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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】受光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/107 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
H01L31/10 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021022449
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124677
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
(72)【発明者】
【氏名】樹神 雅人
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄子
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082089(JP,A)
【文献】米国特許第07397101(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340538(US,A1)
【文献】特開2021-009892(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094277(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/10-31/119
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のP型領域および第2のP型領域および第1のN型領域が形成されているN型シリコン基板と、P型ナローギャップ半導体層と、第1電極と、第2電極と、を備える受光素子であって、
前記第1のP型領域は、前記N型シリコン基板の表層部に配置されており、
前記第1のN型領域は、前記N型シリコン基板の表層部に配置されるとともに前記第1のP型領域とは離れて配置されており、
前記第2のP型領域は、前記第1のN型領域を前記N型シリコン基板から隔離するように前記第1のN型領域の側面および底面を覆って配置されており、
前記第2のP型領域は、前記第1のP型領域から離れて配置されており、
前記P型ナローギャップ半導体層は前記N型シリコン基板の上方に配置されており、
前記P型ナローギャップ半導体層の下面の少なくとも一部が、前記第1のP型領域の表面および前記N型のシリコン基板の表面の両方に接しており、
前記第1電極は、前記第1のP型領域の一部または前記P型ナローギャップ半導体層の一部に接続しており、
前記第2電極は、前記第1のN型領域の一部に接続しており、
前記N型シリコン基板に配置されているとともに前記第1のP型領域と前記第2のP型領域との間に配置されている特定領域であって、空乏層の広がりを抑制する前記特定領域を備えている、
受光素子。
【請求項2】
前記特定領域は第2のN型領域を備えており、
前記第2のN型領域の不純物濃度は、前記N型シリコン基板の不純物濃度よりも高い、請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記第2のN型領域は、前記N型シリコン基板の表面に表出している、請求項2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記第2のN型領域は、前記第1のP型領域および前記第2のP型領域から離れて配置されており、
前記第2のN型領域と前記第2のP型領域との距離は、前記第2のN型領域と前記第1のP型領域との距離よりも小さい、請求項2または3に記載の受光素子。
【請求項5】
前記第2のN型領域は、前記第1のP型領域および前記第2のP型領域に接している、請求項2または3に記載の受光素子。
【請求項6】
前記特定領域は絶縁体を備えている、請求項1に記載の受光素子。
【請求項7】
前記特定領域は前記第1のP型領域および前記第2のP型領域の少なくとも一方と接している、請求項6に記載の受光素子。
【請求項8】
前記N型シリコン基板を垂直上方からみたときに、前記特定領域は溝形状を有しており、
前記特定領域は、前記P型ナローギャップ半導体層と前記第2のP型領域との対向している領域に、前記P型ナローギャップ半導体層と前記第2のP型領域とを分離するように配置されている、請求項1~7の何れか1項に記載の受光素子。
【請求項9】
前記第1のP型領域と前記N型シリコン基板との間の第1の静電容量、および、前記P型ナローギャップ半導体層と前記N型シリコン基板との間の第2の静電容量の合成容量は、前記第2のP型領域と前記第1のN型領域との間の第3の静電容量よりも大きい、請求項1~8の何れか1項に記載の受光素子。
【請求項10】
前記第1の静電容量は前記第2の静電容量よりも大きい、請求項9に記載の受光素子。
【請求項11】
前記N型シリコン基板の垂直上方視において、前記P型ナローギャップ半導体層の下面と前記N型のシリコン基板の表面との接合面積は、前記P型ナローギャップ半導体層の上面の面積よりも小さい、請求項1~10の何れか1項に記載の受光素子。
【請求項12】
前記N型シリコン基板の垂直上方視において、前記第1のN型領域の面積は、前記第1のP型領域の面積よりも小さい、請求項1~11の何れか1項に記載の受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に開示されているような、シリコン(Si)上に受光膜であるゲルマニウム(Ge)が積層された、横型アバランシェフォトダイオードが知られている。このフォトダイオードでは、シリコンのPN接合によってアバランシェ領域が形成されている。また、P型シリコン上にゲルマニウムの受光膜が直接に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】NICHOLAS J. D. MARTINEZ et al.,“ Single photon detection in a waveguide-coupled Ge-on-Si lateral avalanche photodiode”, Vol. 25, No. 14,10 Jul 2017, OPTICS EXPRESS 16130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
素子を小型化するためや、アバランシェ領域の増倍率を大きくするために、受光膜が形成されている受光部とアバランシェ領域とを接近させて配置することが好ましい。しかし受光部とアバランシェ領域とを接近させると、逆バイアス電圧を印加したときに、受光部から広がる空乏層がアバランシェ領域に接触してしまう場合がある。パンチスルーが発生し、フォトダイオードが機能しなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する受光素子は、第1のP型領域および第2のP型領域および第1のN型領域が形成されているN型シリコン基板と、P型ナローギャップ半導体層と、第1電極と、第2電極と、を備えている。第1のP型領域は、N型シリコン基板の表層部に配置されている。第1のN型領域は、N型シリコン基板の表層部に配置されるとともに第1のP型領域とは離れて配置されている。第2のP型領域は、第1のN型領域をN型シリコン基板から隔離するように第1のN型領域の側面および底面を覆って配置されている。第2のP型領域は、第1のP型領域から離れて配置されている。P型ナローギャップ半導体層はN型シリコン基板の上方に配置されている。P型ナローギャップ半導体層の下面の少なくとも一部が、第1のP型領域の表面およびN型のシリコン基板の表面の両方に接している。第1電極は、第1のP型領域の一部またはP型ナローギャップ半導体層の一部に接続している。第2電極は、第1のN型領域の一部に接続している。N型シリコン基板に配置されているとともに第1のP型領域と第2のP型領域との間に配置されている特定領域であって、空乏層の広がりを抑制する特定領域を備えている。
【0006】
第1電極および第2電極に逆バイアス電圧を印加したときに、第1のP型領域からN型シリコン基板中に広がる空乏層を、特定領域によって抑制することができる。第1のP型領域から伸びた空乏層が第2のP型領域に到達してしまうこと(パンチスルーの発生)を防止することができる。パンチスルーを抑制しながら、第1のP型領域と第2のP型領域とを近接配置できるため、素子の小型化や増倍率の向上を図ることが可能となる。
【0007】
特定領域は第2のN型領域を備えていてもよい。第2のN型領域の不純物濃度は、N型シリコン基板の不純物濃度よりも高くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
第2のN型領域は、第1のP型領域および第2のP型領域から離れて配置されていてもよい。第2のN型領域と第2のP型領域との距離は、第2のN型領域と第1のP型領域との距離よりも小さくてもよい。第2のN型領域は、N型シリコン基板の表面に表出していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
第2のN型領域は、第1のP型領域および第2のP型領域に接していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
特定領域は絶縁体を備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
特定領域は第1のP型領域および第2のP型領域の少なくとも一方と接していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
N型シリコン基板を垂直上方からみたときに、特定領域は溝形状を有していてもよい。特定領域は、P型ナローギャップ半導体層と第2のP型領域との対向している領域に、P型ナローギャップ半導体層と第2のP型領域とを分離するように配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
第1のP型領域とN型シリコン基板との間の第1の静電容量、および、P型ナローギャップ半導体層とN型シリコン基板との間の第2の静電容量の合成容量は、第2のP型領域と第1のN型領域との間の第3の静電容量よりも大きくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
第1の静電容量は第2の静電容量よりも大きくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0015】
N型シリコン基板の垂直上方視において、P型ナローギャップ半導体層の下面とN型のシリコン基板の表面との接合面積は、P型ナローギャップ半導体層の上面の面積よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
N型シリコン基板の垂直上方視において、第1のN型領域の面積は、第1のP型領域の面積よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る受光素子1の上面図および断面図である。
図2】受光素子1における電流経路CPを示す図である。
図3】比較例の受光素子100の電気特性シミュレーション図である。
図4】比較例の受光素子100の断面拡大図である。
図5】実施例1の受光素子1の電気特性シミュレーション図である。
図6】実施例1の受光素子1の断面拡大図である。
図7】電圧V2の上限電圧UVのシミュレーション結果である。
図8】実施例2に係る受光素子1aの上面図および断面図である。
図9】実施例2の受光素子1aの電気特性シミュレーション図である。
図10】実施例2の受光素子1aの断面拡大図である。
図11】変形例における第2N型領域14の配置態様を示す図である。
図12】変形例における絶縁領域14aの配置態様を示す図である。
図13】変形例における第2N型領域14bの配置態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
(受光素子1の構造)
図1(A)に、受光素子1の上面図を示す。図1(B)に、図1(A)のB-B線における断面図を示す。受光素子1は、シリコン基板を用いて作成されたデバイスである。受光素子1は、ゲルマニウム層30を受光膜とした、ヘテロ接合フォトダイオードである。受光素子1は、N型シリコン基板10、絶縁層20、パッシベーション層25、ゲルマニウム層30、第1電極40、第2電極50、を備える。N型シリコン基板10は、第1P型領域11、第2P型領域12、第1N型領域13、第2N型領域14、を備える。図1(A)の上面図では、第1P型領域11および第1N型領域13を点線で示している。
【0019】
絶縁層20は、N型シリコン基板10の表面に配置されている。N型シリコン基板10の上方には、絶縁層20を介して、ゲルマニウム層30が配置されている。絶縁層20は酸化シリコンである。絶縁層20の膜厚T1は、1マイクロメートル以下である。パッシベーション層25は、受光素子1の表面を保護するように配置されている。パッシベーション層25は、ゲルマニウム層30で吸収される波長の光を透過する絶縁体であればよい。本実施例では、パッシベーション層25は酸化シリコンである。絶縁層20は、第1開口部21、第2開口部22、第1電極開口部23、第2電極開口部24を備えている。図1(A)の上面図では、第1開口部21および第2開口部22に対応する領域を、点線およびグレーの塗りつぶしで示している。
【0020】
第1開口部21は、ゲルマニウム層30の中央近傍に配置されている。図1(B)に示すように、ゲルマニウム層30は、絶縁層20の表面、第1開口部21の内部、第2開口部22の内部、に配置されている。図1(A)に示すように、ゲルマニウム層30は、第1開口部21を中心とした円形状である。第1開口部21の内部に配置されているゲルマニウム層30は、第1開口部21の底部において、N型シリコン基板10とヘテロPN接合領域R1を形成している。第2開口部22は、第1開口部21の周囲を取り囲むトレンチ形状である。第2開口部22の内部に配置されているゲルマニウム層30は、第1P型領域11の表面と接合している。これにより、ゲルマニウム層30は、コンタクト領域として機能する第1P型領域11を介して、第1電極40に電気的に接続されている。換言すると、ゲルマニウム層30の下面の一部が、N型シリコン基板10の表面および第1P型領域11の表面の両方に接している。
【0021】
ゲルマニウム層30は真性半導体である。しかしゲルマニウムは、不純物が添加されていなくても、格子欠陥がアクセプタとして働く。そして、シリコンとゲルマニウムの格子不整合に起因して、ゲルマニウムの欠陥密度は高い。よってゲルマニウム層30は、ホール密度が1017cm-3後半から1018cm-3台の、高濃度のP型半導体として機能する。従ってヘテロPN接合領域R1は、PNダイオードとして機能する。
【0022】
N型シリコン基板10を垂直上方から見たときに、ヘテロPN接合領域R1の面積A1は、絶縁層20の表面に配置されているゲルマニウム層30の面積A2よりも小さい。これにより図1(B)に示すように、ゲルマニウム層30の断面形状が、略「T字」形状となっている。リーク電流密度はヘテロ接合面積に依存するため、ヘテロPN接合領域R1の面積A1を小さくすることにより、リーク電流を低減することができる。また、受光膜の面積A2をヘテロPN接合領域R1の面積A1に比して大きくすることで、感度の低下を抑制することができる。なお、面積A1の値は、リーク電流の許容値に応じて適宜定めることができる。
【0023】
ゲルマニウム層30は、少なくともヘテロPN接合領域R1近傍において、単結晶である。これにより、多結晶ゲルマニウムでヘテロPN接合を形成する場合に比して、リーク電流を抑制できるため、受光素子1の特性を高めることができる。
【0024】
ゲルマニウム層30の膜厚T2は、厚いほど受光効率が高くなるが、素子を作成する際の段差が大きくなり配線の段切れ問題を起こしやすくなる。従って、受光効率と配線の信頼性とのバランスを考慮して、膜厚T2を定めればよい。本実施形態では、膜厚T2は1マイクロメートル程度とした。
【0025】
N型シリコン基板10の不純物はリンであり、その濃度は1×1015cm-3である。N型シリコン基板10の表層部には、第1P型領域11、第2P型領域12、第1N型領域13、第2N型領域14、が形成されている。第1P型領域11の不純物はボロンであり、その濃度は1×1020cm-3である。第1P型領域11は、N型シリコン基板10によってヘテロPN接合領域R1から隔てられている。N型シリコン基板10を垂直上方(+Z方向)から見たときに、第1P型領域11は、第1開口部21の周囲を取り囲むように配置されている。第1電極40は、第1電極開口部23を介して第1P型領域11の一部と接続している。第1電極40はアルミニウム(Al)であり、第1P型領域11とオーミック接触している。
【0026】
第1N型領域13は、N型不純物濃度がN型シリコン基板10よりも高い領域である。第1N型領域13の不純物はリンまたはヒ素である。第1N型領域13の不純物濃度は第2P型領域12の不純物濃度よりも高く、1×1019cm-3以上が妥当である。第1N型領域13は、イオン注入により形成してもよい。図1(A)に示すように、N型シリコン基板10を垂直上方(+Z方向)から見たときに、第1N型領域13の面積(点線の円の面積)は、第1P型領域11の面積(第1P型領域11を示す点線で囲われた領域の面積)よりも小さい。
【0027】
第2P型領域12は、第1N型領域13を第1P型領域11およびN型シリコン基板10から隔離するように、第1N型領域13の側面および底面を覆って形成されている。第2P型領域12は、第1P型領域11とは離れて形成されている。第2P型領域12の不純物はボロンであり、その濃度は1×1018cm-3である。第2電極50は、第2電極開口部24を介して第1N型領域13の一部と接続している。第2電極50はアルミニウム(Al)であり、第1N型領域13とオーミック接触している。
【0028】
第2N型領域14は、後述するように、第1P型領域11からN型シリコン基板10内に伸びた空乏層の広がりを抑制するための部位である。第2N型領域14は、N型不純物濃度がN型シリコン基板10よりも高い領域である。第2N型領域14の不純物はリンまたはヒ素であり、その濃度は1×1017cm-3である。第2N型領域14は、イオン注入により形成してもよい。
【0029】
第2N型領域14は、N型シリコン基板10の表面に表出している。換言すると、第2N型領域14は、N型シリコン基板10の表面に形成されている。第2N型領域14は、第1P型領域11と第2P型領域12との間に配置されているとともに、第1P型領域11および第2P型領域12から離れて配置されている。第2N型領域14と第2P型領域12との距離D2は、第2N型領域14と第1P型領域11との距離D1よりも小さい。
【0030】
図1(A)に示すように、N型シリコン基板10を垂直上方(+Z方向)から見たときに、第2N型領域14は、第2P型領域12を取り囲む溝形状を有している。換言すると、第2P型領域12は、ゲルマニウム層30と第2P型領域12との対向している領域に、ゲルマニウム層30と第2P型領域12とを分離するように配置されている。
【0031】
(静電容量および電流経路の説明)
第1P型領域11とN型シリコン基板10との間には、静電容量C1が存在する。ゲルマニウム層30とN型シリコン基板10との間には、静電容量C2が存在する。第2P型領域12と第1N型領域13との間には、静電容量C3が存在する。図1(B)には、これらの静電容量C1~C3を点線で示している。静電容量C1が静電容量C2よりも大きい関係が成立している。これは、第1P型領域11の面積(図1(A)において、第1P型領域11を示す点線で囲われた領域の面積)が、ヘテロPN接合領域R1の面積(図1(A)において、第1開口部21に対応するグレーの塗りつぶし領域の面積)に比して大きいためである。
【0032】
また、第1P型領域11とゲルマニウム層30はともにP型であり同電位となる。よって、静電容量C1と静電容量C2とは、電流経路に並列に配置されていることになるため、両者を合成して合成容量CCにすることができる。そして合成容量CCが、静電容量C3よりも大きい関係が成立している。この関係は、第1N型領域13の面積(図1(A)の点線の円の面積)を、第1P型領域11の面積に比して十分に小さくすることで成立させることができる。なお、受光素子1は横型の素子であるため、第1P型領域11やゲルマニウム層30の面積とは無関係に、第1N型領域13の面積を小さく設計することが可能である。
【0033】
図2に、受光素子1における電流経路CPを示す。電流経路CPは、第1電極40から、第1P型領域11、ゲルマニウム層30(光吸収層)、N型シリコン基板10、第2P型領域12、第1N型領域13をこの順に経由して第2電極50へ至る経路である。そして電流経路CP上には、前述した合成容量CCおよび静電容量C3が直列に存在している。
【0034】
(実施例1の受光素子1の動作)
図1に示す実施例1の受光素子1に、逆バイアス電圧が印加された場合における動作を説明する。なお、第1電極40に対して正の電圧を第2電極50に印加した場合に、逆バイアス電圧となる。すなわち、ヘテロPN接合領域R1に対する逆バイアス電圧である。
【0035】
図2で前述したように、電流経路CP上には、合成容量CCおよび静電容量C3が直列に存在している。よって、第1電極40と第2電極50との間に印加された逆バイアス電圧は、合成容量CCと静電容量C3とで分圧される。そして前述したように、合成容量CCは静電容量C3よりも大きい。よって、容量の低い静電容量C3の側に、逆バイアス電圧の大部分が印加される。すなわち、第2P型領域12と第1N型領域13との接合部に、優先的に逆バイアス電圧を印加することができる。
【0036】
これにより、第1の効果として、第2P型領域12と第1N型領域13との接合部の近傍に形成される電位障壁を選択的に引き下げることができる。よって、光照射によりゲルマニウム層30で発生した電子を、第2電極50側へ移動可能にすることができる。第2の効果として、第2P型領域12と第1N型領域13との接合部に優先的に逆バイアス電圧を印加できる。従って、従来の受光素子(ゲルマニウムとP型シリコンとの間にN型シリコンが挿入されていない素子)に比して低い逆バイアス電圧で、第2P型領域12と第1N型領域13との接合部に高電界領域を発生させることができる。アバランシェ増幅を発生させるために必要な逆バイアス電圧の値を、引き下げることができる。
【0037】
(第2N型領域14の効果)
まず、比較例の受光素子100について説明する。比較例の受光素子100は、第2N型領域14を備えない点を除けば、実施例1の受光素子1と同一構造を有している。図3に、比較例の受光素子100における電気特性シミュレーション図を示す。また図4に、比較例の受光素子100における、第1P型領域11および第2P型領域12近傍の断面拡大図を示す。図3の電気特性シミュレーション図では、横軸は第2電極50に印加する電圧V2を示し、縦軸は第2電極50に流れる電流I2を示している。暗電流DC0は、光入力がない場合のノイズ電流である。明電流LC0は、ある光入力がある場合の検出電流である。暗電流DC0と明電流LC0との差がS/N比である。S/N比が高いほど検出感度を高めることができる。
【0038】
比較例の受光素子100では、電圧V2が10[V]よりも高くなると暗電流DC0が上昇し始める。そして電圧V2が18[V]以上となると、暗電流DC0が明電流LC0と同程度となり、フォトダイオードとして機能しない。すなわち、比較例の受光素子100が安定して動作する電圧V2の範囲VR0は、6~10[V]程度である。
【0039】
一方、図5に、実施例1の受光素子1における電気特性シミュレーション図を示す。図6に、実施例1の受光素子1における、第1P型領域11および第2P型領域12近傍の断面拡大図を示す。図5および図6の内容は、前述した図3および図4の内容と同様である。実施例1の受光素子1では、電圧V2が約28[V]で受光素子1がブレークダウンする。そしてブレークダウン電圧まで、暗電流DC1の上昇が抑制され、十分なS/N比が確保される。すなわち、実施例1の受光素子1が安定して動作する電圧V2の範囲VR1は、6~28[V]であり、比較例の範囲VR0に比して十分に広くすることができる。
【0040】
第2N型領域14を備えることで、安定動作する電圧範囲を広げることができるモデルを説明する。図4では、比較例の受光素子100において、第2電極50に20[V]の電圧V2を印加した場合の空乏層DL0の広がりを示している。20[V]の電圧V2は、図3の領域VA0に示すように、暗電流DC0が明電流LC0と同程度まで上昇してしまう電圧値である。このとき、第1P型領域11から伸びた空乏層DL0が第2P型領域12に到達している(領域AA0参照)。よってパンチスルーが発生し、第1P型領域11から第2P型領域12へ電子電流が直接流れる。受光部のゲルマニウム層30で生成された電子による電流(明電流)より、第1P型領域11から第2P型領域12に流れる電子電流(暗電流)の方が支配的となり、電流I2は光強度に依存しなくなってしまう。すなわちフォトダイオードとして機能しない。
【0041】
一方、図6では、実施例1の受光素子1において、第2電極50に20[V]の電圧V2を印加した場合の空乏層DL1の広がりを示している。第2N型領域14によって、第1P型領域11からN型シリコン基板10内に伸びた空乏層DL1が、第2P型領域12に到達することが防止されている。パンチスルーの発生を防止できるため、第1P型領域11から第2P型領域12に流れる電子電流(暗電流)を抑制できる。ゲルマニウム層30で生成された電子による電流(明電流)を支配的とすることができる(図5、領域VA1参照)。従って、安定して動作する電圧V2の範囲VR1を広げることが可能となる。
【0042】
また、第2N型領域14と第2P型領域12との距離D2は、第2N型領域14と第1P型領域11との距離D1よりも小さい。距離D2を距離D1よりも小さくするほど、第2N型領域14を第2P型領域12に近づけることができるため、第2P型領域12の電界を高くすることができる。第2P型領域12と第1N型領域13との接合部に高電界領域を発生させることができるため、アバランシェ増幅を発生させやすくすることが可能となる。
【0043】
(第2N型領域14の不純物の濃度範囲)
図7に、実施例1の受光素子1において、第2N型領域14の不純物濃度を変化させた場合における、電圧V2の上限電圧UVのシミュレーション結果を示す。図7の横軸は、第2N型領域14の不純物濃度である。縦軸は、第2電極50に印加される電圧V2の上限電圧UVである。電圧V2が上限電圧UV以下であれば、受光素子1がフォトダイオードとして機能することが可能であるため、上限電圧UVは高いことが好ましい。
また図7では、第1P型領域11の不純物濃度が1×1020cm-3であり、第2P型領域12の不純物濃度が1×1018cm-3であり、N型シリコン基板10の不純物濃度が1×1015cm-3である場合を説明している。点P0は、第2N型領域14を形成していない場合の基準上限電圧RUVを示している。
【0044】
図7に示すように、点P1~P6まで不純物濃度を変化させて上限電圧UVを求めた。何れの測定点においても、上限電圧UVを、基準上限電圧RUVよりも高くすることができることが分かる。そして、点P0と点P6の間の点P3(不純物濃度=1×1017cm-3)において、上限電圧UVのピーク値をとることが分かる。点P0の不純物濃度(1×1015cm-3)は、N型シリコン基板10の不純物濃度と同一である。また点P6の不純物濃度(1.5×1020cm-3)は、第1P型領域11の不純物濃度とほぼ同じである。すなわち、第2N型領域14の不純物濃度を、N型シリコン基板10の不純物濃度よりも高く、第1P型領域11の不純物濃度よりも低い範囲内の濃度とすることで、上限電圧UVを高めることができることが分かる。
【実施例2】
【0045】
(受光素子1aの構造)
実施例2に係る受光素子1a(図8)は、実施例1に係る受光素子1(図1)の第2N型領域14を、絶縁領域14aに変更した構造を備えている。共通する部位には同一の符号を付すことで、説明を省略する。
【0046】
絶縁領域14aは、N型シリコン基板10に形成されたトレンチに、絶縁体が埋め込まれている構造を備えている。絶縁体は、例えば酸化シリコンであってもよい。絶縁領域14aは、N型シリコン基板10の表面に表出している。絶縁領域14aは、第1P型領域11と第2P型領域12との間に配置されているとともに、第1P型領域11および第2P型領域12から離れて配置されている。
【0047】
図8(A)に示すように、N型シリコン基板10を垂直上方(+Z方向)から見たときに、絶縁領域14aは、第2P型領域12を取り囲む溝形状を有している。換言すると、絶縁領域14aは、ゲルマニウム層30と第2P型領域12との対向している領域に、ゲルマニウム層30と第2P型領域12とを分離するように配置されている。絶縁領域14aは、他のパターン(例:アライメントマーク)を形成するときに、同時に形成することができる。
【0048】
(絶縁領域14aの効果)
図9に、実施例2の受光素子1aにおける電気特性シミュレーション図を示す。図10に、実施例2の受光素子1aにおける、第1P型領域11および第2P型領域12近傍の断面拡大図を示す。図9および図10の内容は、前述した図5および図6の内容と同様である。実施例2の受光素子1aでは、電圧V2が20[V]よりも高くなると暗電流DC1aが上昇し始める。そして電圧V2が28[V]以上となると、暗電流DC1aが明電流LC1aと同程度となり、フォトダイオードとして機能しない。すなわち、実施例2の受光素子1aが安定して動作する電圧V2の範囲VR1aは、6~20[V]であり、比較例の範囲VR0(図3)に比して十分に広くすることができる。
【0049】
絶縁領域14aを備えることで、安定動作する電圧範囲を広げることができるモデルを説明する。図10では、実施例2の受光素子1aにおいて、第2電極50に20[V]の電圧V2を印加した場合の空乏層DL1aの広がりを示している。絶縁領域14aによって、第1P型領域11からN型シリコン基板10内に伸びた空乏層DL1が、第2P型領域12に到達することが防止されている(領域AA1参照)。パンチスルーの発生を防止できるため、第1P型領域11から第2P型領域12に流れる電子電流(暗電流)を抑制できる。
【0050】
なお、絶縁領域14aが深くなるほど、パンチスルーの発生を抑制する効果が高くなり、動作上限電圧を高めることができる。よって絶縁領域14aの深さは深いことが好ましい。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0052】
(変形例)
実施例1の受光素子1において、第1P型領域11および第2P型領域12に対する第2N型領域14の配置態様は、様々であってよい。例えば図11に示すように、第2N型領域14は、第1P型領域11および第2P型領域12に接するように配置されていてもよい。
【0053】
実施例2の受光素子1aにおいて、第1P型領域11および第2P型領域12に対する絶縁領域14aの配置態様は、様々であってよい。例えば図12に示すように、絶縁領域14aは、第2P型領域12に接するように配置されていてもよい。また逆に、絶縁領域14aは、第1P型領域11に接するように配置されていてもよい。
【0054】
実施例2の受光素子1aにおいて、絶縁領域14aの構造は様々であってよい。例えば絶縁領域14aは、LOCOS(Local Oxidation of Silicon)法で形成された構造でもよい。
【0055】
第2N型領域14(図1(A))や絶縁領域14a(図8(A))の配置態様は、第2P型領域12を取り囲む溝形状に限られない。ゲルマニウム層30と第2P型領域12とを分離できる配置態様であれば、何れの態様であってもよい。例えば、第1P型領域11を取り囲む溝形状であってもよい。また図13の第2N型領域14bに示すように、第2P型領域12や第1P型領域11を取り囲むことなく、ゲルマニウム層30と第2P型領域12との対向している領域に配置されてもよい。
【0056】
本実施例における第1電極40の形状は一例である。第1電極40は、ゲルマニウム層30と電気的に接続されていれば、その形状や配置は任意に設定できる。例えば、第1電極40がゲルマニウム層30の外周に接続している形態であってもよい。
【0057】
絶縁層20や絶縁領域14aは酸化シリコンに限られず、他の絶縁体を使用可能である。
【0058】
シリコン基板の垂直上方視におけるゲルマニウム層、第1電極40、第2電極50の形状は、円形に限られず、様々な形状であってよい。受光素子1(図1)や受光素子1a(図8)に示す上面図や断面図の構成は一例であり、この形態に限られない。また図5図7図9などにおける電圧値は一例である。
【0059】
ゲルマニウム層30は、P型ナローギャップ半導体層の一例である。第2N型領域14、絶縁領域14aは、特定領域の一例である。
【符号の説明】
【0060】
1、1a:受光素子 10:N型シリコン基板 11:第1P型領域 12:第1P型領域 13:第1N型領域 14:第2N型領域 14a:絶縁領域 40:第1電極 50:第2電極 C1~C3:静電容量 CC:合成容量 R1:ヘテロPN接合領域
図1
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