IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7427782シラン系添加剤を含み、改善された接着特性を有する水性ベースコート組成物および上記ベースコート組成物から生成される多層コーティング
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】シラン系添加剤を含み、改善された接着特性を有する水性ベースコート組成物および上記ベースコート組成物から生成される多層コーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/08 20060101AFI20240129BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240129BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240129BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240129BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240129BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240129BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20240129BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240129BHJP
【FI】
C09D183/08
B05D1/36 B
B05D3/12 Z
B05D7/24 302P
B05D7/24 302R
B05D7/24 302T
B05D7/24 302V
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
C09D5/02
C09D7/20
C09D7/41
C09D7/63
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022528241
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2020080767
(87)【国際公開番号】W WO2021094131
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】19209373.0
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンスベルク,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】ヘフェルマン,クラース,ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】アルター,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】グロムプ,メラニー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンキンク,ウルリケ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516759(JP,A)
【文献】特表2012-522077(JP,A)
【文献】特表2012-511058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/08
B05D 1/36
B05D 3/12
B05D 7/24
C09D 5/02
C09D 7/20
C09D 7/41
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、またはシクロアルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキラジカルまたはシクロアルキラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して測定される、イソシアネート含量1%未満を有する、少なくとも1種のシラン系化合物Rと、
b)一般式(I)のシラン系化合物とは異なる、少なくとも1種の結合剤Bと、
c)少なくとも1種の顔料Pと
を含む、水性塗料組成物。
【請求項2】
シラン系化合物Rが、DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して測定される、イソシアネート含量0.5%未満を有することを特徴とする、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
式(I)のXおよびX’が、互いに独立して、1~10個の炭素原子を有する、直鎖状アルキレンラジカルを表すことを特徴とする、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
式(I)のRが、互いに独立して、C~C10アルキル基を表すことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
式(I)のRが、直鎖状C~C10アルキル基を表すことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
式(I)のaおよびbが、互いに独立して0であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
少なくとも1種のシラン系化合物Rが、塗料組成物の全質量に対して、1~20質量%の全量で存在することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
結合剤Bが、(i)ポリ(メタ)アクリレート、(ii)ポリウレタン、(iii)ポリエステル、(iv)ポリエーテル、(v)記載されたポリマーのコポリマー、ならびに(vi)これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
塗料組成物の全質量に対して2質量%未満の全量の少なくとも1種の架橋剤を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
水性塗料組成物を生成させるためのミキサーシステムであって、
- 少なくとも1種のカラー顔料および/またはエフェクト顔料、ならびに少なくとも1種の結合剤を含有する着色ベースを含む、少なくとも1個の第1の容器(C1)と、
- 少なくとも1種の結合剤を含有する顔料非含有水性ベースワニスを含む、少なくとも1個の第2の容器(C2)と、
DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して測定される、イソシアネート含量1%未満を有し、且つ少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、またはシクロアルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキラジカルまたはシクロアルキラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を含有する、少なくとも1個の第3の容器(C3)と、
- 任意に、少なくとも1種の無機および/または有機の増粘剤を含有する顔料非含有レオロジーモジュールを含む第4の容器(C4)と
を備える、ミキサーシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のミキサーシステムから水性塗料組成物を生成させるための方法であって、少なくとも1種の着色ベースを顔料非含有水性ベースワニス、シラン系組成物、および任意に顔料非含有レオロジーモジュールと混合する工程を含む、方法。
【請求項12】
基材(S)で多層コーティング(MC)を形成するための方法であって、以下の工程:
(1)請求項1から9のいずれか一項の水性塗料組成物または請求項11に従って製造された水性塗料組成物を基材(S)に塗布する工程と、
(2)工程(1)で塗布された塗料組成物からベースコート薄膜を形成する工程と、
(3)得られたベースコート薄膜にクリアコート組成物を塗布する工程と、
(4)ベースコート薄膜およびクリアコート薄膜を一緒に硬化させる工程と
を含む、方法。
【請求項13】
クリアコート組成物が、
a)イソシアネート含量1%未満を有し、少なくとも1種の、一般式(II)
-NR-X-SiR (OR3-a (II)
のシラン基および任意に少なくとも1種の、一般式(III)
-N[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b (III)
のシラン基
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルであり、
は、1~10個の炭素原子を含有するアルキル基であり、
、Rは、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
m、nは、互いに独立して0~2、ただしm+n=2であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
を含む、少なくとも1種のシラン系化合物R2と、
b)少なくとも1種の、式(IV)
z[C(R)(R)(R)-(CH-C(=O)-O]Mz+ (IV)
(式中、
~Rは、互いに独立して、水素または1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、残基R~Rの炭素原子の総数は3~8の範囲であり、
zは1~4であり、
nは0または1~8であり、
ただし、
z=1の場合、MはLi、K、およびNaからなる群から選択され、
z=2の場合、MはZnおよびZrからなる群から選択され、
z=3の場合、MはBiおよびAlからなる群から選択され、
z=4の場合、MはZrおよびTiからなる群から選択される)
の触媒C1と、
c)少なくとも1種の非プロトン有機溶媒と
を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法によって生成される多層コーティング(MC)。
【請求項15】
DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して測定される、イソシアネート含量1%未満を有し、且つ少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、またはシクロアルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキラジカルまたはシクロアルキラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を使用する方法であって、
水性ベースコート組成物における、硬化添加剤として、使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部のコーティング層および上部のコーティング層へのベースコートの接着、ならびにベースコート自体の粘着特性を改善するために、硬化剤/自己架橋材として特異なシラン系添加剤を含む水性ベースコート組成物に関する。本発明は、少なくとも1種のベースカラー成分、少なくとも1種の顔料非含有成分、シラン系添加剤および任意に少なくとも1種のレオロジーモジュールを含む、少なくとも1種の硬化成分を含む水性補修(refinish)ベースコート組成物を製造するためのミキサーシステム、ならびに上記ミキサーシステムから水性ベースコート組成物を製造するための方法にさらに関する。本発明は、本発明のベースコート組成物およびクリアコート組成物で基材をコーティングし、ベースコート組成物およびクリアコート組成物を一緒に硬化させる方法、ならびに本発明の方法から得られる、コーティングされた基材にさらに関する。本発明は、最後に、シラン系化合物を、水性ベースコート組成物における硬化添加剤として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の塗装産業において、法的分類および最大許容値が極めて重要になっているゆえに、架橋剤としてのイソシアネートおよび錫触媒の適用はますます望ましくなくなっている。
【0003】
しかし、ポリイソシアネートは、多くのコーティング系において、一般的に使用される架橋剤材料である。未来の環境、健康、および安全の要件、ならびに技術的な最小要件も満たす、妥当な代替案は、まだ利用可能ではない。コーティングプロセスの経済効率を高めるために、迅速な低温硬化性コーティング系が望ましい。
【0004】
全てのこれらの要件を、標準の(ポリイソシアネート)架橋コーティング満たすことはできない。低温硬化性クリアコートおよび低温硬化性ベースコートの配合物へのアルコキシシラン含有材料の利用は、アルコキシシランの縮合反応が錫なしで触媒作用を受け、周囲条件での硬化が実現され得るゆえにこれらの項目に対処し、ポリイソシアネートを置き換えるための妥当なアプローチである。
【0005】
周囲環境硬化性のイソシアネート非含有またはイソシアネート含有クリアコート、例えば、未公開の特許出願、欧州特許第19172732号に開示されたイソシアネート非含有クリアコートが、低温硬化性ベースコート系、例えば、補修ベースコートと組み合わせて使用される場合、弱いスチームジェット接着(steam jet adhesion)が認められる。スチームジェット接着に関するOEM最小要件を満たすために、追加の硬化剤添加物が、ベースコート配合物において要求される。市販のアルコキシシラン材料は、OEM最小要件を満たすのに要求されるスチームジェット接着をもたらさないので、この硬化剤添加物は、通常、一般的に使用されるポリイソシアネート硬化剤である。しかし、ベースコート組成物におけるポリイソシアネート硬化剤の使用は、先に概説されたように望ましくない。
【0006】
したがって、周囲環境硬化性のイソシアネート非含有またはイソシアネート含有に対してスチームジェット接着を改善した、好ましくはイソシアネート非含有水性ベースコート組成物が有利である。上記ベースコート組成物は、OEM修復方法および補修方法で使用することができるように、高ポットライフを有するべきであり、低温硬化性であるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第19172732号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、イソシアネート架橋剤またはアミノプラスト架橋剤を使用せずに低温で硬化させることができる、高速硬化性水性ベースコート組成物を提供することであった。塗料組成物は、自動車塗装、例えば、自動車OEM塗装および自動車補修塗装に特に好適であるべきである。塗装は、高ポットライフを有するべきであり、低温硬化性クリアコートと組み合わせて、改善されたスチームジェット接着を示すべきである。さらに塗料組成物は、良好な光学特性および色彩特性を有するベースコートをもたらすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、特許請求の範囲に記載の主題によって、また以下の記述に記載された、その主題の好ましい実施形態によっても実現される。
【0010】
それゆえに、本発明の第1の主題は、
a)少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、イソシアネート含量1%未満を有する、少なくとも1種のシラン系化合物Rと、
b)一般式(I)のシラン系化合物とは異なる、少なくとも1種の結合剤Bと、
c)少なくとも1種の顔料Pと
を含む水性塗料組成物である。
【0011】
上記で特定された塗料組成物は、以下で本発明の塗料組成物とも称され、したがって本発明の主題である。本発明の塗料組成物の好ましい実施形態は、以下の記述から、また従属請求項からも明らかである。
【0012】
先行技術を考慮すると、本発明が基づく目的が、水性ベースコート組成物において、特異なシラン系化合物Rを硬化添加剤として使用することによって実現され得ることは、当業者にとって意外であり、予測不可能であった。本発明のベースコート組成物を周囲環境硬化性クリアコート組成物と組み合わせる場合、上記シラン系化合物Rの使用により、改善されたスチームジェット接着がもたらされるものの、市販のアルコキシシラン化合物が使用された場合には、改善されたスチームジェット接着は得られなかった。したがって、本発明のベースコート組成物は、低い硬化温度が使用される、OEM修復用途および補修用途にとりわけ好適である。シラン系化合物Rの添加にもかかわらず、本発明のベースコート組成物は、数時間のポットライフを有し、ゆえに良好な塗布特性を確実にする。さらに、シラン系化合物Rの添加は、上記ベースコート組成物から製造されたベースコートおよび多層コーティングの光学特性および色彩特性に悪影響を及ぼさない。
【0013】
本発明のさらなる主題は、水性補修組成物を生成させるためのミキサーキットであって、
- 少なくとも1種のカラー顔料および/またはエフェクト顔料、ならびに少なくとも1種の結合剤を含有する着色ベースを含む、少なくとも1個の第1の容器(C1)と、
- 少なくとも1種の結合剤を含有する顔料非含有水性ベースワニスを含む、少なくとも1個の第2の容器(C2)と、
- イソシアネート含量1%未満を有し、且つ少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を含有する、少なくとも1個の第3の容器(C3)と、
- 任意に、少なくとも1種の無機および/または有機の増粘剤を含有する顔料非含有レオロジーモジュールを含む、第4の容器(C4)と
を備える、ミキサーキットである。
【0014】
本発明の別の主題は、本発明のミキサーキットから水性塗料組成物を生成させるための方法であって、少なくとも1種のベースカラー組成物を、顔料非含有水性組成物、シラン系化合物組成物、および任意に顔料非含有レオロジーモジュールと混合する工程を含む、方法である。
【0015】
本発明の、さらに別の主題は、基材(S)に多層コーティング(MC)を形成するための方法であって、以下の工程:
(1)本発明の水性塗料組成物または本発明の方法に従って製造された水性塗料組成物を基材(S)に塗布する工程と、
(2)工程(1)で塗布された塗料組成物からベースコート薄膜を形成する工程と、
(3)得られたベースコート薄膜にクリアコート組成物を塗布する工程と、
(4)ベースコート薄膜およびクリアコート薄膜を一緒に硬化させる工程と
を含む、方法である。
【0016】
本発明の最終の主題は、イソシアネート含量1%未満を有し、且つ少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を使用する方法であって、
水性ベースコート組成物、好ましくは水性補修ベースコート組成物における硬化添加剤として、使用する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ある特定の特徴変数を決定するために、本発明の文脈において用いられる測定方法は、実施例セクションで見出すことができる。明らかに別段の指示がない限り、これらの測定方法を用いて、それぞれの特徴変数を決定するべきである。本発明の文脈において、有効な公定期間の任意の指示なく、公定基準について引例する場合、引例は、黙示的に、出願日に有効である基準の版であり、またはその時点で任意の有効な版がない場合には最新の版である。
【0018】
用語「ポリ(メタ)アクリレート」は、ポリアクリレートと、ポリメタクリレートの両方を指す。それゆえに、ポリ(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートで構成することができ、さらに、エチレン性不飽和モノマー、例えば、スチレンまたはアクリル酸などを含むことができる。
【0019】
本明細書において用いられる用語「脂肪族」は、用語「脂環式」を含め、非芳香族基、非芳香族部分、および非芳香族化合物それぞれを指す。
【0020】
本発明の文脈において報告された、全ての膜厚は、乾燥膜厚として理解されるべきである。ゆえに、それは、それぞれの場合の硬化薄膜の厚さである。したがって、塗料材料が特定の膜厚で塗布されることが報告される場合、これは、硬化後に上記の膜厚をもたらすような方法で塗布されることを意味する。
【0021】
本発明の文脈において、明らかにされた全ての温度は、基材またはコーティングされた基材が置かれる部屋の温度であると理解されたい。ゆえに、それは、基材自体が対象の温度を有するように要求されることを意味しない。
【0022】
本発明の水性塗料組成物:
表現「水性塗料組成物」は当業者に公知である。それは、その分散媒として限定されない、または主に有機溶媒(溶媒とも称される)を含む系を指す。本発明の文脈において、「水性」は、塗料組成物が、それぞれの場合で含有される溶媒(すなわち、水および有機溶媒)の全量に対して、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも25質量%、特に好ましくは少なくとも50質量%の水の割合を有することを意味するものと理解されるべきである。このうち、水の割合は、それぞれの場合で存在する溶媒の全量に対して、好ましくは60~100質量%、特に70~98質量%、特に好ましくは75~95質量%である。
【0023】
シラン系化合物R:
本発明の水性塗料組成物は、第1の必須の成分(a)として、イソシアネート含量(以下、NCO含量とも称する)1%未満を有する、少なくとも1種のシラン系化合物Rを含む。
【0024】
シラン系化合物Rは、少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の特異なシラン化合物と反応させることによって得られる。上記シラン系化合物Rは、好ましくは、DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して求められた、イソシアネート含量0.5%未満、より好ましくは0.05~0%を含む。これにより、シラン系化合物Rは、かなり低量の遊離NCO基を含むだけか、またはNCO基を本質的に含まないことが確実になり、ゆえにイソシアネート非含有水性塗料組成物においてこの化合物を使用することができる。
【0025】
特異なシラン化合物と反応させる、少なくとも1種のポリイソシアネートは、好ましくは、平均イソシアネート官能性2~6、より好ましくは2~5、極めて好ましくは2~3.5を有する。このNCO官能性により、本発明の水性塗料組成物を低硬化性クリアコート組成物と組み合わせる場合に、改善されたスチームジェット接着を実現するのに必要な、少なくとも2個のアルコキシシラン部分が、シラン系化合物R中に存在することが確実になる。
【0026】
原則として、全ての脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートは、本発明の範囲内で好適である。使用される好ましいポリイソシアネートの例は、以下の通りである:2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4’-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルジイソシアネート、テトラメチレン1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサン1,6-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、シクロブタン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン2,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン2,6-ジイソシアネートヘキサヒドロフェニレン1,3-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン1,4-ジイソシアネート、ペルヒドロジフェニルメタン2,4’-ジイソシアネート、4,4’-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(例えば、Desmodur(登録商標)W、Covestro AG製)、テトラメチルキシリルジイソシアネート(例えば、TMXDI(登録商標)、American Cyanamid製)、および前述のポリイソシアネートの混合物。さらに好ましいポリイソシアネートは、三量化、二量化、ウレタン化、ビウレット化、またはアロファネート化によって、ポリイソシアネートから誘導されたポリイソシアネートである。特に好ましい、使用されるポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートウレトジオン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1-イソシアナート-4-[(4-イソシアナートシクロヘキシル)-メチル]-シクロヘキサン、およびヘキサメチレンジイソシアネート三量体である。
【0027】
少なくとも1種のポリイソシアネートを、一般式(I)のシラン化合物
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
と反応させる。
【0028】
この式において、XおよびX’は、好ましくは、互いに独立して、1~10個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは2~5個、極めて好ましくは3個の炭素原子を有する、直鎖状アルキレンラジカルを表す。
【0029】
式(I)のRが、互いに独立して、C~C10アルキル基、より好ましくはC~Cアルキル基、極めて好ましくはCアルキル基を表す場合がさらに好ましい。
【0030】
式(I)のRは、好ましくは、直鎖状C~C10アルキル基、より好ましくは直鎖状C~Cアルキル基、極めて好ましくは直鎖状Cアルキル基を表す。
【0031】
一般式(I)のシラン化合物Rは、1個または2個のアルコキシシラン部分を含む。上記化合物が2個のアルコキシシラン部分を含む場合、式(I)の整数mおよび整数nは、互いに独立して1である。1個のみのアルコキシシラン部分が一般式(I)において存在する場合、mは1であり、nは0であり、逆もまた同様である。
【0032】
好ましい、一般式(I)のシラン化合物Rは、3個のアルコキシ部分を含む。それゆえに式(I)のaおよびbは、好都合には、互いに独立して0である。
【0033】
特に好ましいシラン系化合物Rは、一般式(Ia)および/または一般式(Ib)
HN[X-SiR (OR3-a][X’-SiR (OR3-b] (Ia)
HN[X-SiR (OR3-a[R2-n (Ib)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個、好ましくは2~5個、極めて好ましくは3個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルであり、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基、好ましくはC1~4アルキル基、極めて好ましくはメチル基を表し、
は、1~20個、好ましくは2~8個、極めて好ましくは4個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルを表し、
a、bは互いに独立して0~2、好ましくは0であり、
nは1である)
の少なくとも1種のシラン化合物を、先に記載された、少なくとも1種のポリイソシアネートと反応させることによって製造される。
【0034】
シラン系化合物Rが、一般式(Ia)および一般式(Ib)の、少なくとも1種のシラン化合物を、先に記載された、少なくとも1種のポリイソシアネートと反応させることによって製造される場合、一般式(Ia)のシラン化合物の、一般式(Ib)のシラン化合物に対する質量比は、好ましくは5:1~1:5、より好ましくは3:1~1:1、極めて好ましくは1.6:1である。
【0035】
本発明の水性塗料組成物は、好ましくは、少なくとも1種のシラン系化合物Rを、塗料組成物の全質量に対して、1~20質量%、より好ましくは2~15質量%、さらにより好ましくは4~10質量%、極めて好ましくは6~9質量%の全量で含む。上記量の使用により、本発明の水性塗料組成物から生成されるコーティング層の機械特性、光学特性、および色彩特性に悪影響を及ぼすことなく、改善されたスチームジェット接着がもたらされる。
【0036】
結合剤B:
本発明の水性塗料組成物は、第2の必須の成分(b)として、シラン系化合物Rとは異なる、少なくとも1種の結合剤Bを含む。本発明の文脈における、かつDIN EN ISO4618:2007-03に準拠する「結合剤」は、顔料および充填剤を含まない、塗料組成物の不揮発性成分である。しかし、以下、その表現は、主として、任意に熱硬化性であってもよい、特定の物理的硬化性ポリマーに関連して用いられ、例としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレートおよび/または記載されたポリマーのコポリマーである。本発明の文脈におけるコポリマーは、様々なポリマーから形成されたポリマー粒子を指す。これは、明確に、互いに共有結合されたポリマーと、様々なポリマーが互いに付着によって結合したものとの両方を含む。2種の結合の組合せもまた、この定義の範囲に含まれる。
【0037】
本発明の文脈において、用語「物理的硬化」は、ポリマー溶液またはポリマー分散物からの溶媒の蒸発による薄膜形成を意味する。典型的には、この硬化に架橋剤は必要ない。
【0038】
本発明の文脈において、用語「熱硬化」は、結合剤(外部の架橋)と組み合わせて、自己架橋結合剤または分離架橋剤のいずれかを使用する、塗膜の熱開始架橋を示す。架橋剤は、結合剤中に存在する反応性官能基を補う反応性官能基を含み、したがって、結合剤および架橋剤の反応で、巨視的に架橋された塗膜が形成される。
【0039】
本発明の塗料組成物中に存在する結合剤成分は、常に少なくとも一部の物理的硬化を示す。ゆえに、塗料組成物が熱硬化性である結合剤成分を含むと言われる場合、これは、勿論、一部の物理的硬化も含める硬化を排除しない。
原則として、水性塗料組成物において一般的に使用される、全ての水希釈性結合剤または水分散性結合剤が好適である。結合剤の水希釈性または水分散性は、共溶媒または溶媒として対応する溶解剤を使用することによって、調節することができる。
【0040】
特に好ましい結合剤Bは、(i)ポリ(メタ)アクリレート、より特定するとヒドロキシ官能性および/またはカルボキシレート官能性および/またはアミン官能性のポリ(メタ)アクリレート、(ii)ポリウレタン、より特定するとヒドロキシ官能性および/またはカルボキシレート官能性および/またはアミン官能性のポリウレタン、(iii)ポリエステル、より特定するとポリエステルポリオール、(iv)ポリエーテル、より特定するとポリエーテルポリオール、(v)記載されたポリマーのコポリマー、ならびに(vi)これらの混合物からなる群から選択され、好ましくはポリウレタンである。
【0041】
好ましくは結合剤Bとして使用されるポリウレタンは、当分野で一般的に公知である。好適なポリウレタンは、例えば、独国特許出願公開第41 10 520号および国際公開第2016/091539(A1)号に記載されている。上記ポリウレタンは、好ましくは数平均分子量1,000~30,000g/mol、より好ましくは1,500~20,000g/mol(内部標準としてポリスチレンを使用したGPCによって測定される)、および酸価5~70mg KOH/g固形分、より好ましくは10~30mg KOH/g固形分(DIN EN ISO2114:2002-06に準拠して求められる)を有する。これらのポリウレタンは、例えば、NCO基含有プレポリマーの鎖延長によって得ることができる。これらのプレポリマーは、有機溶媒中で、水酸基価10~1,800mg KOH/g固形分(DIN53240-2:2007-11に準拠して求められる)を有するポリオールを、過剰のポリイソシアネートと反応させることによって製造することができる。NCOのOHに対する当量比は、好ましくは2:1~1:1、好ましくは1.4:1~1.1:1である。
【0042】
あるいは、ポリウレタンは、プレポリマーのNCO基を、上記プレポリマー中に存在する第一級アミノ基とも反応させることによって得ることができる。第一級アミノ基は、少なくとも1個の第二級アミノ基および少なくとも2個のブロック化第一級アミノ基を含むアミノ化合物を使用することによって、プレポリマー中に導入することができる。非ブロック化後に、第一級アミノ基は、プレポリマーの遊離NCO基と反応して、粒径40~2,000nmおよび少なくとも50%のゲル含量を有する分子間架橋ポリウレタン粒子を促進することができる。
【0043】
ポリオールは、低い分子量または高い分子量を有することができ、アニオン基を含むことができる。ポリウレタンの硬度を増すために、分子量M60~400g/molを有する低分子量ポリオールが、全ポリオールの、最大で30質量%までの量で使用される。高い柔軟性を有するNCOプレポリマーが望まれる場合、多量の、水酸基価30~150mg KOH/g固形分を有する直鎖状ポリオールが、好ましくは使用される。ポリオールは、数平均分子量M400~5,000g/molを有する、飽和または不飽和のポリエステルおよび/またはポリエーテルを最大で97質量%まで含むことができる。エーテル基が、水性環境において、得られる結合剤の望ましくない膨潤をもたらし得るゆえに、ポリエーテルジオールが、多量のエーテル基を含有しない場合が好ましい。ポリエステルジオールは、有機ジカルボン酸またはその無水物を有機ポリオールと反応させることによって製造することができる。
【0044】
典型的な多官能性イソシアネートは、1分子当たり少なくとも2個のNCO基を有する、脂肪族、脂環式、および/または芳香族のポリイソシアネートである。(脂環式)脂肪族ポリイソシアネートは、UV光に対して高い耐性を有し、したがって塗膜の黄変を低減することになるので好ましい。好ましいポリイソシアネートは、シラン系化合物Rに関して既に列挙されたポリイソシアネートである。
【0045】
ポリウレタン樹脂の水親和性を増すために、非イオン基またはイオン基が、好ましくは、上記の非イオン基またはイオン基を含むNCO末端プレポリマーを使用することによって、上記ポリウレタンに組み込まれる。イオン基の中和により、水中でのポリウレタンの安定した分散がもたらされる。上記の基は、少なくとも2個のNCO反応基および少なくとも1種の、アニオンを形成可能な基を有する化合物を使用することによって組み込むことができる。好適なNCO反応基は、ヒドロキシル基ならびに第一級アミン基および/または第二級アミン基であり、好ましくはヒドロキシル基である。好適な、アニオンを形成可能な基は、カルボキシル基、スルホン酸基および/またはホスホン酸基、好ましくはカルボン酸基またはカルボキシル基である。
【0046】
NCOプレポリマーは、好ましくはNCOプレポリマーの固形分に対して、遊離NCO基を0.5~15質量%含む。上記遊離NCO基は、鎖伸長剤、好ましくはトリオールおよび/またはポリオールと反応する。ポリアミンを鎖伸長剤として使用することも可能である。
【0047】
本発明の水性塗料組成物は、好ましくは、少なくとも1種の結合剤Bを、塗料組成物の全質量に対して、1~20質量%固形分、より好ましくは2~15質量%固形分の全量で含む。上記結合剤の前述の量の使用により、優れた機械的安定性を有する塗膜がもたらされる。
【0048】
顔料P:
本発明の水性塗料組成物は、第3の必須の成分(c)として、好ましくは有機および/または無機のカラー顔料、エフェクト顔料、およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1種の顔料Pを含む。こうしたカラー顔料およびエフェクト顔料は、当業者に公知であり、例えば、Roempp-Lexikon Lacke、およびDruckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998年、176頁および451頁に記載されている。用語「着色顔料」および「カラー顔料」は、用語「視覚エフェクト顔料」および「エフェクト顔料」と同様に置換え可能である。
【0049】
好適な無機着色顔料は、(i)白色顔料、例えば、二酸化チタン、亜鉛華、着色酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポン;(ii)黒色顔料、例えば、四三酸化鉄、黒色マンガン鉄、スピネルブラック、カーボンブラック;(iii)カラー顔料、例えば、ウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、赤色酸化鉄、モリブデンレッド、ウルトラマリンレッド、茶色酸化鉄、混合ブラウン、スピネル相およびコランダム相、黄色酸化鉄、バナジウム酸ビスマス;(iv)充填剤顔料、例えば、二酸化ケイ素、石英粉、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、天然マイカ、天然および沈殿のチョーク、硫酸バリウム、ならびに(vi)これらの混合物から選択される。
【0050】
好適な有機着色顔料は、(i)モノアゾ顔料、例えば、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントオレンジ5、36、および67、C.I.ピグメントオレンジ5、36、および67、C.I.ピグメントレッド3、48:2、48:3、48:4、52:2、63、112、および170、ならびにC.I.ピグメントイエロー3、74、151、および183;(ii)ジアゾ顔料、例えば、C.I.ピグメントレッド144、166、214、および242、C.I.ピグメントレッド144、166、214、および242、ならびにC.I.ピグメントイエロー83;(iii)アントラキノン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー147および177、ならびにC.I.ピグメントバイオレット31;(iv)ベンズイミダゾール顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ64;(v)キナクリドン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ48および49、C.I.ピグメントレッド122、202、および206、ならびにC.I.ピグメントバイオレット19;(vi)キノフタロン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー138;(vii)ジケトピロロピロール顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ71および73、ならびにC.I.ピグメントレッド、254、255、264、および270;(viii)ジオキサジン顔料、例えば、C.I.ピグメントバイオレット23および37;(ix)インダントロン顔料、例えば、C.I.ピグメントブルー60;(x)イソインドリン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー139および185;(xi)イソインドリノン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ61、ならびにC.I.ピグメントイエロー109および110;(xii)金属錯体顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー153;(xiii)ペリノン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ43;(xiv)ペリレン顔料、例えば、C.I.ピグメントブラック32、C.I.ピグメントレッド149、178、および179、ならびにC.I.ピグメントバイオレット29;(xv)フタロシアニン顔料、例えば、C.I.ピグメントバイオレット29、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、および16、ならびにC.I.ピグメントグリーン7および36;(xvi)アニリンブラック、例えば、C.I.ピグメントブラック1;(xvii)アゾメチン顔料;ならびに(xviii)これらの混合物から選択される。
【0051】
好適なエフェクト顔料は、(i)板状金属エフェクト顔料、例えば、板状アルミニウム顔料、ゴールドブロンズ、火色ブロンズ(fire-colored bronze)、酸化鉄-アルミニウム顔料;(ii)真珠光沢顔料、例えば、金属酸化物マイカ顔料;(iii)板状グラファイト顔料;(iv)板状酸化鉄顔料;(v)PVD薄膜製の多層エフェクト顔料;(vi)液晶ポリマー顔料;および(vii)これらの混合物からなる群から選択される。
【0052】
水性塗料組成物は、好ましくは、少なくとも1種の顔料Pを、水性塗料組成物の全質量に対して、1~40質量%、好ましくは2~20質量%の全量で含む。
【0053】
さらなる添加剤:
特に好ましい本発明の水性塗料組成物は、塗料組成物の全質量に対して2質量%未満、好ましくは0質量%の全量の、好ましくはアミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、ポリカルボジイミド、光開始剤、およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1種の架橋剤を含む低硬化性水性塗料組成物である。それゆえに、特に好ましい本発明の塗料組成物は、環境規制を受ける、一般的に公知の架橋剤を含まない。何故ならば、それらは、毒性であるか、または塗料組成物の硬化時に毒性化合物を生じるからである。
【0054】
本発明の水性塗料組成物は、水性塗料組成物において通例使用される、少なくとも1種の塗料添加剤をさらに含むことができる。上記添加剤は、(i)UV吸収剤;(ii)光安定剤、例えば、HALS化合物、ベンゾトリアゾール、またはオキサルアニリド;(iii)レオロジー改質剤、例えば、垂れ制御剤(尿素結晶改質樹脂)、有機増粘剤および無機増粘剤;(iv)フリーラジカル捕捉剤;(v)滑剤;(vi)重合防止剤;(vii)消泡剤;(viii)湿潤剤;(ix)フッ素化合物;(x)接着促進剤;(xi)レベリング剤;(xii)薄膜形成助剤、例えば、セルロース誘導体;(xiii)充填剤、例えば、シリカ、アルミナ、または酸化ジルコニウムをベースとしたナノ粒子;(xiv)難燃剤;ならびに(xv)これらの混合物からなる群から選択することができる。
【0055】
これらの添加剤は、通例の量で、典型的には、塗料組成物の全質量に対して0.1~30質量%の範囲で使用することができる。
【0056】
本発明のミキサーキットおよび上記ミキサーキットから水性ベースコートを生成させるための方法:
色合いなどの設定される多数の特性によって、例えば、完全に配合された塗料組成物に対応する原料において、供給し、保持することが難しくなるので、塗料組成物の生成用のミキサーキットは、特に自動車補修分野で広く普及している。それゆえに、上記キットの成分を、塗料組成物の要件に応じて、互いに個別で混合することができるミキサーキットの使用が確立された。ミキサーキットは、通例、様々なベース成分を含む。これらのベース成分は、通例、1種または複数の顔料着色ベース、少なくとも1種のベースワニス、およびミキサーキットから生成される塗料組成物のレオロジー特性を設定するための、任意に少なくとも1種のレオロジーモジュールを含める。当業者が気付くように、自動車補修分野のミキサーキットは、例えば、OEM仕上げ用のベースコート材料を生成させるために使用される種類の、従来のフォーミュラとは異なる。
【0057】
着色ベースは、少なくとも1種の物理的硬化結合剤および/または少なくとも1種の自己架橋結合剤および/または少なくとも1種の外部架橋結合剤に加えて、通例、少なくとも1種の色彩付与顔料および/または光学効果付与顔料を含む。
【0058】
ベースワニスは、通例、少なくとも1種の物理的硬化結合剤および/または少なくとも1種の自己架橋結合剤および/または少なくとも1種の外部架橋結合剤を含む顔料非含有組成物である。外部架橋結合剤の場合、必要に応じて塗料組成物の硬化のために、架橋剤の混和が要求される。様々な着色ベースをベースワニスと混合することによって、極めて多様な特性のいずれかを有する塗料組成物を生成させることができる。これらの特性には、とりわけ、様々な色合いおよび/または様々に強調された光学効果、例えば、コーティングのカラーフロップまたは金属フロップが挙げられる。
【0059】
ミキサーキットから得られた塗料組成物のレオロジー特性を設定するために、少なくとも1種の無機および/または有機の増粘剤を含むレオロジー制御組成物を使用することが通例である。
【0060】
本発明のミキサーキットは、少なくとも1種のカラー顔料および/またはエフェクト顔料ならびに少なくとも1種の結合剤を含有する、少なくとも1種の着色ベース、少なくとも1種の結合剤を含有する、少なくとも1種の顔料非含有水性ベースワニス、ならびに任意に少なくとも1種の顔料非含有レオロジーモジュールを含む。系は、本発明の水性塗料組成物と関連して前述されたシラン系化合物Rおよび任意に少なくとも1種の有機溶媒を含有する、少なくとも1種のシラン系組成物を追加で含む。本発明の水性塗料組成物が、低硬化性クリアコート組成物と組み合わされる場合、上記シラン系組成物を使用して、スチームジェット接着を増強することができる。
【0061】
着色ベースは、水性系組成物または溶媒系組成物であってもよい。水性着色ベースは、一般に、着色ベースの全質量に対して少なくとも5質量%の含水量を有し、混合システムから得られた塗料組成物がVOC含量250g/l未満を有する必要がある場合が好ましい。その一方で、溶媒系着色ベースは、一般に、着色ベースの全質量に対して5質量%未満を含有し、より高いVOC含量を有する塗料組成物をもたらす。溶媒系着色ベースに含有される顔料および結合剤に関して、本発明の水性塗料組成物に関連して記載された顔料および結合剤を参照されたい。水性着色ベースに好適な結合剤および顔料は、未公開の欧州特許第19189323号に記載されている。
【0062】
顔料非含有ベースワニスは、好ましくは、塗料配合物の製造中の非混和性を軽減するために、着色ベースと同じ結合剤を含む。顔料非含有ベースワニスに好適な結合剤に関して、本発明の水性塗料組成物に関連して論じられた結合剤、または未公開の欧州特許第19189323号に記載された結合剤を参照されたい。顔料非含有ベースワニスは、少なくとも1種のレオロジー添加剤、例えば、架橋ポリマー微粒子、無機シートケイ酸塩、またはイオン基もしくは会合基もしくはこれらの混合物を有する合成ポリマーをさらに含むことができる。好ましい増粘剤は、無機シートケイ酸塩およびカルボキシル基を含有するポリアクリレートコポリマーである。
【0063】
シラン系組成物は、本発明の塗料組成物に関連して前述されたシラン系化合物R、および任意に少なくとも1種の有機溶媒を含む。有機溶媒は、好ましくは、脂肪族および/または芳香族の炭化水素、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、Solvesso100もしくはHydrosol(登録商標)(APAL製)、ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、もしくはメチルアミルケトン、エステル、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、もしくはエトキシプロピオン酸エチル、エーテル、または前述された溶媒の混合物から選択される。酢酸ブチルを有機溶媒として使用するのが好ましい。
【0064】
本発明の塗料組成物について述べられたことは、本発明のミキサーキットの成分の、さらに好ましい実施形態に関して、必要な変更を加えて適用される。
【0065】
水性塗料組成物は、少なくとも1種の着色ベースを顔料非含有ベースワニスおよびシラン系組成物と混合することによって、本発明のミキサーキットから製造することができる。必要であれば、配合物の粘度は、顔料非含有レオロジーモジュールを使用することによって調節することができる。数種類の成分を混合することによる本発明の塗料組成物の製造により、オンデマンドで要求されたカラー色調を製造することが可能になり、ゆえに個別の容器に様々な色を保存する必要を減らす。
【0066】
本発明の塗料組成物および本発明のミキサーキットについて述べられたことは、ミキサーキットから水性塗料組成物を製造する、本発明の方法の、さらに好ましい実施形態に関して、必要な変更を加えて適用される。
【0067】
基材(S)に多層コーティング(MC)を製造する本発明の方法:
基材(S)に多層コーティング(MC)を形成するための本発明の方法は、以下の工程:
(1)本発明の水性塗料組成物または本発明の方法に従って製造された水性塗料組成物を基材(S)に塗布する工程と、
(2)工程(1)で塗布された塗料組成物からベースコート薄膜を形成する工程と、
(3)得られたベースコート薄膜にクリアコート組成物を塗布する工程と、
(4)ベースコート薄膜およびクリアコート薄膜を一緒に硬化させる工程と
を含む。
【0068】
第1の代替案によれば、基材(S)は、好ましくは、金属基材、硬化電着および/または硬化充填剤でコーティングされた金属基材、プラスチック基材、ならびに金属成分およびプラスチック成分を含む基材から選択され、とりわけ好ましくは金属基材である。金属基材ならびにプラスチック基材、または金属成分およびプラスチック成分を含む基材の場合、上記基材は、任意の従来の方法で、本発明の方法の工程(1)の前に前処理することができ、すなわち、例えば、(例えば、機械的に、および/もしくは化学的に)洗浄され、ならびに/または公知の化成皮膜(例えば、リン酸塩処理および/もしくはクロメート処理による)、または表面活性化前処理(例えば、火炎処理、プラズマ処理、およびコロナ放電到来(corona discharge coming)による)が提供される。
【0069】
これに関して、好ましい金属基材(S)は、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム、およびこれらの合金、ならびに鋼から選択される。好ましい基材は、鉄および鋼のものであり、例は、自動車産業分野で使用される典型的な鉄基材および鋼基材である。基材自体は、どのような形状のものであってもよく、すなわち、例えば、単純な金属パネル、または複雑な構成部品、例えば、特に自動車本体およびその部品であってもよい。
【0070】
好ましいプラスチック基材(S)は、基本的に、(i)極性プラスチック、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、およびこれらのプラスチックのブレンド、(ii)合成樹脂、例えば、ポリウレタンRIM、SMC、BMC、ならびに(iii)高いゴム含量を有する、ポリエチレン型およびポリプロピレン型のポリオレフィン基材、例えば、PP-EPDMおよび表面活性化ポリオレフィン基材を含む基材、またはこれらからなる基材である。プラスチックは、さらに、特に炭素繊維および/または金属繊維を使用して繊維強化されてもよい。
【0071】
基材(S)として、さらに、金属分画およびプラスチック分画の両方を含有するものを使用することも可能である。この種の基材は、例えば、プラスチック部品を含有する車体である。
【0072】
硬化電着を含む金属基材は、電着材料を金属基材(S)に電気泳動的に塗布し、100~250℃、好ましくは140~220℃の温度で、5~60分、好ましくは10~45分の時間で、上記の塗布された材料を硬化させることによって得ることができる。硬化させる前に、上記材料を例えば、15~35℃で、例えば、0.5~30分の時間でフラッシュオフすることができるか、および/または好ましくは40~90℃の温度で、例えば、1~60分の時間で、中間乾燥することができる。好適な電着材料およびまたそれらの硬化は、国際公開第2017/088988(A1)号に記載され、結合剤としてヒドロキシ官能性ポリエーテルアミン、および架橋剤としてブロック化ポリイソシアネートを含む。電着材料を塗布する前に、化成皮膜、例えば、リン酸亜鉛コートを金属基材に塗布することができる。硬化電着の膜厚は、例えば、10~40マイクロメートル、好ましくは15~25マイクロメートルである。
【0073】
硬化電着および/または硬化充填剤を含む金属基材は、充填剤組成物を、硬化電着を任意に含む金属基材(S)に、または金属および/もしくはプラスチックの基材(S)に塗布し、40~100℃、好ましくは60~80℃の温度で、5~60分、好ましくは3~8分の時間で、上記充填剤組成物を硬化させることによって得ることができる。好適な充填剤組成物は、当業者に周知であり、例えば、BASF Coatings GmbHから商品名Glasuritで市販されている。硬化充填剤の膜厚は、例えば、30~100マイクロメートル、好ましくは50~70マイクロメートルである。
【0074】
第2の代替案によれば、工程(1)の基材は、多層コーティング処理欠陥部位である。それゆえに、欠陥部位を所有する、この基材は、特有の仕上げ(すなわち、多層コーティング)であり、修復されるか、完全に再度コーティングされるべきである。多層コーティングにおける上記の欠陥部位は、前述された本発明の方法で修復することができる。このために、多層コーティングにおいて修復されるべき表面は、初めに摩耗され得る。摩耗する工程は、好ましくは、ベースコート層およびクリアコート層または全てのコーティング層のいずれかを部分的研磨するか、または研磨除去する(sanding off)ことによって実施される。ベースコート層およびクリアコート層のみを摩耗する工程は、製作所で補修するのとは対照的に、一般的に、欠陥が、ベースコート領域および/またはクリアコート領域においてのみ生じ、しかし、特に下層の充填剤層の領域で生じるので、とりわけ、OEM自動車補修セグメントで確立された。欠陥が充填剤層においても発生する場合、例えば、機械的影響によって生じ、しばしば基材表面(金属基材またはプラスチック基材)の下までのびる擦り傷の場合、基材に存在する全てのコーティング層を摩耗する工程が必要になる。
【0075】
工程(1):
本発明の方法の工程(1)において、本発明の水性塗料組成物またはミキサーシステムを使用することによって、本発明の方法から製造された水性塗料組成物を基材(S)に塗布する。上記塗料組成物の基材(S)への塗布は以下のように理解される。対象となる水性塗料材料は、工程(2)で生成される塗膜が基材上に配置されるように塗布されるが、基材と直接接触する必要はない。例えば、塗膜と基材との間に、他のコートを配置してもよい。好ましくは、水性塗料組成物を工程(1)の基材(S)に直接塗布し、工程(2)で生成される塗膜が、基材(S)と直接接触することを意味する。
【0076】
本発明の水性塗料組成物は、例えば、浸漬、ナイフコーティング、噴霧、ローリングなどによって液体塗料材料を塗布するための、当業者に既知の方法によって塗布することができる。例えば、噴霧塗布法、例えば、任意に、ホットエア(ホットスプレー)などのホットスプレーコーティングと併せた、圧縮空気噴霧(空気圧式塗布)、無気噴霧、高速回転、静電噴霧塗布(ESTA)を用いることが好ましい。水性塗料組成物が、空気圧式噴霧塗布または静電噴霧塗布によって塗布されるのが極めて特に好ましい。
【0077】
工程(2):
本発明の方法の工程(2)において、ベースコート薄膜は、工程(1)で塗布された水性塗料組成物から形成される。塗布された塗料組成物からの薄膜形成は、例えば、塗布された塗料組成物をフラッシュオフすることによって実施することができる。用語「フラッシュオフ」は、原則として、通常、常温(すなわち、室温)での、水性塗料組成物からの、受動的または能動的な、有機溶媒および/または水の蒸発を呼称するものと理解される。塗料材料は、塗布直後およびフラッシング開始時ではまだ流体であるので、流れを受けて、均一の滑らかな塗膜を形成することができる。したがって、フラッシング相の後、塗布された塗料材料と比較して、水および/または溶媒をあまり含まない、比較的滑らかな塗膜が得られる。塗膜はもはや流動性ではないが、例えば、まだ柔らかい。特に、塗膜は、以下に記載されるようにまだ硬化されない。
【0078】
工程(2)におけるベースコート薄膜の形成は、20~60℃の温度で、5~80分の時間長で実施され、好ましくは20~35℃の温度で、5分~70分の時間長で実施される。
【0079】
工程(3):
本発明の方法の工程(3)において、クリアコート組成物を、工程(2)で形成されたベースコート薄膜に塗布する。クリアコート組成物は、好ましくは、形成されたベースコート薄膜に直接塗布され、すなわち、工程(2)で形成されたベースコート薄膜と工程(3)で塗布されたクリアコート組成物との間にさらなるコーティング層は存在しない。
【0080】
本発明の方法は、欠陥部位を有する多層コーティングで覆われた基材にとりわけ好適であるので、低硬化性溶媒系クリアコート組成物は、好ましくは、本発明の方法の工程(3)において使用される。特に好ましい場合、クリアコート組成物は、
(a)イソシアネート含量1%未満を有し、少なくとも1種の、一般式(II)
-NRX-SiR (OR3-a (II)
のシラン基および任意に少なくとも1種の、一般式(III)
-N[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b (III)
のシラン基
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルであり、
は、1~10個の炭素原子を含有するアルキル基であり、
、Rは、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
n、mは、互いに独立して0~2、ただしm+n=2であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
を含む、少なくとも1種のシラン系化合物R2と、
(b)少なくとも1種の、一般式(III)
z[C(R)(R)(R)-(CH-C(=O)-O]Mz+ (IV)
(式中、
~Rは、互いに独立して、水素または1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、各残基R~Rの炭素原子の総数は3~8の範囲であり、
zは1~4であり、
nは0または1~8であり、
ただし、
z=1の場合、MはLi、K、およびNaからなる群から選択され、
z=2の場合、MはZnおよびZrからなる群から選択され、
z=3の場合、MはBiおよびAlからなる群から選択され、
z=4の場合、MはZrおよびTiからなる群から選択される)
の触媒C1と、
(c)1種または複数の非プロトン有機溶媒と
を含む。
【0081】
用語「シラン系化合物」は、上記の式(II)および任意に式(III)の、少なくとも1種のシラン基を含む化合物を指す。上記シラン基は、化合物の骨格に、好ましくは尿素結合を介して記号で付随する。本明細書において、化合物の「骨格」は、構造(II)および任意に構造(III)以外の化合物の部分である。化合物の好適な骨格がポリマーである場合、シラン基(II)および任意にシラン基(III)は、ポリマー鎖から吊り下がっていてもよく、またはポリマー鎖に組み込まれていてもよく、またはこれらの組合せであってもよい。
【0082】
シラン系化合物R2は、好ましくは、イソシアネート含量0.5%未満、より好ましくは0.05~0%を含む。これにより、シラン系化合物R2がかなり低量の遊離NCO基を含むだけか、またはNCO基を本質的に含まないことが確実になり、ゆえに、イソシアネート非含有塗料組成物におけるこの化合物の使用を可能にする。
【0083】
有機官能性シランの反応性は、スペーサーXの長さによって大いに影響を受けることがあり、シラン官能性と有機官能基との間のX’は、シラン系化合物R2の主鎖との反応に役立つ。一般式(II)および一般式(III)のXおよびX’は、好ましくは、互いに独立して、1~10個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは2~5個、極めて好ましくは3個の炭素原子を有する、直鎖状アルキレンラジカルを表す。
【0084】
一般式(II)のRは、好ましくは、2~8個の炭素原子、より好ましくは4~6個の炭素原子、極めて好ましくは4個の炭素原子を含有するアルキル基である。
【0085】
それぞれの好ましいアルコキシラジカル(OR)は、加水分解性シラン基の反応性に影響を及ぼす。シラン基の反応性を上げる、すなわち良好な脱離基を構成するラジカルRが特に好ましい。したがって、メトキシラジカルは、プロポキシラジカルよりも好ましいエトキシラジカルよりも好ましい。それゆえに、特に好ましい場合、式(I)および式(II)のRは、互いに独立して、C~C10アルキル基、より好ましくはC~Cアルキル基、極めて好ましくはCアルキル基を表す。
【0086】
一般式(III)のシラン基は、2個のアルコキシシラン部分を含み、ゆえに、nおよびmの合計は2である。それぞれのアルコキシシラン部分は、互いに同じであっても異なっていてもよい。異なるアルコキシシラン部分の場合、RおよびRは、m=n=1であれば異なる。同じアルコキシシラン部分の場合、RおよびRのいずれも同じであり、m=n=1またはm=0およびn=2であり、逆もまた同様である。
【0087】
一般式(II)の好ましいシラン基、および存在する場合、式(III)のシラン基は、3個のアルコキシ部分をそれぞれ含む。それゆえに、式(II)および式(III)のaならびに式(III)のbは、好都合には、互いに独立して0である。
【0088】
シラン系化合物R2(a)は、少なくとも1種のポリイソシアネートを、少なくとも1種の、一般式(IIa)の化合物
HNR-X-SiR (OR3-a (IIa)
および任意に少なくとも1種の、一般式(IIIa)の化合物
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b (IIIa)
と反応させることによって製造することができる。
【0089】
一般式(IIa)および一般式(IIIa)のR~R、X、X’、a、b、m、およびnは、先に定められた通りである。
【0090】
好適なポリイソシアネートならびに式(IIa)および式(IIIa)の化合物は、シラン系化合物Rに関連して先に記載されたものである。
【0091】
本発明によれば、シラン系化合物R2が、それぞれの場合で、一般式(I)および一般式(II)のシラン基の全体に対して、少なくとも1種の、一般式(I)のシラン基を50~100mol%、好ましくは80~100mol%、より好ましくは95~100mol%含有し、少なくとも1種の、一般式(II)のシラン基を0~50mol%、好ましくは0~20mol%、より好ましくは0~5mol%含有する場合が好ましい。一般式(I)のシラン基の、一般式(II)のシラン基に対する比は、得られるコーティングの亀裂の発生に相当に重大な影響を及ぼすことが明らかになった。この関係において、一般的には、得られたコーティングの亀裂の発生は、一般式(I)のモノシラン基の分画が減少するにつれて、かつ一般式(II)のビスシラン基の分画が増加するにつれて増える。したがって、特に好ましいシラン系化合物R2は、一般式(I)のシラン基100mol-%および一般式(II)のシラン基0mol-%を含有する。
【0092】
一般式(I)のモノシラン基の、増加した分画および一般式(II)のビスシラン基の、減少した分画による亀裂の発生の減少と同時に、得られたコーティングの耐擦り傷性における、極めて僅かな低下だけであるという事実は、極めて意外なこと、またかなり有利なことである。
【0093】
シラン系化合物R2は、好ましくは、それぞれの場合でクリア塗料組成物の全質量に対して25~95質量%、より好ましくは35~90質量%、最も好ましくは40~80質量%の全量で存在する。塗料組成物において用いられる、シラン系化合物R2のこの量は、シラン系化合物R2の生成で用いられた反応物の質量の合計が、シラン系化合物R2の最終質量に等しいという条件に基づいて計算された、シラン系化合物R2の理論量である。
【0094】
以下に記載されるように、早期架橋を避けるために、クリアコート組成物の使用直前に、シラン系化合物R2(a)および少なくとも1種の触媒C1(b)を組み合わせることが好ましいが、組成物から塗布まで微量の水が排除される場合、保存に安定した一成分組成物もまた実現可能である。
【0095】
少なくとも1種の触媒C1(b)は、上記の一般式(IV)を有する。好ましくは、残基Rおよび残基Rの炭素原子の総数が、3~5または5~7の範囲であり、およびz=1、3または4、最も好ましくは1または4である。一般式(IV)のnは、好ましくは、0または2~6、好ましくは0または4である。nが0である場合、一般式(IV)の残基Rおよび残基Rは、互いに独立して、直鎖状または分枝鎖状のC~Cアルキル基であり、残基Rはメチル基であり、ただし、各残基R~Rの全ての炭素原子の合計は8である。一般式(IV)のnが1~8、好ましくは4である場合、各残基R~Rは、互いに独立してメチル基である。
【0096】
一般式(III)のMは、好ましくはカリウム、リチウム、またはチタンであり、好ましくはカリウムまたはチタンである。
【0097】
したがって、最も好ましい、一般式(IV)の触媒C1(b)は、カリウム、リチウム、またはチタンの、ネオデカン酸塩および2-エチルヘキサン酸塩、好ましくはネオデカン酸カリウム(I)、2-エチルヘキサン酸カリウム(I)、ネオデカン酸チタン(IV)、または2-エチルヘキサン酸チタン(IV)である。一般式(IV)の触媒C1(b)は、しばしば、一般式(IV)の触媒に対応する、同じ分枝鎖状遊離カルボン酸を含有する酸安定形態で供給される。上記遊離酸の存在は、以下に記載された、さらなる触媒と組み合わせて有益であることが分かった。
【0098】
クリアコート組成物の化合物R2(a)の量に対する、一般式(IV)の触媒C1(b)の量は、好ましくは、シラン系化合物R2(a)固形分100g当たりの金属、1mmol~50mmol、より好ましくは5mmol~40mmol、最も好ましくは15~25mmolの範囲である。
【0099】
好ましくは、クリアコート組成物は、二環式第三級アミンおよび金属アルコキシドの群から、極めて好ましくは金属アルコキシドの群から選択される、第2の触媒C2をさらに含有する。最も好ましい二環式第三級アミンは、1,5-ジアザ-ビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(以下DBNと称する)、1,5-ジアザ-ビシクロ(4,4,0)デセン-5(以下DBDと称する)、または1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(本明細書においてDBUと称する)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(本明細書においてDABCOと称する)である。その中で、DBUおよびDBNが好ましい。特に好ましいのはDBUである。こうした二環式第三級アミンは、単独で使用してもよく、またはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に好ましい金属アルコキシドは、チタン(V)アルコキシドから選択される。上記チタン(V)アルコキシドは、一般式(V)
[(OR(Rn-m (V)
(式中、
は、直鎖状または分枝状のC~C10アルキル基であり、
は、ハロゲン基、アセチルアセトネート基、アルキルアセトアセテート基、またはエタノールアミナト基であり、
は、ケイ素、チタン、タンタル、ジルコニウム、ホウ素、アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛から選択される、少なくとも1種の金属を表し、mは、整数0~4であり、
nはMの2~5価を表す)
を有する。
【0100】
特に好ましい金属アルコキシドは、一般式(V)のチタン(IV)アルコキシド(式中、RはC~C基であり、Rはエチルアセトアセテート基であり、Mはチタンであり、nは4価を表す)から選択されるチタン(IV)アルコキシドである。とりわけ好ましいチタン(IV)アルコキシドは、チタン(IV)イソプロポキシドおよび/またはチタン(IV)n-ブトキシドおよび/またはチタン(IV)ビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシドである。
【0101】
一般式(IV)の触媒C1(b)と第2の触媒C2との組合せにより、一般式(IV)の触媒C1(b)の単独使用と比較して、改善された接着および耐湿性がもたらされる。一般式(IV)の触媒C1(b)の、少なくとも1種の、第2の触媒C2、好ましくはチタン(IV)イソプロポキシドおよび/またはチタン(IV)n-ブトキシドおよび/またはチタン(IV)ビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシドに対する質量比は、好ましくは1:2~8:1、より好ましくは1:1~4:1、最も好ましくは1:1~3:1、例えば、1.5:1である。
【0102】
クリアコート組成物は、1種または複数の非プロトン溶媒を含有する。クリアコート組成物において、非プロトン溶媒は、シラン系化合物R2(a)に対して化学的に不活性であり、すなわち、クリアコート組成物が硬化されるとき、シラン系化合物R2(a)と反応しない。こうした溶媒の例は、脂肪族および/または芳香族の炭化水素、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、Solvesso100もしくはHydrosol(登録商標)(APAL製)、ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、もしくはメチルアミルケトン、エステル、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、もしくはエトキシプロピオン酸エチル、エーテル、または前述された溶媒の混合物である。非プロトン溶媒または溶媒混合物は、好ましくは、溶媒に対して、1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下の含水量を有する。
【0103】
クリアコート組成物は、好ましくは実質的に水を含まず、かつプロトン性有機溶媒を含まない(クリアコート組成物の全質量に対して、10質量%未満、好ましくは5質量%未満の水および/またはプロトン性有機溶媒)。
【0104】
クリアコート組成物は、少なくとも1種のエポキシ化合物をさらに含むことができる。好適なエポキシ化合物は、例えば、脂肪族グリシジルエーテルおよび脂肪族グリシジルエステル(用語には、脂環式グリシジルエーテルおよび脂環式グリシジルエステルが含められる)である。上記エポキシ化合物は、任意にアルコキシシラン基を含むことができる。クリアコート組成物の固形分に対する、エポキシ化合物の量は、好ましくは0~20質量%、より好ましくは2.5~15質量%、最も好ましくは5~10質量%である。上記エポキシ化合物は、好ましくは、塗布前に、シラン系化合物R2(a)と組み合わされ、次いで少なくとも1種の触媒C1(b)および任意に触媒C2と混合される。
【0105】
クリアコート組成物はまた、例えば、本発明の水性塗料組成物に関連して先に記載された、通例の公知の添加剤も含むことができる。
【0106】
工程(4):
本発明の方法の工程(4)において、ベースコート薄膜およびクリアコート組成物は、一緒に硬化される。塗膜または塗料組成物の硬化は、こうした薄膜または組成物の、使用準備のできている(service-ready)状態、言い換えれば、対象となる塗膜で仕上げられた基材が輸送され、保存され、意図的に使用される状態への変換であると理解される。次いで、硬化塗膜は、特にもはや柔らかくないが、代わりに、固体の塗膜として整えられ、以下に記載された硬化条件へのさらなる暴露で、もはや、硬度または基材への接着などのその特性において、いずれの実質的な変化も示さない。
【0107】
原則として、硬化させる工程は、温度15~160℃、例えば、特に40~90℃で、5~80分、好ましくは10~50分の時間長で実行される。本発明の方法は、とりわけ、低硬化条件が必要である補修用途に好適であるので、工程(4)の一緒に硬化させる工程は、好ましくは、温度20~30℃で、10~70分、より好ましくは20~60分の時間長で実施される。
【0108】
ベースコート組成物である本発明の水性塗料組成物とイソシアネート非含有クリアコート組成物との組合せにより、イソシアネート含有塗料組成物を使用することなく、多層コーティングを製造することが可能になる。ベースコート組成物にイソシアネート硬化剤が含有されないが、得られた多層コーティングの機械特性および光学特性に悪影響を及ぼすことなく、優れたスチームジェット接着が得られる。本発明の塗料組成物は、低温で硬化され得るので、本発明の方法は、とりわけ補修用途に好適であり、低い硬化温度およびイソシアネート非含有塗料組成物の使用ゆえに極めて経済的である。
【0109】
本発明の塗料組成物、本発明のミキサーシステム、およびミキサーシステムから本発明の塗料組成物を製造するための方法について述べられたことは、多層コーティングを製造するための本発明の方法の、さらに好ましい実施形態に関して、必要な変更を加えて適用される。
【0110】
本発明の多層コーティング(MC):
本発明の方法の工程(4)の終了後の結果は、本発明の多層コーティング(MC)である。
【0111】
本発明の使用:
本発明の最終の主題は、特異なシラン系化合物Rを、水性ベースコート組成物、好ましくは水性補修ベースコート組成物における、硬化添加剤として使用する方法である。シラン系化合物Rは、本発明の塗料組成物の成分(a)に対応し、既に上記で詳述された。
【0112】
水性ベースコート組成物における、上記特異なシラン系化合物Rの使用により、とりわけ、補修用途において、これらの水性ベースコート組成物を低硬化性クリアコート組成物と組み合わせる場合に、改善されたスチームジェット接着がもたらされる。これは、ベースコート組成物におけるイソシアネート硬化剤の追加の使用を不要にし、ゆえに、優れた接着特性を有するイソシアネート非含有低硬化性ベースコート組成物を配合することが可能になる。
【0113】
本発明の塗料組成物について、とりわけシラン系化合物Rについて述べられたことは、本発明の使用の、さらに好ましい実施形態に関して、必要な変更を加えて適用される。
【0114】
本発明は、以下の実施形態によって特に説明される。
【0115】
実施形態1:
a)少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、イソシアネート含量1%未満を有する、少なくとも1種のシラン系化合物Rと、
b)一般式(I)のシラン系化合物とは異なる、少なくとも1種の結合剤Bと、
c)少なくとも1種の顔料Pと
を含む水性塗料組成物。
【0116】
実施形態2:シラン系化合物Rが、DIN EN ISO14896:2009-07に準拠して求められた、イソシアネート含量0.5%未満、好ましくは0.05~0%を有することを特徴とする、実施形態1に記載の水性塗料組成物。
【0117】
実施形態3:少なくとも1種のポリイソシアネートが、平均イソシアネート官能性2~6、好ましくは2~5、極めて好ましくは2~3.5を有することを特徴とする、実施形態1または2に記載の水性塗料組成物。
【0118】
実施形態4:ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートウレトジオン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1-イソシアナート-4-[(4-イソシアナートシクロヘキシル)メチル]-シクロヘキサン、およびヘキサメチレンジイソシアネート三量体から選択されることを特徴とする、実施形態1から3のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0119】
実施形態5:式(I)のXおよびX’が、互いに独立して、1~10個、好ましくは1~6個、より好ましくは2~5個、極めて好ましくは3個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルを表すことを特徴とする、実施形態1から4のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0120】
実施形態6:式(I)のRが、互いに独立して、C~C10アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基、極めて好ましくはCアルキル基を表すことを特徴とする、実施形態1から5のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0121】
実施形態7:式(I)のRが、直鎖状C~C10アルキル基、好ましくは直鎖状C~Cアルキル基、極めて好ましくは直鎖状Cアルキル基を表すことを特徴とする、実施形態1から6のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0122】
実施形態8:式(I)のaおよびbが、互いに独立して0であることを特徴とする、実施形態1から7のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0123】
実施形態9:少なくとも1種の、一般式(Ia)および/または一般式(Ib)
HN[X-SiR (OR3-a][X’-SiR (OR3-b] (Ia)
HN[X-SiR (OR3-a[R2-n (Ib)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個、好ましくは2~5個、極めて好ましくは3個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基、好ましくはC1~4アルキル基、極めて好ましくはメチル基を表し、
は、1~20個、好ましくは2~8個、極めて好ましくは4個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルを表し、
a、bは、互いに独立して0~2、好ましくは0であり、
nは1である)
のシラン化合物が少なくとも1種のポリイソシアネートと反応することを特徴とする、実施形態1から8のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0124】
実施形態10:一般式(Ia)のシラン化合物の、一般式(Ib)のシラン化合物に対する質量比が、5:1~1:5、好ましくは3:1~1:1、極めて好ましくは1.6:1であることを特徴とする、実施形態10に記載の水性塗料組成物。
【0125】
実施形態11:少なくとも1種のシラン系化合物Rが、塗料組成物の全質量に対して、1~20質量%、好ましくは2~15質量%、より好ましくは4~10質量%、極めて好ましくは6~9質量%の全量で存在することを特徴とする、実施形態1から10のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0126】
実施形態12:結合剤Bが、(i)ポリ(メタ)アクリレート、より特定すると、ヒドロキシ官能性および/またはカルボキシレート官能性および/またはアミン官能性のポリ(メタ)アクリレート、(ii)ポリウレタン、より特定するとヒドロキシ官能性および/またはカルボキシレート官能性および/またはアミン官能性のポリウレタン、(iii)ポリエステル、より特定するとポリエステルポリオール、(iv)ポリエーテル、より特定するとポリエーテルポリオール、(v)記載されたポリマーのコポリマー、ならびに(vi)これらの混合物からなる群から、好ましくはポリウレタンから選択されることを特徴とする、実施形態1から11のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0127】
実施形態13:少なくとも1種の結合剤Bが、塗料組成物の全質量に対して、1~20質量%固形分、好ましくは2~15質量%固形分の全量で存在することを特徴とする、実施形態1から12のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0128】
実施形態14:少なくとも1種の顔料Pが、有機着色顔料、無機着色顔料、およびエフェクト顔料から選択されることを特徴とする、実施形態1から13のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0129】
実施形態15:無機着色顔料が、(i)白色顔料、例えば、二酸化チタン、亜鉛華、着色酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポン;(ii)黒色顔料、例えば、四三酸化鉄、黒色マンガン鉄、スピネルブラック、カーボンブラック;(iii)カラー顔料、例えば、ウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、マンガンバイオレット、赤色酸化鉄、モリブデンレッド、ウルトラマリンレッド、茶色酸化鉄、混合ブラウン、スピネル相およびコランダム相、黄色酸化鉄、バナジウム酸ビスマス;(iv)充填剤顔料、例えば、二酸化ケイ素、石英粉、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、天然マイカ、天然および沈殿のチョーク、硫酸バリウム、ならびに(vi)これらの混合物から選択されることを特徴とする、実施形態14に記載の水性塗料組成物。
【0130】
実施形態16:有機着色顔料が、(i)モノアゾ顔料、例えば、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントオレンジ5、36、および67、C.I.ピグメントオレンジ5、36、および67、C.I.ピグメントレッド3、48:2、48:3、48:4、52:2、63、112、および170、ならびにC.I.ピグメントイエロー3、74、151、および183;(ii)ジアゾ顔料、例えば、C.I.ピグメントレッド144、166、214、および242、C.I.ピグメントレッド144、166、214、および242、ならびにC.I.ピグメントイエロー83;(iii)アントラキノン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー147および177、ならびにC.I.ピグメントバイオレット31;(iv)ベンズイミダゾール顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ64;(v)キナクリドン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ48および49、C.I.ピグメントレッド122、202、および206、ならびにC.I.ピグメントバイオレット19;(vi)キノフタロン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー138;(vii)ジケトピロロピロール顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ71および73、ならびにC.I.ピグメントレッド、254、255、264、および270;(viii)ジオキサジン顔料、例えば、C.I.ピグメントバイオレット23および37;(ix)インダントロン顔料、例えば、C.I.ピグメントブルー60;(x)イソインドリン顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー139および185;(xi)イソインドリノン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ61、ならびにC.I.ピグメントイエロー109および110;(xii)金属錯体顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー153;(xiii)ペリノン顔料、例えば、C.I.ピグメントオレンジ43;(xiv)ペリレン顔料、例えば、C.I.ピグメントブラック32、C.I.ピグメントレッド149、178、および179、ならびにC.I.ピグメントバイオレット29;(xv)フタロシアニン顔料、例えば、C.I.ピグメントバイオレット29、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、および16、ならびにC.I.ピグメントグリーン7および36;(xvi)アニリンブラック、例えば、C.I.ピグメントブラック1;(xvii)アゾメチン顔料;ならびに(xviii)これらの混合物から選択されることを特徴とする、実施形態14または15に記載の水性塗料組成物。
【0131】
実施形態17:エフェクト顔料が、(i)板状金属エフェクト顔料、例えば、板状アルミニウム顔料、ゴールドブロンズ、火色ブロンズ、酸化鉄-アルミニウム顔料;(ii)真珠光沢顔料、例えば、金属酸化物マイカ顔料;(iii)板状グラファイト顔料;(iv)板状酸化鉄顔料;(v)PVD薄膜製の多層エフェクト顔料;(vi)液晶ポリマー顔料;および(vii)これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、実施形態14から16のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0132】
実施形態18:少なくとも1種の顔料Pが、水性塗料組成物の全質量に対して、1~40質量%、好ましくは2~20質量%の全量で存在することを特徴とする、実施形態1から17のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0133】
実施形態19:塗料組成物が、塗料組成物の全質量に対して、2質量%未満、好ましくは0質量%の全量の少なくとも1種の架橋剤を含むことを特徴とする、実施形態1から18のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0134】
実施形態20:架橋剤が、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、ポリカルボジイミド、光開始剤、およびその混合物からなる群から選択されることを特徴とする、実施形態19に記載の水性塗料組成物。
【0135】
実施形態21:塗料組成物が、(i)UV吸収剤;(ii)光安定剤、例えば、HALS化合物、ベンゾトリアゾール、またはオキサルアニリド;(iii)レオロジー改質剤、例えば、垂れ制御剤(尿素結晶改質樹脂)、有機増粘剤および無機増粘剤;(iv)フリーラジカル捕捉剤;(v)滑剤;(vi)重合防止剤;(vii)消泡剤;(viii)湿潤剤;(ix)フッ素化合物;(x)接着促進剤;(xi)レベリング剤;(xii)薄膜形成助剤、例えば、セルロース誘導体;(xiii)充填剤、例えば、シリカ、アルミナ、または酸化ジルコニウムをベースとしたナノ粒子;(xiv)難燃剤;ならびに(xv)これらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の塗料添加剤をさらに含むことを特徴とする、実施形態1から20のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【0136】
実施形態22:水性塗料組成物を生成させるためのミキサーキットであって、
- 少なくとも1種のカラー顔料および/またはエフェクト顔料、ならびに少なくとも1種の結合剤を含有する着色ベースを含む、少なくとも1個の第1の容器(C1)と、
- 少なくとも1種の結合剤を含有する顔料非含有水性ベースワニスを含む、少なくとも1個の第2の容器(C2)と、
- イソシアネート含量1%未満を有し、少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を含有する、少なくとも1個の第3の容器(C3)と、
- 任意に少なくとも1種の無機および/または有機の増粘剤を含有する顔料非含有レオロジーモジュールを含む第4の容器(C4)と
を備える、ミキサーキット。
【0137】
実施形態23:実施形態22に記載のミキサーキットから水性塗料組成物を生成させるための方法であって、少なくとも1種のベースカラー組成物を、顔料非含有水性組成物、シラン系組成物、および任意に顔料非含有レオロジーモジュールと混合する工程を含む、方法。
【0138】
実施形態24:基材(S)に多層コーティング(MC)を形成するための方法であって、以下の工程:
(1)実施形態1から21のいずれかに記載の水性塗料組成物または実施形態23に従って製造された水性塗料組成物を基材(S)に塗布する工程と、
(2)工程(1)で塗布された塗料組成物からベースコート薄膜を形成する工程と、
(3)得られたベースコート薄膜にクリアコート組成物を塗布する工程と、
(4)ベースコート薄膜およびクリアコート薄膜を一緒に硬化させる工程と
を含む、方法。
【0139】
実施形態25:基材(S)が、金属基材、硬化電着および/または硬化充填剤でコーティングされた金属基材、プラスチック基材、ならびに金属成分およびプラスチック成分を含む基材から、とりわけ好ましくは金属基材から選択されることを特徴とする、実施形態24に記載の方法。
【0140】
実施形態26:金属基材が、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム、およびこれらの合金、ならびに鋼を含む群から、またはそれらからなる群から選択されることを特徴とする、実施形態25に記載の方法。
【0141】
実施形態27:工程(1)の基材が、多層コーティング処理欠陥部位であることを特徴とする、実施形態24に記載の方法。
【0142】
実施形態28:工程(2)のベースコート薄膜の形成が、20~60℃の温度で、5~80分の時間長で実施され、好ましくは20~35℃の温度で、5分~70分の時間長で実施されることを特徴とする、請求項24から27のいずれかに記載の方法。
【0143】
実施形態29:クリアコート組成物が、
a)イソシアネート含量1%未満、好ましくは0.05~0%を有し、少なくとも1種の、一般式(II)
-NR-X-SiR (OR3-a (II)
のシラン基および任意に少なくとも1種の、一般式(III)
-N[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b (III)
のシラン基
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカル、好ましくは3個の炭素原子を有する直鎖状アルキレンラジカルであり、
は、1~10個の炭素原子、好ましくは4個の炭素原子を含有するアルキル基であり、
、Rは、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル、好ましくはCアルキル基である)によって遮断されることがあり、
m、nは、互いに独立して0~2であり、ただしm+n=2であり、
a、bは、互いに独立して0~2、好ましくは0である)
を含む、少なくとも1種のシラン系化合物R2と、
(a)少なくとも1種の、式(IV)
z[C(R)(R)(R)-(CH-C(=O)-O]Mz+ (IV)
(式中、
~Rは、互いに独立して、水素または1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、各残基R~Rの炭素原子の総数は、3~8、好ましくは3~5または5~7の範囲であり、
zは、1~4、好ましくは1または4であり、
nは0または1~8、好ましくは0または4であり、
ただし、
z=1の場合、MはLi、K、およびNaからなる群から選択され、
z=2の場合、MはZnおよびZrからなる群から選択され、
z=3の場合、MはBiおよびAlからなる群から選択され、
z=4の場合、MはZrおよびTiからなる群から選択される)
の触媒C1と、
(b)少なくとも1種の非プロトン有機溶媒と
を含むことを特徴とする、請求項24から28のいずれかに記載の方法。
【0144】
実施形態30:クリアコート組成物が、クリアコート組成物の全質量に対して25~95質量%、好ましくは35~90質量%、極めて好ましくは40~80質量%の全量でシラン系化合物R2(a)を含むことを特徴とする、実施形態29に記載の方法。
【0145】
実施形態31:クリアコート組成物が、少なくとも1種の、一般式(IV)の触媒C1(b)を、シラン系化合物R2(a)固形分100g当たりの金属1~50mmol、好ましくは5~40mmol、極めて好ましくは15~25mmolの全量で含むことを特徴とする、実施形態29または30に記載の方法。
【0146】
実施形態32:クリアコート組成物が、一般式(V)
[(OR(Rn-m (V)
(式中、
は、直鎖状または分枝状のC~C10アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基であり、
は、ハロゲン基、アセチルアセトネート基、アルキルアセトアセテート基、またはエタノールアミナト基、好ましくはエチルアセトアセテート基であり、
は、ケイ素、チタン、タンタル、ジルコニウム、ホウ素、アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛、好ましくはチタンから選択される、少なくとも1種の金属を表し、
mは、整数0~4、好ましくは0であり、
nは、Mの2~5価、好ましくは4価を表す)
の金属アルコキシドから選択される、少なくとも1種の、第2の触媒C2を追加で含むことを特徴とする、実施形態29から31のいずれかに記載の方法。
【0147】
実施形態33:一般式(IV)の触媒C1(b)の、少なくとも1種の、第2の触媒C2、好ましくはチタン(IV)イソプロポキシドおよび/またはチタン(IV)n-ブトキシドおよび/またはチタン(IV)ビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシドに対する質量比が、1:2~8:1、好ましくは1:1~4:1、より好ましくは1:1~3:1、極めて好ましくは1.5:1であることを特徴とする、実施形態29から32のいずれかに記載の方法。
【0148】
実施形態34:工程(4)の一緒に硬化させる工程が、温度20~30℃で、10~70分、好ましくは20~60分の時間長で実施されることを特徴とする、実施形態24から33のいずれかに記載の方法。
【0149】
実施形態35:実施形態34から34のいずれかに記載の方法によって生成される多層コーティング(MC)。
【0150】
実施形態36:イソシアネート含量1%未満を有し、且つ少なくとも1種の、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、および芳香族のポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、少なくとも1種の、一般式(I)
HN[X-SiR (OR3-a[X’-SiR (OR3-b[R2-(m+n) (I)
(式中、
X、X’は、互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、水素、アルキル基、またはシクロアルキル基を表し、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルの基の炭素鎖は、非近接の酸素、硫黄、またはNR基(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルである)によって遮断されることがあり、
は、1~20個の炭素原子を有する、直鎖状および/または分枝状のアルキレンラジカルまたはシクロアルキレンラジカルを表し、
n、mは、互いに独立して1であるか、またはnは1であり、mは0であり、
a、bは、互いに独立して0~2である)
のシラン化合物と反応させることによって得られる、少なくとも1種のシラン系化合物R、ならびに任意に少なくとも1種の有機溶媒を含むシラン系組成物を使用する方法であって、
水性ベースコート組成物、好ましくは水性補修ベースコート組成物における硬化添加剤として、使用する方法。
【実施例
【0151】
本発明は、有用な実施例の使用によって、さらにより詳細に説明されるが、これらの有用な実施例に決して限定されない。さらに、実施例における用語「部」、「%」、および「比」は、別段の指示がなければ、「質量部」「質量%」および「質量比」それぞれを示す。
【0152】
1.測定の方法
1.1固形分(固形分、不揮発性分画)
不揮発性分画は、DIN EN ISO3251(日付:2008年6月)に準拠して測定される。それには、予め乾燥させたアルミニウム皿に試料1gを計量し、130℃の乾燥オーブンで60分間乾燥させ、それをデシケーター内で冷却し、次いで再計量することが含まれる。使用される試料の全量に対する残留分が不揮発性分画に対応する。
【0153】
1.2イソシアネート含量(NCO含量)
イソシアネート含量は、DIN EN ISO3251:2008-06、DIN EN ISO11909:2007-05、およびDIN EN ISO14896:2009-07に基づいた方法において、過剰の、2%のN,N-ジブチルアミンのキシレン中溶液を、試料のアセトン/N-エチルピロリドン(1:1vol%)中均一溶液に添加することによって、0.1N塩酸を用いたアミン過剰の電位差逆滴定によって測定された。固形分に基づいた、シラン系化合物RのNCO含量は、溶解しているポリマーの分画(固形分)によって計算することができる。
【0154】
1.3多層コーティング(MC)の製造
鋼製パネルを、Gardobond Rリン酸亜鉛処理(Chemetall GmbHより市販されている)で初めに前処理し、その後EDコート(Cathogard 800、BASF Coatings GmbHより市販されている)で、乾燥膜厚17~25μmでコーティングした。
【0155】
その後、電着パネルを、空気圧式スプレーガンを使用して、温度25℃および相対湿度65%で、以下に記載されたようにコーティングした。プライマー(Glasurit 285-230)を、60℃で硬化後の膜厚が50~70μmであるように、電着パネルに塗布した。その後、プライマーを研磨し、新しく配合された各ベースコート組成物BC1~BC11を、フラッシュオフ後から指触乾燥までのおよそ30分間の膜厚が10~20μmであるように塗布した。最後の工程において、ポリイソシアネート非含有シラン系クリアコート組成物C1をそれぞれのベースコート層の上部に塗布し、周囲条件で指触乾燥まで、およそ30分間硬化させることができた。クリアコート層の乾燥膜厚は、35~80μmであった。それぞれのベースコート組成物について、2つのパネルを先に記載されたように製造した。
【0156】
1.4試験測定
多層コーティングの製造の1週間後、以下の接着試験:クロスカット接着、スチームジェット接着、およびストーンチップ接着を実施した。加えて、第2のパネルを、40℃および湿度100%の人工気候室へ240時間移した。この手順の後、湿潤暴露の24時間後にクロスカット接着、スチームジェット接着、およびストーンチップ接着を再度試験した。加えて、パネルを、湿潤暴露の1時間後および24時間後に目視により評価した。
【0157】
1.4.1クロスカット接着
クロスカット接着は、DIN EN ISO2409:2013-06に準拠して実施された。
【0158】
1.4.2スチームジェット接着
スチームジェット接着は、DIN55662:2009-12に準拠して実施された。
【0159】
1.4.3ストーンチップ接着
ストーンチップ接着の試験および評価は、DIN EN ISO20567-1:2017-07およびDIN55996-1:2001-04に準拠して実施された。
【0160】
1.4.3湿潤暴露後の膨れおよび白色化の目視評価
湿潤暴露後の膨れおよび白色化の目視評価は、DIN EN ISO4628-2:2016-07に準拠して実施された。
【0161】
2.様々なシラン系組成物R1~R8の製造
それぞれのイソシアネート化合物を酢酸ブチルで希釈し、対応するアミノシランを、時間をかけて滴下添加した。容器温度は、60~70℃の範囲で保持された。イソシアネート化合物のNCO基の完全な変換が、項目1.2.に記載された滴定法によって測定されたとき、反応が完了した。各シラン系組成物R1~R8を製造するのに使用されたイソシアネート化合物およびアミノシラン化合物、ならびに製造された組成物の固形分およびNCO含量を表1に掲示する。
【0162】
【表1】
【0163】
3.各水性ベースコート組成物BC1~BC11の製造
各ベースコート材料90-M4、90-1250、および93-E3は、BASF Coatings GmbHから商標Glasuritで市販されている。それぞれの本発明の水性ベースコート組成物BC4~BC11は、以下の通り配合された:シラン系組成物(すなわち、上記の項目2.に従って製造されたR1~R8)を、ミキシングクリア(90-M4)と黒色顔料ペースト(90-1250)との混合物に添加し、均一な懸濁液が得られるまで撹拌した。次いで、この混合物を、調整ベース(93-E3)で希釈した。非本発明のベースコート組成物BC1は、黒色顔料ペースト(90-1250)をミキシングクリア(90-M4)に添加し、均一な懸濁液が得られるまで撹拌することによって製造された。次いで、この混合物を調整ベース(93-E3)で希釈した。非本発明のベースコート組成物BC2および非本発明のベースコート組成物BC3を非本発明のベースコート組成物BC1と同様に製造し、ただし、市販の(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTS)のそれぞれの量は、調整ベース(93-E3)で希釈した後に追加で添加された。正確な配合を表2に明示する。製造された水性ベースコート組成物を、項目1.3に記載されたように製造直後に塗布した。
【0164】
【表2】
【0165】
4.クリアコート組成物C1の製造
クリアコート組成物C1は、欧州特許第19172732号で開示されたように、以下の手順に従って製造された:
表3の構成成分Iを混合し、その後予め混合された構成成分IIを添加した。表3の全ての量は、質量部(すなわち、グラム)で与えられる。得られたクリアコート組成物C1は、不揮発分55%を有した。
【0166】
【表3】
【0167】
5.結果
項目1.3に従って、各ベースコート組成物BC1~BC11およびクリアコート組成物C1を使用して製造された多層コーティングについて得られた結果を表4~表6に列挙する。
【0168】
【表4】
【0169】
【表5】
【0170】
【表6】
【0171】
シラン系化合物Rを含むイソシアネート非含有低硬化性ベースコート組成物から製造された、本発明の各多層コーティングMC4~MC11は、上記シラン系化合物Rを含まない、非本発明の多層コーティングMC1、または特許請求の範囲に記載のシラン系化合物Rに対応しないシラン化合物を含む、非本発明の多層コーティングMC2および非本発明の多層コーティングMC3と比較される場合、有意に改善されたスチームジェット接着を示す(表4参照)。しかし、機械的特性、例えばストーンチッピング特性は、シラン系化合物Rのベースコート組成物への添加によって悪影響を受けない。
【0172】
改善されたスチームジェット接着はまた、本発明の各多層コーティングMC4’~MC11’が所定の湿潤条件で数時間保たれた後得られる(表5参照)。
【0173】
所定の湿潤条件の下、上記多層コーティングを数時間保った後、非本発明の多層コーティングMC1’と比較される場合、シラン系化合物Rのベースコート組成物への添加はまた、本発明の各多層コーティングMC4’~MC11’の膨潤、混濁、ブリスター密度、または層間剥離に悪影響をもたらさない(表6参照)。市販のシラン化合物の、非本発明のベースコート組成物BC2および非本発明のベースコート組成物BC3への添加により、膨れ、亀裂、および層間剥離に至るが、意外なことに、シラン系化合物Rの各ベースコート組成物BC4~BC11への添加は、膨れ、亀裂、または層間剥離をもたらさない(多層コーティングMC2’および多層コーティングMC3’参照)。したがって、ベースコート層の光学特性および色彩特性に悪影響を及ぼすことなく、スチームジェット接着を改善するためには、シラン系化合物Rにおいて、少なくとも2個のアルコキシシラン部分が必要である。
【0174】
要するに、シラン系化合物Rの水性ベースコート組成物への添加により、望ましくないイソシアネート架橋剤を使用することなく、上記水性ベースコート組成物から製造された多層コーティングの、改善されたスチームジェット接着がもたらされる。上記ベースコート層を含有する多層コーティングの、良好な機械特性および光学特性に悪影響を及ぼすことなく、改善されたスチームジェット接着が得られる。したがって、水性ベースコート組成物におけるシラン系化合物Rの使用により、とりわけ、補修用途に好適なイソシアネート非含有低硬化性コーティング系を提供することが可能になる。