(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】アンテナ,レーダー装置及び物体探索装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 5/371 20150101AFI20240130BHJP
H01Q 9/42 20060101ALI20240130BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20240130BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01Q5/371
H01Q9/42
H01Q1/38
G01S13/88 200
(21)【出願番号】P 2021058341
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】510100140
【氏名又は名称】ハマダベンディングサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】黒木 太司
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一三
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-173490(JP,A)
【文献】特開昭63-126303(JP,A)
【文献】特開昭62-207004(JP,A)
【文献】特開2000-156607(JP,A)
【文献】特開2006-005441(JP,A)
【文献】特開平01-320492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/383933(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/371
H01Q 9/42
H01Q 1/38
G01S 13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス発生器と、
一端側が給電線で接続され他端側が開放され、離散的に配列された長さの異なる複数の放射器列を備え、
前記パルス発生器から出力された信号を、1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分に分けて、それぞれ対応する前記放射器から送受信されるように、前記放射器列の長さを設定してなることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記放射器列は、平板上に、コ字型に折り曲げられるとともに前記コ字型の開口部を同じ向きにして内側から外側に長さの短いもから長いものになるように間隔をあけて配列されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記平板の大きさを縦×横を4000cm
2以内になるようにしたことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のアンテナを利用して物標をとらえることを特徴とするレーダー装置。
【請求項5】
前記請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のアンテナを利用して土中又は水中に存在する物体の位置を検出することを特徴とする物体探索装置。
【請求項6】
前記物体は土中に存在する筍であり、前記基本周波数を100MHz以上300MHz以下にしたことを特徴とする請求項5に記載の物体探索装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ,レーダー装置及び物体探索装置に関する。より詳細には、例えば、電波の反射を利用して土中や水中などに存在する物体の位置を検出する物体探索装置に使用可能なアンテナ及びそのアンテナを利用したレーダー装置及び物体探索装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、土中や水中などの電波にとって損失の大きい媒質における物体探索に用いるパルスレーダではインパルス波や周期性パルス波の基本周波数を損失の影響を低減させるため1GHz以下と低く設定する必要がある。
図1に、比誘電率2.6、誘電正接0.064の土中を伝播する電磁波の単位長さ当たりの損失を示す。電磁波の波長がセンチオーダーになる10GHz(10000MHz)では、1m当たり100dB、すなわち電磁波電力のほとんどが土の損失で熱として消滅し、1億分の1パーセント(%)の電力しか残らない。
これに対して周波数1GHz(1000MHz)の電磁波では電磁波の1m当たりの損失は10dB、すなわち電磁波の電力のうち10パーセント(%)の電力が残るので、損失性媒質中の物体検知には周波数1GHz以下の電磁波の利用が好都合になる。
【0003】
このような土中にパルス波を伝搬させて物体を検知する場合、
図2のような周期性パルス波の周波数成分は式(1)に示すようにパルス繰りかえし周波数f
0(=1/T
0)を持つ基本波、及び周波数nf
0(n=2,3,4・・・・)をもつ高調波の無限の重ね合わせで構成され、広帯域であることから、アンテナ素子の周波数帯域も広帯域性が必要となる。
式(1)
f(t)=A
0+
A
1(f
0)cos{2πf
0t}+
A
2(2f
0)cos{2π(2f
0)t}+
A
3(3f
0)cos{2π(3f
0)t}+
A
4(4f
0)cos{2π(4f
0)t}+・・・
【0004】
インパルス波や周期性パルス波を扱うアンテナは、一般的に知られている(例えば、特許文献1,2など)。
特許文献1に記載の発明は、スロットラインのスロット幅がテーパー状に広がった構造を備え、スロットラインの進行方向の電磁波を放射するもので、そのテーパーの形状を所定の関数形に決定するものである。
また、特許文献2に記載の発明は、コルゲート付フェルミアンテナのテーパー関数であるフェルミディラック関数の変曲点を変化させて、H面のビーム幅を目標の指向性を有するビーム幅に設定するとともに、フェルミアンテナの開口幅を変化させてE面のビーム幅を目標の指向性を有するビーム幅に設定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-13143号公報
【文献】特開2007-116205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載されたアンテナは、いずれも利用周波数帯域は10GHz以上(特許文献1のものは60GHz,特許文献2のもの30GHz)、波長に換算して3cm以下のものであるので、これをパルス繰りかえし周波数200MHz付近あるいは200MHz以下のインパルスレーダに用いようとすると、その形状は1~2mと大型になるといった問題がある。
【0007】
そこで本発明の目的とするところは、1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分を利用したパルス繰りかえし周波数からなるパルス波を送受信するもので小型化を図ったアンテナ,レーダー装置及び物体探索装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のアンテナ(10)は、パルス発生器(1)と、一端側が給電線(2)で接続され他端側が開放され、離散的に配列された長さの異なる複数の放射器列(11~17)を備え、前記パルス発生器(1)から出力された信号を、1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分に分けて、それぞれ対応する前記放射器(11~17)から送受信されるように、前記放射器列(11~17)の長さを設定してなることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記放射器列(11~17)は、平板(20)上に、コ字型に折り曲げられるとともに前記コ字型の開口部を同じ向きにして内側から外側に長さの短いもから長いものになるように間隔をあけて配列されていることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記平板(20)の大きさを縦×横を4000cm2以内になるようにしたことを特徴とする。
【0011】
また本発明のレーダー装置は、前記請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のアンテナを利用して物標をとらえることを特徴とする。
【0012】
また本発明の物体検索装置は、前記請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のアンテナを利用して土中又は水中に存在する物体の位置を検出することを特徴とする。
【0013】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一端側が給電線で接続され他端側が開放され、離散的に配列された長さの異なる複数の放射器列を設け、パルス発生器から出力された信号を、1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分に分けて、それぞれ対応する放射器から送受信されるように、放射器列の長さを設定することで、アンテナの全体を小型化して軽量化を図ることができる。
【0015】
アンテナとしては様々の構造にすることができるが、平板上のアンテナにした場合、すなわち、放射器列を、平板上に、コ字型に折り曲げられコ字型の開口部を同じ向きにして内側から外側に長さの短いもから長いものになるように間隔をあけて配列することで、例えば、縦(X)24cm、横(Y)41cmの平面内に納まる小型化されたアンテンとすることができる。
また、これによれば、平板の大きさを縦×横を4000cm2以内になるようにすることができる。
【0016】
また、本発明によれば、このようなアンテナを、物標をとらえるレーダー装置や、土中又は水中に存在する物体の位置を検出する物体探索装置に適用することができる。
特に、土中に存在する筍を探索する装置に適用した場合、基本周波数を100MHz以上300MHz以下にすることで筍の位置をミリ単位で検出することができる。これによれば、筍までの深さを正確に把握することができるので、筍を傷つけることなく素早く採取することができる。
【0017】
なお、本発明のように、一端側が給電線で接続され他端側が開放され、離散的に配列された長さの異なる複数の放射器列を設け、パルス発生器から出力された信号を、インパルス波及び周期性パルス波を構成する1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分に分けて、それぞれ対応する放射器から送受信されるように、放射器列の長さを設定したものは、上述した特許文献1及び2には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】周波数に対する土中電波伝搬損失を示すグラフである。
【
図2】土中に伝搬させて物体を検知するために使用される周期性パルス波を示す波形である。
【
図3】本発明の実施形態に係るアンテナの原理を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るアンテナの構成を示す平面図である。
【
図5】パルス幅0.38ns、パルス繰りかえし周期2.47nsからなるパルス波形の周波数スペクトラムを計算する式と、計算値を示すグラフである。
【
図6】パルス幅0.38ns、パルス繰りかえし周期2.47nsからなるパルス波形を示す波形図である。
【
図7】
図4に示したアンテナの反射特性と、周波数と反射係数との関係を示すグラフである。
【
図8】
図4に示したアンテナを二つ対向させて測定した送信パルス波と受信パルス波の波形を示すグラフである。
【
図9】
図4に示したアンテナを使用した土中筍検出インパルスレーダの概略構成を示すブロック図である。
【
図10】
図4に示したアンテナを使用した土中筍検出インパルスレーダを用いた筍検出実験時の波形である。
【
図11】インパルスレーダの原理を示す波形と計算式である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3及び
図4を参照して、本発明の実施形態に係るアンテナについて説明する。
【0020】
このアンテナの原理は、
図3に示すように、パルス発生器1と、離散的に配列された複数(n個)の放射器列11~17(ここでは、例えば、n=7とした場合を示す)を備えたもので、放射器列11~17の一端側は給電線2で接続されパルス発生器1からの信号が入力されるようになっているが他端側は開放端とされている。
【0021】
そして、パルス発生器1から出力された信号を、インパルス波及び周期性パルス波を構成する1GHz以下の基本周波数及びその高調波周波数成分に分けて、それぞれ対応する放射器11~17から送受信されるように、放射器列11~17の長さを設定している。
放射器列11は基本周波数に対応し、放射器列12~17は第2~7高調波に対応している。放射器列12の長さが最も長く、以下、放射器列12,13,14,15,16,17にいくにしたがって長さが短くなっている。
【0022】
図4は、本発明の実施形態に係るアンテナ構造の一例であり、基本周波数及びその高調波周波数が動作する各1/4波長モノポールアンテナをコ字型に折り曲げ、これを平板20上に配列し、かつこれらを1点で給電したものである。
基本周波数及びその高調波周波数に対応した放射器列11~17は、平板20上に、コ字型の開口部を同じ向き、ここではパルス発生器1側に向けて、内側から外側に長さの短いもから長いものになるように間隔をあけて配列されている。
【0023】
ここで、パルス繰りかえし周波数を208MHzに設定した場合、基本周波数の1/4波長の長さは36cmになり、これをコ字型に折り曲げると給電線も含めて縦(X)24cm、横(Y)41cmの平面内に収まる小型化が達成された。またこの平面内に第2~7高調波に対応するコ字型のモノポールアンテナが配列された。
これによれば、パルス繰りかえし周波数の大きさに左右されるが、平板20の大きさを縦×横を4000cm2以内に抑え、小型化することができる。
【0024】
図5は、
図6に示す周期性パルス波の各周波数スペクトラムを、
図5の上に示した式で計算したもので、周期性パルス波全電力の90%は第4高調波(周波数832MHz)までの周波数スペクトラム中に含まれることが分かった。
【0025】
また、
図7は、製作した
図4のアンテナの反射特性測定値で、基本波周波数、高調波ともに反射係数は-6dB以上と反射が少なく、良好に動作した。
【0026】
さらに、
図8は、
図4のアンテナを二つ空中に立て、その平面同士をおよそ20cmの距離で対向させた状態に配置し、
図6で示したパルス波を送受信した実験結果である。
これによれば、受信波のパルス波形(振幅の小さい方)は送信波のパルス波形(振幅の大きい方)と同じ周期の波形であり、本実施形態に示したアンテナの動作が確認された。
【0027】
次に、
図4に示したアンテナを利用して土中又は水中に存在する物体の位置を検出する物体探索装置について説明する。
ここでは、土中の筍を検知するために物体探索装置を使用した例を示す。
【0028】
この物体探索装置は、
図9のように方向性結合器30を2基接続し、端子(A)に
図6に示したパルス波形を発生させるパルス発振器1を接続し、端子(B)に
図4に示したアンテナを接続したものであり、端子(C)には送信パルス波の波形が出力され、端子(D)には筍からの反射パルス波の波形が出力されるようになっている。
【0029】
図10は、土中に筍が存在しない土のみのときの反射波と、土中に筍が存在したときの反射波を測定したものである。
これによれば、両者の時間差は、0.5(ns)であることから換算した筍の位置は地面から4.33(cm)と計算され、土中に筍の存在を検知することができた。
その計算方法については、
図11に示すインパルスレーダの原理に基づき、物体探索装置(レーダー)と検知物(筍)までの距離Rは、R=(ν
S×T
R)/2から求められる。
ここで、ν
Sは土中の電磁波速度であり、ν
S=(3×10
8)/√3(m/s)となり、T
R=0.5ns=0.5×10
-9より、R=(3×10
8×0.5×10
-9)/2√3=0.0433(m)=4.33(cm)となる。
【0030】
これによれば、土中の筍の位置(深さ)をミリ単位まで正確に算出することができるので、筍を傷つけることなく素早く採取することができる。
しかも、アンテナは、縦(X)24cm×横(Y)41cmの平面内に収まる小型化されたものであるので軽量で作業者が手に持って筍の探索を行っても負担が少ない。
なお、ここでは基本周波数として208MHzのものを採用したが、土中の筍を探索することを専用にする物体探索装置としては、基本周波数を100MHz以上300MHz以下にすることで装置を小型化することができしかも精度よく探索することができることがわかった。
【0031】
本実施形態では、
図4に示した構成のアンテナを利用して土中の筍を探索するものであったが、土中に限らず水中に存在する物体の位置を検出する物体探索装置としたり、あるいは空中に在存する物標をとらえるレーダー装置とすることもでき、いずれも装置全体の大きさを小型化することができる。
また、アンテナの構成も
図3に示した原理を踏まえたものであれば、
図4に示した平面状のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 パルス発生器
2 給電線
10 アンテナ
11~17 放射器列
20 平板
30 方向性結合器