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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/14 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
G01L3/14 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020032517
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021135211
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 勇佑
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-320622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心として回転する円形のギアと、
前記ギアの軸方向一方側の端面を覆うカバーと、
前記ギアの外周部と前記カバーの外周部との間を閉塞するシール部材と、
前記ギアの前記端面に固定され、検出用の抵抗線パターンを有するセンサ基板と、
前記抵抗線パターンと電気的に接続される信号処理回路を有する信号処理基板と、
を備え、
前記カバーは、軸方向に貫通する貫通孔を有し、
前記センサ基板の端子部は、前記貫通孔を通って前記カバーの外部へ延び、
前記カバーの前記貫通孔の内周壁と前記端子部との間を閉塞する封止部材をさらに備える、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記信号処理基板の少なくとも一部が、前記カバーの外表面よりも内側に位置する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記カバーは、外表面に溝を有し、
前記信号処理基板の少なくとも一部が、前記溝内に収容される、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達装置であって、
前記カバーは、軸方向一方側の外表面に前記溝を有する、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置であって、
前記溝は、前記中心軸を中心とする円弧状または円環状である、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記カバーと前記ギアとの間に存在するグリス
をさらに備えた、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記センサ基板は、フレキシブルプリント基板であり、
前記端子部は、前記フレキシブルプリント基板の一部である、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットの関節などに搭載される減速機の需要が急速に高まっている。従来の減速機については、例えば、特開2004-198400号公報に記載されている。この公報では、減速後の回転数で回転する可撓性外歯歯車に、歪みゲージが貼り付けられている。これにより、可撓性外歯歯車にかかるトルクの計測が可能となっている。
【文献】特開2004-198400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の減速機では、可撓性外歯歯車の周囲にグリスが塗布されている。そして、グリスの漏れを防止するために、可撓性外歯歯車とカバーとの間が、円環状のシール部材によって封止されている。しかしながら、可撓性外歯歯車に貼り付けられた歪みゲージから、端子を引き出すためには、円環状のシール部材の一部に隙間を設けて、端子を通す必要がある。そうすると、シール部材の当該隙間から、グリスの漏れが発生しやすくなる。
【0004】
本発明の目的は、グリスの漏れを抑制しつつ、ギアに固定されたセンサ基板の端子部を外部へ引き出すことができる動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、中心軸を中心として回転する円形のギアと、前記ギアの軸方向一方側の端面を覆うカバーと、前記ギアの外周部と前記カバーの外周部との間を閉塞するシール部材と、前記ギアの前記端面に固定され、検出用の抵抗線パターンを有するセンサ基板と、前記抵抗線パターンと電気的に接続される信号処理回路を有する信号処理基板と、を備え、前記カバーは、軸方向に貫通する貫通孔を有し、前記センサ基板の端子部は、前記貫通孔を通って前記カバーの外部へ延び、前記カバーの前記貫通孔の内周壁と前記端子部との間を閉塞する封止部材をさらに備える。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、ギアの外周部とカバーの外周部との間を閉塞する円環状のシール部材に隙間を設けることなく、センサ基板の端子部を、カバーに設けられた貫通孔を介して、カバーの外側へ引き出す。カバーの貫通孔の内周壁と端子部との間は、封止部材により封止する。これにより、グリスの漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、動力伝達装置の縦断面図である。
図2図2は、動力伝達装置の横断面図である。
図3図3は、動力伝達装置の部分縦断面図である。
図4図4は、センサ基板の展開状態の平面図である。
図5図5は、ブリッジ回路の回路図である。
図6図6は、動力伝達装置を、軸方向一方側から見た図である。
図7図7は、第1変形例に係る動力伝達装置の部分縦断面図である。
図8図8は、第2変形例に係る動力伝達装置の部分縦断面図である。
図9図9は、第3変形例に係る動力伝達装置を、軸方向一方側から見た図である。
図10図10は、第4変形例に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、動力伝達装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、動力伝達装置の中心軸に直交する方向を「半径方向」、動力伝達装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0009】
<1.動力伝達装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置1の縦断面図である。図2は、図1のA-A位置から見た動力伝達装置1の横断面図である。この動力伝達装置1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数に減速させつつ後段へ伝達する装置である。動力伝達装置1は、例えば、ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、本発明の動力伝達装置は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0010】
図1および図2に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、インタナルギア10、フレックスギア20、波動発生器30、カバー40、センサ基板50、および信号処理基板60を備えている。
【0011】
インタナルギア10は、内周面に複数の内歯11を有する円環状のギアである。インタナルギア10は、動力伝達装置1の図示を省略したハウジングに、例えばねじ止めで固定される。インタナルギア10は、中心軸9と同軸に配置される。また、インタナルギア10は、フレックスギア20の後述する筒状部21の半径方向外側に位置する。インタナルギア10の剛性は、フレックスギア20の筒状部21の剛性よりも、はるかに高い。このため、インタナルギア10は、実質的に剛体とみなすことができる。インタナルギア10は、円筒状の内周面を有する。複数の内歯11は、当該内周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各内歯11は、半径方向内側へ向けて突出する。
【0012】
フレックスギア20は、可撓性を有する円環状のギアである。フレックスギア20は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。フレックスギア20は、本発明における「円形のギア」の一例である。
【0013】
本実施形態のフレックスギア20は、筒状部21と平板部22とを有する。筒状部21は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。平板部22は、筒状部21の軸方向一方側の端部から、半径方向外側へ向けて広がる。筒状部21の軸方向他方側の先端は、波動発生器30の半径方向外側、かつ、インタナルギア10の半径方向内側に位置する。筒状部21は、可撓性を有するため、半径方向に変形可能である。特に、インタナルギア10の半径方向内側に位置する筒状部21の先端部は、自由端であるため、他の部分よりも大きく半径方向に変位可能である。
【0014】
フレックスギア20は、複数の外歯23を有する。複数の外歯23は、筒状部21の軸方向他方側の先端部付近の外周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各外歯23は、半径方向外側へ向けて突出する。上述したインタナルギア10が有する内歯11の数と、フレックスギア20が有する外歯23の数とは、僅かに相違する。
【0015】
平板部22は、ダイヤフラム部221と肉厚部222とを有する。ダイヤフラム部221は、筒状部21の軸方向一方側の基端部から、半径方向外側へ向けて平板状に広がり、かつ、中心軸9を中心として円環状に広がる。ダイヤフラム部221は、軸方向に僅かに撓み変形可能である。肉厚部222は、ダイヤフラム部221の半径方向外側に位置する、円環状の部分である。肉厚部222の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部221の軸方向の厚みよりも厚い。肉厚部222は、カバー40に対して、例えばねじ止めで固定される。
【0016】
波動発生器30は、フレックスギア20の筒状部21に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。波動発生器30は、カム31と可撓性軸受32とを有する。カム31は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。カム31は、軸方向に視たときに楕円形の外周面を有する。可撓性軸受32は、カム31の外周面と、フレックスギア20の筒状部21の内周面との間に介在する。したがって、カム31と筒状部21とは、異なる回転数で回転できる。
【0017】
可撓性軸受32の内輪は、カム31の外周面に接触する。可撓性軸受32の外輪は、フレックスギア20の内周面に接触する。このため、フレックスギア20の筒状部21は、カム31の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア20の外歯23と、インタナルギア10の内歯11とが噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯23と内歯11とが噛み合わない。
【0018】
カム31は、直接または他の動力伝達機構を介して、モータに接続される。モータを駆動させると、カム31は、中心軸9を中心として第1回転数で回転する。これにより、フレックスギア20の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯23と内歯11との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、上述の通り、インタナルギア10の内歯11の数と、フレックスギア20の外歯23の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、カム31の1回転ごとに、外歯23と内歯11との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、インタナルギア10に対してフレックスギア20が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。
【0019】
カバー40は、フレックスギア20の軸方向一方側の端面を覆う部材である。図1に示すように、カバー40は、カバー円板部41と、カバー円筒部42とを有する。カバー円板部41は、中心軸9を中心とする円板状に広がる。カバー円筒部42は、カバー円板部41の半径方向外側の端部から、軸方向他方側へ向けて、円筒状に延びる。カバー40は、フレックスギア20に対して固定されている。このため、カバー40は、フレックスギア20とともに、減速後の第2回転数で回転する。
【0020】
なお、本実施形態では、インタナルギア10を固定し、フレックスギア20およびカバー40を、減速後の第2回転数で回転させている。しかしながら、フレックスギア20およびカバー40を固定し、インタナルギア10を、減速後の第2回転数で回転させるようにしてもよい。
【0021】
<2.センサ基板について>
図3は、動力伝達装置1の部分縦断面図である。図4は、センサ基板50の展開状態の平面図である。
【0022】
センサ基板50は、フレックスギア20にかかるトルクを検出するための抵抗線パターンが搭載された基板である。本実施形態のセンサ基板50は、柔軟に変形可能なフレキシブルプリント基板(FPC)である。センサ基板50は、絶縁層と導体層とを有する。絶縁層は、絶縁体である樹脂からなる。導体層は、導体である金属からなる。導体層の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。また、図3および図4に示すように、センサ基板50は、中心軸9を中心とする円環状の本体部51と、本体部51から突出する端子部52とを有する。端子部52は、図4のように展開された状態において、本体部51から半径方向外側へ向けて延びる。
【0023】
図3に示すように、本体部51は、フレックスギア20の軸方向一方側の端面に、固定される。具体的には、ダイヤフラム部221の軸方向一方側の表面と、センサ基板50の裏面とが、両面接着テープを介して固定される。両面接着テープは、接着力を有する材料がテープ状に成形されて、形状を維持できる程度に硬化されたものである。このような両面接着テープを用いれば、流動性を有する接着剤を用いる場合よりも、ダイヤフラム部221に対するセンサ基板50の固定作業が容易となる。また、作業者による固定作業のばらつきを低減できる。
【0024】
センサ基板50には、トルク検出用抵抗線パターン53が搭載されている。トルク検出用抵抗線パターン53は、ダイヤフラム部221の歪みに基づいて、フレックスギア20にかかるトルクを検出するためのパターンである。トルク検出用抵抗線パターン53は、上述した導体層により形成される。図4に示すように、トルク検出用抵抗線パターン53は、第1抵抗線パターンR1と、第2抵抗線パターンR2とを有する。
【0025】
第1抵抗線パターンR1は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第1抵抗線パターンR1が設けられている。第1抵抗線パターンR1は、複数の第1抵抗線r1を含む。複数の第1抵抗線r1は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第1抵抗線r1は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向一方側に傾斜している。半径方向に対する第1抵抗線r1の傾斜角度は、例えば45°とされる。周方向に隣り合う第1抵抗線r1の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第1抵抗線r1が、全体として直列に接続される。
【0026】
第2抵抗線パターンR2は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。第2抵抗線パターンR2は、第1抵抗線パターンR1よりも、半径方向内側に位置する。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第2抵抗線パターンR2が設けられている。第2抵抗線パターンR2は、複数の第2抵抗線r2を含む。複数の第2抵抗線r2は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第2抵抗線r2は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向他方側に傾斜している。半径方向に対する第2抵抗線r2の傾斜角度は、例えば45°とされる。周方向に隣り合う第2抵抗線r2の端部同士は、半径方向の内側または外側で交互に接続される。これにより、複数の第2抵抗線r2が、全体として直列に接続される。
【0027】
端子部52は、フレキシブルプリント基板であるセンサ基板50の一部である。端子部52は、トルク検出用抵抗線パターン53と接続される4つの端子521を有する。4つの端子521は、上述した導体層により形成される。4つの端子521のうちの2つは、第1抵抗線パターンR1の両端部に、それぞれ接続される。4つの端子521のうちの他の2つは、第2抵抗線パターンR2の両端部に、それぞれ接続される。
【0028】
<3.信号処理基板について>
信号処理基板60は、トルク検出用抵抗線パターン53と電気的に接続される信号処理回路が搭載された基板である。信号処理基板60には、フレキシブルプリント基板よりも厚いリジッド基板が用いられる。信号処理基板60は、カバー40の外表面に設けられた溝44内に、接着剤で固定されている。
【0029】
センサ基板50の4つの端子521は、信号処理基板60に形成された信号処理回路に接続される。これにより、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むブリッジ回路Bが形成される。図5は、ブリッジ回路Bの回路図である。図5に示すように、本実施形態のブリッジ回路Bは、第1抵抗線パターンR1、第2抵抗線パターンR2、2つの固定抵抗Rs、および電圧計Vを含む。2つの固定抵抗Rsおよび電圧計Vは、信号処理基板60に搭載されている。第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、直列に接続される。2つ固定抵抗Rsは、直列に接続される。そして、電源電圧の+極と-極との間において、2つ抵抗線パターンR1,R2の列と、2つの固定抵抗Rsの列とが、並列に接続される。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、2つの固定抵抗Rsの中点M2とが、電圧計Vに接続される。
【0030】
第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値は、フレックスギア20にかかるトルクに応じて変化する。例えば、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の一方側へ向かうトルクがかかると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が低下し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が増加する。一方、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の他方側へ向かうトルクがかかると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が増加し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が低下する。このように、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、トルクに対して互いに逆向きの抵抗値変化を示す。
【0031】
そして、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値が変化すると、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、2つの固定抵抗Rsの中点M2との間の電位差が変化するので、電圧計Vの計測値が変化する。したがって、この電圧計Vの計測値に基づいて、フレックスギア20にかかるトルクの向きおよび大きさを検出することができる。
【0032】
なお、信号処理基板60は、電圧計Vの計測値を増幅する増幅回路を備えていてもよい。
【0033】
<4.センサ基板と信号処理基板の接続について>
動力伝達装置1は、フレックスギア20を円滑に動作させるために、図示を省略したグリスを備えている。グリスの一部は、フレックスギア20のダイヤフラム部221と、カバー円板部41との間の空間に存在する。また、動力伝達装置1は、グリスの漏れを防止するために、円環状のシール部材70を有する。シール部材70は、例えば、弾性変形可能なシリコンゴムからなる。
【0034】
シール部材70は、カバー円板部41の軸方向他方側の面に設けられた円環状のシール溝421と、フレックスギア20の肉厚部222との間に、保持されている。これにより、シール部材70は、フレックスギア20の外周部と、カバー40の外周部との間を閉塞する。ダイヤフラム部221とカバー円板部41との間から、グリスが半径方向外側へ移動しようとしても、当該グリスは、シール部材70により堰き止められる。したがって、シール部材70よりも半径方向外側へ、グリスが漏れ出すことが防止される。
【0035】
図6は、動力伝達装置1を、軸方向一方側から見た図である。図3および図6に示すように、カバー40は、貫通孔43を有する。貫通孔43は、シール部材70よりも半径方向内側において、カバー円板部41を軸方向に貫通する。また、動力伝達装置1は、封止部材80を有する。封止部材80は、カバー円板部41の貫通孔43に取り付けられている。本実施形態では、封止部材80として、弾性を有する樹脂製のリードブッシュが用いられている。封止部材80は、軸方向に貫通するスリット状の挿通孔81を有する。
【0036】
センサ基板50の端子部52は、ダイヤフラム部221とカバー円板部41との間の空間から、カバー40の貫通孔43を通って、カバー40の外部へ延びる。具体的には、端子部52は、封止部材80の挿通孔81を通って、カバー40の軸方向一方側へ引き出される。そして、端子部52の4つの端子521が信号処理基板60の信号処理回路に接続される。
【0037】
このように、センサ基板50の端子部52は、半径方向外側ではなく、軸方向一方側へ引き出される。このため、端子部52の引き出しのために、シール部材70の周方向の一部に隙間を設ける必要はない。すなわち、シール部材70の周方向の一部に隙間を設けることなく、端子部52をカバー40の外側へ引き出すことができる。したがって、半径方向外側へのグリスの漏れ出しを防止できる。また、貫通孔43において、封止部材80は、カバー40および端子部52に密着する。これにより、カバー40の貫通孔43の内周壁と、端子部52との間が閉塞される。したがって、ダイヤフラム部221とカバー円板部41との間の空間から、貫通孔43を通ってカバー40の軸方向一方側の空間へ、グリスが漏れ出すことも防止できる。また、端子部52の4つの端子521に、グリスが付着することを防止できる。
【0038】
また、図3および図6に示すように、カバー40は、溝44を有する。溝44は、カバー円板部41の軸方向一方側の外表面から、軸方向他方側へ向けて凹む。信号処理基板60は、溝44の底部に固定される。信号処理基板60の少なくとも一部は、溝44内に収容される。換言すると、信号処理基板60の少なくとも一部は、カバー40の軸方向一方側の外表面よりも、軸方向他方側(内側)に位置する。これにより、カバー40から信号処理基板60が軸方向一方側(外側)へ突出することを抑制できる。したがって、溝44が無い場合と比べて、動力伝達装置1の軸方向の寸法を低減できる。
【0039】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態には限定されない。以下では、種々の変形例について、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0040】
<5-1.第1変形例>
図7は、第1変形例に係る動力伝達装置1の部分縦断面図である。図7の例では、カバー円板部41の軸方向一方側の外表面ではなく、カバー円筒部42の外周面に、溝44が設けられている。溝44は、カバー円筒部42の外周面から、半径方向内側へ向けて凹む。そして、その溝44の底部に、信号処理基板60が固定されている。このようにすれば、図3の例と比べて、動力伝達装置1の軸方向の寸法を、より低減できる。
【0041】
また、信号処理基板60の少なくとも一部は、溝44内に収容される。換言すると、信号処理基板60の少なくとも一部は、カバー40の外周面よりも、半径方向内側(内側)に位置する。これにより、カバー40から信号処理基板60が半径方向外側(外側)へ突出することを抑制できる。したがって、溝44が無い場合と比べて、動力伝達装置1の半径方向の寸法を低減できる。
【0042】
<5-2.第2変形例>
図8は、第2変形例に係る動力伝達装置1の部分縦断面図である。図8の例では、図3の例よりも、溝44の深さが深い。このため、図8の例では、信号処理基板60の全体が、溝44内に収容されている。換言すると、信号処理基板60の全体が、カバー40の軸方向一方側の外表面よりも、軸方向他方側(内側)に位置する。このようにすれば、カバー40から信号処理基板60が軸方向一方側(外側)へ突出することを、より抑制できる。したがって、図3の例よりも、動力伝達装置1の軸方向の寸法を、低減できる。
【0043】
<5-3.第3変形例>
図9は、第3変形例に係る動力伝達装置1を、軸方向一方側から見た図である。図9の例では、溝44が、中心軸9を中心とする円環状である。また、信号処理基板60の形状も、中心軸9を中心とする円環状である。このようにすれば、カバー40の円形の外表面を有効に利用して、信号処理基板60を配置するスペースを広くとることができる。なお、溝44および信号処理基板60の形状は、中心軸9を中心とする円弧状であってもよい。
【0044】
<5-4.第4変形例>
図10は、第4変形例に係る動力伝達装置1の縦断面図である。図10の例では、動力伝達装置1が、ロボット100の関節に組み込まれている。波動発生器30のカム31は、モータ90の出力軸91に固定されている。カバー40は、カバー円筒部42から半径方向外側へ向けて延びるアーム45を有する。モータ90を駆動させると、モータ90を支持するモータケース92に対して、アーム45が、減速後の第2回転数で回転する。このように、本発明の「カバー」は、ロボット100のアーム45と一体化された部品であってもよい。
【0045】
<5-5.他の変形例>
上記実施形態および変形例では、信号処理基板60は、カバー40の外表面に設けられた溝44内に配置されていた。しかしながら、カバー40の外表面に、溝44に代えて段差を設けてもよい。そして、カバー40の段差の両側に位置する面のうち、低い側の面に、信号処理基板60を配置してもよい。カバー円板部41の軸方向一方側の面に、信号処理基板60を配置する場合、カバー円板部41の最も軸方向一方側に位置する外表面よりも軸方向他方側に、信号処理基板60の少なくとも一部分が位置していればよい。また、カバー円筒部42の外周面に、信号処理基板60を配置する場合、カバー円筒部42の最も半径方向外側に位置する面よりも半径方向内側に、信号処理基板60の少なくとも一部分が位置していればよい。
【0046】
また、上記実施形態では、カバー40の貫通孔43に、封止部材80としてリードブッシュが用いられていた。しかしながら、封止部材80は、接着剤であってもよい。すなわち、端子部52が挿入された貫通孔43に、接着剤を塗布し、硬化させることによって、封止部材80を形成してもよい。ただし、接着剤を使用する場合には、塗布の方法や条件を厳密に決める必要がある。また、接着剤は、塗布された後、硬化するまでに時間がかかる。これに対し、上記の実施形態のように、リードブッシュを用いれば、封止部材80の形状を一定に管理しやすく、硬化のための時間も不要である。このため、リードブッシュの方が、作業性の面で優れている。
【0047】
また、上記実施形態では、センサ基板50に、トルク検出用抵抗線パターン53のみが設けられていた。しかしながら、センサ基板50に、動力伝達装置1の温度を検出するための温度検出用抵抗線パターンが、設けられていてもよい。また、センサ基板50に、フレックスギア20に入力される回転運動の回転角度を検出するための回転角度検出用抵抗線パターンが、設けられてもよい。これらの抵抗線パターンにより検出される温度および回転角度は、トルク検出用抵抗線パターン53により検出されるトルクを補正するために、使用されてもよい。
【0048】
また、上記の実施形態のフレックスギア20では、ダイヤフラム部221が、筒状部21の基端部から半径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、ダイヤフラム部221は、筒状部21の基端部から半径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、センサ基板50が、動力伝達装置1のフレックスギア20に固定されていた。しかしながら、センサ基板50は、フレックスギア20以外のギアに固定されるものであってもよい。
【0050】
その他、動力伝達装置の細部の構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変形例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願は、動力伝達装置に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 動力伝達装置
9 中心軸
10 インタナルギア
11 内歯
20 フレックスギア
21 筒状部
22 平板部
23 外歯
30 波動発生器
31 カム
32 可撓性軸受
40 カバー
41 カバー円板部
42 カバー円筒部
43 貫通孔
44 溝
50 センサ基板
51 本体部
52 端子部
53 トルク検出用抵抗線パターン
60 信号処理基板
70 シール部材
80 封止部材
81 挿通孔
221 ダイヤフラム部
222 肉厚部
521 端子
B ブリッジ回路
R1 第1抵抗線パターン
R2 第2抵抗線パターン
Rs 固定抵抗
V 電圧計

図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10