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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20240130BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019084285
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020179779
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206181(JP,A)
【文献】特開2018-197048(JP,A)
【文献】特開2019-018694(JP,A)
【文献】特開2015-189411(JP,A)
【文献】特開2019-026208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアクチュエータを制御することによって目標経路に基づいて車両を走行させる車両の制御装置であって、
前記車両が走行する道路において前記車両が通行可能な道路幅を取得する幅情報取得部と、
前記車両の周辺情報に基づいて目標主経路を生成する主経路生成部と、
前記車両が通行可能な前記道路幅の範囲内で前記目標主経路に前記車両を追従させる経路として前記目標経路を作成する経路作成部と、
前記目標経路に沿って前記車両を走行させる追従制御量を導出して、前記追従制御量での前記アクチュエータの駆動を指示する追従制御を実行する制御部と、を備え
前記経路作成部は、前記追従制御において前記車両の位置を前記目標主経路に近づける際に前記道路幅が狭いほど前記車両に急旋回を促す経路として前記目標経路を作成する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記追従制御では、前記車両の位置と前記目標主経路との乖離度合いを入力とするフィードバック制御によって前記追従制御量を導出するようになっており、
前記フィードバック制御のゲインは、前記道路幅が狭いほど大きい
請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記追従制御では、前記車両の位置と前記目標主経路との乖離度合いと、前記車両を前記目標主経路に接近させる際に前記車両に付加する運動量と、に基づいて前記追従制御量を導出するようになっており、
前記制御部は、前記追従制御量の導出に際して、前記道路幅が狭いほど前記乖離度合いを前記追従制御量に反映させる比重を大きくする
請求項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行を支援する車両の制御装置が開示されている。制御装置は、車両の走行制御を行う際の目標として目標軌跡を生成して、目標軌跡に車両を追従させるように車両を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/086684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目標軌跡に車両を追従させるように車両が走行されているときに外部環境の影響を車両が受けると、車両が目標軌跡から乖離してしまうことがある。外部環境による影響としては、車両が横風を受けること、路面上の段差を車両の車輪が通過すること等、が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車両のアクチュエータを制御することによって目標経路に基づいて車両を走行させる車両の制御装置であって、前記車両が走行する道路において前記車両が通行可能な道路幅を取得する幅情報取得部と、取得された前記道路幅に基づいて前記目標経路を作成する経路作成部と、前記目標経路に沿って前記車両を走行させる制御量を導出して、該制御量に基づいて前記アクチュエータを駆動させる制御部と、を備えることをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、取得された道路幅を考慮した目標経路に車両を追従させることができる。そのため、外部環境の影響を車両が受ける場合であっても、車両の通行可能な範囲で当該車両を走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】車両の制御装置の一実施形態と、同制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図。
図2】同制御装置によって認識される車両周辺の環境を示す模式図。
図3】同制御装置が目標軌跡を生成する際に実行する処理の流れを示すフローチャート。
図4】同制御装置が目標軌跡を生成する際に実行する処理の流れを示すフローチャート。
図5】同制御装置が目標軌跡に基づいて車両を走行させる際に実行する処理の流れを示すフローチャート。
図6】同制御装置が目標軌跡に基づいて車両を走行させる際の車両の走行経路を示す模式図。
図7】同制御装置が制御量の算出に用いるフィードバック制御のゲインと、道路幅との関係を示す図。
図8】車両が目標軌跡から乖離するか否かを判定するために同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
図9】目標軌跡から乖離した車両と、比較例の制御装置によって再生成される目標軌跡を示す模式図。
図10】車両の可動範囲に基づいて車両が目標軌跡から乖離することを予測する例を示す模式図。
図11】変更例の制御装置が制御量の算出に用いる補正項と、道路幅との関係を示す図。
図12】変更例の制御装置が制御量の算出に用いる補正項と、道路幅との関係を示す図。
図13】他の変更例の制御装置を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、車両の制御装置の一実施形態について、図1図10を参照して説明する。
図1は、車両の制御装置100と、制御装置100の制御対象である車両90と、を示している。
【0009】
車両90は、車両90に駆動力を付与する内燃機関91を備えている。車両90は、車両90に制動力を付与する制動装置92を備えている。車両90は、車両90の車輪の舵角を変更するステアリング装置93を備えている。
【0010】
車両90は、車両90の周辺の環境を監視する周辺監視装置81を備えている。周辺監視装置81としては、たとえば、カメラ、レーダーまたはレーザー光を用いた検出装置等を用いることができる。周辺監視装置81は、異なる種類の検出装置を組み合わせて構成されていてもよい。周辺監視装置81は、道路形状の取得および車線の認識を行う。また、周辺監視装置81は、車両90周辺に存在する障害物の大きさや位置情報を取得する。障害物としては、たとえば、他の車両、歩行者、ガードレールおよび壁を挙げることができる。周辺監視装置81が取得した情報は、制御装置100に入力される。
【0011】
車両90は、位置情報取得装置82を備えている。位置情報取得装置82は、車両90の現在位置として自車位置CPを検出する機能を有している。たとえば、位置情報取得装置82は、地図情報が記憶されている地図情報記憶部と、GPS衛星から送信される情報の受信装置と、によって構成することができる。位置情報取得装置82が取得した自車位置CPは、制御装置100に入力される。
【0012】
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの例として、車輪速センサ88と、ヨーレート加速度センサ89と、を示している。
図1に示すように、車両90が備える各種センサからの検出信号は、制御装置100に入力される。
【0013】
制御装置100は、車輪速センサ88からの検出信号に基づいて、車輪速度VWを算出する。制御装置100は、車輪速度VWに基づいて車速VSを算出する。制御装置100は、ヨーレート加速度センサ89からの検出信号に基づいて、ヨーレートYrを算出する。また、制御装置100は、ヨーレート加速度センサ89からの検出信号に基づいて、車両90に付与されている加速度として車両加速度Gを算出する。
【0014】
制御装置100は、車輪速度VWと車速VSとに基づいて、車両90の各車輪についてスリップ量を算出する。制御装置100は、算出したスリップ量に基づいて、車両90が走行している路面のμ値を推定する。
【0015】
制御装置100は、車両90の走行を制御する走行制御系として、機関制御部30と舵角制御部40と制動制御部20とを備えている。機関制御部30と舵角制御部40と制動制御部20とは、それぞれが通信可能に接続されているECUである。なお、「ECU」は、「Electronic Control Unit」の略記である。
【0016】
機関制御部30は、内燃機関91が有するアクチュエータを駆動させて内燃機関91を制御する。内燃機関91が有するアクチュエータは、燃料噴射弁、点火装置、およびスロットルバルブ等である。
【0017】
舵角制御部40は、ステアリング装置93が有するアクチュエータを駆動させて車両90の舵角を制御する。
制動制御部20は、機能部として、軌跡追従制御部21と運動制御部22とを有している。運動制御部22は、制動装置92が有するアクチュエータを駆動させて車両90に付与される制動力を制御する。さらに、運動制御部22は、機関制御部30および舵角制御部40に対して、内燃機関91およびステアリング装置93の駆動を指示することによって車両90を走行させることができる。
【0018】
軌跡追従制御部21は、後述する走行支援部10とともに車両90の走行を支援する走行制御を実行する。軌跡追従制御部21は、自車位置CPを起点に車両90を走行させた際に車両90が到達可能な範囲として可動範囲PAを算出する処理を実行する。可動範囲PAは、車両90の車両特性が記憶された車両モデルに基づいて算出される。車両モデルは、制動制御部20に記憶されている。車両モデルは、たとえば、前後の車輪間における距離であるホイールベース、左右の車輪間における距離であるトレッド、車両90の重量、舵角の最大角度、および車速VSの最大速度等を含んでいる。軌跡追従制御部21は、こうした車両モデルに基づいて、車両90が有するアクチュエータを駆動させた場合の当該駆動に伴う車両90の運動状態量を推定することによって可動範囲PAを算出する。可動範囲PAの算出には、車両90の現在の状態および路面のμ値も用いられる。車両90の現在の状態は、たとえば、車速VS、ヨーレートYr、車両加速度Gおよび舵角等を含んでいる。
【0019】
制御装置100は、車両の走行を支援する走行制御を実行することができる。制御装置100は、走行制御では、生成した目標軌跡TLに車両90が追従して走行するように車両90の走行を制御する。
【0020】
制御装置100は、走行制御に関わるECUとして走行支援部10を備えている。走行支援部10は、制動制御部20と通信可能に接続されている。走行支援部10は、機能部として、外部情報合成部11とフリースペース抽出部12と目標軌跡生成部13と目標位置選択部14と幅情報取得部15とを有している。
【0021】
図2を用いて走行支援部10が有する各機能部について説明する。図2は、車両90が走行する道路70の一例を示している。道路70には、障害物78および他車両79が存在している。
【0022】
外部情報合成部11は、周辺監視装置81が取得した情報を合成して道路70上の環境を把握する。外部情報合成部11は、道路70に関する情報と位置情報取得装置82が取得した自車位置CPとを合成して、車両90の周辺の環境を把握する。すなわち、外部情報合成部11は、道路70の形状、障害物78および他車両79等の情報と、自車位置CPと、を合成して、図2に示すように、道路70上において車両90と障害物78と他車両79との位置関係を把握する情報を作成する。
【0023】
フリースペース抽出部12は、外部情報合成部11によって合成された道路70上において車両90と障害物78と他車両79との位置関係を把握する情報に基づいて、車両90が走行する道路70における車両90が走行可能な領域をフリースペース71として抽出する。図2には、破線で囲まれた領域としてフリースペース71が例示されている。
【0024】
目標軌跡生成部13は、走行制御において車両90を走行させるための目標軌跡TLを生成する。目標軌跡生成部13は、図2に示すように、車両90がフリースペース71を通過できるように目標軌跡TLを生成する。目標軌跡生成部13は、目標軌跡TLを生成する際に、制動制御部20の軌跡追従制御部21が算出する可動範囲PAを用いる。可動範囲PAの一例が、図10に示されている。図10は、道路70を車両90が走行する様子を示している。図10には、車両90の可動範囲PAの範囲を表す左境界線PALと右境界線PARとが一点鎖線で示されている。左境界線PALは、前進する車両90が左旋回する場合に到達可能な範囲と到達不可能な範囲との境界線を示している。右境界線PARは、前進する車両90が右旋回する場合に到達可能な範囲と到達不可能な範囲との境界線を示している。すなわち、左境界線PALと右境界線PARとの間が可動範囲PAである。
【0025】
目標位置選択部14は、目標軌跡生成部13が生成した目標軌跡TLのうち、自車位置CPよりも車両90の前方の部分から目標位置TPを選択する。目標位置TPは、走行制御において車両90を誘導するための目標として設定される。目標位置選択部14は、走行制御が実行されている間、自車位置CPおよび可動範囲PA等に基づいて、目標位置TPの選択を繰り返す。
【0026】
幅情報取得部15は、図2に示すように、目標軌跡TLとフリースペース71とに基づいて、自車位置CPよりも車両90の前方の道路70において車両90が走行可能な領域の幅に関する情報を道路幅Wiとして算出する。たとえば、道路幅Wiは、目標軌跡TLと車両90の上下方向との双方と直交する方向においてフリースペース71の一端から他端までの長さである。図2には、道路幅Wiの例を四つ示している。図2に示す例では、フリースペース71内に障害物が無い位置における道路幅Wiを第1道路幅Wi1として示している。また、図2には、目標軌跡TLに追従して走行する車両90が他車両79の側方を通過する際の道路幅Wiを第2道路幅Wi2として示している。さらに、車両90が他車両79と障害物78との間を通過する際の道路幅Wiを第3道路幅Wi3として示している。また、車両90が障害物78の側方を通過する際の道路幅Wiを第4道路幅Wi4として示している。幅情報取得部15は、図2に例示する四つの道路幅Wiに限らず、目標軌跡TL上の複数の地点において各地点での道路幅Wiを取得する。
【0027】
制御装置100が実行する走行制御の一例について説明する。走行制御では、目標軌跡生成部13が生成する目標軌跡TLに沿って車両90を走行させるための経路として、追従経路FTが算出される。追従経路FTは、軌跡追従制御部21によって算出される。たとえば、車両90が目標軌跡TL上を走行している場合には、追従経路FTは、目標軌跡TL上の経路として算出される。追従経路FTに基づいて、車両90を追従経路FTに沿って走行させるための制御量Acが軌跡追従制御部21によって算出される。制御量Acに基づいて車両90が制御されることによって、追従経路FTに沿って車両90が走行する。これによって、目標軌跡TLに追従するように車両90の走行が制御される。
【0028】
軌跡追従制御部21は、幅情報取得部15が取得する道路幅Wiを追従経路FTの算出に用いる。軌跡追従制御部21は、車両90の横方向において車両90が通行可能な範囲として道路幅Wiを用いる。すなわち、軌跡追従制御部21は、目標軌跡TL上から選択される目標位置TPに対して、車両90の上下方向および目標軌跡TLの双方と直交する方向において自車位置CPの乖離が許容される範囲として道路幅Wiを用いる。このため、目標軌跡TLから車両90が乖離している場合には、例えば図6に示すように道路幅Wiの範囲で車両90を走行させながら自車位置CPを徐々に目標軌跡TLに近づけるような追従経路FTが算出される。すなわち、軌跡追従制御部21は、追従経路FTを算出し、道路幅Wiの範囲内で目標軌跡TLに車両を追従させる追従制御量を制御量Acとして導出する。制御量Acに基づいて制動制御部20は、アクチュエータの駆動を運動制御部22によって指示する追従制御を実行する。
【0029】
なお、走行制御が実行されているときにおける目標軌跡TLからの車両90の乖離は、たとえば、外部環境の影響を車両90が受けることを要因として生じ得る。外部環境による影響としては、凍結または轍等の路面状態、または横風等が挙げられる。
【0030】
図3および図4を用いて、制御装置100の走行支援部10が目標軌跡TLを生成して目標軌跡TL上の目標位置TPを選択する際の処理の流れについて説明する。
図3に示す処理ルーチンは、目標軌跡TLの生成を開始するための処理ルーチンである。本処理ルーチンは、走行制御が行われているとき、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0031】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、走行支援部10の外部情報合成部11は、車両90の外部情報を合成する。具体的には、外部情報合成部11は、周辺監視装置81と位置情報取得装置82から取得した情報を合成する。走行支援部10は、外部情報合成部11によって合成された情報に基づいて、車両90が走行する道路等の情報を把握する。その後、処理がステップS102に移行される。
【0032】
ステップS102では、ステップS101において外部情報合成部11によって合成された情報に基づいてフリースペース抽出部12がフリースペース71を抽出する。その後、処理がステップS103に移行される。
【0033】
ステップS103では、幅情報取得部15が、自車位置CPよりも車両90の前方の道路70における道路幅Wiを算出する。その後、処理がステップS104に移行される。
ステップS104では、走行支援部10は、車両90の現在位置よりも前方の目標軌跡TLが既に生成済みであるか否かを判定する。目標軌跡TLを未だ生成していない場合(S104:NO)、処理がステップS105に移行される。ステップS105では、走行支援部10は、第1再生成トリガTGR1を出力する。第1再生成トリガTGR1は、目標軌跡生成部13に対して目標軌跡TLの生成を走行支援部10が要求する信号である。第1再生成トリガTGR1が出力されると、本処理ルーチンが終了される。
【0034】
一方、ステップS104の処理において車両90の現在位置よりも前方の目標軌跡TLが既に生成済みである場合(S104:YES)、処理がステップS106に移行される。ステップS106では、走行支援部10は、目標軌跡TLに基づいて走行される車両90がフリースペース71を走行可能であるか否かを判定する。走行支援部10は、目標軌跡TLがフリースペース71の領域からはみ出さない場合には、車両90がフリースペース71を走行可能であると判定する。車両90がフリースペース71を走行可能である場合(S106:YES)、本処理ルーチンが終了される。
【0035】
一方で、走行支援部10は、目標軌跡TLがフリースペース71の領域からはみ出す場合には、車両90がフリースペース71を走行できないと判定する。車両90がフリースペース71を走行できない場合(S106:NO)、処理がステップS105に移行される。ステップS105では、走行支援部10は、第1再生成トリガTGR1を出力する。すなわち、走行支援部10は、目標軌跡生成部13に対して目標軌跡TLの再生成を要求する。第1再生成トリガTGR1が出力されると、本処理ルーチンが終了される。
【0036】
図4に示す処理ルーチンは、目標位置TPを選択するための処理ルーチンである。本処理ルーチンは、走行制御が行われているとき、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201において、走行支援部10は、制動制御部20によって算出される可動範囲PAを取得する。その後、処理がステップS202に移行される。
【0037】
ステップS202では、第1再生成トリガTGR1または第2再生成トリガTGR2が検出されるか否かが目標軌跡生成部13によって判定される。詳しくは後述するが、第2再生成トリガTGR2は、制動制御部20で実行される処理を通じて制動制御部20から走行支援部10に出力される信号である。第1再生成トリガTGR1が検出される場合(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。第2再生成トリガTGR2が検出される場合にも(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。また、第1再生成トリガTGR1と第2再生成トリガTGR2との双方が検出される場合にも処理がステップS203に移行される。
【0038】
ステップS203では、目標軌跡生成部13は、目標軌跡TLを生成する。目標軌跡TLが生成されると、処理がステップS204に移行され、走行支援部10が完了トリガTGCを制動制御部20に出力する。完了トリガTGCは、目標軌跡TLの生成が完了したことを伝達する信号である。完了トリガTGCが出力されると、処理がステップS205に移行される。
【0039】
一方、ステップS202の処理において第1再生成トリガTGR1および第2再生成トリガTGR2のいずれも検出されない場合には(S202:NO)、処理がステップS205に移行される。すなわち、第1再生成トリガTGR1および第2再生成トリガTGR2がいずれも検出されない場合には、ステップS203およびステップS204の処理が実行されない。
【0040】
ステップS205では、目標位置選択部14は、目標軌跡TL上から目標位置TPを選択する。目標位置選択部14は、自車位置CPと可動範囲PAとに基づいて、目標軌跡TL上から可動範囲PA内の点を抽出して、当該抽出した点を目標位置TPとして選択する。可動範囲PA内における目標軌跡TL上の点が複数存在している場合には、複数の点のうちいずれか一つの点が目標位置TPとして選択される。目標位置TPが選択されると、本処理ルーチンが終了される。
【0041】
図5を用いて、制御装置100の制動制御部20が実行する処理の流れについて説明する。図5に示す処理ルーチンは、追従経路FTおよび制御量Acを算出するための処理ルーチンである。本処理ルーチンは、走行制御が行われているとき、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0042】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS301において、制動制御部20が走行支援部10から情報を取得する。制動制御部20は、自車位置CPと、目標位置選択部14が選択する目標位置TPと、幅情報取得部15が算出する道路幅Wiと、を情報として取得する。その後、処理がステップS302に移行される。ステップS302では、制動制御部20の軌跡追従制御部21は、既に記憶されている目標位置TPの履歴を保持しつつステップS301において取得した目標位置TPを新たに記憶する。その後、処理がステップS303に移行される。
【0043】
ステップS303では、軌跡追従制御部21は、再生成判定処理を実行する。再生成判定処理の内容については、図8を用いて後述する。再生成判定処理が終了されると、処理がステップS304に移行される。
【0044】
ステップS304では、軌跡追従制御部21は、完了トリガTGCが検出されているか否かを判定する。完了トリガTGCは、走行支援部10から制動制御部20に出力されたものである。完了トリガTGCが検出されている場合(S304:YES)、処理がステップS305に移行される。
【0045】
ステップS305では、軌跡追従制御部21は、記憶している目標位置TPの履歴をリセットする。軌跡追従制御部21は、走行支援部10から目標位置TPを再取得する。さらに、軌跡追従制御部21は、車両90が走行した経路の履歴を取得して記憶する。ステップS304の処理において完了トリガTGCを検出したということは、目標軌跡TLが再生成されたことを意味する。すなわち、軌跡追従制御部21は、目標軌跡TLが再生成された場合、ステップS305の処理において、目標軌跡TLが再生成される以前に記憶していた目標位置TPを消去する。そして、軌跡追従制御部21は、再生成された目標軌跡TLに基づいて選択された最新の目標位置TPを取得する。その後、処理がステップS306に移行される。
【0046】
一方、ステップS304の処理において完了トリガTGCが検出されていない場合(S304:NO)、処理がステップS306に移行される。すなわち、完了トリガTGCが検出されていない場合には、ステップS305の処理が実行されない。
【0047】
ステップS306では、軌跡追従制御部21は、目標軌跡TLに沿って車両90を走行させる追従経路FTを道路幅Wiに基づいて算出する。その後、処理がステップS307に移行され、軌跡追従制御部21は、追従経路FTに従って車両90を走行させるための制御量Acを算出する。すなわち、内燃機関91に対する制御量、ステアリング装置93に対する制御量、および、制動装置92に対する制御量が制御量Acとして算出される。制御量Acが算出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0048】
軌跡追従制御部21によって制御量Acが算出されると、制動制御部20の運動制御部22は、制御量Acに基づいた駆動を車両90の各アクチュエータに指示する処理を実行する。すなわち、制動制御部20は、制動装置92に対する制御量に基づいて制動装置92のアクチュエータを制御する。機関制御部30は、内燃機関91に対する制御量に基づいて内燃機関91のアクチュエータを制御する。舵角制御部40は、ステアリング装置93に対する制御量に基づいてステアリング装置93のアクチュエータを制御する。
【0049】
図6および図7を用いて、追従経路FTおよび制御量Acについて説明する。
図6は、走行制御の実行によって道路70を車両90が走行する際の様子を示している。目標軌跡TLは、目標軌跡生成部13によって道路70の形状に応じて生成されている。目標位置選択部14によって目標軌跡TL上の点が目標位置TPとして選択されている。図6に示す例では、車両90は、目標軌跡TLから乖離している。軌跡追従制御部21は、図6に示すように、道路幅Wiの範囲で車両90を走行させながら自車位置CPを徐々に目標軌跡TLに近づける経路として追従経路FTを算出する。換言すれば、追従経路FTは、目標軌跡TLから乖離している車両90が道路幅Wiの範囲で目標位置TPの側方を通過する経路である。
【0050】
軌跡追従制御部21は、図6に示したように道路幅Wiの範囲内で目標軌跡TLに車両90を追従させる追従制御が実行される際、道路幅Wiが狭いほど車両90に急旋回を促す経路として追従経路FTを作成する。すなわち、軌跡追従制御部21は、道路幅Wiが狭いほど、自車位置CPと目標軌跡TLとの乖離度合いを急速に小さくする経路を追従経路FTとして作成する。追従経路FTを作成すると、軌跡追従制御部21は、追従経路FTに従って車両90を走行させるための制御量Acを算出する。たとえば、軌跡追従制御部21は、自車位置CPと目標軌跡TLとの乖離度合いを入力とするフィードバック制御によって制御量Acを算出する。図7には、当該フィードバック制御におけるフィードバック制御のゲインと道路幅Wiとの関係を示している。図7に示すように、道路幅Wiが狭いほどフィードバック制御のゲインが大きく設定される。このため、道路幅Wiが狭いほど制御量Acが大きく算出され、車両90に急旋回が促される。
【0051】
図8は、図5におけるステップS303の再生成判定処理の処理ルーチンを示している。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS401において、軌跡追従制御部21は、自車位置CPと目標位置TPとの距離を逸脱量Aoとして算出する。逸脱量Aoは、目標軌跡TLに対する車両90の乖離度合いを示す値である。逸脱量Aoは、たとえば、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して右側の領域に自車位置CPが存在する場合には、正の値として算出される。この場合、車両90が目標軌跡TLから乖離するほど逸脱量Aoが大きくなる。一方、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して左側の領域に自車位置CPが存在する場合には、逸脱量Aoは、負の値として算出される。この場合、車両90が目標軌跡TLから乖離するほど逸脱量Aoが小さくなる。逸脱量Aoが算出されると、処理がステップS402に移行される。
【0052】
ステップS402では、軌跡追従制御部21は、可動範囲PAを算出する。可動範囲PAが算出されると、処理がステップS403に移行される。
ステップS403では、軌跡追従制御部21は、自車位置CPと可動範囲PAとに基づいて、予測経路PTを算出する。予測経路PTは、可動範囲PAの範囲内における経路である。予測経路PTは、たとえば、可動範囲PAと目標軌跡TLとの交点を目標位置TPに最も近づけるような経路として算出される。この場合、目標位置TPが可動範囲PA内に位置するときには、自車位置CPと目標位置TPとを結ぶ経路が予測経路PTとして算出される。一方、目標位置TPが可動範囲PA外に位置する場合、左境界線PALまたは右境界線PARに沿った経路が予測経路PTとして算出される。その後、処理がステップS404に移行される。
【0053】
ステップS404では、軌跡追従制御部21は、目標軌跡TLと予測経路PTとに基づいて、予測逸脱量Apoを算出する。軌跡追従制御部21は、予測経路PTが目標軌跡TLから最も離れる位置における目標軌跡TLと予測経路PTとの乖離量を予測逸脱量Apoとして算出する。予測逸脱量Apoは、目標軌跡TLに対する車両90の乖離度合いの予測値である。予測逸脱量Apoは、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して右側の領域に予測経路PTが含まれる場合には、正の値として算出される。この場合、予測される乖離度合いが大きいほど予測逸脱量Apoが大きくなる。一方、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して左側の領域に予測経路PTが含まれる場合には、予測逸脱量Apoは、負の値として算出される。この場合、予測される乖離度合いが大きいほど予測逸脱量Apoが小さくなる。予測逸脱量Apoが算出されると、処理がステップS405に移行される。
【0054】
ステップS405では、軌跡追従制御部21は、逸脱量Aoの大きさが第1逸脱閾値Tho1よりも大きいか否かを判定する。また、ステップS405では、軌跡追従制御部21は、予測逸脱量Apoの大きさが第2逸脱閾値Tho2よりも大きいか否かを判定する。逸脱量Aoの大きさが第1逸脱閾値Tho1以下であり、且つ、予測逸脱量Apoの大きさが第2逸脱閾値Tho2以下である場合(S405:NO)、本処理ルーチンが終了される。
【0055】
一方、ステップS405の処理において、逸脱量Aoの大きさが第1逸脱閾値Tho1よりも大きい場合には(S405:YES)、処理がステップS406に移行される。また、予測逸脱量Apoの大きさが第2逸脱閾値Tho2よりも大きい場合にも(S405:YES)、処理がステップS406に移行される。ステップS406では、軌跡追従制御部21は、第2再生成トリガTGR2を走行支援部10に出力する。第2再生成トリガTGR2は、目標軌跡生成部13に対して目標軌跡TLの再生成を軌跡追従制御部21が要求する信号である。第2再生成トリガTGR2が出力されると、本処理ルーチンが終了される。
【0056】
なお、第1逸脱閾値Tho1および第2逸脱閾値Tho2は、走行支援部10によって算出された値にそれぞれ設定されている。走行支援部10は、車両90が走行する道路70の形状に基づいて、車両90が目標軌跡TLから逸脱することを許容する領域として図10に二点鎖線で示すような逸脱許容領域72を設定する。走行支援部10は、逸脱許容領域72に基づいて第1逸脱閾値Tho1および第2逸脱閾値Tho2を設定する。
【0057】
また、第1逸脱閾値Tho1は、予測逸脱閾値である第2逸脱閾値Tho2よりも大きい値として設定される。図8に示す処理の流れでは、予測逸脱量Apoの大きさが第2逸脱閾値Tho2以下である場合には第2再生成トリガTGR2が出力されない。しかし、車両90が予測よりも大きく目標軌跡TLから乖離して逸脱量Aoが予測逸脱量Apoを大きく上回った場合には、逸脱量Aoの大きさが第1逸脱閾値Tho1よりも大きくなると、第2再生成トリガTGR2が出力される。
【0058】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
制御装置100では、道路幅Wiの範囲で車両90を走行させながら自車位置CPを徐々に目標軌跡TLに近づける経路として、軌跡追従制御部21によって追従経路FTが算出される。この際、道路幅Wiを考慮して追従経路FTが算出される。そして、この追従経路FTに従って車両90を走行させることによって、道路幅Wiを考慮して目標軌跡TLに車両90を追従させることができる。そのため、外部環境の影響によって車両90が目標軌跡TLから乖離した場合であっても、道路70における車両90の通行可能な範囲で車両90を走行させることができる。
【0059】
制御装置100では、車両90が通行可能な範囲としての道路幅Wiが目標軌跡TLとともに制動制御部20によって取得される。すなわち、道路70における車両90が通行可能な範囲を制動制御部20が把握することができる。そのため、制動制御部20側で追従経路FTを作成し、当該追従経路FTに従って車両90を走行させることができる。したがって、車両90が目標軌跡TLから乖離した場合、目標軌跡TLの再生成を伴わずに制動制御部20による追従制御だけで走行制御を継続することができる。
【0060】
ここで、車両90が目標軌跡TLから乖離している場合に、その時点で選択されている目標位置TPと自車位置CPとを結ぶ経路を追従経路FTとして作成する場合を考える。この場合、目標位置TPと自車位置CPとの距離が近すぎると、追従経路FTに従って車両90を走行させる際に車両90を急旋回させることとなり、車両90の乗員に不快感を与えてしまう虞がある。この点、制御装置100では、目標軌跡TLと車両90の位置との乖離度合いを徐々に小さくするような経路が追従経路FTとして算出される。すなわち、追従経路FTが算出される時点で選択されている目標位置TPと自車位置CPとを結ぶ経路が追従経路FTとして作成されるわけではない。これによって、車両90が目標軌跡TLから乖離している場合に、急な旋回を伴って車両90が目標位置TPに向かうことを抑制できる。
【0061】
なお、制御装置100では、道路幅Wiを考慮して追従経路FTが作成される。すなわち、道路幅Wiが狭いほど車両90に急旋回を促すような経路が追従経路FTとして作成される。そして、こうした追従経路FTに従って車両90を走行させることによって、道路幅Wiが狭くても、道路70から逸脱しないように車両90に走行させることができる。一方、道路幅Wiが広い場合には、目標軌跡TLと車両90の位置との乖離度合いが緩やかに小さくなるように追従経路FTが作成される。そして、こうした追従経路FTに従って車両90を走行させることによって、追従制御中における車両90の運動量の急激な変化が抑えられる。その結果、車両90の乗員に不快感を与えにくい。
【0062】
さらに、制御装置100では、制御量Acを算出する際のフィードバック制御のゲインは、追従経路FTの作成時に取得されている道路幅Wiが狭いほど大きく設定される。そして、当該ゲインが大きいほど制御量Acが大きくなりやすい。このため、道路幅Wiが狭いために車両90に急旋回を促すような追従経路FTが作成された場合には、フィードバック制御のゲインが大きくされ、制御量Acが大きくなりやすい。こうした制御量Acに基づいて車両のアクチュエータが駆動されることによって、車両90を追従経路FTに従って走行させやすい。つまり、当該追従経路FTに沿った車両走行を実現できる。
【0063】
一方、道路幅Wiが広いために車両90に緩やかな旋回を促すような追従経路FTが作成された場合、フィードバック制御のゲインが大きいと、制御量Acが過剰に大きくなる場合がある。この場合、当該制御量Acに基づいてアクチュエータを駆動させると、制御量Acの増減が繰り返されるようなハンチングが発生する虞がある。この点、制御装置100では、道路幅Wiが広いほどフィードバック制御のゲインが小さく設定される。すなわち、制御量Acが大きくなりにくい。これによって、車両90を追従経路FTに従って走行させる際に、ハンチングの発生を抑制することができる。
【0064】
なお、目標軌跡TLと車両90との位置とが乖離していない場合であっても、道路幅Wiの変化に起因して、車両90の旋回量が多くなるような目標軌跡TLが生成されることがある。このような場合であっても、道路幅Wiが狭いほどフィードバック制御のゲインを大きくすることによって、当該目標軌跡TLに従って車両90を走行させやすくなる。
【0065】
図9は、比較例の制御装置によって走行制御が行われる車両90を示している。比較例の制御装置は、予測逸脱量Apoを算出する構成を備えていない。このため、比較例の制御装置では、車両90が目標軌跡TLから乖離して逸脱量Aoの大きさが閾値よりも大きくなると、目標軌跡TLが再生成されることとなる。換言すれば、車両90の目標軌跡TLからの実際の乖離度合いが大きくならないと、目標軌跡TLが再生成されない。このため、車両90が道路70の境界線を越えることを抑制するために、車両90の急旋回を促すような軌跡が目標軌跡TLとして再生成される虞がある。このような車両90の急旋回を抑制するためには、逸脱許容領域72を道路70の幅に対して制限することが望ましい。図9に示す例では、道路70の幅に対して半分よりも狭い幅の領域が逸脱許容領域72として設定されている。図9には、目標軌跡TLから乖離して逸脱許容領域72の外に出た車両90を破線で示している。比較例の制御装置では、逸脱許容領域72の外に車両90が出たと判定されると、走行制御を継続するために目標軌跡TL´が再生成される。すなわち、逸脱許容領域72の外に車両90が出たと判定されると車両90が道路70の境界線を越える状況に至らない場合であっても、再生成された目標軌跡TL´が設定される。そして、再生成された目標軌跡TL´に車両90が追従するように車両90の走行が制御される。
【0066】
図10は、本実施形態の制御装置100によって走行制御が行われる車両90を示している。図10には、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して右側に逸脱した車両90を破線で示している。このとき、軌跡追従制御部21によって算出された可動範囲PAの左境界線PALに沿った経路が予測経路PTとして算出されているとする。図10には、左境界線PALを一点鎖線で示している。この場合、図8のステップS404の処理において軌跡追従制御部21によって算出される予測逸脱量Apoは、図10に示すように第2逸脱閾値Tho2よりも小さい。このため、第2再生成トリガTGR2が出力されず、目標軌跡TLの再生成は要求されない(S405:NO)。目標軌跡TLが保持され、車両90は、目標軌跡TLから選択された目標位置TPに追従するように制御される。
【0067】
ところで、道路70の路面のμ値が低いことなどを要因として車両90が旋回しにくい場合、μ値が高く車両90を旋回させやすい場合と比較して、可動範囲PAが狭くなる。図10には、道路70の路面のμ値が低い場合の左境界線が左境界線PAL´として図示されている。この場合、左境界線PAL´に沿った経路が予測経路PTとして算出される。この場合、予測逸脱量Apoが第2逸脱閾値Tho2よりも大きいため、車両90が逸脱許容領域72の外に出ることが予測される。すなわち、ステップS404の処理において軌跡追従制御部21によって算出される予測逸脱量Apoが第2逸脱閾値Tho2よりも大きくなる。このため、第2再生成トリガTGR2が出力されて、目標軌跡TLの再生成が要求される(S406)。これによって、目標軌跡TLが再生成される(S203)。車両90は、再生成された目標軌跡TLから選択された目標位置TPに追従するように制御される。
【0068】
以上のように、制御装置100では、可動範囲PAに基づいて算出する予測逸脱量Apoを用いて、車両90が逸脱許容領域72の外に出るか否かを予測することができる。このため、制御装置100によれば、比較例の制御装置の場合のように逸脱許容領域72を狭く設定しなくてもよい。その結果、比較例の制御装置と比して、車両90が目標軌跡TLから乖離しても目標軌跡TLの再生成が要求されにくくなる。すなわち、制御装置100では、目標軌跡TLを再生成しなくても目標軌跡TLに車両90を追従させることが可能である場合には、目標軌跡TLの再生成が要求されないのである。制御装置100によれば、目標軌跡TLの再生成が要求される頻度を少なくしつつ、目標軌跡TLに追従するように車両90を制御することができる。
【0069】
ここで、目標軌跡TLが再生成された場合、目標軌跡TLの再生成に伴って車両90の走行制御の連続性が途切れやすい。走行制御の連続性を持続するためには、目標軌跡TLが再生成される前後で車両の運動量が大きく変わらないように、目標軌跡TLを再生成することが好ましい。このため、目標軌跡TLの再生成の頻度が高いと、目標軌跡TLが択一的になりやすく、走行制御によって車両90が走行する経路の自由が制限されやすくなる。制御装置100によれば、目標軌跡TLの再作成の頻度の増大を抑制することによって、走行制御において車両90を走行させる経路の選択の幅が狭くなることを抑制できる。
【0070】
走行制御の実行中に車両90が目標軌跡TLから乖離して目標軌跡TLの再生成が必要となった場合、目標軌跡TLが再生成されるタイミングが遅いほど、目標軌跡TLとして設定されうる経路の選択の幅が狭くなる。この点、制御装置100によれば、可動範囲PAに基づいて算出する予測逸脱量Apoを用いて、車両90が逸脱許容領域72の外に出るか否かを予測することができる。このため、車両90が実際に逸脱許容領域72の外に出る前に目標軌跡TLの再生成を要求することができる。その結果、車両90が実際に逸脱許容領域72の外に出てから目標軌跡TLの再生成が要求される場合と比較して、目標軌跡TLが再生成されるタイミングの遅延を抑制できる。したがって、目標軌跡TLとして設定されうる経路の選択の幅が狭くなりにくい。
【0071】
ところで、走行制御において車両90を目標位置TPに誘導する制御量Acを算出する際には、車両特性を考慮することが求められる。このため、制御装置100では、制動制御部20は、車両特性が記憶された車両モデルを備えている。そして、制御装置100では、制動制御部20の軌跡追従制御部21が可動範囲PAの算出を行う。すなわち、車両モデルを備えているECUである制動制御部20において、車両モデルを用いて可動範囲PAが算出される。このため、制御装置100によれば、車両特性をECU間の送受信によって別途取得しなければならない場合と比較して、可動範囲PAを効率よく算出することができる。
【0072】
以下、上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係を記載する。
軌跡追従制御部21は、「取得された前記道路幅に基づいて前記目標経路を作成する経路作成部」に対応する。軌跡追従制御部21と運動制御部22とを有する制動制御部20は、「前記目標経路に沿って前記車両を走行させる制御量を導出して、該制御量に基づいて前記アクチュエータを駆動させる制御部」に対応する。追従経路FTは、「目標経路」に対応する。
【0073】
また、目標軌跡生成部13は、「前記車両の周辺情報に基づいて目標主経路を生成する主経路生成部」に対応する。目標軌跡TLは、「目標主経路」に対応する。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・上記実施形態において、図3図5および図8に示した処理の流れは、走行制御に関する処理の一例である。道路幅Wiを取得して、道路幅Wiの範囲内で目標軌跡TLに追従するように車両90を走行させる走行制御を実行するのであれば、上記実施形態で説明した処理の流れとは異なる処理の流れで各種の処理を実行するようにしてもよい。この場合であっても、上記実施形態と同様に、外部環境の影響を車両90が受けても道路70における車両90の通行可能な範囲で車両90を走行させることができる。
【0075】
・上記実施形態では、目標軌跡TLと直交する方向におけるフリースペース71の一端から他端までの長さを道路幅Wiとしている。道路幅Wiは、目標軌跡TLと直交する方向におけるフリースペース71の一端の位置と、フリースペース71の他端の位置と、を含む位置情報であってもよい。位置情報からなる道路幅Wiを用いる場合であっても、上記実施形態と同様に、車両90が通行可能な範囲を認識することができ、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0076】
・上記実施形態では、道路幅Wiの範囲内で目標軌跡TLに車両90を追従させる追従経路FTを軌跡追従制御部21が算出した。これに替えて、道路70の幅に関する情報である道路幅Wiが考慮された目標軌跡TLを目標軌跡生成部13が生成してもよい。この場合、取得される道路幅Wiが変わる毎に目標軌跡TLを逐次更新するとよい。そして、軌跡追従制御部21は、目標軌跡TLから選択された目標位置TPと自車位置CPとを結ぶ経路として追従経路を算出する。こうした構成においても、上記実施形態と同様に、道路幅Wiの範囲内で目標軌跡TLに沿って車両90を走行させることができる。なお、この場合には、目標軌跡生成部13は、「取得された前記道路幅に基づいて前記目標経路を作成する経路作成部」に対応する。目標軌跡TLは、「目標経路」に対応する。
【0077】
・上記実施形態では、追従経路FTの算出時点での道路幅Wiに応じてフィードバック制御のゲインを可変させるようにしているが、当該ゲインを規定値で固定してもよい。
・上記実施形態では、制御量Acの算出に関して道路幅Wiが狭いほどフィードバック制御のゲインを大きくすることによって、道路幅Wiが狭いほど車両90を急旋回させやすいように構成している。道路幅Wiが狭いほど車両90を急旋回させやすくするためには、たとえば、次のような制御量Acの算出処理を採用してもよい。
【0078】
軌跡追従制御部21は、自車位置CPと目標軌跡TLとの乖離度合いと、車両90を目標軌跡TLに接近させる際に車両90に付加する運動量と、に基づいて制御量Acを算出する。さらに、軌跡追従制御部21は、道路幅Wiに基づいて、乖離度合いを制御量Acに反映する比重と、運動量を制御量Acに反映する比重と、を変更する。具体的には、軌跡追従制御部21は、乖離度合いに対して第1補正項We1を乗算した第1制御量と、運動量に対して第2補正項We2を乗算した第2制御量と、の和に基づく値を制御量Acとして算出する。
【0079】
図11は、道路幅Wiと第1補正項We1との関係を例示している。第1補正項We1は、道路幅Wiが狭いほど大きく、道路幅Wiが広いほど小さい値である。このため、乖離度合いを制御量Acに反映する比重は、道路幅Wiが狭いほど大きくされる。
【0080】
図12は、道路幅Wiと第2補正項We2との関係を例示している。第2補正項We2は、道路幅Wiが狭いほど小さく、道路幅Wiが広いほど大きい値である。このため、運動量を制御量Acに反映する比重は、道路幅Wiが狭いほど小さくされる。
【0081】
車両90が通行可能な道路幅Wiが狭いときは、道路幅Wiが広いときと比較して、車両90が道路70の境界線を越えやすくなる。上記構成によれば、道路幅Wiが狭いほど第1補正項We1が大きくなるため、第1制御量が大きくなりやすい。その結果、道路幅Wiが狭いほど乖離度合いを解消するように車両90に急旋回を促すことができる。これによって早期に車両90を目標軌跡TLに近づけることができる。
【0082】
一方で、道路幅Wiが広い場合には、車両90が目標軌跡TLから大きく乖離している虞がある。この場合、道路幅Wiが広いほど第1補正項We1が小さくなるため、第1制御量が大きくなりにくい。その結果、車両90を目標軌跡TLに緩やかに近づけることができる。ただし、道路幅Wiが広いほど第2補正項We2が大きくなるため、運動量が大きいときには、制御量Acを大きくすることができる。
【0083】
・上記第1制御量と第2制御量との和に基づく値を制御量Acとする処理を採用する場合、第1補正項We1を道路幅Wiに応じて可変させるのであれば、第2補正項We2を可変させなくてもよい。同様に、第2補正項We2を道路幅Wiに応じて可変させるのであれば、第1補正項We1を可変させなくてもよい。第1補正項We1または第2補正項We2のいずれか一方を規定の値とした場合でも、道路幅Wiに基づいて、乖離度合いを制御量Acに反映する比重と、運動量を制御量Acに反映する比重と、を変更することができる。
【0084】
・上記実施形態では、走行支援部10が目標軌跡生成部13および目標位置選択部14を備えている。目標軌跡TLを生成する機能部である目標軌跡生成部13と、目標位置TPを選択する機能部である目標位置選択部14とは、必ずしも走行支援部10が備えていなくてもよい。
【0085】
たとえば、図13に示すように、制御装置200は、目標軌跡生成部13と目標位置選択部14とを備える制動制御部120を有していてもよい。なお、図13に示す制御装置200では、上記実施形態と同様の構成については上記実施形態と同様の符号を付している。
【0086】
・上記実施形態において、軌跡追従制御部21を、制動制御部20ではなく、走行支援部10に設けてもよい。この場合、可動範囲PAおよび追従経路FTの算出に必要な各種の情報が、制動制御部20から走行支援部10に出力されることとなる。
【0087】
・上記実施形態では、たとえば図10のように目標軌跡TLが道路70の中央を通過するように設定されている例を示している。目標軌跡TLが道路70の中央を通過するように生成されている場合、第1逸脱閾値Tho1および第2逸脱閾値Tho2は、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して右側と左側とでそれぞれ大きさが等しい。
【0088】
一方で、目標軌跡TLが道路70の中央を通らないように設定される場合もある。この場合、第1逸脱閾値Tho1および第2逸脱閾値Tho2は、車両90の進行方向において目標軌跡TLに対して右側と左側とで大きさが異なる。このため、目標軌跡TLに対して左右のどちらに車両90が逸脱するかによって、対応する逸脱閾値を用いる。適当な逸脱閾値を用いて逸脱量Aoまたは予測逸脱量Apoとの比較を行うことによって、目標軌跡TLが通過する位置にかかわらず、目標軌跡TLの再生成が必要であるか否かを判定することができる。
【0089】
・上記実施形態では、第1再生成トリガTGR1または第2再生成トリガTGR2の検出に基づいて、目標軌跡TLの再生成が目標軌跡生成部13に要求される。目標軌跡TLの再生成を要求する構成は、トリガ信号の出力に限定されるものではない。たとえば、目標軌跡TLの再生成を要求する際に再生成要求フラグをオンにして、再生成要求フラグがオンであるときに目標軌跡生成部13によって目標軌跡TLが再生成される構成を採用してもよい。
【0090】
・上記実施形態では、内燃機関91を備える車両90を例示している。車両90の駆動源は、内燃機関91に限られるものではない。たとえば、車両90は、モータジェネレータおよび内燃機関91を駆動源とするハイブリッド車両でもよい。また、車両90は、モータのみを駆動源とする電気自動車でもよい。
【0091】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(A)アクチュエータを制御することによって目標軌跡に基づいて車両を走行させる車両の制御装置であって、
前記車両の周辺の環境を把握する外部情報合成部を有する走行支援部と、前記走行支援部と通信する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記走行支援部から取得した前記車両の周辺の環境に基づいて前記目標軌跡を生成する目標軌跡生成部と、
当該目標軌跡上の点を目標位置として設定する目標座標選択部と、を有する。
【0092】
(B)前記制御部は、前記目標位置に前記車両を追従させる制御量を算出する処理を実行する。
(C)前記制御部は、前記制御量に基づいた駆動を前記アクチュエータに指示する処理を実行する。
【0093】
(D)前記制御部は、
前記アクチュエータの駆動に伴う前記車両の運動状態量に基づいて、前記車両の現在位置を起点に該車両を走行させた際に該車両が到達可能な範囲として可動範囲を算出する処理と、
該可動範囲と前記目標位置とに基づいて、前記車両の位置が前記目標軌跡から乖離するか否かを判定する処理と、
前記車両の位置が前記目標軌跡から乖離すると判定したときに、前記目標軌跡の再生成を前記目標軌跡生成部に要求する処理と、を実行し、
前記目標軌跡生成部は、前記制御部から前記目標軌跡の再生成が要求されたときに、前記目標軌跡を再生成する。
【0094】
(E)前記制御部は、前記目標位置に向けて前記車両を走行させた際における前記車両が到達する位置と当該目標位置とのずれの予測値である予測逸脱量を、前記可動範囲を用いて導出して、前記予測逸脱量の大きさが予測逸脱閾値よりも大きいとき、前記車両の位置が前記目標軌跡から乖離すると判定する。
【0095】
以下、上記実施形態における事項と、上記技術的思想における事項との対応関係を記載する。
制動制御部20は、「前記走行支援部と通信する制御部」に対応する。軌跡追従制御部21は、「制御量を算出する処理」を実行する。運動制御部22は、「前記制御量に基づいた駆動を前記アクチュエータに指示する処理」を実行する。さらに、軌跡追従制御部21は、「可動範囲を算出する処理」と、「前記車両の位置が前記目標軌跡から乖離するか否かを判定する処理」と、「前記目標軌跡の再生成を前記目標軌跡生成部に要求する処理」を実行する。また、軌跡追従制御部21は、「前記目標位置に向けて前記車両を走行させた際における前記車両が到達する位置と当該目標位置とのずれの予測値である予測逸脱量」を予測逸脱量Apoとして算出する。軌跡追従制御部21は、前記予測逸脱量の大きさが予測逸脱閾値よりも大きいとき、前記車両の位置が前記目標軌跡から乖離すると判定する。
【符号の説明】
【0096】
10…走行支援部、11…外部情報合成部、12…フリースペース抽出部、13…目標軌跡生成部、14…目標位置選択部、15…幅情報取得部、20…制動制御部、21…軌跡追従制御部、22…運動制御部、30…機関制御部、40…舵角制御部、70…道路、71…フリースペース、72…逸脱許容領域、78…障害物、79…他車両、81…周辺監視装置、82…位置情報取得装置、88…車輪速センサ、89…ヨーレート加速度センサ、90…車両、91…内燃機関、92…制動装置、93…ステアリング装置、100…制御装置。
図1
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