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特許7428037イコライザ、及びこれを用いた通信モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】イコライザ、及びこれを用いた通信モジュール
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/06 20060101AFI20240130BHJP
   H03H 17/08 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H04B3/06 C
H03H17/08 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020052640
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153246
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0035474(US,A1)
【文献】特開2014-053814(JP,A)
【文献】特開2008-219078(JP,A)
【文献】特開平03-190328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/06
H03H 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個(Nは正の整数)のタップが縦列接続された第1のタップ付き遅延ラインと、
前記第1のタップ付き遅延ラインと並列に接続される、1タップの第2のタップ付き遅延ラインと、
前記N個のタップで取り出される信号に係数を乗算する第1乗算器と、
前記第2のタップ付き遅延ラインの出力に第2係数を乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力と前記第2乗算器の出力を加算する加算器と、
を有し、
前記第1のタップ付き遅延ラインは固定の遅延を有し、
前記第2のタップ付き遅延ラインは、前記固定の遅延の1/Mの分解能(Mは1より大きい数)で変更可能な可変遅延を有し、
前記N個のタップの隣接するタップ間に設定される前記固定の遅延をτとすると、前記可変遅延は、τ×(L+1/M)で表され、Lは0以上の整数である、
イコライザ。
【請求項2】
N個(Nは正の整数)のタップが縦列接続された第1のタップ付き遅延ラインと、
前記第1のタップ付き遅延ラインと並列に接続される、1タップの第2のタップ付き遅延ラインと、
前記N個のタップで取り出される信号に係数を乗算する第1乗算器と、
前記第2のタップ付き遅延ラインの出力に第2係数を乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力と前記第2乗算器の出力を加算する加算器と、
前記N個のタップと、前記第2のタップ付き遅延ラインの間に接続されるN個のスイッチ、
を有し、
前記第1のタップ付き遅延ラインは固定の遅延τを有し、
前記第2のタップ付き遅延ラインは、前記固定の遅延の1/Mの分解能(Mは1より大きい数)で変更可能な可変遅延を有し、
前記N個のスイッチのいずれかのスイッチが選択可能であり、選択されたスイッチ位置での遅延量と次のスイッチ位置での遅延量の間の任意の遅延量が生成される、
イコライザ。
【請求項3】
前記可変遅延は、選択されるスイッチに応じて、τ/MからNτ+τ/Mの間で変更可能である、
請求項に記載のイコライザ。
【請求項4】
前記第2乗算器は、前記可変遅延の出力に接続される、
請求項1~のいずれか1項に記載のイコライザ。
【請求項5】
前記第1乗算器は、前記N個のタップに接続されるN個の乗算器を有する、
請求項1~のいずれか1項に記載のイコライザ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のイコライザを有するデジタル信号プロセッサと、
前記デジタル信号プロセッサに接続される部品と、
を有し、
前記可変遅延は、前記デジタル信号プロセッサと前記部品の間に生じる反射に応じて設定されている、
通信モジュール。
【請求項7】
前記部品は、変調器ドライバと光変調器の少なくとも一方を含み、
前記可変遅延は、前記デジタル信号プロセッサと前記変調器ドライバの間の伝送遅延時間、または、前記変調器ドライバと前記光変調器の間の伝送遅延時間に応じて設定されている、
請求項に記載の通信モジュール。
【請求項8】
前記部品は、光/電気変換回路であり、
前記可変遅延は、前記デジタル信号プロセッサと前記光/電気変換回路の間の伝送遅延時間に応じて設定されている、
請求項に記載の通信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イコライザ、及びこれを用いた通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
通信の大容量化にともなって、通信速度の高速化と多値化が進められている。400G規格のデータセンター用通信モジュールでは、PAM-4(4-level Pulse Amplitude Modulation;4値振幅変調)信号フォーマットが採用されている。
【0003】
通信速度が高速化すると、部品の高周波帯域によって信号の帯域が制限される。制限された帯域を補償するために、FIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルタのようなデジタルフィルタが一般的に用いられる(たとえば、特許文献1参照)。また、送信モジュール用の可変遅延FIRイコライザが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-219078号
【文献】米国特許第7330506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多値化により、個々のレベルでのアイパターンの振幅開口は狭くなり、反射波によるアイパターン開口の劣化の影響が無視できなくなっている。一般的なFIRフィルタでは、固定の遅延量をもつため、部品間の伝送路長に合わせた反射補償が難しい。多数のタップを設けることで反射の影響を補償し得るが、回路規模と消費電力が増大する。公知の可変遅延FIRイコライザは、可変遅延の分解能が固定の遅延量よりも大きく、反射の影響を十分に補償することが難しい。
【0006】
本発明は、通信用モジュールで、回路規模と消費電力の増大を抑制して反射波を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の一つの態様では、イコライザは、
N個(Nは正の整数)のタップが縦列接続された第1のタップ付き遅延ラインと、
前記第1のタップ付き遅延ラインと並列に接続される、1タップの第2のタップ付き遅延ラインと、
前記N個のタップで取り出される信号に係数を乗算する第1乗算器と、
前記第2のタップ付き遅延ラインの出力に第2係数を乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力と前記第2乗算器の出力を加算する加算器と、
を有し、
前記第1のタップ付き遅延ラインは固定の遅延(τ)を有し、
前記第2のタップ付き遅延ラインは、前記固定の遅延の1/Mの分解能(Mは1より大きい数)で変更可能な可変遅延を有する。
【発明の効果】
【0008】
通信用のモジュールで、回路規模と消費電力の増大を抑制して反射波を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来のFIRフィルタでの技術課題を説明する図である。
図2】実施形態のイコライザを用いた通信モジュールの模式図である。
図3】実施形態のイコライザの構成例を示す図である。
図4】実施形態のイコライザの別の構成例を示す図である。
図5】実施形態のイコライザを用いた光送信機の模式図である。
図6】実施形態のイコライザを用いた光受信機の模式図である。
図7】反射の有無による信号波形の例を示す図である。
図8】周波数特性の補償例を示す図である。
図9】周波数特性の補償例を示す図である。
図10】実施形態の反射補償を行ったときのアイパターンを、反射補償のないアイパターンと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、発明者が見出した技術課題、すなわち、一般的なFIRフィルタを用いて波形成形するときに生じる反射補償の問題を説明する図である。
【0011】
高速の光通信用トランシーバモジュールの光送受信では、構成部品の帯域不足による波形歪を、デジタル信号処理で補償することが一般的となっている。高速大容量の通信では多値化が採用され、PAM-4(4-level Pulse Amplitude Modulation;4値振幅変調)信号フォーマットが採用されている。信号品質の維持のため、送信側、受信側ともに、アイ開口を確保するために波形整形が求められる。
【0012】
帯域補償用のデジタルフィルタとして、FIRフィルタが一般に用いられる。FIRフィルタは、符号化された入力デジタル信号を時間軸上で所定の遅延量でずらし、係数C~Cで重みづけして加算することで、波形を整形する。
【0013】
整形された波形の信号は、デジタル-アナログコンバータ(DAC)でアナログ電気信号に変換され、次段の接続部品に出力される。
【0014】
DSPと接続部品は電気伝送路で接続されている。DSPから出力されたアナログ電気信号は、接続部品の入力点(反射点I)で反射され、一部の信号成分がDSPに戻る。DSPに戻った信号は、DSPの出力点(反射点O)で再度反射され、接続部品に向かう。この反射によって、伝送信号に損失が生じる。
【0015】
伝送路長をD/2(Dは使用周波数での遅延時間で表される)とすると、往復の伝送路長、すなわち伝送遅延時間はDである。反射点Iでの反射減衰量をLi、反射点Oでの反射減衰量をLoとする。反射部の周波数伝達関数は、たとえば、
【0016】
【数1】
と表される。ここでは簡易化のために、電気伝送路の群遅延、S11反射特性、及びS22反射特性は、周波数に対して一定であると仮定している。
【0017】
右辺の第1項は、DSPから出力された信号を1に正規化したものである。反射成分の実数部と虚数部に含まれる往復の伝送遅延時間Dは、整数になるとは限らない。
【0018】
一方、FIRフィルタの周波数伝達関数は、たとえば、
【0019】
【数2】
で表される。ここで、kはタップの番号、Ckは各タップの係数、τは固定の遅延量である。k=0を中心として-nからnまで、(2n+1)個のタップでの乗算値の総和が、FIRフィルタの出力である。
【0020】
FIRフィルタにより等化された信号の実数部と虚数部の変数kは、整数である。一般的なFIRフィルタは固定の遅延量をもつため、必ずしも固定遅延の整数倍ではない反射遅延または伝送路長に合わせて反射波を補償することは難しい。FIRフィルタに多大な数のタップを設けることで反射の影響を低減し得るが、回路規模が大きくなり、消費電力が増大する。
【0021】
変調方式にPAM-4を用いる場合、「0」と「1」で表されるビット列は、「00」、「01」、「10、「11」の4つの電圧レベルのパルス信号として伝送される、単位時間当たりの伝送容量は2倍になる。一方、4レベルで3段のアイパターンの開口を維持するために、反射損失はできるだけ正確に補償できるのが望ましい。
【0022】
実施形態では、可変の遅延量をもつデジタルフィルタを用い、反射の遅延量に合わせて、より細かい分解能で反射を補償する。
【0023】
図2は、実施形態のイコライザを用いた通信モジュール1の模式図である。通信モジュール1は、DSP5と、接続部品56を有する。DSP5と接続部品56は、電気の伝送路57で接続されている。
【0024】
DSP5は、一例として、デジタル-アナログ及びアナログ-デジタル変換器(図中、「DAC/ADC」と標記)51、イコライザ10、及び、符号化及び復号化回路(図中、「CD/DEC」と標記)53を有する。
【0025】
伝送路57と接続部品56の接続点で、電気信号が反射する(反射点A)。また、伝送路57とDSP5の接続点で、電気信号が反射する(反射点B)。反射点で反射された信号成分は、DSP5からの出力タイミング、またはDSP5への入力タイミングから遅れて、パルス信号に混入する。
【0026】
イコライザ10は、信号波形を整形する。波形整形には、光伝送路で発生する波長分散、偏波モード回転などに起因する波形歪の整形、帯域制限された信号の帯域補償のための整形の他に、反射点で発生する反射波の補償が含まれる。
【0027】
後述するように、イコライザ10は所望の分解能の可変遅延量をもち、伝送路57の実効長に応じた遅延量で、反射を補償する。送信側では、イコライザ10によってあらかじめ反射補償された波形の信号が、伝送路57に出力される。受信側では、イコライザ10によって、反射の影響が取り除かれた波形の信号が、後段の復号に供給される。
【0028】
<イコライザの構成例1>
図3は、実施形態のイコライザ10Aの構成例を示す。イコライザ10Aは、第1のタップ付き遅延ライン11と、第2のタップ付き遅延ライン12Aを有する。第1のタップ付き遅延ライン11は、固定の遅延量をもつ。第2のタップ付き遅延ライン12Aは、可変の遅延量をもつ。イコライザ10Aはまた、第1のタップ付き遅延ライン11の出力に係数を乗算する第1乗算器13と、第2のタップ付き遅延ライン12の出力に係数を乗算する第2乗算器14と、第1乗算器13の出力と第2乗算器14の出力を加算する加算器17を有する。
【0029】
第1のタップ付き遅延ライン11は、入力信号x(n)に対して縦列接続されたN個(Nは2以上の整数)のタップを有する。この例では、#0~#4の5個のタップが縦列接続されている。タップとは、乗算器13の入力に接続される分岐ノードをいう。第1のタップ付き遅延ライン11は、隣り合うタップの間に遅延τが挿入されている。遅延τは、固定の遅延量であり、この例では、1ビット分の遅延量である。
【0030】
第2のタップ付き遅延ライン12Aは、第1のタップ付き遅延ライン11と並列に接続されている。第2のタップ付き遅延ライン12Aは、1つのタップと、可変遅延121を有する。
【0031】
可変遅延121は、τ×(L+1/M)の遅延量を有し、反射部分の実効伝送路長に合わせて、適切な値に設定可能である。ここで、Mは1より大きい数(M>1)、Lは0以上の整数である。可変遅延121は、第1のタップ付き遅延ライン11の固定の遅延量τを1/Mの分解能(M>1)で変えることができる。
【0032】
たとえば、反射部の往復の伝送遅延時間Dが3.5ユニットインターバル(UI)の場合、これに対応する遅延量を生成するために、L=3、M=2に設定することができる。別の例として、L=0、M=10に設定された場合は、τ/10の遅延量を生成することができる。LとMの値を決めることで、タップ#0~#4の間の所望の遅延量だけでなく、遅延τよりも小さい遅延も、タップ#4の遅延よりも大きい遅延も生成することができる。生成される遅延の分解能は、固定の遅延量τの1/Mであり、Mの値次第で、反射補償の精度を所望の程度に向上できる。
【0033】
LとMの値は、通信モジュール1の設計時などに、回路基板上の反射発生箇所の実効伝送路長(たとえば、使用周波数帯での往復の伝送遅延時間D)に応じて、指定することができる。設計時に指定されたLとMの値は、出荷前の検査などで微調整されてもよい。
【0034】
第1乗算器13は、タップ#0~#4に接続される乗算器130~134を有する。乗算器130~140で、対応するタップ#0~#4の出力に係数C~Cが乗算される。各タップ#0~#4の係数C~Cは、通信モジュール1の透過特性によって決まる。k番目の乗算器の周波数伝達関数は、
cosωkτ-jCsinωkτ
で表される。kは整数であり、第1のタップ付き遅延ライン11と第1乗算器13によって、反射波を除く部分で入力信号の波形が等価される。
【0035】
第2乗算器14は、第2のタップ付き遅延ライン12Aのタップに接続される。第2乗算器14で乗算される係数Cvarは、発生する反射の量によって決まる。第2のタップ付き遅延ライン12Aと第2乗算器14により、1/M(M>1)の分解能で、固定遅延量τの整数倍でない反射遅延を補償する。
【0036】
加算器17は、乗算器130~134の出力と、第2乗算器14の出力の総和で求まる信号y(n)を出力する。イコライザ10Aは、出力から入力に戻るフィードバック経路がなく、信号は前方に向かって一方向で送られることから、フィードフォワードイコライザとも呼ばれる。
【0037】
イコライザ10Aによって、固定量の遅延τの整数倍の遅延成分だけでなく、回路内の反射遅延など、固定遅延τよりも小さい遅延成分も補償することができる。第1のタップ付き遅延ライン11と並列に、1タップの第2のタップ付き遅延ライン12を接続し、第2乗算器14を追加するだけなので、回路の拡張は最小限であり、消費電力の増加も少ない。
【0038】
<イコライザの構成例2>
図4は、実施形態のイコライザ10Bの構成例を示す。イコライザ10Bは、反射箇所の伝送遅延量が小さい場合に適している。
【0039】
イコライザ10Bは、第1のタップ付き遅延ライン11と、第2のタップ付き遅延ライン12Bを有する。第1のタップ付き遅延ライン11は、固定の遅延量をもつ。第2のタップ付き遅延ライン12Bは、可変の遅延量をもつ。第1のタップ付き遅延ライン11に接続される第1乗算器13、第2のタップ付き遅延ライン12Bに接続される第2乗算器14、及び加算器17の構成は、図3のイコライザ10Aの構成要素と同じである。
【0040】
第1のタップ付き遅延ライン11は、入力信号x(n)に対して縦列接続されたN個(Nは正の整数)のタップと、各タップの間に挿入される遅延τを有する。この例では、#0~#4の5個のタップが縦列接続され、隣り合うタップの間に、遅延τが挿入されている。遅延τは固定量の遅延である。
【0041】
第2のタップ付き遅延ライン12Bは、第2乗算器14に接続される1つのタップと、可変遅延122を有する。第2のタップ付き遅延ライン12Bはさらに、第1のタップ付き遅延ライン11の各タップ#0~#4の遅延セグメントに接続されるスイッチSW0~SW4を有する。可変遅延122は、スイッチSWの位置で決まる遅延量の1/M(Mは1より大きい数)の遅延を生成する。
【0042】
図3の構成例1では、可変遅延121で「L」の値を設定することで、固定量の遅延τの整数倍に相当する遅延を生成していた。図4の構成例では、スイッチSW0~SW4のいずれかを選択してONにすることで、選択されたスイッチ位置での遅延量と、その次のスイッチ位置での遅延量の間の、任意の遅延量を生成することができる。
【0043】
たとえば、SW1をONにして、その他のスイッチSW0、及び、SW2~SW4をOFFにすると、1.000…ビットから1.999…ビットまでの任意の遅延を生成することができる。可変遅延122のブロック内に記載される「τ」は、選択されるスイッチに決まる値である。図3の5タップの例では、可変遅延122で生成される遅延は、τ/M~5τ/Mの間の値をとる。
【0044】
ONにされるスイッチSWと、可変遅延122のMの値は、通信モジュール1の設計時などに、回路基板の反射発生箇所の実効伝送路長(たとえば、使用周波数帯での往復の伝送遅延時間D)に応じて指定することができる。設計時にオン指定されたスイッチとMの値は、出荷前の検査などで変更されてもよい。
【0045】
イコライザ10Bの可変遅延122で生成される最大の遅延量は、Nタップの累積遅延の1/M、すなわち、Nτ+τ/Mである。可変遅延121の最大遅延量は、タップ数で制限されるが、高い分解能で小数点以下の遅延が生成される点は、イコライザ10Aと同じである。したがって、反射箇所の往復の伝送遅延時間Dが小さいときなどに、イコライザ10Bは好適に用いられる。
【0046】
<光送信機及び光受信機への適用>
図5は、実施形態のイコライザ10を用いた光送信機2の模式図である。光送信機2は通信モジュール1の一例である。光送信機2は、DSP5Txと、変調器ドライバ26と、光変調器27を有する。変調器ドライバ26と光変調器27は、接続部品56の例である。DSP5Txと変調器ドライバ26は、電気の伝送路7で接続されている。変調器ドライバ26と光変調器27は、電気の伝送路8で接続されている。
【0047】
DSP5Txは、DAC22と、イコライザ10と、符号化回路(図中、「CD」と標記)21を有する。クライアント装置からの信号は、DSP5Txに入力される。DSP5Txで、光伝送信号フォーマットへ符号化処理され、イコライザ10に出力される。
【0048】
イコライザ10は、信号の波形を整形するとともに、伝送路7と伝送路8の少なくとも一方で生じる反射をあらかじめ補償する。波形整形された信号は、DAC22でアナログ電気信号に変換されて、伝送路7に出力される。
【0049】
伝送路7では、DSP5Txの出力端で反射点Oが発生し、変調器ドライバ26への入力端で反射点Iが発生し得る。伝送路8では、変調器ドライバ26の出力端で反射点Oが発生し、光変調器27への入力端で反射点Iが発生し得る。
【0050】
伝送路7と伝送路8の伝送遅延時間Dが等しい場合は、イコライザ10で2つの伝送路7及び8の反射を補償することができる。伝送路7と伝送路8の伝送遅延時間がイコライザ10の固定の遅延τの整数倍でないときも、第2のタップ付き遅延ライン12の可変遅延121または122により、1/Mの分解能でτの整数倍でない遅延量を生成することができる。
【0051】
伝送路7と伝送路8の長さ、または伝送遅延時間が異なる場合は、反射が大きいほうの伝送路の反射波を補償してもよい。DSP5Txから出力されるアナログ電気信号は、変調器ドライバ26で所定の電圧レベルの高周波パルス信号に変換され、光変調器27に入力される。光変調器27は、光源としてレーザダイオードが組み込まれた集積型の光変調器であってもよい。光変調器27は、光源から出力される光を、高周波パルス信号で変調して出力する。これにより、回路規模と消費電力の増大を最小限にして、反射波による損失を細かい精度で補償することができる。
【0052】
図6は、実施形態のイコライザ10を用いた光受信機3の模式図である。光受信機3は通信モジュール1の一例である。光受信機3は、DSP5Rxと、光/電気変換回路(図中、「O/E」と標記)31を有する。光/電気変換回路31は光受信フロントエンド回路であり、光伝送路から受信した光信号を電気信号に変換する。光/電気変換回路31は、光検出器としてのフォトダイオードと、トランスインピーダンスアンプを含むプリアンプを有している。
【0053】
光/電気変換回路31とDSP5Rxは、電気の伝送路9で接続されている。光/電気変換回路31の出力端は、反射点Oとなり得る。DSP5Rxへの入力端は、反射点Iとなり得る。伝送路9で生じる反射波は、伝送路長に応じた遅延をともなって受信信号波形に取り込まれ、波形歪と伝送損失の原因となる。
【0054】
DSP5Rxは、ADC32と、イコライザ10と、復号器(図中、「DEC」と標記)33を有する。光ネットワークから受信され、電気信号に変換された信号は、ADC32で、デジタル信号に変換される。イコライザ10は、受信した電気信号の波形を整形するとともに、伝送9で生じた反射を補償する。波形整形された信号は、復号器33で復号化処理を受ける。
【0055】
イコライザ10は、可変遅延121または122により、1/Mの分解能で遅延τの整数倍でない遅延を生成することができる。伝送路9の伝送遅延時間Dが固定遅延量の整数倍でない場合も、精度よく反射を補償することができる。
【0056】
<イコライザの効果>
図7は、反射の有無による単位パルス信号波形の例を示す。往復の伝送遅延時間Dを3.5[UI]として計算している。伝送路での(A)は反射のない場合の信号波形、(B)は反射補償のない構成で反射があるときの信号波形、(C)は実施形態の構成で反射があるときの信号波形である。
【0057】
DSP5と接続部品56の間の伝送路57(図2参照)を、パルス信号が伝搬する。伝送路57に反射がない場合は、波形整形された信号は、図7の(A)に示すように、所定の時間間隔で立ち上がる矩形のパルス信号である。
【0058】
伝送路57に反射がある場合、反射補償のない構成では、図7の(B)に示すように、伝送遅延時間Dの位置に反射波が現れる。この反射波は伝送損失につながり、アイパターンが劣化する。
【0059】
実施形態のイコライザ10を用いることで、図7の(C)に示すように、伝送遅延時間Dの位置での反射波が補償され、反射がないときと同様のパルス波形が得られる。イコライザ10は、帯域補償用のFIRフィルタの拡張を最小限に抑えて、伝送遅延時間Dに応じた反射を補償する。
【0060】
図8、及び図9は、周波数特性の補償例を示す図である。図8の(A)は実施形態のイコライザ10を用いたときの利得特性、図9の(A)はその位相特性である。図8の(B)は、比較として従来のFIRフィルタを用いたときの利得特性、図9の(B)はその位相特性である。
図8の(A)、(B)、及び図9の(A)、(B)の点線は、53ギガボーのシンボルレートで部品間の往復の伝送遅延時間Dを3.5[UI]、10%の反射波が生じるときに、補償したい目標の利得特性と位相特性を示す。
【0061】
図8の(A)の実線は、実施形態のイコライザ10で反射補償したときの利得特性、図9の(A)の実線は、その位相特性である、図8の(B)の実線は、従来のFIRフィルタで反射補償したときの利得特性、図9の(B)の実線は、その位相特性である。図8の(A)と(B)、及び図9の(A)と(B)で、フィルタのタップ数を5タップとし、帯域内の利得特性と位相特性を合わせて、LMS(Least Mean Square:最小二乗平均)法でフィッティングしている。LMS法フィッティングの際に、利得特性と位相特性の間に、あるいは、サンプリングする周波数領域により、適宜、加重を与えている。
【0062】
図8の(A)、及び、図9の(A)で、実施形態のイコライザ10で反射を補償することで、目標の利得と位相が実現されている。これに対し、図8の(B)の従来のFIRフィルタでは、目標の利得特性からの乖離が大きくなる。上述した条件で、従来のFIRフィルタで目標の利得特性を達成するためには、タップ数を大幅に増やさなければならない。図9の(B)でも、目標の位相特性からのずれが大きい。
【0063】
実施形態のイコライザ10では、遅延τの1/M(M>1)の分解能で反射を補償することができるので、タップ数を増大させずに目標の利得特性と位相特性が得られる。
【0064】
図10は、実施形態の反射補償を行ったときのアイパターンを、反射補償を行わないときのアイパターンと比較して示す図である。図10の(A)で、実施形態のイコライザ10を用いることで、電気信号が4つの電圧レベルに収束し、アイパターンの開口が広く保たれている。
【0065】
図10の(B)で、反射補償を行わないときはは、各レベルで電圧値がばらつき、アイパターンの開口が狭くなり、開口が劣化している。これは、伝送路で生じる反射波が十分に補償されていないからである。
【0066】
実施形態のイコライザ10では、遅延τの1/M(M>1)の分解能で反射を補償できるので、回路規模の増加を最小限に抑えて良好なアイパターンを維持することができる。
【0067】
以上説明したように、伝送路で発生する反射遅延が、イコライザ10に設定されている固定の遅延量の整数倍でなくても、固定遅延量の1/M(M>1)の分解能で反射遅延を補償することができる。
【0068】
本開示によるイコライザは、上述した特定の構成例に限定されない。タップの数は5個に限定されず、送信機または受信機で必要とされる反射補償の程度、消費電力、回路規模などに応じて、適宜選択される。タップ間に設定される固定の遅延は、1ビットの遅延に限定されない。各タップの出力の総和をとる構成に変えて、各タップの出力を順次加算する構成を用いてもよい。この場合、第1のタップ付き遅延ライン11で順次加算された乗算値に、第2乗算器14の出力が加算されてもよいし、その逆でもよい。
【0069】
実施形態のイコライザにより、反射波の影響が除去された周波数透過特性が得られ、透過特性に依存するシンボル間干渉が抑制される。イコライザ10が送信機に適用される場合、IEEEによるTDECQ(Transmitter and Dispersion Eye Closure Quaternary)規格に適合したアイ開口特性が得られる。イコライザ10が受信機に適用される場合、受信感度、最大受信レベルなどを含む受信誤り率特性を最適にすることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 通信モジュール
2 光送信機
3 光受信機
5 DSP
7、8、9、57 伝送路
10、10A、10B イコライザ
11 第1のタップ付き遅延ライン
12A、、12B 第2のタップ付き遅延ライン
13 第1乗算器
14 第2乗算器
17 加算器
21 符号化回路
26 変調器ドライバ
27 光変調器
31 光/電気変換回路
33 復号器
121、122 可変遅延
τ 固定の遅延
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10