(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材
(51)【国際特許分類】
C09J 123/26 20060101AFI20240130BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240130BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240130BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20240130BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20240130BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20240130BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J11/06
B32B15/085 A
H01M50/105
H01M50/129
H01M50/121
(21)【出願番号】P 2020541242
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2019034645
(87)【国際公開番号】W WO2020050277
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018164976
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】平川 真
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116555(WO,A1)
【文献】特開2016-125042(JP,A)
【文献】特開2015-036385(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 15/08
H01M 50/10-50/171
H01M 50/129
H01M 50/121
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、当該有機溶剤に溶解する酸性基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、並びにイソシアネート化合物を含有する接着剤組成物であって、当該イソシアネート化合物が脂環構造を有するイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(B)並びに脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物及び/又はその誘導体(C)であり、
前記イソシアネート化合物のイソシアネート基と前記ポリオレフィン(A)のカルボン酸基との当量比(NCO/COOH)が0.01~12.0であり、
前記(B)成分と前記(C)成分のNCO含有量の割合が、(B)成分と(C)成分の合計量を100%とした場合(B)成分が50~90%未満である、リチウムイオン電池用接着剤組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物のイソシアネート基と前記ポリオレフィン(A)のカルボン酸基との当量比(NCO/COOH)が0.01~6.0である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記脂環構造を有するイソシアネート化合物が、水添キシリレンジイソシアネート及びその誘導体、並びに、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びその異性体並びにそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物が、炭素数4~18の直鎖状アルキル基を有する化合物である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記脂環構造を有するイソシアネート化合物の誘導体及び/又は脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物の誘導体が、イソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合及びアロファネート結合からなる群より選択される少なくとも1つの結合を含む化合物である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーでグラフト変性されたポリオレフィンであって、そのグラフト量が0.10~30質量%である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(A)成分が、炭素数8~18のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物でグラフト変性されたポリオレフィンであって、そのグラフト量が0.10~20質量%である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記(A)成分の重量平均分子量が15,000~200,000であり、融点が50~100℃である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の接着剤組成物が硬化してなる接着剤層と、当該接着剤層の一面側に接合された金属層と、当該接着剤層の他面側に接合された熱融着性樹脂層とを備えることを特徴とする
リチウムイオン電池用熱融着性部材。
【請求項10】
請求項9に記載の熱融着性部材を含むリチウムイオン電池用包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材に関し、電気分野、自動車分野及び産業分野等の様々な工業用製品分野において使用することができ、これら技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト型の接着剤組成物は、フィルム状又はシート状に加工して使用され、部材の表面に当該接着剤組成物が積層された接着性フィルム又はシートとして、電気分野、自動車分野及び産業分野等の様々な工業用製品分野で利用されている。
これら分野で用いられる、鉄、アルミニウム、チタン及びその他金属等、並びにそれらの合金等の金属部材と接着性に乏しいポリオレフィンからなる成形体を接着するために、各種の接着剤組成物が提案されている。
特開平4-18480号公報には、カルボン酸含有ポリオレフィンと、カルボン酸含有エポキシ樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、必要に応じてエポキシ樹脂とからなる成分を有機溶剤に溶解、分散させてなる接着剤組成物が開示されている。
特開2015-36385号公報には、カルボキシル基又は酸無水物基を有するポリオレフィン、多官能イソシアネート化合物及び溶剤を含有し、ポリオレフィンのガラス転移温度、融点及び融解エネルギーが特定の値である接着剤組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特開平4-18480号公報及び特開2015-36385号公報に記載された接着剤組成物は、室温(25℃)における接着性(以下、「常温剥離強度」という。)は5N/15mm以上と実用域ではあるものの改善の余地があり、80℃程度の高温における接着性(以下、「高温剥離強度」という。)が不十分である。
また、これらの接着剤組成物を用いてリチウムイオン電池用包装材料を製造した場合、当該包装材料は通常の使用時には電解液に接触しないものの、異常時に備えて80℃程度の高温の電解液に浸漬した後の接着性(以下、「耐電解液性」という。)が必要であるが、不十分という問題があった。
本発明の一実施形態は、常温剥離強度が20N/15mm以上、かつ、高温剥離強度が10N/15mm以上と高く接着性に優れる上、リチウムイオン電池用包装材料に用いた場合でも耐電解液性に優れる接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機溶剤、当該有機溶剤に溶解する酸性基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィン、並びに特定のイソシアネート化合物を含有する接着剤組成物が、常温剥離強度及び高温剥離強度が高く接着性に優れるものとすることができ、リチウムイオン電池用包装材料に用いた場合でも耐電解液性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明には以下の実施形態が含まれる。
[1]有機溶剤、当該有機溶剤に溶解する酸性基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、並びにイソシアネート化合物を含有する接着剤組成物であって、当該イソシアネート化合物が脂環構造を有するイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(B)である接着剤組成物。
[2]前記脂環構造を有するイソシアネート化合物が、水添キシリレンジイソシアネート及びその誘導体、並びに4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びその異性体並びにそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である[1]に記載の接着剤組成物。
[3]脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物及び/又はその誘導体(C)をさらに含有する[1]又は[2]に記載の接着剤組成物。
[4]前記脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物が、炭素数4~18の直鎖状アルキル基を有する化合物である[1]~[3]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[5]前記脂環構造を有するイソシアネート化合物の誘導体及び/又は脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物の誘導体が、イソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合及びアロファネート結合からなる群より選択される少なくとも1つの結合を含む化合物である[1]~[4]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[6]前記(A)成分が、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーでグラフト変性されたポリオレフィンであって、そのグラフト量が0.10~30質量%である[1]~[5]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[7]前記(A)成分が、炭素数8~18のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物でグラフト変性されたポリオレフィンであって、そのグラフト量が0.10~20質量%である[1]~[6]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[8]前記(A)成分の重量平均分子量が15,000~200,000であり、融点が50~100℃である[1]~[7]のいずれか1つに記載の接着剤組成物。
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の接着剤組成物が硬化してなる接着剤層と、当該接着剤層の一面側に接合された金属層と、当該接着剤層の他面側に接合された熱融着性樹脂層とを備えることを特徴とする熱融着性部材。
[10][9]に記載の熱融着性部材を含むリチウムイオン電池用包装材料。
【発明の効果】
【0006】
本開示の接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材によれば、常温剥離強度及び高温剥離強度が高く接着性に優れる上、リチウムイオン電池用包装材料に用いた場合でも耐電解液性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の熱融着性部材の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】本開示の熱融着性部材の他の例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の態様(本開示の接着剤組成物)は、有機溶剤、当該有機溶剤に溶解する酸性基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、並びにイソシアネート化合物を含有する接着剤組成物であって、当該イソシアネート化合物が脂環構造を有するイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(B)である接着剤組成物に関する。
以下、(A)成分、(B)成分、(C)成分、有機溶剤、その他成分、接着剤組成物、接着剤組成物の製造方法、熱融着性部材、熱融着性部材の製造方法及び用途について説明する。
なお、本明細書においては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【0009】
1.(A)成分
(A)成分は、酸性基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィンである。
【0010】
(A)成分としては、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーで変性されたポリオレフィンが、常温剥離強度と高温剥離強度が高い点で好ましい。
【0011】
(A)成分としては、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマー、並びに(メタ)アクリル酸エステルで変性されたポリオレフィンが、有機溶剤への溶解性、他の樹脂との相溶性に優れる点で好ましい。
【0012】
(A)成分のポリオレフィン構成単位の具体例としては、エチレン、プロピレン、並びに1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン及び1-オクテン等のα-オレフィンのそれぞれに由来する構成単位が挙げられる。これらの中でも、結晶性ポリエチレン、ポリプロピレン等の難接着性非極性ポリオレフィン樹脂を被着体とする場合は、高温剥離強度及び耐電解液性を向上できる点で、エチレン、プロピレン及び1-ブテンのそれぞれに由来する構成単位が好ましい。
【0013】
酸性基の具体例としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、これらの中でも、変性が容易である点で、カルボン酸基が好ましい。
【0014】
酸無水物基の具体例としては、カルボン酸無水物基、スルホン酸無水物基及びリン酸無水物基等が挙げられ、これらの中でも、原料の入手が容易であり、変性が容易である点で、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0015】
変性の方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、溶融混練又は有機溶剤中で、有機過酸化物及び脂肪族アゾ化合物等の公知のラジカル重合開始剤の存在下で、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーをポリオレフィンに付加反応させるグラフト変性、並びに酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーとオレフィン類との共重合等が挙げられる。
【0016】
(A)成分は、さらに、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されていても良く、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数8~18のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物(以下、「(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル」という。)が好ましい。
【0017】
(A)成分中の酸性基含有モノマーのグラフト量、酸無水物基含有モノマーのグラフト量及び(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量を向上させる場合、原料となる未変性のポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンのランダム共重合体、プロピレンとエチレンのブロック共重合体、エチレンとα-オレフィンのランダム共重合体、エチレンとα-オレフィンのブロック共重合体、プロピレンとα-オレフィンのランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンのブロック共重合体等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、結晶性ポリエチレン、ポリプロピレン等の難接着性非極性ポリオレフィン樹脂を被着体とする場合は、高温剥離強度及び耐電解液性を向上できる点で、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体及びプロピレン-エチレン1-ブテン共重合体等のポリプロピレン系重合体が好ましい。また、ポリオレフィンにおけるプロピレン単位が50質量%以上であることがより好ましい。
【0019】
(A)成分中の酸性基含有モノマーのグラフト量、酸無水物基含有モノマーのグラフト量及び(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量を向上させるために、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びクメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物を用いることが好ましく、反応助剤及び樹脂安定性の調整のための安定化剤を使用することができる。
【0020】
反応助剤の具体例としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン及びジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0021】
安定化剤の具体例としてはヒドロキノン、ベンゾキノン及びニトロソフェニルヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0022】
1-1.酸性基含有モノマー
(A)成分の原料となる酸性基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合及びカルボン酸基等を同一分子内に持つ化合物が挙げられ、具体的には、各種の不飽和モノカルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物及び不飽和トリカルボン酸化合物等が挙げられる。
【0023】
不飽和モノカルボン酸化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸等が挙げられる。
【0024】
不飽和ジカルボン酸化合物の具体例としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ナジック酸及びエンディック酸等が挙げられる。
【0025】
不飽和トリカルボン酸化合物としては、アコニット酸等が挙げられる。
【0026】
酸性基含有モノマーとしては、変性が容易であり接着性に優れる点で、不飽和ジカルボン酸化合物及び不飽和トリカルボン酸化合物が好ましく、イタコン酸、マレイン酸及びアコニット酸がより好ましい。
【0027】
これらの酸性基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0028】
変性に用いた酸性基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、加熱留去又は再沈殿精製等の公知の方法により、未反応の酸性基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0029】
(A)成分が酸性基含有モノマーでグラフト変性されたポリオレフィンの場合には、(A)成分における酸性基含有モノマーのグラフト量は、(A)成分の全質量に対して0.10~30質量%である事が好ましい。溶剤に対する溶解性及び金属被着体等の材料に対する接着性を保つことができる点で、0.10質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましい。また、十分な接着性を得ることができる点で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0030】
酸性基含有モノマーのグラフト量は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ滴定法又はフーリエ変換赤外分光法によって求めることができる。
【0031】
1-2.酸無水物基含有モノマー
(A)成分の原料となる酸無水物基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合及びカルボン酸無水物基等を同一分子内に持つ化合物が挙げられ、具体的には、前記不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物、前記不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物及び前記不飽和トリカルボン酸化合物の酸無水物等が挙げられる。
【0032】
不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、クロトン酸無水物及びイソクロトン酸無水物等が挙げられる。
【0033】
不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物及びエンディック酸無水物等が挙げられる。
【0034】
不飽和トリカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、アコニット酸無水物等が挙げられる。
【0035】
酸無水物基含有モノマーとしては、変性が容易であり接着性に優れる点で、不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物及び不飽和トリカルボン酸化合物の酸無水物が好ましく、イタコン酸無水物、マレイン酸無水物及びアコニット酸無水物がより好ましい。
【0036】
これらの酸無水物基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0037】
変性に用いた酸無水物基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、加熱留去又は再沈殿精製等の公知の方法により、未反応の酸無水物基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0038】
(A)成分が酸無水物基含有モノマーでグラフト変性されたポリオレフィンの場合には、(A)成分における酸無水物基含有モノマーのグラフト量は、(A)成分の全量に対して0.10~30質量%である事が好ましい。溶剤に対する溶解性及び金属被着体等の材料に対する接着性を保つことができる点で、0.10質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましい。また、十分な接着性を得ることができる点で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
酸無水物基含有モノマーのグラフト量は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ滴定法或いはフーリエ変換赤外分光法によって求めることができる。
【0040】
1-3.(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル
(A)成分の原料となる(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル及び(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられ、難接着性非極性ポリオレフィン樹脂を被着体とする場合の接着性を向上できる点で、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル及び(メタ)アクリル酸トリデシルが好ましい。
【0041】
(A)成分中の前記(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量は、(A)成分の全量に対して0.10~20質量%である事が好ましい。(A)成分の溶剤に対する溶解性、他樹脂との相溶性、及び接着性を良好に保持することができる点で、0.10質量%以上が好ましい。また、接着性を良好に保持することができる点で、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
前記(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量は、公知の方法で測定することができる。例えば、フーリエ変換赤外分光法又は1H-NMR法によって求めることができる。
【0043】
目的に応じて、本開示の接着剤組成物の特性を損なわない範囲で、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマー、並びに前記(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル以外のモノマー(以下、「他のモノマー」という。)を併用することができる。
【0044】
他のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びイソシアネート含有(メタ)アクリル酸等の前記以外の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、ジシクロペンタジエン等のオレフィン類と共重合可能な不飽和モノマー等が挙げられる。
【0045】
他のモノマーを併用することで、接着性及び溶剤に対する溶解性、並びに酸性基含有モノマーのグラフト量及び/又は酸無水物基含有モノマーのグラフト量、並びに前記(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量を、さらに向上することができる。なお、他のモノマーの使用量は、酸性基含有モノマーのグラフト量及び/又は酸無水物基含有モノマーのグラフト量、並びに前記(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量の合計を超えないことが望ましい。
【0046】
(A)成分としては、目的に応じて及び本開示の接着剤組成物の特性を損なわない範囲で、酸性基及び/又は酸無水物基に加えてエチレン性不飽和基を有するポリオレフィンであっても良い。
(A)成分にエチレン性不飽和基を導入する方法としては、例えば、(A)成分に有する酸性基及び/又は酸無水物基に対して、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体、及び(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体を付加させる方法等が挙げられる。
【0047】
(A)成分の重量平均分子量は、15,000~200,000が好ましい。常温剥離強度及び耐電解液性を向上できる点で、15,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、40,000以上がさらに好ましい。また、接着剤組成物中の有機溶剤への溶解性を向上できる点で、200,000以下が好ましく、150,000以下がより好ましい。
【0048】
本開示において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分子量をポリスチレン換算した値を意味する。
【0049】
(A)成分の融点としては、50~100℃が好ましい。十分な剥離強度を得ることができる点で、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、低温での十分な保存安定性を得ることができる点で、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。
【0050】
(A)成分の融点は、以下のように測定する。
JIS K 7121(1987年制定)の規定に準じ、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で測定し、結晶化したときの温度を融点(以下「Tm」)とする。
【0051】
本開示の接着剤組成物が含有する(A)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0052】
(A)成分の含有量としては、高温剥離強度及び耐電解液性に優れる点で、接着剤組成物の固形分100質量%に対して80~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%である。
【0053】
2.イソシアネート化合物
本開示の接着剤組成物に用いるイソシアネート化合物としては、脂環構造を有する炭化水素のイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(B)、脂環構造を有しない飽和脂肪族炭化水素のイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(C)を使用する。
【0054】
(B)成分は、(A)成分との相溶性が良いため、硬化物の架橋密度をあげる作用が高く高温剥離強度を向上させると共に電解液等による接着剤の膨潤を低減させる効果があり、(C)成分は、被着体への密着性を向上させる効果がある。
【0055】
2-1.(B)成分
(B)成分は、脂環構造を有するイソシアネート化合物(以下、「(b)成分」という。)及び/又はその誘導体である。
【0056】
(b)成分の具体例としては、水添キシリレンジイソシアネート(構造異性体である1,2-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、並びにこれらの立体異性体を含む)、4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びその構造異性体(2,2’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及び2,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート))、並びにこれらの立体異性体、ノルボルナンジメチルイソシアネート、並びにイソホロンジイソシアネート(異性体を含む)等が挙げられる。
【0057】
(b)成分としては、高温剥離強度を向上させる効果が高い点で、脂環構造を少なくとも1個以上有するジイソシアネート化合物が好ましく、これらの中でも、水添キシリレンジイソシアネート、並びに4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びその異性体がより好ましい。
【0058】
(b)成分の誘導体としては、イソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合及び/又はアロファネート結合を含む化合物が好ましく、イソシアヌレート結合を含む化合物がより好ましい。
【0059】
(b)成分の誘導体としては、尿素結合及び/又はウレトジオン結合を有していても良い。
なお、本開示の接着剤組成物において(B)成分は有機溶剤に溶解していることが好ましい。
【0060】
(B)成分としては、市販品を用いることができる。
脂環構造を有するイソシアネート化合物((b)成分)としては、HMDI(万華化学ジャパン(株)製)、デスモジュールW(住化コベストロウレタン(株)製)、フォルティモ(三井化学(株)製)、タケネート600(三井化学(株)製)、コスモネートNBDI(三井化学(株)製)及びIPDI(Beyond Industries Limited製)が挙げられる。
(b)成分の誘導体としては、イソシアヌレート結合を有する化合物の市販品として、デスモジュールZ4470BA(住化コベストロウレタン(株)製)及びデュラネートT4900-70B(旭化成(株)製)等が挙げられる。
アロファネート結合を有する化合物の市販品としては、デスモジュールXP2565(住化コベストロウレタン(株)製)等が挙げられる。
ウレタン結合を有する化合物の市販品としては、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンとのアダクト体であるタケネートD-140N(三井化学(株)製)及びイソホロンジイソシアネートとヒドロキシエチルアクリレートとのモノアダクト体であるVESTANAT EP-DC1241(エボニックジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0061】
2-2.(C)成分
(C)成分は、脂環構造を有しない脂肪族イソシアネート化合物(以下、「(c)成分」という。)及び/又はその誘導体である。
(c)成分としては、接着剤組成物の常温剥離強度を向上させる効果が高い点で、炭素数が4~18の直鎖状アルキル基を有するものが好ましい。
(c)成分の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート及びテトラメチレンジイソシアネート等が挙げられ、(c)成分としては、被着体への密着性を向上させる効果が高い点で、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0062】
(c)成分の誘導体としては、イソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合及び/又はアロファネート結合を含む化合物が好ましく、被着体への密着性を向上させる効果が高く、常温剥離強度及び耐電解液性を向上できる点で、イソシアヌレート結合を含む化合物がより好ましい。
【0063】
(c)成分の誘導体としては、尿素結合及び/又はウレトジオン結合を有していても良い。
【0064】
(c)成分の誘導体としては、市販品を用いることができる。
イソシアヌレート結合を有する化合物の市販品としては、デュラネートTPA-100(旭化成(株)製)、デュラネートMFA-75B(旭化成(株)製)、デュラネートTUL-100(旭化成(株)製)、デュラネートTSA-100(旭化成(株)製)、コロネ-トHX(東ソー(株)製)及びタケネートD-170N(三井化学(株)製)等が挙げられる。
ビュレット結合を有する化合物の市販品としては、デュラネート24A-100(旭化成(株)製)、デュラネート21S-75E(旭化成(株)製)及びタケネートD-165NN(三井化学(株)製)及びデスモジュールN3200(住化コベストロウレタン(株)製)等が挙げられる。
ウレタン結合を有する化合物の市販品としては、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体であるデュラネートP301-75E(旭化成(株)製)及びスミジュールHT(住化コベストロウレタン(株)製)等が挙げられる。
アロファネート結合を有する化合物の市販品としては、デスモジュールXP2580(住化コベストロウレタン(株)製)等が挙げられる。
【0065】
本開示の接着剤組成物における(A)成分と、イソシアネート化合物との質量割合は、特に限定されないが、イソシアネート化合物のイソシアネート基と(A)成分のカルボン酸基との当量比(NCO/COOH)は、0.01~12.0が好ましい。初期の接着性に優れたものとすることができる点で、0.01以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、1.0以上が特に好ましい。また、金属との接着性に優れたものとすることができる点で、12.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましい。
【0066】
本開示の接着剤組成物における(B)成分と(C)成分のNCO含有量の割合は、(B)成分と(C)成分の合計量を100%とした場合、(B)成分が10~100%、(C)成分が0~90%が好ましい。硬化物の架橋密度をあげる作用が高く高温剥離強度を向上できる点で、(B)成分は20~90%が好ましく、30~90%がより好ましく、50~90%がさらに好ましい。また、被着体への密着性を向上できる点で、(C)成分は10~80%が好ましく、10~70%がより好ましく、10~50%がさらに好ましい。
【0067】
3.有機溶剤
本開示の接着剤組成物において、有機溶剤は、(A)成分を溶解する目的で含有する。
【0068】
有機溶剤の具体例としては、トルエン及びキシレン等の芳香族系有機溶剤、n-ヘキサン等の脂肪族系有機溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びエチルシクロヘキサン等の脂環族系有機溶剤、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤、メタノール及びエタノール等のアルコール系有機溶剤、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、並びにプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル及びプロピレングリコール-t-ブチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系有機溶剤等が挙げられる。
【0069】
本開示の接着剤組成物としては、有機溶剤は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0070】
有機溶剤としては、接着剤組成物の加熱等により揮発させ、除去することが容易な有機溶剤であることが好ましく、脂環族系有機溶剤と、エステル系又はケトン系有機溶剤の混合溶剤を用いることがより好ましい。
【0071】
本開示の接着剤組成物において、有機溶剤と(A)成分との質量割合は、特に限定されず、この質量割合は、有機溶剤及び変性ポリオレフィン系樹脂の種類等により設定することができる。
【0072】
(A)成分の含有量は、有機溶剤及び(A)成分の合計を100質量%とした場合に、好ましくは5~25質量%、より好ましくは10~20質量%である。このような含有量であれば、接着剤組成物を被着体に塗布し易く、作業性に優れる。
【0073】
4.その他成分
本開示の接着剤組成物は、有機溶剤、(A)~(C)成分を含有するものであるが、目的に応じて種々の成分を含有することができる。
【0074】
その他成分としては、具体的には、硬化触媒、スチレン系熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、分散剤、密着性付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、滑剤及び充填剤等が挙げられる。
【0075】
以下、これらの成分について説明する。
なお、後記するその他の成分は、例示した化合物の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0076】
4-1.硬化触媒
硬化触媒は、(A)成分と、イソシアネート化合物との架橋反応を促進し、優れた接着性能を得る目的で、本開示の接着剤組成物に含有することができる。
【0077】
本開示の接着剤組成物は、硬化の容易性及び接着性能の点から、硬化触媒をさらに含有することが好ましく、硬化触媒としては、有機スズ化合物及び第3級アミン等が好ましい。
【0078】
有機スズ化合物の具体例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート及びジオクチルスズジマレエート等のアルキル基の炭素原子数が3~10のジオクチルスズ脂肪酸等が挙げられる。
【0079】
第3級アミンの具体例としては、テトラメチルエチレンジアミン等のテトラアルキルエチレンジアミン;ジメチルベンジルアミン等のN,N’-ジアルキルベンジルアミン;トリエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、N-エチルモルフィリン、N-メチルモルフィリン、1-メチル-4-ジメチルアミンエチルピペラジン及び1,8ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
【0080】
硬化触媒としては、有機スズ化合物と第3級アミンとを併用することもできる。
【0081】
硬化触媒の含有割合は、(A)~(C)成分の合計量100質量部に対して0.001~5質量部が好ましい。硬化触媒の割合を0.001質量部以上にすることで触媒効果が充分に得られやすく、硬化触媒の割合を5質量部以下とすることで接着剤組成物の保存安定性及び硬化剤配合後の可使時間を確保できる。
【0082】
4-2.スチレン系熱可塑性エラストマー
スチレン系熱可塑性エラストマーは、接着力を向上する目的で、本開示の接着剤組成物に含有することができる。
【0083】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、エポキシ変性スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEPS」という)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」という)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系樹脂等が挙げられ、酸性基及び酸無水物基を有しないものであっても酸性基及び/又は酸無水物基を有するものであっても良く、アミノ基を有するものであっても良い。
【0084】
酸性基及び/又は酸無水物基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物及び脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、前記酸性基及び/又は酸無水物基含有モノマーを前記スチレン系樹脂と溶融混練する等のグラフト変性等が挙げられる。
【0085】
アミノ基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、リビングアニオン重合により得た前記スチレン系樹脂のリビング末端にアミノ基含有化合物を付加させる等の末端変性、並びに有機過酸化物及び脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、2-(1-シクロヘキセニル)エチルアミン等の不飽和結合を持つアミン化合物を前記スチレン系樹脂と溶融混練する等のグラフト変性等が挙げられる。
【0086】
スチレン系熱可塑性エラストマーの中でも、接着力を向上できる点で、SEPS及びSEBSが好ましい。
【0087】
4-3.粘着付与剤
粘着付与剤は、接着力を向上する目的で、本開示の接着剤組成物に含有することができる。
【0088】
粘着付与剤としては、公知のものを使用することができ、ポリテルペン系樹脂、ロジン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、共重合系石油樹脂及び水添石油樹脂等が挙げられる。
【0089】
ポリテルペン系樹脂の具体例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、及びこれらとフェノール又はビスフェノールA等との共重合体等が挙げられる。
【0090】
ロジン系樹脂の具体例としては、天然ロジン、重合ロジン及びこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0091】
脂肪族系石油樹脂の具体例としては、C5系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC5留分より合成される樹脂が挙げられる。脂環族系石油樹脂の具体例としては、C9系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC9留分より合成される樹脂が挙げられる。
【0092】
共重合石油樹脂の具体例としては、C5/C9共重合樹脂等が挙げられる。
【0093】
水添石油樹脂は、一般に、上記の各種石油樹脂の水素添加により製造されたものである。
【0094】
粘着付与剤の含有量としては、耐温水性に優れるという点で、接着剤組成物の100質量%に対して、1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1~10質量%である。
【0095】
5.接着剤組成物
本開示の接着剤組成物は、有機溶剤及び前記(A)~(C)成分に、好ましくはさらに硬化触媒を含有するものである。
【0096】
本開示の接着剤組成物の25℃における粘度としては、10~5,000mPa・sが好ましい。塗工性に優れる点で、10mPa・s以上が好ましい。また、レベリング性に優れる点で、5,000mPa・s以下が好ましく、1,000mPa・s以下がより好ましい。
【0097】
本開示の接着剤組成物は、ポリオレフィン樹脂成形体と他の部材(金属製部材及び樹脂製部材等)との接着に好適であり、ポリオレフィン樹脂フィルム等のポリオレフィン樹脂成形体同士だけでなく、ポリオレフィン樹脂フィルムと、アルミニウム等からなる金属箔との接着、ポリオレフィン樹脂フィルムと、樹脂層及び金属層を備える複合フィルムにおける金属層との接着等に用いることもできる。接着剤層は、常温剥離強度及び高温剥離強度が高く接着性に優れる上、高い耐電解液性を有するため、リチウムイオン電池用包装材料として好ましく用いることができる。
【0098】
6.接着剤組成物の製造方法
本発明の第2の態様(本開示の接着剤組成物の製造方法)は、公知の方法で製造できる。
【0099】
具体的には、(A)成分を有機溶剤に溶解させてなる溶液と、イソシアネート化合物を除く他の成分とを混合した後、得られた混合物と、イソシアネート化合物とを混合する方法が挙げられる。混合時の温度は、40℃以下が好ましく、より好ましくは10℃~30℃である。
【0100】
7.熱融着性部材
本発明の第3の態様(本開示の熱融着性部材)は、本発明の第1の態様に係る接着剤組成物が硬化してなる接着剤層と、接着剤層の一面側に接合された金属層と、接着剤層の他面側に接合された熱融着性樹脂層とを備える熱融着性部材である。
本開示の熱融着性部材の概略図は、
図1及び
図2に示される。即ち、
図1の熱融着性部材1は、熱融着性樹脂層11と、接着剤層12と、金属層13とを、順次備える。また、
図2の熱融着性部材1は、熱融着性樹脂層11と、接着剤層12と、金属層13と、他の層14とを、順次備える。
【0101】
本開示の熱融着性部材の形状は、用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、フィルム状、シート状、板状、アングル状及び棒状等が挙げられる。
【0102】
上記の熱融着性樹脂層は、熱によって溶融する樹脂を含む層であり、この樹脂は、一面側の層を構成する材料と、他面側の層を構成する材料とを融着し得る。そして、この熱融着性樹脂層は、好ましくは50℃~200℃の温度で溶融する樹脂を含む層である。このような性質を有する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの中では、十分な強度で熱融着させることができることから、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレンがより好ましい。特に、熱融着性部材を用いて、他の部材と一体化させる場合に、寸法変化(収縮)が少ないことから、無延伸ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0103】
上記の熱融着性樹脂層は、必要に応じて、滑剤、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、分散剤及び密着性付与剤等の添加剤を含む層であってもよい。
【0104】
上記の熱融着性樹脂層の厚さは、樹脂の材質等にもより、特に限定されないが、例えば、無延伸ポリプロピレンを含む層である場合、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~100μmである。無延伸ポリプロピレンを含む層の厚さが10~200μmであれば、容易に破損することがなく、耐久性の高い密封容器等の熱融着複合製品を得ることができる。
【0105】
上記の接着剤層は、本開示の接着剤組成物が硬化して形成された層である。接着剤層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1~20μm、より好ましくは2~10μmである。接着剤層の厚さが1~20μmであれば、熱融着性部材が、例えば、シート状である場合の折り曲げ等の加工が容易である。
【0106】
上記の金属層は、金属又は合金を含む層である。金属又は合金は、アルミニウム、鉄、チタン、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム及びその他金属等、並びにそれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、加工性に優れるため、アルミニウムが好ましい。金属層の厚さは、その材質等にもより、特に限定されない。金属層が、例えば、アルミニウムからなる場合、好ましくは20~100μm、より好ましくは20~80μm、さらに好ましくは30~60μmである。
【0107】
本開示の熱融着性部材が、金属層を備える場合には、
図2に示すように、金属層13の表面に、他の層14を備えることができる。他の層を構成する材料は、金属層を保護するという観点から、樹脂を含むことが好ましい。即ち、他の層は、樹脂層であることが好ましい。この樹脂は、特に限定されず、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂等とすることができる。樹脂層の透明性は、特に限定されないが、この樹脂層が透明又は半透明であるとき、熱融着複合製品として密封容器等とした場合に、優れた外観を得ることができる。他の層の厚さは、特に限定されず、好ましくは30~60μm、より好ましくは30~50μmである。
【0108】
本開示の接着剤組成物を用いた熱融着性部材は、常温剥離強度及び高温剥離強度が高く接着性に優れる上、電解液等の溶剤に対する耐性にも優れるため、その構造を維持しつつ、内容物の変質を防止することができる。
【0109】
リチウムイオン電池用包装材料に用いた場合には、電池保管若しくは使用環境における温度変化、特に、充電若しくは放電に伴う電池構成材料の化学的な温度上昇、夏期、又は自動車内等の常温より高い温度範囲において接着性等を保つことができる。
【0110】
8.熱融着性部材の製造方法
本発明の第4の態様(本開示の熱融着性部材の製造方法)は、本発明の第3の態様に係る熱融着性部材の製造方法である。
例えば、
図1に示される熱融着性部材の製造方法は、以下の(1)及び(2)が挙げられる。
(1)接着剤組成物を、金属層13形成用の金属箔、金属製フィルム等の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面に、熱融着性樹脂層11形成用樹脂フィルム(以下、「熱融着性樹脂フィルム」という。)を接触させて、加熱しながら、圧着する方法。
(2)接着剤組成物を、熱融着性樹脂フィルムの表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面に、金属層13形成用の金属箔等を接触させて、加熱しながら圧着する方法。
【0111】
また、例えば、
図2に示される熱融着性部材の製造方法は、以下の(3)~(5)が挙げられる。
(3)接着剤組成物を、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面と、熱融着性樹脂フィルムを接触させて、加熱しながら圧着する方法。
(4)接着剤組成物を、熱融着性樹脂フィルムの表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面に、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13が形成された面を接触させて、加熱しながら圧着する方法。
(5)上記(1)又は(2)の方法により得られた積層体における金属層13の表面に、他の層14形成用フィルムを押出成形する方法。
【0112】
接着剤組成物は、金属箔等の金属層形成用材料、又は、金属層及び他の層(樹脂層)を備える複合フィルムにおける金属層の表面に塗布されることが多いが、特に限定されない。金属箔を用いる場合には、厚さが20~100μmであるアルミニウム箔を用いることが好ましい。これにより、破損が抑制された熱融着性部材を容易に形成することができる。また、複合フィルムを用いる場合には、金属層がアルミニウムを含み、他の層(樹脂層)がポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂等を含むことが好ましい。さらに複合フィルムを用いず、
図2に示す熱融着性部材を製造する場合、即ち、上記(5)の方法を採用する場合、他の層14形成用フィルムとして、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂等を含むフィルムを用いることが好ましい。
【0113】
熱融着性樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム及びポリエステル樹脂フィルム等を用いることができる。これらの樹脂フィルムは、押出法、キャスト成形法、Tダイ法及びインフレーション法等の製膜化法により得られたフィルムとすることができる。熱融着性樹脂フィルムの厚さは、10~200μmであることが好ましい。本開示においては、熱融着性部材を完成させる熱融着、及び熱融着複合製品を製造する際の熱融着を容易に行うことができる点で、ポリオレフィン樹脂フィルムが好ましく、破損しにくく、耐久性に優れた密封用容器等の熱融着複合製品を得ることができる点で、無延伸ポリプロピレンフィルムがより好ましい。この無延伸ポリプロピレンフィルムを用いる場合、好ましい厚さは10~200μmであり、より好ましくは20~100μmである。
【0114】
接着剤組成物は、従来、公知の方法により塗布することができ、例えば、バーコーター及びグラビアコーター等を用いて塗布することができる。塗膜の厚さ及びその乾燥温度は、特に限定されない。塗膜の乾燥温度は、特に限定されず、作業性の観点から、好ましくは30℃~100℃である。
【0115】
上記のように、乾燥した塗膜は、一般に、粘着性及び接着性を有するので、加熱することなく、2つの部材を接着することができるが、本開示の熱融着性部材を製造する場合には、変性ポリオレフィン系樹脂に基づく樹脂成分の融点及び溶融粘度等を考慮した温度に加熱しながら、圧着等する方法等を適用することができる。加熱条件及び圧着条件としては、例えば、温度180℃、圧力0.3MPa、圧着時間2秒である。
【0116】
また、(A)成分とイソシアネート化合物との架橋反応を促進し、熱融着性部材を完成させるための条件(以下、「エージング条件」という。)は、特に限定されず、金属箔の材質及び熱融着性樹脂フィルムの材質、溶融温度等、並びに接着剤層の組成等により設定することが好ましい。エージング条件としては40℃、3~7日程度加熱しても良いし、(A)成分として酸性基及び/又は酸無水物基、並びにエチレン性不飽和基を有するポリオレフィンを使用し、エージング時間短縮のために紫外線及び電子線等の活性エネルギー線硬化と加熱を併用しても良い。
【0117】
9.用途
本開示の熱融着性部材は、電気分野、自動車分野、産業分野及びその他分野の様々な工業用製品分野において使用することができる。
【0118】
電気分野の用途例としては、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池等二次電池用の包装材料、モバイル機器、テレビ筐体及び白物家電筐体等における、加飾シート貼付けによる加飾、金属部材と樹脂の接着及び電子部品の封止等がある。
【0119】
自動車分野の用途例としては、ピラー、モール、ドアトリム、スポイラー及びルーフ等の内外装部材等における、金属部材/樹脂からなる外装材の接着、本皮革、ファブリック、インパネ(instrument panel)発泡シート及び加飾シートと基材の接着等がある。
【0120】
産業分野の用途例としては、工業用包材及びバリアーフィルム等の多層フィルムのフィルム間の接着等がある。
【0121】
その他分野の用途例としては、物流資材、住建材、日用雑貨及びスポーツ用品の接着等が挙げられる。
【0122】
これらの中でも、本開示の熱融着性部材の用途としては、常温剥離強度及び高温剥離強度が高く接着性に優れる上、高い耐電解液性を有するため、リチウムイオン電池用包装材料が好ましい。
【実施例】
【0123】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0124】
1.製造例
1)製造例1〔(A)成分の製造〕
二軸押出機(L/D=42、φ=58mm)に、プロピレン-1-ブテン共重合体(プロピレン成分79モル%、1-ブテン成分21モル%、重量平均分子量180,000、Tm=85℃)100質量部、無水マレイン酸2.8質量部、メタクリル酸ラウリル2質量部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.8質量部を投入した。滞留時間は10分、バレル温度は180℃(第1バレル~第7バレル)として反応し、第7バレルにて脱気を行い、残留する未反応の無水マレイン酸、及びメタクリル酸ラウリルを除去し、反応物(以下、「A1成分」という。)を得た。
【0125】
2)製造例2〔(A)成分の製造〕
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%、重量平均分子量250,000、Tm=125℃)100質量部をトルエン400質量部中に加熱溶解させた後、系内の温度を110℃に保持して撹拌しながらジクミルパーオキサイド1質量部を滴下し、その後1時間減成処理した。次に、無水アコニット酸1.5質量部、アクリル酸オクチル3質量部及び過酸化ベンゾイル0.5質量部をそれぞれ3時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。反応後、室温に冷却した後、粗反応物を大過剰のアセトン中に投入して未反応の無水アコニット酸及びアクリル酸オクチルを除去し、反応物(以下、「A2成分」という。)を得た。
【0126】
3)製造例3〔(A)成分の製造〕
製造例1と同様の二軸押出機に、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体(プロピレン成分68モル%、エチレン成分8モル%、1-ブテン成分24モル%、重量平均分子量50,000、Tm=70℃)100質量部、無水イタコン酸8質量部、アクリル酸トリデシル5質量部及びラウロイルパーオキサイド2質量部を投入した。滞留時間は10分、バレル温度は170℃(第1バレル~第7バレル)として反応し、第7バレルにて脱気を行い、残留する未反応の無水イタコン酸及びアクリル酸トリデシルを除去し、反応物(以下、「A3成分」という。)を得た。
【0127】
4)製造例4〔(B)成分の製造〕
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及びジムロート冷却管を備えた500mL容量の四つ口フラスコに窒素ガス雰囲気下、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略する。)570g及びイソブタノール17gを仕込み、85℃に加温し、3時間保持した後、触媒として、トリメチル-N-2-ヒドロキシプロピルアンモニウム 2-エチルヘキサノエート0.12gを加えた。反応温度を85±5℃に調節しながら、3時間反応を続けた後、塩化ベンゾイル0.1gを加えて、触媒を失活させ、反応を停止させた。得られた反応液を薄膜蒸留装置(真空度0.5mmHg、温度180℃)にて処理して、未反応の水添MDIを除去して、室温では流動性のない淡黄色透明のポリイソシアネート150g(転化率25%)を得た。このポリイソシアネートを酢酸エチルにて固形分75%に希釈した溶液(以下、「B1成分」という。)は、イソシアネート基含有率10%であつた。
【0128】
2.反応物の評価方法
製造例1~3で得られた反応物A1~A3について、後記する方法に従い、重量平均分子量、融点、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーのグラフト量、並びに(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量を測定した。
それらの結果を表1に示す。
【0129】
(1)重量平均分子量
装置 :HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
カラム :TSKgel GMHXL 2本(東ソー(株)製)
カラム温度 :40℃
溶離液 :テトラヒドロフラン 1.00mL/分
検出器 :RI(示差屈折計)
GPCにより測定した分子量をポリスチレンの分子量を基準にして換算した。
【0130】
(2)融点
JIS K 7121(1987年制定)の規定に準じ、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で測定し、結晶化したときの温度を融点とした。
【0131】
(3)酸無水物基含有モノマーのグラフト量
酸無水物基含有モノマーのグラフト量は、後記する測定により得られた酸価から次式で定義される。
グラフト量(質量%)=酸価×(M+1.008)×100/(1000×56.1×V)
M=酸無水物基含有モノマーの分子量
V=酸無水物基含有モノマーを加水分解した時の酸性基の価数
前記反応物A1~A3の酸無水物基含有モノマーのグラフト量は、次式に従って算出した。
A1のグラフト量(質量%)=酸価× 99.1×100/(1000×56.1×2)
A2のグラフト量(質量%)=酸価×157.1×100/(1000×56.1×3)
A3のグラフト量(質量%)=酸価×113.1×100/(1000×56.1×2)
◆酸価の測定方法
酸価は、試料1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示し、JIS K 0070:1992に準じて測定した。
具体的には、共栓付三角フラスコに測定する試料0.2gを精秤し、テトラヒドロフラン20mLを加え、加温しながら溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1w/v%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて、10秒間持続する淡紅色を呈するまで滴定を行い、次式に従って酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)=(T×F×56.11×0.1)/W
【0132】
ここで、上記計算式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
【0133】
(4)(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量
まず、製造例1と同様の二軸押出機を用いて、前記反応物A1~A3の原料であるポリオレフィンに対して、前記反応物A1~A3の原料である(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(濃度(質量%):C1、C2及びC3)を混合した後、熱プレスを用いて、(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル濃度が異なるフィルム3種類(厚み:100μm)を得た。
フーリエ変換赤外分光法により、前記3種類のフィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、次式に従って吸光度比Y1、Y2及びY3を求め、濃度C1、C2及びC3に対する検量線を作成した。
吸光度比Y=(エステルカルボニル伸縮振動(1730±10cm-1)に由来する吸光度)/エステルカルボニル伸縮振動(1730±10cm-1)に由来する吸光度)
Y1:濃度C1の時のY
Y2:濃度C2の時のY
Y3:濃度C3の時のY
ついで、前記反応物A1~A3の赤外スペクトルを測定して、吸光度比YA1(反応物A1のY)、YA2(反応物A2のY)及びYA3(反応物A3のY)を求め、前記検量線を基に次式に従って、(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステルのグラフト量を算出した。
A1のグラフト量(質量%)=(YA1-b)/a
A2のグラフト量(質量%)=(YA2-b)/a
A3のグラフト量(質量%)=(YA3-b)/a
a=(3f-d×e)/(3c-d2)
b=(c×e-f×d)/(3c-d2)
c=C1
2+C2
2+C3
2
d=C1+C2+C3
e=Y1+Y2+Y3
f=C1Y1+C2Y2+C3Y3
【0134】
【0135】
3.実施例1~21、比較例1~3
1)接着剤組成物の調製
コンデンサー及び攪拌機が付設された内容積300mLのフラスコに、下記表2に示す(A)成分及び有機溶剤を仕込み、60℃で30分間撹拌し、溶液を得た。室温まで冷却した後、この溶液に、硬化触媒を添加してさらに混合し、液状の樹脂組成物を得た。
次いで、当該樹脂組成物に対し、表2に示すイソシアネート化合物(B)成分及び(C)成分を表2に示す割合で配合して混合し、接着剤組成物を得た。
なお、後記の試験片の作製に際して、イソシアネート化合物を配合後、1時間以内に、接着剤組成物を使用した。
【0136】
得られた表2の接着剤組成物を使用し、後記する評価を行った。それらの結果を表2に示す。
【0137】
なお、表2における数字は質量部を意味する。
また表2における略号は下記を意味する。
[硬化触媒]
・DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、サンアプロ(株)製
・DBTL:ジブチルスズジラウレート、(株)ADEKA製
[(B)成分]
・タケネートD-127N:1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのイソシアヌレート体、三井化学(株)製、商品名
・タケネート600:1,3-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、三井化学(株)製、商品名
・フォルティモ:1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、三井化学(株)製、商品名
・HMDI:4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及び異性体の混合物、万華化学ジャパン(株)製
・コスモネートNBDI:ノルボルナンジメチルイソシアネート、三井化学(株)製、商品名
・デスモジュールZ4470:イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「デスモジュールZ4470BA」
・IPDI:イソホロンジイソシアネート(異性体混合物)
[(C)成分]
・TPA100:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、旭化成(株)製、商品名「デュラネートTPA-100」
・N3200:ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「デスモジュールN3200」
・HT:ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「スミジュールHT」
・XP2580:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「デスモジュールXP2580」
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
[その他]
・デスモジュールL75:トリレンジイソシアネートのアダクト体、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「デスモジュールL75」
・スミジュール44V20:ジフェニルメタンジイソシアネートの異性体混合物、住化コベストロウレタン(株)製、商品名「スミジュール44V20」
【0138】
2)試験片の作製
アルミニウム箔(サイズ:100mm×200mm、厚さ:40μm、表面処理:化成処理)に、接着剤組成物をバーコーターで塗布し、その後、80℃で60秒間、さらに180℃で20秒間乾燥させ、接着剤組成物に含有されていた有機溶剤を除去して膜厚4μmの接着剤層を形成した。
次いで、接着剤層の表面に、熱融着性樹脂フィルムとして無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ80μm、以下「CPP」という。)を貼合し、熱傾斜試験機を用いて、アルミニウム箔の面から加圧して圧着させた。このときの接着条件は、温度180℃、圧力0.3MPa、圧着時間2秒とした。
その後、この一体化物を40℃に調温された熱風循環式オーブンに3日間収容し、試験片を得た。
【0139】
3)試験片の評価
前記2)で得られた試験片を用い、後記する評価を行った。
【0140】
(1)接着性
[常温剥離強度]
前記試験片を15mm幅に裁断し、アルミニウム箔とCPPとの間の常温剥離強度(測定温度25℃)を、T剥離試験(引張速度100mm/分)で測定した。それらの結果を表2に示す。
[高温剥離強度]
前記試験片を15mm幅に裁断し、アルミニウム箔とCPPとの間の高温剥離強度(測定温度80℃、120℃)を、T剥離試験(引張速度100mm/分)で測定した。それらの結果を表2に示す。
【0141】
(2)耐電解液性
電解液として、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルを1:1:1(質量比)で混合し、これに1mol/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを添加したものを用いた。
前記試験片を80℃の電解液中に8日間浸漬した後、アルミニウム箔とCPPとの間の常温剥離強度(測定温度25℃)をT剥離試験(引張速度100mm/分)で測定した。それらの結果を表2に示す。
【0142】
【0143】
4)評価結果
表2から明らかなように、実施例1~21の接着剤組成物は、常温剥離強度が10N/15mm以上と高い上、80℃はく離強度が7N/15mm以上、120℃剥離強度が4N/15mm以上と高く接着性に優れ、耐電解液性にも優れるものであった。
これに対して、比較例1~3の接着剤組成物は、脂環構造を有するイソシアネート化合物及び/又はその誘導体(B)を含まないため、80℃及び120℃の剥離強度が低く、また、耐電解液性も劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、接着剤組成物、並びにそれを用いた熱融着性部材及びリチウムイオン電池用包装材料に関し、電気分野、自動車分野及び産業分野等の様々な工業用製品分野において使用することができ、これら技術分野に属する。