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特許7427690処理プラント及び処理プラントの設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】処理プラント及び処理プラントの設計方法
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/06 20060101AFI20240129BHJP
   A62C 2/00 20060101ALI20240129BHJP
   A62C 37/36 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A62C3/06 Z
A62C2/00 A
A62C37/36
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021566772
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051632
(87)【国際公開番号】W WO2021131077
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮下 友徳
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-206395(JP,A)
【文献】特開2019-088423(JP,A)
【文献】特表2003-530922(JP,A)
【文献】特開2003-290377(JP,A)
【文献】特開2008-005998(JP,A)
【文献】特開2015-037457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされ、互いに隣り合う前記消火水供給区画間には、前記可燃性の流体に応じて設定される安全離隔距離が確保されず、かつ、1つの前記消火水供給区画を挟んで対向する2つの前記消火水供給区画間には、前記安全離隔距離が確保された機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について個別に消火水供給設備が設けられ、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定してそれぞれの区画に設けられた前記消火水供給設備から同時に消火水を供給することが可能に構成されていることと、を特徴とする処理プラント。
【請求項2】
前記消火水供給設備は、互いに隣り合う前記消火水供給区画に挟まれた領域以外の位置から前記消火水を供給するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の処理プラント。
【請求項3】
前記安全離隔距離は、3メートル以上、50メートル以下の範囲内の距離に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の処理プラント。
【請求項4】
前記機器配置領域に、前記複数の機器間で授受される流体が流れる複数の配管を保持した架構であるパイプラックが配置されている場合に、前記パイプラックを挟んで対向するように配置された2つの消火水供給区画の間には、前記安全離隔距離が確保されているとみなすことを特徴とする請求項2に記載の処理プラント。
【請求項5】
前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに供給される消火水供給量を算出した結果の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力が定められていることを特徴とする請求項1に記載の処理プラント。
【請求項6】
前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力が定められていることを特徴とする請求項5に記載の処理プラント。
【請求項7】
前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力は前記想定排水量に基づき定められていることを特徴とする請求項6に記載の処理プラント。
【請求項8】
前記消火水供給設備は、消火栓、放水銃、散水設備及び泡消火設備からなる消火水供給設備群から選択したものであることを特徴とする請求項1に記載の処理プラント。
【請求項9】
前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う散水設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備を設ける場合には、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の処理プラント。
【請求項10】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給することが可能な複数の消火水供給設備が設けられていることと、
前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに限定して供給される消火水供給量を算出した結果の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力が定められ、前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力が定められ、前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力は前記想定排水量に基づき定められていることと、を特徴とする処理プラント。
【請求項11】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給することが可能な複数の消火水供給設備が設けられていることと、
前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う散水設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備を設ける場合には、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように設けられていることと、を特徴とする処理プラント。
【請求項12】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントの設計方法において、
前記処理プラントの敷地内の機器配置領域に対し、前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器の配置位置を決定する工程と、
前記機器配置領域を、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けするにあたり、互いに隣り合う前記消火水供給区画間には、前記可燃性の流体に応じて設定される安全離隔距離が確保されず、かつ、1つの前記消火水供給区画を挟んで対向する2つの前記消火水供給区画間には、前記安全離隔距離が確保されるように前記区分けを行う工程と、
前記消火水供給区画の各々について個別に消火水供給設備を設け、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定してそれぞれの区画に設けられた前記消火水供給設備から同時に消火水を供給することが可能な能力となるように前記消火水供給設備の設置を決定する工程と、を含むことを特徴とする処理プラントの設計方法。
【請求項13】
消火水供給設備の設置を決定する工程では、互いに隣り合う前記消火水供給区画に挟まれた領域以外の位置から前記消火水を供給するように、前記複数の消火水供給設備の設置を決定することを特徴とする請求項12に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項14】
前記安全離隔距離を、3メートル以上、50メートル以下の範囲内の距離に設定することを特徴とする請求項13に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項15】
前記機器の配置位置を決定する工程は、前記機器配置領域に、前記複数の機器間で授受される流体が流れる複数の配管を保持した架構であるパイプラックの配置位置の決定を含むことと、
前記パイプラックを挟んで対向するように配置された2つの消火水供給区画の間には、前記安全離隔距離が確保されているとみなすことと、を特徴とする請求項13に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項16】
前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに供給される消火水供給量を算出し、前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力を決定する工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項17】
前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力を決定する工程を含むことを特徴とする請求項16に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項18】
前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力を決定する工程にて、前記想定排水量に基づき前記処理プラントの排水能力を決定することを特徴とする請求項17に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項19】
前記消火水供給設備は、消火栓、放水銃、散水設備及び泡消火設備からなる消火水供給設備群から選択することを特徴とする請求項12に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項20】
前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う消火設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備の設置を決定する工程を含み、前記付帯設備は、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように前記付帯設備の設置を決定することを特徴とする請求項12に記載の処理プラントの設計方法。
【請求項21】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントの設計方法において、
前記処理プラントの敷地内の機器配置領域に対し、前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器の配置位置を決定する工程と、
前記機器配置領域を、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けする工程と、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給する能力を有する複数の消火水供給設備の設置を決定する工程と、
前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに限定して供給される消火水供給量を算出し、前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力を決定する工程と、
前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力を決定する工程
を含み、
前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力を決定する工程にて、前記想定排水量に基づき前記処理プラントの排水能力を決定することを特徴とする処理プラントの設計方法。
【請求項22】
可燃性の流体を取り扱う処理プラントの設計方法において、
前記処理プラントの敷地内の機器配置領域に対し、前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器の配置位置を決定する工程と、
前記機器配置領域を、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けする工程と、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給する能力を有する複数の消火水供給設備の設置を決定する工程と、を含み、
前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う消火設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備の設置を決定する工程を含み、前記付帯設備は、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように前記付帯設備の設置を決定することを特徴とする処理プラントの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理プラントに消火水を供給する設備を配置する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の処理を行う処理プラントには、天然ガスの液化や天然ガス液の分離、回収などを行う天然ガスプラント、原油や各種中間製品の蒸留や脱硫などを行う石油精製プラント、石油化学製品や中間化学品、ポリマーなどの生産を行う化学プラントなどがある。
これらの処理プラントは、屋外に設定された所定の敷地内に、例えば塔槽や熱交換器などの静機器、ポンプやコンプレッサーなどの動機器、これら静機器や動機器の間に設けられる配管などの多数の機器を配置した構成となっている。
【0003】
処理プラントの敷地内に配置される多数の機器の中には、可燃性の流体を取り扱うものも多く、このような機器の周囲には、消火栓や放水銃、散水設備などの消火水供給設備が配置される。
また、ある機器にて火災が発生した場合に、処理プラント全体へ火災が広がることを防止する観点から、処理プラントを構成する機器が配置された領域(機器配置領域)を複数の区画に分け、隣り合う区画間に、数メートルから数十メートル程度の安全離隔を設ける場合がある。
【0004】
機器配置領域が安全離隔により区画されている場合であっても、各区画内における火災の延焼を防止する必要がある。このため、火災が発生した機器を含む機器配置領域(発災区画)内に配置された各機器に対しては、消火水が供給され、機器表面の温度上昇の防止が図られる。
【0005】
このとき、処理プラントの敷地内に設けられる安全離隔の数が少ないと、安全離隔で区切られた機器配置領域の面積が広くなり、火災の発生の際に発災区画に供給する消火水の使用量が多量となる。この結果、処理プラントに設けられる消火水の貯水槽の容量や、貯水槽から消火水の送液を行うポンプの送水能力が大きくなり、処理プラントの建設コストを増大させる要因となる。
【0006】
一方で、安全離隔内には可燃性の流体を取り扱う機器を設けることはできないため、限られた敷地内に処理プラントを構成する機器を収める観点からは、多数の安全離隔を設けて各区画の面積を小さくし、消火水の使用量の低減を図ることが現実的ではない場合もある。
【0007】
ここで特許文献1には、フォグカーテンを用いて、工場の建物などの閉囲空間内を複数の防災区画仕切る技術が記載されている。また、特許文献2には、原子力発電所に設けられる安全系設備用の安全ケーブルを複数の火災区域に分けて配置する技術が記載されている。
しかしながら、これらの特許文献には、限られた敷地内に可燃性の流体を取り扱う多数の機器を配置しつつ、火災発生時の消火水の使用量の増大を抑制する技術の記載は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-107941号公報
【文献】特開2017-133922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、延焼防止用の安全離隔の設置に伴う処理プラントの大型化を抑制しつつ、消火水の設計使用量の増大を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本処理プラントは、可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされ、互いに隣り合う前記消火水供給区画間には、前記可燃性の流体に応じて設定される安全離隔距離が確保されず、かつ、1つの前記消火水供給区画を挟んで対向する2つの前記消火水供給区画間には、前記安全離隔距離が確保された機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について個別に消火水供給設備が設けられ、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定してそれぞれの区画に設けられた前記消火水供給設備から同時に消火水を供給することが可能に構成されていることと、を特徴とする。
【0011】
前記処理プラントは以下の特徴を備えてもよい。
(a)前記消火水供給設備は、互いに隣り合う前記消火水供給区画に挟まれた領域以外の位置から前記消火水を供給するように構成されていること。
(b)前記安全離隔距離は、3メートル以上、50メートル以下の範囲内の距離に設定されていること。また、前記機器配置領域に、前記複数の機器間で授受される流体が流れる複数の配管を保持した架構であるパイプラックが配置されている場合に、前記パイプラックを挟んで対向するように配置された2つの消火水供給区画の間には、前記安全離隔距離が確保されているとみなすこと。
(c)前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに供給される消火水供給量を算出した結果の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力が定められていること。前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力が定められていること。前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力は前記想定排水量に基づき定められていること。
(d)前記消火水供給設備は、消火栓、放水銃、散水設備及び泡消火設備からなる消火水供給設備群から選択したものであること。
(e)前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う散水設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備を設ける場合には、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように設けられていること。
また、他の処理プラントは、可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給することが可能な複数の消火水供給設備が設けられていることと、
前記消火水供給区画の各々について、前記発災区画とその隣接区画とに限定して供給される消火水供給量を算出した結果の最大値に基づいて、前記複数の消火水供給設備への消火水の供給能力が定められ、前記消火水供給量の最大値に基づいて、前記処理プラントの排水能力が定められ、前記消火水供給量の最大値よりも、前記処理プラントの敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、前記処理プラントの排水能力は前記想定排水量に基づき定められていることと、を特徴とする。
さらに他の処理プラントは、可燃性の流体を取り扱う処理プラントにおいて、
前記可燃性の流体を取り扱う複数の機器が配置され、前記機器を各々含む4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域を含むことと、
前記消火水供給区画の各々について、ある消火水供給区画に配置されている前記機器にて火災が発生した場合に、当該火災が発生した消火水供給区画である発災区画と、前記発災区画に隣接する消火水供給区画である隣接区画とに限定して同時に消火水を供給することが可能な複数の消火水供給設備が設けられていることと、
前記4つ以上の消火水供給区画に区分けされた機器配置領域に、消火水の供給を行う散水設備に設けられた複数の消火水供給ヘッド、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備からなる付帯設備群から選択された付帯設備を設ける場合には、1つの前記消火水供給区画を設置単位として、複数の消火水供給区画にまたがらないように設けられていることと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本処理プラントは、機器配置領域を少なくとも4つの消火水供給区画に区分けし、火災が発生した発災区画と、その隣接区画とに限定して消火水の供給を行う構成となっている。この結果、安全離隔を介した区分けを行わなくても、発災区画とその隣接区画に消火水の供給対象となる区画を限定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】処理プラントを構成する機器の配置を示す平面図である。
図2】前記機器の配置領域に設定される消火水供給区画の区分け例である。
図3】前記消火水供給区画に対する消火水供給設備及び付帯設備の配置例である。
図4】前記処理プラントの設計手順を示す説明図である。
図5A】前記処理プラントで火災が発生した場合の消火水の供給に係る第1の説明図である。
図5B】前記処理プラントでの消火水の供給に係る第2の説明図である。
図6】実施形態及び比較形態に係る処理プラントの比較図である。
図7A】他の例に係る処理プラントで火災が発生した場合の消火水の供給に係る第1の説明図である。
図7B】前記他の例の処理プラントでの消火水の供給に係る第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施の形態に係る処理プラント1を構成する機器の配置を模式的に示した平面図である。処理プラント1は、可燃性の流体を取り扱い、消火水供給設備が配置されるものであれば、その種類に特段の限定はなく、天然ガスプラント、石油精製プラント、化学プラント、その他、可燃性の流体を処理し、または可燃性の流体を用いて処理を行うプラントであってよい。
【0015】
本例の処理プラント1は、可燃性の流体を取り扱う機器として、処理塔12や受槽13、熱交換器16などの静機器、ポンプ14やコンプレッサー15などの動機器がパイプラック11の周囲に多数配置されている。パイプラック11はこれらの処理プラント1に設けられている複数の機器間で授受される流体が流れる複数の配管を保持した架構である。
【0016】
図1に記載されている範囲を処理プラント1の敷地とすると、本例のパイプラック11は平面視したとき、当該敷地を横切る細長い矩形形状に構成されている。可燃性の流体を取り扱う多数の機器は、前記矩形形状のパイプラック11の長辺方向に沿って、前記敷地内に分散して配置されている。以下の説明では、処理プラント1の敷地内にて各機器が配置されている領域を機器配置領域ともいう。
【0017】
敷地内におけるこれらの機器を配置する構成について特段の限定はない。例えば前記敷地内に設けられたコンクリートの基礎に対して各機器が直接設けられていてもよいし、架台の上や架構内にこれらの機器が配置されていてもよい。雨水に濡れることを避ける必要がある機器の上方に屋根を配置してもよい。
【0018】
また処理プラント1に設けられる機器にて取り扱われる流体は、可燃性の流体を取り扱うものに限定されない。例えば冷却水や窒素ガスなどのように、非可燃性の流体を取り扱う機器が設けられていてもよい。図1等に示す符号「10b」は、非可燃性の流体を取り扱う機器が配置された「非可燃性流体取り扱い領域」を示す。図示の便宜上、非可燃性流体取り扱い領域10bにおける個別の機器の記載は省略してある。
さらにまた処理プラント1の敷地内に配置された多数の機器は、各機器にて取り扱う流体を授受するための配管を介して互いに接続されている。図示の便宜上、処理プラント1の平面図においては、これら配管についての記載も省略してある。
【0019】
図1に示すように処理プラント1を平面視したとき、機器配置領域内に配置されている各機器は、隣り合う機器同士の離間距離が、後述する安全離隔距離(xメートル)よりも短くなるように配置されている。例えば安全離隔距離が3~50メートルの範囲内の15メートルに設定されている場合に、本例の処理プラント1の機器配置領域内において、隣り合う機器同士の離間距離は、例えば10メートル以下となる値に設定されている。従って、本処理プラント1の機器配置領域には、背景技術にて説明した「安全離隔」は設けられていない。
【0020】
以上に説明したように、安全離隔が設けられていない機器配置領域内に、多数の機器が配置された本例の処理プラント1において、当該機器配置領域は4つ以上の消火水供給区画10aに区画されている。これら消火水供給区画10aには、各々、可燃性の流体を取り扱う機器が含まれている。消火水供給区画10aは、機器配置領域内に配置された機器にて火災が発生した場合に、消火水供給設備を用いた消火水供給の対象となる単位区画である。
【0021】
図2は、図1に示した処理プラント1の機器配置領域に対し、消火水供給区画10aの輪郭線を併記した平面図である。
同図に示すように、本例の処理プラント1において、パイプラック11の一方側の長辺(図に向かって上側の長辺)に沿って設けられた機器配置領域は、「A~G」の符号を付した7つの消火水供給区画10aに区画されている。またパイプラック11の他方側の長辺(図に向かって下側の長辺)に沿って設けられた機器配置領域は、「H~L」の符号を付した5つの消火水供給区画10aに区画されている。消火水供給区画10aの区画の設定にあたって、可燃性の流体を取り扱う機器は、各々、いずれかの消火水供給区画10a内に配置され、1つの機器が複数の消火水供給区画10aにまたがって配置される区分けは行わない。
【0022】
各消火水供給区画10aは、火災が発生した消火水供給区画10a(発災区画)から見て、隣接する消火水供給区画10a(隣接区画)を1つ挟んだ、2つ目の消火水供給区画10aまでの距離が、予め設定した安全離隔距離xメートル以上となるように区画されている。
【0023】
本例において、各消火水供給区画10aは矩形状に区画され、パイプラック11の長辺方向に沿った辺の長さが安全離隔距離以上となっている。但し、消火水供給区画10aを矩形状に区画することは必須の要件ではない。例えばある機器が複数の消火水供給区画10aにまたがって配置されることを避けるため、隣り合って配置された2つの消火水供給区画10aの互いに平行に伸びる輪郭線の一方に、前記機器を一方側の消火水供給区画10aに含めるための凸部を設け、他方の輪郭線に、前記凸部に対応する凹部を設けてもよい。
【0024】
安全離隔距離は、従来、機器配置領域を複数の区画に分ける際に設けられていた安全離隔と同様の考え方に基づき設定される。従来の安全離隔が可燃性の流体を取り扱う機器を設けることができない領域である。これに対して、本例の処理プラント1は、可燃性の流体を取り扱う機器が設けられる機器配置領域を複数の消火水供給区画10aに区画するにあたって安全離隔の考え方を採用する。
【0025】
例えば安全離隔距離は、処理プラント1にて取り扱う可燃性の流体に起因して発生する火災のタイプや機器内に保持されている可燃性の流体の量などに基づいて設定される。このように、安全離隔距離は処理プラント1にて処理される流体やその処理量に応じて変化するため一概に特定することは困難であるが、3メートル以上、50メートル以下の範囲内の距離に設定する場合を例示できる。本例の処理プラント1では安全離隔距離をx=15メートルと設定し、矩形状に区画された消火水供給区画10aの短辺の長さが当該安全離隔距離以上となるように、機器配置領域の区画分けが行われている。
【0026】
また図2に示すように、符号C~Gの消火水供給区画10aの列(一方側の機器配置領域)と、符号H~Lの消火水供給区画10aの列(他方側の機器配置領域)との間には、パイプラック11が設けられている。このように、パイプラック11を挟んで対向するように配置された2つの消火水供給区画10aの間には、安全離隔距離が確保されている(安全離隔距離を開けて離れた位置に配置されている)とみなしてもよい。
【0027】
一般に、パイプラック11の短辺方向の幅は、3~15メートル程度であり、安全離隔距離よりも狭い場合もあり得る。しかしながら、パイプラック11を挟んで対向する機器同士の距離に着目すればより大きな離隔距離が確保されていることから、安全離隔距離が確保されているとみなしてもよい。
【0028】
一方で、パイプラック11の一部、または全体において、当該パイプラック11を挟んで対向するように配置された2つのパイプラック11の間には、安全離隔距離が確保されているとはみなすことはできないとの判断を行ってもよい。例えば処理プラント1に対して設定された安全離隔距離と比較してパイプラック11の短辺方向の幅が短すぎる場合や、パイプラック11に保持された大口径の配管内に多量の可燃性の流体が保持されている場合などに上記の判断を行う例を示すことができる。
【0029】
以上に説明した方針に基づき区分けされた複数の消火水供給区画10aに対応付けて、処理プラント1の敷地内には複数の消火水供給設備が設置される。
図3は、図2を用いて説明した消火水供給区画10aの区分けされた本例の処理プラント1について、消火水供給設備及び後述の付帯設備の配置位置を示した平面図である。なお、図3以降に示す処理プラント1(または後述の処理プラント1a、1b)の平面図においては、機器の記載は省略してある。
【0030】
消火水供給設備は、火災発生時に発災した機器やその周囲の機器に向けて、消火水または消火水が混合された消火液(以下、これらをまとめて単に「消火水」とも呼ぶ)を供給する設備である。
本例の処理プラント1には、消火栓22、放水銃21、散水設備23及び泡消火設備からなる消火水供給設備群から少なくとも1種類選択された消火水供給設備が配置される。
【0031】
消火栓22は、放水車や消火ホースと接続され、これらの機器に向けて消火水を供給する設備である。本例において、消火栓22は、各消火水供給区画10aに対して少なくとも1つ設けられており、各消火水供給区画10aの外側から、消火水を供給可能な位置に配置されている。
放水銃21は放水ノズルを備え、放水対象の機器やエリアへ向けて消火水を供給する設備である。本例において、放水銃21は、予め選択された消火水供給区画10a内の特定の機器やエリアへ向けて、消火水供給区画10aの外側から消火水を供給可能な位置に配置されている。
【0032】
散水設備23は、消火水供給区画10a内に配置された機器の上方側から消火水を供給する設備である。例えば散水設備23は、消火水をスプレー供給する放水供給ヘッド231と、放水供給ヘッド231へ向けて消火水供給を行う一斉開放弁(deluge valve)233と、放水供給ヘッド231と消火水ライン232との間をつなぐ消火水ライン232とを備えている。散水設備23は、不図示の火災検知器による火災の検知に連動して自動で一斉開放弁233の動作を実行する自動式であってもよいし、手動により一斉開放弁233を動作させる手動式であってもよい。また、自動式、手動式の両方の機能を備えていてもよい。本例の処理プラント1における散水設備23の配置については後述する。
【0033】
泡消火設備は、消火水と原液とを混合し、消火水供給区画10a内に配置された機器の上方側から泡状の消火液を供給する設備である(図3中には不図示)。例えば泡消火設備は、泡状の消火液を吐出する泡ヘッドと、泡ヘッドへ向けて消火液供給を行う一斉開放弁と、泡ヘッドと一斉開放弁との間をつなぐ消火液ラインと、一斉開放弁に接続され、消火液の原液を貯蔵すると共に、消火水との混合が行われる原液タンクと、原液タンクへ向けて消火水を供給する消火水供給部とを備える。泡消火設備は、不図示の火災検知器による火災の検知に連動して自動で一斉開放弁の動作を実行する自動式であってもよいし、手動により泡消火設備を動作させる手動式であってもよい。また、自動式、手動式の両方の機能を備えていてもよい。本例の処理プラント1における泡消火設備の配置については後述する。
以上、既述の消火水供給設備群に含まれる消火水供給設備の構成及び配置の例について説明したが、処理プラント1には他の種類の消火水供給設備を設けてもよい。
【0034】
さらに処理プラント1には、消火水供給区画10aへの消火水の供給に伴って使用される複数の付帯設備が設置されてもよい。本例の処理プラント1において、付帯設備は、既述の消火水供給設備の一部を構成する機器、または機器に供給された後の消火水の流れの調節や排出に係る設備を指している。
【0035】
本例の処理プラント1には、消火水の供給を行う散水設備23に設けられた複数の消火水供給ヘッド231、泡状の消火液の供給を行う泡消火設備に設けられた複数の泡ヘッド、地面に流出した液体の外部流出を抑えるためのカーブ(curb)31、地面を流れる液体を排出するための排水ます(catch basin)32及び地面に流れる液体を地面の傾斜により排水溝に導く表面排水設備33からなる付帯設備群から少なくとも1種類選択された付帯設備が配置される。
【0036】
上述の付帯設備を設ける場合には、1つの消火水供給区画10aを設置単位として、複数の消火水供給区画10aにまたがらないように設けられる。
例えば図3には、符号Bを付した1つの消火水供給区画10a内に配置されたコンプレッサー15(図3中には不図示)に対して、付帯設備である2つの放水供給ヘッド231が配置された状態を模式的に示している。これら放水供給ヘッド231は、例えばコンプレッサー15を上方側から覆うように設けられた不図示の屋根の天井面側に配置される。
【0037】
図3に示した例と相違し、1つの散水設備23に設けられた複数の放水供給ヘッド231が、隣り合って配置された複数の消火水供給区画10aに分かれて配置されている場合を考える。一斉開放弁233が開くと、これらの放水供給ヘッド231の双方に向けて消火水が供給されることになる。そうすると、これらの放水供給ヘッド231が設けられている一方側の消火水供給区画10aが消火水の供給対象となった場合には、他方側の消火水供給区画10aに対しても不可避的に消火水が供給されることとなってしまう。
【0038】
しかしながら、後述するように、本例の処理プラント1は、消火水の供給対象となる消火水供給区画10aを所定の範囲に限定することにより、消火水の使用量を低減する。このとき、上述のように複数の消火水供給区画10aに対して常に同時に消火水が供給される構成を採用すると、消火水供給区画10a毎に消火水の供給/非供給を切り分ける運用が困難となってしまう。そこで、ある散水設備23に対して複数の放水供給ヘッド231が設けられている場合には、これらの放水供給ヘッド231は1つの消火水供給区画10aを設置単位として、複数の消火水供給区画10aにまたがらないように設けられる。
【0039】
なお、図示の便宜上、図3には符号Bの1つの消火水供給区画10aにのみ散水設備23(放水供給ヘッド231)を設けた例を示した。この点、他の消火水供給区画10aに対しても放水供給ヘッド231を設けてもよいことは勿論である。
また、泡消火設備に対して複数の泡ヘッドが設けられている場合にも同様の方針が適用される。即ち、1つの泡消火設備が複数の泡ヘッドを備える場合には、これらの泡ヘッドは、1つの消火水供給区画10aを設置単位として、複数の消火水供給区画10aにまたがらないように設けられる。
【0040】
さらに図3には、符号Cを付した1つの消火水供給区画10a内に、カーブ31、排水ます32及び表面排水設備33を配置した例を模式的に示している。
カーブ31は、消火水供給区画10a内の予め設定した領域を囲むように地面側に設けられる突条構造物である。カーブ31は、コンクリートや縁石などにより構成され、消火水供給区画10aの地面に流れ出た液体(可燃性の液体や消火水など)が、当該カーブ31に囲まれた領域から外部へ流出することを抑止するために設けられる。
【0041】
排水ます32は、消火水供給区画10aの地面を流れる液体を不図示の排水溝へ向けて排出するための開口部である。排水ます32の開口は、グレーチングが形成された蓋がはめ込まれていてもよい。
表面排水設備33は、消火水供給区画10aに形成され、上面に向けて開口する排水溝に液体を導くため、または排水路に繋がる既述の排水ます32に向けて液体を導くために、消火水供給区画10aの地面に形成された傾斜構造である。例えば消火水供給区画10aの地面がコンクリートで覆われている場合、表面排水設備33はこのコンクリートの上面に傾斜を形成することにより設けられる。
【0042】
ここで付帯設備である上述のカーブ31や排水ます32、表面排水設備33が、複数の消火水供給区画10aにまたがって配置されている場合を想定する。このとき一方側の消火水供給区画10aにて可燃性の液体の流出が発生した場合に、カーブ31や表面排水設備33を共有する隣の消火水供給区画10aに対しても可燃性の流体が流れ込むおそれが発生する。また、排水ます32が共有されている場合においても、排水ます32の開口を介して液体から揮発した可燃性の気体が隣の消火水供給区画10aへ向けて流れ出すおそれもある。この結果、火災が発生した場合には、これらの付帯設備を共有する複数の消火水供給区画10aに対して常に同時に消火水を供給しなければならず、消火水供給区画10a毎に消火水の供給/非供給を切り分ける運用が困難となってしまう。
【0043】
そこでこれらの付帯設備についても、1つの消火水供給区画10aを設置単位とし、複数の消火水供給区画10aにまたがらないように設けられる。
なお、図示の便宜上、図3には符号Cを付した1つの消火水供給区画10aにのみカーブ31、排水ます32及び表面排水設備33を設けた例を示した。この点、他の消火水供給区画10aに対しても、当該他の消火水供給区画10aを設置単位としてこれらの付帯設備を設けてもよいことは勿論である。
【0044】
以上、図2図3を用いて説明した複数の消火水供給区画10aは、消火水供給設備からの消火水の供給対象となる区画を決定するうえでの設定上の区分けである。一方、図1に示すように、実際の機器配置領域は、地面に多数の機器が配置されているだけであり、外観上、消火水供給区画10aの輪郭や隣り合う消火水供給区画10a同士の境界を識別することが困難な場合もある。
そこで、図3に模式的に示すように、各消火水供給区画10aの角部にカラーポール4を立て、隣接する消火水供給区画10aとの境界を明確にしてもよい。また消火水供給区画10aの地面を覆うコンクリートの上面に、消火水供給区画10aの輪郭線をペンキなどにより明示してもよい。
【0045】
図4は、図2、3に示す消火水供給区画10aが設定された処理プラント1の設計手順を示す工程図である。
初めに、処理プラント1の機器配置領域内における各機器の配置を決定する(手順P1)。パイプラック11の配置位置やパイプラック11を構成する架構のサイズなどは、この時決定される。
【0046】
また本例の処理プラント1においては、安全離隔を介して複数の機器配置領域を設けることは必須の要件ではない。但し、処理プラント1の敷地面積に余裕がある場合などにおいて、可燃性の流体を取り扱う機器が配置されていない安全離隔を設け、前記安全離隔を介して複数の機器配置領域を設ける場合を除外するものではない。このような場合においても、各機器配置領域を4つ以上の消火水供給区画10aに区画することが必要な場合もある。
【0047】
次いで、当該処理プラント1における安全離隔距離を設定する(手順P2)。既述のように、安全離隔距離は、処理プラント1にて取り扱う可燃性の流体に起因して発生する火災のタイプや機器を流れる流体の量などに基づいて設定される。また、シミュレータなどを利用して、火災・爆発シミュレーションを行った結果を参照し、安全離隔距離を設定してもよい。
既述のように、安全離隔距離は3メートル以上、50メートル以下の範囲内で設定する場合を例示できる。
【0048】
決定した安全離隔距離を反映しつつ、処理プラント1の機器配置領域を4つ以上の消火水供給区画10aに分ける(手順P3)。ここで、各消火水供給区画10aから見て、隣接する消火水供給区画10aを1つ挟んだ2つ目の消火水供給区画10aまでの距離が、安全離隔距離以上となるように区分けを行うことにより、前記安全離隔距離の反映が成される。
図2に示す例のように、パイプラック11の長辺方向に沿って伸びる細長い機器配置領域を、複数の矩形状の消火水供給区画10aに区分けする場合には、各消火水供給区画10aにおけるパイプラック11の前記長辺方向に沿った辺の長さを安全離隔距離以上とする。
【0049】
しかる後、各消火水供給区画10aと、その消火水供給区画10aに隣接する消火水供給区画10aとの合計の消火水使用量を計算する(手順P4)。
消火水を使用する各消火水供給設備のうち、例えば消火栓22は、予め設定された設置間隔以内の間隔をあけて配置される。図3に示す例では、各消火水供給区画10aの一辺に対向する位置に、少なくとも1つの消火栓22が配置されている。放水銃21は、放水銃21を使って消火水を供給する対象の機器が予め決まっており、当該機器が配置された消火水供給区画10aの一辺に対向する位置に配置される。さらに散水設備23や泡消火設備は、消火水の供給対象となる機器の表面積に応じて使用量が決まる。
なお、手順P4において消火水使用量の合計を算出するためには、各消火水供給区画に設置する消火水供給設備の種類や数をあらかじめ検討する必要がある。また、付帯設備のうち、例えば散水設備23に設けられる複数の消火水供給ヘッド231、泡消火設備に設けられる複数の泡ヘッドについて、その設置範囲や設置数について手順P4までに検討することが好ましい。
【0050】
以上に説明したように、各消火水供給区画10aの範囲や当該消火水供給区画10a内に配置される機器が決まっていれば、これらの消火水供給区画10aに対応して設けられる各消火水供給設備における消火水の使用量が決まる。そして、これらの消火水供給設備(消火栓22、放水銃21、散水設備23、泡消火設備や、その他の種類の消火水供給設備)の消火水の使用量を合計することにより、各消火水供給区画10aにおける消火水の使用量を特定することができる。
【0051】
消火水の使用量を計算したら、各消火水供給区画10aと、その消火水供給区画10aに隣接する消火水供給区画10aとの合計の消火水使用量を計算する。
例えば図2に示す細長い機器配置領域を矩形状の消火水供給区画10aに区画する場合において、左右両端の消火水供給区画10aについては、隣接する消火水供給区画10aは1つなので、2つの消火水供給区画10aについての消火水の使用量を合計する(例えば符号AとBの消火水供給区画10aや、符号LとKの消火水供給区画10a)。
また左右両端よりも内側に位置する消火水供給区画10aについては、隣接する消火水供給区画10aは2つなので、3つの消火水供給区画10aについての消火水の使用量を合計する(例えば符号BとA、Cの消火水供給区画10aや、符号KとL、Jの消火水供給区画10a)。
【0052】
ここで一般的な処理プラント1においては、消火水の貯水槽の容量や、貯水槽からの消火水の送液を行うポンプの送水能力などの観点から、一斉に使用可能な消火水の供給能力に上限が設けられている場合がある。各消火水供給区画10aについて、上記の合計の消火水の使用量を計算したら、その最大値を消火水の供給能力の上限と比較する。合計の消火水の使用量の最大値が、前記上限未満である場合には、次の手順へ進む。
【0053】
一方、合計の消火水の使用量の最大値が、前記上限以上となっている場合には、当該消火水供給区画10aとこれに隣接する消火水供給区画10aにおける消火水の使用量に対し、供給量が足りなくなるおそれがある。そこで、この場合には手順P3に戻って、消火水供給区画10aの区分けをやり直す。
区分けのやり直しにあたっては、例えば消火水の使用量が比較的多い消火水供給区画10aの境界の位置を移動させて、一部の機器を隣の消火水供給区画10aに移動させてもよい。また、機器配置領域に設ける消火水供給区画10aの数を増やしてもよい。ただし、いずれの場合においても、各消火水供給区画10aから見て、隣接する消火水供給区画10aを1つ挟んだ2つ目の消火水供給区画10aまでの距離が、安全離隔距離以上となるように区分けを行う方針は順守することが好ましい。
【0054】
こうして各消火水供給区画10aについて計算した隣接する消火水供給区画10aとの合計の消火水使用量の最大値が消火水の供給能力の上限未満となったら、消火水供給区画10aの区画を確定する。そして、計算した合計の消火水使用量の最大値を踏まえ、消火水の供給能力、処理プラント1の排水能力を決定する(手順P5)。
合計の消火水使用量の最大値が消火水の供給能力の上限よりも大幅に小さい場合は、消火水の貯水槽やポンプの送水能力を低減して、消火水の供給に係る設備コストを低減することも可能となる。
【0055】
また、排水系排水溝のサイズや排水処理設備の設計についても、上記合計の消火水使用量の最大値を踏まえ、当該最大値に対応する量の消火水供給が行われた場合であっても、消火水の排出及び排水処理が可能なように、設備能力を決定する。
またここで、降水量の多い地域に建設される処理プラント1において、上記合計の消火水供給量の最大値よりも、処理プラント1の敷地への降水に起因する想定排水量の方が多い場合には、処理プラント1の排水能力は想定排水量に基づいて決定してもよい。
【0056】
消火水の供給能力、処理プラント1の排水能力を決定したら、決定した消火水の供給能力、処理プラント1の排水能力に基づき、消火水の貯水槽の容量および貯水槽から消火水の送液を行うポンプの能力を決定する。(手順P6)。
【0057】
以上に説明した手順を踏まえて設計された処理プラント1について、ある処理プラント1aに設けられた機器にて火災が発生した場合の処理プラント1への消火水供給に係る作用について説明する。
図5Aは、機器配置領域の端部に位置する符号Gの消火水供給区画10aが発災区画(網掛けのスクリーントーンで塗りつぶしてある)となった場合の消火水の供給対象区画を示している。この場合には、発災区画に加えて、当該発災区画に隣接する符号Fの隣接区画(斜線のスクリーントーンを付してある)も消火水の供給対象区画となる。
【0058】
符号Fの隣接区画にも消火水を供給することにより、当該隣接区画が安全離隔となって、発災区画から見て符号E以遠にある消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。また、パイプラック11を挟んで対向する位置にある符号Lの消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼も抑えられる。
符号A、H、Lの消火水供給区画10aが発災区画になった場合についても同様に、発災区画に加えて、その隣接区画である1つの消火水供給区画10aも消火水の供給対象区画とすることにより、発災区画から見てさらに遠い位置にある消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。
【0059】
以上の例をまとめると、各機器配置領域の端部に位置する消火水供給区画10aにて火災が発生した際には、発災区画と、当該発災区画に隣接する1つの隣接区画との合計2つの消火水供給区画10aを消火水の供給対象区画とすることにより、他の消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。
【0060】
図5Bは、機器配置領域の端部よりも内側に位置する符号Eの消火水供給区画10aが発災区画となった場合の消火水の供給対象区画を示している。この場合には、発災区画に加えて、当該発災区画に両隣に位置する符号D、Fの隣接区画も消火水の供給対象区画となる。
【0061】
符号D、Fの隣接区画にも消火水を供給することにより、当該隣接区画が安全離隔となって、発災区画から見て符号C以遠の位置にある消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。また、パイプラック11を挟んで対向する位置にある符号J、Kの消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼も抑えられる。
符号B~D、F、I~Kの消火水供給区画10aが発災区画になった場合についても同様に、発災区画に加えて、その両隣に位置する2つの消火水供給区画10aも消火水の供給対象区画とすることにより、発災区画から見てさらに遠い位置にある消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。
【0062】
以上の例をまとめると、各機器配置領域の端部よりも内側に位置する消火水供給区画10aにて火災が発生した際には、発災区画と、当該発災区画の両隣に位置する2つの隣接区画との合計3つの消火水供給区画10aを消火水の供給対象区画とすることにより、他の消火水供給区画10a内に配置された機器への延焼を抑えることができる。
【0063】
図6は、図1~5A、Bを用いて説明した実施形態に係る処理プラント1と、安全離隔100を設けることにより、複数の機器配置領域10cを区画した比較形態に係る処理プラント1bとを比較した平面図である。
比較形態に係る処理プラント1bは、安全離隔100を用いて機器配置領域10cを区画しているため、安全離隔100を多数設けて機器配置領域10cを区画すると、処理プラント1bが設けられる敷地の面積が増大してしまう。これに対して、安全離隔100の数を少なくして、処理プラント1bの敷地面積の増大を抑えようとすると、各機器配置領域の面積が増大する。
【0064】
従来、機器配置領域10cに消火水供給設備を設ける際には、安全離隔との境界に至るまでの機器配置領域10c全体に消火水を供給することが可能なように、処理プラント1bにおける消火水の供給能力を設計する必要があった。この点、1つあたりの機器配置領域10cの面積が大きくなると、これに対応して処理プラント1全体の消火水の供給能力(消火水の貯水槽の大きさや供給ポンプの送水能力)も大きくしなければならない。
【0065】
以上に確認した比較形態に係る処理プラント1bと比べて、実施形態に係る処理プラント1は、可燃性の流体を取り扱う機器を配置することができない安全離隔100が設けられていない。これにより、処理プラント1の敷地面積の増大を抑えることができる(図6中の「Δy」)。
【0066】
そして、1つの機器配置領域を少なくとも4つの消火水供給区画10aに区画し、1つの消火水供給区画10a内に設けられた機器にて火災が発生した場合には、当該発災区画とその隣接区画とを消火水の供給対象区画とする。これにより、隣接区画が安全離隔の役割を果たし、発災区画より遠い消火水供給区画10aに配置されている機器への延焼を抑えることができる。
さらに消火水の供給対象区画は、多くとも3区画以下に抑えられるので、機器配置領域全体を消火水の供給対象とする場合と比較して消火水の使用量を低減できる。
【0067】
本実施の形態に係る処理プラント1によれば以下の効果がある。機器配置領域を少なくとも4つの消火水供給区画10aに区分けし、火災が発生した発災区画と、その隣接区画とに限定して消火水の供給を行う構成となっている。この結果、安全離隔を介した区分けを行わなくても、発災区画とその隣接区画に消火水の供給対象となる区画を限定することができる。
これらの構成により、処理プラント1の敷地面積の増大を抑えつつ、火災発生時の消火水の使用量を低減し、消火水の供給に係る設備の大型化を抑制し、設備コストの増大を抑えることができる。
【0068】
次いで、図7A図7Bは、パイプラック11が設けられていない他の実施形態に係る処理プラント1aの平面図である。
なお、処理プラント1aは、パイプラック11が設けられていない点を除いて図1図3を用いて説明した第1の実施形態に係る処理プラント1と同様に構成され、図に向かって機器配置領域が上下2列に分けて設けられているものとする。メンテナンスなどの際に各機器の分解、搬出を行うためのクレーンの配置などを考慮すると、細長い機器配置領域を並べて設ける場合は2列までが実際的な配置といえる。また、各機器配置領域の消火水供給区画10aの区分けについても、第1の実施形態に係る処理プラント1と同様とした。
【0069】
図7Aに示す機器配置領域の端部に位置する符号図Gの消火水供給区画10aが発災区画となった場合、図7Bに示す機器配置領域の端部に位置する符号図Iの消火水供給区画10aが発災区画となった場合のいずれも隣接区画の数は増大する。しかしながら、安全離隔100が設けられていない機器配置領域全体を消火水の供給対象区画とする場合と比較して、消火水の供給量を大幅に低減できる。
【符号の説明】
【0070】
1、1a、1b
処理プラント
10a 消火水供給区画
10c 機器配置領域
11 パイプラック
21 放水銃
22 消火栓
23 自動散水設備
31 カーブ
32 排水ます
33 表面排水設備
4 カラーポール
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B