(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】キャリア付金属箔
(51)【国際特許分類】
B32B 3/02 20060101AFI20240129BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240129BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240129BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240129BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20240129BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
B32B3/02
B32B3/30
B32B15/01 Z
B32B15/04 B
B32B17/06
H05K1/09 Z
(21)【出願番号】P 2023540082
(86)(22)【出願日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2023010949
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022059686
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 利美
(72)【発明者】
【氏名】北畠 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188498(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163605(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/031721(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067422(WO,A1)
【文献】特開2005-193400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/09
3/46
C25D 1/00- 3/66
5/00- 7/12
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第一面及び第二面、並びに前記第一面及び前記第二面に接続する側面部を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第一面に設けられる剥離層と、
前記剥離層上に設けられる、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の金属層と、
を備え、
前記側面部の少なくとも一部が前記金属層で被覆されるように、前記金属層が前記キャリアの前記第一面から前記側面部まで延在しており、
前記キャリアは、前記側面部、又は前記側面部及び前記第一面に、ISO25178に準拠して測定される界面の展開面積比Sdrが3%以上39%以下である凹凸領域を有し、前記凹凸領域が前記側面部の前記金属層で被覆された領域を包含する、キャリア付金属箔。
【請求項2】
前記凹凸領域が、前記側面部の全周にわたって設けられる、請求項1に記載のキャリア付金属箔。
【請求項3】
前記キャリアは、前記第一面に、ISO25178に準拠して測定される界面の展開面積比Sdrが5%未満である平坦領域と、前記平坦領域を取り囲む前記凹凸領域とを有し、
前記凹凸領域は、前記キャリアの前記側面部から前記第一面まで連続して設けられる、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項4】
前記キャリアの前記第一面は、前記平坦領域及び前記凹凸領域の合計面積に対する、前記凹凸領域の面積の比率が0.01以上0.5以下である、請求項3に記載のキャリア付金属箔。
【請求項5】
前記凹凸領域が、前記平坦領域を2以上の区域に区画するパターンで前記第一面に設けられる、請求項3に記載のキャリア付金属箔。
【請求項6】
前記キャリア付金属箔は、前記平坦領域における前記金属層の平坦面よりも高さが低くなる段差部を前記凹凸領域上に有し、前記段差部の前記平坦面との高低差が0.05μm超100μm以下である、請求項
3に記載のキャリア付金属箔。
【請求項7】
前記キャリアのマイクロビッカース硬さが500HV以上3000HV以下である、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項8】
前記金属層が、Cu、Au及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項9】
前記キャリアと前記剥離層との間に、Cu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む中間層をさらに備えた、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項10】
前記剥離層と前記金属層との間に、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される機能層をさらに備えた、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項11】
前記キャリアが、SiO
2を含むガラス基板、又はシリコン基板である、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項12】
前記キャリアが前記ガラス基板であり、前記ガラス基板が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス及びアルミノシリケートガラスからなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項11に記載のキャリア付金属箔。
【請求項13】
前記凹凸領域における前記キャリアの剥離強度が20gf/cm以上3000gf/cm以下である、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項14】
前記キャリア付金属箔が前記金属層上に再配線層を有し、
前記キャリア付金属箔を平面視した場合に、前記再配線層の少なくとも一部が前記キャリアの端部に達している、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【請求項15】
前記再配線層の端部の少なくとも一部が前記凹凸領域上に位置する、請求項14に記載のキャリア付金属箔。
【請求項16】
前記第一面上に設けられる凹凸領域Rのパターンの線幅が0.1mm以上50mm以下である、請求項5に記載のキャリア付金属箔。
【請求項17】
前記キャリア付金属箔は、
前記キャリアの前記第二面に設けられる第2剥離層と、
前記第2剥離層上に設けられる、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の第2金属層と、
を更に備え、
前記側面部の少なくとも一部が前記第2金属層で被覆されるように、前記第2金属層が前記キャリアの前記第二面から前記側面部まで延在しており、
前記キャリアは、前記第二面に前記凹凸領域をさらに有し、前記凹凸領域が前記側面部の前記第2金属層で被覆された領域を包含する、請求項1又は2に記載のキャリア付金属箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア付金属箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用電子機器等の電子機器の小型化及び高機能化に伴い、プリント配線板には配線パターンの更なる微細化(ファインピッチ化)が求められている。かかる要求に対応するために、プリント配線板製造用金属箔には従前以上に薄く且つ低い表面粗度のものが望まれている。例えば、特許文献1(特開2005-76091号公報)には、平均表面粗度Rzを0.01μm以上2.0μm以下に低減したキャリア銅箔の平滑面に剥離層及び極薄銅箔を順に積層することを含む、キャリア付極薄銅箔の製造方法が開示されており、このキャリア付極薄銅箔により高密度極微細配線(ファインパターン)を施して多層プリント配線板を得ることも開示されている。
【0003】
また、キャリア付金属箔における金属層の厚さと表面粗度の更なる低減を実現するため、従来から典型的に用いられている樹脂製キャリアに代えて、ガラス基板や研磨金属基板等を超平滑キャリアとして用い、この超平滑面上にスパッタリング等の気相法により金属層を形成することも最近提案されている。例えば、特許文献2(国際公開第2017/150283号)には、キャリア(例えばガラスキャリア)、剥離層、反射防止層、極薄銅層を順に備えたキャリア付銅箔が開示されており、剥離層、反射防止層及び極薄銅層をスパッタリングで形成することが記載されている。また、特許文献3(国際公開第2017/150284号)には、キャリア(例えばガラスキャリア)、中間層(例えば密着金属層及び剥離補助層)、剥離層及び極薄銅層を備えたキャリア付銅箔が開示されており、中間層、剥離層及び極薄銅層をスパッタリングで形成することが記載されている。特許文献2及び3のいずれにおいても、表面平坦性に優れたガラス等のキャリア上に各層がスパッタリング形成されることで、極薄銅層の外側表面において1.0nm以上100nm以下という極めて低い算術平均粗さRaを実現している。
【0004】
ところで、キャリア付金属箔の搬送時等に、キャリアと金属層との積層部分が他の部材と接触することで、金属層の予期せぬ剥離が生じることがあり、かかる問題に対処可能なキャリア付金属箔が幾つか提案されている。例えば、特許文献4(特開2016-137727号公報)には、金属キャリアと金属箔との外周の一部又は全体が樹脂で覆われた積層体が開示されており、かかる構成とすることで、他の部材との接触を防いでハンドリング中の金属箔の剥がれを少なくすることができるとされている。特許文献5(国際公開第2014/054812号)には、樹脂製キャリアと金属箔の間の界面が外周領域の少なくとも四隅において接着層を介して強固に接着されていることで角部分の予期せぬ剥離を防止したキャリア付金属箔が開示されており、搬送終了後に、接着層よりも内側部分でキャリア付金属箔を切断することも開示されている。特許文献6(特開2000-331537号公報)には、銅箔キャリアの左右エッジ近傍部分の表面粗度を中央部よりも大きくしたキャリア付銅箔が開示されており、こうすることでキャリア付銅箔の取り扱い時や銅張積層板の作製時に銅層がキャリアから剥離する等の不具合が生じなくなるとされている。
【0005】
また、ICチップ等を基板に実装する際、実装設備が処理できる大きさにダウンサイジングを行うこと等を目的として、キャリア付金属箔を切断することが行われている。この切断の際に、切断界面に露出した剥離層の剥離強度が低いために、切断時の負荷によって金属層がキャリアから剥がれてしまうことがあり、かかる問題に対処可能なキャリア付金属箔も提案されている。例えば、特許文献7(国際公開第2019/163605号)には、平坦なガラスキャリアの表面に切り代として最大高さRzが1.0μm以上30.0μm以下である凹凸領域を線状に設けることが開示されており、こうすることで、ガラスキャリア付銅箔の切断時及び切断後における銅層の望ましくない剥離を防止できるとされている。特許文献8(特開2019-102779号公報)には、コア層と、コア層上に配置された第1金属層と、第1金属層上に配置された離型層と、離型層上に配置された第2金属層とを含み、第1金属層、離型層及び第2金属層のうち少なくとも一つの層がコア層の面積よりも小さい面積を有する複数の単位パターン部を構成するキャリア基板が開示されている。かかる構成によれば、単位パターン部によって分離防止設計がなされた状態であるため、クワッド又はストリップ単位にソーイングする過程で離型層が分離されることを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-76091号公報
【文献】国際公開第2017/150283号
【文献】国際公開第2017/150284号
【文献】特開2016-137727号公報
【文献】国際公開第2014/054812号
【文献】特開2000-331537号公報
【文献】国際公開第2019/163605号
【文献】特開2019-102779号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、キャリア付金属箔を用いて配線層及び樹脂層を含む再配線層を形成する工程では、液体レジストの現像液や剥離液、硫酸銅めっき液、金属層のエッチング液等の各種薬液が用いられる。このような薬液の使用により、キャリア付金属箔の端部には薬液ダメージが蓄積することになる。そして、キャリア付金属箔の端部から薬液が剥離層等に浸入し、金属層がキャリアから意図せず剥がれてしまうことが起こりうる。その結果、意図した回路パターンを形成することができず、それ以降の工程に進めないという問題が生じうる。
【0008】
本発明者らは、今般、キャリア付金属箔において、金属層をキャリアの一方の面から側面部まで延在させ、かつ、キャリアの側面部に、界面の展開面積比Sdrが所定の範囲内に制御された凹凸領域を、金属層で被覆された領域を包含するように設けることにより、端部からの薬液浸入に起因する金属層の意図せぬ剥離を抑制できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、端部からの薬液浸入に起因する金属層の意図せぬ剥離を抑制可能な、キャリア付金属箔を提供することにある。
【0010】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
互いに対向する第一面及び第二面、並びに前記第一面及び前記第二面に接続する側面部を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第一面に設けられる剥離層と、
前記剥離層上に設けられる、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の金属層と、
を備え、
前記側面部の少なくとも一部が前記金属層で被覆されるように、前記金属層が前記キャリアの前記第一面から前記側面部まで延在しており、
前記キャリアは、前記側面部、又は前記側面部及び前記第一面に、ISO25178に準拠して測定される界面の展開面積比Sdrが3%以上39%以下である凹凸領域を有し、前記凹凸領域が前記側面部の前記金属層で被覆された領域を包含する、キャリア付金属箔。
[態様2]
前記凹凸領域が、前記側面部の全周にわたって設けられる、態様1に記載のキャリア付金属箔。
[態様3]
前記キャリアは、前記第一面に、ISO25178に準拠して測定される界面の展開面積比Sdrが5%未満である平坦領域と、前記平坦領域を取り囲む前記凹凸領域とを有し、
前記凹凸領域は、前記キャリアの前記側面部から前記第一面まで連続して設けられる、態様1又は2に記載のキャリア付金属箔。
[態様4]
前記キャリアの前記第一面は、前記平坦領域及び前記凹凸領域の合計面積に対する、前記凹凸領域の面積の比率が0.01以上0.5以下である、態様3に記載のキャリア付金属箔。
[態様5]
前記凹凸領域が、前記平坦領域を2以上の区域に区画するパターンで前記第一面に設けられる、態様3又は4に記載のキャリア付金属箔。
[態様6]
前記キャリア付金属箔は、前記平坦領域における前記金属層の平坦面よりも高さが低くなる段差部を前記凹凸領域上に有し、前記段差部の前記平坦面との高低差が0.05μm超100μm以下である、態様1~5のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様7]
前記キャリアのマイクロビッカース硬さが500HV以上3000HV以下である、態様1~6のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様8]
前記金属層が、Cu、Au及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される、態様1~7のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様9]
前記キャリアと前記剥離層との間に、Cu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む中間層をさらに備えた、態様1~8のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様10]
前記剥離層と前記金属層との間に、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される機能層をさらに備えた、態様1~9のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様11]
前記キャリアが、SiO2を含むガラス基板、又はシリコン基板である、態様1~10のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様12]
前記キャリアが前記ガラス基板であり、前記ガラス基板が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス及びアルミノシリケートガラスからなる群から選択される少なくとも1種で構成される、態様11に記載のキャリア付金属箔。
[態様13]
前記凹凸領域における前記キャリアの剥離強度が20gf/cm以上3000gf/cm以下である、態様1~12のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様14]
前記キャリア付金属箔が前記金属層上に再配線層を有し、
前記キャリア付金属箔を平面視した場合に、前記再配線層の少なくとも一部が前記キャリアの端部に達している、態様1~13のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様15]
前記再配線層の端部の少なくとも一部が前記凹凸領域上に位置する、態様14に記載のキャリア付金属箔。
[態様16]
前記第一面上に設けられる凹凸領域Rのパターンの線幅が0.1mm以上50mm以下である、態様1~15のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
[態様17]
前記キャリア付金属箔は、
前記キャリアの前記第二面に設けられる第2剥離層と、
前記第2剥離層上に設けられる、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の第2金属層と、
を更に備え、
前記側面部の少なくとも一部が前記第2金属層で被覆されるように、前記第2金属層が前記キャリアの前記第二面から前記側面部まで延在しており、
前記キャリアは、前記第二面に前記凹凸領域をさらに有し、前記凹凸領域が前記側面部の前記第2金属層で被覆された領域を包含する、態様1~16のいずれか一つに記載のキャリア付金属箔。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のキャリア付金属箔の一例を示す模式断面図である。
【
図2】キャリアの模式断面図であり、第一面、第二面及び側面部を示す。
【
図3A】ウェハ形状のキャリアを第一面側から見た上面図であり、平坦領域を取り囲む凹凸領域を示す。
【
図3B】パネル形状のキャリアを第一面側から見た上面図であり、平坦領域を取り囲む凹凸領域を示す。
【
図4】従来のキャリア付金属箔による配線形成プロセスの一例を示す工程流れ図である。
【
図5】別のキャリア付金属箔による配線形成プロセスの一例を示す工程流れ図である。
【
図6】本発明のキャリア付金属箔の一態様による配線形成プロセスの一例を示す工程流れ図である。
【
図7A】ブラスト処理の進行に伴うキャリアの表面プロファイルの変化を説明するための工程流れ図であり、前半の工程を示す。
【
図7B】ブラスト処理の進行に伴うキャリアの表面プロファイルの変化を説明するための工程流れ図であり、
図7Aに続く後半の工程を示す。
【
図8A】破壊荷重の測定方法を説明するための模式断面図である。
【
図8B】
図8Aに示されるキャリアと支持部材Sとの位置関係を示す模式上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本明細書において、「界面の展開面積比Sdr」又は「Sdr」とは、ISO25178に準拠して測定される、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表すパラメータである。本明細書では、界面の展開面積比Sdrを表面積の増加分(%)として表すものとする。この値が小さいほど、平坦に近い表面形状であることを示し、完全に平坦な表面のSdrは0%となる。一方、この値が大きいほど、凹凸が多い表面形状であることを示す。例えば、表面のSdrが30%である場合、この表面は完全に平坦な表面から30%表面積が増大していることを示す。Sdrは、対象面における所定の測定面積(例えば258.346μm×258.348μmの二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡(例えば50倍の対物レンズを使用)で測定することにより算出することができる。本明細書において、Sdrの数値は、Sフィルターによるカットオフ波長を0.8μmとし、Lフィルターによるカットオフを行わない条件で測定される値とする。
【0013】
キャリア付金属箔
本発明のキャリア付金属箔の一例が
図1に模式的に示される。
図1に示されるように、本発明のキャリア付金属箔10は、キャリア12と、剥離層16と、金属層18とをこの順に備えたものである。所望により、キャリア付金属箔10は、キャリア12と剥離層16との間に中間層14をさらに有していてもよく、剥離層16と金属層18との間に機能層17をさらに有していてもよい。また、キャリア付金属箔10は、金属層18上に再配線層20をさらに有していてもよい。キャリア12は、
図2に示すように、互いに対向する第一面12a及び第二面12b、並びに第一面12a及び第二面12bに接続する側面部12cを有する。剥離層16はキャリア12上に設けられる層である。金属層18は剥離層16上に設けられ、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の層である。この金属層18は、キャリアの第一面12aから側面部12cまで延在しており、これによりキャリア12の側面部12cの少なくとも一部が金属層18で被覆される。キャリア12は、側面部12c、又は側面部12c及び第一面12aに界面の展開面積比Sdrが3%以上39%以下である凹凸領域Rを有する。この凹凸領域Rは、側面部12cの金属層18で被覆された領域を包含する。このようにキャリア付金属箔10において、金属層18をキャリアの第一面12aから側面部12cまで延在させ、かつ、キャリアの側面部12cに、界面の展開面積比Sdrが所定の範囲内に制御された凹凸領域Rを、金属層18で被覆された領域を包含するように設けることにより、端部からの薬液浸入に起因する金属層18の意図せぬ剥離を抑制できる。
【0014】
上述したとおり、キャリア付金属箔を用いて再配線層を形成する工程では、ドライフィルムレジストの現像液や剥離液、硫酸銅めっき液、金属層のエッチング液等の各種薬液が用いられる。かかる薬液の使用により、キャリア付金属箔の端部には薬液ダメージが蓄積することになる。そして、キャリア付金属箔の端部から薬液が剥離層等に浸入し、金属層がキャリアから意図せず剥がれてしまうことが起こりうる。その結果、意図した回路パターンを形成することができず、それ以降の工程に進めないという問題が生じうる。
【0015】
この問題が本発明のキャリア付金属箔10によれば好都合に解決される。まず、キャリアの側面部12cの少なくとも一部が金属層18で被覆されることにより、剥離層16の端部が露出されることなく薬液の浸入を抑制することができる。一方、かかる構成であっても金属層18等の端部が溶解する等して薬液が剥離層16まで浸入することが想定される。この点、凹凸領域Rが、側面部12cの金属層18で被覆された領域を包含するように設けられることで、金属層18等の側面部12cに延在した各種層も凹凸に富んだ形状を有するものとなる。このため、薬液がキャリア付金属箔10の端部から浸入した場合でも、凹凸形状によって薬液の更なる浸入が抑制され、キャリアの第一面12a上に存在する剥離層16まで薬液が到達することを防止することができる。その結果、金属層18の意図せぬ剥離を極めて効果的に抑制することができ、多層配線の形成プロセスにも十分耐えうるものとなる。
【0016】
凹凸領域Rは、キャリアの側面部12cの全周にわたって設けられるのが好ましい。こうすることで、キャリア付金属箔10の周囲全体において薬液が剥離層16に浸入することを防止することができ、金属層18の意図せぬ剥離をより一層効果的に抑制することができる。なお、キャリアの側面部12cは、キャリア12を断面視した場合に、曲面形状(
図2参照)を有するものであってもよく、第一面12a及び第二面12bを垂直に接続する平面形状を有するものであってもよいが、キャリア12の割れ防止の観点から曲面形状を有するのが好ましい。
【0017】
キャリア12の凹凸領域Rは、界面の展開面積比Sdrが3%以上39%以下であり、好ましくは3.5%以上35%以下、より好ましくは4.0%以上30%以下、さらに好ましくは4.5%以上25%以下、特に好ましくは5%以上15%以下である。このような範囲内であると、凹凸領域Rにおける剥離層16との剥離されやすさが低下(密着性が向上)し、金属層の意図せぬ剥離を効果的に抑制できる。また、キャリア12の強度低下を効果的に抑制することができる。さらに、凹凸領域Rが第一面12a上にも設けられる場合、後述するとおりキャリア付金属箔10を凹凸領域Rのパターンに従って切断した際に、切断面における良好な剥離強度を確保でき、切断に伴う金属層18の望ましくない剥離を効果的に抑制できる。その上、キャリア12表面に尖った部分やひび割れた部分が生じにくいため、キャリア付金属箔10を切断した際に生じるキャリアの粒子状破片の数を低減することができる。凹凸領域Rにおけるキャリア12の剥離強度は20gf/cm以上3000gf/cm以下であるのが好ましく、より好ましくは25gf/cm以上2000gf/cm以下、さらに好ましくは30gf/cm以上1000gf/cm以下、特に好ましくは35gf/cm以上500gf/cm以下、最も好ましくは50gf/cm以上300gf/cm以下である。この範囲であれば、キャリア付金属箔10の切断の際にも金属層18の望ましくない剥離を効果的に抑制でき、かつ生産性良く凹凸領域Rを形成することができる。この剥離強度は後述の実施例で言及されるように、JIS Z 0237-2009に準拠して測定される値である。
【0018】
キャリア12は、
図3A及び3Bに示されるように、第一面12aに、平坦領域Fと、平坦領域Fを取り囲む凹凸領域Rとを有するのが好ましい。キャリア12の平坦領域Fは、界面の展開面積比Sdrが5%未満であり、好ましくは0.01%以上4.0%以下、より好ましくは0.03%以上3.0%以下、さらに好ましくは0.05%以上1.0%以下、特に好ましくは0.07%以上0.50%以下、最も好ましくは0.08%以上0.50%以下である。キャリア12がSdrの小さい平坦領域Fを有することで、キャリアの第一面12a上に剥離層16を介して積層された金属層18の平坦領域F上の表面も平坦な形状となり、この金属層18の平坦面によってファインパターンの形成を好ましく行うことができる。なお、キャリア12を平面視した場合の形状は、
図3Aに示す円形状(ウェハ形状)であってもよく、
図3Bに示す矩形状(長方形又は正方形のパネル形状)であってもよい。キャリア12が単結晶シリコンキャリアである場合、結晶方位の基準点を示すために、
図3Aに示されるノッチN、又はオリフラ(Orientation Flat)を外周部に有するのが典型的である。一般に単結晶シリコンの直径が、200mm以下ではオリフラが形成され、200mm以上ではノッチNが形成される。
【0019】
キャリアの第一面12aが凹凸領域Rを有する場合、凹凸領域Rは、
図1に示されるように、キャリアの側面部12cから第一面12aまで連続して設けられるのが好ましい。こうすることで、金属層18(及び存在する場合には機能層17)の不要部分をエッチング除去した後においても、薬液の剥離層16への浸入を効果的に抑制できる。以下、この効果を従来のキャリア付金属箔と比較して説明する。
【0020】
まず、
図4に従来のキャリア付金属箔110による配線形成プロセスの一例を示す。このキャリア付金属箔110は、キャリア112上に第1中間層114a、第2中間層114b、剥離層116、機能層117、金属層118及び再配線層120をこの順に備えており、剥離層116の端部が露出している(
図4(i))。このキャリア付金属箔110に対して配線形成のため公知の手法に従い、フォトレジスト層の形成、電気銅めっき層の形成、フォトレジスト層の剥離、及び所望により銅フラッシュエッチングを行う。例えば、以下のとおりである。まず、金属層118の表面にフォトレジスト層を所定のパターンで形成する。フォトレジストは感光性フィルムであるのが好ましく、例えば感光性ドライフィルムである。フォトレジスト層は、露光及び現像により所定の配線パターンを付与すればよい。必要に応じ、金属層118の露出表面(すなわちフォトレジスト層でマスキングされていない部分)に電気銅めっき層を形成する。電気銅めっきは公知の手法により行えばよく、特に限定されない。次いで、フォトレジスト層を剥離する。このようにして、金属層118及び機能層117の不要部分を除去した後(
図4(ii))、キャリア付金属箔110を薬液に浸漬した場合(
図4(iii))、露出した剥離層116の端部から薬液が浸入することで、キャリア112及び金属層118間で意図せぬ剥離が生じうる。
【0021】
また、
図5に別のキャリア付金属箔210による配線形成プロセスの一例を示す。このキャリア付金属箔210は、キャリア212上に第1中間層214a、第2中間層214b、剥離層216、機能層217、金属層218及び再配線層220をこの順に備えており、キャリア212の側面部が金属層218で覆われている(
図5(i))。このキャリア付金属箔210に対して上記配線形成プロセスと同様にエッチングを行い、金属層218及び機能層217の不要部分を除去した後(
図5(ii))、キャリア付金属箔210を薬液に浸漬した場合(
図5(iii))、露出した剥離層216の端部から薬液が浸入することで、キャリア212及び金属層218間で意図せぬ剥離が生じうる。
【0022】
一方、
図6に本発明のキャリア付金属箔10の一態様による配線形成プロセスの一例を示す。
図6(i)に示されるように、このキャリア付金属箔10は、キャリア12上に第1中間層14a、第2中間層14b、剥離層16、機能層17、金属層18及び再配線層20をこの順に備える。そして、キャリアの側面部12cが金属層18で覆われており、凹凸領域Rがキャリアの側面部12cから第一面12aまで連続して設けられている。このキャリア付金属箔10に対して上記配線形成プロセスと同様にエッチングを行い、金属層18及び機能層17の不要部分を除去した後(
図6(ii))、キャリア付金属箔10を薬液に浸漬した場合(
図6(iii))、露出した剥離層16の端部に薬液が接触することになる。しかしながら、凹凸領域Rがキャリアの第一面12a上に存在することで、第一面12a上の剥離層16等の各種層も凹凸に富んだ形状を有するものとなる。このため、薬液が露出した剥離層16の端部から浸入した場合でも、凹凸形状によって薬液の更なる浸入が抑制され、剥離層16の内部(例えば平坦領域F内)まで薬液が到達する時間を遅延させる(さらには到達させない)ことができる。
【0023】
凹凸領域Rは、キャリアの側面部12cにおける高さ方向(第一面12a及び第二面12bに対して垂直方向)の全域にわたって設けられるものであってよい。こうすることで、キャリア12の強度が均一化され、割れ防止にも寄与する。すなわち、キャリア12を断面視して第一面12aの高さを0%とし、第二面12bの高さを100%とした場合に、凹凸領域Rは0%を超え100%以下の高さのところまで側面部12cに連続的に設けられるのが好ましい。この高さの上限値は特に限定されるものではないが、凹凸領域Rの形成性の観点から典型的には95%以下、より典型的には90%以下、さらに典型的には85%以下である。一方、上記高さの下限値は0%であるのが、凹凸領域Rをキャリアの側面部12cから第一面12aまで連続して設ける観点から好ましい。
【0024】
キャリアの第一面12aは、平坦領域F及び凹凸領域Rの合計面積に対する、凹凸領域Rの面積の比率が0.01以上0.5以下であるのが、ファインパターンの形成に必要な平坦性を金属層18に付与可能な領域(すなわち平坦領域F)を十分に確保する観点から好ましい。この凹凸領域Rの面積の比率は、より好ましくは0.02以上0.45以下、さらに好ましくは0.05以上0.40以下、特に好ましくは0.1以上0.35以下である。
【0025】
凹凸領域Rは、平坦領域Fを2以上の区域に区画するパターンで第一面12aに設けられてもよい。かかる構成の場合、凹凸領域Rのパターンに従ってキャリア付金属箔10を切断することで、それぞれの平坦領域Fを有し、かつ、回路実装設備が処理可能な大きさにダウンサイジングされた複数のキャリア付金属箔10を得ることができる。ダウンサイジング後のキャリア付金属箔10は、切断面が凹凸領域Rに存在するため、切断面における剥離層16の剥離強度が高く、それ故切断面からの金属層18の望ましくない剥離を、切断時のみならず、切断後(例えば実装工程でのキャリア付金属箔の搬送時やハンドリング時)においても、極めて効果的に防止することができる。凹凸領域Rのパターンは格子状、柵状又は十字状に設けられるのが、複数の平坦領域Fを回路実装基板に適した均等な形状及びサイズに区画しやすい点で好ましい。中でも、凹凸領域Rのパターンを格子状又は柵状に設けるのが特に好ましい。こうすることで、個々の平坦領域Fの周囲の全体又は大半を凹凸領域Rで囲むことができるので、切断後に分割された各キャリア付金属箔10の端部において意図しない剥離の起点を生じにくくなる。
【0026】
第一面12a上に設けられる凹凸領域Rのパターンの線幅は0.1mm以上50mm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2mm以上45mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上40mm以下、特に好ましくは0.3mm以上35mm以下である。このような範囲内とすることで、カッター等の切断手段の凹凸領域Rへの位置決めがしやすく、かつ、切断もしやすくなるとともに、平坦領域Fを多く確保しながら、凹凸領域Rによる各種利点を望ましく実現することができる。
【0027】
凹凸領域Rの形成手法は特に限定されないが、例えば平坦なキャリア12表面の所定領域をブラスト処理等の物理的手法で加工することにより、好ましく凹凸領域Rを形成することができる。したがって、キャリア付金属箔10は、平坦領域Fにおける金属層18の平坦面よりも高さが低くなる段差部を凹凸領域R上に有するのが典型的である。この段差部は、平坦面との高低差が0.05μm超100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.1μm以上80μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上50μm以下、特に好ましくは1μm以上30μm以下である。この範囲内であると、薬液が剥離層16内部(例えば平坦領域F内)に浸入することをより一層効果的に抑制しつつ、後述するとおりキャリア12の強度低下を防止することができる。段差部の高低差は、市販のレーザー顕微鏡を用いて第一面12a上の表面プロファイルを測定及び解析することにより、算出することができる。レーザー顕微鏡を用いた段差部の高低差の好ましい測定条件及び解析条件については後述の実施例に示すものとする。
【0028】
ここで、ブラスト処理の進行に伴うキャリア12の表面プロファイルの変化について
図7A及び7Bを参照しながら説明する。まず、用意したキャリア12の表面に対して、メディアMをブラスト処理により投射すると、メディアMとの衝突によってキャリア12表面にチッピングが発生する(
図7A(i)及び(ii))。そして、メディアMの投射を続けると、このチッピングが徐々に進行してキャリア12の表面プロファイルが変化し(
図7A(iii))、その後、チッピングがキャリア12の加工領域全体に達して表面プロファイルが飽和する(
図7B(iv))。この状態から、さらにメディアMの投射を続けると、キャリア12は飽和した表面プロファイルを維持したまま削られることで、キャリア12の厚みが薄くなり、強度の低下が発生する。この点、段差部の高低差が上記範囲内となるように制御することで、凹凸領域Rとしての所望の機能を発揮しつつ、キャリア12が薄くなり過ぎることによる強度低下を防止することが可能となる。
【0029】
キャリア12は、上記所定範囲内のSdrを有する(又は加工によりSdrを制御できる)かぎり、その材質は特に限定されないが、好ましくはガラス、シリコン又は金属で構成され、より好ましくはSiO2を含むガラス基板、又はシリコン基板である。シリコン基板としては、元素としてSiを含むものであればどのような基板でもよく、SiO2基板、SiN基板、Si単結晶基板、Si多結晶基板等が適用できるが、好ましくはSi単結晶基板又はSi多結晶基板である。キャリア12を構成する金属の好ましい例としては、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、アルミニウム等が挙げられる。キャリア12の形態はシート、フィルム及び板のいずれであってもよい。また、キャリア12はこれらのシート、フィルム及び板等が積層されたものであってもよい。例えば、キャリア12は、SiO2基板、Si単結晶基板、ガラス板等の剛性を有する支持体として機能し得るものであることが好ましい。より好ましくは、加熱を伴うプロセスにおけるキャリア付金属箔10の反り防止の観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満(典型的には1.0ppm/K以上23ppm/K以下)のSi単結晶基板又はガラス板である。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、キャリア12のマイクロビッカース硬さは500HV以上3000HV以下であるのが好ましく、より好ましくは600HV以上2000HV以下である。ガラスをキャリアとして用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛性が高く表面が平坦なため、金属層18の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、キャリアがガラスである場合、配線層を形成した後、画像検査を行う際に視認性に優れる点、電子素子搭載時に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、プリント配線板製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点、キャリア付金属箔10からキャリア12を剥離する際に化学的分離法が採用できる点等の利点がある。キャリア12はSiO2を含むガラス基板であることが好ましく、より好ましくはSiO2を50重量%以上、さらに好ましくはSiO2を60重量%以上含むガラスである。キャリア12を構成するガラスの好ましい例としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、及びそれらの組合せであり、特に好ましくは無アルカリガラス、ソーダライムガラス、及びそれらの組合せであり、最も好ましくは無アルカリガラスである。キャリア12がホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス又はソーダライムガラスで構成されることが、キャリア付金属箔10を切断する際にキャリア12のチッピングを少なくすることができるため好ましい。無アルカリガラスとは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、及び酸化カルシウムや酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物を主成分とし、更にホウ酸を含有する、アルカリ金属を実質的に含有しないガラスのことである。この無アルカリガラスは、0℃から350℃までの広い温度帯域において熱膨脹係数が3ppm/K以上5ppm/K以下の範囲で低く安定しているため、加熱を伴うプロセスにおけるガラスの反りを最小限にできるとの利点がある。シリコンを含む基板をキャリア12として用いた場合、ガラスと同様に軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層18の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、キャリア12がシリコンを含む基板である場合、微細回路形成に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、配線製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点、キャリア付金属箔10からキャリア12を剥離する際に化学的分離法が採用できる点等の利点がある。キャリア12の厚さは100μm以上2000μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以上1800μm以下、さらに好ましくは400μm以上1100μm以下である。キャリア12がこのような範囲内の厚さであると、ハンドリングに支障を来さない適切な強度を確保しながらプリント配線板の薄型化、及び電子部品搭載時に生じる反りの低減を実現することができる。
【0030】
所望により設けられる中間層14は、キャリア12と剥離層16の間に介在して、キャリア12と剥離層16との密着性の確保に寄与する層である。中間層14を構成する金属の例としてはCu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Mo及びそれらの組合せ(以下、金属Mという)が挙げられ、好ましくはCu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、Mo及びそれらの組合せ、より好ましくはCu、Ti、Zr、Al、Cr、W、Ni、Mo及びそれらの組合せ、さらに好ましくはCu、Ti、Al、Cr、Ni、Mo及びそれらの組合せ、特に好ましくはCu、Ti、Al、Ni及びそれらの組合せが挙げられる。中間層14は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。中間層14を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、中間層14の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。中間層14は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。中間層14は金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性の観点で特に好ましい。中間層14の厚さは10nm以上1000nm以下であるのが好ましく、より好ましくは30nm以上800nm以下、さらに好ましくは60nm以上600nm以下、特に好ましくは100nm以上400nm以下である。こうした厚さとすることにより、キャリアと同等の粗度を有する中間層とすることが可能となる。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0031】
中間層14は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。中間層14が1層構成である場合、中間層14はCu、Al、Ti、Ni又はそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)で構成される金属を含有する層からなるのが好ましく、より好ましくはAl、Ti、又はそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)であり、さらに好ましくは主としてAlを含有する層又は主としてTiを含有する層である。一方、キャリア12との密着性が十分高いとはいえない金属又は合金を中間層14に採用する場合は、
図1に示すように中間層14をキャリア12から近い順に第1中間層14a及び第2中間層14bの2層構成とすることが好ましい。すなわち、キャリア12との密着性に優れる金属(例えばTi)又は合金で構成した層を第1中間層14aとしてキャリア12に隣接させて設け、かつ、キャリア12との密着性に劣る金属(例えばCu)又は合金で構成した層を第2中間層14bとして剥離層16に隣接させて設けることで、キャリア12との密着性を向上することができる。したがって、中間層14の好ましい2層構成の例としては、キャリア12に隣接するTi含有層と、剥離層16に隣接するCu含有層とからなる積層構造が挙げられる。また、2層構成の各層の構成元素や厚みのバランスを変えると、剥離強度も変わるため、各層の構成元素や厚みを適宜調整するのが好ましい。なお、本明細書において「金属M含有層」の範疇には、キャリアの剥離性を損なわない範囲において、金属M以外の元素を含む合金も含まれるものとする。したがって、中間層14は主として金属Mを含む層ともいうことができる。上記の点から、中間層14における金属Mの含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましく、より好ましくは60原子%以上100原子%以下、さらに好ましくは70原子%以上100原子%以下、特に好ましくは80原子%以上100原子%以下、最も好ましくは90原子%以上100原子%以下である。
【0032】
中間層14を合金で構成する場合、好ましい合金の例としてはNi合金が挙げられる。Ni合金はNi含有率が45重量%以上98重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは55重量%以上90重量%以下、さらに好ましくは65重量%以上85重量%以下である。好ましいNi合金は、Niと、Cr、W、Ta、Co、Cu、Ti、Zr、Si、C、Nd、Nb及びLaからなる群から選択される少なくとも1種との合金であり、より好ましくはNiと、Cr、W、Cu及びSiからなる群から選択される少なくとも1種との合金である。中間層14をNi合金層とする場合、Ni合金ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性の観点で特に好ましい。
【0033】
剥離層16はキャリア12、及び存在する場合には中間層14の剥離を可能ないし容易とする層である。剥離層16は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよく、レーザーにより剥離する方法(レーザーリフトオフ、LLO)により剥離が可能となるものでもよい。剥離層16がレーザーリフトオフにより剥離が可能となる材質で構成される場合、剥離層16は硬化後のレーザー光線照射により界面の接着強度が低下する樹脂で構成されてもよく、あるいはレーザー光線照射により改質がされるケイ素や炭化ケイ素などの層であってもよい。剥離層16が有機剥離層の場合に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn、Cu、Al、Nb、Zr、Ta、Ag、In、Sn、Gaの少なくとも一種類以上を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物、又は炭素層等が挙げられる。これらの中でも特に、剥離層16は、炭素含有層、すなわち主として炭素を含んでなる層であるのが剥離容易性や膜形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、さらに好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボンからなる層である。この場合、剥離層16(すなわち炭素含有層)はXPSにより測定される炭素濃度が60原子%以上であるのが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下が現実的である。剥離層16は不可避不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、水素等)を含みうる。また、剥離層16には機能層17又は金属層18の成膜手法に起因して、剥離層16として含有された金属以外の種類の金属原子が混入しうる。剥離層16として炭素含有層を用いた場合には、キャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、金属層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。この剥離層16もスパッタリング等の気相法により形成された層であるのが剥離層16中の過度な不純物を抑制する点、所望により設けられる中間層14の成膜との連続生産性の点などから好ましい。剥離層16として炭素含有層を用いた場合の厚さは1nm以上20nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上10nm以下である。こうした厚さとすることにより、キャリアと同等の粗度を有し、剥離機能を具備した剥離層とすることが可能となる。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0034】
剥離層16は、金属酸化物層及び炭素含有層のそれぞれの層を含むか、又は金属酸化物及び炭素の双方を含む層であってもよい。特に、キャリア付金属箔10が中間層14を含む場合、炭素含有層がキャリア12の安定的な剥離に寄与するとともに、金属酸化物層が中間層14及び金属層18に由来する金属元素の加熱に伴う拡散を抑制することができ、結果として例えば350℃以上もの高温で加熱された後においても、安定した剥離性を保持することが可能となる。金属酸化物層はCu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Mo又はそれらの組合せで構成される金属の酸化物を含む層であるのが好ましい。金属酸化物層は金属ターゲットを用い、酸化性雰囲気下でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法により形成された層であるのが、成膜時間の調整によって膜厚を容易に制御可能な点から特に好ましい。金属酸化物層の厚さは0.1nm以上100nm以下であるのが好ましい。金属酸化物層の厚さの上限値としては、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは30nm以下、特に好ましくは10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。このとき、剥離層16として金属酸化物層及び炭素層が積層される順は特に限定されない。また、剥離層16は、金属酸化物層及び炭素含有層の境界が明瞭には特定されない混相(すなわち金属酸化物及び炭素の双方を含む層)の状態で存在していてもよい。
【0035】
同様に、高温での熱処理後においても安定した剥離性を保持する観点から、剥離層16は、金属層18に隣接する側の面がフッ化処理面及び/又は窒化処理面である金属含有層であってもよい。金属含有層にはフッ素の含有量及び窒素の含有量の和が1.0原子%以上である領域(以下、「(F+N)領域」と称する)が10nm以上の厚さにわたって存在するのが好ましく、(F+N)領域は金属含有層の金属層18側に存在するのが好ましい。(F+N)領域の厚さ(SiO2換算)は、XPSを用いてキャリア付金属箔10の深さ方向元素分析を行うことにより特定される値とする。フッ化処理面ないし窒化処理面は、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive ion etching)、又は反応性スパッタリング法により好ましく形成することができる。一方、金属含有層に含まれる金属元素は、負の標準電極電位を有するのが好ましい。金属含有層に含まれる金属元素の好ましい例としては、Cu、Ag、Sn、Zn、Ti、Al、Nb、Zr、W、Ta、Mo及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられる。金属含有層における金属元素の含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましい。金属含有層は1層から構成される単層であってもよく、2層以上から構成される多層であってもよい。金属含有層全体の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上500nm以下、さらに好ましくは50nm以上400nm以下、特に好ましくは100nm以上300nm以下である。金属含有層自体の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0036】
あるいは、剥離層16は、炭素層等に代えて、金属酸窒化物含有層であってもよい。金属酸窒化物含有層のキャリア12と反対側(すなわち金属層18側)の表面は、TaON、NiON、TiON、NiWON及びMoONからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸窒化物を含むのが好ましい。また、キャリア12と金属層18との密着性を確保する点から、金属酸窒化物含有層のキャリア12側の表面は、Cu、Ti、Ta、Cr、Ni、Al、Mo、Zn、W、TiN及びTaNからなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。こうすることで、金属層18表面の異物粒子数を抑制して回路形成性を向上し、かつ、高温で長時間加熱された後においても、安定した剥離強度を保持することが可能となる。金属酸窒化物含有層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは20nm以上200nm以下、特に好ましくは30nm以上100nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0037】
所望により剥離層16と金属層18との間に機能層17が設けられてもよい。機能層17はキャリア付金属箔10に、エッチングストッパー機能や反射防止機能等の所望の機能を付与するものであれば特に限定されない。機能層17を構成する金属の好ましい例としては、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、Mo及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはTi、Zr、Al、Cr、W、Ni、Mo及びそれらの組合せ、さらに好ましくはTi、Al、Cr、Ni、Mo及びそれらの組合せ、特に好ましくはTi、Mo及びそれらの組合せである。これらの元素は、フラッシュエッチング液(例えば銅フラッシュエッチング液)に対して溶解しないという性質を有し、その結果、フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。したがって、機能層17は、金属層18よりもフラッシュエッチング液によってエッチングされにくい層となり、それ故エッチングストッパー層として機能しうる。また、機能層17を構成する上述の金属は光の反射を防止する機能も有するため、機能層17は、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))において視認性を向上させるための反射防止層としても機能しうる。機能層17は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。機能層17を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。機能層17は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。機能層17の厚さは1nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは30nm以上300nm以下、特に好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0038】
金属層18は金属で構成される層である。金属層を構成する金属の好ましい例としては、Cu、Au、Pt及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくはCu合金又はCuである。金属層18を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。金属層18は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解金属めっき法及び電解金属めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した金属層であってよい。特に好ましくは、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法により形成された金属層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された金属層である。また、金属層18は、無粗化の金属層であるのが好ましいが、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。上述したようなファインピッチ化に対応する観点から、金属層18の厚さは0.01μm以上4.0μm以下であり、好ましくは0.02μm以上3.0μm以下、より好ましくは0.05μm以上2.5μm以下、さらに好ましくは0.10μm以上2.0μm以下、特に好ましくは0.20μm以上1.5μm以下、最も好ましくは0.30μm以上1.2μm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。このような範囲内の厚さの金属層18はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性の維持や、シート状やロール状での生産性向上の観点で好ましい。
【0039】
金属層18の第一面12a上の最外面は、キャリア12の平坦領域Fの表面形状に対応した平坦形状と、キャリア12の凹凸領域Rの表面形状に対応した凹凸形状とを有するのが好ましい。すなわち、
図1に示されるように、平坦領域F及び凹凸領域Rを有するキャリア12上に中間層14(存在する場合)、剥離層16、機能層17(存在する場合)を介して金属層18が形成されることで、キャリア12の平坦領域F及び凹凸領域Rの表面プロファイルが各層の表面にそれぞれ転写される。こうして、剥離層16の一部に凹凸形状が転写されつつ、金属層18の最外面にキャリア12の各領域の形状に対応した望ましい表面プロファイルが付与されるのが好ましい。こうすることで、キャリア付金属箔10を切断した場合における金属層18の剥がれをより一層防止することができるとともに、ファインピッチ化により一層対応できる。典型的には、金属層18の最外面における、キャリア12の平坦領域Fに対応した平坦形状を有する面(すなわち平坦面)は、界面の展開面積比Sdrが5%未満であり、好ましくは0.01%以上4.0%以下、より好ましくは0.03%以上3.0%以下、さらに好ましくは0.05%以上1.0%以下、特に好ましくは0.08%以上0.50%以下である。また、金属層18の最外面における、キャリア12の凹凸領域Rに対応した凹凸形状を有する面(すなわち凹凸面)は、界面の展開面積比Sdrが典型的には3%以上39%以下であり、好ましくは3.5%以上35%以下、より好ましくは4.0%以上30%以下、さらに好ましくは4.5%以上25%以下、特に好ましくは5%以上15%以下である。
【0040】
金属層18は、キャリアの側面部12cの少なくとも一部が被覆されるように、キャリアの第一面12aから側面部12cまで延在している。キャリアの側面部12cは、その全域にわたって金属層18で被覆されていることが好ましい。いずれにしても、上述したとおり凹凸領域Rは、側面部12cの金属層18で被覆された領域を包含する。所望により、機能層17、剥離層16及び/又は中間層14もキャリアの第一面12aから側面部12cまで延在していてもよい。剥離層16が側面部12cまで延在する場合、金属層18(及び所望により機能層17)は、剥離層16を覆うように側面部12cに延在しているのが剥離層16の端部からの薬液浸入を効果的に抑制する観点から好ましい。なお、上述した中間層14、剥離層16、機能層17及び金属層18の各層の厚さは、第一面12a上に設けられた各層の厚さを意味するものとする。すなわち、側面部12c上に設けられた各層の厚さは、上述した厚さ範囲から逸脱していてもよい。例えば、側面部12cに設けられた金属層18の厚さが0.01μm以上4.0μm以下の範囲から逸脱することは許容される。側面部12c上における金属層18の厚さは特に限定されるものではないが、典型的には0.02μm以上3μm以下であり、より典型的には0.04μm以上2μm以下、さらに典型的には0.05μm以上0.8μm以下である。
【0041】
中間層14(存在する場合)、剥離層16、機能層17(存在する場合)及び金属層18はいずれも物理気相堆積(PVD)膜、すなわち物理気相堆積(PVD)法により形成された膜であるのが好ましく、より好ましくはスパッタ膜、すなわちスパッタリング法により形成された膜である。
【0042】
キャリア付金属箔10全体の厚さは特に限定されないが、好ましくは500μm以上3000μm以下、より好ましくは700μm以上2500μm以下、さらに好ましくは900μm以上2000μm以下、特に好ましくは1000μm以上1700μm以下である。キャリア付金属箔10のサイズは特に限定されないが、好ましくは10cm角以上、より好ましくは20cm角以上、さらに好ましくは25cm角以上である。キャリア付金属箔10のサイズの上限は特に限定されないが、1000cm角が上限の1つの目安として挙げられる。また、キャリア付金属箔10は、配線の形成前後において、それ自体単独でハンドリング可能な形態である。
【0043】
所望により、キャリア付金属箔10は、金属層18上に再配線層20をさらに有していてもよい。本明細書において、再配線層(Redistribution Layer)とは、絶縁層と当該絶縁層の内部及び/又は表面に形成された配線層とを含む層を意味する。キャリア付金属箔10を平面視した場合に、再配線層20の少なくとも一部がキャリア12の端部(第一面12a及び側面部12cの境界部分)に達しているのが好ましく、再配線層20の周辺部全域がキャリア12の端部に達しているのがさらに好ましい。また、
図1に示されるように、再配線層20の端部(典型的には絶縁層)の少なくとも一部が凹凸領域R上に位置するのが好ましく、再配線層20の周辺部全域が凹凸領域R上に位置するのがさらに好ましい。こうすることで、金属層18と再配線層20との密着性を向上することができる。その結果、再配線層20形成中及び形成後に薬液を用いるプロセスにおいて、金属層18及び再配線層20間への薬液の浸入が抑制され、両層間での意図せぬ剥離も効果的に防止することができる。
図1に示されるように、キャリア付金属箔10を断面視した場合に、再配線層20の周辺部と凹凸領域Rとが重複する長さ(凹凸領域R上に位置する再配線層20の幅)は0.1mm以上50mm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2mm以上45mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上40mm以下、さらにより好ましくは1.0mm以上40mm以下、特に好ましくは1.5mm以上40mm以下、特により好ましくは2.0mm以上40mm以下、最も好ましくは2.5mm以上35mm以下である。
【0044】
キャリア付金属箔10は、キャリア12の両面に上下対称となるように上述の各種層を順に備えてなる構成としてもよい。すなわち、キャリア付金属箔10は、キャリアの第二面12bに設けられる第2剥離層と、第2剥離層上に設けられる厚さ0.01μm以上4.0μm以下の第2金属層とを更に備えるものであってもよい。この場合、キャリアの側面部12cの少なくとも一部が第2金属層で被覆されるように、第2金属層がキャリアの第二面12bから側面部12cまで延在しているのが好ましい。そして、キャリア12は、第二面12bに上述した凹凸領域Rをさらに有し、凹凸領域Rが側面部12cの第2金属層で被覆された領域を包含するのが好ましい。また、キャリア付金属箔10は、キャリアの第二面12bと第2剥離層との間に追加中間層をさらに有していてもよく、第2剥離層と第2金属層との間に第2機能層をさらに有していてもよい。キャリア付金属箔10は、第2金属層上に第2再配線層をさらに有していてもよい。上述したキャリアの第一面12a、中間層14、剥離層16、機能層17、金属層18及び再配線層20に関する好ましい態様は、キャリアの第二面12b、追加中間層、第2剥離層、第2機能層、第2金属層及び第2再配線層の各々にもそのまま当てはまる。キャリアの第二面12b上に設けられる各種層の形成は、キャリアの第一面12aから第二面12bにかけて連続的に成膜することにより行ってもよい。つまり、中間層14と追加中間層、剥離層16と第2剥離層、機能層17と第2機能層、及び/又は金属層18と第2金属層は、キャリアの側面部12cを介して互いに繋がっていてもよい。
【0045】
キャリア付金属箔の製造方法
本発明のキャリア付金属箔10は、(1)キャリアを用意し、(2)キャリアの少なくとも側面部に粗化処理を行い、(3)キャリア上に剥離層、金属層等の各種層を形成し、(4)所望により金属層上に再配線層を形成することにより製造することができる。
【0046】
(1)キャリアの用意
まず、キャリア12を用意する。このキャリア12は、少なくとも一方の表面におけるSdrが5%未満の平坦面を有するのが好ましい。このSdrは、好ましくは0.01%以上4.0%以下、より好ましくは0.03%以上3.0%以下、さらに好ましくは0.05%以上1.0%以下、特に好ましくは0.07%以上0.50%以下、最も好ましくは0.08%以上0.50%以下である。一般的にSiO2、SiN、Si単結晶、Si多結晶の基板や板状のガラス製品は平坦性に優れるものであることから、上記範囲内のSdrを満たす平坦面を有する市販のSiO2基板、SiN基板、Si単結晶基板、Si多結晶基板、ガラスシート、ガラスフィルム及びガラス板をキャリア12として用いてもよい。あるいは、上記Sdrを満たさないキャリア12表面に公知の手法で研磨加工を施すことで上記範囲内のSdrを付与してもよい。キャリア12の好ましい材質や特性については上述したとおりである。
【0047】
(2)キャリア表面の粗化処理
次に、キャリアの少なくとも側面部12cに粗化処理を行って、Sdrが3%以上39%以下である凹凸領域Rを形成する。このSdrは、好ましくは3.5%以上35%以下、より好ましくは4.0%以上30%以下、さらに好ましくは4.5%以上25%以下、特に好ましくは5%以上15%以下である。また、側面部12cの粗化処理に加えて、凹凸領域Rがキャリアの第一面12a上の平坦面を取り囲むように、キャリアの第一面12aの所定領域に粗化処理を行うのが好ましい。粗化処理は公知の手法に従って行えばよく、上記範囲内のSdrを実現でき、かつ、(必要に応じてマスキングを併用して)所望のパターンで凹凸領域Rを形成することが出来る限り特に限定されない。好ましい粗化処理の手法は、所望のSdrの凹凸領域Rを効率良く形成可能な点でブラスト処理又はエッチング処理であり、より好ましくはブラスト処理である。
【0048】
ブラスト処理による粗化処理は、キャリアの側面部12c及び/又は第一面12aの所定領域(すなわち凹凸領域Rが形成されるべき領域)に対して粒子状のメディアM(投射材)をノズルから投射することにより行うことができる。好ましいノズルの大きさは、吐出口が矩形の場合には幅0.1mm以上20mm以下及び長さ100mm以上1000mm以下であり、より好ましくは幅3mm以上15mm以下及び長さ200mm以上800mm以下である。一方、吐出口が円形の場合には、好ましいノズルの大きさは、径0.2mm以上50mm以下、より好ましくは径3mm以上20mm以下である。メディアの粒径は7μm以上50μm以下であるのが好ましく、より好ましくは8μm以上35μm以下である。メディアの材質の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、鉄、アルミ、亜鉛、ガラス、スチール及びボロンカーバイトが挙げられる。メディアのモース硬度は4以上が好ましく、より好ましくは5.5以上、さらに好ましくは6.0以上である。特にこうしたメディアを用いることにより、キャリア12の表面に所望のSdrが上記範囲内に制御された凹凸領域Rを形成することが可能となる。好ましいメディアの吐出圧力は0.01MPa以上0.80MPa以下であり、より好ましくは0.1MPa以上0.50MPa以下、さらに好ましくは0.15MPa以上0.25MPa以下である。また、キャリア12に対する単位面積当たりのブラスト処理時間は0.03秒/cm2以上10秒/cm2以下であるのが好ましく、より好ましくは0.1秒/cm2以上5秒/cm2以下である。特に、メディアを水と混合させてスラリーの形態とし、このスラリーを加圧エアによってノズルから吐出させることでブラスト処理を行うのが、キャリア12の表面にSdrが上記範囲内に制御された凹凸領域Rを形成しやすくなる点で好ましい。また、上述した条件で粗化処理(ブラスト処理)を行うことで、粗化処理後のキャリアの強度低下をより効果的に抑制することができる。
【0049】
一方、エッチング処理による粗化処理の好ましい例としては、フッ酸(フッ化水素酸)を含む溶液を用いたウエットプロセス、及びフッ素を含むプロセスガス(例えばCF4やSF6等)を用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive ion etching)によるドライプロセスが挙げられる。
【0050】
所望の領域に選択的に粗化処理(特にブラスト処理又はエッチング処理)を行うために、マスキングを用いるのが好ましい。具体的には、粗化処理の前に、キャリアの側面部12c及び/又は第一面12aの所定の領域(すなわち凹凸領域Rが形成されるべき領域)以外の部分にマスキング層を形成するのが好ましい。この場合、後工程である各種層の形成をより円滑に行えるよう、粗化処理後に、マスキング層を除去することが望まれる。
【0051】
(3)キャリア上への各種層の形成
粗化処理を行ったキャリアの第一面12a上に、所望により中間層14、剥離層16、所望により機能層17、及び厚さ0.01μm以上4.0μm以下の金属層18を形成する。中間層14(存在する場合)、剥離層16、機能層17(存在する場合)及び金属層18の各層の形成は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、物理気相堆積(PVD)法により行われるのが好ましい。物理気相堆積(PVD)法の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法が挙げられるが、0.05nm以上5000nm以下といった幅広い範囲で膜厚制御できる点、広い幅ないし面積にわたって膜厚均一性を確保できる点等から、最も好ましくはスパッタリング法である。特に、中間層14(存在する場合)、剥離層16、機能層17(存在する場合)及び金属層18の全ての層をスパッタリング法により形成することで、製造効率が格段に高くなる。物理気相堆積(PVD)法による成膜は公知の気相成膜装置を用いて公知の条件に従って行えばよく特に限定されない。例えば、特許文献7(国際公開第2019/163605号)に開示される物理気相堆積(PVD)法による各種層の成膜条件をそのまま採用する、あるいは適宜変更することにより行うことができる。スパッタリング法を採用する場合、スパッタリング方式は、マグネトロンスパッタリング、2極スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法等、公知の種々の方法であってよいが、マグネトロンスパッタリングが、成膜速度が速く生産性が高い点で好ましい。スパッタリングはDC(直流)及びRF(高周波)のいずれの電源で行ってもよい。また、ターゲット形状も広く知られているプレート型ターゲットを使用することができるが、ターゲット使用効率の観点から円筒形ターゲットを用いることが望ましい。
【0052】
(4)再配線層の形成(任意工程)
所望によりキャリア付金属箔10の金属層18上に再配線層20を形成してもよい。再配線層20の形成は、公知の手法によって行えばよく、特に限定されない。例えば、コアレスビルドアップ法により絶縁層と配線層とを交互に積層して多層化することで再配線層20を好ましく形成することができる。
【0053】
再配線層20を形成した後、キャリア付金属箔10に対してチップの実装及びモールド樹脂による封止を行ってもよい。チップ実装及び樹脂封止は公知の手法によって行えばよく、特に限定されない。また、樹脂封止後にキャリア12(及び存在する場合には中間層14)の剥離を行ってもよく、剥離後に露出した金属層18(及び存在する場合には機能層17)をエッチングにより除去してもよい。キャリア12の剥離は、以下のようにして行ってもよい。まず、キャリア付金属箔10のキャリア12と反対側(典型的にはモールド樹脂側)の面から厚さ方向に向かって切込みを入れて、キャリア12を除く各種層を中央部(チップを含む部分)と周縁部とに区画する。その後、中央部を固定した状態で、押圧部材等を用いて周縁部を押し下げる等して、金属層18及び再配線層20を含む中央部をキャリア12から引き剥がす。こうすることで、キャリア12の剥離を容易に行うことができる。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0055】
例A1~A11
図1に示されるように、キャリア12としてガラス製又は単結晶シリコン製のキャリアを準備した。このキャリア上に凹凸領域Rを形成した後、第1中間層14a、第2中間層14b、剥離層16、機能層17、及び金属層18をこの順に成膜してキャリア付金属箔10を作製した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0056】
なお、以下の例において言及されるSdrはISO25178に準拠してレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、LEXT OLS5000)で測定された値である。具体的には、測定対象の表面における258.346μm×258.348μmの領域の表面プロファイルを、上記レーザー顕微鏡にて50倍の対物レンズを用いて測定した。得られた表面プロファイルに対して解析ソフトウェア(オリンパス株式会社製、LEXT OLS5100 解析アプリケーション)を用いた表面性状解析によりSdrを算出した。このとき、Sフィルターによるカットオフ波長を0.8μmとし、Lフィルターによるカットオフは行わなかった。
【0057】
(1)キャリアの用意
対向する第一面12a及び第二面12b、並びにこれらを接続する曲面形状の側面部12cを有する直径300mmで厚さ1.1mmの円板状のキャリア12を用意した。このキャリア12の種類は、例A1~A4及びA9~A11についてはガラスキャリア(ソーダライムガラス、セントラル硝子株式会社製、第一面12aにおけるSdr:0.10%)とし、例A5~A8については単結晶シリコンキャリア(株式会社トリニティ製、第一面12aにおけるSdr:0.10%)とした。
【0058】
(2)キャリアの粗化処理
キャリアの第一面12aにマスキング層を、第一面12aの周囲(幅1mm)以外の部分を覆うように形成した。このマスキング層の形成は、カッティングプロッターを用いてカッティングシート(リンテック株式会社製、PVC100M M11K)を直径298mmに切断し、切断したカッティングシートを、カッティングシート及びキャリアの中心が重なるようにキャリアの第一面12aに積層することにより行った。次に、ブラスト装置(株式会社不二製作所製、品番:SCM-4RBT-05-401)を用いて、マスキング層で部分的に被覆されたキャリアの第一面12a及び側面部12cに対して、例A1~A10それぞれについて表1に示される平均粒径D50のメディア(株式会社不二製作所製、白色溶融アルミナ)を、吐出圧力0.4MPaの条件で投射することで、キャリア12の粗化処理を行った。このとき、キャリア12に対する単位面積当たりのブラスト処理時間は0.33秒/cm2とした。また、側面部12cの粗化処理は、第一面12aから第二面12bに向かって厚さ方向に0.6mmまでの範囲とし、側面部12cの全周にわたって粗化処理を行った。こうして、キャリアの側面部12cから第一面12aの周囲まで凹凸領域Rを連続的に形成した。その後、マスキング層を除去して平坦領域Fを露出させた。粗化処理後のキャリア12における凹凸領域RのSdrは表1に示されるとおりであった。なお、例A11についてはキャリア12の粗化処理を行わなかった。
【0059】
(3)第1中間層の形成
キャリアの第一面12a及び側面部12cに、第1中間層14aとして厚さ100nmのTi層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:枚葉式マグネトロンスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のTiターゲット(純度99.999%)
‐ 到達真空度:1×10-4Pa未満
‐ キャリアガス:Ar(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.35Pa
‐ スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm2)
‐ 成膜時温度:40℃
【0060】
(4)第2中間層の形成
第1中間層14aの上に、第2中間層14bとして厚さ100nmのCu層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のCuターゲット(純度99.98%)
‐ 到達真空度:1×10-4Pa未満
‐ キャリアガス:Ar(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.35Pa
‐ スパッタリング電力:1000W(6.2W/cm2)
‐ 成膜時温度:40℃
【0061】
(5)剥離層の形成
第2中間層14bの上に、剥離層16として厚さ6nmのアモルファスカーボン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の炭素ターゲット(純度99.999%)
‐ 到達真空度:1×10-4Pa未満
‐ キャリアガス:Ar(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.35Pa
‐ スパッタリング電力:250W(0.7W/cm2)
‐ 成膜時温度:40℃
【0062】
(6)機能層の形成
剥離層16の表面に、機能層17として厚さ100nmのTi層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のTiターゲット(純度99.999%)
‐ キャリアガス:Ar(流量:100sccm)
‐ 到達真空度:1×10-4Pa未満
‐ スパッタリング圧:0.35Pa
‐ スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm2)
【0063】
(7)金属層の形成
機能層17の上に、金属層18として厚さ300nmのCu層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成して、キャリア付金属箔10を得た。このとき、金属層18をキャリアの側面部12c及び剥離層16を被覆するように形成した。
‐ 装置:枚葉式DCスパッタリング装置(キヤノントッキ株式会社製、MLS464)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のCuターゲット(純度99.98%)
‐ 到達真空度:1×10-4Pa未満
‐ キャリアガス:Ar(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.35Pa
‐ スパッタリング電力:1000W(3.1W/cm2)
‐ 成膜時温度:40℃
【0064】
(8)凹凸領域の剥離強度の測定
マスキング層の形成を行わなかったこと及び側面部12cの粗化処理を行わなかったこと以外は上記(1)~(7)と同様にして、第一面12aの全域が凹凸領域であるキャリア付金属箔を作製した。このキャリア付金属箔の金属層側に電解メッキによりCuを18μm積層し、測定サンプルを得た。この測定サンプルに対して、JIS Z 0237-2009に準拠して、電解メッキしたCu層を剥離した時の剥離強度(gf/cm)を、測定幅10mm、測定長さ17mm、及び剥離速度50mm/分の条件で測定した。こうして測定された凹凸領域の剥離強度は表1に示されるとおりであった。
【0065】
各種評価
例A1~A11で得られたキャリア付金属箔10について、以下に示す各種評価を行った。
【0066】
<段差部の高低差>
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、LEXT OLS5100)を用いて、キャリア付金属箔10における第一面12a上の縦258.346μm×横258.348μmの領域を、凹凸領域R及び平坦領域Fの境界が縦方向と平行となる向きでかつ横方向の中央と一致するように測定した。このとき、対物レンズの倍率は50倍とした。こうして、凹凸領域R及び平坦領域Fの境界付近の断面プロファイルを取得した。この断面プロファイルに対して、解析ソフトウェア(オリンパス株式会社製、LEXT OLS5100 解析アプリケーション)を用いて解析を行うことで、横方向の高さプロファイル(縦0μm~258.346μmの高さが平均化されたもの)を計算した。この横方向の高さプロファイルにおいて、凹凸領域R部分の高さの平均値と平坦領域F部分の高さの平均値との差を計測し、段差部の高低差とした。結果は表1に示されるとおりであった。
【0067】
<再配線層形成プロセスでの剥離>
再配線層形成プロセスでの剥離の有無及び薬液浸入幅を確認した。具体的には、まず、キャリア付金属箔10の金属層18側の表面に絶縁樹脂材料(感光性絶縁材料)を積層し230℃で60分間の熱硬化処理を行うことにより、厚さ10μmの絶縁層を形成した。次いで、キャリア付金属箔10の絶縁層側の表面にTi層及びCu層をこの順にスパッタリングした。Cu層の表面に感光性液体レジストを塗布して、露光及び現像を行い、所定パターンのフォトレジスト層を形成した。このとき、現像液としてTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、東京応化工業株式会社製、NMD-3 2.38%)を使用し、スピンコータによりキャリア付金属箔10の表面に塗布した。その後、Cu層の露出表面(すなわちフォトレジスト層でマスキングされていない部分)にパターン電解銅めっきを行い、電解銅めっき層を形成した後、フォトレジスト層を剥離した。このとき、剥離液としてST-120(東京応化工業株式会社製)を使用し、キャリア付金属箔10を浸漬させることでレジストを剥離した。その後、露出した銅層及びTi層の不要部分を硫酸-過酸化水素系エッチング液及び過酸化水素系アルカリエッチング液(メルテックス株式会社製、メルストリップTI-3991)でそれぞれ除去することにより、回路厚さ5μmの配線層をCu層上に形成した。その後、絶縁樹脂材料を積層し230℃で60分間の熱硬化処理を行うことにより、厚さ10μmの絶縁層を形成した。次いで、キャリア付金属箔10の絶縁層側の表面にTi層及びCu層をこの順にスパッタリングした。このようにして、再配線層20を形成した。この再配線層20の形成プロセス中に、キャリア12及び金属層18間で自然剥離が発生するか確認を行った。また、再配線層20の断面を光学顕微鏡で観察することにより、プロセス中で使用した薬液の浸入幅を測定し、以下の基準に従って評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
(薬液浸入幅の評価基準)
‐評価A:薬液浸入幅が0.1mm未満(最良)
‐評価B:薬液浸入幅が0.1mm以上0.5mm未満(良)
‐評価C:薬液浸入幅が0.5mm以上(不可)
‐評価F:プロセス中の剥離により測定不可
【0068】
【0069】
例B1~B6
本例はキャリア12をガラスとした場合における界面の展開面積比Sdrと機械強度との関係を検証した実験例である。
【0070】
(1)キャリアの用意
界面の展開面積比Sdrが0.10%の平坦面を有する300mm角で厚さ1.1mmのガラスシート(材質:ソーダライムガラス、日本板硝子株式会社製)を用意した。
【0071】
(2)キャリアの粗化処理
キャリア12表面にマスキング層を、キャリア12の周囲(幅11mm)以外の部分を覆うように形成した。このマスキング層の形成は、カッティングプロッターを用いてカッティングシート(PVC100M M11K リンテック株式会社製)を278mm角に切断し、切断したカッティングシートを、カッティングシート及びキャリアの中心が重なるようにキャリア12表面に積層することにより行った。次に、ブラスト装置(株式会社不二製作所製、品番:SCM-4RBT-05-401)を用いて、マスキング層で部分的に被覆されたキャリア12表面に対して、例B1~B6それぞれについて表2に示される平均粒径D50のメディア(株式会社不二製作所製、白色溶融アルミナ)を、表2に示される吐出圧力で投射することで、キャリア12の露出部分に対して粗化処理を行った。こうして、キャリア12の周囲(幅11mm)に凹凸領域Rを形成した。その後、マスキング層を除去して平坦領域Fを露出させた。こうしてキャリア12表面に対して凹凸領域Rを形成した。その後、マスキング層を除去して平坦領域Fを露出させた。粗化処理後のキャリア12における凹凸領域RのSdrは表2に示されるとおりであった。
【0072】
例B7(比較)
ガラスキャリアの粗化処理を行うことなく、例B1~B6で用意したものと同様のガラスシートをそのままキャリア12として用いた。
【0073】
評価
例B1~B7のキャリア12について、万能材料試験器(Instron社製、品番:5985)を用いて破壊荷重の計測を行った。すなわち、
図8A及び8Bに示されるように、直径280mmの仮想円に等間隔で配置された8点の支持部材S(機械構造用炭素鋼S45C製、焼入硬度:50HRC、接触部分の曲率半径:5mm)上にキャリア12を載置した。そして、押圧部材P(高炭素クロム軸受鋼SUJ2製、焼入硬度:67HRC、接触部分の曲率半径:15mm)を
図8A中の矢印方向に移動させて、キャリア12の中心部分に押し当てることで、キャリア12を破壊した。この計測を各例につき10枚のキャリア12に対して行った。得られた計測データから、ワイブルプロット(X軸:破壊荷重(N)、Y軸:累積破壊確率(%))を作成し、平均破壊荷重、10%破壊荷重(B10)及び形状母数を算出した。結果は表2に示されるとおりであった。なお、表2には、未処理のガラスキャリア(例B7)の破壊荷重に対する、粗化処理後のガラスキャリア(例B1~B6)の破壊荷重の百分率も併せて示してある。
【0074】
【要約】
端部からの薬液浸入に起因する金属層の意図せぬ剥離を抑制可能な、キャリア付金属箔が提供される。このキャリア付銅箔は、互いに対向する第一面及び第二面、並びに第一面及び第二面に接続する側面部を有するキャリアと、キャリアの第一面に設けられる剥離層と、剥離層上に設けられる、厚さ0.01μm以上4.0μm以下の金属層とを備える。側面部の少なくとも一部が金属層で被覆されるように、金属層がキャリアの第一面から側面部まで延在している。キャリアは、側面部、又は側面部及び第一面に、ISO25178に準拠して測定される界面の展開面積比Sdrが3%以上39%以下である凹凸領域を有し、凹凸領域が側面部の金属層で被覆された領域を包含する。