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特許7427674液体ディスペンサ用のバルブガスケット及び計量バルブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】液体ディスペンサ用のバルブガスケット及び計量バルブ
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/54 20060101AFI20240129BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20240129BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B65D83/54
F16J15/10 U
F16J15/10 Y
B05B9/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021537513
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 FR2019052062
(87)【国際公開番号】W WO2020053508
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】1858131
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502343252
【氏名又は名称】アプター フランス エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】APTAR FRANCE SAS
【住所又は居所原語表記】Lieu-dit Le Prieure,27110 Le Neubourg,France
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バジール ミケール
(72)【発明者】
【氏名】リオン パトリース
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-540017(JP,A)
【文献】特開2005-155907(JP,A)
【文献】特開2002-097448(JP,A)
【文献】特開昭56-070126(JP,A)
【文献】特表2009-522430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/54
F16J 15/10
B05B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体ディスペンサの計量バルブ用のバルブガスケットであって、
前記ガスケットは、自己潤滑性を有するエラストマー材料からなり、
前記エラストマー材料は、シリコン油のような潤滑剤を含み、
前記潤滑剤は、前記ガスケットのエラストマー材料に添加されるマイクロスフェアの形態でカプセル化される
ことを特徴とするバルブガスケット。
【請求項2】
前記エラストマー材料は、EPDMを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブガスケット。
【請求項3】
前記潤滑剤がシリコン油を含む
ことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のバルブガスケット。
【請求項4】
前記ガスケットの製造中に、シリコン油を含むマイクロスフェアが、前記エラストマー材料に添加される
ことを特徴とする先行する請求項のいずれかに記載のバルブガスケット。
【請求項5】
前記エラストマー材料に導入される前記マイクロスフェアの量が、前記エラストマー材料の5重量%未満、好ましくは、約3重量%未満である
ことを特徴とする請求項4に記載のバルブガスケット。
【請求項6】
液体ディスペンサの計量バルブであって、
前記計量バルブは、計量チャンバ(20)を定めるバルブ本体(10)を備え、
前記計量チャンバ(20)の中で、バルブ部材(30)が休止位置と作動位置との間を摺動し、
前記計量バルブは、ネックガスケット(6)及び少なくとも1つの内部ガスケット(21、22)を含み、
前記バルブ部材(30)は、少なくとも一つの前記内部ガスケット(21、22)に対して摺動し、
前記計量バルブは、先行する請求項の少なくとも一つに記載のガスケットを含む
ことを特徴とする計量バルブ。
【請求項7】
少なくとも1つの前記内部ガスケット(21、22)は、請求項1~6のいずれか1項に記載に従って製造される
ことを特徴とする請求項6に記載の計量バルブ。
【請求項8】
液体ディスペンサであって、
供給される液体を収容するリザーバ(1)を備え、
前記液体ディスペンサは、請求項6又は請求項7に記載の計量バルブを含む
ことを特徴とする液体ディスペンサ。
【請求項9】
高圧ガスとしてHFAガスを収容する
ことを特徴とする請求項8に記載の液体ディスペンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブガスケット、計量バルブ及び液体ディスペンサに関する。このようなバルブの好ましい応用分野は、薬品の分野であるが、このタイプのバルブは、他の分野、例えば、化粧品又は香水の分野でも使用され得る。
【背景技術】
【0002】
従来技術の計量バルブは、計量室を定めるバルブ本体を備え、その計量室の中で、休止位置と作動位置との間で摺動するように、バルブ部材が設けられている。バルブ本体及びバルブ部材は、通常、例えば、ポリアセタール(ポリオキシメチレン(POM)としても知られる)、又は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のような、ポリマー型のプラスチック材料を成形することによって製造される。ガスケット、特にネックガスケットとして知られる外部ガスケット及びバルブ部材ガスケットとして及びチャンバガスケットとして知られる2つの内部ガスケットは、一般に計量バルブ内に設けられる。ガスケットは、一般に、例えば、ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、又はシクロオレフィン共重合体エラストマー(COCエラストマー)のような、エラストマー材料で作られる。
【0003】
このようなガスケットの使用は、いくつかの問題を引き起こす。従って、保管中の癒着を避けるために、それらの製造段階において、エラストマー片(ストリップ)にタルク(滑石)を付着させる必要がある。また、バルブを組み立てるためには、ガスケットをパッキングするためにシリコンを使用する必要がある。さらに、使用時に、バルブ部材と内部ガスケットとの間で発生する摩擦は、「sticking(詰まり)」として知られる現象、即ち、バルブのjamming(詰まり)につながる可能性がある。これらの問題を克服し又は歯止めをかけることを試みるために、一般に、シリコン、エルカミド又はオレアミドをベースとする滑り剤としても知られる、潤滑剤が添加されたエラストマー材料を使用することが提案されている。そのような添加物は、材料の表面に移動し、それによって、その摩擦係数及びその結果としての摩擦挙動を低減する。しかし、このような潤滑剤の制御は、必ずしも容易ではない。エラストマーマトリックス中の潤滑剤が役割を果たす前に、材料が製造されている間に、添加剤が劣化することがある。また、エラストマーマトリックス中に存在する他の成分との相互作用も起こり得る。これは、特に、無機充填剤が存在する場合に発生し、これが潤滑剤を吸収し、それによって、潤滑剤が材料の表面に移動するのを妨げる可能性がある。
【0004】
特許文献1及び特許文献2には、従来技術の装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO00/56632号
【文献】米国特許第6843392号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、上記問題点を克服することである。
【0007】
このように、本発明の目的は、摩擦特性を改善したバルブガスケットを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、製造及び組み立てが簡単で安価なバルブガスケット、計量バルブ及び液体ディスペンサ装置を提供することである。
【0009】
したがって、本発明は、液体ディスペンサの計量バルブ用のバルブガスケットを提供し、前記ガスケットは、自己潤滑性であるエラストマー材料からなり、前記エラストマー材料は、シリコン油のような潤滑剤を含み、前記潤滑剤は、ガスケットのエラストマー材料に添加されるマイクロカプセル及び/又はマイクロスフェアの形態で封入される。
【0010】
好ましくは、エラストマー材料は、EPDMを含む。
【0011】
好ましくは、潤滑剤はシリコン油を含む。
【0012】
好ましくは、シリコン油を含むマイクロカプセル及び/又はマイクロスフェアが、ガスケットの製造中にエラストマー材料に添加される。
【0013】
好ましくは、エラストマー材料に導入される前記マイクロカプセル及び/又はマイクロスフェアの量は、エラストマー材料の5重量%未満、有利には約3重量%未満である。
【0014】
また、本発明は、液体ディスペンサの計量バルブを提供し、この計量バルブは、バルブ部材が休止位置と作動位置との間を摺動する計量チャンバを定めるバルブ本体を備え、前記計量バルブは、ネックガスケット及び少なくとも1つの内部ガスケットを含み、前記バルブ部材は、前記少なくとも1つの内部ガスケットに対して摺動し、前記計量バルブは、上述した少なくとも1つのガスケットを含む。
【0015】
好ましくは、前記少なくとも1つの内部ガスケットは、上述のように作製される。
【0016】
また、本発明は、供給される液体を含むリザーバを備える液体ディスペンサを提供し、該液体ディスペンサは、上述のような計量バルブを含む。
【0017】
好ましくは、ディスペンサは、高圧ガスとしてハイドロフルオロアルカン(HFA)ガスを含む。
【0018】
これら及び他の特性及び利点は、非限定的な例として、また、添付図面を参照して、以下の詳細な説明から、より明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】好ましい実施の形態における計量バルブの断面図である。
図2】シリコンを含まないEPDMガスケット、シリコンを含むEPDMガスケット、マイクロカプセルを含む本発明のEPDMガスケット及びマイクロスフェアを含む本発明のEPDMガスケットについて、EPDMガスケットの100%変形におけるモジュラスを比較する棒グラフである。
図3】シリコンを含まないEPDMガスケット、シリコンを含むEPDMガスケット、マイクロカプセルを含む本発明のEPDMガスケット及びマイクロスフェアを含む本発明のEPDMガスケットのショアAスケールでの硬度を比較する棒グラフである。
図4】シリコンを含まないEPDMガスケット、シリコンを含むEPDMガスケット、マイクロカプセルを含む本発明のEPDMガスケット及びマイクロスフェアを含む本発明のEPDMガスケットについて、EPDMガスケットのPOM及びPBTに対する摩擦係数を比較する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の記載において、用語「上部」、「下部」、「上端部」及び「底部」は、図1に示される直立した位置に対して、相対的であり、用語「ラジアル」は、図1に示すバルブの長手方向軸に対して、相対的である。
【0021】
図1に示す計量バルブは、貯留タイプである。しかし、これは、単なる例であり、本発明は、任意のタイプの計量バルブに適用されることを理解すべきである。より一般的には、本発明は、液体を供給するために、高圧ガスを使用しないポンプ用のガスケットにも適用することができる。
【0022】
図1のバルブは、長手方向軸に沿って延在するバルブ本体10を含む。バルブ本体10の内部では、静止位置、すなわち、図1に示す位置と、バルブ部材30がバルブ本体10内に押し込まれたディスペンス位置との間を、バルブ部材30が摺動する。
【0023】
バルブは、好ましくは、圧接可能、ネジ締め可能又はスナップ締め可能なカプセルであってもよい留め具5によって、リザーバ1上に組み立てるためのものであり、好ましくは、ネックガスケット6が、留め具とリザーバとの間に介在する。リング4は、特に、デバイスが逆さまの位置でデッドボリュームを減少させるように、また、液体とネックガスケットとの間の接触を制限するように、オプションとして、バルブ本体の周囲に取り付けることができる。リングは、任意の形状であってよく、図1の例には、限定されない。
【0024】
バルブ部材30は、バルブ本体10内に配置され、第一に、バルブ本体10と、第二に、バルブ部材30と、好ましくは、バルブ部材30の半径方向カラー320と協働するバネ8によって、その静止位置に向かって付勢される。計量室20は、バルブ本体10の内側に定められ、バルブ部材30は、バルブが作動したとき、その内容物が供給されることが可能となるように、計量室の内側を摺動する。
【0025】
従来の方法では、計量室は、好ましくは、2つの環状ガスケット、すなわちバルブ部材ガスケット21とチャンバガスケット22との間に定められる。
【0026】
図1は、直立した貯留位置、すなわち、計量室20がリザーバ1の上方に配置される位置にあるバルブを示す。
【0027】
バルブ部材30は、バルブ部材30がその供給位置にあるときに、計量室20内に入り込む入口穴302に接続される出口穴301を含む。バルブ部材30は、上部31(バルブ部材頂部としても知られる)と下部32(バルブ部材底部としても知られる)の2つの部分から構成される。本実施の形態では、下部32は、上部31の内側に組み付けられている。バルブ部材30がバネ8の影響を受けて静止位置に戻るときに、バルブの各作動の後に、計量室20を充填するように、計量室20がリザーバ1に接続することを可能にする内部チャネル33がバルブ部材30内に設けられている。バルブがリザーバの下方に配置された状態で、デバイスがまだ逆さまの作動位置にあるときに、充填が行われる。
【0028】
典型的には、計量バルブは、周知の高圧ガス、特に、HFAタイプのガスを含む。
【0029】
本発明では、バルブの少なくとも1つのガスケット、特に、少なくとも1つの内部ガスケット21、22は、自己潤滑性を有するエラストマー材料で作られ、シリコン油のような潤滑剤が、ガスケットのエラストマー材料に添加されるマイクロカプセル及び/又はマイクロスフェアの形態で封入されている。このようなマイクロカプセル化は、製造プロセスの明確に規定された工程において及び/又は製品の使用中に、潤滑作用を制御及び/又はトリガーすることを可能にする。
【0030】
マイクロカプセル化は、外部環境を保護するため又は選択された環境へのそれらの放出を制御するために、ポリマー膜内に閉じ込められた液体又は固体を保持することを可能にする。使用する調製技術及び最終的なニーズに応じて、次の2種類の製品を入手することが可能である。
【0031】
・マイクロカプセル。これは、液体活性物質(多かれ少なかれ粘性を有する)を閉じ込め、保持する貯蔵庫に似ているかもしれない。
【0032】
・マイクロスフェア。これは、活性物質(スポンジのようである)が充填された小さいポーチに似た高分子マトリックスである。
【0033】
有効成分は、いくつかの方法で放出されてもよい。マイクロカプセルの放出は、熱や圧力などのストレスの影響を受けて、急激に起こる場合がある。マイクロスフェアは、カプセル化された物質を徐々に放出することを可能にする。オプションとして、マイクロカプセル及びマイクロスフェアを同時に加えることにより、両方の効果を組み合わせる形態で実施することができる。
【0034】
マイクロカプセル及び/又はマイクロスフェアのサイズは、5マイクロメートル(μm)から100μmの範囲で変化してもよい。
【0035】
以下に説明する例では、シリコン油のマイクロカプセル又はマイクロスフェアを、バルブガスケットを形成するEPDM材料に、3重量%の含有量で添加した。添加は、通常、EPDM材料に添加される他の成分(無機充填剤、酸化防止剤、加硫剤等)と同様の方法で行った。
【0036】
好ましくは、5重量%未満の量により実施してもよい。
【0037】
得られた材料の特性を、次の2つの実験対照と比較した。
【0038】
・標準EPDM
・標準EPDM + 3%の添加シリコンオイル
図2に、100%変形時のモジュラス、図3に、ショアAスケールの硬度を示す。
【0039】
この例のEPDMのように、マイクロカプセル及びマイクロスフェアを添加しても、エラストマーの機械的特性にマイナスの影響を及ぼさないことが観察される。
【0040】
図4に、第一にPOMに対する場合、及び、第二にPBTに対する場合につき、同じ材料の摩擦係数を示す。
【0041】
この試験は、摩擦係数を決定するために、プラスチック材料(POM及びPBT)に対してEPDMを摩擦することで、構成されている。
【0042】
摩擦係数とは、加えられた力(垂直抗力:normal force)に対する牽引力(装置を動かすことを可能にする応答力)の比である。
【0043】
摩擦係数には、動摩擦係数と静止摩擦係数の2種類がある。
【0044】
・静止摩擦係数は、試験開始時に測定された係数である。これは、基材上でサンプルを移動させ、移動を開始させるために必要な力である。「粘着係数」という用語も使用される。
【0045】
・動的係数は、移動が一定の速度に維持されるために必要な係数である。
【0046】
今回の比較のために、システムを安定させ、かつ、一定速度で、動摩擦係数の値を用いた。
【0047】
単にシリコンを配合物中に添加するだけでは、摩擦に対する改良は生じなかった。これにより、このような環境下では、エラストマーマトリックスによりシリコンが吸収されるという仮説が確認された。
【0048】
しかしながら、マイクロカプセル又はマイクロスフェアを含有する本発明の全ての構成において、摩擦係数の減少が観察された。
【0049】
得られた結果は、マイクロカプセル又はマイクロスフェアを添加することにより、摩擦係数を著しく減少させることが可能になることを示している。
【0050】
この比較試験は、EPDM製のガスケットで行ったが、バルブガスケットの製造に使用される他のエラストマー材料でも、同様の結果が得られるであろう。
【0051】
潤滑剤を封入(カプセル化)することにより、材料を製造する過程で、吸収されたり劣化したりすることを回避するように、前記潤滑剤を閉じ込めることが可能となる。さらに、潤滑剤を封入することにより、摩擦又は圧力によって、機械的応力下で、マイクロカプセルが破壊される場合に、材料の表面で潤滑剤を利用可能にする。
【0052】
このように、本発明は、バルブにおける摩擦の問題を減少させることを可能にし、したがって、詰まりのリスクを排除するか、又は、少なくとも詰まりに歯止めをかけることを可能にする。さらに、保管中の癒着を避けるために、エラストマー片にタルクを付着させることは、もはや必要ではなく、それによって、ガスケット、ひいてはバルブの製造コストを低減することが可能となる。また、ガスケットをパッキングするためのシリコンの使用を削減又は撤廃した結果、バルブの組立ても、簡素化される。
【0053】
本発明は、好ましい実施の形態を参照して上述したが、添付の特許請求の範囲で定義されるように、本発明の範囲を超えることなく、当業者であれば当然のことながら、これに任意の修正を適用することができる。
図1
図2
図3
図4