(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】高強度ばね用線材および鋼線並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240129BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20240129BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/18
C21D8/06 A
(21)【出願番号】P 2022504013
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 KR2020008088
(87)【国際公開番号】W WO2021125470
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172263
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュン モ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソク‐ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン フィ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミョン スウ
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/037246(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084772(KR,A)
【文献】特開平09-143621(JP,A)
【文献】特開昭48-000313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00~38/60
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、
下記の式(1)を満たし、
微細組織は、80%以上のパーライトおよび残部のフェライトを含み、
表面のフェライト脱炭層の厚さが1μm以下であり、
高強度ばね用線材の伸線方向に垂直な断面であるC断面内
の硬度430Hv以上の
、ベイナイト、マルテンサイトを意味して鋼を急冷処理して形成される鋼の硬組織である低温組織が面積分率で5%以下で存在することを特徴とする高強度ばね用線材。
式(1):0.77≦C+(1/6)*Mn+(1/5)*Cr+(1/24)*Si≦0.83
(ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
引張強度は、1,200MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度ばね用線材。
【請求項3】
重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、
下記の式(1)を満たし、
焼戻マルテンサイト組織を90%以上含むことを特徴とする高強度ばね用鋼線。
式(1):0.77≦C+(1/6)*Mn+(1/5)*Cr+(1/24)*Si≦0.83
(ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【請求項4】
旧オーステナイト平均結晶粒径が25μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の高強度ばね用鋼線。
【請求項5】
引張強度が1,700MPa以上であり、断面減少率(RA)が35%以上であることを特徴とする請求項3に記載の高強度ばね用鋼線。
【請求項6】
重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)を満たす線材を伸線して、線径15mm以下の鋼線を用意する段階と、
前記鋼線を900~1,000℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して5~30秒間維持する段階と、
前記加熱した鋼線を高圧水冷する段階と、
前記水冷した鋼線を400~500℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して30秒以内に維持してテンパリングする段階と、
前記テンパリングした鋼線を水冷する段階と、を含み、
前記テンパリング後に水冷した鋼線は、焼戻マルテンサイト組織を90%以上含むことを特徴とする高強度ばね用鋼線の製造方法。
式(1):0.77≦C+(1/6)*Mn+(1/5)*Cr+(1/24)*Si≦0.83
(ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【請求項7】
前記線材の微細組織は、80%以上のパーライトおよび残部フェライトを含むことを特徴とする請求項6に記載の高強度ばね用鋼線の製造方法。
【請求項8】
前記線材表面のフェライト脱炭層の厚さは、1μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の高強度ばね用鋼線の製造方法。
【請求項9】
前記線材は、
高強度ばね用線材の伸線方向に垂直な断面であるC断面内
の硬度430Hv以上の
、ベイナイト、マルテンサイトを意味して鋼を急冷処理して形成される鋼の硬組織である低温組織が面積分率で5%以下で存在することを特徴とする請求項6に記載の高強度ばね用鋼線の製造方法。
【請求項10】
前記加熱した鋼線のオーステナイト平均結晶粒径が25μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の高強度ばね用鋼線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ばね用線材および鋼線並びにその製造方法に係り、より詳しくは、1,800MPa級の超高強度ばね用線材および鋼線であり、冷却時に脱炭および低温組織の制御が容易なバイク用高応力懸架ばね用線材および鋼線並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車素材市場と同様に、バイク市場も持続的に軽量化または構造変更を進めており、最近になって、既存のバイクに使用中であったデュアルタイプのサスペンションからモノタイプに変更して使用するに伴って、高強度ばね鋼に対する需要が増加している。
バイク用サスペンションに使用された既存のばね素材は、伸線材であって、モノタイプのサスペンションに使用するには強度および疲労抵抗性が不十分である問題があった。このため、自動車用焼戻マルテンサイト(Tempered Martensite)組織の線材活用が検討されたが、自動車用懸架ばねは、管理基準が厳格であり、製造しにくいだけでなく、高価であり、バイク用懸架ばねには適用しにくかった。特に自動車用懸架ばねは、バイク用に比べて相対的に直径が太いため、低温組織の管理も難しかった。そこで、バイクに活用できる新しい高強度の懸架ばねの供給が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的とするところは、低Ceqおよび最小限の合金元素の使用と、鋼線の製造時に熱処理の最適化を通じて脱炭および低温組織の制御が容易な高強度のバイクばね用線材および鋼線並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の高強度ばね用線材は、重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)を満たし、微細組織は、80%以上のパーライトおよび残部のフェライトを含むことを特徴とする。
式(1):0.77≦C+(1/6)Mn+(1/5)Cr+(1/24)Si≦0.83
ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0005】
本発明は線材表面のフェライト脱炭層の厚さが1μm以下であることがよい。
本発明は線材のC断面内硬度430Hv以上の低温組織が面積分率で5%以下で存在することができる。
本発明の線材の引張強度は、1,200MPa以下であることが好ましい。
【0006】
本発明の高強度ばね用鋼線は、重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)を満たし、焼戻マルテンサイト組織を90%以上含むことを特徴とする。
式(1):0.77≦C+(1/6)Mn+(1/5)Cr+(1/24)Si≦0.83
ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0007】
本発明は鋼線の旧オーステナイト平均結晶粒径が25μm以下であることがよい。
本発明の鋼線は、引張強度が1,700MPa以上であり、断面減少率(RA)が35%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の高強度ばね用鋼線の製造方法は、重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)を満たす線材を伸線して線径15mm以下の鋼線を用意する段階と、前記鋼線を900~1,000℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して5~30秒間維持する段階と、前記加熱した鋼線を高圧水冷する段階と、前記水冷した鋼線を400~500℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して30秒以内に維持してテンパリングする段階と、前記テンパリングした鋼線を水冷する段階と、を含むことを特徴とする。
式(1):0.77≦C+(1/6)Mn+(1/5)Cr+(1/24)Si≦0.83
ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0009】
本発明の線材の微細組織は、80%以上のパーライトおよび残部のフェライトを含むことができる。
本発明の線材表面のフェライト脱炭層の厚さは、1μm以下であることがよい。
【0010】
本発明の線材は、C断面内硬度430Hv以上の低温組織が面積分率で5%以下で存在することが好ましい。
本発明のテンパリング後に水冷した鋼線は、焼戻マルテンサイト組織を90%以上含むことがよい。
また、本発明は、加熱した鋼線のオーステナイト平均結晶粒径が25μm以下であることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Mo、Vのような高価な合金元素を最大限排除しつつ、合金元素の添加量が少ない低コストの成分系においても最適化を計り、低温組織の制御が容易であり、低いSi含有量を通じて線材の表面脱炭を最小化できる。
また、合金元素の最適化とともに、鋼線の製造時に熱処理も最適化して、脱炭および低温組織の制御が容易な高強度および高延性のばね用鋼線を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例による高強度ばね用線材は、重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)を満たし、微細組織は、80%以上のパーライトおよび残部フェライトを含む。
式(1):0.77≦C+(1/6)Mn+(1/5)Cr+(1/24)Si≦0.83
ここで、C、Mn、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0013】
以下では、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態に具体化されることもできる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
単数の表現は、文脈上、明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0014】
本明細書において「低温組織」は、ベイナイト、マルテンサイトを意味し、当該技術分野における通常の技術者の立場から鋼を急冷処理して形成される鋼の硬組織を総称する。
高強度を具現するために、バイク用モノタイプのサスペンションに自動車用焼戻マルテンサイト組織鋼材を適用することは、費用の問題と低温組織の制御の問題があった。過去には、焼戻マルテンサイト組織を形成するとき、熱処理炉で加熱した後、硬化能を十分に確保するために、油冷(oil quenching)を利用したので、MnとCrが一定の含有量以上で含まれなければならなかった。しかしながら、誘導加熱の熱処理技術の発達に伴い、水冷を活用することによって十分な冷却能を確保でき、相対的にバイク用ばね鋼素材の直径が自動車用に比べて細いため、低Ceq合金成分を活用できる可能性が高くなった。したがって、合金元素を自動車用ばね鋼素材に比べて低減しつつ、目標とする強度に調整できるようになった。
【0015】
低Ceqの場合、相対的に細径素材で脱炭および低温組織の管理が有利になるため、素材の価格を安定させることができ、また、合金元素の低減によって価格を低減できる長所がある。
これによる本発明の高強度ばね用線材および鋼線は、重量%でC:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、上記の式(1)を満たさなければならない。
【0016】
以下、本発明の実施例における合金成分の元素含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
Cの含有量は、0.55~0.65%である。
Cは、製品の強度を確保するために添加される元素である。一方、C含有量が0.55%未満である場合には、Ceqを確保できないので、冷却時にマルテンサイト組織が完全に形成されなくて、強度確保が難しく、完全なマルテンサイト組織が形成されても、目標とする強度の確保が難しいことがある。C含有量が0.65%を超過すると、衝撃特性が低下し、水冷時に焼入割れ(quenching crack)が発生する虞があるので、その含有量を0.55~0.65%に制限する。
【0017】
Siの含有量は、0.5~0.9%である。
Siは、鋼の脱酸のために使用されるだけでなく、固溶強化を通した強度の確保に有利な元素である。しかしながら、過剰添加時に表面の脱炭を誘発することがあり、材料の加工が困難になる虞があるので、目標強度および材料加工程度によって添加量を0.5~0.9%に制御する。
【0018】
Mnの含有量は、0.3~0.8%である。
Mnは、硬化能を向上させる元素であって、高強度焼戻マルテンサイト組織を作製するための必須元素の一つである。しかしながら、焼戻マルテンサイト組織鋼においてMn含有量が高まる場合、靭性が低下するので、Mn添加は、0.3~0.8%に制御する。
【0019】
Crの含有量は、0.3~0.6%である。
Crは、Mnと共に硬化能を向上に有効であり、鋼の耐食性を向上させる元素であるから、一定の水準で添加できるが、SiとMnに比べて相対的に高価な元素であり、Ceqを増加させるので、添加量を0.3~0.6%に制限する。
【0020】
Pの含有量は、0.015%以下である。
Pは、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、水素遅れ破壊抵抗性を低下させる元素であるから、最大限鉄鋼材料から排除することが好ましく、0.015%の上限を設ける。
【0021】
Sの含有量は、0.01%以下である。
Sは、Pと同様に、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるだけでなく、MnSを形成させて水素遅れ破壊抵抗性を低下させる虞があるので、その添加量を0.01%以下に限定する。
【0022】
Alの含有量は、0.01%以下である。
Alは、強力な脱酸元素であって、鋼中の酸素を除去して清浄度を高めることができるが、Al2O3の介在物を形成させるので、一定の含有量以上で添加されると、疲労抵抗性を低下させる虞がある。したがって、その添加量を0.01%以下に制限する。
【0023】
Nの含有量は、0.005%以下である。
Nは、不純物であるが、AlまたはVと結合して熱処理時に溶解しない粗大なAlNまたはVN析出物を形成する。したがって、0.005%以下に制御しなければならない。
【0024】
前記組成以外に、残部はFeであり、その他製造工程上不可避に混入する不純物を含む。本発明では、前記言及された合金組成以外に他の合金元素の追加を排除しない。
【0025】
本発明では、線材の冷却時に表面脱炭を防ぐための速い冷却速度を適用しながら、マルテンサイトまたはベイナイトのような低温組織を制御できるように、合金成分系中C、Si、Mn、Crの含有量が下記の式(1)を満たさなければならない。
式(1):0.77≦C+(1/6)*Mn+(1/5)*Cr+(1/24)*Si≦0.83
【0026】
式(1)の値が0.77未満の場合、冷却速度が速く、マルテンサイト組織の生成量またはマルテンサイト組織の強度確保が難しくなる。一方、0.83超過の場合、冷却時に低温組織が生成されて、伸線加工性の低下および追加熱処理が必要になり、適正の表面硬度の確保が難しくなる虞がある。
Si含有量が0.5~0.9%の範囲の低Si含有量と式(1)を満たすようにC、Si、Mn、Crの含有量が制御された場合、製造過程の冷却時に表面脱炭を抑制して表面のフェライト脱炭層の厚さを1μm以下にでき、C断面内硬度430Hv以上の低温組織が生成されないことがある。本発明においてC断面(Cross-sectional area)は、長さ方向に垂直な線材の断面を意味する。
【0027】
本発明による高強度ばね用線材は、ばね用線材を製造する通常の工程を経て製造できる。例えば、上記の合金組成および式(1)を満たすビレットを加熱、線材熱間圧延、巻き取りおよび冷却を経て製造できる。
製造した線材は、微細組織として80%以上のパーライトおよび残部のフェライトを含み、表面のフェライト脱炭層は、厚さが1μm以下に形成できる。また、線材の引張強度は、1,200MPa以下である。
【0028】
次に、上記の高強度線材を利用してばね用鋼線を製造する方法について説明する。
本発明の一実施例による高強度ばね用鋼線の製造方法は、重量%で、C:0.55~0.65%、Si:0.5~0.9%、Mn:0.3~0.8%、Cr:0.3~0.6%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.005%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、式(1)を満たす線材を伸線して線径15mm以下の鋼線を用意する段階と、前記鋼線を900~1,000℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して5~30秒間維持する段階と、前記加熱した鋼線を高圧水冷する段階と、前記水冷した鋼線を400~500℃の温度範囲まで10秒以内に加熱して30秒以内に維持してテンパリングする段階と、前記テンパリングした鋼線を水冷する段階と、を含む。
【0029】
通常、ばね用鋼線を製造するとき、線材を伸線して鋼線を製造した後、鋼線を加工熱処理する段階を含む。加工熱処理は、鋼線を加熱してオーステナイト化し、水冷後、テンパリングする段階からなる。
本発明による高強度ばね用鋼線は、上記の合金組成および式(1)を満たす線材をバイク用懸架ばねに使用される15mm以下の線径まで伸線して鋼線を製造する。
【0030】
引き続いて、伸線した鋼線をQT熱処理するために、900~1,000℃の温度範囲まで10秒以内に加熱し、5~30秒間維持してオーステナイト化する。オーステナイト化時に、目標温度範囲まで加熱時間が10秒を超過した場合、結晶粒が成長して所望の物性を確保し難い。また、維持時間が5秒未満の場合、パーライト組織がオーステナイトに変態しないことがあり、30秒を超過して維持時間が長くなる場合、結晶粒が粗大化するので、維持時間は、5~30秒に制御することが好ましい。
【0031】
オーステナイト化した鋼線は、沸騰膜を除去できるほどの高圧で水冷する。冷却を水冷でなく、油冷で行う場合、低いCeqに起因して所望の強度を確保できない。また、水冷時に沸騰膜を除去できるほどの高圧の水圧を使用しないと、焼入割れ(quenching crack)の発生確率が高まるので、冷却時に最大限高い圧力で四方から水を散布して冷却しなければならない。
【0032】
水冷した鋼線は、400~500℃の温度範囲まで10秒以内に加熱し、30秒以内に維持してテンパリングする。テンパリング温度が400℃未満の場合、靭性を確保することが難しく、加工が困難となり、製品が破損する危険が高まる。一方、500℃超過の場合、強度が低下するので、上記の範囲にテンパリング温度を制限する。また、テンパリング時に、目標温度範囲まで10秒以内に加熱できない場合、粗大な炭化物が形成されて、靭性が低下するので、必ず10秒以内に加熱する必要がある。
以後、テンパリングした鋼線を常温にまで水冷する。
【0033】
本発明による製造条件で製造されたばね用鋼線は、熱処理後に焼戻マルテンサイト組織を90%以上含む。また、鋼線の旧オーステナイト平均結晶粒径が25μm以下であり、引張強度が1,700MPa以上であって、バイク用懸架ばねに要求される高強度物性を確保できる。また、35%以上の優れた断面減少率(RA)を示して、高延性を確保できる。
以下、本発明の好ましい実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0034】
実施例
下記の表1の合金組成を有する材料をインゴット(ingot)に鋳造後、1,200℃で均質化熱処理し、980℃から820℃まで温度を下げながら最終厚さ14mmに熱間圧延した後、2.5℃/sの速度で冷却した。表2は、上記の製造過程によって製造された線材のC断面低温組織の面積分率、硬度、引張強度、および脱炭層の厚さに対する測定結果を示す表である。表2で、低温組織の面積分率(%)は、線材のC断面上の低温組織の面積分率を意味する。
【0035】
【0036】
【0037】
比較例1~3および発明例1~2の線材を伸線して線径12mmの鋼線に製造し、下記の表3に示す条件で熱処理を行った。オーステナイト化後には高圧水冷を実施し、テンパリング後には一般水冷で冷却した。
【0038】
【0039】
表1~表3に示したとおり、本発明の合金組成、式(1)および製造条件を全部満足する発明例1、2は、いずれも、強度1,700MPa以上であり、冷却時に低温組織が生成されないことを確認できた。
一方、比較例1は、Si含有量が過多であり、冷却時にフェライト脱炭層が形成された。比較例2は、式(1)の値が0.77未満であって、1,700MPa以上の目標強度を確保できなかった。比較例3は、式(1)の値が0.77以上0.83以下であったが、Cr含有量が本発明において限定する範囲から外れており、1,700MPa以上の目標強度を確保することができず、断面減少率(RA)も35%より少なかった。
【0040】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、下記に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による高強度ばね用線材は、自動車、バイク、各種移動手段の懸架ばねまたは多様な産業分野において用いられるばねに適用可能である。