクラッチ突部26-1とクラッチ孔18-2の円周方向の位置関係を模式的に示しており、各対のクラッチ突部26-1とクラッチ孔18-2とは円周方向に正対した位置に保持されている。
【0026】
この実施形態において、ドグクラッチ28についてもワンウエイクラッチ50についてもユニット数は8個で同一であるが、同一回転位相で両者締結状態をとるようになっていさえすればドグクラッチ28とワンウエイクラッチ50のユニット数を適宜異ならせることができる。
【0027】
第1の実施形態における2段変速機4の動作を説明すると、図2においては、電磁コイル31は非通電であり、リターンスプリング45の弾性力によってアーマチュア26は左行し、ドグクラッチ28は締結、多板摩擦クラッチ30は非締結となる。走行用電動機からの回転駆動力は、遊星歯車機構12のリングギヤ20が車体に固定されたハウジング10に拘束されているため、電動機からの回転は、電動機側回転軸とスプライン溝32-1aにて嵌合する支持板32より、ドグクラッチ28の係合部(26-1, 18-2)を介して遊星歯車機構12のサンギヤ18に伝達される。遊星歯車機構12のリングギヤ20は車体側のハウジング10に固定であるため、サンギヤ18の回転に対して歯数に応じた減速比でキャリア16に回転駆動力が伝わり、キャリア16の回転によりスプライン16-1aにスプライン嵌合する出力軸が回転駆動される。このときの入力軸(サンギヤ18)に対する出力軸(キャリア16)の回転比は、周知のように、サンギヤの歯数Zs、リングギヤの歯数ZrとしたときZs/(Zs+Zr)、即ち、減速となり、歯数によるが図1において説明したように2.4等の減速比とすることができる。
【0028】
ドグクラッチ28の締結状態(図2)では、ワンウエイクラッチ50についてはインナレース側(サンギヤ18の筒状延出部18-1)もアウタレース側(支持板32のボス部32-1)も同一回転数で回転するため動力伝達の機能に関してはワンウエイクラッチ50は設置が無いのと同じである。スプリング58のばね力は、第1速の全域及において遠心力に対して優勢となるように設定される。そのためのラチェット式のワンウエイクラッチ50についてはラチェット爪52に生ずる遠心力がスプリング58のばね圧より小さく設定されているため図3及び図4に示す締結状態を維持する。
【0029】
第1速から第2速への切替のため電磁コイル31が通電されると、電磁コイル31に生ずる磁束はアーマチュア26をリターンスプリング45の弾性力に抗して図2の右方に移動させ、アーマチュア26は図6に示す位置を取る。このとき、ドグクラッチ28のクラッチ突部26-1は筒状延出部18-1(サンギヤ18)のクラッチ孔18-2から完全に抜去され、ドグクラッチは非締結状態となる。他方、アーマチュア26の摩擦クラッチ駆動部44は、受圧板43との間でドリブンプレート34をクラッチフエーシング40を介してドライブプレート38を挟着し、摩擦クラッチ30は締結状態となる。電動機からの回転は、支持板32より、ドライブプレート38, クラッチフエーシング40、ドリブンプレート34より外筒33に、そしてキャリア16に伝達する。そのため、キャリア16から入力され、キャリア16の回転によりスプライン16-1aにスプライン嵌合する出力軸が回転駆動され、出力軸は入力軸と同一回転速度(変速比は1.0)で回転する。即ち、キャリア16が入出力軸となることにより1.0の変速比が得られる。サンギヤ18はキャリア16によりピニオン14を介して回転駆動されるが、サンギヤ18は入出力軸間の駆動力の伝達には直接には関わらない。また、ワンウエイクラッチ50については、第1速域と少し被る低回転側領域ではばね力が遠心力に打ち勝つがこの領域を超えると遠心力によりラチェット爪は外方に回動し、非締結状態となる。第2速に完全移行後についてもワンウエイクラッチ50は機能的には設置が無いのと同じである。
【0030】
この実施形態では、車両の低速運転時は、変速機4は図2の第1段の減速比(=2.4)にて運転し、図1で説明したように、トータルの減速比は減速機6の減速比を仮に3.41とすると2.4×3.41=8.18となり、従来と同程度のトータル減速比であり、そのため、常用運転で高い電動機効率を得ることができ、しかも、ドグクラッチ28はリターンスプリング45の弾性力により締結状態を得ることができ電磁コイル31の通電をしなくてすむ為、常用運転域での一層の高エネルギ効率を得ることができる。また、高車速運転時は電磁コイル31を通電することにより、ドグクラッチ28は非締結、多板摩擦クラッチ30は締結状態(変速機4は第2段の変速比(=1.0))となり、出力軸は入力軸と同一速度で回転し、高車速運転時の電動機の高効率の運転状態を確保することができる。即ち、このとき、図1で説明したように、トータルの減速比は1.0×3.41(減速機6の減速比)=3.41の減速比での運転となり、トータルの減速比が小さくなる分、高車速運転域において、電動機2を従来より低回転のより効率の良い回転域で運転させることが可能となり、結果的に車速を高めることができる。
【0031】
次に低車速運転(第1速)と高車速運転(第2速)との切替時のトルク抜け防止動作を説明すると、先ず、低車速運転から高車速運転への切替のため電磁コイル31の電磁力下アーマチュア26は、そのスプリング加圧部26-6がリターンスプリング45を押圧し、スプリング45の変形下右方に移動され、クラッチ爪26-1はクラッチ孔18-2から抜去され、ドグクラッチ28は非締結となるが、ドグクラッチ28は非締結の直後において、摩擦クラッチ30も非締結の前述した中間状態が一瞬存在する。この中間状態では、サンギヤ18(筒状延出部18-1)は駆動源(電動機回転軸)かち切り放されるため、駆動トルクが消失するため、ドグクラッチ28が非締結となった瞬間において、サンギヤ18(筒状延出部18-1)は、図4において電動機回転軸の矢印a方向と反対方向に戻ろうとする。このとき、矢印a方向と反対方向に戻ろうとするサンギヤ18に対し、ワンウエイクラッチ50のラチェット爪52が突っ張りとなり、サンギヤ18の筒状部18-1(ワンウエイクラッチのアウタレース)を電動機回転軸に常時連結される支持板32のボス部32-1(ワンウエイクラッチのインナレース)にロックし、電動機回転軸の矢印a方向の回転が支持板32のボス部32-1がよりサンギヤ18にそのボス部18-1、即ち、車輪側に伝達されるため、トルク抜けが生じない。摩擦クラッチ30の完全締結後の電動機出力軸の回転の増大により、サンギヤ18、即ち、筒状部18-3の矢印a´方向の回転数が電動機回転軸の矢印a方向の回転数(支持板32の回転数)を超えると、遠心力がばね力未満であってもラチェット爪52と係止溝60を乗り越えることができ、サンギヤ18は増速を継続することができる。そして、摩擦クラッチ30は完全締結されるに至り、サンギヤ18の回転数が更に大きくなれば、図4の想像線52a又は図7に示すように遠心力によりラチェット爪52はピン56の周りを半径外方に回動し、ラチェット爪52と係止溝60から外れる。ラチェット爪52が係止溝60から外れると(ワンウエイクラッチ50によるロックは外れると)、アウタレース(サンギヤ18の筒状延出部18-1)とインナレース(支持板32のボス部32-1)間に相対回転が生じ、係止溝60に対するラチェット爪52の回転位相はなりゆきとなる。
【0032】
以上とは真逆の動作が高車速運転(第2速)から低車速運転(第1速)への切り替えの過程で生ずる。第2速の運転において車速の低下により遠心力がスプリング58の設定力を下回ると、相対回転によりスプリング58の付勢下、ワンウエイクラッチ50のラチェット爪52は係止溝60に入り、ワンウエイクラッチ50は締結状態となる。車速が更に降下し、高車速運転(第2速)から低車速運転(第1速)への切替条件に達すると、摩擦クラッチ30は非締結となり、逆に、ドグクラッチ28は係合すべく、アーマチュア26がスプリング45により駆動される。このときも摩擦クラッチ30もドグクラッチ28も非締結の中間状態が生ずるが、ワンウエイクラッチ50において、ラチェット爪52が係止溝60と係合しているため、第1速から第2速への切替時と同様に、サンギヤ18(筒状延出部18-1)を入力軸側にロックし、トルク抜けを防止する。更に、ラチェット式ワンウエイクラッチ50が入った状態で高車速運転(第2速)から低車速運転(第1速)への切替が行われるため、図5に関し説明したように、切替時にドグクラッチ28のクラッチ突部26-1とクラッチ孔18-2とは回転位相が合っており、摩擦クラッチ30もドグクラッチ28も非締結の中間状態が終われば即座にクラッチ突部26-1とクラッチ孔18-2との係合が得られる。即ち、通常のドグクラッチでは、締結状態への切替時、クラッチ突部26-1’ (想像線)とクラッチ孔18-2 とは必ずしも位相が会っていないため、位相が会うのを待つ動作が必要となるので、減速となるが、本発明では締結を得るためクラッチの相手面同士(26-1, 18-2)が出合うまでの相対回転を必要としないため、高車速運転(第2速)から低車速運転(第1速)への切り替えの際の変速ショックの低減を可能とする。
【0033】
図8図10は低車速運転と高車速運転との切替時のトルク抜け対策を施したこの発明の第2の実施形態の2段変速機104を示し、この第2の実施形態の2段変速機104は遊星歯車機構112のリングギヤ120はハウジング10に対して回転可能であるが、ワンウエイクラッチ150によりハウジング10に対して選択的に固定可能であり、第1の実施形態と同様に、低車速運転はリングギヤ120を固定したギヤ比2.4の減速での運転、高車速運転はサンギヤ18とリングギヤ120を一体回転させることによるギヤ比1.0での等速運転を行う点は図2図7の第1の実施形態と同様である。
【0034】
この第2の実施形態(図8図10)の2速変速機104の構成を説明すると、アーマチュア126は半径方向の中間において筒状部126aを形成し、この筒状部126aが円周方向の内歯126-1を備え、ハウジング10に固定されるカバー10´に円周方向の外歯10’-2が形成され、この内歯126-1と外歯10’-2とでドグクラッチ128を構成する。アーマチュア126の外周部が摩擦クラッチ130の駆動部144を構成し、また、アーマチュア126の外周に外歯126-5が形成され、外歯126-5は内筒33の摺動溝33-1に軸方向に摺動自在に係合している。電磁コイル31の取り付けのため、電磁石保持枠82はカバー10´に固定される。サンギヤ18は内周のスプライン18-3が図示しない電動機回転軸にスプライン嵌合し、電動機回転駆動力がサンギヤ18に伝達される。サンギヤ18の後端筒状部18-4がこの実施形態における摩擦クラッチ130の内筒となり、ドライブプレート38が設けられる。キャリア16が内周のスプライン16-1aにより車輪側の出力軸にスプライン嵌合することは第1の実施形態と同様である。
【0035】
この第2の実施形態において、第1速と第2速間の速度切替の際のトルク抜け防止のためのラチェット式のワンウエイクラッチ150はリングギヤ120(図8の模式図においてワンウエイクラッチ150のインナレースとして機能する)とハウジング10(同模式図においてワンウエイクラッチ150のアウタレースとして機能する)との間に配置される。そして。図9に部分的に示すように、ワンウエイクラッチ150のラチェット爪152は第1の実施形態のワンウエイクラッチ150のラチェット爪152とは向きが反対であり、ラチェット爪152はスプリング(158)力下、駆動軸の回転方向(反時計方向)aと反対方向のインナレース (リングギヤ120)の回転の突っ張りとなる配置である。図4と同様にラチェット爪152を係止溝160に向けてピン156の周りを回動付勢するスプリング158が設けられる。この実施形態ではスプリング158はハウジング10に取付であることからスプリング158には遠心力がかからない構造となっている。
【0036】
第2の実施形態の動作を説明すると、低車速運転時には、電磁コイル31の非通電により、スプリング45によってアーマチュア126は図8においてカバー10´に向けて押圧され、アーマチュア126の内歯126-1とカバー10´の外歯10’-2とは噛合し、ドグクラッチ128は締結状態(摩擦クラッチ130は非締結状態)となり、アーマチュア126は固定化され、アーマチュア126の外周縁の外歯126-5が摩擦クラッチ130の外筒33に摺動溝33-1を介して係合していることにより、リングギヤ120はカバー10´、即ち、ハウジング10に固定化される。そのため、サンギヤ18に噛合する電動機回転軸の回転はキャリア16に取り出され、このときは、変速比は第1の実施形態と同様2.4といった減速となり、このとき、ワンウエイクラッチ150はインナレース側(120)もアウタレース側(10)も固定のままである。機能的にはワンウエイクラッチ150は設置が無いのと同じである。ワンウエイクラッチ150はハウジング10側への取り付けであるためスプリング158には遠心力がかからないため、スプリング158は係止溝160に係合させるためだけに機能すれば良いため、スプリング158はばね力はとして非常に小さいもので足りる。
【0037】
高車速運転時には、電磁コイル31の通電により、電磁力下スプリング45に抗してアーマチュア126は図10のように左行し、アーマチュア126の内歯126-1とカバー10´の外歯10’-2との噛合は解除され、ドグクラッチ128は非締結状態となる。他方、アーマチュア126の左行により、摩擦クラッチ駆動部144はクラッチパックをリングギヤ120側の対向面間で挟着し、摩擦クラッチ130は締結状態に至る。そのため、摩擦クラッチ130によりリングギヤ120とサンギヤ18とが一体化され、結果的にキャリア16もリングギヤ120およびサンギヤ18と一体回転し、入力側の回転は出力側に1対1で伝達される。図9においてリングギヤ120は係止溝160の部位でスプリング158に抗してラチェット爪152を乗り越えながら回転するが、スプリング158はばね力としてはごく弱いので、摩擦による回転抵抗は実質的に無視し得る程小さい。
【0038】
低車速運転(図8)から高車速運転(図10)の切替時に,ドグクラッチ128の非締結でかつ摩擦クラッチ130が完全締結に至らない状態が一瞬生じ得、このときリングギヤ120は一瞬フリーとなり、電動機の回転軸の回転方向a(図9)と反対方向(トルク抜け方向)に戻ろうとするが、ワンウエイクラッチ150のラチェット爪152はこのような動きに対してはロックするように働き、即ち、リングギヤ120のハウジング10に対するロックは継続し、電動機の回転軸の回転をサンギヤ18及びキャリア16を介して車輪側に伝達するように機能し、トルク抜けを防止する。摩擦クラッチ130が完全締結状態となれば、リングギヤ120は電動機回転軸の回転方向(矢印a)と同一方向に1.0の変速比で車輪側に伝わり、このときラチェット爪152の係止溝160を乗り越えることができる向きなのでリングギヤ120の回転が損なわれることがない。
【0039】
また、高車速運転(図10)から低車速運転(図8)への切替時には、摩擦クラッチ130の非締結でドグクラッチ128が未だ入らないことにより、一瞬拘束を外れたトルク抜けの状態となり得るが、このときも、ワンウエイクラッチ150は、ラチェット爪152が突っ張りとして機能し、リングギヤ120はロックされるため、ドグクラッチ128が締結状態となるまでの間入力側の電動機の回転を出力側の車輪に伝えることができる。また、ワンウエイクラッチ150とドグクラッチ128とは、第1の実施形態において図5で説明したと同様に、回転位相を合わせているため、ドグクラッチ128を係合させるための探るような動き無しにドグクラッチ128は即座に係合を得るため、変速ショックの効率的な低減が可能となる。即ち、図9に示すように、ワンウエイクラッチ150の係合時にドグクラッチ128の内歯126-1と外歯10’-2とは回転方向の位相が合っているため、高車速運転(図10)から低車速運転(図8)への切替時にも位相が合っており、位相合わせのための相対回転動作を伴うことなく即座に締結に至るため、第1の実施形態と同様の変速ショックの低減効果が得られる。
【0040】
本明細書では遊星歯車機構による変速比はリングギヤ固定による減速(第1速)と3回転要素の一体回転による相対的増速(第2速)を得る実施形態について説明しているが、当業者には周知のように、減速機(図1)として減速比の大きいものを使用することにより、遊星歯車機構の3回転要素の一体回転による相対的減速 (第1速)とサンギヤ固定による増速(第2速)という変形構成も容易に可能であり、この構成も本発明に包含されることは当業者には明らかである。
また、本発明の2段変速機は電気自動車だけでなくハイブリッド車にも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
2…走行用電動機
4, 104…2段変速機
6…減速機
10…ハウジング
12, 112…遊星歯車機構
14…ピニオン
16…キャリア
18…サンギヤ
18-2…クラッチ溝
20, 120…リングギヤ
26, 126…アーマチュア
26-1…クラッチ突部
28, 128…ドグクラッチ
30, 130…摩擦クラッチ
34…ドリブンプレート
38…ドライブプレート
40…クラッチフエーシング
43…受圧板
44, 144…摩擦クラッチ駆動部
46…電磁コイル
50, 150…ワンウエイクラッチ
52, 152…ラチェット爪
56, 156…ピン
60, 160…係止溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10