(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブの医薬組成物、ソラフェニブ経口固形製剤、及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20240130BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240130BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240130BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240130BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240130BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240130BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K31/44
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/70
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/28
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2022516367
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 CN2020134164
(87)【国際公開番号】W WO2022120512
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】522098769
【氏名又は名称】天津叡創康泰生物技術有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】519002003
【氏名又は名称】北京叡創康泰医薬研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】Beijing Creatron Institute of Pharmaceutical Research Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】11th Floor,Building 15,No.1 Chaoqian RD, Changping Science & Technology Park,Changping District, Beijing,102200,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】賈 慧娟
(72)【発明者】
【氏名】張 加晏
(72)【発明者】
【氏名】侯 ▲キン▼
(72)【発明者】
【氏名】李 衍
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03705118(EP,A1)
【文献】特表2008-511686(JP,A)
【文献】特表2015-503613(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101594851(CN,A)
【文献】国際公開第2009/100176(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2009/0203709(US,A1)
【文献】特表2017-510655(JP,A)
【文献】Mol. Pharmaceutics,2016年,Vol. 13,pp. 599-608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 35/00-35/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ソラフェニブ、又はその塩、水和物、溶媒和物、塩の水和物又は溶媒和物と、
b)VA64及びHPMCASを含む担体と、を含む、ソラフェニブ医薬組成物であって、
前記成分a)、成分b)におけるVA64、HPMCASの質量比は、1:(0.5~2):(0.125~1)である、ことを特徴とする高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物。
【請求項2】
前記成分a)、成分b)におけるVA64、HPMCASの質量比は
、1:1:0.25である、ことを特徴とする請求項1に記載のソラフェニブ医薬組成物。
【請求項3】
前記ソラフェニブ医薬組成物は、固体分散体である、ことを特徴とする請求項1に記載のソラフェニブ医薬組成物。
【請求項4】
a)ソラフェニブの固体分散体と、
b)結晶化阻害剤と、
c)他の薬学的に許容される添加剤と、
を含む低用量ソラフェニブ経口固形製剤であって、
前記ソラフェニブの固体分散体は、
d)ソラフェニブ、又はその塩、水和物、溶媒和物、塩の水和物又は溶媒和物と、
e)VA64及びHPMCASを含む担体と、を含み、成分d)、成分e)におけるVA64、HPMCASの質量比は、1:(0.5~2):(0.125~1)であり、
前記結晶化阻害剤は、ポリビニルピロリドンから選ばれ、または、
前記結晶化阻害剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム、グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム、及びドデカンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種又は複数種である低用量ソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項5】
成分a)の単位用量は、70~200mgで
ある、ことを特徴とする請求項4に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項6】
前記結晶化阻害剤の含有量は、1質量%~40質量%で
ある、ことを特徴とする請求項4に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項7】
前記添加剤は、充填剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤から選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項4に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項8】
前記充填剤は、マンニトール、アルファ化デンプン、ラクトース、リン酸水素カルシウム、デンプン、微結晶セルロース、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプン、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムから選ばれる1種又は複数種であり、
前記崩壊剤は、コーンスターチ、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンから選ばれる1種又は複数種であり、
前記結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、澱粉糊、カルボキシメチルセルロースナトリウムから選ばれる1種又は複数種であり、
前記流動化剤は、タルク粉末、シリカから選ばれる1種又は複数種であり、
前記滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、水素添加植物油、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク粉末、シリカから選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項7に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項9】
前記流動化剤は、シリカである、ことを特徴とする請求項7に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項10】
前記シリカの含有量は、2質量%~20質量%で
ある、ことを特徴とする請求項9に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項11】
前記シリカの含有量は、10質量%である、ことを特徴とする請求項10に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項12】
前記経口固形製剤の剤形は、錠剤、顆粒剤、懸濁用配合顆粒剤、カプセル剤又はフィルム剤である、ことを特徴とする請求項4に記載のソラフェニブ経口固形製剤。
【請求項13】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物又は請求項
5~1
2のいずれか1項に記載のソラフェニブ経口固形製剤の、肝がん、腎細胞がん、甲状腺がんを予防、治療又は軽減するための薬物の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製剤の技術分野に関し、特に、高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
Nexavarソラフェニブ錠は、ドイツのバイエル社とOnyx社によって共同開発された、進行性肝がん、腎細胞がん及び甲状腺がんを治療するための最初のマルチターゲット型経口腫瘍治療用標的薬である。ソラフェニブは、腫瘍細胞と腫瘍内血管へ同時に作用し、細胞増殖抑制、アポトーシス促進、血管新生抑制などのメカニズムにより腫瘍の成長を阻害する役割を果たすことができる。一方、ソラフェニブは、c-Rafキナーゼ及び下流のシグナル伝達を阻害し、MEK及びERKのリン酸化を妨害し、ERKのリン酸化レベルを低下させることにより、細胞増殖阻害効果を発揮する。一方、ソラフェニブは、血管内皮細胞増殖因子受容体-2(VEGFR-2)、血管内皮細胞増殖因子受容体-3(VEGFR-3)及び血小板由来増殖因子受容体-β(PDGFR-β)を阻害し、チロシンキナーゼ受体の自己リン酸化を阻害することにより抗血管新生作用を発揮する。それは、RAF/MEK/ERKで媒介される細胞シグナル伝達経路を遮断することで腫瘍細胞の増殖を直接阻害でき、また、VEGFR及び血小板由来増殖因子(PDGF)受容体を阻害することで腫瘍の血管新生を阻害できるという二重の抗腫瘍効果がある。同時に、開始因子-4E(eIF4E)のリン酸化を抑制し、生体内で抗アポトーシスタンパク質Mcl-1のレベルをダウンレギュレートし、アポトーシスを促進する役割を果たす。
【0003】
ソラフェニブは、ビスアリール尿素類の経口マルチキナーゼ阻害剤であり、その化学名は4-{4-[3-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)ウレイド]-フェノキシ}-ピリジン-2-カルボキサミドであり、相対分子量は464.8であり、構造式は式(1)で示される。Nexavarソラフェニブ錠で使用される有効成分は、ソラフェニブのトルエンスルホン酸塩であり、分子式はC
21H
16ClF
3N
4O
3・C
7H
8O
3Sであり、式(2)で示される。
ソラフェニブの構造は、以下の通りである。
【化1】
【化2】
【0004】
生物薬剤学分類システムによると、ソラフェニブはBCSクラスII分類の薬物であって、低溶解性・高透過性の薬物である。ソラフェニブはpH1.2~pH7.4の水溶液に対する溶解度が非常に低く、その結果、胃腸管でのソラフェニブ錠剤の溶出速度は非常に低くなく、吸収の律速段階となり、さらに初回通過効果と相まって、ソラフェニブ錠剤の経口投与後でのバイオアベイラビリティは低く、経口溶液と比較して、ソラフェニブ錠剤の相対的バイオアベイラビリティの平均は、僅か38%~49%である。従って、ネクサバールのソラフェニブ錠は、規格単位で200mgであり、1回2錠、1日2回服用し、1日最大用量800mgである。Nexavarソラフェニブ錠の説明書によれば、健康なボランティアに14C放射性標識ソラフェニブ100mgを経口投与し、投与量の77%が糞便に排泄され、且つ排泄物での元の薬が51%以上を占め、これは、Nexavarソラフェニブ錠の経口バイオアベイラビリティが低く、溶解度のために薬物の投与量の半分以上は糞便から排泄されることを示す。
【0005】
Oncologist 2007; 12:426-37 及びAnn Oncol 2005; 16: 1688-94に開示されたソラフェニブの臨床試験結果から、ソラフェニブのヒトの薬物動態パラメーターに大きな個人差があり、200mg又は400mgを1日2回経口投与する場合に、Cmax及びAUCの変動係数はそれぞれ33%~88%及び5%~83%であることを明らかになる。Oncotarget,2017,Vol.8,(26),pp: 43458-43469では、94人の腎細胞がん患者への臨床試験を開示し、74人にソラフェニブ錠400mgを2回分けて経口投与し、別の18人にソラフェニブ錠600mgを3回分けて経口投与し、さらに、2人にソラフェニブ錠400mgを1回経口投与した。2週間の治療後、ソラフェニブの定常状態の血中(血漿)濃度は881~12,526 ng/mLであり、主要な副作用の発生率は、下痢(76.5%)、手足症候群(68.99%)、疲労(55.32%)であり、これらの重篤な副作用はいずれもソラフェニブの血中薬物濃度に関連する。それらの重篤な副作用がある患者の血中薬物濃度は、いずれも10000ng/mlを超え、これらの重篤な副作用は投与量の減量又は中止により低減される。これは、これらの重篤な副作用がすべて投与量に関連していることを示している。Invest New Drugs.2012 April;30(2):524-528では、成人のアカゲザルにソラフェニブを静脈内投与し、血漿及び脳脊髄液でのソラフェニブの薬物動態学的挙動を評価し、アカゲザルにソラフェニブを単回静脈内投与する場合に、脳脊髄液中の最大血中薬物濃度は0.00045~0.00058μg/mLであり、AUC0-24hは0.0048~0.0016μg・h/mLであり、個体間変動が小さい。それと比較して、成人及び子供にソラフェニブを経口投与した後、個体間での血中薬物濃度及びAUCが大きく変動する。これは、経口投与した後、胃腸管での複数の要因が薬物の溶出速度に影響を与え、さらに、薬物の吸収に影響を及ぼし、それが薬物の変動性が高い主な原因になる。
【0006】
Cancer Treatment Reviews,2016では、低い溶出速度がソラフェニブ錠の経口投与後の低いバイオアベイラビリティ、血中薬物濃度、暴露量の高い変動、安全性の無効化の主な原因である。
従来技術では、ソラフェニブ錠剤の経口バイオアベイラビリティを向上させるために様々な方法が試みられ研究されるが、現在まで、Nexavarソラフェニブ錠のコア特許は基本的に失効しており、新製品はまだ商品化されていない。
【0007】
ソラフェニブの薬物溶出率を向上させるために、従来技術は、ポリマー担体を使用してソラフェニブの固体分散体医薬組成物を調製し、高い溶出速度及び溶出率を有し始めるが、ソラフェニブの溶解度が非常に低いので(pH1、0.0034mg/ml、pH4.5、0.00013mg/ml)、溶出時間の延長とともに、ソラフェニブは速く結晶化して析出し、溶出率が急激に低下する。0.1% SDSを含むpH6.8のリン酸塩緩衝液を溶出媒体とする溶出実験において、37℃、2h~4hでの累積溶出率は、ネクサバールのソラフェニブ錠とほとんど同じかそれ以下に低減するため、固体分散体の医薬組成物のin vivoでのバイオアベイラビリティは有意に改善されず、1日用量を大幅に低減させることもできない。
従来技術では、固体分散体とともに共溶媒、例えば、トコフェロール類化合物、ポリオール脂肪酸エステル、ポリアルコキシル化脂肪アルコールエーテル、水添ヒマシ油などの報道もあり、これらの共溶媒の融点が低いため、一方、製造プロセスの難しさが向上し、一方、ソラフェニブの固体分散体の物理的安定性の低下につながり、医薬組成物の長期保存中に、熱力学的安定性が低い非晶質ソラフェニブは共溶媒によって容易に誘導されて結晶化を加速するため、薬物のバイオアベイラビリティを大幅に向上させ、投与量を低減させる目的を達成することができない。
【0008】
ソラフェニブ自体は、安定性が低く、容易に分解されて変異原性不純物CTF-アニリンを生成し、固体分散体に調製された後、さらにCTF-アニリンを生成しやすい。CTF-アニリンの構造は、式(3)に示す。
【化3】
また、Nexavarソラフェニブ錠は、規格単位が大きく、固体分散体として調製するために大量の高分子材料を添加する必要があり、製剤の成形の難しさが高く、例えば、錠剤、カプセル剤の崩壊時間が大幅に延長することになり、崩壊を改善するために、大量の製剤添加剤を添加する必要があり、錠剤又はカプセルの内容物の体積、重量が大きくなり、結果として作製された製剤は患者の服用に不利であり、コンプライアンスが低下する。
上記の問題のために、Nexavarソラフェニブ錠の改良された製剤製品は産業化されて臨床的に応用されることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の状況に鑑みて、本発明が解決しようとする技術的問題は高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物及び応用を提供することであり、調製されたソラフェニブ医薬組成物が高い溶出率及び安定性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、
a)ソラフェニブ、又はその塩、水和物、溶媒和物、塩の水和物又は溶媒和物と、
b)VA64及びHPMCASを含む担体と、を含む高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物を提供する。
本発明の幾つかの具体的な実施例において、前記ソラフェニブは、そのトルエンスルホン酸塩、即ちソラフェニブトシレートである。
本発明では、好ましくは、前記成分a)、成分b)におけるVA64、HPMCASの質量比が1:(0.1~5):(0.01~5)、より好ましくは、1:(0.5~3):(0.1~1)である。
より好ましくは、前記成分a)、成分b)におけるVA64、HPMCASの質量比が1:1:0.1~1:1:0.5、さらに好ましくは、1:1:0.25である。
本発明では、前記ソラフェニブ医薬組成物は、固体分散体であることが好ましい。
本発明では、前記固体分散体は、溶媒がメタノールとジクロロメタンの混合溶媒である噴霧乾燥法に従って調製されることが好ましい。
本発明では、前記メタノールとジクロロメタンの体積比は、1:(1~4)であることが好ましく、1:3であることがより好ましい。
【0011】
本発明では、噴霧乾燥法の溶媒としてメタノールとジクロロメタンの混合溶媒を使用してソラフェニブの固体分散体を調製することにより、調製されたソラフェニブの固体分散体は、より良い安定性を有する。実験より分かるように、メタノールとジクロロメタンの混合溶媒、特に、体積比1:3のメタノール-ジクロロメタン混合溶媒を使用すると、ソラフェニブは、高い溶解度を有し、しかも、この有機溶媒に30min及び24h放置しても、関連物質が大きく変化しない。
前記成分a)とメタノール-ジクロロメタン混合溶媒の質量対容量比(w/v)は、1:25~300であることが好ましく、1:50~150であることがより好ましく、1:100であることが最も好ましい。
本発明では、前記噴霧乾燥法の熱風入口温度は、120℃であることが好ましく、熱風出口温度は、60℃であることが好ましく、窒素ガスをキャリヤガスとして使用することが好ましい。
本発明は、さらに、低用量ソラフェニブ経口固形製剤であって、
a)ソラフェニブの固体分散体と、
b)結晶化阻害剤と、
c)他の薬学的に許容される添加剤と、を含む低用量ソラフェニブ経口固形製剤を提供する。
【0012】
本発明好ましくは、前記結晶化阻害剤は、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム、グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム和タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム及ドデカンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種又は複数種である。
本発明では、上記結晶化阻害剤、特に、ポリビニルピロリドンとソラフェニブの固体分散体とを使用して組成物を形成し、固体製剤を調製することにより、製剤が良い溶出率を持ち、ソラフェニブの結晶析出を回避する。
【0013】
本発明では、前記ポリビニルピロリドンは、PVPK30、PVPK25、PVPK60、PVPK90、PVPK12、PVPK15、PVPK17であることが好ましく、PVPK30、PVPK25であることがより好ましい。
本発明では、前記ポリビニルピロリドンの含有量は、1質量%~40質量%であることが好ましく、1%~20%であることがより好ましく、10%~20%であることがさらに好ましく、12.5%であることが最も好ましい。
本発明では、前記結晶化阻害剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)から選ばれることもでき、HPMCAS HG(又は同じ規格、例えば、126G)、HPMCAS MG(又は同じ規格、例えば、912 G)、HPMCAS LG(又は同じ規格、例えば、716 G)の1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
本発明では、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の含有量は、1質量%~40質量%であることが好ましく、1%~20%であることがより好ましく、1~10%であることが最も好ましい。
【0014】
本発明では、前記結晶化阻害剤は、胆汁酸塩類化合物から選ばれることもでき、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム、グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム和タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム及ドデカンスルホン酸ナトリウムの1種又は複数種を含むが、これらに限定されなく、STC、SDC、SGCのいずれか1つ又は複数であることが好ましい。
本発明では、前記胆汁酸塩類化合物の含有量は、1%~40%であることが好ましく、1%~20%であることがより好ましく、1~10%であることが最も好ましい。
本発明では、前記ソラフェニブの固体分散体は、
a)ソラフェニブ、又はその塩、水和物、溶媒和物、塩の水和物又は溶媒和物と、
b)VA64を含む担体と、を含むことが好ましい。
【0015】
本発明では、ソラフェニブの固体分散体の担体としてVA64を使用し、調製された固体分散体は、高い安定性を有する。
本発明では、前記成分a)とVA64の質量比は、1:(0.1~5)であることが好ましく、1:(0.5~3)であることがより好ましく、1:(1~3)であることがさらに好ましい。
前記成分a)とVA64の質量比は、1:1であることがより好ましい。
本発明では、前記ソラフェニブの固体分散体は、
a)ソラフェニブ、又はその塩、水和物、溶媒和物、塩の水和物又は溶媒和物と、
b)VA64及びHPMCASを含む担体と、を含むことが好ましい。
【0016】
本発明では、ソラフェニブの固体分散体の担体としてVA64及びHPMCASを使用し、調製された固体分散体は、高い安定性及び溶出率を有する。
本発明では、前記成分a)とVA64とHPMCASの質量比は、1:(0.1~5):(0.01~5)であることが好ましく、1:(0.5~3):(0.1~1)であるより好ましい。
前記成分a)とVA64とHPMCASの質量比は、1:1:(0.1~0.5)であることがより好ましく、1:1:0.25であることがさらに好ましい。
本発明では、前記固体分散体は、溶媒がメタノールとジクロロメタンの混合溶媒である噴霧乾燥法によって調製されることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記メタノールとジクロロメタンの体積比は、1:(1~4)であることが好ましく、1:3であることがより好ましい。
本発明では、噴霧乾燥法の溶媒としてメタノールとジクロロメタンの混合溶媒を使用し、ソラフェニブの固体分散体を調製することにより、調製された固体分散体により良い安定性を有する。実験より分かるように、メタノールとジクロロメタンの混合溶媒、特に、体積比1:3のメタノール-ジクロロメタン混合溶媒を使用すると、ソラフェニブは、高い溶解度を有し、しかも、該有機溶媒に30min及び24h放置しても、関連物質が大きく変化しない。
前記成分a)とメタノール-ジクロロメタン混合溶媒の質量対容量比(w/v)は、1:25~300であることが好ましく、1:50~150であることがより好ましく、1:100であることが最も好ましい。
本発明では、前記噴霧乾燥法の熱風入口温度は、120℃であることが好ましく、熱風出口温度は、60℃であることが好ましく、キャリヤガスとして窒素ガスを使用することが好ましい。
本発明では、前記ソラフェニブ経口固形製剤において、前記成分a)の単位用量は、70~200mgであり、好ましくは70~140mg、より好ましくは70~130mgであることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記単位用量とは、医薬品の最小単位に含まれる主な薬剤の量を指し、例えば、1枚の錠剤、1枚のカプセル剤、1包の顆粒剤に含まれる薬剤の重量を意味する。例えば、前記複合製剤が錠剤である場合、前記単位用量の単位は、mg/錠である。
本発明は、ソラフェニブの安定性及び溶出率を向上させることにより、ソラフェニブの投与量を減らし、患者にネクサバール錠剤の用量の35%~70%で経口投与すると、ネクサバール錠剤と同様の治療効果に達することができる。
【0019】
本発明では、前記添加剤は、充填剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤から選ばれる1種又は複数種であることが好ましい。
本発明では、前記充填剤は、マンニトール、アルファ化デンプン、ラクトース、リン酸水素カルシウム、デンプン、微結晶セルロース、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプン、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムから選ばれる1種又は複数種であることが好ましい。
前記充填剤の含有量は、20質量%~50質量%であることが好ましく、30質量%~40質量%であることがより好ましい。
本発明では、前記崩壊剤は、コーンスターチ、部分アルファ化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンから選ばれる1種又は複数種であることが好ましく、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチナトリウム又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであることがより好ましい。
前記崩壊剤の含有量は、3質量%~20質量%であることが好ましく、5%~10%であることがより好ましい。
【0020】
本発明では、前記結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、澱粉糊、カルボキシメチルセルロースナトリウムから選ばれる1種又は複数種であることが好ましい。
前記結合剤の含有量は、0~10質量%であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
本発明では、前記流動化剤は、タルク粉末、シリカから選ばれる1種又は複数種であることが好ましく、シリカであることが好ましい。
前記シリカの含有量は、2%~20質量%であることが好ましく、5%~15%であることがより好ましく、10%であることが最も好ましい。
本発明は、シリカの使用量を増加することにより、製剤の崩壊を促進し、さらに製剤の溶出率を向上させる。
【0021】
本発明では、前記滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、水素添加植物油、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク粉末、シリカから選ばれる1種又は複数種であることが好ましい。
前記滑沢剤の含有量は、0.3質量%~5質量%であることが好ましく、0.5質量%~2質量%であることがより好ましく、0.5質量%~1質量%であることが最も好ましい。
本発明では、前記経口固形製剤の剤形は、錠剤、顆粒剤、懸濁用配合顆粒剤、カプセル剤又はフィルム剤であることが好ましい。
【0022】
本発明では、上記経口固形製剤は、乾式造粒法により調製されることが好ましい。
本発明は、上記ソラフェニブの固体分散体又は上記ソラフェニブ経口固形製剤の、肝がん、腎細胞がん、甲状腺がんを予防、治療又は軽減するための薬物の調製における応用を提供する。
本発明は、上記ソラフェニブの固体分散体又は上記ソラフェニブ経口固形製剤を生物学的サンプルと触接させることを含む、肝がん、腎細胞がん、甲状腺がんを予防、治療又は軽減する方法を提供する。
【0023】
従来技術と比較して、本発明は、a)ソラフェニブの固体分散体と、b)結晶化阻害剤と、c)他の薬学的に許容される添加剤と、を含む低用量ソラフェニブ経口固形製剤を提供する。本発明で提供される上記低用量ソラフェニブ経口固形製剤は、以下の有益な効果を得る。即ち、
1、高いバイオアベイラビリティを有し、ソラフェニブの投与量を減らし、患者にネクサバール錠剤の用量の35%~70%で経口投与すると、ネクサバール錠剤と同様の治療効果を達成すること、
2、より高い安定性を有し、安全性がより高く、副作用発生率が低いこと、
3、より低いCmax、AUC0-tの変動を有すること、
4、より高い溶出率を有し、0.1% SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)を含むpH6.8のリン酸塩緩衝液を溶出媒体として、市販製品として「ネクサバール」の溶出率よりも2~7倍(溶出曲線下面積で計算)高くなること、
5、胃腸管のpHが上昇するとともに、晶析速度が低くなること、
6、錠剤の体積が小さく、患者が服用しやすくなり;
7、崩壊速度が速く、溶出効果が良いこと、
8、工業化が容易に実現すること、である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、pH6.8のリン酸塩緩衝液(0.1%SDS)中のさまざまな割合のVA64の固体分散体から調製された錠剤の溶出曲線図である。
【
図2】
図2は、pH6.8のリン酸塩緩衝液(0.1%SDS)中の複合担体の固体分散体から調製された錠剤の溶出曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をさらに説明するために、本発明で提供される高いバイオアベイラビリティを有するソラフェニブ医薬組成物及び応用について実施例を参照して詳しく説明する。
【0026】
実施例1 異なる有機溶媒へのソラフェニブの溶解度
25mlの有機溶媒に適量のソラフェニブ原薬を加え、室温で、シェーカーで異なる時間振とうし、サンプリングして溶解した薬物の量を検出し、結果を以下の表1に示した。
【表1】
【0027】
その関連物質をHPLC法で検出し、結果を以下の表2に示した。
【表2】
以上の結果より、メタノール-ジクロロメタン(1:3)へのソラフェニブの溶解度が大きく、その有機溶媒に30min及び24h放置しても、APIと比較して関連物質にいずれも大きな変化はないため、メタノール-ジクロロメタンはソラフェニブの噴霧乾燥法による固体分散体の調製のための有機溶媒であることが好ましいことが分かった。
【0028】
実施例2 固体分散体(SD)の溶解度及び安定性
1、SD調製
ソラフェニブ(SLFN)/ソラフェニブトシレート(TSSLFN)をメタノール-ジクロロメタン(1:3)混合溶媒に加え、30~33℃で撹拌して溶解し、主薬と混合溶媒の割合は、1:100である。さらに、担体を加えて溶解させ、担体の使用量は、主薬と担体の割合が、1:3である。
噴霧乾燥は、熱風入口温度が120℃、熱風出口温度が60℃、窒素ガスがキャリヤガスである。結果は、表3に示した。
【0029】
【表3】
以上の結果によれば、異なる担体で調製されたサンプルは、すべて固体分散体を形成している。
【0030】
2、溶解度試験
pH1.0 塩酸溶液及びpH6.8 リン酸塩緩衝液に適量の固体分散体(SD)を加え、SD過剰状態を維持し、シェーカーにて37℃、300rpmで振とうし、異なる時点にサンプルを採取してソラフェニブの含有量を検出し、VA64及びPVPK30を担体とする固体分散体は、人工腸液及び人工胃液への溶解度を同時に調べた結果が、以下の通りである。
【表4】
【0031】
以上の結果より、pH1.0 塩酸媒体への固体分散体の初期溶解度(0.5h、2h、4h)は増加しているが、溶解度は時間の経過とともに徐々に低減し、ソラフェニブの結晶形が試験管の壁に現れ、24hでソラフェニブトシレートと大きな違いがない。pH6.8 リン酸塩媒体では、HPMC AS 716Gを担体とする固体分散体の以外は、他の高分子材料を担体として調製された固体分散体の溶解度はいずれも定量限界よりも低いことが分かった。
高分子VA64、PVPK30を担体として調製された固体分散体は、人工胃液(FaSSGF)に30分間及び2時間放置され、測定された溶解度に有意差がなく、約7μg/mLであり、人工腸液(FaSSIF)に移してから1時間で測定されたVA64担体の固体分散体の溶解度は350μg/mLであり、2時間後に12.38μg/mLまで速く減らしているが、PVP K30を担体とする固体分散体は、人工腸液に移してから1時間で測定された溶解度は131μg/mLであり、2時間後に3.6μg/mLまで速く減らした。
【0032】
3、安定性の測定
上記調製されたSDをアルミホイル袋で密封し、60℃の高温で10日間、30日間放置して調査し、HPLC法により関連物質を検出し、結果を以下の表5に示した。
【表5】
【0033】
以上の結果より分かるように、VA64を担体として調製されたSDの化学的安定性は最も良く、HPMCASを担体とする固体分散体の化学的安定性が劣り、それぞれソラフェニブ遊離塩基及びソラフェニブトシレートを主薬とし、同じ割合のポリマー担体で調製された固体分散体は、高温60℃で30日間放置された後、ソラフェニブトシレートの固体分散体化学の安定性はわずかに劣ることを示した。
【0034】
実施例3 担体割合のスクリーニング
1、VA64担体割合のスクリーニング
上記噴霧乾燥方法で異なる担体割合(質量比)のソラフェニブの固体分散体を調製し、DSC測定を行って固体分散体を十分に形成するか否かを確認した。結果は、表6に示した。
【表6】
上記異なる担体割合のソラフェニブの固体分散体を表7に示す処方に従って錠剤を調製した。
【0035】
【0036】
処方量の原薬及び添加物を秤量し、MSを除く他の原薬及び添加物をともに50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加MSの使用量を換算し、MSを秤量し、5min混合し、打錠した。溶出曲線を測定した。溶出曲線は、
図1に示した。
溶出試験法:パドル法、pH6.8リン酸塩緩衝液+0.1%SDS、900mL、100rpm、37℃。
サンプリング及びサンプル処理方法:10mL計量し、PESフィルターメンブレン(直径25mm、孔径0.45μm)でろ過し、ろ液7mLを廃棄し、ろ液2~3mLを取り出し続け、媒体10mLを溶出試験用ビーカーに追加した。ろ過後、サンプル1mLをピペットで10mLのメスフラスコに入れ、マークに移動相を加え、10倍希釈した。
【0037】
【表8】
注:ここで、崩壊時間は、溶出試験用ビーカーでの錠剤の完全な崩壊/侵食時間である。以下同様である。
以上の結果より、VA64の使用量の増加に伴い、錠剤の崩壊時間は有意に延長することが分かった。VA64の高使用量で崩壊時間が長くなるため、溶出はVA64割合の増加に伴って直線的に増加するのではなく、まず増加し、次に減少し、最適な使用量は、1:1である。異なる固体分散体錠剤は、15min溶出後の累積溶出率がいずれも先発医薬品ネクサバールよりも有意に高かったが、15min~60minで急速に減少し、つまり、ソラフェニブは溶出直後に結晶化し、60min~120minでの累積溶出率がネクサバール錠剤と有意差がない。
【0038】
2、複合担体のスクリーニング
固体分散体は、表9に示す配合比で調製された。
【表9】
上記異なる担体割合で調製された固体分散体を表10に示す処方で打錠した。
【0039】
【表10】
処方量の原薬及び添加物を秤量し、MSを除く他の原薬及び添加物をともに50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加MSの使用量を換算し、MSを秤量し、5min混合し、打錠した。溶出曲線を測定し、結果は
図2に示した。
溶出試験法:パドル法、pH6.8リン酸塩緩衝液+0.1%SDS、900mL、100rpm、37℃。
サンプリング及びサンプル処理方法:10mL計量し、PESフィルターメンブレン(直径25mm、孔径0.45μm)でろ過し、ろ液7mLを廃棄し、ろ液2~3mLを取り出し続け、媒体10mLを溶出試験用ビーカーに追加した。ろ過後、サンプル1mLをピペットで10mLのメスフラスコに入れ、マークに移動相を加え、10倍希釈した。
【0040】
【表11】
上記錠剤をアルミホイル袋で密封し、60℃で10日間放置して調査し、HPLC法により関連物質を検出し、結果は、以下の表12に示した。
【0041】
【表12】
以上のデータより示すように、担体VA64+HPMCASは、HPMCASの使用量の増加に伴い、後の段階で溶出速度はゆっくりと低減するが、安定性は悪化し、溶出結果と化学的安定性結果を総合すると、最適な割合は1:1:0.25である。他の複合担体の効果は明らかではない。
【0042】
実施例4 結晶化阻害剤のスクリーニング
ソラフェニブ又はソラフェニブトシレートをそれぞれ適量秤量し、それぞれジメチルスルホキシドを加えて溶解させて希釈し、1mlあたり約ソラフェニブ15mgを含む高濃度ストック溶液を調製した。
0.1%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を含むpH6.8 リン酸塩緩衝溶液をベース媒体(pH6.8リン酸塩+0.1%SDS)として、それぞれポリマー担体ポリビニルピロリドン(PVP) PVP K25、PVP K30、PVP K90;ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、例えば、PVP VA64;ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、例えば、HPMCASHG(又は126 G)、HPMCAS MG(912 G)、HPMCAS LG(又は716 G);ヒドロキシプロピルメチルセルロース、例えば、HPMC K100LV; ポリエチレングリコール、例えば、PEG 1000、PEG 3350、PEG4000、PEG 6000及びPEG 8000、グリココール酸ナトリウム(SGC)、タウロコール酸ナトリウム(STC)、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、グリコデオキシコール酸ナトリウム(SGDC)、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム(SGCDC)、グリコウルソデオキシコール酸ナトリウム(SGUDC)、タウロデオキシコール酸ナトリウム(STDC)及びタウロウルソデオキシコール酸ナトリウム(STUDC)及ドデカンスルホン酸ナトリウム(SDS)などを適量秤量し、それぞれpH6.8 リン酸塩+0.1%SDSで溶解させて1mlあたり上記ポリマー担体約0.5%を含むポリマー担体媒体又は胆汁酸塩0.3%を含む媒体を調製し、用意した。
上記ポリマー担体媒体50mlをそれぞれ計量し、100mlストッパー付き試験管に入れ、37℃、シェーカーで1時間振とうした後、各々のストッパー付き試験管にソラフェニブストック溶液0.4mlをそれぞれ加え、37℃で均一に超音波分散した後、37℃の恒温振とう機に移し、0.5h、1h、2h、3h、4h及び6hでサンプリングし、各々のポリマー担体媒体中のソラフェニブの濃度をHPLC法により検出し、結果は、下表に示した。
【0043】
【表13】
上記スクリーニング結果より、ポリビニルピロリドン系、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)系ポリマー担体は、有意な結晶析出抑制効果を有し、且つ結晶析出抑制効果は、時間の経過とともに低減しない。PEG 1000、PEG8000は、1時間以内に優れた結晶析出抑制効果を示すが、結晶化は時間の経過とともに結晶は深刻になった。HPMC K100 LV、PEG 3350、PEG4000は、基本的に結晶析出抑制効果を有しない。
胆汁酸塩は、人の胆汁から腸管に分泌される生理的界面活性剤であり、PVP-VA64を含む医薬組成物を経口摂取すると、腸管に入り、胃腸の蠕動とともに胆汁酸塩と混合され、薬物の急速な結晶析出を引き起こしない。
【0044】
実施例5 結晶化阻害剤処方のスクリーニング
1、SLFN-VA64(1:1)SD錠剤処方中の結晶化阻害剤のスクリーニング
(1)以下の表13に示すようにポリマー担体結晶化阻害剤/共溶媒をスクリーニングし、結晶化阻害剤PVPシリーズと比較した。
【表14】
ここで、SLFNとVA64の質量比は、1:1である。
結晶化阻害剤/共溶媒:HPMC E5、HPMC K4M、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油RH40、キサンタンガム、TPGS1000、SOLUPLUS、PVP K25、PVP K30、HPMCAS 126G。
調製プロセス:処方量の原薬及び添加物を秤量し、内部添加原薬及び添加物を50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加原料の使用量を換算し、外部追加原料を秤量し、5min混合し、打錠した。累積溶出率を測定した。
溶出試験法は、上記と同様である。
【0045】
【表15】
以上の結果より示すように、結晶化阻害剤PVPK 30、PVP K25は、他の共溶媒/結晶化阻害剤よりも有意に優れた。
上記錠剤をアルミホイル袋で密封し、高温60℃の影響因子を調査し、関連物質をHPLC法により検出し、物理的安定性をDSCにより検出し、結果は以下の表15に示した。
【0046】
【表16】
以上のデータより分かるように、低融点共溶媒は保管過程で主薬に結晶多形変換(polymorph transformation)が発生し、その物理的安定性は劣る。
【0047】
(2)胆汁酸塩結晶化阻害剤のスクリーニング
【表17】
ここで、SLFNとVA64の質量比は、1:1である。
結晶化阻害剤/共溶媒は、SGC、SDCである。
調製プロセス:処方量の原薬及び添加物を秤量し、将内部添加原薬及び添加物を50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加原料の使用量を換算し、外部追加原料を秤量し、5min混合し、打錠した。累積溶出率を測定した。
溶出試験法は、上記と同様であり、同時にPVPK25を結晶化阻害剤とする処方を比較した。
【0048】
【表18】
上記の結果より、VA-64を担体とする処方は、胆汁酸塩を外部追加し、ソラフェニブの固体分散体錠剤の60分間以内の溶出を大幅に改善したが、60分間後にネクサバールと同様のレベルまで低減し、結晶析出抑制効果は、PVPシリーズほど持続しない。
【0049】
2、SLFN-VA64-HPMCAS(1:1:0.25)を担体とする固体分散体による錠剤の調製中の結晶化阻害剤のスクリーニング
以下の表19に従い結晶化阻害剤/共溶媒をスクリーニングした。
【表19】
調製プロセス:処方量の原薬及び添加物を秤量し、内部添加原薬及び添加物を50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加原料の使用量を換算し、外部追加原料を秤量し、5min混合し、打錠した。溶出曲線を測定した。
溶出試験法は、上記と同様である。
【0050】
【表20】
以上の結果から、PVP K25、PVPK30の結晶析出抑制効果は、他の3つの結晶化阻害剤よりも優れたことが分かる。
実施例6 製剤処方のスクリーニング
5.1、製剤崩壊及び溶出へのシリカの影響
表21に示される処方に従って錠剤を調製した。調製方法は、上記と同様である。
【0051】
【表21】
ここで、前記SLFNとVA64の質量比は、1:1である。
溶出結果は、表22に示した。
【0052】
【表22】
以上の結果より示すように、シリカの使用量が増加するにつれて、崩壊が速くなり、溶出が向上した。
【0053】
5.2、充填剤の調査
表23に示す処方に従って錠剤を調製した。調製方法は、上記と同様である。
【表23】
ここで、前記SLFN-VA64-HPMCASの質量比は、1:1:0.25である。
溶出結果は、以下の表24に示した。
【表24】
以上の結果より示すように、異なる充填剤は溶出結果にわずかな影響を及ぼすが、先発製剤と比較して溶出率はいずれも高くなった。
【0054】
5.3 崩壊剤の調査
表25に示すような処方に従って錠剤を調製した。調製方法は、上記と同様である。
【表25】
ここで、前記SLFN-VA64-HPMCASの質量比は、1:1:0.25である。
溶出結果は、以下の表26に示した。
【表26】
以上の結果より示すように、異なる崩壊剤は違いがあるが、溶出がいずれも良い。
【0055】
5.4 異なる規格のサンプルの調製
【表27】
調製プロセス:処方量の原薬及び添加物を秤量し、内部添加原薬及び添加物を50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加原料の使用量を換算し、外部追加原料を秤量し、5min混合し、打錠した。
溶出結果は、以下の表28に示した。
【表28】
以上から分かるように、規格が多くなるにつれて、溶出率はわずかに低下するが、いずれも参照製剤ネクサバールよりもはるかに高くなる。
【0056】
実施例7 動物実験の比較
6.1、動物実験サンプルの調製
【表29】
【0057】
調製プロセス:処方量の原薬及び添加物を秤量し、内部添加原薬及び添加物を50メッシュのふるいに6回通して混合し、乾式造粒し、ペレットの重量を秤量し、外部追加原料の使用量を換算し、外部追加原料を秤量し、5min混合し、打錠した。
上記サンプル(規格100mg)及び参照製剤ネクサバール(規格200mg)を動物実験にかけた。
動物:成熟した雄性ビーグル犬(8~11kg)、原生種でないもの(Non-naive)であってもよく、合計4群に分け、1群あたり2頭のビーグル犬である。
投与経路及び投与頻度:1錠を1回胃内投与し、投与前に16時間以上絶食させ、投与4時間後に自由摂食させ、ウォッシュアウト期間は4日間である。4つのサイクルで交差投与した。
採血時点:0、1.5、2、2.5、3、4、5、6 8、12、24、48h。
血中薬物濃度をLC/MS/MS法により検出し、Phoenix WinNonlin 7.0を使用して薬物動態パラメーター(AUC0-t、AUC0-∞、Cmax、T1/2、Tmax及びこれらのパラメーターの(±SD)及び幾何平均)を計算した。
【0058】
【表30】
以上の結果より示すように、20200509-1、20200519-3は、20200509-2よりも有意に高くなる。両方の100mg用量は、参照製剤200mgと基本的に一致した。参照と被験品のCVを比較すると、20200509-1、20200509-3は参照製剤よりも有意に優れたことが分かった。
以上の実施例の説明は、本発明の方法及び要旨を理解するのを助けるためにのみ使用される。当業者にとっては、本発明の原理から逸脱することなく、本発明に若干の改良及び修飾を行うこともでき、これらの改良及び修飾も、本発明の特許請求の範囲内にあることを指摘すべきである。