(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】熱収縮性ポリエステル系フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240130BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240130BHJP
B29C 61/02 20060101ALI20240130BHJP
B29C 61/06 20060101ALI20240130BHJP
B65D 65/00 20060101ALI20240130BHJP
B29K 105/02 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08L67/02
B29C61/02
B29C61/06
B65D65/00 A
B29K105:02
(21)【出願番号】P 2020022288
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107854(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199787(WO,A1)
【文献】特開2000-297160(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114934(WO,A1)
【文献】特開2009-161625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08L 1/00-101/14
B29C 55/00-55/30、61/00-61/10
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(6)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)80℃の熱風中で30秒間に亘って処理した場合におけるフィルムの長手方向の収縮率が30%以上70%以下
(2)フィルム同士を130℃で圧力0.2MPaでヒートシールした際のシール剥離強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(3)フィルムの面配向度が0.050以上0.080以下
(4)フィルムの少なくとも一方の面における偏光ATR-FTIR法で測定した熱収縮性フィルムの1340cm
-1での吸光度A1と1410cm
-1での吸光度A2との比A1/A2が、フィルム長手方向で0.50以上1.20以下
(5)長手方向の引張破断強度が150MPa以上320MPa以下
(6)30℃85%RHで672時間エージング後のフィルムの長手方向の自然収縮率が1.0%以下
【請求項2】
さらに、下記要件(7)~(8)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(7)90℃の熱風中におけるフィルムの長手方向の最大収縮応力が2MPa以上15MPa以下
(8)80℃の熱風中で30秒間に亘って処理した場合におけるフィルムの長手方向と直交する方向(幅方向)の収縮率が-5%以上10%以下
【請求項3】
さらに、下記要件(9)~(10)を満たす請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(9)フィルムの厚みが6μm以上25μm以下
(10)フィルムのIV値が0.60dl/g以上
【請求項4】
さらに、下記要件(11)~(12)満たす請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(11)フィルムを構成するポリエステルに含まれる非晶質成分となり得るグリコール成分が10モル%以上23モル%以下
(12)フィルムを構成するポリエステルに含まれるエチレングリコール成分が50モル%以上77モル%以下
【請求項5】
一軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
プラスチック容器の帯ラベル包装用途に用いられることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムがヒートシールで環状に接着された帯ラベルが被覆されてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性フィルムに関するものであり、更に詳しくは、容器の結束や被覆用途、ラベル用途に好適な熱収縮ポリエステル系フィルム、および熱収縮ポリエステル系フィルムを使用したラベルと該ラベルが被覆されてなる包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックボトルや弁当容器の外側に、内容物の保護、外観向上や内容物の表示の目的で、プラスチックフィルムからなるラベルを被覆して熱収縮させた包装体が多くみられるようになってきている。そして、そのようなラベル用の熱収縮プラスチックフィルムとしては、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系樹脂等の延伸フィルムが使用されている。
【0003】
そのような熱収縮性フィルムの内、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており使用量が増加する傾向にある。
【0004】
通常の熱収縮性フィルムとしては、幅方向に大きく収縮させるものが広く利用されている。そのように、幅方向が主収縮方向である熱収縮プラスチックフィルムは、幅方向に高倍率の延伸が施されているが、主収縮方向と直交する長手方向に関しては、低倍率の延伸が施されているだけであることが多く、延伸されていないものもある。
そのように、長手方向に低倍率の延伸を施したのみのフィルムや、幅方向のみにしか延伸されていないフィルムは、長手方向の機械的強度が劣るという欠点がある。また、延伸倍率が低いフィルムは長期間保管後の機械強度低下が生じやすく、輸送時の振動や衝撃でラベルにクラックが生じやすいという欠点がある。
【0005】
ボトルや食品容器のラベルは、環状にして被装着物に被せた後に周方向に熱収縮させなければならないため、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムをラベルとして装着する際には、フィルムの幅方向が周方向となるように環状体を形成した上で、その環状体を所定の長さ毎に切断してボトルや食品容器に装着しなければならない。このため、幅方向に熱収縮する熱収縮性フィルムからなるラベルを高速にボトルや弁当容器に装着するのは困難である。
【0006】
さらに、近年では高齢化や共働き世帯の増加により、コンビニ等で弁当や麺類の販売が増えている。それゆえ、長手方向に収縮するフィルムを使用することにより、ロールから巻き出したフィルムを直接ボトルや食品容器等の周囲に巻きつけて装着することで装着が高速に実施でき、かつ従来手被せで実施していた環状体ラベルの装着工程を自動化ができる装着方法が開発されている。また、かかる包装方法には、フィルムにヒートシール性が求められる形態もある。
【0007】
ヒートシールによる加工を行う際は、例えば2つのフィルムロールから巻きだした収縮フィルムを部分的にヒートシールして貼りあわせ、その2つのフィルムの間に被包装物(麺容器や弁当容器等のプラスチック容器)を挿入して、ヒートシールされている部分と反対側のフィルムを部分的にヒートシールして貼りあわせることで環状のフィルムとし、その環状フィルムを熱風等で加熱して収縮させることで被包装体と密着させ容器と蓋を留める帯ラベルを装着することができる。
【0008】
また熱風トンネルで熱収縮させて装着させる場合、一般的に飲料ペットボトルなどでの装着へ用いられるスチームトンネルと異なり、熱風だと蒸気よりも熱伝達性しにくいため、熱収縮フィルムには低温での優れた収縮特性が求められる。
【0009】
ポリエステルフィルムにおいてヒートシール強度を向上させるには、製膜工程においてポリエステルを結晶化させることなく、フィルム中の非晶質量を大きくすることが必要となる。
【0010】
また、ポリエステルの分子鎖配座にはトランスコンホメーションとゴーシュコンホメーションの2種類が存在する。トランスコンホメーションは分子が配向した状態を表しており、比較的分子の運動性が小さいトランスコンフォメーションが少ないほどヒートシール強度を向上させることができる。
【0011】
一方で、長手方向の機械強度を高めたり、長期保管後での自然収縮を抑制するためには、延伸倍率を上げることによって分子をより配向させることが有効である。しかしながら、延伸倍率を大きくするとトランスコンフォメーションの比率が大きくなってしまいヒートシール強度が低下する問題があった。
【0012】
上記したような長手方向における機械強度の不具合を解消するとともに、長手方向に収縮する機能を発現させるべく、ブタンジオールをモノマー成分として含んだポリエステル系混合物からなる未延伸シートを長手方向に延伸を行い、その後、延伸ロールの速度差によって配向を緩和させる処理と熱処理を実施することで長手方向の収縮特性を発現するとともにヒートシール加工が可能なフィルムを得る発明がなされた(例えば、特許文献1参照)。
【0013】
しかしながら、かかる発明は延伸によるフィルムの分子配向が十分でないことから長手方向の強度が十分でなく、また経時による自然収縮が生じやすいため、特に薄いフィルムだとラベルとして装着後の輸送時にクラックが生じたり、フィルムロールの形態での保管中やラベルとして装着した後において、経時による自然収縮による巻き締まりでシワが発生しやすい欠点があった。
【0014】
また、特許文献2では、非晶性成分となるモノマーを使用し、ロール長手方向に収縮するポリエステル系熱収縮フィルムが記載されているが、記載の方法では二軸伸するため、二軸目(主収縮方向)の延伸の応力が高くなり、結果収縮時の収縮応力が高くなる。さらに、二軸延伸によりフィルム面方向の配向が進み、ヒートシール性が低くなる問題点がある。さらに、二軸に延伸するための大規模な設備が必要であり、コストがかさむ問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-107854号公報
【文献】特許4411556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、上記従来の熱収縮性フィルムが有する問題を解消し、主収縮方向である長手方向への収縮性が十分で外観良好な収縮仕上げが可能であり、ヒートシール性に優れ、長手方向の機械強度が十分でかつ自然収縮が少ない熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述したとおり、従来技術では長手方向の強度向上や自然収縮率を抑制することと、ヒートシール強度を両立することは困難であった。本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.下記要件(1)~(6)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)80℃の熱風中で30秒間に亘って処理した場合におけるフィルムの長手方向の収縮率が30%以上70%以下
(2)フィルム同士を130℃、圧力0.2MPaでヒートシールした際のシール剥離強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(3)フィルムの面配向度が0.050以上0.080以下
(4)フィルムの少なくとも一方の面における偏光ATR-FTIR法で測定した熱収縮性フィルムの1340cm-1での吸光度A1と1410cm-1での吸光度A2との比A1/A2が、フィルム長手方向で0.50以上1.20以下
(5)長手方向の引張破断強度が150MPa以上320MPa以下
(6)30℃85%RHで672時間エージング後のフィルムの長手方向の自然収縮率が1.0%以下
2.さらに、下記要件(7)~(8)を満たす1.に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(7)90℃の熱風中におけるフィルムの長手方向の最大収縮応力が2MPa以上15MPa以下
(8)80℃の熱風中で30秒間に亘って処理した場合におけるフィルムの長手方向と直交する方向(幅方向)の収縮率が-5%以上10%以下
3.さらに、下記要件(9)~(10)を満たす1.又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(9)フィルムの厚みが6μm以上25μm以下
(10)フィルムのIV値が0.60以上
4.さらに、下記要件(11)~(12)を満たす1.~3.のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(11)フィルムを構成するポリエステルに含まれる非晶質成分となり得るグリコール成分が10モル%以上23モル%以下
(12)フィルムを構成するポリエステルに含まれるエチレングリコール成分が50モル%以上77モル%以下
5.一軸延伸フィルムであることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の熱収縮性
ポリエステル系フィルム
6.プラスチック容器の帯ラベル包装用途に用いられることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
7.前記1.~6.のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムがヒートシールで環状に接着された帯ラベルが被覆されてなる包装体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムは、主収縮方向である長手方向への収縮性が高く、主収縮方向と直交する方向にはほぼ収縮しないため、ボトルや弁当容器に短時間のうちに非常に効率よく装着することが可能であり、装着後に熱収縮させた場合に幅方向の熱収縮や長手方向の収縮不足によるシワが極めて少ない良好な仕上がりを発現されることができる。また、ヒートシール性に優れ、ヒートシールによる加工が可能であるため、ヒートシール性を要する装着方法にも適用することができる。さらに長手方向の強度が高く、長時間保管後でも自然収縮が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】麺容器に収縮前の環状ラベル(帯ラベル)を被覆した様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムは、熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物をダイスより押し出して得られた未延伸シートを少なくとも長手方向に延伸して得られる包装用途に好適なフィルムであり、包装の対象物としては、飲料用のペットボトルをはじめ、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を上げることができる(以下、これらを総称して包装対象物という)。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムを熱収縮させて被覆させる場合には、当該フィルムから作成したラベルを約2~20%程度熱収縮させて包装対象物に密着させる。
【0021】
また、包装対象物にラベルを被覆させる場合には、予め、主収縮方向が周方向になるように環状体を形成した上で、その環状体を包装対象物に被せて熱収縮させる方法を採用することもできるが、そのように環状体を形成する場合には、各種接着剤を用いて熱収縮性フィルムを接着する方法の他に、高温発熱体を利用して熱収縮ポリエステル系フィルムを融着する方法(溶断シール、ヒートシール)等を利用することも可能である。
【0022】
熱収縮性ポリエステル系フィルムをヒートシールすることで環状体を形成する場合には、2本のフィルムロールを用意し、所定の自動シール機械を用いて、シールバーの温度を所定の条件(たとえば、シールバーの温度=130℃)に調整した上で、2本のロールからフィルムを重ねあわせた状態で一定の間隔で巻出しながら所定の速度(たとえば、30個/分) でシールする方法等を採用することができる。前述のように2つのフィルムロールから巻きだした収縮フィルムを部分的にヒートシールして貼りあわせ、その2つのフィルムの間に包装対象物(麺容器や弁当容器等のプラスチック容器)を挿入して、ヒートシールされている部分と反対側のフィルムを部分的にヒートシールして貼りあわせることで環状のフィルムとし、その環状フィルムを熱風トンネル等で加熱して収縮させることで包装対象物と密着させ容器と蓋を留める帯ラベルを装着することができる。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、この加工方式に用いられることが好ましい。
包装対象物に環状体を装着する際には予め作成した環状体を包装対象物に手被せするほか、包装対象物の周囲にラベルを捲回させた状態でヒートシールを行い、切断することによりラベルを被せた包装対象物を得ることもできる。さらに、熱風トンネル等において被せたラベルを熱収縮させることで包装対象物への装着が完了する。
【0023】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに使用するポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。これらのうち、ジカルボン酸成分100モル%中、50モル%以上がテレフタル酸であることがフィルムの強度および耐熱性を確保する点で好ましい。テレフタル酸は、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸(たとえば、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)を含有させる場合、含有率は3モル%未満であることが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸を3モル%以上含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、高速装着時のフィルム腰が不十分である。
【0025】
また、3価以上の多価カルボン酸(たとえば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)を含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに使用するポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0027】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、炭素数3~6個の直鎖を有するジオールやラクトン(たとえば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ε-カプロラクトン等)や、炭素数3~6個のエーテル結合を有するジオール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等)のうちの1 種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を55~70℃に調整したポリエステルが好ましい。
【0028】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、全ポリステル樹脂中における多価アルコール成分100 モル% 中のエチレングリコール成分の合計が50 モル% 以上であることが好ましく、55モル% 以上であることがより好ましく、特に58 モル% 以上であることが好ましい。エチレングリコール成分の合計が50モル%を下回るとフィルムの強度が低下したり、耐熱性が低下するため好ましくない。一方で、エチレングリコール成分が77モル%を超えてしまうと、熱収縮率が低下して収縮仕上がり性が悪化したり、ヒートシール強度が低下するため好ましくない。
【0029】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルの非晶質成分となりうるモノマーとして、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。より好ましくは、ネオペンチルグリコールまたは1,4-シクロヘキサンジメタノールであり、さらに好ましくはネオペンチルグリコールである。
全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100 モル%中の非晶質成分となりうるモノマー成分の合計が10モル%以上であることが好ましく、12モル% 以上であることがより好ましく、特に14モル% 以上であることが好ましい。非晶成分となるうるモノマー成分の合計が10モル%を下回ると熱収縮率が低下して収縮仕上がり性が悪化したり、ヒートシール強度が低下するため好ましくない。一方で非晶質成分となりうるモノマー成分の合計が23モル%を超えてしまうと耐熱性が低下してヒートシール時にフィルムにシワが入ったり、シールバーにフィルムが融着することがあるため好ましくない。
【0030】
熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル中には、炭素数8 個以上のジオール(たとえばオクタンジオール等) 、または3価以上の多価アルコール( たとえば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を、含有させないことが好ましい。これらのジオール、または多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05~3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0032】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0033】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の熱風中に無荷重状態で30秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの長手方向の熱収縮率(すなわち、80℃の熱風熱収縮率)が、少なくとも30%以上であることが必要である。
熱収縮率= {(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ×100(%)・・式1
なお、上記「長手方向」とはフィルム製膜時の製膜方向(すなわちロール状に巻き取ったフィルムの巻取り方向)をさす。
【0034】
80℃における長手方向の熱風熱収縮率が30%以下であると、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワや収縮斑が生じてしまうので好ましくない。なお、80℃における長手方向の熱風熱収縮率の下限値は、32% 以上であると好ましく、34%以上であると特に好ましい。一方で熱風収縮率が70%以上であると収縮時に歪みが発生しやすくなり好ましくない。80℃における長手方向の熱風熱収縮率の上限値は、68%以下であると好ましく65%以下であると特に好ましい。
【0035】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の熱風中にて無荷重状態で30秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式1により算出したフィルムの幅方向(長手方向と直交する方向)の熱風熱収縮率が、-5% 以上10% 以下であることが必要である。
【0036】
80℃における幅方向の熱風熱収縮率が-5%未満であると、ラベルとして使用する際に膨張して歪みが生じてしまい、良好な収縮外観を得ることができないので好ましくない。反対に、80℃における幅方向の熱風熱収縮率が10%を上回ると、ラベルとして用いた場合に熱収縮時に幅方向にシワが生じ易くなるので好ましくない。なお、80℃における幅方向の熱風熱収縮率の下限値は、-3% 以上であると好ましく、-1%以上であるとより好ましく、0%以上であると特に好ましい。また、80℃ における幅方向の熱風熱収縮率の上限値は、7%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましく、3%以下であると特に好ましい。
【0037】
一方、本発明においてはフィルムの長手方向の最大熱収縮応力値が2MPa以上15 MPa以下であることが好ましい。フィルムの長手方向の最大熱収縮応力値が2MPa未満であると、弁当などの容器にラベルとして装着して熱収縮させた場合に、装着が緩くなってしまい、ラベルが容器からずれ落ちる事態が生じうるので好ましくない。反対にフィルムの長手方向の最大熱収縮応力値が15MPaを上回ると、収縮時にシール部が剥離したり、包装対象物が収縮する力で変形する恐れがあるので好ましくない。なお、フィルムの長手方向の最大熱収縮応力値の下限は、3MPa以上であるとより好ましく、4MPa以上であると特に好ましい。また、フィルムの長手方向の最大熱収縮応力値の上限は、13MPa以下であるとより好ましく、11MPa以下であると特に好ましい。
【0038】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム同士をシールバー温度130℃ 、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が4N/15mm以上であることが好ましい。
ヒートシール強度が4N/15mm未満であると、熱収縮させて包装対象物にラベルとして装着させる際に収縮する力でシール部分が剥離されるため好ましくない。なお、フィルムのヒートシール強度は高いほど好ましいが、15N/15mmより大きくなるとヒートシール時にシールバーにフィルムが融着する恐れがあり、加工時の生産性が低下するので好ましくない。上記より、ヒートシール強度は5N/15mm以上が好ましく、8N/15mm以上がより好ましいが、シール強度が大きいとヒートシール加工時にシールバーへの融着が発生して加工時の生産性が低下する恐れがあるため上限値としては15N/15mm以下であることが必要である。
【0039】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの長手方向の自然収縮率は30℃85%RHで672時間エージング後、1%以下であることが必要である。自然収縮率が1%を超えてしまうと、フィルムロールを長期保管したり、その他、包装用ラベルとして装着した後の輸送時に、例えば30~40℃程度の夏場の高温下に長時間曝されることがあると、フィルムが収縮して巻き締まることでシワが発生して外観不良を引き起こすことがあり好ましくない。
【0040】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの面配向度ΔPが0.050以上であることが好ましい。面配向度ΔPは、フィルム面全体としての配向強度を示すものである。フィルムの前記の面配向度ΔPを係る範囲にすることにより、フィルムを長期保管した後の機械的強度の低下が生じにくい。一方で、面配向度ΔPが0.080を超えてしまうとヒートシール強度が低下するため好ましくない。
【0041】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、偏光ATR-FTIR法で測定した熱収縮性ポリエステル系フィルムの1340cm-1での吸光度A1と1410cm-1でのA2との比A1/A2(以下、単に吸光度比とする)が、フィルム長手方向で0.50以上1.20以下でなければならない。
【0042】
上記吸光度比は、ポリエステル分子のトランスコンフォメーション比率を表す。本発明者等は、長手方向に延伸されたフィルムにおける分子配向(トランスコンフォメーション比率)に着目して、好適なヒートシール強度を示す分子配向とはどのようなものかについて、長手方向のトランスコンフォメーション比率を検討し、本発明に到達した。
すなわち、本発明者等は、延伸倍率や条件、原料組成等を変更することにより、トランスコンフォメーション比率の変化とヒートシール強度が関係しているという実験結果を得ている。トランスコンフォメーションはポリエステル中のグリコール成分の分子鎖配向状態を表すものと考えられ、トランスコンフォメーション比率が高いと分子鎖の配向状態が強く分子鎖の拘束が大きい。ヒートシール強度の発現には分子鎖の拘束を一旦ほぐして、接触させているシール面同士の分子鎖絡み合いを進行させる必要があると考えられる。このため、非晶状態の分子鎖の配向が小さい(すなわちトランスコンフォメーション比率が小さい)と、絡み合いをほぐすのに必要な熱量を少なくすることができ、ヒートシール強度を向上させることができると考えられる。
【0043】
フィルム長手方向においては、吸光度比は0.50~1.20でなければならない。フィルム長手方向の吸光度比が0.50未満では分子配向が低いため、長手方向の引張破壊強さが小さくなる。また、分子鎖の拘束が小さくなるため自然収縮率が高くなる。フィルム長手方向の吸光度比は0.55以上がより好ましく、0.60以上がさらに好ましい。またフィルム長手方向の吸光度比が1.20より高くなると分子配向が高くなるため長手方向の引張破壊強さも大きくなってこの点では好ましいが、ヒートシール強度が低下する他、フィルム長手方向の80℃熱風収縮率も高くなり過ぎる場合があり、その結果として、収縮後のラベルにシワや歪みが発生し易い。フィルム長手方向の吸光度比は1.15以下がより好ましく、1.10以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明の熱収縮性ポリエステルフィルムはフィルム長手方向の引張破壊強さが150MPa以上320MPa以下であることが好ましい。上記引張破壊強さを下回るとフィルムの腰が弱くなり、食品容器等にラベルとして装着する際にシワが入りやすくなるほか、巻き出した際にクラックが生じやすくなるため好ましくない。引張破壊強さは170MPa以上がより好ましく、190MPa以上がさらに好ましい。引張破壊強さは大きいほど好ましいが、本発明の設計では320MPaが上限である。
【0045】
加えて、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、長手方向の厚み斑が20%以下であることが好ましい。長手方向の厚み斑が20%を超える値であると、ラベル作成の際の印刷時に印刷斑が発生し易くなったり、熱収縮後の収縮斑が発生し易くなったりするので好ましくない。なお、長手方向の厚み斑は、18%以下であるとより好ましく、15% 以下であると特に好ましい。
【0046】
上記の熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮率、最大熱収縮応力値、ヒートシール強度、フィルムの長手方向の厚み斑、面配向度は、前述の好ましいフィルム組成を用いて、後述の好ましい製造方法と組み合わせることにより達成することが可能となる。
【0047】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、6~25μmであることが好ましい。厚みが6μm以下であるとフィルム腰が不足し、包装対象物に装着させる際にシワが入りやすくなるだけでなく、機械強度が不足して輸送時にクラックが発生したり、巻出し時に裂けやすいため好ましくない。厚みが25μm以上であると、ラベルとして装着する際の収縮時にかかる力が大きくなり、包装対象物である弁当容器等がラベルの収縮により変形することがあるため好ましくない。なお、フィルムの厚みとは収縮させる前の厚みのことである。
【0048】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により、長手方向に延伸することによって得ることができる。
【0049】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200~300℃の温度で溶融し
フィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存
の任意の方法を採用することができる。
【0050】
そして、押出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0051】
また、2種類以上の原料樹脂を使用して、複数の押出し機によってフィードブロック内で積層したり、マルチマニホールドダイスを使用した共押出しを行い、未延伸シートを多層構造としてもよい。
【0052】
長手方向(製膜方向)への延伸処理は、ロール方式、テンター方式などで行なうことができるが、ロール間の周速差により長手方向に延伸する方法が装置としては安価であるため、より好ましい。より具体的には、例えば、ガラス転移温度+10~50℃の範囲で、長手方向に3.5~6.0倍、より好ましくは4.0~5.5倍程度に延伸して製造される。延伸倍率が3.5倍より小さくなると面配向度が不足するため、長期保管後の機械強度低下が生じやすくなり好ましくない。延伸倍率が6.0倍より大きくなると、製膜時の破断が生じやすく生産性が落ちる他、収縮応力が高くなったり、得られたフィルムのヒートシール強度が低下するため好ましくない。
【0053】
長手方向の延伸温度はTg+5℃未満であると、延伸時に破断が生じやすくなり、好ましくない。またTg+40℃より高いと、フィルムの熱結晶化が進んで収縮率が低下するので好ましくない。より好ましくはTg+8℃以上Tg+37℃以下であり、更に好ましくはTg+10℃以上Tg+34℃以下である。
【0054】
延伸後のフィルムの冷却は延伸直後に実施し、冷却速度40℃/秒以上でフィルム温度をTg―30℃以下とするのが好ましい。延伸後にフィルムを急冷することで分子鎖のトランスコンフォメーションへの転移を抑制することができる。
【0055】
上記冷却速度を達成する手段として、加熱延伸後の冷却ロール温度を15℃以下にすることが望ましい。さらに、フィルム冷却時に冷却ロールと接触しない面に冷却ブロワー等を用いて冷風を当て、両面同時に急冷することで急冷能力を向上できるだけでなく、巻き取り後のフィルムのカール発生を抑制することができる。また、冷却ロールでの結露を防止するため、延伸処理を実施する室内の露点は5℃以下にコントロールすることが好ましい。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムの極限粘度(IV)は0.60dl/g以上であることが好ましく、0.65dl/g以上であることがより好ましい。極限粘度が0.60dl/g未満だと、機械強度が低下しやすく好ましくない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の性状を表1に、組成、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件(延伸・熱処理条件等)を、それぞれ表2に示す。
フィルムの評価方法は下記の通りである。
【0058】
[熱収縮率( 熱風熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cm の正方形に裁断し、80±1.0℃の熱風オーブン中において、無荷重状態で30秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの長手方向および幅方向の寸法を測定し、下式1にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ×100(%)・・式1
【0059】
[長手方向厚み斑]
フィルムを長さ30m×幅40mmの長尺なロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5(m/分)の速度で測定した。なお、上記したロール状のフィルム試料のサンプリングにおいては、フィルム試料の長さ方向をフィルムの主収縮方向とした。測定時の最大厚みをTmax. 、最小厚みをTmin. 、平均厚みをTave.とし、下式2からフィルムの長手方向の厚み斑を算出した。
厚み斑 = {(Tmax. -Tmin.)/Tave.} × 100(%) ・・式2
【0060】
[ヒートシール強度]
JIS Z1707に準拠してヒートシール強度を測定した。具体的な手順を簡単に示す。ヒートシーラーのシール条件は、上バー温度160℃ 、下バー温度100℃、圧力0.2MPa 、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mm となるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。そして、10個の試料片について求めた剥離強度の平均値をヒートシール強度とした。
【0061】
[シールバー融着性]
上記シール強度測定のためヒートシールを実施する際、フィルムが高温側である上バーへまったくくっつかない場合を○、フィルムがバーに一部くっつきが見られた場合を×として目視で評価した。
【0062】
[最大熱収縮応力値]
フィルムを、主収縮方向 × 主収縮方向と直交する方向=200mm×20mmのサイズにカットした。しかる後、(株)ボールドウィン社製万能引張試験機STM-50を温度90℃に調整した上で、カットしたフィルムをセットし、30秒間保持したときの応力値の最大値を測定した。
【0063】
[屈折率]
アタゴ社製の「アッベ屈折計4T型」を用いて、各試料フィルムを23℃ 、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後に測定した。
【0064】
[面配向度]
面配向度ΔPは以下の式3より計算した。
ΔP=(nx+ny)/2 - nz・・式3
ここで、nx、ny、nzはそれぞれ、長手方向の屈折率、幅方向の屈折率、厚み方向の屈折率を表す。
【0065】
[引張破断強度]
得られたフィルムを長手×幅方向 = 180mm× 0mm5枚カットし、23℃ 、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後に万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で長手方向に延伸試験を行い、チャック間距離を100mmとして、5回の測定で得られた破断時の強度の平均値を引張破断強度とした。
【0066】
[固有粘度(IV)]
オルトクロロフェノール100mlに試料(ポリエステル又はフィルム)を1.2g溶解させ、その溶液を25℃の温度で測定した溶液粘度から、下式4に基づいて固有粘度を計算した。
ηsp/C=[η]+K[η]2×C ・・式4
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2とする)であり、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度と溶媒粘度は、オストワルド粘度計を用いて測定した。
【0067】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計(型式:DSC 220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、-40℃から10℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(ガラス転移点) とした。
【0068】
[吸光度比(トランスコンフォメーション比率)]
FT-IR装置「FTS 60A/896」(バリアン社製)を用いて、測定波数領域650~4000cm-1、積算回数128回で、ATR法で偏光をかけて、赤外吸収スペクトルを測定した。1340cm-1での吸光度A1と1410cm-1での吸光度A2との比A1/A2を吸光度比とした。
【0069】
[自然収縮率]
得られたフィルムを長手×幅方向=150mm×20mmサイズのサンプルにカットし、カットしたサンプルを30±2℃×85%RHの雰囲気下で672時間以上放置した後、式5にしたがって、それぞれ長手方向について経時後の収縮率を求めた。
経時後の収縮率={(収縮前の長-経時後の長さ)/収縮前の長さ×100(%) ・・式5
【0070】
[収縮仕上り性]
後述の方法で得られたフィルムロールを、約80mmの幅にスリットした上で、所定の長さに分割して巻き取ることによって小型のスリットロールを作成した。作成したロールからフィルムを巻き出して、長さ240mmのカットフィルムを2枚作成した。2枚のカットフィルム端部を140℃でヒートシール行い接着して環状のラベルを作成し、椀状の蓋付き麺容器(底部直径110mm、上部蓋部の直径180mm、底部から蓋部までの高さ80mm)に
図1のように麺容器の蓋部から底部にかけて捲回させるように作成したラベルを被覆させた。然る後に、熱風トンネルを用い、ラベルを被覆させた麺容器を、通過時間3秒、ゾーン温度120℃の条件下で通過させ、ラベルを収縮させて麺容器へ装着した。なお、装着の際には、シール部分が、麺容器の側面部分に来るように調整した。
麺容器の周囲に装着されたラベルの仕上がり状態を、目視によって下記の基準により評価した。
○ : シワ、収縮不足の何れも未発生で、かつ色の斑も見られない
△ : 収縮不足は未発生だが、一部収縮斑やシワが見られる
× : シワ、収縮不足が発生
【0071】
[ラベル密着性]
装着されたラベルと麺容器を軽くねじったときのラベルのズレ具合を官能評価した。ラベルが動かなければ○ 、すり抜けたり、ラベルと弁当容器がずれたりした場合には×とした。
【0072】
[包装対象物の変形]
麺容器にラベル装着後、麺容器の変形有無を目視で評価した。容器がたわむなどして5mm以上変形が見られた場合は×、5mm未満~1mmの変形の場合は△、1mm未満しか変形が見られない場合は○とした。
【0073】
[装着仕上がり後のエージング評価]
上記のとおり麺容器にラベル装着後、ラベルを装着した容器を約40℃×85%RH雰囲気下で144時間保管し、目視によってシワや歪みが未発生であれば○、シワや歪みが確認されれば×とした。
【0074】
また、実施例および比較例に用いたポリエステルは以下の通りである。
【0075】
< ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル% と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル% とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05 モル%(酸成分に対して) 用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%( 酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.68dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A) の組成を表1に示す。
[合成例2~5]
合成例1 と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(E)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPA はテレフタル酸、BDは1,4 -ブタンジオール、NPG はネオペンチルグリコール、ε-CL はカプロラクタム、DEG はジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO 2( 富士シリシア社製サイリシア266) をポリエステルに対して7,000 ppm の割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。ポリエステル(B)~(E)の組成を表1 に示す。
【0076】
【0077】
<実施例1>
ポリエステルAを10部と、ポリエステルB を60部と、ポリエステルDを25部と、ポリエステルFを5部混合して押出機に投入した。その後、この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが48μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTg は65℃であった。
【0078】
その後、この未延伸フィルムを露点0℃にコントロールされた室内に置いてある複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、表面温度95℃に設定された延伸ロール間で4.0倍に延伸した。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度10℃に設定された冷却ロールと10℃に設定した冷風ブロワーによって両面同時に急冷した。なお、冷却前のフィルムの表面温度は約85℃であり、冷却後のフィルムの表面温度は約25℃であった。また、80℃から25℃に冷却するまでに要した時間は約1.2秒であり、フィルムの冷却速度は50℃ /秒であった。
【0079】
その後、両縁部を裁断除去することによって、約12μmの延伸フィルムを所定の長さに亘って連続的に製膜して熱収縮性ポリエステルフィルムからなるフィルムロールを得た。
そして、上記の如く得られた熱収縮性フィルム、ラベル(装着前) 、および包装体(ラベルを装着した麺容器) の特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0080】
<実施例2>
実施例1について未延伸シートの厚みを54μmに変更し、長手方向の延伸倍率を4.5倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0081】
<実施例3>
実施例1について未延伸シートの厚みを60μmに変更し、長手方向の延伸倍率を5.0倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0082】
<実施例4>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、ポリエステルAを24部と、ポリエステルB を52部と、ポリエステルDを19部と、ポリエステルFを5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0083】
<実施例5>
実施例4について未延伸シートの厚みを54μmに変更し、長手方向の延伸倍率を5倍としたこと以外は、実施例4と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0084】
<実施例6>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、ポリエステルAを15部と、ポリエステルB を70部と、ポリエステルDを10部と、ポリエステルFを5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0085】
<実施例7>
実施例6について未延伸シートの厚みを54μmに変更し、長手方向の延伸倍率を4.5倍としたこと以外は、実施例6と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0086】
<実施例8>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、ポリエステルAを15部と、ポリエステルB を60部と、ポリエステルCを20部と、ポリエステルFを5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0087】
<比較例1>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、ポリエステルAを50部と、ポリエステルB を35部と、ポリエステルDを10部と、ポリエステルFを5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0088】
<比較例2>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、ポリエステルBを85部と、ポリエステルDを10部と、ポリエステルFを5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3 に示す。
【0089】
<比較例3>
実施例1の未延伸シートの製膜に使用した原料について、長手方向に延伸後の冷却ロールの温度を25℃に変更して冷却ブロワーを使用しないよう変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。なお、冷却前のフィルムの表面温度は約85℃であり、冷却後のフィルムの表面温度は約50℃であった。また、85℃ から50℃に冷却するまでに要した時間は約1.2秒であり、フィルムの冷却速度は20℃/秒であった。評価結果を表3に示す。
【0090】
<比較例4>
実施例1について未延伸シートの厚みを78μmとし、長手方向の延伸倍率を6.5倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0091】
<比較例5>
ポリエステルAを5部と、ポリエステルB を66部と、ポリエステルDを24部と、ポリエステルFを5部混合して押出機に投入した。その後、この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、実施例1と同様にして、厚さが80μmの未延伸フィルムを得た。また、未延伸フィルムのTg は65℃であった。
その後、この未延伸フィルムを室温下に置かれた複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、表面温度95℃に設定された延伸ロール間で4.0倍に延伸した。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃ に設定された冷却ロールにて冷却した。なお、冷却前のフィルムの表面温度は約85℃であり、冷却後のフィルムの表面温度は約50℃であった。また、85℃ から50℃に冷却するまでに要した時間は約1.2秒であり、フィルムの冷却速度は約20℃/秒であった。冷却したのち、該当フィルムの両面からセラミックヒーターを用いて再加熱を行い、その後のロールを上記冷却ロールよりも速度を下げることにより、緩和率5%で長手方向に緩和処理を行った。その後テンターを用いて、フィルム温度が80℃になるまで加熱処理を行った。次いでフィルムの両縁部を裁断除去後、ロール状に巻き取り熱収縮性フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
表3から明らかなように、実施例1~8で得られたフィルムは、いずれも長手方向への収縮性が高く、直交する幅方向への収縮性は非常に低かった。また、実施例1~8で得られたフィルムは、いずれも、ヒートシール強度が高く、ラベル密着性が良好で収縮斑もなく、収縮仕上がり性が良好であった。さらに、実施例1~8の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、長手方向の強度が十分高く、経時後の自然収縮が小さいため、長期保管後もクラックや巻き締まりによるシワがほとんど発生せず、熱収縮性フィルムとして問題なく使用することができる。
【0095】
それに対して、比較例1で得られた熱収縮性フィルムは、吸光度比が高くヒートシール強度が小さいため、収縮時にシール部に剥離が生じた他、収縮時の力で被包装体に一部変形が見られた。また、比較例2で得られた熱収縮性フィルムは、長手方向の収縮率が大きく収縮時にシワが入り、収縮時の力で被包装体が変形するうえに、ヒートシール強度が大きすぎるためシールバーへの融着がみられた。また、自然収縮率が大きく巻き締まりが発生しやすいため、装着した後のエージングによって巻き締まりによってラベルの歪みや被包装体にたわみが発生していた。比較例3で得られた熱収縮性フィルムは延伸後の急冷を実施してないため吸光度比が高い。すなわち、トランスコンホメーションへの転移が進んだためヒートシール強度が低下してしまい、収縮時にシール部に剥離が見られた。比較例4で得られたフィルムは延伸倍率が大きいため配向が進んでしまい、ヒートシール強度が低下するほか、収縮させた際の収縮力が大きいので包装対象物に変形やシール部の剥がれが見られた。比較例5で得られたフィルムは、収縮仕上がり性は問題なかったものの、分子の配向が弱いため自然収縮率が大きくなってしまい、装着後のエージングによって巻き締まりよるシワが見られた他、長手方向の引張破壊強度も不十分であった。すなわち比較例1~5で得られたフィルムは熱風用の熱収縮フィルムとして実用上問題あるフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記の如く優れた特性を有しているので、各種の物品の包装用用途に好適に用いることができる。