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  • 特許-耐熱性粘着テープ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】耐熱性粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240130BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20240130BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
C09J11/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020072857
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169554
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】真継 美佳
(72)【発明者】
【氏名】貝原 寛哉
(72)【発明者】
【氏名】高田 圭吾
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-143022(JP,A)
【文献】特開2018-078199(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031543(WO,A1)
【文献】特開2015-124301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層上に設けられた剥離基材とを備える耐熱性粘着テープであって、
前記粘着剤層が、アクリル系ポリマー(A)と官能基数が6官能以上である光重合性オリゴマー(B)と光重合開始剤(C)と架橋剤(D)とを含み、
アクリル系ポリマー(A)100質量部に対する各成分の配合量が、
光重合性オリゴマー(B)30~250質量部、
光重合開始剤(C)1.0~20質量部、
架橋剤(D)0.1~10質量部であり、
かつ、アクリル系ポリマー(A)が(メタ)アクリレートと水酸基含有(メタ)アクリレートからなるモノマーの有機テルル媒介リビングラジカル重合による共重合物
であることを特徴とする耐熱性粘着テープ。
【請求項2】
アクリル系ポリマー(A)の水酸基価が1~20mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性粘着テープ。
【請求項3】
粘着剤層の100~170℃における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の差が1.0×10~1.0×10Paであり、かつ、170℃における貯蔵弾性率G’が100℃における貯蔵弾性率G’に対して50~250%であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性粘着テープ。
【請求項4】
耐熱性基材層の加熱収縮率(JIS C2151準拠)が、MD方向において1%以下であり、かつ、TD方向において1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造工程において使用される耐熱性粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に電子部品の製造工程では、ダイシングテープやバックグラインドテープ等の粘着テープが使用されている。近年では、例えばバックグラインド工程、電子部品を接続するリフロー工程や部品を樹脂封止する工程、ベーキング工程及び加熱下での性能検査など、ダイシング前あるいはダイシング後、もしくはその両方で行われる加熱処理工程に対応可能な耐熱性を有する粘着テープの需要が高まっている。これらの粘着テープは部品の仮固定や保護を目的として使用されており、粘着テープには製造工程中の環境条件に耐えうる高い粘着力を有し、工程終了時には容易に剥離できることが望まれている。
【0003】
このような特性を有する粘着テープとしては、特許文献1や特許文献2のような紫外線硬化型粘着剤を用いた粘着テープが一般的に知られている。
【0004】
特許文献1では、粘着剤層にフリーラジカル重合で合成したアクリル系ポリマーが用いられている。しかし、フリーラジカル重合で合成したアクリル系ポリマーでは、ポリマー分子量や分子量分布、共重合体組成などをコントロールすることができず、低分子量体が生成したり、官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーが各ポリマー分子内に均一に共重合されないため、耐熱性の低下や剥離除去の際の糊残りが生じてしまうという問題点があった。
【0005】
一方、特許文献2にはリビングラジカル重合で合成したアクリル系ポリマーを用いた粘着テープが記載されている。フリーラジカル重合に対してリビングラジカル重合で合成したアクリル系ポリマーは、重合反応が停止反応や連鎖移動反応などの副反応で妨げられず分子鎖が生長するため、ポリマー分子量や分子量分布、共重合体組成などをコントロールしやすく、より均一な分子量及び共重合体組成のアクリル系ポリマーを得ることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている粘着テープでは、高温加熱後の紫外線照射による十分な粘着力低下を望むことは難しかった。また、紫外線により気体を発生する気体発生剤を用いることで紫外線照射後の更なる粘着力低下を図っているが、高温加熱時にも気体が発生し、部品の加工中に粘着力が低下してしまうという問題を有しており、加熱処理工程での使用には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-046763号公報
【文献】特開2015-124300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題に基づいてなされたものであり、その目的は、加熱処理工程で使用した際に粘着力の低下や固着が起こりにくく、剥離除去の際には容易に剥離可能で糊残りが発生しない耐熱性粘着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、基材層上に設けられた粘着剤層の構成成分として、アクリル系ポリマー(A)と官能基数が6官能以上である光重合性オリゴマー(B)(以下、単に「光重合性オリゴマー(B)」と略することがある)と光重合開始剤(C)と架橋剤(D)とを選択し、尚且つアクリル系ポリマー(A)にはリビングラジカル重合により合成された(メタ)アクリレートと水酸基含有(メタ)アクリレートの共重合体を使用することで、加熱処理工程においても粘着力の低下や固着が起こりにくく、剥離除去の際には容易に剥離可能で糊残りが発生しない耐熱性粘着テープが得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)耐熱性基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層上に設けられた剥離基材とを備える耐熱性粘着テープであって、前記粘着剤層が、アクリル系ポリマー(A)と官能基数が6官能以上である光重合性オリゴマー(B)と光重合開始剤(C)と架橋剤(D)とを含み、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対する各成分の配合量が、光重合性オリゴマー(B)30~250質量部、光重合開始剤(C)1.0~20質量部、架橋剤(D)0.1~10質量部であり、かつ、アクリル系ポリマー(A)が(メタ)アクリレートと水酸基含有(メタ)アクリレートとを含むモノマーの有機テルル媒介リビングラジカル重合による共重合物であることを特徴とする耐熱性粘着テープ、
(2)アクリル系ポリマー(A)の水酸基価が1~20mgKOH/gである前記(1)に記載の耐熱性粘着テープ、
(3)粘着剤層の100~170℃における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の差が1.0×10~1.0×10Paであり、かつ、170℃における貯蔵弾性率G’が100℃における貯蔵弾性率G’に対して50~250%である前記(1)に記載の耐熱性粘着テープ、
(4)耐熱性基材層の加熱収縮率(JIS C2151準拠)が、MD方向において1%以下であり、かつ、TD方向において1%以下である前記(1)に記載の耐熱性粘着テープ、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐熱性粘着テープによれば、電子部品の製造工程で高温加熱される加熱処理工程においても粘着力を維持することで部品(被着体)が固定または保護された位置からずれることなく保持され、かつ、剥離除去の際には糊残りを発生することなく容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る耐熱性粘着テープの一例を示す断面図である。
【0013】
図2】動的粘弾性測定(DMA)チャートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。なお、以下に説明する構成は本発明の構成の代表的な一例であり、何ら制限されるものではなく、本発明の目的の範囲内で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
まず、本発明の耐熱性粘着テープの構成について図1で説明する。図1は本発明の構成に係る耐熱性粘着テープ4を模式的に記した断面図である。
【0016】
図1の耐熱性粘着テープ4は、耐熱性基材層1の上に粘着剤層2と剥離基材3とが順次形成されているが、この構成に何ら制限されるものではない。
【0017】
以下、耐熱性基材層1、粘着剤層2、剥離基材3、耐熱性粘着テープ4の順に説明する。
【0018】
[耐熱性基材層1]
本発明の耐熱性粘着テープでは、紫外線を透過し、耐熱性を有する耐熱性基材層1が用いられる。耐熱性基材層1は、加熱収縮率(JIS C2151準拠,150℃×30min)がMD及びTDともに1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。加熱収縮率が1%を超える場合、加熱処理工程時に耐熱性粘着テープが収縮して変形する恐れがある。このような観点から耐熱性基材層1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエーテルサルフオン(PES)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリサルフオン(PSF)フィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリアリレート(PAR)フィルム、ポリフェニルスルホン(PPSU)フィルム、アラミドフィルム、ポリイミドフィルム、又は液晶ポリマー(PCP)フィルム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い易く、低価格であるという観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、アニール処理により加熱収縮率を下げたフィルムがより好ましい。
【0019】
耐熱性基材層1は上記材料から選ばれる単層もしくは2層以上の積層からなるフィルムもしくはシートであってよい。また、帯電防止剤や熱安定化剤等の添加剤が含まれていてもよい。耐熱性基材層1の厚みは、特に限定されるものではないが、25~300μmであることが好ましく、30~150μmであることがより好ましい。上記範囲であれば、耐熱性粘着テープの形態を維持することができるので、耐熱性粘着テープの貼付や剥離等の作業性が良好となり、また、反り、弛み、破断等が生じ難く、十分な機械的強度を示すので好適なハンドリング性が得られる。なお、上記の厚さを超えると、コスト高になる場合がある。
【0020】
なお、耐熱性基材層1には、粘着剤層2との濡れ性を向上させるために、その片面又は両面に、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施してもよい。また、基材表面に四級アミン塩単量体等を用いて帯電防止処理を施してもよい。
【0021】
[粘着剤層2]
粘着剤層2は、アクリル系ポリマー(A)と光重合性オリゴマー(B)と光重合開始剤(C)と架橋剤(D)を必須成分として構成され、各種物性を改善するために、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。以下、これらの各成分について具体的に説明する。
【0022】
[アクリル系ポリマー(A)]
アクリル系ポリマー(A)は、(メタ)アクリレートと水酸基含有(メタ)アクリレートとを含むモノマーの共重合物である。なお、本発明における「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」と同義である。
【0023】
本発明において単に「(メタ)アクリレート」と記載するモノマーは、架橋性官能基を含有しない(メタ)アクリレートをいう。(メタ)アクリレートとしては、架橋性官能基を有さない、炭素数1以上20以下の直鎖、分岐、環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートや芳香族基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0024】
直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
環状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレートなどの単環式構造を有する(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレートなどの多環式構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
芳香族基を有する(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
これらのなかでも、(メタ)アクリレートとしては、直鎖もしくは分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0029】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのカプロラクトン付加物、ポリエチレングリコール構造単位を有する(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、である。
【0030】
また、本発明の効果を阻害しない程度であれば、アクリル系ポリマー(A)の共重合に供するモノマーとして、前記モノマー以外にその他のモノマーを用いてもよい。その他のモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N置換(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;アルコキシ基を有する(メタ)アクリレート類;酸素ヘテロ環基を有する(メタ)アクリレート類;カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基などの水酸基以外の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート類;スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、p-ヒドロキシスチレン、アリルアルコールなどのビニル化合物などが挙げられる。アクリル系ポリマー(A)の共重合に供するその他のモノマーの含有割合は、10質量%未満であることが好ましく、特に、水酸基以外の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート類は、加熱工程での架橋性官能基間の反応により加熱後の粘着力低下を引き起こす恐れがあることから、その合計割合が5質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
【0031】
アクリル系ポリマー(A)は、被着体への糊残りや耐熱性などの観点から有機テルル媒介リビングラジカル重合(以下、TERPと称することがある)により得られたものである必要がある。TERPで製造されたアクリル系ポリマー(A)は、粘着剤層2に用いたときに被着体に対して糊残りが少なくなるなどの利点があり、また、耐熱性においても高温時の貯蔵弾性率G’の変化が少なく加熱後に粘着力を保持することが可能になる。その理由は定かではないが、TERPにより架橋剤との反応点となる架橋性官能基の均一導入や後述する分子量分布制御などポリマー構造が精密に制御されたことによるものと思われる。
【0032】
TERPは、有機テルル化合物を連鎖移動剤として用い、モノマーを重合させる方法であり、例えば、国際公開第2004/14848号、国際公開第2004/14962号、国際公開第2004/072126号、および国際公開第2004/096870号に記載されている方法がいずれも適用可能である。
【0033】
アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、20万~150万の範囲内であることが好ましく、40万~120万の範囲内であることがより好ましい。分子量が上記範囲にあることにより、耐熱性粘着テープ製造時のハンドリング性や加熱後の粘着力に優れ、低分子量成分による粘着剤層2の層間強度の低下や、被着体への糊残りの発生、あるいは耐熱性の低下の懸念が少なくなる。
【0034】
アクリル系ポリマー(A)の分子量分布(Mw/Mn比)は被着体への糊残りや耐熱性の観点から、1.05~2.5の範囲内であることが好ましく、1.05~2.0の範囲内であることがより好ましい。
【0035】
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の標準ポリスチレン換算の値であり、以下の条件にて測定したものである。
測定装置:高速GPC装置(HLC-8320GPC、東ソー株式会社製)
カラム:TSKGEL SUPERMULTIPORE-HZ H、TSKGEL SUPERMULTIPORE-HZ M(いずれも東ソー株式会社製)を2本連結して使用
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M(東ソー株式会社製)
溶離液: テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.1%
標準:TSKgel標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
【0036】
アクリル系ポリマー(A)の水酸基価は、1~20mgKOH/gであることが好ましく、2.5~15mgKOH/gであることがより好ましい。本発明において水酸基価とは、JIS K 0070:1992の試験方法第7.1項記載の中和滴定法に準拠して求めることが出来る。
アクリル系ポリマー(A)中の水酸基は後述する架橋剤(D)と架橋点を構成する。アクリル系ポリマー(A)の水酸基価が上記範囲内であることにより、適切な量の架橋構造を導入できることから粘着剤層2に十分な凝集力と適度な粘着力を与えるため、耐熱性基材層1との密着性に優れ、塗工時のハンドリング性悪化や被着体への糊残り、あるいは加熱後の粘着力低下の懸念が少なくなる。
【0037】
アクリル系ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、被着体に対する粘着力や耐熱性などの観点から、-30℃~50℃の範囲内であることが好ましく、-20℃~30℃の範囲内であることがより好ましい。
なお、本発明において記載されているガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)にて得られたDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点である中間点ガラス転移温度とする。測定はJIS K7121に準拠し、窒素雰囲気下にて下記の条件で行った。
測定装置:示差走査熱量計(EXSTAR6000 DSC6200、セイコーインスツルメンツ株式会社製)
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:-100~100℃
【0038】
[光重合性オリゴマー(B)]
光重合性オリゴマー(B)は、官能基数が6官能以上でありエネルギー線の照射により重合するものであれば特に限定されないが、例えば、光ラジカル重合性、光カチオン重合性、光アニオン重合性などを有するオリゴマーが挙げられる。これらの中でも、粘着剤設計に自由度があり汎用的に使用され入手が容易な光ラジカル重合性を示すオリゴマーが好ましい。光ラジカル重合性のオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくはウレタン(メタ)アクリレートである。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0039】
光重合性オリゴマー(B)の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、500~1万であることが好ましく、1,000~7,000であることがより好ましい。上記範囲内であればエネルギー線照射前に所望の粘着力を示し、エネルギー線照射後には糊残りが無く容易に剥離することが可能となる。また、光重合性オリゴマー(B)のアクリロイル基又はメタクリロイル基の含有量を示す官能基数は6以上であり、15以下であることが好ましい。前記範囲内であれば加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力が十分に低下する。
【0040】
また、粘着剤層2における光重合性オリゴマー(B)の含有量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して、30~250質量部である必要がある。30質量部未満であると、エネルギー線照射後において剥離時に糊残りが発生することがあり、250質量部を超えると、加熱後の粘着力が低下することがある。40~150質量部であることがより好ましい。
【0041】
また、粘着剤層2には、本発明の効果を阻害しない程度であれば、光重合性オリゴマー(B)の一部に代えて、エネルギー線の照射により重合し得る光重合性モノマーを併用してもよい。光重合性モノマーとしては、特に限定されないが、エネルギー線照射後の粘着力の制御が容易となる官能基数が3以上の多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、およびそれらのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらの光重合性モノマーは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。光重合性モノマーは光重合性オリゴマー(B)の25質量%未満であることが好ましい。
【0042】
なお、粘着剤層2を硬化させるエネルギー線としては、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線などの光線、X線、γ線などの電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線などが挙げられる。硬化速度、照射装置の入手容易さ、価格など含め汎用性の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。
【0043】
[光重合開始剤(C)]
光重合開始剤(C)は、照射するエネルギー線に適したものであれば特に限定されないが、糊残りや粘着力の観点から、加熱による揮発や分解が生じ難い光重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、昇温速度10℃/分で25℃から350℃まで昇温し、質量減少率が10%となった際の温度が270℃以上であるものが好ましい。前記範囲内であれば光重合開始剤が加熱時に分解することによって生じる加熱後のエネルギー線照射前の粘着力低下を防ぐことが出来る。
【0044】
上記温度が270℃以上である光重合開始剤(C)としては、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)(BASFジャパン株式会社製、製品名IRGACURE OXE02)、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-{4-(1-メチルビニル)フェニル}プロパノン](n=2)(DKSHジャパン株式会社製、製品名ESACURE ONE)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASFジャパン株式会社製、製品名IRGACURE TPO)、2-ヒドロキシ-1-[4-{4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノール)フェノキシ}フェニル]-2-メチルプロパン-1-ワン(DKSHジャパン株式会社製、製品名ESACURE KIP160)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、粘着剤層2における光重合開始剤(C)の含有量はアクリル系ポリマー(A)100質量部に対して、1.0~20質量部である必要がある。前記範囲外であると、熱処理工程後のエネルギー線照射後に光重合性オリゴマー(B)が十分に硬化しないため粘着力が低下せず、糊残りの発生が懸念される。2~15質量部であることがより好ましい。
【0046】
[架橋剤(D)]
架橋剤(D)は、アクリル系ポリマー(A)中の水酸基と反応し得る反応性基を1分子中に2つ以上有する化合物である。例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。なお、これらの中でも、架橋効率が高く、反応制御が容易で基材に対する密着性の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0047】
(イソシアネート系架橋剤)
イソシアネート系架橋剤は、反応性基としてイソシアネート基を1分子中に2つ以上有する化合物である。
【0048】
イソシアネート系架橋剤としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどの脂環族イソシアネート;ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、およびこれらイソシアネート化合物と各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合などで多官能化した変性ポリイソシアネートが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。これらのうち、芳香族イソシアネートや芳香族イソシアネートの変性ポリイソシアネートを用いることが好ましく、芳香族イソシアネートの変性ポリイソシアネートがより好ましい。
【0049】
(エポキシ系架橋剤)
エポキシ系架橋剤は、反応性基としてエポキシ基を1分子中に2つ以上有する化合物である。
【0050】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ系樹脂、ビスフェノールF型エポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、粘着剤層2における架橋剤(D)の含有量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して、0.1~10質量部である必要がある。上記範囲外であると、粘着剤層2と耐熱性基材層1との密着性が低下したり、架橋が不十分で凝集力が低下し粘着力の低下や糊残りが発生したりする。0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0052】
アクリル系ポリマー(A)の共重合に供するモノマーとして、カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基などの水酸基以外の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート類を用いた場合、本発明の効果に支障のない範囲であれば、それぞれの官能基と反応し得る架橋剤を併用してもよい。例えば、アジリジン系架橋剤、金属キレート型架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤などが挙げられる。
【0053】
[その他]
粘着剤層2には、必要に応じて、粘着付与剤、帯電防止剤、光増感剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、ぬれ性調整剤、可塑剤、軟化剤、有機微粒子、無機微粒子、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、ワックスなどの各種添加剤を含有していてもよい。
【0054】
そして、本発明者らは、物質の動的粘弾性を評価する指針となる貯蔵弾性率G’および損失弾性率G’’に着目し鋭意検討を重ねた結果、下記(i)および(ii)の範囲を粘着剤層2が満たした場合、加熱処理工程後の粘着力が保持でき、エネルギー線照射後に十分粘着力が低下し糊残りが生じなくなるなど、このような範囲であれば、本発明の効果はより顕著となることを見出した。
(i)粘着剤層2の100~170℃における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の差が1.0×10~1.0×10Pa
(ii)170℃における貯蔵弾性率G’が100℃における貯蔵弾性率G’に対して50~250%
【0055】
なお、本発明における粘着剤層2の貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’は、動的粘弾性測定(DMA)によって測定した値であり、測定条件は下記の通りである。
測定装置:動的粘弾性測定装置(Advanced Rheometric Expansion System(ARES)、Reometric Scientific社製)
測定モード:剪断モード
周波数:1Hz
昇温速度:2℃/分
温度範囲:20~200℃
試験片厚み:100μm
【0056】
粘着剤層2の厚さは耐熱性粘着テープ4の使用用途に応じて調整すれば良く特に限定されないが、通常は5μm~50μm程度、好ましくは10μm~30μm程度である。上記範囲内であれば加熱処理工程前後の粘着力が被着体を保持するのに十分であり、被着体に凸凹がある場合も追随して保持することが可能である。また、加熱後のエネルギー線照射工程でエネルギー線の透過を妨げずに照射後に糊残りが生じず被着体の剥離が容易となる。
【0057】
[剥離基材3]
本発明の耐熱性粘着テープ4では、剥離性を有する剥離基材3を用いる。剥離基材とは剥離層を有する剥離性を示す基材であり、粘着剤層の表面を保護する機能を有する剥離シートもしくはフィルムを意味する。剥離基材は、一般的に剥離層としてシリコーン樹脂系剥離剤、フッ素樹脂系剥離剤、ポリプロピレン系樹脂、長鎖アルキル化合物などの公知の剥離剤を基材フィルムに処理したものである。基材フィルムは必要な強度と柔軟性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリテトラメチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなどが挙げられる。剥離基材の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは10~100μmである。また、帯電防止処理された剥離基材を用いてもよい。
【0058】
本発明の耐熱性粘着テープ4の製造方法は特に限定されず、耐熱性基材層1、粘着剤層2、剥離基材3を用いて、一般的な積層体の製造方法にて得ることが出来る。例えば、粘着剤層2の構成成分をロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、コンマコーター、リップコーターなど一般に公知の方法にしたがって耐熱性基材層1に適宜の厚さで塗工乾燥させて粘着剤層2を形成し、次いで粘着剤層2上に剥離基材3を貼り合わせる方法、また、粘着剤層2を剥離基材3の剥離面上に設け、これを上記耐熱性基材層1に転写する方法などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマー(A)と架橋剤(D)とを反応させるために耐熱性粘着テープ4の製造後に必要に応じて養生しても良い。前述の養生条件としては、23~60℃で2日間~7日間程度が好ましい。
【0059】
本発明の耐熱性粘着テープ4の粘着力は使用用途によって任意に設計可能であるが、JIS Z0237に準じて測定したステンレス鋼板(SUS304BA)に対する23℃における加熱前の粘着力は、被着体の保持の観点から2.0~20N/25mmであることが好ましい。また、加熱後の粘着力は搬送を含む加熱工程での被着体の保持の観点から、180℃で1時間加熱した場合に2.0N/25mm以上であることが好ましく、3.0N/25mm以上であることが更に好ましい。加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力は、ハンドリング性や糊残りの観点から、2.0N/25mm以下であることが好ましく、1.0N/25mm以下であることが更に好ましい。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
各種物性測定は以下の機器により測定を行った。なお、略語の意味は下記のとおりである。
THF:テトラヒドロフラン
MA:メチルアクリレート
BA:n-ブチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
V-60:2,2’-アゾビスイソブチロニトリル
BTEE:エチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート
V-601:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル
(重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn))
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の標準ポリスチレン換算の値であり、以下の条件にて測定したものである。
測定装置:高速GPC装置(HLC-8320GPC、東ソー株式会社製)
カラム:TSKGEL SUPERMULTIPORE-HZ H、TSKGEL SUPERMULTIPORE-HZ M(いずれも東ソー株式会社製)を2本連結して使用
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M(東ソー株式会社製)
溶離液: テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.1%
標準:TSKgel標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
(ガラス転移温度(Tg))
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)にて得られたDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点である中間点ガラス転移温度とする。測定はJIS K7121に準拠し、窒素雰囲気下にて下記の条件で行った。
測定装置:示差走査熱量計(EXSTAR6000 DSC6200、セイコーインスツルメンツ株式会社製)
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:-100~100℃
【0062】
[リビングラジカル重合アクリル系ポリマーの合成]
(合成例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度センサーを備えたフラスコに、MA(414g)、BA(178g)、HEA(9g)、V-60(36mg)、酢酸エチル(452g)を仕込み、フラスコ内を窒素置換後、BTEE(300mg)を加え、60℃22時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルを加え、リビングラジカル重合アクリル系ポリマー(A-1)を得た。得られたアクリル系ポリマー(A-1)はMwが56万、Mw/Mnが1.3、Tgが-5℃であった。ポリマー物性を表1に示す。
【0063】
(合成例2)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度センサーを備えたフラスコに、MA(404g)、BA(178g)、HEA(18g)、V-60(41mg)、酢酸エチル(452g)を仕込み、フラスコ内を窒素置換後、BTEE(300mg)を加え、60℃22時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルを加え、リビングラジカル重合アクリル系ポリマー(A-2)を得た。得られたアクリル系ポリマー(A-2)はMwが56万、Mw/Mnが1.6、Tgが-5℃であった。ポリマー物性を表1に示す。
【0064】
(合成例3)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度センサーを備えたフラスコに、MA(418g)、BA(178g)、HEA(4g)、V-60(41mg)、酢酸エチル(453g)を仕込み、フラスコ内を窒素置換後、BTEE(300mg)を加え、60℃22時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルを加え、リビングラジカル重合アクリル系ポリマー(A-3)を得た。得られたアクリル系ポリマー(A-3)はMwが48万、Mw/Mnが1.5、Tgが-5℃であった。ポリマー物性を表1に示す。
【0065】
[フリーラジカル重合アクリル系ポリマーの合成]
(比較合成例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度センサーを備えたフラスコに、MA(414g)、BA(178g)、HEA(9g)、酢酸エチル(769g)を仕込み、フラスコ内を窒素置換後、酢酸エチル(30g)に溶解させたV-601(1.5g)を加え、70℃7時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルを加え、フリーラジカル重合アクリル系ポリマー(A’-1)を得た。得られたアクリル系ポリマー(A’-1)はMw61万、Mw/Mnが5.9、Tgが-5℃であった。ポリマー物性を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1中の水酸基価はJIS K 0070:1992の試験方法第7.1項記載の中和滴定法に準拠して求めた値である。なお、略語の意味は下記のとおりである。
TERP:有機テルル媒介リビングラジカル重合法
FRP:フリーラジカル重合法
【0068】
(粘着剤の調製)
[製造例1]
リビングラジカル重合にて得られたアクリル系ポリマー(A-1)の共重合体成分100質量部に対して、光重合性オリゴマー(B-1:アートレジンUN-3320HA、根上工業株式会社製)を42.9質量部、光重合開始剤(C-1:IRGACURE TPO、BASFジャパン社製)を2.1質量部、架橋剤(D-1:タケネートD-101E、三井化学株式会社製)を2.1質量部配合して粘着剤(X-1)を得た。粘着剤(X-1)の組成を表2に示す。
【0069】
[製造例2~13、比較製造例1~6]
製造例1と同様に、表2に示す配合に従って粘着剤を調製し、製造例2~13および比較製造例1~6の粘着剤(X-2~X-13、X’-1~X’-6)を得た。
【0070】
【表2】
【0071】
(表中の説明)
[光重合性オリゴマー(B)]
B-1:アートレジンUN-3320HA(根上工業株式会社製);分子量Mw1500、官能基数6
B-2:アートレジンUN-3320HS(根上工業株式会社製);分子量Mw5000、官能基数15
B-3:UF-8001G(共栄社化学株式会社製);分子量Mw4500、官能基数2
B-4:EBECRYL4666(ダイセル・オルネクス株式会社製);分子量Mw1100、官能基数4
[光重合開始剤(C)]
C-1:IRGACURE TPO(BASFジャパン株式会社製);2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド
C-2:ESACURE ONE(DKSHジャパン株式会社製);オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-{4-(1-メチルビニル)フェニル}プロパノン](n=2)
[架橋剤(D)]
D-1:タケネートD-101E(三井化学株式会社製);トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体。
【0072】
[評価]
(動的粘弾性)
粘着剤を乾燥後の粘着剤層の厚さが100μmとなるように剥離基材(PET-38-SCA0、厚さ38μm、株式会社フジコー製)上に塗工し、乾燥後、粘着剤層側を別の剥離基材(PETセパレーターJ6、ニッパ株式会社製)と貼り合わせ、40℃にて7日間養生し、測定サンプルを得た。測定する際は、両面の剥離基材を剥がし、粘着剤層のみで測定した。測定サンプルの100~170℃における貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を、動的粘弾性測定(DMA)によって測定した。
【0073】
<評価基準>
[100~170℃における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の差]
A:1.0×10Pa以上、1.0×10Pa以下
C:1.0×10Pa未満、または、1.0×10Pa超過
[100℃における貯蔵弾性率G’に対する170℃における貯蔵弾性率G’の比率]
A:50%以上、250%以下
C:50%未満、または、250%超過
【0074】
(耐熱性粘着テープの調製)
[実施例1~13、比較例1~6]
粘着剤を乾燥後の粘着剤層の厚さが20μmとなるように剥離基材としての剥離層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(PET-38-SCA0、厚さ38μm、株式会社フジコー製)上に塗工し、乾燥後、粘着剤層側を耐熱性基材(東洋紡エステルG2L、東洋紡株式会社製)と貼り合わせ、40℃にて7日間養生し、耐熱性粘着テープを得た。得られた耐熱性粘着テープは、次の耐熱性粘着テープの評価に供した。
【0075】
(初期粘着力)
耐熱性粘着テープを幅25mm×長さ100mmに切断し、試験片を調製した。この試験片の剥離基材を剥がし、表面を洗浄したステンレス鋼板(SUS304BA)に、2kgの圧着ローラーを用いて圧着し、常温下にて30分放置した後、初期粘着力を測定した。測定条件は、JIS Z0237に準拠し、下記の条件で行った。
測定装置:テンシロン万能試験機(RTG-1210型、エー・アンド・デイ社製)
剥離速度:300mm/min
剥離距離:50mm
剥離角:180°
【0076】
(加熱後の粘着力)
加熱後の粘着力は、加熱前の粘着力の試験と同様に試験片をステンレス鋼板に圧着した後、180℃にて1時間加熱し測定した。測定条件は、加熱前の粘着力の測定条件と同様にして試験を行った。加熱後の粘着力を下記の評価基準で評価した。
【0077】
<評価基準>
A:加熱後の粘着力が3.0N/25mm以上
B:加熱後の粘着力が2.0N/25mm以上、3.0N/25mm未満
C:加熱後の粘着力が2.0N/25mm未満
加熱後の粘着力がA、Bの範囲であると実用レベルである。Aの範囲であるとより好ましい。
【0078】
(加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力)
加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力は、加熱前の粘着力の試験と同様に試験片をステンレス鋼板に圧着し、180℃にて1時間加熱した後、エネルギー線照射を行い測定した。測定条件は、加熱前の粘着力の測定条件と同様にして試験を行った。エネルギー線照射は、下記の条件でおこなった。加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力を下記の評価基準で評価した。
照射装置:コンベア式UV照射装置(ECS-151U、アイグラフィックス株式会社製)製
ランプ:紫外硬化用高圧水銀ランプ(H015-L312、アイグラフィックス株式会社製)
UV照度:40mW/cm
積算光量:900mJ/cm
【0079】
<評価基準>
A:加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力が1.0N/25mm以下
B:加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力が1.0N/25mm超過、2.0N/25mm以下
C:加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力が2.0N/25mm超過
加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力がA、Bの範囲であると実用レベルである。Aの範囲であるとより好ましい。
【0080】
(糊残り)
加熱後にエネルギー線照射したのちの粘着力を測定後に、ステンレス鋼板を目視にて確認した。糊残りを下記の評価基準で評価した。
【0081】
<評価基準>
A:糊残りが無い
C:糊残りが有る、もしくは粘着剤の固着により破断
【0082】
上記評価した結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
本願発明で規定する範囲に含まれる実施例は、いずれも加熱後における粘着力が実用レベルを満足し、かつ、エネルギー線照射後には粘着力が実用レベルまで低下するものであり、糊残りもなかった。一方、本願発明の範囲外である比較例はいずれも、加熱後における粘着力が不足しているか、あるいはエネルギー線照射後の粘着力が十分に低下しておらず、糊残りが見られるものもあり、実用に耐えないものであった。
【0085】
粘着剤層の100~170℃における貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の差が1.0×10~1.0×10Paであり、かつ、170℃における貯蔵弾性率G’が100℃における貯蔵弾性率G’に対して50~250%にある、実施例1~6及び8~13の耐熱性粘着テープは、そうでない実施例7の耐熱性粘着テープに比べて加熱をしても粘着力の低下が起こらない点で優れていた。
図1
図2