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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240130BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20240130BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240130BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240130BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/08 130
H01F7/02 A
B22F3/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020086925
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021182576
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
(72)【発明者】
【氏名】八木 伸一
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0178771(US,A1)
【文献】特開2019-157294(JP,A)
【文献】特開2020-113634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/08
H01F 7/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末と、水を含有するセルロースナノファイバの集合体とを混合するか、又は磁石粉末と、セルロースナノファイバの集合体と、水とを混合することによりボンド磁石材料を作製するボンド磁石材料作製工程と、
前記ボンド磁石材料を成形型のキャビティに収容し、該キャビティの内面との間に所定の大きさの隙間を有するピストンによって該ボンド磁石材料に第1の圧力を印加することにより、予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、
前記第1の圧力の印加を解除し、所定の時間放置する緩和工程と、
前記緩和工程の後に、前記ピストンによって前記予備成形体に前記第1の圧力以上の第2の圧力を印加することにより成形体を作製する成形体作製工程と
を含むことを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記ボンド磁石材料中の水の含有率が2~28質量%であることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバと前記水を合わせたものに対する該セルロースナノファイバの含有率が5~15質量%とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第2の圧力が前記第1の圧力よりも大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
前記磁石粉末がサマリウム、鉄及び窒素を主な構成元素とするSmFeN系磁石の粉末であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
前記成形体作製工程の後にさらに、前記成形体を乾燥させる乾燥工程を行うことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁性粉末をバインダと混合して固めたものであって、磁性粉末を焼結した焼結磁石よりも、複雑な形状のものを容易に作製することができること、作製時に高温(焼結磁石では1000℃前後)に加熱する必要がないこと、割れや欠けが生じ難いこと等の特長を有する。
【0003】
従来のボンド磁石では多くの場合、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂がバインダとして用いられている。しかし、例えば自動車用モータでは使用時に150~180℃という温度に達するのに対して、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等をバインダとしたボンド磁石はこのような温度での耐熱性を有しないため、自動車用モータの磁石として使用することはできない。そこで特許文献1に記載のボンド磁石では、バインダとしてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いている。PPSは融点が約280℃であるため、PPS樹脂をバインダとするボンド磁石は自動車用モータの使用時における温度域での耐熱性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-212308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PPS樹脂をバインダとするボンド磁石を作製する際には、PPS樹脂を加熱して溶融させた状態で成形を行う。しかし、PPS樹脂をこのような温度に加熱すると、PPS樹脂が徐々に分解し、硫黄原子を含む分子から成る有毒ガスが発生する。そのため、このボンド磁石は、製造時の安全性が低い。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、自動車用モータ等の用途で要求される150~180℃の温度における耐熱性を有するボンド磁石を安全に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係るボンド磁石の製造方法は、
磁石粉末と、水を含有するセルロースナノファイバの集合体とを混合するか、又は磁石粉末と、セルロースナノファイバの集合体と、水とを混合することによりボンド磁石材料を作製するボンド磁石材料作製工程と、
前記ボンド磁石材料を成形型のキャビティに収容し、該キャビティの内面との間に所定の大きさの隙間を有するピストンによって該ボンド磁石材料に第1の圧力を印加することにより、予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、
前記第1の圧力の印加を解除し、所定の時間放置する緩和工程と、
前記緩和工程の後に、前記ピストンによって前記予備成形体に前記第1の圧力以上の第2の圧力を印加することにより成形体を作製する成形体作製工程と
を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る方法により製造されるボンド磁石は、磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合する、セルロースナノファイバ(Cellulose Nano Fiber、以下「CNF」とする。)から成るバインダを含有する。ここでCNFは、セルロース(cellulose)から成る繊維であって、木材パルプ等のセルロースを含む材料を微細に解きほぐすことにより作製することができる。このような方法で製造されたCNFの集合体は、通常は水を含有する状態(以下、水を含有するCNFの集合体を「セルロースナノファイバ-水混合物」と呼び、さらに略して「CNF-水混合物」とも呼ぶ)で販売されているが、水を分離したCNFの乾燥体の開発も進められている。CNFは少なくとも、自動車用モータ等の用途で要求される150~180℃よりも高い200℃以下の温度における耐熱性を有する。
【0009】
本発明に係るボンド磁石の製造方法では、磁石粉末とCNF-水混合物とを混合するか、又は、磁石粉末とCNFの集合体と水とを混合することにより作製したボンド磁石材料を成形型のキャビティに収容し、ピストンによって該ボンド磁石材料に第1の圧力を印加することにより予備成形体を作製する。ここでピストンは、キャビティの内面との間に、所定の大きさの隙間を有する。圧力は、ピストンによって磁石材料に印加する力を、磁石材料に接触するピストンの面積で除した値で定義される。前記所定の大きさは、例えば、磁石粉末に含まれる粒子のほとんど(例えば全粒子の95%以上)の粒径よりも小さい値とすることや、粒径の平均値や中央値等とすることができる。
【0010】
この第1の圧力の印加により、ボンド磁石材料に含まれる水の一部を、前記隙間を通過して成形型の外に排出する。これにより、ボンド磁石材料から水が抜け、CNFが固まり、ボンド磁石材料は予備成形体となる。ただし、ボンド磁石材料の内部の摩擦により、ピストンの近傍は磁石粉末とCNFの密度が他の箇所よりも高い(水が少ない)高密度部分となり、予備成形体は内部的に密度が不均一な状態となっている。なお、予備成形体作製工程において、CNFの一部は水と共に成形型の外に排出されるが、CNFのほとんどは、磁石粉末の粒子に挟まれることにより、排出されることなく予備成形体内に残る。
【0011】
次の緩和工程では、第1の圧力の印加を解除する。この状態で所定時間放置することにより、予備成形体の内部の高密度部分以外の部分の水が高密度部分に浸透し、予備成形体内部の密度が均質化される。
【0012】
なお、この緩和工程の際に、キャビティの内面及びピストンの表面に付着した、CNFや粒径の小さい磁石粉末を含有する付着物を除去することにより、隙間の目詰まりを解消させると良い。
【0013】
その後、前記ピストンによって予備成形体に第2の圧力を印加することにより、予備成形体に含まれる水を、前記隙間を通して成形型の外に排出し、成形体を作製する。これにより、予備成形体に残留する水の量が減少し、水が抜けることでCNFがさらに固まり、予備成形体全体の密度が上がって、成形体となる。これにより、成形体にひびや割れが生じることが抑えられる。また、予備成形体よりも密度が高まるため、磁気特性を高くすることができる。
【0014】
以上のように、本発明に係る方法により、CNFから成るバインダを備え、150~180℃の温度における耐熱性を有するボンド磁石を、有毒ガスが発生することがなく安全に製造することができる。
【0015】
また、近年、廃棄物に含まれるプラスチックが分解されることなく長期間残留することにより環境に悪影響を及ぼすことが問題となっている。従来のボンド磁石ではバインダにフェノール樹脂、エポキシ樹脂、PPS樹脂等のプラスチックが用いられているのに対して、本発明に係る方法により製造されるボンド磁石は、CNFが非プラスチック材料であるため、廃棄時に環境に与える悪影響を抑えることができる。
【0016】
本発明に係るボンド磁石の製造方法において、ボンド磁石材料に占める水の質量の割合が低すぎるとCNFと磁石粉末を混合することが難しくなる一方、高すぎると軟らかくなり過ぎるため成形体の形状を保持することが難しくなる。これらの点を勘案し、本発明では、ボンド磁石材料中の水の含有率は2~28質量%とすることが望ましい。
【0017】
また、水に対するCNFの量が多すぎると、ボンド磁石材料を作製する際に、磁石粉末の粒子間に粘度が高いCNFと水の混合物が形成され、該混合物と磁石粉末を混合することが難しくなる一方、少なすぎると成形体の形状を保持することが難しくなる。そのため、CNFと水を合わせたものに対するCNFの含有率は5~15質量%とすることが望ましい。
【0018】
前記第2の圧力は前記第1の圧力よりも大きい方が望ましい。これにより、より確実に成形体の成形を行うことができると共に、密度をより高くすることができる。
【0019】
前記磁石粉末には、希土類元素("R"とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系磁石(特に、Rとして主にネオジム(Nd)を有するNdFeB系磁石)の粉末、サマリウム(Sm)、鉄及び窒素(N)を主な構成元素とするSmFeN系磁石の粉末、サマリウム及びコバルト(Co)を主な構成元素とするSmCo系磁石の粉末等を用いることができる。特に、SmFeN系磁石の粉末は、RFeB系磁石の粉末よりも水に対する耐食性が高いため、好適に用いることができる。
【0020】
本発明に係るボンド磁石の製造方法において、前記成形体作製工程の後にさらに、前記成形体を乾燥させる乾燥工程を行うことが好ましい。これにより、バインダに残留する水を除去して成形体の密度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、自動車用モータ等の用途で要求される150~180℃の温度よりも高い200℃以下の温度における耐熱性を有するボンド磁石を安全に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るボンド磁石の製造方法の一実施形態((a)~(h))及び製造されるボンド磁石の構成の例((i))を示す概略図。
図2】本実施形態の方法で製造したボンド磁石を上方(a-1)及び側方(a-2)から撮影した写真、並びに、比較例の方法で製造したボンド磁石を上方(b-1)及び側方(b-2)から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1及び図2を用いて、本発明に係るボンド磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0024】
図1(a)~(h)に本実施形態のボンド磁石の製造方法の全体の流れを示し、図1(i)に本実施形態の方法により製造されるボンド磁石20の一例の構成を示す。
【0025】
本実施形態のボンド磁石の製造方法では、まず、以下に述べるように磁石粉末11とCNF121と水122とを混合することによってボンド磁石材料13を作製する(図1(a)~(c):ボンド磁石材料作製工程)。ここでは、CNF121と水122が予め混合された市販のセルロースナノファイバ-水混合物(CNF-水混合物)12(同(b))を用いる例を示すが、CNF121と水122を両者が分離した状態で磁石粉末11と混合してもよい。
【0026】
磁石粉末11(図1(a))には、RFeB系磁石の粉末、SmFeN系磁石の粉末、SmCo系磁石の粉末等を用いることができる。その中でSmFeN系磁石の粉末は、酸化し難く、且つFeよりも高価なCoを使用する必要がないという点で優れている。磁石粉末11の作製方法は、従来のボンド磁石を製造する際に用いられている方法と同じであるため、説明を省略する。
【0027】
CNF-水混合物12(図1(b))は、株式会社スギノマシンにより「BiNFi-s」(登録商標)との商品名で販売されている。CNF-水混合物12におけるCNF121の含有率(CNF-水混合物12の質量に占めるCNFの割合)は、5~25質量%の範囲内とすることが望ましい。この含有率が25質量%を超えると、CNF-水混合物12の粘度が高くなり過ぎ、磁石粉末11とCNF-水混合物12を混合することが難しくなる。また、この含有率が5質量%を下回ると、CNF-水混合物12の粘度が低くなり過ぎ、成形し難くなる。例えば、上記「BiNFi-s」では規格品として、CNFの含有率が5質量%及び10質量%のものが販売されており、それらを本実施形態のCNF-水混合物12として用いることができる。また、規格品を加熱、凍結又は遠心濃縮して水の一部を分離することにより、これら規格品よりもCNFの含有率が高いCNF-水混合物12を得ることもできる。
【0028】
以上のように用意した、磁石粉末11とCNF-水混合物12とを混合する(図1(b))ことにより、ボンド磁石材料13が得られる(同(c))。その際、ボンド磁石材料13の質量に占める水122の質量の割合(ボンド磁石材料13の含水率)が2~28質量%の範囲内となるように、磁石粉末11とCNF-水混合物12の質量を調整することが望ましい。この割合が低すぎると磁石粉末11とCNF121を混合することが難しくなる一方、高すぎると成形が難しくなる。
【0029】
次に、ボンド磁石材料13をモールド(成形型)141に充填したうえで、プレス機(図示せず)を用いてピストン(パンチ)142によりボンド磁石材料13に第1の圧力を印加する(図1(d))ことにより、予備成形体15を作製する(予備成形体作製工程)。その際、モールド141のキャビティとピストン142の間に、所定の大きさの隙間143を設けておく。隙間143の大きさは、例えば、磁石粉末に含まれる粒子の95%以上の粒径よりも小さい値とすることや、粒径の平均値や中央値等とすることができる。第1の圧力は、例えば1.0~2.2GPa(約10~22tonf/cm2)とすることができるが、これらの範囲には限定されない。
【0030】
第1の圧力の印加により、ボンド磁石材料13に含まれる水122の一部が隙間143を通過してモールド141の外に排出され、予備成形体15が得られる。その際、隙間143が上記のように設定されているため、磁石粉末11の粒子は、粒径が小さい一部の粒子を除いて、隙間143を通過してモールド141の外に漏れ出すことはない。また、CNF121は、磁石粉末11の粒子に挟まれることで、前記隙間からモールド141の外に漏れ出すことはほとんどない。予備成形体15の内部は、ピストン142の近傍では他の箇所よりも水122が少なく磁石粉末11及びCNF121の密度が高い高密度部分が形成され、密度が不均一な状態となっている。
【0031】
続いて、第1の圧力を解除し、所定時間(例えば数秒間~数分間)放置する(図1(e):緩和工程)。この第1の圧力の解除後に予備成形体15をモールド141のキャビティから取り出す必要はない。第1の圧力の解除により、予備成形体15の内部では、高密度部分以外の部分の水が高密度部分に浸透し、密度が均質化される。但し、第1の圧力を解除した瞬間に、予備成形体15にはひび151や割れが生じる可能性がある。これは、液体の水は一般に圧縮され難い(圧縮率が低い)ため、本実施形態のように1.0~2.2GPaという高い圧力を印加した場合には圧粉(磁石粉末11及びCNF121)と水122との間に膨張量の差が発生することによる。
【0032】
なお、緩和工程の間に、モールド141のキャビティの内面やピストン142の表面に付着している付着物を除去することが好ましい。この付着物には、ボンド磁石材料13から排出された水や、磁石粉末11の粒子のうち粒径の小さいもの、あるいはCNF121の一部が含まれている。このような付着物を除去することにより、隙間143の目詰まりを防ぐことができる。
【0033】
次に、プレス機(図示せず)を用いてピストン142により、モールド141のキャビティ内の予備成形体15に第2の圧力を印加する(図1(f))ことにより、成形体16(同(g))を作製する(成形体作製工程)。これにより、予備成形体15に含まれる水が隙間143を通してモールド141の外に排出され、全体の密度が高くなって成形体16となる。このように密度が高くなることにより、予備成形体15よりも磁気特性を高くすることができる。また、予備成形時にひびや割れが発生した予備成形体15に第2の圧力を印加すると、予備成形体15内で均一化された水122がさらに抜けてCNF121が固まると共に、予備成形体15に発生したひびや割れが修復された成形体16が得られる。
【0034】
得られた成形体16には、なおもボンド磁石材料13に含まれていた水の一部が成形体16の形状に影響しない程度に残留している。そこで、本実施形態ではさらに、成形体16から水122を蒸発させる工程を行う(図1(h))。その際、成形体16を常温に維持したまま放置してもよいし、成形体16を加熱してもよい。成形体16を加熱する場合には、CNF121に熱による影響を及ぼさないように、加熱温度を200℃以下とすることが望ましい。また、加熱の有無に依らず、成形体16を真空中(減圧下)又は不活性ガス中に置くことによって徐々に水122を蒸発させてもよい。
【0035】
以上の操作により、ボンド磁石20が得られる(図1(i))。ボンド磁石20は、磁石粉末の粒子21と、該磁石粉末の粒子21同士を結合するCNF製のバインダ22とを有する。
【0036】
次に、本実施形態の方法によりボンド磁石を製造した実験の結果を示す。この実験では、磁石粉末11にはSmFeN系磁石(実施例1~7、9、10)又はNdFeB系磁石(実施例8)の粉末を用いた。SmFeN系磁石の磁石粉末11の作製方法は以下の通りである。まず、Sm:19.30質量%、Zr:1.65質量%、Co:3.95質量%、Al:0.30質量%、N:3.29質量%、Fe:残部となるようにNを除く各元素を含有する合金を溶解し、得られた溶湯を、単ロール超急冷装置を用いてロール上に落下させて急冷することによりリボン状のフレーク粉を作製した。このフレーク粉をピンミルで粉砕し、目開き150μmの篩を用いて分級する。その後、窒素原子を有する分子を含むガス(この例ではアンモニアと水素の混合ガス)中で加熱することで窒化させることにより、SmFeN系磁石の磁石粉末11が得られた。NdFeB系磁石の磁石粉末11の作製方法は、原料の合金の組成が異なる(Nd:24.8質量%、Pr:0.84質量%、B:0.92質量%、Fe:残部)点と、窒素原子を有する分子を含むガス中での加熱を行わない点を除いて、SmFeN系磁石の磁石粉末11の作製方法と同様である。CNF-水混合物12中のCNFの含有率は10質量%とした。ボンド磁石材料13における含水率は2.0~23.2質量%の範囲内とした。これらのボンド磁石材料13中の磁石粉末11の含有率は74.2(含水率23.2質量%の場合)~97.8(同2.0質量%の場合)質量%となる。
【0037】
実施例1~8では、下掲の表1に記載の種々の組成のボンド磁石材料13に対して、同表に記載の大きさを有する第1の圧力及び第2の圧力を印加した。実施例9及び10では、下掲の表2に記載した同じ組成を有するボンド磁石材料13に対して、2.0GPaの圧力を同表に記載の回数だけ印加した。そのうち1回目の圧力が第1の圧力、2回目の圧力が第2の圧力に相当し、3回目以降の圧力は付加的に印加した圧力である。なお、表2には併せて、実施例9及び10と同じ同じ組成を有するボンド磁石材料13に対して2.0GPaの圧力を1回のみ印加した比較例4(後述)、及び2.0GPaの圧力を2回印加した実施例3の実験結果を、表1と重複して記載した。
【0038】
併せて、比較例1~4として、下掲の表1に記載の、実施例1及び2、又は実施例3と同じ組成を有するボンド磁石材料13に対して、表1に記載の圧力を1回のみ印加することによりボンド磁石を作製した。
【0039】
これら実施例及び比較例により得られたボンド磁石につき、成形状態、ボンド磁石の密度、及び室温での磁気特性を、前述した材料及び圧力の条件と共に表1及び表2に示す。ここで成形状態は、目視で確認して割れ及び/又はひびが生じたものを「×」、それらが生じなかったものを「○」とした。磁気特性は、割れやひびが生じなかった試料を対象として、残留磁束密度Br、保磁力HcJ、最大エネルギー積(BH)maxを測定した。
【表1】
【表2】
【0040】
これらの実験結果によれば、比較例1及び2ではひびや割れが発生することなくボンド磁石が得られるものの、印加する圧力が小さいため、実施例よりも乾燥後の密度が小さくなり、それによって残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが低くなってしまう。また、比較例3及び4では、得られたボンド磁石にひびや割れが発生してしまう。図2(b)に、比較例4で製造したボンド磁石を上面から撮影した写真(b-1)、及び側面から撮影した写真(b-2)を示す。この写真より、比較例4では、ボンド磁石にひびが生じていることがわかる。
【0041】
それに対して、比較例1~4と同種(SmFeN系)の磁石粉末11を用いて製造した実施例1~7、9、10はいずれも、比較例1及び2よりも残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが高く、且つひびや割れが発生することなくボンド磁石が得られた。図2(a)に、実施例2で作製したボンド磁石を上面から撮影した写真(a-1)、及び側面から撮影した写真(a-2)を示す。実施例2は、比較例4においてボンド磁石材料13に印加した圧力(比較例4の圧力)よりも低い圧力を第1の圧力として印加した後に、比較例4の圧力と同じ圧力を第2の圧力として印加したものである。図2(a)の写真より、実施例2ではひびや割れが生じることなくボンド磁石が得られていることがわかる。
【0042】
実施例3、9及び10の結果より、圧力を印加する回数を多くするほど、乾燥後の密度が高くなり、それに伴って残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが高くなることがわかる。
【0043】
実施例8では磁石粉末11にSmFeN系ではなくNdFeB系の粉末を用い、実施例1~7、9、10と同様にひびや割れが生じることなくボンド磁石が得られている。但し、磁気特性は、実施例8よりも、SmFeN系の磁石粉末11を用いた実施例1~7、9、10の方が高い。
【符号の説明】
【0044】
11…磁石粉末
12…CNF(セルロースナノファイバ)-水混合物
121…CNF(セルロースナノファイバ)
122…水
13…ボンド磁石材料
141…モールド(成形型)
142…ピストン(パンチ)
143…モールドのキャビティとピストンの隙間
15…予備成形体
16…成形体
20…ボンド磁石
21…磁石粉末の粒子
22…バインダ
図1
図2