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特許7427738電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 11/00 20060101AFI20240129BHJP
   G01R 31/55 20200101ALI20240129BHJP
   G01R 31/56 20200101ALI20240129BHJP
   G01R 31/67 20200101ALI20240129BHJP
   G01R 35/00 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
G01R11/00 H
G01R31/55
G01R31/56
G01R31/67
G01R35/00 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022148638
(22)【出願日】2022-09-16
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000205661
【氏名又は名称】大崎電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 亘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健翔
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6804172(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第112600247(CN,A)
【文献】国際公開第2022/044166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 11/00-11/66、
21/00-22/10、
35/00-35/06、
31/50-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
電子式電力量計の相線式および定格電圧値を計器情報として入力する情報入力手段と、三相電源の所定の2組みの各相間について電子式電力量計によって計測される有効電力値と無効電力値を計測値として、140[V]~260[V]の相間電圧を電圧測定値として、入力する計測値入力手段と、前記計測値を前記電圧測定値に基づいて電子式電力量計の前記定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正する計測値補正手段と、電子式電力量計に接続する模擬負荷の定格容量と位相角を入力する負荷値入力手段と、前記負荷値入力手段に入力される前記模擬負荷の定格容量と位相角に基づいて求まる前記所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、前記基礎データ取得手段によって取得される前記基礎データから、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、前記所定の2組みの各相間についての前記有効電力値と前記無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、前記理論値演算手段によって演算される前記理論値と前記配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、前記計測値補正手段によって補正された値の前記補正計測値と前記テーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される前記理論値とを比較する比較手段と、前記補正計測値に最も近い値を持つ前記理論値を前記比較手段の比較結果から判別し、判別した前記理論値に応じた前記配線の接続状態を特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラム。
【請求項2】
コンピュータを、
前記コンピュータと別個に設けられる電子式電力量計の相線式および定格電圧値を計器情報として入力する情報入力手段と、三相電源の所定の2組みの各相間について前記電子式電力量計によって計測され、前記電子式電力量計の外部通信ポートから出力される有効電力値と無効電力値を計測値として、140[V]~260[V]の相間電圧を電圧測定値として、センサを介して前記外部通信ポートから入力する計測値入力手段と、前記計測値を前記電圧測定値に基づいて電子式電力量計の前記定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正する計測値補正手段と、前記所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を、前記計測値補正手段によって補正された前記補正計測値から基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、前記基礎データ取得手段によって取得される前記基礎データから、前記電子式電力量計の端子部に接続される配線の正常接続状態および誤接続状態を含む各接続状態における、前記所定の2組みの各相間についての前記有効電力値と前記無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、前記理論値演算手段によって演算される前記理論値と前記配線の前記各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、前記計測値補正手段によって補正された値の前記補正計測値と前記テーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される前記理論値とを比較する比較手段と、前記補正計測値に最も近い値を持つ前記理論値を前記比較手段の比較結果から判別し、判別した前記理論値に応じて、前記電子式電力量計の設置時に前記端子部に接続された前記配線の接続状態を正常接続状態か誤接続状態かのいずれかに特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を判別するコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を判別するこの種のコンピュータプログラムとして、例えば、特許文献1に開示されたものがある。このコンピュータプログラムは、電子式電力量計から各種の計測データを計測値としてコンピュータに入力すると共に、模擬負荷の定格容量と位相角を負荷値として入力する。そして、模擬負荷の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値と位相差を基礎データとして、配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値と無効電力値を理論値として演算する。そして、計測値と理論値とを比較し、計測値に最も近い値を持つ理論値に応じた配線の接続状態を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6804172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電子式電力量計の設置現場においては、電子式電力量計に実際に印加される電圧が変動することがある。電子式電力量計に印加される電圧が変動する場合、上記従来のコンピュータプログラムでは、電子式電力量計からコンピュータに入力される計測値も変動する。有効電力値Wおよび無効電力値varの演算式にはV/Rの項が含まれるので、電圧Vが例えば10%変動すると、有効電力値Wおよび無効電力値varの計測値は20%変動する。電子式電力量計の配線の誤接続判定に影響する誤差要因で、一番影響の大きい要因は、この電圧変動である。したがって、従来のコンピュータプログラムにおいて、計測値と理論値との比較結果から特定される、電子式電力量計に接続される配線の接続状態の判定精度は、この電圧変動によって低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
コンピュータを、
電子式電力量計の相線式および定格電圧値を計器情報として入力する情報入力手段と、三相電源の所定の2組みの各相間について電子式電力量計によって計測される有効電力値と無効電力値を計測値として、140[V]~260[V]の相間電圧を電圧測定値として、入力する計測値入力手段と、計測値を電圧測定値に基づいて電子式電力量計の定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正する計測値補正手段と、電子式電力量計に接続する模擬負荷の定格容量と位相角を入力する負荷値入力手段と、負荷値入力手段に入力される模擬負荷の定格容量と位相角に基づいて求まる所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、基礎データ取得手段によって取得される基礎データから、電子式電力量計に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値と無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、理論値演算手段によって演算される理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、計測値補正手段によって補正された値の補正計測値とテーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する比較手段と、補正計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別し、判別した理論値に応じた配線の接続状態を特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムを構成した。
【0006】
また、コンピュータを、
コンピュータと別個に設けられる電子式電力量計の相線式および定格電圧値を計器情報として入力する情報入力手段と、三相電源の所定の2組みの各相間について電子式電力量計によって計測され、電子式電力量計の外部通信ポートから出力される有効電力値と無効電力値を計測値として、140[V]~260[V]の相間電圧を電圧測定値として、センサを介して外部通信ポートから入力する計測値入力手段と、計測値を電圧測定値に基づいて電子式電力量計の定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正する計測値補正手段と、所定の2組みの各相間についての皮相電力値と相間電圧に対する線電流の位相差を、計測値補正手段によって補正された補正計測値から基礎データとして取得する基礎データ取得手段と、基礎データ取得手段によって取得される基礎データから、電子式電力量計の端子部に接続される配線の正常接続状態および誤接続状態を含む各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値と無効電力値を理論値として演算する理論値演算手段と、理論値演算手段によって演算される理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成するテーブル作成手段と、計測値補正手段によって補正された値の補正計測値とテーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する比較手段と、補正計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段の比較結果から判別し、判別した理論値に応じて、電子式電力量計の設置時に端子部に接続された配線の接続状態を正常接続状態か誤接続状態かのいずれかに特定する判別手段と
して機能させるための、電子式電力量計の配線接続状態判別プログラムを構成した。
【0007】
これらの構成によれば、三相電源の所定の2組みの各相間について、有効電力値と無効電力値が計測値として、計測値入力手段により、電子式電力量計からコンピュータに入力されると共に、相間電圧が電圧測定値として入力される。そして、計測値入力手段により入力された計測値が電圧測定値に基づいて、計測値補正手段により、電子式電力量計の定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正される。比較手段では、計測値補正手段によって補正された値の補正計測値と、テーブル作成手段によって作成されたテーブルに規定される理論値とが比較される。判別手段では、補正計測値に最も近い値を持つ理論値が比較手段の比較結果から判別され、判別された理論値に応じて、電子式電力量計の設置時に端子部に接続された配線の接続状態が特定される。
【0008】
したがって、コンピュータを上記各手段として機能させるプログラムをコンピュータに実行させることで、電子式電力量計の定格電圧値を算定の基礎とする理論値と比較される計測値が、電子式電力量計の定格電圧値に応じた値の補正計測値とされる。このため、電子式電力量計の設置現場における電圧変動の影響を受けずに、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を精度良く判定することができるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子式電力量計の設置現場における電圧変動の影響を受けずに、電子式電力量計に接続される配線の接続状態を精度良く判定できるコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態によるコンピュータプログラムが適用されるパーソナルコンピュータと電子式電力量計との接続図である。
図2図1に示すパーソナルコンピュータの内部構成を示すブロック図である。
図3】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値の補正値とを対比して示す第1の表図である。
図4】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値の補正値とを対比して示す第2の表図である。
図5】一実施の形態によるコンピュータプログラムによって作成されるテーブルと電子式電力量計から入力される計測値の補正値とを対比して示す第3の表図である。
図6図5に示す第3の表図に続く表図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明による電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムを実施するための形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態による電子式電力量計の配線接続状態判別コンピュータプログラムがアプリケーションとして適用されるパーソナルコンピュータ(以下、PCと記す)1と、電子式電力量計2との接続図である。
【0013】
電子式電力量計2は、直方体状をした筐体に電子回路基板等の部品が内蔵されて構成されている。電子式電力量計2は、その正面に計測値を表示する表示部2aを備え、その下方に各配線が接続される端子部2bを備える。本実施形態における電子式電力量計2は三相3線式で、三相電源の1相、2相および3相の電源配線からVT(電圧変換器)を介して、端子部2bのP1端子、P2端子およびP3端子の各電源端子に電源電圧が印加される。P1端子はVTの出力端子1uに接続され、P2端子は接地される出力端子1v,3u、P3端子は出力端子3vに接続される。
【0014】
VTの出力端子1u,1v間には三相電源の1相,2相間の相間電圧が現れ、出力端子3u,3v間には三相電源の2相,3相間の相間電圧が現れる。したがって、P1端子,P2端子間には三相電源の1相,2相間の1側の相間電圧が印加され、P3端子,P2端子間には三相電源の3相,2相間の3側の相間電圧が印加される。ここで、1相,2相間および2相,3相間は、三相電源の所定の2組みの各相間を構成する。また、1側の相間電圧および3側の相間電圧は、三相電源の所定の2組みの相間電圧を構成する。
【0015】
電子式電力量計2の配線接続状態の確認時、三相電源に実負荷6が接続されていないときには三相電源に模擬負荷3が接続される。三相電源に実負荷6が接続されているときには、模擬負荷3が接続されなくてもよいが、模擬負荷3が実負荷6と共に三相電源に接続されてもよい。本実施形態では、後述する理論値の取得時に三相電源に模擬負荷3が接続され、電子式電力量計2の配線接続状態の確認時に三相電源に実負荷6が接続される。
【0016】
模擬負荷3は、電子式電力量計2の設置時におけるその配線接続確認用の負荷であり、予め負荷容量は分かっている。本実施形態では、模擬負荷3に100[μF]の進相コンデンサが用いられ、その定格容量は726[VA](定格電圧200[V],定格電流3.63[A])であり、力率角である負荷の位相角は90°である。実負荷6の接続により三相電源の1相、3相にはそれぞれ実負荷6の負荷容量に応じた線電流が流れる。三相電源の1相に流れる線電流は、1相の電源配線からCT(電流変換器)の出力端子1K,1Lを介して、端子部2bの1S端子,1L端子間に検出され、3相に流れる線電流は、3相の電源配線からCTの出力端子3K,3Lを介して、端子部2bの3S,3L端子間に検出される。1L端子,3L端子はP2端子と共に接地される。
【0017】
電子式電力量計2は、P1端子,P2端子間に印加される1側の相間電圧P1と1S端子,1L端子間に検出される1側の線電流I1とを乗算することで、符号付きの1側有効電力値W1および1側無効電力値var1を演算する。また、P3端子,P2端子間に印加される3側の相間電圧P3と3S端子,3L端子間に検出される3側の線電流I3とを乗算することで、符号付きの3側有効電力値W3および3側無効電力値var3を演算する。そして、1側有効電力値W1および3側有効電力値W3の合算有効電力値ΣW、並びに、1側無効電力値var1および3側無効電力値var3の合算無効電力値Σvarを演算する。また、電子式電力量計2は、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差θp1-p3を演算する。
【0018】
電子式電力量計2は、その正面に図示しない赤外線通信ポートおよび計量パルス出力ポートを持っている。この赤外線通信ポートからは、電子式電力量計2で計測される各種の計測データが電子式電力量計2の外部へ赤外線で出力される。本実施形態では、この計測データとして、有効電力量Wh、無効電力量varh、有効電力(合算有効電力ΣW)、および無効電力(合算無効電力Σvar)、1側の相間電圧P1、3側の相間電圧P3等が出力される。また、赤外線通信ポートからは、電子式電力量計2の計器情報、および、電子式電力量計2に設定される設定情報も出力される。本実施形態では、この計器情報として、電子式電力量計2の製造番号および製造年を識別する計器ID、電子式電力量計2の相線式、定格電圧および定格電流が出力される。また、設定情報として、表示部2aの表示値に対する乗率、VT・CTの変成比定数、計量パルス出力ポートから出力される計量パルスのパルス種類、パルス定数およびパルス幅が出力される。
【0019】
PC1は、赤外線通信ポートから出力される赤外線をセンサ4で検出し、ケーブル5を介して、電子式電力量計2で計測される各種の計測データを、その計器情報および設定情報と共に入力する。なお、本実施形態では、電子式電力量計2およびPC1間の通信を赤外線通信で行っているが、RS485といったシリアル通信方式やカレントループ通信方式、無線通信方式といったその他の通信方式によっても、同様に行うことができる。
【0020】
図2は、PC1内の概略構成を表わすブロック図である。PC1では、ROM(読み出し専用メモリ)11に記憶されたプログラムにしたがい、RAM(読み書き可能メモリ)12を一時記憶作業領域として、CPU(中央演算処理装置)13が種々の演算を行う。ROM11に記憶されたプログラムにしたがうこの演算により、CPU13は、コンピュータであるPC1を、計測値入力手段21,計測値補正手段21a、負荷値入力手段22,基礎データ取得手段23,理論値演算手段24,テーブル作成手段25,比較手段26,判別手段27,情報入力手段28およびデータ出力手段29として、機能させる。
【0021】
計測値入力手段21は、電子式電力量計2からセンサ4およびケーブル5を介して、所定の2組みの各相間について電子式電力量計2によって計測される、有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3を始めとする各種の計測データを計測値として、相間電圧P1,P3を電圧測定値として、入力する。計測値補正手段21aは、計測値入力手段21により入力される有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の計測値を、計測値入力手段21により入力される電圧測定値に基づいて、電子式電力量計2の定格電圧値に応じた値の補正計測値に補正する。
【0022】
有効電力値W1および無効電力値var1のこの補正計測値は、有効電力値W1および無効電力値var1の計測値、電子式電力量計2の定格電圧値VR、並びに、相間電圧P1から、例えば、次の(1-1)式に示すように算出される。
補正計測値(W1,var1)=計測値(W1,var1)×(VR/P1) …(1-1)
【0023】
また、有効電力値W3および無効電力値var3の補正計測値は、有効電力値W3および無効電力値var3の計測値、電子式電力量計2の定格電圧値VR、並びに、相間電圧P3から、例えば、次の(1-2)式に示すように算出される。
補正計測値(W3,var3)=計測値(W3,var3)×(VR/P3) …(1-2)
【0024】
負荷値入力手段22は、PC1のキーボード14等から、電子式電力量計2に接続する模擬負荷3の定格容量と位相角を負荷値として入力する。基礎データ取得手段23は、所定の2組みの各相間についての皮相電力値PI1,PI3と相間電圧P1,P3に対する線電流I1,I3の位相差θ1,θ3を基礎データとして取得する。本実施形態では、基礎データ取得手段23は、負荷値入力手段22に入力される模擬負荷3の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3を基礎データとして取得する。
【0025】
本実施形態では、模擬負荷3として三相平衡負荷を採用するため、1側および3側の各皮相電力値PI1,PI3と各位相差θ1,θ3の理論値は、それぞれ等しくなり、模擬負荷3の負荷値から次の(2-1)式と(2-2)式に表わされる。
PI1=PI3=200[V]×3.63[A]=726[VA] …(2-1)
θ1=θ3=90° …(2-2)
【0026】
理論値演算手段24は、基礎データ取得手段23によって取得される基礎データから、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態における、所定の2組みの各相間についての有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3を理論値として、後述する計算式によって演算する。テーブル作成手段25は、理論値演算手段24によって演算される理論値と、配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成する。比較手段26は、計測値補正手段21aによって補正された値の補正計測値と、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルに規定される理論値とを比較する。判別手段27は、補正計測値に最も近い値を持つ理論値を比較手段26の比較結果から判別し、判別した理論値に応じた配線の接続状態を特定する。
【0027】
本実施形態においては、計測値入力手段21は、所定の2組みの相間電圧間である、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差θp1-p3を電子式電力量計2から入力する。比較手段26は、さらに、計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3と、所定の電圧位相差である、1側の相間電圧P1と3側の相間電圧P3との間の電圧位相差300°とを比較する。判別手段27は、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とについての比較手段26の比較結果をさらに参照して、配線の接続状態を特定する。
【0028】
情報入力手段28は、電子式電力量計2からセンサ4およびケーブル5を介して、電子式電力量計2の計器情報と、電子式電力量計2に設定される設定情報を入力する。データ出力手段29は、判別手段27によって特定される配線の接続状態の情報を、情報入力手段28によって入力される計器情報と設定情報と共にデータとして出力する。このデータ出力は、PC1に設けられたUSBポート15からUSB規格にしたがって行われてPDFデータや表データとして出力されたり、プリンタ16へ行われて紙に出力されたりする。
【0029】
図3図6には、テーブル作成手段25によって作成されるテーブルの一部が表わされている。このテーブルには、電子式電力量計2に接続される配線の各接続状態を表す接続図と、接続図に対応して各端子間の接続関係を表す接続端子対応表と、配線の各接続状態に対応する理論値の計算式およびベクトル図とが表されている。ベクトル図は、配線の各接続状態における、所定の2組みの相間電圧P1,P3と線電流I1,I3との相対位相の関係を表わしている。理論値の計算式は、理論値演算手段24における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値の算出に用いられ、その計算式で算出される図示しない計算結果は、理論値として、配線の各接続状態に対応してテーブルに規定される。
【0030】
テーブルに規定される理論値の各値は、計測値補正手段21aによって補正された値の補正計測値の各値と、比較手段26によって比較される。テーブルに並んで同図に記載される測定結果は、並んでいるテーブルに示される配線の接続状態時に計測値入力手段21によって入力されて、計測値補正手段21aによって補正された値の補正計測値等の値を示す。測定結果に表わされるこれらの各補正計測値は、実負荷6としての模擬負荷が、ドライヤーなどの力率1.0の純抵抗のR負荷である場合と、進相コンデンサなどの力率0.0のコンデンサのC負荷である場合について、得られた値である
【0031】
電子式電力量計2に接続される配線の接続状態の特定には、測定結果に表わされる、1側有効電力値W1[W]および1側無効電力値var1[var]の補正計測値、並びに、3側有効電力値W3[W]および3側無効電力値var3[var]の補正計測値と、1側電圧V1および3側電圧V3の電圧測定値と、電圧位相差θp1-p3とが参照される。つまり、合算有効電力値ΣW[W]および合算無効電力値Σvar[var]は、配線の接続状態の特定に際して参照されない。
【0032】
図3の上段に示すテーブルには、電子式電力量計2に接続される配線の正常接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。配線の正常接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(3-1)~(3-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の正常接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(3-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(3-2)
W3=PI3cos(θ3-30°) …(3-3)
var3=PI3sin(θ3-30°) …(3-4)
【0033】
配線の正常接続時におけるテーブルに並ぶ測定結果は、配線の正常接続時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の正常接続状態に対して規定される、(3-1)~(3-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、正常接続状態が特定される。
【0034】
また、図3のテーブルNo.E1には、電圧回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。電圧回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNoE1以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0035】
テーブルNo.E1には、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびG(グランド・接地)に接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。
【0036】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(4-1)~(4-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1-150°) …(4-1)
var1=PI1sin(θ1-150°) …(4-2)
W3=PI3cos(θ3-30°) …(4-3)
var3=PI3sin(θ3-30°) …(4-4)
【0037】
テーブルNo.E1に並ぶ測定結果は、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(4-1)~(4-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0038】
また、図4のテーブルNo.A1およびNo.A2には、電流回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。電流回路配線のみの誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNo.A1およびNo.A2以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0039】
テーブルNo.A1には、1S端子と1L端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続されている。この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(5-1)~(5-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+210°) …(5-1)
var1=PI1sin(θ1+210°) …(5-2)
W3=PI3cos(θ3+330°) …(5-3)
var3=PI3sin(θ3+330°) …(5-4)
【0040】
テーブルNo.A1に並ぶ測定結果は、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(5-1)~(5-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0041】
テーブルNo.A2には、3S端子と3L端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続されている。この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(6-1)~(6-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(6-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(6-2)
W3=PI3cos(θ3+150°) …(6-3)
var3=PI3sin(θ3+150°) …(6-4)
【0042】
テーブルNo.A2に並ぶ測定結果は、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(6-1)~(6-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0043】
また、図5のテーブルNo.EA1、No.EA2および図6のテーブルNo.EA3には、電圧回路配線と電流回路配線との組み合わせ誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図が示されている。これら誤接続時における接続図および接続端子対応表並びに理論値計算式およびベクトル図は、図示するテーブルNo.EA1、No.EA2およびNo.EA3以外にも、それに続くテーブルが存在するが、それらの図示は省略する。
【0044】
テーブルNo.EA1には、1相側と3相側の配線を入れ替えて逆相接続状態になり、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子3vに誤接続され、P3端子がVTの出力端子3vに接続されるべきところ出力端子1uに誤接続されている。この電圧回路配線の誤接続により、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続されている。また、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続されている。
【0045】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(7-1)~(7-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI3cos(θ3-30°) …(7-1)
var1=PI3sin(θ3-30°) …(7-2)
W3=PI1cos(θ1+30°) …(7-3)
var3=PI1sin(θ1+30°) …(7-4)
【0046】
テーブルNo.EA1に並ぶ測定結果は、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に上記誤接続がある時に計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(7-1)~(7-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、1相側のP1端子と3相側のP3端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0047】
テーブルNo.EA2には、テーブルNo.E1に規定されている電圧回路配線についての誤接続と、テーブルNo.A1に規定されている電流回路配線についての誤接続とが組み合わされた誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続が入れ替わり、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびGに接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。さらに、1S端子と1L端子との配線接続が入れ替わり、1S端子がCTの出力端子1Kに接続されるべきところ出力端子1LおよびGに誤接続され、1L端子がCTの出力端子1LおよびGに接続されるべきところ出力端子1Kに誤接続されている。
【0048】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(8-1)~(8-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+30°) …(8-1)
var1=PI1sin(θ1+30°) …(8-2)
W3=PI3cos(θ3+330°) …(8-3)
var3=PI3sin(θ3+330°) …(8-4)
【0049】
テーブルNo.EA2に並ぶ測定結果は、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある時に、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、図3に示す配線の正常接続状態時に計測値入力手段21によって入力される補正計測値と同じ値となり、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される(8-1)~(8-4)式で計算される図示しない理論値と最も近い値になると同時に、図3に示す配線の正常接続状態に対して規定される(3-1)~(3-4)式で計算される図示しない理論値にも最も近い値となってしまう。
【0050】
これは、上記の(8-3)式および(8-4)式の右辺における余弦および正弦の位相であるθ3+330°=θ3-30°となり、(8-3)式および(8-4)式に示される有効電力値W3と無効電力値var3の値が(3-3)式および(3-4)式に示される正常接続状態時の値と同じになってしまうからである。したがって、判別手段27により、配線の上記誤接続状態時における補正計測値に最も近い値を持つ理論値が、比較手段26の比較結果から2つ判別されてしまい、配線の接続状態が上記誤接続状態であるのか、正常接続状態であるのか、特定されなくなる。
【0051】
このため、本実施形態では、比較手段26は、配線の上記誤接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3と、所定の電圧位相差である300°とをさらに比較する。なお、電圧位相差θp1-p3に対しては、計測値補正手段21aによる(1-1)式および(1-2)式を使った補正は行われない。判別手段27は、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とについての比較手段26の比較結果をさらに参照して、配線の接続状態を特定する。電圧位相差θp1-p3が所定の電圧位相差である300°に一致しない場合には、その電圧位相差θp1-p3と共に計測される計測値は配線の誤接続状態時に計測されたものと、判別手段27によって判別される。
【0052】
配線の正常接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3は、配線の正常接続状態時のテーブルに並ぶ測定結果(図3参照)に示されるように300°であり、所定の電圧位相差300°に一致する。一方、配線の上記誤接続状態時に計測値入力手段21によって入力される電圧位相差θp1-p3は、テーブルNo.EA2に並ぶ測定結果に示されるように120°であり、所定の電圧位相差300°に一致しない。このため、120°の電圧位相差θp1-p3と共に計測される有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の計測値は、配線の誤接続状態時に計測されたものと判別手段27によって判別され、配線の接続状態は、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、1S端子と1L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態であると特定される。
【0053】
なお、配線の接続状態確認時、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される計測値の補正値は、上記のように、配線の各誤接続状態に対してテーブルに規定される2つの理論値と同時に最も近い値になる場合がある。この場合、必ずしも、上記の誤接続時におけるように、電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とを比較することによっても、配線の誤接続状態を特定できないことがある。しかし、電圧位相差θp1-p3が所定の電圧位相差300°に一致しないことから、配線接続に誤接続があること、および、補正計測値が最も近い値となる2つの理論値に対応する2つの誤接続状態のいずれかであることは分かる。したがって、そのような場合、2つの誤接続状態に絞って配線状態を調査し、確認する必要がある。
【0054】
図6に示すテーブルNo.EA3には、テーブルNo.E1に規定されている電圧回路配線についての誤接続と、テーブルNo.A2に規定されている電流回路配線についての誤接続とが組み合わされた誤接続がある場合が規定されている。つまり、接続図に破線で示される配線、および、接続端子対応表に斜体の太字で示されるように、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続が入れ替わり、P1端子がVTの出力端子1uに接続されるべきところ出力端子1vに誤接続され、P2端子がVTの出力端子1v,3uおよびGに接続されるべきところ出力端子1u,3uおよびGに誤接続されている。さらに、3S端子と3L端子との配線接続が入れ替わり、3S端子がCTの出力端子3Kに接続されるべきところ出力端子3LおよびGに誤接続され、3L端子がCTの出力端子3LおよびGに接続されるべきところ出力端子3Kに誤接続されている。
【0055】
この配線の誤接続時における有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の理論値は、基礎データである皮相電力PI1,PI3と位相差θ1,θ3に基づいて、同テーブルに示す次の(9-1)~(9-4)式を用いて算出される。これら各式によって算出される理論値は、テーブル作成手段25によって配線の上記誤接続に対応してテーブルに記憶される。
W1=PI1cos(θ1+210°) …(9-1)
var1=PI1sin(θ1+210°) …(9-2)
W3=PI3cos(θ3+150°) …(9-3)
var3=PI3sin(θ3+150°) …(9-4)
【0056】
テーブルNo.EA3に並ぶ測定結果は、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある時に、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力された実負荷6についての計測値の、計測値補正手段21aによって補正された補正計測値である。有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の補正計測値は、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルで配線の上記誤接続状態に対して規定される、(9-1)~(9-4)式で計算される図示しない理論値に最も近い値となっている。したがって、判別手段27により、補正計測値に最も近い値を持つその理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じた配線の接続状態として、VTの出力端子1uと出力端子1vとの配線接続、および、3S端子と3L端子との配線接続に上記誤接続がある誤接続状態が特定される。
【0057】
このような本実施形態による電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによれば、上記のように、三相電源の所定の2組みの各相間について、有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3が計測値として、計測値入力手段21により、電子式電力量計2からPC1に入力されると共に、相間電圧P1,P3が電圧測定値として入力される。そして、計測値入力手段21により入力された有効電力値W1,W3と無効電力値var1,var3の計測値が、計測値入力手段21により入力された電圧測定値に基づいて、計測値補正手段21aにより、(1-1)式および(1-2)式を使って、電子式電力量計2の定格電圧値VRに応じた値の補正計測値に補正される。比較手段26では、計測値補正手段21aによって補正された値の補正計測値と、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルに規定される理論値とが比較される。判別手段27では、補正計測値に最も近い値を持つ理論値が比較手段26の比較結果から判別され、判別された理論値に応じて、電子式電力量計2の設置時に端子部2bに接続された配線の接続状態が特定される。
【0058】
したがって、コンピュータを上記各手段として機能させるプログラムをPC1に実行させることで、電子式電力量計2の定格電圧値VRを算定の基礎とする理論値と比較される計測値が、電子式電力量計2の定格電圧値VRに応じた値の補正計測値とされる。このため、電子式電力量計2の設置現場における電圧変動の影響を受けずに、電子式電力量計2に接続される配線の接続状態を精度良く判定することができるようになる。
【0059】
なお、本実施形態では、電子式電力量計2に接続される配線の接続状態を判定する際、電子式電力量計2の設置現場における電圧変動の影響を排除するため、計測値入力手段21によって電子式電力量計2から入力される計測値に対して、上記のように計測値補正手段21aによって補正を掛けている。補正の掛け方には、計測値入力手段21によって入力される計測値ではなく、理論値演算手段24によって演算される理論値に対して、補正を掛けることも考えられる。しかし、理論値演算手段24によって演算される理論値に対して、補正を掛けることとすると、次のような不都合が生じる。
【0060】
例えば、三相電源の各配線のP1,P2,P3端子への接続時、三相電源の1側の配線と3側の配線とを入れ違えた誤接続を想定した場合、電子式電力量計2の1側端子に入力される相間電圧の計測値が、PC1で、本来3側の相間電圧の計測値として扱われるべきところ、1側の相間電圧の計測値として誤って扱われてしまう。そのため、理論値に対して補正を掛けることとすると、1側の相間電圧の理論値に対して、3側の相間電圧の計測値を使用した誤補正を掛けることになってしまう。
【0061】
これに対して、本実施形態のように、計測値入力手段21によって入力される計測値に対して補正を掛ける場合、上記の誤接続をしても、電子式電力量計2の1側端子に入力される相間電圧の計測値は、PC1で、本来3側の相間電圧の計測値として扱われるべきところ、1側の相間電圧の計測値として誤って扱われてしまうが、補正は、その誤って1側の相間電圧の計測値として扱われる3側の相間電圧の計測値に対して行われる。そのため、計測値に対して補正を掛けることとすると、電子式電力量計2の1側端子に入力される実際の相(3側の相)と、PC1で補正を掛ける相(3側の相)との間に齟齬は生じない。したがって、本実施形態によれば、相間電圧に正しい補正を掛けることが可能になる。
【0062】
また、本実施形態による電子式電力量計2の配線接続状態判別コンピュータプログラムによれば、電子式電力量計2から計測値入力手段21によって入力される所定の2組みの相間電圧P1,P3間の電圧位相差θp1-p3と所定の電圧位相差300°とが、比較手段26によってさらに比較される。配線の接続状態は、判別手段27によってその比較結果がさらに参照されて特定される。このため、理論値と補正計測値との比較だけでは判別することのできない配線の接続状態が特定されるようになり、配線の接続状態をより精度高く判定することが可能となる。
【0063】
なお、上記の実施形態では、電子式電力量計2が三相3線式の場合について説明したが、単相2線式や単相3線式の電子式電力量計にも同様にして適用することができる。単相2線式電子式電力量計の場合における計測値の補正は、(1-1)式を使って行える。
【0064】
また、単相3線式電子式電力量計の場合における計測値の補正は、次のように場合分けをして、以下の各式を使って行える。つまり、P1端子・P2端子間の相1の電圧P1の計測値が70[V]~130[V]の場合、有効電力値W1および無効電力値var1の補正計測値は、定格電圧値VR=100[V]として、次の(10-1)式を使って算出する。
補正計測値(W1,var1)=計測値(W1,var1)×(100/P1) …(10-1)
【0065】
また、P1端子・P2端子間の相1の電圧P1の計測値が140[V]~260[V]の場合、P1端子・P2端子間に1相・3相間の電圧が印加される誤接続として認識し、有効電力値W1および無効電力値var1の補正計測値は、定格電圧値VR=200[V]として、次の(10-2)式を使って算出する。
補正計測値(W1,var1)=計測値(W1,var1)×(200/P1) …(10-2)
【0066】
また、P1端子・P2端子間の相1の電圧P1の計測値が70[V]~130[V]または140[V]~260[V]以外の場合、および、配線がP1端子またはP2端子に接続されていない等の原因で電圧P1の計測値がゼロで、(10-1)式または(10-2)式の演算ができない場合、次の(10-3)式に示すように、計測値補正手段21aによる補正処理は行わない。
補正計測値(W1,var1)=計測値(W1,var1) …(10-3)
【0067】
また、P3端子・P2端子間の相3の電圧P3の計測値が70[V]~130[V]の場合、有効電力値W3および無効電力値var3の補正計測値は、定格電圧値VR=100[V]として、次の(11-1)式を使って算出する。
補正計測値(W3,var3)=計測値(W3,var3)×(100/P3) …(11-1)
【0068】
また、P3端子・P2端子間の相3の電圧P3の計測値が140[V]~260[V]の場合、P3端子・P2端子間に1相・3相間の電圧が印加される誤接続として認識し、有効電力値W3および無効電力値var3の補正計測値は、定格電圧値VR=200[V]として、次の(11-2)式を使って算出する。
補正計測値(W3,var3)=計測値(W3,var3)×(200/P3) …(11-2)
【0069】
また、P3端子・P2端子間の相3の電圧P3の計測値が70[V]~130[V]または140[V]~260[V]以外の場合、および、配線がP3端子またはP2端子に接続されていない等の原因で電圧P3の計測値がゼロで、(11-1)式または(11-2)式の演算ができない場合、次の(11-3)式に示すように、計測値補正手段21aによる補正処理は行わない。
補正計測値(W3,var3)=計測値(W3,var3) …(11-3)
【0070】
また、上記の実施形態では、基礎データ取得手段23が、負荷値入力手段22に入力される模擬負荷3の定格容量と位相角に基づいて求まる皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3を、基礎データとして取得した場合について、説明した。しかし、基礎データ取得手段23は、計測値入力手段21によって入力されて、計測値補正手段21aにより補正された模擬負荷3または実負荷6の補正計測値から、基礎データを演算して取得するように構成してもよい。
【0071】
この場合、基礎データ取得手段23は、電子式電力量計2によって計測されて計測値補正手段21aにより補正された1側および3側有効電力値W1,W3と1側および3側無効電力値var1,var3から、所定の2組みの各相間についての皮相電力値PI1,PI3と位相差θ1,θ3の基礎データを次のように演算する。すなわち、皮相電力値PI1,PI3の基礎データは、補正計測値から次の(12-1)式,(12-2)式によって演算される。
PI1=(W1+var11/2 …(12-1)
PI3=(W3+var31/2 …(12-2)
【0072】
また、各位相差θ1,θ3の基礎データは、三相3線における30°の位相ズレを考慮して、計測値補正手段21aにより補正された補正計測値を用いて、次の(13-1)式,(13-2)式から演算される。
θ1=cos-1(W1/PI1)-30° …(13-1)
θ3=cos-1(W3/PI3)+30° …(13-2)
【0073】
ただし、電子式電力量計2によって計測されたvar1,var3の符号が-(マイナス)の場合、各位相差θ1,θ3の基礎データは、計測値補正手段21aにより補正された補正計測値を用いて、次の(14-1)式,(14-2)式から演算される。
θ1=-cos-1(W1/PI1)-30° …(14-1)
θ3=-cos-1(W3/PI3)+30° …(14-2)
【0074】
本構成によれば、計測値補正手段21aにより補正された模擬負荷3または実負荷6の補正計測値から、基礎データ取得手段23の演算により、基礎データが取得される。本構成によれば、この基礎データは、電子式電力量計2の定格電圧値VRに応じた値となる。したがって、本構成によっても、計測値補正手段21aによって補正された値の補正計測値と、テーブル作成手段25によって作成されたテーブルに規定される理論値とが比較されることで、上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0075】
1…パーソナルコンピュータ(PC)
2…電子式電力量計
2a…表示部
2b…端子部
3…模擬負荷
4…センサ
5…ケーブル
6…実負荷
11…ROM
12…RAM
13…CPU
【要約】
【課題】 電子式電力量計に接続される配線の接続状態を電圧変動の影響を受けずに精度良く判定できる手段を提供する。
【解決手段】 計測値入力手段21は、有効電力値と無効電力値を計測値、相間電圧を電圧測定値として入力する。計測値補正手段21aは、計測値を電圧測定値に基づいて定格電圧値に応じた補正計測値にする。負荷値入力手段22は模擬負荷3の負荷値を入力する。基礎データ取得手段23は、模擬負荷3の負荷値に基づいて求まる皮相電力値と位相差を基礎データとして取得する。理論値演算手段24は、基礎データから、配線の各接続状態における有効電力値と無効電力値を理論値として演算する。テーブル作成手段25は、理論値と配線の各接続状態との関係を規定するテーブルを作成する。比較手段26は補正計測値と理論値とを比較し、判別手段27は、補正計測値に最も近い値を持つ理論値に応じた配線の接続状態を特定する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6