IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7427880白金担持高分子電解質膜の製造方法および白金担持高分子電解質膜
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】白金担持高分子電解質膜の製造方法および白金担持高分子電解質膜
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20240130BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240130BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240130BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20240130BHJP
【FI】
C25B13/08 301
C25B15/08 302
C25B1/04
C02F1/461
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019141093
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2020023748
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018143170
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南林 健太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 由明子
(72)【発明者】
【氏名】イェンス-ペーター・ズッフスラント
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ビルクネス
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090905(JP,A)
【文献】特開2010-242203(JP,A)
【文献】特開2008-311146(JP,A)
【文献】特開2009-289681(JP,A)
【文献】特開2006-302578(JP,A)
【文献】特開2003-086201(JP,A)
【文献】特開平09-316675(JP,A)
【文献】特開2008-223118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084220(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/08
H01M 8/10
H01M 4/92
H01M 4/88
C25B 15/08
C25B 1/04
C02F 1/46-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の内部に不溶性白金微粒子が担持されてなる白金担持電解質膜の製造方法であって、
工程1:白金濃度が0.1wt%以上20wt%以下である白金化合物溶液を、該高分子電解質膜に対する接触角が30°以下となるように調製する工程;
工程2:前記白金化合物溶液を前記高分子電解質膜に吸収させる工程;
工程3:前記白金化合物溶液を吸収させた高分子電解質膜に加熱処理を行う工程;
を有する白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理を酸素含有雰囲気下で行う、請求項1に記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理を、前記高分子電解質膜の表面に白金化合物溶液の液滴が存在しない状態で行う、請求項1または2に記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理により前記白金化合物を不溶性白金微粒子とする、請求項1~3のいずれかに記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項5】
工程2において、前記高分子電解質膜の表面に前記白金化合物溶液を塗布して吸収させる、請求項1~4のいずれかに記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項6】
工程2において、前記高分子電解質膜の一方の表面のみに前記白金化合物溶液を塗布して吸収させる、請求項5に記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項7】
工程2の後、工程3に移る前に、白金化合物溶液を吸収させた電解質膜を乾燥させる乾燥工程を有する、請求項1~6のいずれかに記載の白金担持電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理の温度が80℃以上180℃以下である、請求項1~7のいずれかに記載の白金担持電解の製造方法。
【請求項9】
不溶性白金微粒子を含む白金担持電解質膜であって、前記不溶性白金微粒子が酸化白金微粒子であり、膜厚の50%以内の深さまでの部分に、電子線マイクロアナライザーにより求められる不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在する、白金担持電解質膜。
【請求項10】
前記不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在する領域に導電性材料を含まない、請求項9に記載の白金担持電解質膜。
【請求項11】
不溶性白金微粒子を含む白金担持電解質膜であって、前記不溶性白金微粒子が酸化白金微粒子であり、前記不溶性白金微粒子が一方の表面に局在しており、前記白金担持電解質膜における電解質膜が2層または3層の電解質膜から構成され、それらのうちの少なくとも1層における前記不溶性白金微粒子の存在量が10%以下である、白金担持電解質膜。
【請求項12】
前記不溶性白金微粒子存在量が10%以下である層が導電性材料を含まない、請求項11に記載の白金担持電解質膜。
【請求項13】
前記不溶性白金微粒子の担持量が1.000mg/cm以下である、請求項9~12のいずれかに記載の白金担持電解質膜。
【請求項14】
前記白金担持電解質膜のうち少なくとも一層に用いられる電解質が炭化水素系高分子電解質である、請求項9~13のいずれかに記載の白金担持電解質膜。
【請求項15】
請求項9~14のいずれかに記載の白金担持電解質膜を用いてなる固体高分子電解質膜型水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金を含む化合物からなる微粒子を含む白金担持高分子電解質膜の製造方法および白金担持高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代におけるエネルギーの貯蔵・輸送手段として、水素エネルギーが注目されている。水素は、燃料電池の燃料として用いることで、熱機関を用いた発電よりも理論的に高いエネルギー効率で電力に変換可能で、かつ有害排出物レスであることから、高効率なクリーンエネルギー源となり得る。
【0003】
水素の作製方法の一つに水の電気分解がある。再生可能エネルギーによる余剰電力を使用して、水を電気分解すれば、二酸化炭素を排出することなく電力を水素エネルギーに変換可能である。さらに、水素は貯蔵方式によっては、タンクローリーやタンカーで輸送でき、必要な時に必要な場所へ供給可能なため、水の電気分解は電力貯蔵のツールとして高い可能性を有している。
【0004】
水の電気分解による水素製造方式は、アルカリ水電解と固体高分子電解質膜(PEM)型水電解があるが、PEM型水電解は高電流密度での運転が可能であり、再生可能エネルギーの出力変動に柔軟に対応できるというメリットを有する。
【0005】
しかしながら、PEM型水電解セル中で用いる電解質膜の水素バリア性が十分でない場合、生成した水素がカソードからアノードへ透過することにより、アノードの電解電圧が上昇し電解効率が低下するのみならず、アノードにおいて水素と酸素との混合気体が生じることによる安全面の課題があった。
【0006】
そこで、特許文献1および2には、電解質膜中への白金粒子の添加により、膜中を透過拡散する水素と、酸素とを触媒作用によってアノードにおける水素濃度を低減させる例が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-316675号公報
【文献】特開平3-107488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1または2に記載されているような従来の白金添加方法は、電解質膜を白金溶液に浸漬させて、その後還元剤により還元するものである。しかし、このような方法では電解質膜の浸漬のために多量の白金溶液が必須となることや、浸漬、還元の二段階の工程が必須であることから、工程全体として高コストであり、さらなる省力化は困難であった。
【0009】
本発明は、工程全体として省力化が可能であり、白金を担持した電解質膜を低コストで製造し得る製造方法を提供することにより、より安価に白金を担持した電解質膜を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するための本発明は、高分子電解質膜の内部に不溶性白金微粒子が担持されてなる白金担持電解質膜の製造方法であって、
工程1:該高分子電解質膜に対する接触角が70°以下となる白金化合物溶液を調製する工程;
工程2:白金化合物溶液を高分子電解質膜に吸収させる工程;
工程3:白金化合物溶液を吸収させた高分子電解質膜に加熱処理を行う工程;
を有する白金担持電解質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、工程全体として省力化が可能であり、より安価に白金を担持した電解質膜を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下本明細書において「~」は、その両端の数値を含む範囲を表すものとするまた、「高分子電解質膜」とは、高分子電解質を膜状に成形してなる膜を指すが、電解質膜としての機能を発現する限りにおいて、補強材や添加剤等の他の成分をさらに含んでいてもよい。なお、以下本明細書においては、最終的に不溶性白金微粒子を含む電解質膜を特に「白金担持電解質膜」と呼び、それ以外を単に「高分子電解質膜」あるいは「電解質膜」と呼ぶことにより、両者を区別する。
【0013】
本発明において、電解質膜に用いられる高分子電解質は特に限定されないが、フッ素系高分子電解質、芳香族炭化水素系高分子電解質が好ましく挙げられる。
【0014】
フッ素系固体高分子電解質としては、全フッ素系スルホン酸ポリマー、全フッ素系ホスホン酸ポリマー、全フッ素系カルボン酸ポリマーなどが挙げられ、具体的にはデュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)、旭化成ケミカルズ株式会社製アシプレックス(登録商標)、旭硝子株式会社製フレミオン(登録商標)、およびザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製ダウエックス(登録商標)などが挙げられる。
【0015】
芳香族炭化水素系高分子電解質は、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーからなる電解質である。芳香族炭化水素系ポリマーとは、主鎖に芳香環を有する炭化水素骨格からなるポリマーであり、具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。炭化水素骨格は、これらの構造のうち複数の構造を有していてもよい。これらのなかでも、特にポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。また、本発明においては、高分子電解質としてこれらのポリマーを複数混合したものを用いてもよい。特に、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーとイオン性基を有しない芳香族炭化水素系ポリマーとを混合したものを用いると、後述する共連続相分離構造を形成しやすいため有効である。
【0016】
イオン性基を有する芳香族炭化水素系ブロックコポリマー(以下、単に「ブロックコポリマー」をいうことがある。)は、特に好ましい芳香族炭化水素系ポリマーである。イオン性基を有する芳香族炭化水素系ブロックコポリマーとは、イオン性基を含有する芳香族炭化水素セグメントと、イオン性基を含有しない芳香族炭化水素セグメントからなるブロックコポリマーである。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなるポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2000以上のものを表すものとする。ブロックコポリマーを用いることで、ポリマーブレンドと比較して微細なドメイン(類似するセグメントもしくはポリマーが凝集してできた塊)を有する共連続相分離構造を発現させることが可能となり、より優れたプロトン伝導性と、物理的耐久性が達成できる。
【0017】
高分子電解質が有するイオン性基は、プロトン交換能を有するイオン性基であればよい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく、これらのうち2種類以上含んでいてもよい。中でも、高プロトン伝導度の点から、高分子電解質は少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0018】
白金化合物溶液を吸収させる前の電解質膜は、イオン性基が酸型、塩型いずれであってもよい。すなわち、本明細書における「イオン性基」には塩型となっているものが含まれ、「高分子電解質」には、含まれるイオン性基が塩型となっているものも含まれるものとする。
【0019】
イオン性基が塩型の固体高分子電解質膜を用いた場合には、イオン性基と塩を形成しているアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程が後で必要となる。この工程は、高分子電解質膜を酸性水溶液と接触させる工程であることが好ましく、特に酸性水溶液に浸漬する工程であることが好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。
【0020】
酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3重量%以上、30重量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0021】
〔工程1〕
工程1は、高分子電解質膜に対する接触角が70°以下となる白金化合物溶液を調製する工程である。
【0022】
白金化合物溶液としては、膜中のイオン性基と陽イオン交換するPt2+もしくはPt4+を含有するものが好ましく、具体的にはヘキサヒドロキシ白金(IV)酸溶液、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム溶液、ヘキサクロロ白金(IV)酸溶液、白金(II)アセチルアセトナート溶液、ジクロロテトラアンミン白金(II)溶液、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム溶液等が好ましい例として挙げられる。
【0023】
本発明においては、白金化合物溶液の電解質膜への吸収を容易にするため、使用する電解質膜に対する接触角が70°以下となるように白金化合物溶液を調製する。吸収をさらに容易にするためには、接触角が50°以下となるよう調製することが好ましく、40°以下となるよう調製することがより好ましく、30°以下となるよう調製することがさらに好ましい。
【0024】
溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1‐プロパノール(NPA)、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、亜硫酸水溶液、水などを用いることができ、これらの溶媒を二種以上の混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0025】
白金化合物溶液中の白金濃度は、0.1wt%以上が好ましく、0.5wt%以上がより好ましく、1.0wt%以上がさらに好ましい。また、白金化合物溶液の白金濃度は、20wt%以下が好ましく、10wt%以下がより好ましく、5wt%以下がさらに好ましい。白金濃度0.1wt%以上の白金化合物溶液を使用することにより、白金微粒子を膜の一方の表面近傍に局在させることができ、白金濃度20.0wt%以下の白金化合物溶液を使用することにより、膜表面に白金化合物が析出することなく膜中に白金化合物を担持させることが出来る。なお、白金化合物溶液中の白金濃度は、白金化合物中の白金相当分の重量を溶液の総重量で除することにより求められる。
【0026】
〔工程2〕
工程2は、工程1で調製した白金化合物溶液を高分子電解質膜に吸収させる工程である。
【0027】
高分子電解質膜に白金化合物溶液を吸収させる方法は、特に限定されず、従来法に準じて電解質膜を白金化合物溶液へ浸漬することによって吸収させることも可能であるが、白金化合物溶液が多量に必要となるため、コストの観点からは好ましくない。そのため、本発明においては、電解質膜の表面に白金化合物溶液を塗布して吸収させることが好ましい。塗布の方法としては、ディップコート、ガラス棒を用いたバーコート、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコート等が挙げられる。塗布量を制御する観点からは、ガラス棒を用いたバーコート、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートが好ましく、コーティング装置口金部分の素材選定の観点からは、スプレーコート、グラビアコート、フレキソ印刷がより好ましい。
【0028】
白金化合物溶液の塗布量は、塗工方法により制御できる。例えば、コンマコーターやダイレクトコーターで塗工する場合は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができ、スリットダイコートでは吐出圧や口金のクリアランス、口金と基材のギャップなどで制御することができる。
【0029】
さらに、本発明においては、電解質膜の一方の表面のみに白金化合物溶液を塗布することにより白金化合物溶液を電解質膜に含ませることが好ましい。このようにすることで、後述するように、最終的に不溶性白金微粒子を電解質膜の一方の表面側に局在させることができ、後述するように、水電解装置へ好適に適用できる白金担持電解質膜を作製することができる。
【0030】
また、電解質膜に吸収された白金化合物と酸素との接触を良好にするために、電解質膜の表面に白金化合物溶液の液滴が存在しない状態、すなわち、電解質膜中に白金化合物溶液が入り込んでいるものの、表面には当該溶液が目視で観察できない状態で、次の工程3における加熱処理を行うことが好ましい。特に、電解質膜の一方の表面のみに白金化合物溶液を塗布して吸収させた場合、このような状態で加熱処理することにより、膜中での白金化合物の拡散を抑制した状態で白金化合物を析出固定化させることができ、不溶性白金微粒子を膜の一方の表面近傍に局在させることができる。
【0031】
電解質膜の単位面積当たりに塗布した溶液重量(g/cm)を1とした場合に、電解質膜の単位面積当たりの重量(g/cm)増加が0.5以上であり、かつ電解質膜の表面に液滴が存在しない状態で加熱処理を行うことが特に好ましい。
【0032】
〔乾燥工程〕
本発明においては、工程2の後、工程3に移る前に、白金化合物溶液を吸収させた電解質膜を乾燥させる乾燥工程を有してもよい。なお、加熱により乾燥する場合は、当該乾燥は後述する工程3の加熱処理と捉え得るため、ここでの乾燥工程とは、白金化合物溶液を吸収させた後、加熱以外の方法、具体的には風乾、真空乾燥、乾燥空気の吹きつけ等の方法により乾燥させる工程を意味する。このような乾燥工程を設けることにより、工程3に移る前に、確実に電解質膜の表面に白金化合物溶液の液滴が存在しない状態とすることが可能になる。
【0033】
〔工程3〕
工程3は、工程2で作製した白金化合物溶液を吸収させた高分子電解質膜に、加熱処理を行う工程である。
【0034】
加熱処理の方法は特に限定されず、ホットプレート、熱風オーブン、赤外線ヒーター、マイクロ波照射等による加熱が好ましく用いられる。
【0035】
加熱処理の温度は、80℃以上が好ましく、迅速に不溶性白金微粒子を生成させるためには100℃以上が好ましく、120℃以上がさらに好ましい。一方で、電解質膜の熱分解を起こさせないためには180℃以下が好ましい。
【0036】
加熱処理は、酸素含有雰囲気下で行うことが好ましい。「酸素含有雰囲気下」とは、酸素を含む気体と白金化合物溶液を吸収した電解質膜とが接触した状態にあることを意味し、白金化合物溶液中に電解質膜が浸漬されている状態は排除される。酸素を含む雰囲気下で加熱することにより、不溶性白金微粒子が生成しやすくなる。
【0037】
酸素を含む雰囲気下としては、酸素を5%以上含む雰囲気下であることが好ましく、10%以上含む雰囲気下であることがより好ましく、15%以上含む雰囲気下であることがさらに好ましいが、空気中で加熱をすることが最も簡便であるため特に好ましい。
【0038】
本発明の製造方法を機構により限定するものではないが、本発明の製造方法においては、典型的には、加熱処理により白金化合物溶液に含まれる白金化合物が不溶性白金微粒子となる。不溶性白金微粒子とは、酸性水溶液に対して不溶な白金化合物の微粒子であり、本発明においては、具体的には10wt%硫酸水溶液に対して不溶な白金化合物微粒子を意味するものとする。
【0039】
電解質膜中の白金化合物微粒子の酸性水溶液に対する溶解性は、加熱処理後の電解質膜を10wt%硫酸水溶液で洗浄した場合における膜中の白金量の残存率(以下、「酸洗浄後残存率」という)により確認することができる。酸洗浄後残存率は、具体的には、10wt%硫酸水溶液で洗浄の前後の膜中の白金量を電子線マイクロアナライザー(EPMA)により測定し、
(洗浄後の白金担持量)/(洗浄前の白金担持量)×100
により算出される。本発明においては、加熱処理前の白金の酸洗浄後残存率に対し加熱処理後の酸洗浄後残存率が高ければ、加熱処理によって白金化合物溶液に含まれる白金化合物から不溶性白金微粒子が生成したものと判断することができる。
【0040】
最終的に得られる白金担持電解質膜においては、白金の酸洗浄後残存率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
不溶性白金微粒子中の白金は、価数が2価もしくは4価であることが好ましく、不溶性白金微粒子が酸化白金(II)もしくは酸化白金(IV)の微粒子であることがより好ましい。なお、最終的に不溶性白金微粒子中の白金を還元剤等を用いて0価に還元しても良いが、還元を行わなくても触媒能を発揮可能であり、例えば水電解用途で使用した場合アノードにおける水素濃度低減能が発揮可能であり、製造工程の省略により製造コストの上昇を抑制することができるため、還元は行わないことが好ましい。なお、還元を行う場合には、還元剤としては、例えばヒドラジン塩類、アンモニア、NaBH、LiAlH、次亜リン酸塩類、ホルマリン、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などの還元剤を用いることができ、ヒドラジン塩類、アンモニア、NaBH、LiAlHなどによって構造が変化するようなポリマーを固体高分子電解質膜の材料として用いる場合には、次亜リン酸塩類、ホルマリン、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などの還元剤を好ましく用いることができる。
【0042】
不溶性白金微粒子の粒径は1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお不溶性白金微粒子の粒径は、JIS H 7804:2005に記載の方法に従って、電子顕微鏡観察に基づいて測定した粒子径であり、具体的には後述する測定例2に記載の方法で測定することができる。
【0043】
白金担持電解質膜における不溶性白金微粒子の担持量は、1.000mg/cm以下が好ましく、0.500mg/cm以下がより好ましく、0.100g/cm以下がさらに好ましい。白金担持量が1.000mg/cm以下であれば、水素濃度低減能を得つつ、原料コストの上昇を抑制することができる。また、白金担持量は0.001mg/cm以上であることが好ましい。0.001mg/cm未満の場合、水素濃度低減能が劣る傾向がある。 白金担持電解質膜においては、膜厚の50%以内の深さまでの部分にEPMAにより求められる不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在することが好ましい。すなわち、後述する測定例3により求められる偏析度合いが50%以下であることが好ましい。本明細書においては、この状態を、不溶性白金微粒子が膜の一方の表層近傍に局在している、と表現する。この状態は、電解質膜の外部に不溶性白金微粒子の層が積層された状態とは区別され、あくまで電解質膜の内部おける一方の表層近傍に不溶性白金微粒子が局在している状態である。白金担持電解質膜においては、膜厚の40%以内の深さまでにEPMAにより求められる不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在することが好ましく、膜厚の35%以内の深さまでにEPMAにより求められる不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在することがより好ましい。なお、白金担持電解質膜中の不溶性白金微粒子存在量は、EPMAにより求められる白金担持電解質膜中の白金量として求めるものとする。白金微粒子が膜の一方の表層近傍に局在していると、水電解装置用の電解質膜として用いた際、白金微粒子存在部位における膜中の水素濃度と酸素濃度とがつりあい、白金微粒子添加によるアノードにおける水素濃度低減能がより効率良く発揮されるため、原料コストの上昇を抑制することができる。
【0044】
白金の水素濃度低減能を発揮するには、白金が電気的に絶縁されていることが好ましく、特に表層近傍に白金を局在させる場合には、不溶性白金微粒子存在量の90%以上が存在する電解質の表層に炭素材料等の導電性材料が含まないことが好ましい。導電性材料を含まないとは、炭素材料含有量が5wt%以下であることを示す。
【0045】
[積層電解質膜への白金添加]
本発明により積層電解質膜に白金を添加すると、選択的に表層のみに白金を添加することが可能となる。積層電解質膜とはポリマー構造の異なる電解質が積層されてなる電解質膜である。例として、芳香族炭化水素系高分子電解質膜に白金を添加すると、電解質膜の使用条件によっては化学劣化を促進する場合がある。フッ素系固体高分子電解質層と芳香族炭化水素系高分子電解質層が積膜されてなる積層電解質膜に白金を添加する場合はフッ素系固体高分子電解質に選択的に白金を添加することが化学的耐久性の観点から好まれる。また、事前にフッ素系固体高分子電解質溶液に白金を溶解し、芳香族炭化水素系高分子電解質膜に塗工することで白金担持積層電解質膜を作製した場合は、白金が芳香族炭化水素系高分子電解質膜中に染み込んでしまい、選択的な添加は困難である。なお、芳香族炭化水素系高分子電解質層とフッ素系固体高分子電解質層からなる積層電解質膜への白金添加は一例であり、本発明の実施形態を限定するものではない。白金添加の選択性については、EPMAにより求められる不溶性白金微粒子存在量が任意の層中で10%以下であることが好ましく、5%以下がより好ましい。
【0046】
白金を添加する電解質層は水素濃度低減能を発揮するために炭素材料等の導電性材料を含まないことが好ましい。
【0047】
本発明の白金担持電解質膜は、固体高分子形燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ等の種々の電気化学用途に適用可能であるが、水電解装置に用いることが好適である。前述の通り、不溶性白金微粒子が膜の一方の表層近傍に局在している態様の白金担持電解質膜は、固体高分子電解質膜型水電解装置に特に好適に用いることができる。
【0048】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構状態で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。本発明の白金担持電解質膜は、こうしたCCMおよびMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【実施例
【0049】
[測定例1]白金化合物溶液の接触角
白金溶液調整に用いる溶媒の液滴を固体電解質膜に接触させ、以下の条件に従い、接触から2000mS後における接触角の観察を実施した。
装置:自動接触角計(DM-500)
システム:界面測定/解析統合システムFAMAS ソフトウェアバージョン2.30
測定方法:液滴法
注射針:先端90°カット、18G
液量設定:700ms、3000mV
[測定例2]透過型電子顕微鏡(TEM)観察による不溶性白金微粒子の粒径
染色剤として2重量%酢酸鉛水溶液中に試料片を浸漬させ、25℃下で24時間放置した。染色処理された試料を取りだし、可視硬化樹脂で包埋し、可視光を30秒照射し固定した。
【0050】
ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片100nmを切削し、得られた薄片をCuグリッド上に回収しTEM観察に供した。観察は加速電圧100kVで実施し、撮影は、写真倍率として×8,000、×20,000、×100,000 になるように撮影を実施した。機器としては、TEM H7100FA(日立製作所社製)を使用した。得られた画像を用い、JIS H 7804:2005に従い算出した。
【0051】
[測定例3]白金担持量、存在箇所の観察および分布の計算
研磨法にて断面試料を作製し、前処理としてカーボン蒸着を実施のうえ、下記条件に従って観察を実施した。
装置:島津製作所 電子線マイクロアナライザー(EPMA)EPMA-1610
加速電圧:15kV
照射電流:30nA
計測時間:20msec
ビームサイズ:1μm
データポイント:240×240 point
エリアサイズ:120×120μm
分析X線・分光結晶: Pt Mα(6.0422[A])・PET
観察結果から得られた白金由来のピーク強度の積分値を算出し、白金担持量0.050mg/cmおよび0.107mg/cmのリファレンスサンプルのピーク強度積分値から作製した検量線を用い、白金担持量を算出した。
【0052】
膜厚方向の白金の分布については、観察エリアを膜面方向に80分割、膜厚方向に50分割し、各エリアの白金由来のピーク強度の膜面方向の平均値を求め、表面から垂直方向の距離を横軸に、当該平均値を縦軸としたパレート図を作製した。
【0053】
偏析度合いは、白金量の累積比率が90%となる膜面から垂直方向の距離をパレート図から求め、膜厚で除することにより求めた。
【0054】
白金担持量0.050mg/cmおよび0.107mg/cmのリファレンスサンプルとしては実施例7および、実施例2の白金担持電解質膜を用い、白金担持量はICP分析法による定性分析によって求めた。
装置:ICP質量分析装置 Agilent Technologies製 Agilent 8800
前処理:試料を窒化ホウ素るつぼに秤取り、バーナーおよび電気炉で順次灰化した。灰化物を硝酸、フッ化水素酸および塩酸で加熱分解し、希硝酸で処理して定容とした。
【0055】
[測定例4]白金の酸洗浄後残存率
固体電解質膜を10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬後、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、大気中で24時間乾燥させることで、固体電解質膜の10wt%硫酸水溶液洗浄を実施後、洗浄前後の白金担持量を下記式に代入することで求めた。白金担持量は、測定例3に記載の方法により算出した。
白金の酸洗浄後残存率=(洗浄後の白金担持量)/(洗浄前の白金担持量)×100
[測定例5]水素透過抑制能試験
田中貴金属工業株式会社製白金触媒TEC10E50Eとデュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の重量比となるように調整した触媒インクを市販の“テフロン”(登録商標)フィルムに白金量が0.3mg/cm2となるように塗布し、触媒層転写フィルムA100を作製した。ユミコア社製イリジウム酸化物触媒とデュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の重量比となるように調整した触媒インクを市販の“テフロン” (登録商標)フィルムにイリジウム量が2.5mg/cm2となるように塗布し、触媒層転写フィルムA200を作製した。この触媒層転写フィルムと前記A100をそれぞれ5cm角にカットしたものを1対準備し、評価する高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、加圧した状態から昇温させて、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、加圧した状態で40℃以下まで降温させてから圧力を開放し、A200をアノード、A100をカソードとする水電解装置用触媒層付電解質膜を得た。
【0056】
市販の多孔質チタン焼結体プレート2枚で前記水電解装置用触媒層付電解質膜を挟み、水電解装置用膜電極接合体を得た。
【0057】
前記水電解装置用膜電極接合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度80℃とし、一方の電極(酸素発生極:アノード)に伝導度1μScm-1以下の純水を大気圧で0.2L/minの流速で供給した。
もう一方の電極(水素発生極:カソード)は、背圧弁にて圧力を制御可能な構造とし、評価前は大気圧となるように100%RHの窒素ガスでパージした。
【0058】
ソーラトロン社製Multistat1480およびPower booster Model PBi500L-5Uを用いて負荷電流25A(電流密度1A/cm)で出力した。大気圧で電流を24時間保持し、アノードで発生する酸素中の水素濃度をガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社、490マイクロGC)で測定した。
【0059】
[調製例1-1]ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液(白金量1wt%溶液)
ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸(和光純薬工業(株))、0.299gに亜硫酸水(和光純薬工業(株))を1.578gを加え室温で5分振盪し溶解させた後、水(イオン交換水)/NPA(東京化成工業株式会社)の混合液(8.867g/8.867g)を添加し、室温で5分振盪させることで調整した。
【0060】
[調製例1-2]ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液(白金量2wt%溶液)
ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸(和光純薬工業(株))、0.299gに亜硫酸水(和光純薬工業(株))を1.578gを加え室温で5分振盪し溶解させた後、イオン交換水/NPA(東京化成工業株式会社)の混合液(3.990g/3.990g)を添加し、室温で5分振盪させることで調整した。
【0061】
[調製例2]ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸水溶液(白金量1wt%溶液)
ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸(和光純薬工業(株))、0.299gに亜硫酸水(和光純薬工業(株))を1.578gを加え室温で5分振盪し溶解させた後、イオン交換水(17.735 g)を添加し、室温で5分振盪させることで調整した。
【0062】
[調製例3]白金(II)アセチルアセトナート、NMP/NPA(1/1)溶液(白金量1wt%溶液)
白金(II)アセチルアセトナート(和光純薬工業(株))、0.393gにNMP(和光純薬工業(株))/NPA(東京化成工業株式会社)の混合液(9.657g/9.657 g)を加え、室温で5分振盪させることで調整した。
【0063】
[調製例4]白金(II)アセチルアセトナート、アセトン溶液(白金量1wt%溶液)
白金(II)アセチルアセトナート(和光純薬工業(株))、0.393gにアセトン(東京化成工業(株))19.313gを加え、室温で5分振盪させることで調整した。
【0064】
[調製例5]ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、水/NPA(1/1)溶液(白金量1wt%溶液)
ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物(Sigma-Aldrich(株))、0.561gにイオン交換水/NPA(東京化成工業株式会社)の混合液(9.657g/9.657g)を加え、室温で5分振盪させることで調整した。
【0065】
[調製例6]ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、水溶液(白金量1wt%溶液)
キサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物(Sigma-Aldrich(株))、0.561gにイオン交換水19.313gを加え、室温で5分振盪させることで調整した。
【0066】
[実施例1]
〔下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成〕
【0067】
【化1】
【0068】
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.2%の4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0069】
〔下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成〕
【0070】
【化2】
【0071】
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造は1H-NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
【0072】
〔下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1の合成〕
【0073】
【化3】
【0074】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、K-DHBP 25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン21.4g(アルドリッチ試薬、98mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端OM基)を得た。尚、MはNaまたはKを表し、これ以降の表記もこれに倣う。数平均分子量は20000であった。
【0075】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端OM基)を40.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中で100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、一般式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は21000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値20400と求められた。
【0076】
〔下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成〕
【0077】
【化4】
【0078】
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。またnは、正の整数を表す。)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、K-DHBP 25.8g(100mmol)、ジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン 41.4g(98mmol)、および18-クラウン-6エーテル17.9g(和光純薬、82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、上記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ОM基)を得た。数平均分子量は33000であった。
【0079】
〔イオン性基を含有するセグメント(A1)としてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するブロックコポリマーの合成〕
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ОM基)を33g(1mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中で100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)21.0g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロックコポリマーを得た。重量平均分子量は36万であった。
【0080】
得られたブロックコポリマーを溶解させた25重量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液をガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、電解質ポリマー溶液Aを得た。得られた電解質ポリマー溶液Aをガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ポリケタールケトン膜を得た。25℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトン(s-PEEK)からなる高分子電解質膜A(膜厚50μm)を得た。
【0081】
〔白金担持電解質膜の作成〕
このようにして作製した高分子電解質膜の上に調製例1-1に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液をシリンジフィルター(Millex(登録商標)-LG 0.20μm)を用いてろ過した後、80μmの厚みのテープを巻いた硝子棒を用いて80umのクリアランスで流延塗布し、室温で10分静置後、100℃にて1時間熱処理する事により、白金添加電解質膜を得た。測定例2に従って測定した不溶性白金微粒子の粒径は40nmであった。測定例5に従って測定したアノード中水素濃度は200ppmであった。
【0082】
[実施例2]
160μmの厚みのテープを用い、白金量1wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液塗布時のクリアランスを160μmにした以外は実施例1と同様にして白金担持電解質膜を得た。測定例2に従って測定した不溶性白金微粒子の粒径は40nmであった。
【0083】
[実施例3]
調製例1-2に記載の方法で調整した、白金量2wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液を用いた、溶液塗布時のクリアランスを40μmにした以外は実施例1と同様にして白金担持電解質膜を得た。測定例2に従って測定した不溶性白金微粒子の粒径は50nmであった。
【0084】
[実施例4]
調整例3に記載の方法で調整した、白金量1wt%の白金(II)アセチルアセトナート、NMP/NPA(1/1)溶液を用いたこと、100℃での熱処理時間を12時間としたこと以外は実施例1と同様にして、白金担持電解質膜を得た。
【0085】
[実施例5]
調整例4に記載の方法で調整した、白金量1wt%の白金(II)アセチルアセトナート、アセトン溶液を用いたこと、100℃での熱処理時間を12時間としたこと以外は実施例1と同様にして、白金担持電解質膜を得た。
【0086】
[実施例6]
デュポン株式会社製Nafion NRE-212の上に、調整例1-2に記載の方法で調整した白金量1wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸/水/NPA溶液をシリンジフィルター(Millex(登録商標)-LG 0.20μm)を用いてろ過した後、80μmの厚みのテープを巻いた硝子棒を用いて80umのクリアランスで流延塗布し、室温で10分静置後、100℃にて1時間熱処理する事により、白金担持電解質膜を得た。
【0087】
[実施例7]
調整例5に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、水/NPA(1/1)溶液を用いたこと、100℃での熱処理時間を12時間としたこと以外は実施例6と同様にして白金担持電解質膜を得た。
【0088】
[実施例8]
調整例5に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、水/NPA(1/1)溶液を用いたこと以外は実施例4と同様にして白金担持電解質膜を得た。
【0089】
[実施例9]
白金溶液を流延塗布した後の室温での静置時間を2分とした以外は実施例4と同様にして白金担持電解質膜を得た。測定例5に従って測定したアノード中水素濃度は300ppmであった。
【0090】
[実施例10]
電解質ポリマー溶液Aにカーボン粒子(Aldrich社製メソポーラスカーボン)を2.5wt%添加、分散させた後に、実施例1で作製した高分子電解質膜Aの上に流延塗布、100℃にて4時間乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ポリケタールケトン膜を得た。25℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄することで第2層を形成し、積層電解質膜(膜厚70μm)を得た。
【0091】
このようにして作製した積層電解質膜の第2層上に実施例9と同様にして白金溶液を流延塗布することで、積層電解質膜に白金を添加し、白金担持積層電解質膜を得た。測定例5に従って測定したアノード中水素濃度は1200ppmであった。
【0092】
[実施例11]
実施例1で作製した高分子電解質膜Aの上に、フッ素系高分子電解質としてNafion(市販のChemours社製D2020溶液をNMP置換して使用)とポリフッ化ビニリデンとして市販のクレハ製W#7300(重量平均分子量>100万)をNMPに溶解した高分子電解質溶液B(固形分比率:フッ素系高分子電解質/ポリフッ化ビニリデン=60質量%/40質量%、固形分濃度10質量%)をバーコーターにて塗布、120℃にて2h乾燥することで層を形成し、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、室温乾燥することで第2層を作製し、積層電解質膜(膜厚55μm)を得た。
【0093】
このようにして作製した積層電解質膜の第2層上に実施例9と同様にして白金溶液を流延塗布することで、積層電解質膜に白金を添加し、白金担持積層電解質膜を得た。
【0094】
[比較例1]
デュポン株式会社製Nafion NRE-212の上に調整例2に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸水溶液をシリンジフィルター(Millex(登録商標)-LG 0.20μm)を用いてろ過した後、80μmの厚みのテープを巻いた硝子棒を用いて80umのクリアランスで流延塗布し、室温で10分静置後、100℃にて1時間熱処理した結果、固体高分子電解質膜上に析出物が見られ、白金担持固体電解質膜を得ることが出来なかった。
【0095】
[比較例2]
調整例2に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸、亜硫酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして白金担持電解質膜の作製を試みたが、電解質膜上に析出物が見られ、白金担持固体電解質膜を得ることが出来なかった。
【0096】
[比較例3]
調整例6に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム水溶液を用い、100℃での熱処理時間を12時間とし以外は実施例1と同様にして白金担持電解質膜の作製を試みたが、電解質膜上に析出物が見られ、白金担持電解質膜を得ることが出来なかった。
【0097】
[比較例4]
調整例5に記載の方法で調整した、白金量1wt%のヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、水/NPA(1/1)溶液を用い、加熱処理を行わずに室温で72時間静置した以外は実施例1と同様にして白金担持電解質膜を得た。
【0098】
各実施例、比較例における白金担持電解質膜の製造方法の概要、および得られた白金担持電解質膜の、目視による析出物の有無、白金の酸洗浄後残存率(測定例4)、白金の偏析度合い(測定例3)を表1に示す。
【0099】
【表1】