(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板、並びに、薄膜キャパシタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/33 20060101AFI20240130BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240130BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/30 541
H01G4/30 547
H05K3/46 Q
(21)【出願番号】P 2020026806
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】油川 祐基
(72)【発明者】
【氏名】浪川 達男
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 晃靖
(72)【発明者】
【氏名】松谷 淳生
(72)【発明者】
【氏名】齊田 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和弘
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-095587(JP,A)
【文献】特開2013-065687(JP,A)
【文献】特開2012-054520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/33
H01G 4/30
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層と、
上部電極層と、
前記下部電極層と前記上部電極層の間に配置された誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は貫通孔を有し、
前記上部電極層は、前記貫通孔を介して前記下部電極層に接続された接続部と、スリットによって前記接続部から絶縁された電極部とを有し、
前記貫通孔を介して前記接続部と接する前記下部電極層の表面は、前記貫通孔の内壁面に沿った環状領域と、前記環状領域に囲まれた中央領域とを含み、
前記環状領域は、前記中央領域よりも表面粗さが小さく、
前記環状領域の表面粗さは0.1nm以上、3nm以下であり、前記中央領域の表面粗さは3nm超、50nm以下であることを特徴とす
る薄膜キャパシタ。
【請求項2】
下部電極層と、
上部電極層と、
前記下部電極層と前記上部電極層の間に配置された誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は貫通孔を有し、
前記上部電極層は、前記貫通孔を介して前記下部電極層に接続された接続部と、スリットによって前記接続部から絶縁された電極部とを有し、
前記貫通孔を介して前記接続部と接する前記下部電極層の表面は、前記貫通孔の内壁面に沿った環状領域と、前記環状領域に囲まれた中央領域とを含み、
前記環状領域は、前記中央領域よりも表面粗さが小さく、
前記環状領域の幅は0.1μm以上、10μm以下であることを特徴とす
る薄膜キャパシタ。
【請求項3】
前記環状領域の表面粗さは0.1nm以上、3nm以下であり、前記中央領域の表面粗さは3nm超、50nm以下であることを特徴とする請求項
2に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項4】
前記下部電極層がNiからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれ一項に記載の薄膜キャパシタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれ一項に記載の薄膜キャパシタを内蔵する回路基板。
【請求項6】
下部電極層の表面に誘電体層を形成する第1の工程と、
前記誘電体層に貫通孔を形成する第2の工程と、
前記誘電体層の表面に上部電極層を形成する第3の工程と、
前記上部電極層にスリットを形成することにより、前記貫通孔を介して前記下部電極層に接続された接続部と、前記スリットによって前記接続部から絶縁された電極部とを形成する第4の工程と、を備え、
前記第2の工程は、前記貫通孔に露出する前記下部電極層の表面のうち、前記貫通孔の内壁面に沿った環状領域の表面粗さが、前記環状領域に囲まれた中央領域の表面粗さよりも小さくなるよう、ウェットエッチングによって行うことを特徴とする薄膜キャパシタの製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程は、前記貫通孔よりも径の小さい第1のマスクを介して前記誘電体層をウェットエッチングすることにより、前記中央領域を露出させる第1のウェットエッチング工程と、前記第1のマスクよりも径の大きい第2のマスクを介して前記誘電体層をウェットエッチングすることにより、前記環状領域を露出させる第2のウェットエッチング工程とを含むことを特徴とする請求項6に記載の薄膜キャパシタの製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程は、前記貫通孔よりも径の小さいマスクを介して前記誘電体層をウェットエッチングすることにより、前記マスクの開口部と重なる前記中央領域と、前記マスクで覆われた前記環状領域を露出させることを特徴とする請求項6に記載の薄膜キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板に関し、特に、誘電体層に設けられた貫通孔を介して下部電極層と上部電極層の一部が接続された構造を有する薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板に関する。また、本発明は、このような構造を有する薄膜キャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜キャパシタは、特許文献1に記載されているように、誘電体層を介して下部電極層と上部電極層が積層された構造を有している。特許文献1に記載された薄膜キャパシタは、下部電極層を2つに分離し、一方を上部電極層に接続した構造を有している。
【0003】
特許文献1に記載された薄膜キャパシタは、下部電極層に誘電体層で覆われない部分を設ける必要があることから、その分、キャパシタンスが不足するという問題がある。これを解決するためには、誘電体層に貫通孔を設け、貫通孔を介して下部電極層と上部電極層の一部を接続する方法が考えられる。これによれば、下部電極層の大部分が誘電体層で覆われることから、より大きなキャパシタンスを得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誘電体層に貫通孔を設けた場合、下部電極層のうち貫通孔に露出する表面が上部電極層の一部である接続部と接するため、この部分における下部電極層と上部電極層の密着性が不足するおそれがあった。このような密着性の不足は、下部電極層がNiからなる場合には特に顕著である。
【0006】
この問題を解決するためには、下部電極層のうち貫通孔に露出する表面を粗面化することが有効であるが、下部電極層を粗面化すると、ロールラミネータなどを用いて薄膜キャパシタを回路基板に埋め込む際に、貫通孔のエッジ部分に局所的な応力が集中することがあり、この応力によって誘電体層にクラックや剥離が生じるという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、誘電体層に設けられた貫通孔を介して下部電極層と上部電極層の一部が接続された構造を有する薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板において、下部電極層と上部電極層の密着性を確保しつつ、実装時における信頼性を高めることを目的とする。また、本発明は、このような特徴を有する薄膜キャパシタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による薄膜キャパシタは、下部電極層と、上部電極層と、下部電極層と上部電極層の間に配置された誘電体層とを備え、誘電体層は貫通孔を有し、上部電極層は、貫通孔を介して下部電極層に接続された接続部と、スリットによって接続部から絶縁された電極部とを有し、貫通孔を介して接続部と接する下部電極層の表面は、貫通孔の内壁面に沿った環状領域と、環状領域に囲まれた中央領域とを含み、環状領域は、中央領域よりも表面粗さが小さいことを特徴とする。また、本発明による回路基板は、上記の薄膜キャパシタが内蔵されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、接続部と接する下部電極層の表面のうち、中央領域については表面粗さが大きいことから、下部電極層と上部電極層の密着性を高めることができる。さらに、接続部と接する下部電極層の表面のうち、環状領域については表面粗さが小さいことから、貫通孔のエッジ部分に局所的な応力が加わりにくくなる。このため、回路基板への実装時において、誘電体層にクラックや剥離が生じにくくなる。
【0010】
本発明において、環状領域の表面粗さは0.1nm以上、3nm以下であり、中央領域の表面粗さは3nm超、50nm以下であっても構わない。また、環状領域の幅は0.1μm以上、10μm以下であっても構わない。これによれば、下部電極層と上部電極層の密着性を十分に確保しつつ、信頼性を高めることが可能となる。
【0011】
本発明において、下部電極層はNiからなるものであっても構わない。Niは密着性が低く、且つ、ヤング率が高いが、本発明によれば、密着性と信頼性を両立させることが可能となる。
【0012】
本発明による薄膜キャパシタの製造方法は、下部電極層の表面に誘電体層を形成する第1の工程と、誘電体層に貫通孔を形成する第2の工程と、誘電体層の表面に上部電極層を形成する第3の工程と、上部電極層にスリットを形成することにより、貫通孔を介して下部電極層に接続された接続部と、スリットによって接続部から絶縁された電極部とを形成する第4の工程とを備え、第2の工程は、貫通孔に露出する下部電極層の表面のうち、貫通孔の内壁面に沿った環状領域の表面粗さが、環状領域に囲まれた中央領域の表面粗さよりも小さくなるよう、ウェットエッチングによって行うことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、環状領域の方が中央領域よりも表面粗さが小さくなるよう誘電体層をウェットエッチングしていることから、密着性と信頼性を両立させた薄膜キャパシタを作製することが可能となる。
【0014】
本発明において、第2の工程は、貫通孔よりも径の小さい第1のマスクを介して誘電体層をウェットエッチングすることにより、中央領域を露出させる第1のウェットエッチング工程と、第1のマスクよりも径の大きい第2のマスクを介して誘電体層をウェットエッチングすることにより、環状領域を露出させる第2のウェットエッチング工程とを含むものであっても構わない。これによれば、表面粗さの小さい環状領域と表面粗さの大きい中央領域を確実に形成することができる。
【0015】
或いは、第2の工程は、貫通孔よりも径の小さいマスクを介して誘電体層をウェットエッチングすることにより、マスクの開口部と重なる中央領域と、マスクで覆われた環状領域を露出させても構わない。これによれば、表面粗さの小さい環状領域と表面粗さの大きい中央領域を少ない工程数で形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、誘電体層に設けられた貫通孔を介して下部電極層と上部電極層の一部が接続された構造を有する薄膜キャパシタ及びこれを内蔵する回路基板において、下部電極層と上部電極層の密着性を確保しつつ、実装時における信頼性を高めることが可能となる。また、本発明によれば、このような特徴を有する薄膜キャパシタの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による薄膜キャパシタ1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、接続部22と下部電極層10の接触部分を拡大して示す略断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態による薄膜キャパシタ1を内蔵した回路基板2の模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、薄膜キャパシタ1を回路基板2に埋め込む工程を説明するための模式的な拡大断面図である。
【
図5】
図5は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【
図6】
図6は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【
図7】
図7は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【
図8】
図8は、薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【
図10】
図10は、環状領域A1と中央領域A2を形成する第1の方法を説明するための工程図である。
【
図11】
図11は、環状領域A1と中央領域A2を形成する第2の方法を説明するための工程図である。
【
図12】
図12は、実際に貫通孔30bを形成したサンプルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による薄膜キャパシタ1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態による薄膜キャパシタ1は、下部電極層10と、上部電極層20と、下部電極層10と上部電極層20の間に配置された誘電体層30とを備えている。下部電極層10は、薄膜キャパシタ1の基材となる部分であり、例えばニッケル(Ni)からなる。下部電極層10の材料として例えばNi(ニッケル)を用いるのは、後述するように、誘電体層30を焼成する工程において下部電極層10が誘電体層30の支持体として用いられるため、高温に耐える必要があるからである。上部電極層20は例えば銅(Cu)からなり、シード層Sと電解メッキ層Pの積層膜からなる。
【0021】
誘電体層30は、例えば、ペロブスカイト系の誘電体材料によって構成される。ペロブスカイト系の誘電体材料としては、BaTiO3(チタン酸バリウム)、(Ba1-XSrX)TiO3(チタン酸バリウムストロンチウム)、(Ba1-XCaX)TiO3、PbTiO3、Pb(ZrXTi1-X)O3等のペロブスカイト構造を持った(強)誘電体材料や、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、Bi4Ti3O12、SrBi2Ta2O9等に代表されるビスマス層状化合物、(Sr1-XBaX)Nb2O6、PbNb2O6等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等から構成される。ここで、ペロブスカイト構造、ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料、ビスマス層状化合物、タングステンブロンズ型強誘電体材料において、AサイトとBサイト比は、通常整数比であるが、特性向上のため、意図的に整数比からずらしてもよい。なお、誘電体層30の特性制御のため、誘電体層30に適宜、副成分として添加物質が含有されていてもよい。誘電体層30の厚さは、例えば10nm~1000nmである。
【0022】
上部電極層20には、リング状のスリットSLが設けられており、これによって電極部21と接続部22に分離される。電極部21は、薄膜キャパシタ1の一方の容量電極として機能する部分であり、誘電体層30を介して、薄膜キャパシタ1の他方の容量電極として機能する下部電極層10と対向する。これに対し、接続部22は、誘電体層30に設けられた貫通孔30bを介して下部電極層10に接続される。これにより、接続部22は下部電極層10と同電位となる。かかる構造により、下部電極層10に対する電気的接続を上部電極層20側から行うことができるとともに、下部電極層10の大部分が誘電体層30を介して電極部21と対向することから、大きなキャパシタンスを得ることが可能となる。
【0023】
図2は、接続部22と下部電極層10の接触部分を拡大して示す略断面図である。
【0024】
図2に示すように、貫通孔30bを介して接続部22と接する下部電極層10の表面は、貫通孔30bの内壁面(エッジ)に沿った環状領域A1と、環状領域A1に囲まれた中央領域A2とを含んでいる。そして、環状領域A1については比較的平坦性が高いのに対し、中央領域A2は粗面化されている。つまり、環状領域A1の方が中央領域A2よりも表面粗さが小さい。これは、中央領域A2を粗面化することにより、例えばNiからなる下部電極層10と例えばCuからなる上部電極層20の密着性を高めるとともに、環状領域A1を比較的平坦とすることにより、貫通孔30bのエッジ部分に局所的な応力が加わりにくくするためである。
【0025】
図3は、本実施形態による薄膜キャパシタ1を内蔵した回路基板2の模式的な断面図である。
【0026】
図3に示す回路基板2は、複数の絶縁樹脂層41~43が積層されており、絶縁樹脂層42に薄膜キャパシタ1が埋め込まれた構造を有している。回路基板2の上面には半導体チップ50が搭載されている。また、回路基板2には、電源パターン62V~64V、グランドパターン62G~64G、信号パターン62S~64Sが設けられている。電源パターン64V、グランドパターン64G、信号パターン64Sは、回路基板2の下面に設けられた外部端子を構成する。半導体チップ50の種類については特に限定されないが、少なくとも、電源端子61V、グランド端子61G、信号端子61Sを有している。これらの端子61V,61G,61Sは、それぞれ電源パターン62V、グランドパターン62G、信号パターン62Sに接続されている。
【0027】
電源パターン62Vは、ビア導体65Vを介して電源パターン63Vに接続される。また、電源パターン63Vは、ビア導体66Vを介して電源パターン64Vに接続されるとともに、ビア導体67Vを介して薄膜キャパシタ1の電極部21に接続される。グランドパターン62Gは、ビア導体65Gを介してグランドパターン63Gに接続される。また、グランドパターン63Gは、ビア導体66Gを介してグランドパターン64Gに接続されるとともに、ビア導体67Gを介して薄膜キャパシタ1の接続部22に接続される。
【0028】
これにより、薄膜キャパシタ1の一方の容量電極(上部電極層20の電極部21)に電源電位が与えられ、他方の容量電極(下部電極層10)にグランド電位が与えられることから、半導体チップ50に対するデカップリングコンデンサとして機能する。
【0029】
信号パターン62Sは、ビア導体65Sを介して信号パターン63Sに接続される。また、信号パターン63Sは、ビア導体66Sを介して信号パターン64Sに接続される。
【0030】
薄膜キャパシタ1の回路基板2への埋め込みは、ロールラミネータを用いることができる。つまり、模式的な拡大断面図である
図4に示すように、絶縁樹脂層41を形成した後、ロール3を回転させながら絶縁樹脂層41の表面に薄膜キャパシタ1をラミネートすることができる。ロールラミネータを用いて薄膜キャパシタ1を搭載する際には、ロール3の加重が加わる部分において薄膜キャパシタ1に曲げ応力が加わる。この時、符号Bで示す領域、つまり、下部電極層10、上部電極層20及び誘電体層30が接する領域に最も強い応力が加わり、場合によっては誘電体層30にクラックや剥離が生じることがある。このような現象は、下部電極層10と上部電極層20のヤング率の差が大きい場合には特に顕著である。
【0031】
しかしながら、本実施形態による薄膜キャパシタ1は、領域Bに相当する部分において下部電極層10の表面、つまり環状領域A1の表面粗さが低減されていることから、局所的な応力の集中が生じにくい。これにより、薄膜キャパシタ1を回路基板2に埋め込む工程において、誘電体層30にクラックや剥離が生じにくくなることから、製品の信頼性が向上する。また、下部電極層10の表面のうち、貫通孔30bの内壁面から離れた中央領域A2は粗面化されていることから、下部電極層10と上部電極層20の密着性を高めることが可能となる。
【0032】
ここで、誘電体層30のクラックや剥離を防止するためには、環状領域A1の表面粗さを0.1nm以上、3nm以下とすることが好ましく、環状領域A1の幅を0.1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。また、下部電極層10と上部電極層20の密着性を十分に高めるためには、中央領域A2の表面粗さを3nm超、50nm以下とすることが好ましく、中央領域A2の面積を環状領域A1の面積よりも大きくすることが好ましい。
【0033】
次に、本実施形態による薄膜キャパシタ1の製造方法について説明する。
【0034】
図5~
図10は、本実施形態による薄膜キャパシタ1の製造方法を説明するための工程図である。
【0035】
まず、
図5に示すように、厚さ15μm程度のNiからなる下部電極層10を用意し、その表面にチタン酸バリウムなどからなる誘電体層30を形成し、焼成する。この時、下部電極層10にも高温が加わるが、下部電極層10の材料としてNiなどの高融点金属を用いることにより、焼成温度に耐えることが可能である。次に、
図6に示すように、誘電体層30をパターニングすることにより、誘電体層30に貫通孔30bを形成する。貫通孔30bが形成された領域においては下部電極層10の表面が露出する。
【0036】
図9は貫通孔30bの平面図である。
図9に示す例では、貫通孔30bの平面形状が円形であり、貫通孔30bから露出する下部電極層10の表面は、貫通孔30bの内壁面に沿った幅Wの環状領域A1と、環状領域A1に囲まれた中央領域A2によって構成される。上述の通り、環状領域A1の方が中央領域A2よりも表面粗さが小さい。このような特性を有する環状領域A1と中央領域A2を形成する方法については特に限定されないが、例えば、下記の方法を用いることができる。
【0037】
まず、
図10(a)に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ1であるマスクR1を形成し、マスクR1を介して誘電体層30をウェットエッチングする。ここで、マスクR1の開口部の径φ1は、最終的に形成する貫通孔30bよりも小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング時間、エッチング液の供給方法などを調整することにより、下部電極層10に対するエッチングレートを比較的高く設定する。これにより、誘電体層30から露出する下部電極層10の表面は、表面粗さの大きい状態となる。この部分は、中央領域A2に相当する。
【0038】
次に、マスクR1を除去した後、
図10(b)に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ2であるマスクR2を形成し、マスクR2を介して誘電体層30を再度ウェットエッチングする。ここで、マスクR2の開口部の径φ2は、マスクR1の開口部の径φ1よりも大きく、最終的に形成する貫通孔30bとほぼ同じか、やや小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング時間、エッチング液の供給方法などを調整することにより、下部電極層10に対するエッチングレートをできるだけ低く設定する。これにより、誘電体層30から新たに露出する下部電極層10の表面は、表面粗さの小さい状態となる。この部分は、環状領域A1に相当する。
【0039】
このように、異なるマスクR1,R2を用いた2段階のウェットエッチングを行えば、表面粗さの小さい環状領域A1と表面粗さの大きい中央領域A2を確実に形成することが可能となる。
【0040】
或いは、
図11に示すように、誘電体層30の表面に開口部の径がφ3であるマスクR3を形成し、マスクR3を介して誘電体層30をウェットエッチングする。ここで、マスクR3の開口部の径φ3は、最終的に形成する貫通孔30bよりも小さく設計する。エッチング液としては、フッ化アンモニウムと塩酸の混合溶液を用いることができる。この時、エッチング液の組成や温度、エッチング液の供給方法などを調整することにより、下部電極層10に対するエッチングレートを比較的低く設定するとともに、エッチング時間を長く設定する。これにより、マスクR3で覆われている領域においても誘電体層30のサイドエッチが進行することから、マスクR3の開口部の径φ3よりも大きな貫通孔30bを形成することができる。そして、マスクR3の開口部と重なる部分は、より長時間に亘ってエッチング液に晒されることから、表面粗さの大きい中央領域A2となり、マスクR3で覆われた部分はエッチング液に晒される時間が短いことから、表面粗さの小さい環状領域A1となる。
【0041】
このように、誘電体層30のサイドエッチを利用すれば、より少ない工程数で環状領域A1と中央領域A2を形成することが可能となる。
【0042】
図12(a)は、実際に貫通孔30bを形成したサンプルの写真であり、
図12(b)はその拡大図である。
図12(a),(b)に示すように、下部電極層10の表面のうち、貫通孔30bの内壁面に沿った環状領域A1は、中央領域A2に比べて表面粗さが明確に小さいことが分かる。
【0043】
次に、
図7に示すように、貫通孔30bを含む誘電体層30の表面に上部電極層20を形成する。上部電極層20は、スパッタリング又は無電解メッキによって薄いシード層Sを形成した後、シード層Sを給電体とした電解メッキを行うことにより形成することができる。これにより、薄いシード層Sと厚い電解メッキ層Pの積層体からなる上部電極層20が形成される。この時、貫通孔30b内においては、上部電極層20と下部電極層10が接触するが、下部電極層10の表面のうち中央領域A2が粗面化されていることから、両者の密着性が十分に確保される。
【0044】
次に、
図8に示すように、下部電極層10を例えば10μm程度に薄くした後、
図1に示すように、上部電極層20をパターニングすることにより、スリットSLを形成する。これにより、電極部21と接続部22がスリットSLによって互いに絶縁分離され、
図1に示した本実施形態による薄膜キャパシタ1が完成する。
【0045】
このように、本実施形態においては、誘電体層30に貫通孔30bを形成する際、貫通孔30bに露出する下部電極層10の表面のうち、環状領域A1の表面粗さが中央領域A2の表面粗さよりも小さくなるような条件でウェットエッチングを行っていることから、下部電極層10と上部電極層20の密着性を確保しつつ、回路基板2への実装時において懸念される誘電体層30のクラックや剥離を防止することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 薄膜キャパシタ
2 回路基板
3 ロール
10 下部電極層
20 上部電極層
21 電極部
22 接続部
30 誘電体層
30b 貫通孔
41~43 絶縁樹脂層
50 半導体チップ
61G グランド端子
61S 信号端子
61V 電源端子
62G~64G グランドパターン
62S~64S 信号パターン
62V~64V 電源パターン
65G~67G,65S~67S,65V~67V ビア導体
A1 環状領域
A2 中央領域
P 電解メッキ層
R1~R3 マスク
S シード層
SL スリット