IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートリブ ディベロップメント エービーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/237 20060101AFI20240129BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20240129BHJP
   B60R 21/231 20110101ALI20240129BHJP
【FI】
B60R21/237
B60R21/207
B60R21/231
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022527615
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017050
(87)【国際公開番号】W WO2021241126
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020093217
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭希
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203945(JP,A)
【文献】特開2008-056116(JP,A)
【文献】特開2003-175792(JP,A)
【文献】特開2007-091177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに着座した乗員の頭部と側方部を一体的に覆うように膨張展開するエアバッグと、当該エアバッグにガスを供給するインフレータと、を備えたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、
膨張展開が完了した膨張完了状態において、乗員の頭部を覆う頭部保護チャンバと、乗員の側方部を覆う側部保護チャンバとを有すると共に、
ロール状に巻いた状態または蛇腹状に折り畳んだ状態で、車両用シートの背もたれ部の一方側部から上部を経由して他方側部に亘って収納される収納状態において、前記収納状態のエアバッグの前記背もたれ部への取付け端側から延びる外周部分に付加折り返し部を有し、
前記付加折り返し部は、前記収納状態のエアバッグのうち、ロール状に巻かれたまたは蛇腹状に折り畳まれた部分の少なくとも後側の一部分を覆うように設けられており、
前記エアバッグは、膨張展開初期の段階で、前記付加折り返し部が、前記頭部保護チャンバ及び前記側部保護チャンバよりも先に膨張展開するように構成されており、先に膨張展開した前記付加折り返し部は、前記車両用シートに着座した乗員とは反対側の位置に前記エアバッグの膨張展開方向を決める案内壁を形成する、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記付加折り返し部は、前記背もたれ部の表面近傍から前記収納状態のエアバッグの後側の外周部分の形状に沿って上部近傍まで延び、当該上部近傍で下方に向かって折り返されて前記背もたれ部の表面近傍まで達するように設けられている、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記付加折り返し部は、前記収納状態のエアバッグの頂上部分も更に覆うように設けられている、請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記付加折り返し部は、前記頂上部分を経て当該頂上部分から連続する、前記収納状態のエアバッグの前側の上部の一部分も覆うように設けられている、請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記付加折り返し部は、少なくとも前記頭部保護チャンバに相当する部分に設けられている、請求項1~4の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の衝突時や横転時に、乗員の頭部と、肩部・上腕部・胸部の側方部とを一体的に保護すると共に、必要な場合はこれらの部位に加え、腹部と腰部の側方部までを保護することも可能なエアバッグ装置に関するものである。
【0002】
以下、本願において「上」「上方」とは正規の状態で車両用シートに着座した乗員の頭部方向を、「下」「下方」とは同じ状態の乗員の足元方向を意味する。また、「前」「前方」とは正規の状態で車両用シートに着座した乗員の正面方向を、「後」「後方」とは同じ状態の乗員の背面方向を意味する。また、「左」「左側」とは正規の状態で車両用シートに着座した乗員の左手方向を、「右」「右側」とは同じ状態の乗員の右手方向を意味する。
【背景技術】
【0003】
近年、例えば車両の衝突時や横転時に、車両用シートの収納部から膨張展開するフード型(シェル状)のエアバッグにより、乗員の頭部と、乗員の肩部・上腕部・胸部の側方部とを一体的に覆って乗員を保護するエアバッグ装置が提案されている(例えば特許文献1,2)。
【0004】
この種のエアバッグ装置1のエアバッグ2は、例えば図9に示すように、未膨張のエアバッグ2を拡げて平坦面に平置きにした状態では上下方向よりも左右方向が長い形状であり、同一の2枚のシート2a,2bを重ね合わせた状態で、外周部と左右方向の中心部を縫合して縫製部4,5を設けることで、縫製部5の左右に同一形状の膨張可能なチャンバ2cをそれぞれ形成している。
【0005】
そして、前記左右のチャンバ2cは、縫製部6で内部を縫合することにより、エアバッグ2の左右それぞれの両端側に位置する側部保護チャンバ2caと、エアバッグ2の左右方向の中央部に位置する頭部保護チャンバ2cbとに区画している。
【0006】
図9のエアバッグ2では、縫製部6の一端側を前記外周部の縫製部4と連続させないことにより、側部保護チャンバ2caと頭部保護チャンバ2cbとの間に通気口7を形成している。この通気口7は、側部保護チャンバ2caの膨張が完了したときに、側部保護チャンバ2caから頭部保護チャンバ2cbにガスを流し、頭部保護チャンバ2cbへのガスの供給を補うものである。
【0007】
前記エアバッグ2は、例えば前記左右のチャンバ2cに夫々インフレータ3の挿入部2dを形成し、前記左右のチャンバ2cに別々のインフレータ3からガスを供給し、左右のチャンバ2cが流体的に独立して膨張する構成としている。
【0008】
エアバッグ2では、前記挿入部2dに、ほぼY字形のガスガイド8を設けている。このガスガイド8は、インフレータ3を挿入する入口8aと、インフレータ3から噴出したガスを、側部保護チャンバ2caに案内する第1の出口8bと、頭部保護チャンバ2cbに案内する第2の出口8cとを有している。第1の出口8bと第2の出口8cの断面積は、側部保護チャンバ2caと頭部保護チャンバ2cbに供給するガス量によって適宜決定する。
【0009】
前記エアバッグ2は、図10(a)に示すように、車両用シート9の背もたれ部9aを支持するフレーム9bの一方側部から上部を経由して他方側部に亘って、例えばロール状に巻いた状態で収納される。具体的には、頭部保護チャンバ2cbは前記背もたれ部9aの上部に収納され、側部保護チャンバ2caは前記背もたれ部9aの左右側部の互いに離間した対向位置に収納される。なお、背もたれ部9aの上部とは、図10(b)に示すように、背もたれ部9aとヘッドレスト9cを一体的に形成している車両用シート9の場合は、ヘッドレスト9cの上部を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-14477号公報
【文献】特開2018-83554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、近年、自動車は、上述のようなエアバッグ2を収納した車両用シート9と車室のルーフや内装品との間の間隔が狭くなってきている。そのため、エアバッグ2を、例えば図11に示すように、ただ単にロール状に巻いた状態で背もたれ部9aに収納する場合は、図10に示す収納状態から、図12A図12Eに示すように、エアバッグ2が膨張展開する過程で、エアバッグ2が車室のルーフ10や内装品11と干渉するおそれがある(図12C図12Dを参照)。このように膨張展開時に、エアバッグ2が車室のルーフ10や内装品11と干渉した場合、エアバッグ2の膨張展開方向が変化し、初期の保護性能を発揮できない場合が起こり得る。この場合、乗員12を適正に保護することができない。
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、エアバッグをただ単にロール状に巻いた状態で車両用シートの背もたれ部に収納した場合、膨張展開時、ルーフや内装品と干渉して膨張展開方向が変化し、初期の保護性能を発揮できない場合が起こり得るという点である。
【0013】
本発明は、前記課題を解決するものであり、車両用シートと車室のルーフや内装品との間の間隔が狭い場合であっても、膨張展開時に、エアバッグがルーフや内装品と干渉することを防止して、所期の保護性能を発揮できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、車両用シートに着座した乗員の頭部と側方部を一体的に覆うように膨張展開するエアバッグと、当該エアバッグにガスを供給するインフレータと、を備えたエアバッグ装置である。
【0015】
前記エアバッグは、膨張展開が完了した膨張完了状態において、乗員の頭頂部から側頭部を覆う頭部保護チャンバと、乗員の側方部を覆う側部保護チャンバとを有すると共に、ロール状に巻いた状態または蛇腹状に折り畳んだ状態で、車両用シートの背もたれ部の一方側部から上部を経由して他方側部に亘って収納される収納状態において、前記収納状態のエアバッグの前記背もたれ部への取付け端側から延びる外周部分に付加折り返し部を有している。
【0016】
具体的には、頭部保護チャンバは前記背もたれ部の上部に収納され、側部保護チャンバは前記背もたれ部の左右側部の互いに離間した対向位置に収納される。なお、背もたれ部の上部とは、背もたれ部とヘッドレストを一体的に形成している車両用シートの場合は、ヘッドレストの上部を意味する。
【0017】
本発明では、前記巻いた状態または折り畳んだ状態のエアバッグの前記背もたれ部への取付け端側から延びる外周部分の一部に付加折り返し部を有する。そして、当該付加折り返し部は、前記収納状態のエアバッグのうち、ロール状に巻かれたまたは蛇腹状に折り畳まれた部分の少なくとも後側の一部分を覆うように設けたことが本発明の特徴である。ここで、「後側の一部分」とは、着座した乗員とは反対側の一部分である。
【0018】
具体的には、付加折り返し部は、前記背もたれ部の表面近傍から前記収納状態のエアバッグの前記反対側の外周部分の形状に沿って上部近傍まで延び、当該上部近傍で下方に向かって折り返された折り返し部を介して、前記外周部分の残りの部分に接続されており、前記背もたれ部の表面近傍まで達するように設けられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、先ず、付加折り返し部が膨張展開してエアバッグの膨張展開方向を決める案内壁を形成するので、後から膨張展開する頭部保護チャンバや側部保護チャンバは、ルーフや内装品と干渉せず、所期の保護性能を発揮できる。
【0020】
本発明において、前記付加折り返し部が、前記収納状態のエアバッグの外周部分のうち、前記着座した乗員とは反対側の外周部分を覆うのは、着座した乗員側を覆う場合、エアバッグの膨張展開方向を決める案内壁の役目を果たすように膨張展開させることが難しくなるからである。
【0021】
また、前記付加折り返し部は、前記ロール状に巻いた状態または蛇腹状に折り畳んだ状態のエアバッグの頂上部分も更に覆うことが望ましい。エアバッグの着座する乗員とは反対側の外周部分に加え、エアバッグの頂上部分も更に覆う長さを有する場合には、エアバッグの膨張展開方向を決める案内壁としての効果が向上するからである。
【0022】
また、前記付加折り返し部は、前記エアバッグの前記頂上部分を経て当該頂上部分から連続する、前記着座した乗員側の上部の一部分も覆うものであることが望ましい。エアバッグの前記頂上部分を経て当該頂上部分から連続する、前記着座した乗員側の上部の一部分も覆う長さがあれば、より確実にエアバッグの膨張展開方向を決めることができるからである。
【0023】
また、前記付加折り返し部は、少なくとも頭部保護チャンバに相当する部分に設けることが望ましい。エアバッグの膨張展開時に、主に干渉する部分は車室内のルーフであるからである。
【0024】
本発明では、先ず、付加折り返し部が膨張展開して案内壁を形成する。そして、この案内壁を、当該案内壁に導かれる頭部保護チャンバや側部保護チャンバがルーフや内装品と干渉しないような位置に形成しておくことで、後から膨張展開する前記チャンバは、ルーフや内装品と干渉しない。従って、所期の保護性能を発揮でき、乗員を適正に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグの第1実施例を平坦面に平置きにした未膨張の状態を示した図である。
図2図2は、図1に示す第1実施例の頭部保護チャンバを、車両用シートの背もたれ部の上部に取付けた状態を説明する図である。
図3図3は、本発明の第2実施例を、図2と同様の状態で示した図である。
図4図4は、本発明の第3実施例を、図2と同様の状態で示した図である。
図5A図5Aは、図3に示す第2実施例の膨張展開開始直後の斜視図である。
図5B図5Bは、図3に示す第2実施例の膨張展開初期の斜視図である。
図5C図5Cは、図3に示す第2実施例の膨張展開中期の斜視図である。
図5D図5Dは、図3に示す第2実施例の膨張展開後期の斜視図である。
図5E図5Eは、図3に示す第2実施例の膨張展開完了時の斜視図である。
図6図6は、本発明の第4実施例を、図2と同様の状態で示した図である。
図7図7は、本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグの第5実施例を平坦面に平置きにした未膨張の状態を示した図である。
図8図8は、図7に示す第5実施例の膨張展開完了時の正面図である。
図9図9は、乗員の頭部と、乗員の肩部・上腕部・胸部の側方部を一体的に覆って保護するエアバッグ装置のエアバッグを平置きに広げた展開状態の一例を示した図である。
図10図10は、図9のエアバッグ装置を取付けた車両用シートを車両の後方から見た図で、(a)はヘッドレストが車両用シートの背もたれ部に別途取り付けられているもの、(b)はヘッドレストが前記背もたれ部と一体に形成されているものを示す。
図11図11は、図9のエアバッグ装置を構成するエアバッグの頭部保護チャンバを、車両用シートの背もたれ部の上部に取付けた状態を説明する図である。
図12A図12Aは、図9のエアバッグ装置の膨張展開開始直後の斜視図である。
図12B図12Bは、図9のエアバッグ装置の膨張展開初期の斜視図である。
図12C図12Cは、図9のエアバッグ装置の膨張展開中期の斜視図である。
図12D図12Dは、図9のエアバッグ装置の膨張展開後期の斜視図である。
図12E図12Eは、図9のエアバッグ装置の膨張展開完了時の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
エアバッグをただ単にロール状に巻いた状態または蛇腹状に折り畳んだ状態として車両用シートの背もたれ部に収納した場合、膨張展開時、ルーフや内装品と干渉し、所期の保護性能が得られない場合が起こり得る。
【0027】
本発明は、例えばロール状に巻いた状態のエアバッグの前記背もたれ部への取付け端側から延びる外周部分に、前記収納状態のエアバッグの着座した乗員とは反対側の外周部分の少なくとも一部分を覆う付加折り返し部を設けることで、前記課題を解決するものである。
【0028】
以下、本発明の実施例を、図1図8を用いて説明する。
本発明のエアバッグ装置21は、車両の衝突時や横転時に、車両用シート9に着座した乗員12の頭部12aと、例えば肩部12b・上腕部12c・胸部12dの側方部を覆うように膨張展開するエアバッグ22と、当該エアバッグ22の内部にガスを噴出するインフレータ3を備えている。エアバッグ22は、その左右に、対称な同一形状のチャンバ2cがそれぞれ形成されている。チャンバ2cは、膨張展開が完了した膨張完了状態において、乗員12の頭部12a(具体的には、頭頂部から側頭部)を覆う頭部保護チャンバ2cbと、乗員12の側方部を覆う側部保護チャンバ2caとを有している。なお、チャンバ2c、側部保護チャンバ2ca、及び頭部保護チャンバ2cbについて、「チャンバ」とは、内部空間だけでなく、その内部空間を形成するシートを含む袋体を意味する。
【0029】
車両用シート9は、シートクッション9dと、背もたれ部9aを備えており、背もたれ部9aは、その上部にヘッドレスト9cが一体で形成されるか、或いは別途取り付けられている。前記シートクッション9d及び前記背もたれ部9aは、フレーム9b(図10を参照)によって支持されている。
【0030】
前記エアバッグ22の一例を図1に示す。図1のエアバッグ22は、先に図9で説明したエアバッグ2と、以下の点が特に相違している。
・インフレータ3の取付け位置をエアバッグ22の左右両側の下部とした点。
・例えばロール状に巻いた状態のエアバッグ22の、車両用シート9の背もたれ部9aへの取付け端22c側から延びる外周部分の一部に付加折り返し部22aを設けた点。
・左右方向中央部の縫製部5に通気口24を設けて左右のチャンバ2cを連通させている点。
【0031】
エアバッグ22は、図1に示す平置き状態において、前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、前側から後ろ側に向かって蛇腹状に折り畳むことにより、前後方向の寸法が短くなり、背もたれ部9aに収納される時の収納状態となる。エアバッグ22は、図10で示したように、車両用シート9の背もたれ部9aを支持するフレーム9bの一方側部から上部を経由して他方側部に亘って例えばロール状に巻いた状態で収納される。この時、側部保護チャンバ2cbは背もたれ部9の左右両側部の互いに離間した対向位置に、頭部保護チャンバ2caは背もたれ部9の上部にそれぞれ収納される。付加折り返し部22aは、図2に示すように、収納状態で、エアバッグ22の背もたれ部9aへの取付け端22c側から延びる外周部分の一部に設けられている。そして、例えばロール状に巻いたエアバッグ22を背もたれ部9aに収納する際、付加折り返し部22aで、エアバッグ22の車両用シート9に着座した乗員12とは反対側の外周部分の少なくとも一部分を覆うようにする。取付け端22cは、図2に示すような、取付け具13により、背もたれ部9aを支持するフレーム9bに固定される。付加折り返し部22aの取付け端22cは、背もたれ部9aの表面近傍に位置している。
【0032】
付加折り返し部22aは、その前後方向の長さを適宜調節することで、収納状態のエアバッグ22の外周部分のうち、どの部分を覆うかを決めることができる。図2では、付加折り返し部22aは、収納状態のエアバッグ22のうち、ロール状に巻かれたまたは蛇腹状に折り畳まれた部分の少なくとも後側の一部分を覆うことが可能な長さとしている。このため、図2に示すように、付加折り返し部22aは、ロール状に巻いた状態のエアバッグ22の外周部分のうち、車両用シート9に着座した乗員12とは反対側の少なくとも略半周を覆っている。付加折り返し部22aは、収納状態のエアバッグ22の後側の外周部分の形状に沿って頂上部分22bの近傍まで延びている。また、望ましい実施形態を示す図3では、付加折り返し部22aは、ロール状に巻いた状態のエアバッグ22の外周部分のうち、車両用シート9に着座した乗員12とは反対側から頂上部分22bまでを覆っている。また、さらに望ましい実施形態を示す図4では、付加折り返し部22aは、ロール状に巻いた状態のエアバッグ22の外周部分のうち、車両用シート9に着座した乗員12とは反対側から頂上部分22bを経て着座した乗員12側までも覆うようにしている。なお、図2図4では、紙面右側に乗員12が着座しており、紙面左側が着座した乗員12とは反対側となる。
【0033】
例えば、図3に示す本発明エアバッグ装置21は、衝突や横転などによって車両に衝撃が加わり、センサーからの信号でインフレータ3からガスが噴出した場合、エアバッグ22は、図5A図5Eに示す順に膨張して展開する。
【0034】
噴出したガスは、ガスガイド8を通って付加折り返し部22aと側部保護チャンバ2caに案内され、これにより付加折り返し部22aと側部保護チャンバ2caが膨張展開する。このとき、側部保護チャンバ2caよりも付加折り返し部22aが先に膨張展開するようにガスガイド8の第1の出口8bと第2の出口8cの断面積を決定しておく。もしくは、具体的な図示はしないが、第2の出口8cがより付加折り返し部22aに近い位置に設けられるように、ガスガイド8の頭部保護チャンバ2c内の第2の出口8c側が、付加折り返し部22aの近傍まで延長されて設けられてもよい。いずれの方法においても膨張展開した付加折り返し部22aは、例えば頭部保護チャンバ2cbの膨張展開方向を決める案内壁23を形成する(図5Bを参照)。


【0035】
前記付加折り返し部22aを膨張して展開させた前記ガスは、その後、頭部保護チャンバ2cbに案内され、頭部保護チャンバ2cbを膨張して展開させる。
【0036】
この頭部保護チャンバ2cbの膨張展開時、例えば図1に示すエアバッグ22の場合は、頭部保護チャンバ2cbは前記案内壁23に案内されるので、車室内のルーフ10に干渉することはない(図5C図5Eを参照)。
【0037】
つまり、本発明のエアバッグ装置21は、先ず、付加折り返し部22aが膨張展開してエアバッグ22の膨張展開方向を決める案内壁23を形成する。従って、付加折り返し部22aの後から膨張展開する頭部保護チャンバ2cbは、ルーフ11と干渉せず、所期の保護性能を発揮できる。また、付加折り返し部22aとほぼ同時期に膨張展開する側部保護チャンバ2caと内装品12との干渉も抑制される。
【0038】
本発明のエアバッグ装置21は、図2図4に示したような、エアバッグ22をロール状に巻いた状態で車両用シート9の背もたれ部9aに収納するものに限らず、図6に示すような、蛇腹状に折り畳んだ状態で前記背もたれ部9aに収納するものでもよい。
【0039】
図6では、前記付加折り返し部22aは、例えば車両用シート9に着座した乗員12とは反対側を頂上部分22bまで覆うように延びた後折り返し、前記背もたれ部9aの上部の表面近傍に達するように下方に向かったものを示している。
【0040】
しかしながら、この蛇腹状に折り畳んだ状態で前記背もたれ部9aに収納する場合も、前記ロール状に巻いた状態と同様、エアバッグ22の車両用シート9に着座した乗員12とは反対側のみを覆うようにしたものでもよい。また、エアバッグ22の車両用シート9に着座した乗員12とは反対側から頂上部分22bを経て車両用シート9に着座した乗員12側をも覆うようにしたものでもよい。
【0041】
エアバッグ22の変形例を図7に示す。図7のエアバッグ22においても、例えばロール状に巻いた収納状態において、付加折り返し部22aが、背もたれ部9aを支持するフレーム9bへの取付け端側22cから延びる外周部分のうち、着座した乗員12とは反対側の外周部分の少なくとも一部分を覆うように設けられている点は、図1のエアバッグ22と同じである。
【0042】
収納状態のエアバッグ22は、ロール状に巻かれた状態または蛇腹状に折り畳まれた状態の主展開部と、前記主展開部の端から車両用シート9への取付け端22cまで、前記主展開部の少なくとも後側(着座した乗員12とは反対側)を覆うように延びる付加折り返し部22aを有している。前記主展開部には、膨張完了状態において、乗員12の頭部12aを覆う頭部保護チャンバ2cbと、乗員12の側方部を覆う側部保護チャンバ2caが含まれる。エアバッグ22は、図7に示す平置き状態において、付加折り返し部22aの前後方向の長さを適宜調節することで、収納状態のエアバッグ22の外周部分のうち、付加折り返し部22aで覆う範囲を決定できる。
【0043】
図7のエアバッグ22では、ガスガイド8の第1の出口8bが側部保護チャンバ2caに面している点は同じであるが、ガスガイド8の第2の出口8cは、頭部保護チャンバ2cbではなく、付加折り返し部22aの近くに位置している点が、図1のエアバッグ22と相違している。そして、付加折り返し部22aにガスを供給する第2の出口8cの断面積を、側部保護チャンバ2caにガスを供給する第1の出口8bの断面積よりも広くなるようにしている。
【0044】
これにより、図7のエアバック22では、膨張展開が開始された初期の段階で付加折り返し部22aが確実に案内壁としての効果を発揮し、その後に頭部保護チャンバ2cbが膨張展開して側部保護チャンバ2caと共に乗員12を的確に保護することができる。図7のエアバッグ22は、図8に示すように膨張展開が完了した状態となるまでの間に、頭部保護チャンバ2cbが車室のルーフと干渉することがなく、側部保護チャンバ2caが車室の内装品と干渉することもない。なお、図7に示したエアバッグ2では、左右方向の中心部の縫製部5には通気口24を設けていない。図8において9dはシートクッションを、14はシートベルトを示している。
【0045】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0046】
すなわち、以上で述べたエアバッグ装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0047】
例えば、図1図8に示した実施例では、頭部保護チャンバ2cbの膨張展開に先立って膨張展開する付加折り返し部22aを設けているが、側部保護チャンバ2caの膨張展開に先立って膨張展開する付加折り返し部22aを更に設けたものでもよい。
【0048】
また、図1図7に示したエアバッグ22はガスガイド8を設けているが、インフレータ3のガスが付加折り返し部22aを通って、側部保護チャンバ2caや頭部保護チャンバ2cbに確実に導かれるのであれば、ガスガイド8は無くてもよい。
【0049】
また、図1図8に示した実施例では、着座した乗員が車両前方を向くシートにエアバッグ装置21を取り付けているが、着座した乗員が車両後方を向くシートにエアバッグ装置21を取り付けてもよい。このような車両用シート9は、自動運転の車両などに設けることができる。
【0050】
また、図1図8に示した実施例では、乗員12の頭部12aと、乗員12の肩部12b・上腕部12c・胸部12dの側方部を保護するエアバッグ装置22について説明している。しかしながら、乗員12の頭部12aと、乗員12の肩部12b・上腕部12c・胸部12dに加えて、乗員12の腹部と腰部の側方部までを保護するエアバッグ装置に本発明を適用してもよい。
【0051】
また、図1図7で説明したエアバッグ22は、2枚のシートを縫製して形成しているが、いわゆる「ワンピースウィービング(one-piece weaving)」技術を用いて形成したものでも良い。
【符号の説明】
【0052】
2ca 側部保護チャンバ
2cb 頭部保護チャンバ
3 インフレータ
9 車両用シート
9a 背もたれ部
12 乗員
12a 頭部
21 エアバッグ装置
22 エアバッグ
22a 付加折り返し部
22b 頂上部分
22c 取付け端
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E