(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】粉末材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20240130BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240130BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240130BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20240130BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240130BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240130BHJP
【FI】
B22F1/14 400
B22F1/16
B22F1/00 R
B22F1/00 M
B22F1/00 S
B22F10/20
B82Y40/00
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2019203092
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紙本 朝子
(72)【発明者】
【氏名】関本 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 利文
(72)【発明者】
【氏名】山口 純平
(72)【発明者】
【氏名】磯村 友佑
(72)【発明者】
【氏名】相川 佳彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-041850(JP,A)
【文献】特開2019-112699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0124514(US,A1)
【文献】特開2000-126568(JP,A)
【文献】特開平04-330957(JP,A)
【文献】特許第3999497(JP,B2)
【文献】国際公開第2008/034043(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/217302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B33Y 70/00-70/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径10μm以上、500μm以下の金属粒子と、
金属酸化物よりな
り、有機物による表面処理が施されていないナノ粒子と、を含む原料粉末を準備する原料準備工程と、
凝集した粉体を分散させる
気流分散装置に前記原料粉末を導入し、前記ナノ粒子の凝集を解消する分散工程と、
前記
気流分散装置から
気流とともに放出された粉末材料を、
気流分級装置に
直接導入して、前記粉末材料を分級し、分散された前記ナノ粒子が前記金属粒子に付着してなる粒子を分取する分級工程と、を実施
し、
目視で認識される水準では、前記ナノ粒子の凝集体よりなる粒状体が確認されず、かつ、
前記ナノ粒子が、100nm以下の寸法の粒子の形をとって、前記金属粒子の表面に分散した粉末材料を得る、粉末材料の製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子は、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなる、請求項
1に記載の粉末材料の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、前記金属粒子に含有される金属元素の少なくとも一部を含有する金属
酸化物、またはSi、Al、Tiより選択される少なくとも1種の軽金属元素を含有する金属
酸化物よりなる、請求項1
または請求項2に記載の粉末材料の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、前記金属粒子の主成分たる金属元素を主成分としてなる、請求項3に記載の粉末材料の製造方法。
【請求項5】
前記原料粉末において、前記ナノ粒子の含有量が、前記金属粒子の質量を基準として、0.001質量%以上、0.5質量%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粉末材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、積層造形法において原料として用いることができる粉末材料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物を製造する新しい技術として、付加製造技術(Additive Manufacturing;AM)の発展が近年著しい。付加製造技術の一種として、粉末材料のエネルギー線照射による固化を利用した積層造形法がある。金属粉末材料を用いた積層造形法としては、粉末積層溶融法と、粉末堆積法の2種が代表的である。
【0003】
粉末積層溶融法の具体例として、選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting;SLM)、電子線溶融法(Electron Beam Melting;EBM)等の方法を挙げることができる。これらの方法においては、金属よりなる粉末材料を、ベースとなる基材上に供給して粉末床を形成し、三次元設計データをもとに、粉末床の所定の位置に、レーザービーム、電子線等のエネルギー線を照射する。すると、照射を受けた部位の粉末材料が、溶融と再凝固によって固化し、造形物が形成される。粉末床への粉末材料の供給とエネルギー線照射による造形を繰り返し、造形物を層状に順次積層して形成していくことで、三次元造形物が得られる。
【0004】
一方、粉末堆積法の具体例としては、レーザー金属堆積法(Laser Metal Deposition;LMD)を挙げることができる。この方法においては、三次元造形物を形成したい位置に、ノズルを用いて金属粉末を噴射しながら、同時に、レーザービームの照射を行い、所望の形状を有する三次元造形物を形成する。
【0005】
上記のような積層造形法を用いて、金属材料よりなる三次元造形物を製造する際に、得られる三次元造形物に、空隙や欠陥等、構成材料の分布が不均一になった構造が生じる場合がある。そのような不均一構造の生成は、極力抑制することが望ましい。金属材料を用いた積層造形法において、製造される三次元造形物の内部に、構成材料の不均一な分布が生じる原因は、複数考えられるが、要因の1つとして、エネルギー線照射前の粉末材料の状態が、得られる三次元造形物の状態に、大きな影響を与えうる。
【0006】
例えば、粉末積層溶融法において、粉末床に粉末材料を円滑に供給し、粉末材料が均一に敷き詰められた粉末床を安定に形成することができれば、また、粉末床において、粉末材料を高密度で充填することができれば、粉末床へのエネルギー線の照射を経て、均質性の高い三次元造形物が得られやすい。粉末堆積法においても、ノズルを閉塞させることなく粉末材料を円滑に供給することで、三次元造形物を安定に形成することができる。このように、積層造形法によって三次元造形物を製造する際に、原料として用いる粉末材料が高い流動性を有するほど、粉末材料の円滑な供給や、高密度での充填を促進することができ、エネルギー線の照射を経て、均一性の高い造形物を得ることができる。
【0007】
発明者らは、そのように、積層造形の原料として用いるのに適した、高い流動性を有する粉末材料についての検討を行っている。例えば、特許文献1に、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子と、その金属粒子に付着または混合された金属または金属化合物よりなるナノ粒子と、を含む金属粉末材料が開示されている。ナノ粒子が金属粒子の間に介在されることで、金属粒子同士の間に、距離が保たれる。すると、金属粒子間に働くファンデルワールス力を主とした引力を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されるように、金属粒子の表面にナノ粒子を付着させることで、金属粒子の流動性を高めることができる。この際、ナノ粒子の分散性が高いほど、流動性の向上に高い効果を発揮することができる。しかし、発明者らの研究によると、ナノ粒子の種類や、金属粒子とナノ粒子の混合方法によっては、ナノ粒子が凝集を起こしてしまい、その凝集構造を解消してナノ粒子を分散させるのが、困難な場合がある。すると、金属粒子の流動性を十分に高めることが難しくなる。また、ナノ粒子の凝集体を含んだままの粉末材料を積層造形に用いると、得られた三次元造形物において、その凝集体が、破壊起点となる欠陥を生じる可能性がある。一方、生じてしまったナノ粒子の凝集体を粉末材料から事後的に除去しようとすれば、粉末材料の準備に要する工程が、煩雑になってしまう。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、金属粒子とナノ粒子を用いて、流動性の高い粉末材料を簡便に製造することができる粉末材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明にかかる粉末材料の製造方法は、平均粒径10μm以上、500μm以下の金属粒子と、金属または金属化合物よりなるナノ粒子と、を含む原料粉末を準備する原料準備工程と、凝集した粉体を分散させる分散装置に前記原料粉末を導入し、前記ナノ粒子の凝集を解消する分散工程と、前記分散装置から放出された粉体を、分級装置に導入して、前記粉体を分級し、分散された前記ナノ粒子が前記金属粒子に付着してなる粒子を分取する分級工程と、を実施するものである。
【0012】
ここで、前記ナノ粒子は、有機物による表面処理が施されていないとよい。
【0013】
前記分散装置は、気流分散装置であるとよい。この場合に、前記分級装置は、気流分級装置であり、前記分散工程が完了した後に、前記気流分散装置から気流とともに放出された前記粉体を、前記気流分級装置に直接導入して、前記分級工程を実施するとよい。
【0014】
前記金属粒子は、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなるとよい。前記ナノ粒子は、前記金属粒子に含有される金属元素の少なくとも一部を含有する金属化合物、またはSi、Al、Tiより選択される少なくとも1種の軽金属元素を含有する金属化合物よりなるとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる粉末材料の製造方法によると、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子の表面に、ナノ粒子が付着した粉末材料を製造することができる。ナノ粒子が金属粒子の間に介在されることで、金属粒子同士の間に、距離が確保されることになる。すると、金属粒子間に働く引力が低減され、粉末材料の流動性を高めることができる。
【0016】
また、分散工程において、金属粒子とナノ粒子を含む原料粉末を、分散装置に導入し、粉末の分散を行うことで、原料粉末中にナノ粒子の凝集体が含まれていても、その凝集体におけるナノ粒子間の凝集を解消し、ナノ粒子の分散性を高めることができる。さらに、分級工程において、分散工程を経た粉体を分級装置に導入し、ナノ粒子が金属粒子に付着してなる粒子を分取することにより、金属粒子に付着していないナノ粒子や、残存しているナノ粒子の凝集体の除去等、目的外の粒子の除去と、粉末材料の粒度の調整とを、一度に行うことができる。このようにして、所望の粒度を有するナノ粒子付着金属粒子の集合体よりなり、ナノ粒子の凝集体の含有が低減された、流動性の高い粉末材料を、簡便に製造することができる。得られた粉末材料は、流動性の高さを利用して、積層造形の原料等として、好適に用いることができる。
【0017】
ここで、ナノ粒子が、有機物による表面処理が施されていないものである場合には、ナノ粒子間での凝集が起こりやすくなるが、分散工程を実施することにより、ナノ粒子間での凝集を効果的に解消することができ、製造される粉末材料の流動性を、十分に高められる。ナノ粒子として、有機物による表面処理が施されていないものを用いることで、粉末材料を積層造形に用いた際に、有機物による積層造形工程への影響、また製造される積層造形物への影響を、低減することができる。
【0018】
分散装置が、気流分散装置である場合には、気流によって、ナノ粒子の凝集体を効果的に分散させ、分散したナノ粒子が金属粒子の表面に付着した状態の粉末材料を、得やすくなる。
【0019】
この場合に、分級装置が、気流分級装置であり、分散工程が完了した後に、気流分散装置から気流とともに放出された粉体を、気流分級装置に直接導入して、分級工程を実施する形態によれば、分級装置として気流分級装置を用いることにより、所望の粒径を有するナノ粒子付着金属粒子の選別と、金属粒子に付着していないナノ粒子等、目的外の粒子の除去の両方を、高い効率で行うことができる。さらに、分散工程に気流分散装置を、分級工程に気流分級装置を用い、気流分散装置から気流とともに放出された粉体が、気流分級装置に直接導入される構成とすることで、分散工程と分級工程を、連続して実施することが可能となる。これにより、流動性の高い粉末材料の製造を、一層簡便に、また簡素な装置構成によって、行うことができる。
【0020】
金属粒子が、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなる場合には、製造される粉末材料を、積層造形法を利用した製造の需要が大きいそれらの合金よりなる三次元造形物の原料として、好適に用いることができる。
【0021】
ナノ粒子が、金属粒子に含有される金属元素の少なくとも一部を含有する金属化合物、またはSi、Al、Tiより選択される少なくとも1種の軽金属元素を含有する金属化合物よりなる場合には、ナノ粒子を金属粒子に付着させることで、粉末材料の流動性を効果的に高めることができる。特に、ナノ粒子が、金属粒子に含有される金属元素の少なくとも一部を含有する金属化合物よりなる場合には、得られた粉末材料を積層造形の原料として用いた際に、ナノ粒子の存在が、積層造形工程において、また得られる積層造形物において、影響を与えにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる粉末材料の製造方法を実施することができる粉末材料製造装置の一例を、処理される粉体の模式図とともに示す図である。
【
図2】上記製造方法によって得られる粉末材料を示す模式図である。
【
図3】粉末材料の状態を撮影した写真である。(a)はナノ粒子を添加した材料に対して分散・分級を行った試料#2を示し、(b)はナノ粒子を添加した材料に対して混合のみを行った試料#3を示している。
【
図4】粉末材料の粒度分布および円形度を示す図である。図には、ナノ粒子を含まない試料#1と、ナノ粒子を添加した材料に対して分散・分級を行った試料#2に対する計測結果を示している。
【
図5】試料#1および試料#2について、粒径20±2μmの範囲で、粒子形状の評価に用いた粒子画像を示している。
【
図6】試料#2について、SEM観察像を示している。(a),(b),(c)の順に、高倍率像となっている。
【
図7】上記
図6(c)中の位置P1および位置P2について、それぞれ、EDXによる元素分析の結果を示している。
【
図8】試料#1~#3について、嵩密度規格化せん断付着力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる粉末材料の製造方法について、詳細に説明する。本製造方法によって製造される粉末材料は、
図2に示すように、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子P1と、金属または金属化合物よりなるナノ粒子P2とを含むものである。ナノ粒子P2は、金属粒子P1の表面に付着している。そのような粉末材料は、積層造形法において、エネルギー線の照射によって三次元造形物を製造するための原料等として、好適に用いることができる。
【0024】
[金属粒子およびナノ粒子]
粉末材料の製造方法について説明する前に、粉末材料の製造原料として用いられ、粉末材料を構成する、金属粒子P1およびナノ粒子P2について説明する。金属粒子P1は、ミクロンオーダーの粒径を有する金属よりなる粒子であり、粉末材料を積層造形に用いる場合には、三次元造形物を構成する主材料となる。ナノ粒子P2は、金属または金属化合物よりなる、ナノメートルオーダーの粒径を有する粒子であり、粉末材料中で、金属粒子P1の粒子間の引力を低減し、粉末材料の流動性を高める役割を果たす。
【0025】
(1)金属粒子
金属粒子P1は、ミクロンオーダーの粒径を有しており、その粒径は、平均粒径(d50)で、10μm以上、500μm以下とすることができる。積層造形の原料として好適に用いる観点からは、平均粒径で、10μm以上、また100μm以下であれば、特に好ましい。製造される粉末材料において、高い流動性を得る観点から、金属粒子P1は、球形とみなせる形状をとっていることが好ましい。例えば、金属粒子P1の円形度が、平均粒径において、つまり、粒径が平均粒径に等しい粒子について、0.90以上、さらには0.95以上であることが好ましい。
【0026】
金属粒子P1を構成する金属種は、特に限定されるものではなく、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金等を例示することができる。これらの合金よりなる三次元造形物は、積層造形法を利用した製造の需要が大きいため、これらの合金よりなる金属粒子P1を用いた粉末材料を、三次元造形物の原料として、好適に用いることができる。
【0027】
金属粒子P1を製造する方法は、特に限定されるものではないが、アトマイズ法によって、好適に製造することができる。ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法等、種々の方法が適用可能であるが、特に、ガスアトマイズ法が、金属粒子P1の製造効率等の観点から、好適である。
【0028】
(2)ナノ粒子
ナノ粒子P2の粒径は、ナノメートルオーダーであれば、特に限定されるものではないが、1nm以上、また、100nm以下である場合を、好適なものとして例示することができる。ナノ粒子P2の形状も特に限定されず、略球形、多面体形状、不規則形状等、どのような形状をとっていてもよい。好ましくは、略球形であるとよい。
【0029】
ナノ粒子P2は、金属よりなっていても、金属化合物よりなっていてもよいが、製造される粉末材料において、金属粒子P1間の引力を効果的に低減する観点から、金属化合物よりなっていることが好ましい。金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等を例示することができる。中でも、活性の低さやナノ粒子の入手の容易性等の観点から、金属酸化物であることが好ましい。金属化合物を構成する金属種は、特に限定されないが、SiやAl,Ti等の軽金属元素を用いる形態が、好適である。これらの元素の酸化物(SiO2,Al2O3,TiO2等)のナノ粒子は、製造方法が確立されており、容易に入手することができるうえ、金属よりなる三次元造形物中に含まれても、深刻な影響を与えにくい。
【0030】
また、金属粒子P1に含有される金属元素の少なくとも一部を含有する金属化合物よりなるナノ粒子P2を用いれば、積層造形物等、粉末材料を用いて製造される製品、またその製品の製造工程において、ナノ粒子P2が与える影響を、小さく抑えることができる。中でも、金属粒子P1の主成分たる金属元素が、ナノ粒子を構成する金属元素の主成分となっているとよい。例えば、チタン合金よりなる金属粒子P1を用いる場合に、ナノ粒子P2として、チタン酸化物よりなるものを用いる形態を例示することができる。
【0031】
ナノ粒子P2は、主成分たる金属または金属化合物以外の成分を含むものであってもよく、また、有機物等による表面処理が施されたものであってもよい。有機物等によって表面処理を行うことで、ナノ粒子P2の表面を疎水化し、水分子を介したナノ粒子P2間の引力相互作用を低減することができる。その結果、ナノ粒子P2同士の凝集や、ナノ粒子P2が付着した金属粒子P1間の凝集を、抑制しやすくなる。しかし、本製造方法においては、後に説明するように、分散工程および分級工程を経ることで、原料粉末中にナノ粒子P2の凝集体が含有されていても、そのような凝集体の解消および除去を効果的に達成することができる。それらの工程による凝集体の解消および除去について、高い効果を享受する観点から、ナノ粒子P2は、有機物等による表面処理を施されていないものであることが好ましい。ナノ粒子P2が、有機物を含有しないことで、積層造形物等、粉末材料を用いて製造される製品、またその製品の製造工程において、有機物が与える影響を、小さく抑えることができる。
【0032】
[粉末材料製造装置]
ここで、本発明の一実施形態にかかる粉末材料の製造方法を実施することができる粉末材料製造装置について、説明する。
図1に、一例にかかる粉末材料製造装置1を示す。
【0033】
粉末材料製造装置1は、分散装置10と、分級装置20を含んでいる。分散装置10は、凝集した粉体を分散させることができる装置である。分級装置20は、粉体に対して、分級、つまり粒径の選別を行うことができる装置である。粉体の流れに対して、分散装置10が上流に、分級装置20が下流に設けられており、分散装置10から放出された粉体が、分級装置20に導入される。
【0034】
分散装置10、分級装置20とも、どのような形態で、それぞれ、粉体の分散および分級を行うものであってもよく、分散装置10と分級装置20の間の接続形態も特に限定されるものではない。しかし、分散装置10として気流分散装置を用い、分級装置20として気流分級装置を用いることが好ましい。そして、分散装置10の放出口13を、分級装置20の供給口21に直接接続し、分散装置10の放出口13から、気流とともに放出される粉体を、直接、つまり外部の環境に接触させることなく、分級装置20の供給口21に導入する形態とすることが好ましい。
【0035】
分散装置10としては、気流式の他、インペラ式、オリフィス式等、種々の原理に基づいて粉体を分散させるものが公知であり、それらのいずれを適用してもよいが、本粉末材料製造装置1においては、上記のように、気流式の分散装置10を用いることが好ましい。気流分散装置10としては、例えば、特開平4-330957号公報に開示されるものを用いることができる。この種の気流分散装置10においては、リングノズル12から高速気流を噴出させる。そして、供給口11から供給した粉体を、気流によって生じる負圧によって吸引し、吸引された粉体に、高速気流を衝突させる。粉体は、気流による加速を受け、粒子間衝突、装置壁面との衝突、またせん断力の印加により、粒子間の凝集状態を解消され、分散される。分散を受けた粉体は、気流とともに、放出口13から放出される。
【0036】
分級装置20も、どのような原理に基づくものを用いてもよいが、気流を用いた乾式分級装置を用いることが好ましい。例えば、特開2003-145052号公報に開示されるもののように、強制渦式気流分級機を用いることが好ましい。この種の気流分級装置20においては、分散羽根22を回転させて、気流を発生させ、供給口21から投入された粉体が、その気流のせん断力によって分散された状態で、分級羽根25を備えた分級ゾーン23に供給される。分級ゾーン23において、粉体は、高速回転する分級ロータ24による遠心力と、気流による抗力を受ける。この際、粒子に、粒径に応じた遠心力および抗力が働くことにより、分級が行われる。遠心力が大きく働く大径の粒子は、粗粉領域26に移動する一方、抗力が大きく働く小径の粒子は、微粉領域27に移動する。分級装置20の運転条件の選択により、粗粉領域26において、所望の粒径を有する粒子を分取することができる。
【0037】
分散装置10および分級装置20として、ともに気流式のものを用いることにより、適宜、配管部材30を用いて、分散装置10の放出口13と、分級装置20の供給口21を、直接接続することができる。すると、分散装置10から気流とともに放出された粉体が、直接、分級装置20に導入されることになる。これにより、分散装置10によって粉体を分散させる工程と、分級装置20によって粉体を分級する工程を、連続して実施することができる。
【0038】
[粉末材料の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる粉末材料の製造方法について説明する。本製造方法は、上記で説明した粉末材料製造装置1を用いて、好適に実施することができる。本製造方法においては、原料準備工程、分散工程、分級工程を、この順に実施する。以下、各工程について順に説明する。
【0039】
(1)原料準備工程
原料準備工程においては、粉末材料を製造するための原料粉末を準備する。原料粉末は、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子P1と、金属または金属化合物よりなるナノ粒子P2を含有するものである。金属粒子P1およびナノ粒子P2としては、上記で説明したような粒子を、それぞれ準備すればよい。この際、金属粒子P1およびナノ粒子P2の粒度分布を、適宜調整しておけばよい。特に、金属粒子P1に対しては、分級を行い、積層造形等、粉末材料の用途に応じた所望の粒径を有する金属粒子P1を選別しておくことが好ましい。分級の方法は特に限定されず、例えば、上記粉末材料製造装置1を構成する分級装置20を利用してもよい。
【0040】
原料準備工程においては、それぞれ準備した金属粒子P1と、ナノ粒子P2とを混合し、原料粉末を調製する。後述する分散工程において、ナノ粒子P2が高分散し、金属粒子P1に対して、均一性高く混合、付着されるため、この原料準備工程において、金属粒子P1とナノ粒子P2を混合するに際しては、混合の均一性をそれほど高めなくてもよい。例えば、手作業で撹拌する程度でもよい。
【0041】
混合により、ナノ粒子P2の少なくとも一部が、金属粒子P1の表面に付着し、ナノ粒子付着金属粒子Pを構成する。一方で、ナノ粒子P2の別の一部が、金属粒子P1と混合する前から相互に凝集して凝集体を形成しており、金属粒子P1との混合を経ても、その凝集状態を維持する場合がある。さらに、金属粒子P1との混合中に、新たに、ナノ粒子P2同士で凝集体を形成する場合もある。
【0042】
原料粉末におけるナノ粒子P2の添加量は、製造される粉末材料において求められる流動性向上の程度等に応じて、適宜選択すればよいが、流動性向上の効果を十分に得る観点から、金属粒子P1の質量を基準として、0.001質量%以上とする形態を、好ましいものとして例示することができる。一方、過剰量のナノ粒子P2による凝集体の形成を抑制する観点から、その含有量は、例えば、0.5質量%以下に抑えておくとよい。
【0043】
(2)分散工程
分散工程においては、上記の原料準備工程において準備した原料粉末を、分散装置10に導入し、原料粉末中のナノ粒子P2の凝集を解消する。
【0044】
上記粉末材料製造装置1を用いる場合には、気流分散装置10の供給口11に、原料粉末を投入すればよい(図中矢印a1)。分散装置10において、原料粉末に気流が噴射されることにより、原料粉末の構成粒子が、相互に分散して混合される。同時に、粒子間衝突や装置壁面との衝突、また気流によるせん断力の印加によって、原料粉末中に含有されるナノ粒子P2の凝集体の凝集状態が、解消される。これにより、ナノ粒子P2が高分散された状態となり、その少なくとも一部が、金属粒子P1と相互に分散・混合され、さらに金属粒子P1の表面に付着する。
【0045】
(3)分級工程
分級工程においては、上記の分散工程を経て分散装置10から放出された粉体を、分級装置20に導入し、粉体を分級する。分級により、ナノ粒子P2が金属粒子P1に付着してなるナノ粒子付着金属粒子Pを選別し、分取する。
【0046】
上記粉末材料製造装置1を用いる場合には、気流分散装置10の放出口13と気流分級装置20の供給口21が接続されており、分散工程を完了した粉体が、気流とともに、分級装置20に直接導入され(図中矢印a2)、分級装置20による分級を受ける。分散工程を完了して、分散装置10から分級装置20に導入される粉体には、金属粒子P1の表面にナノ粒子P2が付着したナノ粒子付着金属粒子Pに加え、金属粒子P1の表面に付着していないナノ粒子P2の分散体、つまり凝集を解消されたナノ粒子P2が、不可避的に含まれうる。しかし、分級工程を経ることで、金属粒子P1の表面に付着していないナノ粒子P2の分散体は、微粉領域27に移動し、ナノ粒子付着金属粒子Pと分離される。さらに、分散工程を経ても、凝集状態を解消しきれなかったナノ粒子P2の凝集体が、粉体中に混在している場合でも、そのような凝集体も、ナノ粒子付着金属粒子Pから分離することができる。このように、ナノ粒子P2の分散体や凝集体等、粒径の異なる成分から、ナノ粒子付着金属粒子Pを分離し、粗粉領域26から分取することができる。
【0047】
以上のように、原料粉末中に、ナノ粒子P2の凝集体が含まれていたとしても、分散工程と分級工程を順に経ることで、ナノ粒子P2の凝集構造を解消し、微分散したナノ粒子P2が金属粒子P1の表面に付着したナノ粒子付着金属粒子Pを高純度で含む粉末材料を、製造することができる。製造された粉末材料に対して、ナノ粒子P2の凝集体を除去するために、ふるい分け等の操作を、事後的に行う必要はない。よって、ナノ粒子付着金属粒子Pよりなる粉末材料を、簡便に製造することができる。特に、分散装置10および分級装置20として、ともに気流式のものを用い、分散工程と分級工程を連続的に実施することにより、製造工程の簡便性および製造装置の簡素性を、一層高めることができる。
【0048】
[製造される粉末材料]
本製造方法によって製造される粉末材料においては、
図2に示すように、金属粒子P1の表面に、ナノ粒子P2が分散して付着し、ナノ粒子付着金属粒子Pとなっている。ここで、ナノ粒子P2が金属粒子P1に付着しているとは、ナノ粒子P2と金属粒子P1の間に働く引力が、少なくとも、ナノ粒子P2を含まない場合に金属粒子P1相互間に働く引力よりも大きい状態を指す。
【0049】
金属粒子P1の表面にナノ粒子P2が付着していることにより、ナノ粒子P2が金属粒子P1間に介在され、金属粒子P1間に、ナノ粒子P2の粒径以上の距離が保たれることになる。ファンデルワールス力、静電引力等、金属粒子P1間に働く引力は、金属粒子P1間の距離が大きくなると、小さくなる。つまり、ナノ粒子P2の存在によって、金属粒子P1間の距離を確保することにより、金属粒子P1の相互間における引力が低減される。これにより、金属粒子P1間に働くせん断付着力(τs)を低減し、その結果として、粉末材料の流動性を高めることができる。例えば、ナノ粒子P2の付着により、金属粒子P1間のせん断付着力を、ナノ粒子P2を含有しない場合の50%以下、さらには40%以下とすることができる。
【0050】
本製造方法によって製造される粉末材料は、実質的に、ナノ粒子付着金属粒子P以外に、ナノ粒子P2同士の凝集体や、金属粒子P1に付着していないナノ粒子P2を含有していないことが好ましく、少なくとも目視で認識される水準では、ナノ粒子P2の凝集体を含有していないものであるとよい。粉末材料中に、ナノ粒子P2の凝集体が含有されるとすれば、そのような凝集体を構成しているナノ粒子P2は、金属粒子1つ1つの間に介在して、金属粒子P1間の引力を低減し、流動性を高めるのには寄与できない。むしろ、凝集体の形成にナノ粒子P2が費やされる分だけ、金属粒子P1の表面に付着できるナノ粒子P2の量が少なくなるため、金属粒子P1間の引力を低減し、流動性を高める効果が低くなってしまう。ナノ粒子P2の凝集をなるべく低減することで、製造される粉末材料の流動性を高めることができる。分散工程および分級工程を経て、ナノ粒子P2の凝集体の解消と除去を行うことで、それらの工程を経ない場合と比較して、金属粒子P1間のせん断付着力を、例えば、80%以下とすることができる。
【0051】
粉末材料が高い流動性を有することにより、積層造形の原料として、粉末材料を好適に用いることができる。例えば、積層造形法のうち、SLM法やEBM法等の粉末積層溶融法を実施する場合には、ホッパーから粉末材料を供給し、基材の上に敷き詰めて、粉末床を形成する。この際、粉末材料が高い流動性を有することにより、ホッパーから安定して粉末材料を流出させることができる。また、リコーター等を用いて、粉末材料を敷き詰めて、粉末床とする際に、粉末材料の敷き詰めを、高密度に、また均質に行いやすくなる。このように、粉末材料が高い流動性を有することは、均一性および密度の高い粉末床を安定して形成するうえで、重要である。そして、均一性および密度の高い粉末床に対して、エネルギー線を照射し、積層造形を行うことにより、均質で欠陥の少ない三次元造形物を形成しやすくなる。LMD法をはじめとする粉末堆積法による積層造形においても、流動性に優れた粉末材料を用いることで、ノズルに粉末材料を安定して供給することができる。また、ノズルから造形を行う箇所に向かって、気流とともに粉末材料を噴射する際に、ノズルの閉塞を抑制し、造形を安定して進めることができる。
【0052】
このように、粉末材料において、金属粒子P1の表面にナノ粒子P2が分散して付着しており、かつナノ粒子P2の凝集体の含有が低減されていることにより、粉末材料の流動性を高めることができる。その結果として、粉末材料を積層造形の原料として用いた際に、積層造形工程を円滑に進め、均一性の高い組織を有する三次元造形物を得ることができる。また、粉末材料中にナノ粒子P2の凝集体が含有されているとすれば、そのような凝集体は、粉末材料の流動性を下げるのみならず、積層造形物において、破壊起点として作用する欠陥を形成しやすい。つまり、粉末材料において、ナノ粒子P2の凝集構造が解消されていることは、粉末材料の流動性の確保と、破壊起点の排除の両方の点から、粉末材料を積層造形の原料として用いる際の好適性を高めるものとなる。
【0053】
製造される粉末材料において、ナノ粒子付着金属粒子Pの粒径や形状としては、実質的に、原料粉末として用いた金属粒子P1の粒径や形状を維持する。粉末材料を積層造形の原料として用いる場合には、ナノ粒子付着金属粒子Pの平均粒径は、10~100μm程度であることが好ましい。また、円形度は、平均粒径において、0.90以上、さらには0.95以上であることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。ここでは、上記で説明した製造工程を経ることで、粉末材料の状態や特性がどのように変化するかを調べた。
【0055】
(試料の作製)
Ti-6Al-4V合金(6質量%のAlと4質量%のVを含有し、残部がTiと不可避的不純物よりなる合金)よりなる金属粒子を、ガスアトマイズ法にて作成した。そして、15/45μmにて分級を行った。得られた金属粉末を、試料#1とした。
【0056】
試料#1の金属粉末に、表面処理されていないTiO
2ナノ粒子(TECNAN社製「TECNAPOW-TIO2」 平均粒径10~15nm)を混合し、原料粉末とした。ナノ粒子の添加量は、金属粒子の質量に対して、0.02質量%とした。得られた原料粉末を、
図1に示すのと同様の、気流分散装置(日清エンジニアリング社製 リングノズルジェット式分散器「DN-155」)と気流分級装置(同社製 ターボクラシファイアー「TC-15」)を接続した粉末材料製造装置に供給して、分散および分級を行った。ナノ粒子が付着した金属粒子を分取して、試料#2とした。
【0057】
また、比較用に、試料#1の金属粉末に、試料#2と同種、同量のTiO2ナノ粒子を添加し、混合のみ行ったものを、試料#3とした。混合は、振とう式粉末混合機によって行った。
【0058】
(粉末材料の評価)
まず、金属粒子とナノ粒子の分散状態を確認するために、試料#2および試料#3に対して、粉末材料の状態を、目視にて観察した。試料の状態は、写真撮影によって記録した。
【0059】
また、ナノ粒子を添加した金属粒子の状態を確認するために、試料#1および試料#2に対して、粒度分布を評価した。この際、粒子画像分析装置を用いて、粒子形状の評価を行った。粒子形状に基づいて、粒度分布を評価するとともに、粒子の円形度を計測した。
【0060】
さらに、試料#2については、粒子の状態を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察した。また、SEMを用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX)によって、金属粒子の表面の狭い領域に対して、元素分析を行った。
【0061】
最後に、ナノ粒子の添加の有無および添加方法による粉末材料の流動性の変化について、調査した。具体的には、試料#1~#3のそれぞれに対して、嵩密度規格化せん断付着力(τs/ρ)を計測した。計測に際しては、JIS Z 8835に準拠し、回転セル型のせん断試験装置を用いて、粉末材料に圧力(σ)を印加した際に発生するせん断応力(τ)を計測した。そして、σを横軸に、τを縦軸にプロットした際の縦軸切片として、せん断付着力(τs)を求めた。また、嵩密度(ρ)は、JIS Z 2504に準拠し、金属粉末用嵩比重測定器を用いて、計測した。各計測は、気温24℃、相対湿度RH23%の条件で行った。
【0062】
(評価結果)
(1)ナノ粒子の分散性
図3(a),(b)に、それぞれ、試料#2および#3の粉末材料の状態を撮影した写真を示す。まず、
図3(b)の粉末混合機による混合のみを経た粉末材料については、暗く観察される微細な粉末の集合体の中に、明るく撮影される粒状体が点在している。この粒状体の直径は、1mm程度であり、色の比較等から、TiO
2ナノ粒子の凝集体に対応付けることができる。原料として用いたTiO
2ナノ粒子が、金属粒子と混合する前から凝集構造を形成しており、粉末混合機による混合を経るのみでは、その凝集構造が完全には解消されなかったものと考えられる。
【0063】
一方、粉末材料に対して分散・分級を行った試料#2については、
図3(a)に示されるように、画像全体に一様に、暗い色の微細な粉末が観察されており、
図3(b)で見られたような明るく撮影される粒状体は確認されない。つまり、試料#2においては、均一性の高い粉末材料が生成している。このことは、分散・分級工程を経ることで、原料粉末中に含有されたTiO
2ナノ粒子の凝集体の凝集状態が解消され、ナノ粒子の分散性が高められたことを示している。
【0064】
(2)粒度分布および円形度
図4に、ナノ粒子を添加していない金属粒子よりなる試料#1、および金属粒子にナノ粒子を添加して分散・分級工程を経た試料#2について、粒度分布、および粒径ごとの円形度の評価結果を示す。また、表1に、粒度分布にかかるパラメータを示す。さらに、
図5に、
図4に示した円形度を得る際に用いた粒子画像の例として、平均粒径に対応する粒径20μm±2μmにおける粒子画像を、試料#1,#2について示す。これらの粒子画像から得られた円形度の平均値は、試料#1,#2ともに、0.96であった。
図4に示した粒径ごとの円形度は、同様に、±2μmの粒径範囲における平均値を算出したものである。
【0065】
【0066】
図4によると、ナノ粒子を添加していない試料#1と、ナノ粒子を添加した試料#2で、粒度分布は、中央値や幅において、非常に類似したものとなっている。表1に示す代表値も、ほぼ両者で同じ値となっている。つまり、試料#1と試料#2は、ほぼ同様の粒度分布を有しており、ナノ粒子の添加、および分散・分級工程を経て、試料粒子の粒度分布は、実質的に変化していないことが確認される。
【0067】
そして、
図5の粒子画像を試料#1と試料#2で比較すると、多くの粒子において、粒子形状に、両試料で大きな違いは見られない。上記のように、円形度の平均値も、0.96と、両試料で同じになっている。さらに、
図4によると、全粒径領域において、ほぼ同程度の円形度が得られている。つまり、円形度も、ナノ粒子の添加、および分散・分級工程を経て、実質的に変化していないことが確認される。
【0068】
以上のように、ナノ粒子の添加、および分散・分級工程を経ても、粉末材料を構成する粒子の粒径および円形度は、実質的に変化しておらず、分散・分級工程が、金属粒子の粒子形状や粒子サイズに影響を与えるものではないことが、確認される。また、後に評価結果を示すせん断付着力等、粉末材料の特性において、ナノ粒子を添加した際に生じる変化は、粒子形状や粒子サイズの変化によるものではなく、ナノ粒子の添加そのものによる結果であることが、確認される。
【0069】
(3)ナノ粒子が付着した金属粒子の構造
図6に、試料#2の粒子に対するSEM観察の結果を示す。
図6(a)の低倍率像(スケールバー:20μm)によると、直径20μm程度の球体に近い形状の粒子が、観測されている。つまり、球体に近い形状を有する金属粒子の多くが、相互に凝集を起こすことなく、分散していることが確認される。
【0070】
図6(b)の高倍率像(スケールバー:1μm)によると、球形の粒子の表面に、ナノオーダーのサイズの粒子が多数分散して付着している。
図6(c)にさらに高倍率の像(スケールバー:200nm)を示すが、100nm以下の寸法の粒子が、金属粒子の表面に、多数分散していることが分かる。
【0071】
さらに、
図6(c)中で、ナノサイズの粒子が存在していない位置P1、およびナノサイズの粒子が存在している位置P2について、EDXによる元素分析結果を、
図7に示す。これによると、ナノ粒子が付着しておらず、Ti-6Al-4V合金よりなる金属粒子の表面を観察していると考えられる位置P1においては、C,O,Al,Tiが検出されている。これらの元素のうち、Al,Tiは、金属粒子の成分に対応する。Cは、SEM観察時に試料粉末を分散させたカーボンテープに由来すると推定される。Oは、金属粒子の表面に不可避的に形成された酸化膜に由来すると考えられる。
【0072】
ナノ粒子が付着した位置P2においても、位置P1と同様、C,O,Al,Tiが検出されているが、Oの濃度が、位置P1と比較して、顕著に高くなっている。これは、TiO
2ナノ粒子に由来するものであると考えられる。つまり、SEM像において観察されたナノサイズの粒子は、金属粒子の表面に付着したTiO
2ナノ粒子に帰属することができる。
図6(b),(c)のSEM像に確認されるように、そのTiO
2ナノ粒子は、高度に分散された状態で、金属粒子の表面全体に分布して付着している。このことから、ナノ粒子を金属粒子に添加し、分散・分級工程を実施することで、ナノ粒子を分散させて金属粒子の表面に付着させた粉末材料を製造できることが、確認される。
【0073】
(5)粉末材料の流動性
図8に、試料#1~#3について、嵩密度規格化せん断付着力(τ
s/ρ)の計測結果を示す。単位は、(m/s)
2である。これによると、ナノ粒子を添加していない試料#1と比較して、ナノ粒子を添加し、粉末混合機による混合のみを行った試料#3においては、値が48%程度に小さくなっている。これは、ナノ粒子の少なくとも一部が金属粒子の間に介在して、金属粒子間の引力を下げ、流動性を向上させていることによると、考えられる。
【0074】
さらに、ナノ粒子を添加し、分散・分級工程を実施した試料#2においては、試料#1と比較して、嵩密度規格化せん断付着力が、38%にまで低下している。試料#3と比較しても、その値は、80%程度に小さくなっている。このことから、ナノ粒子を金属粒子に添加して、混合するだけでなく、分散・分級工程を実施することにより、ナノ粒子が、金属粒子の粒子間の引力を低減し、流動性を向上させるのに、一層高い効果を発揮することが分かる。
【0075】
以上の試験結果を総合して、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子に、ナノ粒子を添加し、分散・分級工程を実施することにより、ナノ粒子の分散性を高めた状態で、ナノ粒子を金属粒子の表面に付着させられることが確認された。そして、金属粒子の表面に分散して付着したナノ粒子は、金属粒子間に介在することで、金属粒子間の引力を低下させ、粉末材料の流動性を向上させるものとなる。分散・分級工程を経て、ナノ粒子が分散されることで、多数のナノ粒子が金属粒子の表面に付着することができ、金属粒子間の引力の低減に効果的に寄与するものと考えられる。
【0076】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 粉末材料製造装置
10 (気流)分散装置
11 供給口
13 放出口
20 (気流)分級装置
21 供給口
26 粗粉領域
27 微粉領域
P ナノ粒子付着金属粒子
P1 金属粒子
P2 ナノ粒子