(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】施工鏝およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04F 21/16 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
E04F21/16 F
E04F21/16 D
(21)【出願番号】P 2020025776
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】長友 潤
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174503(JP,A)
【文献】特開昭56-153054(JP,A)
【文献】特開2012-197633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0053723(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/16
B05C 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性液体を施工面に均す施工鏝であって、
前記施工鏝は、鏝板と、前記鏝板の一方の面に固定した握り部と、前記鏝板の他方の面に固定した補助板とを備え、
前記補助板は、当接辺を備え、当該当接辺を前記施工面に当接させたときに、前記鏝板が前記施工面に対して角度を保ち、かつ前記鏝板の縁辺は前記施工面に当たらず、前記鏝板の縁辺
のうち前記施工面に最も距離が近い縁辺と前記施工面とに隙間が生じ
、当該隙間により前記粘性液体が前記施工面に均しながら適用されることを特徴とする、施工鏝。
【請求項2】
前記施工面がタイル施工面であり、前記粘性液体が接着剤である、請求項1に記載の施工鏝。
【請求項3】
前記施工面上において、前記粘性液体の厚みを均一に均すことができる、請求項1または2に記載の施工鏝。
【請求項4】
前記補助板が、前記鏝板の他方の面に二以上設けられてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の施工鏝。
【請求項5】
前記縁辺に凹凸状のクシ目部が設けられた、請求項1~4のいずれか一項に記載の施工鏝。
【請求項6】
前記クシ目部の凸部が前記当接辺の延長線上に位置するものとされた、請求項5に記載の施工鏝。
【請求項7】
前記鏝板の前記施工面に対する角度が、45°以上70°以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の施工鏝。
【請求項8】
前記請求項1~7のいずれか一項に記載の施工鏝を用いた粘性液体の施工方法であって、
前記当接辺を前記施工面に当接させながら、前記縁辺を前記当接辺と平行に移動させることにより、
前記施工面上において前記粘性液体の厚みを均一に均すことを特徴とする、施工方法。
【請求項9】
前記施工面がタイル施工面であり、前記粘性液体が接着剤である、請求項8に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性液体を施工面に均す施工鏝に関し、特に、タイルなど仕上げ材を張り付ける接着剤を、壁や床に施工・塗布する際に用いられる施工鏝に関する。
【背景技術】
【0002】
タイルなどの仕上げ材を施工面に張り付けるために接着剤を壁や床に塗布する。その際に、接着剤を均一に伸ばす道具として施工鏝、とりわけクシ目鏝が使用される。クシ目鏝は鏝板の先端縁にクシ目状の凹凸が形成されてなり、鏝板を移動させクシ目状に整形された接着剤を壁面に施工できる鏝である。
【0003】
目地に充填剤等を施工しない空目地仕上げの場合、接着剤の塗布状態がそのまま目地になる。このことから、クシ目の凹部の接着剤の厚みによっては下地が露出したり、薄膜になったりしてしまい、場合によっては意匠性の低下や下地の劣化の懸念がある。また、施工者の技量により、コテの角度や下地からコテまでの距離にバラツキが生じてしまい、接着剤厚みを常に一定にすることにはしばしば困難が伴う。
【0004】
特許第5016147号公報(特許文献1)は、タイルを接着剤で貼り付ける工法に用いられる左官鏝を開示している。この左官鏝は、鏝板の表面から下方に貫通して突出する計量補助板を設け、計量補助板を鏝板からの突出長さを調節可能に鏝板表面に固定した握り部の両端に支持させた構造を有する。これにより、施行者の技量によらず均一で適量の接着ボンド厚が得られるとされている。一方で、計量補助板は鏝板の縁辺に設けられているため、接着剤塗布後の施工面に補助板が通った跡が残る恐れがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、接着剤などの粘性液体を施工面に、その厚さを均一にかつ容易に施工できる施工鏝を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による施工鏝は、粘性液体を施工面に均す施工鏝であって、
前記施工鏝は、鏝板と、前記鏝板の一方の面に固定した握り部と、前記鏝板の他方の面に固定した補助板とを備え、
前記補助板は、当接辺を備え、当該当接辺を前記施工面に当接させたときに、前記鏝板が前記施工面に対して角度を保ち、かつ前記鏝板の縁辺と前記施工面とに隙間が生じることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の一つの態様によれば、前記施工面がタイル施工面であり、前記粘性液体が接着剤
とされる、
【0009】
本発明の別の態様によれば、前記補助板が、前記鏝板の他方の面に二以上設けられてなる。
【0010】
本発明の別の態様によれば、前記縁辺に凹凸状のクシ目部が設けられてなる。また、前記クシ目部の凸部が前記当接辺の延長線上に位置するものとされる。
【0011】
本発明の別の態様によれば、前記当接辺を前記施工面に当接させたときに、前記鏝板と前記タイル施工面とがなす角度が、45°以上70°以下と構成する。
【0012】
本発明の別の態様によれば、本発明による施工鏝を用いた粘性液体の施工方法が提供され、当該方法は、
前記当接辺を前記施工面に当接させながら、前記縁辺を前記当接辺と平行に移動させることにより、
前記施工面上において前記粘性液体の厚みを均一に均すことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】本発明による施工鏝の補助
板の当接辺を施工面に当接させた状態の模式図である。
【
図5】本発明による施工鏝の縁辺21と施工面10の隙間60の作用を説明する模式側面図である。
【
図6】本発明による施工鏝の縁辺21と施工面10の隙間60の作用を説明する模式上面図である。
【
図7】本発明による施工鏝の鏝板の短辺23を用いて均す態様の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による施工鏝は、粘性液体を施工面に適用し均すために用いられる。本発明において、粘性液体は例えば接着剤であり、施工面に接着剤を塗った後に、その上にタイル等の仕上げ材を貼り付ける。また、別の例によれば、本発明において粘性液体は施工面の表面仕上げ材であり、例えば塗料、モルタル、珪藻土剤などが挙げられる。したがって、本発明において施工面は、例えば壁、床などである。
【0015】
本発明による施工鏝は、鏝板と、この鏝板の一方の面に固定した握り部と、鏝板の他方の面に固定した補助板とを備える基本構造を有し、さらに補助板が、当接辺を備え、この当接辺を施工面に当接させたときに、鏝板が施工面に対して角度を保ち、かつ鏝板の縁辺と施工面とに隙間が生じる構造を有する。
【0016】
図1乃至
図3は、本発明による施工鏝の側面図(
図1)、底面図(
図2)、そして、正面図(
図3)である。
図1乃至3において、施工鏝1は、鏝板2と、この鏝板2の一方の面に固定した握り部3と、鏝板の他方の面に固定した補助板41乃至44とを備える。さらにこの図の態様にあっては、鏝板2と握り部3は、連結部材31により連結され、固定されている。また、この図の態様において、補助
板41と42、43と44は、鏝板に固定されると同時に、補強部材51および52にそれぞれ連結され、その固定が確実なものとなるようにされている。図の態様にあっては、補助
板は2枚一組として設けられるが、2枚以上の補助
板を同一方向に設けてもよく、これにより以下に説明する施工面への当接を安定に行うことができる。
【0017】
図1乃至3の態様において、補助板41(および42)は、
図3に示すように、当接辺51および52を備え、この当接辺51または2を施工面に当接させたときに、鏝板2が施工面に対して一定の角度を保ち、かつ鏝板2の縁辺21または22と、施工面とに隙間が生じるよう構成される。
図4は、本発明による施工鏝の当接辺を施工面に当接させた状態の模式側面図である。本発明にあっては、
図4に示されるように、施工鏝1の補助
板41および42の当接辺51を、施工面10に当接させると、鏝板2の縁辺21は施工面10に当たらず、隙間60が生じる。
【0018】
図5および
図6は、縁辺21と施工面10の隙間60の作用を説明する模式側面図および上面図である。
図5が示すように、鏝板2の縁辺21は施工面10に当たらず、隙間60が形成される。本発明による施工鏝にあっては、補助
板41の当接辺51は、施工面10に安定して当接するから、隙間60は常に一定となる。
図5において7は粘性液体であり、施工鏝1を図中の矢印に方向に、補助
板41および42の当接辺51を施工面10に当接させながら移動させると、粘性液体7は、隙間60の幅の厚みで施工面10に好ましくは均一な厚さで均される。本発明による施工鏝によれば、施工者の技量により、コテの角度や下地からコテまでの距離にバラツキが生じず、接着剤などの粘性液体の厚みを一定に均すことが可能となる。本発明において施工面10と鏝板2が形成する角度は、補助
板41および42の当接辺51の鏝板2に対する角度をもって設定でき、かつ、工事標準仕様書や施工説明書などに従い適宜決定されてよいが、例えば約45度乃至70度とされるのが通常であり、好ましくは約60度程度とされる。
【0019】
図1乃至3の態様において、鏝板2の縁辺22も縁辺21と同様に機能するよう構成されており、施工鏝は左右の限定なく使用することが出来る、
【0020】
本発明の一つの態様によれば、縁辺には、凹凸状のクシ目が設けられる。
図2において、縁辺21、22および23は、凹凸状のクシ目の形状を備える。このクシ目部は、
図6に示されるように、塗布され均される粘性液体7を、クシ目状の凹凸に対応した厚みの異なる筋状71および72を交互に備えた形で施工面に塗布することを可能にする。このような粘性液体の凹凸は、例えば粘性液体として接着剤を塗布し、その後にタイル材を貼り付ける場合、タイル材の裏面に接着剤がなじみ、確実に接着することが出来るとの利点が得られる。さらに、本発明による施工鏝にあっては、補助
板41および42を、クシ目の凸部の延長線上に位置するものとされる。これにより、接着剤塗布後の施工面に補助板が通った跡が残ることを抑制できる。
【0021】
本発明の一つの態様によれば、施工鏝の鏝板の長辺のみならず、短辺においても長辺と同様の均しの操作ができるものとされる。
図1乃至3に示される施工鏝は、短辺においても長辺と同様の均しの操作ができるものである。具体的には、
図1に示されるように、補助
板43および44は、鏝板2の短辺23と直交して配置固定される。そして、
図7に示されるように、補助
板43および44の当接辺53を施工面10に当接させたとき、鏝板2が施工面に対して一定の角度を保ち、かつ鏝板2の縁辺23と、施工面10とに隙間61が生じるよう構成される。この態様によれば、狭い範囲に接着剤などの粘性液体を均一な厚さで均すことができる。
【0022】
本発明において、鏝板の材質は、鏝に一般的に使用されているものであってよく、例えば、鉄、ステンレス、プラスチックが挙げられ、好ましくは、鉄の例としては、SK鋼(炭素工具鋼)、スウェーデン鋼、ハイカーボン鋼、安来鋼が挙げられる。また、補助板の材質も鏝板と同様のものであってよく、強度が確保できるのであれば、厚さは薄く構成することが望ましい。