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  • 特許-多結晶SiC成形体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】多結晶SiC成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/32 20060101AFI20240129BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C23C16/32
C30B29/36 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023542562
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005209
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022034205
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】飯田 卓志
(72)【発明者】
【氏名】神藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】大石 昇平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 裕次
(72)【発明者】
【氏名】屋敷田 励子
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090421(JP,A)
【文献】特開2021-054668(JP,A)
【文献】特開2021-054666(JP,A)
【文献】特開2021-054667(JP,A)
【文献】特開2018-035009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/32
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均結晶粒径が5μm以下であり、
窒素濃度が、2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)であり、
キャリア密度×ホール移動度の積が、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)である、
多結晶SiC成形体であって、焼結体でない多結晶SiC成形体
【請求項2】
体積抵抗率が、0.020Ω・cm以下である、請求項1に記載の多結晶SiC成形体。
【請求項3】
CVD反応炉内に、基材を配置する工程と、
前記基材を加熱する工程と、
前記CVD反応炉内に、原料ガス及び窒素含有ガスを含む混合ガスを導入し、前記加熱された基材上にCVD法によって多結晶SiC膜を成膜する工程と、
を備え、
前記成膜する工程は、前記混合ガスが前記CVD反応炉内に導入されてから前記基材に到達するまでの時間を表す到達時間τが1.6~6.7秒となるような条件で、実施される、
請求項1または2に記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成膜する工程は、成膜速度が400~1300μm/hrとなるような条件で、実施される、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶SiC成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶SiC(炭化ケイ素)成形体は、機械強度特性、電気特性、耐熱性、化学安定性などに優れ、様々な産業用途で使用されている。例えば、SiC成形体は、高温雰囲気、且つ高純度雰囲気において使用される。一般的な用途として、ダミーウェハや、半導体製造装置を構成する部材といった半導体製造装置用部材などが挙げられる。
【0003】
たとえば、半導体製造装置用部材としての多結晶SiC成形体は、一般に円板状である。多結晶SiC成形体はCVD膜の成長方向を主面とし、円板状の成形体であれば側面を除く表面乃至裏面が主面となる。多結晶SiC成形体の厚みは成膜時間によって変動し、任意の厚みに形成しうる。円板の直径は100~300mm程度のものが知られる。
また、半導体製造装置用部材としての多結晶SiC成形体は、棒状の基材に対して成膜することで、筒状の成形体も好適に用いられる。この際の多結晶SiC成形体はCVD膜の成長方向を主面とし、筒状の成形体であれば筒の表面乃至内面が主面となる。多結晶SiC成形体の厚みは成膜時間によって変動し、任意の厚みに形成しうる。筒の直径は5~700mm程度のものが知られる。
【0004】
特定の抵抗率を有するSiC成形体に関して、特許文献1(特許4595153号)には、CVD法により得られた炭化ケイ素体であって、窒素元素の含有量が0.1~100ppmであり、ケイ素以外の金属元素の含有量が10ppm以下であり、比抵抗が0.01~10Ω・cmであり、比抵抗のバラツキが10%以下であることを特徴とする半導体製造部材用炭化ケイ素体が記載されている。その具体例としては、比抵抗が0.1~5Ω・cmである炭化ケイ素体が開示されている。
【0005】
特許文献2(特開2001-316821号公報)には、0.9Ω・cm未満の電気抵抗率を有する化学蒸着された低抵抗率炭化珪素を含む独立した物品が記載され、具体例として、0.25~0.9Ω・cmの抵抗率を有する炭化珪素堆積物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許4595153号
【文献】特開2001-316821号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、SiC成形体として、結晶粒径が小さい多結晶SiC成形体の需要がある。結晶粒径が小さいことは、一般的な消耗が結晶粒界から優先的に進むことから、消耗の際に発生するパーティクルの低減に繋がるので好ましいと考えられる。また、多結晶SiC成形体において体積抵抗率を低くすることができれば、半導体製造装置用部材の中の、たとえばヒーターなどの用途に好ましいと考えられる。
【0008】
しかしながら、結晶粒径が小さい場合には、キャリアの平均自由工程が小さくなる点や、伝導抵抗成分である粒界の存在量が大きくなる点などから、体積抵抗率の減少にも限界があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、結晶粒径が小さいにもかかわらず、体積抵抗率が小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、検討の結果、下記の手段により、上記課題が解決できることを見出した。
[1]平均結晶粒径が5μm以下であり、窒素濃度が、2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)であり、キャリア密度×ホール移動度の積が、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)である、多結晶SiC成形体。
[2]体積抵抗率が、0.020Ω・cm以下である、[1]に記載の多結晶SiC成形体。
[3]CVD反応炉内に、基材を配置する工程と、前記基材を加熱する工程と、前記CVD反応炉内に、原料ガス及び窒素含有ガスを含む混合ガスを導入し、前記加熱された基材上にCVD法によって多結晶SiC膜を成膜する工程と、を備え、前記成膜する工程は、前記混合ガスが前記CVD反応炉内に導入されてから前記基材に到達するまでの時間を表す到達時間τが1.6~6.7秒となるような条件で、実施される、[1]または[2]に記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
[4]前記成膜する工程は、成膜速度が400~1300μm/hrとなるような条件で、実施される、[3]に記載の製造方法。
[5]前記基材の反応温度が、1300~1400℃である、[3]又は[4]に記載の製造方法。
【0011】
本発明によれば、結晶粒径が小さいのにもかかわらず、体積抵抗率が小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、多結晶SiC成形体の製造システムの一例を示す概略図である。
図2図2は、CVD反応炉の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1:多結晶SiC成形体
本発明の実施形態に係る多結晶SiC成形体は、5μm以下の平均結晶粒径を有し、窒素濃度が、2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)であり、キャリア密度×ホール(Hall)移動度の積が、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)である。このような構成を採用することによって、結晶粒径が小さいのにもかかわらず、十分に体積抵抗率が小さい多結晶SiC成形体を得ることができる。
【0014】
本明細書において、「平均結晶粒径」とは、EBSD(Electron backscatter diffraction)により求められるメジアン粒径(Area法)を意味する。
【0015】
平均結晶粒径が5μm以下である多結晶SiC成形体は、粒径が小さい多結晶SiC成形体であると言える。このような多結晶SiC成形体は、一般に、小さな体積抵抗率を実現することが難しい。しかし、本実施形態によれば、平均結晶粒径が5μm以下であるにもかかわらず、十分に小さな体積抵抗率を得ることができる。
平均結晶粒径は、例えば0.5~5μm、好ましくは1.0~5μmである。
【0016】
本明細書において、「窒素濃度」とは、単位体積当たりの窒素原子の数(個/cm3)を意味する。窒素濃度は、dynamic SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて求められる。
窒素濃度が2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)の範囲にあることにより、十分に小さい体積抵抗率を得ることができる。なお、この窒素濃度は、200~3800ppmに対応する。
このような窒素濃度は、多結晶SiC成形体にドープされる不純物濃度としては極めて大きい値であると言え、通常であれば、固溶限界を超えるような量である。窒素を固溶限界を超えるような量で添加した場合には、SiCとは異なる化合物が生成し、多結晶SiC成形体として求められる機能を発揮し得ない。しかしながら、本実施形態によれば、後述の製造方法により、このような濃度で窒素を含みつつも、窒素を固溶させることができ、多結晶SiC成形体に要求される特性を満たすことができる。このような特性が実現する理由は明確ではないが、たとえば、不純物は一般に粒界に多くたまりやすいため、特性を阻害することなく窒素を多く包含できることによると考えられる。
【0017】
「キャリア濃度×ホール移動度の積」は、「キャリア密度(個/cm3)」と、「ホール移動度(cm2/Vsec)」とから求められる値である。
「キャリア密度×ホール移動度の積」は、体積抵抗率に関連する。本実施形態によれば、「キャリア密度×ホール移動度の積」が、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)であることにより、十分に小さな体積抵抗率を得ることができる。
【0018】
「キャリア密度(個/cm3)」は、SiC成形体にドープされた不純物の濃度を意味する。キャリア密度は、ホール効果測定を用いて求めることができる。
例えば、キャリア密度は、1.0×1019~6.0×1019(個/cm3)である。
【0019】
「ホール移動度(cm2/Vsec)」は、公知のパラメータであり、ホール効果測定を用いて求めることができる。例えば、ホール移動度は、10.0~150(cm2/Vsec)である。
【0020】
本実施形態によれば、多結晶SiC成形体が、例えば0.020Ω・cm以下、好ましくは0.010Ω・cm以下の体積抵抗率を有することができる。また、多結晶SiC成形体は、より好ましくは0.001Ω・cm以下、更に好ましくは0.0005Ω・cm以下の体積抵抗率を有することができる。多結晶SiC成形体の体積抵抗率は、例えば、ロレスターにより測定することができる。
【0021】
好ましい一態様において、多結晶SiC成形体は、3C-SiCである。
【0022】
好ましい一態様において、多結晶SiC成形体は、主面を有する。多結晶SiC成形体は、好ましくは板状であり、より好ましくは円板状である。板状である場合、多結晶SiC成形体の主面とは、側面を除く表面及び裏面を意味する。この場合、多結晶SiC成形体の厚みは、例えば、0.1~5.0mm、好ましくは0.2~3.0mmである。また、円板状である場合の多結晶SiC成形体の直径は、特に限定されないが、例えば100~300mm、好ましくは130~200mmである。
多結晶SiC成形体は、筒状でもよい。筒状である場合、多結晶SiC成形体の主面とは、筒の表面及び内面を意味する。この場合、多結晶SiC成形体の厚みは、例えば、0.1~5.0mm、好ましくは0.2~3.0mmである。
より好ましい一態様において、主面は、0.6以上の(111)ピーク強度比を有する。「(111)ピーク強度比」とは、X線回折パターンにおいて、SiC(111)面、SiC(200)面、SiC(220)面、およびSiC(311)面の回折ピーク強度の合計に対する、SiC(111)の回折ピーク強度の比率を表すパラメータである。なお、主面内の位置の違いにより、(111)ピーク強度比が異なる場合には、平均値が、(111)ピーク強度比として採用される。
すなわち、多結晶SiC成形体は、(111)強配向である。このような結晶構造を有することにより、体積抵抗率が十分小さい多結晶SiC成形体を実現することができる。このような特性が実現する理由は明確ではないが、たとえば、強配向の結晶構造を有することにより、ランダムに配向している構造よりも、キャリアの移動度が大きくなるため体積抵抗率が小さくなると考えられる。
【0023】
2:多結晶SiC成形体の製造方法
上述した特性を有する多結晶SiC成形体は、以下に説明する製造方法において、成膜条件などを調整することにより、得ることができる。以下に、本実施形態に係る多結晶SiC成形体の製造方法について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る多結晶SiC成形体の製造方法に使用される製造システムの一例を示す概略図である。この製造システムには、CVD反応炉1と、混合器2とが設けられている。混合器2では、キャリアガスと、SiCの供給源となる原料ガスと、窒素含有ガスとが混合され、混合ガスが生成される。混合ガスは、流量Qで、混合器2からCVD反応炉1に供給される。CVD反応炉1内には、基材3(例えば黒鉛基板)が配置される。CVD反応炉1において、基材3は、運転時に加熱されるようになっている。基材3は、好ましくは円板形状または棒形状である。また、CVD反応炉1にはノズル4が設けられており、このノズル4を介してCVD反応炉内に混合ガスが導入される。混合ガスがCVD反応炉内に導入されると、CVD法によって、加熱された基材3上に多結晶SiC膜が成膜される。この際、窒素含有ガス由来の窒素が、多結晶SiC膜にドープされる。すなわち、窒素がドープされた多結晶SiC膜が得られる。得られた多結晶SiC膜は、基材3が除去され、必要に応じて研削される。これにより、多結晶SiC成形体が得られる。
【0025】
また、図1に示される例では、ノズル4は複数設けられている。また、基材3が、縦向きに配置される。複数のノズル4は、基材3を挟むように、炉壁の両側に設けられている。図1中、「L」は、各ノズル先端部(原料ガスの噴出口)と基材3との間の距離である。
なお、CVD反応炉1は、必ずしも図1に記載されるような構成である必要はない。図2は、CVD反応炉1の変形例を示す図である。図2に示される例では、複数のノズル4がCVD反応炉1の上部に設けられている。基材3は、横向きに配置される。CVD反応炉1は、図2に記載されるような構成であってもよい。
【0026】
CVD反応炉の実施形態としては、コールドウォール型、ホットウォール型などが考えられる。コールドウォール型のCVD反応炉では、炉壁や炉内雰囲気は直接には加熱されず、基材のみが直接的に加熱される。また、ホットウォール型のCVD反応炉では、炉壁や炉内雰囲気を含む炉全体が加熱される。本実施形態において、コールドウォール型及びホットウォール型いずれによっても得られるSiC成形体の特性に差は見られない。
【0027】
また、本実施形態では、多結晶SiC膜の成膜が、特定の到達時間τで実施される。具体的には、到達時間τが1.6~6.7秒となるような条件で、実施される。
「到達時間τ」とは、混合ガスがCVD反応炉内に導入されてから基材に到達するまでの時間を表す。具体的には、到達時間τは、下記式1に従って、求められる。
(式1)到達時間τ=L/u
【0028】
式1中、「L」は、既述の通り、原料ガス噴出口(ノズル先端部)と基材との間の距離を表す。
【0029】
「u」は、反応炉中における混合ガスの流速を意味する。
「u」(混合ガスの流速)は、「流量(Q)/噴出口断面積(A)」により、求められる。
【0030】
流量「Q」は、図1において説明した通り、混合器と反応炉との間における混合ガスの流量を表す。流量(Q)は、特に限定されないが、例えば10~150L/min、好ましくは20~110L/minである。
【0031】
本発明者らの知見によれば、到達時間τは、固溶する窒素濃度に影響を与え、キャリア濃度やホール移動度に影響を与える。そこで、到達時間τを最適化することによって、結晶粒径が小さいのにもかかわらず、体積抵抗率が小さい多結晶SiC膜を実現することが可能である。到達時間τは、1.6~6.7秒とすることが好ましく、粒径を好ましい範囲に調整できる点から1.8から5.7秒とすることがより好ましく、2.0から5.0秒とすることが更に好ましい。
【0032】
SiCの供給源となる原料ガスは、1成分系(Si及びCを含むガス)でも、2成分系(Siを含むガスとCを含むガス)を使用してもよい。
例えば、1成分系の原料ガスとしては、メチルトリクロロシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、及びクロロトリメチルシラン等を挙げることができる。また2成分系の原料ガスとしては、トリクロロシラン、及びモノシラン等のシラン含有ガスと、炭化水素ガスとの混合物等を挙げる事ができる。
【0033】
窒素含有ガスとしては、窒素を多結晶SiC膜にドープすることができるものであればよい。例えば、窒素ガスが、窒素含有ガスとして使用される。
【0034】
成膜時に使用されるキャリアガスとしては、特に限定されるものでは無いが、例えば、水素ガス等を用いることができる。
【0035】
到達時間τ以外の成膜条件については、特に限定されるものではないが、例えば、次のような条件を採用することができる。
成膜時の加熱温度に関して、基材温度が、例えば1300~1400℃、好ましくは1300~1350℃である。なお、炉内の炉壁や断熱材は、SiCや原料ガスの分解生成物が堆積しない温度(例えば1000℃以下、好ましくは700℃以下)になっていることが好ましい。
【0036】
窒素含有ガスの流量は、例えば、窒素含有ガス流量と原料ガス流量とキャリアガス流量の合計流量に対して5~100vol%、好ましくは30~50vol%である。
【0037】
成膜速度は、例えば400~1300μm/hrであり、好ましくは520~645μm/hrである。
【0038】
滞留時間は、例えば5~40秒、好ましくは10~30秒である。滞留時間とは、混合ガスが反応炉内に滞留している時間を意味する。
【実施例
【0039】
以下に、本発明について、実施例を用いてより具体的に説明する。なお、本実施例、比較例において、成膜時間は1~5時間、実施例における反応温度は1300~1400℃から適宜設定した。また、比較例における反応温度は1200~1500℃から適宜設定した。
【0040】
(実施例1)
CVD反応炉として、図1に記載したものを用意した。基材として、直径160mm、厚さ5mmの黒鉛基板を1枚準備し、CVD反応炉内に配置した。
【0041】
次いで、表1に記載の条件で、基材上の多結晶SiC膜を成膜した。具体的には、原料ガスとしてMTS(メチルトリクロロシラン)を用いた。キャリアガスとして、H2ガスを用いた。窒素含有ガスとして、N2ガスを用いた。原料ガス、キャリアガス、および窒素含有ガスを混合器2において混合し、混合ガスを生成した。混合ガスをCVD反応炉1内に供給した。混合ガスの供給量は、表1において「ガス量」として記載される値とした。また、MTSガス、H2ガス、およびN2ガスの混合ガス中の濃度は、表1に記載の通りであった。反応温度(基材温度)も、表1に記載される通りとした。
【0042】
滞留時間は、13.4秒であった。滞留時間は、下記式により算出した。
(式2):滞留時間(秒)=(炉内容積(L)/ガス量)×((20+273)/(反応温度+273))×60
【0043】
基材到達時間τは、3.14秒であった。
【0044】
成膜後、黒鉛基板をCVD反応炉から取り出し、外周加工及び分割加工を行った。更に、黒鉛基材を除去し、直径150mm、厚さ0.6mmの多結晶SiC成形体を得た。更に、平面研削加工にて、直径150mm、厚さ0.4mmの多結晶SiC成形体を得た。これを、実施例1に係る多結晶SiC成形体として得た。
【0045】
(実施例2~7及び比較例1~3)
実施例1と同様に、多結晶SiC膜を成膜した。ただし、成膜条件を、表1に示されるように変更した。
【0046】
(評価方法)
得られた多結晶SiC成形体について、(111)ピーク強度比、キャリア密度、ホール移動度、窒素濃度(SIMS N濃度)、平均結晶粒径、および抵抗率を求めた。各値の測定方法について、以下に示す。
【0047】
(111)ピーク強度比
多結晶SiC成形体の中心における2θ/θ法によるX線回折パターンを、島津製作所製 XRD-6000を用いて、以下条件にて測定した。
Cuターゲット
電圧:40.0kV
電流:20.0mA
発散スリット:1.00000deg.
散乱スリット:1.00000deg.
受光スリット:0.30000mm
スキャンレンジ:20.000~80.000deg
スキャンスピード:4.0000deg./min.
サンプリングピッチ:0.0200deg.
プリセットタイム:0.30sec.
【0048】
得られたX線回折パターンにおいて、回折角2θが20.0~80.0deg.の範囲における回折ピーク強度の平均値を、バックグラウンドの補正値とし、回折角2θが35.3~36.0deg.の範囲における回折ピーク強度を、3C-SiCのSiC(111)面のピーク強度として求めた。
同様に、回折角2θが41.1~41.8deg.の範囲における回折ピーク強度を、SiC(200)面のピーク強度として求めた。
同様に、回折角2θが59.7~60.3deg.の範囲における回折ピーク強度を、SiC(220)面のピーク強度として求めた。
同様に、回折角2θが71.5~72.3deg.の範囲における回折ピーク強度を、SiC(311)面のピーク強度として求めた。
そして、SiC(111)面、SiC(200)面、SiC(220)面、およびSiC(311)面の回折ピーク強度の合計値を求めた。更に、合計値に対する、SiC(111)の回折ピーク強度の比率を、(111)ピーク強度比(X0)として求めた。
【0049】
(キャリア密度)
東陽テクニカ製 Resistest8200を用いて、ホール電圧及びVanderPauwによる抵抗率を求め、キャリア密度及びホール移動度を算出した(ホール効果測定)。ホール効果測定は、サンプルを10mm×10mm×0.5mm程度のサイズに切り出してIn電極を形成の上、以下条件にて実施した。
印加磁場:1T
印加電流:1.0×10-6
測定温度:室温(295K)
【0050】
(窒素濃度)
ATOMIKA社製SIMS-4000を用いて、多結晶SiC成形体中の窒素含有量を測定した。
【0051】
(平均結晶粒径)
TSLソリューションズ社製 DigiViewにより、多結晶SiC成形体の主面法線方向±10°方向(以下ND方向という。)についてEBSD方位マップを測定した。
EBSD方位マップの測定条件は、下記の通りとした。
前処理: 機械研磨、カーボン蒸着
装置: FE-SEM 日立ハイテク製 SU-70
EBSD TSLソリューションズ社製 DigiView
測定条件: 電圧: 20kV
径射角: 70°
測定領域: 100μm×100μm
測定間隔: 0.03μm
評価対象結晶系:3C型SiC(空間群 216)
【0052】
上記で測定したEBSD方位マップを用いて、全領域(100μm×100μm)内において、単一領域の面積にその単一領域の面積を観測領域の全面積で除した値を乗じた値を、全ての単一領域について求め、それらの合計値を算出した。
【0053】
(結果の考察)
表2に、結果を示す。
【0054】
表1に示されるように、実施例1~7に係る多結晶SiC成形体は、基材到達時間τが1.6~6.7秒の範囲内の条件で成膜されたものである。表2に示されるように、実施例1~7に係る多結晶SiC成形体は、体積抵抗率が低かった。特に、実施例1~5は、極めて低い体積抵抗率(具体的には0.011Ω・cm以下)を有していた。これら実施例1~7に係る多結晶SiC成形体の平均結晶粒径は、5μm以下であり、結晶粒径が小さい多結晶SiC成形体であることが確認された。また、窒素濃度は、2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)であった。キャリア密度×ホール移動度の積は、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)であった。(111)ピーク強度比が、0.6以上であった。
【0055】
一方、基材到達時間τが1.5秒である比較例1においては、体積抵抗率が0.022Ω・cmであり、実施例1~7よりも大きかった。
また、基材到達時間が0.03秒である比較例2においては、体積抵抗率が0.016Ω・cmであり、やはり大きかった。また、平均結晶粒径が11μmと実施例1~7よりも大きかった。
また、基材到達時間が7.0秒である比較例3においては、体積抵抗率が0.007Ω・cmであったが、平均結晶粒径が5μmを超えていた。
【0056】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0057】
1 CVD反応炉
2 混合器
3 基材
4 ノズル
【要約】
本発明の課題は、結晶粒径が小さいにもかかわらず、体積抵抗率が小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供することにある。本発明は、平均結晶粒径が5μm以下であり、窒素濃度が、2.7×1019~5.4×1020(個/cm3)であり、キャリア密度×ホール移動度の積が、4.0×1020~6.0×1021(個/cmVsec)である、多結晶SiC成形体を提供する。
図1
図2