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  • 特許-多層体、および、成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】多層体、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240129BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240129BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240129BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20240129BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B7/022
B32B7/027
C08L33/00
C08L69/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022132407
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2023-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
(72)【発明者】
【氏名】泉 竜之介
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-353831(JP,A)
【文献】特開2022-80270(JP,A)
【文献】特開2022-80269(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061817(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)から形成されたポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成されたアクリル樹脂層(Y)を有し、
前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比であるMw/Mnが2.80~4.40であり、
前記樹脂組成物(X)に含まれるポリカーボネート樹脂のゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10000~20000である、多層体。
【請求項2】
前記多層体のアクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がF以上である、請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記樹脂組成物(x)のガラス転移温度が143℃以下である、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記樹脂組成物(x)は、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0~30質量部含む、請求項1または2に記載の多層体。
【化1】
(式(C)中、R1は、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。R2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【請求項5】
前記樹脂組成物(y)のガラス転移温度が130℃以上である、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項6】
前記樹脂組成物(y)は、アクリル樹脂(y1)30~90質量部とスチレン樹脂(y2)10~70質量部とを含む、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項7】
前記アクリル樹脂(y1)が、
(メタ)アクリル化合物単位と、
環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種と
を含む、請求項に記載の多層体。
【請求項8】
前記アクリル樹脂(y1)が、(メタ)アクリル化合物単位60~96質量%と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種を合計で4~40質量%含む、請求項に記載の多層体。
【請求項9】
前記スチレン樹脂(y2)が、芳香族ビニル化合物単位68~84質量%と、環状酸無水物単位16~32質量%とを含む、請求項に記載の多層体。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂層(X)のガラス転移温度とアクリル樹脂層(Y)のガラス転移温度の差が、13℃以下である、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項11】
前記樹脂組成物(X)および/または樹脂組成物(Y)が、それぞれ独立に、酸化防止剤および/または離型剤を含む、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項12】
さらに、ハードコート層を含み、前記ハードコート層は、前記ポリカーボネート樹脂層(X)、前記アクリル樹脂層(Y)、前記ハードコート層の順に積層している、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項13】
さらに、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項14】
前記多層体が、{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たす、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項15】
前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項16】
前記多層体のアクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がF以上であり、
前記樹脂組成物(x)のガラス転移温度が143℃以下であり、
前記樹脂組成物(x)は、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0~30質量部含み、
前記樹脂組成物(y)のガラス転移温度が130℃以上であり、
前記樹脂組成物(y)は、アクリル樹脂(y1)30~90質量部とスチレン樹脂(y2)10~70質量部とを含み、
前記アクリル樹脂(y1)が、(メタ)アクリル化合物単位60~96質量%と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種を合計で4~40質量%含み、
前記スチレン樹脂(y2)が、芳香族ビニル化合物単位68~84質量%と、環状酸無水物単位16~32質量%とを含む、請求項1に記載の多層体。
【化2】
(式(C)中、R1は、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。R2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【請求項17】
請求項1、2、および、16のいずれか1項に記載の多層体から形成された成形品。
【請求項18】
曲率半径が50mmR以下の部位を有する、請求項17に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層体および成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層とを有する多層体に関する。
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れることに加え、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、また、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスの心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート樹脂からなる成形品の表面に傷が入り易い傾向にある。そこで、ポリカーボネート樹脂をフィルム状にした場合、表面にアクリル樹脂を含む層やハードコート層(保護層)を形成し、製品表面に傷が入らないようにすることが検討されている。
例えば、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-196153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物から形成されたポリカーボネート樹脂層と、アクリル樹脂を含む樹脂組成物から形成されたアクリル樹脂層との多層体とし、所望の形状に加熱成形する場合、熱曲げ後に多層体が元の形に戻る現象(スプリングバック)が発生する場合がある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、加熱成形しても、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、分子量分布が大きいポリカーボネート樹脂を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)から形成されたポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成されたアクリル樹脂層(Y)を有し、
前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比であるMw/Mnが2.80~4.40である、多層体。
<2>前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂のゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10000~20000である、<1>に記載の多層体。
<3>前記多層体のアクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がF以上である、<1>または<2>に記載の多層体。
<4>前記樹脂組成物(x)のガラス転移温度が143℃以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層体。
<5>前記樹脂組成物(x)は、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0~30質量部含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の多層体。
【化1】
(式(C)中、Rは、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
<6>前記樹脂組成物(y)のガラス転移温度が130℃以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層体。
<7>前記樹脂組成物(y)は、アクリル樹脂(y1)30~90質量部とスチレン樹脂(y2)10~70質量部とを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の多層体。
<8>前記アクリル樹脂(y1)が、(メタ)アクリル化合物単位と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種とを含む、<7>に記載の多層体。
<9>前記アクリル樹脂(y1)が、(メタ)アクリル化合物単位60~96質量%と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種を合計で4~40質量%含む、<8>に記載の多層体。
<10>前記スチレン樹脂(y2)が、芳香族ビニル化合物単位68~84質量%と、環状酸無水物単位16~32質量%とを含む、<7>~<9>のいずれか1つに記載の多層体。
<11>前記ポリカーボネート樹脂層(X)のガラス転移温度とアクリル樹脂層(Y)のガラス転移温度の差が、13℃以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の多層体。
<12>前記樹脂組成物(X)および/または樹脂組成物(Y)が、それぞれ独立に、酸化防止剤および/または離型剤を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載の多層体。
<13>さらに、ハードコート層を含み、前記ハードコート層は、前記ポリカーボネート樹脂層(X)、前記アクリル樹脂層(Y)、前記ハードコート層の順に積層している、<1>~<12>のいずれか1つに記載の多層体。
<14>さらに、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、<1>~<13>のいずれか1つに記載の多層体。
<15>前記多層体が、{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たす、<1>~<14>のいずれか1つに記載の多層体。
<16>前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、<1>~<15>のいずれか1つに記載の多層体。
<17>前記多層体のアクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がF以上であり、
前記樹脂組成物(x)のガラス転移温度が143℃以下であり、
前記樹脂組成物(x)は、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0~30質量部含み、
前記樹脂組成物(y)のガラス転移温度が130℃以上であり、
前記樹脂組成物(y)は、アクリル樹脂(y1)30~90質量部とスチレン樹脂(y2)10~70質量部とを含み、
前記アクリル樹脂(y1)が、(メタ)アクリル化合物単位60~96質量%と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種を合計で4~40質量%含み、
前記スチレン樹脂(y2)が、芳香族ビニル化合物単位68~84質量%と、環状酸無水物単位16~32質量%とを含む、<1>に記載の多層体。
【化2】
(式(C)中、Rは、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
<18><1>~<17>のいずれか1つに記載の多層体から形成された成形品。
<19>曲率半径が50mmR以下の部位を有する、<18>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、加熱成形しても、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、反射防止フィルムの一例の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリル化合物」は、アクリル化合物およびメタクリル化合物の双方、または、いずれかを表し、メタクリル化合物が好ましい。また、アクリル樹脂は、アクリレートの(共)重合体に加え、メタクリレートの(共)重合体も含む。
本明細書における層(X)、層(Y)および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形品をいう。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の多層体は、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)から形成されたポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成されたアクリル樹脂層(Y)を有し、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比であるMw/Mnが2.80~4.40であることを特徴とする。このような構成とすることにより、スプリングバックの発生が抑制できる多層体が得られる。
ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層の多層体において、熱曲げ加工時に、ポリカーボネート樹脂層には、曲げに対抗する応力が発生する。この残留応力が熱曲げ加工後にも残っている場合、多層体が元の形に戻る現象(スプリングバック)が起こってしまう。このスプリングバックを抑制するための手段として、ポリカーボネート樹脂層のガラス転移温度付近で熱曲げをすることが考えられる。しかしながら、一般的なポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は150℃程度と高い。このような高い温度で熱曲げ加工をすると、ガラス転移温度が本来的に低いアクリル樹脂層が柔らかい状態となってしまう。特に、ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層とハードコート層からなる多層体において、熱曲げ加工時に、アクリル樹脂層が柔らかい状態となる場合と、ハードコート層がアクリル樹脂層の変形に追従できず、ハードコート層にクラックが生じてしまう。そこで、スプリングバックを抑制するための手段として、ポリカーボネート樹脂層のガラス転移温度付近で熱曲げをするに際し、ポリカーボネート樹脂層そのもののガラス転移温度を低くすることを検討することとした。
そして、本発明者が検討を行った結果、Mw/Mnが2.80~4.40であるポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)を用いてポリカーボネート樹脂層(X)を形成することにより、上記課題を解決することに成功したものである。
以下、本発明について説明する。
【0011】
<ポリカーボネート樹脂層(X)>
ポリカーボネート樹脂層(X)は、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)から形成された層である。
前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比であるMw/Mnが2.80~4.40である。このように分子量分布が比較的大きいポリカーボネート樹脂を用いることにより、樹脂組成物(x)のガラス転移温度を低くすることができる。
【0012】
前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂のMw/Mnは、2.90以上であることが好ましく、2.95以上であることがより好ましく、2.98以上であることがさらに好ましく、3.00以上であることが一層好ましく、3.05以上であることがより一層好ましく、3.10以上であることがさらに一層好ましく、さらには3.15以上、3.20以上、3.25以上、3.30以上、3.40以上、3.50以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のスプリングバックの発生を効果的に抑制できる傾向にある。また、ポリカーボネート樹脂のMw/Mnは、4.20以下であることが好ましく、4.10以下であることがより好ましく、4.00以下であることがさらに好ましく、3.95以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時の成形品の収縮や破裂を抑制できる傾向にある。
【0013】
本実施形態においては、樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂のゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、10000以上であることが好ましく、11000以上であることがより好ましく、11500以上であることがさらに好ましく、12000以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時の成形品の収縮や破裂を効果的に抑制できる傾向にある。また、本実施形態においては、樹脂組成物(X)に含まれるポリカーボネート樹脂のゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、20000以下であることが好ましく、18000以下であることがより好ましく、17000以下であることがさらに好ましく、16000以下であることが一層好ましく、15000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時のスプリングバックを効果的に抑制できる傾向にある。
樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)が2種以上の場合、混合物の数平均分子量とする。
数平均分子量は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0014】
ポリカーボネート樹脂の分子量分布を大きくする手段としては、Mw/Mnが本来的に大きいポリカーボネート樹脂を用いること、比較的高分子量のポリカーボネート樹脂と比較的低分子量のポリカーボネートオリゴマーをブレンドすることが例示される。
本実施形態においては、上記ポリカーボネート樹脂のMw/Mnを満たすために比較的高分子量のポリカーボネート樹脂と比較的低分子量のポリカーボネートオリゴマーをブレンドすることが好ましい。より具体的には、樹脂組成物(x)が、ポリカーボネート樹脂(x1)とポリカーボネートオリゴマー(x2)を含むことが好ましい。
【0015】
<<ポリカーボネート樹脂(x1)>>
まず、ポリカーボネート樹脂(x1)について説明する。
ポリカーボネート樹脂(x1)の数平均分子量(Mn)は、25000以上であることが好ましく、また、45000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましく、35000以下であることがさらに好ましい。
ポリカーボネート樹脂(x1)の重量平均分子量(Mw)は、45000以上であることが好ましく、また、150000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、80000以下であることがさらに好ましい。
【0016】
また、ポリカーボネート樹脂(x1)の分散度(Mw/Mn)は、2.25以下であることが好ましく、2.20以下であることがより好ましく、2.15以下であることがさらに好ましく、2.10以下であることが一層好ましく、2.05以下であることがより一層好ましい。また、ポリカーボネート樹脂(x1)の分散度(Mw/Mn)は、1.80以上であることが好ましく、1.85以上であることがより好ましく、1.90以上であることがさらに好ましく、1.95以上であることが一層好ましく、1.98以上であることがより一層好ましい。
数平均分子量および分散度は、後述する実施例の記載に従って測定・算出される(以下、数平均分子量および分散度について同じ)。また、ポリカーボネート樹脂(x1)が2種以上の混合物である場合、数平均分子量および分散度は、混合物の数平均分子量および分散度とする。以下、数平均分子量および分散度について同じである。
【0017】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(x1)の開始ガラス転移温度(Tg)は、160℃以下であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、154℃以下であることがさらに好ましく、153℃以下であることが一層好ましく、152℃以下であることがより一層好ましく151℃以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(x1)の開始ガラス転移温度(Tg)は、例えば、148℃以上であり、さらには、149℃以上、150℃以上であってもよい。
開始ガラス転移温度は後述する実施例の記載に従って測定される(以下、開始ガラス転移温度について同じ)。また、ポリカーボネート樹脂(x1)が2種以上の混合物である場合、ガラス転移温度は、各ポリカーボネート樹脂(x1)の混合物のガラス転移温度とする。以下、ガラス転移温度について同じである。
【0018】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(x1)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよいし、脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、湿熱試験や高温試験などの環境試験に強く、分子量低下等による樹脂劣化が生じにくくなる。
本実施形態では、芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールA型および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂であることがより好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることがさらに好ましい。
【0019】
ビスフェノールA型およびビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、また、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
ポリカーボネート樹脂(x1)は、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0020】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0021】
<<ポリカーボネートオリゴマー(x2)>>
次に、ポリカーボネートオリゴマー(x2)について説明する。
ポリカーボネートオリゴマー(x2)の数平均分子量は、8000以下であることが好ましく、6000以下であることがさらに好ましく、5000以下であることが好ましく、4500以下であってもよく、また、1500以上であることが好ましく、2500以上であることがより好ましく、3000以上であることがさらに好ましい。
ポリカーボネートオリゴマー(x2)の重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることがさらに好ましく、12000以下であることが好ましく、11000以下であってもよく、また、3000以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましく、7000以上であることがさらに好ましい。
【0022】
本実施形態で用いるポリカーボネートオリゴマー(x2)の開始ガラス転移温度(Tg)は、130℃以下であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、115℃以下であることが一層好ましく、110℃以下であることがより一層好ましく107℃以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いるポリカーボネートオリゴマー(x2)の開始ガラス転移温度(Tg)は、例えば、95℃以上であり、さらには、100℃以上、103℃以上、105℃以上であってもよい。
【0023】
ポリカーボネートオリゴマー(x2)としては、芳香族ポリカーボネートであってもよいし、脂肪族ポリカーボネートであってもよいが、芳香族ポリカーボネートが好ましい。
本実施形態では、ポリカーボネートオリゴマー(x2)は、ビスフェノール型ポリカーボネートであることが好ましく、ビスフェノールA型および/またはビスフェノールC型ポリカーボネートであることがより好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネートであることがさらに好ましい。
本実施形態におけるポリカーボネートオリゴマー(x2)としての、ビスフェノール型ポリカーボネートは、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0024】
<<式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂>>
樹脂組成物(x)は、さらに、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をより容易に低くすることができる。
【化3】
(式(C)中、Rは、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0025】
は、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表し、炭素原子数10以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、12以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましく、さらに14以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。これにより樹脂のガラス転移温度を低くし、多層体の熱曲げ性が向上する傾向にある。また、Rは、炭素原子数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。Rは、アルキル基であることが好ましい。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、直鎖のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。
本実施形態では、Rは、特に、ヘキサデシル基であることが好ましい。
また、R-O-C(=O)-は、メタ位、パラ位、オルト位のいずれに位置していてもよいが、メタ位またはパラ位に位置していることが好ましく、パラ位に位置していることがより好ましい。
【0026】
は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表し、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることがより好ましい。
nは0~4の整数を表し、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0027】
式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよいし、脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、湿熱試験や高温試験などの環境試験に強く、分子量低下等による樹脂劣化が生じにくくなる。
式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールA型および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂であることがより好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることがさらに好ましい。
式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
式(C)で表される末端構造は、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル等の末端封止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0028】
樹脂組成物(x)が式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合、その開始ガラス転移温度(Tg)は、130℃以下であることが好ましく、129℃以下であることがより好ましく、128℃以下であることがさらに好ましく、127℃以下であることが一層好ましく、126℃以下であることがより一層好ましく125℃以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の開始ガラス転移温度(Tg)は、例えば、118℃以上であり、さらには、120℃以上、122℃以上であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物が式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、混合物のガラス転移温度が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の数平均分子量(Mn)は、15,000以上であることが好ましく、また、35,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、25,000以下であることがさらに好ましい。
式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、40,000以上であることが好ましく、また、80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。
【0030】
<<ポリカーボネートのブレンド比>>
樹脂組成物(x)は、上述の通り、ポリカーボネート樹脂(x1)60~93質量部とポリカーボネートオリゴマー(x2)7~40質量部の割合で含むことが好ましい。樹脂組成物(x)においては、ポリカーボネート樹脂(x1)とポリカーボネートオリゴマー(x2)の合計100質量部に対し、ポリカーボネートオリゴマー(x2)の割合が、8質量部以上であることが好ましく、9質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、また、35質量部以下であることが好ましく、32質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、28質量部以下であることが一層好ましく、26質量部以下であることがより一層好ましく、24質量部以下、22質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(x1)およびポリカーボネートオリゴマー(x2)を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0質量部以上、すなわち、含んでいてもよく、含まなくてもよい。本実施形態の樹脂組成物が式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合の含有量は、樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
樹脂組成物(x)は、また、その90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が上記ポリカーボネート樹脂(x1)およびポリカーボネートオリゴマー(x2)から構成されることが好ましい。
また、樹脂組成物(x)が、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合、樹脂組成物(x)は、その90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が上記ポリカーボネート樹脂(x1)、ポリカーボネートオリゴマー(x2)および式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂から構成されることが好ましい。ただし、式(C)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(x1)の一部に相当することが好ましい。
【0032】
<<他の成分>>
樹脂組成物(x)は、酸化防止剤および/または離型剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。リン系酸化防止剤は、成形品の色相に優れることから特に好ましい。
【0033】
リン系酸化防止剤は、ホスファイト系酸化防止剤が好ましく、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化4】
(式(1)中、R11およびR12はそれぞれ独立に、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基を表す。)
【化5】
(式(2)中、R13~R17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6~20のアリール基または炭素原子数1~20のアルキル基を表す。)
【0034】
上記式(1)中、R11、R12で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R11、R12がアリール基である場合、以下の式(1-a)、(1-b)、または(1-c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【0035】
【化6】
(式(1-a)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、Rは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
【0036】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特開2018-090677号公報の段落0063、特開2018-188496号公報の段落0076の記載を参照でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
酸化防止剤は、上記の他、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物(x)100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.008質量部以上であることがより好ましい。また、酸化防止剤の含有量の上限値としては、樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましく、0.15質量部以下であることが一層好ましく、0.10質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.08質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0039】
酸化防止剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、色相、耐熱変色性がより良好な成形品を得ることができる。また、酸化防止剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、耐熱変色性を悪化させることなく、湿熱安定性が良好な成形品を得ることができる。
酸化防止剤は、1種のみ用いても、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
次に、樹脂組成物(x)に含まれる離型剤について説明する。
離型剤の種類は特に定めるものではないが、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、数平均分子量100~5,000のポリエーテル、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0041】
離型剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0042】
離型剤の含有量は、樹脂組成物(x)100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.008質量部以上であることがさらに好ましい。上限値としては、0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。
離型剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0043】
樹脂組成物(x)は、上記成分の他、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物(x)の0.1~5質量%であることが好ましい。
【0044】
樹脂組成物(x)ないしポリカーボネート樹脂層(X)の開始ガラス転移温度は、143℃以下であることが好ましく、142℃以下であることがより好ましく、141℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時のスプリングバックがより抑制される傾向にある。また、樹脂組成物(x)ないしポリカーボネート樹脂層(X)のガラス転移温度は、130℃以上であることが好ましく、130℃超であることがより好ましく、さらには、131℃以上、133℃以上、135℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、シートの熱収縮が起こりづらくなる。
【0045】
また、ポリカーボネート樹脂層(X)は単層であってもよいが、多層であってもよい。
ポリカーボネート樹脂層(X)の厚みは、特に制限はないが、例えば、1μm以上であり、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましく、100μm以上であることがより一層好ましく、300μm以上であることがさらに一層好ましく、500μm以上であることが特に一層好ましく、700μm以上であってもよく、900μm以上であってもよい。また、ポリカーボネート樹脂層(X)の厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、3,000μm以下であってもよく、2,500μm以下であってもよい。
【0046】
<アクリル樹脂層(Y)>
次に、アクリル樹脂層(Y)について説明する。アクリル樹脂層(Y)は、アクリル樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成される。
樹脂組成物(y)は、少なくともアクリル樹脂を含み、さらに、スチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、および、ポリフェニレンエーテルなどの芳香族ポリエーテル樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましく、アクリル樹脂およびスチレン樹脂を含むことがさらに好ましい。樹脂組成物(y)は、その90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が上記アクリル樹脂および上記熱可塑性樹脂(好ましくはスチレン樹脂)から構成されることが好ましい。
【0047】
樹脂組成物(y)は、アクリル樹脂(y1)30~90質量部とスチレン樹脂(y2)10~70質量部とを含むことが好ましい。このような構成とすることにより、鉛筆硬度と耐熱性および耐衝撃性がより効果的に向上する傾向にある。すなわち、アクリル樹脂を配合することにより、鉛筆硬度や耐衝撃性が向上し、スチレン樹脂を配合することにより、耐熱性が向上する。
樹脂組成物(y)が、アクリル樹脂(y1)とスチレン樹脂(y2)を含む場合、そのブレンド比は、アクリル樹脂(y1)とスチレン樹脂(y2)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(y1)の含有量は、35質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、45質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることが一層好ましく、55質量部以上であることがより一層好ましく、60質量部以上であってもよく、65質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、鉛筆硬度および耐衝撃性がより効果的に向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(y1)とスチレン樹脂(y2)を含む場合、そのブレンド比は、アクリル樹脂(y1)とスチレン樹脂(y2)の含有量の合計100質量部を基準として、85質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、75質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、耐熱性の低下の抑制効果がより向上する傾向にある。
樹脂組成物(y)が、アクリル樹脂(y1)とスチレン樹脂(y2)を含む場合、アクリル樹脂(y1)およびスチレン樹脂(y2)は、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0048】
<<アクリル樹脂(y1)>>
次に、アクリル樹脂(y1)について説明する。
アクリル樹脂(y1)は、(メタ)アクリル化合物単位を含むことが好ましく、その割合は、末端基を除く全構成単位中、60質量%以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、鉛筆硬度および耐衝撃性がより向上する傾向にある。ここで、(メタ)アクリル化合物単位とは、樹脂中の(メタ)アクリル化合物から構成される構成単位をいう(後述する、「芳香族ビニル化合物単位」等についても同様である。)。前記アクリル樹脂(y1)中の(メタ)アクリル化合物単位の割合の上限値は、末端基を除く全構成単位中、100質量%であり、96質量%以下であることが好ましい。
アクリル樹脂(y1)は、(メタ)アクリル化合物単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル基を含む限り特に定めるものではないが、式(a1)で表される化合物が好ましい。
【化7】
(式(a1)中、Raは、水素原子またはメチル基であり、Raは、脂肪族基である。)
上記式(a1)において、Raは、水素原子またはメチル基であり、メチル基が好ましい。Raは、脂肪族基であり、直鎖または分岐の脂肪族基であることが好ましく、直鎖の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基は、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルキニル基(シクロアルキニル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)等が例示され、アルキル基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。Raである脂肪族基の炭素原子数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1または2であることが一層好ましく、1であることがより一層好ましい。
式(a1)で表される(メタ)アクリル化合物は、アルキル(メタ)アクリレート(好ましくはアルキルメタクリレート)であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレート(好ましくはメチルメタクリレート)であることがより好ましい。メチルメタクリレートを用いることにより、得られるアクリル樹脂層(Y)の耐衝撃強さが向上する傾向にある。
【0050】
アクリル樹脂(y1)は、(メタ)アクリル化合物単位以外の他のモノマー単位を含んでいることが好ましい。他のモノマー単位としては、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位が例示され、環状酸無水物単位、および/または、N置換マレイミド単位が好ましく、N置換マレイミド単位がより好ましい。
アクリル樹脂(y1)は、(メタ)アクリル化合物単位60~96質量%と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種(好ましくはN置換マレイミド単位)を合計で4~40質量%含むことがより好ましい。
前記アクリル樹脂(y1)において、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種(好ましくはN置換マレイミド単位)を合計量は、アクリル樹脂(y1)を100質量%としたとき、6質量%以上であることが好ましく、9質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましく、また、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましい。
アクリル樹脂(y1)は、他のモノマー単位、好ましくは、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
アクリル樹脂(y1)は、(メタ)アクリル化合物単位と、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位の少なくとも1種との合計が、アクリル樹脂(y1)を100質量%としたとき、90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めることが一層好ましい。
【0051】
環状酸無水物単位は、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位などが例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。無水マレイン酸単位を構成する無水マレイン酸およびグルタル酸無水物単位を構成するグルタル酸は、それぞれ、置換基を有していてもよいが、置換基を有していない方が好ましい。
N置換マレイミド単位は、N-シクロヘキシルマレイミド単位、N-フェニルマレイミド単位、N-メチルマレイミド単位、N-エチルマレイミド単位、N-イソプロピルマレイミド単位、N-t-ブチルマレイミド単位、N-ドデシルマレイミド単位、N-ベンジルマレイミド単位、N-ナフチルマレイミド単位が例示され、N-シクロヘキシルマレイミド単位、N-フェニルマレイミド単位が好ましい。
ラクトン環単位は、特開2006-171464号公報、および、特開2004-168882号公報に記載のラクトン環単位が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0052】
前記アクリル樹脂(y1)の開始ガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、115℃以上であることが一層好ましく、120℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック発生の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(y1)の開始ガラス転移温度(Tg)は、例えば、130℃以下であり、さらには、125℃以下であってもよい。
樹脂組成物(y)がアクリル樹脂(y1)を2種以上含む場合、アクリル樹脂(y1)の開始ガラス転移温度(Tg)とは、混合物のTgとする。
【0053】
前記アクリル樹脂(y1)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましく、70,000以上であることがさらに好ましく、80,000以上であることが一層好ましく、90,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるアクリル樹脂層(Y)の耐衝撃強さをより向上させることができる。前記アクリル樹脂(y1)の重量平均分子量は、300,000以下であることが好ましく、250,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることがさらに好ましく、170,000以下であることが一層好ましく、150,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くでき、多層体の成形が容易となる。
重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で測定される。また、アクリル樹脂(y1)が2種以上の混合物である場合、重量平均分子量は、各アクリル樹脂(y1)の重量平均分子量に質量分率をかけた値の和とする。以下、重量平均分子量について同じである。
【0054】
<<スチレン樹脂(y2)>>
次に、スチレン樹脂(y2)について説明する。
スチレン樹脂(y2)は、芳香族ビニル化合物単位を含む樹脂であり、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位を含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物単位68~84質量%と、環状酸無水物単位16~32質量%とを含むことがさらに好ましい。
より具体的には、スチレン樹脂(y2)を100質量%としたとき、環状酸無水物単位の割合は、20質量%以上であることが好ましく、23質量%以上であることがより好ましく、24質量%以上であることがさらに好ましく、また、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、27質量%以下であることが一層好ましい。
スチレン樹脂(y2)は、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位の合計が、スチレン樹脂(y2)を100質量%としたとき、90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めることが一層好ましい。
スチレン樹脂(y2)は、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0055】
スチレン樹脂(y2)における芳香族ビニル化合物単位としては、スチレン単位、α-メチルスチレン単位、o-メチルスチレン単位、p-メチルスチレン単位等のスチレン系モノマー単位が例示され、スチレン単位を含むことが好ましい。
【0056】
スチレン樹脂(y2)における環状酸無水物単位としては、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位などが例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。無水マレイン酸単位を構成する無水マレイン酸およびグルタル酸無水物単位を構成するグルタル酸は、それぞれ、置換基を有していてもよいが、置換基を有していない方が好ましい。
【0057】
スチレン樹脂(y2)は、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位以外の他のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、N置換マレイミド単位、(メタ)アクリル化合物単位、シアン化アルケニル単位が例示される。
【0058】
前記スチレン樹脂(y2)の開始ガラス転移温度(Tg)は、130℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記スチレン樹脂(y2)の開始ガラス転移温度(Tg)は、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
【0059】
前記スチレン樹脂(y2)の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましく、40,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるアクリル樹脂層(Y)の耐衝撃強さをより向上させることができる。また、前記スチレン樹脂(y2)の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くすることができる。
【0060】
樹脂組成物(y)ないしアクリル樹脂層(Y)の開始ガラス転移温度は、130℃以上であることが好ましく、131℃以上であることがより好ましく、132℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラックが発生しにくくなる。また、樹脂組成物(y)ないしアクリル樹脂層(Y)の開始ガラス転移温度は、145℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、138℃以下であることがさらに好ましく、136℃以下であることが一層好ましく、134℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時のスプリングバックが抑制される傾向にある。
【0061】
樹脂組成物(y)は、上記成分の他、上記以外の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物(y)の0.1~5質量%であることが好ましい。
特に、本実施形態においては、樹脂組成物(y)が、酸化防止剤および/または離型剤を含むことが例示される。酸化防止剤および/または離型剤の詳細は、樹脂組成物(x)の項で述べた酸化防止剤および/または離型剤と同じであり、好ましい範囲も同様である。
【0062】
また、アクリル樹脂層(Y)は単層であってもよいが、多層であってもよい。
アクリル樹脂層(Y)の厚みは、特に制限はないが、下限値が、例えば、1μm以上であり、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、60μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが一層好ましく、100μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形がより容易となるとともに、硬度が向上する傾向にある。また、アクリル樹脂層(Y)の厚さの上限に特に制限は無いが、5,000μm以下であることが好ましく、2,000μm以下であることがより好ましく、1,000μm以下であることがさらに好ましく、500μm以下であることが一層好ましく、300μm以下であることが一層好ましく、150μm以下であることさらに一層好ましい。
【0063】
<多層体の層構成および物性>
本実施形態の多層体は、上述の通り、ポリカーボネート樹脂層(X)およびアクリル樹脂層(Y)を含む。
ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の厚みの関係性は、{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、アクリル樹脂層(Y)が多層体全体として薄いものとなるため、多層体を加熱成形しても、クラックの発生がより効果的に抑制され、かつ、スプリングバックの発生がより効果的に抑制される。より具体的には、スプリングバックを抑制するには、多層体を折り曲げた際に、多層体全体に残っている曲げに対する残留応力を緩和することがより効果的である。本実施形態においては、{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}<1/6がより好ましく、{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}<1/8がさらに好ましい。また、1/35<{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}であることが好ましく、1/25<{アクリル樹脂層(Y)の厚み/[ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)の合計厚み]}であることがより好ましい。特に、本実施形態では、ポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂層(Y)が上述した所定の厚みの好ましい範囲を、また、多層体が後述する厚みの好ましい範囲を満たしつつ、上記関係を満たすことがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に達成される。
【0064】
本実施形態の多層体においては、また、ポリカーボネート樹脂層(X)のガラス転移温度とアクリル樹脂層(Y)のガラス転移温度の差(ポリカーボネート樹脂層(X)のガラス転移温度-アクリル樹脂層(Y)のガラス転移温度)が、通常、33℃以下であり、13℃以下であることが好ましい。上記上限値以下とすることにより、スプリングバックの発生をより効果的に抑制できる傾向にある。前記ガラス転移温度の差は、12℃以下であることがより好ましく、11℃以下であることがさらに好ましい。また、下限値は0℃が理想であるが、1℃以上であってもよい。
【0065】
本実施形態の多層体は、さらに、ハードコート層を含むことが好ましい。前記ハードコート層は、前記ポリカーボネート樹脂層(X)、前記アクリル樹脂層(Y)、前記ハードコート層の順に積層していることが好ましい。また、ハードコート層は、ポリカーボネート樹脂層(X)側にも設けられていてもよい。なお、前記ポリカーボネート樹脂層(X)と前記アクリル樹脂層(Y)の間、および、と前記アクリル樹脂層(Y)と前記ハードコート層の間には、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。本実施形態では、前記ポリカーボネート樹脂層(X)、前記アクリル樹脂層(Y)、前記ハードコート層の順に、連続して、積層していることが好ましい。
【0066】
次に、ハードコート層の詳細について説明する。本実施形態の多層体に含まれていてもよいハードコート層は、ポリカーボネート樹脂層よりも、表面硬度が高い層である。このようなハードコート層を含むことにより、多層体ないし成形品の表面硬度を高めることができる。
ハードコート層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、4μm以上であることが一層好ましく、5μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ハードコート層による多層体全体の鉛筆硬度がより向上する傾向にある。ハードコート層の厚さの上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時の加工性がより向上する傾向にある。
【0067】
ハードコート層は、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させて得られるものが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物が挙げられ、好ましくは、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層としては、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0068】
さらに、本実施形態の多層体は、前記ハードコート層上であって、前記アクリル樹脂層(Y)とは反対側の面に、低屈折率層を有することも好ましい。すなわち、上記多層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。
図1は、反射防止フィルムの一例を示す模式図であって、1はポリカーボネート樹脂層(X)を、2はアクリル樹脂層(Y)を、3はハードコート層を、4は反射防止層を示している。図1では、ポリカーボネート樹脂層(X)1、アクリル樹脂層(Y)2、ハードコート層3および反射防止層4が、前記順に積層しているが、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。多層体が他の層を有している場合の態様としては、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されていることが好ましい。このときの多層体の最表面の一例として、ハードコート層が挙げられる。また、アンチブロッキング処理とは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにする処理をいい、アンチブロッキング剤を添加すること、多層体の表面に凹凸を設けることなどが例示される。
さらに、本実施形態の多層体には、上記の他、他の層を有していてもよい。具体的には、接着層、粘着層、防汚層等が例示される。
【0069】
本実施形態の多層体の総厚みは、特に制限はないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましく、500μm以上であることが一層好ましい。総厚みが厚いほうが、多層体としての剛性が向上する傾向がある。また、多層体の総厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、3,000μm以下であってもよい。このような総厚みにすることで、多層体成形時において、ロール間で多層シートを圧着させ、樹脂を冷却する際に、多層体内部まで樹脂が冷却されるため、多層体の成形性を向上させることができる。
【0070】
次に、多層体の鉛筆硬度について説明する。
本実施形態の多層体は、鉛筆硬度が高い(硬い)ことが好ましい。アクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がF以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。また、上限は特に定めるものではないが、3H以下が実際的である。
特に、本実施形態の多層体において、ハードコート層を設けた場合の、アクリル樹脂層(Y)側から測定した鉛筆硬度がH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましい。また、上限は特に定めるものではないが、4H以下が実際的である。
鉛筆硬度は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0071】
<多層体の製造方法>
本実施形態の多層体は、樹脂組成物(x)を押出するメイン押出機と、樹脂組成物(y)を押出するサブ押出機とを用い、各々用いる樹脂の条件にて樹脂を溶融し押し出しダイに導き、ダイ内部で積層しシート状に成形する、もしくはシート状に成形した後に積層することで多層体を形成することができる。
【0072】
<成形品および成形品の製造方法>
次に、本実施形態の多層体を用いた成形品および成形品の製造方法について説明する。
本実施形態の成形品は、本実施形態の多層体から形成された成形品である。
本実施形態の多層体は、また、熱曲げ耐性に優れているため、屈曲部を有する用途にも適している。例えば、曲率半径が50mmR以下(好ましくは曲率半径が40~50mmR)の部位を有する成形品にも好ましく用いられる。
本実施形態の成形品は、好ましくは、本実施形態の多層体を、例えば133℃以下、また、例えば100℃以上で熱曲成形することにより得られる。本実施形態の多層体は、熱曲げ耐性に優れているため、曲率半径が50mmR以下の部位を有する成形品としたときに、特に有益である。特に、熱成形温度を低めとできるため、多層体の各層(ポリカーボネート樹脂層(X)、アクリル樹脂層(Y)等)の熱成形後の緩和が起こりやすく、熱成形をより容易にできる。本実施形態では、前記熱曲げ温度は、スプリングバックやクラックの発生の観点から115℃以上であることが好ましく、118℃以上であることがより好ましく、また、131℃以下であることが好ましい。
【0073】
<用途>
本実施形態の多層体および成形品は、光学部品や意匠製品、反射防止成形品などに好適に用いることができる。
本実施形態の多層体および成形品は、表示装置、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、各種ディスプレイ、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本実施形態の成形品は、タッチパネルのセンサー用フィルムや各種ディスプレイの反射防止成形品として好ましく用いられる。
【実施例
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0075】
1.原料
<ポリカーボネート>
E-1000F:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、Tg:152℃、数平均分子量(Mn):32,100、重量平均分子量(Mw):64,500、分散度(Mw/Mn):2.01
E-2000F:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、Tg:150℃、数平均分子量(Mn):26,400、重量平均分子量(Mw):53,100、分散度(Mw/Mn):2.01
S-3000F:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、Tg:147℃、数平均分子量(Mn):18,900、重量平均分子量(Mw):40,000、分散度(Mw/Mn):2.11
H-7000F:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、Tg:137℃、数平均分子量(Mn):11,100、重量平均分子量(Mw):24,200、分散度(Mw/Mn):2.17
T-1380:パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステルを末端封止剤に用いたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、Tg:124℃、数平均分子量(Mn):23,500、重量平均分子量(Mw):47,200、分散度(Mw/Mn):2.01
【0076】
<ポリカーボネートオリゴマー>
AL-071:ビスフェノールA型ポリカーボネートオリゴマー、三菱ガス化学株式会社製、Tg:106℃、数平均分子量(Mn):3,800、重量平均分子量(Mw):9,060、分散度(Mw/Mn):2.36
【0077】
<酸化防止剤>
アデカスタブ2112:下記化合物、tBuは、t-ブチル基を示す。
【化8】
【0078】
<離型剤>
S-100A:グリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社製、リケマールS-100A
【0079】
<アクリル樹脂>
SK540N:旭化成社製、アクリル樹脂、デルペットSK540N、N-シクロヘキシルマレイミド:N-フェニルマレイミド:MMAの質量比=7質量%:8質量%:85質量%、Tg:124℃、重量平均分子量:128,000
80HD:旭化成社製、PMMA樹脂、デルペット80HD、Tg:108℃、重量平均分子量:124,600
【0080】
<スチレン樹脂>
XIRANSO26080:Polyscope社製、スチレン樹脂、スチレン:無水マレイン酸=74質量%:26質量%、Tg:150℃、重量平均分子量:47,600
SMA-725:Jiaxing Huawen Chemical社製、スチレン樹脂、スチレン:無水マレイン酸=75質量%:25質量%、Tg:141℃、重量平均分子量:84,100
【0081】
<重量平均分子量および数平均分子量の測定方法>
ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートオリゴマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分散度(Mw/Mn)、アクリル樹脂およびスチレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0082】
<開始ガラス転移温度(Tg)の測定>
原料樹脂および樹脂組成物のガラス転移温度は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点を中間ガラス転移温度とした場合の開始ガラス転移温度をTgとした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。開始ガラス転移温度の単位は、℃で示した。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0083】
2.実施例1~13、比較例1~7
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
ポリカーボネート樹脂層(X)形成用の樹脂組成物(x)(ペレット)、および、アクリル樹脂層(Y)形成用の樹脂組成物(y)(ペレット)を以下の方法に従って製造した。
上記に記載の各成分を、表1~3に記載の添加量(表1~3の各成分は質量部表記である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。なお、ポリカーボネート樹脂層(X)形成用の樹脂組成物(x)(ペレット)については樹脂粘度によって260~300℃で適時変更しながら溶融混練し、アクリル樹脂層(Y)形成用の樹脂組成物(y)(ペレット)については260℃で溶融混練した。
【0084】
<シャルピー衝撃強さの測定>
ポリカーボネート樹脂層(X)に用いられる樹脂組成物(x)のシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1に従って測定した。
具体的には、得られた樹脂組成物(x)(ペレット)をベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、金型温度70℃の条件にて長さ80mm×幅10mm×厚さ3mmの成形体(試験片)を作製した。その後、厚み以外はJIS K7111-1に準拠し、ノッチありのシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強さを測定した。シャルピー衝撃強さの単位は、kJ/mで示した。
【0085】
<ハードコート(HC)なし多層体の製造>
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイを有する多層押出装置を用いて多層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に、表1~3に示す各実施例および比較例の層(Y)の形成に使用される樹脂組成物(y)を導入し、シリンダー温度250℃、吐出量を1.8kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機に表1~3に示す各実施例および比較例の樹脂組成物(y)にポリカーボネート樹脂層(X)の形成に使用される樹脂組成物(x)を連続的に導入し、シリンダー温度は樹脂粘度によって240℃~290に適時変更しつつ、吐出量を32.4kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、押し出して、積層した。その先に連結されたTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、各多層体を得た。得られた多層体の中央部の全体厚みは2000μm、層(Y)の厚みは100μmであった。
【0086】
<ハードコート付き多層体の製造>
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(製品名:U6HA、新中村化学工業株式会社製)60質量部、PEG200#ジアクリレート(製品名:4EG-A、共栄社化学株式会社製)35質量部、および含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマー(製品名:RS-90、DIC株式会社製)5質量部の合計100質量部に対して、光重合開始剤(製品名:I-184〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕BASF株式会社製)を1質量%加えた塗料を、上記で作製したハードコートなしの多層体のアクリル樹脂層(Y)の表面にバーコーターにて塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm)を5秒間当ててハードコートを硬化させた。ハードコート層の膜厚は6μmであった。
【0087】
<130℃熱プレス成形性評価>
上記で得られたハードコート付き多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。ハードコート層を塗装した多層体は成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハードコート層を塗装した側の表面が凸側になるように、金型に置き、金型温度130℃で5分間プレスを行った。その後上記熱プレス成形品を目視で評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:成形品に特段の不良が見られなかった。
B:多層体が収縮してしまった。
C:多層体が破裂してしまった。
【0088】
<130℃熱曲げ後スプリングバック>
上記で得られた熱プレス成形品(A判定のみ)を50mmRの円筒に沿わせて、下記の基準でスプリングバックの合否判定を行い、Aを合格とした。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:円筒に沿う(スプリングバック無し)。
B:円筒に沿わない(スプリングバック有り)。
【0089】
<130℃熱上げ後クラック>
上記で得られた熱プレス成形品(A判定のみ)の曲げ部分のクラックを目視で評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:熱プレス成形品の曲げ部分にクラックが確認されなかった。
B:熱プレス成形品の曲げ部分にクラックが確認された。
【0090】
<加熱試験後不溶物>
得られたハードコート(HC)なし多層体を真空乾燥機(ヤマト科学社製、DP23)中で、窒素下、300℃で16時間加熱した後、ジクロロメタン50mLに5g溶解させ、濾過径が10μmのメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過した。フィルター上に回収された不溶物の質量を測定した。この不溶物は、ポリカーボネート樹脂の末端にあるエステル結合が切れて、エステル交換が三次元的に起こることにより生じるゲル状の物質を含む。
以下の通り評価した。
A:5mg未満
B:5mg以上10mg未満
C:10mg以上
【0091】
<鉛筆硬度>
上記で作製したハードコートなし多層体のアクリル樹脂層(Y)側の面、ハードコート付き多層体のハードコート層側の面について、それぞれ、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
上記表1~3において、Tg(ガラス転移温度)の単位は℃で、シャルピー衝撃強さの単位はkJ/mで示した。
【符号の説明】
【0096】
1 ポリカーボネート樹脂層(X)
2 アクリル樹脂層(Y)
3 ハードコート層
4 反射防止層
【要約】
【課題】 加熱成形しても、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品の提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(x)から形成されたポリカーボネート樹脂層(X)とアクリル樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成されたアクリル樹脂層(Y)を有し、前記樹脂組成物(x)に含まれるポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比であるMw/Mnが2.80~4.40である、多層体。
【選択図】 図1
図1