(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】合成樹脂製ボトル
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
B65D1/02 250
(21)【出願番号】P 2018034994
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】内山 剛志
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0159627(US,A1)
【文献】意匠登録第1566814(JP,S)
【文献】特開2003-011942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0314862(US,A1)
【文献】米国特許第06112925(US,A)
【文献】特開2006-321522(JP,A)
【文献】特開平10-139027(JP,A)
【文献】国際公開第2004/094261(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0334628(US,A1)
【文献】特開2003-261197(JP,A)
【文献】特開2012-180122(JP,A)
【文献】意匠登録第1567373(JP,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部を有する合成樹脂製ボトルにおいて、
アセプティック充填のみに用いられる
、最大減圧吸収量が、内容量400mlあたり10ml以下であるアセプティックボトルであり、
前記胴部に等間隔に配置された4つの減圧吸収パネルと、前記減圧吸収パネル同士の間にそれぞれ配置された円弧状壁面からなる柱部とを有し、
前記減圧吸収パネルは、常温の液体の充填および前記合成樹脂製ボトルの密封の後の減圧を吸収するものであり、
前記減圧吸収パネルの周方向の幅が最大である位置において、前記胴部の横断面における前記柱部の円弧状壁面が仮想的な1つの真円の一部を構成し、前記柱部の円弧状壁面の周長の合計が、前記真円の全周長の55~75%であり、
前記胴部は、ボトルが密封された後の減圧により、前記減圧吸収パネルを起点として、略四角形の形状を維持したまま、各部位の凹みが均等に拡大するように変形することを特徴とする合成樹脂製ボトル。
【請求項2】
筒状の胴部を有する合成樹脂製ボトルにおいて、
アセプティック充填のみに用いられる、最大減圧吸収量が、内容量400mlあたり10ml以下であるアセプティックボトルであり、
前記胴部に等間隔に配置された4つの減圧吸収パネルと、前記減圧吸収パネル同士の間にそれぞれ配置された円弧状壁面からなる柱部とを有し、
前記減圧吸収パネルは、常温の液体の充填および前記合成樹脂製ボトルの密封の後の減圧を吸収するものであり、
前記減圧吸収パネルの周方向の幅が最大である位置において、前記胴部の横断面における前記柱部の円弧状壁面が仮想的な1つの真円の一部を構成し、前記柱部の周方向中心を通る径方向線と、前記柱部の周方向の端縁を通る径方向線とがなす角度が、前記柱部の周方向中心を通る径方向線と、前記柱部に隣接する減圧吸収パネルの周方向中心を通る径方向線とがなす角度の55~75%であり、
前記胴部は、ボトルが密封された後の減圧により、前記減圧吸収パネルを起点として、略四角形の形状を維持したまま、各部位の凹みが均等に拡大するように変形することを特徴とする合成樹脂製ボトル。
【請求項3】
前記胴部の横断面において、前記柱部の周方向の端縁と繋がる減圧吸収パネルの端部は曲率半径が5mm以上の曲線であ
る、請求項1または2に記載の合成樹脂製ボトル。
【請求項4】
4つの前記減圧吸収パネルは互いに同じ形状を有している、請求項1から
3のいずれか1項に記載の合成樹脂製ボトル。
【請求項5】
前記胴部の横断面において、前記減圧吸収パネルは、曲率半径が15mm以上の曲線を含む凹部を有している、請求項1から
4のいずれか1項に記載の合成樹脂製ボトル。
【請求項6】
加温用のボトルである請求項1から
5のいずれか1項に記載の合成樹脂製ボトル。
【請求項7】
少なくとも前記胴部の外周面にエンボス加工部が設けられている、請求項1から
6のいずれか1項に記載の合成樹脂製ボトル。
【請求項8】
飲料がアセプティック充填されて密封され、50℃~60℃の温度に加温された状態で、前記減圧吸収パネルの凹部が外向き凸状に膨らむ、請求項1から
7のいずれか1項に記載の合成樹脂製ボトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂製ボトル、特に、胴部に減圧吸収パネルを有し、ラベルが装着された胴部の外観が真円に近い円筒形状を呈する合成樹脂製ボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
PET(ポリエチレンテレフタレート)等の合成樹脂からなる飲料用の合成樹脂製ボトルは、安価で軽量であるなどの種々の利点を有している。そして、非炭酸飲料においては、飲料を高温に加熱殺菌して高温の状態で耐熱ボトルに充填し密封する熱間充填、或いは飲料を高温短時間で殺菌し、ボトルを薬剤等により滅菌して、無菌条件下で飲料を常温(30℃程度)でボトルに充填して密封する無菌(アセプティック)充填が行われている。前述した無菌充填が行われるボトル(アセプティックボトル)では、未開封状態において経時的に体積変化による内部圧力の低下(減圧)が生じ、それによってボトル胴部がいびつな変形を生じるおそれがある。ボトル胴部がいびつに変形すると外観不良となり、商品価値が著しく低下する。このため、胴部には減圧吸収パネルが設けられている。
特許文献1に記載されている合成樹脂製ボトルでは、底板に螺旋状の凹状溝が形成された擂鉢状凹部から成る減圧吸収部が設けられ、胴部に高さ方向に並列する複数の周状溝から成る補強部が設けられている。
また、特許文献2に記載されているプラスチックボトルは、ボトル胴部の断面が八角形で、各角部に円弧壁面が形成され、各円弧壁面の間に傾斜壁と平坦壁とからなる減圧吸収面が配設された加熱充填可能な八面体のボトルである。このボトルは、円弧壁面の両側に接続された傾斜壁のなす柱角度が60°~115°の範囲の減圧吸収面を備えたプラスチックボトルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-131664号公報
【文献】特開2001-206331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている、底板に減圧吸収部が設けられ、胴部に高さ方向に並列する複数の周状溝(ビード)から成る補強部が設けられた合成樹脂製ボトルや、特許文献2に開示されている、ボトル胴部に減圧吸収面(減圧吸収パネル)が配設されたプラスチックボトルにおいては、胴部にラベル、特に熱収縮フィルムからなるシュリンクラベルを装着すると、ビードや減圧吸収パネルが合成樹脂製ボトルにおいて特有の外観を呈する。このような合成樹脂製ボトルの外観は、充填されて密封される飲料の種類によっては、容器として好ましい外観適性を有さない場合がある。例えば、ガラス製や金属製のボトルと同様に、合成樹脂製ボトルの胴部の外観が真円の円筒状であることが好まれる場合がある。しかしながら、合成樹脂製ボトルにおいては、前述した減圧吸収性能と、ラベルを装着した胴部が真円の円筒形状を呈する外観とを両立させることは困難であった。
【0005】
そこで本発明の目的は、内部の圧力低下を吸収する減圧吸収性能を有し、減圧状態でもボトル胴部のいびつな変形を防止し、かつラベルを装着した胴部の外観が真円に近い円筒形状を呈する合成樹脂製ボトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筒状の胴部を有する合成樹脂製ボトルにおいて、アセプティック充填のみに用いられる、最大減圧吸収量が、内容量400mlあたり10ml以下であるアセプティックボトルであり、胴部に等間隔に配置された4つの減圧吸収パネルと、減圧吸収パネル同士の間にそれぞれ配置された円弧状壁面からなる柱部とを有し、減圧吸収パネルは、常温の液体の充填および合成樹脂製ボトルの密封の後の減圧を吸収するものであり、減圧吸収パネルの周方向の幅が最大である位置において、胴部の横断面における柱部の円弧状壁面が仮想的な1つの真円の一部を構成し、柱部の円弧状壁面の周長の合計が、真円の全周長の55~75%であり、胴部は、ボトルが密封された後の減圧により、減圧吸収パネルを起点として、略四角形の形状を維持したまま、各部位の凹みが均等に拡大するように変形することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、筒状の胴部を有する合成樹脂製ボトルにおいて、アセプティック充填のみに用いられる、最大減圧吸収量が、内容量400mlあたり10ml以下であるアセプティックボトルであり、胴部に等間隔に配置された4つの減圧吸収パネルと、減圧吸収パネル同士の間にそれぞれ配置された円弧状壁面からなる柱部とを有し、減圧吸収パネルは、常温の液体の充填および合成樹脂製ボトルの密封の後の減圧を吸収するものであり、減圧吸収パネルの周方向の幅が最大である位置において、胴部の横断面における柱部の円弧状壁面が仮想的な1つの真円の一部を構成し、柱部の周方向中心を通る径方向線と、柱部の周方向の端縁を通る径方向線とがなす角度が、柱部の周方向中心を通る径方向線と、柱部に隣接する減圧吸収パネルの周方向中心を通る径方向線とがなす角度の55~75%であり、胴部は、ボトルが密封された後の減圧により、減圧吸収パネルを起点として、略四角形の形状を維持したまま、各部位の凹みが均等に拡大するように変形することをもう1つの特徴とする。
【0008】
本発明の合成樹脂製ボトルでは、胴部を構成する減圧吸収パネルの数と、横断面における胴部の柱部が占める領域の割合に関し、内部の圧力低下の減圧吸収と、ラベルを装着した胴部が真円に近い円筒形状を呈する外観とを両立できる条件を規定している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部の圧力低下を吸収する減圧吸収性能を有し、減圧状態でもボトル胴部のいびつな変形を防止し、かつラベルを装着した胴部の外観が真円に近い円筒形状を呈する合成樹脂製ボトルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態の合成樹脂製ボトルの正面図である。
【
図2】
図1のS-S線における外形を輪郭線によって模式的に示す横断面図である。
【
図4】本発明の実施例と比較例1,2の合成樹脂製ボトルの減圧吸収状態の外形を輪郭線によって模式的に示す横断面図である。
【
図6】
図1の合成樹脂製ボトルにシュリンクラベルを装着した状態を示す正面図である。
【
図7】
図6のS-S線における外形の一部を輪郭線によって模式的に示す拡大横断面図である。
【
図8】
図1の合成樹脂製ボトルに飲料を充填した際の加熱前と加熱後における外形の一部を輪郭線によって模式的に示す拡大横断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の合成樹脂製ボトルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[合成樹脂製ボトルの基本構造]
図1は本発明の第1の実施形態の合成樹脂製ボトル1の正面図を示し、
図2は
図1のS-S線における横断面形状を模式的に示している。
図3は
図2の一部を拡大して示している。この合成樹脂製ボトル1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂からなり、コーヒーや茶等の非炭酸飲料を収容して保存するものであり、特に、前述したアセプティック充填に適した合成樹脂製ボトルである。この合成樹脂製ボトル1は、
図1に示すように、下方から上方に向かって、ヒール部2と、筒状の胴部3と、上方に向かって先細になるテーパ状(略円錐状)の肩部4と、小径の首部5が設けられたボトルであり、ヒール部2が平面(例えば机やテーブルの天面や床面等)の上に載置された状態で自立可能である。首部5の端部は飲み口となる開口部である。開口部の外周には雄ねじ部6が設けられており、雌ねじ部(図示せず)を有するスクリューキャップ7がねじ込まれて封止される。
【0012】
[胴部の構造]
図1,2に示すように、合成樹脂製ボトル1の胴部3には、上下を円弧状とした4つの減圧吸収パネル8が等間隔に配置され、減圧吸収パネル8同士の間にそれぞれ柱部9が設けられ、減圧吸収パネル8は凹部8aを有している。
図2,3に示すように、柱部9は円弧状壁面9aからなり、胴部3の横断面における全ての柱部9の円弧状壁面9aが、仮想的な1つの真円10の一部をそれぞれ構成している。一方、減圧吸収パネル8の壁面は凹状であり、全ての柱部9の円弧状壁面9aを繋いで仮想的に構成する真円10には重ならない。なお、減圧吸収パネル8の壁面は平面状でも良い。本発明では、胴部3の横断面(例えばS-S線における横断面)において、各柱部9の円弧状壁面9aの周長の合計(「全柱部総周長A」と称する)が、全ての柱部9の円弧状壁面9aを繋いで仮想的に構成する真円10の全周長(「真円全周長B」と称する)の55~75%である。図示している具体例では、全柱部総周長Aが真円全周長Bの63%である。
【0013】
合成樹脂製ボトル1の胴部3において、全ての減圧吸収パネル8の周方向長さが等しく、全ての柱部9が同一形状であってそれらの周方向長さが等しい場合には、前述した真円全周長Bに対する全柱部総周長Aの割合A/Bは、以下のように求めることができる。すなわち、
図3に示すように、横断面において、減圧吸収パネル8の周方向中心8bを通る径方向線L1と、それに隣接する柱部9の周方向中心9cを通る径方向線L2とがなす角度Yに対する、径方向線L2と柱部9(減圧吸収パネル8)の周方向の端縁9bを通る径方向線L3とがなす角度Xの割合X/Yが、前述した長さの割合A/Bに相当する。柱部9の周方向の端縁9bとは、円弧状壁面9aの曲率が変化する点であって、仮想的な真円10に重なる部分と重ならない部分との境界の点である。なお、本実施形態における角度Xは28.5°、角度Yは45°であるため、角度の割合X/Yは28.5/45=63%である。
【0014】
本発明において、前述したように全柱部総周長Aを真円全周長Bの55~75%に設定することの技術的意義について説明する。
従来の一般的な合成樹脂製ボトルでは、胴部3の横断面における全柱部総周長Aは、真円全周長Bの10%以下である。言い換えると、減圧吸収パネル8が占める割合が約90%以上であり、減圧を十分に吸収して合成樹脂製ボトルの変形を小さく抑えることができる。しかし、胴部3の大部分は、壁面が円弧状ではない減圧吸収パネル8から構成されているので、横断面形状は略多角形状であり、シュリンクラベルを装着した胴部3の外観が略多角形の角筒形状を呈する。
【0015】
これに対し、本発明の合成樹脂製ボトル1では前述した胴部の構造に関し、減圧吸収性能を維持しつつ、シュリンクラベルを装着した胴部3(
図6参照)の外観が真円に近い円筒形状を呈する設計条件を導き出している。アセプティック充填により飲料が充填された合成樹脂製ボトル1の未開封状態の経時的な減圧は、主に、首部5のヘッドスペース内の酸素が飲料に溶け込むことによる酸素の体積減少と、合成樹脂製ボトル1内に収容された飲料の僅かな胴部3からの水分透過による飲料の体積減少とに起因する。一方、熱間充填により飲料が充填された合成樹脂製ボトルの減圧は、前述のアセプティック充填における体積減少に加え、高温で充填され密封された飲料及びヘッドスペース内の気体の温度が常温に冷える事による体積減少にも起因する。この為、アセプティック充填用の合成樹脂製ボトル(アセプティックボトル)1における必要減圧吸収量は、熱間充填用の合成樹脂製ボトル(耐熱ボトル)に比して少量である。例えば、内容量400ml程度(高さ:162mm、胴径:66mm、胴部の長さ:103mm、口径:38mm)のアセプティックボトルでは、必要減圧吸収量は約1年で7ml程度である。そして、このような体積減少の違いを考慮し、減圧を吸収しても過度のいびつな変形が生じない減圧吸収パネル8の大きさを確保するには、減圧吸収パネル8が胴部3の壁面全体の25%以上を占める必要があることを見出した。そこで、本発明では、胴部3の横断面における柱部9の総周長Aを、真円全周長Bの75%以下に設定して減圧吸収パネル8の大きさを確保し、減圧吸収を可能にしている。なお、十分な減圧吸収性能を得るためには、減圧吸収パネル8の上下方向の長さは、胴部3の上下方向の全長の70%以上であることが好ましい。
【0016】
一方、胴部3において、壁面が凹状または平面状の減圧吸収パネル8が占める割合が大き過ぎると、胴部3の横断面形状が略多角形状になる。そこで、本発明では、胴部3の横断面における全柱部総周長Aを真円全周長Bの55%以上に設定するとともに、減圧吸収パネルの数を4つにすることにより、シュリンクラベルを装着した胴部3の外観が真円に近い円筒形状にすることができる。尚、減圧吸収パネル8の数を少なくするとともに個々の減圧吸収パネル8を大きくすると、凹状または平坦面である壁面が大きくなり、シュリンクラベルを装着した胴部3の外観が真円に近い円筒形状を呈することが困難になる。一方、減圧吸収パネル8の数が多いと、個々の減圧吸収パネル8が小さくなり減圧吸収性能が大幅に低下する為、必要な減圧吸収性能が得られなくなる。従って、これらの状況を考慮した上で、本発明では、個々の減圧吸収パネル8の周方向の幅を大きくすることなく、かつ減圧吸収パネル8の数を少なく抑えつつ、減圧吸収性能と真円に近い外観とを両立できる合成樹脂製ボトルとして、減圧吸収パネルの数(4つ)と、胴部3の横断面における全柱部総周長Aの真円全周長Bに対する割合(55%以上、すなわち従来の5倍以上)を特定した合成樹脂製ボトル1を作製した。
【0017】
このように、本発明の合成樹脂製ボトル1において、周方向の幅が比較的小さい減圧吸収パネル8の数が4つであることの意義について以下に説明する。通常、個々の減圧吸収パネル8の大きさが小さい場合には、減圧吸収パネル8の数を増やすことが必要であると考えられる。しかし、減圧吸収パネル8の数を増やすと、円弧状壁面9aを有する柱部9の占める割合が小さくなって、真円状の外観を呈することができなくなる。本出願人は、ある程度の減圧吸収を行っても真円に近い外観を呈するためには、減圧吸収による胴部の外周の凹みが均等に生じて、局所的に大きな凹みが生じないことが重要であることに着目した。
【0018】
そこで、本発明に係る4つの減圧吸収パネル8を有する合成樹脂製ボトル(実施例)と、減圧吸収パネル8を持たない合成樹脂製ボトル(比較例1)と、本発明と同様な減圧吸収パネル8を6つ有する合成樹脂製ボトル(比較例2)について、減圧吸収状態を調べた。具体的には、比較例1の合成樹脂製ボトルの初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が7ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(a)に示している。そして、比較例1の合成樹脂製ボトルの初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が10ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(b)に示している。比較例2の合成樹脂製ボトルの初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が7ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(c)に、初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が10ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(d)にそれぞれ示している。同様に、実施例の合成樹脂製ボトルの初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が7ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(e)に、初期状態(2点鎖線にて図示)と、容積が10ml減少した減圧吸収状態との胴部3の横断面の輪郭を
図4(f)にそれぞれ示している。また、表1に、実施例と比較例1,2の減圧吸収量の上限値を示している。これは、胴部3にいびつな変形を生じない外観を目視で認識できる最大の減圧吸収量を示しており、減圧吸収量の実測値が表1に記載されている値を超えると、合成樹脂製ボトルがいびつに変形し、シュリンクラベルを装着しても真円状に見えない。
【表1】
【0019】
図4(a)を見ると、比較例1において容積が7ml減少した減圧吸収状態では、合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭が略五角形状になっている。そして、
図4(b)を見ると、容積が10ml減少した減圧吸収状態では、略五角形の図面右上及び左上の辺において大きな凹みが生じるのに対して、右下及び左下の辺における凹みは小さく、上の辺においてはほとんど凹みが生じていない。すなわち、容積が10ml減少した減圧吸収状態では、比較例1の合成樹脂製ボトルの胴部3の凹みが均等ではなく偏りを生じており、外形がいびつになっているため、この胴部3にシュリンクラベルを装着した合成樹脂製ボトル1は真円状の外観を呈することはできない。表1に示すように、この比較例1の合成樹脂製ボトルの最大減圧吸収量は3mlであった。
【0020】
図4(c)を見ると、比較例2において容積が7ml減少した減圧吸収状態では、合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭が、各減圧吸収パネル8が各辺の主要部を構成する略六角形状になっている。しかし、その胴部3の凹みは均等ではなく、略六角形の図面上下及び右上及び左下の辺では初期状態に比べて凹みが生じているのに対し、右下及び左上の辺では初期状態と同様であり凹みがほとんど生じていない。
図4(c)を拡大した
図5のA部分に顕著に示されているように、比較例2の合成樹脂製ボトルの胴部3にはいびつな変形が生じている。そして、
図4(d)を見ると、容積が10ml減少した減圧吸収状態では、比較例2の合成樹脂製ボトルの胴部3の外形がさらにいびつに変形しており、この胴部3にシュリンクラベルを装着した合成樹脂製ボトル1は真円状の外観を呈することはできない。表1に示すように、この比較例2の合成樹脂製ボトルの最大減圧吸収量は5mlであった。
【0021】
これに対し、
図4(e)に示すように、本発明の実施例の合成樹脂製ボトルでは、容積が7ml減少した減圧吸収状態で、胴部3の横断面の輪郭が、各減圧吸収パネル8が各辺の主要部を構成する略四角形状になっている。この合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭は、略四角形の各辺においてほぼ均等な凹みを生じている。そして、この合成樹脂製ボトルは、
図4(f)に示すように、容積が10ml減少した減圧吸収状態においても、容積が7ml減少した減圧吸収状態とほぼ同様に、胴部3の横断面の輪郭が略四角形状で、略四角形の各辺においてほぼ均等な凹みを生じている。このように、本実施例の合成樹脂製ボトルは、容積が7ml減少した減圧吸収状態よりも容積が10ml減少した減圧吸収状態の方が僅かに大きい凹みを生じるものの、容積が7ml減少した減圧吸収状態でも容積が10ml減少した減圧吸収状態でも4辺において比較的均等に凹みが生じ、局所的に著しく大きい凹みは生じず、外形全体がいびつに変形しない。従って、本実施例の胴部3にシュリンクラベルを装着した合成樹脂製ボトル1は、真円に近い外観を呈する。表1に示すように、本実施例の合成樹脂製ボトル1の最大減圧吸収量は10mlであった。
【0022】
比較例2の減圧吸収状態について再度考察すると、
図4(c)を見ると、減圧吸収量が小さい時(容積7ml減少)には、合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭が減圧吸収パネル8の数に応じた略多角形(略六角形)状である。しかし、
図4(d)を見ると、減圧吸収量が大きい状態(容積10ml減少)になると、合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭が、六角形と言うよりもむしろ四角形に近い形状になっている。このことから、外形が四角形であると、他の多角形よりも安定した構造になると考えられる。すなわち、減圧吸収に伴って変形する過程で、合成樹脂製ボトルの胴部3は、比較的安定な四角形状の外形になるように変形する。比較例2では、もともと略六角形であった胴部3が略四角形に変形するため、いびつな変形を生じて凹みの大きさが部位によって異なり、真円に近い形状にはならない。そこで、合成樹脂製ボトルの胴部3に4つの減圧吸収パネルを均等に配置しておくと、減圧吸収に伴って変形する際に、減圧吸収パネルを起点として略四角形の形状を概ね維持したまま、各部位の凹みが概ね均等に拡大する。従って、いびつな変形を生じることがなく、シュリンクラベルを装着したボトル胴部を真円に近い形状にすることができる。
【0023】
以上のことから、合成樹脂製ボトルの胴部3の横断面の輪郭が四角形に近い形状になるように、減圧吸収パネル8を4つ有することが好ましい。さらに、これらの4つの減圧吸収パネル8は全て同じ形状および大きさを有し、等間隔で配置されていることが好ましい。すなわち、4つの減圧吸収パネル8が90度の角度間隔でそれぞれ配置されることが好ましい。
【0024】
図6,7に示すように、本実施形態の合成樹脂製ボトル1の胴部3の外面には熱収縮フィルムからなるシュリンクラベル11が装着される。具体的には、
図7の拡大横断面に模式的に示すように、シュリンクラベル11は主に柱部9の円弧状壁面9aに装着される。そして、減圧吸収パネル8の凹部8aには密着せずに僅かに浮いた状態で凹部8aを覆う。この結果、シュリンクラベル11によって、胴部3の外観は真円に近い円筒形状を呈することになる。しかしながら、減圧吸収パネル8と柱部9の境界である端縁9b(
図3参照)が鋭角的で、シュリンクラベル11が端縁9bに圧接すると、縦方向(上下方向)に延びる筋がシュリンクラベル11に形成され、外観が多角形の角筒のような印象を与える。このため、柱部9の端縁9bと減圧吸収パネル8との繋ぎ部分の横断面形状(
図3参照)を、丸みを持った曲線形状(端部8c)に形成することが好ましく、前記曲線形状の曲率半径R(b)を5mm以上にすることにより、前述した筋の形成が防止され、シュリンクラベル11によって、胴部3の外観が真円に近い円筒形状を呈するという目的の妨げにならない。好ましい例としては、曲率半径R(b)は10mm程度である。
【0025】
[加熱変形について]
本実施形態の合成樹脂製ボトル1は、飲料が充填されて密封され、ホットウォーマーやホットベンダー等によって、例えば50℃~60℃程度の温度に加熱されて加温販売されると、内部の空気及び内容液の膨張等によって内部の圧力が上昇する。そして、この圧力の上昇によって、
図8の拡大横断面図に模式的に示すように、各減圧吸収パネル8の凹部8aが変形して外向きに凸状に膨らみ、柱部9の円弧状壁面9aと揃って横断面形状が略円弧状になり、合成樹脂製ボトル1の胴部3が、より一層、真円に近い円筒形状になることが期待できる。
図8には、変形前(加熱前)の凹部8aの形状を破線で、変形後(加熱後)の凹部8aの形状を実線でそれぞれ示している。この減圧吸収パネル8の凹部8aの変形は、減圧吸収パネル8の凹部8aの曲率半径R(a)(
図3参照)が小さいと、合成樹脂製ボトル1が加熱されても凹部8aが外向きに凸状に膨らむ変形は生じにくく、合成樹脂製ボトル1の胴部3が真円に近い円筒形状を呈さない傾向を示す。一方、凹部8aの曲率半径R(a)が大きいと、合成樹脂製ボトル1が高温になると凹部8aが外向きに凸状に膨らんで、ボトル1の胴部3が真円に近い円筒形状を呈する傾向を示す。すなわち、本発明の合成樹脂製ボトルは、加温用のボトルとして用いられることに特に適している。
【0026】
[他の実施形態]
図9に、本発明の第2の実施形態の合成樹脂製ボトル20を示す。この合成樹脂製ボトル20は、ヒール部2、胴部3、肩部4の外周面の全面に亘って、多数の微小な凹凸が形成されている。このような多数の微小な凹凸を有する形状を、ここでは「エンボス加工部」と称する。前述した本発明の第1の実施形態の合成樹脂製ボトル1において、前記外周面にこのようなエンボス加工部12を形成すると、合成樹脂製ボトル1の胴部3に、より一層、真円に近い円筒の外観の印象を与えることが可能になる。その理由について以下に説明する。尚、エンボス加工部は少なくとも胴部3に形成されていれば良い。
【0027】
合成樹脂製ボトルの胴部の外観の形状が、真円の円筒ではなく多角形の角筒の印象を与える大きな要因の1つは、減圧吸収パネル8と柱部9の境界に位置する端縁9b、またはその近傍が、縦方向(上下方向)に延びる筋として認識されることである。すなわち、縦方向に延びる筋が認識されると、ボトルの胴部の形状が曲面ではなく平面と平面とが接合し、その接合部分が縦方向に延びる筋として見えていると認識される。その結果、合成樹脂製ボトルの胴部の形状が真円の円筒ではなく多角形の角筒と認識される。従って、縦方向に延びる筋を目立たないようにすれば、胴部の形状が真円の円筒であるような印象を与え易い。すなわち、
図9に示すように、合成樹脂製ボトル20の胴部3の外周面にエンボス加工部12を設けると、端縁9bまたはその近傍に縦方向に延びる筋が生じていても、エンボス加工部12の多数の微小な凹凸が目に入るため、筋が目立たなくなる。その結果、筋が認識され難いため、胴部の形状が真円の円筒の印象を与える。本実施形態の合成樹脂製ボトルでは、このように意図的に錯視を利用して、合成樹脂製ボトル20の胴部3の形状が真円に近い円筒であるという印象を効果的に与えることができる。特に、前述したように
図3に示す曲率半径R(b)を5mm以上に設定することに加えて、
図9に示すエンボス加工部12を形成すると、胴部3の形状が真円の円筒であるような印象を与える上でより効果的である。この観点からは、エンボス加工部12は、少なくとも端縁9bとその近傍のみに設けられていれば良いと考えられる。しかしながら、エンボス加工部12とそれ以外の部分との外観の印象が大きく異なることを避けるため、胴部3の外周面の全面にエンボス加工部12を形成することが好ましい。また、このエンボス加工部12は、合成樹脂製ボトル20に飲料を充填して密封して加温販売された場合に、購入者が合成樹脂製ボトル20を保持した際に熱さを感じさせにくくする(熱を伝えにくくする)という効果も奏する。
【0028】
エンボス加工部12は、互いに交差する複数の細い溝状の凹部を形成することによって、1cm
2あたり1~8個程度(
図9に示す例では4.5個)の凸部を形成したものである。従って、凹部の深さは、0.1~0.5mm程度(
図9に示す例では0.3mm)である。
【0029】
なお、本実施形態の合成樹脂製ボトル20においても、胴部3の横断面における全柱部総周長Aは、真円全周長Bの55~75%である。その他の構成に関しては、前述した第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0030】
[変形例]
以上説明した各実施形態の合成樹脂製ボトルは、上下方向に沿って延びる形状の減圧吸収パネル8を有しているが、上下方向に対して傾斜する減圧吸収パネル8を有することもできる。その場合には、柱部9も同様に上下方向に対して傾斜する形状になる。これらの上下方向に対する傾斜角度は30度以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 合成樹脂製ボトル
2 ヒール部
3 胴部
4 肩部
5 首部
6 雄ねじ部
7 スクリューキャップ
8 減圧吸収パネル
8a 凹部
8b 減圧吸収パネルの周方向中心
8c 端部
9 柱部
9a 円弧状壁面
9b 端縁
9c 柱部の周方向中心
10 仮想的な真円
11 シュリンクラベル
12 エンボス加工部