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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】自動運転システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/06 20060101AFI20240130BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240130BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20240130BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B60W30/06
B60W60/00
B60K35/00 A
G08G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020102368
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021194995
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】巽 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂野 瑛彦
(72)【発明者】
【氏名】大前 学
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109855(JP,A)
【文献】特開2015-96411(JP,A)
【文献】特開2010-38889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
B60K 35/00
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下又は地上に設けられた複数階の駐車フロアと、車両が入出庫レベルから前記駐車フロアに移動可能なスロープと、を有する立体駐車設備と、
レーザ光を用いて周囲の三次元形状を検出するレーザレーダ装置と、検出した前記三次元形状に基づき前記車両を自律走行させる自律制御用コンピュータと、を有する自動運転車と、を備え、
前記自動運転車は、
前記駐車フロアと前記スロープの地図データを記憶する記憶装置と、
検出された前記三次元形状を前記地図データと照合して自己位置を推定する自己位置推定装置と、を有し、
前記駐車フロアは、前記レーザ光の照射範囲に常に3以上が位置する複数のマーカを有し、
前記地図データは、前記複数階の下層から上層へ前記自動運転車が上り走行時の上り用と、上層から下層へ下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶し、
前記自己位置推定装置は、前記自動運転車の前記上り走行時に前記上り用の前記地図データを使用し、前記自動運転車の前記下り走行時に前記下り用の前記地図データを切り替えて使用する、自動運転システム。
【請求項2】
前記地図データは、前記自動運転車が前記駐車フロアと前記スロープを予め走行して取得したものであり、
前記レーザレーダ装置により、前記マーカ位置を検出し、
前記記憶装置により、各階の前記マーカ位置を含む前記地図データを、前記上り用と前記下り用とで区分して記憶する、請求項1に記載の自動運転システム。
【請求項3】
前記マーカは、前記駐車フロア又は前記スロープに不連続又はランダムに取り付けられ、反射率が路面及びフェンスより高い強反射テープである、請求項1に記載の自動運転システム。
【請求項4】
前記スロープは、連続傾斜部、及び水平部を有し、
前記マーカは、前記連続傾斜部を上がりきったコーナ部、又は前記連続傾斜部を下りきったコーナ部に取り付けられ、反射率が路面及びフェンスより高い2次元模様である、請求項1に記載の自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位システム(GPS)が受信できない空間を自動運転車が自律的に走行する自動運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「自動運転車」とは、無人で地上を自律的に走行する無人地上車両(UGV:Unmanned Ground Vehicle)を意味する。
【0003】
自動運転車の自動運転システムでは、自動運転車の位置を正確に推定する必要がある。かかる自動運転車の自己位置推定手段は、例えば特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/207987号
【文献】特開2017-204043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動運転車の自動運転システムは、車両に道路走行用のライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)を搭載することが主流となっている。この方式では、走行範囲の路面のレーザ反射強度を計測した「地図データ」を車両が記憶し、走行中に計測されたレーザ反射強度を地図データとマッチングさせて、自己位置を推定する。
【0006】
しかし、自動運転車の走行範囲が、立体駐車設備のように各階層が類似しており、かつ自走式スロープを有する場合、以下の問題点があった。
【0007】
(1)立体駐車設備の内部では、衛星測位システムが利用できない。
(2)立体駐車設備の内部のような狭い空間では、ライダーによる検出範囲が狭い(例えば車両の周囲のみ)。
(3)立体駐車設備の内部で計測されるのは、ほとんどが路面、外壁(フェンス)、及び他の車両である。このうち路面は車両周囲でほとんど同じでありコントラストが低い。また外壁はメッシュ等が多用されるためレーザ反射強度が微弱でほとんど検出できない。また立体駐車設備内の他の車両は入れ替わりが激しく、自己位置推定に利用できない。
(4)自走式スロープは、連続傾斜部と水平部に区分できる。連続傾斜部を上がりきったコーナ部や、連続傾斜部を下りきったコーナ部では、車両の前方の路面からのレーザ反射強度が微弱でありほとんど検出できない。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、衛星測位システムが利用できず、各階層が類似しており、かつ自走式スロープを有する立体駐車設備において自動運転車が自律的に走行できる自動運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、地下又は地上に設けられた複数階の駐車フロアと、車両が入出庫レベルから前記駐車フロアに移動可能なスロープと、を有する立体駐車設備と、
レーザ光を用いて周囲の三次元形状を検出するレーザレーダ装置と、検出した前記三次元形状に基づき前記車両を自律走行させる自律制御用コンピュータと、を有する自動運転車と、を備え、
前記自動運転車は、
前記駐車フロアと前記スロープの地図データを記憶する記憶装置と、
検出された前記三次元形状を前記地図データと照合して自己位置を推定する自己位置推定装置と、を有し、
前記駐車フロアは、前記レーザ光の照射範囲に常に3以上が位置する複数のマーカを有し、
前記地図データは、前記複数階の下層から上層へ前記自動運転車が上り走行時の上り用と、上層から下層へ下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶し、
前記自己位置推定装置は、前記自動運転車の前記上り走行時に前記上り用の前記地図データを使用し、前記自動運転車の前記下り走行時に前記下り用の前記地図データを切り替えて使用する、自動運転システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駐車フロアが、レーザ光の照射範囲に常に3以上が位置する複数のマーカを有し、地図データが、各階のマーカ位置を記憶する。
この構成により、レーザレーダ装置で検出された3以上のマーカ位置を地図データとマッチングすることで、衛星測位システムが利用できず、各階層が類似している立体駐車設備において、自動運転車が自己位置を正確に推定でき、自律的に走行できる。
【0011】
また、地図データが、自動運転車の上り走行時の上り用と、下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶するので、上り走行時及び下り走行時に検出したマーカ位置と地図データ上のマーカ位置との相違を少なくできる。これにより、連続傾斜部を上がりきったコーナ部や、連続傾斜部を下りきったコーナ部であっても、3以上のマーカ位置を地図データとマッチングすることで、自動運転車の自己位置を正確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】立体駐車設備の正面図である。
図2】自動運転車の構成図である。
図3図1の1Fの駐車フロアの平面図である。
図4図1の2Fの駐車フロアの平面図である。
図5図1のRFの駐車フロアの平面図である。
図6】本発明によるマーカの説明図である。
図7】従来の問題点を模式的に示す説明図である。
図8】上り用と下り用の地図データの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
本発明による自動運転システム100は、立体駐車設備10と自動運転車30とを備える。
【0015】
図1は、立体駐車設備10の正面図である。
この図において、立体駐車設備10は、地上に設けられた複数階(1F、2F、及びRF)の駐車フロア12を有する。なお、地下に駐車フロア12を設けてもよい。
また、立体駐車設備10は、車両(自動運転車30)が入出庫レベルFLから各駐車フロア12に移動可能なスロープ14を有する。
この例で、1FとRF(屋上)の駐車フロア12は、水平フロアであり、2Fの駐車フロア12は、連続傾斜フロアである。連続傾斜フロアは、その一部に水平部を含んでもよい。また、連続傾斜フロアの勾配(傾斜角度)は、車両(自動運転車30)が走行可能な角度(例えば1/6以下)で変化してもよい。
【0016】
なお、本発明の立体駐車設備10は、図1の例に限定されない。
例えば、連続傾斜フロアは2Fに限定されず、複数階であってもよい。
【0017】
図2は、自動運転車30の構成図である。自動運転車30は、例えば、無人で地上を自律的に走行する無人地上車両(UGV)である。
【0018】
この図において、自動運転車30は、レーザレーダ装置32を備える。
【0019】
レーザレーダ装置32は、レーザ光5を用いて周囲の三次元形状を検出する。
この図において、レーザレーダ装置32は、水平に対する照射角度αが一定の円錐面であり照射角度αが互いに異なるそれぞれのレイヤ3において、平面視で周方向にレーザ光5を複数の計測点4に照射し、その反射光6を受光して計測点4までの位置データを取得する。レーザレーダ装置32は、例えば、レーザレンジファインダ(LRF)又はライダー(LiDAR)である。
【0020】
この例において、レーザレーダ装置32は、例えば複数の投光器と複数の受光器とを備える。
複数の投光器と複数の受光器は、自動運転車30の本体(車体)に設置された鉛直軸7を中心に回転し、自動運転車30の近距離から遠距離に向けて間隔を隔ててレーザ光5を投光(照射)し、レーザ光5の反射光6を受光する。
「水平に対する照射角度α」は、近距離から遠距離の路面2にレーザ光5を照射するため、通常は下向きの0~30度の範囲であるが、水平より上向きの照射角度αを含んでもよい。
【0021】
以下、「レイヤ3」とは、レーザ光5の水平に対する照射角度αが一定の円錐面を意味し、「動径R」とは、レーザレーダ装置32の鉛直軸7が鉛直であるときの、鉛直軸7から計測点4までの水平距離を意味する。
位置データは、レーザレーダ装置32から計測点4までの直線距離の他に、照射角度α、周方向の旋回角度β、及び動径Rを含む。
【0022】
上述したレーザレーダ装置32の構成により、計測点4の位置データ(レーザレーダ装置32から計測点4までの直線距離、照射角度α、旋回角度β、及び動径R)からレーザレーダ装置32を基準とする計測点4の高度と平面視での位置を算出することができる。
【0023】
なお、本発明のレーザレーダ装置32は、上述の例に限定されない。
例えば、レーザレーダ装置32を自動運転車30の前部又は後部(例えばバンパー内)に設けてもよい。この場合、「水平に対する照射角度α」は、10~15度未満であってもよい。
【0024】
図2において、自動運転車30は、さらに自律制御用コンピュータ34を備える。
自律制御用コンピュータ34は、レーザレーダ装置32により検出した三次元形状に基づき自動運転車30を自律走行させる機能を有する。
【0025】
図2において、自動運転車30は、さらに記憶装置36と自己位置推定装置38を有する。記憶装置36と自己位置推定装置38は、自律制御用コンピュータ34の一部であってもよい。
記憶装置36は、駐車フロア12とスロープ14の地図データMを記憶する。
自己位置推定装置38は、検出された三次元形状を地図データMと照合して自己位置を推定する。
【0026】
図3は、図1の1Fの駐車フロア12の平面図である。
上述したように、1Fの駐車フロア12は、水平フロアである。この例で、1Fの駐車フロア12は、1F専用の入出庫口13aを有する。また、駐車フロア12に自動運転車30が駐車するための駐車領域16が区画線(例えば白線)で設定されている。
駐車領域16は、この図に示すように、互いに隣接して多数設けることが好ましい。
また、駐車フロア12のうち、駐車領域16を除く部分は、自動運転車30が自律走行する走行路18として設定されている。
さらに、この例で、1Fの駐車フロア12は、入出庫口13aを除き、フェンス19で囲まれている。フェンス19は、例えば柱とメッシュで構成される。
【0027】
上述した構成により、自動運転車30は、入出庫口13aから1Fの駐車フロア12に入り、走行路18を自律走行して、指定された駐車領域16に駐車することができる。
【0028】
図3において、1Fの駐車フロア12の外側、この図の上部は、1Fから2Fに上がるスロープ14(第1スロープ14A)として構成されている。また、この図で第1スロープ14Aの左端に、2F~RF専用の入出庫口13bを有する。
この図において、第1スロープ14Aは、連続傾斜部21aと水平部22aを有する。
【0029】
図4は、図1の2Fの駐車フロア12の平面図である。
上述したように、2Fの駐車フロア12は、連続傾斜フロアである。この図において、上述した第1スロープ14Aは、さらに連続傾斜部21bを有する。
この例で、2Fの駐車フロア12は、2F専用の入出庫口13cを有する。入出庫口13cは、この例では、連続傾斜部21bと水平部22bの境界線であるが、その他の位置(例えば、連続傾斜部21bの途中)でもよい。
【0030】
図4において、2Fの駐車フロア12は、多数の駐車領域16と走行路18を有する。
2Fの走行路18は、全体が2Fから3Fに上がるスロープ14(第2スロープ14B)として構成されている。第2スロープ14Bは、連続傾斜部21b、21c、21dと水平部22b、22c、22dを有する。
また、第2スロープ14Bの両側に多数の駐車領域16が設けられている。
【0031】
以下、連続傾斜部21a~21dを区別が不要な場合「連続傾斜部21」と呼ぶ。
また、水平部22a~22dを区別が不要な場合に「水平部22」と呼ぶ。
【0032】
上述した構成により、自動運転車30は、1Fの入出庫口13bから第1スロープ14Aを上がり、2Fの入出庫口13cから2Fの駐車フロア12に入り、第2スロープ14Bを自律走行して、指定された2Fの駐車領域16に駐車することができる。
また、この例で、2Fの駐車フロア12は、入出庫口13cを除き、フェンス19で囲まれている。
【0033】
図5は、図1のRFの駐車フロア12の平面図である。
上述したように、RFの駐車フロア12は、平面フロアである。この例で、RFの駐車フロア12は、RF専用の入出庫口13dを有する。入出庫口13dは、この例では、連続傾斜部21dとRFの駐車フロア12の境界線であるが、その他の位置(例えば、連続傾斜部21dの途中)でもよい。
【0034】
図5において、RFの駐車フロア12は、多数の駐車領域16と走行路18を有する。
RFの走行路18は、全体が水平であり、その両側に駐車領域16が設けられている。
また、この例で、RFの駐車フロア12は、入出庫口13dを除き、フェンス19で囲まれている。
【0035】
上述した構成により、自動運転車30は、2Fの連続傾斜部21dを上がり、入出庫口13dからRFの駐車フロア12に入り、RFの走行路18を自律走行して、指定されたRFの駐車領域16に駐車することができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した1F,2F,RFの駐車フロア12のレイアウトに限定されない。
例えば、1FからRFまでを連続する連続傾斜フロアで構成してもよい。また、連続傾斜フロアを設けずに、水平フロアとスキップ(急勾配のスロープ)で構成してもよい。
【0037】
図6は、本発明によるマーカ40の説明図である。この例において、駐車フロア12は、傾斜路の多い2Fを示している。
また2F以外の駐車フロア12にも同様にマーカ40を設置することが好ましい。
【0038】
図6において、2Fの駐車フロア12は、自動運転車30のレーザ光5の照射範囲9に常に3以上が位置する複数のマーカ40を有する。
この例でマーカ40は、テープマーカ40aと模様マーカ40bである。
照射範囲9は、レーザレーダ装置32で検出可能な検出範囲であり、図中の破線円で模式的に示す。
【0039】
テープマーカ40aは、駐車フロア12又はスロープ14に不連続又はランダムに取り付けられ、反射率が路面及びフェンス19より高い強反射テープである。
【0040】
テープマーカ40aは、例えば走行路18に設けられた白線に沿って、間隔を開けて断続的に貼付する。間隔は、好ましくは不等間隔であり、規則性のないランダムであるのがよい。また、テープマーカ40aの長さも規則性のないランダムであるのがよい。
テープマーカ40aは、例えばフェンス19にも、間隔を開けて断続的にランダムに貼付することが好ましい。
メッシュ等で構成されたフェンス19は、反射光6の強度が微弱なため検出困難であるが、テープマーカ40aを検出することで、フェンス位置を容易に検出できる。
また、走行路18とフェンス19のテープマーカ40aを検出することで、検出された3以上のマーカが直線上に位置することを回避できる。
【0041】
またこの例で、模様マーカ40bは、連続傾斜部21を上がりきったコーナ部、又は連続傾斜部21を下りきったコーナ部に取り付けられ、反射率が路面及びフェンス19より高い2次元模様である。
模様マーカ40bは、テープマーカ40aよりも面積が大きく、かつランダムな反射面を有することが好ましい。
この構成により、レーザ光5の照射角度が小さい場合でも、模様マーカ40bによる反射光6を確実に検出することができる。
【0042】
上述した構成により、自動運転車30のレーザ光5の照射範囲9に常に3以上のマーカ40が位置するので、各マーカ40までの距離(動径R)を検出することで、検出した各マーカ40に対する自己位置を推定することができる。
また、検出した3以上のマーカ40の位置は、地図データ上のマーカ位置とのマッチングにより、地図上の位置を特定することができる。
【0043】
マッチングは、例えば、検出したマーカ40の配置パターンと、地図データMに記憶されているマーカ40の配置パターンとをパターンマッチング(重ね合わせ)することにより、各マーカ40の位置を検知するのがよい。
【0044】
また上述した入出庫口13a,13b,13c,13dには、各階層(1F,2F,RF)の駐車フロア12を識別できるように、マーカ40を配置することが好ましい。
この構成により、自動運転車30により、走行中の駐車フロア12を識別し、かつ上り走行時と、下り走行時を識別することができる。
【0045】
上述した立体駐車設備10において、自動運転車30の走行範囲は、1F,2F,RFの各階層の駐車フロア12が類似している。
また、立体駐車設備10の内部、例えば、1F,2Fでは、衛星測位システムが利用できない。
さらに、立体駐車設備10の内部のような狭い空間では、走行路18がフェンス19で囲まれているため、レーザレーダ装置32(ライダー)による検出範囲9が狭い(例えば車両の周囲のみ)。
また、立体駐車設備10の内部で計測されるのは、ほとんどが路面、外壁(フェンス19)、及び他の車両である。このうち路面は車両周囲でほとんど同じでありコントラストが低い。またフェンス19はメッシュ等が多用されるためレーザ反射強度が微弱でほとんど検出できない。また立体駐車設備内の他の車両は入れ替わりが激しく、自己位置推定に利用できない。
【0046】
図7は、従来の問題点を模式的に示す説明図である。この図において、(A)は、路面が連続傾斜部21から水平部22に変わる場合、(B)は路面が水平部22から連続傾斜部21に変わる場合を示している。
図7(A)の場合、レーザ光5は水平部22にほぼ平行又は鋭角で斜めに照射されるため、その反射光6の強度(レーザ反射強度)は微弱となりほとんど検出できない場合がある。
また、図7(B)の場合、レーザ光5は連続傾斜部21にほぼ平行又は鋭角で斜めに照射されるため、その反射光6の強度(レーザ反射強度)は微弱となりほとんど検出できない場合がある。
そのため、連続傾斜部21を上がりきったコーナ部や、連続傾斜部21を下がる直前のコーナ部では、レーザ反射強度を検出できないことがある。
同様に、連続傾斜部21を下りきったコーナ部でも、レーザ反射強度を検出できないことがある。
【0047】
本発明において、地図データMは、複数階の下層から上層へ自動運転車30が上り走行時の上り用と、上層から下層へ下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶する。
また自己位置推定装置38は、自動運転車30の上り走行時に上り用の地図データMを使用し、自動運転車30の下り走行時に下り用の地図データMを切り替えて使用する。
【0048】
また地図データMは、自動運転車30が駐車フロア12とスロープ14を予め走行して取得したものである。この走行時に、レーザレーダ装置32により、マーカ位置を検出し、記憶装置36により、各階のマーカ位置を含む地図データMを、上り用と下り用とで区分して記憶する。
なお、地図データMは、レーザレーダ装置32により、マーカ以外の反射物(例えば、駐車領域16の白線、走行路18の白線、横断歩道、駐車領域16の文字、符号等)も記憶する。
また、上り用と下り用の地図データMは、自動運転車30が駐車フロア12とスロープ14を走行する毎に、更新することが好ましい。
【0049】
図8は、上り用と下り用の地図データMの説明図である。この図は、図6の右上部分を例示している。
この図において、(A)は、連続傾斜部21から水平部22に変わる時の上り用、(B)は水平部22から連続傾斜部21に変わる時の下り用の地図データMを示している。
【0050】
図8(A)の上り用の地図データMは、水平部22の一部のマーカ40が検出できず、欠損している。欠損マーカ40cは、例えば水平部22のレーザ照射範囲に位置する。
一方、自動運転車30が下層から上層への上り走行時には、同様に水平部22の一部のマーカ40(欠損マーカ40c)が検出できない。
従って、自己位置推定装置38が、自動運転車30の上り走行時に上り用の地図データMを使用することで、検出したマーカ位置と地図データ上のマーカ位置との差異が少なく、マッチング率(地図の一致率)を高めて、自己位置を正確に推定することができる。
【0051】
図8(B)の下り用の地図データMは、連続傾斜部21の一部のマーカ40が検出できず、欠損している。欠損マーカ40cは、例えば連続傾斜部21のレーザ照射範囲に位置する。
一方、自動運転車30が上層から下層への下り走行時には、同様に連続傾斜部21の一部のマーカ40(欠損マーカ40c)が検出できない。
従って、自己位置推定装置38が、自動運転車30の下り走行時に下り用の地図データMを使用することで、検出したマーカ位置と地図データ上のマーカ位置との差異が少なく、マッチング率(地図の一致率)を高めて、自己位置を正確に推定することができる。
【0052】
上述したように、上り用の地図データMと下り用の地図データMとでは、欠損マーカ40cの位置が相違する。
そのため、上り用と下り用の地図データMを互いに補完した単一の地図データMを用いると、上り走行時、及び下り走行時に欠損マーカ40cの位置の相違により、検出したマーカ位置とのマッチング率(地図の一致率)が低下する。
【0053】
上述したように、本発明の実施形態によれば、駐車フロア12が、レーザレーダ装置32のレーザ光5の照射範囲9に常に3以上が位置する複数のマーカ40を有する。また地図データMが、下層から上層への上り走行時の上り用と、上層から下層への下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶する。
この構成により、検出された3以上のマーカ位置を地図データMとマッチングすることで、衛星測位システムが利用できず、各階層が類似している立体駐車設備10において、自動運転車30が自己位置を正確に推定でき、自律的に走行できる。
【0054】
また、地図データMが、自動運転車30の上り走行時の上り用と、下り走行時の下り用とで区分して各階のマーカ位置を記憶するので、上り走行時及び下り走行時に検出したマーカ位置と地図データ上のマーカ位置との相違を少なくできる。これにより、連続傾斜部21を上がりきったコーナ部や、連続傾斜部21を下りきったコーナ部であっても、3以上のマーカ位置を地図データMとマッチングすることで、自動運転車30の自己位置を正確に推定できる。
【0055】
なお立体駐車設備10の複数階の駐車フロア12とスロープ14は、例示であり、その他の構成であってもよい。また、連続傾斜フロアは2Fに限定されず、複数階であってもよい。
また、立体駐車設備10連続傾斜フロアを設けずに、水平フロアとスキップ(急勾配のスロープ)で構成してもよい。
【0056】
また、上述したマーカ40は、テープマーカ40aと模様マーカ40bに限定されず、反射率が路面及びフェンスより高い限りでその他のもの(例えば立体物)でもよい。
また、テープマーカ40aと模様マーカ40bの位置は、走行路18に設けられた白線又はフェンス19に限定されず、その他の箇所(例えば駐車領域16)でもよい。
【0057】
また、上述した自動運転車30は、GPSを備えてもよい。この場合、衛星測位システムを利用できる路面(例えば屋外やRF)では、GPSにより直接自己位置を検出することができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
FL 入出庫レベル、M 地図データ、R 動径、α 照射角度、β 旋回角度、
3 レイヤ、4 計測点、5 レーザ光、6 反射光、7 鉛直軸、
9 照射範囲(検出範囲)、10 立体駐車設備、12 駐車フロア、
13a,13b,13c,13d 入出庫口、
14 スロープ、14A 第1スロープ、14B 第2スロープ、
16 駐車領域、18 走行路、19 フェンス、
21,21a,21b,21c,21d 連続傾斜部、
22,22a,22b,22c,22d 水平部、
30 自動運転車、32 レーザレーダ装置(ライダー)、
34 自律制御用コンピュータ、36 記憶装置、38 自己位置推定装置、
40 マーカ、40a テープマーカ、40b 模様マーカ、40c 欠損マーカ、
100 自動運転システム
図1
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図8