(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】作業車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240130BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240130BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/02 N
A01B69/00 303F
(21)【出願番号】P 2020218411
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-12-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】澤木 拓人
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-073050(JP,A)
【文献】特開2020-184974(JP,A)
【文献】特開2018-050491(JP,A)
【文献】特開2020-103085(JP,A)
【文献】特開2018-147163(JP,A)
【文献】特開2008-131880(JP,A)
【文献】特開2017-162373(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0074340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を有する作業車両と、
前記作業車両の位置情報を取得する測位手段と、
前記作業車両の進行方向を取得する方向取得手段と、
作業が行われる作業領域と作業が行われない枕地領域とが予め設定された圃場の情報と、前記作業領域内において予め設定された作業終了位置を含む作業経路の情報と、に基づいて、前記作業車両を前記作業経路に沿って自律走行させながら作業を実行させるように制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記作業終了位置から非作業状態で前記枕地領域を自律走行して停止する走行終了位置を前記枕地領域内に設定する走行終了位置の設定手段と、前記枕地領域を判別する判別手段と、を有し、
前記作業領域の外周を構成する辺の中で前記作業経路に平行な基準辺に対して、前記基準辺と頂点を共有する2辺のうち作業終了位置に近い方の辺を圃場端まで延長した第1の延長線と圃場の外周とで囲まれた第1の枕地領域に、作業車両の自律走行を終了する走行終了位置がある場合であって、作業終了位置と走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲内である場合には、
前記作業終了位置と前記走行終了位置とを結ぶ直線に沿う移動経路に沿って、前記作業車両を移動させる
と共に、
前記作業終了位置と前記走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲外である場合には、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿い且つ前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さを有する第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記作業車両の進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする作業車両の制御システム。
【請求項2】
予め定められた走行終了位置が、前記第1の延長線と、前記基準辺または前記基準辺の対辺を圃場端まで延長した第2の延長線と、前記基準辺または前記対辺と、圃場の外周とで囲まれた第2の枕地領域にある場合には、
前記制御部は、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿う第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、前記第2の移動経路の終端を始端として前記進行方向に沿う第3の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さに設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第3の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第3の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする
請求項1に記載の作業車両の制御システム。
【請求項3】
予め定められた走行終了位置が、前記基準辺および前記基準辺の対辺を圃場端まで延長した2つの第2の延長線と、前記基準辺と頂点を共有する2辺のうち作業終了位置に遠い方の辺と、前記圃場の外周とで囲まれた第3の枕地領域にある場合には、
前記制御部は、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿う第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、前記第2の移動経路の終端を始端として前記進行方向に沿う第3の移動経路と、前記第3の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第4の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さに設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第3の移動経路は、前記基準辺および対辺のうちの近い方の辺に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第3の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第3の移動経路に進入させ、
前記第3の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第4の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第4の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の作業車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや薬液散布車両、田植え機等の作業車両を制御する作業車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタや薬液散布車両等の作業車両を自律走行させるための経路を生成する技術について、下記の特許文献1に記載の技術が従来公知である。
【0003】
特許文献1(特開2018-73050号公報)には、作業車両が走行する経路について、作業地の外形データに対して、周回走行する外周領域と外周領域の内側に位置する中央領域を設定し、中央領域を埋め尽くす直進経路と直進経路どうしを接続するUターン経路とを有する内側走行経路と、内側走行経路に接続されて外周領域を埋める周回走行経路とが決定され、出入口から内側走行経路への移行経路を決定する走行経路生成装置が記載されている。特許文献1に記載の技術では、移行経路、内側走行経路、周回走行経路の順に走行することで、作業地の全域で作業を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
特許文献1に示す構成では、内側走行経路で作業を行った後に、周回走行経路に移行して外周領域での作業を終えて、そのまま出入り口を通過する走行経路が開示されている。しかし、外周領域は、内側に比べて、石が存在しやすかったり、圃場面に凹凸が存在しやすかったり、畦が存在していたりするため、外周領域での作業には高い精度が要求される。すなわち、石や凹凸等で自動走行にずれが生じて畦に車輪等が接触すると畦が破壊されたり、車両が破損したりする恐れがある。よって、外周領域での作業は、作業者が手動で走行するほうが適切な場合がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術で、内側走行経路の走行終了位置で車両を停止させてしまうと、作業車両が圃場の内部に残された状態となり、作業者が作業車両に乗り込むことが困難である場合がある。
【0006】
本発明は、作業領域での走行を終えた後に目的の位置まで作業車両を移動させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
作業機を有する作業車両と、
前記作業車両の位置情報を取得する測位手段と、
前記作業車両の進行方向を取得する方向取得手段と、
作業が行われる作業領域と作業が行われない枕地領域とが予め設定された圃場の情報と、前記作業領域内において予め設定された作業終了位置を含む作業経路の情報と、に基づいて、前記作業車両を前記作業経路に沿って自律走行させながら作業を実行させるように制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記作業終了位置から非作業状態で前記枕地領域を自律走行して停止する走行終了位置を前記枕地領域内に設定する走行終了位置の設定手段と、前記枕地領域を判別する判別手段と、を有し、
前記作業領域の外周を構成する辺の中で前記作業経路に平行な基準辺に対して、前記基準辺と頂点を共有する2辺のうち作業終了位置に近い方の辺を圃場端まで延長した第1の延長線と圃場の外周とで囲まれた第1の枕地領域に、作業車両の自律走行を終了する走行終了位置がある場合であって、作業終了位置と走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲内である場合には、
前記作業終了位置と前記走行終了位置とを結ぶ直線に沿う移動経路に沿って、前記作業車両を移動させると共に、
前記作業終了位置と前記走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲外である場合には、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿い且つ前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さを有する第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記作業車両の進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする作業車両の制御システムである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
予め定められた走行終了位置が、前記第1の延長線と、前記基準辺または前記基準辺の対辺を圃場端まで延長した第2の延長線と、前記基準辺または前記対辺と、圃場の外周とで囲まれた第2の枕地領域にある場合には、
前記制御部は、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿う第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、前記第2の移動経路の終端を始端として前記進行方向に沿う第3の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さに設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第3の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第3の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両の制御システムである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、
予め定められた走行終了位置が、前記基準辺および前記基準辺の対辺を圃場端まで延長した2つの第2の延長線と、前記基準辺と頂点を共有する2辺のうち作業終了位置に遠い方の辺と、前記圃場の外周とで囲まれた第3の枕地領域にある場合には、
前記制御部は、
前記作業終了位置における作業車両の進行方向に沿う第1の移動経路と、前記第1の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第2の移動経路と、前記第2の移動経路の終端を始端として前記進行方向に沿う第3の移動経路と、前記第3の移動経路の終端を始端として前記進行方向に交差する方向に沿う第4の移動経路と、を有する移動経路を設定し、
前記第1の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離に応じた長さに設定され、
前記第2の移動経路は、前記作業終了位置に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第3の移動経路は、前記基準辺および対辺のうちの近い方の辺に対して前記作業車両の旋回半径の距離分離れた位置に設定され、
前記第1の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第2の移動経路に進入させ、
前記第2の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第3の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第3の移動経路に進入させ、
前記第3の移動経路を前記作業車両が走行中に、前記第4の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、前記作業車両の旋回を行って、前記第4の移動経路に進入させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両の制御システムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、走行終了位置が第1の枕地領域にあり、作業終了位置と走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲内である場合には、作業終了位置と走行終了位置とを結ぶ直線に沿う移動経路に沿って作業車両を移動させることで、作業領域での走行を終えた後に目的の位置である走行終了位置まで作業車両を移動させることができる。また、請求項1に記載の発明によれば、走行終了位置が第1の枕地領域にあり、且つ、作業終了位置と走行終了位置とを結ぶベクトルと、作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトルと、が成す角が予め定められた範囲外である場合には、第1の移動経路と第2の移動経路を有する移動経路を走行させることで、走行終了位置まで作業車両を移動させることができる。また、第1の移動経路を作業車両が走行中に、第2の移動経路との距離が旋回半径に到達すると、作業車両の旋回を行って、第2の移動経路に進入させることで、移動経路をスムーズに移動させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、走行終了位置が第2の枕地領域にある場合には、第1の移動経路~第3の移動経路を有する移動経路を走行させることで、走行終了位置まで作業車両を移動させることができる。また、次の移動経路までの距離が旋回半径に到達すると、作業車両の旋回を行って、次の移動経路に進入させることで、移動経路をスムーズに移動させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、走行終了位置が第3の枕地領域にある場合には、第1の移動経路~第4の移動経路を有する移動経路を走行させることで、走行終了位置まで作業車両を移動させることができる。また、次の移動経路までの距離が旋回半径に到達すると、作業車両の旋回を行って、次の移動経路に進入させることで、移動経路をスムーズに移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本実施の形態の作業車両の制御システムの説明図である。
【
図2】
図2は本実施の形態の作業車両の制御システムの機能ブロック図である。
【
図3】
図3は実施の形態の作業領域と枕地領域と作業経路との説明図である。
【
図4】
図4は実施の形態における移動経路の一例の説明図である。
【
図5】
図5は走行終了位置が第1の枕地領域にあり且つ初期角が設定範囲外の場合の移動経路の一例の説明図である。
【
図6】
図6は走行終了位置が第2の枕地領域にある場合の移動経路の一例の説明図である。
【
図7】
図7は走行終了位置が第3の枕地領域にある場合の移動経路の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施の形態の説明においては、機体の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後として説明する。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は本実施の形態の作業車両の制御システムの説明図である。
図1において、本実施の形態の作業車両の制御システムSは、作業車両の一例としての農業機械のトラクタ1を有する。トラクタ1は、後部に作業機2を有する。作業機2としては、圃場で行う作業に応じて、耕うん機やプラウ、施肥装置、播種機等、従来公知の作業機を使用可能である。また、作業車両としてトラクタ1を例示したが、これに限定されず、薬剤散布車両や田植え機、コンバイン、苗移植機等、任意の作業車両に適用可能である。
【0018】
図1において、実施の形態の作業車両の制御システムSは、情報処理装置の一例としてのサーバ101を有する。サーバ101は、通信回線の一例としてのインターネットワークNを介して、トラクタ1と情報の送受信が可能に構成されている。なお、実施の形態のトラクタ1は、無線通信でネットワークNを介してサーバ101と通信可能に構成されている。
さらに、実施の形態の作業車両の制御システムSは、作業者が使用する端末の一例であって、指示装置の一例としてのタブレット端末TABを有する。タブレット端末TABは、トラクタ1との間で、無線通信で情報の送受信が可能に構成されている。
【0019】
(機能ブロック図の説明)
図2は本実施の形態の作業車両の制御システムの機能ブロック図である。
図2において、本実施の形態の作業車両の制御システムSは、トラクタ1の制御部CAと、タブレット端末TABの制御部CB、サーバ101の制御部(図示せず)等を有する。各制御部CA,CBは、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェース(I/O)、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)、ならびに発振器等を有する小型情報処理装置、いわゆる、マイクロコンピュータ(コンピュータ装置の一例)により構成されており、前記ROMやRAM、不揮発性メモリ等の記憶部材に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0020】
(タブレット端末の制御部)
図2において、タブレット端末TABの制御部CBは、入力部の一例としてのタッチパネルTAB1や、電源ボタンや音量変更ボタン等の入力ボタンTAB2、通信部の一例としての通信モジュールTAB3等の信号出力要素からの出力信号が入力される。したがって、タブレット端末TABの制御部CBには、通信モジュールTAB3を介してトラクタ1の制御部CAやサーバ101から情報や信号の入力が可能である。
【0021】
タブレット端末TABの制御部CBは、表示器の一例としてのタッチパネルTAB1や、スピーカ(図示せず)、通信モジュールTAB3、その他の図示しない制御要素に接続されており、各制御要素へ、制御信号を出力している。よって、通信モジュールTAB3を介してトラクタ1の制御部CAやサーバ101に情報や信号を出力可能である。
【0022】
タブレット端末TABの制御部CBは、前記タッチパネルTAB1からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。本実施の形態のタブレット端末TABの制御部CBは、基本ソフトウェアの一例としてのオペレーティングシステムOSや、アプリケーションソフトウェアの一例であって、処理手段の一例としての処理ソフトウェアAP1、その他の、図示しないアプリケーションソフトウェア(インターネットブラウザや文書作成ソフトウェア等)を有する。処理ソフトウェアAP1は、下記の制御手段を有する。
【0023】
情報表示手段CB1は、作業経路の設定を行うための画像や、設定された作業経路やトラクタ1の稼働状況等の情報をタッチパネルTAB1に表示する。
【0024】
図3は実施の形態の作業領域と枕地領域と作業経路との説明図である。
作業経路の生成手段CB2は、利用者の作業領域の設定に応じて、作業経路を生成する。
図3において、作業経路の生成手段CB2は、一例として、圃場201に対して、利用者が作業領域202の広さ(外枠)と作業開始位置203aとを設定すると、予め定められたトラクタ1の旋回半径や作業機の作業幅に応じて、作業経路203と、旋回経路(非作業経路)204と、作業が終了する作業終了位置230とを自動的に生成する。なお、作業経路203の生成自体については従来公知の種々の構成(例えば、特許文献1の内側走行経路の生成方法等)を採用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
走行終了位置の設定手段CB3は、トラクタ1の作業領域202での作業の終了後に、トラクタ1が作業領域202の外側の枕地領域207を自律走行して停止する走行終了位置231の設定を行う。実施の形態の走行終了位置の設定手段CB3は、作業者がタッチパネルTAB1から手動で入力した位置を、走行終了位置231に設定する。
作業開始の指示手段(自律走行開始の指示手段)CB4は、タッチパネルTAB1への作業者の入力に応じて、トラクタ1に作業の開始、すなわち、自律走行の開始の指示情報を送信する。
【0026】
(トラクタ1の制御部)
図2において、トラクタ1の制御部CAは、通信部の一例としての通信モジュール111や、測位装置の一例としてのGPS装置112、方位取得装置の一例としてのジャイロセンサ113、その他、図示しない各種センサ等の信号出力要素からの出力信号が入力される。したがって、トラクタ1の制御部CAには、通信モジュール111を介してタブレット端末TABの制御部CBやサーバ101から情報や信号の入力が可能である。
【0027】
トラクタ1の制御部CAは、エンジンやクラッチ等の走行系やハンドル等の操舵系、通信モジュール111、その他の図示しない制御要素に接続されており、各制御要素へ、制御信号を出力している。
【0028】
トラクタ1の制御部CAは、各信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。本実施の形態のトラクタ1の制御部CAは、下記の制御手段を有する。
測位手段CA1は、GPS装置112からの信号に基づいてトラクタ1の現在位置の位置情報を取得する。
【0029】
方向取得手段CA2は、ジャイロセンサ113からの信号に基づいて、トラクタ1の進行方向(前方向の向き)を取得する。なお、方向を測定する方法はジャイロセンサに限定されず、方位磁石等、方向が測定可能な任意の方法を採用可能である。
作業経路情報の取得手段CA3は、作業経路203の情報を取得する。実施の形態の作業経路情報の取得手段CA3は、タブレット端末TABとの通信を介して、圃場201の位置情報や、作業領域202の情報、作業経路203や作業開始位置203aの情報、旋回経路204の情報を含む情報を取得し、記憶する。
【0030】
図4は実施の形態における移動経路の一例の説明図である。
移動経路の生成手段CA4は、枕地領域の判別手段CA4aと、初期方向の設定範囲判別手段CA4bとを有し、トラクタ1の作業終了位置230から走行終了位置231までの移動経路206を生成する。
【0031】
図4において、枕地領域の判別手段CA4aは、走行終了位置231が枕地領域207の中のどこにあるかを判別する。実施の形態の枕地領域の判別手段CA4aは、作業領域202の外周を構成する一辺の中で作業経路203と平行な基準辺207aに対して、基準辺207aと頂点を共有する2辺207b,207cのうち、作業終了位置230に近い辺(終了位置近辺)207bを圃場201の端まで延長した第1の延長線208と、基準辺207aおよび基準辺207aの対辺207eを作業開始位置203aから遠い方向まで延長した第2の延長線209と、を導出する。
【0032】
そして、本実施の形態では、終了位置近辺207bと第1の延長線208と圃場201の外周とで囲まれた領域を第1の枕地領域207Aとする。また、第1の延長線208と基準辺207aとその第2の延長線209と圃場201の外周とで囲まれた領域と、第1の延長線208と対辺207eとその第2の延長線209と圃場201の外周とで囲まれた領域と、を第2の枕地領域207Bとする。そして、終了位置遠辺207cと2つの第2の延長線209と圃場201の外周とで囲まれた領域を第3の枕地領域207Cとする。すなわち、第1の枕地領域207Aは、作業終了位置230におけるトラクタ1の進行方向230aの前方の領域であり、第2の枕地領域207Bは側方の領域、第3の枕地領域207Cは、作業領域202を挟んで反対側(後方)の領域である。
実施の形態の枕地領域の判別手段CA4aは、走行終了位置231が、3つの枕地領域207A~207Cの中のどの領域に属しているのかを判別する。
【0033】
初期方向の設定範囲判別手段CA4bは、トラクタ1の作業終了位置230と走行終了位置231とを結ぶベクトル232と、トラクタ1の作業終了位置230における進行方向のベクトル230aとがなす角(初期角)θ1が、予め定められた範囲(第1の設定範囲)θa内であるか否かを判別する。第1の設定範囲θaは、一例として、進行方向230aを0度として±45度の範囲が設定されている。すなわち、実施の形態では、直角移動経路の設定が必要なく(つまり、旋回が必要なく)、操舵だけで圃場をあまり荒らさずに走行終了位置231に移動できる範囲が、第1の設定範囲θaに設定されている。なお、具体的な数値範囲は、例示した数値に限定されず、設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
また、特に断らない場合、以降の説明において、「旋回」は、操舵輪だけでの方向変換(大旋回)ではなく、操舵輪での方向変換に加えて内輪の回転停止または逆回転により大旋回よりも小さい旋回半径での旋回(小旋回、旋回モード)を指す意味で使用する。
【0034】
図4において、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、第1の枕地領域207Aに走行終了位置231がある場合であって、初期角θ1が第1の設定範囲θaの範囲内である場合には、作業終了位置230と走行終了位置231とを結ぶ直線に沿う移動経路206を生成する。
【0035】
図5は走行終了位置が第1の枕地領域にあり且つ初期角が設定範囲外の場合の移動経路の一例の説明図である。
実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、第1の枕地領域207Aに走行終了位置231がある場合であって、初期角θ1が第1の設定範囲θaの範囲外である場合には、
図5に示すように、作業終了位置230におけるトラクタ1の進行方向230aに沿い且つ作業終了位置230に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離に応じた長さ(実施の形態では旋回半径r1よりも大きな予め定められた長さ)を有する延長移動経路(第1の移動経路)206aと、延長移動経路206aの終端を始端として進行方向230aに交差する方向に沿う第1の直角移動経路(第2の移動経路)206bと、を有する移動経路206を生成する。なお、延長移動経路206aの長さは、実施の形態に例示した距離に限定されず、旋回半径r1と同一の距離等、任意の距離に設定することが可能である。なお、以降の第1の直角移動経路206b、平行移動経路206c、第2の直角移動経路206dも同様である。
【0036】
図6は走行終了位置が第2の枕地領域にある場合の移動経路の一例の説明図である。
図6において、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、第2の枕地領域207Bに走行終了位置231がある場合には、延長移動経路206aと、第1の直角移動経路206bと、、第1の直角移動経路206bの終端を始端として進行方向230aに沿う平行移動経路(第3の移動経路)206cと、を有する移動経路206を生成する。
図6に示す移動経路206では、延長移動経路206aは、作業終了位置230に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離に応じた長さに設定される。また、第1の直角移動経路206bは、作業終了位置230に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離分離れた位置に設定される。
【0037】
図7は走行終了位置が第3の枕地領域にある場合の移動経路の一例の説明図である。
図7において、実施の形態の移動経路の生成手段CA4は、第3の枕地領域207Cに走行終了位置231がある場合には、延長移動経路206aと、第1の直角移動経路206bと、平行移動経路206cと、平行移動経路206cの終端を始端として進行方向230aに交差する方向に沿う第2の直角移動経路(第4の移動経路)206dと、を有する移動経路206を生成する。
図7に示す移動経路206では、延長移動経路206aは、作業終了位置230に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離に応じた長さに設定される。また、第1の直角移動経路206bは、作業終了位置230に対してトラクタ1の旋回半径r1の距離分離れた位置に設定される。さらに、平行移動経路206cは、基準辺207aまたは対辺207eのうちの近いほうの辺に対して、トラクタ1の旋回半径r1の距離分離れた位置に設定される。
【0038】
走行制御手段CA5は、旋回半径の判別手段CA5aを有し、トラクタ1の走行(前進、後進、停止、操舵、旋回)を制御する。走行制御手段CA5は、作業領域202内では、作業経路203および旋回経路204に沿ってトラクタ1を走行させ、枕地領域207A~207Cでは、生成された移動経路206に沿ってトラクタ1を走行させる。
【0039】
旋回半径の判別手段CA5aは、移動経路206に沿って走行終了位置231に向けて移動する際に、旋回を行う時期(タイミング)になったか否かを判別する。
図4に示す移動経路206が生成(設定)された場合、旋回半径の判別手段CA5aは、作業終了位置230から走行を開始する際に、走行終了位置231に向かう直線状の移動経路206に進入させるように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0040】
図5に示す移動経路206が設定された場合、旋回半径の判別手段CA5aは、延長移動経路206aをトラクタ1が走行中に、第1の直角移動経路206bまでの距離が旋回半径r1の距離に到達した場合には、第1の直角移動経路206bに進入するように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0041】
図6に示す移動経路206が設定された場合、旋回半径の判別手段CA5aは、第1の直角移動経路206bへの進入までは、
図5の場合と同様に旋回の判別、制御が行われる。そして、第1の直角移動経路206bをトラクタ1が走行中に、平行移動経路206cまでの距離が旋回半径r1の距離に到達した場合には、平行移動経路206cに進入するように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0042】
図7に示す移動経路206が設定された場合、旋回半径の判別手段CA5aは、平行移動経路206cへの進入までは、
図6の場合と同様に旋回の判別、制御がされる。そして、平行移動経路206cをトラクタ1が走行中に、第2の直角移動経路206dまでの距離が旋回半径r1の距離に到達した場合には、第2の直角移動経路206dに進入するように、トラクタ1の旋回を開始させる。
【0043】
作業機の制御手段CA6は、作業機2の稼働(作動、停止)を制御する。実施の形態の作業機の制御手段CA6は、トラクタ1が移動経路206や旋回経路204を移動中は作業機2を停止、上昇させ、トラクタ1が作業経路203を移動中は作業機2を作動、下降させる。
【0044】
(実施の形態の作用)
前記構成を備えた実施の形態のトラクタ1の制御システムSでは、作業領域202の外側の枕地領域207に走行終了位置231が設定されると、作業終了位置230からの移動経路206が自動的に生成される。そして、生成された移動経路206に沿って、作業終了位置230から自律的にトラクタ1が走行し、走行終了位置231に到着すると自律走行を停止する。
したがって、実施の形態のトラクタの制御システムSでは、枕地領域207では作業が行われず、作業者が指定した走行終了位置231までトラクタ1を自律走行させることができる。よって、作業者が安全、容易にトラクタ1に乗り込める位置のような目的の位置までトラクタ1を移動させることができるとともに、畦等があって慎重な作業が求められる枕地領域207において、作業者がトラクタ1を操縦して作業を行うことができる。よって、畦の破壊やトラクタ1の破損の低減も期待できる。
【0045】
なお、実施の形態のトラクタの制御システムSにおいて、作業経路203等の生成をタブレット端末TABで行い、移動経路206の生成をトラクタ1で行う構成を例示したがこれに限定されない。各経路203,204,206の生成をタブレット端末TABで行ったり、トラクタ1で行ったり、サーバ101で行ったりすることが可能である。このとき、特定の装置で集中処理することも可能であるが、複数の装置で分散処理することも可能である。
また、本実施の形態のように枕地領域207では作業を行わずに走行終了位置まで移動して作業者が手動で走行させて作業を行う枕地手動モードと、特許文献1のように枕地領域も自律走行させながら作業を行う枕地自動モードとを切り替え可能な構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…作業車両、
2…作業機、
201…圃場、
202…作業領域、
203…作業経路、
206…移動経路、
206a…第1の移動経路、
206b…第2の移動経路、
206c…第3の移動経路、
206d…第4の移動経路、
207…枕地領域、
207a…基準辺、
207b…作業終了位置に近いほうの辺、
207c…作業終了位置から遠いほうの辺、
207e…基準辺の対辺、
207A…第1の枕地領域、
207B…第2の枕地領域、
207C…第3の枕地領域、
208…第1の延長線、
209…第2の延長線、
230…作業終了位置、
230a…作業終了位置における作業車両の進行方向のベクトル、
231…走行終了位置、
232…作業終了位置と走行終了位置とを結ぶベクトル、
CA,CB…制御部、
CA1…測位手段、
CA2…方向取得手段、
r1…旋回半径、
S…作業車両の制御システム、
θ1…なす角、
θa…予め定められた範囲。