(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240130BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240130BHJP
B62D 5/07 20060101ALI20240130BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240130BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240130BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240130BHJP
B62D 127/00 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D5/07
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D127:00
(21)【出願番号】P 2020175707
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】中川 和之
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-213094(JP,A)
【文献】特開2008-174194(JP,A)
【文献】特開2013-10380(JP,A)
【文献】特開2020-45004(JP,A)
【文献】特開2017-124762(JP,A)
【文献】特開平1-233169(JP,A)
【文献】特開2019-14382(JP,A)
【文献】特開平4-24169(JP,A)
【文献】特開2001-88730(JP,A)
【文献】特開2010-280255(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/097423(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0308661(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109318982(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 5/07
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
B62D 127/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に連結され、当該操舵部材に対する操舵操作に伴い回転する入力軸と、
前記入力軸の回転に連動して回転する出力軸と、
前記入力軸の回転を出力軸に伝達する第一伝達機構と、
前記出力軸の回転を転舵輪に伝達する第二伝達機構と、
第一アシスト力を前記第一伝達機構に付与する電動モータと、
車両に備わるエンジンを動力源とするオイルポンプを有し、前記オイルポンプの動力を第二アシスト力として前記第二伝達機構に付与する油圧機構と、
前記電動モータを制御するモータ制御部とを備え、
前記モータ制御部は、
前記操舵部材を基準位置に戻すための戻しトルクのうち、油圧を起因とした油圧戻しトルクを、前記オイルポンプの流量に関する流量情報と、前記操舵部材の操舵角速度とに基づいて推定するとともに、前記車両の車速と前記操舵部材の操舵角とに基づいて前記戻しトルクを推定し、
前記戻しトルクと前記油圧戻しトルクとの差分に基づいて前記電動モータを制御する
操舵装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、前記エンジンの回転数を前記流量情報として用いて、前記油圧戻しトルクを推定する
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記オイルポンプの流量を検出する流量センサを備え、
前記モータ制御部は、前記流量センサの検出結果を前記流量情報として、前記油圧戻しトルクを推定する
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記モータ制御部は、前記車両の車速と前記操舵部材の操舵角とに基づいて求められた値に対して、前記操舵部材の操舵トルクに基づくトルクゲインを積算することで前記戻しトルクを推定する
請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記モータ制御部は、前記車両の車速と前記操舵部材の操舵角とに基づいて求められた値に対して、前記車速に基づく車速ゲインを積算することで前記戻しトルクを推定する
請求項1~4のいずれか一項に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧機構により転舵力の一部が付与され、電動モータによって転舵力の他部が付与される操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の転舵機構に結合されたパワーシリンダに、オイルポンプからの作動油を、油圧制御バルブを介して供給することによって、アシスト力を転舵機構に付与する油圧式パワーステアリング装置が従来知られている。例えば特許文献1に記載のパワーステアリング装置(操舵装置)は、オイルポンプに加えて電動モータでもアシスト力を転舵機構に付与する装置である。このような操舵装置では、ハンドル(操舵部材)の操舵角に応じたハンドル戻し制御時のアシスト制御量をMAPから求め、アシスト制御量に応じた制御電流となるように電動モータを制御してハンドル戻し制御を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したハンドル戻し制御であると、オイルポンプによるポンプ流量の変動が考慮されていないために、ハンドル戻し制御を行ったとしてもエンジンの回転数が低下し、ハンドル戻し制御が不安定になるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、上記課題に鑑みなされたものであり、ポンプ流量の変動の影響を受けにくくすることでハンドル戻し制御の安定性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つである操舵装置は、操舵部材に連結され、当該操舵部材に対する操舵操作に伴い回転する入力軸と、入力軸の回転に連動して回転する出力軸と、入力軸の回転を出力軸に伝達する第一伝達機構と、出力軸の回転を転舵輪に伝達する第二伝達機構と、第一アシスト力を第一伝達機構に付与する電動モータと、車両に備わるエンジンを動力源とするオイルポンプを有し、オイルポンプの動力を第二アシスト力として第二伝達機構に付与する油圧機構と、電動モータを制御するモータ制御部とを備え、モータ制御部は、操舵部材を基準位置に戻すための戻しトルクのうち、油圧を起因とした油圧戻しトルクを、オイルポンプの流量に関する流量情報と、操舵部材の操舵角速度とに基づいて推定するとともに、車両の車速と操舵部材の操舵角とに基づいて前記戻しトルクを推定し、戻しトルクと油圧戻しトルクとの差分に基づいて電動モータを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポンプ流量の変動の影響を受けにくくすることでハンドル戻し制御の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る操舵装置を模式的に表す図である。
【
図2】実施の形態に係るモータ制御部の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態に係る制御部において戻し制御に関する機能部を示したブロック図である。
【
図4】実施の形態に係る目標操舵角MAPの一例を示す説明図である。
【
図5】実施の形態に係る戻しトルクMAPを示す説明図である。
【
図6】実施の形態に係る車速ゲインMAPを示す説明図である。
【
図7】実施の形態に係るトルクゲインMAPを示す説明図である。
【
図8】実施の形態に係る油圧戻しトルクMAPの一例を示す説明図である。
【
図9】変形例に係る転舵装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る操舵装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、及び接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0010】
[操舵装置]
図1は、実施の形態に係る操舵装置を模式的に表す図である。操舵装置200は、目標舵角に応じて転舵輪220を転舵し、操舵装置200が搭載された車両の走行方向を操作するシステムである。操舵装置200は、転舵機構230と、油圧機構240と、手動操作機構210と、電動モータ110と、モータ制御部100と、を備えている。
【0011】
転舵機構230は、転舵輪220を転舵させるための機構であり、本発明に係る第二伝達機構の一例である。転舵機構230は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ラック・アンド・ピニオンが採用されている。具体的に転舵機構230は、ピニオンシャフト231と、ラックシャフト232と、タイロッド233と、を備えている。
【0012】
ピニオンシャフト231は、ラックシャフト232に設けられたラックと噛合うピニオンを備えた棒状の部材である。ピニオンシャフト231は、電動モータ110に連結されており、電動モータ110からのトルクと、操舵部材211からのトルクが付与されて回転し、ラックシャフト232の軸方向にラックシャフト232を移動させる。ピニオンシャフト231は、本発明に係る出力軸の一例である。
【0013】
ラックシャフト232は、外周面の一部にピニオンシャフト231と噛み合うラックが設けられ、ピニオンシャフト231の回転を、ラックシャフト232の軸方向の移動量に変換し、タイロッド233を介して転舵輪220を転舵させる部材である。ラックシャフト232には、油圧機構240が接続されており、油圧によって転舵輪220を転舵するための転舵力の一部、いわゆるアシスト力が付与される。ラックシャフト232は、車体に取り付けられたラックハウジング内に収容され、ラックハウジングによりラックシャフト232の移動が案内されている。
【0014】
油圧機構240は、ピニオンシャフト231の回転角などに応じて油圧を調整し、ラックシャフト232にラックシャフト232の軸方向の力を転舵力の一部として付与する。この油圧機構240による付与される転舵力の一部は、油圧転舵力であり、第二アシスト力の一例である。油圧機構240は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、パワーシリンダ241と、ロータリーバルブ242と、オイルポンプ243と、リザーバタンク244とを備えている。
【0015】
パワーシリンダ241は、ピストン245によって二つの空間に隔てられたシリンダ246を備え、二つの空間のそれぞれに充填された油の油圧が調整されることによりピストン245がラックシャフト232の軸方向に移動する。ピストン245は、ラックシャフト232に連結されており、ピストン245からラックシャフト232に移動方向の力が付与される。
【0016】
ロータリーバルブ242は、ピストン245によって隔てられた二つの空間にそれぞれ供給される油圧を調整する装置である。ロータリーバルブ242の構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ピニオンシャフト231とモータ制御部100との間に介在配置される第二トーションバー282を備えている。ロータリーバルブ242は、第二トーションバー282の捩れによって生じる内側バルブと外側バルブとの相対移動に応じ、オイルポンプ243から圧送される油を、ピストン245によって隔てられた二つの空間の一方に供給する量を調整するとともに、他方の空間の余剰油をリザーバタンク244に還流する量を調整することにより、ピストン245の動作を制御している。
【0017】
オイルポンプ243は、車両に備わるエンジンを動力源とする油圧ポンプである。オイルポンプ243の駆動によりリザーバタンク244内の油がパワーシリンダ241に供給されるようになっている。
【0018】
手動操作機構210は、ステアリングホイール等の操舵部材211を運転者が操作することにより転舵輪220を転舵させることができる装置である。本実施の形態の場合、
図1に示すように、手動操作機構210は、操舵部材211と、軸部材212と、第一トーションバー281と、トルク検出装置213と、を備えている。なお、手動操作機構210は、さらに、反力装置、目標舵角検出手段などを備えても構わない。
【0019】
軸部材212は、操舵部材211に機械的に連結され、操舵部材211に対する操舵操作に応じて回転する棒状の部材である。軸部材212は、本発明に係る入力軸の一例である。軸部材212と転舵機構230との接続態様は、特に限定されるものではない。本実施の形態の場合、軸部材212は、操舵軸体111を介してピニオンシャフト231に機械的に連結されている。つまり、軸部材212の回転は、手動操作機構210によってピニオンシャフト231に伝達されるので、ピニオンシャフト231は軸部材212の回転に連動して回転する。このように、手動操作機構210は、本発明に係る第一伝達機構の一例である。
【0020】
第一トーションバー281は、軸部材212に介在配置され、運転者が操舵部材211を操作することにより入力されるトルクに応じて捩れる部材である。トルク検出装置213は、第一トーションバー281の捩れ量を検出し、操舵トルクを出力する。
【0021】
電動モータ110は、第一アシスト力を手動操作機構210に付与するモータである。具体的には、電動モータ110は、軸部材212と接続され、電動モータ110の出力軸の回転を軸部材212に伝達している。この電動モータ110から軸部材212に付与された力が第一アシスト力であり、電動モータ110が転舵機構230に付与する転舵力(モータ転舵力)である。
【0022】
[モータ制御部]
図2は、実施の形態に係るモータ制御部の機能構成を示すブロック図である。モータ制御部100は、目標舵角に応じて電動モータ110を制御する部位であり、ECU(Electronic Control Unit)の1つである。モータ制御部100は、プログラムを実行することにより実現する処理部として、実舵角取得部130と、目標舵角取得部131と、制御部132とを備えている。
【0023】
実舵角取得部130は、転舵輪220の実舵角を取得する。本実施の形態の場合、実舵角取得部130は、転舵輪220や転舵輪220を転舵するリンク機構などに取り付けられたセンサが出力した信号に基づき実舵角を取得する。
【0024】
目標舵角取得部131は、転舵輪220を転舵するための目標舵角を取得する。本実施の形態の場合、目標舵角取得部131は、手動操作機構210に備わる目標舵角検出手段から目標転舵角を取得する。目標舵角検出手段は、操舵部材211の操舵角(回転角)を検出し目標舵角として出力する装置である。例えば、目標舵角検出手段は、軸部材212の回転を操舵部材211の回転として検出している。目標舵角検出手段の種類は、特に限定されるものではないが、例えば電動モータ110に取り付けられるレゾルバ、ロータリーエンコーダ、軸部材212とともに回転する主歯車と、主歯車に噛み合う径の異なる二つの従動歯車とを備え、従動歯車にそれぞれ備えられた永久磁石の回転をホール素子などで検出することにより出力軸の回転角度ばかりでなく回転方向も検出できる装置などを例示できる。
【0025】
制御部132は、目標舵角取得部131が取得した目標舵角、及び実舵角取得部130が取得した実舵角に基づき実際の転舵輪220の実舵角が目標舵角に一致するように電動モータ110を制御する。本実施の形態の場合、電動モータ110は、複数のスイッチング素子を備えたPWMインバータ260によって電力が供給されている。制御部132は、目標舵角と実舵角との差に応じて、電動モータ110を制御する目標トルクをモータ制御値として生成する。目標トルクの生成は、一般的には、PID制御が用いられる。具体的には、目標舵角と実舵角との差の項、当該差の積分項及び当該差の微分項にそれぞれ比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインが乗算された後、それらの項が加算されることにより目標トルクがモータ制御値として演算される。
【0026】
[ハンドル戻し制御]
ここで、制御部132は、操舵後において、操舵された操舵部材211を基準位置(中立位置)に戻すために、ハンドル戻し制御を実行する。具体的には、ハンドル戻し制御時において制御部132は、操舵部材211を基準位置に戻すための戻しトルクのうち、油圧を起因とした油圧戻しトルクを、オイルポンプ243の流量に関する流量情報に基づいて推定するとともに、車両の車速と操舵部材211の操舵角速度とに基づいて戻しトルクを推定する。その後、制御部132は、戻しトルクと油圧戻しトルクとの差分(モータ戻しトルク)に基づいて電動モータ110を制御する。
【0027】
図3は、実施の形態に係る制御部132において戻し制御に関する機能部を示したブロック図である。制御部132は、戻しトルク推定部133と、油圧戻しトルク推定部134と、モータ制御値生成部135とを備えている。
【0028】
戻しトルク推定部133は、車両の車速と、操舵部材211の操舵角と、操舵トルクとに基づいて戻しトルクを推定する。具体的には、戻しトルク推定部133は、車両の車速センサから車速を取得する。戻しトルク推定部133は、トルク検出装置213から操舵トルクを取得する。戻しトルク推定部133は、目標舵角検出手段が検出した操舵部材211の操舵角(回転角)を取得する。
【0029】
戻しトルク推定部133は、取得した車速と、操舵角と、操舵トルクとから、戻しトルクを推定するための複数のMAP(目標操舵角MAP、戻しトルクMAP、車速ゲインMAP、トルクゲインMAP)を記憶している。
【0030】
図4は、実施の形態に係る目標操舵角MAPの一例を示す説明図である。
図4に示すように、目標操舵角MAPは、車速と操舵角とから目標操舵角速度を推定するためのMAPである。この目標操舵角MAPでは、一例として車速0km/hのMAP、車速20km/hのMAP、車速80km/hのMAP、車速140km/hのMAPが挙げられている。例えば、戻しトルク推定部133は、車速センサから取得した車速に最も近いMAPを選択するとともに、その時点で取得した操舵角とに基づいて、目標点舵角を推定する。なお、目標転舵角MAPには、他の車速がMAP化されていてもよい。
【0031】
図5は、実施の形態に係る戻しトルクMAPを示す説明図である。
図5に示すように、戻しトルクMAPは、目標操舵角速度に基づいて戻しトルクを推定するためのMAPである。戻しトルク推定部133は、
図4に基づいて推定された目標操舵角速度と、戻しトルクMAPとによって戻しトルクを推定する。ここで推定された戻しトルクは基準戻しトルクである。
【0032】
図6は、実施の形態に係る車速ゲインMAPを示す説明図である。
図6に示すように、車速ゲインMAPは、車両の車速に基づいて車速ゲインを推定するためのMAPである。戻しトルク推定部133は、車両の車速と車速ゲインMAPとに基づいて車速ゲインを決定し、基準戻しトルクに積算する。
【0033】
ここで、車速ゲインMAPは、車速が一定値(本実施の形態では10km/h)よりも小さい場合には、戻しトルクを低減させるためのMAPである。つまり、車速ゲインが1よりも小さい値に決定された場合には、当該値が基準戻しトルクに積算されるために、戻しトルクが基準戻しトルクよりも低減されることになる。車速が一定値よりも低い場合に、大きな戻しトルクで操舵部材211が基準位置に戻されると、ドライバに違和感を与えるおそれがある。車速ゲインを基準戻しトルクに積算して戻しトルクを決定すれば、違和感の小さいハンドル戻し制御が可能となる。
【0034】
図7は、実施の形態に係るトルクゲインMAPを示す説明図である。
図7に示すように、トルクゲインMAPは、操舵トルクに基づいてトルクゲインを推定するためのMAPである。戻しトルク推定部133は、操舵トルクとトルクゲインMAPとに基づいてトルクゲインを決定し、基準戻しトルク(または車速トルクが積算された基準戻しトルク)に積算する。
【0035】
ここで、トルクゲインMAPは、操舵トルクが一定値(本実施の形態では1Nm)よりも大きい場合には、戻しトルクを低減させるためのMAPである。つまり、トルクゲインが1よりも小さい値に決定された場合には、当該値が基準戻しトルクに積算されるために、戻しトルクが基準戻しトルクよりも低減されることになる。ドライバが操舵部材211を操作して、操舵トルクが一定値よりも大きくなった場合に、大きな戻しトルクが付与されると、ドライバに違和感を与えるおそれがある。トルクゲインを基準戻しトルクに積算して戻しトルクを決定すれば、違和感の小さいハンドル戻し制御が可能となる。
【0036】
図3に示すように、油圧戻しトルク推定部134は、オイルポンプ243の油圧を起因とした油圧戻しトルクを、オイルポンプ243の流量に関する流量情報に基づいて推定する。具体的には、油圧戻しトルク推定部134は、車両のエンジンに設けられた回転数センサからエンジンの回転数を取得する。オイルポンプ243の流量と、エンジンの回転数とには、回転数に比例して流量が増加する関係性がある。このため、オイルポンプ243の流量を直接的に検出しなくとも、エンジンの回転数を流量情報として用いることが可能である。
【0037】
また、油圧戻しトルク推定部134は、操舵角検出手段が検出した操舵部材211の操舵角を取得し、当該操舵角を時間微分することで、操舵角速度を求める。なお、操舵角速度を直接的に検出する操舵角速度センサが手動操作機構210に設けられている場合には、油圧戻しトルク推定部134は、操舵角速度センサから操舵角速度を取得してもよい。
【0038】
油圧戻しトルク推定部134は、取得した流量情報と操舵角速度とから油圧戻しトルクを推定するための油圧戻しトルクMAPを記憶している。
【0039】
図8は、実施の形態に係る油圧戻しトルクMAPの一例を示す説明図である。
図8に示すように、油圧戻しトルクMAPは、流量情報(エンジンの回転数)と、操舵角速度とから油圧戻しトルクを推定するためのMAPである。この油圧戻しトルクMAPでは、0-1000rpmのMAP、1001-2000rpmのMAP、2001-3000rpmのMAP、3001-4000rpmのMAP、4001-5000rpmのMAP、5001-6000rpmのMAP、6001-7000rpmのMAP、7001-8000rpmのMAP、8000rpm以上のMAPが挙げられている。例えば、油圧戻しトルク推定部134は、回転数センサから取得した回転数が含まれるMAPを選択するとともに、その時点で取得した操舵角速度とに基づいて油圧戻しトルクを推定する。
【0040】
図3に示すように、モータ制御値生成部135には、戻しトルク推定部133で推定された戻しトルクと、油圧戻しトルク推定部134で推定された油圧戻しトルクとの差分が入力される。この差分は、油圧戻しトルクの影響が除外された値となる。
【0041】
モータ制御値生成部135は取得した差分に基づいて、電動モータ110を制御するための制御値(電流指令値)を演算する。これにより、求められた制御値がPWMインバータ260に入力されて電動モータ110が駆動する。これにより、油圧戻しトルクの影響を除外して電動モータ110を制御することができる。
【0042】
[効果など]
以上のように、本実施の形態によれば、ハンドル戻し制御では、戻しトルクと油圧戻しトルクとの差分に基づいて電動モータ110が制御されるので、油圧戻しトルクの影響を除外して電動モータ110を制御することができる。油圧戻しトルクは、オイルポンプ243の流量の変動が反映されるが、ハンドル戻し制御では、この油圧戻しトルクの影響が除外されているので当該流量の変動が影響されにくい。したがって、ハンドル戻し制御の安定性を高めることが可能である。
【0043】
また、油圧戻しトルク推定部134が、エンジンの回転数を流量情報として用いて油圧戻しトルクを推定しているので、オイルポンプ243の流量を検出する流量センサを用いなくとも油圧戻しトルクを推定できる。したがって、操舵装置200の製造コストを低減することが可能である。
【0044】
また、戻しトルク推定部134が、車両の車速と操舵部材211の操舵角とに基づいて求められた値(基準戻しトルク)に対して、操舵部材211の操舵トルクに基づくトルクゲインを積算することで戻しトルクを推定しているので、操舵トルクを起因とした違和感が小さいハンドル戻し制御が可能となる。
【0045】
また、戻しトルク推定部134が、車両の車速と操舵部材211の操舵角とに基づいて求められた値(基準戻しトルク)に対して、車速に基づく車速ゲインを積算することで戻しトルクを推定しているので、車速を起因とした違和感が小さいハンドル戻し制御が可能となる。
【0046】
[その他]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0047】
例えば、上記実施の形態では、エンジンの回転数を流量情報として用いる場合を例示した。しかしながら、オイルポンプ243の流量を流量情報として採用することも可能である。
図9は、変形例に係る転舵装置を模式的に示す図である。具体的には、
図9は
図1に対応する図である。なお、以降の説明において、上記実施の形態と同一の部分においては同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0048】
図9に示すように、変形例に係る転舵装置200Aには、オイルポンプ243で圧送されるオイルの経路上に、オイルポンプ243の流量を直接的に検出する流量センサ290aが設けられている。この流量センサ290aが検出した流量が流量情報として用いられる。具体的には、流量センサ290aが検出した流量は、油圧戻しトルク推定部134に入力される。この場合、油圧戻しトルク推定部134は、取得した流量と、操舵角速度とから油圧戻しトルクを推定するための油圧戻しトルクMAPを記憶しており、この油圧戻しトルクMAPに対して流量と、操舵角速度とにより油圧戻しトルクを推定する。つまり、オイルポンプ243の流量を直接的に用いるために、他のパラメータ(例えばエンジンの回転数)から流量を推定する場合と比べてもより正確に油圧戻しトルクを推定することが可能となる。したがって、ハンドル戻し制御の安定性をより高めることができる。
【0049】
また、上記実施の形態では、
図4~
図8に示す各MAPを用いて種々の推定を実行する場合を例示した。しかしながら、各MAPはあくまで一例である。つまり、各種実験、シミュレーション、経験則などにより、操舵装置の各種パラメータ、使用状況等に適応するように各MAPを設定してもよい。また、MAPを用いなくとも数式などにより各推定を実行することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、油圧機構及び電動モータによってアシスト力を付与する転舵装置に対し利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
100…モータ制御部、110…電動モータ、111…操舵軸体、130…実舵角取得部、131…目標舵角取得部、132…制御部、133…戻しトルク推定部、134…油圧戻しトルク推定部、135…モータ制御値生成部、200、200A…操舵装置、210…手動操作機構(第一伝達機構)、211…操舵部材、212…軸部材(入力軸)、213…トルク検出装置、220…転舵輪、230…転舵機構(第二伝達機構)、231…ピニオンシャフト(出力軸)、232…ラックシャフト、233…タイロッド、240…油圧機構、241…パワーシリンダ、242…ロータリーバルブ、243…オイルポンプ、244…リザーバタンク、245…ピストン、246…シリンダ、260…インバータ、281…第一トーションバー、282…第二トーションバー、290a…流量センサ