(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】インダクタ部品及びこれを用いたDCDCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240130BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240130BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20240130BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H02M3/155 Y
H01F17/04 A
H01F37/00 A
H01F37/00 C
H01F27/00 R
(21)【出願番号】P 2020129856
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】黒田 朋史
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-212806(JP,A)
【文献】特開2016-46390(JP,A)
【文献】特開2013-243330(JP,A)
【文献】特開2014-168038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/307686(US,A1)
【文献】国際公開第2019/168158(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/168159(WO,A1)
【文献】特開2018-49921(JP,A)
【文献】特表2020-511110(JP,A)
【文献】特開2017-195684(JP,A)
【文献】国際公開第2007/88914(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/55841(WO,A1)
【文献】特開2017-199766(JP,A)
【文献】特開2006-324459(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123410(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H02M 3/00- 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する第1及び2の方向に延在する複数の磁性薄帯が前記第1及び第2の方向と直交する第3の方向に積層されてなる磁性コアと、
前記磁性コアを前記第3の方向に貫通する第1及び第2の貫通孔に挿入された第1のコイル導体と、
前記磁性コアを前記第3の方向に貫通する第3及び第4の貫通孔に挿入された第2のコイル導体と、を備え、
前記第1及び第2の貫通孔は、前記磁性コアの前記第2の方向における中心位置を前記第1の方向に延在する第1の中心線を対称軸として互いに線対称であり、
前記第3及び第4の貫通孔は、前記第1の中心線を対称軸として互いに線対称であり、
前記第1及び第3の貫通孔は、前記磁性コアの前記第1の方向における中心位置を前記第2の方向に延在する第2の中心線を対称軸として互いに線対称であり、
前記第2及び第4の貫通孔は、前記第2の中心線を対称軸として互いに線対称であり、
前記複数の磁性薄帯のそれぞれは、網目状のクラックによって複数の小片に分割されており、且つ、前記第1乃至第4の貫通孔の周囲を前記クラックよりも大きなスリットによって周方向に分断されることなく前記複数の小片によって取り囲んでいることを特徴とするインダクタ部品。
【請求項2】
前記第1の貫通孔の中心と前記第3の貫通孔の中心の前記第1の方向における距離をbとし、前記磁性コアの前記第2の方向における幅をWyとした場合、b/Wyの値が26%以上、65%以下であることを特徴とする請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
前記b/Wyの値が40%以上、55%以下であることを特徴とする請求項2に記載のインダクタ部品。
【請求項4】
前記第1の貫通孔の中心と前記第2の貫通孔の中心の前記第2の方向における距離をaとし、前記磁性コアの前記第1の方向における幅及び前記第2の方向における幅のいずれか大きい方をWとした場合、a/Wの値が35%以上、70%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記磁性薄帯がアモルファス合金又はナノ結晶合金からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記クラックの平均間隔が15μm以上、1mm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
入力端子と出力端子の間に並列に接続された第1及び第2の回路を備え、
前記第1の回路は、直列に接続された第1のスイッチングトランジスタと第1のインダクタを含み、
前記第2の回路は、直列に接続された第2のスイッチングトランジスタと第2のインダクタを含み、
前記第1及び第2のインダクタは、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のインダクタ部品からなり、
前記第1のコイル導体が前記第1のインダクタを構成し、前記第2のコイル導体が前記第2のインダクタを構成することを特徴とするDCDCコンバータ。
【請求項8】
入力端子と中間端子の間に接続された第1のスイッチングトランジスタと、
前記中間端子と出力端子の間に並列に接続された第1及び第2の回路を備え、
前記第1の回路は、直列に接続されたキャパシタと第1のインダクタを含み、
前記第2の回路は、直列に接続された第2のスイッチングトランジスタと第2のインダクタを含み、
前記第1及び第2のインダクタは、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のインダクタ部品からなり、
前記第1のコイル導体が前記第1のインダクタを構成し、前記第2のコイル導体が前記第2のインダクタを構成することを特徴とするDCDCコンバータ。
【請求項9】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタが同極性となるよう接続されていることを特徴とする請求項7又は8に記載のDCDCコンバータ。
【請求項10】
前記出力端子に現れる出力電圧が前記入力端子に供給される入力電圧の20%以下となるよう、前記第1及び第2のスイッチングトランジスタが制御されることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載にDCDCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタ部品及びこれを用いたDCDCコンバータに関し、特に、磁性コアに設けられた貫通孔に2つのコイル導体を挿入した構成を有するインダクタ部品及びこれを用いたDCDCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性コアに設けられた貫通孔に2つのコイル導体を挿入した構成を有するインダクタ部品としては、特許文献1に記載されたインダクタ部品が知られている。特許文献1に記載されたインダクタ部品は、貫通孔の周囲が周方向に分断されるよう磁性コアにスリットを設けることによって、2つのコイル導体の結合係数を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁性コアにスリットを設けるとインダクタンス値が低下するという問題があった。しかも、インダクタンス値はスリットの幅によって大きく変化する一方、スリットの幅を精度良く加工することは容易ではないため、インダクタンス値にばらつきが生じやすいという問題もあった。
【0005】
したがって、本発明は、磁性コアに設けられた貫通孔に2つのコイル導体を挿入した構成を有するインダクタ部品において、インダクタンス値の低下やインダクタンス値のばらつきを抑えることを目的とする。また、本発明は、このようなインダクタ部品を用いたDCDCコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるインダクタ部品は、互いに直交する第1及び2の方向に延在する複数の磁性薄帯が第1及び第2の方向と直交する第3の方向に積層されてなる磁性コアと、磁性コアを第3の方向に貫通する第1及び第2の貫通孔に挿入された第1のコイル導体と、磁性コアを第3の方向に貫通する第3及び第4の貫通孔に挿入された第2のコイル導体とを備え、第1及び第2の貫通孔は、磁性コアの第2の方向における中心位置を第1の方向に延在する第1の中心線を対称軸として互いに線対称であり、第3及び第4の貫通孔は、第1の中心線を対称軸として互いに線対称であり、第1及び第3の貫通孔は、磁性コアの第1の方向における中心位置を第2の方向に延在する第2の中心線を対称軸として互いに線対称であり、第2及び第4の貫通孔は、第2の中心線を対称軸として互いに線対称であり、複数の磁性薄帯のそれぞれは、網目状のクラックによって複数の小片に分割されており、且つ、第1乃至第4の貫通孔の周囲をクラックよりも大きなスリットによって周方向に分断されることなく複数の小片によって取り囲んでいることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、網目状のクラックを有する磁性薄帯が積層されてなる磁性コアを用いていることから、貫通孔の周囲にスリットを設ける必要がない。このため、スリットに起因するインダクタンス値の低下やインダクタンス値のばらつきを抑えることが可能となる。
【0008】
本発明において、第1の貫通孔の中心と第3の貫通孔の中心の第1の方向における距離をbとし、磁性コアの第2の方向における幅をWyとした場合、b/Wyの値が26%以上、65%以下であっても構わない。これによれば、第1のコイル導体と第2のコイル導体を同極性とした場合において、両者の結合係数を0.03~0.2の範囲に制御することが可能となる。また、b/Wyの値は、40%以上、55%以下であっても構わない。これによれば、第1のコイル導体と第2のコイル導体を同極性とした場合において、両者の結合係数を0.05~0.1の範囲に制御することが可能となる。
【0009】
本発明において、第1の貫通孔の中心と第2の貫通孔の中心の第2の方向における距離をaとし、磁性コアの第1の方向における幅及び第2の方向における幅のいずれか大きい方をWとした場合、a/Wの値が35%以上、70%以下であっても構わない。これによれば、得られるインダクタンス値を最大化することが可能となる。
【0010】
本発明において、磁性薄帯はアモルファス合金又はナノ結晶合金からなるものであっても構わない。これによれば、より大きなインダクタンス値を得ることが可能となる。
【0011】
本発明において、クラックの平均間隔は15μm以上、1mm以下であっても構わない。これによれば、高いインダクタンス値を確保しつつ、磁気飽和を防止することが可能となる。
【0012】
本発明の一実施形態によるDCDCコンバータは、入力端子と出力端子の間に並列に接続された第1及び第2の回路を備え、第1の回路は直列に接続された第1のスイッチングトランジスタと第1のインダクタを含み、第2の回路は直列に接続された第2のスイッチングトランジスタと第2のインダクタを含み、第1及び第2のインダクタは上記のインダクタ部品からなり、第1のコイル導体が第1のインダクタを構成し、第2のコイル導体が第2のインダクタを構成することを特徴とする。
【0013】
本発明の他の実施形態によるDCDCコンバータは、入力端子と中間端子の間に接続された第1のスイッチングトランジスタと、中間端子と出力端子の間に並列に接続された第1及び第2の回路を備え、第1の回路は直列に接続されたキャパシタと第1のインダクタを含み、第2の回路は直列に接続された第2のスイッチングトランジスタと第2のインダクタを含み、第1及び第2のインダクタは上記のインダクタ部品からなり、第1のコイル導体が第1のインダクタを構成し、第2のコイル導体が第2のインダクタを構成することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、DCDCコンバータに用いる2つのインダクタを1個のインダクタ部品によって実現することが可能となる。
【0015】
本発明において、第1のインダクタと第2のインダクタが同極性となるよう接続されていても構わない。これによれば、第1及び第2のインダクタに流れるリップル電流を抑えつつ、出力電圧の変動を小さくすることが可能となる。
【0016】
本発明において、出力端子に現れる出力電圧が入力端子に供給される入力電圧の20%以下となるよう、第1及び第2のスイッチングトランジスタを制御しても構わない。これによれば、大きな降圧比を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明によれば、磁性コアに設けられた貫通孔に2つのコイル導体を挿入した構成を有するインダクタ部品において、インダクタンス値の低下やインダクタンス値のばらつきを抑えることが可能となる。また、本発明によれば、このようなインダクタ部品を用いたDCDCコンバータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態によるインダクタ部品1の外観を示す略斜視図である。
【
図2】
図2は、インダクタ部品1の略分解斜視図である。
【
図3】
図3は、磁性コア2を構成する磁性薄帯Mの構造を説明するための図である。
【
図4】
図4は、磁性コア2の作製方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、磁性コア2の幅Wy及び貫通孔31~34のピッチbと結合係数kの関係を示すシミュレーション結果である。
【
図6】
図6は、磁性コア2の幅Wx,Wyのいずれか大きい方Wとインダクタンス値Lの関係を示すシミュレーション結果である。
【
図7】
図7は、インダクタ部品1を用いた第1の例によるDCDCコンバータ41の回路図である。
【
図8】
図8は、DCDCコンバータ41において、コイル導体10,20の結合係数kと出力電圧Voutの変動及びインダクタL1,L2に流れるリップル電流の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、インダクタ部品1を用いた第2の例によるDCDCコンバータ42の回路図である。
【
図10】
図10は、DCDCコンバータ42において、コイル導体10,20の結合係数kと出力電圧Voutの変動及びインダクタL1,L2に流れるリップル電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態によるインダクタ部品1の外観を示す略斜視図である。また、
図2は、インダクタ部品1の略分解斜視図である。
【0021】
図1及び
図2に示すように、本実施形態によるインダクタ部品1は、4つの貫通孔31~34を有する磁性コア2と、貫通孔31,32に挿入されたコイル導体10と、貫通孔33,34に挿入されたコイル導体20とを備えている。磁性コア2の外形は略直方体形状であり、x方向における幅はWx、y方向における幅はWyである。貫通孔31~34のxy断面は円形であり、磁性コア2をz方向に貫通して設けられている。磁性コア2は、xy方向に延在する複数の磁性薄帯が樹脂などの非磁性材料を介してz方向に積層された構成を有している。コイル導体10,20は、銅(Cu)などの良導体からなる。
【0022】
コイル導体10は、貫通孔31に挿入された挿入部11と、貫通孔32に挿入された挿入部12と、磁性コア2の上面2a側に位置し、挿入部11,12を接続する接続部13からなり、これらが一体化された構造を有している。挿入部11,12のxy断面は円形であり、接続部13のxz断面は略矩形であることが好ましいが、それぞれ楕円形や矩形などであってもよい。挿入部11,12と接続部13の断面積は互いに一致することが好ましい。磁性コア2の下面2b側に位置する挿入部11,12の先端11a,12aは、磁性コア2の下面2bから突出し、一方が入力端子、他方が出力端子として用いられる。
【0023】
コイル導体20は、貫通孔33に挿入された挿入部21と、貫通孔34に挿入された挿入部22と、磁性コア2の上面2a側に位置し、挿入部21,22を接続する接続部23からなり、これらが一体化された構造を有している。挿入部21,22と接続部23の断面積は互いに一致することが好ましい。挿入部21,22のxy断面は円形であり、接続部23のxz断面は略矩形であることが好ましいが、それぞれ楕円形や矩形などであってもよい。磁性コア2の下面2b側に位置する挿入部21,22の先端21a,22aは、磁性コア2の下面2bから突出し、一方が入力端子、他方が出力端子として用いられる。
【0024】
図2に示すように、貫通孔31,32はy方向に配列されており、そのx方向位置は互いに一致している。同様に、貫通孔33,34はy方向に配列されており、そのx方向位置は互いに一致している。また、貫通孔31,33はx方向に配列されており、そのy方向位置は互いに一致している。同様に、貫通孔32,34はx方向に配列されており、そのy方向位置は互いに一致している。
【0025】
ここで、磁性コア2のy方向における中心位置をx方向に延在する中心線X0を想定した場合、貫通孔31,32は中心線X0を対称軸として互いに線対称に配置され、貫通孔33,34は中心線X0を対称軸として互いに線対称に配置されている。一方、磁性コア2のx方向における中心位置をy方向に延在する中心線Y0を想定した場合、貫通孔31,33は中心線Y0を対称軸として互いに線対称に配置され、貫通孔32,34は中心線Y0を対称軸として互いに線対称に配置されている。これにより、コイル導体10の特性とコイル導体20の特性がほぼ完全に一致する。ここで、貫通孔31の中心と貫通孔32の中心のy方向における距離、並びに、貫通孔33の中心と貫通孔34の中心のy方向における距離はaであり、貫通孔31の中心と貫通孔33の中心のx方向における距離、並びに、貫通孔32の中心と貫通孔34の中心のx方向における距離はbである。
【0026】
図3は、磁性コア2を構成する磁性薄帯Mの構造を説明するための図である。
【0027】
磁性コア2を構成する磁性薄帯Mは、アモルファス合金やナノ結晶合金などの高透磁率金属材料からなり、
図3に示すように、網目状のクラックCLによって複数の小片Pに分割されている。クラックCLは、磁性薄帯Mのxy平面方向における透磁率を低下させる役割を果たし、これによりインダクタ部品1の磁気飽和が防止される。インダクタ部品1をDCDCコンバータに用いる場合、クラックCLの平均間隔を15μm以上、1mm以下とすることにより、磁性薄帯Mの透磁率を最適な値に調整することができる。
【0028】
図4は、磁性コア2の作製方法を説明するための模式図である。
【0029】
磁性コア2の作製においては、まず、樹脂などの非磁性材料Rを介して複数(例えば4枚)の磁性薄帯Mを積層し、プレスすることにより一体化された磁性シート3Aを作製する。磁性薄帯Mの厚みは例えば20μm程度であり、透磁率は例えば20000程度である。次に、磁性シート3Aをローラー6で押圧することにより、磁性シート3Aを構成する磁性薄帯MにクラックCLを形成する。クラックCLの平均間隔や、クラックCLによって分割される小片Pのサイズについては、ローラー6の径、押圧力、押圧速度などによって調整可能である。これにより、クラックCLによって磁性薄帯Mが小片化された磁性シート3Bが得られる。磁性薄帯MがクラックCLによって小片化されると、その透磁率は、100~200程度に低下し、DCDCコンバータに用いた場合に最適な値となる。
【0030】
次に、カッター7を用いて磁性シート3Bを磁性コア2と同じ平面サイズに切断することによって、複数の単位磁性コア3を取り出す。そして、樹脂などの非磁性材料4を介して複数の単位磁性コア3を積層し、プレスすることにより、ブロック状の磁性コア2Aが得られる。磁性コア2Aの上面及び下面は、PET樹脂などからなるカバーフィルム5で覆っても構わない。そして、ドリル加工によって磁性コア2Aに貫通孔31~34を形成すれば、
図1及び
図2に示す磁性コア2が完成する。最後に、貫通孔31~34にコイル導体10,20を挿入すれば、本実施形態によるインダクタ部品1が完成する。
【0031】
このように、磁性コア2は、クラックCLによって小片化された磁性薄帯Mを積層した後、貫通孔31~34を挿入することによって作製することができる。つまり、ブロック状の磁性コア2Aに対する機械加工は、貫通孔31~34を形成するための加工だけであり、磁路を分断するためのスリットなどを形成する必要がない。これにより、貫通孔31~34の周囲は、クラックCLよりも大きなスリットによって周方向に分断されることなく複数の小片Pによって全周が取り囲まれることから、スリットに起因するインダクタンス値の低下やインダクタンス値のばらつきが生じることがない。また、z方向に隣接する磁性薄帯M間には非磁性材料R又は4が介在することから、z方向に流れる磁束はほとんど発生しない。このため、z方向の磁束に起因する渦電流がほとんど生じない。
【0032】
ここで、コイル導体10,20のインダクタンス値や結合係数は、磁性コア2の平面サイズや貫通孔31~34の位置によって変化する。コイル導体10,20の結合係数は、一般的にはゼロに近いほど望ましいと考えられているが、後述するように、DCDCコンバータ用のインダクタとして用いる場合には、ある程度の結合係数を有していた方が出力電圧の変動が小さくなる。具体的には、コイル導体10,20の結合係数を0.03~0.2の範囲に調整することが好ましく、0.05~0.1の範囲に調整することがより好ましい。
【0033】
図5は、磁性コア2の幅Wy及び貫通孔31~34のピッチbと結合係数kの関係を示すシミュレーション結果である。シミュレーションにおいては、磁性コア2の幅Wx,Wyをいずれも6mm、磁性コア2のz方向の厚みを2.8mm、貫通孔31~34の径を0.7mm、挿入部11,12,21,22の径を0.6mmとした状態で、貫通孔31~34の位置を変化させた。
図5に示すように、コイル導体10,20の結合係数kはb/Wyの値が大きくなるほど低下する。ここで、結合係数kが0.03~0.2となるb/Wyの値は26%~65%、結合係数kが0.05~0.1となるb/Wyの値は40%~55%である。
【0034】
図6は、磁性コア2の幅Wx,Wyのいずれか大きい方Wとインダクタンス値Lの関係を示すシミュレーション結果である。シミュレーションにおいては、磁性コア2の幅Wx,Wyがいずれも6mm、磁性コア2のz方向の厚みが2.8mm、貫通孔31~34の径が0.7mm、挿入部11,12,21,22の径が0.6mmである構成を基本構成とし、Wx,Wyの和又は積を一定に保った状態でWx,Wyの値を変化させ、或いは、貫通孔31~34の位置を変化させた。
図6に示すように、インダクタンス値Lはa/Wの値が50%である場合にピーク値を取り、a/Wの値が35%以上、70%以下の範囲において280nHのインダクタンス値が得られた。
【0035】
図7は、インダクタ部品1を用いた第1の例によるDCDCコンバータ41の回路図である。
【0036】
図7に示すDCDCコンバータ41は、一対の入力端子51,52と、一対の出力端子53,54と、入力端子51と出力端子53の間に直列にこの順に接続されたスイッチングトランジスタSW1及びインダクタL1と、入力端子51と出力端子53の間に直列にこの順に接続されたスイッチングトランジスタSW2及びインダクタL2と、出力端子53,54間に接続されたキャパシタC1とを備えている。スイッチングトランジスタSW1とインダクタL1からなる回路と、スイッチングトランジスタSW2とインダクタL2からなる回路は、入力端子51と出力端子53の間に並列に接続される。入力端子52と出力端子54はグランドラインを構成する。スイッチングトランジスタSW1及びインダクタL1の接続点とグランドラインの間にはダイオードD1が逆方向に接続され、スイッチングトランジスタSW2及びインダクタL2の接続点とグランドラインの間にはダイオードD2が逆方向に接続される。
【0037】
スイッチングトランジスタSW1,SW2は、図示しない制御回路によって交互にオンオフし、これにより、入力電圧Vinを降圧した出力電圧Voutが生成される。スイッチングトランジスタSW1,SW2は、出力電圧Voutが入力電圧Vinの20%以下となるよう制御することができる。
【0038】
このような構成を有するDCDCコンバータ41において、本実施形態によるインダクタ部品1がインダクタL1,L2として用いられる。例えば、コイル導体10が一方のインダクタL1を構成し、コイル導体20が他方のインダクタL2を構成する。これにより、DCDCコンバータ41を構成する部品点数を削減することが可能となる。
【0039】
図8は、DCDCコンバータ41において、コイル導体10,20の結合係数kと出力電圧Voutの変動及びインダクタL1,L2に流れるリップル電流の関係を示すグラフであり、出力電圧Voutが0.6V、スイッチングトランジスタSW1,SW2のデューティが0.05である場合を示している。出力電圧Voutの変動はピークトゥピークの値(mV)であり、リップル電流の値は、インダクタL1に流れるリップル電流Δi(L1)とインダクタL2に流れるリップル電流Δi(L2)の平均値(Ap-p)である。
【0040】
図8に示すように、インダクタL1,L2に流れるリップル電流は、結合係数kがゼロである場合に最も小さくなることが分かる。しかしながら、出力電圧Voutの変動については、結合係数kがゼロである場合よりも、結合係数kが正方向に大きくなるほど抑制される。結合係数kが正方向に大きくなるとリップル電流が増加するが、その増加量は、結合係数kの値が0.2以下であれば十分小さく、結合係数kの値が0.1以下であればほとんど無視できるレベルである。一方で、出力電圧Voutの変動を抑える効果を十分に得るためには、結合係数kの値は0.03以上であることが好ましく、結合係数kの値は0.05以上であることがより好ましい。
【0041】
したがって、
図7に示すDCDCコンバータ41に本実施形態によるインダクタ部品1を用いる場合、コイル導体10,20が互いに同極性となるよう接続する必要がある。例えば、挿入部11,21の先端11a,21aを入力端子として用い、挿入部12,22の先端12a,22aを出力端子として用いればよい。
【0042】
図9は、インダクタ部品1を用いた第2の例によるDCDCコンバータ42の回路図である。
【0043】
図9に示すDCDCコンバータ42は、一対の入力端子51,52と、一対の出力端子53,54と、入力端子51と中間端子55の間に接続されたスイッチングトランジスタSW1と、中間端子55と出力端子53の間に直列にこの順に接続されたキャパシタC2及びインダクタL1と、中間端子55と出力端子53の間に直列にこの順に接続されたスイッチングトランジスタSW2及びインダクタL2と、出力端子53,54間に接続されたキャパシタC1とを備えている。キャパシタC2とインダクタL1からなる回路と、スイッチングトランジスタSW2とインダクタL2からなる回路は、中間端子55と出力端子53の間に並列に接続される。入力端子52と出力端子54はグランドラインを構成する。キャパシタC2及びインダクタL1の接続点とグランドラインの間にはダイオードD1が逆方向に接続され、スイッチングトランジスタSW2及びインダクタL2の接続点とグランドラインの間にはダイオードD2が逆方向に接続される。
【0044】
スイッチングトランジスタSW1,SW2は、図示しない制御回路によって交互にオンオフし、これにより、入力電圧Vinを降圧した出力電圧Voutが生成される。スイッチングトランジスタSW1,SW2は、出力電圧Voutが入力電圧Vinの20%以下となるよう制御することができる。
【0045】
このような構成を有するDCDCコンバータ42において、本実施形態によるインダクタ部品1がインダクタL1,L2として用いられる。例えば、コイル導体10が一方のインダクタL1を構成し、コイル導体20が他方のインダクタL2を構成する。これにより、DCDCコンバータ42を構成する部品点数を削減することが可能となる。
【0046】
図10は、DCDCコンバータ42において、コイル導体10,20の結合係数kと出力電圧Voutの変動及びインダクタL1,L2に流れるリップル電流の関係を示すグラフであり、出力電圧Voutが0.6V、スイッチングトランジスタSW1,SW2のデューティが0.1である場合を示している。出力電圧Voutの変動はピークトゥピークの値(mV)であり、リップル電流の値は、インダクタL1に流れるリップル電流Δi(L1)とインダクタL2に流れるリップル電流Δi(L2)の平均値(Ap-p)である。
【0047】
図10に示すように、インダクタL1,L2に流れるリップル電流は、結合係数kがゼロである場合に最も小さくなることが分かる。しかしながら、出力電圧Voutの変動については、結合係数kがゼロである場合よりも、結合係数kが正方向に大きくなるほど抑制される。結合係数kが正方向に大きくなるとリップル電流が増加するが、その増加量は、結合係数kの値が0.2以下であれば十分小さく、結合係数kの値が0.1以下であればほとんど無視できるレベルである。一方で、出力電圧Voutの変動を抑える効果を十分に得るためには、結合係数kの値は0.03以上であることが好ましく、結合係数kの値は0.05以上であることがより好ましい。
【0048】
したがって、
図9に示すDCDCコンバータ42に本実施形態によるインダクタ部品1を用いる場合、コイル導体10,20が互いに同極性となるよう接続する必要がある。例えば、挿入部11,21の先端11a,21aを入力端子として用い、挿入部12,22の先端12a,22aを出力端子として用いればよい。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 インダクタ部品
2,2A 磁性コア
2a 磁性コアの上面
2b 磁性コアの下面
3 単位磁性コア
3A,3B 磁性シート
4 非磁性材料
5 カバーフィルム
6 ローラー
7 カッター
10,20 コイル導体
11,12,21,22 挿入部
11a,12a,21a,22a 挿入部の先端
13,23 接続部
31~34 貫通孔
41,42 DCDCコンバータ
51,52 入力端子
53,54 出力端子
55 中間端子
C1,C2 キャパシタ
CL クラック
D1,D2 ダイオード
L1,L2 インダクタ
M 磁性薄帯
P 小片
R 非磁性材料
SW1,SW2 スイッチングトランジスタ