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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ボールペンレフィル及びボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/08 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
B43K7/08 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019239685
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107137
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】小林 茉衣
(72)【発明者】
【氏名】林 龍之介
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3023263(JP,U)
【文献】特開2005-343012(JP,A)
【文献】特開平09-315080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記ボール、及び、前記筆記ボールの一部が先端より突出した状態で前記筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、
前記筆記ボールに送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、
前記インク収容管から前記筆記ボールに延びるインク流路に設けられた弁座部と、
前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンレフィルであって、
前記弁体は、最小真円度が5μm以上の、球体である、
ボールペンレフィル。
【請求項2】
前記弁体の最大真円度が20μm以下である、
請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記弁座部の内面形状が円錐台形状である、
請求項1又は2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
前記弁座部の内面形状が多角錐台形状である、
請求項1又は2に記載のボールペンレフィル。
【請求項5】
前記弁体がセラミック製である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項6】
前記弁体がジルコニア製である、
請求項5に記載のボールペンレフィル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のボールペンレフィルを備えるボールペン。
【請求項8】
筆記ボール、及び、前記筆記ボールの一部が先端より突出した状態で前記筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、
前記筆記ボールに送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、
前記インク収容管から前記筆記ボールに延びるインク流路に設けられた弁座部と、
前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンであって、
前記弁体は、最小真円度が5μm以上の、球体である、
ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの逆流を防止する逆流防止機能を有するボールペンレフィル及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクの逆流防止機構を備えたボールペンレフィル及びボールペンが提供されている(特許文献1参照)。インクの逆流とは、ペン先を上向きに放置、あるいは上向き状態で筆記をすると筆記先端から空気が流入し、この流入した空気がインク収容管に流入し、インクがインク収容管後端から漏れ出す現象である。
【0003】
逆流防止機構とは、ボールペンチップとインク収容管とを接続する継手において、継手内部に錐台形状の弁座部を設け、ボールペンチップと継手内の弁座部との間に球状の弁体を遊嵌することで、ペン先を上向きにした際は弁体が弁座部に嵌ってふたの役割をし、空気流入によるインクの逆流を防止する機構である。
このような逆流防止機構では、ペン先を上向きにした状態では、継手内部に設けた弁座部に弁体が嵌ることで弁が閉じた状態となる。しかし、この状態で温度上昇等によりチップや継手の内圧が上昇すると、膨張したインクがボールペンチップの先端部から噴き出す場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公平4-52067公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インクの逆流を防止する逆流防止機能を有し、且つボールペンチップの先端からのインクの噴き出しを効果的に防止可能なボールペンレフィル及びボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、筆記ボール、及び、前記筆記ボールの一部が先端より突出した状態で前記筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、前記筆記ボールに送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、前記インク収容管から前記筆記ボールに延びるインク流路に設けられた弁座部と、前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンレフィルであって、前記弁体の最小真円度が、5μm以上である、ボールペンレフィルを提供する。
【0007】
前記弁体の最大真円度は、366μm以下であることが好ましい。
【0008】
前記弁座部の内面形状は円錐台形状であることが好ましい。
【0009】
前記弁座部の内面形状は多角錐台形状であることが好ましい。
【0010】
前記弁体はセラミック製であることが好ましい。
【0011】
前記弁体はジルコニア製であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記記載のボールペンレフィルを備えるボールペンを提供する。
【0013】
さらに本発明は、上記課題を解決するために、筆記ボール、及び、前記筆記ボールの一部が先端より突出した状態で前記筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、前記筆記ボールに送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、前記インク収容管から前記筆記ボールに延びるインク流路に設けられた弁座部と、前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンであって、前記弁体の最小真円度が、5μm以上である、ボールペンを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インクの逆流を防止する逆流防止機能を有し、且つボールペンチップの先端からのインクの噴き出しを効果的に防止可能なボールペンレフィル及びボールペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ボールペンレフィル100の先端のボールペンチップ1部分のペン先を上向きにした状態の断面図である。
図2】ボールペンチップ1の先端部分の拡大断面図である。
図3】弁座部52の部分の拡大断面図である。
図4】弁体の真円度を説明する概念図である。
図5】第1実施形態における、上向き筆記逆流防止性能評価及びインク噴き出し防止性能評価を行った評価結果を示した表である。
図6】第2実施形態における、上向き筆記逆流防止性能評価及びインク噴き出し防止性能評価を行った評価結果を示した表である。
図7】第3実施形態における、上向き筆記逆流防止性能評価及びインク噴き出し防止性能評価を行った評価結果を示した表である。
図8】第4実施形態における、上向き筆記逆流防止性能評価及びインク噴き出し防止性能評価を行った評価結果を示した表である。
図9】変形形態のボールペンレフィル100Aを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1はボールペンレフィル100の先端のボールペンチップ1部分のペン先を上向きにした状態の断面図である。図2はボールペンチップ1の先端部分の拡大断面図である。
ボールペンレフィル100は、筆記ボール11、及び、筆記ボール11をその一部が先端より突出した状態で回転自在に保持するチップ本体12を有するボールペンチップ1と、筆記ボール11に送られるインクを収容するとともに、ボールペンチップ1よりも後端側に設けられたインク収容管3と、インク収容管3とボールペンチップ1を連結する継手4と、を備える。
以下、ボールペンレフィル100の軸L方向(長手方向)における、筆記ボール11が配置されている側を先端側、逆側を後端側として説明する。
【0017】
(ボールペンチップ1)
ボールペンチップ1のチップ本体12は、例えば、ステンレス製で、筆記ボール11は、例えば、タングステンカーバイド製である。ただし、チップ本体12の材料や筆記ボール11の材料はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(チップ本体12)
チップ本体12は、円筒形の中央部12aと、中央部12aの先端側に設けられ且つ中央部12aよりも外径が小さい円筒形の前端部12bと、前端部12bよりも先端側に設けられ、前端部12bから先端に向うに従い外径が縮小する先端部12cと、中央部12aよりも後側に設けられ、中央部12aよりも外径が小さい円筒形の接続部12dとを備える。
【0019】
チップ本体12の内部には、筆記ボール11を抱持するためのボール抱持室13と、チップ本体12の後端側より先端側に向かって延びるバック孔14と、ボール抱持室13の後端部の中央から、ボール抱持室13とバック孔14とを連通するように後方に延びるインク誘導孔15と、インク誘導孔15から径方向外側に抱持室13とバック孔14とを連通する複数の放射状のインク誘導溝15aと、が設けられている。バック孔14は、先端側に向って段階的に径が小さくなっており、後端は、後述する弁体6がバック孔14側に移動しないように変形されている。
【0020】
(ボール抱持室13)
ボール抱持室13の先端には内側にかしめられたかしめ部16が形成されている。筆記ボール11は、先端がボール抱持室13の先端縁より突出した状態で、ボール抱持室13内に回転自在に抱持されている。
【0021】
(インク収容管3)
インク収容管3は、インクを収容する筒部材であり、例えば、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等の樹脂材料からなるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
(継手4)
継手4は、例えば、PP(ポリプロピレン)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料からなるが、これらに限定されるものではない。継手4は、先端側から、互いに径が異なる、前部41と、フランジ部42と、後部43とを備える。フランジ部42は前部41及び後部43より大径である。
継手4の内部には、前後に貫通する貫通孔5が設けられている。貫通孔5は、先端側から順に、チップ固定孔51と、弁座部52と、小径孔53と、大径孔54とを有し、これらは互いに連通している。
ボールペンチップ1の接続部12dは、継手4のチップ固定孔51に圧入されて固定されている。そして、筆記時にインク収容管3からバック孔14を経て筆記ボール11へとインクが流動するためのインク流路が形成されている。
【0023】
(逆流防止機構10)
図3は弁座部52の部分の拡大断面図である。
弁座部52は、先端に向かうに従い、径方向(ボールペンチップ1の軸方向と直交する方向)の開口断面積が漸次増加する形状で、実施形態では、弁座部52の内面形状は円錐台形状である。ただしこれに限定されず、弁座部52の内面形状は、第3実施形態の三角錐台や、第4実施形態の四角錐台等の多角錐台形状であってもよい。
【0024】
弁座部52の内部には、弁体6が配置され、弁座部52と弁体6とでインクの逆流を防止する逆流防止機構10を構成している。弁体6は、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ等のセラミック材料、超硬合金(タングステンカーバイド)、ガラス等で製造される球体、又は直方体等の多角体であるが、材料はこれらに限定されるものではない。弁体6の径d(直径)は小径孔53の内径よりも大きいので、弁座部52の後端の開口(小径孔53の入口)から後端側への挿通は不能である。小径孔53の内径の形成の容易性の観点から、弁体6の径dは、0.7mm以上であることが好ましい。
また、バック孔14の後端は、上述のように変形されており、バック孔14内に弁体6は流入しないが、弁体6はバック孔14の変形された後端側を完全にふさぐことはなく、インク流路が完全にふさがれることはない。
【0025】
弁体6は、球体又は直方体等の多角体であるが、球体の場合であっても真円(真球)ではなく、表面に凹凸がある。図4は弁体の真円度を説明する概念図である。弁体6は、このように表面に凹凸があるので半径は箇所によってばらつきがあり、実施形態において弁体6は、最小真円度が5μm以上、最大真円度が366μm以下である。
【0026】
真円度とは、JIS B 0621の定義によると円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさをいい、円形形体を、2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の二円の半径差で表す。
実施形態では画像寸法測定器IM-6140(キーエンス社製)を用いて弁体6の最大真円度及び最小真円度を求める。求め方は、図4において、まず、最小二乗法により、弁体6の水平投影面における最小二乗中心Oを求める。次いで、最小二乗中心Oから弁体6の水平投影面の輪郭に対する最大内接円c1と最小外接円c2を求める。そして、この最大内接円c1の半径r1と最小外接円c2の半径r2の差を水平投影面の真円度とする。
そして、1つの弁体6に対してランダムに異なる位置で5回、水平投影面の真円度を測定する。そのうちの最大の真円度を弁体6の最大真円度とし、最小の真円度を弁体6の最小真円度とした。
なお、後述する第1実施形態および第2実施形態において、弁体6の形状が直方体(立方体を含む)の場合は、ランダムの位置ではなく、直方体の辺のうち最も短い辺の1つと、直方体の重心を通る平面における真円度を弁体6の最大真円度とし、直方体の面のうち真円度が最も小さくなる面の真円度を弁体6の最小真円度とした。
【0027】
ボールペンレフィル100が上向きになると、図3に示すように弁体6は自重により弁座部52内において移動可能な範囲内での最も後端側に位置する。
弁体6の外面は、弁座部52の内面と接触し、弁座部52と弁体6との隙間は最も小さくなる。そして、弁体6が弁座部52に嵌り、弁座部52におけるインク流路(の断面)の大部分が弁体6によって塞がれる。これにより、インクの逆流が防止される。
【0028】
インクの逆流とは、ボールペンレフィル100を上向きで放置、あるいは上向き状態で筆記したときに、先端から空気が流入し、この流入した空気がインク収容管3に流入し、インクがインク収容管3後端から漏れ出す現象である。
【0029】
一方、ボールペン(すなわちボールペンレフィル100)を、その先端が重力方向の下向きになるように保持する(つまり通常の筆記状態)と、弁体6は自重でボールペンチップ1方向へ落下する。これにより、弁座部52から弁体6が離れて、弁座部52におけるインク流路が開放され、インクの弁座部52への流入が可能となる。
【0030】
このような弁体6と弁座部52とによる逆流防止機構10を設けた場合、ボールペンレフィル100が上向きで、図3に示すように弁体6が弁座部52に嵌っている状態で、温度が上昇すると、バック孔14の内圧が上昇する。そうすると、インクがボールペンチップ1の先端部から噴き出す現象が発生する可能性がある。
しかし、実施形態の弁体6によると、弁体6の最小真円度が5μm以上であり、弁体6の最大真円度が366μm以下であるので、インクの逆流が防止されるとともに、噴き出しも生じにくい。
【0031】
以下、最小真円度が5μm以上であり最大真円度が366μm以下である弁体6を備える実施形態のボールペンチップ1の逆流防止効果、及び噴き出し防止効果について説明する。
【0032】
(第1実施形態)
図5は、先端の筆記ボール11の径D(直径)が0.7mm、弁座部52の形状(内面の輪郭で形成される形状)が円錐台形、である、比較例1~5及び実施例1~10の合計15種類のボールペンレフィル100を用意し、それぞれについて上向き筆記逆流防止性能評価、及びインク噴き出し防止性能評価を行なった結果を示した表である。
比較例1~4及び実施例1~10のボールペンレフィル100は、弁体6の材質、形状、寸法、最大真円度及び最小真円度が異なる。ボールペンレフィル100に搭載するインクはいずれも、20℃、5sec-1における粘度が1500~5000(mPa・s)で、黒色の油性インクとした。
図5に記載するように、第1実施形態の弁体6の材質は超硬合金(タングステンカーバイド)又はジルコニアであり、弁体6の形状は球体、立方体又は直方体である。弁体6の寸法は球体の場合、径dは0.7mm,0.8mm,1.0mmであり、立方体の場合、一辺が0.7mm,1.0mmであり、直方体の場合、各辺の長さが1.0mm×1.0mm×0.7mmである。
【0033】
実施例1~10の弁体6は、最小真円度が5μm以上且つ最大真円度が366μm以下である。
その中で実施例9の弁体6は立方体であり、最小真円度が145μmで最大真円度が256μmである。実施例10の弁体6は立方体であり、最小真円度207最大真円度が366μmである。実施例1~8の弁体6は球体であり、最小真円度が5μm以上で最大真円度が20μm以下である。
比較例1~3の弁体6は、最小真円度が1μmより小さく且つ最大真円度も1μmより小さい。比較例4の弁体6は、最小真円度が207μmであり、且つ最大真円度が439μmである。比較例5は、弁体6を有さない。
【0034】
比較例1~4及び実施例1~10では、それぞれ、5つの弁体6をピックアップし、その5つの弁体6のそれぞれについて、5箇所で真円度を測定し、そのうちの最小真円度と最大真円度とを求めた。
5つの弁体6の最小真円度のうちの最も小さいものが図5の表に示す最小真円度の最小値で、5つの弁体6の最小真円度のうちの最も大きいものが図5の表に示す最小真円度の最大値である。
5つの弁体6の最大真円度のうちの最も小さいものが図5の表に示す最大真円度の最小値で、5つの弁体6の最大真円度のうちの最も大きいものが図5の表に示す最大真円度の最大値である。
【0035】
比較例1~5及び実施例1~10のボールペンレフィル100について、次の2つの評価を行った。
【0036】
(A)インク噴き出し防止性能評価
インク噴き出し防止性能評価は、以下のように行なった。
(1)ボールペンレフィル100を組立てた後に直径4cmの丸を8個筆記し、筆記に異常がないかどうか確認したのち、ボールペンチップ1の先端より汚れを拭き取った。
(2)室温23℃、湿度60%RHの環境下(常温環境下)にてボールペンチップ1の先端を上向きにし、10分(弁体6が弁座部52に嵌る程度の時間)置いた後、室温40℃、湿度60%RHの恒温恒湿機にボールペンチップ1の先端を上向きのまま投入した。
(3)投入してから1時間経過した際に、ボールペンチップ1の先端からのインク噴き出しが起きているかどうかを評価した。
インクの噴き出しが生じなかったもの及び、噴き出してもインクがかしめ部16の中央部分まで到達しない軽微なものは「噴き出しなし」とし、かしめ部16の中央部分を超える量の噴き出しが見られたものを「噴き出しあり」とした。
(4)N=5本を測定して、噴き出しありの割合(発生率)を求めた。
【0037】
(評価)
インク噴き出し防止性能の結果を図5の表(A)欄に示す。(A)欄の評価Aにおいて、インク噴き出し発生率が0%のとき二重丸(◎)とし、0%<発生率≦20%のとき一重丸○(○)、20%<発生率≦50%のとき三角(△)、50%≦発生率のとき(×)とした。
図5の表に示すように、最小真円度が1μmより小さい比較例1~3は、1時間経過した際の、ボールペンチップ1の先端からのインク噴き出しが100%で、バツ(×)であった。最小真円度が5μm以上の実施例1~10、比較例4及び弁体6を有さない比較例5ではボールペンチップ1の先端からのインク噴き出しが発生しない0%で、二重丸(◎)であった。
以上より、先端からのインク噴き出しについては最小真円度が影響し、最小真円度が5μm以上の実施形態の範囲においては先端からのインク噴き出しが生じないことが証明された。
【0038】
(B)上向き筆記逆流防止性能評価
上向き筆記逆流防止性能評価は、室温23℃、湿度60%RHの恒温恒湿の室内において以下のように行なった。
(1)ペン先を上向きで5分間以上置き、弁体6が弁座部52に着座している状態のボールペンレフィル100を上向きにして螺旋形状を筆記し、筆記不能となってからそのままさらに、直径4cmの丸を10個筆記した。
(2)そのままボールペンレフィル100を30分間放置した後、ボールペンレフィル100からのインクの逆流が発生しているかどうかを目視で確認した。
(3)つづいて、通常の向き(下向き)で、直径4cmの丸を1秒あたり2個の速さで筆記して再び筆記出来るまでに書いた丸の回数(再筆記回数)を評価した。
【0039】
(評価)
上向き筆記逆流防止性能評価の結果を図5の表の(B)欄に示す。(B)欄の評価Bにおいて再筆記回数が10回以下を二重丸(◎)、11回以上30回以下を一重丸(〇)、31回以上50回以下を三角(△)、51回以上又は再筆記不能をバツ(×)で示す。
【0040】
弁体6がない比較例5は、ボールペンレフィル100の後端からインクが下方に全て逆流してしまい、再筆記不能のバツ(×)であった。
弁体6の最大真円度が366μmより大きい439μmである比較例4は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はないが、再筆記回数が60回であって、再筆記回数51回以上のバツ(×)であった。
弁体6の最大真円度が366μm以下である、実施例1~10及び比較例1~3は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が50回以下の三角(△)、一重丸(〇)、又は二重丸(◎)であった。
特に弁体6の最大真円度が20μm以下である、実施例1~8及び比較例1~3は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が6回以下の二重丸(◎)であった。
【0041】
さらに、弁体6の形状が球体で、寸法の径dが同じ1.0mmの比較例3と実施例5~8とを比較した時に、弁体6の最大真円度が0μm≦x<1μmの比較例3は再筆記回数が6回であるが、最大真円度が11μm≦x<17μmの実施例5は再筆記回数が5回、最大真円度が14μm≦x<20μmの実施例6は再筆記回数が5回、最大真円度が10μm≦x<12μmの実施例7は再筆記回数が4回、最大真円度が18μm≦x<20μmの実施例8は再筆記回数が4回であり、弁体6の最大真円度が大きくなっても良好な結果が得られた。
【0042】
以上、逆流防止性能については最大真円度が影響し、筆記ボール11の径D0.70mmの場合、最大真円度が366μm以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができることが示された。最大真円度が256μm以下であればより好ましく、その場合、再筆記回数が28回以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。最大真円度が20μm以下であればさらに好ましく、その場合、再筆記回数が6回以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。なお、実施例1~8や、比較例1~3を比較すると、弁体6の寸法、径dの違いによる影響は見られず、良好な逆流防止性能が得られる。
【0043】
(総合評価)
以上より、弁体6の最大真円度を実施形態の範囲である366μm以下とすることにより、再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができる。また、弁体6の最大真円度が256μm以下であればより好ましく、その場合、再筆記回数が28回以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。さらに、弁体6の最大真円度が20μm以下であればさらに好ましく、その場合、再筆記回数が6回以下となり、再筆記に関してさらに良好な性能を得ることができる。なお、弁体6の寸法、径dの違いによる影響は見られず、良好な性能が得られる。
【0044】
また、弁体6の最小真円度を実施形態の範囲である5μm以上とすることにより、インク逆流防止構造が設けられて内部に弁体6を有する形状においても、インク噴き出しが発生しない良好な性能を得ることができる。
【0045】
例えば1μm以下の最小真円度が小さい弁体6を製造する場合、高精度な製造が必要で、製造コストがかかる。しかし、実施形態においては弁体6の最小真円度は5μm以上でよいので、製造コストを安価にすることができる。また、高精度でなくてよいので、弁体6の材料としてジルコニア等の多孔質材料での製造も容易である。弁体6としてセラミックを用いた場合、化学的に安定しているため、鋼球と比較してインクの保存安定性がよい。
【0046】
(第2実施形態)
次に、先端の筆記ボール11の径Dが0.38mmである第2実施形態において、第1実施形態と同様の評価を行なった。
図6は、先端の筆記ボール11の径Dが0.38mm、弁座部52の形状(内面の輪郭で形成される形状)が円錐台、インクの色は黒である、比較例6~9及び実施例11~20の合計14種類のボールペンチップ1の逆流防止効果、及び噴き出し防止効果の結果を示した表である。
【0047】
比較例6~9及び実施例11~20のボールペンレフィル100は、弁体6の材質、形状、寸法、最大真円度及び最小真円度が異なる。ボールペンレフィル100に搭載するインクはいずれも、第1実施形態と同様である。
図6に記載するように、弁体6の材質は超硬合金(タングステンカーバイド)又はジルコニアであり、弁体6の形状は球体又は立方体である。弁体6の寸法は球体の場合、径dは0.7mm,0.8mm,1.0mmであり、立方体の場合、一辺が0.7mm,1.0mmである。
【0048】
実施例11~20の弁体6は、最小真円度が5μm以上且つ最大真円度が366μm以下である。比較例6~8の弁体6は、最小真円度が1μmより小さく且つ最大真円度が1μmより小さい。比較例9は、弁体6を有さない。
【0049】
(評価)
(A)インク噴き出し防止性能評価
図6の表に示すように、図5の場合と同様に、最小真円度が1μmより小さい比較例6~8は、1時間経過した際の、ボールペンチップ1の先端からのインク噴き出し発生率が100%で、バツ(×)であった。最小真円度が5μm以上の実施例11~20及び弁体6を有さない比較例9ではボールペンチップ1の先端からのインク噴き出しの発生率が0%で、二重丸(◎)であった。
【0050】
(B)上向き筆記逆流防止性能評価
図6の表に示すように、図5の場合と同様に、弁体6がない比較例9は、ボールペンレフィル100の後端からインクが下方に全て逆流してしまい、再筆記不可のバツ(×)であった。
弁体6の最大真円度が366μm以下である、実施例11~20、比較例6~8は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が30回以下の一重丸(〇)又は二重丸(◎)であった。
特に弁体6の最大真円度が20μm以下である、実施例11~18は及び比較例6~8は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が4回以下の二重丸(◎)であった。
さらに、弁体6の形状が球体で、寸法の径dが同じ1.0mmの比較例8と実施例15~18とを比較した時に、弁体6の最大真円度が0μm≦x<1μmの比較例8は再筆記回数が4回であるが、最大真円度が11μm≦x<17μmの実施例15は再筆記回数が2回、最大真円度が14μm≦x<20μmの実施例16は再筆記回数が3回、最大真円度が10μm≦x<12μmの実施例17は再筆記回数が2回、最大真円度が18μm≦x<20μmの実施例18は再筆記回数が2回、であり、良好な結果が得られた。
【0051】
以上より、ボールペンチップの筆記ボール11の径が0.38mmの場合においても、最大真円度が366μm以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができることが証明された。
また最大真円度が256μm以下であればより好ましく、その場合、再筆記回数が28以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。また最大真円度が20μm以下であればさらに好ましく、その場合、再筆記回数が4回以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。なお、さらに実施例11~18の場合や、比較例6~8の場合を比較すると、図5と同様に弁体6の寸法、径dの違いによる影響は見られず、良好な逆流防止性能が得られる。
【0052】
(総合評価)
以上より、先端の筆記ボール11の径Dが0.38mmにおいても、0.7mmの場合と同様に、弁体6の最大真円度を実施形態の範囲である366μm以下とすることにより、再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができる。また、弁体6の最大真円度が256μm以下であればより好ましく、その場合、再筆記回数が28回以下となり、再筆記に関してより良好な性能を得ることができる。さらに、弁体6の最大真円度が20μm以下であればさらに好ましく、その場合、再筆記回数が4回以下となり、再筆記に関してさらに良好な性能を得ることができる。なお、弁体6の寸法、径dの違いによる影響は見られず、良好な性能が得られる。
【0053】
また、弁体6の最小真円度を実施形態の範囲である5μm以上とすることにより、インクの逆流防止構造が設けられて内部に弁体6を有する形状においても、インク噴き出しが発生しない良好な性能を得ることができる。
【0054】
(第3実施形態)
次に、弁座形状が三角錐台の第3実施形態において、第1実施形態と同様の評価を行なった。
図7は、第3実施形態における、先端の筆記ボール11の径Dが0.70mm、弁座部52の形状(内面の輪郭で形成される形状)が三角錐台、インクの色は黒である、実施例21~24の合計4種類のボールペンチップ1の逆流防止効果、及び噴き出し防止効果の評価結果を示した表である。
【0055】
実施例21~24のボールペンレフィル100において弁体6は、材質はジルコニア、形状は球体、寸法は径dが1.0mmであるが、最大真円度及び最小真円度が異なる。実施例21~24は、最小真円度が5μm以上で、且つ最大真円度が366μm以下である。ボールペンレフィル100に搭載するインクはいずれも、第1実施形態と同様である。
【0056】
(評価)
(A)インク噴き出し防止性能評価
図7の表に示すように、弁座形状が三角錐台の場合、最小真円度が5μm以上の実施例21~24のいずれにおいてもインク噴き出しが発生しないことが分かった。
【0057】
(B)上向き筆記逆流防止性能評価
図7の表に示すように、弁体6の最大真円度が366μm以下である、実施例21~24は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が11回以上30回以下の一重丸(〇)であった。
【0058】
以上より、弁座形状が三角錐台の場合においても、実施形態の範囲である最大真円度が366以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得られることが証明された。
【0059】
(総合評価)
以上(B)上向き筆記逆流性能評価より、弁座形状が三角錐台の場合においても、最大真円度が366μm以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができる。
弁座形状が三角錐台の場合、最小真円度にかかわらずインク噴き出しが発生しない。
すなわち、弁体6の最小真円度が5μm以上、最大真円度が366μm以下の場合、弁座の形状が三角錐台においても良好な性能が得られる。
最小真円度が小さい球を作る場合、例えば1μm以下の高精度に製造する必要があるため、製造コストがかかる。しかし、実施形態においては高精度でなくてよいので製造コストが安く、ジルコニア等の多孔質材料での製造も容易であり、セラミックを用いた場合、化学的に安定している材質のため、鋼球と比較してインクの保存安定性がよい。
【0060】
(第4実施形態)
次に、弁座形状が四角錐台の第4実施形態において、第1実施形態と同様の評価を行なった。
図8は、先端の筆記ボール11の径Dが0.70mm、弁座部52の形状(内面の輪郭で形成される形状)が四角錐台、インクの色は黒である、実施例25~28の合計4種類のボールペンチップ1の逆流防止効果、及び噴き出し防止効果の評価結果を示した表である。
実施例25~28のボールペンレフィル100において弁体6は、材質はジルコニアで、形状は球体、寸法は径dが1.0mmであるが、最大真円度及び最小真円度が異なる。実施例25~28は、最小真円度が5μm以上で、且つ最大真円度が366μm以下である。ボールペンレフィル100に搭載するインクはいずれも、第1実施形態と同様である。
【0061】
(評価)
(A)インク噴き出し防止性能評価
図8の表に示すように、座形状が四角錐台の場合、最小真円度が5μm以上の実施例25~28のいずれにおいてもインク噴き出しが発生しないことが分かった。
【0062】
(B)上向き筆記逆流防止性能評価
図8の表に示すように、弁体6の最大真円度が366μm以下である、実施例25~28は、ボールペンレフィル100の後端からのインクの逆流はなく、再筆記回数が11回以上30回以下の一重丸(〇)であった。
【0063】
以上より、弁座形状が四角錐台の場合においても、実施形態の範囲である最大真円度が366μm以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得られることが証明された。
【0064】
(総合評価)
以上、(B)上向き筆記逆流性能評価より、弁座形状が四角錐台の場合においても、最大真円度が366μm以下において再筆記回数が50回以下となり、再筆記に関して良好な性能を得ることができる。
弁座形状が四角錐台の場合、最小真円度にかかわらずインクの噴き出しが発生しない。
すなわち、弁体6の最小真円度が5μm以上、最大真円度が366μm以下の場合、弁座の形状が四角錐台においても、弁座の形状に関わらず、良好な性能が得られる。
最小真円度が小さい球を作る場合、例えば1μm以下の高精度に製造する必要があるため、製造コストがかかる。しかし、実施形態においては、高精度でなくてよいので製造コストが安く、ジルコニア等の多孔質材料での製造も容易であり、セラミックを用いた場合、化学的に安定している材質のため、鋼球と比較してインクの保存安定性がよい。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施の形態に対し、形状、位置、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では、弁座部52と弁体6とからなる逆流防止機構10を継手4に設けたが、これに限定されない。図9は変形形態のボールペンレフィル100Aを説明する図である。
逆流防止機構は、ボールペンチップ1とインク収容部の間にあればよい。例えば、図9に示すように、継手を設けずにインク収容管3Aの先端でボールペンチップ1Aを保持する場合は、弁座部52Aと弁体6Aからなる逆流防止機構10Aをインク収容管3Aの内側に一体もしくは別体で設けてもよい。また、逆流防止機構をボールペンチップの内側に設けてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 ボールペンチップ
3 インク収容管
4 継手
6 弁体
10 逆流防止機構
11 筆記ボール
12 チップ本体
13 ボール抱持室
14 バック孔
15 インク誘導孔
16 かしめ部
52 弁座部
100 ボールペンレフィル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9