(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/19 20060101AFI20240129BHJP
【FI】
G05B19/19 X
G05B19/19 W
(21)【出願番号】P 2023549174
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034491
(87)【国際公開番号】W WO2023047438
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】西木 孝浩
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007816(JP,A)
【文献】特許第6839783(JP,B1)
【文献】特開2019-000929(JP,A)
【文献】特開平05-138502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象となる回転体を含む運動機構部と、加工プログラムに従って少なくとも前記回転体の回転動作を制御する制御装置とを備えて構成される工作機械であって、
前記制御装置は、前記加工プログラムに従って前記回転体を回転させる際に、前記回転体のイナーシャに係るデータを確認し、前記イナーシャに係るデータが設定されている場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度が、前記イナーシャに応じて設定される限界回転速度以下であるかどうかを確認し、該限界回転速度を超えている場合には、該限界回転速度以下の回転速度であって、予め設定された回転速度を許容回転速度として、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を制限するように構成され
、
更に、前記制御装置は、前記イナーシャに係るデータが設定されていない場合、又は設定されたイナーシャに係るデータが異常値であると判断される場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を、予め設定した安全回転速度に制限するように構成されていることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記許容回転速度をオペレータが容認するか否かを確認し、オペレータが容認する場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を前記許容回転速度に制限して加工を継続し、オペレータが容認しない場合には、加工を停止するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の工作機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記安全回転速度をオペレータが容認するか否かを確認し、オペレータが容認する場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を前記安全回転速度に制限して加工を継続し、オペレータが容認しない場合には、加工を停止するように構成されていることを特徴とする請求項
1又は2記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記回転体のイナーシャに係るデータが設定されていない場合、又は設定されたイナーシャに係るデータが異常値であると判断される場合に、該回転体についてのイナーシャに係るデータを新たに設定可能に構成されていることを特徴とする請求項
1から3のいずれか1項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記制御装置は、前記回転体に回転動作と停止動作とを実行させることにより、該回転体のイナーシャに係るデータを算出して、設定するように構成されていることを特徴とする請求項
4記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を含む運動機構部と、加工プログラムに従って少なくとも前記回転体の回転動作を制御する制御装置とを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機機械の分野では、回転体であるワークや工具を回転させるためのモータが用いられており、このモータは、前記回転体に連結されて、当該回転体を駆動し、前記制御装置によってその作動が制御される。
【0003】
ところで、このような工作機械には、従来、モータが回転中に停電やその他の原因によって制御不能となったとき、当該モータを非常停止させるためのダイナミックブレーキ回路と呼ばれる回路が設けられている。このようなダイナミックブレーキ回路を備えた装置の一例として、従来、特許第6285477号公報(下記特許文献1)に開示されたモータ駆動装置が知られている。
【0004】
このモータ駆動装置は、同公報に開示されるように、モータを駆動するインバータと、モータの回転速度を取得する回転速度取得部と、モータのイナーシャに関する情報を格納したイナーシャ情報格納部と、モータの回転速度及びイナーシャに基づいて、モータの回転エネルギーを計算する回転エネルギー計算部と、非常停止時にモータの発電制動によって減速トルクを発生させるダイナミックブレーキ回路と、このダイナミックブレーキ回路における抵抗の耐量に関する情報を格納した耐量情報格納部と、モータの非常停止時に上アーム及び下アームのうちの一方のアームのパワー素子をオンし、他方のアームのパワー素子をオフするパワー素子操作部と、ダイナミックブレーキ回路のスイッチを操作するダイナミックブレーキ回路操作部と、モータの回転エネルギーとダイナミックブレーキ回路の耐量とを比較する耐量比較部とから構成される。
【0005】
そして、ダイナミックブレーキ回路操作部は、モータの回転エネルギーがダイナミックブレーキ回路の耐量を超えている場合には、当該ダイナミックブレーキ回路を動作させないで、モータの回転エネルギーが前記耐量以下の場合に、前記ダイナミックブレーキ回路を動作させる。尚、モータの回転エネルギーが前記耐量を超えている場合には、ダイナミックブレーキ回路操作部は、しばらくモータを空転させることにより、その回転速度が低下し、モータの回転エネルギーが前記耐量以下になった後に、前記ダイナミックブレーキ回路を動作させる。
【0006】
斯くして、この従来のモータ駆動装置では、上記のように動作するダイナミックブレーキ回路操作部によって、ダイナミックブレーキ回路の損傷が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のモータ駆動装置では、モータの作動中に、停電やその他の原因によって制御不能となったとき、モータの回転エネルギーが非常停止回路の耐量を超えていない場合には、非常停止回路によりモータを停止させ、モータの回転エネルギーが前記耐量を超えている場合には、しばらくモータを空転させることにより、その回転エネルギーが前記耐量以下になった後、当該非常停止回路を作動させてモータを非常停止させるように構成されている。
【0009】
ところで、モータの回転速度を高速に設定する場合には、上記のように非常停止時に作動する非常停止回路の耐量を超える心配があるが、これに加えて、回転体のイナーシャが大きい場合には、その加減速時にモータに大きな負荷が掛かるため、好ましい状態にあるとは言えない。
【0010】
NC工作機械を用いた加工では、NCプログラムが使用され、このNCプログラムはオペレータが作成したり、或いは、自動プログラミング装置によって自動的に作成されているが、工具主軸やワーク主軸に用いられるモータの回転速度については、工具材質、ワーク材質や加工精度といった加工条件に係る諸要因に基づいて決定されており、モータを含む回転体のイナーシャについては、従来、検討されていなかった。
【0011】
このため、従来の工作機械では、その加工時に設定されるモータの回転速度が、当該モータを非常停止させるための非常停止回路の耐量を超えて設定されることがあり、このため、上記従来例のような対応が必要であった。
【0012】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、NCプログラムで指令されたモータの回転速度が、回転体のイナーシャに応じた許容回転速度を超えている場合であっても、当該許容回転速度を超えない回転速度で加工できる工作機械の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、制御対象となる回転体を含む運動機構部と、加工プログラムに従って少なくとも前記回転体の回転動作を制御する制御装置とを備えて構成される工作機械であって、
前記制御装置は、前記加工プログラムに従って前記回転体を回転させる際に、前記回転体のイナーシャに係るデータを確認し、前記イナーシャに係るデータが設定されている場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度が、前記イナーシャに応じて設定される限界回転速度以下であるかどうかを確認し、該限界回転速度を超えている場合には、該限界回転速度以下の回転速度であって、予め設定された回転速度を許容回転速度として、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を制限するように構成された工作機械に係る。
【0014】
本発明に係る工作機械によれば、制御装置が加工プログラムに従って回転体を回転させる際に、制御装置は、例えば、前記回転体のイナーシャに係るデータを記憶するために設けられた記憶部を参照して、前記回転体のイナーシャに係るデータを確認し、当該イナーシャに係るデータが設定されている場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度が、前記イナーシャに応じて設定される限界回転速度以下であるかどうかを確認し、該限界回転速度を超えている場合には、該限界回転速度以下の回転速度であって、予め設定された回転速度を許容回転速度として、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を制限する。
【0015】
このように、本発明に係る工作機械では、加工プログラムに指定された回転速度が、回転体のイナーシャに応じて設定される限界回転速度を超えている場合には、回転体の回転速度が当該限界回転速度以下の許容回転速度に制限されるので、仮に、停電やその他の原因によって回転体を駆動するモータが制御不能となっても、適宜設けられた非常停止装置によって、当該モータを安全に停止させることができる。また、回転体を駆動し、停止させる際にモータに過大な負荷が作用するのを回避することができる。
【0016】
尚、前記回転体には、モータの他、当該モータによって回転されるワーク、その他治具類が含まれる。
【0017】
また、上記工作機械において、前記制御装置は、前記許容回転速度をオペレータが容認するか否かを確認し、オペレータが容認する場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を前記許容回転速度に制限して加工を継続し、オペレータが容認しない場合には、加工を停止するように構成された態様を採ることができる。
【0018】
前記許容回転速度で加工した場合に、表面粗さなど、求められる加工精度を達成することができない場合がある。そこで、前記許容回転速度で加工することが可能かどうかをオペレータに確認することで、加工品が不良品となるのを未然に防止することができる。
【0019】
また、上記の工作機械において、前記制御装置は、前記イナーシャに係るデータが設定されていない場合、又は設定されたイナーシャに係るデータが異常値であると判断される場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を、予め設定した安全回転速度に制限するように構成された態様を採ることができる。
【0020】
前記回転体のイナーシャが設定されていない場合、又はイナーシャが設定されていたとしてもそのデータが異常値であると判断される場合には、回転体の限界回転速度を認識することができないため、加工プログラムで指定された回転速度が、非常停止可能な適正な回転速度であるか否かを判別することができない。
【0021】
そこで、このような場合に、前記回転体の回転速度を、仮に、停電やその他の原因によって回転体を駆動するモータが制御不能となっても、適宜設けられた非常停止装置によって、当該モータを安全に停止させることができるような十分に余裕を持った安全回転速度に制限することで、当該回転体を安全に非常停止させることができ、また、回転体の駆動や停止の際にモータに過大な負荷が作用するのを回避することができる。
【0022】
そして、この場合に、前記制御装置は、前記安全回転速度をオペレータが容認するか否かを確認し、オペレータが容認する場合には、前記加工プログラムに指定された前記回転体の回転速度を前記安全回転速度に制限して加工を継続し、オペレータが容認しない場合には、加工を停止するように構成された態様を採ることができる。
【0023】
上述したように、回転速度は表面粗さなど加工精度に影響を与える因子である。そこで、前記安全回転速度で加工することが可能かどうかをオペレータに確認することで、加工品が不良品となるのを未然に防止することができる。
【0024】
また、前記制御装置は、前記回転体のイナーシャに係るデータが設定されていない場合、又は設定されたイナーシャに係るデータが異常値であると判断される場合に、該回転体についてのイナーシャに係るデータを新たに設定可能に構成された態様を採ることができ、更に、制御装置は、前記回転体に回転動作と停止動作とを実行させることにより、該回転体のイナーシャに係るデータを算出して、設定する態様を採ることができる。このようにすれば、回転体のイナーシャを正確に、しかも自動的に設定することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、加工プログラムに指定された回転速度が、回転体のイナーシャに応じて設定される限界回転速度を超えている場合には、回転体の回転速度が当該限界回転速度以下の許容回転速度に制限されるので、仮に、停電やその他の原因によって回転体を駆動するモータが制御不能となっても、適宜設けられた非常停止装置によって、当該モータを安全に停止させることができ、また、回転体の駆動や停止の際にモータに過大な負荷が作用するのを回避することができる。
【0026】
一方、イナーシャに係るデータが設定されていない場合、又は設定されたイナーシャに係るデータが異常値であると判断される場合には、前記回転体の回転速度を、仮に、停電やその他の原因によって回転体を駆動するモータが制御不能となっても、適宜設けられた非常停止装置によって、当該モータを安全に停止させることができるような十分に余裕を持った安全回転速度に制限することで、当該回転体を安全に非常停止させることができ、また、回転体の駆動や停止の際にモータに過大な負荷が作用するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の概略構成を示した説明図である。
【
図2】本実施形態に係る工作機械の概略構成を示したブロック図である。
【
図3】本実施形態の制御装置における処理を示したフローチャートである。
【
図4】本実施形態の制御装置における処理を示したフローチャートである。
【
図5】本実施形態の回転制御部に設けられる非常停止回路を含むモータの回路を示した回路図である。
【
図6】回転体を所定時間内に非常停止させる場合のイナーシャと回転速度との関係を示した線図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1及び
図2に示すように、本例の工作機械1は、所謂横形のマシニングセンタであり、ベッド2、このベッド2上に立設されたコラム3、ベッド2上に設けられたテーブル4、コラム3に保持された主軸頭5、この主軸頭5に回転自在に支持された主軸6、制御装置20及び入出力装置30などから構成される。尚、言うまでもないことであるが、本発明を適用可能な工作機械はこのような構成のものに限られるものではなく、立形のマシニングセンタ、旋盤の他、旋削機能とミーリング機能とを備えた複合加工型の工作機械など、各種の工作機械を適用することができる。
【0030】
前記テーブル4は、上面にワークWが載置され、Y軸送り装置11により駆動されて、水平なY軸方向に移動するとともに、X軸送り装置10により駆動されて、前記Y軸と直交する水平なX軸方向に移動する。また、テーブル4は、テーブルモータ16により駆動されて、鉛直な回転軸を中心として回転する。
【0031】
前記主軸頭5は、Z軸送り装置12により駆動されて、前記X軸及びY軸と直交する鉛直なZ軸方向に移動する。また、主軸6は先端部に工具Tが装着され、主軸モータ15により駆動されて、水平な回転軸を中心として回転する。
【0032】
そして、前記X軸送り装置10、Y軸送り装置11、Z軸送り装置12、主軸モータ15及びテーブルモータ16は、それぞれ前記制御装置20によって、その作動が制御される。
【0033】
斯くして、この工作機械1では、前記制御装置20による制御の下で、主軸モータ15により主軸6及び工具Tを回転させ、且つテーブル4の回転を停止させた状態で、X軸送り装置10及びY軸送り装置11によってテーブル4及びワークWをX軸及びY軸方向に移動させるとともに、Z軸送り装置12によって主軸6及び工具TをZ軸方向に移動させることにより、工具TによってワークWが加工される。また、主軸6の回転を停止させ、且つテーブル4を回転させた状態で、同様に、X軸送り装置10及びY軸送り装置11によってテーブル4及びワークWをX軸及びY軸方向に移動させるとともに、Z軸送り装置12によって主軸6及び工具TをZ軸方向に移動させることにより、工具TによってワークWが旋削加工される。
【0034】
尚、本例の工作機械1では、前記テーブル4、X軸送り装置10、Y軸送り装置11、テーブルモータ16、主軸頭5、主軸6及Z軸送り装置12から運動機構部が構成される。また、前記工具T、主軸6の回転部、及び主軸モータ15の回転部から主軸側の回転体が構成され、ワークW、テーブル4の回転部、及びテーブルモータ16の回転部からテーブル側の回転体が構成される。
【0035】
前記入出力装置30は、例えば、タッチパネルから構成されるディスプレイや、データなどを入出力するための入出力インターフェースなどを備えている。言うまでもないことではあるが、ディスプレイには、画像や文字情報などが表示され、また、表示部を介した入力が可能になっている。
【0036】
前記制御装置20は、
図2に示すように、NCプログラム記憶部21、プログラム実行部22、送り制御部23、回転制御部24、回転速度記憶部25、イナーシャ記憶部26及び回転監視部27などから構成される。尚、制御装置20は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータ、及び適宜構成の電気回路及び電子回路などから構成され、前記プログラム実行部22、送り制御部23、回転制御部24、回転監視部27は、コンピュータプログラムや前記電気回路、電子回路などよってその機能が実現され、後述する処理を実行する。また、NCプログラム記憶部21、回転速度記憶部25、イナーシャ記憶部26はRAMなどの適宜記憶媒体から構成される。
【0037】
前記NCプログラム記憶部21は、NC制御用のNCプログラム(加工プログラム)を記憶する機能部であり、例えば、前記入出力装置30から入力されたNCプログラムを記憶する。
【0038】
前記プログラム実行部20は、前記NCプログラム記憶部21に格納されたNCプログラムの中から、実行するNCプログラムについて、これを構成するブロックごとに順次読み出して、当該ブロック中に含まれるNCコードを処理し、中でも、送り制御に関するNCコードを処理する際には、当該NCコードに係る制御信号を生成して前記送り制御部23に送信し、回転制御に関するNCコードを処理する際には、当該NCコードに係る制御信号を生成して前記回転制御部24に送信する。
【0039】
前記送り制御部23は、前記X軸送り装置10、Y軸送り装置11及びZ軸送り装置12の動作を制御する機能部であり、前記プログラム実行部20から送り制御に係る制御信号を受信して、受信した制御信号に応じた速度で動作するように、当該X軸送り装置10、Y軸送り装置11及びZ軸送り装置12を制御する。
【0040】
前記回転制御部24は、前記主軸モータ15及びテーブルモータ16の回転動作を制御する機能部であり、前記プログラム実行部20から回転制御に係る制御信号を受信して、受信した制御信号に応じた回転方向及び回転速度で、当該主軸モータ15及びテーブルモータ16をそれぞれ回転させる。
【0041】
また、回転制御部24は、停電や、その他の原因により、前記主軸モータ15及びテーブルモータ16に供給される電力が遮断されたときに、当該主軸モータ15及びテーブルモータ16を非常停止させるための非常停止回路を備えている。この非常停止回路は、主軸モータ15及びテーブルモータ16に対応してそれぞれ設けられており、各非常停止回路は、電力供給が遮断されたときに、それぞれ主軸モータ15及びテーブルモータ16に接続されて、
図5に示すような短絡回路を形成する。
【0042】
この短絡回路によれば、例えば、主軸モータ15の場合、電力供給が遮断されて、主軸モータ15を含む主軸側回転体が空転することよって当該主軸モータ15に発生する誘起電流を、コイルに流すことで当該主軸モータ15を含む回転体の回転エネルギーを熱に変換して消費させ(銅損を生じさせ)、これにより主軸モータ15を停止させるというものである。テーブルモータ16についても同様であり、電力供給が遮断されて、テーブルモータ16を含むテーブル側回転体が空転すると、これによりテーブルモータ16に発生する誘起電流を、コイルに流すことで当該テーブルモータ16を含む回転体の回転エネルギーを熱に変換して消費させ(銅損を生じさせ)、これによってテーブルモータ16を停止させる。
【0043】
尚、非常停止回路としては、このような回路に限られるものではなく、例えば、供給電力が遮断されたときに、主軸モータ15及びテーブルモータ16と、これらを駆動する各アンプとの間で動力線間を短絡して、主軸モータ15及びテーブルモータ16の内部抵抗のみで電力を消費させるように構成された短絡回路でも良い。
【0044】
前記回転速度記憶部25は、前記工具T、主軸6の回転部、及び主軸モータ15の回転部から構成される主軸側回転体、並びにワークW、テーブル4の回転部、及びテーブルモータ16の回転部から構成されるテーブル側回転体のそれぞれについて設定された許容回転速度及び安全回転速度を記憶する機能部であり、これらは前記入出力装置30から入力され、当該回転速度記憶部25に格納される。
【0045】
前記許容回転速度は、各モータ15,16が空転したとき、対応する非常停止回路により、前記各モータ15,16が焼き付く前に(安全に)これらを停止させることができる上限の回転速度を限界回転速度として、この限界回転速度以下の回転速度となるように、予め設定された回転速度であり、各回転体(主軸側回転体及びテーブル側回転体)のイナーシャに応じて設定される。
【0046】
例えば、主軸モータ15を含む主軸側回転体を例に説明すると、前記非常停止回路で当該主軸側回転体を安全に停止させることができる時間ts[s]は、主軸側回転体の回転エネルギーをre[J]とし、前記非常停止回路の銅損をPloss[J/s]として、以下の数式1によって算出される。
(数式1)
ts=re/Ploss
【0047】
また、
図2に示した非常停止回路の場合、銅損P
loss[J/s]は、以下の数式2よって算出することができる。
(数式2)
P
loss=3RI
2=R・(K・ω)
2/(R
2+(ω・p・L)
2)
但し、Rは1相分の抵抗値[Ω]、Lは1相分のインダクタンス[H]、Kは線間誘起電圧定数[Vrms/(rad/s)]、ωは回転角速度[rad/s](回転角速度は回転速度[m/s]と等価であるため、以下では、「回転速度」と総称する。)、pは極対数(極数/2)である。
【0048】
更に、前記回転エネルギーreは、以下の数式3によって表すことができる。但し、Iは主軸側回転体のイナーシャ[kgm2]である。
(数式3)
re=(I・ω2)/2
【0049】
よって、前記時間ts[s]は、以下の数式4で表される。
(数式4)
ts=(I・ω2)/(2・Ploss)
【0050】
そして、前記数式4を変形すると、以下の数式5となり、時間tsで主軸側回転体を停止させるための主軸側回転体のイナーシャIと回転速度(即ち、限界回転速度)ωとの関係が得られる。
(数式5)
I=2・ts・Ploss/ω2
【0051】
この主軸回転体のイナーシャIと限界回転速度ωとの関係は、
図6に示した限界曲線で表される。主軸側回転体のイナーシャIに対して、その回転速度ωが、限界曲線より下の領域である場合には、当該回転速度ωは主軸側回転体を安全に非常停止させることができる回転速度であり、限界曲線より上の領域となる場合には、当該回転角速度ωは主軸側回転体を安全には停止させることができない回転速度である。
【0052】
斯くして、前記許容回転速度は、このようにして得られる主軸側回転体のイナーシャIに応じた限界回転速度を基に、この限界回転速度以下の回転速度となるように、イナーシャIに応じて予め設定される。そして、このようにして設定された主軸側回転体のイナーシャと許容回転速度とが相互に関連付けられてデータテーブルの形式で前記回転速度記憶部25に格納される。また、テーブルモータ16を含むテーブル側回転体についても同様に設定され、テーブル側回転体のイナーシャと許容回転速度とが相互に関連付けられてデータテーブルの形式で前記回転速度記憶部25に格納される。
【0053】
尚、前記各回転体のイナーシャI[kgm2]は、各モータ15,16の加速時間をtac[s]、各モータ15,16の加速時の出力をPmotor[w]、回転速度をω[rad/s]とすると、それぞれ、以下の数式6によって算出することができる。
(数式6)
I=(2Pmotor・tac)/ω2
【0054】
また、前記安全回転速度は、前記非常停止回路により、主軸側回転体及びテーブル側回転体のイナーシャが不明な場合でも、各モータ15,16を安全に非常停止させることができるような十分に余裕を持った回転速度であり、主軸側回転体及びテーブル側回転体に対してそれぞれ経験的に設定され、前記回転速度記憶部25に格納される。
【0055】
前記イナーシャ記憶部26は、主軸側回転体及びテーブル側回転体のイナーシャを記憶する機能部であり、これらが判明している場合に、前記入出力装置30を介してその値が入力され、当該イナーシャ記憶部26に格納される。
【0056】
前記回転監視部27は、前記プログラム実行部20の処理が開始されると、これに応じて処理を開始し、
図3及び
図4に示した処理を実行する。具体的には、回転監視部27は、プログラム実行部20の処理が開始されると、まず、当該プログラム実行部20から処理されるNCコードを受信して、受信したNCコードが回転指令に関するものであるか否かを認識(監視)する(ステップS1)。回転指令には、主軸モータ15及びテーブルモータ16に対する指令があるが、以下では、代表例として、主軸モータ15について説明するが、テーブルモータ16についても同様に処理される。尚、テーブルモータ16については括弧書きで付記する。
【0057】
そして、ステップS1において、主軸モータ15(テーブルモータ16)についての回転指令が確認されると、回転監視部27は前記イナーシャ記憶部26を参照して、当該イナーシャ記憶部26に主軸側回転体(テーブル側回転体)のイナーシャに係るデータが格納されているかどうかを確認し(ステップS2)、イナーシャに係るデータが格納されている場合には、前記回転速度記憶部25を参照して、当該イナーシャに対して設定された許容回転速度を確認し、指令された回転速度が許容回転速度以下であるか否かを判別する(ステップS3)。
【0058】
一方、前記ステップS2において、イナーシャに係るデータが格納されていないことが確認されると、回転監視部27は、前記回転速度記憶部25に記憶された安全回転速度を読み出し、この安全回転速度に対応した制御信号を前記回転制御部24に送信して、主軸モータ15(テーブルモータ16)の回転速度を安全回転速度に移行させるとともに、NCプログラムの処理、即ち、加工を一時停止するように前記プログラム実行部22に対して指示した後(ステップS6)、次のステップS7の処理に移行する。
【0059】
また、前記ステップS3において、指令回転速度が許容回転速度以下では無いと判別されて場合には、回転監視部27は、許容回転速度に対応した制御信号を前記回転制御部24に送信して、主軸モータ15(テーブルモータ16)の回転速度を許容回転速度に移行させるとともに、NCプログラムの処理、即ち、加工を一時停止するように前記プログラム実行部22に指示した後(ステップS10)、次のステップS7の処理に移行する。
【0060】
その一方、前記ステップS3において、指令回転速度が許容回転速度以下であると判別された場合には、回転監視部27は、実際の主軸モータ15(テーブルモータ16)の駆動動力を基に、主軸側回転体のイナーシャを推定し、推定したイナーシャを基に、前記イナーシャ記憶部26に格納された主軸側回転体(テーブル側回転体)のイナーシャが正しいかどうかを判別し(ステップS4)、正しい場合には、前記プログラム実行部22から処理を終了する信号を受信するまで、ステップS1以降の処理を繰り返して実行する(ステップS5)。即ち、回転監視部27はプログラム実行部22から回転指令を受信するたびに、ステップS1以降の処理を実行する。一方、イナーシャに誤りがあると判断された場合には、回転監視部27は、前述のステップS6の処理に移行する。
【0061】
尚、前記主軸側回転体(テーブル側回転体)のイナーシャは、上述した数式6によって算出(推定)することができ、回転監視部27は、主軸モータ15(テーブルモータ16)の実際の加速時間をtac[s]、及び加速時の出力Pmotor[w]を前記回転制御部24から取得して、当該イナーシャを推定する。
【0062】
ステップS7では、回転監視部27は、制限した回転速度を前記入出力装置30のディスプレイ上に表示して、この制限回転速度を受け入れて加工を再開するか否かをオペレータに確認する処理を行う。そして、オペレータが制限回転速度を受け入れて加工を再開することを、前記ディスプレイを介して選択する場合には(ステップS8)、この回転速度を制限したまま、前記プログラム実行部22に加工再開信号を送信して、加工を再開させた後(ステップS9)、前記ステップS5の処理に移行する。
【0063】
一方、前記ステップS8において、オペレータが制限回転速度を受け入れないことを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、当該主軸側回転体(テーブル側回転体)のイナーシャを新たに設定するか否かを、前記ディスプレイを介してオペレータに確認し(ステップS11)、オペレータが、新たにイナーシャを設定することを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、更に、自動計測するか否かを、前記ディスプレイを介してオペレータに確認する(ステップS12)。
【0064】
そして、前記ステップS12において、オペレータが、新たにイナーシャを自動計測することを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、回転監視部27はイナーシャの自動計測を実行する(ステップS13)。自動計測は、前記回転制御部24に停止信号を送信して、主軸モータ15(テーブルモータ16)の回転を一旦停止した後、例えば、前記安全回転速度で前記主軸モータ15(テーブルモータ16)を回転させる制御信号を送信して、当該安全回転速度で回転させることによって実行することができ、イナーシャは、このときに前記回転制御部24から得られる主軸モータ15(テーブルモータ16)の実際の加速時間及び加速時の出力、並びに前記安全回転速度を基に、前記数式6によって算出することができる。尚、この自動計測を数回繰り返して実行し、得られたデータを平均することによって、より正確なイナーシャを取得することができる。そして、回転監視部27は算出したイナーシャに係るデータを前記イナーシャ記憶部26に格納する(ステップS13)。
【0065】
次に、回転監視部27は前記イナーシャ記憶部26を参照して、算出したイナーシャに応じた許容回転速度を認識し、認識した許容回転速度を前記ディスプレイ上に表示して、この許容回転速度を受け入れて加工を再開するか否かをオペレータに確認する処理を行う(ステップS14)。そして、オペレータが許容回転速度を受け入れて加工を再開することを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、許容回転速度に係る制御信号を前記回転制御部24に送信して、主軸モータ15を許容回転速度で回転させた後(ステップS16)、前記ステップS9に移行して、加工を再開させる。
【0066】
一方、前記ステップS11において、オペレータがイナーシャを設定しないことを、前記ディスプレイを介して選択する場合、、並びにステップS15において、オペレータが許容回転速度を受け入れないことを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、前記プログラム実行部22に加工を停止させる信号を送信して(ステップS18)、処理を終了する。
【0067】
また、前記ステップS12において、オペレータが、新たなイナーシャを自動計測しないこと、言い換えれば、手入力することを、前記ディスプレイを介して選択する場合には、当該ディスプレイを介して、イナーシャの入力を受け付けて、入力されたイナーシャに係るデータを前記イナーシャ記憶部26に格納した後(ステップS17)、前記ステップS3以降の処理を実行する。
【0068】
以上のように構成された本例の工作機械1によれば、プログラム実行部22によってNCプログラムが実行され、プログラム実行部22からの制御信号に基づいて、送り制御部23によりX軸送り装置10、Y軸送り装置11及びZ軸送り装置12が制御されるとともに、回転制御部24により主軸モータ15及びテーブルモータ16が制御され、これらX軸送り装置10、Y軸送り装置11及びZ軸送り装置12、並びに主軸モータ15及びテーブルモータ16の作動によって、工具TによってワークWが加工される。
【0069】
そして、プログラム実行部22からの制御信号に基づいた回転制御部24による主軸モータ15及びテーブルモータ16の回転制御が、前記回転監視部27によって監視される。
【0070】
即ち、回転監視部27は、プログラム実行部22によって回転指令が処理されるたびに、回転指令に対応した回転体(主軸側回転体、又はテーブル側回転体)について、イナーシャが既知であるか否を確認し(ステップS2)、イナーシャが既知である場合には、回転指令が、イナーシャに対して設定される許容回転数以下であるか否かを判別し(ステップS3)、許容回転数以下である場合に、加工を継続させる。したがって、停電やその他の原因によって回転体を駆動するモータ(主軸モータ15,又はテーブルモータ16)が制御不能となっても、回転制御部24に設けられた非常停止回路によって、焼き付きを生じることなく安全に当該モータ15,16を停止させることができる。また、このような回転速度で加工を行うことにより、回転体を駆動し、停止させる際にモータ15,16に過大な負荷が作用するのを回避することができる。
【0071】
また、回転監視部27は、回転指令がイナーシャに対して設定された許容回転数以下であっても、イナーシャ記憶部26に格納された既知のイナーシャと、実際にモータを回転させることによって推定されるイナーシャとを比較することによって、既知のイナーシャが正しいかどうかを判別し(ステップS4)、既知のイナーシャが正しい場合にのみ、そのままの回転速度で加工を継続するように構成されている。したがって、イナーシャの誤入力により、モータ15,16の回転速度が危険速度のまま加工が継続されるのを未然に防止することができる。
【0072】
また、回転監視部27は、イナーシャが既知でない場合には、モータ15,16の回転速度を安全回転速度に制限するとともに(ステップS6)、回転指令がイナーシャに応じて設定された許容回転速度を超えている場合には、モータの回転速度を許容回転速度に制限するように構成されている(ステップS10)。したがって、モータを非常停止させる際に、前記非常停止回路により、焼き付きを生じることなく安全に当該モータを停止させることができる。
【0073】
また、回転監視部27は、イナーシャが既知でない場合、及び回転指令がイナーシャに応じて設定された許容回転速度を超えている場合には、加工を一時停止し(ステップS6,S10)、オペレータが制限回転速度を受け入れた場合に、当該制限回転速度での加工を再開させるように構成されている(ステップS7-S9)。回転速度を制限した場合には、表面粗さなど、目標とする加工精度を達成することができない場合があるが、制限回転速度で加工することが可能かどうかをオペレータに確認することで、加工品が不良品となるのを未然に防止することができる。
【0074】
また、回転監視部27は、当該回転体のイナーシャを自動計測、又は手入力可能に構成されている(ステップS11-S13、S17)。このようにすることで、イナーシャの設定を柔軟に行うことができる。
【0075】
本例の工作機械1によれば、以上のような効果が奏されるが、本例の加工監視部27による監視は、初めてNCプログラムが実行されるときに特に有益である。NCプログラムが初めて実行される場合には、回転体のイナーシャが適正に設定されているかどうか不明な場合があり、また、指令回転速度は、加工時間や加工精度を満足するように設定され、このため、イナーシャに応じた限界回転速度を超えている可能性があるからである。
【0076】
以上、発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例のものに限定されるものではない。
【0077】
例えば、上例の工作機械1では、回転体として、主軸モータ15を含む主軸側回転体、及びテーブルモータ16を含むテーブル側回転体の双方を備えているが、このような構成に限られるものでは無く、いずれか一方の回転体を備える物でも良く、或いは、全く異なる回転体を備えるものであっても良い。
【0078】
繰返しになるが、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1 工作機械
2 ベッド
3 コラム
4 テーブル
5 主軸頭
6 主軸
10 X軸送り装置
11 Y軸送り装置
12 Z軸送り装置
15 主軸モータ
16 テーブルモータ
20 制御装置
21 NCプログラム記憶部
22 プログラム実行部
23 送り制御部
24 回転制御部
25 回転速度記憶部
26 イナーシャ記憶部
27 回転監視部
30 入出力装置