(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】調光シート、調光装置及び調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1334 20060101AFI20240130BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2022105420
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2021060925の分割
【原出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-194636(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105418854(CN,A)
【文献】特開平05-188355(JP,A)
【文献】特開平08-060158(JP,A)
【文献】特開2002-003844(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105312(WO,A1)
【文献】特開平02-278230(JP,A)
【文献】特表2021-505724(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108594509(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107011923(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0336663(US,A1)
【文献】特表2019-501233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
G02F 1/13
C09K 19/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶分散型の調光シートであって、
樹脂組成物及び液晶組成物を含む高分子分散型液晶又は高分子ネットワーク型液晶を有する調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、
前記調光層及び一対の前記透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備え、
前記液晶組成物における液晶化合物のネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下であり、
前記樹脂組成物は、
以下の一般式(1)で表される繰り返し単位を含むアクリル重合体を含み、
前記アクリル重合体は分岐構造を有し、
R
1が飽和アルキル基であり、
前記アクリル重合体
のなかに、前記飽和アルキル基
が炭素数1以上12以下である直鎖アルキル基である部分と、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、及びトリシクロアルキル基のうち少なくとも一つ
である部分とを含む、
調光シート。
【化1】
【請求項2】
前記アクリル重合体は前記ビシクロアルキル基を含む
請求項
1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記ビシクロアルキル基はイソボルニル基を含む
請求項2に記載の調光シート。
【請求項4】
-30℃以上100℃
以下の温度で、不透明状態のヘイズが85%以上、且つ透明状態のヘイズが6.0%以下である
請求項1~
3のいずれか1項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記調光層に含まれる前記液晶化合物の含有率が50重量%以上である
請求項1~
4のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の調光シートと、
前記透明電極層への駆動電圧の印加を制御する制御部と、
を備える調光装置。
【請求項7】
液晶分散型の調光シートの製造方法であって、
透明電極層及び透明支持層を含む積層体の前記透明電極層に、アクリレート及び液晶組成物を含む感光性組成物を塗布する工程と、
前記感光性組成物が塗布された前記積層体と他の前記積層体との間に前記感光性組成物が位置するように重ねた状態で特定波長の光を照射し、前記アクリレートを硬化させる工程と、を含み、
前記液晶組成物における液晶化合物のネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下であり、
前記アクリレートが、以下の一般式(2)で表されるアクリレートを含み、R
2が飽和アルキル基であり
、前記飽和アルキル基
が炭素数1以上12以下である直鎖アルキル基であるアクリレートと、前記飽和アルキル基がシクロアルキル基、ビシクロアルキル基、及びトリシクロアルキル基のうち少なくとも一つ
であるアクリレートとを含む、調光シートの製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、調光装置及び調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、高分子及び液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えている(例えば、特許文献1参照)。調光装置は、上記調光シートと、一対の透明電極層への駆動電圧の印加を制御する駆動部とを備えている。一対の透明電極層間の電位差に応じて液晶分子の配向状態が変わることにより、調光シートの光透過率が変わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調光シートは、例えば、窓ガラスやガラス壁等の建材や、自動車の窓ガラス等に貼り付けられる。このため、調光シートが過酷な温度環境に曝される場合も想定される。しかし、従来の調光シートは、温度変化により調光層の粘度が過度に低くなったり高くなったりして、駆動電圧を制御しても要請されるヘイズとならないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための調光シートは、液晶分散型の調光シートであって、空隙を区画する樹脂組成物及び前記空隙に充填された液晶組成物を含む調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、前記調光層及び一対の前記透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備え、前記液晶組成物における液晶化合物のネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下であり、前記樹脂組成物は、繰り返し単位が以下の式(1)で表されるアクリル重合体を含み、R1が炭素数1以上12以下である飽和アルキル基であり、前記アクリル重合体のなかに、前記飽和アルキル基が直鎖アルキル基である部分を含む。
【0006】
【化1】
上記課題を解決するための調光装置は、上記調光シートと、前記透明電極層への駆動電圧の印加を制御する制御部と、を備える。
【0007】
上記各構成によれば、液晶組成物が充填される空隙を区画する樹脂組成物が、式(1)で表される繰り返し単位を含むため、アクリレートを重合させて樹脂組成物を形成する際に、ネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下の液晶化合物と、アクリレートとの相溶性が得られる。そして、樹脂組成物の全体にわたり、アクリレートの重合体から液晶組成物を均一に相分離させることが可能となる。結果として、調光シートが正常に動作する温度範囲を拡張できる。
【0008】
上記調光シートにおいて、前記樹脂組成物は、前記飽和アルキル基がビシクロアルキル基である部分をさらに含めてもよい。また、上記調光シートにおいて、前記ビシクロアルキル基が、イソボルニル基を含んでもよい。
【0009】
上記各構成によれば、直鎖アルキル基と比べて嵩高いビシクロアルキル基をアクリレートに含めることが可能であるため、アクリレートと液晶組成物との相溶性を確保しながらも、アクリレートの重合体から液晶組成物を相分離させることを促すことができる。
【0010】
上記調光シートにおいて、-30℃以上100℃の温度下で、不透明状態のヘイズが85%以上、且つ透明状態のヘイズが6.0%以下であってもよい。
上記構成によれば、調光シートが正常に動作する温度範囲を拡張できる。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記調光層に含まれる前記液晶化合物の含有率が50重量%以上であってもよい。
上記構成によれば、調光層に含まれる液晶化合物の含有率が十分となり、低温時や高温時であっても調光シートが正常に動作する。
【0012】
上記課題を解決するための感光性組成物は、液晶分散型の調光層を製造するための感光性組成物であって、アクリレート及び液晶組成物を含み、前記液晶組成物における液晶化合物のネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下であり、前記アクリレートが、以下の一般式(2)で表されるアクリレートとトリアクリル酸ペンタエリスリトールとを含み、R2が炭素数1以上12以下である飽和アルキル基であり、前記飽和アルキル基が直鎖アルキル基であるアクリレートと、前記飽和アルキル基がビシクロアルキル基であるアクリレートとを含む。
【0013】
【化2】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、液晶分散型の調光シートの製造方法であって、透明電極層及び透明支持層を含む積層体の前記透明電極層に、アクリレート及び液晶組成物を含む感光性組成物を塗布する工程と、前記感光性組成物が塗布された前記積層体と他の前記積層体との間に前記感光性組成物が位置するように重ねた状態で特定波長の光を照射し、前記アクリレートを硬化させる工程と、を含み、前記液晶組成物における液晶化合物のネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下であり、前記アクリレートが、以下の一般式(2)で表されるアクリレートとトリアクリル酸ペンタエリスリトールとを含み、R
2が炭素数1以上12以下である飽和アルキル基であり、前記飽和アルキル基が直鎖アルキル基であるアクリレートと、前記飽和アルキル基がビシクロアルキル基であるアクリレートとを含む。
【0014】
【化3】
上記各構成によれば、ネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下の液晶化合物とアクリレートとの相溶性が得られ、かつビシクロアルキル基を含むアクリレートによる相分離が促されるため、樹脂組成物の全体にわたり、アクリレートの重合体から液晶組成物を均一に相分離させることが可能となる。結果として、調光シートが正常に動作する温度範囲を拡張できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、調光装置が正常に動作する温度範囲を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】調光シートが用いられた調光装置について、その構成をノーマル型の調光シートの断面構造を中心に示す図。
【
図2】調光シートが用いられた調光装置について、その構成をノーマル型の調光シートの断面構造を中心に示す図。
【
図3】実施例及び比較例の調光シートを評価する評価用装置の模式図。
【
図5】実施例及び比較例の調光シートの不透明状態及び透明状態を評価するための表。
【
図6】実施例及び比較例の調光シートの評価結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、調光シート、調光装置、感光性組成物、及び調光シートの製造方法の一実施形態を説明する。
[調光装置の基本構造]
図1を参照して調光シート及び調光装置の基本構造を説明する。
【0018】
調光装置100は、調光シート10と、調光シート10への駆動電圧の印加を制御する制御部20とを備えている。調光シート10は、ノーマルタイプ及びリバースタイプのいずれかの構造を有する。
図1は、ノーマルタイプの調光シート10Nの断面構造を示す。なお、ノーマルタイプ及びリバースタイプの調光シート10N,10Rを区別しないで説明する場合には、単に調光シート10として説明する。
【0019】
ノーマルタイプの調光シート10Nは、調光層11と、第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bと、第1透明支持層13Aおよび第2透明支持層13Bとを備えている。第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとは、調光層11を挟み、第1透明支持層13Aと第2透明支持層13Bとは、調光層11および透明電極層12A,12Bを挟んでいる。第1透明支持層13Aは、第1透明電極層12Aを支持し、第2透明支持層13Bは、第2透明電極層12Bを支持している。
【0020】
調光シート10Nは、表面の隅部に、第1透明電極層12Aが露出された領域を有している。この領域には、第1端子部15Aが接続されている。第1端子部15Aは、配線を通じて、制御部20に接続されている。また、調光シート10Nは、第1端子部15Aが設けられた領域とは異なる表面の隅部に、第2透明電極層12Bが露出された領域を有している。この領域には、第2端子部15Bが接続されている。第2端子部15Bは、配線を通じて、制御部20に接続されている。第1端子部15A及び第2端子部15Bは、調光シート10Nの一部を構成する。
【0021】
制御部20は、交流電圧である駆動電圧を生成し、第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bに印加する。
調光層11は、樹脂組成物及び液晶組成物を含む。調光層11は、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)である。高分子分散型液晶は、高分子を含む樹脂組成物に複数の液晶分子を含むドメインを分散させたものである。なお、調光層11は、例えば、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)であってもよく、それらを組み合わせた構造であってもよい。高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークが有する空隙に、配向粒子として液晶分子を保持する。カプセル型ネマティック液晶層は、カプセル状を有した液晶組成物を樹脂層のなかに保持する。なお、調光層11は、液晶分散型の調光層に対応する。
【0022】
次に、各層の材料について説明する。
第1透明電極層12Aおよび第2透明電極層12Bの各々は、導電性を有する透明な層である。透明電極層12A,12Bを構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含むポリマー、Ag合金薄膜を含む多層膜等が挙げられる。
【0023】
第1透明支持層13Aおよび第2透明支持層13Bの各々は、透明な基材である。透明支持層13A,13Bとしては、例えば、ガラス基板やシリコン基板、あるいは、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホン、シクロオレフィンポリマー、トリアセチルセルロース等からなる高分子フィルムが用いられる。
【0024】
第1端子部15Aおよび第2端子部15Bの各々は、例えば、金属テープや導電性フィルムや導電性ペースト等の導電性接着層、および、FPC等の配線基板やリード線等から構成される。
【0025】
調光層11は、空隙を区画する樹脂組成物、及び空隙に充填された液晶組成物を含む。液晶組成物の主成分は、液晶分子であって、ネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下である。液晶分子は、具体的には、フェニル‐シクロヘキシル系、ビフェニルシクロヘキサン系、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系からなる群から選択される一種である。
【0026】
フェニル‐シクロヘキサン系の液晶組成物は、特に限定されないが、例えば、4-(4´-n-プロピルシクロヘキシル)-シアノベンゼン、4-(4´-n-ペンチルシクロヘキシル)-シアノベンゼンが挙げられる。
【0027】
液晶組成物は、液晶化合物として単一の種類の液晶化合物のみを含んでいてもよいし、複数の種類の液晶化合物を含んでいてもよい。液晶組成物は、液晶化合物以外の成分を含んでいてもよい。液晶化合物以外の成分は、例えば、粘度低下剤、二色性色素、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候剤である。なお、複数の液晶化合物から液晶組成物を構成することにより、ネマチック‐等方相転移温度を調整することが可能である。
【0028】
調光層11における液晶化合物の含有率(重量%)は、例えば、50重量%以上80重量%以下である。液晶の含有率が50重量%未満となると、調光シート10Nを透明駆動時及び不透明駆動時のヘイズの差であるコントラストが不足する。液晶化合物の質量比率が重量%を超えると、調光層11の強度が低下する。
【0029】
樹脂組成物は、感光性組成物が、紫外線等の特定波長の光線を照射されることにより重合して硬化したものであり、繰り返し単位が以下の一般式(1)で示される。
【0030】
【化4】
「R
1」で示される連結基は、炭素数1以上12以下である飽和アルキル基である。樹脂組成物は、R
1が直鎖アルキル基である部分を含む。樹脂組成物は、R
1がビシクロアルキル基である部分をさらに含んでもよい。重合度「n」は2以上500である。以下、連結基が直鎖アルキル基で表される重合体を「第1アクリル重合体」という。また、連結基がビシクロアルキル基を有する重合体を「第2アクリル重合体」という。
【0031】
第1アクリル重合体は、アクリレートの重合体である。アクリレートは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシルからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0032】
第2アクリル重合体もまた、アクリレートの重合体である。このアクリレートは、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、あるいはトリシクロアルキル基を含む。シクロアルキル基を含むアクリレートは、シクロプロピルアクリレート、シクロブチルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘプタニルアクリレート、シクロオクチルアクリレート、シクロデカニルアクリレート、シクロドデカニルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0033】
ビシクロアルキル基、およびトリシクロアルキル基は、多環式化合物の2つの位置を直鎖の炭素鎖で結んだ架橋構造を有するものである。多環式化合物は、二環式化合物でもよく、三環式化合物でもよい。ビシクロアルキル基は、イソボルニル基を含んでいてもよい。ビシクロアルキル基を含むアクリレートは、イソボルニルアクリレート、ビシクロ[3.2.1]オクチルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。トリシクロアルキル基を含むアクリレートは、ジシクロペンタニルアクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0034】
ネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下の液晶化合物は、転移温度が低い液晶化合物と比べて、長軸方向に長い、あるいは環構造が多い構造となり、液晶化合物及びアクリレートの相溶性が低下する。液晶化合物及びアクリレートの相溶性が低下すると、調光層11のなかで液晶化合物が均一に分散しがたくなり、特に不透明駆動時において所望のヘイズが得られない。これに対し、上記アクリレートは、分子量が小さく、また非極性基である飽和アルキル基を含むこと等から、ネマチック‐等方相転移温度が高い液晶化合物との相溶性が高い。
【0035】
液晶化合物とアクリレートとの相溶性を高めることを要求される場合、第1アクリル重合体の含有率は、感光性組成物の全固形分量に対して10mol%以上45mol%以下であることが好ましい。また、含有率を10mol%以上20mol%以下としてもよい。相溶性をさらに高めること、およびアクリレートの重合体から液晶化合物を相分離させやすくすることを要求される場合、樹脂組成物は、第1アクリル重合体と第2アクリル重合体とを含むことが好ましい。この際、第1アクリル重合体の含有率、および第2アクリル重合体の含有率は、感光性組成物の全固形分量に対して、それぞれ10mol%以上45mol%以下であることが好ましい。また、含有率を10mol%以上20mol%以下であってもよい。
【0036】
ビシクロアルキル基は、直鎖アルキル基やシクロアルキル基と比べて嵩高い構造であるため、ビシクロアルキル基を有するアクリレートと液晶化合物との間に、立体障害などに起因した反発が生じる。これにより、ネマチック‐等方相転移温度以下で、液晶化合物がつくるネマチック相のドメインがポリマー内に発生しやすくなり、相分離の度合いが高くなる。特に、直鎖アルキル基を含むアクリレートと液晶化合物との相溶性を高める場合、感光性組成物における液晶化合物の含有量が大きくなるため、相分離が進行しにくい場合がある。感光性組成物に、直鎖アルキル基を有するアクリレート、及びビシクロアルキル基を有するアクリレートの両方を添加することで、相溶性及び相分離性を両立させることができる。
【0037】
次に
図2を参照して、リバースタイプの調光シート10Rについて説明する。
図2は、調光シート10Rの断面構造を示す。リバースタイプの調光シート10Rは、調光層11、透明電極層12A,12B、透明支持層13A,13Bに加えて、調光層11を挟む一対の配向層である第1配向層14Aおよび第2配向層14Bを備えている。第1配向層14Aは、調光層11と第1透明電極層12Aとの間に位置し、第2配向層14Bは、調光層11と第2透明電極層12Bとの間に位置する。すなわち、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとは、調光層11および配向層14A,14Bを挟んでいる。
【0038】
配向層14A,14Bは、垂直配向膜である。配向層14A,14Bは、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが等電位であるときに、調光層11が含む液晶分子の長軸方向を、配向層14A,14Bに沿って広がる面の法線方向に沿わせるように、液晶分子を配向する。一方、配向層14A,14Bは、透明電極層12A,12B間に電位差が生じているときに、調光層11が含む液晶分子の長軸方向を上記法線方向以外の方向に変更可能にする。
【0039】
配向層14A,14Bを構成する材料としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレートが挙げられる。配向層14A,14Bを垂直配向膜として機能させる処理は、例えば、ラビング処理、偏光照射処理、微細加工処理である。
【0040】
ノーマルタイプの調光シート10Nにおいては、透明電極層12A,12Bに駆動電圧が印加されていないとき、すなわち、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとが等電位であるとき、調光層11が含む液晶分子の長軸方向の向きは不規則になる。そのため、調光層11に入射した光は散乱し、調光シート10は不透明になる。一方、透明電極層12A,12Bに駆動電圧が印加され、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に電位差が生じているとき、その電位差に応じて液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が透明電極層12A,12B間の電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層11を光が透過しやすくなる。印加される駆動電圧が所定の範囲内で大きくなるにつれて、調光シート10の透明度は高くなる。
【0041】
リバースタイプの調光シート10Rにおいては、透明電極層12A,12Bに駆動電圧が印加されていないとき、配向層14A,14Bによって液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が配向層14A,14Bに沿った面の法線方向に沿った向きとなる。その結果、調光シート10は、透明になる。一方、透明電極層12A,12Bに駆動電圧が印加されているとき、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間の電位差に応じて、液晶分子が上記法線方向と異なる方向に向けられ、調光層11を光が透過しにくくなる。印加される駆動電圧が所定の範囲内で大きくなるにつれて、調光シート10の透明度は低くなる。
【0042】
調光シート10は、2つの空間の境界に位置する透明な部材に貼り付けられて使用され、上記2つの空間の仕切りとして機能する。調光シート10が貼り付けられる面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。例えば、調光シート10は、窓ガラスやパーテーションやガラス壁等の建材、あるいは、自動車の窓ガラス等の車両用部材に取り付けられる。
【0043】
[調光シートの製造方法]
調光シート10Nについて、標準的な製造方法を説明する。第1透明電極層12Aを表面に備えた第1透明支持層13Aからなるシートと、第2透明電極層12Bを表面に備えた第2透明支持層13Bからなるシートとを準備する。第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bは、スパッタリング、真空蒸着、コーティング等の公知の薄膜形成方法によって形成される。
【0044】
次に、感光性組成物を調整する。感光性組成物は、下記の一般式(2)に示すアクリレート、液晶組成物、重合開始剤、及びその他の添加剤を混合及び撹拌して得られる。なお、感光性組成物は、樹脂組成物の機械的な強度を高める等の目的で、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ウレタンアクリレートを含んでいてもよい。
【0045】
【化5】
R
2で示される連結基は、炭素数1以上12以下である飽和アルキル基である。アクリレートは、R
2が直鎖アルキル基であるアクリレートを含む。アクリレートは、R
2がシクロアルキル基、ビシクロアルキル基、あるいはトリシクロアルキル基であるアクリレートをさらに含んでもよい。
【0046】
R2が直鎖アルキル基であるアクリレートは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシルからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0047】
R2がシクロアルキル基であるアクリレートは、シクロプロピルアクリレート、シクロブチルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘプタニルアクリレート、シクロオクチルアクリレート、シクロデカニルアクリレート、シクロドデカニルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0048】
R2がジシクロアルキル基であるアクリレートは、イソボルニルアクリレート、ビシクロ[3.2.1]オクチルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0049】
R2がトリシクロアルキル基であるアクリレートは、ジシクロペンタニルアクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0050】
各シートの少なくとも一方に、スペーサを分散させた分散媒を塗布し、加熱して溶媒を除去してスペーサを散布させる。また、感光性組成物に一対のシートのうち少なくとも一方に塗布する。インクジェット法、グラビアコーティング法、スピンコーティング法、スリットコーティング法、バーコーティング法、フレキソコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法等の公知の塗布方法が用いられる。そして、感光性組成物が塗布された層を内側にして、一対のシートを貼り合わせる。又は、感光性組成物にスペーサを添加することでスペーサを散布するようにしてもよい。
【0051】
感光性組成物が塗布された層を挟むシートの積層体に、紫外線等の重合性組成物の重合反応を進行させる特定波長の光線が照射される。これにより調光層11が形成される。
積層体は、例えば、ロール・ツー・ロール方式の利用により大判のシート状に形成される。積層体が、調光シート10Nの貼付対象に応じた所望の形状に切り出され、切り出されたシートに対して第1端子部15A及び第2端子部15Bが形成されることによって、調光シート10Nが形成される。
【0052】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)液晶組成物が充填される空隙を区画する樹脂組成物が、上記の一般式(1)で表される繰り返し単位を含むため、アクリレートを重合させて樹脂組成物を形成する際に、ネマチック‐等方相転移温度が110℃以上140℃以下の液晶化合物と、アクリレートとの相溶性が得られる。そして、樹脂組成物の全体にわたり、アクリレートの重合体から液晶組成物を均一に相分離させることが可能となる。結果として、調光シート10が正常に動作する温度範囲を拡張できる。
【0053】
(2)樹脂組成物が、直鎖アルキル基と比べて嵩高いビシクロアルキル基をさらに含むことにより、アクリレートと液晶組成物との相溶性を確保しながらも、アクリレートの重合体から液晶組成物を相分離させることを促すことができる。
【0054】
(3)調光シート10は、-30℃以上100℃の温度下で、不透明状態のヘイズが85%以上、且つ透明状態のヘイズが6.0以下であることで、正常に動作する温度範囲を拡張できる。
【0055】
(4)調光層11に含まれる液晶化合物の含有率が50重量%であることで、低温時や高温時であっても調光シート10が正常に動作する。
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
【0056】
・制御部20は、温度センサを内蔵又は温度センサに接続されていてもよい。この態様において、制御部20は、温度センサが検出した温度を取得し、取得した温度が例えば-30℃~100℃である場合に、調光シート10に対して駆動電圧の制御を行うようにしてもよい。又は、温度に応じて、駆動電圧の制御を変更するようにしてもよい。
【0057】
・調光シート10の状態を、透明状態及び不透明状態に加え、光透過率がこれらの状態の中間となる第3状態に切り替えてもよい。
・調光シート10は、不透明状態において、画像を投影されるスクリーンとして用いられてもよい。不透明状態における遮光率が高い調光シート10であるほど、投影のための光の透過を抑えて画像を明瞭に映すことの可能なスクリーンの実現が可能である。
【0058】
[実施例]
図3を参照して、上記実施形態の一例である実施例1~12及び比較例1~4について具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0059】
実施例1~12及び比較例1~4の調光シートは、ノーマルタイプとした。
[実施例1]
調光層を形成するための感光性組成物に含有される、第1アクリル重合体を形成するためのアクリレートを、アクリル酸メチルとした。アクリル重合体として、感光性組成物の全固形分量に対し、アクリル酸メチル(東京化成工業製)16mol%、ペンタエリスリトールトリアクリレート(製品名:A-TMM-3L、新中村化学工業株式会社製)11mol%、ウレタンアクリレート(製品名CN929、サートーマー製)21mol%を添加した。第2アクリル重合体を形成するためのアクリレートは添加しなかった。また、重合開始剤として、感光性組成物の全固形分量に対し、1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(製品名:Irg184、BASF製)1mol%を添加した。
【0060】
さらに、液晶化合物として、ネマチック‐等方相転移温度が110℃のフェニル‐シクロヘキシル系の液晶(メルク社製、MNC‐6609)を、感光性組成物の全固形分量に対して50mol%となるように添加した。そして、アクリレート、液晶組成物、重合開始剤、スペーサとして、ポリメタクリル酸メチル製フィラー(製品名:SSX-115、積水化成品製、直径φ15μm)及びその他の添加剤を混合し、感光性組成物を作成した。
【0061】
また、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートからなる透明支持層及び、厚さ30nmの酸化インジウムスズ(ITO)透明電極層を含む一対のシートを準備した。
【0062】
シートに、感光性組成物を塗布した。他方のシートを、感光性組成物が塗布されたシートに重ね、配向層で塗布層を挟んだ状態とした。そして、照度10mW/cm2の高圧水銀灯を用いて、積層体に対し一方の透明支持層及び透明電極層を介して紫外線を照射した。温度は15℃~30℃とした。これにより、アクリレートを重合及び硬化させた調光シートを得た。
【0063】
[実施例2]
第1アクリル重合体を形成するためのアクリレートをアクリル酸ドデシル(東京化成工業製)16mol%とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0064】
[実施例3]
第1アクリル重合体を形成するためのアクリレートをアクリル酸メチルとし、含有率を11mol%とした。また、第2アクリル重合体を形成するためのアクリレートとして、イソボルニルアクリレート(製品名:A-IB、新中村化学工業株式会社製)18mol%を添加した。さらに、ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有率を6mol%、ウレタンアクリレートの含有率を13mol%に変更した以外は実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0065】
[実施例4]
第1アクリル重合体を形成するためのアクリレートを、アクリル酸ドデシル(同上)11mol%とした。また、第2アクリル重合体を形成するためのアクリレートとして、イソボルニルアクリレート(製品名:A-IB、新中村化学工業株式会社製)18mol%を添加した。さらに、ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有率を6mol%、ウレタンアクリレートの含有率を13mol%に変更した以外は実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0066】
以下の実施例5~8は、実施例1~4に対して液晶のネマチック‐等方相転移温度が異なる実施例である。
【0067】
[実施例5]
実施例1における液晶のネマチック‐等方相転移温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0068】
[実施例6]
実施例2における液晶のネマチック‐等方相転移温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0069】
[実施例7]
実施例3における液晶のネマチック‐等方相転移温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0070】
[実施例8]
実施例4における液晶のネマチック‐等方相転移温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0071】
以下の実施例9~12は、実施例1~4と液晶のネマチック‐等方相転移温度が異なる実施例である。
[実施例9]
実施例1における液晶のネマチック‐等方相転移温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0072】
[実施例10]
実施例2における液晶のネマチック‐等方相転移温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0073】
[実施例11]
実施例3における液晶のネマチック‐等方相転移温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0074】
[実施例12]
実施例4における液晶のネマチック‐等方相転移温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0075】
以下の比較例1~4は、実施例と液晶のネマチック‐等方相転移温度が異なり、110℃以上140℃以下の範囲外となる例である。
[比較例1]
液晶のネマチック‐等方相転移温度を100℃とした以外は、実施例3と同様にして調光シートを得た。
【0076】
[比較例2]
液晶のネマチック‐等方相転移温度を100℃とし、第1アクリル重合体及び第2アクリル重合体を形成するためのアクリレートを添加せず、ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有率を15mol%、ウレタンアクリレートの含有率を33mol%に変更した以外は実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0077】
[比較例3]
液晶のネマチック‐等方相転移温度を150℃とした以外は、実施例3と同様にして調光シートを得た。
【0078】
[比較例4]
第1アクリル重合体及び第2アクリル重合体を形成するためのアクリレートを添加せず、ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有率を11mol%、ウレタンアクリレートの含有率を21mol%に変更した以外は実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0079】
<評価方法>
実施例1~12及び比較例1~4の調光シートについて、調光シートが設置される空間の温度を「-30℃」~「100℃」の範囲で変えながら、透光駆動時の変化を確認した。ヘイズメータによって測定されるヘイズは温度に左右される傾向があるため、判定用装置30を作製した。
【0080】
図4は、調光シートの透明度及び不透明度を判定するための判定用装置30である。判定用装置30は、ヒータ等により温度調整が可能な空間32を有する筐体31と、筐体31に設けられた窓部33と、空間32内に配置された文字盤34とを備える。窓部33は、ガラスから構成されている。また、文字盤34には、所定の文字を、文字の色、文字の背景色を変えた複数のパターンが表示されている。窓部33と文字盤34との間には、サンプル35が位置する。なお、文字盤34には、「凸版印刷株式会社」のロゴである「TOPPAN」(登録商標)を、文字の色、文字の背景色を変えた複数のパターンが表示されている。
【0081】
サンプル35は、実施例1~12及び比較例1~4の調光シートの一方の面の隅部とその反対側の面の隅部の2箇所に切り込みを入ることで、第1透明電極層及び第2透明電極層を露出させて端子部を形成することで調光シートとした。そして露出させた第1透明電極層及び第2透明電極層に端子部を接合し、端子部を、配線37を介して制御装置36に接続した。制御装置36は、透明電極層に印加される駆動電圧を制御する装置である。
【0082】
まず、観察者39が窓部33を介してサンプル35を視認できる位置に、サンプル35を設置した。さらにサンプル35に周波数50Hzにて0Vから交流電圧を印加し、サンプルのヘイズが飽和するまで昇圧を行った。この透明駆動時において、サンプル35を設置した空間32の温度を-30℃に調整し、その温度を維持した。そして、サンプル35を目視しながら、サンプル35の透明電極層に駆動電圧を印加しない状態とし、ヘイズが上昇して飽和するまで待機した。ヘイズが飽和したとき、サンプル35を介して文字盤34に表示された文字を目視できるか否かを確認し、不透明駆動時におけるサンプル35のヘイズを評価した。
【0083】
図5に示すように、サンプル35を介して目視される文字の明瞭度をレベル分けした。サンプル35が完全に透明であり文字盤34の文字が明瞭に見える状態を「レベル0」、僅かに曇っているが文字が明瞭に見える状態を「レベル1」、50%以上100%未満の文字が見える状態を「レベル2」、0%超50%未満の文字が見える状態を「レベル3」、文字全体は見えないものの文字の輪郭が判別できる状態を「レベル4」、不透明な状態であり文字が見えない状態を「レベル5」とした。
【0084】
不透明状態を評価するとき、「レベル0」~「レベル3」の状態が維持される場合には「×」と評価した。また、「レベル4」の状態が維持される場合には「△」、「レベル5」の状態が維持される場合には「〇」~「◎」とした。特にヘイズが高い状態を「◎」とした。
【0085】
同様に、駆動電圧をオフした状態から駆動電圧を印加してヘイズを低下させ、ヘイズが変化しなくなるまで待機した。ヘイズが変化しなくなったとき、サンプル35を介して文字盤34に表示された文字を目視できるか否かを確認し、透明駆動時におけるサンプル35のヘイズを評価した。
【0086】
図5に示すように、透明状態を評価するとき、「レベル2」~「レベル5」の透明状態が維持される場合には「×」と評価した。また、「レベル1」の透明状態が維持される場合には「△」と評価し、「レベル0」の透明状態が維持される場合には「〇」~「◎」と評価した。特に透明度が高くヘイズが低い状態を「◎」とした。
【0087】
-30℃の不透明状態及び透明状態について評価した後、-20℃、0℃、23℃、90℃、100℃の順に温度を段階的に調整した。温度を調整する都度、駆動電圧をオフにして透明駆動にしてから、駆動電圧を印加し、ヘイズが変わらなくなった時点で不透明駆動時の状態について評価した。また、駆動電圧を印加しヘイズが変わらなくなった時点から駆動電圧をオフして、ヘイズが変わらなくなった時点で透明駆動時の状態について評価した。
【0088】
なお、温度23℃を基準として「レベル0」~「レベル5」のヘイズをヘイズメータ(スガ試験機製、NDH-7000SP)を用いて実測したところ、不透明状態において、「◎」はヘイズが97%以上、「〇」はヘイズが90%以上97%未満、「△」はヘイズが85%以上90%未満、「×」は85%未満であった。透明状態において、「◎」はヘイズが5.0%以下、「〇」はヘイズが5.0%超5.5%未満、「△」はヘイズが5.5%以上6.0%以下、「×」は6.0%超であった。
【0089】
<評価>
図6は実施例1~12及び比較例1~4の評価結果である。実施例1及び実施例2の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、透明駆動時の透明状態が「〇」であった。また、90℃~100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「△」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0090】
また、実施例1及び実施例2の調光シートは、-30℃~100℃の低温時~高温時において、透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0091】
よって実施例1及び実施例2の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。
【0092】
イソボルニルアクリレートを含む実施例3,4の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「◎」であり、実施例1,2よりも高いヘイズが得られた。また、90℃~100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「〇」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0093】
また、実施例3及び実施例4の調光シートは、-30℃~100℃の低温時~高温時において、透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0094】
よって、実施例3及び実施例4の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。
【0095】
実施例5及び実施例6の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「〇」であり、高いヘイズとなった。また、90℃~100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「△」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0096】
また、実施例5及び実施例6の調光シートは、-30℃の低温時に透明状態が「△」であった。-20℃~100℃の低温時~高温時において、透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0097】
よって、実施例5及び実施例6の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。
【0098】
イソボルニルアクリレートを含む実施例7,8の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「◎」であり、実施例1,2及び実施例5,6よりも高いヘイズが得られた。また、90℃~100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「〇」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0099】
また、実施例7及び実施例8の調光シートは、-30℃の低温時に不透明状態が「△」であったものの、-20℃~100℃の低温時~高温時において透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0100】
よって、実施例7及び実施例8の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。
【0101】
実施例9及び実施例10の調光シートは、-30℃~90℃の低温時~高温時において、不透明駆動時の不透明状態が「〇」であり、高いヘイズとなった。また、100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「△」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0102】
また、実施例9及び実施例10の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、透明駆動時の透明状態が「△」であった。また、90℃~100℃の高温時において透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0103】
よって実施例9及び実施例10の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。また、ネマチック‐等方相転移温度が125℃である実施例5,6に比べ、90℃の不透明状態におけるヘイズがさらに高くなり、透明状態における-20℃のヘイズがやや高くなった。
【0104】
イソボルニルアクリレートを含む実施例11,12の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「◎」であり高いヘイズが得られた。また、90℃~100℃の高温時においても不透明駆動時の不透明状態が「〇」であり、不透明状態として十分なヘイズとなった。
【0105】
また、実施例11及び実施例12の調光シートは、-30℃~-20℃の低温時に不透明状態が「△」であった。0℃~100℃の低温時~高温時において透明駆動時の透明状態が「〇」であり、いずれも透明状態として低いヘイズとなった。
【0106】
よって、実施例11及び実施例12の調光シートは、-30℃~100℃の広い温度域において不透明状態のヘイズ及び透明状態のヘイズが良好且つ安定して得られ、良好なコントラストとなることが示唆された。
【0107】
比較例1の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「◎」となった。また、90℃において不透明状態のヘイズが「△」の評価となった。100℃においては、不透明状態に一時的に到達しても徐々に透明に変化していったため、「×」の評価とした。これは、空間32の温度が100℃に到達すると、比較例1,2の液晶のネマチック‐等方相転移温度以上の温度環境となり、液晶相から、等方性を有する液体相に転移するためと考えられる。
【0108】
また、比較例1の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、透明駆動時の透明状態が「◎」の評価となり、90℃において透明状態のヘイズが「△」の評価となり、100℃において透明状態のヘイズが「×」の評価となった。その理由は、上述したように100℃の温度環境では、液晶組成物が等方性液体相に相転移したためと考えられる。
【0109】
比較例2の調光シートは、感光性組成物が第1アクリル重合体及び第2アクリル重合体を有していないため、樹脂組成物と液晶組成物との相溶性が低く、感光性組成物が白濁した。このため、ヘイズの制御が不可能であると評価した。
【0110】
比較例3の調光シートは、-30℃~23℃の低温時~常温時において、不透明駆動時の不透明状態が「◎」の評価となった。90℃~100℃の高温時においては、不透明状態のヘイズが「〇」の評価となった。
【0111】
また、比較例3の調光シートは、-30℃~-20℃の低温時において、透明駆動時の透明状態が「×」の評価となった。その理由は、ネマチック‐等方相転移温度が150度を超えると、零下などの極めて低い温度環境では液晶分子がスメクチック相に近い状態で粘度が上がり、配向状態が変わりにくくなるためと考えられる。
【0112】
比較例4の調光シートは、比較例2の調光シートと同様に、樹脂組成物と液晶組成物との相溶性が低く、感光性組成物が白濁した。このため、ヘイズの制御が不可能であると評価した。
【符号の説明】
【0113】
100…調光装置
10…調光シート
11…調光層
12A,12B…透明電極層
13A,13B…透明支持層