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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】癌細胞増殖抑制組成物および加工食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/131 20060101AFI20240130BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20240130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
   C07C 233/09 20060101ALI20240130BHJP
   C07C 211/21 20060101ALI20240130BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20240130BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20240130BHJP
【FI】
A61K31/131
A61K31/16
A61P35/00
C07C233/09 Z CSP
C07C211/21
C07C233/05
A23L33/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021502197
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007102
(87)【国際公開番号】W WO2020171210
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019029800
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593192830
【氏名又は名称】株式会社萩原農場生産研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 利治
(72)【発明者】
【氏名】北山 隆
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 玄伍
(72)【発明者】
【氏名】平林 怜
(72)【発明者】
【氏名】宇高 芳美
(72)【発明者】
【氏名】種田 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智広
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0158329(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01069130(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/131
A61K 31/16
A61P 35/00
C07C 233/09
C07C 211/21
C07C 233/05
A23L 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式、(2)式、(6)式、(7)式若しくは(8)式で表される構造を有する化合物若しくはその薬学的に許容される塩のうち少なくとも1種を主成分とする癌細胞増殖抑制組成物。
【請求項2】
2)式、(6)式、(7)式若しくは(8)式で表される構造を有する化合物若しくはその薬学的に許容される塩のうち少なくとも1種を含む加工食品。
【請求項3】
(2)式の構造を有する化合物。
【化110】
【請求項4】
(6)式の構造を有する化合物。
【化111】
【請求項5】
(7)式の構造を有する化合物。
【化112】
【請求項6】
(8)式の構造を有する化合物。
【化113】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィトール系物質を有する癌細胞増殖抑制効果を有する医薬組成物および加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
スイカスプラウトの抽出物には、癌細胞増殖抑制効果があることが知られている(特許文献1)。この文献では、スイカスプラウトの抽出物中で特にフィトールやルテインがその効果に有効であることが示されている。そして、これらの物質は正常細胞に対して影響を及ぼさないことから、副作用の少ない抗癌用医療組成物を提供できると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/131175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィトールやルテインは抗癌用医療組成物として利用できる期待はある。しかし、効果を発揮させるためには、必要とされる量が多いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、癌細胞増殖抑制効果の高い物質を提供するものである。
【0006】
より具体的に本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物は、(1)式、(2)式、(6)式、(7)式若しくは(8)式で表される構造を有する化合物若しくはその薬学的に許容される塩のうち少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
【化3】
【0010】
【化4】
【0011】
【化5】
【0012】
なお、(1)式、(2)式、(6)式、(7)式、(8)式中の「rac-1」、「rac-2」、「rac-6」、「rac-7」、「rac-8」は、本明細書中でのそれぞれの化合物の仮名称であり、それぞれの化合物の構造自体に含まれるものではない。
【0013】
また、本発明は加工食品として提供されることもできる。より具体的に本発明に係る加工食品は、(1)式、(2)式、(6)式、(7)式若しくは(8)式で表される構造を有する化合物若しくはその薬学的に許容される塩を有することを特徴とする。また、(2)式、(6)式、(7)式、(8)式の構造を有する化合物は、初めて合成されたものであり、新規物質でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物は、癌細胞の増殖を抑制することができる。したがって、抗癌用医薬組成物として好適に利用することができる。また、本発明に係る加工食品は、癌細胞増殖抑制作用を有する化合物を含んでいるので、サプリメントといった形態で定常的に服用することで、癌の予防を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】フィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
図2】アミノフィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
図3】アミドフィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
図4】(モノ)メチルアミノフィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
図5】(モノ)ヘキシルアミノフィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
図6】アセトアミドフィトールの癌細胞増殖抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物および加工食品について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0017】
本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物には、(1)式、(2)式、(6)式、(7)式若しくは(8)式で表される構造を有する化合物若しくはその薬学的に許容される塩で構成される。
【0018】
【化6】
【0019】
【化7】
【0020】
【化8】
【0021】
【化9】
【0022】
【化10】
【0023】
(1)式の化合物(rac-1)は、(E)-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-amine((E)-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン。以下「アミノフィトール」と呼ぶ。)であり、(2)式の化合物(rac-2)は、(E)-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-enamide((E)-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エンアミド。以下「アミドフィトール」と呼ぶ。)である。
【0024】
(6)式の化合物(rac-6)は、(E)-N,3,7,11,15-pentamethylhexadec-2-en-1-amine((E)-N,3,7,11,15-ペンタメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン。以下「メチルアミノフィトール」若しくは「モノメチルアミノフィトール」と呼ぶ。)であり、(7)式の化合物(rac-7)は、(E)-N-hexyl-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-amine((E)-N-ヘキシル-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン。以下「ヘキシルアミノフィトール」若しくは「モノヘキシルアミノフィトール」と呼ぶ。)であり、(8)式の化合物(rac-8)は、(E)-N-(3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-yl)acetamide((E)-N-(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-イル)アセトアミド。以下「アセトアミドフィトール」と呼ぶ。)である。
【0025】
これらの化合物を癌細胞増殖抑制組成物(医薬組成物)として利用する場合は、単独で利用する場合の他、例えば水、メタノール、エタノール、アセトン等の溶媒中で、薬学上許容される酸と混合して塩としても利用できる。ここで、薬学上許容される酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸塩、リン酸、硝酸等の無機酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。
【0026】
本発明の医薬組成物の投与形態は特に限定されず、経口または非経口のいずれの投与形態でもよい。また、投与形態に応じて適当な剤形とすることができ、例えば注射剤、あるいはカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤などの経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤などの各種製剤に調製することができる。
【0027】
また、本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物は、加工食品として提供することも可能である。加工食品としては、例えば、飴、ガム、ゼリー、ビスケット、クッキー、煎餅、パン、麺、魚肉・畜肉練製品、茶、清涼飲料、コーヒー飲料、乳飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン等といった嗜好食品や健康食品を含む一般加工食品だけでなく、厚生労働省の保健機能食品制度に規定された特定保健用食品や栄養機能食品などの保健機能食品を含み、さらに、栄養補助食品(サプリメント)、飼料、食品添加物等も加工食品に含まれる。
【0028】
これらの加工食品の原料中に、癌細胞増殖抑制組成物を添加することで、本発明に係る加工食品を調製することができる。
【実施例
【0029】
<1.化合物の合成>
以下にアミノフィトールおよびアミドフィトールを合成した実施例について示す。
<1-1>
(E)-1-Bromo-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-ene:(E)-1-ブロモ-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン(rac-3)の合成
【0030】
【化11】
【0031】
まず、(3)式の化合物を合成した。「rac-3」は、(3)式の構造の化合物の本明細書中における仮番号であり、(3)式の化合物の構造に含まれるものではない。
【0032】
100mL2口フラスコにEtO(5mL)を加え、EtO(20mL)に溶解させたフィトール(500mg,1.686mmol)を加え、0°Cでしばらく攪拌させた。その後、三臭化リン(0.064mL,0.674mmol,0.4eq)を滴下し同温で30分間攪拌させた。
【0033】
反応はTLC(Thin-Layer Chromatography:薄層クロマトグラフィー)(Hexane(ヘキサン)/AcOEt(酢酸エチル)=5/1)で確認した。TLC上で原料が消失していることを確認後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を滴下して反応を停止し、酢酸エチルで抽出し、有機層を集めて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和、ブラインで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して赤褐色オイル状の粗生成物を449.9mg得た。精製操作は行っていない。
【0034】
Yield(74%:reddish brown oil)H NMR(CDCl,400MHz):δ 0.82-0.89(m,14H),1.02-1.41(m,21H),1.50-1.62(m,2H),1.72(d,3H,J=1.3Hz),2.02(t,2H,J=7.6Hz),4.04(d,2H,J=8.4Hz),5.53(t,1H,J=8.4Hz).
【0035】
<1-2>
(E)-(3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-yl)isoindoline-1,3-dione:(E)-(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-イル)イソインドリン-1,3-ジオン(rac-4)の合成
【0036】
【化12】
【0037】
次にrac-3を原料として(4)式の化合物を合成した。「rac-4」は、(4)式の構造の化合物の本明細書中における仮番号であり、(4)式の化合物の構造に含まれるものではない。
【0038】
100mL3口フラスコに窒素雰囲気下DMF(7mL)に溶解させたrac-3(449.9mg,1.252mmol)を加え、室温でしばらく攪拌させた。その後、DMF(5mL)に溶解させたフタルイミドカリウム塩(301.4mg,1.627mmol,1.3eq)を加え同温で2時間攪拌させた。
【0039】
反応はTLC(Hexaneのみ)で確認した。TLC上で原料が消失していることを確認後、同温でHOを滴下して反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。有機層を集めて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。ブラインで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除いた。溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して黄色結晶状の粗生成物を591.5mg得た。
【0040】
この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=20/1)により精製し黄色オイル状の生成物を収量422.3mgで得た。
【0041】
Yield(79%:yellow oil)H NMR(CDCl,400MHz):δ 0.80-0.88(m,12H),0.99-1.57(m,19H),1.82(s,3H),1.95(t,J=7.5Hz),4.28(d,2H,J=7.3Hz),5.26(tq,1H,J=7.3,1.2Hz),7.81-7.86(m,2H),7.67-7.72(m,2H).
【0042】
<1-3>アミノフィトールの合成
(E)-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-amine:(E)-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン(アミノフィトール(rac-1))の合成 上記のrac-4を原料としてアミノフィトール(rac-1)を合成した。100mL3口フラスコに窒素雰囲気下エタノール(10mL)に溶解させたrac-4(300mg、0.705mmol)を加え、ヒドラジン一水和物(0.103mL、2.114mmol、3.0eq)を滴下し、室温で2時間攪拌させた。反応はTLC(Hexane/AcOEt=20/1)で確認した。
【0043】
TLC上で原料が消失していることを確認後、吸引ろ過し、ろ液を回収して酢酸エチルで抽出し、有機層を集めてブラインで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して黄色結晶の粗生成物を246.9mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(MeOH(メタノール)/CHCl(ジクロロメタン)=95/5、1Mアンモニア水1%含有)により精製し黄色オイル状の生成物(アミノフィトール)を収量64.5mg(31%)で得た。
【0044】
Yield(31%:yellow oil)H NMR(CDCl,400MHz):δ 0.80-0.91(m,12H),1.02-1.55(m,21H),1.61(s,3H),1.96(t,2H,J=7.9Hz),3.28(d,2H,J=6.9Hz),5.25(tq,1H,J=6.9,1.3Hz).
【0045】
<1-4>アミドフィトールの合成
(E)-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-enamide:(E)-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エンアミド(アミドフィトール(rac-2))の合成
フィタン酸(CAS番号:14721-66-5)を合成した後、フィタン酸からアミドフィトールを合成した。
【0046】
まず、(5)式のフィタン酸(rac-5)を合成した。「rac-5」は、(5)式の構造のフィタン酸の本明細書中における仮番号であり、(5)式の化合物の構造に含まれるものではない。
【0047】
【化13】
【0048】
10mL2口フラスコにアセトニトリル(0.150mL)と水(0.150mL)の混合溶媒を加え、ヨードベンゼンジアセテート(477.9mg、1.484mmol、2.2eq)と触媒量のTEMPO(21.1mg、0.135mmol、0.2eq)を加えてN2雰囲気下室温でしばらく攪拌させた。その後、N雰囲気下同温でアセトニトリル(0.750mL)と水(0.750mL)の混合溶液に溶解させたフィトール(200mg、0.674mmol)を滴下し、N雰囲気下室温で14時間攪拌させた。
【0049】
反応はTLC(Hexane/AcOEt=5/1)で確認した。TLC上で原料が残ったままであったが、反応の進行が確認できなかったため、酢酸エチルで抽出、有機層を集めてブラインで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して赤色オイル状の粗生成物を308.6mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=15/1)により精製し黄色オイル状の生成物が収量47.5mg(23%)で得られたが、純度が不十分であったためさらに分取HPLCにより精製し、黄色オイル状のフィタン酸(rac-5)を収量21.8mg(収率10%)で得た。
【0050】
Yield(23%:yellow oil)H NMR(CDCl,400MHz):δ 0.80-0.88(m,12H),1.05-1.53(m,19H),2.07-2.025(m,5H),5.69(bs,1H).13C NMR(CDCl,100MHz):δ 19.1,19.7,19.8,22.6.22.7,24.5,24.8,24.9,28.0,32.6,32.8,36.5,37.3,37.4,39.4,41.5,115.0,153.1,163.6.
【0051】
5mLスクリュー管にTHF(1.0mL)に溶解させたフィタン酸(rac-5)(96.8mg,0,312mmol)を加え、28%アンモニア水溶液(0.200mL,2.959mmol,9.5eq)を滴下し、室温でしばらく攪拌させた。その後、縮合剤としてDMT-MM(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride n-Hydrate:129.4mg,0.468mmol、1.5eq)を加え室温で16時間攪拌させた。反応はTLC(Hexane/AcOEt=3/1)で確認した。
【0052】
TLC上で原料が残ったままであったが、反応の進行が確認されなかったため、酢酸エチルで抽出し、ブラインで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して白色結晶状の粗生成物を104.5mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=1/1)により精製し、白色結晶状の生成物を収量14.1mg(15%)で得られたが、純度が不十分であったため、さらに分取HPLCにより精製し、白色結晶の生成物(アミドフィトール)を収量7.2mg(収率8%)で得た。
【0053】
Yield(15%:white solid)H NMR(CDCl,400MHz):δ 0.80-0.91(m,12H),1.02-1.56(m,19H),2.09(td,2H,J=7.7,2.2Hz),2.15(d,3H,J=1.0Hz),5.31(br s,2H),5.61(d,1H,J=1.2Hz).HRMS m/z [M+Na] Calcd for C2039NaNO 377.2929;Found 377.2929.
【0054】
<1-5>メチルアミノフィトールの合成
(E)-N,3,7,11,15-pentamethylhexadec-2-en-1-amine:(E)-N,3,7,11,15-ペンタメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン(rac-6)の合成
【0055】
【化14】
【0056】
20mLスクリュー管にCHCl(4.0mL)に溶解させた40%Methylamine(0.740mL,21.0mmol,33.4eq)を加え、室温で攪拌させた。その後、CHCl(4.0mL)に溶解させたrac-3(225.0mg、0.630mmol)を10分かけて滴下し、室温で1時間攪拌させた。反応はTLC(Hexane/AcOEt=5/1)で確認した。
【0057】
TLC上で原料の消失を確認後、水を滴下し希釈、CHClで抽出し、Brineで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して黄色オイル状の粗生成物を169.1mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=1/1)により精製し、黄色オイル状の生成物が収量77.8mgで得られた。純度が不十分なため再度、オープンカラムクロマトグラフィー(MeOH/AcOEt=1/1,トリエチルアミン1%)により精製し黄色オイル状の生成物が収量28.5mg(15%)で得られた。その後、もう一度オープンカラムクロマトグラフィー(MeOH/AcOEt=1/5,トリエチルアミン1%)で精製し黄色オイル状の生成物が収量17.8mg(9%)で得られた。
【0058】
Yield(9%:Yellow solid).H NMR(CDCl,500MHz):δ 5.24(1H,td,J=13.5,1.4Hz),3.19(2H,d,J=6.9Hz),2.42(2H,s),2.01-1.88(3H,m),1.63(3H,s),1.57-1.48(1H,m),1.46-1.16(13H,m),1.16-0.99(7H,m),0.89-0.80(12H,m).13C NMR(CDCl,100MHz):δ 137.42,120.95,47.8,38.7,38.1,36.2,36.2,36.1,35.4,34.6,31.6,31.5,26.8,24.0,23.6,23.3,21.5,21.4,18.6,15.0.HRMS m/z [M+H] Calcd for C2144 310.3468;Found 310.3477.
【0059】
<1-6>ヘキシルアミノフィトールの合成
(E)-N-hexyl-3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-amine:(E)-N-ヘキシル-3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-アミン(rac-7)の合成
【0060】
【化15】
【0061】
50mLスクリュー管にCHCl(5mL)に溶解させたn-hexylamine(4.20mL,3.20g,31.7mmol,33.4eq)を加え室温で攪拌させた。その後、CHCl(5mL)に溶解させたrac-3(342.7mg,0.950mmol)を10分かけて滴下し、室温で2時間攪拌させた。反応はTLC(Hexane/AcOEt=5/1)で確認した。
【0062】
TLC上で原料の消失を確認後、水を滴下し希釈、CHClで抽出し、Brineで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液に水を加えロータリーエバポレーターで試薬残渣を除去し、黄色オイル状の粗生成物を352.5mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=10/1とAcOEt(トリエチルアミン1%))により精製し黄色オイル状の生成物が収量270.2mg得られた。
【0063】
Yield(75%: Yellow solid).H NMR(CDCl,500MHz):δ 5.25(1H,td,J=13.9,1.3Hz),3.21(2H,d,J=3.2Hz),2.59(2H,t,J=2.5Hz),2.01-1.90(2H,m),1.62(3H,s),1.57-1.44(3H,m),1.44-1.17(19H,m),1.17-1.00(7H,m),0.91-0.81(15H,m).13C NMR(CDCl,125MHz):δ 137.8,122.7,49.6,47.3,39.9,39.3,37.4,37.3,37.2,36.6,32.7,32.6,31.8,30.1,27.9,27.1,25.1,24.7,24.4,22.7,22.6,19.7,16.1,14.0.HRMS m/z [M+Na] Calcd for C2651NaNO 402.4070;Found 402.4076.
【0064】
<1-7>アセトアミドフィトールの合成
(E)-N-(3,7,11,15-tetramethylhexadec-2-en-1-yl)acetamide:(E)-N-(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エン-1-イル)アセトアミド(rac-8)の合成
【0065】
【化16】
【0066】
5mLスクリュー管にdry THF(1.0mL)に溶解させたrac-1(100mg,0.340mmol)とトリエチルアミン(0.15mL,1.1mmol,3.1eq)を加え、N雰囲気下0℃で攪拌した。その後、dry THF(1.0mL)に溶解させた塩化アセチル(0.040mL,0.53mmol,1.5eq)を滴下し、N雰囲気下同温で2時間攪拌させた。反応はTLC(Hexane/AcOEt=1/1)で確認した。
【0067】
TLC上で原料の消失を確認後、水を滴下して反応を停止、酢酸エチルで抽出し、有機層を集めて水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、自然ろ過で硫酸ナトリウムを除き、溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して黄色オイル状の粗生成物を103.1mg得た。この粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィー(Hexane/AcOEt=2/1)により精製し、黄色オイル状の生成物が収量68.5mg(60%)で得られた。
【0068】
Yield(60%: Yellow solid)H NMR(CDCl,400MHz):δ 5.35(1H,br s),5.18(1H,td,J=14.0,1.4Hz),3.84(2H,t,J=12.2Hz),1.97(5H,s),1.65(4H,s),1.56-1.47(1H,m),1.46-1.18(1H,m),1.16-1.00(7H,m),0.88-0.82(13H,m).13C NMR(CDCl,100MHz):δ 169.8,140.6,119.5,39.8,39.4,37.6,37.4,37.3,37.2,36.7,32.8,32.7,28.0,25.2,24.8,24.5,23.3,22.7,22.6,19.8,19.7,16.2.HRMS m/z [M+Na] Calcd for C2243NaNO 360.3237;Found 360.3235.
【0069】
<2.細胞培養>
ヒト白血病T細胞株Jurkat細胞は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(つくば市、茨城県)より入手した。10%牛胎児血清(Thermo Fisher Scientifics、K.K.、MA、USA)、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLスプレトマイシン(共にLife Technologies、Carlsbad、CA、USA)を含んだRPMI1640培地(和光純薬工業株式会社、大阪市、大阪府)により37℃、95%空気-5%CO環境下で培養した。
【0070】
<3.化合物によるヒト白血病T細胞株Jurkat細胞の増殖への影響>
Jurkat細胞を1×10 cells/mLに調整し、24ウェルマルチプレート(Thermo Fisher Scientifics K.K.)に500μL/wellずつ播種した。播種後、フィトール、アミノフィトール、アミドフィトール、メチルアミノフィトール、ヘキシルアミノフィトール、アセトアミドフィトールのそれぞれを、最終濃度が10μM、25μM、50μMとなるように蒸留水で調節し、加えた。なお、コントロールは化合物を加えないものである。各化合物を加えた後、24、48、72時間後に細胞をトライパンブルー(Life Technologies)で染色し、血球計算盤を用いて生細胞を計数した。
【0071】
結果を図1から図6に示す。横軸は培養時間(時間)であり、縦軸は生存細胞数(×10cells/mL)である。図中「Cont」はコントロールを表し、「10μM」、「25μM」、「50μM」は、濃度を表す。図1は、フィトール、図2はアミノフィトール、図3はアミドフィトール、図4はモノメチルアミノフィトール、図5はモノヘキシルアミノフィトール、図6はアセトアミドフィトールである。フィトールは、特許文献1に示したようにJurkat細胞(癌細胞)の増殖を抑制し、濃度依存性もあった。
【0072】
一方、アミノフィトール、アミドフィトール、モノメチルアミノフィトールおよびモノヘキシルアミノフィトール、アセトアミドフィトールは、フィトール以上の効果を示した。より具体的には、フィトールでは、50μMの濃度で72時間かけても、まだ生存細胞が確認できたが、アミノフィトール、アミドフィトール、モノメチルアミノフィトール、モノヘキシルアミノフィトールでは、25μMの濃度で、24時間後に、ほとんど生存する細胞はなかった。アセトアミドフィトールについては、25μMの濃度でもまだ生存細胞が確認できたが、50μMの濃度ではほとんど生存する細胞はなかった。
【0073】
グラフ中にそれぞれの化合物でのIC50を求めた結果を示す。フィトールが29.8μMであったのに対して、アミノフィトールは3.8μM、アミドフィトールは9.6μM、モノメチルアミノフィトールは6.6μM、モノヘキシルアミノフィトールは8.5μMと、フィトールよりも1桁以上効果が高いことがわかった。なお、アセトアミドフィトールは21.2μMと、フィトールよりは低かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る癌細胞増殖抑制組成物は、癌の治療や予防に好適に利用することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6