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特許7427724小線源治療のための加速器駆動型中性子放射化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】小線源治療のための加速器駆動型中性子放射化装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/06 20060101AFI20240129BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20240129BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20240129BHJP
   H05H 3/06 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
G21G1/06
G21K5/02 N
G21K5/08 N
H05H3/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022116632
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2020508080の分割
【原出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2022153511
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】17305461.0
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511232112
【氏名又は名称】アドヴァンスド・アクセラレーター・アプリケーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マシオッコ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ボーノ,ステーファノ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/022848(WO,A1)
【文献】特表平10-504681(JP,A)
【文献】国際公開第2016/037656(WO,A1)
【文献】K. Abbas et al.,DESIGN AND TEST OF AN ACCELERATOR DRIVEN NEUTRON ACTIVATOR AT THE JRC CYCLOTRON OF THE EUROPEAN COMM,Cyclotrons and Their Applications 2007, Eighteenth International Conference,2007年,p.228-230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/06、1/10
G21G 4/02-4/10
G21K 5/02、5/08
H05H 3/06、6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を中性子によって放射化するための中性子放射化装置であって、
前記中性子放射化装置は、ビーム軸に沿って放出される陽子ビーム(7)との相互作用から中性子を生成するように構成され、
前記陽子ビーム(7)は、16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度とを有し、
前記中性子放射化装置は、
前記ビーム軸と平行に配置されるように意図された長手方向軸を有する金属ターゲット(1)を含む中性子源と、
前記中性子源と放射化される前記物質とを収容するよう構成される中性子放射化領域(10)を備える、前記中性子源の周囲に配置された第1のベリリウム反射減速材(4)と、
を備え、
前記第1の反射減速材(4)の前記中性子放射化領域(10)は、内腔軸に沿って延伸し、かつ前記内腔軸と前記長手方向軸が同軸となるように前記中性子源を収容するよう構成される内腔を含み、
前記金属ターゲット(1)は中空円錐形状を有し、
前記円錐形状における長手方向軸は、前記陽子ビームと一直線に並べられ、
中性子の発生中に前記ターゲット(1)を冷却するための流体のフローを受けるための、前記ターゲット(1)の外面と直接接触する冷却領域をさらに備え、
前記中空円錐形ターゲット(1)の開口と、その側壁の厚さは、
(i)前記陽子ビーム(7)から受け取った陽子の一部が、ブラッグピークに対応する熱エネルギーの一部を前記金属ターゲット(1)の外部へ放出するのに十分なエネルギーを有し、
(ii)前記陽子ビーム(7)から受け取ったすべての前記陽子が、前記ターゲット(1)内部に当該陽子の熱エネルギーを放出する場合のターゲット内の出力密度と比較して、前記ターゲット内部の出力密度が、少なくとも50%に低減され、かつ
(iii)前記ターゲット内で発生した中性子の数が、前記陽子ビーム(7)から受け取ったすべての前記陽子が前記ターゲット(1)内部に当該陽子の熱エネルギーを放出する場合の厚さを有するターゲット(1)内で発生した中性子の数と、少なくとも70%等しくなる、
ように、最適化されている、中性子放射化装置。
【請求項2】
前記第1の反射減速材(4)の前記中性子放射化領域(10)は、前記内腔の近傍で前記内腔軸に平行なチャネル軸に沿って延伸する少なくとも一つの放射化チャネル(5)をさらに含み、
前記放射化チャネル(5)は、放射化される前記物質が装填されるよう構成される、請求項に記載の中性子放射化装置。
【請求項3】
前記中性子放射化領域(10)は、前記内腔の周りに分布する、特に均一に分布する、複数の放射化チャネル(5)を含む、請求項に記載の中性子放射化装置。
【請求項4】
前記反射減速材(4)に格納された、
前記冷却流体をフローガイド(2)に送る入口チャネル(8)と、
前記入口チャネル(8)から前記出口チャネル(9)へのフローとして、前記ターゲット(1)の前記外面に沿って前記冷却流体をガイドするための、前記冷却領域を画定するフローガイド(2)と、
前記フローガイド(2)から前記冷却流体を除去するための出口チャネル(9)と、
をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項5】
前記フローガイドが、前記円錐形ターゲット(1)の前記外面を覆い、それによって、前記円錐形ターゲット(1)の前記外面を取り囲む冷却領域を画定するように、前記フローガイド(2)は、少なくとも部分的に円錐形である、請求項に記載の中性子放射化装置。
【請求項6】
前記円錐形ターゲット(1)の前記開口は、20°から45°の間である、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項7】
前記金属ターゲット(1)は、ベリリウムまたはタンタルから作製される、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項8】
前記ベリリウム反射減速材(4)は、前記内腔軸に沿った円筒形である、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項9】
1辺が1メートル、好ましくは1辺が0.75メートル、例えば1辺が0.50メートルの立方体の体積を超えない全体寸法を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項10】
前記ベリリウム反射減速材(4)を内蔵する第2の反射減速材(6)をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の中性子放射化装置。
【請求項11】
ビーム軸に沿って陽子ビーム(7)を生成するよう構成される発生器(13)であって、前記陽子ビーム(7)は、16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度とを有する、発生器(13)と、
前記ターゲット(1)の前記長手方向軸が、前記ビーム軸に対して平行であるように配置される、請求項1~10のいずれか1項に記載の中性子放射化装置と、
を備える、物質を中性子によって放射化するための中性子放射化システム。
【請求項12】
放射化される前記物質を装填するための供給装置(14、16)をさらに備え、
前記供給装置(14、16)は、前記放射化チャネル(5)に接続されており、放射化される物質(15)のサンプルを前記放射化チャネル(5)に沿って移動させるよう構成される、請求項に従属する場合の請求項11に記載の中性子放射化システム。
【請求項13】
核医学適用に好適なβ放出放射性同位体、好ましくは、166Ho、186Re、188Re、177Lu、198Au、90Y、227Raおよび161Tbを生成するための、請求項11および12のいずれか1項に記載の中性子放射化システムの使用。
【請求項14】
a)放射化される前記物質を用意する工程と、
b)請求項1~10のいずれか1項に定義されるような前記中性子放射化装置の前記放射化領域に前記物質を配置する工程と、
c)前記物質を中性子によって放射化するのに好適な、例えば、16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、例えば、1mAまで、例えば70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでの強度と、を有する陽子ビーム(7)を発生させ、それにより前記物質を放射化する工程と、
を含む、物質を中性子によって放射化するための方法。
【請求項15】
前記ターゲットは、1barから20barの間である静圧で、前記ターゲットの表面で8m/sから24m/sの間である速度に達する冷却液、好ましくは水のフローによって冷却される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
放射化される前記物質は、例えば酸化ホルミウムのマイクロ粒子またはナノ粒子などの、マイクロ粒子またはナノ粒子内に含まれる、または、マイクロ粒子またはナノ粒子の形態である、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、好適な中性子場の生成による、投与量の注入が可能な粒子懸濁液の放射化の分野である。
【0002】
本発明は、特に、目的の放射性同位体を生成するための中性子放射化装置に関する。当該中性子放射化装置の動作原理は、陽子ビームと固体ターゲットとの相互作用に基づく。当該中性子放射化装置は、固体アセンブリにおいて減速/反射される中性子を発生させて、目的の同位体(例えば、165Hoおよび176Lu)における(n、γ)反応に有利な中性子スペクトルを得る。
【背景技術】
【0003】
癌腫瘍の治療は、外科手術、化学療法、および外部放射線療法という三つの主要な治療クラス(回復の可能性を高めるためにしばしば組み合わされる)に基づいている。
【0004】
小線源治療、すなわち、「in situ」放射線治療は、(乳房または子宮頸部腫瘍におけるように)外科手術または化学療法に加えてしばしば推奨されるか、または、(米国における前立腺癌、肝癌の治療、または他の肝腫瘍におけるように)唯一の最も重要な治療となる。
【0005】
急速に分裂する細胞は、放射線によって特に損傷を受け易い。このため、ターゲット領域に小さな放射線源(通常、ガンマ放出体またはベータ放出体)を投与または導入することによって、いくつかの癌腫は、制御または排除され得る。
【0006】
小線源治療の主な利点は、身体への全体的な放射線照射が少ないために健康な組織の曝露が最小限に抑えられ、より標的腫瘍に限局され、費用効果が高いことである。
【0007】
β放出放射性同位体は、対応する安定同位体の中性子照射によって生成することができる。
【0008】
現在、このような同位体は研究用原子炉においてのみ生成されているが、主な欠点は、厳しいスケジュールおよび老朽化の問題と相まって、医療用の原子炉がヨーロッパには少ないということに依拠している。
【0009】
したがって、医療用途のためのサイクロトロンを使用して、中性子によって放射化された放射性同位体を効率的に生成するための代替方法が依然として必要とされている。
【0010】
本開示の目的の一つは、原子炉における、医療用の放射性同位体の生成の代替案を提案することである。
【0011】
別の目的は、医療用の放射性同位体の生成方法の効率を改善することである。
【0012】
本発明の別の目的は、放射性同位体を生成するための、物質を中性子によって放射化するための装置および方法を提供することである。
【0013】
国際公開第98/59347号パンフレットは、中性子源を取り囲む中性子拡散媒体中に分布されることによって中性子束に曝露された物質を使用して、当該曝露された物質に含まれる容易に入手可能な同位体の変換から、有用な放射性同位体、特に、医療用途のための放射性同位体を生成することができることを開示している。中性子源は、荷電粒子ビームを衝突させたベリリウムまたはリチウムターゲットからなる。
【0014】
この方法の主な欠点は、物質における弾性散乱経路中にシステム内に中性子を封じ込めるために、放射化装置の寸法が非常に大きいということである。また、(数回の散乱相互作用の後に)特に、より低いエネルギーにおいて中性子束の相関的な低下をもたらす。
【0015】
国際公開第2016/037656号パンフレットは、共鳴領域における捕獲を向上させる方法および放射化装置を開示している。中性子束の強度は、反射材および/または減速材によって最適化される。
【0016】
国際公開第98/59347号パンフレットに関し、鉛の中性子弾性散乱特性を利用しながら、放射化装置のサイズを小さくすることを意図した一般的なアプローチをいくつか提案し、これによって、放射化領域における断熱共鳴交差(Adiabatic Resonance Crossing)原理を提案している。このアプローチは2005~2009年に、本発明者らによって、鉛芯および黒鉛反射材を有する放射化装置の実験検証により、数値的および実験的に分析された。このような研究の結果は、考慮される同位体を放射化する最も効率的なアプローチは、鉛の特有の特性(透明性および弾性散乱)を使用することではなく、効率的な減速反射に焦点を当てることであるという結論につながった。この結論によって、本発明の解決策が提供される。さらに、本発明の好ましい実施形態では、サンプルの最適位置は、いわゆるディフューザ内の特定の位置ではなく、陽子ターゲットにできるだけ近い位置である。
【0017】
国際公開第2016/022848号パンフレットは、球形の金属ターゲットと、ターゲットを取り囲む球形の反射減速材とを含む中性子源を開示しており、ターゲットおよび反射減速材は、放射化する物質を含む媒体に浸漬されている。
【0018】
国際公開第2016/022848号パンフレットの中性子源では、物質はランダムに放射化される。これは物質を放射化するための時間を増加させ、大量の放射化された物質が得られるのを妨げる。さらに、放射化された物質の回収は複雑であり、本発明の場合のように短い半減期を有する、核医学治療に適した放射性同位体には適さない。国際公開第2016/022848号パンフレットの中性子放射化装置の構成、特に、反射材の位置によって、中性子捕獲反応Mo-98(n,γ)Mo-99によって生成されるような、Mo-99以外の放射性同位体に対して好ましい放射化収率は実現されない。反射材のサイズ、および、(説明で挙げられた重水のような)潜在的な基材は、工業的複雑さおよび維持管理の複雑さを示唆するとともに、コンパクトな工程を妨げる。最後に、低温方法に含まれる冷却工程は、水冷却の使用とは反対に、はるかに複雑な使用法および維持管理を伴う。
【0019】
したがって、本開示の別の目的は、国際公開第98/59347号パンフレット、国際公開第2016/037656号パンフレット、および、国際公開第2016/022848号パンフレットに開示されている放射化装置と比較して、改善されたシステムを提供することである。
【発明の概要】
【0020】
これら目的および他の目的は、本開示の、物質を中性子によって放射化するための中性子放射化装置によって達成され、前記中性子放射化装置は、ビーム軸に沿って放出される陽子ビームとの相互作用から中性子を生成するように構成され、前記陽子ビームは16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度とを有し、
前記中性子放射化装置は、
前記ビーム軸と平行に、特に同軸に配置されるように意図された長手方向軸を有する金属ターゲットを備える中性子源と、
前記中性子源と放射化される前記物質とを収容するよう構成される中性子放射化領域を備えた、前記中性子源の周囲に配置されたベリリウム反射減速材と、
を備え、
前記ベリリウム反射減速材の前記中性子放射化領域は、内腔(bore)軸に沿って延伸し、かつ前記内腔軸と前記長手方向軸が同軸となるように前記中性子源を収容するよう構成される内腔を含む、中性子放射化装置である。
【0021】
前記ベリリウム反射減速材の前記中性子放射化領域は、前記内腔の近傍で前記内腔軸に平行なチャネル軸に沿って延伸する少なくとも一つの放射化チャネルをさらに含み、
前記放射化チャネルは、放射化される前記物質が装填されるよう構成され得る。
【0022】
前記中性子放射化領域は、前記内腔の周りに分布する、特に均一に分布する、複数の放射化チャネルを含み得る。
【0023】
前記金属ターゲットは中空の円錐形状を有していてもよく、
前記円錐形ターゲットの長手方向軸は、前記陽子ビームと一直線に並べられ、
前記中性子放射化装置は、中性子の発生中に前記ターゲットを冷却するための流体のフローを受けるための、前記ターゲットの外面と直接接触する冷却領域をさらに備える。前記冷却流体は、液体、例えば水であってもよい。金属ターゲットの形状に関する規定は、ベリリウム反射減速材に関する前述の規定と相補的であってもよいし、代替的であってもよい。すなわち、金属ターゲットの形状は、ベリリウム反射減速材に関する規定とは独立して定められ得る。
【0024】
このような実施形態では、前記円錐形ターゲットの開口およびその側壁の厚さは、
(i)前記陽子ビームから受け取った陽子の一部が、ブラッグピークに対応する熱エネルギーの一部を前記ターゲットの外部へ放出するのに十分なエネルギーを有し、
(ii)前記陽子ビームから受け取ったすべての前記陽子が、前記ターゲット内部に当該陽子の熱エネルギーを放出する場合のターゲット内の出力密度と比較して、前記ターゲット内部の出力密度が、少なくとも50%に低減され、かつ
(iii)前記ターゲット内で発生した中性子の数が、前記陽子ビームから受け取ったすべての前記陽子が当該陽子の熱エネルギーをターゲット内部に放出する場合の厚さを有するターゲット内で発生した中性子の数と、少なくとも70%等しくなる、
ように、最適化され得る。
【0025】
あるいは、前記円錐形ターゲットの開口およびその側壁の厚さは、
(i)前記陽子ビームから受け取った陽子が、すべてのエネルギーを前記金属ターゲットの内側で失い、かつ
(ii)前記ターゲット内の温度勾配によって発生するストレスが、前記金属ターゲットの弾性限界内に留まる一方、冷却液の温度は沸点未満に保たれる、
ように、最適化され得る。
【0026】
有利なことには、前記中空円錐形ターゲットの前記開口は、20°から45°の間である。
【0027】
前記中性子放射化装置は、前記反射減速材に格納された、
冷却流体をフローガイドに送る入口チャネルと、
前記入口チャネルから出口チャネルへのフローとして、前記ターゲットの前記外面に沿って前記冷却流体をガイドして、所望の速度を得るための、前記冷却領域を画定するフローガイドと、
前記フローガイドから前記冷却流体を除去するための出口チャネルと、
をさらに備えていてもよい。
【0028】
好ましくは、前述のフローガイドが、前記円錐形ターゲットの前記外面を覆い、それによって、前記ターゲットの前記外面を取り囲む冷却領域を画定するように、前記フローガイドは、少なくとも部分的に円錐形である。
【0029】
先に記載の実施形態のいずれかと組み合わされ得る特定の実施形態では、前記金属ターゲットは、ベリリウムまたはタンタルから作製される。
【0030】
先に記載の実施形態のいずれかと組み合わされ得る特定の実施形態では、前記ベリリウム反射減速材は、前記内腔軸に沿った円筒形である。
【0031】
典型的には、前記中性子放射化装置は、1辺が1メートル、好ましくは1辺が0.75メートル、例えば1辺が0.50メートルの立方体の体積を超えない全体寸法を有し得る。
【0032】
前記中性子放射化装置は、前記ベリリウム反射減速材を内蔵する第2の反射減速材をさらに備えていてもよい。
【0033】
また、本発明は、物質を中性子によって放射化するための中性子放射化システムであって、
ビーム軸に沿って陽子ビームを生成するよう構成される発生器であって、前記陽子ビームは、16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度とを有する、発生器と、
前記ターゲットの前記長手方向軸が前記ビーム軸に対して平行、特に同軸であるように配置される、先に定義されるような中性子放射化装置と、
を備える中性子放射化システムに関する。
【0034】
前記ベリリウム反射減速材の前記中性子放射化領域が少なくとも一つの放射化チャネルを含む場合に、前記中性子放射化システムは、放射化される前記物質を装填するための供給装置をさらに備えていてもよく、前記供給装置は、前記放射化チャネルに接続されており、放射化される物質のサンプルを前記放射化チャネルに沿って移動させるよう構成される。
【0035】
また、本発明は、放射性同位体、好ましくは放射性医薬品を生成するための、先に記載されるような中性子放射化装置の使用に関する。例えば、前記放射性同位体は、核医学適用に好適なβ放出放射性同位体、好ましくは、166Ho、186Re、188Re、177Lu、198Au、90Y、227Raおよび161Tbである。
【0036】
本発明の別の目的は、
a)放射化される前記物質を用意する工程と、
b)先に定義されるような中性子放射化装置の前記放射化領域に前記物質を配置する工程と、
c)前記物質を中性子によって放射化するのに好適なエネルギーの陽子ビームを発生させ、それにより前記物質を放射化する工程と、
を含む物質を中性子によって放射化するための方法である。
【0037】
上述のような円錐形ターゲットを有する中性子放射化装置を用いる方法の特定の実施形態では、前記ターゲットは、1barから20barの間である静圧で、前記ターゲットの表面付近で8m/sから15m/sの間である速度に達する冷却液、好ましくは水のフローによって、冷却される。
【0038】
前記方法の他の特定の実施形態では、放射化される前記物質は、例えば酸化ホルミウムのマイクロ/ナノ粒子などの、マイクロ粒子またはナノ粒子内に含まれる、または、マイクロ粒子またはナノ粒子の形態である。典型的には、前記マイクロ/ナノ粒子は液体懸濁液中にある。
【0039】
特定の実施形態では、前記物質はカプセルに含まれており、前記カプセルは、前記反射減速材に内蔵された放射化チャネルの内側で前記カプセルを移動させることによって、前記放射化領域に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明は、好ましい、しかしながら、非限定的な実施形態の以下の詳細な説明により、より明確に理解されるであろう。この詳細な説明は、添付の図面を参照して行われる。
図1】本開示に係る中性子放射化装置の概略図である。
図2】中空円錐形ターゲットとその冷却システムとを含む円筒形状のターゲットアセンブリの概略図である。
図3】本開示に係る中性子放射化装置を用いた中性子によって放射化するための方法の概略図である。
図4】中空円錐形ターゲットに対する放射化サンプル位置の図である。
図5165Ho(n,γ)166Ho変換および176Lu(n,γ)177Lu変換の断面積を示すグラフである。
図6】様々な減速材を用いた中性子スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示は、物質を中性子によって放射化するための中性子放射化装置に関し、中性子放射化装置は、
16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーの陽子ビームを受けるのに好適であり、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度に耐えることができる金属ターゲットを備える中性子源と、
中性子放射化領域を備える、中性子源の周囲に配置された第1のベリリウム反射減速材と、
任意に、当該ベリリウム反射減速材を内蔵する第2の反射減速材と、
を備える。
【0042】
本発明に係る中性子放射化装置は、有利なことには、放射化されるサンプルの周りの局所領域において、目的のエネルギーを有する最適化された中性子束を提供する一方で、小型~中型のサイクロトロンと共に用いられるのに十分コンパクトな装置である。
【0043】
したがって、本発明に係る中性子放射化装置は、前臨床研究および臨床研究における使用、ならびに商品化のために、放射化された投与量の放射性同位体を定常的かつ工業的に生成するのにふさわしい。
【0044】
本開示に係る中性子放射化装置の一実施形態を図1に示す。
【0045】
より具体的には、本開示の中性子放射化装置は、
中性子源としての金属中空円錐形ターゲットと、
円錐形ターゲットの外面に沿って冷却流体をガイドするためのフローガイドと冷却容器とを含む冷却システムと、
冷却容器を取り囲み、ターゲットの周りに配置された放射化チャネルを受け入れる第1のベリリウム反射減速材と、
第1のベリリウム反射減速材を内蔵する第2の反射減速材と、
を備える。
【0046】
特に中性子放射化装置は、反射減速材に格納された、
中性子源としての金属中空円錐形ターゲットと、
入口チャネルから出口チャネルへのフローとして、ターゲットの外面に沿って冷却流体をガイドするための、冷却領域を画定するフローガイドと、
冷却流体をフローガイドに送る入口チャネルと、
フローガイドから冷却流体を除去するための出口チャネルと、
を備えていてもよい。
【0047】
中空円錐形金属ターゲットとその冷却システムとを含む、円筒形ターゲットアセンブリの一例を図2に示す。このような特定の実施形態では、中性子源としてのターゲットは、中空円錐形金属ターゲットであり、その長手方向軸は陽子ビームのビーム軸と一直線に並べられている。冷却システムは、(i)冷却流体の循環のための入口チャネルおよび出口チャネルを画定する冷却容器と、(ii)入口チャネルから出口チャネルへのフローとして、中空円錐形金属ターゲットの外面に沿って冷却流体をガイドするための冷却領域を画定するフローガイドとを含む。
【0048】
〔中性子源としての金属ターゲット〕
中性子源は、金属ターゲットから構成され、金属ターゲットは、サイクロトロンによって有利に発生した陽子ビームを受けるために陽子ビームのビーム軸と平行に配置されるように意図された長手方向軸を有する。図示の実施形態では、長手方向軸とビーム軸は同軸、すなわち、重なっている。他の実施形態では、長手方向軸とビーム軸は平行で、互いに間隔を置いて配置され得る。
【0049】
したがって、ターゲット体は、低エネルギーおよび高強度の陽子ビーム、例えば、16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間である陽子ビームエネルギー、および、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度の陽子ビームに耐えることができなければならない。
【0050】
〔円錐形ターゲット体を有する実施形態〕
ターゲット体は、好ましくは中空の円錐形状を有する。陽子ビームと一直線に並べられたときのターゲットの円錐形状は、ターゲットを取り囲む放射化領域に到達する中性子の収率を最適化することができる。特に、小さな開口角を有するターゲットの円錐形状は、陽子ビームとターゲットの内面との間の相互作用面を有利に増加させ、それによって、熱冷却のための面を増加させながら、ターゲット内の出力密度を低下させる。
【0051】
本明細書において、用語「円錐形状」は広い意味で使用され、円形または非円形の底面の円錐を指す(例えば、底面は、多角形または楕円形または任意の他の形状であり得る)。好ましい実施形態では、円錐形状は直円錐である。
【0052】
本明細書において、用語「中空」円錐形状は、ターゲットがその底面で開口しており、本質的に円錐の側壁からなることを意味する。
【0053】
前記中空円錐形ターゲットの長手方向軸は、サイクロトロンによって発生した陽子ビームと一直線に並べられる。したがって、陽子ビームは、中空円錐形ターゲットの側壁の内面から中空円錐形ターゲットに到達する。
【0054】
中性子放射化装置は、有利なことには、中性子の発生中に円錐形ターゲットを冷却するための流体のフローを受けるための、円錐形ターゲットの外面と直接接触する冷却領域をさらに備える。
【0055】
中空円錐形金属ターゲットおよび冷却領域の最終寸法は、中性子の発生を最適化することを意図して適合される。
【0056】
中性子放射化装置の一実施形態では、円錐形ターゲットの開口およびその側壁の厚さは、陽子ビームから受け取った陽子の一部が、ブラッグピークに対応する熱エネルギーの一部を冷却領域内のターゲットの外部へ放出するのに十分なエネルギーを有するように、最適化されることが好ましい。冷却領域内では、この熱は冷却流によって簡単に除去される。これにより、中性子の発生を大幅に低減することなく、固体ターゲット内の出力密度を大幅に低減し、よって、ターゲットの熱条件を改善することが可能になる。
【0057】
陽子ビームから受け取ったすべての陽子が、それらの熱エネルギーをターゲット内部に放出する場合の厚さをターゲットが有している場合にターゲット内部に蓄積されるエネルギーと比較して、相互作用する陽子から得るエネルギーの少なくとも50%が、ターゲット外部で失われることが好ましい。
【0058】
このような実施形態では、円錐形ターゲットの開口および厚さは、すべての陽子がターゲット内部に当該陽子の熱エネルギーを放出する場合の開口および厚さを有する円錐形ターゲットの出力密度と比較して、出力密度が、好ましくは少なくとも50%に低減されるように、最適化される。
【0059】
さらに、円錐形ターゲットの開口および厚さは、ターゲット内で発生した中性子の数が、陽子ビームから受け取ったすべての陽子がターゲットの内部に当該陽子の熱エネルギーを放出するターゲットにおいて発生した中性子の数と、少なくとも70%等しくなるように決定される。
【0060】
(i)円錐形ターゲットの形状、(ii)ターゲットに使用される金属の性質、および(iii)陽子ビームのエネルギーおよび強度に応じて、当業者は、任意の適切なシミュレーションソフトウェアを使用して、ターゲットの厚さおよび開口に関する上述の最適範囲を決定することができ、それによって、コンパクトな中性子放射化装置を使用して、中性子によって放射かするために最適化された収率を達成することができる。
【0061】
ターゲットが直円錐形状を有し、ベリリウム金属からなり、陽子ビームのエネルギーが65MeVから75MeVの間(例えば、70MeV)で強度が0.30mAから0.40mAの間(典型的には0.35mA)である特定の実施形態では、側壁の厚さは好ましくは4mmから4.6mmの間(例えば、3.6mm)であり、軸方向の厚さは22.5mmから27.5mm(典型的には25mm)であり、円錐形ターゲットの開口は好ましくは18°から22°の間(例えば、20°)である。ターゲットの円形底面は、70MeVサイクロトロンの典型的なビームラインサイズに適合させるために、27mmから33mmの間(例えば30mm)に設定され得る。
【0062】
あるいは、中性子放射化装置の第2の実施形態では、円錐形ターゲットの開口およびその側壁の厚さは、
(i)陽子ビームから受け取った陽子が当該陽子のすべてのエネルギーを金属ターゲットの内側で失い、かつ、
(ii)ターゲット内の温度勾配によって発生するストレスが、金属ターゲットの弾性限界内に留まる、
ように、最適化される。
【0063】
この実施形態は、例えば、水冷円錐形ベリリウムターゲットに対する30MeV~185μA-30mmビーム、または、水冷円錐形タンタルターゲットに対する30MeV~140μA-30mmビームの場合のように、陽子ビーム特性(エネルギー、強度、および幅/電流分布に関して)が、固体ターゲットにおいてあまり高い出力密度をもたらさない場合に適切であり得る。
【0064】
後者の実施形態では、水などの液体が冷却流体として使用される場合、冷却液の沸騰および/またはターゲットの変形を回避するために、熱応力を制限することが実際に必要である。
【0065】
金属ターゲットは、良好な熱機械的特性と相まって、効率的な中性子の生成を可能にする厚さおよび組成の材料から構成されるべきである。適切な材料としてはベリリウム、タンタル、タングステンおよびその合金(例えば、タングステン-レニウムまたはタングステン-銅)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
典型的には、金属ターゲットはベリリウムから作製され得る。
【0067】
別の特定の実施形態では、金属ターゲットはタンタルから作製される。このような実施形態では、タンタルに特有の100℃より高い温度での酸化還元現象は、円錐形ターゲットの側壁の内面を10-3mbar以下の圧力(低酸素濃度)の真空雰囲気に露出することによって回避することができ、一方、冷却流体としての水と接する外面の温度は水自身の冷却作用によって200℃未満に保たれる。
【0068】
中空円錐形ターゲットおよびその冷却システムの好ましい実施形態を図2に示す。
【0069】
このような好ましい実施形態では、冷却システムは、
フローガイドと、
冷却容器と、
を備える。
【0070】
この好ましい実施形態では、フローガイドは、円錐形ターゲットの外面に近接しており、それによって、円錐形ターゲットの外面全体に沿って冷却流体をガイドするための冷却領域を画定する。フローガイドは、冷却容器に接続される。冷却容器は、
冷却流体をフローガイドに送るための入口チャネルと、
フローガイドから冷却流体を除去するための出口チャネルと、
を備える。
【0071】
より具体的には、フローガイドが、円錐形ターゲットの外面を覆い、それによって、ターゲットの外面を取り囲む冷却領域を画定するように、フローガイドは、少なくとも部分的に円錐形、好ましくはターゲットの円錐形と同様の円錐形を有する。また、フローガイドは、冷却液の最適速度分布がターゲットの壁に沿って得られるように寸法決めされる。
【0072】
特定の実施形態では、冷却流体がターゲットの外面全体に接触するように、ターゲットとフローガイドとは直接接触していない。
【0073】
有利なことには、中空円錐形ターゲットとフローガイドおよび冷却容器とのアセンブリは、前記ターゲットアセンブリを取り囲む反射減速材に容易に収容することができるように円筒形状である。
【0074】
特定の実施形態では、ターゲットの熱状態を監視するために、ターゲットの外面、例えば円錐の底面に、熱電対が配置または挿入されてもよい。
【0075】
〔ベリリウム反射減速材〕
本開示に係る中性子放射化装置は、中性子源の周囲に配置され、したがってターゲットおよびその冷却システムを取り囲む反射減速材をさらに含む。反射減速材は、中性子放射化領域をさらに含む。反射減速材の機能は、選択された同位体の放射化に好適なエネルギーにまで中性子を効率的に遅らせ(減速させ)ながら、放射化サンプルを含む領域(放射化領域)に活性化された中性子を集中させることである。
【0076】
反射減速材は、ベリリウムから作製されるか、または、少なくとも90%のベリリウム金属を含有する。実施例に示すように、反射減速材の材料としてベリリウムを使用すると、他の材料と比較して異なる利点が得られる;
ベリリウムは、いくつかの確定されたスペクトルにおいて良好な中性子閉じ込め能力を示し、それによって放射化領域における放射化効率の改善をもたらす:
ベリリウムは、目的の放射性同位体、主にホルミウム粒子を放射化するのにより適している。
【0077】
したがって、第1の反射減速材は、中性子源および放射化される物質を収容するように構成されている。第1の反射減速材の中性子放射化領域は、内腔軸に沿って延伸し、かつ内腔軸と長手方向軸とが同軸であるように中性子源を収容するように構成される内腔を含む。
【0078】
例えば、中性子放射化装置のある特定の実施形態では、反射減速材は、中空円錐形ターゲットとその冷却システム(ターゲットアセンブリ)との円筒形アセンブリを取り囲み、前記ターゲットアセンブリは、
直円錐形ターゲットと、
ターゲットと同様の円錐形状を有するフローガイドと、
前項目で説明したような円筒形冷却容器と、
を含む。
【0079】
このような特定の実施形態では、反射減速材は、円形断面を有する内腔軸に沿った円筒形である。あるいは、反射減速材は、任意の適切な他の断面を有する内腔軸に沿った円筒形であってもよい。
【0080】
反射減速材の寸法は、反射減速材を可能な限り小さく保ちながら、同位体の放射化収率を最大化するように設定される。有利なことには、中性子源と、反射減速材と、任意に第2の反射減速材とを含む放射化装置は、1辺が1メートル、好ましくは1辺が0.75メートル、例えば1辺が0.50メートルの立方体の体積を超えない全体寸法を有する。
【0081】
反射減速材は、中性子放射化領域に放射化される物質を装填するための放射化チャネルをさらに含む。放射化チャネルは、放射化される物質の装填および取り出しが可能でなければならない。前記チャネルは、反射減速材の内側に機械加工され得る。当業者は、放射性同位体の放射化を最適化するために、適切なシミュレーションを用いて、ターゲットに対する前記放射化チャネルの位置を決定する方法を知っているだろう。
【0082】
中空円錐形ターゲットおよびその冷却システムが(上述のように)円筒形状である特定の実施形態では、複数の放射化チャネルがターゲットの周りに同心円状に配置されていてもよい。
【0083】
より具体的には、第1の反射減速材の放射化領域は、内腔近傍で内腔軸に平行なチャネル軸に沿って延伸するいくつかの放射化チャネルも含む。具体的には、放射化領域は、内腔の周りに分布された放射化チャネルを含む。放射化チャネルは、内腔の周りに均等に分布される。例えば、図示された実施形態では、第1の一連の放射化チャネルが内腔軸から第1の距離で内腔の周りに均等に分布され、第2の一連の放射化チャネルが内腔軸から第1の距離よりも大きい第2の距離で内腔の周りに均等に分布されている。
【0084】
有利なことには、中性子放射化装置は、放射化チャネル内で放射化される物質を遠隔で装填/取り出しができるように、遠隔物質装填システムをさらに含む。
【0085】
円錐形状を有するターゲットに関連して開示したが、ベリリウム反射減速材に関する規定は、ターゲットの形状に関する規定とは独立して定められ得る。
【0086】
〔第2の反射減速材〕
ベリリウム反射減速材を内蔵する第2の反射減速材は、既に部分的に減速された、ベリリウム反射減速材から漏れる中性子をさらに減速させ、再び散乱させることを意図している。その主な目的は、非常に高価なベリリウム反射減速材の体積を最小限に抑え、したがってコストを最小限に抑えながら、放射化装置の性能を最適化することである。
【0087】
好ましくは、第2の反射減速材は、ポリエチレン、典型的には高密度ポリエチレンから作製され得る。減速材の寸法は、ターゲット、その冷却システム、反射減速材、および第2の反射減速材を含む、組み立てられた放射化装置が、1辺が1メートル、好ましくは1辺が0.75メートル、例えば1辺が0.50メートルの立方体の体積を超えないような寸法である。
【0088】
〔中性子によって放射化するための方法〕
本発明に係る放射化装置は、粒子の中性子を放射化するためのものである。
【0089】
したがって、本発明の別の目的は、物質を中性子によって放射化するための方法を提供し、当該方法は、
a)放射化される物質を用意する工程と、
b)本開示において説明したような中性子放射化装置の放射化領域に物質を配置する工程と、
c)当該物質を中性子によって放射化するのに好適なエネルギーの陽子ビームを発生させて、それにより当該物質を放射化する工程と、
を含む。
【0090】
特定の実施形態では、放射化される物質は、酸化ホルミウムのマイクロ粒子またはナノ粒子などの、マイクロ粒子またはナノ粒子内に含まれる、または、マイクロ粒子またはナノ粒子の形態である。酸化ホルミウムの粒子の例は、「New modality of curietherapy with holmium oxide submicronic particles」EANM 2009, Annual Congress of the European Association of Nuclear Medicine, October 10-14, 2009, Barcelona, Spainに記載されている。
【0091】
好ましくは、マイクロ粒子またはナノ粒子は、液体懸濁液中にある。
【0092】
例えば、前記物質はカプセルに入っていてもよく、前記カプセルは、反射減速材に内蔵された放射化チャネル内でカプセルを移動させることによって、放射化領域に配置される。
【0093】
図3は、中性子放射化システムの実施形態を示す。中性子放射化システムは、
16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であるエネルギーと、1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでのビーム強度とを有する陽子ビームを、ビーム軸に沿って生成するよう構成される発生器(例えば、サイクロトロン13)と、
ターゲットの長手方向軸がビーム軸に対して平行、特に同軸であるように配置され、陽子ビームとの相互作用から中性子を生成し、放射化される物質を放射化する中性子放射化装置と、
放射化される物質のサンプル一つ以上を装填するための供給装置と、
を備える。
【0094】
本発明に係る方法を、中性子による放射化の様々な工程を示す図3の中性子放射化システムに関連して開示する。
【0095】
放射化される物質のサンプル(放射化サンプル)、例えば、ターゲットとなる安定同位体を含むマイクロ粒子を、適切なカプセル(15)の形態で用意する。次いで、例えば、シールドカプセル装填機(shielded capsule loader)(16)および移送システム(14)を含み得る供給装置により、カプセルを放射化チャネル(5)に装填する。
【0096】
供給装置は、放射化チャネル(5)に接続されており、放射化される物質のサンプルを放射化チャネル(5)に沿って、好ましくは自動的に、移動させるように構成されている。有利なことには、この方法は、空気式装填・取り出しシステムの使用を含み、放射化チャネル内へのカプセルの遠隔装填/放射化チャネルからのカプセルの遠隔取り出しを可能にする。例えば、粒子懸濁液カプセルの遠隔装填/取り出しを可能にする圧縮空気式ラビットシステム(compressed air rabbit system)によって、カプセルは前後に移動する。また、より有利なことには、空気式システムにより、照射の間、中性子とカプセルおよびその内容物との相互作用によって発生した熱を、すべての放射化チャネルを流れる空気流束によって、冷却することが可能である。
【0097】
次いで、サイクロトロン(13)によって、例えば、エネルギーが16MeVから100MeVの間、好ましくは30MeVから70MeVの間であり、強度が1mAまで、好ましくは70MeVに対して350μAまで、30MeVに対して1mAまでである陽子ビーム(7)を生成する。
【0098】
陽子ビームは金属ターゲット(1)に向けられており、陽子が金属ターゲット(例えばBeから構成)と相互作用することによって、高速(高エネルギー)中性子(12)が発生する。
【0099】
ターゲットを、例えば、入口チャネルからターゲット(2)の外面を流れる水を使用して、冷却領域で冷却する。特定の実施形態では、1barから20barの間である静圧で、ターゲットの表面付近で8m/sから24m/sの間である速度に達する冷却液、好ましくは水の流れによって、ターゲットを冷却する。冷却の意図するところは、固体ターゲットの表面への浸食作用またはターゲット構造の相関的な振動を制限しながら、水の沸騰を回避することである。冷却水量は、ターゲットから流出する高エネルギー中性子に第1の減速を与えるというさらなる効果を有する。この減速効果は、水層の厚さに依存する。しかしながら、放射化装置を設計する特定の実施形態では、放射化サンプルをターゲットのできるだけ近くに保ち、ベリリウム反射材をできるだけコンパクトに保つという利点で、水層の厚さは最小限に抑えられている。
【0100】
中性子は、放射化領域(10)に到達するために、第1の反射減速材(4)において反射され、減速される。第1の反射減速材を通過する中性子は、第2の反射減速材(6)によってさらに減速され、再び散乱されてもよい。
【0101】
本発明に係る中性子によって放射化するための方法は、少なくとも以下の有利な態様を提供する;
注入可能な形態で粒子を放射化することが可能である。なお、これは、原子炉ではほとんど達成できない:
専用のサイクロトロン駆動型システムの使用によって、放射化された放射性同位体をより柔軟に生成する、および、分布させることができる:
(原子炉に典型的な)γ加熱による粒子損傷が起こらない:
短寿命の同位体を使用することができ、治療効果を高めるために反復治療を計画することができる:
様々な種類および様々な大きさのナノ粒子を用いて、特定のケースに治療方法を合わせることができる。
【0102】
〔中性子放射化装置の使用〕
本発明は、また、放射性同位体を生成するための、好ましくは放射性医薬品および医療装置のための、前述したような中性子放射化装置の使用に関する。
【0103】
放射性同位体の選択は三つの主な特徴によって決まる。すなわち、半減期、βエネルギー、および、γエネルギーによって決まる(表1)。半減期が短くなると、治療ユニットにおける持続期間が短くなる(反復治療が可能である)。βエネルギーが高くなると、治療効果が高くなる。γエネルギーが高くなると、単光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)による検出が良好になる。
【0104】
【表1】
【0105】
特定の実施形態では、前記放射性同位体は、核医学適用に好適なβ放出放射性同位体であり、好ましくは、166Ho、186Re、188Re、177Lu、198Au、90Y、227Raおよび161Tbである。
【0106】
ホルミウムは、他の放射性同位体と比較して、短い半減期と高いβエネルギーとを兼ね備える非常に良好な点を示すので、特に本発明に適用したい物質である。
【0107】
〔本発明に係る方法および装置の特定の実施形態の説明〕
図1に示す、実施例に係る放射化装置は、幅50cm、高さ50cm、長さ56cmの直方体である。当該放射化装置は、
中空ベリリウム円錐形ターゲット(1)と、
フローガイド(2)と、冷却流体をフローガイド(2)に送るための入口チャネル(8)と、フローガイド(2)から冷却液を除去するための出口チャネル(9)と、
出入口チャネルを有する円筒形冷却容器(3)と、
内径Di=100mm、外径De=160mm、および長さ200mmを有し、ターゲット(1)の周りに同軸上に配置された放射化チャネル(5)を受け入れるベリリウム円筒形反射減速材(4)と、
第2の高密度ポリエチレン反射減速材(6)と、
から構成される。
【0108】
放射化チャネル(5)は、ターゲットの周りに同心円状に配置されている。16チャネルからなる一つの円は、合計64カプセル/用量(チャネル当たり4カプセル/用量)の装填が可能である。
【0109】
表2は、放射化装置の技術的パラメータを示す。
【0110】
【表2】
【0111】
浸食作用を制限するために、冷却水速度は約10m/sに制限されており、本寸法では、約2kg/sの流量に相当する。この条件で、ターゲットと水との間の界面における壁の最高温度は約150℃と予想される。沸騰を避けるために、冷却剤(水)は、少なくとも5barで加圧されなければならない。
【0112】
表3は、Beターゲットについて冷却特性をまとめたものである。
【0113】
【表3】
【0114】
ターゲットの周りに配置され、放射化チャネルを受け入れる反射減速材に対して最良の材料を選択するために、水、ポリエチレン、ベリリウム、黒鉛、および鉛を比較することによって一連のモンテカルロ計算を行った。
【0115】
165Ho(n,γ)166Ho変換に対する断面積(176Lu(n,γ)177Luに対する断面積と共に図4において報告)を考慮すると、最も好ましい中性子エネルギーは、熱(0MeV~10-7MeV)およびエピサーマル(10-7÷5×10-3MeV)の範囲にある。
【0116】
図4に示されるような放射化チャネルにおける中性子スペクトルを表す図5のグラフに示されるように、得られる中性子スペクトルはベリリウムの場合に最も好ましい。ベリリウムの場合、以下の特徴を示す;
BeおよびPbに対する総中性子束を比較することによって分かるように、より良好な中性子閉じ込めによって、Beのより高い中性子吸収が補償される。これは、Pbに匹敵する合計中性子束をもたらす:
さらに、Beは非常に良好な減速を示し、熱領域では他のすべての材料よりも著しく高い中性子束をもたらし、エピサーマル領域ではPbと同じレベルの中性子束をもたらす。
【0117】
表4に示された結果として、166Ho放射化収率は、Be反射減速材を用いた場合に著しく良好である。
【0118】
【表4】
【0119】
中空のベリリウム円錐形ターゲットを中空のタンタル円錐形ターゲットに置き換えた実施例に係る放射化装置では、表5に示すように、Be反射減速材を用いると、166Ho放射化収率がはるかに高くなる。
【0120】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6