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特許7428093繊維樹脂成形体の製造方法、及び乗物用シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】繊維樹脂成形体の製造方法、及び乗物用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/48 20060101AFI20240130BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240130BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240130BHJP
   B29C 39/26 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C45/14
B29C45/26
B29C39/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020119674
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016760
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 茂則
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205973(JP,A)
【文献】特開2004-001537(JP,A)
【文献】特開2009-113548(JP,A)
【文献】特開2016-060113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むシート材に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体の製造方法であって、
上型と前記上型に対向する位置に配された下型とからなる一対の成形型のうち、前記下型に前記シート材を載置する載置工程と、
前記一対の成形型を型閉じしてなる成形空間に樹脂を射出して前記シート材に樹脂を含浸させる射出工程と、を含み、
前記シート材は、その大部分をなす本体部と、前記本体部の側方に配されて当該シート材の端部を含む側部とを備え、
前記載置工程では、前記下型に設けられた凹部に前記端部を差し込んで、前記側部のうち前記端部に隣接した内側部分曲げた状態の曲部を形成し、
前記射出工程では、型閉じした前記一対の成形型において、前記シート材の前記曲部に対向する成形面間の距離前記シート材の板厚よりも大きいものとされていることを特徴とする繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記載置工程では、前記上型と前記下型とが互いに当接するパーティングラインよりも前記下型側に窪んだ前記凹部に対し、前記シート材の端部を差し込んで前記内側部分を曲げた状態にすることを特徴とする請求項1に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記載置工程では、前記下型に設けられ、前記凹部の側方に配された凸部であって、前記上型と前記下型とが互いに当接するパーティングラインよりも前記上型側に突出した当該凸部に沿って前記シート材の前記内側部分を曲げた状態にすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された繊維樹脂成形体を用いる乗物用シートの製造方法であって、
前記シート材の前記端部に樹脂が含浸してなる成形体端部に対し、乗物用シートを構成する他部材を引っ掛けて取り付ける取付工程を含むことを特徴とする乗物用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維樹脂成形体の製造方法、及び乗物用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維樹脂成形体の製造方法として、特許文献1に記載のものが知られている。具体的には、特許文献1では、型開き状態の固定金型の成形面上に、コア材とコア材の表裏面に重ねられる一対のシート状の補強繊維基材(強化繊維基材)とからなる積層体が載せられるセット工程と、型締め状態の成形型のキャビティに樹脂を吐出する樹脂注入工程と、を含む繊維樹脂成形体(繊維強化樹脂成形品)の製造方法が開示されている。キャビティに吐出された樹脂は、強化繊維基材内を面方向に広がりつつ移動し、積層体に十分含浸する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-084786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の製造方法では、積層体の大きさにバラつきがある場合、キャビティ(成形面上)にセットされた積層体の端部の位置が一定の位置になりにくい。そのため、例えば、予め積層体の端部が所望の位置よりも長くなるようにし、余分な部分を切断する等の工程を行うことにより当該端部の位置を調整する(端末処理を行う)ことが考えられるが、その場合、手間とコストがかかる。また、予め積層体の端部が所望の位置よりも短くなるようにし、足りない部分を射出される樹脂によって補うことで端末処理を行うことも考えられるが、その場合、得られる繊維樹脂成形体の端部に、樹脂のみからなる部分が形成されるため、剛性及び強度が低下し例えば割れやすくなる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、端末処理を行うことなく、十分な剛性を備えた端部を所望の形に成形可能な繊維樹脂成形体の製造方法、及び乗物用シートの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維を含むシート材に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体の製造方法であって、上型と前記上型に対向する位置に配された下型とからなる一対の成形型のうち、前記下型に前記シート材を載置する載置工程と、前記一対の成形型を型閉じしてなる成形空間に樹脂を射出して前記シート材に樹脂を含浸させる射出工程と、を含み、前記載置工程では、前記下型に設けられた凹部に前記シート材の端部を差し込んで前記端部よりも内側部分を曲げた状態にし、前記射出工程では、型閉じした前記一対の成形型において、前記シート材の前記内側部分に対向する成形面間の距離を前記シート材の板厚よりも大きいものとされていることに特徴を有する。
【0007】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、シート材の端部を凹部に差し込んだ状態で、シート材に樹脂を含浸させることができるので、製造される繊維樹脂成形体の端部までシート材を詰めることができる。また、射出工程では、型閉じした一対の成形型において、シート材の内側部分に対向する成形面との間に隙間が設けられる。すると、シート材の大きさにバラつきがあったとしても、曲がった状態のシート材の内側部分が、成形空間において下型側又は上型側に移動することで、そのバラつきを当該内側部分で緩和してシート材の端部の位置を一定の位置に保つことができる。
【0008】
また、前記載置工程では、前記上型と前記下型とが互いに当接するパーティングラインよりも前記下型側に窪んだ前記凹部に対し、前記シート材の端部を差し込んで前記内側部分を曲げた状態にすることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、シート材の端部を下型の凹部に差し込みやすくなり、当該端部の内側部分を曲げた状態で維持しやすくなるので、シート材の大きさのバラつきをより緩和しやすくなる。
【0009】
また、前記載置工程では、前記下型に設けられ、前記凹部の側方に配された凸部であって、前記上型と前記下型とが互いに当接するパーティングラインよりも前記上型側に突出した当該凸部に沿って前記シート材の前記内側部分を曲げた状態にすることとすることができる。このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、パーティングラインよりも上型側に突出した凸部に沿ってシート材の端部の内側部分を曲げた状態にすることで、シート材の大きさのバラつきをさらに緩和しやすくなる。
【0010】
また、上記の製造方法により製造された繊維樹脂成形体を用いる乗物用シートの製造方法であって、前記シート材の前記端部に樹脂が含浸してなる成形体端部に対し、乗物用シートを構成する他部材を引っ掛けて取り付ける取付工程を含むこととすることができる。
【0011】
乗物用シートでは、弾性を有するパッドを覆うカバー部材等の他部材が繊維樹脂成形体に取り付けられることがある。従って、繊維樹脂成形体において、他部材が取り付けられる部分は、比較的高い寸法精度が求められる。上記のような乗物用シートの製造方法によると、繊維樹脂成形体において、一定の位置に保たれたシート材の端部に樹脂が含浸してなる成形体端部に対し、他部材を引っ掛けて取り付けるので、シート材の大きさにバラつきがあったとしても、好適に乗物用シートを製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、端末処理を行うことなく、十分な剛性及び強度を備えた端部を所望の形に成形できる繊維樹脂成形体の製造方法、及び乗物用シートの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る繊維樹脂成形体の断面を示した図
図2】乗物用シートに取り付けた状態における繊維樹脂成形体の端部側の断面を示す拡大図
図3】型開きした一対の成形型の間に積層体を配した図
図4】下型に積層体を載置する態様を示す図
図5】下型に載置した積層体の端部側を拡大した図
図6】一対の成形型を型閉じした状態を示す図
図7】一対の成形型を型閉じした状態において、積層体の端部側を拡大した図
図8】成形空間に射出された樹脂が積層体の端部側に含浸した態様を示す図
図9】積層体の長さが比較的短い場合において、その端部側を拡大した図
図10】変形例1に係る積層体の端部側に樹脂が含浸した態様を示す図
図11】変形例2に係る積層体の端部側に樹脂が含浸した態様を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1から図8によって説明する。図1には、自動車(乗物)の車室に設けられる乗物用シートを構成する繊維樹脂成形体1の断面が示されている。繊維樹脂成形体1は、板状の基材であり、軽量、高剛性である。繊維樹脂成形体1は、コア材11と、コア材11の表裏面にそれぞれ重ねられるシート状の繊維材12,12と、からなる積層体(シート材)10に、熱硬化性樹脂(以下、単に樹脂と呼ぶ)が含浸して硬化したものとされる。樹脂は、繊維材12の内部を含浸するのみならず、繊維材12の表裏面を覆うように形成される。従って、樹脂は、積層体10の全体を包み込むように形成されている。これにより、繊維樹脂成形体1は、その表裏面に平滑性が付与されている。尚、図1に示す繊維樹脂成形体1おいて、上側の面を表面とし、下側の面を裏面とする。
【0015】
コア材11は、独立気泡構造を有する合成樹脂製(発泡樹脂製)であり、繊維材12よりも板厚の大きな板状(層状)をなしている。コア材11の素材としては、アクリル樹脂等の合成樹脂を採用することができる。コア材11は、1つの層(単層)からなるものとするが、これに限られず、複数のコア材11が積層された多層構造からなるものとしてもよい。繊維材12の素材としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の織物、その他の織布、又はフェルト材等の不織布を採用することができる。樹脂としては、例えば、主剤と硬化剤とからなる二液混合型のエポキシ樹脂を採用することができる。
【0016】
積層体10は、その大部分をなす本体部10Aと、本体部10Aの両側に配された両側部10B,10Bと、を備える。本体部10Aでは、コア材11と繊維材12,12とが重なってサンドイッチ構造をなしている。両側部10Bでは、繊維材12,12のみが重なっている。図2に示すように、両側部10Bは、本体部10Aから表面側に立ち上がった立上部10Cと、立上部10CからU字状に曲がった曲部(内側部分)10Dと、積層体10の端をなす部分である端部10Eと、を備える。曲部10Dは、立上部10Cと端部10Eとの間に配された部分であり、端部10Eよりも内側(本体部10A側)の部分であるといえる。曲部10Dや端部10Eの板厚は、本体部10Aの板厚よりも小さい。曲部10Dの内周側(裏面側)と端部10Eの外側(表面側)とには、樹脂のみからなる樹脂部10DR,10ERが形成されている。
【0017】
繊維樹脂成形体1の表面側には、ウレタンフォーム等の素材からなる弾性体であるパッド2と、繊維樹脂成形体1及びパッド2を覆う布製のカバー部材3と、が取り付けられており、これら繊維樹脂成形体1、パッド2、及びカバー部材3が、乗物用シート100を構成している。カバー部材3は、その外側の縁をなす縁部3Eが、積層体10の端部10Eに裏面側から引っ掛けられることにより、繊維樹脂成形体1に取り付けられている。尚、図2以外の図では、パッド2及びカバー部材3は省略する。
【0018】
続いて、図4に示すように、繊維樹脂成形体1を製造する製造装置20について説明する。製造装置20は、上型30と上型30に対向するように下方に配された下型40とからなる一対の成形型21と、上型30に設けられ、後述する成形空間に樹脂を射出する射出装置22と、を備える。上型30は、下型40に載置された積層体10の表面側に対向する面である成形面30Aを備える。上型30は、油圧シリンダ等の駆動により、下型40に対し近接又は離間することが可能な可動型とされる。上型30の側方部分には、一対の成形型21を型閉じした状態において、樹脂が成形空間から外側へ漏れてしまうことを防ぐシール部33が設けられている。
【0019】
下型40は、積層体10が載置される面であって積層体10の裏面側に対向する面である成形面40Aを備える。図3及び図4では、上型30を下型40から離間させて一対の成形型21を型開きした状態を示している。図6では、上型30を下型40に近接させて一対の成形型21を型閉じした状態を示している。型閉じした一対の成形型21において、上型30の成形面30Aと、下型40の成形面40Aとの間の空間が、成形空間とされる。また、一対の成形型21を型閉じしたときに、上型30と下型40とが互いに当接する位置を、パーティングラインPLとする。
【0020】
図4に示すように、下型40には、パーティングラインPLよりも下方(下型40側)に窪んだ凹部41と、凹部41の側方(内側)に配され、上方(上型30側)に突出した凸部42と、が設けられている。凹部41及び凸部42は、下型40において積層体10の両側部10Bが載置される部分であって、積層体10の本体部10Aが載置される部分43よりも上方に位置している。凹部41は、積層体10の両側部10Bの端部10Eが挿入され得る微細な幅(端部10Eを先端から挿入し得る幅であって、端部10Eの厚みよりも若干大きな幅)の開口幅とされている。図7に示すように、型閉じした一対の成形型21において、積層体10の曲部10Dに対向する成形面間の距離(クリアランス)L1は、積層体10の両側部10Bの板厚(例えば、曲部10Dの板厚L2)よりも大きい。また、当該距離L1は、積層体10の立上部10Cに対向する成形面間の距離L3や、曲部10Dと端部10Eとの間の部分である中間部10Fに対向する成形面間の距離L4よりも大きい。
【0021】
続いて、製造装置20による繊維樹脂成形体1の製造方法を説明する。繊維樹脂成形体1の製造方法は、大別すると、下型40に積層体10を載置する載置工程と、一対の成形型21を型閉じしてなる成形空間に樹脂を射出して積層体10に樹脂を含浸させる射出工程と、を含む。まず、図3に示すように、型開きした一対の成形型21において、上型30と下型40との間に、コア材11とコア材11の表裏面にそれぞれ重ねられた一対の繊維材12,12とからなる積層体10を配する。積層体10は、予め下型40の成形面40Aの形に倣った形に成形(プリフォーミング)されている。一対の繊維材12,12には、予め粉末状の接着剤(エポキシ樹脂)等が塗布されており、当該接着剤が加熱されることで繊維材12,12とコア材11、及び繊維材12,12同士が接着する。これにより、載置工程や射出工程においてコア材11と一対の繊維材12,12とがずれてしまうことを抑制することができる。尚、一対の繊維材12,12の両側の部分は、コア材11を介さずに互いに接着することで、積層体10の両側部10Bを構成する。
【0022】
続いて、図4及び図5に示すように、載置工程では、下型40の成形面40Aに積層体10を載置する。このとき、積層体10の両側部10Bを、下型40の凸部42と凹部41に倣う形となるように押圧して嵌め込む。具体的には、両側部10Bのうち、立上部10Cを凸部42の内側面42Cに当接させつつ、曲部10Dを凸部42に沿ってU字状に曲げた状態にし、端部10Eを凸部42の外側面42Eに押し当てて凹部41に差し込む。
【0023】
次に、射出工程では、図6に示すように、上型30を下型40に近接させ、一対の成形型21を閉じた状態にする。積層体10は、上型30の成形面30Aと下型40の成形面40Aとの間の成形空間に収容される。図7に示すように、積層体10の両側部10Bは、上型30及び下型40に当接しつつ、その端部10Eが凹部41に差し込まれた状態で保持される。積層体10の曲部10Dは、当該曲部10Dに対向する成形面間の距離L1が、当該曲部10Dの板厚L2、立上部10Cに対向する成形面間の距離L3、及び中間部10Fに対向する成形面間の距離L4よりも大きくされてなる成形空間において、U字状に曲げられる。尚、本実施形態では、下型40に載置した積層体10が所望の長さよりも長い場合を例示している。このとき、曲部10Dと凸部42との間に隙間が生じ、曲部10Dがわずかに浮いた状態となる。一方、図9に示すように、仮に下型40に載置した積層体10が所望の長さよりも短い場合は、曲部10Dが凸部42に当接し得る。その場合、曲部10Dと上型30との間に隙間が生じることとなる。なお、下型40に載置した積層体10が、図7に示すものよりも短く、図9に示すものよりも長い場合は、曲部10Dと上型30及び下側40の双方に隙間が生じることとなる。
【0024】
一対の成形型21を閉じた状態にしたまま、射出装置22(図6参照)から、主剤と硬化剤とからなる二液混合型の樹脂(エポキシ樹脂)を成形空間に射出する。当該樹脂は、繊維材12の内部を含浸したり、繊維材12の表裏面に沿って流動したりすることで、成形空間の隅々まで充満する。図8では、成形空間に充満した樹脂をドットで示す。積層体10の両側部10Bにおいては、立上部10C、曲部10D、中間部10F及び端部10Eを樹脂が含浸する。曲部10D、端部10Eを含浸する樹脂は、その近傍に生じた隙間に向かって滲み出すことで、その隙間を埋める形で充満する。そして、曲部10Dの内周側(凸部42側)や、端部10Eの外側には、樹脂のみからなる樹脂部10DR,10ERが形成される。尚、仮に積層体10が所望の長さよりも短い場合は、曲部10Dの外周側(上型30側)に樹脂のみからなる樹脂部が形成されていてもよい。
【0025】
そして、一対の成形型21を保圧し昇温することで、成形空間を高圧で加熱し、樹脂を硬化させる。樹脂の硬化後、上型30を下型40から離間させて、一対の成形型21を開いた状態にすることで、図1に示す繊維樹脂成形体1を得る。図2に示すように、取付工程では、繊維樹脂成形体1に対し、表面側からパッド2とカバー部材3とを取り付けることで、乗物用シート100を得る。カバー部材3は、その外側の縁をなす縁部3Eが、積層体10の端部10Eに樹脂が含浸してなる成形体端部1Eに対し、裏面側から引っ掛かることにより、繊維樹脂成形体1に取り付けられる。
【0026】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、繊維を含む積層体10に対して、樹脂を含浸させてなる繊維樹脂成形体1の製造方法であって、上型30と上型30に対向する位置に配された下型40とからなる一対の成形型21のうち、下型40に積層体10を載置する載置工程と、一対の成形型21を型閉じしてなる成形空間に樹脂を射出して積層体10に樹脂を含浸させる射出工程と、を含み、載置工程では、下型40に設けられた凹部41に積層体10の端部10Eを差し込んで端部10Eよりも内側部分である曲部10Dを曲げた状態にし、射出工程では、型閉じした一対の成形型21において、積層体10の内側部分である曲部10Dに対向する成形面間の距離L1を積層体10の板厚L2よりも大きいものとされている、繊維樹脂成形体1の製造方法を示した。
【0027】
このような繊維樹脂成形体1の製造方法によると、積層体10の端部10Eを凹部41に差し込んだ状態で、積層体10に樹脂を含浸させることができるので、製造される繊維樹脂成形体1の成形体端部1Eまで積層体10を詰めることができる。また、射出工程では、型閉じした一対の成形型21において、積層体10の曲部10Dに対向する成形面との間に隙間が設けられる。すると、積層体10の大きさにバラつきがあったとしても、曲がった状態の積層体10の曲部10Dが、成形空間において上型30側(又は下型40側)に移動することで、そのバラつきを当該曲部10Dで緩和して積層体10の端部10Eの位置を一定の位置に保つことができる。
【0028】
また、載置工程では、上型30と下型40とが互いに当接するパーティングラインPLよりも下型40側に窪んだ凹部41に対し、積層体10の端部10Eを差し込んで曲部10Dを曲げた状態にする。このような繊維樹脂成形体1の製造方法によると、積層体10の端部10Eを下型40の凹部41に差し込みやすくなり、当該端部10Eの曲部10Dを曲げた状態として維持しやすくなるので、積層体10の大きさのバラつきをより緩和しやすくなる。
【0029】
また、載置工程では、下型40に設けられ、凹部41の側方に配された凸部42であって、上型30と下型40とが互いに当接するパーティングラインPLよりも上型30側に突出した当該凸部42に沿って積層体10の曲部10Dを曲げた状態にすることとする。このような繊維樹脂成形体1の製造方法によると、パーティングラインPLよりも上型30側に突出した凸部42に沿って積層体10の端部10Eの曲部10Dを曲げた状態にすることで、積層体10の大きさのバラつきをさらに緩和しやすくなる。
【0030】
また、本実施形態では、上記製造方法により製造された繊維樹脂成形体1を用いる乗物用シート100の製造方法が、積層体10の端部10Eに樹脂が含浸してなる成形体端部1Eに対し、乗物用シート100を構成するカバー部材3を引っ掛けて取り付ける取付工程を含むことを示した。乗物用シート100では、弾性を有するパッド2を覆うカバー部材3等の他部材が繊維樹脂成形体1に取り付けられる。従って、繊維樹脂成形体1において、カバー部材3が取り付けられる部分は、比較的高い寸法精度が求められる。上記のような乗物用シート100の製造方法によると、繊維樹脂成形体1において、一定の位置に保たれた積層体10の端部10Eに樹脂が含浸してなる成形体端部1Eに対し、カバー部材3を引っ掛けて取り付けるので、積層体10の大きさにバラつきがあったとしても、好適に乗物用シート100を製造することができる。
【0031】
<変形例1>
次に、本発明の変形例1を図10によって説明する。本変形例では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造、工程、作用及び効果について重複する説明は省略する。射出工程では、上型130を下型140に近接させ、一対の成形型121を閉じた状態にする。コア材と繊維材112,112とからなる積層体110は、上型130の成形面と下型140の成形面との間の成形空間に収容される。積層体110の両側部110Bは、上型130及び下型140に当接しつつ、その端部10Eが凹部41に差し込まれた状態で保持される。積層体110の曲部110Dは、当該曲部110Dに対向する成形面間の距離が、当該曲部110Dの板厚、及び当該曲部110Dよりも本体部10A側(図6参照)の部分110Cに対向する成形面間の距離よりも大きくされてなる成形空間において、直角状に曲げられる。尚、曲部110Dに対向する下型40の成形面を構成する凸部142は、パーティングラインPLよりも上方(上型130側)に配されている。
【0032】
一対の成形型121を閉じた状態にしたまま、射出装置から、主剤と硬化剤とからなる二液混合型の樹脂を成形空間に射出する。当該樹脂は、繊維材112の内部を含浸したり、繊維材112の表裏面に沿って流動したりすることで、成形空間の隅々まで充満する。曲部110Dの内周側(凸部142側)や、端部10Eの外側には、樹脂のみからなる樹脂部110DR,10ERが形成される。
【0033】
<変形例2>
次に、本発明の変形例2を図11によって説明する。本変形例では、上記実施形態と構造、工程、作用及び効果について重複する説明は省略する。射出工程では、上型230を下型240に近接させ、一対の成形型221を閉じた状態にする。コア材と繊維材212,212とからなる積層体210は、上型230の成形面と下型240の成形面との間の成形空間に収容される。積層体210の両側部210Bは、上型230及び下型240に当接しつつ、その端部210Eが凹部241に差し込まれた状態で保持される。積層体110の曲部210D1,210D2は、当該曲部210D1,210D2に対向する成形面間の距離が、当該曲部210D1,210D2の板厚よりも大きくされてなる成形空間において、クランク状に曲げられる。具体的には、上型230には、下型240側に突出した上型凸部232が設けられており、下型240には、上型凸部232よりも内側に配され、上型230に突出した下型凸部242が設けられている。積層体210は、その端部210Eよりも内側部分の第2曲部210D2が上型凸部242に沿って曲げられ、第2曲部210D2よりも内側部分の第1曲部210D1が下型凸部242に沿って曲げられる。
【0034】
一対の成形型221を閉じた状態にしたまま、射出装置から、主剤と硬化剤とからなる二液混合型の樹脂を成形空間に射出する。当該樹脂は、繊維材212の内部を含浸したり、繊維材212の表裏面に沿って流動したりすることで、成形空間の隅々まで充満する。第1曲部210D1の内周側(下型凸部242側)や、第2曲部210D2の内周側(上型凸部242側)には、樹脂のみからなる樹脂部210DR1,210DR2が形成される。
【0035】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0036】
(1)上記実施形態では、曲部の内周側に樹脂のみからなる樹脂部が形成されているものとしたが、これに限られない。例えば、曲部の内周側及び外周側に樹脂のみからなる樹脂部が形成されていなくてもよい。曲部と下型との間の隙間や、曲部と上型との間の隙間には、樹脂が完全に充満されていなくてもよい。
【0037】
(2)上記実施形態では、繊維材は、コア材の表裏面に重ねられるものとしたが、これに限られない。例えば、繊維材は、コア材の表面又は裏面のいずれか一方重ねられるものとしてもよい。また、繊維材は、コア材に巻き付けられていてもよい。
【0038】
(3)上記実施形態で例示した乗物用シートの製造方法は、車両用に提供されるもの限られず、種々の乗物において提供されるものであってもよい。例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物についても上記乗物用シートの製造方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…繊維樹脂成形体、3…カバー部材(他部材)、10,110,210…積層体(シート材)、10D,110D,210D1,210D2…曲部(内側部分)、10E,210E…端部、21,121,221…成形型、30,130,230…上型、40,140,240…下型、41,241…凹部、42,242…凸部、100…乗物用シート、PL…パーティングライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11