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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/10 20060101AFI20240130BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B23B27/10
B23B27/16 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023168338
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023026226
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-268695(JP,A)
【文献】特開平05-237706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0272442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0175938(US,A1)
【文献】国際公開第2020/230117(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121663(WO,A1)
【文献】特表平09-510149(JP,A)
【文献】特開平08-039387(JP,A)
【文献】特開平08-025111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/04、10、16
B23B 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃を備えた切削インサートがボディの先端部側のインサート座に着脱可能に取り付けられる構造の切削工具であって、
前記ボディの基端部側から前記先端部側に向けてクーラントを供給する第1流路と、
該第1流路の端部に設けられた第1噴出口と、
前記第1流路の途中の分岐点で分岐する第2流路と、
該第2流路の端部に設けられた第2噴出口と、
該第2噴出口から離れて配置され、少なくとも、該第2噴出口から前記切れ刃まで前記クーラントが流出するスペースを形成するガイド面を有するガイド部材と、
を備えており、
前記第1流路のうち、前記分岐点よりも前記基端部側の流路である分岐前流路は、前記第1噴出口から前記分岐点までの分岐後流路の長さaの2倍以上の長さの略直線状の流路であり、
前記第2流路は、略直線状の前記分岐前流路に対して30°以上85°以下の角度で傾斜していて、
前記第2流路の長さbは、前記第1噴出口から前記分岐点までの分岐後流路の長さaよりも短い、切削工具。
【請求項2】
前記分岐前流路は、前記第1噴出口から前記分岐点までの分岐後流路の長さaの3倍以上の長さの略直線状の流路である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記ガイド部材は、前記クーラントの前記第2噴出口からの噴出方向の少なくとも一部を遮る位置に設けられている、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記ガイド部材によりガイドされる前記クーラントの流出方向には、少なくとも、前記第1噴出口からのクーラント噴出方向と略平行な成分が含まれる、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記切削インサートが前記ガイド部材として用いられている、請求項1に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第2噴出口は、前記インサート座に設けられている、請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切削インサートのうち前記インサート座を向く第1の面の一部が前記ガイド面として機能する、請求項6に記載の切削工具。
【請求項8】
前記切削インサートを前記ボディに固定するための固定ねじを通すねじ穴が、当該切削インサートの前記第1の面のうちの前記ガイド面として機能する部分よりも基端部側に設けられている、請求項7に記載の切削工具。
【請求項9】
前記切削インサートの前記第1の面のうち前記ガイド面として機能する部分には、前記切れ刃に向けて傾斜する傾斜部が含まれている、請求項8に記載の切削工具。
【請求項10】
前記インサート座との間の前記スペースのうち前記切れ刃の逃げ面側を向く部分が広くなるように前記ガイド部材が形成されている、請求項5に記載の切削工具。
【請求項11】
前記第2流路の断面積は、前記第1噴出口の付近における前記第1流路の断面積より小さい、請求項10に記載の切削工具。
【請求項12】
前記第1流路は、前記分岐前流路の前記基端部側の端部から前記第1噴出口に至るまで断面積が一定の流路である、請求項2に記載の切削工具。
【請求項13】
前記第1流路は、前記分岐前流路の前記基端部側の端部から前記第1噴出口に至るまで断面円形の流路である、請求項12に記載の切削工具。
【請求項14】
前記第1流路は、前記分岐前流路の前記基端部側の端部から前記第1噴出口に至るまで略直線状の流路で構成されている、請求項13に記載の切削工具。
【請求項15】
前記第2流路は、前記分岐点から前記第2噴出口に至るまで断面積が一定の流路である、請求項2に記載の切削工具。
【請求項16】
前記第2流路は、前記分岐点から前記第2噴出口に至るまで断面円形の流路である、請求項15に記載の切削工具。
【請求項17】
前記第2流路は、前記分岐点から前記第2噴出口に至るまで略直線状の流路で構成されている、請求項16に記載の切削工具。
【請求項18】
前記第1流路と第2流路の一方または両方が真直の流路である、請求項1から17のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
被削材の端面への溝入れ加工(たとえば、端面に環状の溝を切削するといったもの)が可能な切削工具のボディにクーラント流路を適宜配管するための技術として、従来、特許文献1,2等に開示されているもの等が利用されている。また、切削インサートや切れ刃を備えた超硬部をクーラント流路に組み込む技術なども利用されている(例えば特許文献3参照)。
【0003】
これらのようにボディ内のクーラント流路を使ってクーラントを供給する切削工具においては、クーラントの流入口と噴出口を除く部分を封鎖した構造としていることが一般的である(例えば引用文献4~6参照)。このような構造においては、クーラント流路を流れるクーラントが層流であることが前提になっているということができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-238370号公報
【文献】特開2007-320012号公報
【文献】国際公開第2015/056406号
【文献】特開2010-179380号公報
【文献】特開2013-107196号公報
【文献】特開平6-285703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のごとき従来の切削工具、特に小径の丸シャンク工具などにおいては、真にクーラントを供給したい箇所である切れ刃の逃げ面などに向けて直接的に供給することが困難な場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、被削材の端面への溝入れといった切削加工の際、切削インサートの切れ刃に向けてクーラントを十分に供給することができる構造の切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく、本発明者は、小内径の奥端面といった溝入れ加工時におけるクーラントの流れないしは当該流れの不安定化の要因について検討した。小内径の被削材200の奥端面202といった溝入れ加工時のトラブルは、切りくず排出と切削油供給が主原因である場合が多い(図12図13参照)。というのも、内径奥加工であれば切りくず排出方向が制限されてしまい、溝入れ加工であれば切りくず排出路が溝幅で固定されてしまい(たとえば図12に示すように、切削インサート30’の切れ刃32’から基端側へと通じる溝にしか切りくずの排出路がなくなってしまい)、小径端面加工であれば切りくず排出路が捻じれてしまうといった種々の理由から切りくずの排出の問題が生じやすい(図12参照)。かといって、ボディ10’のクーラント流路100’を使ってクーラントCを切れ刃32’に向けて供給しようとすると切りくずに当たってしまい、どうしても切りくずの排出性が阻害されてしまいがちであるばかりか、肝心の切れ刃32’へのクーラントCの供給も阻害されてしまう。また、ボディ10’のクーラント流路100’を使わずに外部からクーラントを供給しようとしても、こういった切削加工ではその性質上、クーラント供給に足る隙間がないため切れ刃に向けて供給することは困難である。そうすると、切りくず排出性を犠牲にすることなくクーラントCの供給切れを回避するには、ボディ10’のクーラント流路100’を通じてクーラントCを供給し、切削した溝をクーラントCで充填する(満たす)ことが考えられるが、そもそも、被削材200の形状に応じて変化する溝体積、溝形状などについて、どのような場合でもクーラントCで充填するのは困難である。したがって、従来の方法では、切れ刃32’までクーラントCが届かない、切りくずがクーラントCに押し込まれてしまうといった課題が生じかねない。こういった種々の問題を前提にしつつさらに検討した本発明者は、切りくずに当たらないようにしながらクーラントCを供給するという着想の下、クーラントCを質量体として捉え、あらかじめ、吐出したい方向に速度を持たせて分流するということに着目し、ここから、課題の解決に結びつく知見を得るに至った。
【0008】
かかる知見に基づく本発明の一態様は、切れ刃を備えた切削インサートがボディの先端部側のインサート座に着脱可能に取り付けられる構造の切削工具であって、
ボディの基端部側から先端部側に向けてクーラントを供給する第1流路と、
該第1流路の端部に設けられた第1噴出口と、
第1流路の途中の分岐点で分岐する第2流路と、
該第2流路の端部に設けられた第2噴出口と、
該第2噴出口から離れて配置され、少なくとも、該第2噴出口から切れ刃までクーラントが流出するスペースを形成するガイド面を有するガイド部材と、
を備えており、
第1流路のうち、分岐点よりも基端部側の流路である分岐前流路は、第1噴出口から分岐点までの分岐後流路の長さa2の2倍以上の長さの略直線状の流路であり、
第2流路は、略直線状の分岐前流路に対して30°以上85°以下の角度で傾斜していて、
第2流路の長さbは、第1噴出口から分岐点までの分岐後流路の長さa2よりも短い、切削工具である。
【0009】
かかる切削工具においては、第1流路の第1噴出口からだけはなく、該第1流路の途中で分岐した第2流路の第2噴出口からもクーラントを噴出させ、この第2噴出口から噴出させたクーラントをガイド部材でガイドし、クーラント流出スペースを通じて切れ刃まで案内することができる。このような構成によれば、ガイド部材に沿ってクーラントを切れ刃まで確実に供給することができる。
【0010】
しかも、この切削工具においては、第1流路および該第1流路の途中で分岐する第2流路を設け、尚かつ第2噴出口からガイド部材を離間させる(つまりは第2噴出口をガイド部材で塞がない)という比較的に簡素であってかつ実状に即した構成としながらも、クーラントをあらかじめ噴出させたい方向に分流させるための条件が設定されている。すなわち、噴流工学の考えに基づき、第1流路を流れる気液混相流のうち第2流路に入ったものを切れ刃まで確実に供給することができるようにするべく、分岐前流路を分岐後流路の長さa2の3倍以上の長さの略直線状の流路とし、かつ、略直線状の分岐前流路に対して第2流路を30°以上85°以下の角度で傾斜させるという条件を設定することで、前方方向(ボディの先端部に向けた方向)への一定の速度成分をもったクーラントの分流にも速度の偏向成分を与え、第2流路を流れた後、切れ刃のほうへ向けて流れるという構造を実現している。また、実際の構造に照らせばガイド部材としては切削インサートを利用することが実状に沿うのであるが、現実の切削インサートの内側の面は複雑な3次元形状をしていることがあり、当該面と第2噴出口との隙間形状もまた複雑になりやすいため、隙間をシールすることが容易でない場合がある。この点、本態様にかかる切削工具においては、ガイド面と第2噴出口との隙間をシールしてクーラントを先端側へと整流するのではなく、基端側にも隙間があることを前提にしつつ、上記のごとき所定の条件を設定することで、前方方向(ボディの先端部に向けた方向)への一定の速度成分をもったクーラントが、第2流路を流れ、第2噴出口から噴出した後、基端部側に向かうのではなくガイド部に沿って先端部のほうに向かうという流れが形成される構造が実現されている。
【0011】
上記のごとき切削工具において、分岐前流路は、第1噴出口から分岐点までの分岐後流路の長さa2の3倍以上の長さの略直線状の流路であってもよい。
【0012】
上記のごとき切削工具において、ガイド部材は、クーラントの第2噴出口からの噴出方向の少なくとも一部を遮る位置に設けられていてもよい。
【0013】
上記のごとき切削工具において、ガイド部材によりガイドされるクーラントの流出方向には、少なくとも、第1噴出口からのクーラント噴出方向と略平行な成分が含まれていてもよい。
【0014】
上記のごとき切削工具において、切削インサートがガイド部材として用いられていてもよい。
【0015】
上記のごとき切削工具において、第2噴出口は、インサート座に設けられていてもよい。
【0016】
上記のごとき切削工具において、切削インサートのうちインサート座を向く第1の面の一部がガイド面として機能してもよい。
【0017】
上記のごとき切削工具において、切削インサートをボディに固定するための固定ねじを通すねじ穴が、当該切削インサートの第1の面のうちのガイド面として機能する部分よりも基端部側に設けられていてもよい。
【0018】
上記のごとき切削工具において、切削インサートの第1の面のうちガイド面として機能する部分には、切れ刃に向けて傾斜する傾斜部が含まれている、請求項8に記載の切削工具。
【0019】
上記のごとき切削工具において、インサート座との間のスペースのうち切れ刃の逃げ面側を向く部分が広くなるようにガイド部材が形成されていてもよい。
【0020】
上記のごとき切削工具において、第2流路の断面積は、第1噴出口の付近における第1流路の断面積より小さくてもよい。
【0021】
上記のごとき切削工具において、第1流路は、分岐前流路から第1噴出口に至るまで断面積が一定の流路であってもよい。
【0022】
上記のごとき切削工具において、第1流路は、分岐前流路から第1噴出口に至るまで断面円形の流路であってもよい。
【0023】
上記のごとき切削工具において、第1流路は、分岐前流路から第1噴出口に至るまで略直線状の流路で構成されていてもよい。
【0024】
上記のごとき切削工具において、第2流路は、分岐点から第2噴出口に至るまで断面積が一定の流路であってもよい。
【0025】
上記のごとき切削工具において、第2流路は、分岐点から第2噴出口に至るまで断面円形の流路であってもよい。
【0026】
上記のごとき切削工具において、第2流路は、分岐点から第2噴出口に至るまで略直線状の流路で構成されていてもよい。
【0027】
上記のごとき切削工具において、第1流路と第2流路の一方または両方が真直の流路であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態における切削工具の構造例を示す斜視図である。
図2】ボディ内のクーラント流路を流れるクーラントを模式的に示す斜視図である。
図3】ボディ内のクーラント流路およびボディと切削インサートの間においてクーラントが漏れ出る可能性があるスペースを模式的に示す斜視図である。
図4図3においてクーラントが漏れ出る可能性があるスペースのみを模式的に示す図である。
図5】切れ刃のすくい面がある側から見た切削工具におけるクーラントの流れについて説明する図である。
図6図5における切削インサートを半裁断面にした状態を示す図である。
図7図5図6におけるクーラントのみを模式的に示す図である。
図8図4に示したクーラントの漏れ出る可能性があるスペースをねじ軸に沿って見た図である。
図9図4に示したクーラントの漏れ出る可能性があるスペースを切削工具の先端部側から見た図である。
図10】第1噴出口を塞いでいない状態におけるクーラントの噴出の状態を示す画像である。
図11】第1噴出口を塞いだ状態におけるクーラントの噴出の状態を参考として示す画像である。
図12】小内径の奥端面といった溝入れ加工時におけるクーラントの流れないしは流れの不安定化の要因について説明する参考図である。
図13図12に示した切削工具と被削材を中心軸に沿って切削インサートの先端部側から見たときの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(図1等参照)。
【0030】
以下に説明する切削工具1は、被削物(ワーク)200の内径端面への溝入れのような加工に適した工具として構成されているもので、ボディ10と、当該ボディ10の先端部10tのインサート座12に取り付けられる切削インサート30とからなる(図1等参照)。
【0031】
ここで、本明細書では、説明の便宜のため、3つの方向あるいは軸を以下のように定めておく。なお、ここで定めているのは切削工具1単体での方向(または軸)である。まず、ボディ10の長手方向に沿った中心軸10xと平行な軸をX軸とし(図2図12参照)、X軸に垂直なY軸と、X軸およびY軸に垂直なZ軸を定める(図1等参照)。Y軸は、ボディ10の基端部10b側の周面13に形成された4つの平坦面(平行な1組の平面と、これらに対して垂直な別の一組の平面とからなる)14のうち、一組の平坦面14に垂直であり、Z軸は別の一組の平坦面14に垂直である(図2図9等参照)。基端部側周面13のうち、平坦面14を除く部分は円筒状外周面15である。
【0032】
[ボディ]
ボディ10のインサート座12には、固定ねじ50のねじ部51が螺合するねじ穴11が設けられている(図2参照)。該ねじ穴11の中心を通るねじ軸を符号11Aで示している。
【0033】
本実施形態の切削工具1のボディ10には、ボディ10の基端部10b側から先端部10t側に向けてクーラントCを供給するためのクーラント流路100が設けられている(図1等参照)。クーラント流路100は、第1流路110と、該第1流路110の途中で分岐する第2流路120とを含む構成となっている(図2等参照)。
【0034】
第1流路110は、ボディ10の基端部10b側から先端部10t側に向けてクーラントCを供給するようにX軸に沿って構成された流路である(図1等参照)。第1流路110の途中には、もうひとつの流路である第2流路120へ分岐する分岐点114が設けられている。本明細書では、第1流路110のうち、この分岐点114よりも基端部10b側の部分を「分岐前流路」、分岐点114から先端部10t側の部分を「分岐後流路」と呼び、図中ではそれぞれ符号112(分岐前流路)、116(分岐後流路)で表すこととする(図5図6等参照)。第1流路110の先端(先端部10t側の端部)には開口からなる第1噴出口118が設けられている。第1流路110の分岐後流路116内を先端部10t側に向けて流れたクーラントCは、この第1噴出内118から前方へ向けて噴出される(図5等参照)。
【0035】
第1流路110は、X軸に沿って略直線状に延びる流路としてボディ10内に設けられている。本実施形態では、断面円形であって内径が同一かつ断面積一定の、X軸に沿って真っすぐに延びる真直の円筒流路を第1流路110としている(図6等参照)。ただし、このような流路は好適な一例にすぎず、この点については後述するが、第1流路110は、断面が一様な真円の流路でなくてもよいし、X軸に沿って真直に延びる流路でなくてもよい。
【0036】
第2流路120は、第1流路110の途中の分岐点114で分岐し、インサート座12に向けてクーラントCを供給するように形成された流路である。この第2流路120は、X軸に対して所定の角度傾いたK軸(図5参照)に沿うように形成されていて、第1流路110の分岐前流路112に対して傾斜した状態となっている。分岐前流路112に対する第1流路110の傾斜角度θは、例えば30°以上85°以下、好ましくは70°以下であることが好適であるが、第2流路120に分岐したクーラントCにも先端部10t側に向かう流れが残る限り(これについは後述する)、特にその大きさが限定されることはない。
【0037】
また、第2流路120は、K軸に沿って略直線状に延びる流路として設けられている。本実施形態では、内径同一かつ断面積一定の断面円形であって、K軸に沿って真っすぐに延びる真直の円筒流路を第2流路120としている(図6等参照)。また、第2流路120は、その断面積S2が、第1噴出口118の付近における第1流路110の断面積S1より小さく形成されていてもよい(図9参照)。こうした場合、第2流路120におけるクーラント流量は、第1流路110におけるクーラント流量よりも少なくなりやすい。なお、ここまで説明したような流路は好適な一例にすぎず、この点についてもまた後述するが、第2流路120は、断面が一様な真円の流路でなくてもよいし、K軸に沿って真直に延びる流路でなくてもよい。
【0038】
第2流路120の端部には第2噴出口122が設けられている(図6等参照)。本実施形態の切削工具1においては、インサート座12がある部分にこの第2噴出口122を設けている(図6等参照)。第2噴出口122はインサート座12における開口となっており、インサート座12と切削インサート30との間のスペースに向けてクーラントCを噴出させる。
【0039】
上述のごときクーラント流路100において、分岐後流路116の長さ(分岐点114から第1噴出口118までのX軸に沿った長さ)をa2とすると、分岐前流路112の長さ(第1流路110のうち分岐点114よりも基端部10b側の部分の長さ)a1はa2の2倍以上(a1≧2a2)、より好ましくは3倍以上(a1≧3a2)になっているとよい。
【0040】
また、上述のごときクーラント流路100において、第2流路120の長さ(分岐点114から第2噴出口122までのK軸に沿った長さ)をbとすると、当該長さbは、分岐後流路116の長さa2よりも短い(b<a2)ものとなっている(図6等参照)。
【0041】
[切削インサート]
切削インサート30は、ねじ穴31、切れ刃32、ガイド面33g、傾斜部34、周側面35等を備え、上記のごときボディ10のインサート座12に着脱可能に形成されている(図1図5図6等参照)。本実施形態の切削インサート30は、第2噴出口122からのクーラント噴出方向の少なくとも一部を遮るようにインサート座12に配置される。
【0042】
ねじ穴31は、固定ねじ50のねじ部51を通すために設けられた穴である(図5等参照)。本実施形態では、ねじ穴31を、ガイド面33gとして機能する部分よりも切削インサート30の基端部30b寄りとなる位置に設けている(図6等参照)。
【0043】
切れ刃32は、当該切削インサート40の先端部40tに形成されている(図5等参照)。符号32rは、切れ刃32のすくい面を表す。
【0044】
ガイド面33gは、当該切削インサート30のうち、ボディ10のインサート座12を向く側面(第1の面)33側に形成されている(図6等参照)。本実施形態の切削工具1における切削インサート30のガイド面33gは、ボディ10の第2噴出口122から離れて配置され、少なくとも、この第2噴出口122から切れ刃32までクーラントCが流出するスペースを形成するように設けられている(図6図7等参照)。このようなガイド面33gとして機能する部分は、当該切削インサート30のねじ穴31よりも先端部30t寄りの位置に配置されているとよい(図6等参照)。
【0045】
なお、切削インサート30以外の部材を使ってこのようなガイド面を形成してももちろん構わないが、本実施形態の切削工具1では、切削インサート30の一部(たとえば、上述のようにインサート座12を向く第1の面)を、切れ刃32までクーラントCを流出させるためのガイド面として機能するように構成している。
【0046】
周側面35は、当該切削インサート30のうち、ガイド面33とは反対側を向く第2の面である。本実施形態においてこの周側面35は断面が円弧状の外周面を含む面で形成されており、当該切削インサート30を先端部30tから見たときに(あるいは、X軸に垂直なYZ断面において)円筒状になっており、端面の溝入れ加工に適した形になっている(図13等参照)。この周側面35のうち、ねじ穴31の周辺の部分は平坦となるように削られて平坦面35fになっている(図6等参照)。このように平坦として余分な肉を落とすことによって製造コストを下げることが可能である。
【0047】
上述のように構成された本実施形態の切削工具1によれば、ボディ10と切削インサート30との隙間を完全にシールすることができなくても、あるいはシールせずとも、被削材200の端面への溝入れといった切削加工の際、切れ刃32に向けてクーラントCを十分に供給することが可能となる。以下、その原理や仕組みについて説明する。なお、図4図7図9では、インサート座12と切削インサート30との間においてクーラントCが漏れ出る可能性があるスペースのみを模式的に示し、説明をわかりやすくしている。
【0048】
本実施形態の切削工具1においては、クーラント流路100として第1流路110および該第1流路110の途中で分岐する第2流路120とを設け、尚かつ、第2噴出口122があるインサート座12と切削インサート30との隙間をパッキンとかシーリングを使って封止するのではなく、あえて当該部分にスペースを設けるという比較的に簡素であってかつ実状に即した構成としたまま、そのような構成を前提に、クーラントCを噴出させたい方向に分流させるための条件を設定している点で特徴的であるといえる。つまり、本実施形態では、噴流工学の考えに基づき、第1流路110を流れる気液混相流のうち第2流路120に入ったものを切れ刃32まで確実に供給することができるようにする条件として、第1流路110の分岐前流路112を、その長さa1が分岐後流路116の長さa2の少なくとも2倍以上、好適には3倍以上である略直線状の流路とし、かつ、略直線状の分岐前流路112に対して第2流路120所定の角度θ(例えば30°以上85°以下、好ましくは70°以下)で傾斜させるという条件を設定することで、前方方向(X軸に沿ってボディ10の先端部10tを向いた方向)への一定の速度成分をもったクーラントCの分流にも速度の偏向成分を与え、第2流路120を流れた後、切れ刃32のほうへ向けて流れるという構造を実現している(図1図7等参照)。
【0049】
また、切削工具1の実際の構造に照らせば、クーラントCを前方方向へガイドするための部材には、わざわざそのための別部材を誂えるのではなく、切削インサート30の一部を利用することが実状に沿うといえるが、現実の切削インサートの内側の面(本実施形態での場合は、側面33)は複雑な3次元形状をしていることがあり、当該面と第2噴出口122との隙間形状もまた複雑になりやすいため、隙間をシールすることが容易でない場合がある。この点、本実施形態の切削工具1においては、切削インサート30と第2噴出口122との隙間をシールしてクーラントCを先端部10t側へ整流するのではなく、基端部10b側さらにはそれ以外のほうにも四方八方に隙間があることを前提にしつつ、上記のごとき所定の条件を設定することで、前方方向(ボディ10の先端部10tに向けた方向)への一定の速度成分をもったクーラント(前方噴出の初速が効いたクーラント、という言い方もできる)Cが、第2流路120を流れ、第2噴出口122から噴出した後、基端部10b側に向かうのではなく切削インサート30の側面33のガイド面33gに沿って先端部10tのほうに向かうという流れが形成される構造を実現している(図1図9参照)。
【0050】
以上は、別の観点から以下のように説明することもできる。すなわち、技術的には、第1流路110が、第2流路120と交差することにより、その流路壁の一部を失う(第2流路120に向けて第1流路110の一部が開口している)ことで、第1流路110で生じている管摩擦の一部が分岐点114にて喪失する。結果として、層流でも気液混相流でも、第1流路110を流れる流体の一部が第2流路120に流れ込む。層流の場合には、流体の圧が上がれば結果として第2流路120の圧も合わせて上昇するが、噴流の場合には、第2流路120の重質量成分は第1流路110の圧上昇に伴い圧が減少する(流体がより第1流路110へと流れやすくなり、第2流路120へ漏れる量が減り、圧も下がる)。本実施形態では、このような性質を加味しつつ、クーラントCを質量体と捉え、あらかじめ、噴出させたい方向に速度を持たせて分流することで、開放系であっても噴出口の方向(本実施形態の切削工具1でいえば、第2噴出口122の方向つまりはK軸に沿った方向)ではない、任意の方向に切削油を供給することを可能としている。また、クーラントCを前方方向へガイドするための部材(本実施形態では、切削インサート30が該当)は、第2流路120によって生じるY軸方向の流れを止めて、X軸方向だけの流れへ整える働きをしている。
【0051】
なお、切削インサート30の側面33のガイド面33gは、当該ガイド面33gによってガイドされるクーラントCの流出方向に、上述した第1噴出口118からのクーラント噴出方向と略平行な成分(別言すれば、X軸方向に沿った成分)が含まれるように形成されているとよい。一例として本実施形態では、切削インサート30の側面33のうちガイド面33gとして機能する部分に、切れ刃32に向けて傾斜する傾斜部34を設け、X軸方向に沿ったクーラント噴出成分がより多く含まれるようにしている(図6等参照)。さらに本実施形態では、切削インサート30とインサート座12との間のスペースのうち、切れ刃32の逃げ面32r側を向く部分が噴出口のように広くなるように当該切削インサート30を形成している(図7等参照)。このような構造の切削工具1においては、ボディ10と切削インサート30との間に余分なスペースを必要としないため、そのぶん切削インサート30の肉厚を増やして特にねじ穴31周りの強度を高めるがことが可能となっている。
【0052】
ここまで説明したように、本実施形態の切削工具1によれば、クーラント流路100や噴出口(第1噴出口118、第2噴出口122)を充填するようなクーラントCで流量には足らない場合でも、切削加工時の切りくずの排出性能に悪影響を与えることなく、切れ刃32に向けて確実にクーラントCを供給することで油切れを防ぐことが可能となる。このように、分岐する第2流路120を実際にクーラントCで充填する必要がないというのは、現実的な使用条件下(クーラントCの供給条件下)で使用可能だということであり、実施の使用に即したものとなる。
【0053】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、第1流路110に関し、X軸に沿って略直線状に延びる流路であるとして説明したが、本明細書でいう略直線状とは、厳密に直線状(真直)となっている場合はもちろん、多少の曲線や角部があっても全体として直線的に形成されている場合をも意味する。要は、ここまでの説明から明かなとおり、本実施形態の切削工具1においては、第1流路110の分岐前流路112を流れるクーラントCの一部が、一定の速度成分をもった状態で第2流路120を流れることを条件としているのであって、そのためには、第1流路110の分岐前流路112が直線的な流路であることよりも、分岐前流路112が所定以上の長さ有していることのほうが重要である。また、上述した実施形態では、断面円形であって内径が同一かつ断面積一定である第1流路110や第2流路120を説明したがこれも好適な一例にすぎない。要は、第1流路110の分岐前流路112を流れるクーラントCの一部が一定の速度成分をもった状態で第2流路120を流れることを阻害するものでない限り、第1流路110や第2流路120は断面円形である必要はないし、内径が同一かつ断面積一定である必要もない。
【0054】
また、本実施形態のごとき切削工具1は、例えば、旋盤に取り付け、回転する被削物200に切れ刃32を押し付けることで当該被削物200の端面にドーナッツ状の溝を形成するといった加工に適用して好適なものであるが、これは一例にすぎない。このような旋削工具の他、トレパニングカッタ等の転削工具等にも展開することが可能である。
【実施例
【0055】
本実施形態のごとき構成の切削工具1を使って試験を行ったところ、切削インサート30の切れ刃32に向けてクーラントCを十分に供給できることが確認された(図10参照)。一方、第1噴出口118を塞ぐとクーラントCが四方八方に噴き出す、すなわち四方八方に隙間があることを示され、これにより、第2噴出口122と切削インサート30の間がシールされていないこと、つまりは、従来発想のシールにより前方だけに開口している構造ではないことが確認できた(図11参照)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、端面溝入れ工具をはじめとする各種の切削工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0057】
1…切削工具
10,10’…ボディ
10b…基端部
10t…先端部
10x…中心軸
11…ねじ穴
11A…ねじ軸
12…インサート座
13…周面
14…平坦面
15…円筒状外周面
30…切削インサート(ガイド部材)
30b…基端部
30t…先端部
31…ねじ穴
32,32’…切れ刃
32r…すくい面
33…側面(第1の面)
33g…ガイド面
34…傾斜部
35…周側面
35f…平坦面
50…固定ねじ
51…ねじ部
100,100’…クーラント流路(流体流路)
110…第1流路
112…分岐前流路
114…分岐点
116…分岐後流路
118…第1噴出口
120…第2流路
122…第2噴出口
200…被削材
202…奥端面
1…第1流路のうち分岐点よりも基端部側の部分の長さ(分岐前流路の長さ)
2…第1流路の第1噴出口から分岐点までの長さ(分岐後流路の長さ)
b…第2流路の長さ
S1…第1流路の断面積
S2…第2流路の断面積
【要約】
【課題】被削材の端面への溝入れといった切削加工の際、切削インサートの切れ刃に向けてクーラントを十分に供給することができる構造とする。
【解決手段】ボディ10の先端部10t側に向けてクーラントを供給する第1流路110と、第1噴出口118と、第1流路110の途中の分岐点114で分岐する第2流路120と、第2噴出口122と、該第2噴出口122から離れて配置され、第2噴出口122から切れ刃32までクーラントが流出するスペースを形成するガイド面33gを有するガイド部材30と、を備える切削工具1である。第1流路110のうち分岐点114よりも基端部側の流路である分岐前流路112は、第1噴出口118から分岐点114までの分岐後流路116の長さの2倍以上の長さの略直線状流路である。第2流路120は、略直線状の分岐前流路112に対して30°以上85°以下の角度で傾斜している。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13