(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】低VOCを有する水性コーティング材料を製造するためのミキサーシステム
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20240129BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240129BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20240129BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240129BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/02
C09D7/43
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2022506402
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070019
(87)【国際公開番号】W WO2021018594
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シュテッフェンス,アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】レットマン,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ラデマッハー,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,ペーター
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-524150(JP,A)
【文献】特開2003-226843(JP,A)
【文献】特開2004-277536(JP,A)
【文献】特表2019-527273(JP,A)
【文献】特開平06-340830(JP,A)
【文献】特表2001-511828(JP,A)
【文献】特表2003-504483(JP,A)
【文献】特表2008-536966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
C09D 5/02
C09D 7/43
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 少なくとも1種の色顔料(a-1)と、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)とを含む、少なくとも1種の水性顔料ペーストAと、
(b) 少なくとも1種のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を含む、少なくとも1種の顔料非含有成分Bであって、前記アクリレートベースのミクロゲル分散体が50~60℃のガラス転移温度T
gを有する、顔料非含有成分Bと
を含む水性コーティング材料を製造するためのキットであって、
前記水性顔料ペーストA及び前記顔料非含有成分Bは、それぞれ、250g/L以下のVOC値を有し、前記VOCは下式
VOC(g/L)=(揮発性構成成分の合計質量(g)-水の合計質量(g))/(コーティング材料の体積(L)-水の体積(L))
で表される、キット。
【請求項2】
前記顔料ペーストAの前記アニオン性安定化バインダー(a-2)が、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーであり、前記アニオン性安定化ポリウレタンポリマーが、固形分含有量に基づいて20~40mgKOH/gの酸価を有し、前記分散体が7.0~8.0のpHを有し、そして前記分散体が、500~1500Daの平均モル質量M
nを有するポリオールを含む、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記顔料ペーストAの前記非イオン性安定化バインダー(a-3)が、水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートコポリマーであり、前記非イオン性安定化アクリレートコポリマーが、
(I) 少なくとも1個のイオン化可能な官能基、活性水素を有する官能基、又はそれらの組み合わせを有する少なくとも1つのアンカー基モノマー単位であって、
― 前記イオン化可能な官能基がカルボン酸基以外の基であり、なお、このカルボン酸基におけるカルボニル炭素は、最も近いエチレン性不飽和炭素から少なくとも4個の原子により隔てられており、
― モノマー単位(a)のアンカー基が、ポリオキシアルキレン基を含有しておらず、そして
― 前記アンカー基モノマー単位の1つが、1-(2-メタクリロイルオキシエチル)-2-イミダゾリジノンを共重合したものである、
アンカー基モノマー単位と、
(II) ポリオキシアルキレン基、ガンマ-ヒドロキシカルバメート基、ベータ-ヒドロキシカルバメート基、及びこれらの組み合わせを含む、モノマーの合計質量に基づいて5質量%~45質量%の少なくとも1つのモノマー単位と、
(III) モノマーの合計質量に基づいて1~50質量%の、少なくとも1つの芳香族モノマー単位と
の反応によって得ることができる、請求項1及び2に記載のキット。
【請求項4】
少なくとも1種の顔料ペーストAが、非イオン性安定化バインダー(a-3)の合計量とアニオン性安定化バインダー(a-2)の合計量との質量比を、各場合において前記バインダーの固形分含有量に基づいて、0.1~3で有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
少なくとも1種の顔料ペーストAが、各場合において前記水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、0~10質量%の合計量で有機溶媒を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
前記アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)が、各場合において前記分散体の固形分含有量に基づいて、80%~100%のゲル割合を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記顔料非含有成分Bが、前記アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を、各場合において前記顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、1~15質量%の合計量で含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記顔料非含有成分Bとしてのアニオン性安定化バインダー(b-2b)が、100~500nmの粒子径を有し水中において分散体の状態である少なくとも1種のアニオン性安定化ポリマーを含み、前記ポリマーの調製は、オレフィン性不飽和モノマーの3種の混合物(A)、(B)及び(C)の逐次ラジカル乳化重合を含み、ここで
― 前記混合物(A)は、少なくとも50質量%のビニル芳香族モノマーを含み、そして前記混合物(A)から調製されたポリマーが10~65℃のガラス転移温度を有し、
― 前記混合物(B)は、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、そして前記混合物(B)から調製されたポリマーが-35~15℃のガラス転移温度を有し、そして
― 前記混合物(C)は、少なくとも1種のアニオン性モノマーを含み、そして前記混合物(C)から調製されたポリマーが-50~15℃のガラス転移温度を有し、
そして、
i. まず、前記混合物(A)を重合させ、
ii. 次いで、i.で調製したポリマーの存在下で前記混合物(B)を重合させ、そして
iii. その後、ii.で調製したポリマーの存在下で前記混合物(C)を重合させる、請求項1から7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記顔料非含有成分Bとしてのアニオン性安定化バインダー(b-2c)が、水中において分散体の状態である少なくとも1種のアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマーを含み、
前記ハイブリッドポリマーが、
- 1000~30000Daの数平均分子量を有し、且つ分子あたりの平均で0.05~1.1の重合性二重結合を含有する、非イオン性ポリウレタンポリマーと、
- 少なくとも1個のカルボン酸基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーと
の少なくとも1種の水不溶性開始剤の存在下におけるラジカル反応によって得ることができ、
非イオン性ポリウレタンポリマーと前記少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーとの質量比が1:10~10:1である、請求項1から8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
前記水性顔料ペーストA及び前記顔料非含有成分Bが、それぞれ0~250g/LのVOC含有量を有する、請求項1から9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
成分Cをさらに含み、前記成分Cが少なくとも1種の増粘剤及び成分Cの合計質量に基づいて90~98質量%の水を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
0~250g/LのVOC含有量を有する水性コーティング材料を、少なくとも2種の水性成分を混合することによって製造する方法であって、請求項1から
10のいずれか1項に記載のキットを使用し、前記顔料ペーストAと、前記顔料非含有成分
Bとを混合することにより水性コーティング材料を製造する方法。
【請求項13】
0~250g/LのVOC含有量を有する水性コーティング材料を、少なくとも2種の水性成分を混合することによって製造する方法であって、請求項11に記載のキットを使用し、前記顔料ペーストAと、前記顔料非含有成分B及び前記成分Cとを混合することにより水性コーティング材料を製造する方法。
【請求項14】
前記水性コーティング材料が、各場合において前記コーティング材料の合計質量に基づいて、0~7質量%の合計量で有機溶媒を含む、請求項12
または13に記載の方法。
【請求項15】
自動車ボディ及び/又はプラスチック部品の再仕上げ用の及び/又はコーティング用の水性コーティング材料を製造するための、請求項1から
11のいずれか1項に記載のキットの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の色顔料を含む少なくとも1種の水性顔料ペーストAと、50~60℃のガラス転移温度Tgを有するアクリレートベースのミクロゲル分散体を含む少なくとも1種の顔料非含有成分Bとから、水性コーティング材料を製造するためのミキサーシステムに関するものであり、水性顔料ペーストA及び成分Bは両方とも、それぞれ、250g/L以下のVOC値を有する。
【0002】
本発明はさらに、0~250g/L、とりわけ100~250g/LのVOC含有量を有する水性コーティング材料を製造するための方法であって、個々の成分A及びBを別々に貯蔵し、そして施与の直前まで混合せずに水性コーティング材料を得る、方法に関するものである。
【0003】
本発明は最後に、自動車ボディ及び/又はプラスチック部品の再仕上げ用の及び/又はコーティング用の水性コーティング材料を製造するための、本発明のミキサーシステムの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
マルチコート塗装系における可能性として、損傷部位を修復するための慣例的な方法は、損傷部位の入念な洗浄とサンディング、場合により補修(spackling)と充填を伴う。その後、及び場合によりさらに前処理を行った後、慣例として損傷部位に隠蔽被覆をスプレーするが、これは、効果コーティング材料、例えば金属ベースコート材料などの境界領域、又はソリッドカラーのコーティング材料を有する境界領域内に流れ出る。このようにして生成されたコーティングの初期乾燥後、クリアコート材料をコーティング及び境界部分の上にスプレーし、そして、任意の必要なフラッシュオフ時間の後、クリアコートコーティングを、先に施与した被覆と一緒に、好ましくは15~80℃の温度で乾燥させる。損傷部位の修復に有効な、2コート法で施与されるコーティング材料及び/又はソリッドカラーコーティング材料として慣例的に使用されるのは、バインダーに加えて、色及び/又は効果顔料、及び高い割合の有機溶媒混合物を含む低ソリッドコーティング材料である。
【0005】
生産ラインの仕上げ分野で使用されている水で薄めることが可能な系(water-thinnable systems)は現在、再仕上げの分野では使用することができない。2つの分野で系に要求されるものが異なるからである。例えば、生産ラインの仕上げ(元の車両仕上げ)に使用される水で薄めることが可能な金属ベースコート材料は、再仕上げ分野に十分な貯蔵安定性に欠ける。なぜなら、この水で薄めることが可能なコーティング材料は、ガス発生安定性(水とアルミニウムブロンズの反応による水素の生成)及び/又は効果安定性の問題を受けるからである。両要因は、得られたコーティングを直視したときの色合い(shade)及び/又は明るさを永久に損なう。さらに、これらの系は通常架橋剤を含んでおり、架橋剤は再仕上げ用の系には用いられない。従って再仕上げにおいては、これらの系は用いられていない。
【0006】
経済的理由から、作業場の安全性(防火性)の向上、及びコーティングフィルム乾燥時の環境的負荷の低減のため、再仕上げ分野では、先行技術よりも低VOC(揮発性有機化合物)を有し、よって対応するマルチコート塗装系製造時のVOC排出がより少なく、従ってより環境に優しい製造を可能とする、新規のコーティング組成物の提供も懸念される。
【0007】
VOC含有量を低下させる1つの方法は、コーティング組成物の固形分含有量を上げることである。固形分含有量20~30%の中固形分ベースコート系から、施与可能な状態(及びスプレー粘度)で固形分含有量35%を超えるいわゆる高固形分ベースコート系に切り替えることにより、処理作業において著しいVOC低減を達成することが可能である。高固形分クリアコート(スプレー粘度において45%以下又はそれを超える高固形分含有量を有するクリアコート材料)の使用に関しても、同様の論評が当てはまる。
【0008】
VOC含有量を低減する別の方法は、コーティング材料又は組成物を製造するために、水性成分を使用することである。
【0009】
環境に優しいという側面以外に、中心的な重要事項は、同時に、コーティング組成物及びそれから製造されるマルチコート塗装系の他の技術的特性及び審美的特性が保持されることである。よって仕上がったコーティングは、境界条件にかなりの違いがあるにもかかわらず、視覚的及び技術的な観点から、焼き付けられた元の塗装系と同等でなければならない。
【0010】
自動車再仕上げの分野では特に、損傷部位を修復する際、修復に使用するコーティング組成物が、生産ラインのOEM仕上げのコーティングと同じか、又は少なくともほぼ同じ色合いを有していて、再仕上げ後に修復が行われたことが全く認識できないようにすることが重要である。
【0011】
対応するコーティング組成物が、所望される色合いでコーティング製造業者から直接供給されることは、原理的には確かに可能である。しかしながらこのことの欠点は、各補修のために少量しか必要とされないことが多く、しかも対応する完全形成されたコーティング組成物の貯蔵における安定性はしばしば、少なくとも長期間、例えば12ヶ月を超える期間にわたらないということである。このような手順は、経済的な理由で不利な点を示す。
【0012】
従って、特に自動車再仕上げの分野において、コーティング組成物を個別に製造することが有利であることが判明している。この目的のために、種々の成分を含む対応するミキサーシステム(mixer system)が提供され、そしてこれらの成分は、必要に応じて個別に互いに混合されて、対応するコーティング組成物が製造される。このミキサーシステムからの製造の利点は、全ての色合いを個別に製造して備蓄する必要がなく、従って製造、流通、及び倉庫のコストを低減できることである。この場合、ミキサーシステムの成分が十分な貯蔵安定性(少なくとも12ヶ月)を有することが不可欠である。
【0013】
公開された明細書DE4110520A1では、種々の水を含まないベース塗料Aと、少なくとも1種の水を含有し顔料非含有成分Bとを含むミキサーシステムが開示されている。このミキサーシステムから製造されるコーティング材料のVOC含有量は、これにより低減することができるが、それでもなお、スプレー可能な状態のコーティング材料は、依然として319~420g/Lの非常に高いVOC含有量を有する。
【0014】
公開された明細書EP1183313A1では、水を含まないベース塗料中に効果顔料が存在するミキサーシステムが開示されている。このミキサーシステムはさらに、色顔料を有する水性ベース塗料、及び水性混合ワニスを含む。ここでも同様に、効果顔料を含む水を含まないベース塗料は、非常に高いVOC含有量を有する。
【0015】
公開された明細書EP0608773A1、EP0706543A1及びEP0614951A1ではそれぞれ、少なくとも20質量%の水を含有する塗料モジュールと、水性で顔料を含まない混合ワニスとを含むモジュール系が開示されている。この塗料モジュールも依然として比較的高い溶媒含有量を有している。
【0016】
さらに、公開された明細書EP0468293A1には、種々のビルディングブロックに基づく水性コーティング材料が記載されている。しかしながら、効果ビルディングブロックは水を含まないことが必要である。従って、使用可能な状態のコーティング材料も、依然として330~340g/Lの決定的に高いVOC含有量を常に有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】DE4110520A1
【文献】EP1183313A1
【文献】EP0608773A1
【文献】EP0706543A1
【文献】EP0614951A1
【文献】EP0468293A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
よって発明が対処する課題は、ミキサーシステムの成分の全てが多くとも250g/LのVOC含有量を有するミキサーシステムを提供することである。特に、このミキサーシステムは、特に自動車ボディの損傷部位における再仕上げに好適な水性コーティング材料の製造を可能にするものであるべきである。ここでの意図は、水性コーティング材料の高い色合い精度を確実にし、それにより所望の色合いが最高の精度及び再現性で、塗装場にとって高価且つ不便な手段なしで確立されるのを可能にすることである。これは、このミキサーシステムを構築するために使用される水性顔料ペーストが非常に良好な貯蔵安定性(>24ヶ月)を有しなければならないことを意味する。
【0019】
同時に、コーティングの他の特性、例えば、元の仕上げへの接着性は、悪影響を受けるべきではない。接着性の問題は特に、被覆された基材が風化に曝露されたときに際立つ。それ故水性コーティング材料は、風化を受けた後でさえ、依然として傑出した接着特性を有するべきである。特に、気泡も膨れも生じてはならない。
【0020】
上記の課題は、特許請求の範囲の主題、及び以下の本明細書中に記載するその主題の好ましい実施態様によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従って本発明の第一の主題は、以下の成分、
(a) 少なくとも1種の色顔料(a-1)と、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)とを含む、少なくとも1種の水性顔料ペーストAと、
(b) 少なくとも1種のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を含む、少なくとも1種の顔料非含有成分Bであって、該アクリレートベースのミクロゲル分散体が50~60℃のガラス転移温度Tgを有する、顔料非含有成分Bと
を含む水性コーティング材料を製造するためのミキサーシステムであり、
水性顔料ペーストA及び顔料非含有成分Bは、それぞれ、250g/L以下のVOC値を有する。
【0022】
この文脈におけるVOC値は、次のように定義される:VOC(g/L)=(揮発性構成成分の合計質量(g)-水の合計質量(g))/(コーティング材料の体積(L)-水の体積(L))。本目的における揮発性構成成分は、処理温度、特に20℃で、10パスカルを超える蒸気圧を有する化合物である(BImSchV31及び対応するEUのVOC指令及びVOC規則を参照)。さらに、揮発性構成成分は、101.3kPaの標準圧力下で250℃以下の開始沸点を有する有機化合物である(欧州議会及び理事会指令2004/42/ECを参照)。
【0023】
本発明のさらなる主題は、0~250g/L、とりわけ100~250g/LのVOC含有量を有する水性コーティング材料を、少なくとも2種の水性成分を混合することによって製造する方法であり、ここで本発明のミキサーシステムを使用し、顔料ペーストAと、顔料非含有成分B及び場合により成分Cとを混合することによって、水性コーティング材料を製造する。
【0024】
本発明はさらに、自動車ボディ及び/又はプラスチック部品の再仕上げ用の及び/又はコーティング用の水性コーティング材料を製造するための、本発明のミキサーシステムの使用方法に関するものである。
【0025】
本発明のミキサーシステムの個々の成分だけでなく、本発明のミキサーシステムから製造可能な水性コーティング材料も、それぞれ多くとも250g/LのVOC含有量を有する。このようなVOC含有量を達成するために、本発明のミキサーシステムの成分は、その溶媒として主に水を含み、つまり有機溶媒は少量しか存在しない。この低減された溶媒の割合は、経済的な利点だけでなく、作業場の安全性(防火性)の向上、及びコーティングフィルムの乾燥に伴う環境負荷の低減につながる。
【0026】
VOC含有量が低いにもかかわらず、本発明のミキサーシステムの個々の成分は、優れた貯蔵安定性を示す。その上、高い色合い精度が達成される。さらに、水性コーティング材料は、良好なレベリング性、良好なスプレーミスト吸収性、及び良好な隠蔽性を示す。加えて、水性コーティング材料から製造されたマルチコート塗装系は、傑出した機械的特性、特に元の仕上げに対する良好な接着性、及び高い耐凝縮性とストーンチップ接着性も示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のミキサーシステムは、少なくとも成分(a)及び(b)を含む。ここで成分とは、貯蔵安定性があり、別々に貯蔵可能なビルディングブロック(混合ビルディングブロック)を意味し、これらを混合することにより、完全に形成された水性コーティング材料が製造され、この水性コーティング材料は場合により、依然として施与粘度に調整することができる。個々の成分の混合により、所望の調和可能な色調を得ることができる。成分は、例えば、少なくとも成分(a)及び(b)を含むキットの形態で使用者に提供される。
【0028】
成分(a)及び(b)それぞれの異なる形態のものが提供されてもよい。このようにして、成分(a)及び(b)の1種以上の形態からなるシリーズが形成される。特に好ましくは、1~100種の異なる成分(a)の形態と、1~6種の異なる成分(b)の形態が提供される。
【0029】
さらに、本発明においては、本発明のミキサーシステムがさらなる成分を含むようにしてもよい。この種類の実施態様は、成分(a)及び(b)の記載に続いて設定される。
【0030】
成分(a)
成分(a)は、少なくとも1種の色顔料(a-1)と、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)とを含む、水性顔料ベースのAである。顔料ペーストAは、250g/L以下のVOC含有量を有する。
【0031】
「水性顔料ペースト」という表現は、当業者に知られている。これは基本的に有機溶媒のみをベースとするものではない顔料ペーストを指す。実際に、有機溶媒をベースとするこの種類の顔料ペーストは有機溶媒のみを含有し、そして成分を溶解及び/又は分散させるための水を含有しないか、又は水を添加して不明確に調製されるペーストである(水はその代わりに、不純物、大気中の水分の形態でのみ、及び/又は使用される任意の特定の添加剤の溶媒としてペーストに入る)。このようなペーストは、水性顔料ペーストとは対照的に、溶媒ベース又は「有機溶媒ベース」と称される。本発明の文脈における「水性」とは、好ましくは、当該顔料ペーストが、各場合において存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の合計量に基づいて、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも30質量%の水の割合を有することを意味すると理解される。そして好ましくは、水の割合は、各場合において存在する溶媒の合計量に基づいて、60~100質量%、とりわけ70~98質量%、非常に好ましくは75~95質量%である。
【0032】
「バインダー」という用語に関連して、Roempp-Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York、1998年、第73及び74頁、「Bindemittel」を参照されたい。
【0033】
水性媒体中での分散性を向上させるために、バインダー(a-2)は、アニオン性基(潜在的アニオン性基)中の中和剤によって変換されることができる或る特定の基を含み、そしてバインダー(a-3)は或る特定の非イオン性基を含有する。これらのバインダーは本発明の文脈において、それぞれアニオン性安定化バインダー(a-2)及び非イオン性安定化バインダー(a-3)と称される。中和剤によってアニオン性基に変換されることができるアニオン性基は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基、特にカルボン酸基である。非イオン性安定化のための基は、好ましくはポリ(オキシアルキレン)基、とりわけポリ(オキシエチレン)及び/又はポリ(オキシプロピレン)基である。
【0034】
色顔料(a-1):
当業者は、色顔料の概念に精通している。本発明における「色顔料」という用語は、「着色顔料」又は「色付与顔料」と交換可能である。顔料の対応する定義及びそのさらなる特定は、DIN55943(日付:2001年10月)で取り扱われる。
【0035】
色顔料は、好ましくは、無機及び/又は有機色顔料及び/又はフィラーの群から選択される。
【0036】
特に好ましく使用される有機色顔料は、(i)モノアゾ顔料、例えば、C.I.Pigment Brown25、C.I.Pigment Orange5、36及び67、C.I.Pigment Orange5、36及び67、C.I.Pigment Red3、48:2、48:3、48:4、52:2、63、112及び170、及びC.I.Pigment Yellow3、74、151及び183、(ii)ジスアゾ顔料、例えば、C.I.Pigment Red144、166:214及び242、及びC.Pigment Yellow83、(iii)アントラキノン顔料、例えばC.I.Pigment Yellow147及び177、及びC.I.Pigment Violet31、(iv)ベンズイミダゾール顔料、例えばC.I.Pigment Orange64、(v)キナクリドン顔料、例えばC.I.Pigment Orange48及び49、C.I.Pigment Red122、202及び206、及びC.I.Pigment Violet19、(vi)キノフタロン顔料、例えばC.I.Pigment Yellow138、(vii)ジケトピロロピロール顔料、例えばC.I.Pigment Orange71及び73、及びC.I.Pigment Red254、255、264及び270、(viii)ジオキサジン顔料、例えばC.I.Pigment Violet23及び37、(ix)インダントロン顔料、例えばC.I.Pigment Blue60、(x)イソインドリン顔料、例えばC.I.Pigment Yellow139及び185、(xi)イソインドリノン顔料、例えばC.I.Pigment Orange61及びC.I.Pigment Yellow109及び110、(xii)金属錯体顔料、例えばC.I.Pigment Yellow153、(xiii)ペリノン顔料、例えばC.I.Pigment Orange43、(xiv)ペリレン顔料、例えばC.I.Pigment Black32、C.I.Pigment Red149、178及び179、及びC.I.Pigment Violet29、(xv)フタロシアニン顔料、例えばC.I.Pigment Violet29、C.I.Pigment Blue15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6及び16、及びC.I.Pigment Green7及び36、(xvi)アニリンブラック、例えばC.I.Pigment Black1、(xvii)アゾメチン顔料、及び(xviii)これらの混合物の群から選択される。
【0037】
特に好ましく使用される無機色顔料は、(i)白色顔料、例えば二酸化チタン(C.I.Pigment White6)、白色亜鉛、顔料酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポン、(ii)黒色顔料、例えば黒色酸化鉄(C.I.Pigment Black11)、鉄マンガンブラック、スピネルブラック(C.I.Pigment Black27)、カーボンブラック(C.I.Pigment Black7)、(iii)有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、赤色酸化鉄(C.I.Pigment Red101)、モリブデートレッド(C.I.Pigment Red104)、ウルトラマリンレッド、褐色酸化鉄、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相(C.I.Pigment Brown24、29及び31)、黄色酸化鉄(C.I.Pigment Yellow42)、ビスマスバナデート(C.I.Pigment Yellow184)、及び(iv)これらの混合物の群から選択される。
【0038】
フィラーとして典型的に使用される無機顔料の例は、透明な二酸化ケイ素、粉砕石英、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、天然雲母、天然及び沈殿チョーク、及び硫酸バリウムである。
【0039】
色顔料(a-1)は、好ましくは、或る特定の合計量で使用される。より好ましくは、水性顔料ペーストAは、少なくとも1種の色顔料(a-1)を、水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、0.08~50質量%、好ましくは2.5~47質量%の合計量で含む。
【0040】
少なくとも1種の色顔料(a-1)の他に、水性顔料ペーストAは、少なくとも1種の効果顔料をさらに含んでよい。効果顔料は、コーティング仕上げにおいて装飾効果を生じさせる顔料であり、そしてさらに着色効果をもたらすこともあるが、それだけに限定されるものではない。効果顔料は、特に板様の構造であることが注目される。そのような効果顔料は当業者に知られており、例えば、Roempp-Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York、1998年、第176及び451頁に記載されている。
【0041】
好ましい効果顔料は、例えば、板形状(platelet-shaped)の金属効果顔料、例えば板形状のアルミニウム顔料、ゴールドブロンズ、酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄-アルミニウム顔料、真珠光沢顔料及び/又は金属酸化物-マイカ顔料及び/又は他の効果顔料、例えば板形状のグラファイト、板形状の酸化鉄、PVDフィルムから構成される多層効果顔料及び/又は液晶ポリマー顔料である。特に好ましいのは、板形状の金属効果顔料、特に板形状のアルミニウム顔料及び/又は被覆金属酸化物-マイカ顔料である。
【0042】
多様なこれら効果顔料が市販されており、粒子径、粒度分布、及び粒子形態が異なる。顔料は、コーティングフィルムの所望の効果に応じて選択される。本発明においては、水性顔料ペーストが1種の効果顔料(a-1)のみか、或いは異なる効果顔料(a-1)の混合物を含有することが可能である。
【0043】
しかしながら、本発明によれば、好ましくは、水性顔料ペーストAは、水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、0質量%の効果顔料を含有する。
【0044】
バインダー:
水性顔料ペーストAは、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を含む。これらのバインダーは、好ましくは或る特定の合計量で存在する。水性顔料ペーストは、好ましくは、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)、とりわけ以下に記載するアニオン性安定化バインダー(a-2)及び以下に記載する非イオン性安定化バインダー(a-3)の混合物を、各場合において水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、5~35質量%、好ましくは7~30質量%、とりわけ9~25質量%の合計量で含む。1種を超えるアニオン性安定化バインダー(a-2)及び/又は1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)が存在する場合、これらの合計量は、使用される全てのアニオン性及び非イオン性安定化バインダーの量の総計に基づく。上に記載した合計量は、色顔料(a-1)及び任意のさらなる効果顔料を安定して分散させるので、水性顔料ペーストAに貯蔵時の高い安定性をもたらす。さらに、これらのバインダーは、これらのペーストから製造された水性コーティング材料の部分において高い機械的安定性をもたらす。これらのバインダーはさらに、水性顔料ペーストAの部分において高い凍結融解安定性を確実にする。
【0045】
アニオン性安定化バインダー(a-2):
本発明によれば、好ましくは、或る特定のアニオン性安定化バインダー(a-2)が使用される。上に記載した水性顔料ペーストAの低VOC含有量を達成するためには、水中に分散したアニオン性安定化バインダーを用いることが特に好ましい。
【0046】
従って、本発明の第一の主題の好ましい一実施態様では、顔料ペーストAのアニオン性安定化バインダー(a-2)は、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーであり、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、固形分含有量に基づいて20~40mgKOH/gの酸価を有し、分散体は、7.0~8.0のpHを有し、そして分散体は、500~1500Daの平均モル質量Mnを有するポリオール(とりわけポリプロピレングリコール)を含む。
【0047】
アニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、イソシアネート基を含有するプレポリマーと、イソシアネート基に対して反応性である化合物との作用によって得ることができ、例えば、公開された明細書DE19921457A1に記載されている。成分のこの反応は、有機化学の周知の方法に従って起こる(例えば、Kunststoff-Handbuch、第7巻:ポリウレタン、Dr.Y.Oertel,Carl Hanser Verlag編、Munich,Vienna1983年参照)。
【0048】
成分の反応は、好ましくは慣例且つ既知の有機溶媒中で行われる。この場合の有機溶媒の量は、広い範囲内で変化させてよく、好適な粘度を有するプレポリマー溶液を形成するのに十分でなければならない。一般的に言えば、固形分含有量に基づいて、70質量%以下、好ましくは5~50質量%、及びより好ましくは20質量%未満の溶媒が使用される。よって例えば、反応は、非常に特に好ましくは、固形分含有量に基づいて10~15質量%の溶媒含有量で行ってよい。
【0049】
成分の反応は、場合により、触媒、例えば有機スズ化合物及び/又は第3級アミンの存在下で行ってもよい。イソシアネート基を含有するプレポリマーは、10~1800、好ましくは50~1200mgKOH/gのヒドロキシル価を有するポリオールと過剰のポリイソシアネートとを、150℃以下、好ましくは50~130℃の温度で、イソシアネートと反応できない有機溶媒中で反応させることによって調製してよい。NCO基のOH基に対する当量比は、2.0:1.0~>1.0:1.0、好ましくは1.4:1~1.1:1である。
【0050】
NCOプレポリマーを調製するために使用されるポリオールは、低分子量及び/又は高分子量のものでよく、そして少なくとも1種のアニオン性基又はアニオンを形成することができる基を含有する。イソシアネート基を含有するプレポリマーを調製するために、60~400ダルトン以下の分子量を有する低分子量ポリオールを追加で使用してもよい。
【0051】
可撓性の高いNCOプレポリマーを得るために、30~150mgKOH/gの好ましいOH価を有する主に直鎖状のポリオールを高い割合で加えなければならない。全ポリオールの97質量%以下が、400~5000ダルトンの数平均分子量Mnを有する飽和及び不飽和ポリエステルからなっていてよい。ポリエステルジオールは、有機ジカルボン酸又はその無水物と有機ジオールのエステル化によって調製されるか、又はヒドロキシカルボン酸又はラクトンから誘導される。脂肪族及び芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの反応によって得ることができる直鎖ポリエステルを使用することが特に好ましい。
【0052】
ポリエステルの他に、NCOプレポリマーの調製にはさらなるポリオールが使用され、少なくとも1種のポリオールは、カルボン酸、スルホン酸及び/又はホスホン酸基を含有する。使用するのに好ましいのは、アルファ炭素原子上に2個のヒドロキシ基を有するアルカン酸である。これらのポリオールは、1分子中に少なくとも1個、一般に1~3個のカルボキシル基を有する。それらは、2~約25個、好ましくは3~10個の炭素原子を有する。カルボキシル基を含有するポリオールは、NCOプレポリマー中のポリオール構成成分全体の3~100質量%、好ましくは5~50質量%を構成してよい。
【0053】
塩の形態でカルボキシル基の中和によって利用できるイオン化可能なカルボキシル基の量は、NCOプレポリマーの固形分に基づいて、少なくとも0.4質量%、好ましくは少なくとも0.7質量%である。上限は約12質量%である。中和されていないプレポリマー中のジヒドロキシアルカン酸の量は、10mgKOH/g~40mgKOH/gの酸価を生じる。
【0054】
カルボキシル基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基を含有しないさらなるポリオールは、好ましくは式(1)
【0055】
【化1】
のジオールから選択され、式中、R
1及びR
2は、それぞれ同一又は異なるラジカルを表し、1~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、アリールラジカル又は脂環式ラジカルである。
【0056】
式(1)の特に好ましいジオールは、R1及びR2がそれぞれメチルラジカルであるジオールである。
【0057】
式(1)のジオールは、各場合において、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーの調製に用いられる合成成分の合計質量に基づいて、0.5~15質量%、好ましくは1~7質量%の量で慣例的に使用される。
【0058】
アニオン性安定化ポリウレタンポリマーの調製に用いられる典型的な多官能性イソシアネートは、1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する脂肪族、脂環式及び/又は芳香族ポリイソシアネートである。有機ジイソシアネートの異性体又は異性体混合物が好ましい。(シクロ)脂肪族ジイソシアネートは、紫外線に対する安定性が高いので、(シクロ)脂肪族ジイソシアネートからは黄変傾向がほとんどない生成物が得られる。プレポリマーを形成するために用いられるポリイソシアネート成分は、如何なるゲル化も引き起こさない限り、より官能性の高いポリイソシアネートの画分を含んでもよい。確立されたトリイソシアネートは、ジイソシアネートの三量化又はオリゴマー化によって、又はジイソシアネートとOH基又はNH基を含有する多官能性化合物との反応によって形成される生成物である。平均官能価は、場合により、モノイソシアネートの添加によって低下させてよい。
【0059】
使用できるポリイソシアネートの例として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビスフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロブタンジイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート.メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、エチルエチレンジイソシアネート、及びトリメチルヘキサンジイソシアネートが挙げられる。
【0060】
高固形分、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー分散体を製造するために、特に一般式(2)
【0061】
【化2】
のジイソシアネートが用いられ、
式中、Xは二価の環状及び場合により芳香族炭化水素ラジカル、好ましくは場合によりハロゲン置換、メチル又はメトキシ置換されたジシクロヘキシルメチル、ナフチレン、ジフェニレン又は1,2-、1,3-又は1,4-フェニレンラジカル、より好ましくはジシクロヘキシルメチルラジカルであり、そしてR
3及びR
4は、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキルラジカル、好ましくは水素である。本発明の文脈において特に好ましく用いられる式(2)のジイソシアネートの1つは、4,4’-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(H
12MDIとも称される)である。
【0062】
NCOプレポリマーは、固形分に基づいて、少なくとも0.5質量%のイソシアネート基、好ましくは少なくとも1質量%のNCOを含有する。上限は、15質量%、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%のNCOである。
【0063】
イソシアネート基を含有するプレポリマーのイソシアネート基は、改質剤又は鎖延長剤と反応させる。この場合の改質剤は、好ましくは、鎖延長があり、それ故分子量が増加するような量で加える。用いられる改質剤は、好ましくは、ヒドロキシ基及び/又は第2級及び/又は第1級アミノ基を含有する有機化合物、とりわけ2、3及び/又はそれ以上の官能価を有するポリオール及び/又はポリアミンである。使用できるポリアミンの例は、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はジエチレントリアミンである。使用できるポリオールの例は、トリメチロールプロパン、1,3,4-ブタントリオール、グリセロール、エリスリトール、メソエリスリトール、アラビトール、アドニトール等である。トリメチロールプロパンの使用が好ましい。プレポリマーの改質剤に対する当量比は、好ましくは2.0:1.0~1.0:2.0、とりわけ1.1:1~1:1.1である。
【0064】
本発明の文脈において、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、特に好ましくは、NCOプレポリマーと、ポリオール、特にトリメチロールプロパンの形態の改質剤との反応によって得ることができ、NCOプレポリマーは、
(i) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて55~70質量%の、固形分含有量に基づいて40~100mgKOH/gのOH価及び1000~3000Daの数平均分子量Mnを有する少なくとも1種のポリエステルポリオールの、好ましくはオレフィン二重結合を含有しないポリエステルポリオールとの反応、
(ii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて3~7質量%の、3~8個の炭素原子を有し、且つアルファ炭素原子上に2個のヒドロキシ基を有する少なくとも1種のアルカン酸、特にジメチロールプロピオン酸の反応、
(iii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて0.5~3質量%の、R1=R2=メチルである式(1)の少なくとも1種のポリオールの反応、及び
(iv) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて25~30質量%の、X=ジシクロヘキシルメチルラジカル及びR3=R4=水素である式(2)の少なくとも1種のジイソシアネートの反応
によって得ることができる。
【0065】
プレポリマーの改質剤に対する当量比は、好ましくは2.0:1.0~1.0:2.0、特に1.1:1~1:1.1である。
【0066】
本発明によれば、有利なのは、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーが、750~2000000、好ましくは750~1000000、より好ましくは750~500000、及びとりわけ950~15000ダルトンの数平均分子量Mn、5~150、好ましくは10~100、より好ましくは15~80、及びとりわけ20~35mgKOH/gの酸価、及び1~150、好ましくは2~100、より好ましくは5~70、及び特に10~25mgKOH/gのOH価を有する場合である。
【0067】
アニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、塩基、好ましくは有機塩基、とりわけN,N’-ジメチルエタノールアミンで中和され、塩基は、50%~100%、好ましくは60%~80%の中和度が達成されるような量で添加される。塩基の添加の結果、分散体は7.0~8.0のpHを有する。
【0068】
部分的に中和されたアニオン性安定化ポリウレタンポリマーが水中で分散するのを促進するために、アルキレングリコール、好ましくは、800~1500Daの平均モル質量Mnを有するプロピレングリコールを加える。
【0069】
アニオン性安定化バインダー(a-2)、特に上記のアニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、水性顔料ペーストA中に好ましくは或る特定の合計量で存在する。水性顔料ペーストAは、好ましくは、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)、好ましくは上記のアニオン性安定化ポリウレタンポリマーを、各場合において水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、1~25質量%、好ましくは3~20質量%、とりわけ5~17質量%の合計量で含む。異なるアニオン性安定化バインダー(a-2)が使用される場合、全てのアニオン性安定化バインダー(a-2)の総計は、上記に示す合計量に相当する。本発明によれば、好ましくは、水性顔料ペーストAは、単一のアニオン性安定化バインダー(a-2)のみを含み、従って異なるアニオン性安定化バインダーの混合物は使用されない。アニオン性安定化バインダー(a-2)(特に水性のもの)、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー分散体を、唯一のアニオン性安定化バインダーとして水性顔料ペーストAで使用すると、色顔料の傑出した安定化がもたらされ、それ故顔料ペーストの高い貯蔵安定性がもたらされる。
【0070】
非イオン性安定化バインダー(a-3):
アニオン性安定化バインダー(a-2)の代わりに、水性顔料ペーストAは、少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を含んでいてもよい。好ましい一実施形態では、水性顔料ペーストAは、アニオン性安定化バインダー(a-2)、特に上記のアニオン性安定化ポリウレタンポリマーと、非イオン性安定化バインダー(a-3)の混合物を含む。
【0071】
特に好ましくは、非イオン性安定化バインダー(a-3)は、水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートコポリマーから選択され、アクリレートポリマーは、色顔料(a-1)の相互作用と安定した分散のためのアンカー基を有するモノマー単位、及び水溶液中の非イオン性安定化アクリレートコポリマーの安定化のための親水性部分を有するモノマー単位を含む。従って本発明によれば、好ましいのは、顔料ペーストAの非イオン性安定化バインダー(a-3)が、水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートコポリマーであり、非イオン性安定化アクリレートコポリマーが、
(I) 少なくとも1個のイオン化可能な官能基、活性水素を有する官能基、又はそれらの組み合わせを有する少なくとも1つのアンカー基モノマー単位であって、
― イオン化可能な官能基がカルボン酸基以外の基であり、なお、このカルボン酸基におけるカルボニル炭素は、最も近いエチレン性不飽和炭素から少なくとも4個の原子により隔てられており、
― モノマー単位(a)のアンカー基が、ポリオキシアルキレン基を含有しておらず、そして
― アンカー基モノマー単位の1つが、1-(2-メタクリロイルオキシエチル)-2-イミダゾリジノンを共重合したものである、
アンカー基モノマー単位と、
(II) ポリオキシアルキレン基、ガンマ-ヒドロキシカルバメート基、ベータ-ヒドロキシカルバメート基、及びこれらの組み合わせを含む、モノマーの合計質量に基づいて5質量%~45質量%の少なくとも1つのモノマー単位と、
(III) モノマーの合計質量に基づいて1~50質量%の、少なくとも1つの芳香族モノマー単位と
の反応によって得ることができる場合である。
【0072】
アンカー基モノマー単位(I)に好適なモノマーは、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸及びそれらのモノエステル、フマル酸及びそれらのモノエステル、イタコン酸及びそれらのモノエステル、ビニル安息香酸、アルファ-メチルビニル安息香酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸又はp-ビニルベンゼンホスホン酸、モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルマレエート、スクシネート又はフタレート、アミン含有エチレン性不飽和モノマー、例えば、tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノ-アルファ-メチルスチレン、N,N-ジエチルアミノスチレン、アリルアミン、クロチルアミン、グリシジル(メタ)アクリレート、又はグリシジル基がシクロヘキシルアミンなどのモノアミンと、重合する前、重合中又は重合後に反応する他のグリシジル含有エチレン性不飽和モノマー、アミノ酸、ヒドロキシ官能性エチレン性不飽和モノマー、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イプシロン-カプロラクトン及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのエステル、例えば市販のモノマーTone100M(Dow Chemicals社製)、アクリルアミド、メタクリルアミド、カルバマトアルキル(メタ)アクリレート、カルバミルオキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば2-カルバミルオキシエチルメタクリレート及び4-カルバミルオキシブチルアクリレート、アルコキシシラン又はシラノール官能基を有するモノマー、例えばトリエトキシシラン、ウレア基又はヒドラジン基を有するエチレン性不飽和モノマー、例えば2-(2-オキソ-1-イミダゾリジニル)エチル(メタ)アクリレート、及び好適な混合物の群から選択される。より好ましくは、アンカー基モノマー単位(I)は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2-(2-オキソ-1-イミダゾリジニル)エチル(メタ)アクリレート、及びこれらのモノマーの混合物から選択される。
【0073】
モノマー単位(II)の好適な例は、β-カルボキシエチルアクリレート、モノメタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、Ω-メチルオキシ-ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及び1000~3000Daの分子量を有するΩ-メチルオキシポリ(オキシエチレン-コ-オキシプロピレン)(メタ)アクリレートから選択される。モノマー単位(II)としてより好ましく用いられるのは、Ω-メチルオキシ-ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートであり、このモノマーの量は、モノマーの合計量に基づいて5~50質量%、10~40質量%、とりわけ15~35質量%である。上に示した安定剤モノマー単位の量は、一方では非イオン性安定化アクリレートコポリマーが水中で十分な分散性を有するが、他方では水性コーティング材料の耐水性が悪影響を受けないことを確実にするものである。
【0074】
好ましい芳香族モノマー単位(III)は、ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、及びそれらの混合物から選択される。芳香族モノマー単位(III)は、好ましくは、モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の合計量で使用される。スチレンは、より好ましくは、モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の合計量で使用される。
【0075】
上記モノマー(I)~(III)の他に、さらなるエチレン性不飽和非イオン性モノマーをアクリレートコポリマーの調製に用いてよい。このようなモノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸のエステル、4~6個の炭素原子を有するα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル及びジエステル、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、及び複素環式脂肪族ビニル化合物の群から選択される。アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸の好適なエステルは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ドデシル、シクロヘキシル、イソボルニル、ラウリル及びステアリルエステルである。さらなる例として、フマル酸、マレイン酸及びイタコン酸のモノエステル、及びアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、及びtert-ブタノールとのそれらのジエステルが挙げられる。さらに好適なモノマーは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルエーテル、例えばビニルエチルエーテル、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン、ビニルエチルケトン、及び2-ビニルピロリドンが挙げられる。特に好ましいのは、アクリル酸及びメタクリル酸のアルキルエステル、特にブチルアクリレート及びメチルメタクリレートを、さらなるモノマーとして使用される。
【0076】
非イオン性安定化アクリレートコポリマーは、既知の方法、例えばバルク重合又は溶液重合によって調製してよい。重合は、揮発性ラジカル重合として実施してよい。遊離ラジカルは、典型的には、レドックス開始剤又は有機ペルオキソ化合物又はアゾ化合物によって提供される。好適な開始剤は、アンモニウムペルオキシジスルフェート、カリウムペルオキシジスルフェート、メタ重亜硫酸ナトリウム、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソバレロニトリル)、及びレドックス開始剤、例えば鉄(II)硫酸アンモニウムを伴うアンモニウムペルオキシジスルフェート及びメタ重亜硫酸ナトリウムの群から選択される。さらに、重合は、アニオン重合、カチオン重合、及び制御されたラジカル重合として行ってよい。
【0077】
非イオン性安定化アクリレートコポリマーは、好ましくは、8000~70000Daの質量平均分子量Mwを有し、分子量Mwはポリメチルメタクリレートを標準として用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより決定される。非イオン性安定化アクリレートコポリマーのガラス転移温度Tgは、好ましくは-30~180℃、とりわけ0~120℃であり、示差走査熱量計(DSC)を用いて決定してよい。
【0078】
より好ましく用いられるのは、水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートコポリマー(a-3)であり、非イオン性安定化アクリレートコポリマーは、
(I) モノマーの合計質量に基づいて25~35質量%の、ヒドロキシル官能性エチレン性不飽和モノマー、ウレア基を有するエチレン性不飽和モノマー、アミン含有エチレン性不飽和モノマー、及びこれらの混合物、とりわけヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N’-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び2-(2-オキソ-1-イミダゾリジニル)エチル(メタ)アクリレートの混合物、
(II) モノマーの合計質量に基づいて25質量%~35質量%の、Ω-メチルオキシ-ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、
iii) モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の、ビニル芳香族化合物、とりわけスチレン、及び
(IV) モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の、C1~C10アルキルアクリレート及びC1~C10アルキルメタクリレート、とりわけn-ブチルアクリレート及びメチルメタクリレート
の反応によって得ることができる。
【0079】
非イオン性安定化バインダー(a-3)、とりわけ上記非イオン性安定化アクリレートコポリマーは、水性顔料ペーストA中に、好ましくは或る特定の合計量で存在する。水性顔料ペーストAは、好ましくは、少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)、とりわけ上記の非イオン性安定化アクリレートコポリマーを、各場合において水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、とりわけ2~13質量%の合計量で含む。異なる非イオン性安定化バインダー(a-3)が使用される場合、全ての非イオン性安定化バインダー(a-3)の総計は、上記に示す合計量に相当する。本発明によれば、好ましくは、水性顔料ペーストAは単一の非イオン性安定化バインダー(a-3)のみを含み、従って異なる非イオン性安定化バインダー(a-3)の混合物は使用されない。非イオン性安定化バインダー(a-3)、特に水中の非イオン性安定化アクリレートコポリマー分散体を、唯一の非イオン性安定化バインダー(a-3)として水性顔料ペーストAにおいて使用すると、色顔料の傑出した安定化がもたらされ、それ故顔料ペーストの高い貯蔵安定性、及び凍結融解安定性がもたらされる。
【0080】
本発明の文脈において、水性顔料ペーストAが、非イオン性安定化バインダー(a-3)の、アニオン性安定化バインダー(a-2)に対する或る特定の質量比を含む場合が有利である。従って、本発明によれば、少なくとも1種の顔料ペーストAが、非イオン性安定化バインダー(a-3)の合計量とアニオン性安定化バインダー(a-2)の合計量との質量比を、各場合において固形分含有量に基づいて、0.1~3、とりわけ0.25~1.5で含む場合が好ましい。特に好ましくは、アニオン性安定化バインダー(a-2)は、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーの前記水性分散体を含み、そして非イオン性安定化バインダー(a-3)として、非イオン性安定化アクリレートコポリマーの前記水性分散体を含む。上記の質量比でバインダーを使用することにより、高い凍結融解安定性が得られる。
【0081】
水性顔料ペーストAは、250g/L以下のVOC含有量を有する。このVOC含有量を達成するために、水性顔料ペーストAは、可能な限り少ない有機溶媒を含むべきである。従って、本発明の第一の主題の特に好ましい一実施態様では、少なくとも1種の顔料ペーストAは、各場合において水性顔料ペーストAの合計質量に基づいて、0~10質量%、好ましくは0~9.8質量%、とりわけ0~9.5質量%の合計量で有機溶媒を含む。「有機溶媒」という用語は、20℃で10パスカルを超える蒸気圧を有する及び/又は101.3kPaの標準圧力で250℃以下の初期沸点を有する揮発性化合物をいう。
【0082】
さらなる構成成分:
少なくとも1種の水性顔料ペーストAは、他の慣例の添加剤、例えば架橋剤、コーティング添加剤、増粘剤、及び放射線硬化性構成成分をさらに含んでよい。好適なさらなる構成成分は、例えばDE19921457A1に記載されている。
【0083】
水性顔料ペーストAは一般に、最初にアニオン性安定化バインダー(a-2)を導入し、それを水、添加剤、顔料、又は効果付与及び場合により色付与顔料(a-1)のペーストと溶媒中で混合することによって調製される。それから非イオン性安定化バインダー(a-3)を加え、そして混合を繰り返す。板形状の効果顔料の場合、混合中にこれらが損傷されないように注意すべきである。
【0084】
本発明の水性顔料ペーストAは、傑出した凍結融解安定性を示す。これに対し、アニオン性及び/又は非イオン性安定化バインダー、とりわけ前述のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び非イオン性安定化バインダー(a-3)を含有しない水性顔料ペーストは、十分な凍結解凍安定性を有しない。
【0085】
水性顔料ペーストAの特に好ましい実施態様AF1~AF12を以下に示す(全ての量は水性顔料ペーストAの合計質量に基づく;分散体が使用される場合、全ての量は水性顔料ペーストAの合計質量中の分散体の固形分含有量に基づく)。
【0086】
AF1:少なくとも1種の色顔料(a-1)を2.5~47質量%、及び少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を含有する、水性顔料ペーストA。
【0087】
AF2:少なくとも1種の色顔料(a-1)を2.5~47質量%、及び少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を2~13質量%含有する、水性顔料ペーストA。
【0088】
AF3:少なくとも1種の色顔料(a-1)を2.5~47質量%、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)を含有する、水性顔料ペーストA。
【0089】
AF4:少なくとも1種の色顔料(a-1)を2.5~47質量%、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)を5~17質量%含有する、水性顔料ペーストA。
【0090】
AF5:少なくとも1種の色顔料(a-1)、特に2.5~47質量%の少なくとも1種の色顔料、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)及び少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を含有する、水性顔料ペーストA。
【0091】
AF6:少なくとも1種の色顔料(a-1)を2.5~47質量%、及び少なくとも1種の非イオン性安定化バインダー(a-3)を2~13質量%、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(a-2)を5~17質量%含有する、水性顔料ペーストA。
【0092】
AF7:非イオン性安定化バインダー(a-3)の合計量とアニオン性安定化バインダー(a-2)の合計量との質量比を、各場合において固形分含有量に基づいて、0.1~3、特に0.25~1.5で含有する、水性顔料ペーストA。
【0093】
AF8:少なくとも1種の効果顔料をさらに含む、実施態様AF1~AF7のいずれか1つに記載の水性顔料ペーストA。
【0094】
AF9:実施態様AF1、AF2、及びAF5~AF8のいずれか1つに記載の水性顔料ペーストAであって、非イオン性安定化バインダー(a-3)が水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートコポリマーであり、そして非イオン性安定化アクリレートポリマーが、
(I) モノマーの合計質量に基づいて25~35質量%の、ヒドロキシル官能性エチレン性不飽和モノマー、ウレア基を有するエチレン性不飽和モノマー、アミン含有エチレン性不飽和モノマー、及びこれらの混合物、とりわけヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N’-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び2-(2-オキソ-1-イミダゾリジニル)エチル(メタ)アクリレートの混合物、
(II) モノマーの合計質量に基づいて25質量%~35質量%の、Ω-メチルオキシ-ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、
iii) モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の、ビニル芳香族化合物、とりわけスチレン、及び
(IV) モノマーの合計質量に基づいて15~25質量%の、C1~C10アルキルアクリレート及びC1~C10アルキルメタクリレート、とりわけn-ブチルアクリレート及びメチルメタクリレート
の反応によって得ることができる、水性顔料ペーストA。
【0095】
AF10:非イオン性安定化アクリレートコポリマーが、8000~70000Daの質量平均分子量Mw及び-30~180℃、特に0~120℃のガラス転移温度Tgを有する、実施態様AF9に記載の水性顔料ペーストA。
【0096】
AF11:アニオン性安定化バインダー(a-2)が、750~2000000、好ましくは750~1000000、より好ましくは750~500000、及びとりわけ950~15000ダルトンの数平均分子量Mn、5~150、好ましくは10~100、より好ましくは15~80、及び特に20~35mgKOH/gの酸価、及び1~150、好ましくは2~100、より好ましくは5~70、及び特に10~25mgKOH/gのOH価を有する、実施態様AF3~AF8のいずれか1つに記載の水性顔料ペーストA。
【0097】
AF12:アニオン性安定化バインダー(a-2)が水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーであり、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーが、NCOプレポリマーと、ポリオール、特にトリメチロールプロパンの形態の改質剤との、NCOプレポリマーの改質剤に対する当量比1.1:1~1:1.1での反応によって得ることができ、ここでNCOプレポリマーが、
(i) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて55~70質量%の、固形分含有量に基づいて40~100mgKOH/gのOH価及び1000~3000Daの数平均分子量Mnを有する少なくとも1種のポリエステルポリオールの、好ましくはオレフィン二重結合を含有しないポリエステルポリオールとの反応、
(ii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて3~7質量%の、3~8個の炭素原子を有し、且つアルファ炭素原子上に2個のヒドロキシ基を有する少なくとも1種のアルカン酸、特にジメチロールプロピオン酸の反応、
iii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて0.5~3質量%の、R1=R2=メチルである式(1)
【0098】
【化3】
の少なくとも1種のポリオールの反応、及び
ii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて25~30質量%の、X=ジシクロヘキシルメチルラジカル及びR
3=R
4=水素である式(2)
【0099】
【化4】
の少なくとも1種のジイソシアネートの反応
によって得ることができる、実施態様AF3~AF8及びAF11のいずれか1つに記載の水性顔料ペーストA。
【0100】
水性顔料ペーストAの上記実施態様AF1~AF12は、含有される顔料の安定した分散を示し、従って高い貯蔵安定性を有する。さらに、分散が安定していることから、高い色合い精度、及び良好な隠蔽性が達成される。さらに、非イオン性及び/又はアニオン性安定化バインダー、特に上記の特定のバインダーの使用によって、水性コーティング材料の良好な機械的特性、とりわけ元の仕上げに対する良好な接着性、高い耐凝縮性及び良好なストーンチップ接着性がもたらされる。さらに、傑出した凍結融解安定性が達成される。
【0101】
成分(b)
成分(b)は、少なくとも1種のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を含み、該ミクロゲルが50~60℃のガラス転移温度Tgを有する、顔料非含有成分Bである。成分Bも同様に、250g/L以下のVOC含有量を有する。
【0102】
本発明の文脈における「顔料を含まない」とは、成分Bが効果顔料、色顔料、及びフィラーを含まないことを意味する。従って好ましくは、成分Bにおいて、成分Bの合計質量に基づいて、0質量%の効果顔料、色顔料、及びフィラーがある。
【0103】
水性のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1):
ミクロゲル分散体は先行技術においてラテックスとも呼ばれ、基本的に既知である。この分散体は、一方では、ポリマーが、例えば0.02~10マイクロメートルの粒子径を有する比較的小さな粒子の形態で存在するポリマー分散体である(「ミクロ」ゲル)。しかしながら他方では、ポリマー粒子は、少なくとも部分的に分子内架橋されており、従って内部構造は典型的なポリマーの三次元ネットワークのそれに等しい。巨視的に見れば、この種類のミクロゲル分散体は依然として、分散媒体中、特に水中のポリマー粒子の分散体である。
【0104】
架橋ポリマーの割合は、水及び任意の有機溶媒の除去、及び後続の固体ポリマーの単離に続き、確認することができる。架橋は、実験によって入手できるゲルの割合を介して検証してよい。ここで、ポリマー固体の単離に続く架橋反応がゲルの割合をさらに増加させるのを排除することが必要である。ゲルの割合は最終的に、単離された固体として、溶媒中に分子的に分散して溶解することができない分散体のポリマーの割合である。この不溶性の割合は、ひいては、分子内架橋粒子又は粒子画分の形態で分散体中に存在するポリマーの割合に対応する。
【0105】
本発明において使用するためのミクロゲルは、アクリレートベースである。このミクロゲルは、対応する共重合したアクリレートモノマーを含むか、又は対応する共重合したアクリレートモノマーからなる。特徴的なアクリレートモノマーに加えて、無論、このようなミクロゲルは、ラジカル共重合によってポリマーに同様に組み込まれてもよいさらなるモノマーを含んでもよい。しかしながら、本発明において使用が特に好ましいのは、アクリレートモノマー、特に(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレートのみを使用して調製されたアクリレートベースのミクロゲルである。
【0106】
このようなミクロゲルを製造するための基本的な方法は知られており、先行技術に記載されている:ミクロゲル分散体(b-1)は、好ましくは、アニオン性安定化バインダー(b-2b)に関連して記載するように、ラジカル乳化重合、特に単一段階ラジカル乳化重合を介して調製される。
【0107】
アクリレートベースのミクロゲルは、50~60℃のガラス転移温度Tgを有する。ここでガラス転移温度は、方法の説明のセクション2に記載のように、DIN53765「熱分析―動的走査熱量測定(DSC)」を用いて決定する。
【0108】
上述のように、アクリレートベースのミクロゲルは、架橋ポリマー粒子を含む。そのようなポリマー粒子は、それらの架橋によりゲル画分を有する。好ましく使用されるミクロゲルは高度に架橋され、従って高いゲルの割合を有する。従って特に好ましい一実施態様では、アクリレートベースのミクロゲル分散体は、各場合において分散体の固形分含有量に基づいて、80%~100%、好ましくは85%~100%、より好ましくは88%~98%、とりわけ90%~98%のゲルの割合を有する。ここでゲルの割合は、質量法により決定してよい(方法の説明のセクション14参照)。上記のゲルの割合を有するアクリレートベースのミクロゲル分散体の使用は、水性コーティング材料及びそれらから製造されたマルチコート塗装系の改善された表面硬度をもたらす。
【0109】
アクリレートベースのミクロゲル分散体は、好ましくは、100~250nm、とりわけ120~250nmの数平均粒子径を有する。数平均粒子径は、例えば、光子相関分光法によって決定してよい(方法の説明のセクション3を参照)。
【0110】
本発明の文脈において好ましく使用されるアクリレートベースのミクロゲル分散体は、ラジカル乳化重合により、特に、
― 少なくとも2つのアルケニル基を有する少なくとも1種の第1のモノマー(i)、及び
― 少なくとも1種のさらなるモノオレフィン性不飽和モノマー(ii)
の単一段階ラジカル乳化重合により得ることができる。
【0111】
モノマー(i)は、好ましくは、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチルビスメタクリルアミド、ジビニルベンゼン、ビニルメタクリレート、ビニルクロトネート、ジビニルアセチレン、トリビニルベンゼン、グリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルエタン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン、ヘキサトリエン、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジアリルシアナミド、グリコールジアクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジビニルジメチルシラン、グリセロールトリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールオクトアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリペンタエリスリトールオクタメタクリレート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ジペンタエリスリトールトリスイタコネート、ジペンタエリスリトールペンタイタコネート、ジペンタエリスリトールヘキサイタコネート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジイタコネート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、変性1,4-ブチレンジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、変性トリメチロールプロパントリアクリレート、変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、メチル化エポキシ樹脂及びそれらの混合物の群から選択される。特に好ましくは、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートをモノマー(i)として使用することである。モノマー(i)の使用は、得られるポリマーの架橋をもたらす。従ってそのようなポリマーは、ミクロゲル画分を有し、ミクロゲル画分は、使用される架橋剤及び/又はモノマー(i)の量に依存する。モノマー(i)の量は、モノマー(i)及び(ii)の合計質量に基づいて、好ましくは50~80質量%、とりわけ60~70質量%である。
【0112】
モノマー(ii)はモノオレフィン性不飽和であるので、アルケニル基を1個のみ有する。2つの異なるモノマー(ii)の混合物を使用することが好ましく、1つのモノマーはヒドロキシ基、カルボキシアミド基又はエポキシ基を有し、そしてもう1つのモノマーは(メタ)アクリル酸のC1~C4アルキルエステル又はビニル芳香族モノマーである。ヒドロキシ基、カルボキシアミド基又はエポキシ基を含有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの群から選択される。メタ)アクリル酸のC1~C4アルキルエステルは、特に、メチル、エチル、プロピル又はブチル(メタ)アクリレートである。好適なビニル芳香族化合物は、スチレン又はアルファ-メチルスチレンである。特に好ましいのは、モノマー(ii)として、10~90質量%のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートと10~90質量%のメチル(メタ)アクリレートとの混合物を使用することであり、質量値はモノマー(i)及び(ii)の合計質量に基づくものである。
【0113】
好ましくは、単一段階乳化重合は、当業者に既知の開始剤及び乳化剤を用いて、水中で行われる。好適な乳化剤及び開始剤は、例えば、公開された明細書US4598111Aに記載されている。
【0114】
より好ましくは、アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)は、モノマー(i)及び(ii)の合計質量に基づいて、
(i) 少なくとも2個のアルケニル基を含有する、60~70質量%の第1のモノマー、とりわけ1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと、
(ii) 10~90質量%のC1~C10ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、特にヒドロキシプロピルメタクリレートと、10~90質量%のC1~C10アルキル(メタ)アクリレート、とりわけメチルメタクリレートとの混合物と
のラジカル乳化重合、特に単一段階ラジカル乳化重合によって、得ることができる。
【0115】
顔料非含有成分Bは、アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を、好ましくは或る特定の合計量で含む。顔料非含有成分Bは、好ましくは、アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、1~15質量%、好ましくは5~12質量%、とりわけ6~9質量%の合計量で含む。上記合計量でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を使用することにより、良好な機械特性がもたらされる。特に、アクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を用いると、水性コーティング材料の表面硬度を高めることができる。
【0116】
本発明の特に好ましい一実施態様によれば、顔料非含有成分Bは、上記の水性のアクリレートベースのミクロゲル分散体だけでなく、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)も含む。
【0117】
アニオン性安定化バインダー(b-2):
好適なアニオン性安定化バインダー(b-2)は、アニオン性安定化ポリウレタン、アニオン性安定化(メタ)アクリレート、アニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー、及びそれらの混合物の群から選択される。
【0118】
上に記載した顔料非含有成分Bの低VOC含有量を達成するために、アニオン性安定化バインダー(b-2)をアニオン性安定化ポリマーの水性分散体の形態で使用することが特に好ましい。より好ましくは、成分Bにおいて使用されるアニオン性安定化バインダーは、水性顔料ペーストAで使用されるのと同じバインダーであり、換言すれば、上記の水性のアニオン性安定化ポリウレタンポリマー分散体である。本発明によれば、さらに、成分Bがさらなるアニオン性安定化バインダー、とりわけ水性のアニオン性安定化アクリレートポリマー分散体を含む場合が好ましい。従って特に好ましい一実施態様では、顔料非含有成分B中のアニオン性安定化バインダー(b-2)は、顔料ペーストAに関連して上述した水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、以下に述べる水中において分散体の状態であるアニオン性安定化アクレレートポリマー(b-2b)、及び以下に述べる水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)の混合物を含む。
【0119】
従って特に有利なのは、本発明によれば、顔料非含有成分B中のアニオン性安定化バインダー(b-2b)が、100~500nmの粒子径を有し水中において分散体の状態である少なくとも1種のアニオン性安定化ポリマーを含む場合であり、ポリマーの調製は、オレフィン性不飽和モノマーの3種の混合物(A)、(B)及び(C)の逐次ラジカル乳化重合を含み、ここで
― 混合物(A)は、少なくとも50質量%のビニル芳香族モノマーを含み、そして混合物(A)から調製されたポリマーが10~65℃のガラス転移温度を有し、
― 混合物(B)は、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、そして混合物(B)から調製されたポリマーが-35~15℃のガラス転移温度を有し、そして
― 混合物(C)は、少なくとも1種のアニオン性モノマーを含み、そして混合物(C)から調製されたポリマーが-50~15℃のガラス転移温度を有し、
そしてここで、
i. まず、混合物(A)を重合させ、
ii. 次いで、i.で調製したポリマーの存在下で混合物(B)を重合させ、そして
iii. その後、ii.で調製したポリマーの存在下で混合物(C)を重合させる。
【0120】
分散体は、好ましくは、厳密に1つの上記ポリマー(b-2b)を含む。ポリマーの調製は、オレフィン性不飽和モノマーの3種の混合物(A)、(B)及び(C)の逐次ラジカル乳化重合を含む。時間の観点からいえば、段階は、互いの直後に行ってよい。一段階の終了後、対応する反応液を或る特定の期間の間貯蔵すること及び/又は別の反応容器に移すこと、そしてその時初めて次の段階が行われることが同様に可能である。特定の多段階ポリマーの調製は、好ましくは、モノマー混合物(A)、(B)及び(C)の重合以外の重合工程を含まない。
【0121】
ラジカル乳化重合において、水性媒体中で少なくとも1種の水溶性開始剤を使用し、そして少なくとも1種の乳化剤の存在下でオレフィン性不飽和モノマーを重合させる。対応する水溶性開始剤は知られている。少なくとも1種の水溶性開始剤は、好ましくは、カリウム、ナトリウム又はアンモニウムペルオキソジスルフェート、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、2,2’-アゾビス(2-アミドイソプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾ-ビス-(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾ-ビス-(4-シアノペンタン酸)、及び前述の開始剤の混合物、例えば過酸化水素及び過硫酸ナトリウムからなる群から選択される。さらなる好適な開始剤及び遷移金属触媒は、例えば、公開された明細書WO2017/088988A1に開示されている。開始剤は、好ましくは、それぞれの重合段階で使用されるモノマーの合計質量に基づいて、0.05~20質量%、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%の量で使用される。
【0122】
乳化重合は、連続媒体としての水、及びミセルの形態の少なくとも1種の乳化剤を含む反応媒体中で進行する。重合は、水中における水溶性開始剤の崩壊によって開始する。成長ポリマー鎖は、乳化剤ミセル中に入り、次いでさらなる重合がミセル内で生じる。少なくとも1種の乳化剤は、好ましくは、各場合においてそれぞれの重合段階において使用されるモノマーの合計質量に基づいて、0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、非常に好ましくは0.1~3質量%の量で使用される。乳化剤も同様に、基本的に知られている。使用される乳化剤は、非イオン性乳化剤又はイオン性乳化剤が可能であり、両性イオン、及び場合により前記乳化剤の混合物も含まれ、例えば公開された明細書WO2017/088988A1に記載されている。
【0123】
乳化重合は、0~160℃、好ましくは15~95℃、より好ましくは60~95℃の温度で有用に実行される。ここで、酸素の不在下で、好ましくは不活性ガス雰囲気下での操作が好ましい。一般的に言えば、重合は大気圧下で実行されるが、より低い圧力又はより高い圧力の適用もまた可能である。特に、水、使用されるモノマー、及び/又は有機溶媒の、大気圧下における沸点よりも高い重合温度が用いられる場合、より高い圧力を選択することが通常である。
【0124】
個別の重合段階は、特定のポリマーの調製の際、例えば、「スターブドフィード(starved feed)」(或いはスターブフェッド(starve fed)又はスターブドフィード(starved feed))重合と呼ばれる形態で実施してもよい。本発明の意味におけるスターブドフィード重合は、反応液(反応混合物とも呼ばれる)中の遊離オレフィン性不飽和モノマーの量が反応時間を通して最小化される乳化重合である。これは、オレフィン性不飽和モノマーの計量添加が、全反応時間にわたって、反応液中の遊離モノマーの割合が、各場合においてそれぞれの重合段階において使用されるモノマーの合計量に基づいて、6.0質量%、好ましくは5.0質量%、より好ましくは4.0質量%、特に有利には3.5質量%を超えないようなものであることを意味する。
【0125】
ここで、反応液中のモノマーの濃度は、例えばガスクロマトグラフィーによって、公開された明細書WO2017/088988A1に記載のように決定してよい。遊離モノマーの割合は、開始剤の量、開始剤の添加速度、モノマーの添加速度、及びモノマーの選択の相互作用によって制御してよい。定量添加の速度を遅くすることと開始剤の量を増やすこととの両方、及び開始剤の添加を早期に開始することは、遊離モノマーの濃度を上記の限界値より低く保つという目的に役立つ。
【0126】
本発明の文脈において、重合段階ii.及びiii.をスターブドフィード条件下で実施することが好ましい。これは、これらの2つの重合段階の過程で新規の粒子核の形成が効果的に最小化されるという利点を有する。代わりに、段階i.の後に存在する粒子(故に以下ではシードとも呼ばれる)を、モノマー混合物Bの重合によって段階ii.でさらに成長させることができる(従って以下ではコアとも呼ばれる)。同様に、段階ii.の後に存在する粒子(以下では、シード及びコアを含むポリマーとも呼ばれる)を、モノマー混合物Cの重合によって段階iii.でさらに成長させることができ(従って、以下ではシェルとも呼ばれる)、最終的にはシード、コア及びシェルを含む粒子を含むポリマーが得られる。無論、段階i.も同様に、スターブドフィード条件下で実施してよい。
【0127】
混合物(A)、(B)及び(C)は、オレフィン性不飽和モノマーの混合物であり、混合物(A)、(B)及び(C)は互いに異なる。それ故これらはそれぞれ異なるモノマー及び/又は少なくとも1種の特定のモノマーの異なる画分を含有する。
【0128】
混合物(A)は、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも55質量%のビニル芳香族化合物を含有する。対応する好ましいモノマーはスチレンである。ビニル芳香族化合物以外に、混合物(A)は、ヘテロ原子を含有する官能基を有するモノマーを含有しない。特に好ましくは、モノマー混合物(A)は、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1種のモノ不飽和エステル、及びビニル基を含有し、且つビニル基上に芳香族ラジカル又は飽和-脂肪族-芳香族混合ラジカルを有する少なくとも1種のモノオレフィン性不飽和モノマーを含み、この場合ラジカルの脂肪族部位はアルキル基である。
【0129】
混合物(A)中に存在するモノマーは、それらから製造されるポリマーが、10~65℃、好ましくは30~50℃のガラス転移温度を持つように選択される。測定において予期されるガラス転移温度を有用に推定するために、既知のFox等式を採用することが可能である。Fox等式は、ホモポリマーのガラス転移温度及びそれらの質量部に基づき、分子量の組み込みを伴わずに良好な近似値を表すため、合成段階で当業者の有用な助けとして採用することができ、いくつかの目標指向的な実験を介して、所望のガラス転移温度が設定できる。
【0130】
モノマー混合物(A)の乳化重合によって段階i.で調製されたポリマーは、好ましくは、20~125nmの粒子径を有する(粒子径の測定については、方法の説明のセクション3を参照)。
【0131】
混合物(B)は、少なくとも1種のポリオレフィン性不飽和モノマー、好ましくは少なくとも1種のジオレフィン性不飽和モノマーを含む。対応する好ましいモノマーは、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートである。好ましくは、モノマー混合物(B)も、ヘテロ原子を含有する官能基を有するモノマーを含有しない。特に好ましくは、少なくとも1種のポリオレフィン性不飽和モノマーの他に、モノマー混合物(B)はいずれにしても以下のモノマーを含有する。まず第一に、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1種のモノ不飽和エステル、及び第二に、ビニル基を含有し、且つビニル基上に芳香族ラジカル又は飽和-脂肪族-芳香族混合ラジカルを有する少なくとも1種のモノオレフィン性不飽和モノマーであり、この場合ラジカルの脂肪族部位はアルキル基である。
【0132】
ポリ不飽和モノマーの割合は、好ましくは、モノマー混合物(B)中のモノマーの合計モル量に基づいて、0.05~3モル%である。
【0133】
混合物(B)中に存在するモノマーは、それらから調製されるポリマーが、-35~15℃、好ましくは-25~+7℃のガラス転移温度を持つように選択される。
【0134】
段階ii.の後に得られるポリマーは、好ましくは、80~280nm、好ましくは120~250nmの粒子径を持つ。
【0135】
混合物(C)中に存在するモノマーは、それらから調製されるポリマーが、-50~15℃、好ましくは-20~+12℃のガラス転移温度を持つように選択される。
【0136】
混合物(C)のオレフィン性不飽和モノマーは、好ましくは、シード、コア及びシェルを含む、結果として得られるポリマーが、10~25の酸価を有するように選択される。このように、混合物(C)は、好ましくは、少なくとも1種のアルファ-ベータ不飽和カルボン酸、特に好ましくは(メタ)アクリル酸を含む。
【0137】
混合物(C)のオレフィン性不飽和モノマーは、さらに、好ましくは、シード、コア及びシェルを含む、結果として得られるポリマーが、0~30、好ましくは10~25のOH価を有するように選択される。上記の酸価及びOH価は全て、全体的に用いられたモノマー混合物に基づいて計算された値である。
【0138】
より好ましくは、モノマー混合物(C)は、少なくとも1種のアルファ、ベータ-不飽和カルボン酸と、ヒドロキシ基によって置換されたアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1種のモノ不飽和エステルと、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1種のモノ不飽和エステルを含む。
【0139】
特に好ましくは、モノマー混合物(A)も、モノマー混合物(B)又は(C)のいずれも、少なくとも1種の重合性二重結合を有するポリウレタンポリマーを含有しない。
【0140】
ポリマーはその調製後、100~500nm、好ましくは125~400nm、非常に好ましくは130~300nmの粒子径、及び-20~-5℃のガラス転移温度Tgを持つ。
【0141】
モノマー混合物の割合は、好ましくは、以下の通りに互いに調和する。各場合において混合物(A)、(B)及び(C)の個別の量の総計に基づいて、混合物(A)の割合は0.1~10質量%、混合物(B)の割合は60~80質量%、そして混合物(C)の割合は10~30質量%である。
【0142】
水性分散体は、好ましくは、5.0~9.0、より好ましくは7.0~8.5、非常に好ましくは7.5~8.5のpHを持つ。pHは、調製の間に、例えば以下で述べる塩基の使用によって既に一定に維持されていてよく、又はポリマーが調製された後に目標として設定してもよい。記載の段階i.~iii.は、好ましくは、pH調整のための既知の酸又は塩基を添加せずに実施し、そしてpHはポリマーの調製後にのみ、有機、窒素含有塩基、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸塩、及び前述の物質の混合物の添加によって、調整する。
【0143】
水性分散体の固形分含有量は、好ましくは15%~40%、及びより好ましくは20%~30%である。
【0144】
水性分散体は、好ましくは、各場合において分散体の合計質量に基づいて、55~75質量%、特に好ましくは60~70質量%の割合の水を含む。
【0145】
本発明の文脈において特に好ましく使用されるアニオン性安定化ポリマー(b-2b)は、
― ビニル芳香族モノマー50~85質量%及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル15~50質量%の混合物(A)、
― ポリオレフィン性不飽和モノマー1~4質量%、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル60~80質量%、及びビニル芳香族モノマー16~39質量%の混合物(B)、及び
― アルファ、ベータ-不飽和カルボン酸8~15質量%、ヒドロキシ基で置換されたアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル10~20質量%、及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル65~82質量%の混合物(C)
の反応によって調製可能であり、
ここで
i. まず、混合物(A)を重合させ、
ii. 次いで、i.で調製したポリマーの存在下で混合物(B)を重合させ、そして
iii. その後、ii.で調製したポリマーの存在下で混合物(C)を重合させる。
【0146】
上記質量%値は、各場合において、混合物(A)又は(B)又は(C)の合計質量に基づくものである。
【0147】
アニオン性安定化バインダーは、好ましくは、アニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)の水性分散体であり、ここでハイブリッドポリマーは、
(i) 1000~30000Da、とりわけ1500~20000Daの数平均分子量、及び分子あたりの平均で0.05~1.1、とりわけ0.2~0.9の重合性二重結合を有する非イオン性ポリウレタンポリマーと、
(ii) 少なくとも1種のカルボン酸を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーとの、
少なくとも1種の水不溶性開始剤の存在下における、ラジカル反応によって得ることができ、
非イオン性ポリウレタンポリマーと少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーとの質量比は、1:10~10:1である。
【0148】
非イオン性ポリウレタンポリマーは、好ましくは、
(a) 400~5000Daの数平均分子量を有するポリエステルポリオール、
(b) 少なくとも1種のポリイソシアネート(場合により少なくとも1種のモノイソシアネートと共に)、
(c) モノオレフィン性不飽和基と同様に、NCO基に対して反応性のある少なくとも1つの基を含む少なくとも1種の化合物、及び
(d) ヒドロキシ基及び/又はアミノ基を含有し、60~399Daの分子量を有する少なくとも1種の有機化合物
の反応によって得ることができる。
【0149】
非イオン性ポリウレタンポリマーは、好ましくは、まず(a)~(d)からNCOプレポリマーを調製し、次いでこれをNCO基に対して等モル量で成分(d)と反応させることにより調製する。成分(a)~(d)の反応は、触媒、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、及び第3級アミンの存在下で行ってもよい。
【0150】
使用する(a)~(d)の量は、目標の数平均分子量Mnから明らかである。オレフィン性不飽和基は、好ましくはアクリレート基、メタクリレート基、又はアリルエーテル基、とりわけアリルエーテル基である。
【0151】
好適なポリエステルジオール(a)、及びポリイソシアネート(b)は、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー(a-2)に関連して記載した化合物である。
【0152】
特に好ましくは、モノオレフィン性不飽和基、特にアリルエーテル基の他に、NCO基に対して反応性のある2つの基をさらに含む化合物(c)を使用することである。NCO基に対して反応性のある基の例には、-OH基、-SH基、>NH基及び-NH2基、好ましくは-OH基が含まれる。例えば、2,3-ジヒドロキシプロピルモノアリルエーテル、アリル2,3-ジヒドロキシプロパノエート、グリセロールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、及びトリメチロールプロパンジアリルエーテルを使用してよい。使用に特に好ましいのは、トリメチロールプロパンモノアリルエーテルである。化合物(c)が、非イオン性ポリウレタンポリマーに鎖内位置(末端でない位置)で組み込まれることが好ましい。
【0153】
使用する成分(d)は、好ましくは、第1級及び/又は第2級アミノ基を有するジアミン及び/又はポリアミン、及び上記式(1)のジオールを含む。ジアミン、及び上記式(1)のジオールを使用することが好ましい。ジアミンには、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、ピペラジン、1,4-シクロヘキシルジメチルアミン、ヘキサメチレン-1,6-ジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、ジエタノールアミン、及びアミノエチルエタノールアミンが含まれる。ジエタノールアミンを使用することが特に好ましい。
【0154】
ハイブリッドポリマーは、エチレン性不飽和モノマー又はエチレン性不飽和モノマーの混合物を、非イオン性ポリウレタンの存在下で、水不溶性開始剤又は水不溶性開始剤の混合物を用いてラジカル重合することにより得ることができ、非イオン性ポリウレタンポリマーとエチレン性不飽和モノマー又はエチレン性不飽和モノマーの混合物の質量比は、1:10~10:1、好ましくは1:2~2:1である。 使用するエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは以下である:
(i) ヒドロキシ基もカルボキシル基も含有しない(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル、とりわけメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ステアリル及びラウリルアクリレート及びメタクリレート又はこれらのモノマーの混合物、
(ii) 分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー、とりわけアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸、
(iii) 成分(i)及び(ii)の混合物。
【0155】
使用するエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、40~95質量%、好ましくは85~95質量%の成分(i)、及び5~60質量%、好ましくは5~15質量%の成分(ii)からなる混合物であり、(i)と(ii)の質量割合の総計は、常に100質量%となる。
【0156】
使用する水不溶性開始剤は、例えば、水不溶性アゾ化合物及び水不溶性ペルオキシ化合物でよい。水不溶性ペルオキシ化合物の例は、tert-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、及び1,1-ジメチル-3-ヒドロキシブト-(1)-イルペルオキシエチルヘキサノエートである。
【0157】
顔料非含有成分Bの好ましい実施態様では、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、アニオン性安定化ポリマー(b-2b)及びアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)は、或る特定の量範囲で存在する。従って、本発明によれば、有利であるのは、顔料非含有成分Bが、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、1~15質量%、とりわけ6~10質量%の合計量で含む場合である。さらに本発明によれば、有利であるのは、顔料非含有成分Bが、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリマー(b-2b)を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、1~10質量%、とりわけ3~6質量%の合計量で含む場合である。さらに、本発明によれば、有利であるのは、顔料非含有成分Bが、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、1~15質量%、とりわけ6~10質量%の合計量で含む場合である。
【0158】
本発明の文脈において、顔料非含有成分Bが、或る特定の質量比の3種のアニオン性安定化バインダー(b-2)を有する場合が有利である。従って本発明によれば、少なくとも1種の成分Bが、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)の合計量と、アニオン性安定化ポリマー(b-2b)の合計量との、及びアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマーの合計量との質量比を、0.8:0.5:0.8~1.2:0.7:1.1で有する場合が好ましい。アニオン性安定化ポリウレタンポリマーは、成分(a)に関連して記載した、水中において分散体の状態であるポリマーである。アニオン性安定化ポリマー(b-2b)及びアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)は、上述したとおりである。
【0159】
アニオン性安定化バインダー(b-2)、特に、
― 顔料ペーストAに関連して記載した、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、
― 上記の水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリマー(b-2b)、及び
― 上記のアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)
の混合物は、好ましくは、顔料非含有成分B中に或る特定の合計量で存在する。顔料非含有成分Bは、好ましくは、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)、好ましくは上記のアニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、アニオン性安定化ポリマー(b-2b)、及びアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)の上記混合物を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、10~35質量%、好ましくは15~30質量%、とりわけ21~25質量%の合計量で含む。アニオン性安定化バインダー(b-2)を上記の合計量で使用すると、良好な機械的特性がもたらされる。顔料非含有成分Bにおいて、3種の異なるアニオン性安定化バインダー(b-2)、とりわけ水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、及び水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリマー(b-2b)、及び水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)を、上記の合計量で組み合わせて使用すると、機械特性をさらに向上させることができる。
【0160】
顔料非含有成分Bは、水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)及び上記のアニオン性安定化バインダー(b-2)を好ましくは或る特定の合計量で含む。顔料非含有成分Bは、好ましくは、水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)、とりわけ上記のアニオン性安定化バインダー(b-2a)及び(b-2b)の混合物を、各場合において顔料非含有成分Bの合計質量に基づいて、10~35質量%、好ましくは15~30質量%、とりわけ23~27質量%の合計量で含む。上記合計量は、製造される水性コーティング材料の高い機械的安定性、特に元の仕上げへの良好な接着性、及び高い耐凝縮性及びストーンチップ接着性をもたらす。さらに、良好な隠蔽性が達成される。
【0161】
本発明の文脈において、顔料非含有成分Bが、水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)の、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)、特にアニオン性安定化バインダー(b-2a)、(b-2b)及び(b-2c)の混合物に対する、或る特定の質量比を有する場合が有利である。従って、本発明によれば、少なくとも1種の顔料非含有成分Bが、水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)の合計量と、アニオン性安定化バインダー(b-2)の水性分散体の合計量との質量比を、各場合において分散体の固形分含有量に基づいて、0.02~0.2、とりわけ0.05~0.1で有することが好ましい。存在するアニオン性安定化バインダー(b-2)は、より好ましくは、アニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)、アニオン性安定化アクリレートポリマー(b-2b)及びアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)の上記の水性分散体である。上記の質量比でバインダーを使用することにより、水性コーティング材料中の色顔料の傑出した安定化がもたらされる。その結果、高い色合い精度が達成される。さらに、効果的な隠蔽性が得られる。さらに、この成分から製造される水性コーティング材料は、高い機械的安定性、特に元の仕上げに対する良好な接着性、及び高い耐凝縮性及びストーンチップ接着性を特徴とする。
【0162】
顔料非含有成分Bは同様に、250g/L以下のVOC含有量を有する。このVOC含有量を達成するためには、顔料非含有成分B中の有機溶媒の量が極めて低くなければならない。従って、本発明の第一の主題の特に好ましい一実施態様では、少なくとも1種の顔料非含有成分Bは、有機溶媒を、各場合において成分Bの合計質量に基づいて0~8質量%、好ましくは0~7.9質量%、とりわけ0~7.7質量%の合計量で含む。「有機溶媒」という用語は、20℃における蒸気圧が10パスカルを超え、及び/又は標準圧力101.3kPaにおける初期沸点が250℃以下である揮発性化合物をいう。顔料非含有成分Bにおいて、8質量%以下の有機溶媒を使用することで、250g/L以下のVOC含有量を達成することが可能である。
【0163】
顔料非含有成分Bも、好ましくは水性組成物である。従って成分Bは、好ましくは、各場合において成分Bの合計質量に基づいて、20~90質量%、とりわけ30~85質量%、非常に好ましくは50~70質量%の水含有量を有する。
【0164】
さらなる構成成分:
少なくとも1種の顔料非含有成分Bは、水性顔料ペーストAの文脈でも記載した種類の、さらなる慣例の添加剤をさらに含んでよい。
【0165】
顔料非含有成分Bは、一般に、最初にアニオン性安定化バインダー(b-2a)、(b-2b)及び(b-2c)を導入し、これらをさらなる構成成分の全てと撹拌しながら混合することによって調製される。分散体は、その後濾過する。
【0166】
顔料非含有成分Bの特に好ましい実施態様AF1~AF14を以下に示す(全ての量は、顔料非含有成分Bの合計質量に基づき、分散体が使用される場合、全ての量は、顔料非含有成分Bの合計質量における分散体の固形分含有量に基づく)。
【0167】
AF1:少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)をさらに含有する、顔料非含有成分B。
【0168】
AF2:21~25質量%のアニオン性安定化バインダー(b-2)をさらに含有する、顔料非含有成分B。
【0169】
AF3:第1のアニオン性安定化バインダー(b-2a)、第2のアニオン性安定化バインダー(b-2b)、及び第3のアニオン性安定化バインダー(b-2c)をさらに含有する、顔料非含有成分B。
【0170】
AF4:6~10質量%の第1のアニオン性安定化バインダー(b-2a)、3~6質量%の第2のアニオン性安定化バインダー(b-2b)、及び6~10質量%の第3のアニオン性安定化バインダー(b-2c)をさらに含有する、顔料非含有成分B。
【0171】
AF5:6~9質量%の水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)を含有し、アクリレートベースのミクロゲルが50~60℃のガラス転移温度Tgを有し、そしてさらに、6~10質量%の第1のアニオン性安定化バインダー(b-2a)、3~6質量%の第2のアニオン性安定化バインダー(b-2b)、及び6~10質量%の第3のアニオン性安定化バインダー(b-2c)を含有する、顔料非含有成分B。
【0172】
AF6:水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)の合計量と、アニオン性安定化バインダー(b-2)の水性分散体の合計量とのる質量比を、各場合において分散体の固形分含有量に基づいて0.05~0.1で含む、顔料非含有成分B。
【0173】
AF7:アニオン性安定化ポリウレタンポリマー(b-2a)の合計量とアニオン性安定化ポリマー(b-2b)の合計量とアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマー(b-2c)の合計量との質量比を0.8:0.5:0.8~1.2:0.7:1.1で含む、顔料非含有成分B。
【0174】
AF8:実施態様AF1~AF7のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)が、各場合において分散体の固形分含有量に基づいて、80%~100%、好ましくは85%~100%、より好ましくは88%~98%、とりわけ90%~98%のゲル割合を有する、顔料非含有成分B。
【0175】
AF9:実施態様AF1~AF8のアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)が、
ii) モノマー(i)及び(ii)の合計質量に基づいて、60~70質量%の1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、及び
(ii) 各場合においてモノマー(i)及び(ii)の合計質量に基づいて、10~90質量%のヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、10~90質量%のメチル(メタ)アクリレートとの混合物
の、ラジカル乳化重合、とりわけ単一段階ラジカル乳化重合によって得ることができる、顔料非含有成分B。
【0176】
AF10:実施態様AF1~AF7のアニオン性安定化バインダー(b-2)、とりわけ第1のアニオン性安定化バインダー(b-2a)が、750~2000000、好ましくは750~1000000、より好ましくは750~500000、及びとりわけ950~15000ダルトンの数平均分子量Mn、5~150、好ましくは10~100、より好ましくは15~80、及びとりわけ20~35mgKOH/gの酸価、及び1~150、好ましくは2~100、より好ましくは5~70、及びとりわけ10~25mgKOH/gのOH価を有する、顔料非含有成分B。
【0177】
AF11:実施態様AF1~AF7、及びAF10のアニオン性安定化バインダー(b-2)、とりわけ第1のアニオン性安定化バインダー(b-2a)が水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーであり、アニオン性安定化ポリウレタンポリマーが、NCOプレポリマーと、ポリオール、特にトリメチロールプロパンの形態の改質剤との、NCOプレポリマーの改質剤に対する当量比1.1:1~1:1.1での反応によって得ることができ、そしてNCOプレポリマーが、
(i) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて55~70質量%の、固形分含有量に基づいて40~100mgKOH/gのOH価及び1000~3000Daの数平均分子量Mnを有する少なくとも1種のポリエステルポリオールの、好ましくはオレフィン二重結合を含有しないポリエステルポリオールとの反応、
(ii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて3~7質量%の、3~8個の炭素原子を有し、且つアルファ炭素原子上に2個のヒドロキシ基を有する少なくとも1種のアルカン酸、特にジメチロールプロピオン酸の反応、
iii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて0.5%~3%の、R1=R2=メチルである式(1)
【0178】
【化5】
の少なくとも1種のポリオールの反応、及び
ii) 化合物(i)~(iv)の合計質量に基づいて25質量%~30質量%の、X=ジシクロヘキシルメチルラジカル及びR
3=R
4=水素である式(2)
【0179】
【化6】
の少なくとも1種のジイソシアネートの反応
によって得ることができる、顔料非含有成分B。
【0180】
AF12:実施態様AF1~AF7のアニオン性安定化バインダー(b-2)、特に第2のアニオン性安定化バインダー(b-2b)が、-20~-5℃のガラス転移温度Tgを有する、顔料非含有成分B。
【0181】
AF13:実施態様AF1~AF7、及びAF12のアニオン性安定化バインダー(b-2)、特に第2のアニオン性安定化バインダー(b-2b)が、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリマーであり、アニオン性安定化ポリマーが、
― ビニル芳香族モノマー50~85質量%及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル15~50質量%の混合物(A)、
― ポリオレフィン性不飽和モノマー1~4質量%、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル60~80質量%、及びビニル芳香族モノマー16~39質量%の混合物(B)、及び
― アルファ、ベータ-不飽和カルボン酸8~15質量%、ヒドロキシ基で置換されたアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル10~20質量%、及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル65~82質量%の混合物(C)
の反応によって調製可能であり、
ここで
i. まず、混合物(A)を重合させ、
ii. 次いで、i.で調製したポリマーの存在下で混合物(B)を重合させ、そして
iii. その後、ii.で調製したポリマーの存在下で混合物(C)を重合させる、顔料非含有成分B。
【0182】
AF14:実施態様AF1~AF7のアニオン性安定化バインダー(b-2)、特に第3のアニオン性安定化バインダー(b-2c)が、水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートハイブリッドポリマーであり、ここでハイブリッドポリマーが、
(i) 1000~30000Da、とりわけ1500~20000Daの数平均分子量、及び分子あたりの平均で0.05~1.1、とりわけ0.2~0.9の重合性二重結合を有する非イオン性ポリウレタンポリマーと、
(ii) 少なくとも1個のカルボン酸基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーとの、
少なくとも1種の水不溶性開始剤の存在下における、ラジカル反応によって得ることができ、
非イオン性ポリウレタンポリマーと少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーとの質量比が1:10~10:1である、顔料非含有成分B。
【0183】
顔料非含有成分Bの上述の実施態様AF1~AF14は、特に成分Aに関連して記載した実施態様AF1~AF12との組み合わせにより、高い色合い精度をもたらす。水性コーティング材料の機械的特性、特に元の仕上げへの接着性、耐凝縮性、及びストーンチップ接着性は、さらに少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー(b-2)、とりわけ上記のアニオン性安定化バインダー(b-2a)及び(b-2b)の混合物が用いられる場合、さらに改善することが可能である。
【0184】
本発明によれば、水性顔料ペーストA及び顔料非含有成分Bはそれぞれ、250g/L以下のVOC含有量を有する。より好ましくは、水性顔料ペーストA及び顔料非含有成分Bは、それぞれ、100~250g/LのVOC含有量を有する。これにより、ミキサーシステムも同様に、250g/L以下のVOC含有量を有することが確実となる。このようにして、ミキサーシステムの適用の間に放出される有機溶媒の量が著しく低減され、よって環境負荷も大幅に低減されるが、色合い精度、隠蔽性、及び機械的特性に有害な影響は生じない。
【0185】
成分(c):
上記の成分A及びBだけでなく、ミキサーシステムはさらなる成分を含んでもよい。特に好ましくは、ミキサーシステムは、水性コーティング材料のレオロジーを制御する成分Cをさらに含む。従って特に有利なのは、本発明によれば、ミキサーシステムが成分Cをさらに含み、成分Cが、少なくとも1種の増粘剤と、成分Cの合計質量に基づいて、90~98質量%の水を含む場合である。
【0186】
好適な増粘剤は、リチウムアルミニウムマグネシウムシリケートなどのフィロシリケートの群からの無機増粘剤である。同様に、有機増粘剤、例えば(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤又はポリウレタン増粘剤、例えば既知の会合性ポリウレタン増粘剤を使用してもよい。会合性増粘剤とは、鎖端又は側鎖に強力な疎水基を有し、及び/又はその親水性鎖がそれらの内側に疎水性ブロック又は縮合物を含有する、水溶性ポリマーである。結果として、これらのポリマーは、界面活性特性を持ち、そして水性相中でミセルを形成することができる。界面活性剤と同様に、親水性領域が水性相中に残る一方で、疎水性領域はポリマー分散体の粒子に入り、顔料及び/又はフィラーなどの他の固体粒子の表面上に吸着し、及び/又は水性相中でミセルを形成する。最終的に、沈殿挙動のいかなる増加も伴わずに、増粘効果が達成される。本発明の文脈において特に好ましい増粘剤は、フィロシリケート、特にリチウムアルミニウムシリケートである。
【0187】
前述の増粘剤、特にリチウムアルミニウムフィロシリケートは、成分C中に、各場合において成分Cの合計質量に基づいて、0.1~5.0質量%、好ましくは0.2~3.0質量%、特に0.3~2.0質量%の合計量で存在する。
【0188】
成分(d):
さらに、ミキサーシステムは、上述の成分A、B及びCだけでなく、さらなる成分Dも含んでよい。この成分Dは、少なくとも1種の効果顔料、及び少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー及び/又は少なくとも1種の非イオン性安定化バインダーを含む水性顔料ペーストである。成分Aとは異なり、成分Dは色顔料を含まず、従って、成分D中の色顔料の割合は、成分Dの合計質量に基づいて0質量%である。より好ましくは、成分Dは、少なくとも1種の効果顔料、少なくとも1種のアニオン性安定化バインダー、及び少なくとも1種の非イオン性安定化バインダーを含む。成分Dの特に好ましい実施態様は、各場合において成分Dの合計質量に基づいて、
- 5~35質量%の少なくとも1種の効果顔料、
- 5~30質量%のアニオン性安定化バインダー、
- 0.1~12質量%の非イオン性安定化バインダー
を含む。
【0189】
含まれる効果顔料、アニオン性及び非イオン性安定化バインダーは、成分Aに関連して記載した効果顔料、アニオン性安定化バインダー(a-2)及び非イオン性安定化バインダー(a-3)である。
【0190】
本発明の文脈において、ミキサーシステムが少なくとも1~100の成分Dを含む場合が特に好ましい。
【0191】
成分(e):
さらに、本発明のミキサーシステムは、顔料非含有成分Bとは異なる、さらなる顔料を含まない成分Eを含んでよい。さらなる顔料を含まない成分Eは、水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体(b-1)だけでなく、上記のアニオン性安定化バインダー(b-2a)及び(b-2b)も含む。
【0192】
本発明の文脈において、ミキサーシステムは、少なくとも1~3種の成分Eを含んでよい。
【0193】
成分(f):
さらに、ミキサーシステムは、少なくとも1種の架橋剤を含む少なくとも1種の架橋剤成分Fを含んでよい。そのような架橋剤の例は、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、及びブロックされたポリイソシアネートであり、公開された明細書EP0614951A2に記載されている。架橋剤と同様に、バインダーも存在してもよい。顔料非含有成分Bと同じバインダーが存在することが好ましい。
【0194】
特に好ましくは、成分C、D、E及びFはそれぞれ同様に、0~250g/L、とりわけ100~250g/LのVOC含有量を有する。
【0195】
本発明のミキサーシステムの好ましい実施形態は、全ての顔料ペーストA及び場合によりDが、同じバインダー(単数)、又はバインダー混合物の場合には同じバインダー(複数)を含むミキサーシステムである。これにより、ミキサーシステムの成分の高い混和性、及び高い相溶性が確実となる。
【0196】
本発明の特に好ましいミキサーシステムは、以下の成分を含む。
(a) 少なくとも1種の、特に1~100種の、上記の水性顔料ペースト(単数又は複数)A、
(b) 少なくとも1種の上記の顔料非含有成分B、
(c) 少なくとも1種の上記の成分C、
(d) 少なくとも1種、特に1~100種の、上記の水性顔料ペースト(単数又は複数)D、
(e) 場合により、少なくとも1種の上記の顔料を含まない成分E、及び
(f) 場合により、少なくとも1種の上記の架橋剤成分F。
【0197】
水性コーティング材料を製造するために、水性コーティング材料の所望の色合いに応じて、ミキサーシステムの1種以上の成分(a)を、次に、少なくとも1種の成分(b)、場合により少なくとも1種の成分(c)、及び場合により1種以上の成分(d)及び(f)と、水性コーティング材料の施与の直前に混合する。
【0198】
従って本発明の第二の主題は、0~250g/L、とりわけ100~250g/LのVOC含有量を有する水性コーティング材料を、少なくとも2種の水性成分を混合することによって製造する方法に関し、ここで本発明のミキサーシステムが使用され、水性コーティング材料は、顔料非含有成分Bの顔料ペーストA及び任意に成分Cを混合することによって製造される。
【0199】
様々な水性顔料ペーストA及び場合によりDが、水性コーティング材料を製造するため、所望の色合いになるような比率で混合される。成分A及び場合によりDと、成分又は様々な成分Bとの混合比は、色合いとは無関係に、得られるコーティング材料が所望の粘度、所望の固形分含有量、及び所望の有機溶媒の量等を有するという要件によって決定される。さらに、混合比は、要求される技術的特性、例えば接着性によって決定される。
【0200】
本発明のミキサーシステムから製造される水性コーティング材料は、0~250g/L、とりわけ100~250g/LのVOC含有量を有する。従って、本発明の第二の主題の特に好ましい一実施態様では、水性コーティング材料は、各場合においてコーティング材料の合計質量に基づいて、0~7質量%、とりわけ0~6質量%の合計量で有機溶媒を含む。有機溶媒の定義は、成分A及びBについて上記で述べた記載に従う。
【0201】
本発明のミキサーシステムから製造される水性コーティング材料は、優れた色合い精度、良好な隠蔽性及び良好な機械特性、特に元の仕上げに対する良好な接着性、及び高い耐凝縮性及びストーンチップ接着性を有する。
【0202】
本発明のミキサーシステムを用いて製造された水性コーティング材料は、多種多様な異なる基材、例えば金属、木材、プラスチック又は紙に適用してよい。本発明のミキサーシステムによって製造された水性コーティング材料は、損傷部位の再仕上げ、特に自動車再仕上げに特に好適である。この場合のコーティング材料は、成分(a)及び(b)、及び場合により、さらなる成分(c)、(d)及び(f)の混合によるその製造の直後に、慣例の方法、特に噴霧によって、適切に(例えば補修及び充填により)準備された損傷部位に適用される。この文脈では、水性コーティング材料の複数回の施与の間にフラッシングが行われないことが特に好ましい。本発明のミキサーシステムを用いて製造された水性コーティング材料は、好ましくは、ベースコートを製造するために使用される。
【0203】
このようにして製造されたベースコートを、室温で、又は強制乾燥(例えば、60℃、80℃で10分間又はIR乾燥)により初期乾燥した後、適した透明なトップコート組成物を施与する。トップコート材料としての適性は、有機的に溶解した及び水性の1成分又は2成分のクリアコート材料の両方、及び粉体クリアコート材料が有する。頻繁に用いられるのは、ヒドロキシ基含有アクリレートコポリマー及びポリイソシアネートをベースとする2成分クリアコートである。このようなクリアコート材料は、例えば、特許出願DE3412534、DE3609519、DE3731652、及びDE3823005に記載されている。適した1成分クリアコート材料、例えばヒドロキシ基含有バインダー及びアミノ樹脂硬化剤をベースとするものが同様に知られており、例えばKittel,Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen、第IV巻;W.A.Colomb in der H.Heeremann GmbH,Berlin-Oberschwandorf 1976年に記載されている。しかしながら、無論、ここに明示されていないあらゆる他のクリアコート材料が適している。
【0204】
およそ5分の任意の必要なフラッシュオフ時間の後、次にベースコートをトップコートと共に乾燥させる。2成分クリアコート材料を使用する場合、乾燥は一般に100℃未満、好ましくは80℃未満の温度で行われる。ベースコートの乾燥膜厚は一般に5~25μm、トップコートの乾燥膜厚は一般に30~70μmである。
【0205】
1成分クリアコート材料を使用する場合、ベースコートをトップコートと共に高温で、例えばおよそ120℃で乾燥させる。この場合のトップコートの乾燥膜厚は、一般に30~50μmである。
【0206】
本発明の方法のさらなる実施態様に関して、特に水性コーティング材料を製造するために使用される成分に関して、本発明のミキサーシステムに関連して述べた記載は、必要な変更を加えて有効である。
【0207】
最後に、本発明の第三の主題は、自動車ボディ及び/又はプラスチック部品の再仕上げ用の及び/又はコーティング用の水性コーティング材料を製造するための本発明のミキサーシステムの使用方法である。
【0208】
本発明による使用方法のさらなる実施形態に関して、特に使用されるミキサーシステムに関して、本発明のミキサーシステム及び本発明の方法に関して述べた記載は、必要な変更を加えて有効である。
【実施例】
【0209】
方法の説明:
1. 固形分含有量(固形分、不揮発性画分)
不揮発性画分は、DIN EN ISO3251(日付:2008年6月)に準拠して決定される。この決定は、予め乾燥させたアルミ皿に試料1gを量り分け、そして乾燥オーブン中110℃で60分間乾燥を行い、その後デシケーターで冷却し、次いで再度量り分けることにより行われる。採用した試料の合計量に対する残渣が、不揮発性画分に相当する。不揮発性画分の体積は、必要に応じて、場合によりDIN53219(日付:2009年8月)に準拠して決定してよい。
【0210】
2. ガラス転移温度(Tg):
本発明の文脈におけるガラス転移温度Tgは、DIN51005「Thermal Analysis(TA)-terms」及びDIN53765「Thermal Analysis-dynamic scanning calorimetry(DSC)」に基づく方法で実験により決定される。ここで、15mgの試料を試料ボートに量り分け、そしてDSC装置に導入する。開始温度まで冷却し、その後50ml/分の不活性ガスパージング(N2)下、10K/分の加熱速度で1回目と2回目の測定を行い、測定の間で冷却して開始温度に戻す。測定は、推定されるガラス転移温度より約50℃低い温度から、ガラス転移温度より約50℃高い温度までの範囲で慣例的に行われる。本発明の文脈における及びDIN53765のセクション8.1に準拠するガラス転移温度は、比熱容量に到達した変化の半分(0.5デルタcp)に到達する第2の測定の温度である。これは、DSC線図(温度に対する熱流のプロット)から決定される。これは、ガラス転移の前後の外挿されたベースライン間の中心線と測定プロットとの交点に対応する温度である。
【0211】
3. 粒子径
ポリマーの粒子径は、DIN ISO13321(2004年10月)に準拠して、動的光散乱法により決定される。本発明の文脈において、粒子径とは、測定された平均粒子径(Z-平均)を意味する。
【0212】
4. 遊離NCO基の量の決定
遊離イソシアネート基の量(以下、NCO含有量ともいう)は、DIN EN ISO3251、DIN EN ISO11909、及びDIN EN ISO14896に準拠して、キシレン中2%濃度のN,N-ジブチルアミン溶液の過剰量を、アセトン/N-エチルピロリドン(1:1体積%)中の試料の均一溶液に加えることにより、0.1N塩酸を用いたアミン過剰量の電位差逆滴定によって、決定する。ポリマーのNCO含有量は、固形分に基づいて、溶液中のポリマー画分(固形分含有量)を介して逆算することができる。
【0213】
5. 酸価の決定
酸価は、DIN EN ISO2114(日付:2002年6月)に準拠し、「方法A」を用いて決定される。酸価は、DIN EN ISO2114に規定された条件下で、試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)に対応する。記載された酸価は、固形分含有量に基づいてDIN規格に記載された合計酸価に相当する。
【0214】
6. OH価の決定
OH価は、DIN53240-2(日付:2007年11月)に準拠して決定される。この方法において、OH基を、過剰の無水酢酸を用いるアセチル化によって反応させる。その後過剰の無水酢酸を水の添加によって分解して酢酸を形成し、酢酸全体をエタノール性KOHで逆滴定する。OH価は、mgで表すKOHの量を示し、これは試料1gのアセチル化で結合した酢酸の量と同等であり、ここでは固形分含有量に基づく。
【0215】
7. 数平均及び質量平均分子量の決定
数平均分子量(Mn)は、DIN55672-1(日付:2007年8月)に準拠してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。数平均分子量の他に、この方法を使用して、質量平均分子量(Mw)、及び多分散性d(質量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比)も決定してよい。テトラヒドロフランが溶出剤として使用される。決定は、ポリメチルメタクリレート標準に対して実施される。カラム材料は、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマーからなる。
【0216】
8. マルチコート系の生成
8.1 本発明のミキサーシステム
本発明のミキサーシステムを使用して得られた水性ベースコート材料の特性を評価するため、マルチコート塗装系を以下の一般的なプロトコルに準拠して生成した。
【0217】
スチールパネルを標準的な黒色電着被覆(BASF Coatings社製のCathoGuard(登録商標)580Schwarz)で被覆し、次いでパッドをかけ(3M(商標)Scotch-Brite(商標)研磨クロスを使用して手作業により基材を粗面化)、その後洗浄組成物(Glasurit(登録商標)700-1)で洗浄した。先ず初めに、スプレーガン(SATAjet(登録商標)HVLP4000、入口圧力:2バール、ノズル圧力:0.7バール)を使用して、市販のプライマーサーフェイサー(Glasurit(登録商標)285-270 Grundfueller Pro、Glasurit(登録商標)929-58 Fuellerhaerter Pro、及びGlasurit(登録商標)352-91 Einstellzusatzを体積比5:1:1で)を2回のスプレーパスにより施与し、それから60℃で30分間乾燥させる。得られる乾燥膜厚は60μmとなる。偏心サンダー(接着性サンディングシート150mm P500)により最初のサンディングを行い、その後洗浄組成物(Glasurit(登録商標)700-1)で洗浄した後、水性コーティング材料それぞれをスプレーガン(SATAjet(登録商標)HVLP4000、入口圧力:2バール、ノズル圧力:0.7バール)で、2回のスプレーパスにより、間にフラッシングをせずに施与し(すなわちウェットオンウェット塗布)、そしてその後、表面外観が均一につやなしになるまでフラッシングする。その結果、それぞれのコーティング組成物の全乾膜厚は10~20μmとなる。その後、2回のスプレーパスで、市販のクリアコート材料(Glasurit(登録商標)923-335HS-Multi-Klarlack及びGlasurit(登録商標)929-33Haerterを2:1の体積比で、及びこの混合物にGlasurit(登録商標)352-91 lを10体積%)を目標乾燥膜厚50~60μmで施与する。乾燥は60℃で30分間行う。
【0218】
8.2 本発明によらないミキサーシステム(Glasurit(登録商標)90line)
本発明によらないミキサーシステム(Glasurit(登録商標)90line)を用いて得られた水性コーティング材料の特性を評価するために、以下の一般的なプロトコルに準拠してマルチコート塗装系を製造する:
標準的な黒色電着被覆(BASF Coatings社製のCathoGuard(登録商標)580Schwarz)で被覆したスチールパネルにパッドをかけ、洗浄し、それからセクション8.1に記載のように、市販のプライマーサーフェイサーで被覆する。
【0219】
偏心サンダー(接着性サンディングシート150mm P500)により最初のサンディングを行い、その後洗浄組成物(Glasurit(登録商標)700-1)で洗浄した後、水性コーティング材料それぞれをスプレーガン(SATAjet(登録商標)HVLP4000、入口圧力:2バール、ノズル圧力:0.7バール)で、2~3回のスプレーパスにより、各スプレーパス後に5分間のフラッシュオフをしながら、表面外観が均一につやなしになるまで施与する。その結果、それぞれのコーティング組成物の全乾膜厚は10~15μmとなる。その後、2回のスプレーパスにより、市販のクリアコート材料をセクション8.1に記載のように施与する。乾燥は60℃で30分間行う。
【0220】
9. 水分抵抗性の決定
水性コーティング材料、及び比較例組成物の水分に対する抵抗性を決定するため、適切に被覆された基材を、DIN EN ISO6270-2(日付:2005年9月)に準拠して、コンディショニングチャンバ内で10日の期間にわたり、CH試験条件下の一定湿度試験に供する。そして、コンディショニングチャンバから取り出した1時間後及び24時間後に、パネルの膨れを検査する。
【0221】
膨れの発生は、以下のように評価される:
膨れの数は0~5の定量的値によって評価し、1は膨れがほとんどないことを示し、5は膨れが非常に多いことを示す。
【0222】
凝縮曝露後のマルチコート系の技術的特性を評価するため、クロスカットをDIN EN ISO2409に準拠して実施した(評価0~5、0=最良値、5=最悪値)。
【0223】
10. ストーンチップ試験における接着特性の決定
マルチコート塗装系のストーンチップ接着性について、DIN EN ISO20567-1(2007年4月)、方法Bに準拠して評価する。得られた損傷を同様にDIN EN ISO20567-1に準拠して評価する。
【0224】
11. 乾燥膜厚の決定
膜厚は、DIN EN ISO2808(日付:2007年5月)、方法12Aに準拠して、ElektroPhysik社製のMiniTest(登録商標)3100-4100装置を用いて、決定する。
【0225】
12. VOC含有量の決定
水性再仕上げ組成物のVOC含有量は、DIN ISO11890-1又はDIN ISO11890-2(2009年9月)に準拠して決定される。
【0226】
13. 水性ミクロゲルのゲル画分の決定
ゲル画分は、分散体を凍結乾燥し、凍結乾燥したポリマーの合計質量を決定し、次いでポリマーを過剰のテトラヒドロフラン中25℃で24時間抽出することにより、重量分析的に決定することができる(テトラヒドロフランの凍結乾燥ポリマーに対する比率=300:1)。不溶性画分を取り出し、空気循環式オーブン中50℃で4時間乾燥させる。その後、乾燥した不溶性画分を量り分け、凍結乾燥ポリマーの合計質量との商を形成する。得られた値がゲル画分に相当する。
【0227】
14. 加圧水噴射に対するコーティングの耐性試験
セクション8に従って製造されたマルチコート系の試験を、加圧水噴射を用いて、DIN EN ISO16925(2014-06)に準拠して行う。
【0228】
15. 凍結融解安定性
まず第一に、対応する水性顔料ペーストのpH(23℃で測定)及び粘度を、10s-1、100s-1及び1000s-1のせん断荷重下で決定する(回転粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC調整システムを備えたRheolab QC機器)を使用して23℃で測定)。次いで、対応する水性顔料ペースト200gを、-18℃で8時間、密閉したガラス瓶中で貯蔵し、その後、室温で16時間保持する。この手順をさらに3回繰り返す。その後、再びpH及び粘度を測定し、顔料ペーストを沈降挙動に関して評価する。
【0229】
例示的実施形態
以下の実施例及び比較例は、本発明を例示する役割を果たすが、如何なる限定を課すものではないと解釈すべきである。
【0230】
別段の指定がない限り、各場合において、部で表す量は質量による部であり、そしてパーセントで表す量は、質量によるパーセンテージである。
【0231】
1. 成分A、B、及び場合によりD及びEのバインダーの調製
1.1 水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーD1の調製[(a-2)及び(b-2a)]
1.1.1 ポリエステル樹脂PE1の調製
55質量%の市販の二量体脂肪酸(ヨウ素価10mgI2/g、モノマー含有量最大で0.1%、三量体含有量2%以下、酸価195~200mgKOH/g、けん化価197~202mgKOH/g)、30質量%の1,6-ヘキサンジオール及び15質量%のイソフタル酸を、共沸混合物形成剤としてシクロヘキサンを加え、酸価(不揮発性画分に対して決定)3~4mgKOH/gとなるように縮合させた。存在する任意のシクロヘキサンを減圧下で除去し、ポリエステルをメチルエチルケトンで固形分含有量73%に希釈した。得られたポリエステル樹脂PE1は、71~75mgKOH/gのOH価(固形分)及び1400Dの計算分子量を有していた。
【0232】
1.1.2 水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタンポリマーP1の調製[(a-2)及び(b-2a)]
不活性ガス雰囲気としての窒素下、4.36部のジメチロールプロピオン酸、23.5部のジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、0.9部のネオペンチルグリコール及び48.75部のポリエステルPE1を合わせた。メチルエチルケトンの添加に続いて、混合物を80~82℃で攪拌しながら反応させた(固形分含有量67±1%にて)。反応は、溶液中のイソシアネート含有量の測定によりモニターした。イソシアネート含有量が1.0%~1.2%(溶液に基づく)の一定値に達したとき、トリメチロールプロパン(TMP)を鎖延長のために、NCO:TMP比1:1.1で加え、プレポリマーを反応させて、17mgKOH/g(樹脂固体に基づく)の演算OH価を有するOH-官能性ポリウレタンポリマーを得た。次いでこのポリマーをN,N’-ジメチルエタノールアミンで70%程度まで中和し、そして水と、平均モル質量900Dのポリプロピレングリコールとを加えて分散させた。その後蒸留によりメチルエチルケトンを除去した。このようにして得られたアニオン性ポリウレタンポリマー分散体は、固形分含有量29%~31%、及びpH7.7であり、ポリウレタンポリマーの含有量に基づいて、20%のポリプロピレングリコールを含有していた。
【0233】
1.2 水中において分散体の状態である非イオン性安定化アクリレートポリマーD2の調製[(a-3)]
2本の別々の供給ライン、アンカー攪拌機及び温度計を備えた攪拌タンクに、ブチルグリコールと水の混合物(1:1)を装入した。その後、攪拌タンクを絶対圧2.5バールの窒素に供した。攪拌を続けながら、3.7部のブチルグリコールと6.4部のtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートの混合物を供給ラインを介して4時間45分かけて計量供給した。第2の供給を介して、2000Dの平均モル質量を有し50%濃度の水溶液の形態のメトキシポリエチレングリコールのメタクリル酸エステル26部(例えば、GEO Speciality Chemicals社製のBisomerS20W(登録商標))、8.55部のスチレン、4.7部のn-ブチルアクリレート、8.34部の50%濃度の水溶液の形態のN-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、3.36部のメチルメタクリレート、0.84部のN,N’-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、6.5部のヒドロキシエチルメタクリレート及び18.5部のブチルグリコールの混合物を、4時間30分かけて計量し、第2の供給を第1の供給開始の15分後に開始した。
【0234】
60分の後重合段階の後、ブチルグリコールを使用して、固形分含有量45%±1%で水:ブチルグリコール比=45:55に設定した。樹脂の酸価は、固形分含有量に基づいて4.0~6.0mgKOH/gであった。
【0235】
1.3 水性でアクリレートベースのミクロゲル分散体D3[(b-1)]の調製
攪拌機、温度計、2つの供給部及び還流コンデンサーを備えた反応容器に、窒素下で、50.73部の水及び0.6部のAerosol MA80界面活性剤を装入した。モノマー供給容器は、0.25部のAerosol MA80界面活性剤、0.6部のAerosol EF800界面活性剤、603部のヘキサンジオールジアクリレート、12.605部のメチルメタクリレート、2.105部のヒドロキシプロピルメタクリレート、及び0.151部の脱イオン水で満たした。
【0236】
開始剤供給容器は、0.255部のアンモニウムペルオキシジスルフェートを溶液として含有する7.5部の脱イオン水で満たした。
【0237】
83℃の反応器温度で、10%の開始剤供給を10分間にわたって計量し、その後反応器をさらに15分間83℃に維持した。次に、モノマー混合物及び開始剤混合物の供給を同時に開始した。モノマー混合物を180分かけて計量し、開始剤溶液を210分かけて計量した。その後、モノマー供給容器を0.5部の脱イオン水ですすぎ、開始剤供給容器を0.37部の脱イオン水ですすいだ。すすいだ量は反応混合物中に通した。83℃をさらに60分間以上維持した後、ポリマー分散体を排出し、反応器を0.628部の脱イオン水ですすぎ、すすいだ量を同様にポリマー分散体に通した。その後、分散体を5μmのフィルターバッグで濾過した。その結果、110℃で60分間測定した固形分含有量が22±1%の白色分散体が得られた。数平均粒子径は、130~230nmであった。
【0238】
1.4 水中において分散体の状態である少なくとも1種のアニオン性安定化ポリマーD4の調製[(b-2b)]
水中において分散体の状態であるポリマーは、公開された明細書WO2017/088988A1における実施例BM2に関する記載のように調製した。
【0239】
調製された分散体D4は、固形分含有量25.5%、粒子径240nm及びガラス転移温度Tgが-9℃であった。
【0240】
1.5 水中において分散体の状態であるアニオン性安定化ポリウレタン-(メタ)アクリレートハイブリッドポリマーD5の調製[(b-2c)]
1.5.1 ポリウレタン前駆体
アンカー攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた攪拌槽に、53部のポリエステル樹脂PE1、0.05部のジブチルスズジラウレート、2.1部のネオペンチルグリコール、0.7部のトリメチロールプロパンモノアリルエーテル、16.5部のジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(CAS番号:5124-30-1)、及び22.5部のメチルエチルケトンを80℃で、溶液中のNCO含有量が1.0%~1.2%になるまで保持した。特性数値に達した後、得られたイソシアネートプレポリマーをジエタノールアミンと反応させたが、その際のジエタノールアミンの量はイソシアネートの量に対して等モルに計算した。その後、メチルエチルケトンを用いて固形分含有量60%~62%を確立した。
【0241】
1.5.2 アクリレート段階
2本の別々の供給ライン、アンカー攪拌機及び温度計を備えた攪拌タンクに、24部のポリウレタン前駆体を装入した。窒素を使用して反応器内を不活性ガス雰囲気にした。2.7部のn-ブチルアクリレート、2.6部のブチルメタクリレート、8部のメチルメタクリレート及び1.13部のメタクリル酸を3時間かけて計量供給した。並行して、3部のメチルエチルケトンと0.7部のtert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエートの混合物を、同様に3時間45分かけて計量供給した。ここでは第2の供給を第1の供給の15分前に開始した。タンクの温度を80℃に維持した。60分の後重合段階の後、0.9部のN,N’-ジメチルエタノールアミンとそれに続いて50部の水を1時間かけて計量供給した。その後減圧をかけ、メチルエチルケトンを蒸留により完全に除去した。その後、水を加えて固形分含有量35%を確立した。これにより、固形分含有量に基づいて28~30mgKOH/gの酸価を有し、8.5~9.0のpHを有する白色分散体が得られた。
【0242】
2. 水性顔料ペーストAの調製
2.1 フィロシリケート溶液SL
3質量%のフィロシリケート(Laponite RD)を、0.1質量%の殺生物剤(Acticide MBR1)及び3%のポリプロピレングリコール(Pluriol P900、BASF SE社より入手可能)と共に脱イオン水中に分散させた。
【0243】
2.2 黒色ベース塗料1
14.8部のD2、53.6部のD1及び13.5部の水の混合物中に強い剪断力で撹拌することにより、1部の溶媒を含まない湿潤剤(BYK345)、2.4部のブチルグリコール、1.5部の10%濃度N,N’-ジメチルエタノールアミン溶液、0.5部の市販の表面活性添加剤(BYK199)、1.5部のタルク及び4.4部のカーボンブラック(ColorBlack FW171)を組み込んだ。混合物をビーズミル上で分散させ、さらに1.5部の水、5部のD1及び0.3部の市販のPU増粘剤(Acrysol RM8)で構成し、次いで濾過した。得られた黒色ベース塗料1は186g/LのVOC値を有していた。
【0244】
2.3 黒色ベース塗料2
高せん断速度で撹拌しながら、15.5部のD2、9.9部の水、1部の市販の溶媒を含まない湿潤剤(BYK345)及び2.5部のブチルグリコールの混合物に、1部の10%N,N’-ジメチルエタノールアミン溶液、0.3部の市販の表面活性添加剤(BYK199)、1.5部のタルク、及び3.3部のカーボンブラック(Color Black FW171)を組み入れた。次いで54部のD1及び3.2部の水をゆっくりと計量供給した。混合物をビーズミルで分散させ、2.5部の水、さらに5部のD1及び0.3部の市販のPU増粘剤(Acrysol RM8)で構成し、次いで濾過した。得られた黒色ベース塗料2は191.8g/LのVOCを有していた。
【0245】
2.4 赤色ベース塗料1
21部のD2、17.6部の水及び1.25部の1-プロポキシ-2-プロパノールの混合物に、撹拌しながら、15部の赤色顔料(Pigment Red177)を加えた。続いて混合物を3部の水、0.2部の10%濃度のN,N’-ジメチルエタノールアミン溶液、0.25部の市販の分散添加剤(Disperbyk180)及び31.7部のD1と混合した。混合物をビーズミルで分散させ、それから4.5部の水及び5.5部のD1で構成し、そして最後に濾過した。赤色ベース塗料1は221g/LのVOCを有していた。
【0246】
2.5 赤色ベース塗料2
20部のD2及び11.1部の水の混合物に、激しく撹拌しながら、0.4部の10%濃度のN,N’-ジメチルエタノールアミン溶液、0.25部の市販の表面活性添加剤(BYK199)、及び3部の1-プロポキシ-2-プロパノール、25部の赤色顔料(Pigment Red254)、5部の水及び20部のD1を加えた。均質な混合物をビーズミルで分散させ、続いて7.75部の水及びさらに7.5部のD1で構成し、そして最後に濾過した。赤色ベース塗料2は217.3g/LのVOCを有していた。
【0247】
2.6 赤色ベース塗料3
20.3部のD2及び18部の水の混合物に、撹拌しながら、1部の疎水化フュームドシリカ(Aerosil R972)と18部の赤色顔料(Pigment Red101)を加え、この混合物に29部のD1及び4.5部の水を加えてビーズミルで分散させた。続いてミルベースを3.7部の水、5部のD1及び0.5部の市販の表面活性添加剤(BYK345)で構成し、そして濾過した。赤色ベース塗料3は205g/LのVOCを有していた。
【0248】
2.7 白色ベース塗料
10.55部のD2、20部のD1、4部のブチルグリコール、0.9部の湿潤剤(BYK199)、0.45部のシラン変性シリカ(Aerosil R805)、1.2部の10%濃度のN,N’-ジメチルエタノールアミン溶液及び9.4部の水の混合物に、集中的に撹拌しながら、48.5部のルチル型の二酸化チタンを加えた。この混合物を高速の撹拌速度で溶解槽上で処理し、ビーズミルで分散させた。この分散体をその後、さらに5部のD1で構成した。白色ベース塗料は231g/LのVOCを有していた。
【0249】
2.8 黄色ベース塗料
13部のD2、19部の水、1.5部のブチルグリコール、0.5部の市販の湿潤剤(BYK345)及び0.5部の市販の分散剤(Disperbyk199)に、激しく撹拌しながら、34部の黄色顔料(Pigment Yellow184)及び25部のD1を加えた。混合物をビーズミルで分散させ、さらに2.5部の水、3部のD1及び1部のPU増粘剤(Acrysol RM8)で構成し、次いで濾過した。黄色ベース塗料は220g/LのVOCを有していた。
【0250】
2.9 青色ベース塗料
23.5部のD2及び10.8部の水の混合物に、激しく撹拌しながら、0.6部の10%濃度のN,N’-ジメチルエタノールアミン溶液と、8部の青色顔料(Pigment Blue15:1)を加え、そして得られた混合物を30分間の強剪断に供した。その後、16.4部の水及び31部のD1をゆっくりと渦に計量供給し、混合物をビーズミルで分散させた。さらに3部の水をミルに流し、6.7部のD1を加えて構成した。青色ペーストは228.4g/LのVOCを有していた。
【0251】
3. 顔料非含有成分Bの調製:
20部のD4及び30部のポリウレタン分散体D1を、撹拌しながら、1.6部のブチルグリコール中52%濃度のTMDD溶液、2.5部のブチルグリコール、2.5部の1-n-ペンタノール、1部のRheovis AS130、7.5部のD3及び24.8部のD5と混合し、そして10部の非晶質シリカ(Syloid ED3)の12%水性分散体を加えた。続いて、均質な混合物を濾過した。得られた顔料非含有成分Bは215g/LのVOCを有していた。
【0252】
4. 成分Cの調製
1.5質量%のフィロシリケート(Laponite RD)を、0.18質量%の殺生物剤(Acticide MBR1)及び1質量%のポリプロピレングリコール(Pluriol P900、BASF SE社より入手可能)と共に脱イオン水中に分散させた。
【0253】
5. 本発明の水性コーティング材料の調製
水性コーティング材料は、水性顔料ペーストA、顔料非含有成分B、及び成分Cを混合することにより形成した。
【0254】
5.1 赤色ベースコート(R1)
50gの成分Bを、22.62gの赤色ベース塗料1、16.75gの赤色ベース塗料2、10.52gの赤色ベース塗料3、及び0.1gの白色ベース塗料と混合し、そして均質な混合物が形成されるように撹拌した。この混合物を成分Cで2:1の比率の体積で構成した。水性コーティング材料は212g/LのVOCを有していた。
【0255】
5.2 黒色ベースコート(S1)
50gの成分Bを50gの黒色ベース塗料1と共に均質な混合物が形成されるまで撹拌した。この混合物を成分Cで2:1の比率の体積で構成した。水性コーティング材料は204g/LのVOCを有していた。
【0256】
5.3 白色ベースコート(W1)
44.47gの成分Bを、55.34gの白色ベース塗料、0.09gの赤色ベース塗料3、0.08gの黄色ベース塗料及び0.03gの黒色ベース塗料2と混合し、撹拌して均質な混合物を形成した。この混合物を成分Cで2:1の比率の体積で構成した。水性コーティング材料は216g/LのVOCを有していた。
【0257】
6. 貯蔵安定性
水性顔料ペーストAを室温及び40℃で8週間にわたり貯蔵したところ、施与した乾燥膜の組成、流動挙動及び色に変化はなかった。
【0258】
7. 凍結融解安定性
凍結融解安定性は、前述の方法に従って評価した。結果を表1にまとめる。
【0259】
【0260】
複数回凍結融解した顔料水性ペーストは顕著な沈降挙動を示さず、そしてpHも実質的に変化しなかった。さらに、4回の凍結融解サイクルの後でさえ、粘度の変化は許容範囲内であった。従って本発明のミキサーシステムで使用される水性顔料ペーストは、良好な凍結融解安定性を示す。
【0261】
8. 耐候性及びストーンチップの評価
凝縮感受性及びストーンチップ接着性を上記の方法に従い評価した。結果を表2及び表3にまとめる。比較のため、BASF Coatings GmbH社製の市販のミキサーシステム(Glasurit(登録商標)90Line)を使用し、対応する色合いを生成した。この系(Glasurit(登録商標)90Line)で得ることができるコーティング材料のVOC含有量は、312~419g/Lであった。
【0262】
【0263】
【0264】
上記の表から、本発明のミキサーシステムから製造された水性コーティング材料(EF)は、市販のミキサーシステムを使用して製造されたコーティング材料(R90)と一致する機械的特性を有することが明らかである。しかしながら、本発明のミキサーシステムから製造された水性コーティング材料は、著しく低減されたVOC含有量を有する。