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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】水処理用活性炭
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20240129BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240129BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240129BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 G
C02F1/28 D
C02F1/28 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023544746
(86)(22)【出願日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2023007649
【審査請求日】2023-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 孝規
(72)【発明者】
【氏名】一樂 陽司
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-034605(JP,A)
【文献】特開2021-141168(JP,A)
【文献】特開2018-161652(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255249(WO,A1)
【文献】特開2022-155561(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C01B 32/00-32/991
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が2020~4000m/g、
比表面積当たりの全酸性官能基量が0.20μeq/m以下、
ゼータ電位が-40mV以上、
細孔径1nm以下のミクロ孔容積が0.3mL/g未満、
クロロホルムの平衡吸着量が2.5mg/g以下、
である水中のPFAS除去用繊維状活性炭。
【請求項2】
孔径2nm以下のミクロ孔容積と細孔径2~30nmのメソ孔容積の差が0.45mL/g以下、
である請求項1に記載の繊維状活性炭。
【請求項3】
全酸性官能基量が0.5meq/g以下、かつ、酸素含有量が3.0wt%以下である請求項1に記載の繊維状活性炭。
【請求項4】
下記式(1)から求められるミクロ孔容積の割合が80%以下、且つ
下記式(2)から求められるメソ孔容積の割合が20%以上
である請求項1に記載の繊維状活性炭。
ミクロ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100・・・(1)
メソ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100・・・(2)
【請求項5】
前記活性炭は水中のペルフルオロアルキル化合物、およびポリフルオロアルキル化合物に対する吸着能を有するものである請求項1に記載の繊維状活性炭。
【請求項6】
前記活性炭はアルカリ賦活炭である請求項1に記載の繊維状活性炭。
【請求項7】
請求項1~6に記載の繊維状活性炭を用いた浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理用活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル化合物、およびポリフルオロアルキル化合物(以下、PFASという)は、様々な工業工程や消費者製品で使用されている化学物質であり、現在、4700以上もの様々な化合物がPFASとして知られている。特にPFOS(Perfluorooctane Sulfonate)やPFOA(Perfluorooctanoic Acid)は撥水剤や消化剤など様々な製品で使用されているが、環境残留性、生物蓄積性に問題があることが指摘されている。またPFOS、PFOAは河川水や海水、水道水中でも検出されるなど、非常に広範囲での汚染が問題となっていた。そのためPFAS、特にPFOSやPFOAを除去する技術が求められていた。
【0003】
例えば特許文献1には、活性炭吸着材のBET比表面積が800m/g以上又は表面酸化物量が0.20meq/g以下である水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が開示されている。
【0004】
特許文献2には、活性炭吸着材のBET比表面積が800m/g以上であって、表面酸化物量が0.50meq/g以下であり、かつ、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.30cm/g以上であることを特徴とする水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が開示されている。
【0005】
特許文献3には、夾雑物を含有する水中のペルフルオロアルキル化合物を吸着するための活性炭吸着材であって、前記活性炭吸着材がDHプロット法による測定において細孔直径が2~50nmの細孔における細孔容積和が0.025cm/g以下であり、前記活性炭吸着材がMPプロット法による測定において細孔直径が1.5~2nmの細孔における細孔容積和が0.014cm/g以上であることを特徴とするペルフルオロアルキル化合物吸着活性炭が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2021/033596号
【文献】特開2022-171711号公報
【文献】国際公開第2022/255249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、PFAS、特にPFOS、PFOAに対して優れた吸着性能を有する処理用活性炭を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の活性炭は以下の構成を有する。
[1] 比表面積が2020~4000m/g、比表面積当たりの全酸性官能基量が0.20μeq/m以下、ゼータ電位が-40mV以上である水処理用活性炭。
[2] 細孔径1nm以下のミクロ孔容積が0.3mL/g未満、且つ細孔径2nm以下のミクロ孔容積と細孔径2~30nmのメソ孔容積の差が0.45mL/g以下である[1]に記載の活性炭。
[3] 全酸性官能基量が0.5meq/g以下、かつ、酸素含有量が3.0wt%以下である[1]または[2]に記載の活性炭。
[4] 下記式(1)から求められるミクロ孔容積の割合が80%以下、且つ下記式(2)から求められるメソ孔容積の割合が20%以上である[1]~[3]のいずれかに記載の活性炭。
ミクロ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100・・・(1)
メソ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100・・・(2)
[5] 前記活性炭は水中のペルフルオロアルキル化合物、およびポリフルオロアルキル化合物に対する吸着能を有するものである[1]~[4]のいずれかに記載の活性炭。
[6] 前記活性炭はアルカリ賦活炭である[1]~[5]のいずれかに記載の活性炭。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の活性炭を用いた浄水器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればPFAS、特にPFOS、PFOAに対して優れた吸着性能を有する処理用活性炭を提供することができる。
したがって本発明の活性炭は水中に存在するPFAS、特にPFOS、PFOA除去に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例と比較例のPFOS平衡吸着量を示すグラフである。
図2図2は、実施例と比較例のPFOA平衡吸着量を示すグラフである。
図3図3は、実施例と比較例のPFOA累積通水量を示すグラフである。
図4図4は、実施例と比較例の遊離残留塩素累積通水量を示すグラフである。
図5図5は、実施例と比較例のクロラミン累積通水量を示すグラフである。
図6図6は、実施例と比較例のクロロホルム平衡吸着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、活性炭を高比表面積とし、且つ比表面積当たりの全酸性官能基量と、ゼータ電位を適切に制御すると、活性炭の細孔に起因する吸着性能とゼータ電位に起因する吸着性能の相乗効果によって、水中に存在するPFASの除去効果を向上できることを見出し、本発明に至った。
本発明の活性炭は、比表面積が2020~4000m/g、比表面積当たりの全酸性官能基量が0.20μeq/m以下、ゼータ電位が-40mV以上である。
【0012】
比表面積
本発明において比表面積はPFAS(特にPFOA、PFOS、以下同じ)に対する吸着性能を考慮して規定した物性である。
比表面積が2020m/g以上であると、活性炭の細孔構造がPFASなどの被吸着物質の吸着に適した細孔が多くなると共に、被処理媒体である水との接触面積が大きくなるため吸着性能が格段に向上すると共に、PFAS吸着量も増大する。一方、比表面積が4000m/gを超えると活性炭の強度が低下すると共に、活性炭の細孔構造が変化して吸着性能が低下する。
活性炭の比表面積は、2020m/g~4000m/g、好ましくは2200m/g~3800m/g、より好ましくは2500m/g~3500m/g、さらに好ましくは2800m/g~3200m/gである。
なお、本発明では数値範囲の上限、および下限を任意に組み合わせることができる。また各物性は任意に組み合わせた数値範囲同士を組み合わせて本発明の活性炭の好ましい物性とすることができる。本発明の活性炭の各物性は実施例記載の条件に基づく値である。
【0013】
比表面積当たりの全酸性官能基量
本発明において比表面積当たりの全酸性官能基量はPFAS(特にPFOA、PFOS、以下同じ)に対する吸着性能を考慮して規定した物性である。
比表面積当たりの全酸性官能基量を低減すると、PFASに対する吸着性能を著しく向上できる。
活性炭の比表面積当たりの全酸性官能基量は0.20μeq/m以下であり、好ましくは0.18μeq/m以下、より好ましくは0.15μeq/m以下、さらに好ましくは0.13μeq/m以下、よりさらに好ましくは0.10μeq/m以下である。 比表面積当たりの全酸性官能基量は少ない程よいため下限は特に限定されず、0μeq/mであってもよいが、製造コストや技術的難易度を考慮して下限は例えば0μeq/m超でもよい。
酸性官能基とは、実施例に示す塩基性試薬と反応し得る基であり、全酸性官能基とは、(1)ヒドロキシ基(R-OH基)、(2)カルボキシ基(R-COOH基)、(3)ラクトン基などのエステル基(R-OCO基)、および(4)α,β-不飽和カルボニル基などのカルボニル基(キノン構造に含まれるカルボニル基など:R=O基)をいう。
また全酸性官能基量とは、実施例に記載の測定方法によって求められる活性炭に含まれる上記(1)~(4)の各酸性官能基の合計量をいう。
【0014】
ゼータ電位
本発明においてゼータ電位は、PFAS(特にPFOA、PFOS、以下同じ)に対する吸着性能を考慮して規定した物性である。
ゼータ電位を-40mV以上にすると、-40mV未満である場合と比べてPFASに対する吸着性能が格段に向上する。ゼータ電位の絶対値が大きくなりすぎると活性炭表面とPFAS分子との間に作用する斥力が大きくなって反発し合うため吸着力が低下することがある。
活性炭のゼータ電位は-40mV以上であり、好ましくは-38mV~38mV、より好ましくは-35mV~35mV、さらに好ましくは-30mV~30mV、よりさらに好ましくは-28mV~28mVである。
【0015】
本発明の活性炭は、好ましくはアルカリ賦活された活性炭(以下、アルカリ賦活炭ということがある)である。
【0016】
上記各物性を満足する活性炭は水中のPFAS吸着に優れた特性を有する。また本発明の活性炭はPFASの吸着だけでなく、次亜塩素酸等の遊離残留塩素やクロラミン等の結合残留塩素などの総残留塩素の除去にも優れた効果を有する。一方、本発明の活性炭は後記するようにクロロホルムなどのように活性炭細孔へ物理吸着する吸着質(化合物)はPFASと競争吸着する可能性がある。そのため本発明の活性炭はPFASと競争吸着するような化合物の吸着量を低くすることにより、PFAS吸着により優れた効果を発揮する。
【0017】
本発明の活性炭は以下の物性を適切に制御することもPFAS吸着性能のより一層の向上に有効である。
【0018】
ミクロ孔容積、およびメソ孔容積
本発明の活性炭は細孔径1nm以下のミクロ孔容積が0.3mL/g未満、且つ細孔径2nm以下のミクロ孔容積と細孔径2~30nmのメソ孔容積との差が0.45mL/g以下であることも好ましい実施態様である。
【0019】
細孔径1nm以下のミクロ孔はPFAS、特にPFOS、PFOAの最適な吸着サイトのサイズよりも小さいためPFASの吸着力向上に対する寄与度は小さい。また後記するようにクロロホルムの吸着を抑制する観点からは1nm以下のミクロ孔容積は小さい程好ましい。
被処理水にはPFAS以外の疎水性の化合物(以下、その他化合物ということがある)が存在していることがある。特にPFASよりも活性炭との吸着力が高いその他化合物が存在すると、PFASとその他化合物との競合吸着が生じる可能性があり、いずれかの吸着質が脱離する可能性がある。活性炭との吸着力が高いその他化合物としてはクロロホルムが例示される。1nm以下の細孔容積はクロロホルムの吸着に寄与するため、上記競合吸着によるPFASの脱離を抑制する観点からは1nm以下のミクロ孔容積は小さい程好ましい。
細孔径1nm以下のミクロ孔容積は、0.3mL/g未満、0.25mL/g以下、0.20mL/g以下、0.15mL/g以下、0.10mL/g以下、0.05mL/g以下の順に小さい程好ましい。1nm以下のミクロ孔容積の下限は0mL/gであってもよいが製造難易度を考慮すると、下限は例えば0mL/g超であってもよい。
【0020】
細孔径2nm以下のミクロ孔容積と2~30nmのメソ孔容積との差(ミクロ孔-メソ孔)は、PFASに対する吸着容量増大と吸着サイトに至るまでの水の拡散速度向上のバランスを考慮すると小さい程よい。
細孔径2nm以下のミクロ孔容積と細孔径2~30nmのメソ孔容積との差(ミクロ孔-メソ孔)は0.45mL/g以下、0.40mL/g以下、0.35mL/g以下、0.30L/g以下、0.25mL/g以下、0.20mL/g以下、0.15mL/g以下の順に小さい程好ましい。
【0021】
またPFASの脱離を抑制する観点からは活性炭のクロロホルム吸着量は少ない程、好ましい。活性炭のクロロホルム平衡吸着量は好ましくは2.5mg/g以下、より好ましくは2.0mg/g以下、さらに好ましくは1.5g/g以下、最も好ましくは0mg/gであるが、細孔径1nm以下のミクロ孔容積を全て無くすことは困難であるため0mg/g超であってもよい。
【0022】
全酸性官能基量、および酸素含有量
全酸性官能基量が0.5meq/g以下、かつ、酸素含有量が3.0wt%以下であることも好ましい実施態様である。
活性炭の全酸性官能基量が少なく、かつ酸素含有量が少ない程、PFASに対する吸着性能が向上する。
【0023】
活性炭の全酸性官能基量は、好ましくは0.50meq/g以下、より好ましくは0.45meq/g以下、さらに好ましくは0.40meq/g以下、よりさらに好ましくは0.35meq/g以下である。全酸性官能基量は少ない程よく、0meq/gであってもよいが製造難易度を考慮すると、下限は例えば0meq/g超であってもよい。
【0024】
活性炭の酸素含有量は、好ましくは3.0wt%以下、より好ましくは2.0wt%以下、さらに好ましくは2.0wt%以下、よりさらに好ましくは1.5wt%以下である。酸素含有量は少ない程よく、0wt%であってもよいが製造難易度を考慮すると、下限は例えば0wt%超であってもよい。
【0025】
ミクロ孔容積の割合、およびメソ孔容積の割合
本発明の活性炭は、ミクロ孔容積の割合(ミクロ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100)が80%以下であって、メソ孔容積の割合(メソ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100)が20%以上であることも好ましい実施態様である。
ミクロ容積とメソ孔容積の合計に対するミクロ孔容積の割合が多いとPFASの吸着量増大に有効であり、また前記合計に対するメソ孔容積の割合が多いと水の拡散速度向上に有効であり、効率的なPFAS含有水の処理を行える。
【0026】
ミクロ孔容積の割合(ミクロ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100)は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、よりさらに好ましくは55%以下である。
ミクロ孔容積の割合の下限は下記メソ孔容積の割合に対応する値である。
【0027】
メソ孔容積の割合(メソ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100)は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは45%以上である。
【0028】
本発明の活性炭は全細孔容積を制御することも好ましい実施態様である。
PFASに対する吸着量を確保するためには細孔容積は大きい方が好ましいが、細孔容積を大きくし過ぎると使用時の活性炭の充填密度の低下を招くため、体積当たりの吸着性能が低下することがある。
本発明の活性炭の全細孔容積は、好ましくは0.5mL/g~4.0mL/g、より好ましくは0.7mL/g~3.0mL/g、さらに好ましくは1.0mL/g~2.0mL/gである。
【0029】
本発明の活性炭は、平均細孔径を制御することも好ましい実施態様である。
平均細孔径を大きくするとPFAS含有水の細孔内への拡散性が向上して吸着性能が向上する。一方、平均細孔径が大きくなりすぎると嵩高くなって使用時の活性炭の充填量が減少すると共に、PFAS吸着サイトが減少し吸着能が低下することがある。
本発明の多孔質炭素材料の平均細孔径は、好ましくは1.5nm~5.0nm、より好ましくは1.75nm~4.0nm、さらに好ましくは1.9nm~3.0nm、よりさらに好ましくは2.0nm~2.5nmである。
【0030】
活性炭の形状
本発明の活性炭は、用途に応じた形状にすればよく、粉末状、粒状、破砕状(顆粒状)、繊維状などが例示される。また炭素系金属吸着材は、必要に応じてバインダーや他の吸着材と共に、円柱状、球状、シート状など任意の形状に成形してもよい。活性炭の粒子径は用途に応じて適宜調整できる。
【0031】
本発明の活性炭は、水処理用途に好適である。被処理水の具体的として工場や家庭などからの排水、河川水、海水、飲料水、工業用水など各種PFAS含有水が挙げられる。
本発明の活性炭を用いてPFAS含有水を処理すると、被処理水からPFAS、特にPFOS、PFOAを除去できる。また本発明の活性炭はPFAS以外の化合物、例えば次亜塩素酸等の遊離残留塩素やクロラミン等の結合残留塩素などの総残留塩素の除去にも優れた効果を有する。
本発明の活性炭による水処理は平衡状態と通水状態のいずれにも適用可能である。
本発明の水処理用途の具体例としては、浄水器、水処理用フィルターなど、被処理水と活性炭との接触によりPFAS、特にPFOS、PFOAを除去する態様であれば適用できる。
なお、本発明の活性炭は吸着したPFASが活性炭から脱離することがないため、活性炭の処分時にPFASが流失することがない。したがって活性炭処分時にPFASによる汚染も防止できる。
【0032】
以下、本発明の活性炭の好適な実施態様であるアルカリ賦活炭の製造方法を説明するが、本発明の製造方法は上記所望の物性が得られれば下記製造方法に限定されない。なお、下記製造条件は好ましい範囲を示したものであり、所望の物性が得られるように各製造条件を適切に調整することを要する。
【0033】
原料
本発明の活性炭の賦活原料となる炭素質材料としては、特に限定されないが、例えば、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生物、リグニン、廃糖蜜などの植物由来の炭素質原料;泥炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残査、石油ピッチなどの鉱物由来の炭素質原料;フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂などの合成樹脂由来の炭素質原料;セルロースなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維などの天然繊維由来の炭素質原料;ピッチ系炭素繊維などのコールタールピッチや石油ピッチ由来の炭素質材料が挙げられる。炭素質原料は、単独、または二種以上組み合わせて使用できる。これらの炭素質材料のうち、比表面積、酸性官能基量、及びゼータ電位を上記範囲に制御しやすいコールタールピッチや石油ピッチ由来の炭素質原料が好ましく、ピッチ系炭素繊維がより好ましい。
【0034】
炭化処理
上記賦活原料のうち、炭化されていない炭素質材料は賦活処理前に必要に応じて炭化処理することが好ましい。炭化処理は炭素質原料を窒素などの不活性ガス中で熱処理、例えば400℃~1000℃で1時間~3時間保持すればよい。なお、ピッチ系炭素繊維など既に炭化されている炭素質原料は、炭化処理をしなくてもよい。
【0035】
アルカリ賦活処理
本発明のアルカリ賦活処理はアルカリ金属化合物を含む賦活剤と、賦活原料とを混合し、不活性ガス中で加熱する工程である。アルカリ賦活処理条件を調整することで比表面積を上記範囲に制御できる。
アルカリ金属化合物は例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属の硫酸塩である。好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化カリウムである。
【0036】
賦活剤の使用量は賦活原料に対する賦活剤の混合比率を高くする程、活性炭の比表面積が増大傾向を示すため、上記比表面積となるように賦活剤の混合比率を調整することが望ましい。賦活原料に対する賦活剤の質量比(賦活剤のアルカリ成分の質量/賦活原料の質量)は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは2.0以上であって、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.0以下である。
【0037】
アルカリ賦活処理はアルゴン、ヘリウム、窒素など任意の不活性ガス雰囲気下で行う。
【0038】
アルカリ賦活処理温度を高くすると賦活が進行して比表面積が高くなると共に全酸性官能基量が低下する傾向を示す。したがってアルカリ賦活処理時の加熱温度は好ましくは350℃~950℃、より好ましくは400℃~900℃、さらに好ましくは450℃~850℃、よりさらに好ましくは500℃~800℃である。
また上記加熱温度までの昇温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上であって、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下である。
上記加熱温度での賦活処理時間は好ましくは1時間~10時間、より好ましくは2時間~8時間、さらに好ましくは3時間~7時間、より更に好ましくは3.5時間~5時間である。
【0039】
洗浄処理 洗浄処理は、アルカリ賦活処理して得られた活性炭に水洗浄処理や無機酸洗浄処理を行ってアルカリ賦活炭中に残留するアルカリ金属を除去する工程である。洗浄処理は複数回繰り返すことでアルカリ金属除去率を高めることができる。
【0040】
水洗浄処理
水洗浄処理で使用する水の温度は好ましくは20℃~100℃未満、より好ましくは30℃~90℃、さらに好ましくは40℃~80℃、よりさらに好ましくは50℃~70℃である。水洗浄処理は水洗浄とろ過を複数回繰り返し、ろ液のpHが例えば7.0以下となるまで行うことが望ましい。
【0041】
無機酸洗浄処理
無機酸洗浄では無機酸として塩酸、フッ化水素酸等の水素酸や、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸等の酸素酸などを使用でき、好ましくは塩酸である。
無機酸濃度はアルカリ賦活炭の物性を維持しつつ、アルカリ金属除去率を高める観点から調整することが好ましい。
無機酸水溶液中の無機酸濃度は必要に応じ適宜調整すればよい。無機酸濃度は好ましくは0.1wt%~30wt%、より好ましくは0.5wt%~20wt%、さらに好ましくは1.0wt%~15wt%である。
無機酸水溶液の液温は、無機酸の揮発を抑制しつつ、アルカリ賦活炭中のアルカリ金属除去効率を高めることができる温度域に設定することが望ましい。
無機酸水溶液の温度は、好ましくは20℃~100℃未満、より好ましくは30℃~90℃、さらに好ましくは40℃~80℃、よりさらに好ましくは50℃~70℃である。
無機酸洗浄処理は洗浄とろ過を複数回繰り返し、アルカリ賦活炭中のカリウム残存量が好ましくは5000mg/kg以下(0mg/kg超)であり、またアルカリ賦活炭中のアルカリ金属残存量が好ましくは2500mg/kg以下(0mg/kg超)、より好ましくは1000mg/kg以下(0mg/kg超)、さらに好ましくは500mg/kg以下(0mg/kg超)となるまで行うことが望ましい。アルカリ賦活炭中のアルカリ金属残存量はICP発光分光分析装置で測定できる。
【0042】
水洗浄処理
水洗浄処理は、無機酸洗浄処理後、水洗浄処理してアルカリ賦活炭中に残留する無機酸を除去する工程である。
水洗浄処理で使用する水の温度は無機酸の除去効率を考慮して設定することが望ましい。
洗浄水の温度は、好ましくは20℃~100℃未満、より好ましくは30℃~90℃、さらに好ましくは40℃~80℃、よりさらに好ましくは50℃~70℃である。
水洗浄処理は水洗浄とろ過を複数回繰り返し、ろ液のpHが6.5以上となるまで行うことが望ましい。
【0043】
乾燥処理
乾燥処理は、洗浄処理後のアルカリ賦活炭から水分を除去する工程である。
乾燥はアルカリ賦活炭に残存する水分を除去できる条件であればよく、例えば大気雰囲気下で例えば100~120℃程度に加熱し、0.5時間~24時間乾燥させることが望ましい。
【0044】
加熱処理工程
加熱処理工程は、アルカリ賦活炭を加熱して全酸性官能基量を低減させると共に、ゼータ電位を上記範囲に制御する工程である。
加熱温度を高くするとアルカリ賦活炭から酸性官能基を離脱させることができると共に、ゼータ電位を上記範囲に誘導できるが、加熱温度を高くしすぎるとゼータ電位が上記範囲を外れたり、細孔構造が変化する。
加熱処理時の温度は、好ましくは800℃~1500℃、より好ましくは900℃~1400℃、さらに好ましくは1000℃~1300℃である。
上記加熱温度までの昇温速度は、好ましくは1℃/分~20℃/分、より好ましくは5℃/分~15℃/分、さらに好ましくは10℃/分~15℃/分である。
上記加熱温度での加熱時間は好ましくは30分~10時間、より好ましくは1時間~5時間、さらに好ましくは2時間~4時間である。
【0045】
粉砕処理
本発明のアルカリ賦活炭は必要に応じてミル等の粉砕機を用いて所望の粒度になるように粉砕処理してもよい。なお、粉砕は製造過程の任意の段階で行ってもよいし、予め粉砕処理された原料を用いてもよい。
【0046】
成形工程
本発明のアルカリ賦活炭は必要に応じて各種用途に応じた形状に成形してもよい。成形方法としては特に限定されず、各種公知の成形方法を使用して所望のサイズ、形状に成形すればよい。また成形時に他の材料、例えばバインダーなどの任意の添加剤と混合してもよい。
【0047】
上記物性が得られるように各製造条件を適切に調整し得られた本発明のアルカリ賦活炭は、液体中のPFAS、特にPFOS、PFOAに対して優れた除去効果を発揮する。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
実施例1
石炭ピッチ系炭素繊維1.0重量部に、賦活剤として質量比([賦活剤のアルカリ成分の質量]/[賦活原料の質量]:以下、KOH/C比という)が3.0となるように市販のアルカリ賦活剤(濃度48.5%水酸化カリウム水溶液)を添加・混合した後、窒素雰囲気下、800℃まで昇温し、該温度で3.75時間保持してアルカリ賦活炭を得た。
得られたアルカリ賦活炭は、ろ液のpHが7.0以下になるまで60℃の温水で洗浄を繰り返した。
次いで5.25wt%塩酸水溶液中で1時間酸洗浄を行い、吸引ろ過を行った。
ろ過後の活性炭を更に60℃の温水でろ液のpHが6.5以上になるまで温水洗浄を繰り返し行い、洗浄品を得た。
得られた洗浄品を115℃に設定した乾燥機にて24時間の乾燥処理を行った。
乾燥後の活性炭を昇降炉(東洋アドバンテック社製)に装入し、窒素雰囲気中1150℃まで10/分で昇温し、該温度で2時間保持して実施例1の繊維状活性炭を得た。
【0050】
比較例1
市販のアルカリ賦活活性炭素繊維(MCエバテック社製MSF-A30M)を比較例1の繊維状活性炭とした。
【0051】
比較例2
市販のヤシガラ水蒸気賦活活性炭(MCエバテック社製W10-30)を比較例2の粒状活性炭とした。
【0052】
比較例3
市販の石炭系水蒸気賦活活性炭(MCエバテック社製C-6)を比較例3の粒状活性炭とした。
【0053】
なお、粒状炭である比較例2、3は、粒度の影響を小さくするため予め粒度調整を行ってから特性を調べた。具体的には、メノウ乳鉢を用いて活性炭を粉砕した後に、篩目が53μmおよび125μmの篩で分級することで平均粒子径(D50)が100~150μm程度となるように粒度調整を行った。
【0054】
粒子径
各試料の粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD(登録商標)-2000)を用いて測定し、得られた粒度分布の測定結果から体積基準の累積頻度曲線を求め、累積頻度50%における平均粒子径D50を算出した。
【0055】
比表面積
試料(0.2g)を250℃にて真空乾燥させた後、窒素吸着装置(マイクロメリティックス社製ASAP-2420)を用いて液体窒素雰囲気下(-196℃)における窒素ガスの吸着量を測定して窒素吸着等温線を求め、BET法にて比表面積(m/g)を求めた。
【0056】
全細孔容積
窒素吸着等温線から相対圧(P/P0)=0.93における窒素吸着量から全細孔容積(mL/g)を算出した。
ミクロ孔容積およびメソ孔容積:
得られた窒素吸着等温線からBJH法により解析を行い、2~30nmのメソ孔容積を求めた。また、ミクロ孔容積を以下の式により算出した。
ミクロ孔容積(mL/g)=全細孔容積(mL/g)-[BJH法により解析した2~30nmのメソ孔容積(mL/g)]
上記値を用いて下記式よりミクロ孔容積とメソ孔容積の差を求めた。
ミクロ孔容積(mL/g)-メソ孔容積(mL/g)
また下記式よりミクロ孔容積の割合とメソ孔容積の割合を求めた。
ミクロ孔容積の割合=ミクロ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100
メソ孔容積の割合=メソ孔容積/(ミクロ孔容積+メソ孔容積)×100
1nm以下の細孔容積は以下の式により算出した。
1nm以下の細孔容積(mL/g)=全細孔容積(mL/g)-[BJH法で解析した1~30nmの細孔容積(mL/g)]
【0057】
平均細孔径(4V/A)
活性炭の細孔をシリンダー状と仮定し、下記式に基づいて平均細孔径を算出した。
平均細孔径(nm)=4×全細孔容積(mL/g)/比表面積(m/g)×1000
【0058】
全酸性官能基量評価
全酸性官能基量は、Boehm法(文献「H.P.Boehm, Adzan.Catal, 16,179(1966)」)に従って求めた。具体的には活性炭2gにナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)を50mL加え、2時間、500rpmで撹拌した後、24時間放置した。24時間経過後、さらに30分間撹拌を行いろ過分離した。得られたろ液25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。また、ブランクテストとして、前記ナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。そして、下記式により全酸性官能基量(meq/g)を算出した。
全酸性官能基量(meq/g)=(a-b)×0.1/(S×25/50)
a:ブランクテストにおける塩酸滴定量(mL)
b:試料を反応させたときの塩酸滴定量(mL)
S:試料重量(g)
【0059】
比表面積当たりの全酸性官能基量
比表面積当たりの全酸性官能基量は以下の式により算出した。
比表面積当たりの全酸性官能基量(μeq/m)=全酸性官能基量(meq/g)/比表面積(m/g)×1000(単位調整)
【0060】
酸素含有量
120℃で2時間乾燥した試料を、Elementar社製vario EL cubeを使用し、基準物質に安息香酸を用いて活性炭中の酸素含有量を測定した。
【0061】
ゼータ電位
純水25mLに対して、ディスクミルを用いて平均粒子径が5~10μm程度となるように粉砕した試料を5mg添加し、撹拌することで分散液を調製した。この分散液をゼータ電位測定装置 Zetasizer Nano Z(Malvern Panalytical社製、型番ZEN2600)を使用し、測定した。ゼータ電位は、所定のキャピラリーセルに入れた分散液中の粒子の電気泳動移動度を測定し、得られた電気泳動移動度から以下の式を用いることで算出した。
Ue = 2εzf(ka)/3η
z:ゼータ電位
Ue:電気泳動移動度
f(ka):ヘンリー関数(水系では1.5)
ε:誘電率
η:粘度
【0062】
PFOS、PFOA平衡吸着試験
PFOS、PFOA試験溶液の調製
PFOS(富士フィルム和光純薬社製、純度100%)またはPFOA(富士フィルム和光純薬社製、純度100%)試薬18.0mgを50mLメスフラスコに量り取り、メタノール(関東化学社製、高速液体クロマトグラフィー用)を加えて溶解させた。次いで、この溶液を100mLメスフラスコに5.5mLまたは8.25mL分取し、標線までメタノールを加えて希釈した。希釈後の溶液1mLまたは30mLを3Lメスフラスコに入れ、超純水でメスアップすることで、PFOSまたはPFOA試験水を調製した。
【0063】
PFOS、PFOA平衡吸着試験
105℃で15時間乾燥した活性炭を200mLガラス製三角フラスコに所定量投入し、前記で調製したPFOSまたはPFOA試験溶液を100mL加えた後、25℃に設定した恒温槽内にて振とう速度200rpmで24時間振とうさせた。その後、0.45μmのメンブレンフィルターで濾過し、固相カラム(ジーエルサイエンス社製 PLS-3)を用いて固相抽出したものを測定試料とした。なお、測定は「上水試験方法III 有機物編III-2有機物類 31.3固相抽出-液体クロマトグラフ質量分析法2」に記載の方法で行い、分析装置には高速液体クロマトグラフ質量分析計(Agilent Technologies社製 1260 Infinity LC/MS)を使用した。LC/MS測定結果から得られたPFOSまたはPFOA残留濃度と活性炭重量当たりの吸着量(mg/g-活性炭)の関係から吸着等温線を作成し、残留濃度0.07μg/Lにおける吸着量をFreundlich式により求めた。
【0064】
PFOA通水性能評価
PFOA試験溶液の調製
2LメスフラスコにPFOA(富士フィルム和光純薬社製、純度100%)試薬を301.8mg投入し、メタノール1mLを加えて溶解させた後に超純水でメスアップすることで濃度150mg/LのPFOA溶液を調製した。この溶液を2Lのポリ瓶に移し替え、通水試験装置内で初濃度が800μg/Lとなるように純水と混合し、これを試験溶液とした。
【0065】
PFOA通水性能評価試験
105℃で15時間乾燥した活性炭を内径15.8mm、高さ100mmの樹脂製カラムに活性炭層厚が実施例1は10mm、比較例2、3については20mmとなるように充填した。作製した活性炭カラムを通水試験装置に取り付け、SV=2500h-1(実施例1は流量約80mL/分、比較例2,3は約160mL/分)となるように試験溶液を通水し、カラム出口側より活性炭吸着後の試験溶液を適宜サンプリングした。また、活性炭カラムへの通水開始前後においてカラムを通過前の試験溶液をカラム入口側よりサンプリングし、試験溶液の初期濃度の算出に用いた。サンプリングした試験溶液は、高速液体クロマトグラフ質量分析計(Agilent Technologies社製 1260 Infinity LC/MS)を用いて分析を行い、得られた試験溶液の初期濃度と活性炭出口側からサンプリングした溶液中の残留濃度から除去率を算出し、求めた除去率と活性炭重量当たりの通水量から破過曲線を得た。また、経時時間毎でサンプリングした活性炭吸着後の残留濃度と活性炭へ吸着したPFOAの総量(mg/g―活性炭)の関係から残留濃度0.07μg/Lにおける活性炭重量当たりのPFOA累積吸着量(mg/g-活性炭)を算出し、求めたPFOA吸着量(mg/g-活性炭)を試験溶液の初期濃度(μg/L)で除することで残留濃度0.07μg/Lに到達時のPFOA通水可能量(L/g-活性炭)を算出した。
【0066】
遊離残留塩素通水性能評価
試験溶液の調製
市販の活性炭カートリッジフィルター(アズワン社製、Type-2)を用いて濾過した水道水280Lを容量300Lのタンクに注水し、有効塩素濃度が2mg/Lとなるように次亜塩素酸ナトリウム溶液(キシダ化学社製、有効塩素濃度12重量%)4.7mLをピペッターを用いて投入した。その後、ケミカルポンプにより撹拌することで試験溶液を調製した。
【0067】
遊離残留塩素通水性能評価試験
家庭用浄水器試験方法(JIS S 3201)を参考に評価試験を行った。115℃で2時間乾燥した活性炭を内径19mm、高さ100mmの樹脂製カラムに活性炭層厚が10mmとなるように充填した。作製した活性炭カラムを通水試験装置に取り付け、SV=6000h-1(流量約280mL/分)となるように試験溶液を通水し、カラム通過前後の試験溶液10mLをバイアル瓶に適宜サンプリングした。遊離残留塩素濃度(mg/L)の測定は、サンプリングした試験溶液にDPD試薬(関東化学社製ラピッドDPD試薬(分包))を加えて20秒ほど振とうさせ、残留塩素計(HACH社製)にて濃度測定を行った。測定した濃度から、活性炭重量あたりの通水量(L/g)における除去率を算出し、除去率80%の時の累積通水量を求めた。
【0068】
クロラミン通水性能評価
試験溶液の調製
市販の活性炭カートリッジフィルター(アズワン社製、Type-2)を用いて濾過した水道水280Lを容量300Lのタンクに注水し、クロラミン濃度が3.0±0.3mg/Lになるように28%アンモニア水(キシダ化学社製)を3.3mlおよび12%次亜塩素酸ナトリウム溶液(キシダ化学社製)を7.26ml加えた後、ハンディポンプで約30分間攪拌することで調製した。
【0069】
クロラミン通水性能評価試験
米国における浄水器規格(NSF/ANSI42)を参考に評価試験を行った。115℃で2時間乾燥した活性炭を内径19mm、高さ100mmの樹脂製カラムに活性炭層厚が15mmとなるように充填した。作製した活性炭カラムを通水試験装置に取り付け、SV=500h-1(流量約35mL/分)となるように試験溶液を通水し、カラム通過前後の試験溶液10mLを10mL比色管に適宜サンプリングした。10mL比色管に採取した試験水にリン酸緩衝液を0.5mL加えて均一に混合した後、DPD試薬(関東化学社製)を投入して約20秒間振盪させ、塩素濃度計(HACH社製)で残留遊離塩素濃度を測定した。その後、測定した試験水にヨウ化カリウム(キシダ化学社製)を0.1g加えて発色させ、2分間静置した後、塩素濃度計(HACH社製)で残留塩素濃度を測定した。測定した残留遊離塩素濃度と残留塩素濃度から、下記式を用いて残留クロラミン濃度を算出した。
残留クロラミン濃度(mg/L)=残留塩素濃度(mg/L)-残留遊離塩素濃度(mg/L)
測定した濃度から活性炭重量あたりの通水量(L/g)における除去率を算出し、活性炭通過後の試験水における残留クロラミン濃度が0.5ppm(除去率約83%)に達した際の累積通水量を求めた。
【0070】
クロロホルム吸着性能評価
クロロホルム(CHCl)0.5gをメタノール50mlに希釈し、更にメタノールで10倍希釈したものを原液とし、クロロホルム原液1mLを純水で1Lに希釈して1mg/Lのクロロホルム溶液を作製した。100mL三角フラスコを5本(三角フラスコ1~5)用意し、各三角フラスコに攪拌子を入れると共に、活性炭を0.013g(三角フラスコ1)、0.026g(三角フラスコ2)、0.064g(三角フラスコ3)、0.13g(三角フラスコ4)、0.26g((三角フラスコ5)入れ、1mg/Lのクロロホルム溶液で満水にし、テフロン(登録商標)グリスを塗布したガラス栓で密栓し、クリップで固定した。この時、注水した溶液の重量を測定した。その後、三角フラスコを20℃恒温庫内で、マグネチックスターラーを用いて14時間攪拌した。攪拌後、活性炭をシリンジフィルターでろ別し、ろ液をスクリュー瓶に満水状態で10℃恒温庫内にて測定直前まで冷蔵保存した。クロロホルム濃度測定はHS-GC/MS(HS:パーキンエルマー社製 TurboMatrixHS、GC/MS:島津製作所社製 QP2010)を用いた。定量したろ液中の濃度から、活性炭重量あたりの吸着量(mg/g)を算出することで吸着等温線を作成し、クロロホルム残留濃度0.06mg/Lのときの平衡吸着量を求めた。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1は本発明の好適な活性炭であり、アルカリ賦活後に加熱処理を行った例である。
比較例1はアルカリ賦活炭に加熱処理を行わなかった例であり、比表面積当たりの全酸性官能基量が多く、またゼータ電位も満足しなかった。
比較例2は水蒸気賦活炭に加熱処理を行わなかった例であり、比表面積が小さく、またミクロ孔容積とメソ孔容積のバランス(差、割合)が悪かった。
比較例3は水蒸気賦活炭に加熱処理を行わなかった例であり、比表面積が小さく、また比表面積当たりの全酸性官能基量、およびミクロ孔容積とメソ孔容積のバランス(差)が悪かった。
【0073】
図1~3に示すように本発明を満足する実施例1の活性炭はPFOS平衡吸着量、PFOA平衡吸着量、PFOA累積通水量の各試験において、比較例1~3の活性炭よりも優れた吸着性能を示し、水中からPFOS、PFOAの除去率を高めることができた。
【0074】
また図4、5に示す様に実施例1の活性炭は遊離残留塩素(図4)、クロラミン(図5)に対しても比較例2、3の活性炭よりも優れた除去効果が得られた。したがって本発明の活性炭はPFOS、PFOAなどのPFASだけでなく、遊離残留塩素や結合塩素などの総残留塩素に対する除去効果も有する。
【0075】
一方、図6に示す様に、実施例1の活性炭は比較例2、3の活性炭と比べてクロロホルムに対する除去効果が低かった。
図1~3、図6に示す様に本発明の活性炭はクロロホルムの吸着・除去効果が低く、一方でPFOS、PFOAに対する吸着・除去効果に優れていた。
【要約】
PFAS、特にPFOS、PFOAに対して優れた吸着性能を有する処理用活性炭を提供すること。
比表面積が2020~4000m2/g、比表面積当たりの全酸性官能基量が0.20μeq/m2以下、ゼータ電位が-40mV以上、である水処理用活性炭。
図1
図2
図3
図4
図5
図6